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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12Q 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q |
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管理番号 | 1362616 |
審判番号 | 不服2019-2515 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-25 |
確定日 | 2020-05-19 |
事件の表示 | 特願2017-568468「癌細胞のハイスループットスクリーニングのためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日国際公開、WO2016/189525、平成30年 7月 5日国内公表、特表2018-517428〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)5月4日(パリ条約による優先権主張 2015年5月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、平成31年2月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。そして、同年3月19日にされた手続補正により、拒絶理由不服審判の請求の理由が補正された。 第2 平成31年2月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年2月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、請求人の付した補正箇所である。) 「 【請求項1】 大麻株の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法であって、下記の工程を含む方法: a.患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する; b.試験すべき少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物を用意する; c.患者のその生検由来の腫瘍細胞を、その少なくとも1つの大麻抽出物と接触させる;そして d.対照に対比して、抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年8月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「 【請求項1】 大麻株の抗腫瘍作用を同定するための個別化医療(PM)ベースのハイスループットスクリーニング(HTS)方法であって、下記の工程を含む方法: a.試験すべき少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物を用意する;そして b.患者の腫瘍生検由来の細胞をその少なくとも1つの大麻抽出物と接触させる; その際、その方法は対照に対比して抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する工程を含む。」 2 補正の適否 本件補正は、請求項1に関し以下の補正を含んでいる。 ア 補正前の「個別化医療(PM)ベースのハイスループットスクリーニング(HTS)方法」を、「ハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法」とする補正。 イ 補正前の「患者の腫瘍生検由来の細胞」を、「患者のその生検由来の腫瘍細胞」とする補正。 ウ 「大麻株の抗腫瘍作用を同定するための」「方法」が、「a.患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する」工程を含む旨の限定を付加し、それに伴い、補正前の「a.」及び「b.」を、それぞれ、「b.」及び「c.」とする補正。 エ 補正前の「その際、その方法は対照に対比して抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する工程を含む」を、「d.対照に対比して、抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する」とする補正。 これらア?エの補正は、ア、イ及びエが明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、ウが特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 そうすると、本件補正は特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいるから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1について (ア)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2010-531150号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審にて付した。以下同様。) (引1a)「【0060】 スクリーニング 本発明は、上記の単離細胞、又は上記の方法の1つにより得られる可能性のある細胞の、抗腫瘍化合物のスクリーニングのための使用に関する。 【0061】 ここで「抗腫瘍化合物」は、腫瘍の進行を回避及び/又は低速化できる任意の化合物と解される。特に、抗腫瘍化合物は、腫瘍細胞の死を、直接的又は間接的に、誘導又は促進する化合物である。より具体的には、本発明による抗腫瘍化合物が、インビボにおける腫瘍細胞を保護する細胞の死を、誘導又は促進させることができる。 【0062】 即ち、本発明は抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法に関し、ここで 上記の単離細胞、又は上記の方法の1つにより得られる可能性のある細胞は、スクリーニングする化合物を接触させ; スクリーニングする化合物と接触させる細胞の細胞増殖及び細胞死を決定し; スクリーニングする化合物と接触していない同じ細胞と比較して、当該化合物が接触した細胞の細胞増殖の減少又は細胞死の増加を誘導する化合物を選択する。」 (引1b)「【0068】 「細胞死」は、アポトーシス、壊死、又は細胞死を誘導するその他の任意のメカニズムと解される。好ましい実施態様によれば、アポトーシスにより細胞死を誘導する候補化合物の能力を決定する。当業者に周知の任意の技術は、細胞死を測定するために使用することができる。以下の技術は、例として挙げることができるが、限定する意図はない。アネキシンVでの標識、トリパンブルーの使用、ヨウ化プロピジウムの使用、TUNEL(トランスフェラーゼdUTPニックエンド標識)アッセイ、DNA分解の産物の評価付け、カスパーゼの測定(定量的評価付けと活性による評価)等がある。 【0069】 上記スクリーニング方法において、使用される腫瘍細胞は、任意の腫瘍細胞であってよい。このましい実施態様によれば、腫瘍細胞は、HL60(ヒト赤白血病系列)又はMDA-MB-231細胞(ヒト乳癌系列)又は、患者自身の細胞(例えば卵巣癌)である。 【0070】 スクリーニングされる化合物は、化学療法剤として既に確認されているか、開発又は特徴づけの過程であるかに関係なく、天然又は合成由来の任意の化合物があり得る。それは、複数の同定済み、又は未同定分子の混合物でもよく、例えば動物又は植物起源の抽出物でもよい。 【0071】 本発明による細胞は、一般的な抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける従来の方法を最適化するため、ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行う。 【0072】 さらに、本発明の細胞は、癌に罹患する各個体への最も適切な治療を提供するために、所与の個体のための抗腫瘍治療の候補化合物の有効性を試験するために使用してもよい。これに関して、候補化合物として1パネルの化学療法剤を、患者自身から採取した腫瘍細胞と共に、本発明の固定化細胞の存在下で試験することには利点がある。 【0073】 特定の実施態様によれば、スクリーニング試験で使用する固定化細胞は、患者自身から採取する。」 (イ)引用文献1に記載された発明 上記(ア)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「単離細胞、又は可能性のある細胞を、スクリーニングする化合物と接触させ; スクリーニングする化合物と接触させる細胞の細胞増殖及び細胞死を決定し; スクリーニングする化合物と接触していない同じ細胞と比較して、当該化合物が接触した細胞の細胞増殖の減少又は細胞死の増加を誘導する化合物を選択する 抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法において、 細胞死を測定するために、アネキシンVでの標識、トリパンブルーの使用、ヨウ化プロピジウムの使用、TUNEL(トランスフェラーゼdUTPニックエンド標識)アッセイ、DNA分解の産物の評価付け、カスパーゼの測定(定量的評価付けと活性による評価)等の技術を使用し、 スクリーニングされる化合物は、植物起源の抽出物であり、 抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける方法は、ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行い、 細胞は、癌に罹患する各個体への最も適切な治療を提供するために、所与の個体のための抗腫瘍治療の候補化合物の有効性を試験するために使用され、 候補化合物を、患者自身から採取した腫瘍細胞で試験する 抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法。」 イ 引用文献3について (ア)引用文献3に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2012-131803号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 (引3a)「【0011】 このような研究の領域のひとつは、癌細胞の生存力を阻害するために、カンナビノイドを使用することを包含する。カンナビノイドは、大麻植物の活性成分であり、これらは、多くの薬理学的特性を示すことが見出されている。 【0012】 例えば、米国特許出願US 2004/0039048(Guzman et al.)には、天然カンナビノイドまたは合成カンナビノイドの投与による脳腫瘍の処置が記載されている。この出願は、カンナビノイドに対する特異的レセプターの活性化が、形質転換細胞を選択的に死滅させることを主張している。 【0013】 最近、カンナビノイドCBDが、抗腫瘍特性を有することが示されている(Massi et al. J Pharmacol Exp Ther. 2004 Mar; 308 (3) : 838-45)。この論文によって記載される研究は、インビトロでのU87およびU373のヒト神経膠腫細胞株の使用と、ヌードマウスの皮下に移植されたインビボでのU87ヒト神経膠腫細胞の使用との両方に対する抗増殖効果を記載している。 【0014】 悪性神経膠腫は、高浸潤性で高増殖性の腫瘍であり、特徴的な増殖パターンをたどる。神経膠腫細胞は、隣接する正常な脳構造および周囲の広範な血管を侵す。 【0015】 カンナビノイドの使用が、腫瘍細胞の抗増殖に有用であることが明白である一方で、これらの腫瘍細胞が破壊される前の腫瘍細胞の移動に関連する重大な問題が依然として存在している。」 (イ)引用文献3に記載された技術事項 上記(ア)より、引用文献3の上記記載によれば、「大麻植物の活性成分であ」る「カンナビノイド」は、「癌細胞の生存力を阻害するため」に「使用すること」ができるものであって、「米国特許出願US 2004/0039048(Guzman et al.)」には、「天然カンナビノイドまたは合成カンナビノイドの投与によ」り、「カンナビノイドに対する特異的レセプターの活性化が、形質転換細胞を選択的に死滅させること」で「脳腫瘍の処置」されることが、また、「Massi et al. J Pharmacol Exp Ther. 2004 Mar; 308 (3) : 838-45」「の論文」には、「カンナビノイドCBD」が、「インビトロでのU87およびU373のヒト神経膠腫細胞株の使用と、ヌードマウスの皮下に移植されたインビボでのU87ヒト神経膠腫細胞の使用との両方に対する抗増殖効果」による「抗腫瘍特性を有すること」が記載されていることから、「カンナビノイドの使用が、腫瘍細胞の抗増殖に有用であることが明白である」ことが示されている。 これらのことから、引用文献3には、「大麻植物の活性成分であるカンナビノイドは、腫瘍細胞に対する抗増殖効果による抗腫瘍特性を有する」という技術事項(以下「技術事項3」という。)が示されているといえる。 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明は「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける方法」であって、「抗腫瘍治療に有効な候補化合物」は抗腫瘍作用を有するものであるから、本件補正発明の「抗腫瘍作用を同定するための」「方法」に相当する。そして、引用発明は「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」である「抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける方法は、ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行」うから、引用発明の「ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行」う「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、本件補正発明の「抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む」「方法」に相当する。 また、引用発明の「スクリーニングされる化合物」である「植物起源の抽出物」と、本件補正発明の「試験すべき少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物」とは、「試験すべき少なくとも1つの植物起源の抽出物」である点で共通する。 そして、引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「スクリーニングされる化合物」である「植物起源の抽出物」から、「抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける方法」であるから、引用発明の「スクリーニングされる化合物」である「植物起源の抽出物」から「ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行」う「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」と、本件補正発明の「大麻株の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む」「方法」とは、「植物起源の抽出物の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む方法」である点で共通する。 (イ)引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「癌に罹患する各個体への最も適切な治療を提供するために、所与の個体のための抗腫瘍治療の候補化合物の有効性を試験するために使用される」「細胞」を使用したものであるから、引用発明の「癌に罹患する各個体への最も適切な治療を提供するために、所与の個体のための抗腫瘍治療の候補化合物の有効性を試験するために使用される」「細胞」を使用した「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、本件補正発明の「個別化医療(PM)ベースの方法」に相当する。 そして、上記(ア)を踏まえると、引用発明と本件補正発明とは、「植物起源の抽出物の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法」である点で共通する。 (ウ)引用発明の「患者自身から採取した腫瘍細胞」は、本件補正発明の「患者の生検由来の」「腫瘍細胞試料」に相当する。そして、引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、この「患者自身から採取した腫瘍細胞で試験する」ことから、引用発明の「患者自身から採取した腫瘍細胞」を用意する工程を有していることは明らかである。そうすると引用発明の「患者自身から採取した腫瘍細胞」を用意する工程と、本件補正発明の「a.患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する」工程とは、「a.患者の生検由来の腫瘍細胞試料を用意する」工程で共通する。 (エ)引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「単離細胞、又は可能性のある細胞を、スクリーニングする化合物と接触させ」るものであるから、引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「スクリーニングする化合物」を用意する工程を含んでいる。そして、引用発明の「スクリーニングする化合物」は、「植物起源の抽出物」であって、上記(ア)で検討したとおり、本件補正発明の「試験すべき少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物」とは、「試験すべき少なくとも1つの植物起源の抽出物」である点で共通するから、引用発明の「スクリーニングする化合物」を用意する工程と、本件補正発明の「b.試験すべき少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物を用意する」工程とは、「b.試験すべき少なくとも1つの植物起源の抽出物を用意する」工程で共通する。 (オ)引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「単離細胞、又は可能性のある細胞を、スクリーニングする化合物と接触させ」る工程を含んでいるものであり、該「単離細胞、又は可能性のある細胞」は、「患者自身から採取した腫瘍細胞」であって、上記(ウ)で検討したとおり、本件補正発明の「患者の生検由来の」「腫瘍細胞試料」に相当し、該「スクリーニングする化合物」は、「植物起源の抽出物」であって、本件補正発明の「その少なくとも1つの大麻抽出物」とは、「その少なくとも1つの植物起源の抽出物」で共通する。 すると、引用発明の「単離細胞、又は可能性のある細胞を、スクリーニングする化合物と接触させ」る工程と、本件補正発明の「c.患者のその生検由来の腫瘍細胞を、その少なくとも1つの大麻抽出物と接触させる」工程とは、「c.患者のその生検由来の腫瘍細胞を、その少なくとも1つの植物起源の抽出物と接触させる」工程で共通する。 (カ)引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「スクリーニングする化合物と接触させる細胞の細胞増殖及び細胞死を決定し」、「スクリーニングする化合物と接触していない同じ細胞と比較して、当該化合物が接触した細胞の細胞増殖の減少又は細胞死の増加を誘導する化合物を選択する」工程を含んでおり、この工程の「スクリーニングする化合物と接触していない同じ細胞と比較」することは、本件補正発明の「d.対照に対比して、抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する」工程の、「対象と対比」することに相当する。そして、引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」における「細胞死の増加を誘導する化合物」の「選択」を、「アネキシンVでの標識、トリパンブルーの使用、ヨウ化プロピジウムの使用、TUNEL(トランスフェラーゼdUTPニックエンド標識)アッセイ、DNA分解の産物の評価付け、カスパーゼの測定(定量的評価付けと活性による評価)等の技術を使用し」て行っており、これらの技術は、「抗腫瘍化合物」である「細胞死の増加を誘導する化合物」の「選択」を、抗腫瘍作用の指標となる信号の検出により行っていることは明らかであるから、引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」は、「スクリーニングする化合物と接触させる細胞の細胞増殖及び細胞死を決定し」、「スクリーニングする化合物と接触していない同じ細胞と比較して、当該化合物が接触した細胞の細胞増殖の減少又は細胞死の増加を誘導する化合物を選択する」工程は、本件補正発明の「d.対照に対比して、抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する」工程に相当する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「植物起源の抽出物の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法であって、下記の工程を含む方法: a.患者の生検由来の腫瘍細胞試料を用意する; b.試験すべき少なくとも1つの植物起源の抽出物を用意する; c.患者のその生検由来の腫瘍細胞を、その少なくとも1つの植物起源の抽出物と接触させる;そして d.対照に対比して、抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する。」 (相違点1)植物起源の抽出物が、本件補正発明は、「少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物」であるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 (相違点2)本件補正発明は、患者の生検由来の「複数の」腫瘍細胞試料を含む「アレイ」を用意するのに対し、引用発明は、「患者自身から採取した腫瘍細胞」は用意するものの、患者の生検由来の「複数の」腫瘍細胞試料を含む「アレイ」を用意するとの特定はない点。 (4)判断 ア 相違点について 以下、相違点について検討する。 (ア) 相違点1について 技術事項3より、「大麻植物の活性成分であるカンナビノイドは、腫瘍細胞に対する抗増殖効果による抗腫瘍特性を有する」ものであって、引用発明の「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」の、「抗腫瘍化合物」の特性も、「当該化合物が接触した細胞の細胞増殖の減少又は細胞死の増加を誘導する」ものであるから、引用発明の「植物起源の抽出物であ」る「スクリーニングする化合物」として、技術事項3の「大麻植物の活性成分であるカンナビノイド」、すなわち、「少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物」を適用し、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。 (イ) 相違点2について ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)は、多くの種類の化合物を効率よくスクリーニングする方法であって、ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)において、スクリーニングするための「患者自身から採取した腫瘍細胞」を、「複数の」細胞試料を含む「アレイ」として用意することは、常套手段にすぎないから、上記相違点2は実質的な相違点とはならない。 イ 効果について 本件補正発明の効果は、引用文献1及び3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 ウ 小括 したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術事項3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 エ 請求人の主張について 平成31年3月19日にされた手続補正により補正された拒絶査定不服審判の請求の理由において請求人は、以下のように主張している。 「(c)引用文献の説明 引用文献1は、「腫瘍細胞を固定でき、且つCD10タンパク質を発現する単離細胞(「ホスピセル」)」に関する発明を記載しています(段落番号[0008])。 また、引用文献1は、腫瘍細胞の死を、直接的又は間接的に、誘導又は促進する「抗腫瘍化合物」のスクリーニングについて記載しています。より具体的には、抗腫瘍化合物は、インビボで腫瘍細胞を保護する細胞の死を、誘導又は促進させることができる化合物です(段落番号[0061])。 要約すれば、引用文献1は、腫瘍細胞を固定でき、CD10タンパク質を発現する細胞の死を誘導することができる(単一)化合物をスクリーニングするための、通常の非ハイスループットスクリーニング方法について記載しています。 ・・・ 引用文献3は、「腫瘍細胞の移動を阻害する際に使用するための医薬の製造において、大麻植物抽出物またはカンナビノイドを使用すること」に関するものです(段落番号[0001])。 引用文献3は、抗腫瘍作用がもっぱらカナビジオール(CBD)に起因すると考えられることを記載しています。 要約すれば、引用文献3は具体的に、細胞の移動の阻害におけるカナビノイド(好ましくはCBD)の使用について示しています。 (d)本願発明と引用発明との対比 本願は、大麻抽出物のがん細胞株に対する抗腫瘍作用を試験するためのハイスループットスクリーニング(HTS)について教示しています。これは、ロボットシステム及び追加の自動分析システムを含む自動システムです。本願は、引用文献1及び2に開示されるようなスクリーニング方法について教示するものではありません。 HTSの主要な利点及び特徴は、本願明細書の以下の段落に記載されています。 「ここで自動操作はHTS手法の重要な要素であることが認められる。一般に、1以上のロボットからなる統合ロボットシステムが、試料および試薬の添加、混合、インキュベーション、および最後に読出しまたは検出のために、アッセイ-マイクロプレートをステーションからステーションへ輸送する。HTSシステムは通常は多数の試料を同時に調製、インキュベーションおよび分析し、データ収集プロセスをさらに加速することができる。用語HTSがさらに1日当たり100,000を超える化合物をスクリーニングするuHTSまたはウルトラ-ハイスループットスクリーニングに関係することはさらに本発明の範囲内である。」(本願明細書段落番号[0083]) 「追加の方法またはHTS方法、たとえばHTS薬物探索のためのCeligoイメージングサイトメーターを用いる3D腫瘍スフェロイド分析法、オートメーションシステム、たとえば高貯蔵容量および高速アクセス用のアッセイプレート貯蔵のためのカルーセルシステム、ならびに他のいずれかのHTSシステムまたは手法を本発明に用いることはさらに本発明の範囲内である。」(本願明細書段落番号[0084]) 本願のHTSシステムによってin vitroで試験するために使用される細胞株の例は、以下の通りです(本願明細書段落番号[0172])。 ヒトがん細胞株: ・MDA-MB-231及びMCF-7乳癌細胞 ・U87MG及びU118MG神経膠芽細胞腫細胞 ・PC3前立腺癌細胞 ・HT29及びSW480結腸癌細胞 ・AGS胃腺癌細胞 MiaPaCa2膵臓癌細胞 ヒト非がん細胞株(対照): ・安定化した非腫瘍細胞株HDF(ヒト皮膚線維芽細胞) ・HaCat(ヒト角化細胞) 本発明のHTSシステムによって、大麻抽出物のがん細胞株に対する抗腫瘍作用をin vitroで試験しました。カンナビノイドは、腫瘍細胞の生存性低下を示し、さまざまながん細胞株にアポトーシス作用を引き起こします。 「カンナビノイド処理した癌細胞系および/または患者から得た腫瘍由来の細胞における細胞の壊死およびアポトーシスなどの生物学的プロセスについてのハイスクリーニング技術を用いて、好ましい天然カンナビノイドの組合せを本発明において同定する。」(本願明細書段落番号[0113]) 具体的な作用については、例えば以下の段落に記載されています。 「図5に示す結果は、種々の大麻抽出物がPC3前立腺癌細胞に及ぼす作用を明瞭に立証する。」(本願明細書段落番号[0181]) 「この結果から、大麻抽出物は癌細胞の生存性に対して有効な作用をもつことが分かる。この結果はさらに、種々のタイプの癌の細胞系に対する種々の被験大麻抽出物の特異性を立証する。」(本願明細書段落番号[0183]) 「種々の株が正常細胞に対しては作用することなく種々の癌細胞系に対して多様なアポトーシス作用を引き起こすことが示される。」(本願明細書段落番号[0185]) ・・・ 要約すれば、本願は、大麻株の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む個別医療(PM)ベースの方法を開示するものであり、以下の工程を含みます: a. 患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する; b. 試験すべき少なくとも1つの株の少なくとも1つの大麻抽出物を用意する; c. 患者のその生検由来の腫瘍細胞を、その少なくとも1つの大麻抽出物と接触させる;そして d. 対照に対比して、抗腫瘍作用の指標となる信号を検出する。 引用文献1は、本発明のような、患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程を含む、患者由来の腫瘍細胞に試験した場合に抗腫瘍作用を有する大麻抽出物のハイスループットスクリーニングについて開示していません。 ・・・ 引用文献3は、抗腫瘍作用がもっぱらカナビジオール(CBD)に起因すると考えられることを開示しています。しかしながら、本願では、種々のタイプのカンナビノイドが抗腫瘍作用を発揮することを開示しています。例えば以下の通りです。 「図5に示す結果は、種々の大麻抽出物がPC3前立腺癌細胞に及ぼす作用を明瞭に立証する」(本願明細書段落番号[0181]) 「種々の株が正常細胞に対しては作用することなく種々の癌細胞株に対して多様なアポトーシス作用を引き起こすことが示される」(本願明細書段落番号[0185])。 具体的には、引用文献3は、細胞の移動の阻害におけるカナビノイド(好ましくはCBD)の使用について示しています。 引用文献3は、個別医療方法に要求されるような、所定の特定の腫瘍に最も有効な大麻抽出物をスクリーニングすることについて開示していません。さらに、引用文献3は、本発明のような、患者由来の腫瘍細胞に対して試験した場合の大麻抽出物の抗腫瘍作用に関するハイスループットスクリーニングを含む方法であって、患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程を含む方法について何ら開示していません。 本発明と引用文献1?3の発明とを比較する表を以下に示します。 【表2】 このように、引用文献1?3のいずれも、単独でも組み合わせても、本発明のような、大麻株の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法であって、患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程を含む方法について開示していません。 以上より、当業者が引用文献1?3を組み合わせて参照しても、個々の患者に合わせて、種々の大麻抽出物から最適なもの及びそれらの比率を検索する本発明に容易に想到し得えるものではなく、進歩性を有する発明であると思料致します。」 上記主張において請求人は、「引用文献1は、腫瘍細胞を固定でき、CD10タンパク質を発現する細胞の死を誘導することができる(単一)化合物をスクリーニングするための、通常の非ハイスループットスクリーニング方法について記載してい」るものであって、「患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程を含む、患者由来の腫瘍細胞に試験した場合に抗腫瘍作用を有する大麻抽出物のハイスループットスクリーニングについて開示していない」旨主張しているが、上記(2)ア(ア)で摘記したとおり引用文献1の段落【0071】には、「本発明による細胞は、一般的な抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける従来の方法を最適化するため、ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行う。」と、「通常の非ハイスループットスクリーニング方法」では無く「ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)で行う」「抗腫瘍治療に有効な候補化合物を見つける」「方法」が記載され、また、「抗腫瘍治療に有効な候補化合物」が「抗腫瘍作用を有する大麻抽出物」である旨の記載はないものの、「スクリーニングされる化合物」である「抗腫瘍治療に有効な候補化合物」が、「植物起源の抽出物」である旨記載され、「スクリーニングする化合物と接触させ」る細胞が「患者自身から採取した腫瘍細胞」であって、「癌に罹患する各個体への最も適切な治療を提供するために、所与の個体のための抗腫瘍治療の候補化合物の有効性を試験するために使用される」「細胞」を使用した「抗腫瘍化合物のスクリーニングの方法」であることから、引用発明が、「植物起源の抽出物の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法」で、本件補正発明と共通することは、上記(3)ア(イ)で検討したとおりである。 また、上記主張において請求人は、「引用文献3は具体的に、細胞の移動の阻害におけるカナビノイド(好ましくはCBD)の使用について示して」いるものであって、「種々のタイプのカンナビノイドが抗腫瘍作用を発揮することを開示して」いない旨主張している。確かに、引用文献3の発明の詳細な説明に実施例として記載したものは、「細胞の移動の阻害におけるカナビノイド(好ましくはCBD)の使用について示して」いるものであるが、引用文献3の段落【0011】?【0015】の記載から、引用文献3には、「大麻植物の活性成分であるカンナビノイドは、腫瘍細胞に対する抗増殖効果による抗腫瘍特性を有する」という技術事項3が示されているといえることは、上記(2)イ(イ)で検討したとおりである。 そして、「ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)」が、多くの種類の化合物を効率よくスクリーニングする方法であることから、「ハイスループットスクリーニングプロトコル(HTS)」が「患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程」を含むことが常套手段であることも、上記ア(イ)で検討したとおりである。 そうすると、「大麻株の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法であって、患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程を含む方法」は、引用発明に技術事項3を適用することにより、当業者が容易に想到できるものであるといえるから、「引用文献1?3のいずれも、単独でも組み合わせても、本発明のような、大麻株の抗腫瘍作用を同定するためのハイスループットスクリーニング(HTS)を含む、個別化医療(PM)ベースの方法であって、患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する工程を含む方法について開示してい」ないという、上記請求人の主張は理由がない。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成31年2月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年8月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?54に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?54に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.特表2010-531150号公報 引用文献2.国際公開第2005/061707号 引用文献3.特開2012-131803号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 前記第2の[理由]2で検討したとおり、ア、イ及びエの補正事項は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるものの、実質的に技術的事項を変更するものでないことから、本願発明は、本件補正発明から、技術的に「大麻株の抗腫瘍作用を同定するための」「方法」が、「a.患者の生検由来の複数の腫瘍細胞試料を含むアレイを用意する」工程を含む旨の限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び技術事項3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-12-18 |
結審通知日 | 2019-12-19 |
審決日 | 2020-01-08 |
出願番号 | 特願2017-568468(P2017-568468) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12Q)
P 1 8・ 575- Z (C12Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
三崎 仁 福島 浩司 |
発明の名称 | 癌細胞のハイスループットスクリーニングのためのシステムおよび方法 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 寺地 拓己 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 宮前 徹 |