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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B60R 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R |
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管理番号 | 1362877 |
審判番号 | 不服2019-3718 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-19 |
確定日 | 2020-06-03 |
事件の表示 | 特願2017-539056号「ウェアラブル電子デバイスに車両の機能の制御を移譲するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 8日国際公開、WO2016/194290、平成30年 4月19日国内公表、特表2018-510802号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年4月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年5月29日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成30年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年7月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月22日付けで拒絶査定がされ、平成31年3月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成31年3月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年3月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成31年3月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。 (1)補正前の請求項1 「【請求項1】 車両コントローラにより実行される車両機能を制御する権能をウェアラブル電子デバイスに移譲する方法であって、 前記ウェアラブル電子デバイスをスマートデバイスまたは車両に搭載された車両コントローラの少なくとも1つにワイヤレスでペアリングすること、 前記ウェアラブル電子デバイスの着用者が前記ウェアラブル電子デバイスを使用して車両の機能を制御することができるように、前記スマートデバイスまたは前記車両コントローラのうちの少なくとも1つを使用して、前記ウェアラブル電子デバイスに車両機能を制御する権能を移譲すること、及び、 前記ウェアラブル電子デバイスを使用するユーザによって生ぜられたコマンドに基づいて、車両機能を操作すること、を含む方法。」 (2)補正後の請求項1 「【請求項1】 車両コントローラにより実行される車両機能を制御する権能をウェアラブル電子デバイスに移譲する方法であって、 前記ウェアラブル電子デバイスをスマートデバイスまたは車両に搭載された車両コントローラの少なくとも1つにワイヤレスでペアリングすること、 前記ウェアラブル電子デバイスの着用者が前記ウェアラブル電子デバイスを使用して車両の機能を制御することができるように、前記スマートデバイスまたは前記車両コントローラのうちの少なくとも1つを使用して、前記ウェアラブル電子デバイスに車両機能を制御する権能を移譲すること、及び、 前記車両機能を操作するためのコマンドに該当する、前記ウェアラブル電子デバイスの着用者であるユーザによる前記ウェアラブル電子デバイスの操作に応じて、前記車両機能が制御されること、を含む方法。」 2 補正の適否 2-1 補正の目的 本件補正に係る請求項1の補正は、補正前の請求項1に記載された「前記ウェアラブル電子デバイスを使用するユーザによって生ぜられたコマンドに基づいて、車両機能を操作すること」との事項を、「前記車両機能を操作するためのコマンドに該当する、前記ウェアラブル電子デバイスの着用者であるユーザによる前記ウェアラブル電子デバイスの操作に応じて、前記車両機能が制御されること」との事項に補正するものであり、「車両機能を操作する」ことに関連し、「ウェアラブル電子デバイス」、「ユーザ」及び「コマンド」の関係についての限定を付すものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。 2-2 独立特許要件 (1)引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の優先日前に頒布された特開2015-89808号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。 (1a)「【請求項1】 車内コンピューティングシステムのための方法であって、 ウェアラブルデバイスから入力を受信することと、 前記受信された入力に基づいて1つ以上の車両設定を自動的に調整することと、を含む、方法。」 (1b)「【0001】 本開示は、車内コンピューティングシステムと、様々な携帯およびウェアラブルデバイスからの入力に基づく、それに関連する車両制御とに関するものである。 ・・・ 【0019】 車内コンピューティングシステム109はまた、ユーザによって操作されるものの車両102の外部に位置する追加のデバイス、例えば1つ以上のウェアラブルデバイス150などに通信可能に結合され得る。描写された実施形態では、ウェアラブルデバイス150は車両102の外側に位置するが、代替の実施形態では、ウェアラブルデバイスは車室100の内側に位置しても良いことが理解される。図2に詳述されるように、ウェアラブルデバイスは、携帯用電子デバイス、電子リストバンド、電子ヘッドバンド、携帯用音楽プレーヤ、電子活動追跡デバイス、歩数計、スマートウォッチ、GPSシステム等を含み得る。ウェアラブルデバイス150は、通信リンク130を参照にして記述したように、有線または無線であり得る通信リンク136を介して車内コンピューティングシステムに接続され得、ウェアラブルデバイスと車内コンピューティングシステムとの間に二方向通信を提供するように構成され得る。例えば、ウェアラブルデバイス150は1つ以上のセンサを含み得、通信リンク136は、ウェアラブルデバイス150から車内コンピューティングシステム109およびタッチスクリーン108にセンサ出力を伝送し得る。ウェアラブルデバイス150から受信された入力は、ユーザの物理的状況、取り囲むもの等の様々な様相を示し得る。車内コンピューティングシステム109は、例えばユーザが車両の外側にいる間などにウェアラブルデバイス150から受信された入力を解析し得、ユーザの状態(例えば、状況、潜在的な好み等)を評価し得、評価に基づいて様々な車内システム(例えば環境制御システムまたはオーディオシステムなど)についての設定を選択し得る。 ・・・ 【0033】 車内コンピューティングシステム300は、オペレーティングシステムプロセッサ314およびインターフェースプロセッサ320を含む1つ以上のプロセッサを含み得る。オペレーティングシステムプロセッサ314は、車内コンピューティングシステム上でオペレーティングシステムを実行し得、車内コンピューティングシステムの入出力、表示、再生、および他の操作を制御し得る。インターフェースプロセッサ320は、車両間システム通信モジュール322を介して車両制御システム330とインターフェースを取り得る。 ・・・ 【0041】 車両制御システム330は、異なる車内機能に関与する様々な車両システム331の様相を制御するための制御装置を含み得る。これらは、例えば、オーディオ娯楽を車両乗員に提供するための車両オーディオシステム332の様相、車両乗員の車室冷却または暖房のニーズをかなえるための環境制御システム334の様相、ならびに車両乗員が他との電気通信リンクを確立することを可能にするための電気通信システム336の様相の制御を含み得る。 ・・・ 【0046】 車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、例えばウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得る。これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にする。 ・・・ 【0049】 図4は、携帯デバイスおよび/またはウェアラブルデバイスから受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システムを制御するために車内コンピューティングシステムを操作する方法400のフローチャートである。例えば、方法400は、図2のウェアラブルデバイス206?210および携帯デバイス204からの入力に基づいて図3の車内コンピューティングシステム300によって行われ得る。 【0050】 方法400は、402で、ウェアラブルデバイスからの入力を受信することを含む。具体的には、入力は、1つ以上のウェアラブルデバイスから車内コンピューティングシステムで受信され得る。ウェアラブルデバイスは、ユーザが身に付け得、例えば心拍数センサ、温度センサ、発汗レベルセンサ、歩数計などの1つ以上のウェアラブルセンサを含み得る。ウェアラブルデバイスからの入力を受信することは、ウェアラブルデバイスとのユーザのやりとりに基づいてウェアラブルデバイスの様々なウェアラブルセンサからセンサ信号を受信することを含む。一例では、403で、ここで、ウェアラブルデバイスが通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステムに通信可能に結合されている場合、ウェアラブルデバイスから入力を受信することは、ウェアラブルデバイスから入力を直接的に受信することを含む。別の例では、404で、ここで、ウェアラブルデバイスは、(例えば、通信リンクまたはネットワークを介して)携帯デバイスに通信可能に結合され、次いで、携帯デバイスは、通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステムに通信可能である場合、ウェアラブルデバイスから入力を受信することは、携帯デバイスを介してウェアラブルデバイスから入力を間接的に受信することを含む。 【0051】 406で、方法は、ユーザ状態を推測するために車内コンピューティングシステムでセンサ信号を処理することを含む。ウェアラブルデバイスから受信された入力は、限定されるものではないが、ユーザの物理的状況407、ユーザの認知的負荷408、ユーザの物理活動レベル、ユーザのメディアの好み409、およびユーザの環境410を含むユーザの状態の様々な様相を示し得る。ユーザの物理的状況に関する入力は、例えば、(ウェアラブルデバイスの心拍数または脈拍数センサからの)ユーザの心拍数または脈拍数、(発汗レベルセンサからの)ユーザの発汗レベル、(温度センサからの)体温等に関する入力を含み得る。ユーザの物理活動レベルは、ユーザが走っているか、ジョギングしているか、歩いているか、または疾走しているかどうかについての(例えば歩数計などからの)入力を含み得る。ユーザの認知的負荷に関する入力は、(例えば、心拍数センサ、血圧センサ、血糖センサ等からの出力の組み合わせに基づく)ユーザのストレスレベルを示す入力を含み得る。ユーザ環境に関する入力は、ユーザの地理的位置、その位置における現在のおよび予測される天候、周囲の温度および湿度状況、周囲のノイズレベル等に関する入力を含み得る。 ・・・ 【0053】 418で、方法は、選択された設定を対象の車両システムに適用するために車内コンピューティングシステムから1つ以上の車両システムに制御命令を自動的に伝送することを含む。例えば、ウェアラブルデバイスからの入力がユーザの高い物理活動レベルを示す場合、車内コンピューティングシステムは、ユーザが、空気調節を望む可能性が高いことを推測し得る。それ故、ユーザからの入力を要求すること無く、車内コンピューティングシステムは、車室冷却を増やすために、あるいは車室のユーザの区分への冷却された空気の流れを増やすために、車室環境制御設定を自動的に調整し得る。従って、通気口についての設定、および空気調節は、決定され得、環境制御システムに伝送され得る。 【0054】 このようにして、412?418で、車内コンピューティングシステムは、ウェアラブルデバイスおよび/または携帯デバイスから検知された情報を受信することによって、また、ユーザからいくつかの任意の種類のユーザコマンドを受信する前に検知された情報を使用することによって、設定車両設定を自動的に調整する。これは、例えばユーザがボタン、またはタッチスクリーン等を押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、ならびにウェアラブルデバイスまたは携帯デバイスを介して、例えばユーザが携帯デバイスのボタンを押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、音声コマンドを携帯デバイスから車内コンピューティングシステムに提供すること等を含む。 (1c)引用文献1には、以下の図が示されている。 以上のとおり、引用文献1(摘示(1a)?(1c))には、「車内コンピューティングシステムと、様々な携帯およびウェアラブルデバイスからの入力に基づく、それに関連する車両制御とに関する」技術について開示されているところ(【0001】)、その特許請求の範囲の請求項1には、「車内コンピューティングシステムのための方法」として摘示(1a)のとおり記載されている。 また、摘示(1b)によれば、上記「車内コンピューティングシステムのための方法」の実施の態様について、以下の事項が認定できる。 a 車内コンピューティングシステム300は、オペレーティングシステムプロセッサ314およびインターフェースプロセッサ320を含む1つ以上のプロセッサを含み得、 インターフェースプロセッサ320は、車両間システム通信モジュール322を介して車両制御システム330とインターフェースを取り得ること(【0033】) b 車両制御システム330は、異なる車内機能に関与する様々な車両システム331の様相を制御するための制御装置を含み得るものであり、これらは、車両乗員の車室冷却または暖房のニーズをかなえるための環境制御システム334の様相の制御を含み得ること(【0041】) c 車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得るものであり、これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にするものであること(【0046】) d 携帯デバイスおよび/またはウェアラブルデバイスから受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システムを制御するために車内コンピューティングシステムを操作すること(【0049】) e ウェアラブルデバイスが通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステムに通信可能に結合されている場合、ウェアラブルデバイスから入力を受信することは、ウェアラブルデバイスから入力を直接的に受信することを含むこと(【0050】) f ウェアラブルデバイスからの入力がユーザの高い物理活動レベルを示す場合、車内コンピューティングシステムは、ユーザが、空気調節を望む可能性が高いことを推測し得ることで、ユーザからの入力を要求すること無く、車内コンピューティングシステムは、車室冷却を増やすために、あるいは車室のユーザの区分への冷却された空気の流れを増やすために、車室環境制御設定を自動的に調整し得るものであること(【0053】) g 車内コンピューティングシステムは、ウェアラブルデバイスおよび/または携帯デバイスから検知された情報を受信することによって、また、ユーザからいくつかの任意の種類のユーザコマンドを受信する前に検知された情報を使用することによって、設定車両設定を自動的に調整し、これは、ユーザがボタン、またはタッチスクリーン等を押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、ならびにウェアラブルデバイスまたは携帯デバイスを介して、例えばユーザが携帯デバイスのボタンを押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、音声コマンドを携帯デバイスから車内コンピューティングシステムに提供することを含むこと(【0054】) 以上によれば、引用文献1には、 「車内コンピューティングシステム300のための方法であって、 ウェアラブルデバイス346から入力を受信することと、 前記受信された入力に基づいて1つ以上の車両設定を自動的に調整することと、を含み、 車内コンピューティングシステム300は、オペレーティングシステムプロセッサ314およびインターフェースプロセッサ320を含む1つ以上のプロセッサを含み得、 インターフェースプロセッサ320は、車両間システム通信モジュール322を介して車両制御システム330とインターフェースを取り得、 車両制御システム330は、異なる車内機能に関与する様々な車両システム331の様相を制御するための制御装置を含み得るものであり、これらは、車両乗員の車室冷却または暖房のニーズをかなえるための環境制御システム334の様相の制御を含み得、 車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得るものであり、これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にするものであり、 携帯デバイス342および/またはウェアラブルデバイス346から受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システム331を制御するために車内コンピューティングシステム300を操作し、 ウェアラブルデバイス346が通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステム300に通信可能に結合されている場合、ウェアラブルデバイス346から入力を受信することは、ウェアラブルデバイス346から入力を直接的に受信することを含み、 ウェアラブルデバイス346からの入力がユーザの高い物理活動レベルを示す場合、車内コンピューティングシステム300は、ユーザが、空気調節を望む可能性が高いことを推測し得ることで、ユーザからの入力を要求すること無く、車内コンピューティングシステム300は、車室冷却を増やすために、あるいは車室のユーザの区分への冷却された空気の流れを増やすために、車室環境制御設定を自動的に調整し得るものであり、 車内コンピューティングシステム300は、ウェアラブルデバイス346スおよび/または携帯デバイス342から検知された情報を受信することによって、また、ユーザからいくつかの任意の種類のユーザコマンドを受信する前に検知された情報を使用することによって、設定車両設定を自動的に調整し、これは、ユーザがボタン、またはタッチスクリーン等を押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、ならびにウェアラブルデバイス346または携帯デバイス342を介して、ユーザが携帯デバイス342のボタンを押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、音声コマンドを携帯デバイス342から車内コンピューティングシステム300に提供することを含む、方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「車内コンピューティングシステム300」は、「オペレーティングシステムプロセッサ314およびインターフェースプロセッサ320を含む1つ以上のプロセッサを含み得」るものであって、車両に搭載されることも明らかであるから、本願補正発明の「車両コントローラ」及び「車両に搭載された車両コントローラ」に相当する。 イ 引用発明の「ウェアラブルデバイス346」は、引用文献1に「携帯用電子デバイス、電子リストバンド、電子ヘッドバンド、携帯用音楽プレーヤ、電子活動追跡デバイス、歩数計、スマートウォッチ、GPSシステム等を含み得る。」(【0019】)と記載されているとおり、「電子デバイス」として位置付け得るものであるから、本願補正発明の「ウェアラブル電子デバイス」に相当する。 ウ 引用発明は、「ウェアラブルデバイス346が通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステム300に通信可能に結合されている場合、ウェアラブルデバイス346から入力を受信することは、ウェアラブルデバイス346から入力を直接的に受信することを含」むものである。 ここで、引用文献1には、「ウェアラブルデバイス150は、・・・有線または無線であり得る通信リンク136を介して車内コンピューティングシステムに接続され得、ウェアラブルデバイスと車内コンピューティングシステムとの間に二方向通信を提供するように構成され得る。」(【0019】)と記載されているから、引用発明における上記「通信リンク」が「無線」による通信リンクを含むことは技術的に明らかである。また、そのような「通信リンク」により「ウェアラブルデバイス346」と「車内コンピューティングシステム300」とを「通信可能に結合」するためには、それらをワイヤレスでペアリングすべきことも技術的に明らかである。 したがって、引用発明の「ウェアラブルデバイス346が通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステム300に通信可能に結合され」ることは、上記ア、イをも踏まえると、本願補正発明の「前記ウェアラブル電子デバイスをスマートデバイスまたは車両に搭載された車両コントローラの少なくとも1つにワイヤレスでペアリングすること」に相当する。 エ 引用発明の「異なる車内機能に関与する様々な車両システム331の様相」、「車両乗員の車室冷却または暖房のニーズをかなえるための環境制御システム334の様相」、及び「車両システム331および車両制御装置361の様相」は、車両を構成している各要素が有する「車両の機能」あるいは「車両機能」ということもできる。 また、引用発明は、「車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得るものであり、これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にするもの」であり、「携帯デバイス342および/またはウェアラブルデバイス346から受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システム331を制御するために車内コンピューティングシステム300を操作」するものであって、これらの構成により、少なくともウェアラブルデバイス346の着用するユーザが、ウェアラブルデバイス346を使用して車両の機能を制御することができるように構成されていることは明らかであるから、かかる構成と、本願補正発明の「前記ウェアラブル電子デバイスの着用者が前記ウェアラブル電子デバイスを使用して車両の機能を制御することができるように、前記スマートデバイスまたは前記車両コントローラのうちの少なくとも1つを使用して、前記ウェアラブル電子デバイスに車両機能を制御する権能を移譲する」という構成とは、「ウェアラブル電子デバイスの着用者が前記ウェアラブル電子デバイスを使用して車両の機能を制御することができるように」した、という構成の限度で共通するものといえる。 オ 引用発明の「車内コンピューティングシステム300のための方法」と本願補正発明の「車両コントローラにより実行される車両機能を制御する権能をウェアラブル電子デバイスに移譲する方法」とは、「方法」の限度で共通する。 以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、 「ウェアラブル電子デバイスをスマートデバイスまたは車両に搭載された車両コントローラの少なくとも1つにワイヤレスでペアリングすること、 前記ウェアラブル電子デバイスの着用者が前記ウェアラブル電子デバイスを使用して車両の機能を制御することができるようにした、方法。」の点で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点> 本願補正発明は、「方法」が、「車両コントローラにより実行される車両機能を制御する権能をウェアラブル電子デバイスに移譲する方法」というものであって、「前記スマートデバイスまたは前記車両コントローラのうちの少なくとも1つを使用して、前記ウェアラブル電子デバイスに車両機能を制御する権能を移譲すること、及び、前記車両機能を操作するためのコマンドに該当する、前記ウェアラブル電子デバイスの着用者であるユーザによる前記ウェアラブル電子デバイスの操作に応じて、前記車両機能が制御されること、を含む」ものであるのに対し、 引用発明は、「方法」が、「車内コンピューティングシステム300のための方法」というものであって、「車両制御システム330は、異なる車内機能に関与する様々な車両システム331の様相を制御するための制御装置を含み得るものであり、これらは、車両乗員の車室冷却または暖房のニーズをかなえるための環境制御システム334の様相の制御を含み得、車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得るものであり、これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にするものであり、携帯デバイス342および/またはウェアラブルデバイス346から受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システム331を制御するために車内コンピューティングシステム300を操作」するものである点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 ア (ア)引用発明は、「車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得るものであり、これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にするもの」であるところ、上記「車両システム331および車両制御装置361の様相」を、「ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342など」「外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にする」ためには、上記「ウェアラブルデバイス346」に、少なくとも「車両システム331および車両制御装置361の様相」といった車両機能を制御するための権能が移譲されていることは技術的に明らかである。 (イ)さらに、引用発明は、「携帯デバイス342および/またはウェアラブルデバイス346から受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システム331を制御するために車内コンピューティングシステム300を操作」するものであって、「ウェアラブルデバイス346が通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステム300に通信可能に結合されている場合、ウェアラブルデバイス346から入力を受信することは、ウェアラブルデバイス346から入力を直接的に受信することを含み」構成されるものであるから、上記(ア)で述べた「車両システム331および車両制御装置361の様相」といった車両機能を制御するための権能の委譲は、「車内コンピューティングシステム300」を使用して行われ得ることも明らかである。 (ウ)そして、引用発明は、「ウェアラブルデバイス346からの入力がユーザの高い物理活動レベルを示す場合、車内コンピューティングシステム300は、ユーザが、空気調節を望む可能性が高いことを推測し得ることで、ユーザからの入力を要求すること無く、車内コンピューティングシステム300は、車室冷却を増やすために、あるいは車室のユーザの区分への冷却された空気の流れを増やすために、車室環境制御設定を自動的に調整し得るものであ」りつつも、「車内コンピューティングシステム300は、ウェアラブルデバイス346スおよび/または携帯デバイス342から検知された情報を受信することによって、また、ユーザからいくつかの任意の種類のユーザコマンドを受信する前に検知された情報を使用することによって、設定車両設定を自動的に調整し、これは、ユーザがボタン、またはタッチスクリーン等を押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、ならびにウェアラブルデバイス346または携帯デバイス342を介して、ユーザが携帯デバイス342のボタンを押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、音声コマンドを携帯デバイス342から車内コンピューティングシステム300に提供することを含む」ことから、上記「ウェアラブルデバイス346または携帯デバイス342を介して、ユーザが携帯デバイス342のボタンを押すことなどを介して」、車両機能を制御するためのコマンドが、「車内コンピューティングシステム300に提供」されることも明らかである。 (エ)したがって、引用発明の「車両システム331」の制御に係る構成は、上記相違点に係る本願補正発明の「前記スマートデバイスまたは前記車両コントローラのうちの少なくとも1つを使用して、前記ウェアラブル電子デバイスに車両機能を制御する権能を移譲すること、及び、前記車両機能を操作するためのコマンドに該当する、前記ウェアラブル電子デバイスの着用者であるユーザによる前記ウェアラブル電子デバイスの操作に応じて、前記車両機能が制御されること、を含む」と解釈することもできるとともに、引用発明の「車内コンピューティングシステム300のための方法」は、「車両コントローラにより実行される車両機能を制御する権能をウェアラブル電子デバイスに移譲する方法」ということもできるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。 (オ)よって、本願補正発明は、引用発明と同一であるといえる。 イ また、仮に上記相違点が実質的な相違点であるとしても、 (ア)引用発明において、上記「車両システム331および車両制御装置361の様相」を、「ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342など」「外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にする」ために、上記「ウェアラブルデバイス346」に、少なくとも「車両システム331および車両制御装置361の様相」といった車両機能を制御するための権能を移譲する必要があることは、当業者が技術常識として認識するものというべきであり、さらに、引用発明は、「携帯デバイス342および/またはウェアラブルデバイス346から受信されたユーザ入力に基づいて1つ以上の車両システムを制御するために車内コンピューティングシステム300を操作し、ウェアラブルデバイス346が通信リンクまたはネットワークを介して車内コンピューティングシステム300に通信可能に結合されている場合、ウェアラブルデバイス346から入力を受信することは、ウェアラブルデバイス346から入力を直接的に受信することを含み」構成されていることから、上記ウェアラブルデバイス346に車両機能を制御する権能を移譲するに際し、車内コンピューティングシステム300を使用することに格別の困難性は認められない。 (イ)また、引用発明は、「車内コンピューティングシステム300から制御命令を受信することに加えて、車両制御システム330はまた、ウェアラブルデバイス346および携帯デバイス342などから、ユーザによって操作される1つ以上の外部のデバイス340からの入力を受信し得るものであり、これは、車両システム331および車両制御装置361の様相が、外部のデバイス340から受信されたユーザ入力に基づいて制御されることを可能にするものであり」、「車内コンピューティングシステム300」は、「ウェアラブルデバイス346または携帯デバイス342を介して、ユーザが携帯デバイス342のボタンを押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、音声コマンドを携帯デバイス342から車内コンピューティングシステム300に提供することを含む」ことから、上記「ウェアラブルデバイス346」に設けられた「ボタン」を押すことで車両機能を制御すること、要するに、車両機能を操作するためのコマンドに該当する、ウェアラブルデバイス346の着用者であるユーザによるウェアラブルデバイス346の操作に応じて車両機能が制御されることも、当業者には想定の範囲というべきである。 (ウ)したがって、仮に、上記相違点が実質的な相違点であるとしても、上記相違点に係る本願補正発明の構成は、引用発明に基いて当業者が容易になし得たものといえる。 (エ)そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。 ウ ところで、請求人は、平成31年3月19日付けの審判請求書(「3.(4)」の項)で、「引用文献1の発明のウェアラブルデバイスは、ユーザが選ぶ見込みがあるか好むであろう設定を推測するための情報としてのユーザデータを、車内コンピューティングシステムに提供するものにすぎません。換言すれば、ウェアラブルデバイスに対するユーザの操作が、車両機能を操作するためのコマンドに該当し、そのコマンド(ユーザの操作)に応じて、車両機能が制御されることなど、引用文献1には一切記載されていません。」と主張するので、以下検討する。 引用発明は、「ウェアラブルデバイス346からの入力がユーザの高い物理活動レベルを示す場合、車内コンピューティングシステム300は、ユーザが、空気調節を望む可能性が高いことを推測し得ることで、ユーザからの入力を要求すること無く、車内コンピューティングシステム300は、車室冷却を増やすために、あるいは車室のユーザの区分への冷却された空気の流れを増やすために、車室環境制御設定を自動的に調整し得るものであ」るから、請求人が主張するとおり、ウェアラブルデバイス346は、ユーザが選ぶ見込みがあるか好むであろう設定を推測するための情報としてのユーザデータを、車内コンピューティングシステムに提供するものでもある。 しかし、引用発明は、そのような推測するための情報を提供することに加え、上記ア、イで述べたとおり、ウェアラブルデバイス346のボタンを押すことで、車両機能を制御するためのコマンドを、車内コンピューティングシステム300に提供していることも明らかであるか、あるいは想定の範囲というべきである。 要するに、引用文献1には、「車内コンピューティングシステムは、ウェアラブルデバイスおよび/または携帯デバイスから検知された情報を受信することによって、また、ユーザからいくつかの任意の種類のユーザコマンドを受信する前に検知された情報を使用することによって、設定車両設定を自動的に調整する。これは、例えばユーザがボタン、またはタッチスクリーン等を押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、ならびにウェアラブルデバイスまたは携帯デバイスを介して、例えばユーザが携帯デバイスのボタンを押すことなどを介して、車内コンピューティングシステムでユーザからコマンドを受信する前に、音声コマンドを携帯デバイスから車内コンピューティングシステムに提供すること等を含む。」(【0054】)と記載されており、ウェアラブルデバイス346のボタンを押すことにより車両機能を制御し得ることも記載ないし示唆されているといえる。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 エ まとめ 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年7月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。 (1)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2015-89808号公報 3 引用文献 補正前の請求項1について、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及びその記載事項等は、上記「第2 2 2-2(1)」に記載したとおりである。 4 当審の判断 本願発明は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものであり、本件補正発明から、上記「第2 2 2-1」で述べた「車両機能を操作する」ことに関連する限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2 2-2(3)」で述べたとおり、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明に基いて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-01-06 |
結審通知日 | 2020-01-07 |
審決日 | 2020-01-20 |
出願番号 | 特願2017-539056(P2017-539056) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(B60R)
P 1 8・ 121- Z (B60R) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮地 将斗、佐々木 智洋 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
出口 昌哉 氏原 康宏 |
発明の名称 | ウェアラブル電子デバイスに車両の機能の制御を移譲するシステム及び方法 |
代理人 | 矢作 和行 |
代理人 | 久保 貴則 |
代理人 | 野々部 泰平 |
代理人 | 矢作 和行 |
代理人 | 野々部 泰平 |
代理人 | 久保 貴則 |