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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P |
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管理番号 | 1362932 |
審判番号 | 不服2018-14312 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-29 |
確定日 | 2020-06-05 |
事件の表示 | 特願2015-531460「1-ケストースを得る方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日国際公開、WO2014/044230、平成27年10月15日国内公表、特表2015-530089〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年9月18日(パリ条約による優先権主張 平成24年9月18日 キューバ)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月26日付けで拒絶査定がなされ、同年10月29日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和1年7月30日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年11月22日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は、令和1年11月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたものであり、そのうち請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。 「 【請求項5】 オニウシノケグサ(Festuca arundinacea)から単離されてゲノムに組込まれた1-SSTコード遺伝子の6?9のコピーを構成的に発現する、糖非分解性酵母の発酵を行なう、1-SSTを生産する方法であって、 前記ゲノムの発現が、GAPプロモーターによる転写制御下にあり、 グルコース及び/又はスクロースが酵母増殖に使用される炭素源として添加される、方法。」 第3 当審の拒絶理由 令和1年7月30日付けで当審が通知した拒絶理由は、この出願の請求項1?14に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記1?10の文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 (引用例) 1.Plant Physiology, 2000, vol.124, no.3,p.1217-1227 2.生物工学会誌,2011年,第89巻、第10号,p.570-583 3.Mol.Biol.Rep., 2009, vol.36, p.1611-1619 4.Appl Biochem Biotechnol, Epub 14 Jan 2012, vol.166, p.1355-1367 5.北海道大学,2009,「テンサイα-glucosidaseの基質特異性の改変」 田上貴祥, URL,https://www.agr.hokudai.ac.jp/gs/master/2009/res.html 6.2002年度日本農芸化学会の大会講演要旨集,200頁「3-6Ap04」 7.特表2003-526365号公報 8.特開2001-245697号公報 9.特開2009-240161号公報 10.特表2010-527239号公報 第4 当審の判断 1.引用例の記載事項 引用例1?10には以下の記載がある。なお、英文の引用例は翻訳を記載する。また、下線は当審で付したものである。 (1)引用例1 ア 「フルクタン合成に関与するイネ科植物の酵素は、例えば葉の成長ゾーンでの分配と配分の同化に大きな役割を果たすため、興味深い。トールフェスク( Festuca arundinacea )からのいくつかのフルクトシルトランスフェラーゼが以前に精製されている(L¨scherand Nelson、1995)(審決注: 「¨」は、uウムラウトである。)。 驚くべきことに、これらの酵素製剤のすべてが、スクロース(Suc):Suc 1-フルクトシルトランスフェラーゼ(1-SST)およびフルクタン:フルクタン6^(G)-フルクトシルトランスフェラーゼの両方として作用するように見えた。ここでは、フルクトシルトランスフェラーゼ調製物の1つの主要タンパク質に対応するcDNAのクローニング、タバコプロトプラストでの一時的な発現、およびメチロトローフ酵母であるピキア パストリスでの機能解析を報告する。cDNAがタバコプロトプラストで一時的に発現されると、対応する酵素調製物はSucから1-ケストースを生成し、cDNAが1-SSTをコードすることを示した。cDNAがP.パストリスで発現されたとき、組換えタンパク質は、既知の1-SSTのすべての特性、すなわち1-ケストース産生、中程度のニストース産生、6-ケストース産生の欠如、および1-ケストースを基質としてのフルクタンエキソヒドロラーゼ活性を有していた。物理的性質は、フルクタン:フルクタン6 G-フルクトシルトランスフェラーゼ活性の明らかな欠如を除いて、以前に精製された酵素のものと類似していた。 対応するmRNAの発現パターンは、成長している葉の異なるゾーンで研究され、転写レベルが1-SST活性とフルクタン含有量と一致することが示された。」(1217頁、要約) イ 「P.パストリスによって生成される酵素の特性評価 トールフェスク由来の成熟1-SSTタンパク質をコードするcDNAを、詳細な活性化特性のためにP.パストリスで発現させた。48時間のメタノール誘導後のすべての形質転換コロニーの濃縮上清には、非常に強い1-SST活性が含まれていた(データは示さず)。濃縮された培地は、12%(w / v)ゲル上のSDS-PAGEで分析され、クーマシーブリリアントブルーで染色された(図6 )。単一のバンドが82 kDに見出され、これはコントロール(空のプラスミドで形質転換されたP.パストリスの濃縮培地)では生じなかった。」(1221頁左欄8行?右欄6行) ウ 「Pichia pastorisでの1-SST cDNAの発現 トールフェスクからの成熟1-SSTをコードするcDNAを、詳細な活性化特性のためにP.パストリスで発現させた。成熟タンパク質をコードする配列は、オープンリーディングフレームの開始から数えて、コドン106から655(ヌクレオチド318-1,965)まで伸びています。 この成熟タンパク質の1-SST cDNAをPCRで作成し、発現ベクターpPICZαCに連結した。 cDNAは、ベクターpPICZαCに含まれるSaccharomycescerevisiaeα因子のN末端シグナル配列の後ろにインフレームで連結され、分泌経路への侵入を可能にした。分泌中、α因子配列は新しいタンパク質から切断される( Clare et al。、1991 )。 シャトルベクターへのcDNAの挿入およびP.パストリスの形質転換は、記載されているように行った( Hochstrasser et al。、1998 )。手短に言えば、1-SST cDNAは、成熟タンパク質のN末端をコードするフォワードプライマー(P1)と3 '末端をコードするリバースプライマー(P2)を用いたPCRによって増幅された。 プライマーは、5 '末端にEco RI部位を導入し、3'末端にNot I部位を導入するように設計された。得られた生成物は、発現ベクターのα因子シグナル配列(NL、Leek、Invitrogen bvのEasySelect Pichia発現キット)の後ろのフレームに連結して、プラスミドpF1を得た。 P.パストリス X-33株を3μgのPme Iで線形化したpF1で形質転換し、選択的YPDS /ゼオシンプレートに播種しました。 活性スクリーニングのために、形質転換体の単一コロニーを新鮮なYPDS/ゼオシンプレートに接種した。新しく成長したコロニーのいくつかは液体培養で接種され、メタノールで誘導された。48時間後、培地の上清を限外ろ過により50 mLから800μLに濃縮し、100 mM MES(NaOH)バッファー(pH 5.75)に脱塩した。 異なる形質転換体の濃縮培地を1-SST活性について試験した。 最大量の1-SSTを産生する形質転換体は、さらなる分析のために保持された。」(1225頁左欄10行?右欄17行) (2)引用例2 「 ピキア酵母異種タンパク質発現系 最近数多くの新たな発現ベクターと宿主が開発されているが,ここではおもに発現例に使用した初期型のベクターと宿主を使用した発現系について述べる.初期型発現ベクターの一般的な構造はFig. 1に示した.ここに示される5’AOX1には,目的タンパク質のメタノール誘導高発現に必須であるAOX1遺伝子のプロモーターが含まれる.HIS4遺伝子は,この遺伝子を欠損した宿主を形質転換した後,組換え体を選択する際のマーカー遺伝子となる. 代表的な発現ベクターと宿主ピキア酵母をTable 1およびTable 2に示した^(6)).これまで発現プロモーターとして使用してきたメタノールによって厳密に制御されるAOX1プロモーターのほかに,構成的に発現するGAPプロモーターなどを用いた発現ベクターも作製されている.また,後に述べるように選択マーカー遺伝子としてkan(カナマイシン耐性遺伝子),またはble(ブレオマイシン耐性遺伝子)を含む発現ベクターを用いることによって,転写プロモーターから転写ターミネーターまでを含む「発現カセット」を多コピー含む組換え体を選択することができる.宿主については,最もよく使用されてきた宿主GS115のほかにも,プロテアーゼ欠損株SMD1168が使用できる. 目的タンパク質cDNAが発現ベクターの適切な位置に挿入された「発現プラスミド」を,宿主細胞へ移入するために電気穿孔法やスフェロプラスト法を使用する.この発現系では,発現プラスミドが宿主染色体DNAに挿入されること,または転写プロモーターから転写ターミネーターまでの発現カセットを含むDNA断片が,宿主染色体DNAの一部と置換されることにより,それぞれ染色体DNAの一部として固定され,安定した目的タンパク質の発現を実現している^(6)).発現プラスミドの染色体DNAへの挿入のされ方の一例を示す模式図をFig. 2に示した. 目的タンパク質cDNAの塩基配列中にSacI,またはSalIの認識配列が存在しない場合,発現ベクターに目的タンパク質cDNAを挿入した発現プラスミドをSacI,またはSalIにより切断すると,1ケ所が切断されて直線化され(Fig. 1),それぞれ染色体DNAのAOX1またはHIS4遺伝子への挿入が生じやすい.一方,目的タンパク質cDNAの塩基配列中にBglII,またはNotIの認識配列が存在しない場合,発現プラスミドのBglII,またはNotIによる切断では,発現カセットを含むDNA断片の切り出しが行われ(Fig. 1),染色体DNAのAOX1遺伝子との置換が生じやすい. 発現カセットが多重に組み込まれ,発現量が増加すると期待される組換え体を確実に得るためには,カナマイシン耐性遺伝子やブレオマイシン耐性遺伝子が適切な位置に挿入された発現ベクターを使用し,より高い抗生物質耐性を示す組換え体を選択する.たとえばカナマイシン耐性遺伝子を持つpPIC9Kなどを使用して作製した組換え体について,タンパク質合成阻害剤であるG418(別名ジェネティシン)による選択をした場合,G418濃度0.5 mg/mlでは,1?2コピー,および4 mg/mlでは7?12コピーの発現カセットがカナマイシン耐性遺伝子と連動して組換え体に組み込まれていると見積もられる^(26)). ピキア酵母異種タンパク質発現系の概要や,組換え体の作製については書籍,総説,論文およびInvitrogenCorporationのマニュアルなどに詳しい記載がある^(5,6,27-32)).」(571頁右欄下から10行?572頁右欄末行) (3)引用例3 ア 「ピキア パストリスのGAPプロモーター由来発現システムの最近の進歩」(タイトル) イ 「要約 ピキア パストリスは、異種タンパク質の発現と分泌の効率的な宿主であり、P.パストリスの最も重要な特徴は、アルコールオキシダーゼI(AOX1)遺伝子からの強力で厳密に調節されたプロモーターの存在である。 AOX1プロモーター(pAOX1)は、外来遺伝子を発現し、P.パストリスでさまざまな組換えタンパク質を生産するために使用されている。ただし、メタノールの使用を回避するために、pAOX1の新しい代替プロモーターを開発するためのいくつかの努力がなされている。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(pGAP)は、多くの異種タンパク質の構成的発現に使用されている。 pGAPベースの発現システムは、大量のメタノールの保管と配送に伴う危険とコストが排除されるため、大規模生産により適してる。このレビューでは、この発現システムのいくつかの重要な開発と機能を要約する。」(1611頁、要約) ウ 「P.パストリスのpGAPおよびその他の発現系の炭素源 pAOX1、pAOX2、pFLD1、pEPEX8、pYPT1、pDHAS、pICL1、pTEF、pGAPなどのP.パストリス発現系のプロモーターのほとんどは、外来遺伝子発現の炭素源によって制御されており[5、6、9、11、12 13、14、28、29、30]、そしてpFLD1などそれらの一部は、窒素源によっても制御される可能性がある [9]。 ・・・・ 誘導性プロモーターと比較して、構成的発現システムを備えたP.パストリスにおける異種遺伝子発現のためにより多くの炭素源が利用可能である。グルコース、グリセロール、オレイン酸およびメタノールは、pGAP発現システムの唯一の炭素源として報告されている[15]。どれが発現に最適かについてはまだ議論があるが、Waterhamと私たちの研究結果は、メタノールを唯一の炭素源として使用した場合に最も少ない製品が得られること[15、35]、グルコースとグリセロールはこの発現システムに適していることを示した[15、35]。グルコースを含む最小培地で増殖した細胞における腎ペプチド輸送体(rPEPT2)の最大輸送活性は、グリセロールおよびメタノールを含む培地で増殖した細胞よりも約2倍および8倍高かった[25]。 P.パストリスにおける外来遺伝子のpGAP誘導発現の炭素源として一般にグルコースまたはグリセロールが使用されるが、通常は振盪フラスコ培養でグルコースが使用され[21、36、37]、グリセロールは大規模な発酵槽での外来タンパク質の生産において唯一の炭素源として使用される[17、35]。」(1614頁左欄1行(左欄下から5行)?右欄15行) (4)引用例4 ア 「GAPをプロモーターとして使用したピキア パストリスにおけるヤロウィアリポリティカリパーゼLIP2の構成的発現」(タイトル) イ 「要約 ヤロウィアリポリティカリパーゼLIP2(YlLIP2)をコードする遺伝子を構成的発現ベクターpGAPZαAにクローニングし、ピキア パストリスX-33株に電気形質転換した。高コピーおよび酵素活性スクリーニングにより得られた高収量クローンを、振盪フラスコおよび発酵槽培養の宿主株として選択した。結果は、グルコースがYlLIP2生産に最適な炭素源であり、組換えYlLIP2の最大加水分解活性が、28℃、pH 7.0、48時間のフラスコ培養下で1,315 U / mlに達することを示した。流加発酵は、高細胞密度とYlLIP2収量を達成するために成長培地にグルコースを連続的に供給することにより、3リットルおよび10リットルのバイオリアクターで実施された。YlLIP2の最大加水分解活性と3-lバイオリアクターで得られた細胞密度は、それぞれ10,300 U / mlと116 g乾燥細胞重量(DCW)/lであった。 YlLIP2のピーク加水分解活性と細胞密度は、それぞれ達成された値が13,500 U/mlおよび120 g DCW/lである10-l発酵槽でさらに改善された。上清の総タンパク質濃度は3.3 g/lに達し、80時間の培養後も細胞生存率は約99%のままであった。さらに、P.パストリスpGAPおよびpAOX1システムで生産された組換えYlLIP2には、同様の糖含量(約12%)と生化学的特性がある。上記の結果は、P.パストリスのGAPプロモーター由来発現システムが、高細胞密度培養によるYlLIP2の発現に効果的であり、おそらく工業用リパーゼの大規模生産における従来のAOX1プロモーター発現システムに代わるものであることを示唆する。」(1355頁、要約) (5)引用例5 「(方法と結果) メタノール資化性酵母であるPichia pastorisを用いた発現システムによりテンサイα-glucosidaseの組換え酵素生産条件を検討した。メタノールにより発現誘導されるAOX1プロモーターを用いた組換え酵素生産では高菌体濃度で170時間の誘導培養が必要であった。一方、恒常的に発現するGAPプロモーターを用いた組換え酵素生産では培養時間を80時間に短縮できた。」(8?12行) (6)引用例6 ア 「スギ花粉症アレルゲンCryj Iの酵母Pchia pastorisでの発現」(タイトル) イ 「【結果】AOX promoter を用いて糖代謝にともなう発現誘導を試みたが、Cryj Iの発現は観られなかった。そこで、GAP promoterを用いて糖代謝にともなう発現誘導によりCryj Iを発現分泌させた。その後陽イオン交換カラムCMトヨパールにてCryj I蛋白質を回収した。」(9?12行) (7)引用例7 「【0026】 実施例1 P.パストリスでヒトインターフェロンアルファ遺伝子のクローニング段階を概要する図1を参照するに、ヒトインターフェロンアルファ遺伝子は増幅(好ましくはPCRによって)され、EcoRIで切断される。AOX1プロモーターを含有するプラスミドpHIL-D2は、EcoRIでの切断によって線形化される。インターフェロンアルファ遺伝子は、切断されたpHIL-D2にライゲーションされる。E.コリ細胞はpHIL-D2-IFNプラスミドと形質転換される。E.コリ形質転換体は、IFNアルファ遺伝子がpHIL-D2プラスミドに存在するAOX1プロモーターに関して正確な配位である組換え体においてスクリーニングされる。P.パストリスは、NotIで切断されたpHIL-D2プラスミドで形質転換される。これは、相同性組換え体により酵母のゲノムにIFN遺伝子が統合される結果となる。組換え体は、最低限の培地で成長する組換え体の能力によって選択される。組換え体は、ヒトアルファインターフェロンの細胞内発現においてスクリーニングされる。インターフェロンアルファを発現するP.パストリスは最小限の培地の発酵器で成長され、pH5.0、28乃至30℃、500乃至1200rpmを2日間、48時間のメタノールで誘発される。」 (8)引用例8 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 コピー数既知の標的遺伝子DNA断片を含む標準サンプルの連続希釈系列をPCR増幅し、各PCR産物量が指数関数的に増加するPCRサイクル数(n)におけるPCR産物量から検量線を作成し、この検量線から、サイクル数(n)でPCR増幅した標的遺伝子DNAの発現量をそのコピー数として定量することを特徴とする遺伝子発現定量法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】この出願の発明は、遺伝子発現定量方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、目的とする遺伝子の発現量を、その遺伝子mRNA量の絶対値として数値化することのできる方法に関するものである。」 (9)引用例9 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 L-アミノ酸生産能を有し、かつmdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が増大するように改変された腸内細菌科に属する細菌を培地で培養して、L-アミノ酸を該培地中に生成蓄積させ、該培地よりL-アミノ酸を採取する、L-アミノ酸の製造法。 ・・・・ 【請求項6】 mdtE遺伝子およびmdtF遺伝子の発現量が、各々の遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって増大した、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。 (10)引用例10 「【背景技術】 【0002】 現在、細菌宿主、特に大腸菌(Escherichiacoli)における組換えタンパク質の製造には、主としてプラスミドベースの発現系が用いられている。これらの系は遺伝子量が多く、樹立されており、利用可能なクローニングプロトコルは扱いやすいため、広く受け入れられるようになった。 【0003】 プラスミドベースの発現は、1細胞当たり最大数百までのプラスミドコピー数を特徴とする(Baneyx、1999年)。発現プラスミドは、通例、プロモーターの制御下に有る目的遺伝子、複製起点(ori)およびプラスミド含有クローンの選択のためのマーカー遺伝子を有する。加えて、しばしば、前記プラスミド(すなわちベクター)上にコード配列または非コード配列または非機能性バックボーン配列が存在する。プラスミドの存在および対応するその複製機構により、宿主細胞の代謝は改変され(Diaz-RizziおよびHernandez、2000年)、その細胞に高い代謝負荷が課され、それによって組換えタンパク質製造のためのそれらの資源が限定を受ける。加えて、遺伝子量の多さと強力なプロモーターの組み合わせの適用は、組換えタンパク質の製造速度の増大を引き起こすが、宿主細胞にとってこの速度は通例高すぎるため、急速で不可逆的な細胞代謝の崩壊をもたらす恐れがある。その結果として、宿主細胞の潜在能力は、プラスミドベースの系では十分に活用できず、その結果として組換えタンパク質の収量は低くなり、品質は低下する。このように、プラスミドベースの発現系の主な欠点の1つは、プラスミドの複製および維持に必要な栄養素およびエネルギーの必要量の増加にあるとすることができる。 【0004】 プラスミドベースの系における他の典型的な現象には、培養過程におけるプラスミドコピー数の変化がある。組換えタンパク質製造には、高い発現率で、チャージされていないtRNAのプールの増加をもたらす飢餓および細胞ストレスが付随する。このことは、プラスミドコピー数(PCN)の制御機構との抵触をもたらす。その結果として、PCNは急速に増加し、培養プロセスの崩壊(いわゆる“暴走(run-away)効果”)を引き起こす。組換え遺伝子発現の誘導後のColE1型プラスミドの暴走現象は、遺伝子量の顕著な増加をもたらしうる(Grabherrら、2002年)。 【0005】 分離不安定性(すなわち無プラスミド宿主細胞の生成)および構造不安定性(すなわちプラスミドの配列における変異)は、プラスミドベースの系においてしばしば見られるさらなる問題である。細胞分裂の間に、細胞はプラスミドを失う場合があり、その結果として目的遺伝子も失う場合がある。このようなプラスミド喪失は、いくつかの外部要因に依存し、細胞分裂回数(世代数)と共に増加する。このことは、プラスミドベースの発酵が、世代数または細胞倍加数に関して限定を受けていることを意味する(Summers、1991年)。 【0006】 すべてを考慮に入れれば、プラスミドベースの発現系のこれらの特性により、組換えタンパク質の収量は限定され、プロセス操作の制御性およびプロセスの経済性は低い。それにもかかわらず、より効率的な代替法を欠くため、プラスミドベースの細菌発現系は、工業規模の異種組換えタンパク質の製造および単離のための最新技術となった。 【0007】 従って、プラスミドベースの発現に代わるものとして、ゲノムベースの発現系が探求されてきた。大腸菌(E. coli)内で染色体により発現される異種タンパク質の、公知で広く利用されている例には、T7ファージのRNAポリメラーゼがあり、これはプラスミドベースの目的遺伝子のプラスミドベースの転写の目的に役立つ。米国特許第4,952,496号に初め て記載されたこの系は部位非特異的組み込みに基づいており、得られた細菌株(例えば大腸菌株BL21(DE3)またはHMS174(DE3))は溶原菌となっている。望ましくないファージ放出に続いて起こりうる細胞溶解を防ぐために、ファージ溶原菌を生じることなくT7ポリメラーゼ遺伝子が染色体に組み込まれた(すなわちT7ポリメラーゼ遺伝子が相同組換えにより挿入された)(WO2003/050240)。同様に、組換えタンパク質のプラスミドベースの発現の目的で、最近、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)のゲノムへのT7 RNAポリメラーゼ遺伝子の組み込みが記載された(米国特許第2006/0003404号)。 【0008】 タンパク質発現研究、配列挿入(例えば制限部位、部位特異的組換え酵素標的部位、タンパク質タグ、機能性遺伝子、プロモーターの)、欠失および置換のために、λファージのRed組換え酵素機能(Murphy、1998年)またはRacプロファージのRecE/RecT組換え酵素機能(Zhangら、1998年)により組換えが仲介される、核酸配列のゲノム組み込みのための他の方法が提案されている(Muyrersら、2000年)。」 2.引用発明 上記1.(1)より、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「トールフェスク( Festucaarundinacea )由来の成熟1-SST(スクロース:スクロース1-フルクトース転移酵素)タンパク質をコードするcDNAを含むベクターを用いてピキア パストリスを形質転換し、形質転換されたピキア パストリスを液体培養する、組換え1-SSTを製造する方法。」 3.対比 本願発明と引用発明を対比する。 本願発明は「糖非分解性酵母」としてピキア パストリスを含む(本願の請求項6、明細書の段落【0019】)から、引用発明の「ピキア パストリス」は、本願発明の「糖非分解性酵母」に相当する。 そして、引用発明の「成熟1-SST(スクロース:スクロース1-フルクトース転移酵素)タンパク質をコードするcDNA」は、本願発明の「1-SSTコード遺伝子」に相当し、両者はいずれもピキア パストリス(糖非分解性酵母)を宿主細胞として1-SST遺伝子を導入し、ピキア パストリス(糖非分解性酵母)の発酵(培養)を行い、1-SST遺伝子を発現させることに関する発明であるといえる。 そうすると、引用発明の「トールフェスク( Festucaarundinacea )由来の成熟1-SST(スクロース:スクロース1-フルクトース転移酵素)タンパク質をコードするcDNAを含むベクターを用いてピキア パストリスを形質転換し、形質転換されたピキア パストリスを液体培養する」ことは、本願発明の「オニウシノケグサ(Festuca arundinacea)から単離されてゲノムに組込まれた1-SSTコード遺伝子」を発現する「糖非分解性酵母の発酵を行なう」ことと、「オニウシノケグサ(Festuca arundinacea)から単離されて糖非分解性酵母内に導入された1-SSTコード遺伝子を有する糖非分解性酵母の発酵を行なう」点で共通すると認められる。 したがって、両者は、 「オニウシノケグサ(Festuca arundinacea)から単離されて糖非分解性酵母内に導入された1-SSTコード遺伝子を有する糖非分解性酵母の発酵を行なう、1-SSTを生産する方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点1) 糖非分解性酵母の発酵により行われる「糖非分解性酵母内に導入された1-SSTコード遺伝子」の発現について、本願発明には「ゲノムに組込まれた1-SSTコード遺伝子の6?9のコピーを構成的に発現する」、「前記ゲノムの発現が、GAPプロモーターによる転写制御下にあり」と、ゲノムに組み込まれた6?9コピーの1-SST遺伝子がGAPプロモーターによる転写制御下に構成的に発現されることが特定されているのに対して、引用発明では「(1-SST)をコードするcDNAを含むベクター」であり、1-SST遺伝子はベクターを用いて発現される点。 (相違点2) 本願発明には「グルコース及び/又はスクロースが酵母増殖に使用される炭素源として添加される」ことが特定されているのに対して、引用発明は酵母を液体培養するものであるが、炭素源について特定されていない点。 4.判断 (相違点1)について 学術論文である引用例1は、「トールフェスクからの成熟1-SSTをコードするcDNAを、詳細な活性化特性のためにP.パストリスで発現させた。」(上記1.(1)ウ)と記載されるように、成熟1-SSTの活性化特性を研究するために、成熟1-SSTをコードするcDNAを含むベクターを酵母に導入して成熟1-SSTを発現させるものである。 しかし、有用なタンパク質を組換体として大規模生産しようとすることは、当業者の自明の課題であるところ、引用例1には1-SSTが1-ケストースの産生に用いられることが記載されており(要約)、1-ケストースが腸内細菌叢の改善に有用であることも知られているから(必要であれば、拒絶査定で引用例2として示した特開2009-173548号公報を参照。)1-SSTを大規模生産しようとすることも当業者にとって自明の課題であるといえる。 そして、有用なタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入してそのタンパク質を産生させる手段として、ベクターを用いる方法も、ゲノムに遺伝子を組み込む方法も、いずれも当業者が生産規模等に応じて適宜選択し得るところ(通常、前者が小規模、後者が大規模)、有用な1-SSTの生産規模を上げるために、引用例1に係る研究目的で用いられたベクターを用いる方法に替えて、ゲノムに遺伝子を組み込む方法を採用することは、当業者が適宜行うことに過ぎない。実際、引用例10には、目的とする組換えタンパク質の収量を高めるために、該タンパク質の遺伝子を宿主細胞に導入する手法として、ベクターを用いる方法に替えて、ゲノムに組み込む方法が用いられること、相同組換えで遺伝子をゲノムに組み込むことなどが記載されており、引用例7には相同組換えによってP.パストリスのゲノムに異種遺伝子を組み込んだことが記載されている。また、引用例2にも、目的遺伝子を宿主染色体DNAであるゲノムに組み込むことで目的タンパク質が安定して発現できることが記載されている。 そうすると、ピキア パストリスである酵母を宿主細胞として用いる引用発明において、ベクターを用いて1-SSTコード遺伝子を発現させることに替えて、1-SSTコード遺伝子をゲノムに組み込んで発現させることは当業者が容易になし得たことにすぎない。 そして、引用例2には遺伝子の発現量を増加させるために遺伝子の多コピーを導入することが示され、引用例8には遺伝子産物の発現量とコピー数とは関連があること、引用例9には異種遺伝子の発現量を増やすために導入する異種遺伝子を多コピーとすることが記載されているとおり、宿主細胞における目的とする組換えタンパク質の発現量を高めるために該タンパク質の遺伝子を多コピー含む宿主細胞を作成することは周知であるから、ピキア パストリスのゲノムに組み込む1-SSTコード遺伝子を多コピーとすることも当業者が適宜なし得たことである。 さらに、引用例2?6に記載されているように、ピキア パストリス発現系を利用して異種タンパク質を発現させる際に、構成的なGAPプロモーターを用いることも周知である。引用例1に記載の方法では、メタノールで誘導が行われていることから、AOX1プロモーターが使用されていると解されるが、引用例3(要約)には、GAPプロモーターがAOX1プロモーターより大規模生産に適していること、引用例4(要約)には、GAPプロモーターがAOX1プロモーターに代わるものであることも記載されている。 そうすると、ピキア パストリスである酵母のゲノムに6?9コピーのような多コピーの1-SST遺伝子を組み込み、該遺伝子の発現がGAPプロモーターにより構成的に発現されることを特定すること、すなわち、「ゲノムに組込まれた1-SSTコード遺伝子の6?9のコピーを構成的に発現する」、「前記ゲノムの発現が、GAPプロモーターによる転写制御下にあり」と特定することは当業者が容易になし得ることである。 (相違点2)について 酵母を液体培養すれば、酵母は増殖すると認められ、酵母を培養する際に、炭素源としてグルコースを用いることは引用例3、4に記載されるように公知であり、引用発明において、炭素源としてグルコースが添加されることを特定することは当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明において、引用例1?10の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。 したがって、本願発明は、引用例1?10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.審判請求人の主張 審判請求人は令和1年11月22日の意見書において、次の旨を主張している。 「酵母の培養に使用される炭素源としてスクロースはいずれの引用例にも記載されておらず、本願明細書の例6では、精製糖、粗糖及び蜂蜜(糖成分は、グルコースとフルクトース(審決注:「フルクトース」は「スクロース」の誤記と認める。)である)を糖非分解性酵母であるP.パトリス株の増殖用炭素原として供給した試験が、グリセロールを供給した場合と比較して実施され、精製糖、粗糖及び蜂蜜の何れでもグリセロールに比べ、1-SST活性、即ち1-SST産生量が顕著に高い結果になっている。」 しかし、請求項5には「グルコース及び/又はスクロースが酵母増殖に使用される炭素源として添加される」と特定されており、炭素源としてグルコースのみが用いられる態様もあって、スクロースが必ず添加されることは特定されていない。 したがって、審判請求人の主張は本願発明の特定に基づくものではなく採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、請求項5に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-01-09 |
結審通知日 | 2020-01-14 |
審決日 | 2020-01-27 |
出願番号 | 特願2015-531460(P2015-531460) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12P)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福間 信子 |
特許庁審判長 |
田村 聖子 |
特許庁審判官 |
小暮 道明 中島 庸子 |
発明の名称 | 1-ケストースを得る方法 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |