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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63H
管理番号 1362994
審判番号 不服2019-1619  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-05 
確定日 2020-06-11 
事件の表示 特願2015-38884号「船舶」拒絶査定不服審判事件〔平成28年9月5日出願公開、特開2016-159722号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月27日の出願であって、平成30年3月8日付けで拒絶理由が通知され、同年5月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月31日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、平成31年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、令和1年5月17日に上申書が提出され、令和1年7月12日に上申書が提出され、その後、当審において同年11月5日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和2年1月9日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年1月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】
プロペラが後方に取り付けられたプロペラ軸と、
前記プロペラ軸の周囲に設けられた船尾管と、
前記プロペラの後方に取り付けられた舵板と、
を備え、
前記プロペラ軸は、前記船尾管に収容される領域よりも前方において、その径が前記船尾管の内径よりも小さく、
前記舵板は、
(i)前記プロペラ軸の取り外し時に前記プロペラ軸が通過する第1の領域に開口部は設けられておらず、
(ii)前記第1の領域の内部には前記舵板を補強するための補強部材が設けられておらず、
(iii)前記第1の領域と異なる第2の領域の内部には前記補強部材が設けられており、
前記プロペラ軸は、前記舵板が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された状態で取り外されることを特徴とする船舶。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、以下の理由を含むものである。
[理由]
この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物等
1:実願平3-78557号(実開平5-37697号)のCD-ROM
2:特公昭47-21786号公報
以下、それぞれ「引用文献1」及び「引用文献2」という。

第4 引用文献
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付した。以下、同様である。)。
(1a)
「【請求項1】 内部に補強材が配設された中空状の舵板と、この舵板を船体に回転自在に連結する連結軸部とを備え、上記連結軸部は、上記舵板の回転中心線が上記船体に装着されるプロペラ軸の軸線と交差するように構成されてなる船舶用舵装置において、上記舵板の内部に、当該舵板の側面を上記プロペラ軸と対向させた状態で上記船体から上記プロペラ軸を引き抜く際に上記プロペラ軸が通過するプロペラ軸通過領域を設定し、このプロペラ軸通過領域と上記補強材及び上記連結軸部とが干渉しないように上記補強材及び上記連結軸部を配置したことを特徴とする船舶用舵装置。
・・・
【符号の説明】
1 船体
2 プロペラ軸
7 連結軸部
8 補強材
20 舵装置
21 舵板
21a,21b 舵板側面
22 プロペラ軸通過領域」
(1b)
「 【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は船舶用舵装置に係り、詳しくは舵板を取り外すことなく推進用のプロペラ軸を容易に着脱できる船舶用舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、船舶の船尾構造として、例えば図5に示すように船体1内の主機関(図示略)と連結されて軸線回りに回転駆動されるプロペラ軸2の先端のフランジ2aに推進用のプロペラ3が取り付けられ、このプロペラ3の後方に舵装置4が配設されてなるものが広く用いられている。」
(1c)
「 【0007】
また、仮に連結軸部7を避けて貫通孔を形成できたとしても、当該連結軸部7の軸線に対称に配置される2本の補強材8のスパンがフランジ2aの直径よりも狭くなっているので、舵板5を直進位置からほぼ90°回転させた状態で補強材8がフランジ2aの延長上に位置することとなり、舵板5を切り欠く際に補強材8までも切断する必要が生じる。そして、このように補強材8を切断すれば、プロペラ軸2の保守終了後に舵板5を復旧する際に作業者が舵板5の内部へ入り込んで補強材8を溶接しなければならず、作業の困難性が著しく高まる。なお、ここで舵板5を直進状態からほぼ90°回転させた状態で貫通孔を形成することを前提としているのは、かかる位置関係のときに舵板5の切欠量が最も少なくなるからである。
【0008】
以上の事情から、従来の舵装置4を備えた船舶でプロペラ軸2を抜き取るには、図6に示すように、連結軸部7のピントル8、9をラダーホーン6から取り外して舵板5を船体1から取り外し、この状態でプロペラ軸2を後方へ抜き取る以外に術がなく、この結果、プロペラ軸2の着脱作業に舵板5の着脱作業がそのまま加わってプロペラ軸2の保守作業工数の大幅な増加、作業時間の長時間化が避けられなかった。」
(1d)
「 【0009】
この考案は、このような背景の下になされたもので、舵板を取り外すことなく推進用のプロペラ軸を容易に着脱できる船舶用舵装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためにこの考案は、内部に補強材が配設された中空状の舵板と、この舵板を船体に回転自在に連結する連結軸部とを備え、上記連結軸部は、上記舵板の回転中心線が上記船体に装着されるプロペラ軸の軸線と交差するように構成されてなる船舶用舵装置において、上記舵板の内部に、当該舵板の側面を上記プロペラ軸と対向させた状態で上記船体から上記プロペラ軸を引き抜いた際に上記プロペラ軸が通過するプロペラ軸通過領域を設定し、このプロペラ軸通過領域と上記補強材及び上記連結軸部とが干渉しないように上記補強材及び上記連結部材を配置したものである。
【0011】
【作用】
上記構成によれば、補強材及び連結部材がプロペラ軸の通過領域を避けるように配置されているので、プロペラ軸を取り外す際には舵板表面を切り開いて舵板内部に設定されたプロペラ軸通過領域の両端を開口させるだけでプロペラ軸が通過可能な貫通孔を得ることができる。そして、この貫通孔を通過させることで舵板を取り外すことなくプロペラ軸を着脱できる。そして、プロペラ軸の再装着後は、舵板表面を補修するのみで舵装置を容易に復旧できる。
・・・
【0020】
【考案の効果】
以上説明したように、この考案の船舶用舵装置によれば、舵板内部に配置される補強材及び連結部材が、舵板内部に設定されるプロペラ軸の通過領域を避けるように配置されているので、プロペラ軸を取り外す際には舵板表面を切り開いてプロペラ軸通過領域の両端を開口させるだけでプロペラ軸が通過可能な貫通孔を得ることができ、この貫通孔を通過させることで舵板を取り外すことなくプロペラ軸を着脱できる。そして、プロペラ軸の再装着後は、舵板表面を補修するのみで舵装置を容易に復旧できるので、プロペラ軸の保守作業を迅速かつ容易に行うことができるという優れた効果が得られる。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項1に記載された「船舶用舵装置」(摘記(1a))は、プロペラ軸と共に船舶の船尾構造として用いられることが明らかである(摘記(1b)の段落【0002】)。
したがって、摘記(1a)及び(1b)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「内部に補強材8が配設された中空状の舵板21と、この舵板21を船体1に回転自在に連結する連結軸部7とを備え、上記連結軸部7は、上記舵板21の回転中心線が上記船体1に装着されるプロペラ軸2の軸線と交差するように構成されてなる船舶用舵装置20と、
先端のフランジ2aに推進用のプロペラ3が取り付けられ、船体1内の主機関と連結されて軸線回りに回転駆動されるプロペラ軸2と、
を備えた、船舶において、
上記舵板21の内部に、当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた状態で上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く際に上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22を設定し、このプロペラ軸通過領域22と上記補強材8及び上記連結軸部7とが干渉しないように上記補強材8及び上記連結軸部7を配置した、
船舶。」

2 引用文献2について
引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)
「本発明はプロペラ軸の補修点検に際してこれを船外へ容易に引抜き得るようにした船舶に関する。
従来の船舶においては一体型固定ピツチプロペラのプロペラ軸を船尾管より引抜く場合、機関室側に引抜くのが普通である。
しかしながら可変ピッチプロペラとか或いは組立型固定ピッチプロペラのようにプロペラ翼がボス部から取外せるようになつているプロペラを装備した船舶では、その構造上プロペラ軸を船外つまり船体後方に引抜かなければならない場合があり、或いはまたプロペラ軸を船体後方に引抜いた方が機関室側に引抜くよりもはるかに有利な場合が多い。」(1欄18?30行)
(2b)
「本発明は、従来の船舶における上述の問題を解決すべく、プロペラに対し直列的に設けられている舵に、プロペラ軸引抜用の穴を形成することによつてプロペラ軸引抜作業を容易ならしめた船舶を提供しようとするものである。
このため本発明の船舶は、プロペラ翼をプロペラ軸端部のプロペラボス部に着脱可能に取付けて成るプロペラと、このプロペラに対し直列的に配設された舵とを有する船舶において、上記舵にプロペラ軸をプロペラボス部とともに通過させ得る穴を形成し、この穴には航海中にこの穴を覆うべきカバ一部材を設けたことを特徴とする。
上述の本発明の船舶によれば、プロペラ軸の引抜作業に際して、あらかじめプロペラ翼をプロペラボス部から取外すとともに舵の穴を覆つているカバ一部材を取外しておくことにより、プロペラ軸をプロペラボス部とともに舵の穴を通過させながら船外へ引抜くことができるので、舵本体の取外しを行なうことなく簡単にプロペラ軸の引抜を行なうことができる。」(2欄16?23行)
(2c)
「また本発明の第2番目のものにおいては、上記舵の穴が、ほぼ90度の舵角位置でプロペラ軸をプロペラボス部とともに通過させ得るように設けられるので、その穴の大きさを最小にし得る利点がある。」(2欄24?28行)
(2d)
「以上本発明の実施例について詳述したがこれにより本発明を拘束するものではない。例えば上述の実施例においては、舵4の穴5が舵角90度の位置においてプロペラボス部3の通過を許容するように設けられているが、この穴5を舵角ゼロの位置でプロペラボス部3が通過できるように舵4に形成することも可能である。」(4欄4?10行)

第5 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)
引用発明の「先端のフランジ2aに推進用のプロペラ3が取り付けられ、船体1内の主機関と連結されて軸線回りに回転駆動されるプロペラ軸2」は、「先端」が「プロペラ軸2」の後方であるから、本願発明の「プロペラが後方に取り付けられたプロペラ軸」に相当する。
(2)

引用発明は、「上記舵板21の回転中心線が上記船体1に装着されるプロペラ軸2の軸線と交差するように構成されてなる」から、引用発明の「舵板21」は、「プロペラ軸2」の「プロペラ3」の後方に取り付けられていることが明らかであり、本願発明の「前記プロペラの後方に取り付けられた舵板」に相当する。

(ア)
引用発明の「上記舵板21の内部に」「設定」された「当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた状態で上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く際に上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22」及び「当該舵板21の側面」のうち「プロペラ軸通過領域22」を覆っている部分(以下これらをまとめて「実質的なプロペラ軸通過領域A」ともいう。)は、本願発明の「前記プロペラ軸の取り外し時に前記プロペラ軸が通過する第1の領域」に相当する。
そして、引用発明の「上記舵板21の内部に」「設定」された「当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた状態で上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く際に上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22」は、本願発明の「前記第1の領域の内部」に相当する。
(イ)
引用発明の上記「実質的なプロペラ軸通過領域A」に関して、「上記舵板21の内部に」「設定」された「プロペラ軸通過領域22」が、「舵板21の側面」で覆われているから、引用発明の上記「実質的なプロペラ軸通過領域A」に、開口部は設けられていない。
したがって、引用発明の上記「実質的なプロペラ軸通過領域A」の構成は、本願発明の「前記舵板は、」「前記プロペラ軸の取り外し時に前記プロペラ軸が通過する第1の領域に開口部は設けられておらず、」という構成にも相当する。
(ウ)
引用発明は、「このプロペラ軸通過領域22と上記補強材8及び上記連結軸部7とが干渉しないように上記補強材8及び上記連結軸部7を配置した」から、引用発明の「プロペラ軸通過領域22」に、「補強部材8」は設けられていない。
したがって、引用発明の「上記舵板21の内部に」「設定」された「当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた状態で上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く際に上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22」の構成は、本願発明の「前記舵板は、」「前記第1の領域の内部には前記舵板を補強するための補強部材が設けられておらず、」という構成にも相当する。

上記イを踏まえると、引用発明の「内部に補強材8が配設された中空状の舵板21」の、上記「実質的なプロペラ軸通過領域A」以外の領域、すなわち、「上記舵板21の内部に」「設定」された「当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた状態で上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く際に上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22」及び「当該舵板21の側面」のうち「プロペラ軸通過領域22」を覆っている部分、以外の領域は、本願発明の「前記第1の領域と異なる第2の領域」に相当する。
また、引用発明の「内部に補強材8が配設された中空状の舵板21」の、上記「実質的なプロペラ軸通過領域A」以外の領域の構成は、本願発明の「前記舵板は、」「前記第1の領域と異なる第2の領域の内部には前記補強部材が設けられており、」という構成にも相当する。
(3)
引用発明の「船舶」は、本願発明の「船舶」に相当する。

2 一致点及び相違点
上記1から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「プロペラが後方に取り付けられたプロペラ軸と、
前記プロペラの後方に取り付けられた舵板と、
を備え、
前記舵板は、
(i)前記プロペラ軸の取り外し時に前記プロペラ軸が通過する第1の領域に開口部は設けられておらず、
(ii)前記第1の領域の内部には前記舵板を補強するための補強部材が設けられておらず、
(iii)前記第1の領域と異なる第2の領域の内部には前記補強部材が設けられている、
船舶。」
<相違点1>
本願発明は、「前記プロペラ軸の周囲に設けられた船尾管」「を備え」、「前記プロペラ軸は、前記船尾管に収容される領域よりも前方において、その径が前記船尾管の内径よりも小さ」い構成を備えるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点2>
本願発明は、「前記プロペラ軸は、前記舵板が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された状態で取り外される」構成を備えるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

第6 判断
1 相違点についての検討
以下、相違点について検討する。
(1)相違点1について

引用文献1には、「プロペラ軸2の着脱作業に舵板5の着脱作業がそのまま加わってプロペラ軸2の保守作業工数の大幅な増加、作業時間の長時間化が避けられなかった。」(摘記(1c)の段落【0008】)と記載されていることから、引用発明は、着脱作業が長時間化する大きな「舵板21」を備える船舶、すなわち、タンカーなどの大型船舶をも対象としていることが明らかであるところ、タンカーなどの大型船舶は、プロペラ軸を船舶(船体)に対して回転できるように支持するために、「プロペラ軸の周囲に設けられた船尾管」を備えることが自明である。

そして、引用発明の「プロペラ軸2」は、「船体1内の主機関と連結されて」いることから、船尾管を備える場合は、「プロペラ軸2」は、船尾管よりも「船体1」内側に延びている部分を有し、「船体1内の主機関」が配設されている機関室内において、「主機関」と連結されている構成となることが明らかである(図1等も参照。)。

さらに、引用発明は、「プロペラ3の後方に設けられた上記舵板21の内部に」「上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22を設定し」、「上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く」から、上記の「プロペラ軸2」の、船尾管よりも「船体1」内側に延びている部分の径、すなわち、「プロペラ軸2」の、船尾管に収容される領域よりも前方の部分の径は、船尾管の内径よりも小さくなっていることが明らかである。

そうすると、引用発明は、「前記プロペラ軸の周囲に設けられた船尾管」「を備え」(上記ア)、「前記プロペラ軸は、前記船尾管に収容される領域よりも前方において、その径が前記船尾管の内径よりも小さ」い構成(上記ウ)、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の構成を、備えているといえる。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。

また、仮に、上記相違点1が、実質的な相違点であるとしても、以下のとおり、当業者が容易になし得たといえる。
(ア)
引用文献2(摘記(2a))には、「船舶において・・・プロペラ軸を船尾管より引抜く」及び「プロペラ軸を・・・船体後方に引抜」と記載されていることから、引用文献2には、プロペラ軸を船体後方に引き抜くことを想定している船舶において、プロペラ軸の周囲に設けられた船尾管を備えるように構成する技術事項(以下「引用文献2に記載された技術事項1」という。)が記載されているといえる。
(イ)
引用発明は、プロペラ3の後方に設けられた「上記舵板21」(上記1(2)ア)「の内部に」「上記プロペラ軸2が通過するプロペラ軸通過領域22を設定し」、「上記船体1から上記プロペラ軸2を引き抜く」から、引用発明も、引用文献2と同様に(上記(ア))、「プロペラ軸2」を「船体1」後方に引き抜くものであり、引用文献2に記載された技術事項1を引用発明に適用する動機付けは充分にあるといえる。
したがって、上記適用により、引用発明において、「プロペラ軸の周囲に設けられた船尾管」「を備え」るように構成することは、当業者にとって格別に困難なことではない。
(ウ)
そして、船尾管を備えるものとなった引用発明の「プロペラ軸2」及びその径については、上記イ、ウと同様のことがいえる。
(エ)
そうすると、引用発明に引用文献2に記載された技術事項1を適用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる。

(2)相違点2について

(ア)
摘記(1d)を参照すると、引用発明の課題は、「舵板を取り外すことなく推進用のプロペラ軸を容易に着脱できる船舶用舵装置を提供すること」であり(段落【0009】)、当該課題を解決するために、「上記舵板の内部に、当該舵板の側面を上記プロペラ軸と対向させた状態で上記船体から上記プロペラ軸を引き抜いた際に上記プロペラ軸が通過するプロペラ軸通過領域を設定し、このプロペラ軸通過領域と上記補強材及び上記連結軸部とが干渉しないように上記補強材及び上記連結部材を配置した」構成(段落【0010】)を備えるものであり、当該構成により課題が解決できるといえる。
(イ)
このように、当該課題を解決するためには、「当該舵板の側面を上記プロペラ軸と対向させた状態」であれば足るものであり、当該「状態」における舵板の回転角度(直進状態からの角度)まで特定する必要はないといえる。
要するに、そのような状態となる回転角度に当業者が適宜に設定可能ということもできる。
このことは、作用・効果の説明の記載(摘記(1d)の段落【0011】及び【0020】)からも明らかである。

(ア)
また、引用文献2(摘記(2a)及び(2b))には、「プロペラ軸の補修点検に際してこれを船外へ容易に引抜き得るようにした船舶に関する」技術が記載されており、具体的には、「プロペラ軸引抜作業を容易ならしめた船舶を提供」するとの課題を、「上記舵にプロペラ軸をプロペラボス部とともに通過させ得る穴を形成し、この穴には航海中にこの穴を覆うべきカバ一部材を設けた」構成を備えることにより、解決するというものである。
(イ)
そして、引用文献2には、上記(ア)の課題と構成を前提とした具体的な実施態様に関して、「舵の穴が、ほぼ90度の舵角位置でプロペラ軸をプロペラボス部とともに通過させ得るように設けられる」(摘記(2c))及び「以上本発明の実施例について詳述したがこれにより本発明を拘束するものではない。例えば上述の実施例においては、舵4の穴5が舵角90度の位置においてプロペラボス部3の通過を許容するように設けられているが、この穴5を舵角ゼロの位置でプロペラボス部3が通過できるように舵4に形成することも可能である」(摘記(2d))と記載されているように(これらの記載事項を、以下「引用文献2に記載された技術事項2」ともいう。)、プロペラ軸引抜作業における舵の舵角の位置を、「90度の舵角の位置」とすることも、「舵角ゼロの位置」とすることも、具体的な実施態様の一態様であることが明らかであるから、当然のことながら、これらの角度の位置以外の、舵板が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された位置の態様をとることも示唆されているといえるし、当業者であれば、当該態様も想定の範囲内といえる。

そして、引用発明と引用文献2に記載された技術事項2とは、「プロペラ軸の引抜作業を容易にする」旨の課題及び「舵板をプロペラ軸が通過できる構造にする」旨の構成(主要な構成といえる。)が共通しているから、引用発明引用文献2に記載された技術事項2を適用する動機付けは充分にあるといえる。
したがって、上記イを踏まえつつ、引用発明に引用文献2に記載された技術事項2を適用して、引用発明の「当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた状態」を、「前記舵板21」が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された「当該舵板21の側面を上記プロペラ軸2と対向させた」「状態」とすることで、「前記プロペラ軸は、前記舵板が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された状態で取り外される」構成、すなわち、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる。

(3)小括
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 審判請求人の主張について
(1)審判請求人の主張
審判請求人は、当審拒絶理由に対する令和2年1月9付けの意見書の「3.」の「(b)」「(c)」において、以下のとおり主張している。

「引用文献1においては、舵板5を直進位置からほぼ90゜回転させた状態で貫通孔を形成することを前提とした場合に、従来の舵装置において生じる問題点を挙げたうえで、これらの問題点を解決し得る構成によって、舵板5を直進位置からほぼ90゜回転させた状態で貫通孔を形成可能とすることで上記目的を達成しています。引用文献1には、上記の前提の構成について、『かかる位置関係のときに舵板5の切欠量が最も少なくなるからである。』(段落[0010])と明記されており、この構成を前提としているからこそ、舵板に貫通孔を形成する技術思想に至っています。つまり、引用文献1に記載された発明の技術思想は、プロペラ軸の引き抜き作業を容易にするために、舵板に最小の貫通孔を形成可能とすることにあり、舵板5を直進位置からほぼ90゜回転させた状態で貫通孔を形成するという前提を覆し得るものではありません。
一方、本願発明1において、舵板が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された状態でプロペラ軸が取り外される構成としているのは、舵板に通常用いられる操舵制御の開度範囲でプロペラ軸を引き抜き可能とするという技術思想に基づきます。これにより、引用文献1に記載された発明と比較して、舵板に形成する貫通孔が大きくなってしまいますが、それに代えて、別途ラムやラムヘッドのような構成を用いて舵板の連結を外す手間を省略できます。」(以下「主張1」という。)

「引用文献2には、プロペラ軸をプロペラボス部とともに通過させ得るように、舵に穴が形成された船舶に関する技術が記載されています(第2頁第2欄第9行?第15行)。そして、この舵の穴を、ほぼ90度の舵角位置においてプロペラ軸をプロペラボス部とともに通過させ得るように形成する構成の記載とともに、この舵角位置によれば、『その穴を最小にし得る利点がある』との記載があります(第2頁第2欄第24行?第28行)。このように、引用文献2に記載された技術は、引用文献1に記載された発明と同様の技術思想に基づくものであると考えられます。」(以下「主張2」という。)

「この引用文献2には、その他の舵角位置に関しては、『発明の詳細な説明』の末尾に、『この穴5を舵角ゼロの位置でプロペラボス部3が通過できるように舵4に形成することも可能である。』という構成のみが記載されています。つまり、引用文献2には、上記の引用文献1と同様の技術思想に基づく舵角位置(90度)と、ゼロ度の舵角位置(すなわち、舵4を回動させない状態)との2つの舵角位置が記載されているに過ぎません。このように、引用文献2には、舵角90°と舵角ゼロとの間の任意の舵角においてプロペラボス部3が通過できるように穴5を形成してもよい旨を示唆している根拠となる記載は一切ありません。」(以下「主張3」という。)

「令和1年7月22日提出の上申書においても述べたように、前後方向及び左右方向に斜めに傾いた角度に回動された状態でプロペラボス部3を通過させることが可能な構成とすることにより、舵4の強度が著しく低下したり、舵4の左右方向の強度及び重量のバランスが低下したりするおそれがあります。そのため、船舶の操舵を主な機能とする舵4に対し、当業者がこのような構成を安易に採用することは、何らかの示唆がない以上考えられません。 つまり、引用文献2のこの記載に基づいて『プロペラ軸の取り外し時に、適切な舵の舵角位置を選定することは、所期の課題を解決するために、当業者が適宜になし得る事項にすぎない』と判断することは、補正前の本願請求項2の『前記舵板は、前記プロペラ軸の取り外し時に前後方向に斜めに傾いた角度に回動される』という記載に引きずられて解釈した後知恵に他ならないと思料致します。」(以下「主張4」という。)

(2)検討
ア 主張1について
引用文献1(摘記(1c))には、「舵板5を直進状態からほぼ90゜ 回転させた状態で貫通孔を形成することを前提としているのは、かかる位置関係のときに舵板5の切欠量が最も少なくなるからである」と記載され、「切欠量が最も少なくなる」という作用・効果が得られることが記載されているが、当該記載は、上記1(2)ア(ア)で述べた引用発明の課題の解決に直接関連するものではなく、同(イ)で述べたとおり、引用発明は、課題を解決するために、舵板の回転角度まで特定する必要はなく、引用発明は、そもそも、舵板5を直進位置から90度回転させた状態を前提とするものではない。
また、本願の明細書には、主張1の「舵板に通常用いられる操舵制御の開度範囲でプロペラ軸を引き抜き可能とするという技術思想」に係る説明は、一切記載されていない。
したがって、主張1は採用できない。
イ 主張2について
上記1(2)イ(ア)で述べたとおり、引用文献2の課題を解決するために、「舵角位置」(ほぼ90度)まで特定する必要はないといえる。
また、「その穴を最小にし得る利点」は、上記アでのべたことと同様であって、引用文献2の課題の解決に直接関連するものではない。
したがって、主張2は採用できない。
ウ 主張3について
上記1(2)イ(イ)で述べたとおり、引用文献2に記載された事項は、舵板が前後方向に斜めに傾いた角度に回動された位置の態様をとり得ることも示唆しているといえるし、当業者であれば、当該態様も想定の範囲内といえる。
したがって、主張3は採用できない。
エ 主張4について
主張4における「前後方向及び左右方向に斜めに傾いた角度に回動された状態でプロペラボス部3を通過させることが可能な構成とすることにより、舵4の強度が著しく低下したり、舵4の左右方向の強度及び重量のバランスが低下したりする」という不具合は、具体的に、どの程度の角度における、どのような事象を意味しているのか不明である。
また、当業者であれば、プロペラ軸の交換作業に優先して、そのような不具合が発生しないように設計すること、すなわち、舵板の必要な性能を維持するように設計することは、技術常識であり、上記相違点2に係る本願発明の構成を採用したとしても、そのことにより、上記のような不具合が生じるものとはいえない。
したがって、主張4は採用できない。

3 まとめ
以上から、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-24 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-21 
出願番号 特願2015-38884(P2015-38884)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米澤 篤  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
岡▲さき▼ 潤
発明の名称 船舶  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 柳 康樹  
代理人 黒木 義樹  

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