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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1362987
審判番号 不服2018-12162  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-10 
確定日 2020-06-11 
事件の表示 特願2014-263555「半導体装置用配線部材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月 7日出願公開、特開2016-122809〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年11月20日付け:拒絶理由通知
平成30年 1月11日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月 4日付け:拒絶査定
平成30年 9月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年11月22日付け:拒絶理由通知
令和 2年 1月24日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和2年1月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
樹脂層を有するとともに、所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域と、その一端が前記内部端子領域に接続し、かつ、該内部端子領域の幅または径よりも幅が細い細長形状に形成された配線部領域と、前記配線部領域の他端と接続し、かつ、該内部端子領域の幅または径よりも大きな幅または径の第2の所定形状に形成された外部端子領域とを、水平方向の異なる位置に備えためっき形成領域を有する半導体装置用配線部材において、
前記樹脂層の一方の面の前記めっき形成領域の全域に内部端子となる部位を有する内部端子面をなす第1の貴金属めっき層が下面を該樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態で形成され、前記第1の貴金属めっき層の上に該第1の貴金属めっき層と同一形状で金属めっき層が形成され、更に前記金属めっき層の上における、前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位に、部分的に外部端子となる第2の貴金属めっき層が上面を前記樹脂層の他方の面から露出させた状態で形成され、
前記第1の貴金属めっき層が、Agめっき層、又は、順に積層されたAgめっき層とPdめっき層、又は、Pdめっき層からなり、前記金属めっき層が、Niめっき層からなり、
前記第2の貴金属めっき層が、Auめっき層、又は、順に積層されたPdめっき層とAuめっき層からなり、
前記第1の貴金属めっき層のみが、前記樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態のめっき層として形成され、
前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層のみが、前記第1の貴金属めっき層と前記第2の貴金属めっき層との間に位置するめっき層として形成され、
前記第2の貴金属めっき層のみが、前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層表面から前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位において部分的に突出するめっき層として形成されていることを特徴とする半導体装置用配線部材。」

第3 当審の拒絶理由の概要
当審において令和1年11月22日付けで通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願の請求項1、2に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2005-244033号公報
引用文献2.特開2009-164594号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付したものである。以下同じ)。

「【0013】
以下、本発明の電極パッケージ及び該電極パッケージを用いた半導体装置について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、樹脂封止されたリードレス表面実装型の半導体装置に関し、その製造工程で使用される電極パッケージについて説明する。
【0014】
図1は、本発明の電極パッケージの一実施の形態を示しており、同図(a)はその表面図、同図(b)はその背面図、同図(c)はI-I線断面図である。同図に示すように、電極パッケージ20は、後述する半導体素子が搭載されると共に、半導体素子と電気的に接続される導電パターン層21と、この導電パターン層21に積層して設けられ、同一形状の複数の独立した電極材からなる電極層22とを備えている。この導電パターン層21及び電極層22とは、板状樹脂23内に封止され、この板状樹脂23の一方の板面から導電パターン層21が露出し、他方の板面から電極層22が露出している。
【0015】
導電パターン層21は、その露出面側に形成された金(Au)ワイヤーが接続可能な金(Au)又は銀(Ag)薄膜層と、このAu又はAg薄膜層に積層して形成された、ニッケル(Ni)、ニッケル・コバルト(Ni・Co)又は銅(Cu)合金を電着したNi、Ni・Co又はCu薄膜層とから構成される。また、電極層22は、その露出面側に形成された、半田乗りの良い金(Au)又は錫(Sn)薄膜層と、このAu又はSn薄膜層に積層して形成された、Ni、Ni・Co又はCu合金を電着したNi、Ni・Co又はCu薄膜層とから構成される。その厚さは、Ni、Ni・Co又はCuの薄膜層の厚さが20?50μmであり、Au、Sn又はAg薄膜層の厚さが0.05?10μmである。
【0016】
続いて、図1の電極パッケージ20の製造方法の一実施の形態について、図2及び図3を参照して説明する。先ず、図2(a)に示すように、電極パッケージ20を製造するにあたり、可撓性平板状の金属基板30を用意する。金属基板30は、薄いステンレス鋼板であり、その厚さは、0.1mmである。そして、金属基板30の表面上において、導電パターン層22(21の誤記)を形成する部分を除いた部分に、レジスト膜31を形成する。
【0017】
その後、金属基板30を電着漕に侵漬し、金属基板30と電着漕内の電極との間を通電して、レジスト膜31が形成されていない部分の金属基板30上に、Au又はAg→Ni、Ni・Co、Cu合金の順に電気鋳造技術を用いて電着させる。以上の工程により、図2(b)に示すように、金属基板30の表面に、Au又はAg薄膜層、Ni、Ni・Co又はCu薄膜層からなる導電パターン層21が形成される。
【0018】
続いて、図2(c)に示すように、導電パターン層21上において、電極層22を形成する部分を除いた部分に、レジスト膜32を形成する。その後、金属基板30を電着槽に侵漬し、金属基板30と電着漕内の電極との間を通電して、図2(d)に示すように、レジスト膜32が形成されていない部分の導電パターン層21に、Ni、Ni・Co又はCu合金→Au又はSuの順に電着させる。以上の工程により、導電パターン層21上に電極層22が形成される。
【0019】
次に、図2(e)に示すように、レジスト膜31、32を同時に除去した後、図2(f)に示すように、スピン塗布法などにより樹脂23を塗布する。その後、表面全体を削って、図2(g)に示すように、樹脂23の表面側から電極層22を露出させると共に、金属基板30を剥離する。上述したように、導電パターン層23は、電気鋳造技術を用いて、金属基板30上に電着されており、さらに、金属基板30は可撓性のある平板状であるので、簡単に樹脂23から引き離すことができる。」

「【0021】
また、導電パターン層21、電極層22の成膜法としては、金属基板30上に導電パターン層21、電極層22を電着又はフラッシュ法等で真空蒸着した後、エッチングにより、導電パターン層21、電極層22以外の部分を除去することが考えられる。さらに、レジスト膜31、32は、導電パターン層21及び電極層22を形成した後、同時に除去していたが、導電パターン層21を電着した後に、レジスト膜31を除去し、電極層22を電着した後に、レジスト膜32を除去することも考えられる。」

「【0023】
半導体素子33が搭載された後、金ワイヤ34によって、半導体素子33の電極パッドと導電パターン層21とを電気的に接続する。金ワイヤ34は、超音波ボンディングなどによって接続される。また、金ワイヤ34を用いずに、半導体素子33の表面に設けた電極パッドと導電パターン21とを直接接続するものもある。次に、半導体素子33が搭載されて、ワイヤボンディングされた後の電極パッケージ20が、モールド金型(下型)に装着される。
【0024】
モールド金型内には、エポキシ樹脂がモールド金型(上型)に形成されたキャビティ(図示せず)により注入される。このモールド金型では、電極パッケージ20が下型としての機能を果たす。この工程により、半導体素子32が樹脂35(樹脂パッケージ)内に封止され、半導体素子33、導電パターン層21、電極層22が樹脂封止された樹脂封止体36が形成される。また、この樹脂封止体36の底面から露出している電極層22上に半田などの導電材を付着して、ボール状の導電端子12を設ける。」

「【0026】
また、この電極パッケージを用いて半導体装置を製造する過程において、従来のように金属基板30を剥離する工程も、均等な導電端子12を設けるためのレジスト膜10を形成する必要もなくなる。このため、メーカ毎に、金属基板を剥離する装置や、レジスト膜20を形成する装置も必要がなくなり、製造コストの削減を図ることができる。」


図1及び図3より、正方形、長方形及びコの字型の導電パターン層21に対して、電極層22は所定の位置で重なっていることが見て取れる。

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所である。)。
「導電パターン層21と、この導電パターン層21に積層して設けられた電極層22とを備え、
導電パターン層21及び電極層22とが、板状樹脂23内に封止され、この板状樹脂23の一方の板面から導電パターン層21が露出し、他方の板面から電極層22が露出している電極パッケージ20であって(【0014】)、
導電パターン層21は、露出面側に形成されたAg薄膜層と、Ag薄膜層に積層して形成されたNi薄膜層とから構成され、
電極層22は、露出面側に形成されたAu薄膜層と、Au薄膜層に積層して形成されたNi薄膜層とから構成され(【0015】)、
電極パッケージ20は、
金属基板30の表面上において、導電パターン層21を形成する部分を除いた部分に、レジスト膜31を形成し(【0016】)、
レジスト膜31が形成されていない部分の金属基板30の表面に、Ag薄膜層、Ni薄膜層の順に導電パターン層21が電着され(【0017】)、
導電パターン層21上において、電極層22を形成する部分を除いた部分に、レジスト膜32を形成し、
レジスト膜32が形成されていない部分の導電パターン層21に、Ni薄膜層、Au薄膜層の順に電着され、導電パターン層21上に電極層22が形成され(【0015】【0018】)、
レジスト膜31、32を除去した後、樹脂23を塗布し、その後、表面全体を削って、樹脂23の表面側から電極層22を露出させると共に、金属基板30を剥離したものであり(【0019】)、
導電パターン層21は、半導体素子33の電極パッドを電気的に接続するもので(【0023】)、
電極層22は、半田などの導電材を付着して、ボール状の導電端子12を設けるもので(【0024】)、
正方形、長方形及びコの字型の導電パターン層21に対して、電極層22は所定の位置で重なっている(図1、3)、
電極パッケージ20。」

2 引用文献2の記載
引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、平面方向で十分に小型化された樹脂封止型半導体装置および当該樹脂封止型半導体装置の製造方法、並びに、このような樹脂封止型半導体装置を得るための半導体装置用基板および当該半導体装置用基板の製造方法を提供することを目的とする。」

「【0048】
図1および図2(a)(b)に示すように、半導体装置用基板10は、金属製の基板1と、基板1上に平面状に配置され、基板1側を向いた外部端子面12pb,12qbを有する複数の外部端子部12p,12qと、基板1上に平面状に配置され、基板1に対して反対側を向いた内部端子面11aを有する複数の内部端子部11と、内部端子部11と外部端子部12p,12qとを基板上の平面内で接続する配線部17と、を備えている。なお、ここで、図1は本実施の形態による半導体装置用基板10の概略断面図であり、図2(a)は本実施の形態による半導体装置用基板の平面図であり、図2(b)は当該平面図の一部を拡大した拡大平面図である。」

「【0050】
また、図2(a)に示すように、内部端子部11は、基板1上であって、半導体素子50が配置される配置予定領域A外に配置されており、ワイヤボンド接続に対応している。」

「【0052】
また、図2(a)に示すように、配置予定領域A内に配置された一部の外部端子部12p以外の外部端子部12qは、基板1上であって、内部端子部11に対して平面方向外方に配置されている。本実施の形態においては、図2(a)に示すように、外部端子部12qは、3つずつ列(行)になって、配置されている。なお、このように、外部端子部12p,12qは、内部端子部11の平面方向内方および平面方向外方の両方(広い範囲)に配置されているのに対して、内部端子部11は、マトリックス状の外部端子部12pを囲む一箇所(狭い範囲)に配置されているので、内部端子部11の大きさは、外部端子部12p,12qの大きさよりも小さくする必要がある。」

「【0054】
この配線部17は、図2(a)(b)に示すように、長円形状もしくは長方形状の内部端子部11のうち、外部端子部12p,12qと近い方の端部に接続されている。すなわち、図2(a)(b)に示すように、配置予定領域A内に配置された外部端子部12pに接続された配線部17は、内部端子部11の当該外部端子部12p側の端部に接続されている。また、内部端子部11に対して平面方向外方に配置された外部端子部12qに接続された配線部17は、内部端子部11の当該外部端子部12q側の端部に接続されている。」

「【0061】
上述した内部端子部11および外部端子部12p,12qの層構成は、とりわけ、基板1側から順に、Ni/Pd、Ni/Au、Ni/Au/Ag、Ni/Pd/Au、Ni/Cu/Ni/Au、Ni/Cu/Ni/Ag、Ni/Cu/Ni/Pd/Au、Au/Ni/Au、Au/Ni/Ag、Au/Ni/Pd/Au、Au/Ni/Cu/Ni/Au、Au/Ni/Cu/Ni/Ag、Au/Ni/Cu/Ni/Pd/Au、Au/Pd/Ni/Au、Au/Pd/Ni/Ag、Au/Pd/Ni/Pd/Au、Au/Pd/Ni/Cu/Ni/Au、Au/Pd/Ni/Cu/Ni/Ag、またはAu/Pd/Ni/Cu/Ni/Pd/Auからなることが好ましい。」


ここで、引用文献2に記載の内部端子部11は、ワイヤボンド接続に対応しているので(【0050】)、図2(b)にも示されているように、内部端子部11の幅は、配線部17の幅より広いことは明らかである。
したがって、【0007】、【0048】、【0052】、【0054】及び図2より、引用文献2には次の周知技術が記載されている。
「樹脂封止型半導体装置を小型化するために、半導体装置用基板において、内部端子部と外部端子部との接続部を、長円形状の内部端子部と、内部端子部より大きい外部端子部と、内部端子部と外部端子部とを接続する内部端子部より幅が細い配線部で構成する技術。」

さらに、【0061】より、引用文献2には「内部端子部11および外部端子部12p,12qの層構成を、基板1側から順にAu/Ni/Agとする技術。」も記載されている。

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「板状樹脂23」は、本願発明1の「樹脂層」に相当する。
また、引用発明の「導電パターン層21」は「半導体素子33の電極パッドを電気的に接続するもの」であるから、引用発明において「導電パターン層21」が形成される領域は、本願発明の「所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域」に相当する。
そして、引用発明の「導電パターン層21」は「電着され」たものであると共に、「板状樹脂23内に封止され、この板状樹脂23の一方の板面から」「露出し」ているので、「電極パッケージ20」において「導電パターン層21」が露出している領域が、めっき形成領域であるといえる。そうすると、引用発明の「導電パターン層21及び電極層22とが、板状樹脂23内に封止され」た「電極パッケージ20」は、本願発明でいう「めっき形成領域」を有しているから、本願発明の「樹脂層を有するとともに、」「めっき形成領域を有する半導体装置用配線部材」に相当する。
したがって、引用発明の「導電パターン層21及び電極層22とが、板状樹脂23内に封止され、この板状樹脂23の一方の板面から導電パターン層21が露出し」ている「電極パッケージ20」は、本願発明の「樹脂層を有するとともに、所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域」を「備えためっき形成領域を有する半導体装置用配線部材」に相当する。
但し、めっき形成領域が、本願発明は、「所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域と、その一端が前記内部端子領域に接続し、かつ、該内部端子領域の幅または径よりも幅が細い細長形状に形成された配線部領域と、前記配線部領域の他端と接続し、かつ、該内部端子領域の幅または径よりも大きな幅または径の第2の所定形状に形成された外部端子領域とを、水平方向の異なる位置に備えた」めっき形成領域であるのに対して、引用発明には、その旨の記載がない。

2
(1)引用発明の「導電パターン層21」は、「半導体素子33の電極パッドを電気的に接続するもの」であるから、「導電パターン層21」のうち「露出面側に形成されたAg薄膜層」は内部端子となっており、その表面は内部端子面といえる。
そして、引用発明の「導電パターン層21」は「電着され」たものであるから「露出面側に形成されたAg薄膜層」の全域といえる領域が、「板状樹脂23」の「一方の板面」におけるめっき形成領域であるといえるので、引用発明における「導電パターン層21」の「露出面側に形成されたAg薄膜層」は、本願発明の「前記樹脂層の一方の面の前記めっき形成領域の全域に内部端子となる部位を有する内部端子面をなす第1の貴金属めっき層」に相当する。
また、引用発明の「電極パッケージ20」は、「金属基板30の表面に、Ag薄膜層」を「電着」し、「レジスト膜31、32を除去した後、樹脂23を塗布し」、その後「金属基板30を剥離」しているので、引用発明における「Ag薄膜層」の露出面と「板状樹脂23」は面一であるといえ、このことは、本願発明の「第1の貴金属めっき層が下面を該樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態」に相当する。
したがって、引用発明における「導電パターン層21」のうち「露出面側に形成されたAg薄膜層」は、本願発明の「前記樹脂層の一方の面の前記めっき形成領域の全域に内部端子となる部位を有する内部端子面をなす」「下面を該樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態で形成され」た「第1の貴金属めっき層」に相当する。
(2)引用発明は「レジスト膜31が形成されていない部分の金属基板30の表面に、Ag薄膜層、Ni薄膜層の順に導電パターン層21が電着され」たものであるから、「導電パターン層21」の「Ag薄膜層」と「Ni薄膜層」は、同一形状である。
したがって、引用発明における「導電パターン層21」のうち「Ni薄膜層」は、本願発明の「前記第1の貴金属めっき層の上に該第1の貴金属めっき層と同一形状で」「形成され」た「金属めっき層」に相当する。
(3)引用発明の「電極層22」は「半田などの導電材を付着して、ボール状の導電端子12を設けるもの」であるから、引用発明において「電極層22」が形成される領域は、本願発明の「前記めっき形成領域の前記外部端子領域」に相当する。
そして、引用文献1の図1より、正方形、長方形及びコの字型の導電パターン層21に対して、部分的に電極層22が形成されていることが見て取れるので、引用発明における「電極層22」のうち「他方の板面」の「露出面側に形成されたAu薄膜層」は、本願発明の「更に前記金属めっき層の上における、前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位に、部分的に」「上面を前記樹脂層の他方の面から露出させた状態で形成され」た「外部端子となる第2の貴金属めっき層」に相当する。
上記(1)?(3)より、引用発明の「レジスト膜31が形成されていない部分の金属基板30の表面に、Ag薄膜層、Ni薄膜層の順に導電パターン層21が電着され、」「レジスト膜32が形成されていない部分の導電パターン層21に、Ni薄膜層、Au薄膜層の順に電着され、導電パターン層21上に電極層22が形成され、レジスト膜31、32を除去した後、樹脂23を塗布し、その後、表面全体を削って、樹脂23の表面側から電極層22を露出させると共に、金属基板30を剥離」することは、本願発明の「前記樹脂層の一方の面の前記めっき形成領域の全域に内部端子となる部位を有する内部端子面をなす第1の貴金属めっき層が下面を該樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態で形成され、前記第1の貴金属めっき層の上に該第1の貴金属めっき層と同一形状で金属めっき層が形成され、更に前記金属めっき層の上における、前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位に、部分的に外部端子となる第2の貴金属めっき層が上面を前記樹脂層の他方の面から露出させた状態で形成され」ることに相当する。

3 上記2を踏まえると、引用発明の「導電パターン層21」が順に電着された「Ag薄膜層」及び「Ni薄膜層」からなることは、本願発明の「前記第1の貴金属めっき層が、Agめっき層」「からなり、前記金属めっき層が、Niめっき層からな」ることに相当する。
また、引用発明において「電極層22」のうち後に電着された層が「Au薄膜層」からなることは、本願発明の「前記第2の貴金属めっき層が、Auめっき層」「からな」ることに相当する。

4 引用発明は「Ag薄膜層」の露出面と「板状樹脂23」が面一であり(上記「2 (1)」)、引用発明は「導電パターン層21」の「Ag薄膜層」と「Ni薄膜層」が同一形状である(上記「2 (2)」)。
したがって、引用発明の「レジスト膜31が形成されていない部分の金属基板30の表面に、Ag薄膜層、Ni薄膜層の順に導電パターン層21が電着され、」「レジスト膜32が形成されていない部分の導電パターン層21に、Ni薄膜層、Au薄膜層の順に電着され、導電パターン層21上に電極層22が形成され、レジスト膜31、32を除去した後、樹脂23を塗布し、その後、表面全体を削って、樹脂23の表面側から電極層22を露出させると共に、金属基板30を剥離」することは、本願発明の「前記第1の貴金属めっき層のみが、前記樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態のめっき層として形成され、前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層」「が、前記第1の貴金属めっき層と前記第2の貴金属めっき層との間に位置するめっき層として形成され、前記第2の貴金属めっき層」「が、前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層表面から前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位において部分的に突出するめっき層として形成されていること」に相当する。
但し、第1の貴金属めっき層と第2の貴金属めっき層との間に位置するめっき層が、本願発明は、「前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層のみ」であるのに対して、引用発明には、その旨の記載がない。
さらに、金属めっき層表面から部分的に突出するめっき層が、本願発明は、「前記第2の貴金属めっき層のみ」であるのに対して、引用発明には、その旨の記載がない。

5 上記2によれば、引用発明の「導電パターン層21及び電極層22とが、板状樹脂23内に封止され、この板状樹脂23の一方の板面から導電パターン層21が露出し、他方の板面から電極層22が露出している電極パッケージ20」は、本願発明でいう「第1の貴金属めっき層」、「金属めっき層」及び「第2の貴金属めっき層」という構成を備えているから、本願発明の「半導体装置用配線部材」に相当する。

すると本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「樹脂層を有するとともに、所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域に備えためっき形成領域を有する半導体装置用配線部材において、
前記樹脂層の一方の面の前記めっき形成領域の全域に内部端子となる部位を有する内部端子面をなす第1の貴金属めっき層が下面を該樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態で形成され、前記第1の貴金属めっき層の上に該第1の貴金属めっき層と同一形状で金属めっき層が形成され、更に前記金属めっき層の上における、前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位に、部分的に外部端子となる第2の貴金属めっき層が上面を前記樹脂層の他方の面から露出させた状態で形成され、
前記第1の貴金属めっき層が、Agめっき層からなり、前記金属めっき層が、Niめっき層からなり、
前記第2の貴金属めっき層が、Auめっき層からなり、
前記第1の貴金属めっき層のみが、前記樹脂層の一方の面と面一に露出させた状態のめっき層として形成され、
前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層が、前記第1の貴金属めっき層と前記第2の貴金属めっき層との間に位置するめっき層として形成され、
前記第2の貴金属めっき層が、前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層表面から前記めっき形成領域の前記外部端子領域に対応する部位において部分的に突出するめっき層として形成されている半導体装置用配線部材。」

(相違点1)
めっき形成領域が、本願発明は、「所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域と、その一端が前記内部端子領域に接続し、かつ、該内部端子領域の幅または径よりも幅が細い細長形状に形成された配線部領域と、前記配線部領域の他端と接続し、かつ、該内部端子領域の幅または径よりも大きな幅または径の第2の所定形状に形成された外部端子領域とを、水平方向の異なる位置に備えた」めっき形成領域であるのに対して、引用発明には、その旨の記載がない。
(相違点2)
第1の貴金属めっき層と第2の貴金属めっき層との間に位置するめっき層が、本願発明は、「前記第1の貴金属めっき層と同一形状の前記金属めっき層のみ」であるのに対して、引用発明には、その旨の記載がない。
(相違点3)
金属めっき層表面から部分的に突出するめっき層が、本願発明は、「前記第2の貴金属めっき層のみ」であるのに対して、引用発明には、その旨の記載がない。

第6 判断
1 上記相違点について検討する。
まず、相違点1について検討する。
引用文献2に記載されているように、樹脂封止型半導体装置を小型化するために、半導体装置用基板において、内部端子部と外部端子部との接続部を、長円形状の内部端子部と、内部端子部より大きい外部端子部と、内部端子部と外部端子部とを接続する内部端子部より幅が細い配線部で構成する技術は周知である(上記「第4 2」)。
そして、半導体装置において装置を小型化することは一般的な課題であるところ、引用発明の「電極パッケージ20」についても、半導体装置で使用されるものであるから(【0013】)、小型化が求められることは明らかである。
そうすると、引用発明における内部端子部と外部端子部の接続部である「導電パターン層21及び電極層22」に上記周知技術を適用し、当該接続部を「長円形状の導電パターン層」と「導電パターン層より大きい電極層」と導電パターン層と電極層とを接続する「導電パターン層より幅が細い配線部」で構成し、「電極パッケージ20」のめっき形成領域を、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2、3についてまとめて検討する。
そもそも、内部端子となる第1の貴金属めっき層と外部端子となる第2の貴金属めっき層の間にある金属めっき層の層数は、半導体素子が搭載される内部端子部と外部端子部の間の必要な高さに応じて適宜決めれば良い設計的事項であるところ、引用文献2に、内部端子部11および外部端子部12p,12qの層構成として、基板1側から順にAu/Ni/Agの例が示されている(上記「第4 2」])。してみれば、引用発明において、2層の「Ni薄膜層」のうち、後から形成される「電極層22」の「Ni薄膜層」を省略することとして、「Ag薄膜層」と「Au薄膜層」との間にある「Ni薄膜層」を1層にし、上記相違点2及び3の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

そして、上記相違点1ないし3を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人の主張について
請求人は、令和2年1月24日付けの意見書において、
「第4.本件請求人の意見
・・・
2.しかし、引用文献1、2に記載のものにおける課題は、いずれも、本願発明を導出する起因となった課題とは全く異なる。このため、本願発明1、2に対する『引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。』とした審判官の認定には誤りがある。以下、詳述する。」
「(1)本願発明を導出する起因となった課題
ア.本願発明の課題は、本願明細書で特許文献1として挙げた特開2009-164594号公報に記載されている、従来の『金属板を有するとともに、所定幅または径の第1の所定形状に形成された内部端子領域と、その一端が内部端子領域に接続し、かつ、内部端子領域の幅または径よりも幅が細い細長形状に形成された配線部領域と、配線部領域の他端と接続し、かつ、内部端子領域の幅または径よりも大きな幅または径の第2の所定形状に形成された外部端子領域とを、水平方向の異なる位置に備えためっき形成領域を金属板上に有し、金属板上のめっき形成領域の全域に金属板側から外部端子部を有する外部端子面をなすめっき層が金属板の面に接した状態に形成され、その上に中間層をなすめっき層が同じ形状で形成され、更にその上に内部端子部をなすめっき層を有する内部端子面が同じ形状で形成された』半導体装置用基板における、『内部端子領域と、配線部領域と、外部端子領域とを、水平方向の異なる位置に備えためっき形成領域の全域に、金属板側から外部端子部を有する外部端子面をなすめっき層を金属板の面に接した状態に形成し、最上層に内部端子部を有する内部端子面をなすめっき層を形成すると実際の生産においては、めっき厚のばらつきが発生し、例えばめっきの厚さが約30μmの場合3?7μm程度の高低差が生じることから、半導体素子を搭載して内部端子部と電気的な接続を行う際に、半導体素子が傾いた状態で搭載されたり、電気的な接続において導通不良となる可能性があり、また外部端子面全体を覆う樹脂を形成し、外部端子部のみが露出する開口部を形成する工程が必要となっている。』(本願明細書の段落0003?0005参照)という問題を解決することである。」
「(2)引用文献1に記載のものの課題
ア.これに対し、引用文献1に記載のものの課題は、『表面実装型の半導体装置に用いられる従来の電着フレームは、互いに独立した複数の金属層が、金属基板によって支持されており、金属基板をつけた状態で、各半導体装置のメーカに納品する必要があるため、電着フレームを納品する際の重量が重くなり、納品コストがかかる』(引用文献1の段落0002?0005参照)、
『各メーカにおいて、上述した電着フレームを用いて、半導体装置を作る際には、金属基板を剥がす必要があり、手間がかかると共に、金属基板を剥がす装置を所有する必要が有り、さらに、半導体素子と金属層間の絶縁距離を確保する必要があり、半導体装置を小型にすることができず、半導体素子に対して大きな面積を必要とし、半導体装置の製造原価が高騰する要因となっていた。』(引用文献1の段落0006参照)という問題を解決することである。」と主に主張している。

上記主張について検討する。
引用文献1には、金属基板30に、導電パターン層21と電極層22とを積層した後、図2(f)に示すように、スピン塗布法などにより樹脂23を塗布し、その後、表面全体を削って、図2(g)に示すように、樹脂23の表面側から電極層22を露出させると共に、金属基板30を剥離して、電極パッケージ20を製造し(【0019】)、半導体素子33が搭載された後、金ワイヤ34によって、半導体素子33の電極パッドと導電パターン層21とを電気的に接続し、半導体素子33が搭載されて、ワイヤボンディングされた後の電極パッケージ20が、モールド金型(下型)に装着され(【0023】)、モールド金型内には、エポキシ樹脂がモールド金型(上型)に形成されたキャビティ(図示せず)により注入され、このモールド金型では、電極パッケージ20が下型としての機能を果たし、この工程により、半導体素子32が樹脂35(樹脂パッケージ)内に封止され、半導体素子33、導電パターン層21、電極層22が樹脂封止された樹脂封止体36が形成され、この樹脂封止体36の底面から露出している電極層22上に半田などの導電材を付着して、ボール状の導電端子12を設けるすること(【0024】)が記載されている。
そうすると、引用発明において、「導電パターン層21」は「金属基板30の表面」に形成され、その後、「金属基板30」を剥離しているので、「半導体素子33の電極パッドを電気的に接続する」ための内部端子面となる「導電パターン層21」の「Ag薄膜層」の表面に、高低差が存在しないことは明らかである。
また、モールド金型では、電極パッケージ20が下型としての機能を果たして、樹脂封止体36の底面から「電極層22」が露出するのであるから、引用文献1に「導電端子12を設けるためのレジスト膜10を形成する必要もなくなる」(【0026】)と記載されているように、外部端子面全体を覆う樹脂を形成し、「電極層22」のみが露出する開口部を形成する工程は必要ない。
したがって、請求人が主張する上記本願発明の課題は、引用発明において解決しており、上記主張を採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-25 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-15 
出願番号 特願2014-263555(P2014-263555)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 貴志  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 須原 宏光
酒井 朋広
発明の名称 半導体装置用配線部材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人篠原国際特許事務所  

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