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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A22C
管理番号 1362378
異議申立番号 異議2019-700484  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-17 
確定日 2020-05-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6442571号発明「野生鳥獣肉製品の製造方法及び屋内製造施設」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6442571号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
特許6442571号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年7月19日に出願され、平成30年11月30日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和1年 6月17日 :特許異議申立人安銀珍による請求項1?6に係 る特許に対する特許異議の申立て
令和1年 8月26日付け:取消理由通知書
令和1年10月15日 :特許権者による意見書の提出
令和1年11月19日 :特許異議申立人安銀珍による上申書の提出
令和1年11月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和1年11月26日付けの取消理由通知書(決定の予告)に対して、特許権者からは、何らの応答もなかった。

2 本件発明について
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
血抜き処理が行われた野生鳥獣から野生鳥獣肉製品を屋内製造施設内で製造する野生鳥獣肉製品の製造方法であって、
血抜き処理が行われた野生鳥獣から被処理体としての枝肉を準備する準備工程と、
前記被処理体と殺菌液とを接触させることにより前記被処理体を洗浄しながら殺菌して処理体を得る洗浄殺菌処理工程と、
前記処理体を食肉処理して前記野生鳥獣肉製品を得る食肉処理工程とを含み、
前記洗浄殺菌処理工程において、前記殺菌液の冷却を行う、野生鳥獣肉製品の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄殺菌処理工程において、前記被処理体を前記屋内製造施設内に設置された浸漬槽内の殺菌液に浸漬させることにより前記被処理体と前記殺菌液とを接触させ、前記浸漬槽内の前記殺菌液に流れを発生させる、請求項1に記載の野生鳥獣肉製品の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄殺菌処理工程において、前記被処理体を前記屋内製造施設内に設置された浸漬槽内の殺菌液に浸漬させることにより前記被処理体と前記殺菌液とを接触させ、前記殺菌液に振動を付与する、請求項1に記載の野生鳥獣肉製品の製造方法。
【請求項4】
血抜き処理が行われた野生鳥獣から野生鳥獣肉製品を製造する野生鳥獣肉製品の屋内製造施設であって、
血抜き処理が行われた野生鳥獣から準備される被処理体としての枝肉と殺菌液とを接触させることにより前記被処理体を洗浄しながら殺菌して処理体を得る洗浄殺菌処理装置と、
前記処理体を食肉処理する食肉処理装置とを含み、
前記洗浄殺菌処理装置が、前記殺菌液を冷却する冷却装置を備える野生鳥獣肉製品の屋内製造施設。
【請求項5】
前記洗浄殺菌処理装置が、
前記被処理体を浸漬させる殺菌液を貯留する浸漬槽と、
前記殺菌液に流れを発生させる流れ発生装置とを更に備える、請求項4に記載の野生鳥獣肉製品の屋内製造施設。
【請求項6】
前記洗浄殺菌処理装置が、
前記被処理体を浸漬させる殺菌液を貯留する浸漬槽と、
前記殺菌液に振動を付与する振動付与装置とを更に備える、請求項4に記載の野生鳥獣肉製品の屋内製造施設。」

3 取消理由の概要
本件発明1ないし6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:岡山県、”野生鳥獣食肉衛生管理ガイドライン(イノシシ・ニホンジカ)(第2版)”、[online]、平成28年3月(但し、2017年4月28日更新)、[令和1年5月28日検索]、インターネット<URL:http://www.pref.okayama.jp/page/530517.html>
甲第2号証:特開平1-309636号公報
甲第3号証:特開平2-190141号公報
甲第4号証:特表2004-517126号公報
甲第5号証:特開平10-99014号公報

4 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証は、次の事項が記載されている(なお、(1-c)の下線は原文に付されていたものであり、(1-c)以外の下線は当審で付したものである。以下同様。)。
(1-a)「I ガイドラインの基本的な考え方
野生鳥獣食肉衛生管理ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)は、野生鳥獣のうちイノシシ又はニホンジカ(以下「シカ」という。)を衛生的に処理し、安全な食肉として流通させる
ことを目的として、策定したものです。」(第1頁第1?4行)

(1-b)「VII 作業工程ごとの衛生管理・品質確保」
安全で良質な食肉を流通させるためには、捕獲者と処理業者の両方が、それぞれの工程において守るべき事項をよく理解し、互いに意志疎通を図りながら連携して衛生的な取扱いを行うことが必要です。


(第5頁第1?4行)

(1-c)「(1)解体の原則
と殺・放血後の工程は、処理施設で行うことを原則とします。
屋外で解体処理を行うと、不衛生となり、食肉への細菌感染が起こりやすい上、処理業者が内臓を見て異常の有無を判断することができなくなりますので、屋外で解体処理された個体を食用とするのは望ましくありません。」(第9頁第1?5行)

(1-d)「(4)解体(内蔵摘出・はく皮・トリミング・洗浄・冷蔵(枝肉))
・・・
エ トリミング(汚染部位などの切除)及び洗浄
・はく皮された枝肉
の、被毛の付着しやすい四肢周囲、消化管内容物の付着しやすい胸腔・腹腔周囲などに特に注意して確認してください。
・血液凝塊、被毛、消化管内容物などの付着が認められた場合は、二次汚染を起こさないよう、周囲の組織ごと大きく完全に切除してください。
・切除が終了したら、使用水により体表を十分に洗浄してください。このとき、排水処理に問題が無ければ、60?80ppm程度の次亜塩素酸ナトリウムなどで洗浄するのも効果的です。」(第10頁第22行?第13頁第8行)

(1-e)「(5)処理(分割・脱骨・細切)
・・・
(6)包装・保管
・処理した食肉は、作業後速やかに包装(真空パックなど)し、表示ラベルを貼って冷蔵又は冷凍保存してください。」(第13頁第17?32行)

上記(1-a)?(1-e)の事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。

「イノシシやシカを衛生的に処理し、安全な食肉として流通させるための方法であって、
『捕獲』、『と殺・放血』、『運搬』、『搬入』の工程は捕獲者が行い、
『受入れ』、『解体前処理』、『解体』、『処理』、『包装保管』、『表示流通』の工程は処理業者が行い、
『と殺・放血』後の工程は、処理施設で行うことを原則とし、
『解体』の工程では、内蔵摘出及びはく皮を行った後、はく皮された枝肉の汚染部位などの切除を行い、使用水により体表を次亜塩素酸ナトリウムなどで十分に洗浄し、
『処理』の工程では、分割・脱骨・細切を行い、
『包装保管』の工程では、包装し、表示ラベルを貼って冷蔵又は冷凍保存する方法。」

(2)甲第2号証
甲第2号証は、次の事項が記載されている。
「本発明は食肉産業に於て畜殺動物(carcass)を冷却し殺菌する装置に関する。更に詳しくは、本発明はオゾン化された水で家禽を冷却し殺菌する装置であつて、オゾン化した水が連続的に浄化されるとともに、装置を通して再循環されるようになされているその装置に関する。
技術の背景
家禽を処理する産業界では、通常は生きている家禽をプラントに出荷し、プラントに於て血抜き、煮沸処理、毛羽抜き及び内蔵の取り出しを行うのが普通である。煮沸作業は通常は53.3℃(128°F)で行われ、内蔵を取り出された家禽が包装され出荷される前に冷却されねばならない。この産業界では、氷水を収容しているオープンタンク内で家禽を4?24時間にわたつて冷却するのが普通である。この水による冷却作業は、家禽を包装する前にその内外のバクテリヤの殆ど全てを洗浄する目的からも行われているのである。」(第2頁右上欄第7行?同頁左下欄第4行)

(3)甲第3号証
甲第3号証は、次の事項が記載されている。
「(課題を解決するための手段)
本発明者は現在広く行なわれている食肉食鳥処理の洗浄および冷却洗浄工程で、洗浄水および冷却洗浄水そのものに殺菌効果を持たせる殺菌方法を鋭意検討した結果、安価な水溶液により、十分な殺菌効果を得ることに成功した。
即ち、本発明は、食肉食鳥処理場における、洗浄、冷却洗浄工程に使用される洗浄水、冷却洗浄水中に、二酸化塩素を含有せしめてなる食肉食鳥処理用消毒殺菌水溶液に関するものである。
本発明に使用する二酸化塩素水溶液は高純度のものであることが望ましく、下記に示される反応にもとずき、特開昭61-183104の方法により亜塩素酸塩より得られるものが好ましい。
2NaClO_(2)+Cl_(2)→2ClO_(2)+2NaCl
この方法にもとづき得られる二酸化塩素水溶液は濃度が500?1000ppmのものである。これを適宜の濃度に水で希釈して使用するが、二酸化塩素量は十分な殺菌効果が得られる最小限の量でかまわない。水溶液中の二酸化塩素の濃度を高くして使用してもかまわないが、単価が高くなると同時に食肉の風味が低下する恐れもある。通常1?100ppm程度、好ましくは3?30ppm程度である。
本発明の消毒・殺菌水溶液は、食鳥を処理する冷却・洗浄槽において、食鳥の屠体に付着している細菌を殺菌するのに十分な効果が認められた。
(発明の効果)
食肉食鳥処理場での洗浄、冷却洗浄工程で本発明の消毒、殺菌水溶液を使用することにより、細菌汚染の無い食品衛生上安全な食鳥肉を生産することが可能である。」(第2頁左上欄第1行?同頁右上欄第14行)

(4)甲第4号証
甲第4号証は、次の事項が記載されている。
(4-a)「【0013】
本発明の組成物及びその他の混合された過カルボン酸抗菌組成物は、家禽の微生物汚染を減らす方法で、家禽を洗浄又は処理するのに用いられる水に、用いることができる。本発明の方法に用いるのに好ましい混合された過カルボン酸組成物は、液体又は気体の形での過酢酸と過オクタン酸の混合物を含む。これらの方法は、混合された過カルボン酸抗菌組成物を、処理の間に家禽に好ましくは微生物の集団を減らすのに充分な量と時間で使用する(apply)ことを含む。この組成物は、家禽を浸漬する、水洗する、スプレーする、又は空冷する(air chilling)、又はそれらの組み合わせ、を含む方法で使用することができる。処理の間、この組成物は丸のままの、ばらばらにした、切り分けた、又は骨を抜いた家禽に使用することができる。」

(4-b)「【0080】
スプレー洗浄の後、鳥はパッケージングのために、又は冷却、具体的には浸漬冷却又は空気冷却、のために準備することができる。浸漬冷却は、肉の質を保持するために鳥を洗浄し冷却するものである。浸漬冷却は普通、死体を水又はスラッシュ(slusH)に、普通約5 ℃より低い温度で、死体の温度が水又はスラッシュの温度に近づくまで完全に浸すものである。死体の冷却は、単一の槽への浸漬によって行っても、それぞれがもっと低い温度にある2つ以上の段階で行ってもよい。水は、死体との接触を増やすために振動又は超音波のエネルギーと共に用いることができる。浸漬冷却は普通、家禽の死体を完全に浸すのに充分な液体深さの冷却液を入れたタンクなどの装置によって行われる。死体はいろいろなメカニズムで、例えば、オーガー・フィード(auger feed)や ドラッグ・ボトム・コンベヤー(drag bottom conveyor)によって、冷却槽を通して運ぶことができる。浸漬冷却はまた、冷却された水のカスケードの中で死体を転がすことによっても行うことができる。
【0081】
本発明に従って、浸漬冷却は過カルボン酸抗菌組成物を用いて、好ましくは本発明の組成物を用いて行うことができる。例えば、浸漬冷却は、約2?約100ppm、好ましくは約2 ?約30ppm、の過カルボン酸が過酢酸と過オクタン酸の混合物として、ここで記載されたような量で追加成分と共に存在する過カルボン酸抗菌組成物を用いることができる。
・・・
【0089】
スプレーによる組成物の使用は、手動のスプレー器を用いたり、完全な接触を保証するように多数のスプレー・ヘッドによって生産ラインに沿って移動する家禽製品への自動的スプレーを用いたり、又はその他の手段を用いて行うことができる。自動的スプレー散布の好ましい方法はスプレー・ブースを用いることである。スプレー・ブースは、スプレーされる組成物を実質的にブースのパラメータの範囲内に限定する。生産ラインが家禽製品を入口からスプレー・ブースの中へ移動させて、ブースの内部で家禽製品がその外側表面全体にスプレーされる。ブースの内部で家禽製品が完全に組成物で覆われ、組成物が流された後、家禽製品は充分に処理された形でブースから出て行くことができる。スプレー・ブースにスティーム・ジェットを備えて、それを用いて本発明の抗菌組成物を吹きつけることができる。このスティーム・ジェットは冷却水と組み合わせて用いて、家禽製品の表面に達する処理液の温度が65 ℃よりも低く、好ましくは60 ℃よりも低くなるようにすることができる。家禽製品でのスプレーの温度は、スプレーの温度によって家禽製品が実質的に変化しない(調理されない)ようにするために重要である。スプレー・パタンは、使用できるならほとんどどんなスプレー・パタンであってもよい。
家禽の浸漬
家禽製品の処理の際、家禽製品をある量の洗浄溶液を入れたタンクに浸すことができる。好ましくは、洗浄溶液を攪拌して、溶液の効力を高め、溶液が家禽製品に付着している微生物を減らすスピードを高める。攪拌は通常の方法によって、例えば、超音波、溶液に空気の泡を通す通気、機械的方法、例えば、濾過器、パドル、ブラッシ、ポンプで駆動する液体ジェット、によって、又はこれらの方法を組み合わせて、行うことができる。洗浄溶液を加熱して微生物を殺す効力を高めることができる。家禽製品は、内蔵を抜いた後、冷却タンク又は冷却水スプレーなどの冷却プロセスの前に洗浄溶液に浸すことが好ましい。」

(5)甲第5号証
甲第5号証は、次の事項が記載されている。
(5-a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食品を加工する方法およびシステムに関する。さらに詳細には、本発明は、動物を食品に加工する際に、微生物の成長を最小限に抑えるための方法とシステムに関する。本発明はさらに、食品加工時に、温度を制御すること、および新鮮な水の必要性を少なくすることに関する。」

(5-b)「【0072】CFWが加工エリア10a?10jに流れていき、そこでオゾン(例えば、図1に示す供給源30cからのオゾン)と混合され、例えば噴霧器128によって動物屠体および加工装置106に噴霧される。前述したように、オゾン/水混合物は、動物屠体を冷却するために、加工装置106と屠体上での微生物の成長を抑制するために、そして屠体と加工装置106から物質を洗い落とすために使用される。これらの機能を果たした後、オゾン/水混合物が加工エリア10a?10jから排出され、このとき洗浄された物質も一緒に随伴して排出される。
・・・
【0101】図10に示すように、屠体冷却器600は、図2に示すエミッター134と類似または同一の超音波エミッター610を含むのが好ましい。コンベヤー108がひな鳥屠体を加工エリア10hに搬送してきたら、屠体冷却器600における冷却オゾン処理水が屠体を取り囲むよう、ひな鳥屠体のそれぞれを屠体冷却器600中に浸漬する。屠体がオゾン処理水中に浸漬されているとき、エミッター610から放出される超音波振動により、ひな鳥屠体の孔中に捕捉されているバクテリアや他の微生物が追い出され、したがってオゾン処理水中のオゾンがこれらの微生物を分解する。」

5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比・判断
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「解体」の工程における、内蔵摘出及びはく皮を行うことは、本件発明の「準備工程」に相当する。
また、甲1発明1における「次亜塩素酸ナトリウム」は、一般に、殺菌作用があることは明らかであるから、甲1発明1の「次亜塩素酸ナトリウムなどで十分に洗浄する」ことは、本件発明の「洗浄しながら殺菌」する「洗浄殺菌処理工程」に相当する。
そして、甲1発明1の「処理」の工程、及び「包装保管」の工程は、本件発明の「食肉処理工程」に相当する。

したがって、本件発明と甲1発明1とは、
「血抜き処理が行われた野生鳥獣から野生鳥獣肉製品を屋内製造施設内で製造する野生鳥獣肉製品の製造方法であって、
血抜き処理が行われた野生鳥獣から被処理体としての枝肉を準備する準備工程と、
前記被処理体と殺菌液とを接触させることにより前記被処理体を洗浄しながら殺菌して処理体を得る洗浄殺菌処理工程と、
前記処理体を食肉処理して前記野生鳥獣肉製品を得る食肉処理工程とを含む、野生鳥獣肉製品の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本件発明は、「前記洗浄殺菌処理工程において、前記殺菌液の冷却を行う」のに対し、甲1発明1は、そのように特定されていない点。

上記相違点について検討する。
甲第2号証には、食肉産業における畜殺動物を冷却し殺菌する装置において、その水による冷却が、内外のバクテリアの殆ど全てを洗浄する目的からも行われている点が記載されている(第2頁右上欄第7行?同頁左下欄第4行)。
甲第3号証には、細菌汚染の無い食品衛生上安全な食鳥肉を生産するために、食肉食鳥処理の洗浄および冷却洗浄工程で、洗浄水及び冷却洗浄水に殺菌効果を持たせた点が記載されている(第2頁左上欄第1行?同頁右上欄第14行)。
甲第4号証には、鳥を洗浄し冷却するタンクなどの装置によって行われる浸漬冷却において、家禽の微生物汚染を減らすために過カルボン酸抗菌組成物を用いた点が記載されている(段落【0013】、【0080】)。
甲第5号証には、動物を食品に加工する際に、噴霧器128によって、オゾン/水混合物を動物屠体に噴霧し、当該オゾン/水混合物は、動物屠体を冷却するため、微生物の成長を抑制するため、物質を洗い落とすために使用される点が記載されている(段落【0001】、【0072】)。
さらに、食用動物の処理において、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を添加した水を冷却して除菌・殺菌に用いることは公知の技術である(例えば、特開2006-262704号公報の段落【0029】?【0031】、特開2010-136651号公報の段落【0002】、三澤尚明、“食鳥処理場におけるカンピロバクター制御法の現状と課題”、日本獣医師会雑誌、平成24年8月20日発行(但し平成29年5月26日公開)、65巻8号617-623頁、[online]、[令和1年11月12日検索]、インターネット このように、食肉処理の技術分野において、洗浄・殺菌処理を行う殺菌液を、微生物の成長を抑制するために冷却すること、及びその冷却のための冷却装置を設けることは、周知の技術である。
したがって、甲1発明1の「解体」の工程において次亜塩素酸ナトリウムなどで洗浄する際に、上記周知の技術を適用し、次亜塩素酸ナトリウムを殺菌剤として含む殺菌液を冷却することは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明1は、甲1発明1及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 特許権者の主張について
特許権者は、令和1年10月15日に提出された意見書において、下記の乙第1号証及び乙第2号証を提出し、以下のとおり主張する。
乙第1号証:健栄製薬株式会社、「第5版 消毒剤マニュアル」、[on1ine]、2012年2月1日、[令和1年10月8日検索]、インターネット<URL:https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2016/11/shoudokukannrenn_03.pdf>
乙第2号証:株式会社アーテック、「あなたの街の“厨房コンシェルジュ”」、1998年9月25日、[令和1年10月8日検索]、インターネット<URL:http://www.artec.ne.jp/?p=2296>
「一方、次亜塩素酸ナトリウムは一般に、温度が高いほど殺菌力が強くなり、温度が低いほど殺菌力が弱くなると言われています。
例えば乙第1号証には、以下のことが記載されています(第3頁下から第4行目?下から第1行目)。
『消毒剤の殺菌効果は作用温度によって変化する。一般に温度が高いほど殺菌力は強くなり、温度が低いほど殺菌力は弱くなる。』
また乙第1号証には、消毒剤として次亜塩素酸ナトリウムも記載されています(例えば第3頁の表2-1)。
また、乙第2号証には、次亜塩素酸ナトリウムについて以下のことが記載されています。
『水温も殺菌力に大きく関係してきます。殺菌作用は化学反応であり、一般に温度が高いほど殺菌力は強くなり、温度が低くなるほど殺菌力は弱くなります。』
このように次亜塩素酸ナトリウムは一般には、温度が低いほど殺菌力が弱くなるとされています。つまり、次亜塩素酸ナトリウムは一般には、冷却することで殺菌力が弱くなると考えられています。
従って、甲第2号証から甲第5号証において、次亜塩素酸ナトリウムとは異なる殺菌液について殺菌洗浄を行うために冷却することが本件特許の出願時に周知であったとしても、当業者が、微生物の成長を抑制するために、甲1発明1の『解体』の工程において次亜塩素酸ナトリウムなどで洗浄する際に上記周知の技術を適用し、殺菌液である次亜塩素酸ナトリウムを冷却することに容易になし得たとは言えないと思料するものです。」(意見書第5頁第1?22行)

上記主張について検討する。
特許権者が主張するように、乙第1号証及び乙第2号証には、次亜塩素酸ナトリウムは、一般に、温度が低いほど殺菌力が弱くなることが記載されているとしても、上記アで検討したとおり、食用動物の処理において、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を添加した水を冷却して除菌・殺菌に用いることは公知の技術である。
すなわち、食肉処理の技術分野において、洗浄・殺菌処理を行う殺菌液を、微生物の成長を抑制するために冷却すること、及びその冷却のための冷却装置を設けることは、周知の技術であり、その殺菌液には、次亜塩素酸ナトリウムを用いたものも含まれる。
そうすると、上記のとおり、甲1発明1の「解体」の工程において次亜塩素酸ナトリウムを含む殺菌液などで洗浄する際に、上記周知の技術を適用し、殺菌液である次亜塩素酸ナトリウムを冷却することは当業者が容易になし得たことである。
なお、本件特許明細書においても、殺菌液として次亜塩素酸ナトリウムが用いられ、殺菌液の冷却が行われることが記載されていることを付言しておく(段落【0045】、【0049】参照)。

(2)本件発明2について
甲第2号証には、タンク2内に畜殺動物を搬送し、スクリュー23を回転させて冷却されている水を扇動し、これにより畜殺動物内部へのオゾン化された水の拡散を増大させた点が記載されている(第5頁左上欄第1行?同頁右上欄第8頁)。
甲第4号証には、家禽製品の処理の際、家禽製品を洗浄溶液を入れたタンクに浸し、洗浄溶液をポンプ等で攪拌して溶液の効力を高める点が記載されている(段落【0089】)。
よって、本件発明2は、甲1発明1、甲第2号証に記載された事項、甲第4号証に記載された事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
甲第4号証には、家禽製品の処理の際、家禽製品を洗浄溶液を入れたタンクに浸し、洗浄溶液を超音波により攪拌して溶液の効力を高める点が記載されている(段落【0089】)。
甲第5号証には、ひな鳥屠体を屠体冷却器600内に浸漬し、エミッター610から放出される超音波振動によりひな鳥屠体の孔中に補足されているバクテリアや他の微生物が追い出されるようにした点が記載されている(段落【0101】)。
よって、本件発明3は、甲1発明1、甲第4号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
甲第1号証には、上記(1-c)に示すとおり、処理施設に関する記載があるから、次の発明(以下「甲1発明2」という。)も記載されていると認められる。
「イノシシやシカを衛生的に処理し、安全な食肉として流通させるため処理施設であって、
『と殺・放血』後の工程を行うことを原則とし、
『解体』の工程では、内蔵摘出及びはく皮を行った後、はく皮された枝肉の汚染部位などの切除を行い、使用水により体表を次亜塩素酸ナトリウムなどで十分に洗浄し、
『処理』の工程では、分割・脱骨・細切を行い、
『包装・保管』の工程では、包装し、表示ラベルを貼って冷蔵又は冷凍保存する処理施設。」
そして、上記(1)における検討を踏まえると、本件発明4は、甲1発明2及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明5について
上記(2)における検討を踏まえると、本件発明5は、甲1発明2、甲第2号証に記載された事項、甲第4号証に記載された事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明6について
上記(3)における検討を踏まえると、本件発明6は、甲1発明2、甲第4号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1及び周知の技術に基いて、本件発明2は、甲1発明1、甲第2号証に記載された事項、甲第4号証に記載された事項及び周知の技術に基いて、本件発明3は、甲1発明1、甲第4号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明4は、甲1発明2及び周知の技術に基いて、本件発明5は、甲1発明2、甲第2号証に記載された事項、甲第4号証に記載された事項及び周知の技術に基いて、本件発明6は、甲1発明2、甲第4号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1ないし本件発明6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-03-30 
出願番号 特願2017-140162(P2017-140162)
審決分類 P 1 651・ 121- Z (A22C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 松下 聡
平城 俊雅
登録日 2018-11-30 
登録番号 特許第6442571号(P6442571)
権利者 鈴木 耕一 斎藤 章
発明の名称 野生鳥獣肉製品の製造方法及び屋内製造施設  
代理人 青木 博昭  
代理人 青木 博昭  

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