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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K |
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管理番号 | 1363007 |
審判番号 | 不服2019-10547 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-08-08 |
確定日 | 2020-06-11 |
事件の表示 | 特願2016-23752「車両用の駆動力制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年8月17日出願公開、特開2017-140934〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年2月10日の出願であって、平成30年10月30日付け(発送日:平成30年11月6日)で拒絶理由が通知され、平成30年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年5月10日付け(発送日:令和元年5月21日)で拒絶査定がされ、これに対して令和元年8月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 令和元年8月8日の手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 令和元年8月8日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本件補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成30年12月26日の手続補正書)の請求項1に、 「【請求項1】 車輪に駆動力を伝達可能に設けられた回転電機を少なくとも含む原動機と、前記車輪と前記回転電機との間に配置された流体継手と、該流体継手の入力軸側と出力軸側とを直結する完全係合状態と非完全係合状態とに選択的にし得る係合装置と、オイルを用いて前記回転電機を冷却するための冷却装置とを備えた車両用の駆動力制御装置であって、 前記回転電機の温度を取得する温度取得部と、 取得した前記回転電機の温度が第1所定温度より高くなったときに、前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、前記回転電機の温度が第2所定温度を含む所定温度域に維持するように前記係合装置の非完全係合量を制御する非完全係合制御部と、 前記非完全係合制御部により前記係合装置が非完全係合状態にされているとき、該非完全係合による前記原動機から前記車輪への駆動力低下を防ぐように前記原動機の作動を制御する原動機作動制御部と を備える、 車両用の駆動力制御装置。」 とあったものを、 「【請求項1】 車輪に駆動力を伝達可能に設けられた回転電機を少なくとも含む原動機と、前記車輪と前記回転電機との間に配置された流体継手と、該流体継手の入力軸側と出力軸側とを直結する完全係合状態と非完全係合状態とに選択的にし得る係合装置と、オイルを用いて前記回転電機を冷却するための冷却装置とを備えた車両用の駆動力制御装置であって、 前記回転電機の温度を取得する温度取得部と、 取得した前記回転電機の温度が第1所定温度より高くなったときに、前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、前記回転電機の温度が該第1所定温度よりも低く該係合装置を該非完全係合状態で制御するときに目標温度とする第2所定温度を含んで該回転電機の過度の冷却を防ぎつつ快適に作動させる所定温度域に維持するように前記係合装置の非完全係合量を制御する非完全係合制御部と、 前記非完全係合制御部により前記係合装置が非完全係合状態にされているとき、該非完全係合による前記原動機から前記車輪への駆動力低下を防ぐように前記原動機の作動を制御する原動機作動制御部と を備える、 車両用の駆動力制御装置。」 と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。)。 上記補正は、「第2所定温度」について「該第1所定温度よりも低く該係合装置を該非完全係合状態で制御するときに目標温度とする」との限定を付すとともに、「所定温度域」について「第2所定温度を含んで該回転電機の過度の冷却を防ぎつつ快適に作動させる」との限定を付したものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。 2 引用文献、引用発明 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-28279号公報には「ハイブリッド車両」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は、エンジンと発電可能な電動機を動力源とし少なくとも一方の動力から車両の推進力を得る、いわゆるハイブリッド車両に関するものである。 イ 「【0012】 〔第1の実施の形態〕 初めに、この発明に係るハイブリッド車両の第1の実施の形態を図1から図5の図面を参照して説明する。 図1は、第1の実施の形態におけるハイブリッド車両1の動力伝達系の概略構成図である。 このハイブリッド車両1では、エンジン2と発電可能な電動機(以下、モータ・ジェネレータという)3が直結されており、エンジン2とモータ・ジェネレータ3の少なくとも一方の動力が変速機4を介して車両の駆動輪5に伝達されるように構成されている。変速機4はベルト式無段変速機(CVT)であり、モータ・ジェネレータ3の出力軸3aに連結されたトライブプーリ41と、駆動輪5のアクスルシャフト(出力軸)5aに図示しないディファレンシャルギヤ等を介して連結されたドリブンプーリ42と、ドライブプーリ41とドリブンプーリ42に巻き掛けられた無端ベルト43とから構成されている。この変速機4は、両プーリ41,42の有効半径を増減させることにより変速比を無段階に変化させることができるようになっており、各プーリ41,42は有効半径を増減させるための駆動部41a,42aを備えている。そして、コントロールバルブ6によって所定に制御された油圧を駆動部41a,42aに供給することによって、ドライブプーリ41とドリブンプーリ42の有効半径を所望に増減することができ、これによって所望の変速比を得ることができる。」 【0013】 このハイブリッド車両1の減速時に駆動輪5側からモータ・ジェネレータ3側に駆動力が伝達されると、モータ・ジェネレータ3は発電機として機能していわゆる回生制動力を発生し、車体の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し、パワードライブユニット(PDU)7を介してバッテリー8に充電する。この時の回生出力はECU9によってPDU7を介して制御される。 そして、モータ・ジェネレータ3は、バッテリー8に充電された電気エネルギーを消費して駆動されるとともに、ECU9によってPDU7を介して制御される。なお、バッテリー8に代えてキャパシタを用いることも可能である。」 ウ 「【0015】 次に、モータ・ジェネレータ3の過熱防止の原理について説明する。 図2はモータ・ジェネレータ3のトルクと回転数の関係を示すT-N特性図である。周知のように、低回転領域(弱め界磁を必要としない直交領域)では、モータ・ジェネレータ3のトルクは電流値によって決定される。また、前記低回転領域ではモータ・ジェネレータ3の発熱は、電流値と巻線抵抗により決定される銅損が支配的である。したがって、モータ・ジェネレータ3の運転点を低回転高トルク側(例えば、図2においてA点)から高回転低トルク側(例えば、図2においてB点)に変更すると、出力を制限することなく発熱量を減らすことができる。 そこで、この第1の実施の形態では、モータ・ジェネレータ3の温度をモータ温度センサ14で監視し、モータ・ジェネレータ3の温度が所定温度T1を越えた時には、その温度に応じて変速機4の変速比を変更することによりモータ・ジェネレータ3の回転数を増大させて、モータ・ジェネレータ3の運転点を定常温度時(T1以下の時)よりも高回転低トルク側に変更するようにした。」 エ 「【0026】 〔第2の実施の形態〕 次に、この発明に係るハイブリッド車両の第2の実施の形態を図8の図面を参照して説明する。 図8は、第2の実施の形態におけるハイブリッド車両1の動力伝達系の概略構成図である。 第2の実施の形態のハイブリッド車両1が第1の実施の形態のものと相違する点は以下の通りである。 このハイブリッド車両1では、モータ・ジェネレータ3と変速機4の間に、ロックアップクラッチ31を備えたトルクコンバータ32が設けられている。周知のように、トルクコンバータ5は、ロックアップクラッチ31を解放した状態において、モータ・ジェネレータ3の出力軸3aと変速機4の入力軸4aとの間のトルク伝達を流体を介して行うものであり、ロックアップクラッチ31を係合させると、モータ・ジェネレータ3の出力軸3aと変速機4の入力軸4aは実質的に直結された状態となり、前記流体によらず出力軸3aと入力軸4aの間で直接的にトルク伝達が行われる。 【0027】 また、ロックアップクラッチ31の締結度合いはロックアップクラッチ31の作動油圧を制御することにより可変にされており、前記作動油圧はECU9の指令に基づいて油圧回路33によって制御される。 その他の構成については第1の実施の形態のものと同じであるので、同一態様部分に同一符号を付して説明を省略する。 【0028】 次に、第2の実施の形態におけるハイブリッド車両の作用を説明する。 前述した第1の実施の形態では、モータ・ジェネレータ3の温度が上昇した時に変速機4の変速比を変更することによりモータ・ジェネレータ3の出力軸3aの回転数を変更し、モータ・ジェネレータ3の運転点を高回転低トルク側に変更してモータ・ジェネレータ3の過熱を防止したが、この第2の実施の形態では、モータ・ジェネレータ3の温度が上昇した時に変速機4の変速比は変更しないで、ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱めることにより、モータ・ジェネレータ3の出力軸3aの回転数を増大させ、これにより、モータ・ジェネレータ3に流れる電流を下げ、モータ・ジェネレータ3の運転点を出力を変更することなく定常温度時よりも高回転低トルク側に変更して、モータ・ジェネレータ3の発熱を抑制し、過熱を防止する。 【0029】 また、この第2の実施の形態の場合には、モータ・ジェネレータ3の温度が高くなるにしたがって、ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱めるように制御することも可能である。このようにすると、ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱めれば弱めるほどモータ・ジェネレータ3の回転数を高くすることができ、すなわち、ロックアップクラッチ31の締結度合いを制御することでモータ・ジェネレータ3の回転数の増大量を制御することができる。 また、この第2の実施の形態も、第1の実施の形態の場合と同様に、図6あるいは図7に示すような種々の構成のいわゆるパラレル型のハイブリッド車両1に適用可能である。」 上記記載事項及び図面(特に、図8を参照。)の図示内容から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「駆動輪5に動力が変速機4を介して伝達されるように設けられたモータ・ジェネレータ3を少なくとも含む動力源と、前記駆動輪5と前記モータ・ジェネレータ3との間に配置されたトルクコンバータ32と、前記モータ・ジェネレータ3の出力軸3aと前記変速機4の入力軸4aとを直結する状態と解放した状態とに選択的にし得るロックアップクラッチ31とを備えたハイブリッド車両用のECU9であって、 前記モータ・ジェネレータ3の温度を監視するモータ温度センサ14と、 前記モータ・ジェネレータ3の温度が所定温度T1を越えた時に、前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱めることにより、モータ・ジェネレータ3の出力軸3aの回転数を増大させ、これにより、モータ・ジェネレータ3に流れる電流を下げ、モータ・ジェネレータ3の運転点を出力を変更することなく定常温度時よりも高回転低トルク側に変更して、モータ・ジェネレータ3の発熱を抑制し、過熱を防止するように前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを制御するECU9と を備える、 ハイブリッド車両のECU9。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された特開2011-250590号公報には「駆動制御装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。 ア 「【0012】 本発明の駆動制御装置の一形態において、前記駆動装置は、前記回転電機にて回転駆動されるオイルポンプをさらに備え、前記回転電機は、前記オイルポンプから吐出されるオイルにて冷却され、前記制御手段は、前記係合部材が前記係合位置にあり、かつ前記回転電機の温度が所定の冷却判定温度以上の場合に、前記係合部材と前記他方の回転体との間の摩擦力が低減されるように前記駆動手段の動作を制御してもよい(請求項6)。このようにロックアップクラッチを制御することにより回転電機の回転数を上昇させることができるので、オイルポンプから吐出されるオイルの流量を増加させることができる。そのため、回転電機に供給されるオイルの流量を増加させ、回転電機の温度上昇を抑制できる。」 イ 「【0016】 図1は、本発明の一形態に係る駆動制御装置が組み込まれた駆動装置の全体構成を模式的に示している。駆動装置1は回転電機としてのモータ・ジェネレータ2を駆動源として備えている。駆動装置1が車両に搭載されることにより、その車両は電気自動車として構成される。モータ・ジェネレータ2は三相交流で動作する電動機及び発電機として機能する周知のものであり、出力軸としてのロータ軸3と一体回転するロータ2aと、ロータ2aの外周に配置されてケース4に固定されたステータ2bとを備えている。 【0017】 駆動装置1はモータ・ジェネレータ2の動力を流体継手としてのトルクコンバータ5及び変速機構6を介して車両の駆動輪7に伝達するように構成されている。トルクコンバータ5は、流体式の周知のトルクコンバータであり、第1回転体としての入力部8と、第2回転体としての出力部9とを備えている。入力部8は、モータ・ジェネレータ2のロータ軸3と連結されている。出力部9は変速機構6と連結されている。トルクコンバータ5の入力部8はワンウェイクラッチ10にて回転方向が一方向に制限されているとともに、回転機械式のオイルポンプ11に連結されている。これにより、オイルポンプ11はモータ・ジェネレータ2にて駆動される。トルクコンバータ5の入力部8と出力部9との間にはロックアップクラッチ12が設けられている。ロックアップクラッチ12は、入力部8と接触して入力部8と連結される係合位置と、入力部8から離れる解放位置との間で移動可能であり、かつ出力部9と一体に回転する係合部材13を備えている。また、ロックアップクラッチ12は、係合部材13を解放位置に付勢する不図示のリターンスプリングと、油圧が供給された場合に係合部材13をリターンスプリングに抗して係合位置に駆動する不図示のアクチュエータとを備えている。これらにより係合部材13が駆動されるので、リターンスプリング及びアクチュエータが本発明の駆動手段に相当する。この係合部材13が係合位置に移動すると入力部8と出力部9とが連結されるためトルクコンバータ5の差回転が阻止される。すなわち、ロックアップクラッチ12が接続される。一方、係合部材13が解放位置に移動すると入力部8と出力部9との連結が解除されるので、トルクコンバータ5の差回転が許容される。すなわち、ロックアップクラッチ12が解放される。なお、このように係合部材13が設けられることにより、入力部8が本発明の他方の回転体に相当し、出力部9が本発明の一方の回転体に相当する。」 ウ 「【0029】 図5は、モータ・ジェネレータ2の温度上昇を抑制するために実行するMG冷却制御ルーチンを示している。この制御ルーチンにおいて制御ユニット30は、ステップS12まで図3の制御ルーチンと同様に処理を進める。ステップS12において係合部材13が係合位置であると判定した場合はステップS31に進み、制御ユニット30はモータ・ジェネレータ2の温度(MG温度)が予め設定した冷却判定温度以上か否か判定する。なお、冷却判定温度は、例えばモータ・ジェネレータ2の熱容量等に応じて適宜に設定すればよい。MG温度が冷却判定温度未満と判定した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、MG温度が冷却判定温度以上と判定した場合はステップS15に進み、制御ユニット30はロックアップクラッチ解放制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。 【0030】 上述したようにオイルポンプ11はモータ・ジェネレータ2にて駆動される。そのため、このようにロックアップクラッチ12を制御してモータ・ジェネレータ2の回転数を上昇させることによりモータ・ジェネレータ2に供給される冷却用のオイルの流量を増加させることができる。これによりモータ・ジェネレータ2の温度上昇を抑制できる。また、モータ・ジェネレータ2が高温のときの冷却性能を向上できる。」 上記記載事項からみて、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 〔引用文献2記載事項〕 「オイルを用いてモータ・ジェネレータ2を冷却する、車両用の駆動制御装置。」 (3)引用文献3 原査定の拒絶の理由で引用された特開2013-237351号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面を参照して、次の記載がある。 ア 「【0009】 以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。 図1に示されるように、自動車100は、ガソリン燃料を内部で燃焼させて動力を発生させるエンジン1と、電動機および発電機として動作可能な発電電動機(MG)2とを備えている。エンジン1の出力軸3の一端は、ベルト5およびプーリ6,7を介して発電電動機2の回転軸4に連結されている。また、エンジン1の出力軸3の他端は、トルクコンバータ20と、トランスミッション8と、ディファレンシャル9とを介して車軸10に連結されている。トルクコンバータ20は、出力軸3とトランスミッション8とを直結させるオン状態と、この直結を解除するオフ状態とを切り替えるロックアップクラッチ21を有している。また、自動車100のアクセルペダル14の開度を検出するアクセル開度センサ15が設けられている。発電電動機2と、アクセル開度センサ15とはそれぞれ、制御手段であるコントロールユニット(ECU)13に電気的に接続されている。」 イ 「【0012】 続くステップS3において、ECU13は、取得した車速Vと、アクセル開度センサ15による検出値とに基づいて、ロックアップクラッチ21がオフ状態か否かを判定する。ECU13には、ロックアップクラッチ21がオン状態かオフ状態かを判定する判定マップ(図3)が予め組み込まれている。この判定マップは、横軸に車速をとると共に縦軸にアクセル開度をとり、この判定マップ上に、オン状態とオフ状態との境界線Lが描かれている。この境界線Lよりも上方、例えば状態Aのとき、ロックアップクラッチ21はオフ状態であり、この境界線L上及びこれよりも下方のとき、ロックアップクラッチ21はオン状態である。 【0013】 ステップS3において、ロックアップクラッチ21がオン状態であると判定されたら、制御を終了する。一方、ステップS3において、ロックアップクラッチ21がオフ状態であると判定されたら、ECU13は、ロックアップクラッチ21がオン状態となるのに必要な要求駆動力rfを算出する(ステップS4)。 【0014】 要求駆動力rfの具体的な算出手順を説明する。ステップS3における状態が例えば、図3における状態Aであったとすると、ステップS3における車速Vでロックアップクラッチ21がオフ状態となる状態は、状態Aから縦軸に平行に下方に移動した境界線L上の状態Bである。また、ECU13には、横軸に車速をとると共に縦軸にエンジン1の駆動力をとった駆動力マップ(図4)が予め組み込まれており、この駆動力マップには、アクセル開度ごとに車速とエンジン1の駆動力との関係が描かれている。この駆動力マップ上に、状態A及び状態Bをプロットし、状態Aと状態Bとのエンジン1の駆動力の差を算出し、これが要求駆動力rfとなる。 【0015】 次に、ECU13は、算出した要求駆動力rfに基づいて発電電動機2のトルクを算出する(ステップS5)。具体的には、以下の式(1)により、算出した要求駆動力rfから、状態Aと状態Bとのエンジン1のパワー差(ΔW=WA-WB)を算出する。 ΔW=rf×V ・・・(1) また、ECU13には、横軸にエンジン1のパワーをとると共に縦軸にエンジン1の回転数をとった、エンジンパワーと回転数との関係(図5)が予め組み込まれており、状態Bにおけるエンジン1のパワーWBから、状態Bにおけるエンジン1の回転数NBを算出する。そして、以下の式(2)により、発電電動機2のトルクTを算出する。尚、rは、プーリ6,7のプーリ比である。 T=ΔW/NB/r ・・・(2) 【0016】 次に、ステップS6において、算出された発電電動機2のトルクTが発電電動機2の最大トルクTmax以下か否かを判定する。T>Tmaxと判定された場合には、ステップS3における状態ではロックアップクラッチ21をオン状態にすることはできないと判断 し、制御を終了する。一方、T≦Tmaxと判定された場合には、ECU13は、算出されたトルクTが発電電動機2から得られるように、発電電動機2を駆動する(ステップS7)。これにより、ロックアップクラッチ21がオン状態となる。続いて、ECU13は、エンジン1の図示しないインジェクターのデューティ比を低下することにより、要求駆動力rfだけエンジン1の駆動力を低下する(ステップS8)。低下した要求駆動力rfに相当する駆動力の分だけ、エンジン1の燃費が向上することとなる。 【0017】 このように、ロックアップクラッチ21がオフ状態のときに、車速と、アクセル開度とに基づいて、ロックアップクラッチ21がオン状態となるのに必要な要求駆動力rfを算出し、この要求駆動力rfに基づいて発電電動機2のトルクTを算出し、算出されたトルクTが発電電動機2から得られるように発電電動機2を駆動させることにより、エンジン1から出力される駆動力を低下させることができ、またトランスミッション8の伝達効率を向上できるので、自動車100の燃費を向上することができる。」 上記記載事項及び図面(特に、図3ないし5を参照。)の図示内容からみて、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。 〔引用文献3記載事項〕 「ロックアップクラッチ21がオン状態のときには、ロックアップクラッチ21がオフ状態のときよりも、エンジン1から出力される駆動力を低下させることができること。」 3 対比・判断 引用発明と本件補正発明とを対比すると、引用発明における「駆動輪5」は、その機能、構成又は技術的意義から本件補正発明における「車輪」に相当し、以下同様に、「動力が変速機4を介して伝達されるように」は「駆動力を伝達可能に」に、「モータ・ジェネレータ3」は「回転電機」に、「動力源」は「原動機」に、「トルクコンバータ32」は「流体継手」に、「前記モータ・ジェネレータ3の出力軸3a」は「該流体継手の入力軸側」に、「前記変速機4の入力軸4a」は「出力軸側」に、「直結する状態」は「完全係合状態」に、「解放した状態」は「非完全係合状態」に、「ロックアップクラッチ31」は「係合装置」に、「ハイブリッド車両」は「車両」に、「温度を監視するモータ温度センサ14」は「温度を取得する温度取得部」に、「前記モータ・ジェネレータ3の温度が所定温度T1を越えた時に」は「取得した前記回転電機の温度が第1所定温度より高くなったときに」に、それぞれ相当する。 そして、上記2 (1)イ (特に、段落【0013】を参照。) から、引用発明の「ECU9」は駆動力の制御を行っているということができ、上記2 (1)エ (特に、段落【0027】を参照。)から、引用発明の「ECU9」は、ロックアップクラッチ31の締結度合いを制御していることが分かるから、引用発明における「ECU9」は、本件補正発明における「駆動力制御装置」及び「非完全制御部」に相当する。 引用発明における「前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱める」は、本件補正発明における「前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する」に相当するから、引用発明における「前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱めることにより、モータ・ジェネレータ3の出力軸3aの回転数を増大させ、これにより、モータ・ジェネレータ3に流れる電流を下げ、モータ・ジェネレータ3の運転点を出力を変更することなく定常温度時よりも高回転低トルク側に変更して、モータ・ジェネレータ3の発熱を抑制し、過熱を防止するように前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを制御するECU9」と、本件補正発明における「前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、前記回転電機の温度が該第1所定温度よりも低く該係合装置を該非完全係合状態で制御するときに目標温度とする第2所定温度を含んで該回転電機の過度の冷却を防ぎつつ快適に作動させる所定温度域に維持するように前記係合装置の非完全係合量を制御する非完全係合制御部」とは、「前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、回転電機の発熱を抑制するように前記係合装置を制御する非完全係合制御部」という限りにおいて一致している。 よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 〔一致点〕 「車輪に駆動力を伝達可能に設けられた回転電機を少なくとも含む原動機と、前記車輪と前記回転電機との間に配置された流体継手と、該流体継手の入力軸側と出力軸側とを直結する完全係合状態と非完全係合状態とに選択的にし得る係合装置とを備えた車両用の駆動力制御装置であって、 前記回転電機の温度を取得する温度取得部と、 取得した前記回転電機の温度が第1所定温度より高くなったときに、前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、回転電機の発熱を抑制するように前記係合装置を制御する非完全係合制御部と、 を備える、 車両用の駆動力制御装置。」 〔相違点1〕 本件補正発明においては「オイルを用いて前記回転電機を冷却するための冷却装置」を備えているのに対して、引用発明においては、オイルを用いてモータ・ジェネレータ3を冷却するのか否か不明な点。 〔相違点2〕 「前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、回転電機の発熱を抑制するように前記係合装置を制御する非完全係合制御部」に関して、本件補正発明においては、前記係合装置を前記非完全係合状態に制御する非完全係合制御部であって、「前記回転電機の温度が該第1所定温度よりも低く該係合装置を該非完全係合状態で制御するときに目標温度とする第2所定温度を含んで該回転電機の過度の冷却を防ぎつつ快適に作動させる所定温度域に維持するように前記係合装置の非完全係合量を制御する」非完全係合制御部であるのに対して、引用発明においては、前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを弱めることにより、前記モータ・ジェネレータ3の出力軸3aの回転数を増大させ、これにより、モータ・ジェネレータ3に流れる電流を下げ、モータ・ジェネレータ3の運転点を出力を変更することなく定常温度時よりも高回転低トルク側に変更して、モータ・ジェネレータ3の発熱を抑制し、過熱を防止するように前記ロックアップクラッチ31の締結度合いを制御するECU9である点。 〔相違点3〕 本件補正発明においては「前記非完全係合制御部により前記係合装置が非完全係合状態にされているとき、該非完全係合による前記原動機から前記車輪への駆動力低下を防ぐように前記原動機の作動を制御する原動機作動制御部」を備えるのに対して、引用発明においては、かかる事項を備えていない点。 上記相違点1について検討する。 引用文献2記載事項は上記のとおり「オイルを用いてモータ・ジェネレータ2を冷却する、車両用の駆動制御装置。」というものである。 しかも、引用文献2記載事項は、モータ・ジェネレータの温度が冷却判定温度以上と判定された場合に、ロックアップクラッチの解放制御を実行する(上記2 (2)ウ を参照。)という点で引用発明と共通するものである。 そうすると、引用発明に引用文献2記載事項を参酌し、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。 上記相違点2について検討する。 回転電機を冷却する際に、過度の冷却を防ぐことは本願の出願前に周知の課題である(例えば、特開2013-193511号公報の段落【0053】及び【0061】、特開2008-260374号公報の段落【0011】及び【0061】を参照。)。 また、一般に、冷却する際に、所定温度を越えた場合に該所定温度よりも低い目標温度を設定して冷却を行うことは、当業者が普通に行っている事項である。 以上を踏まえると、回転電機を冷却する際に、第1所定温度よりも低い第2所定温度を目標として、第2所定温度を含んで過度の冷却を防ぎつつ快適に作動させる所定温度域に維持するように前記係合装置の非完全係合量を制御することは、当業者が容易になし得たことである。 上記相違点3について検討する。 引用文献3記載事項は上記のとおり「ロックアップクラッチ21がオン状態のときには、ロックアップクラッチ21がオフ状態のときよりも、エンジン1から出力される駆動力を低下させることができること。」というものである。 引用文献3記載事項は、ロックアップクラッチ21がオフ状態のときには、ロックアップクラッチ21がオン状態のときよりも、エンジン1から出力される駆動力を大きくすることを示唆するものである。 ここで、引用文献3記載事項における「ロックアップクラッチ21がオフ状態」は、その機能、構成または技術的意義から見て、本件補正発明における「係合装置が非完全係合状態」に相当し、同様に、「ロックアップクラッチ21がオン状態」は「係合装置が完全係合状態」に相当する。 そして、係合装置が非完全係合状態のときには、係合装置が完全係合状態のときよりも、原動機から車輪に伝達される駆動力が低下するという技術常識を踏まえると、引用文献3記載事項は、係合装置が非完全係合状態にされているとき、該非完全係合による原動機から車輪への駆動力低下を防ぐように原動機の作動を制御することを示唆するものといえる。 そうすると、引用発明において、引用文献3記載事項を参酌し、非完全係合制御部により係合装置が非完全係合状態にされているとき、該非完全係合による原動機から車輪への駆動力低下を防ぐように前記原動機の作動を制御する原動機作動制御部を備えた構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものとはいえない。 したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年12月26日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのもの、すなわち、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は次のとおりである。 (進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1に対して:引用文献1ないし3 <引用文献等一覧> 1.特開2004-28279号公報 2.特開2011-250590号公報 3.特開2013-237351号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2004-28279号公報)、引用文献2(特開2011-250590号公報)及び引用文献3(特開2013-237351号公報)の記載事項及び認定事項は、前記「第2〔理由〕2 (1)ないし(3)」に記載したとおりである。 4 当審の判断 本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本件補正発明において、「第2所定温度」について「該第1所定温度よりも低く該係合装置を該非完全係合状態で制御するときに目標温度とする」との限定事項を省き、「所定温度域」について「第2所定温度を含んで該回転電機の過度の冷却を防ぎつつ快適に作動させる」との限定事項を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本件補正発明が、前記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 まとめ したがって、本願発明は、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-03-25 |
結審通知日 | 2020-03-31 |
審決日 | 2020-04-21 |
出願番号 | 特願2016-23752(P2016-23752) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60K)
P 1 8・ 575- Z (B60K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 神山 貴行 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
鈴木 充 北村 英隆 |
発明の名称 | 車両用の駆動力制御装置 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |