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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1362355
異議申立番号 異議2019-700666  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-26 
確定日 2020-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6476094号発明「リチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6476094号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6476094号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 特許第6476094号の請求項4ないし6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6476094号の請求項1?6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2015-173720)は,平成27年 9月 3日に出願され,平成31年 2月 8日にその特許権の設定の登録がされ,同年 2月27日に特許掲載公報が発行された。その後,本件特許について,令和 1年 8月26日に特許異議申立人落合憲一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,同年10月30日付けで取消理由が通知され,同年12月25日に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。なお,上記意見書及び訂正請求に対し,申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について,
「前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、」を,
「前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、
前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、
前記Si系負極活物質と黒鉛との混合比は、質量基準で20:80?90:10であり、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、」に 訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4?6を削除する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0023】【化1】の構造式(1)について,
「【化1】

」を,


」に 訂正する。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
この訂正は,請求項1を,「前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、前記Si系負極活物質と前記黒鉛との混合比は、質量基準で20:80?90:10であり」と記載することにより,「負極バインダ」の材料,及び,「Si系負極活物質」と「黒鉛」との混合比を具体的に特定し,限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,この訂正は,段落【0016】の表1,段落【0022】の「バインダは、本実施例において、ポリアミドイミドを用いた」,及び,段落【0050】の「本発明におけるSi合金と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であることが重要である」の各記載に基づくものであって,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(2)訂正事項2について
この訂正は,請求項4?6を削除するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(3)訂正事項3について
この訂正は,明細書の段落【0023】【化1】の構造式(1)中,R^(1)が結合している窒素原子を含む5員環構造の部分において,窒素原子の両隣の炭素がメチレン(CH_(2))となっていたものをカルボニル(C=O)にすることにより,「ポリアミドイミド」の構造を明瞭にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,また,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項2?6は,訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しており,訂正事項1により連動して訂正されるものであるから,請求項1?6は一群の請求項である。

4 独立特許要件について
本件においては,請求項1?6全てに対して特許異議の申立てがされているので,訂正事項1に関して,訂正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかを確認する必要はない。

5 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正請求による明細書及び特許請求の範囲の訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号を目的とし,同条第4項に規定する一群の請求項であり,かつ,同条第9項で準用する第126条第5項,第6項の規定に適合するものである。よって,訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり,訂正請求による明細書及び特許請求の範囲の訂正は適法なものである。そして,訂正後の本件特許に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。下線は訂正箇所を表す。

「【請求項1】
負極と、正極と、セパレータと、を備え、
前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、
前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、
前記Si系負極活物質と黒鉛との混合比は、質量基準で20:80?90:10であり、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、
前記放電容量Q(Ah/kg)は、前記負極とLiとで構成した単極式電池を用いて、下限電圧5mVまで0.2CAの定電流充電と2時間の定電圧充電とを行い、上限電圧2.0Vまで0.2CAの定電流放電を行った際に測定した値であり、
前記破断強度A(MPa)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、前記負極バインダが破断したときの強度であり、下記計算式(2)により算出され、
前記破断伸率B(%)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、前記負極バインダが破断したときの伸率であり、下記計算式(3)により算出される、リチウムイオン二次電池。
3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1)
A=(引張荷重)÷(負極バインダ片の断面積) …(2)
B=100×{(引張後の負極バインダ片の長さ)-(引張前の負極バインダ片の長さ)}÷(引張前の負極バインダ片の長さ) …(3)
【請求項2】
前記Si系負極活物質は、SiOx (ただし、0.5≦x≦1.5である。)、又は、SiとTi、Al、Fe、Ni及びMnからなる群から選択される1種類以上の異種金属元素とを含むSi合金である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記放電容量Q(Ah/kg)は、550以上1050以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除) 」

第4 異議理由の概要
1 申立人は,次の理由により,本件特許は取り消すべきである旨の申立てをしている。

(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
訂正前の発明の詳細な説明において,リチウムイオン二次電池の容量を高め,かつ,寿命を長くするという発明の課題を解決するために,負極バインダに関していえば,特定の物性を有するポリアミドイミドのみが発明として記載されているが,訂正前の請求項1には,負極バインダがポリアミドイミドであることは特定されておらず,発明の課題を解決するための手段が請求項1に反映されていない。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
訂正前の発明の詳細な説明において,負極バインダの破断強度A及び破断伸率Bの値は記載されているが,その具体的な負極バインダの化学構造が何ら記載されておらず,かつ,そのような値を有する負極バインダをどのように製造等できるのか理解できないから,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(3)特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)
訂正前の請求項1における関係式(1)は,負極バインダの破断強度Aと破断伸率Bとの積で表される靭性と負極の放電容量との関係を規定するが,当業者は,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明が解決しようとする課題と,関係式(1)による特定との実質的な関係を理解することができず,本件発明の課題の解決手段を理解できないから,本件発明の技術上の意義が不明である。

2 当審は,上記1(1),(2)を採用し,令和 1年10月30日付けで次の取消理由を通知した。

(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
訂正前の請求項1?6のうち,負極バインダがポリアミドイミドであるもの以外は,(A×B÷10)が3×Qを超えるべきでないとする根拠が不明であり,また,(A×B÷10)がQ以上かつ3×Q以下の範囲内であっても,Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上の負極活物質を用いたものは,負極の放電容量,100サイクルにおける容量維持率ともに低下する。
よって,負極バインダとしてポリアミドイミドを用いないものや,負極活物質の合計に対する黒鉛の比率が質量基準で10?80の範囲にないものまで含まれる訂正前の請求項1?6の記載は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
破断強度A及び破断伸率Bの値のみから化学構造を推定することは困難であり,ポリアミドイミドの構造式(1)におけるR^(1)?R^(3)やnを変えることでバインダの物性値を変化させる(段落【0024】)としても,破断強度Aや破断伸率Bをどのように変化させ得るのか不明である。まして,ポリアミドイミドに限定されない負極バインダとして,関係式3×Q≧(A×B÷10)≧Qを満たすものの中から,負極の放電容量や100サイクルにおける容量維持率が高いものを確認するため,当業者は過度の試行錯誤を要するものである。
よって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が訂正前の請求項1?6に記載されるリチウムイオン二次電池の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

第5 当審の判断
当審は,上記第4に示した理由はいずれも,訂正後の本件特許を取り消す理由として採用できないものと判断する。詳細は次のとおりである。

1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は,上記第3のとおりである。

(2)発明の詳細な説明の記載
これに対し,本件特許の発明の詳細な説明には,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、ポリアミド、ポリイミド又はポリアミドイミドをバインダに用いて、膨張収縮を抑制し、サイクル寿命を改善する試みはなされているが、バインダの他の物性値とSiを含む活物質の量や容量に関する報告はなされていない。
【0007】
我々は、鋭意検討の結果、バインダの破断強度とサイクル特性との相関よりも、破断強度(A)と破断伸び(B)との積で表されるパラメータである靭性(A×B)とサイクル特性との相関が非常に高いことを見出した。さらに、靭性(A×B)にはある最適な範囲が存在し、靭性(A×B)が大きすぎる場合、バインダ中のイミド基の量を増やすことになるため、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなることがわかった。つまり、放電容量とサイクル特性はトレードオフの関係になることがわかった。さらに、Si系活物質の混合量(負極の放電容量)を変化させた場合においても、その最適な物性値は変化することもわかった。
【0008】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の容量を高め、かつ、寿命を長くすることにある。」

「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、セパレータと、を備え、負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たす。
【0010】
3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の高容量化及び長寿命化が実現できる。言い換えると、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。」

「【実施例】
【0014】
(負極活物質及び負極バインダ)
表1は、実施例及び比較例の負極活物質を示したものである。
【0015】
本表に示すように、Si系活物質aと炭素系活物質bとを混合したものを負極活物質として用いた。Si系活物質aは、Si合金又は酸化ケイ素である。炭素系活物質bは、黒鉛である。Si系活物質aと炭素系活物質bとの混合比(a:b)は、質量基準である。以下では、当該混合比(a:b)を単に「混合比」ともいう。
【0016】
【表1】



「【0022】
バインダは、本実施例において、ポリアミドイミドを用いたが、ポリアミドまたはポリイミド、さらにはこれらの混合物であってもかまわないし、PVDFやSBRなど他のバインダとの混合バインダであってもかまわない。なお、ポリアミドイミドの厳密な定義は特に決まっておらず、ポリイミドとポリアミドイミドの混合バインダもポリアミドイミドと呼ばれている。ポリアミドイミドの構造例は、下記構造式(1)で表される。
【0023】

【0024】
上記構造式(1)のR^(1)は、炭素数1?18のアルキレン基、アリーレン基、ベンゼンなどであり、窒素酸素、硫黄、ハロゲンを含んでいても構わない。また、上記構造式(1)のR^(2)?R^(10)は、水素、アルキル基またはアリール基である。R^(1)?R^(3)の炭素数を増やすことや上記構造式(1)のnを増やしポリマー量を変えること、つまり、イミド基を増やすことで、バインダの物性値(破断強度Aや破断伸率B)を変化させた。なお、上記構造式(1)において中央部の環構造は、ベンゼン環その他の不飽和環でもよい。」

「【0029】
【表2】



「【0048】
(試験結果1:負極の放電容量の測定結果)
表3に負極の放電容量測定結果を示す。
【0049】
本表から、実施例1?9並びに比較例1?3、5、7及び11は、特に問題なく、設計容量どおり発現したが、比較例4?6、8?10及び12?13は容量が少ないことがわかる。比較例4、6、8及び12は、(A×B÷10)>3Qであるために、つまりバインダ中のイミド基の量が多いために、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなるものと考えられる。(A×B÷10)≦3Qであれば、放電容量が下がることはないことがわかる。
【0050】
一方、比較例9、10及び13は、混合比に問題がある。ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを含むバインダの場合、Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上となると、結着性が悪化し、剥離することにより、容量が低下することがわかった。つまり、本発明におけるSi合金と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であり、酸化ケイ素と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であることが重要である。
【0051】
【表3】



「【0052】
(試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果)
表4にセルの100サイクル後の容量維持率を示す。
【0053】
本表から、実施例1?9並びに比較例4、6、8及び12は、比較的高い容量維持率を示したが、比較例1?3、5?7、9?11及び13は、容量維持率が低いことがわかる。比較例1?3、5、7及び11は、(A×B÷10)<Qであるために、靭性(A×B)が低いためにサイクル特性が悪いものと考える。一方、比較例9、10及び13は、負極の放電容量と同様に、混合比に問題があり、ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを含むバインダの場合、Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上となると、結着性が悪化し、剥離することにより、容量維持率も低下すると考える。
【0054】
以上、本発明は、負極と、正極と、セパレータと、を備え、負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含むリチウムイオン二次電池において、負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たす。
【0055】
3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1)
これにより、初期容量とサイクル特性とに優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0056】
【表4】



(3)検討
ア 訂正後の請求項1に記載されるリチウムイオン二次電池は,負極に,ケイ素を含有するSi系負極活物質と,黒鉛と,負極バインダとを含み,負極バインダは,ポリアミドイミドであり,また,Si系負極活物質と黒鉛との混合比は,質量基準で20:80?90:10であり,かつ,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Q を満たすというものである。

イ 一方,訂正後の発明の詳細な説明の記載(上記(2))によれば,発明が解決しようとする課題は,リチウムイオン二次電池の容量を高め,かつ,寿命を長くすることであり(段落【0008】),その解決手段として,負極が,ケイ素を含有するSi系負極活物質と,黒鉛と,負極バインダとを含み,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式3×Q≧(A×B÷10)≧Qを満たすことにより,初期容量及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得るというものである(段落【0010】,【0011】)。
そして,負極活物質として,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)とを混合したものを用い(段落【0014】?【0016】),バインダとしてポリアミドイミドを用い,その構造式中の置換基や重合度を変化させることでバインダの物性値(破断強度Aや破断伸率B)を変化させ(段落【0022】?【0024】,【0029】),初期容量及びサイクル特性を確認している。
また,試験結果1:負極の放電容量の測定では,比較例4,6,8?10,12?13は設計容量より少なく,このうち,比較例4,6,8,12は,関係式(A×B÷10)>3Qであり,負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ,負極の不可逆容量となって負極の放電容量が低くなるものと考えられること,一方,比較例9,10,13は,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上であり,ポリアミドイミドを含むバインダの場合,結着性が悪化し、剥離することにより,容量が低下することが説明されている(段落【0048】?【0051】)。
さらに,試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定では,比較例1?3,5,7,9?11,13は、容量維持率が低く,このうち比較例1?3,5,7,11は,関係式(A×B÷10)<Qであり,靭性(A×B)が低いためにサイクル特性が悪いこと,一方,比較例9,10,13は,試験結果1:負極の放電容量と同様,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上であり,ポリアミドイミドを含むバインダの場合,結着性が悪化し,剥離することにより,容量維持率も低下することが説明されている(段落【0052】?【0056】)。

ウ そうすると,発明の詳細な説明には,バインダとしてポリアミドイミドを用い,その構造式中の置換基や重合度を変化させることで破断強度Aや破断伸率Bを変化させることが示されるとともに,(A×B÷10)<Qでは,靭性(A×B)が低く,サイクル特性が悪いこと,及び,3×Q<(A×B÷10)では,負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ,負極の不可逆容量となるため,負極の放電容量が低くなることが示されている。
また,発明の詳細な説明には,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上,すなわち,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との混合比が20:80?90:10の範囲外である10以下:90以上となった場合には,負極の放電容量が低下するだけでなく,100サイクルにおける容量維持率も低下することも示されている。
そして,本件特許の請求項1に記載されるリチウムイオン二次電池は,訂正により,負極バインダがポリアミドイミドであり,また,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との混合比が質量基準で20:80?90:10であることが特定されているから,発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が請求項1に反映されているといえる。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2,3も同様である(なお,請求項4?6は,訂正により削除された。)。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
上記1(3)アのとおり,本件特許の請求項1?3に記載されるリチウムイオン二次電池は,負極バインダがポリアミドイミドであり,また,Si系負極活物質と黒鉛との混合比が20:80?90:10であり,かつ,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Q を満たすものであることが特定されている。
これに対し,発明の詳細な説明には,試験結果1:負極の放電容量の測定結果や,試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果に示されるとおり,上記特定の負極バインダや負極活物質の混合比を採用することにより,負極の放電容量や100サイクルにおける容量維持率が十分であることが記載されている。ここで,負極バインダとして用いたポリアミドイミドの具体的化学構造は明らかではないが,構造式(1)におけるR^(1)?R^(3)の炭素数を増やすことやnを増やすことによりイミド基を増やすことができること(段落【0024】)よりみて,種々のポリアミドイミドを準備してその物性値を調整することは,当業者であれば通常行う作業であるといえる。
よって,発明の詳細な説明の記載は,請求項1?3に記載されるリチウムイオン二次電池について,当業者が,過度の試行錯誤を要することなくその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

3 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について
上記1(3)アのとおり,本件特許の請求項1?3に記載されるリチウムイオン二次電池は,負極バインダがポリアミドイミドであり,また,Si系負極活物質と黒鉛との混合比が20:80?90:10であり,かつ,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Q を満たすものであることが特定されている。
これに対し,発明の詳細な説明には,試験結果1:負極の放電容量の測定結果や,試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果に示されるとおり,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Qを満たすものは,発明が解決しようとする課題,すなわち,負極の放電容量や100サイクルにおける容量維持率が十分であることが記載されているといえる。
よって,発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件特許の請求項1?3に記載されるリチウムイオン二次電池の技術上の意義を理解することができる。

第6 むすび
以上のとおりであるから,当審が通知した理由,及び,特許異議申立書に記載した理由によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。また,他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項4ないし6に係る特許は,上記のとおり訂正により削除されたから,請求項4ないし6に係る特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
リチウムイオン二次電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や枯渇燃料の問題から、電気自動車(EV)が各自動車メーカーで開発され、その電源として高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が求められている。
【0003】
高エネルギー密度を有する負極活物質として、Siを含む活物質が期待されている。しかしながら、Siは、充放電に伴う体積変化が大きいため、活物質粒子間の導電ネットワークを破壊してしまう。そのため、Siを含む活物質を用いるとサイクル劣化が大きいという欠点がある。
【0004】
特許文献1には、SiO_(x)(0≦x<2)表面にソフトカーボンが被覆された複合粉末からなるリチウム二次電池用負極材料が開示されている。この文献には、ソフトカーボンが黒鉛化しやすいこと、及び、ポリイミドをバインダとして用いることが記載されています。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-197069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、ポリアミド、ポリイミド又はポリアミドイミドをバインダに用いて、膨張収縮を抑制し、サイクル寿命を改善する試みはなされているが、バインダの他の物性値とSiを含む活物質の量や容量に関する報告はなされていない。
【0007】
我々は、鋭意検討の結果、バインダの破断強度とサイクル特性との相関よりも、破断強度(A)と破断伸び(B)との積で表されるパラメータである靭性(A×B)とサイクル特性との相関が非常に高いことを見出した。さらに、靭性(A×B)にはある最適な範囲が存在し、靭性(A×B)が大きすぎる場合、バインダ中のイミド基の量を増やすことになるため、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が 低くなることがわかった。つまり、放電容量とサイクル特性はトレードオフの関係になることがわかった。さらに、Si系活物質の混合量(負極の放電容量)を変化させた場合においても、その最適な物性値は変化することもわかった。
【0008】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の容量を高め、かつ、寿命を長くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、セパレータと、を備え、負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たす。
【0010】
3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の高容量化及び長寿命化が実現できる。言い換えると、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ラミネートセル内部の積層型電極群を示す分解図である。
【図2】ラミネートセルを示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に実施例を挙げ、本発明を説明する。本発明は、以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例においては、積層型のラミネートセルを用いているが、このほか、捲回構造であっても、金属缶に封入されたものであっても、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0014】
(負極活物質及び負極バインダ)
表1は、実施例及び比較例の負極活物質を示したものである。
【0015】
本表に示すように、Si系活物質aと炭素系活物質bとを混合したものを負極活物質として用いた。Si系活物質aは、Si合金又は酸化ケイ素である。炭素系活物質bは、黒鉛である。Si系活物質aと炭素系活物質bとの混合比(a:b)は、質量基準である。以下では、当該混合比(a:b)を単に「混合比」ともいう。
【0016】
【表1】

【0017】
Si合金は、通常、金属ケイ素(Si)の微細な粒子が他の金属元素の各粒子中に分散された状態となっている、または他の金属元素がSiの各粒子中に分散された状態となっている。他の金属元素は、Al、Ni、Cu、Fe、Ti及びMnのうちいずれか1種類以上を含むものであればよい。Si合金の作製方法は、メカニカルアロイ法により機械的に合成するか、またはSi粒子と他の金属元素との混合物を加熱、冷却することで行うことができる。本実施例においては、前者のものを用いた。Si合金の組成は、Si:他の金属元素の原子比率が50:50?90:10が望ましく、60:40?80:20が更に望ましい。65:35?75:25は特に望ましい。
【0018】
本実施例においては70:30として、Si_(70)Ti_(30)を用いたが、Si_(70)Ti_(10)Fe_(10)Al_(10)、Si_(70)Al_(30)、Si_(70)Ni_(30)、Si_(70)Cu_(30)、Si_(70)Fe_(30)、Si_(70)Ti_(30)、Si_(70)Mn_(30)、Si_(70)Ti_(15)Fe_(15)、Si_(70)Al_(10)Ni_(20)などでも構わない。なお、本実施例において用いたSi合金Si_(70)Ti_(30)は、レーザ回折法により測定されたD50平均粒径が3μmであり、窒素吸着BET法により測定された比表面積が6m^(2)/gである。
【0019】
酸化ケイ素は、通常、金属ケイ素(Si)の微細な粒子が二酸化ケイ素(SiO_(2))の各粒子中に分散された状態となっている。酸化ケイ素の作製は、二酸化ケイ素粒子と金属ケイ素粒子との混合物を加熱して一酸化ケイ素ガスを生成させ、これを冷却して非晶質酸化ケイ素粒子を析出させることで行う。この非晶質酸化ケイ素粒子は、一般式SiO_(x)で表される。なお、本発明に係るリチウムイオン二次電池の負極活物質に用いる酸化ケイ素は、上記一般式SiO_(x)において、xが1.0≦x≦1.5の範囲であることが好ましく、1.0≦x<1.2の範囲であれば更に好ましい。
【0020】
上記工程で得られた酸化ケイ素粒子を熱処理して酸化させることで酸化ケイ素粒子中の酸素の比率を増加させることができる。即ち、xの値を大きくすることができる。ただし、熱処理により得た、xが1.5を超える酸化ケイ素粒子は、不均化反応によって発生する二酸化ケイ素の割合が大きい。二酸化ケイ素は不活性であるため、このような酸化ケイ素粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質に使用した場合、不可逆容量の増加を引き起こすので好ましくない。本実施例においてはSiO_(x)として、x=1.0を用いた。この酸化ケイ素(SiO)は、レーザ回折法により測定されたD50平均粒径が5μmであり、窒素吸着BET法により測定された比表面積が10m^(2)/gである。
【0021】
黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛質の材料を用いることができる。コストの観点からは天然黒鉛が望ましいが、表面を難黒鉛化炭素で被覆していてもかまわない。本実施例において、結晶性として、d002が3.356Å以下、Lc(002)が1000Å以上、La(110)が1000Å以上の天然黒鉛を用いた。この天然黒鉛は、レーザ回折法により測定されたD50平均粒径が20μmであり、窒素吸着BET法により測定された比表面積が4m^(2)/gである。
【0022】
バインダは、本実施例において、ポリアミドイミドを用いたが、ポリアミドまたはポリイミド、さらにはこれらの混合物であってもかまわないし、PVDFやSBRなど他のバインダとの混合バインダであってもかまわない。なお、ポリアミドイミドの厳密な定義は特に決まっておらず、ポリイミドとポリアミドイミドの混合バインダもポリアミドイミドと呼ばれている。ポリアミドイミドの構造例は、下記構造式(1)で表される。
【0023】
【化1】

【0024】
上記構造式(1)のR^(1)は、炭素数1?18のアルキレン基、アリーレン基、ベンゼンなどであり、窒素酸素、硫黄、ハロゲンを含んでいても構わない。また、上記構造式(1)のR^(2)?R^(10)は、水素、アルキル基またはアリール基である。R^(1)?R^(3)の炭素数を増やすことや上記構造式(1)のnを増やしポリマー量を変えること、つまり、イミド基を増やすことで、バインダの物性値(破断強度Aや破断伸率B)を変化させた。なお、上記構造式(1)において中央部の環構造は、ベンゼン環その他の不飽和環でもよい。
【0025】
表2に実施例と比較例の負極バインダの物性値を示す。
【0026】
負極バインダの破断強度A(MPa)は、引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフAG-Xplus)を用いて、速度0.2m/分で引張り、負極バインダが破断したときの強度とし、次の式から算出した。
【0027】
A=(引張荷重)÷(負極バインダ片の断面積) …(2)
また、負極バインダの破断伸率B(%)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、負極バインダが破断したときの伸率とし、次の式から算出した。
【0028】
B=100×{(引張後の負極バインダ片の長さ)-(引張前の負極バインダ片の長さ)}÷(引張前の負極バインダ片の長さ) …(3)
なお、試験片の寸法は、3cm×3cmである。測定温度は25℃とした。
【0029】
【表2】

【0030】
なお、バインダ単体の作製方法は、次のとおりである。
【0031】
ガラス板の表面に100μmのブレードコーターを用いて塗工し、300℃で1時間真空熱硬化することにより作製した。塗工の寸法は5cm×10cmである。
【0032】
(負極の作製)
負極は、負極合剤スラリーを作製した後、集電箔の上に塗工し、プレスすることで作製した。負極合剤スラリーは、前述の負極活物質とバインダ以外に、アセチレンブラック(HS100)を導電材として用い、その重量比率は順に92:5:3で作製し、粘度が5000?8000mPaとなるように、NMP溶媒を混合しながら、スラリーを作製した。本実施例において溶媒にNMPを用いたが、水や2-ブトキシエタノール、ブチルセロソルブ、N,N-ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどであっても構わないし、これらの混合物であってもかまわない。スラリーの作製は、プラネタリミキサを用いた。
【0033】
得られた負極スラリーを用いて、銅箔上に卓上コンマコータで塗工した。集電箔は、比重が小さく、強度の高いSUS鋼箔の方がサイクル寿命向上などの効果はあるが、コストの観点から銅箔を選択した。塗工量は、正極の塗工量240g/m^(2)を用いた際に正極と負極の容量比が1.0になるように、それぞれ負極塗工量を調節し、塗工量10g/m^(2)以上100g/m^(2)以内となるように作製した。
【0034】
乾燥温度は、90℃の乾燥炉を通して1次乾燥した。本発明における負極の塗工時の乾燥温度は、80℃以上120℃以下であれば効果が得られるが、90℃以上100℃以下がもっとも効果が得られる。
【0035】
そして、塗工した負極をロールプレスで密度を調整した。なお、密度は、電極の空孔が20?40%程度となるように、プレスし、酸化ケイ素活物質を含む負極は密度1.3?1.5g/cm^(3)で作製し、Si合金を含む負極は密度2.0?2.4g/cm^(3)で作製した。その後、300℃でポリアミドイミドを1時間、真空で熱硬化させた。なお、窒素中であってもかまわないし、樹脂の硬化時間は問われない。
【0036】
(セパレータおよび電解液)
セパレータとしては、熱収縮によりリチウムイオンを通さなくなる材料であれば、問わない。たとえば、ポリオレフィンなどが用いられる。ポリオレフィンは、主にポリエチレン、ポリプロピレンなどを少なくとも1種類を含むことを特徴とするが、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアクリロニトリルなどの耐熱性樹脂を含んでもかまわない。また、無機フィラー層を片面もしくは両面に塗っていてもかまわない。無機フィラー層は、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、モンモリロナイト、雲母、ZnO、TiO_(2)、BaTiO_(3)及びZrO_(2)のうち少なくとも1種類を含むことを特徴とするが、コストや性能の観点から、SiO_(2)またはAl_(2)O_(3)が最も好ましい。本実施例においては、ポリプロピレンの間にポリエチレンを有する3層膜25μmのものを用いた。
【0037】
電解液には、1MのLiPF_(6)の電解質を用い、体積基準でEC:EMC=1:3の溶媒に溶かしたものを用いた。
【0038】
他、電解液には、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピオネート、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1-エトキシ-2-メトキシエタン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等より少なくとも1種以上選ばれた非水溶媒に、例えば、LiPF_(6)、LiBF_(4)、LiClO_(4)、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)等より少なくとも1種以上選ばれたリチウム塩を溶解させた有機電解液あるいはリチウムイオンの伝導性を有する固体電解質あるいはゲル状電解質あるいは溶融塩など電池で使用される既知の電解質を用いることができる。
【0039】
(単極式小型セルによる負極の放電容量の測定)
作製した負極についてφ16mmのサイズに加工し、セパレータを挟み、対極をLiとした単極式小型セル(単極式電池)を作製し、負極の放電容量を測定した。充放電条件は、下限電圧5mVまで0.2CAで定電流充電と2時間の定電圧充電し、上限電圧2.0Vまで0.2CAで定電流放電させた際の放電容量を負極の放電容量とした。
【0040】
ここで、1CAは、1時間で電池容量の充電又は放電が終了する電流値であり、0.2CAは、5時間で電池容量の充電又は放電が終了する電流値である。0.2CAの場合、負極の厚さの影響を無視することができる。
【0041】
(正極の作製)
正極は、正極集電箔としてアルミニウム箔を有している。アルミニウム箔の上には、正極合剤層が形成されており、正極活物質合剤には、正極活物質のLiNi_(1/3)Mn_(1/3)Co_(1/3)O_(2)、炭素材料の導電材およびポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)のバインダ(結着材)を用いた。その重量比率は順に90:5:5で作製し、合剤塗工量は240g/m^(2)で作製した。アルミニウム箔への正極活物質合剤の塗工時には、N-メチル-2-ピロリドンの分散溶媒で粘度調整される。塗工後の正極は、120℃で乾燥した後、ロールプレスで密度を調整し、本実施例において密度は3.0g/cm^(3)で作製した。
【0042】
(ラミネートセルによるサイクル容量維持率の測定)
図1にラミネートセル内部の積層型電極群の分解図を示す。
【0043】
上記した正極、負極、セパレータ及び電解液を用いて、まずはラミネートセル内部の積層型電極群を作製した。
【0044】
図1に示す積層型電極群では、板状の正極5と、帯状の負極6とが、セパレータ7に挟まれて積層されている。なお、作製した正極と負極は、加工の際に、箔の一部に活物質合剤の塗工されない未塗工部をそれぞれ形成した。正極未塗工部3および負極未塗工部4はそれぞれ束ねて、電池内外を電気的に接続する正極端子1、負極端子2に超音波溶接されている。溶接方法は、抵抗溶接など他の溶接手法であってもかまわない。なお、正極端子1、負極端子2は電池内外をより封止させるために、あらかじめ熱溶着樹脂を端子の封止箇所に塗布し、または取り付けてもよい。
【0045】
図2にラミネートセルの分解斜視図を示す。
【0046】
ラミネートセル11は、電極群9をラミネートフィルム8、10の周縁部を175℃で10秒間熱溶着封止させ電気的に絶縁した状態で正極端子1と負極端子2を貫通させることにより作製した。封止は、注液口を設けるために、一辺以外をはじめに熱溶着させ、電解液を注液した後に、残りの一辺を真空加圧しながら熱溶着封止させた。
【0047】
作製したラミネートセルを用いて、電圧4.2V、電流0.5CAの定電流充電を行った後、2時間の定電圧充電を行う。放電は、電圧1.5V、電流0.5CAで定電流放電を行い、これらの充放電を100回繰り返し、1回目の放電容量に対する100回目の放電容量の比率をラミネートセルの100サイクル後の容量維持率として測定した。
【0048】
(試験結果1:負極の放電容量の測定結果)
表3に負極の放電容量測定結果を示す。
【0049】
本表から、実施例1?9並びに比較例1?3、5、7及び11は、特に問題なく、設計容量どおり発現したが、比較例4?6、8?10及び12?13は容量が少ないことがわかる。比較例4、6、8及び12は、(A×B÷10)>3Qであるために、つまりバインダ中のイミド基の量が多いために、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなるものと考えられる。(A×B÷10)≦3Qであれば、放電容量が下がることはないことがわかる。
【0050】
一方、比較例9、10及び13は、混合比に問題がある。ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを含むバインダの場合、Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上となると、結着性が悪化し、剥離することにより、容量が低下することがわかった。つまり、本発明におけるSi合金と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であり、酸化ケイ素と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であることが重要である。
【0051】
【表3】

【0052】
(試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果)
表4にセルの100サイクル後の容量維持率を示す。
【0053】
本表から、実施例1?9並びに比較例4、6、8及び12は、比較的高い容量維持率を示したが、比較例1?3、5?7、9?11及び13は、容量維持率が低いことがわかる。比較例1?3、5、7及び11は、(A×B÷10)<Qであるために、靭性(A×B)が低いためにサイクル特性が悪いものと考える。一方、比較例9、10及び13は、負極の放電容量と同様に、混合比に問題があり、ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを含むバインダの場合、Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上となると、結着性が悪化し、剥離することにより、容量維持率も低下すると考える。
【0054】
以上、本発明は、負極と、正極と、セパレータと、を備え、負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含むリチウムイオン二次電池において、負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たす。
【0055】
3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1)
これにより、初期容量とサイクル特性とに優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0056】
【表4】

【符号の説明】
【0057】
1:正極端子、2:負極端子、3:正極未塗工部、4:負極未塗工部、5:正極、6:負極、7:セパレータ、8:ラミネートフィルム(ケース側)、9:電極群、10:ラミネートフィルム(ふた側)、11:ラミネートセル。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、セパレータと、を備え、
前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、
前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、
前記Si系負極活物質と前記黒鉛との混合比は、質量基準で20:80?90:10であり、
前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、
前記放電容量Q(Ah/kg)は、前記負極とLiとで構成した単極式電池を用いて、下限電圧5mVまで0.2CAの定電流充電と2時間の定電圧充電とを行い、上限電圧2.0Vまで0.2CAの定電流放電を行った際に測定した値であり、
前記破断強度A(MPa)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、前記負極バインダが破断したときの強度であり、下記計算式(2)により算出され、
前記破断伸率B(%)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、前記負極バインダが破断したときの伸率であり、下記計算式(3)により算出される、リチウムイオン二次電池。
3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1)
A=(引張荷重)÷(負極バインダ片の断面積) …(2)
B=100×{(引張後の負極バインダ片の長さ)-(引張前の負極バインダ片の長さ)}÷(引張前の負極バインダ片の長さ) …(3)
【請求項2】
前記Si系負極活物質は、SiO_(x)(ただし、0.5≦x≦1.5である。)、又は、SiとTi、Al、Fe、Ni及びMnからなる群から選択される1種類以上の異種金属元素とを含むSi合金である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記放電容量Q(Ah/kg)は、550以上1050以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-23 
出願番号 特願2015-173720(P2015-173720)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
土屋 知久
登録日 2019-02-08 
登録番号 特許第6476094号(P6476094)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 リチウムイオン二次電池  
代理人 ポレール特許業務法人  
代理人 ポレール特許業務法人  
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