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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1362873
審判番号 不服2019-7551  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-06 
確定日 2020-06-01 
事件の表示 特願2017-563187号「複合色粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日国際公開、WO2016/200648号、平成30年7月5日国内公表、特表2018-517941号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年6月1日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2015年6月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年12月5日に手続補正書が提出され、平成30年10月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年4月4日付けで拒絶査定がなされ(送達 同年同月11日)、それに対して、令和元年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和元年6月6日になされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月6日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前(平成30年12月17日付け手続補正書により補正されたもの)の特許請求の範囲の請求項1につき、
「【請求項1】
複合色粒子であって:
a)白でなく、かつ黒でない少なくとも1つの色コア粒子;
b)少なくとも1つの高屈折率のコア粒子であって、該色コア粒子の該高屈折率のコア粒子に対する重量比が、約1:2?5:1であり、該高屈折率のコア粒子の屈折率が、1.5より大きい、少なくとも1つの高屈折率のコア粒子;
c)該色コア粒子および該高屈折率のコア粒子が完全または部分的に包埋されるシェル;および
d)該複合色粒子の表面上の立体安定化剤を含み、
該複合色粒子の屈折率が、1.5より大きい、
複合色粒子。」
とあったものを、
「【請求項1】
色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための複合色粒子であって:
a)白でなく、かつ黒でない少なくとも1つの色コア粒子;
b)少なくとも1つの高屈折率のコア粒子であって、該色コア粒子の該高屈折率のコア粒子に対する重量比が、約1:2?5:1であり、該高屈折率のコア粒子の屈折率が、1.5より大きい、少なくとも1つの高屈折率のコア粒子;
c)該色コア粒子および該高屈折率のコア粒子が完全または部分的に包埋されるシェル;および
d)該複合色粒子の表面上の立体安定化剤を含み、
該複合色粒子の屈折率が、1.5より大きい、
複合色粒子。」
に補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したものに基づいて当審が付したものであって、補正箇所を示すものである。補正後の請求項1を以下「本願補正発明」という。)。

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1において「複合色粒子」とあったものに対して、「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための」との限定を付加するものであり、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記「1」において、本件補正後の請求項1として記載したとおりの次のとおりものと認める(X、A?Fは、本願補正発明を分説するために当審で付した。)。
「【請求項1】
X 色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための複合色粒子であって:
A a)白でなく、かつ黒でない少なくとも1つの色コア粒子;
B b)少なくとも1つの高屈折率のコア粒子であって、該色コア粒子の該高屈折率のコア粒子に対する重量比が、約1:2?5:1であり、該高屈折率のコア粒子の屈折率が、1.5より大きい、少なくとも1つの高屈折率のコア粒子;
C c)該色コア粒子および該高屈折率のコア粒子が完全または部分的に包埋されるシェル;および
D d)該複合色粒子の表面上の立体安定化剤を含み、
E 該複合色粒子の屈折率が、1.5より大きい、
F 複合色粒子。」

(2)引用文献の記載
ア 原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である実願平1-107447号(実開平3-45530号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、下記の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「本考案の最も特徴とするところは分散粒子にある。すなわち、各々の分散粒子は、複数種類の顔料粒子と、これら複数種類の顔料粒子を同時に被覆する樹脂コートとからなる。顔料粒子としては、無機顔料粒子や有機顔料粒子を用いることができる。無機顔料粒子としては、TiO_(2)、ZrO_(2)、ZnO、Al_(2)O_(3)、BaSO_(4)、CdS、ZnS、CaCO_(3)等を用いることができる。有機顔料粒子としては、分散媒に不溶性のアゾ顔料、フタロシアニン等を用いることができる。樹脂コートとしては、分散媒に不溶性のアクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂等を採用することができる。この分散粒子は、複数種類の顔料粒子を所望の割合で混合した後に、樹脂コートで被覆することにより得ることができる。」(5頁13行?6頁8行)

(イ)「分散粒子5は、第2図に拡大模式断面図を示すように、白色の色彩をもつ二酸化チタン51、黒色の色彩をもつカーボンブラック52及び赤色の色彩をもつ酸化鉄53の3種類の無機顔料粒子と、これら3種類の無機顔料粒子を同時に被覆するアクリル樹脂コート54とからなる。この分散粒子5は3種類それぞれの色彩の中間色であるベージュ色を呈している。
封止部6は、エポキシ系の接着剤からなる。
この電気泳動表示素子は以下のようにして製作された。まず、二酸化チタン51(平均粒径0.1?0.5μm、ナカライテスク製)10?50gと、カーボンブラック52(平均粒径20μm、三菱化成製)10?50gと、酸化鉄53(平均粒径0.1μm、大日精化製)10?50gとを水100g中に分散させ、これをアクリル樹脂(ナカライテスク製)10?50gとともに高速撹はん機に入れ、混合液を冷却して水層を取除いた。これによりアクリル樹脂からなる樹脂コート54によって同時に被覆された3種類の無機顔料粒子51?53をもつ分散粒子5を得た。なお、こうして得られた分散粒子5の中には3種類の無機顔料粒子51?53をもたないものも存在するが、3種類の無機顔料粒子51?53をもつものが大量に存在している。」(8頁7行?9頁11行)

(ウ)「この電気泳動表示素子は、電圧の印加により、3種類の顔料粒子51、52、53が一体的に電気的に泳動して3種類それぞれの色彩の中間色であるベージュ色を鮮かに表示することができるものであった。また、この電気泳動表示素子は、各々の分散粒子5が樹脂コート54により同時に被覆された3種類の顔料粒子51、52、53をもつため、分散粒子5が分散媒4中に安定して分散されていた。」(10頁4?12行)

(エ)第2図は次のとおりである。


(オ)上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「a 赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子(上記(イ))、
y 黒色の色彩をもつカーボンブラック52(上記(イ))、
b 白色の色彩をもつ二酸化チタン51(上記(イ))、
c 無機顔料粒子を同時に被覆するアクリル樹脂コート54(上記(イ))、
e を含む、3種類それぞれの色彩の中間色であるベージュ色を鮮かに表示することができる電気泳動表示素子の分散粒子5(上記(ウ))。」

イ 原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である米国特許出願公開第2013/0175479号明細書(以下「引用文献2」という。)には、下記の事項が記載されている(仮訳は当審が作成した。)。
(ア)「FIELD OF THEINVENTION
[0002] The present invention is directed to the preparation of composite pigment particles that can be used to form an electrophoretic fluid and the resulting display fluid.」
(仮訳:技術分野
[0002] 本発明は、電気泳動流体を形成するために用いることができる複合顔料粒子の製造、および得られるディスプレイ流体に関する。)

(イ)「[0023] The first aspect of the present invention is directed to the composite pigment particles, as shown in FIGS.1a and 1b. The composite pigment particles are closely density matched to a solvent in which they are dispersed, especially in a hydrocarbon solvent.
[0024] The composite pigment particles(10) may have one or more core pigment particles (11). The core particle(s)(11) is/are coated with a shell(12). There are steric stabilizer molecules(13) on the surface of the composite pigment particles.」
(仮訳:[0023] 本発明の第1局面は、図1aおよび1bにおいて示される通り、複合顔料粒子に関する。複合顔料粒子は、分散される溶媒、特に炭化水素溶媒と厳密に一致した密度であり得る。
[0024] 複合顔料粒子(10)は、一以上のコア顔料粒子(11)を有し得る。コア粒子(11)はシェル(12)で被覆される。立体安定剤分子(13)が複合顔料粒子の表面上に存在する。)

(ウ)「[0036] The steric stabilizer(13) in FIG. 1 is usually formed of high molecular weight polymers, such as polyethylene, polypropylene, polyester, polysiloxane or a mixture thereof. The steric stabilizer facilitates and stabilizes the dispersion of the composite pigment particles in a solvent.」
(仮訳:[0036] 図1における立体安定剤(13)は通常、高分子量ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリシロキサンまたはその混合物等から形成される。立体安定化剤は、溶媒中の複合顔料粒子の分散を促進し安定化する。)

(エ)Figure 1は次のとおりである。


(オ)上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「電気泳動流体を形成するために用いる一以上のコア顔料粒子を有し、コア粒子はシェルで被覆される複合顔料粒子において、溶媒中の複合顔料粒子の分散を促進し安定化するために、複合顔料粒子は、立体安定剤分子が複合顔料粒子の表面上に存在する点。」

(3)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)赤色は、白でなくかつ黒でないから、引用発明の「赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子」(構成a)は、本件補正発明の「白でなく、かつ黒でない1つの色コア粒子」(構成A)に相当する。

(イ)本件補正発明でいう「高屈折率」がどの程度の屈折率を意味するか曖昧であるが、本願明細書の段落【0009】には、「高屈折率のコア粒子は、TiO_(2)、ZrO_(2)、ZnO、Al_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)、BaSO_(4)、またはPbSO_(4)等から形成され得る。このタイプのコア粒子は、通常、白または白に近い。このような粒子は、代表的には、1.5より高い屈折率を有し、そして100nm?500nmの範囲のサイズを有し得る。」と記載されているから、屈折率1.5より高いTiO_(2)は「高屈折率」のコア粒子といえる。
そして、引用発明の「二酸化チタン」は、「TiO_(2)」であって、屈折率は一般に1.5より高いことは本願優先日当時の技術常識であるから、引用発明の「白色の色彩をもつ二酸化チタン51」(構成b)は、本件補正発明の「少なくとも1つの高屈折率のコア粒子であって、該色コア粒子の該高屈折率のコア粒子に対する重量比が、約1:2?5:1であり、該高屈折率のコア粒子の屈折率が、1.5より大きい、少なくとも1つの高屈折率のコア粒子」(構成B)と、「少なくとも1つの高屈折率のコア粒子であって、該高屈折率のコア粒子の屈折率が、1.5より大きい、少なくとも1つの高屈折率のコア粒子」である点(以下「構成B´」という。)で一致する。

(ウ)引用発明の「無機顔料粒子を同時に被覆するアクリル樹脂コート54」(構成c)は、本件補正発明の「該色コア粒子および該高屈折率のコア粒子が完全に包埋されるシェル」(構成C)に相当する。

(エ)引用発明の「3種類それぞれの色彩の中間色であるベージュ色を鮮かに表示することができる電気泳動表示素子の分散粒子5」(構成f)は、本件補正発明の「複合色粒子」(構成F)に相当するとともに、本件補正発明の「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための複合色粒子」(構成X)と「複合色粒子」である点(以下「構成X」という。)で一致する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)によれば、本願補正発明と引用発明は、
「X´ 複合色粒子であって:
A a)白でなく、かつ黒でない少なくとも1つの色コア粒子;
B´ b)少なくとも1つの高屈折率のコア粒子であって、該高屈折率のコア粒子の屈折率が、1.5より大きい、少なくとも1つの高屈折率のコア粒子;
C c)該色コア粒子および該高屈折率のコア粒子が完全に包埋されるシェル;および
F 複合色粒子。」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1>
複合色粒子が、本願補正発明は、「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための」ものと特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

<相違点2>
本願補正発明は、「色コア粒子の高屈折率のコア粒子に対する重量比が、約1:2?5:1であ」ると特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

<相違点3>
本願補正発明は、「複合色粒子の表面上の立体安定化剤を含」むと特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

<相違点4>
本願補正発明は、「複合色粒子の屈折率が、1.5より大きい」と特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
本願補正発明の「複合色粒子」は、「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための」ものであると特定するところ、当該特定は、「複合色粒子」をこのような用途で「ディスプレイデバイス」に用いるという用途を限定するものであると解される。
そして、引用発明の「分散粒子」も、「ディスプレイデバイス」に用いられているといえ、「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための」ものであるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明における「赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子」の「白色の色彩をもつ二酸化チタン51」に対する重量比は特定されないが、引用文献1には、「電気泳動表示素子は以下のようにして製作された。まず、二酸化チタン51(平均粒径0.1?0.5μm、ナカライテスク製)10?50gと、カーボンブラック52(平均粒径20μm、三菱化成製)10?50gと、酸化鉄53(平均粒径0.1μm、大日精化製)10?50gとを水100g中に分散させ、これをアクリル樹脂(ナカライテスク製)10?50gとともに高速撹はん機に入れ、混合液を冷却して水層を取除いた。これによりアクリル樹脂からなる樹脂コート54によって同時に被覆された3種類の無機顔料粒子51?53をもつ分散粒子5を得た。」(上記「(2)」「ア」「(イ)」)と記載されているから、「赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子」の「白色の色彩をもつ二酸化チタン51」に対する重量比は、それぞれ「10?50g」と「10?50g」の範囲(1:5?5:1)の重量比であると解される。
そして、「赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子」の「白色の色彩をもつ二酸化チタン51」の重量比は、得たい色調等に応じて、当業者が適宜最適化・好適化するのが通常であるといえるから、引用発明において、「赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子」の「白色の色彩をもつ二酸化チタン51」に対する重量比を「10?50g」と「10?50g」の範囲(1:5?5:1)のうちの更に「10?50g」と「20?50g」の範囲(1:2?5:1)となし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成と成すことは当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)上記相違点3について検討する。
電気泳動表示素子の分散粒子の表面に立体安定化剤を付加すると、溶媒中の複合顔料粒子の分散を促進し安定化することは、引用文献2に「電気泳動流体を形成するために用いる一以上のコア顔料粒子を有し、コア粒子はシェルで被覆される複合顔料粒子において、溶媒中の複合顔料粒子の分散を促進し安定化するために、複合顔料粒子は、立体安定剤分子が複合顔料粒子の表面上に存在する点。」引用文献2に記載された事項)と記載されている通り、本願優先日当時に公知の技術的手段であって、溶媒中の複合顔料粒子の分散を促進し安定化することは、電気泳動表示素子の分散粒子5である引用発明においても当然に考慮すべき課題であるから、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して、上記相違点3に係る本願補正発明の構成と成すことは当業者が容易に想到し得たことである。

(エ)上記相違点4について検討する。
引用発明の「分散粒子5」は「赤色の色彩をもつ酸化鉄53の無機顔料粒子」、「黒色の色彩をもつカーボンブラック52」、「白色の色彩をもつ二酸化チタン51」、「アクリル樹脂コート54」からなるところ、屈折率がそれぞれ「3.01」、「2.0」、「2.5」及び「1.49」であることは本願優先日当時の技術常識である。
ここで、異なる屈折率の粒子、シェルの集合体である「複合色粒子」の屈折率が「1.5より大きい」とはどのようなことを意味するのかは必ずしも明確であるとは言えないが、これら屈折率が「1.49」以上の素材から構成される引用発明の「分散粒子5」の全体の屈折率が1.5より大きいことは明らかであるといえるし、また、そこまでは言えないとしても、「複合色粒子の屈折率が、1.5より大き」くすることは、当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。

したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。

(オ)以上(ア)及び(エ)の検討によれば、本願補正発明は、引用発明、引用文献1の記載及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 請求人の主張
(ア)審判請求人は、審判請求書の「【本願発明が特許されるべき理由】」、「2.2 特許法第29条第2項に関する拒絶について」において以下のとおり主張する。
「請求項1において、『色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための複合色粒子』と規定しました。
本願明細書の実施例(段落[0058]?[0063])に示されるように、本願発明の複合色粒子は、特定の色輝度および/または色飽和の改善に対して有意な効果を示します。
本願発明は、引用文献1および2の構成を単独でも組み合わせても包含しません。具体的には、本願発明は、黒色コア粒子を使用しません(代わりに、白でなく、かつ黒でない色コア粒子を使用しています)。引用文献1は、色粒子のうちとりわけ、黒色を有するカーボンブラックを使用しています(引用文献1の実施例(8頁)、図2)。
引用文献1および2は、ディスプレイデバイスの色輝度および色飽和を改善するための粒子の使用および効果について全く述べていません。引用文献1は、1つの粒子中に異なる色含量を混合することによって中間色の表示を改善するように設計することに関しています。引用文献2は、粒子分散を容易にし、粒子分散を安定化させ、凝集を避けるための、顔料粒子の表面上の立体安定化剤を教示するのみです(引用文献2の段落[0008]、[0009]および[0037])。当業者は、引用文献1および2を単独でも組み合わせても本願の特定の用途の発明に到達することはできません。本願発明は、引用文献に対して進歩性を有しています。」

(イ)しかしながら、請求項1において、「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための複合色粒子」と規定し、「複合色粒子は、特定の色輝度および/または色飽和の改善に対して有意な効果を示」すのに対して、「引用文献1および2は、ディスプレイデバイスの色輝度および色飽和を改善するための粒子の使用および効果について全く述べてい」ない点については、上記「イ」「(ア)」で検討したとおりである。

(ウ)また、本願発明は「黒色コア粒子を使用し」、「引用文献1は、色粒子のうちとりわけ、黒色を有するカーボンブラックを使用し」、「1つの粒子中に異なる色含量を混合することによって中間色の表示を改善するように設計」している点については、本願補正発明が、「・・・複合色粒子であって:a)白でなく、かつ黒でない少なくとも1つの色コア粒子;b)・・・高屈折率のコア粒子;c)・・・シェル;およびd)・・・立体安定化剤を含み」と記載されていて、「黒い少なくとも1つの色コア粒子」を含まないことを特定せず、逆に「・・・を含み」と特定していて、上記a)、b)、c)及びd)以外に何かを含んでいてよいと特定していて、「白でなく、かつ黒でない少なくとも1つの色コア粒子」以外に、「黒い少なくとも1つの色コア粒子」を含む引用発明を排除するものではないと認められる。

(エ)したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(4)小括
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献1の記載及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本件補正発明に対応する本件補正前の発明は、平成30年12月17日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1に係る発明であるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]「1 補正の内容」において、本件補正前のものとして記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1及び2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含む。
なお、引用文献1及び2は、上記第2における引用文献1及び2とそれぞれ同じである。

3 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶理由で引用された、引用文献1及び2、及び、その記載事項は、前記「第2」[理由]「2」「(2)」「ア」及び「イ」のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2」[理由]「2」で検討した本願補正発明から、「色輝度および色飽和を含むディスプレイデバイスの光学的性能を改善するための」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」[理由]「2」に記載したとおり、引用発明、引用文献1の記載及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を省いた本願発明も引用発明、引用文献1の記載及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1の記載及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-01-07 
結審通知日 2020-01-08 
審決日 2020-01-21 
出願番号 特願2017-563187(P2017-563187)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 洋允  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
松川 直樹
発明の名称 複合色粒子  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 山本 健策  

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