• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1362362
異議申立番号 異議2019-700267  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-08 
確定日 2020-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6402439号発明「加飾シート及び加飾樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6402439号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12、14、15〕、13について訂正することを認める。 特許第6402439号の請求項1?3、5?9、11?15に係る特許を維持する。 特許第6402439号の請求項4及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6402439号(以下「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成25年9月30日(優先権主張 平成25年3月29日 日本国)に出願され、平成30年9月21日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年10月10日)がされたものであって、本件特許異議申立に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年4月8日
特許異議申立人 渡辺 寛(以下「申立人」という。)による
請求項1?15に係る特許に対する特許異議の申立て
令和元年5月27日付け
取消理由通知
同年7月26日
特許権者による訂正請求及び意見書の提出
同年9月19日
申立人による意見書(以下「意見書」という。)の提出
同年12月26日付け
取消理由通知(決定の予告)
令和2年3月6日
特許権者による訂正請求及び意見書の提出
(これによる訂正を「本件訂正」という。)

なお、上記令和元年7月26日に請求された訂正請求は、令和2年3月6日に訂正請求があったので特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2.本件訂正
1.訂正の内容
本件訂正による訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所に下線を付し、また削除された文字の前後1文字に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「少なくとも、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層とがこの順に積層された積層体からなり、」
とあるのを、
「少なくとも、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接に引用する請求項2、3、5?9、11、12、14、15も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃の樹脂の硬化物を含む、加飾シート。」
とあるのを、
「前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾シート。」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接に引用する請求項2、3、5?9、11、12、14、15も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記ガラス転移点が-30℃?50℃の樹脂」
とあるのを、
「前記ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂」
に訂正する。
(請求項3の記載を直接又は間接に引用する請求項5?9、11、12、14、15も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項4に記載の加飾シート。」
とあるのを、
「請求項1?3のいずれかに記載の加飾シート。」
に訂正する。
(請求項5の記載を直接又は間接に引用する請求項6?9、11、12、14、15も同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項4または5に記載の加飾シート。」
とあるのを、
「請求項5に記載の加飾シート。」
に訂正する。
(請求項6の記載を直接又は間接に引用する請求項7?9、11、12、14、15も同様に訂正する。)

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1?6のいずれかに記載の加飾シート。」
とあるのを、
「請求項1?3、5、6のいずれかに記載の加飾シート。」
に訂正する。
(請求項7の記載を直接又は間接に引用する請求項8、9、11、12、14、15も同様に訂正する。)

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1?8のいずれかに記載の加飾シート。」
とあるのを、
「請求項1?3、5?8のいずれかに記載の加飾シート。」
に訂正する。
(請求項9の記載を直接又は間接に引用する請求項11、12、14、15も同様に訂正する。)

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に、
「前記金属薄膜層の上に透明フィルム層がさらに積層されている、請求項1?10のいずれかに記載の加飾シート。」
とあるのを、
「前記金属薄膜層と前記表面保護層の間に透明フィルム層がさらに積層されている、請求項1?3、5?9のいずれかに記載の加飾シート。」
に訂正する。
(請求項11の記載を直接又は間接に引用する請求項12、14、15も同様に訂正する。)

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に、
「請求項1?11のいずれかに記載の加飾シート。」
とあるのを、
「請求項1?3、5?9、11のいずれかに記載の加飾シート。」
に訂正する。
(請求項12の記載を直接又は間接に引用する請求項14、15も同様に訂正する。)

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14に、
「請求項1?12のいずれかに記載の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、」
とあるのを、
「請求項1?3、5?9、11、12のいずれかに記載の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、」
に訂正する。
(請求項14の記載を引用する請求項15も同様に訂正する。)

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13に、
「少なくとも、成形樹脂層と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層とがこの順に積層された積層体からなり、」
とあるのを、
「少なくとも、成形樹脂層と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、」
に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項13に、
「前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃の樹脂の硬化物を含む、加飾樹脂成形品。」
とあるのを、
「前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾樹脂成形品。」
に訂正する。

2.一群の請求項
訂正事項1?12は、請求項1?12、14、15に係る訂正である。
そして、訂正前の請求項2?12、14、15は、訂正前の請求項1を直接又は間接に引用する関係にあるから、訂正事項1?12に係る請求項〔1?12、14、15〕は、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項である。
また、訂正事項13及び14は、請求項13に係る訂正である。
そして、請求項13は、上記一群の請求項〔1?12、14、15〕を構成しないものであるところ、訂正事項13及び14に関しては、「別の訂正単位とする求め」が本件訂正請求書においてなされているから、訂正事項13及び14が訂正要件を満たすときは、請求項13が、上記一群の請求項〔1?12、14、15〕の他の請求項とは別の訂正単位として扱われる。

3.本件訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の「積層体」が「基材層」、「プライマー層」、「金属薄膜層」の順に積層されたものであったところ、「表面保護層」を追加して、「基材層」、「プライマー層」、「金属薄膜層」、「表面保護層」の順に積層されたものであることに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【請求項10】
前記金属薄膜層の上に表面保護層がさらに積層されている、請求項1?9のいずれかに記載の加飾シート。」

イ.「【0014】
加飾シートの積層構造
本発明の加飾シートは、少なくとも、基材層1と、プライマー層3と、金属薄膜層4とをこの順に有する積層構造を有する。・・・また、金属薄膜層4の上には、加飾シートの耐傷付き性、耐候性を高めることなどを目的として、必要に応じて、表面保護層5を設けてもよい。・・・」

ウ.「【0015】
本発明の加飾シートの積層構造として、基材層/プライマー層/金属薄膜層がこの順に積層された積層構造;・・・基材層/接着層/プライマー層/金属薄膜層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;・・・などが挙げられる。」

よって、訂正事項1は、上記ア.?ウ.の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前は「樹脂の硬化物」であったところ、「ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
ア.「【請求項4】
前記ガラス転移点が-30℃?50℃の樹脂が、ポリオール樹脂であり、
前記プライマー層が、前記ポリオール樹脂とイソシアネート化合物との硬化物により形成されている、請求項1?3のいずれかに記載の加飾シート。」

イ.「【0035】
本発明のプライマー層3は、ガラス転移点(Tg)が-30℃?80℃の上記の樹脂と硬化剤との硬化物により形成されていることが好ましい。また、本発明のプライマー層3は、ガラス転移点(Tg)が-30℃?80℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物などからなる硬化剤とによって得られる、反応硬化型のウレタン樹脂により形成されていることがより好ましい。ガラス転移点(Tg)が-30℃?80℃のポリオール樹脂としては、特に制限されず、例えば、上記で例示したポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂である上記のポリオールなどが挙げられる。」

よって、訂正事項2は、上記ア.及びイ.の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の「樹脂」を「ポリオール樹脂」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書等には、上記(2)ア.及びイ.の記載がある。
よって、訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項4を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4が、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5?8
訂正事項5?8は、訂正事項4によって請求項4が削除されたことに整合させるため、訂正前の請求項5?7、9がそれぞれ引用する請求項を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項5?8は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、訂正事項5?8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項9
訂正事項9は、請求項10を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項9が、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項10
ア.訂正事項10のうち、訂正前の
「前記金属薄膜層の上に透明フィルム層がさらに積層されている、」
を、
「前記金属薄膜層と前記表面保護層の間に透明フィルム層がさらに積層されている、」
に訂正する事項(以下「訂正事項10-1」という。)について検討する。
訂正事項10-1は、訂正事項1により「表面保護層」が追加されたことに伴って、「透明フィルム層」が「前記金属薄膜層と前記表面保護層の間」に位置することを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
(ア)「【0014】
加飾シートの積層構造
本発明の加飾シートは、少なくとも、基材層1と、プライマー層3と、金属薄膜層4とをこの順に有する積層構造を有する。・・・また、金属薄膜層4の上には、加飾シートの耐傷付き性、耐候性を高めることなどを目的として、必要に応じて、表面保護層5を設けてもよい。・・・また、金属薄膜層4の上には、加飾シートの成形性を高めることなどを目的として、必要に応じて、透明フィルム層9などを設けてもよい。・・・」

(イ)「【0015】
本発明の加飾シートの積層構造として、基材層/プライマー層/金属薄膜層がこの順に積層された積層構造;・・・基材層/接着層/プライマー層/金属薄膜層/透明フィルム層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;・・・などが挙げられる。」

よって、訂正事項10-1は、上記(ア)及び(イ)の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項10のうち、訂正前の
「請求項1?10のいずれかに記載の加飾シート。」
を、
「請求項1?3、5?9のいずれかに記載の加飾シート。」
に訂正する事項(以下「訂正事項10-2」という。)について検討する。
訂正事項10-2は、訂正事項4及び9によって、それぞれ請求項4及び10が削除されたことに整合させるため、訂正前の請求項11が引用する請求項を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項10-2は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、訂正事項10-2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(8)訂正事項11及び12
訂正事項11及び12は、訂正事項4及び9によって、それぞれ請求項4及び10が削除されたことに整合させるため、訂正前の請求項12及び14がそれぞれ引用する請求項を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項11及び12は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、訂正事項11及び12は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(9)訂正事項13
訂正事項13は、訂正前は「成形樹脂層」、「基材層」、「プライマー層」、「金属薄膜層」の順に積層されたものであったところ、「表面保護層」を追加して、「成形樹脂層」、「基材層」、「プライマー層」、「金属薄膜層」、「表面保護層」の順に積層されたものであることに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
ア.「【0014】
加飾シートの積層構造
本発明の加飾シートは、少なくとも、基材層1と、プライマー層3と、金属薄膜層4とをこの順に有する積層構造を有する。・・・また、金属薄膜層4の上には、加飾シートの耐傷付き性、耐候性を高めることなどを目的として、必要に応じて、表面保護層5を設けてもよい。・・・」

イ.「【0015】
本発明の加飾シートの積層構造として、基材層/プライマー層/金属薄膜層がこの順に積層された積層構造;・・・基材層/接着層/プライマー層/金属薄膜層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;・・・などが挙げられる。」

ウ.「【0071】
2.加飾樹脂成形品
・・・即ち、本発明の加飾樹脂成形品は、少なくとも、成形樹脂層と、基材層1と、プライマー層3と、金属薄膜層4とがこの順に積層された積層体からなり、・・・本発明の加飾樹脂成形品では、必要に応じて、加飾シートに上述の表面保護層5、第2のプライマー層6、カラークリア層7、第3のプライマー層8、透明フィルム層9、第2の接着層10などの少なくとも1層がさらに設けられていてもよい。」

よって、訂正事項13は、上記ア.?ウ.の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(10)訂正事項14
訂正事項14は、訂正前は「樹脂の硬化物」であったところ、「ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
「【0035】
本発明のプライマー層3は、ガラス転移点(Tg)が-30℃?80℃の上記の樹脂と硬化剤との硬化物により形成されていることが好ましい。また、本発明のプライマー層3は、ガラス転移点(Tg)が-30℃?80℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物などからなる硬化剤とによって得られる、反応硬化型のウレタン樹脂により形成されていることがより好ましい。ガラス転移点(Tg)が-30℃?80℃のポリオール樹脂としては、特に制限されず、例えば、上記で例示したポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂である上記のポリオールなどが挙げられる。」

よって、訂正事項14は、上記記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4.小括
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?12、14、15〕、13についての訂正を認める。


第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記第2.のとおり、本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1?15は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?15に記載された、次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1?15に係る発明を、以下「本件発明1」等という。

「【請求項1】
少なくとも、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾シート。
【請求項2】
曲部を有する樹脂成形品の加飾用途に用いられ、
前記曲部が、前記加飾シートに対して最大延伸倍率150%以上の延伸を必要とする形状である、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1または2に記載の加飾シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記ポリオール樹脂が、ポリエステルポリオールである、請求項1?3のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
前記イソシアネート化合物が、脂肪族イソシアネート化合物である、請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
前記基材層と前記プライマー層との間に接着層を有する、請求項1?3、5、6のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項8】
前記接着層が、塩素系樹脂を含む、請求項7に記載の加飾シート。
【請求項9】
前記金属薄膜層が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金、亜鉛、及びこれらのうち少なくとも1種を含む合金からなる群から選択された少なくとも1種の金属により形成されている、請求項1?3、5?8のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記金属薄膜層と前記表面保護層の間に透明フィルム層がさらに積層されている、請求項1?3、5?9のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項12】
前記プライマー層が、着色剤をさらに含む、請求項1?3、5?9、11のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項13】
少なくとも、成形樹脂層と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾樹脂成形品。
【請求項14】
請求項1?3、5?9、11、12のいずれかに記載の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
前記真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得るトリミング工程、及び
前記成形シートを射出成形型に挿入し、前記射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を前記射出成形型内に射出して前記樹脂と前記成形シートとを一体化する一体化工程、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
前記加飾樹脂成形品が曲部を有し、
前記真空成形工程及び前記一体化工程の少なくとも一方の工程において、前記曲部に位置する加飾シートを最大延伸倍率150%以上に延伸する、請求項14に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。」


2.取消理由の概要
本件特許について、令和元年7月26日になされた訂正請求による訂正後の請求項1?18に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和元年12月26日付けの取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
なお、申立人が申立てた理由のうち、甲第1号証(引用文献1)を主引例とする進歩性の取消理由が通知され、甲第3号証(引用文献5)を主引例とするものは通知されなかった。

本件特許の請求項1?18に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1?18に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。



引用文献1.国際公開第91/10562号(甲第1号証)
引用文献2.特開平4-25456号公報(当審が提示する証拠)
引用文献3.特開2011-73373号公報(甲第2号証)
引用文献4.特開2012-76353号公報(当審が提示する証拠)
引用文献5.特開2003-127170号公報(甲第3号証)
引用文献6.特開2007-176046号公報(当審が提示する証拠)


3.判断
(1)引用文献に記載された事項
以下、引用文献2等に記載された事項を「引用文献2記載事項」などという。
ア.引用文献1(国際公開第91/10562号)
引用文献1には、図面と共に、以下の記載がある。
(ア)「本発明は金属様外観を有する積層樹脂フイルムに関し、さらに詳しくは、接着剤もしくは粘着剤を介して又は熱ラミネ一 ト等の手段により、任意の基体に貼着することによつて、該基体に金属調の美麗な装飾を施すことのできる金属様外観を有する積層樹脂フイルムに関する。」
(3ページ左上欄4?7行)

(イ)「かくして、本発明の目的は、ポリ塩化ビニル系樹脂フイルムと金属層との結合性に優れており、 且つ金属層の腐食、劣化がなく、外装用として用いた場合にも十分な耐候性を示し、曲面貼着可能な柔軟性を有し、しかも耐溶剤性、耐温水性、耐薬品性等の性能にも優れており、種々美麗な印刷が可能なポリ塩化ビニル糸樹脂フイルムをべースとする金属調フイルムを提供することである。」
(3ページ左下欄9?14行)

(ウ)「本発明の積層樹脂フイルムのベースとなり且つ装飾用として基体に貼着する場合には表面樹脂層となるポリ塩化ビニル系樹脂フイルム(a)・・・」
(3ページ右下欄8?9行)

(エ)「請求の範囲
1.(a)全光線透過率が少なくとも30%であり且つ5%伸長時の引張強度が2kg/cm以下であるポリ塩化ビニル系樹脂フイルムと、
(b)該フイルムの一面に積層された、全光線透過率が少なくとも30%であり且つ100%伸長時の引張強度が50?550kg/cm^(2)の範囲内にある薄いポリウレタン系樹脂層と、
(c)該ポリウレタン系樹脂層上に被着形成された厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層
からなることを特徴とする金属様外観を有する積層樹脂フイルム。
・・・
8.ポリウレタン系樹脂層 (b)が60?450kg/cm^(2)の範囲内の100%伸長時の引張強度を有する請求の範囲第1項記載の積層樹脂フイルム。
・・・
10.ポリウレタン系樹脂層(b)を形成するポリウレタン系樹脂が-60℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する請求の範囲第1項記載の積層樹脂フイルム。」
(15ページ左上欄1行?右上欄16行)

(オ)「こうして作成した上記フイルムは、その該略を第1図の部分断面図で示すように、図中1で示したポリ塩化ビニル系樹脂フイルムにポリウレタン系樹脂層2a、金属層(d)、(金属層3)粘着剤層5及び剥離紙6を順次積層した構造からなるものである。」
(13ページ左下欄3?6行)

(カ)「しかして、本発明において使用しうるポリウレタン樹脂の製造において使用しうるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの製造において一般に使用されている、脂肪族系、脂環式系、芳香族系又はこれらの混合系のポリイソシアネート化合物を同様に使用することができ、・・・」
(7ページ左上欄19?22行)

(キ)「しかして、本発明において好適に使用しうるポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
以上述べたイソシアネート成分とポリオール成分からのポリウレタン樹脂の製造はそれ自体既知の方法で行なうことができ、・・・」
(7ページ右下欄3?7行)

(ク)「金属層(c)を形成する金属の種類には特に制約はなく積層樹脂フイルムの用途等に応じて広い範囲から選ぶことができ、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ニツケル、クロム、マグネシウム、亜鉛等或いはこれら金属の2種以上からなる合金等を例示することができる。」
(9ページ左下欄21?24行)

(ケ)「本実施例6の金属様外観を有する積層樹脂フイルムは、前記実施例4の金属調フイルムに、更にアクリル系樹脂層(d)を金属層(c)の他面に被着形成し、該金属層(c)を裏打ちした構成からなるものである。その概略は、第2図の部分断面図に示すように、金属層(c)(金属層3)の他面に上記アクリル系樹脂層(d)4が被着形成されている以外は、第1図に示した外装用金属調フイルムと共通の構成からなるものであり、第1図のポリウレタン樹脂層2aは、第2図のポリウレタン樹脂層2に対応しているものである。」
(14ページ左上欄16?23行)

(コ)「以上述べたポリウレタン樹脂には、・・・また、必要に応じて硬化用触媒、着色剤(染料、一般顔料、パール顔料、金属フレーク等)、紫外線吸収剤、抗酸化剤等を含ませてもよい。」
(8ページ右下欄18行?9ページ左上欄2行)

(サ)「



(シ)「



(ス)上記(エ)、(オ)及び(コ)によると、引用文献1には、「金属様外観を有する積層樹脂フイルム」が、「ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム」、「ポリウレタン系樹脂層」、「厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層」の順に積層された積層体が記載されているといえる。

そうすると、上記(ア)?(キ)、(コ)、(ス)を総合すると、引用文献1には、以下の「引用発明A」が記載されている。
「ポリ塩化ビニル系樹脂フイルムと、ポリウレタン系樹脂層と、厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層とがこの順に積層された積層体からなり、
ポリウレタン系樹脂層を形成するポリウレタン系樹脂が、-60℃以上のガラス転移温度を有し、ポリエステルポリオールと脂肪族イソシアネート化合物からなる、金属様外観を有する積層樹脂フイルム。」

イ.引用文献2
(ア)「2. 特許請求の範囲
1 ポリエステル系樹脂よりなる基材フイルムの少くとも片面に樹脂被覆層が形成された被覆ポリエステルフイルムであって、該被覆樹脂が少なくともポリエステルポリオールを含むポリオールとポリイソシアネート化合物及び要すれば、鎖延長剤とから得られる水不溶性で水分散性のポリエステルウレタン重合体であり、且つ該ポリエステルポリオールが硬質ポリエステルポリオール(A)と軟質ポリエステルポリオール(B)の少くとも2種以上の混合物であり、(A)/(B)の重量比が90/10?5/95であることを特徴とする被覆ポリエステルフイルム
2 請求項1記載の被覆ポリエステルフイルムの前記ポリエステルポリウレタン樹脂被覆層表面に無機物蒸着層が設けられた蒸着フィルム。」
(1ページ左欄5行?右欄1行)

(イ)「該硬質ポリエステルポリオール(A)とは、ポリエステルポリオールを構成する酸成分が主として、芳香族ジカルボン酸よりなるものであり、ガラス転移温度(Tg)が10℃以上60℃以下のものが好ましい。Tgが10℃未満であると、被覆フイルムをロール状に巻取った場合、該被覆層がブロッキング及び/又は変形を起してしまい好ましくない。またTgが60℃を越える場合該被覆層と基材ポリエステルフイルム及び/又は、蒸着層との密着性に劣ると共に、ボイル時の応力集中を防ぐことが出来ない場合があるので好ましくない。」
(4ページ左上欄20行?右上欄11行)

(ウ)「蒸着されるべき無機物としては、金属、金属酸化物、金属以外の無機酸化物などが用いられる。上記金属としては、金、銀、アルミニウム、亜鉛、錫、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、パラジウム、チタン、イソジウムなどが用いられる。」
(6ページ左下欄1?6行)

(エ)「このような蒸着フイルムは食品包装用フイルム、装飾用材料、各種保護フイルムなどの用途に利用され」
(9ページ右上欄7?9行)

(2)判断
ア.本件発明1
(ア)対比
本件発明1と引用発明Aを対比すると、引用発明Aの「ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム」は本件発明1の「基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)」に相当し、以下同様に「ポリウレタン系樹脂層」は「プライマー層」に、「厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層」は「金属薄膜層」に、「ガラス転移温度」は「ガラス転移点」に、「ポリエステルポリオール」は「ポリオール樹脂」に、「脂肪族イソシアネート化合物」は「イソシアネート化合物」に、「金属様外観を有する積層樹脂フイルム」は「加飾シート」にそれぞれ相当する。

引用発明Aの「ポリウレタン系樹脂」は、「ポリウレタン系樹脂層を形成する」ものであるのだから、硬化物であることは明らかであること、及び、上記対比を踏まえると、引用発明Aの「ポリウレタン系樹脂層を形成するポリウレタン系樹脂」が「ポリエステルポリオールと脂肪族イソシアネート化合物からなる」ことは、本件発明1の「前記プライマー層は、」「ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む」ことに相当する。

よって、本件発明1と引用発明Aは、以下の点で一致する。
「基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、がこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾シート。」

そして、本件発明1と引用発明Aは、以下の点で相違する。
<相違点1>
層構造について、本件発明1は、「少なくとも、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層され」ているのに対して、引用発明Aは、表面保護層の有無が不明である点。

<相違点2>
樹脂の硬化物のガラス転移点について、本件発明1は「-30℃?50℃」であるのに対して、引用発明Aは「-60℃以上」である点。

(イ)上記<相違点1>について検討する。
引用文献1には、
「こうして作成した上記フイルムは、その該略を第1図の部分断面図で示すように、図中1で示したポリ塩化ビニル系樹脂フイルムにポリウレタン系樹脂層2a、金属層 (d)、(金属層3)粘着剤層5及び剥離紙6を順次積層した構造からなるものである。」(上記(1)ア.(オ))、
「接着剤もしくは粘着剤を介して又は熱ラミネ一 ト等の手段により、任意の基体に貼着することによつて、該基体に金属調の美麗な装飾を施すことのできる金属様外観を有する積層樹脂フイルム」(上記(1)ア.(ア))
と記載されているから、金属層の側の面は基体に貼着される側であって、「表面」であるとはいえず、引用発明Aにおいて、金属層の上に層を追加したとしてもその追加された層は、「表面」を保護する「層」とはいえない。

ここで、引用文献1に記載された「剥離紙6」について、念のため検討する。
引用文献1には、
「本発明の積層樹脂フイフムの金属層(c) 表面又はアクリル系樹脂層(d)表面には、感圧型の接着剤ないし粘着剤の層を適用することができ、さらにまた、該層には剥離紙を貼着することにより該層を使用時までの汚染等から保護することができる。」(10ページ右上欄17?20行)(「積層樹脂フイフム」は「積層樹脂フイルム」の明らかな誤記)
と記載されているように、「剥離紙6」は、粘着剤層5を保護するためのものであって使用時には剥離するため、引用発明Aの積層樹脂フイルムを構成する層ではない。
また、「アクリル系樹脂層」について検討する。
引用文献1には、
「本発明の積層樹脂フイルムは、 以上に述べたポリ塩化ビニル系樹脂フイルム(a)とポリウレタン系樹脂層(b)と金属層(c)とから成ることができるが、さらに、追加の層として、金属層(c)上にアクリル系樹脂層(d)を設けることができ、これにより裏面(ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム(a)及びボリウレタン系樹脂(b)側でない面)からの水分の侵入による金属層の腐食を防ぎかつ金属層のポリウレタン系樹脂脂層(b)への移行劣化を金属層と密着固定させることにより防ぎ耐候性等の諸物性が向上することが可能となる。」(9ページ右下欄4?11行)(下線部は当審が付した)
と記載されている。
そうすると、「アクリル系樹脂層」は、金属層を保護するものではあるけれども、基体に貼着されたときに、基体側からの水分侵入を防ぐ「裏面」を保護する層である。

これに対して、本件発明1の「表面保護層」は、発明の詳細な説明に、
「【0047】
[表面保護層5]
表面保護層5は、加飾シートの耐傷付き性、耐候性などを高めることを目的として、必要に応じて、加飾シートの最表面に設けられる層である。・・・」
と記載されているように、「表面」を保護するものであり、引用発明Aの裏面保護層では考慮するはずのない「耐傷付き性」などを目的とするものである。

そうすると、引用文献3に記載されているように、加飾シートにおいて表面保護層を設けることが本件特許の出願前に周知の技術であるとしても、引用発明Aの金属層が基体側の「裏面」にあるのだから、金属層の上に保護層を設けたとしても、それは「表面」保護層にはなり得ない。
そして、本件発明1の表面保護層は、耐傷付き性、耐候性などを高めるという、作用・効果を奏するものである。
よって、引用発明Aにおいて、<相違点1>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、表面保護層について、訂正前の請求項10に関する主張の中で、設計事項であり、一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない旨を主張(特許異議申立書13ページ23?29行)している。

しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、引用発明Aの金属層は「表面」側であるといえないから、「表面」保護層を設けることは、設計事項ではない。
よって、申立人の主張は、採用することができない。

(エ)小括
上述のとおり、<相違点2>について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明A、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

イ.本件発明2、3、5?9、11、12、14、15
本件発明2、3、5?9、11、12、14、15は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

ウ.本件発明13
(ア)対比
本件発明13と引用発明Aを対比すると、引用発明Aの「ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム」は本件発明1の「基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)」に相当し、以下同様に「ポリウレタン系樹脂層」は「プライマー層」に、「厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層」は「金属薄膜層」に、「ガラス転移温度」は「ガラス転移点」に、「ポリエステルポリオール」は「ポリオール樹脂」に、「脂肪族イソシアネート化合物」は「イソシアネート化合物」に、「金属様外観を有する積層樹脂フイルム」は「加飾シート」にそれぞれ相当する。

引用発明Aの「ポリウレタン系樹脂」は、「ポリウレタン系樹脂層を形成する」ものであるのだから、硬化物であることは明らかである。そうすると、引用発明Aの「ポリウレタン系樹脂層を形成するポリウレタン系樹脂」が「ポリエステルポリオールと脂肪族イソシアネート化合物からなる」ことは、本件発明1の「前記プライマー層は、」「ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む」ことに相当する。

引用発明Aは、「任意の基体に貼着することによつて、該基体に金属調の美麗な装飾を施すことのできる金属様外観を有する積層樹脂フイルム」(上記(1)ア.(ア))であるから、基体、ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム、ポリウレタン系樹脂層、厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層の順に積層された積層体である。
そうすると、引用発明Aの「基体、ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム、ポリウレタン系樹脂層、厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層の順に積層された積層体」は、「加飾対象物と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層とがこの順に積層された積層体」の限りにおいて、本件発明13の「少なくとも、成形樹脂層と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体」に相当する。
そして、引用発明Aの「基体、ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム、ポリウレタン系樹脂層、厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層の順に積層された積層体」は、全体として加飾された製品であるから、「加飾製品」の限りにおいて、本件発明13の「加飾樹脂成形品」と一致する。

よって、本件発明13と引用発明Aは、以下の点で一致する。
「加飾対象物と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、がこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾製品。」

そして、本件発明1と引用発明Aは、以下の点で相違する。
<相違点A>
層構造について、本件発明13は、「少なくとも、成形樹脂層と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層され」ているのに対して、引用発明Aは、表面保護層が明記されていない点。

<相違点B>
樹脂の硬化物のガラス転移点について、本件発明13は「-30℃?50℃」であるのに対して、引用発明Aは「-60℃以上」である点。

<相違点C>
加飾対象物及び加飾製品について、本件発明13は、「成形樹脂層」、「加飾樹脂成形品」であるのに対して、引用発明Aは、基体がどのようなものであるのか不明な点。

(イ)上記<相違点A>について検討する。
<相違点A>の表面保護層に関する点は、上記<相違点1>と実質的に同じ相違点である。
したがって、<相違点A>については、上記ア.(イ)において<相違点1>について述べたのと同様に、引用発明Aにおいて、<相違点A>に係る本件発明13の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(ウ)小括
上述のとおり、<相違点B>、<相違点C>について検討するまでもなくも、本件発明13は、引用発明A、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。


4.取消理由としなかった特許異議の申立理由について
(1)上記取消理由として採用しなかった特許異議の申立理由について、念のために検討すると、以下のとおりである。

<採用しなかった申立理由>
本件特許の請求項1?15に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1?15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)まず、本件発明1に係る上記申立理由について検討する。
ア.甲第3号証(特開2003-127170号公報)には、【請求項1】、段落【0007】?【0009】、【0023】?【0025】、【図1(B)】等によれば、以下の発明(「甲3発明」という。)が記載されている。
「アクリル樹脂等からなる基材シート2と、プライマー層4と、金属薄膜で形成された模様印刷層5と、表面シート3とがこの順に積層してなる加飾用シート1であり、
プライマー層4は、ポリオール等の活性水素を有する主剤と、イソシアネートを含む架橋剤とから構成されるウレタン樹脂である、加飾用シート1。」

イ.本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「アクリル樹脂等からなる基材シート2」は、本件発明1の「基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)」に相当し、以下同様に、「プライマー層4」は「プライマー層」に、「金属薄膜で形成された模様印刷層5」は「金属薄膜層」に、「表面シート3」は「表面保護層」に、「この順に積層してなる加飾用シート1」は「この順に積層された積層体」に、「ポリオール等の活性水素を有する主剤と、イソシアネートを含む架橋剤とから構成されるウレタン樹脂」は「ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物」に、「加飾用シート1」は「加飾シート」に、それぞれ相当する。

よって、本件発明1と甲3発明は、以下の点で一致する。
「基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾シート。」

そして、本件発明1と甲3発明は、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点ア>
プライマー層について、本件発明1は、「ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む」のに対して、甲3発明は、ポリオール等の活性水素を有する主剤と、イソシアネートを含む架橋剤とから構成されるウレタン樹脂ではあるものの、ガラス転移点が明記されていない点。

ウ.<相違点ア>について検討する。
甲1(引用文献1)には、上記3.(1)ア.に示したとおり、以下の事項(「甲1」記載事項という。)が記載されている。
「ポリ塩化ビニル系樹脂フイルムと、ポリウレタン系樹脂層と、厚さが50?2000Åの範囲内にある金属層とがこの順に積層された積層体からなり、
ポリウレタン系樹脂層を形成するポリウレタン系樹脂が、-60℃以上のガラス転移温度を有し、ポリエステルポリオールと脂肪族イソシアネート化合物からなる、金属様外観を有する積層樹脂フイルム。」

甲1の9ページ右上欄第16?18行には、「ガラス転移温度」について「好ましくは-50℃以上、さらに好ましくは-40℃以上の範囲内にあることが望ましく」とも記載されているから、甲1には、ガラス転移温度について、「-60℃以上」、「-50℃以上」、「-40℃以上」という下限値は記載されているものの、上限値については記載されていない。
ここで申立人は、本件発明1の数値範囲は甲1発明の数値範囲に含まれており、両者に実質的な差異はないと主張(特許異議申立書15ページ11?18行の参照先である12ページ1?12行)している。
しかしながら、甲1には上限値の記載がないから、本件発明1の数値範囲とは、明らかに差異がある。
さらに、本件発明1は、
「加飾シートの三次元成形性をより高める観点から、プライマー層3は、好ましくはガラス転移点が-20?70℃の樹脂の硬化物を含み、より好ましくはガラス転移点が-10?40℃の樹脂の硬化物を含み、さらに好ましくはガラス転移点が0?20℃の樹脂の硬化物を含む。プライマー層3に含まれる樹脂のガラス転移点が低すぎると、金属薄膜層4との密着性が低下し、加飾シートの成形時の加熱などにより各層間で剥がれ、浮きなどが生じる場合があり、さらに、接着層2に塩素系樹脂が含まれる場合は金属薄膜層4が退色しやすくなる。一方、プライマー層3に含まれる樹脂のガラス転移点が高すぎると、加飾シートの成形時の加熱などによりプライマー層3が熱収縮し、加飾シートの各層間において剥がれ、浮きなどが生じる場合がある。」(段落【0030】)
ためにガラス転移点を「-30℃?50℃」とするものであるから、その下限値及び上限値を特定することによって格別の作用・効果を奏するものである。
よって、甲3発明において、甲1記載事項を適用しても、上記<相違点ア>に係る本件発明1の構成とはならないから、本件発明1は、甲3発明、及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2、3、5?9、11、12、14、15は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲3発明、及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)次に、本件発明13に係る上記申立理由について検討する。
本件発明13と甲3発明を対比すると、<相違点ア>と実質的に同じ点で相違している。
そうすると、本件発明13は、本件発明1と同様に、甲3発明、及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)以上のとおり、本件発明1?3、5?9、11?15は、甲3発明、及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立人の上記申立理由によっては、取り消すことができない。


第4.むすび
以上のとおり、本件発明1?3、5?9、11?15は、引用発明A(甲1発明)及び引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に適合するものであり、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。
そして、他に本件発明1?3、5?9、11?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、本件訂正により、請求項4及び10は削除されたため、請求項4及び10に係る特許に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾シート。
【請求項2】
曲部を有する樹脂成形品の加飾用途に用いられ、
前記曲部が、前記加飾シートに対して最大延伸倍率150%以上の延伸を必要とする形状である、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1または2に記載の加飾シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記ポリオール樹脂が、ポリエステルポリオールである、請求項1?3のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
前記イソシアネート化合物が、脂肪族イソシアネート化合物である、請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
前記基材層と前記プライマー層との間に接着層を有する、請求項1?3、5、6のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項8】
前記接着層が、塩素系樹脂を含む、請求項7に記載の加飾シート。
【請求項9】
前記金属薄膜層が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金、亜鉛、及びこれらのうち少なくとも1種を含む合金からなる群から選択された少なくとも1種の金属により形成されている、請求項1?3、5?8のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記金属薄膜層と前記表面保護層の間に透明フィルム層がさらに積層されている、請求項1?3、5?9のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項12】
前記プライマー層が、着色剤をさらに含む、請求項1?3、5?9、11のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項13】
少なくとも、成形樹脂層と、基材層(ただし、ポリエステル系樹脂よりなる基材フィルムであるものを除く)と、プライマー層と、金属薄膜層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記プライマー層は、ガラス転移点が-30℃?50℃のポリオール樹脂と、イソシアネート化合物との硬化物を含む、加飾樹脂成形品。
【請求項14】
請求項1?3、5?9、11、12のいずれかに記載の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
前記真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得るトリミング工程、及び
前記成形シートを射出成形型に挿入し、前記射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を前記射出成形型内に射出して前記樹脂と前記成形シートとを一体化する一体化工程、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
前記加飾樹脂成形品が曲部を有し、
前記真空成形工程及び前記一体化工程の少なくとも一方の工程において、前記曲部に位置する加飾シートを最大延伸倍率150%以上に延伸する、請求項14に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-26 
出願番号 特願2013-204236(P2013-204236)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 横溝 顕範
高山 芳之
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6402439号(P6402439)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 加飾シート及び加飾樹脂成形品  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  
代理人 松井 宏記  
代理人 水谷 馨也  
代理人 山田 威一郎  
代理人 立花 顕治  
代理人 田中 順也  
代理人 山田 威一郎  
代理人 立花 顕治  
代理人 松井 宏記  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ