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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1363022
審判番号 不服2019-5462  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-24 
確定日 2020-06-12 
事件の表示 特願2015-245386「インクジェット記録用紙」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月22日出願公開、特開2017-109381〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月16日の出願であって、平成30年9月10日付けで拒絶理由が通知され、同年10月25日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成31年1月30日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年4月24日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。その後、令和元年8月6日に上申書が提出されている。


第2 本件補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月24日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成30年10月25日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1の
「 主成分としてパルプを含有し、さらに、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙であって、当該インクジェット記録用紙がインク定着剤、前記パルプの繊維間結合の阻害作用を有する嵩高剤およびポリビニルアルコールを含有し、インク定着剤がカチオン性高分子であり、ポリビニルアルコールのケン化度が85?100mol%であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」を、
「 主成分としてパルプを含有し、さらに、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙であって、当該インクジェット記録用紙がインク定着剤、前記パルプの繊維間結合の阻害作用を有する嵩高剤およびポリビニルアルコールを含有し、インク定着剤がカチオン性高分子であり、ポリビニルアルコールのケン化度が85?100mol%であり、当該インクジェット記録用紙が書籍用紙であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」(以下、「本件補正発明」という。また、下線部は補正箇所を示す。)
に補正する補正事項を含むものである。

2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「インクジェット記録用紙」について、「書籍用紙」であるとする限定を付加するものであり、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえる。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願出願前の平成20年4月17日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2008-87266号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。
なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の引用文献についても同様である。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙にカチオン性化合物を含有する塗料を付着させてなるインクジェット記録シートで、カチオン性化合物の固形付着量を両面で2.0?5.0g/m^(2)付着させ、かつJIS P8122に準拠するステキヒトサイズ度を20?50秒に調整してなるインクジェット記録シートにおいて、該インクジェット記録シートに用いられる原紙が、少なくともJIS Z8807に示される見かけ比重0.4以下の低密度填料を紙質量当たり5%以上15%以下含有し、該原紙の密度が0.55g/cm^(3)以上0.75g/cm^(3)以下であることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項2】
前記見かけ比重0.4以下の低密度填料が、アルミノ珪酸塩であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録シート。
【請求項3】
前記カチオン性化合物が、トリメチルアミン・エピクロルヒドリン化合物またはジメチルアミン・エピクロルヒドリン化合物を含むことを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録シート。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性インクを用いて記録するインクジェット記録シートに関するものであり、更に詳しくは、特に嵩があり、不透明度に優れ、記録密度の高い高精細なバーコードなどを印字したときでも、画像品位、読み取り品質、インク吸収性、画像耐水性が良好であり、製造時において操業性に優れるインクジェット記録シートに関するものである。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、嵩高感、不透明度、画像品位、読み取り品位、インク吸収性、画像耐水性に優れたインクジェット記録シートを操業性よく提供することである。

(中略)

【発明の効果】
【0009】
本発明により、特に嵩があり、不透明度に優れ、記録密度の高い高精細なバーコードなどを印字したときでも、画像品位、読み取り品質、インク吸収性、画像耐水性が良好であるインクジェット記録シートを操業性よく提供することが可能となる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のインクジェット記録シートを詳細に説明する。
はじめに、本発明におけるインクジェット記録シート用原紙について述べる。本発明者は、まず、安定的に該原紙を製造する為の填料の比重と添加量に関して鋭意検討を行った。該原紙を製造する場合には、プレス・カレンダーといった製造条件も調整して製造することが必要であるが、実際には、プレス・カレンダー共に、一定の線圧以上に圧力をかけないと、幅手でのプロファイルがとれなかったり、紙の走行中にシワが入るなど、操業性を著しく悪化させる。そこで、比重の軽い填料を紙中に内添させ、紙全体の嵩を出しやすくすることで、該原紙を製造する際に、プレス・カレンダーにおいて、一定の圧力がかけられるようにできる。そして、少なくとも該原紙において、JIS Z8807に示される見かけ比重0.4以下の填料(以下本発明においては低密度填料とする)を紙質量当たり5質量%以上含有させることが必要であることを見出した。このように低密度填料を含有して原紙を抄造することで、紙層間に小さな空隙が生じ、原紙そのものがインク吸収層の役目を果たすことになり、インク吸収性が向上する。
【0011】
本発明に用いられるパルプとしては、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、LBSP(広葉樹晒亜硫酸パルプ)、NBSP(針葉樹晒亜硫酸パルプ)など従来から知られている化学パルプの何れもが使用でき、またGP(グランドパルプ)やTMP(サーモメカニカルパルプ)など各種の機械パルプ、さらには古紙パルプや非木材パルプ、合成パルプ、各種パルプ繊維をマーセル化など化学的処理を加えたパルプについても原紙の品質を損なわない範囲で単独にあるいは併用して使用する事が可能である。
【0012】
本発明に用いられる低密度填料としては、JIS Z8807で示される見かけ比重0.4以下である填料であれば、如何なる公知の填料をも用いることが出来る。例えば、水和珪酸塩、アルミノ珪酸塩、中空粒子、有機填料、無機填料などが挙げられる。好ましくは、アルミノ珪酸塩を用いることが印字品質、操業性の点において好ましい。

(中略)

【0014】
本発明で用いられるパルプスラリー中には、一般に知られる各種の抄紙用助剤を用いることが出来る。例えば、紙力剤として澱粉、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ガラクトマンナンなど、湿潤紙力剤としてポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂など、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー、アルケニルまたはアルキルコハク酸無水物、脂肪酸金属塩、脂肪酸、エポキシ系高級脂肪酸アミド、ロジン誘導体など、定着剤として塩化アルミニウム、硫酸バンドなどの水溶性アルミニウム塩など、pH調整剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸、塩酸など、他に歩留まり向上剤、染料、顔料、蛍光増白剤、を適宜組み合わせて含有すると有利である。
【0015】
また、本発明においては、低密度化を進めるために、嵩高剤または紙厚向上剤を添加する方が好ましい。嵩高剤としては、一般に知られている公知の嵩高剤が使用でき、例えば、ノニオン系界面活性剤や脂肪酸ポリアミドアミン等が挙げられる。
【0016】
本発明の原紙の製造方法において使用する抄紙機は、一般的な抄紙機であれば特に制限は無く、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ハイブリット抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機、各種のコンビネーション抄紙機など製紙業界で公知の抄紙機を適宜使用できるが、抄紙機ウェットパートおよびプレスパートにおいて紙匹に加える外力をできる限り穏やかにする設備や運転条件が望ましく、例えば、湿った状態の紙匹を低圧で処理できるシュープレスや乾燥後の平滑化処理をソフトカレンダーで行う事は、本発明の嵩高効果を損ねず望ましい方法である。
【0017】
次にインク吸収層について述べる。従来から、インクジェット記録方式に用いられる直接染料や酸性染料を含有する水溶性インクの画像耐水性を向上させるためには、染料のアニオン性部分とカチオン性物質の反応による染料の定着と耐水化処理が有効であることは自明のことであるが、従来の技術として、画像耐水性を少量のカチオン性物質で付与し、画像品位(フェザリング)をサイズ剤によるサイズ性をコントロールで両立させるという観点に主眼を置いていたため、高速インクジェットプリンティングの作業性と従来求められている品質を両立させた場合、本発明で課題としている記録密度の高い高精細なバーコード等の読み取りに対して十分な品質が得られない。そこで、本発明は従来とは異なり、カチオン性樹脂を従来では想像もしない量を付着させることにより、極めて優れた画像品位が得られることを見出し、さらにはサイズ性のコントロールと組み合わせることが、特に有効であることを見出して本発明に至った。本来画像耐水性の向上に使用されているカチオン性樹脂を多量に使用するため、インクセット性を全く低下させずに、極めて優れた画像品位を得ることが出来る。
【0018】
本発明で使用するカチオン性樹脂は、水に溶解したときカチオン性を呈する1級?3級アミンまたは4級アンモニウム塩のモノマー、オリゴマー、ポリマーであり、好ましくは、オリゴマーまたはポリマーである。特に、カチオン性樹脂が、トリメチルアミン・エピクロルヒドリン化合物またはジメチルアミン・エピクロルヒドリン化合物を主成分とする化合物である時に優れた画像品位と画像耐水性が得られる。
【0019】
本発明において、カチオン性樹脂の固形付着量が2.0g/m^(2)より少ないと、たとえステキヒトサイズ度が20?50秒の範囲にあっても、インクセット性が劣るため印字ムラが顕著となり、例えば「UCC/EAN128コード」のような高精細なバーコードに対して、十分な読み取り品質が得られない。また、カチオン性樹脂が5.0g/m^(2)を超えた場合、インクの滲みが少なすぎてインクドット間に隙間が生じることとなり、バーコードではバーの印字部分に白抜けが発生し、「UCC/EAN128コード」のような高精細なバーコードに対して、十分な読み取り品質が得られなくなる。加えて、カチオン成分に由来して、金属部分で錆が発生しやすくなり、抄紙機や印刷機でのトラブルが懸念されるため好ましくない。

(中略)

【0021】
カチオン性樹脂を付着させる方法としては、サイズプレス、ゲートロールコーター、前計量型トランスファロールコーターの他、ブレードコーター、ロッドコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターなど各種塗工機で塗工することも可能であるが、コスト、及び一工程で紙の両面を処理できる点からは抄紙機に設置されているサイズプレス、ゲートロールコーター、前計量型トランスファロールコーターなどによってカチオン性樹脂を付着させ、オンマシンで仕上げるのが望ましい。

(中略)

【0024】
本発明のインクジェット記録シートにおいては、カチオン性樹脂、表面サイズ剤と同時に各種バインダーも必要に応じて用いられ、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉または各種変性澱粉、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダ、ハイドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールまたはそれらの誘導体などを単独或いは併用して使用することができる。操業性、コストの面から澱粉の使用が好ましい。本発明でいう澱粉には、上記の酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、各種変性澱粉が含まれる。
【0025】
カチオン性樹脂と共にバインダーを併用する場合、バインダーの固形付着量が少なくなるとカチオン性樹脂の効果が得られやすくなるため、インクジェット印字部の印字濃度、印字濃度ムラは良好になるが、耐刷性が悪化傾向となる。また、バインダーの固形付着量が多くなると凸版印刷やオフセット印刷等における耐刷性は良好になるが、カチオン性樹脂の効果が小さくなる、あるいはバインダーの塗布ムラが起きやすく、インクジェット印字部の印字濃度、印字濃度ムラは悪化する傾向となる。そのため、バインダーの固形付着量としては、両面で1.0?3.0g/m^(2)が好ましい。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項ウの「そこで、比重の軽い填料を紙中に内添させ、紙全体の嵩を出しやすくすることで、該原紙を製造する際に、プレス・カレンダーにおいて、一定の圧力がかけられるようにできる。そして、少なくとも該原紙において、JIS Z8807に示される見かけ比重0.4以下の填料(以下本発明においては低密度填料とする)を紙質量当たり5質量%以上含有させることが必要であることを見出した。このように低密度填料を含有して原紙を抄造することで、紙層間に小さな空隙が生じ、原紙そのものがインク吸収層の役目を果たすことになり、インク吸収性が向上する。」(段落【0010】)、「本発明に用いられるパルプとしては、・・・など従来から知られている化学パルプの何れもが使用でき、また・・・など各種の機械パルプ、さらには古紙パルプや非木材パルプ、合成パルプ、各種パルプ繊維をマーセル化など化学的処理を加えたパルプについても原紙の品質を損なわない範囲で単独にあるいは併用して使用する事が可能である。」(段落【0011】)、「また、本発明においては、低密度化を進めるために、嵩高剤または紙厚向上剤を添加する方が好ましい。嵩高剤としては、一般に知られている公知の嵩高剤が使用でき、例えば、ノニオン系界面活性剤や脂肪酸ポリアミドアミン等が挙げられる。」(段落【0015】)との記載、「そこで、本発明は従来とは異なり、カチオン性樹脂を従来では想像もしない量を付着させることにより、極めて優れた画像品位が得られることを見出し、さらにはサイズ性のコントロールと組み合わせることが、特に有効であることを見出して本発明に至った。」(段落【0017】)、「カチオン性樹脂を付着させる方法としては、・・・など各種塗工機で塗工することも可能であるが、・・・抄紙機に設置されているサイズプレス、ゲートロールコーター、前計量型トランスファロールコーターなどによってカチオン性樹脂を付着させ、オンマシンで仕上げるのが望ましい。」(段落【0021】)、「本発明のインクジェット記録シートにおいては、カチオン性樹脂、表面サイズ剤と同時に各種バインダーも必要に応じて用いられ、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉または各種変性澱粉、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダ、ハイドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールまたはそれらの誘導体などを単独或いは併用して使用することができる。」(段落【0024】)との記載に基づけば、引用文献1には、低密度填料を紙質量当たり5質量%以上含有させて抄造することで、紙全体の嵩を出しやすくし、インクジェット記録シート用原紙そのものがインク吸収層の役目を果たすことになり、インク吸収性を向上させた原紙であって、パルプを使用し、低密度化を進めるために嵩高剤を添加した原紙を抄造し、カチオン性樹脂、表面サイズ剤と同時に、バインダーとしてポリビニルアルコールを付着させて得たインクジェット記録シートの発明が記載されていたといえる。
したがって、引用文献1の記載事項ウに基づけば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「JIS Z8807に示される見かけ比重0.4以下の低密度填料を紙質量当たり5質量%以上含有させて抄造することで、紙全体の嵩を出しやすくし、インクジェット記録シート用原紙そのものがインク吸収層の役目を果たすことになり、インク吸収性を向上させた、インクジェット記録シート用原紙であって、パルプを使用し、低密度化を進めるために嵩高剤を添加してインクジェット記録シート用原紙を抄造し、
インクジェット記録シート用原紙に、カチオン性樹脂、表面サイズ剤と同時に、バインダーとしてポリビニルアルコールなどを付着させて得た、
インクジェット記録シート。」

(3)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成16年4月15日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2004-114627号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録媒体に関し、特に普通紙タイプでありながら、画質に優れ、また、印字部の耐水性に優れたインクジェット記録媒体に関する。

(中略)

【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は上記従来の問題点を解決し、フェザーリングとブリーディングのバランスが良く、高画質な印字が可能で、かつ高いインク耐水性を有する普通紙タイプのインクジェット記録媒体を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの検討の結果、特に原紙中に古紙を配合する場合は、古紙パルプを製造される工程において、脱墨処理で使用される界面活性剤などがパルプ中に残留する。普通紙タイプのインクジェット記録媒体の場合は記録層をほとんど設けないため、原紙パルプの性質が印字品質に大きく影響することがわかった。
【0009】
本発明者らは研究を行った結果、水溶性高分子、二価以上の金属を含有する水溶性無機塩、及び、カチオン化度が4?8meq/g以上かつ分子量が10万以上であるカチオン性樹脂を主材とする塗工液を含浸または塗工することで印字濃度が高くかつ、印字部のインク耐水性に優れたインクジェット記録媒体を得られること、特に原紙中に古紙パルプが配合されている場合であっても顔料を含む記録層を設けることなく、目的とするインクジェット記録媒体を得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
従って、本発明は(1)ステキヒトサイズ度が10秒以下の原紙に水溶性高分子、二価以上の金属を含有する水溶性無機塩、及び、カチオン化度が4?8meq/g以上かつ分子量が10万以上であるカチオン性樹脂を主材とする塗工液を塗布または含浸することを特徴とする普通紙タイプのインクジェット記録媒体である。また、本発明は水溶性高分子がポリビニルアルコールである(1)のインクジェット記録媒体である。また、本発明はインクジェット記録媒体のステキヒトサイズ度が0?10秒である(1)または(2)のインクジェット記録媒体である。さらに、本発明は原紙中に古紙パルプを50%以上含有する(1)?(3)のインクジェット記録媒体である。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】
次に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に用いられる原紙とは木材セルロース繊維を原料とする未塗工の紙であり、この紙は抄紙用パルプを主体として構成される。抄紙用パルプとしてはLBKP、NBKP等の化学パルプや、GP、TMP等の機械パルプ及び古紙パルプが挙げられるが、本発明は特にこれらに限定されるものではなく、また、これらは必要に応じて単独または併用して用いることができるが、省資源、都市ごみ処理対策などの環境問題に対して配慮するという点において古紙パルプを含有することができる。

(中略)

【0015】
本発明の塗工液に用いる水溶性高分子は、具体的にはデンプン、酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオン化デンプン、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、カゼインなどをあげることができるが、これらは必要に応じて単独または併用して用いることができる。特に、そのバインダーの透明性から発色が良好なポリビニルアルコールを使用することが好ましい。」

ウ 「【0027】
(実施例1)
上記で作成した原紙1に、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)1%、硫酸マグネシウム1%、カチオン性樹脂1%(カチオン化度5meq/g、MWn1.0×10^(5)、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)をそれぞれ固形分で含有する塗工液を塗工量が乾燥固形分で4.5g/m^(2)(片面当たり2.25g/m^(2))となるように、2ロールサイズプレス機により、含浸塗工、乾燥してマシンカレンダー仕上げをして実施例1のインクジェット記録媒体を得た。ステキヒトサイズ度は0秒であった。
【0028】
(実施例2)
上記で作成した原紙1に、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)1%、硫酸マグネシウム1%、カチオン性樹脂1%(カチオン化度7meq/g、MWn1.0×10^(5)、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)をそれぞれ固形分で含有する塗工液を塗工量が乾燥固形分で4.5g/m^(2)(片面当たり2・25g/m^(2))となるように、2ロールサイズプレス機により、含浸塗工、乾燥してマシンカレンダー仕上げをして実施例2のインクジェット記録媒体を得た。ステキヒトサイズ度は0秒であった。
【0029】
(実施例3)
上記で作成した原紙1に、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)1%、硝酸マグネシウム1%、カチオン性樹脂1%(カチオン化度5meq/g、MWn1.0×10^(6)、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)をそれぞれ固形分で含有する塗工液を塗工量が乾燥固形分で4.5g/m^(2)(片面当たり2・25g/m^(2))となるように、2ロールサイズプレス機により、含浸塗工、乾燥してマシンカレンダー仕上げをして実施例3のインクジェット記録媒体を得た。ステキヒトサイズ度は0秒であった。
【0030】
(実施例4)
上記で作成した原紙2に、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)1%、硝酸マグネシウム1%、カチオン性樹脂1%(カチオン化度5meq/g、MWn1.0×10^(5)、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)をそれぞれ固形分で含有する塗工液を塗工量が乾燥固形分で4.5g/m^(2)(片面当たり2・25g/m^(2))となるように、2ロールサイズプレス機により、含浸塗工、乾燥してマシンカレンダー仕上げをして実施例4のインクジェット記録媒体を得た。ステキヒトサイズ度は3秒であった。」

(4)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の昭和61年7月4日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開昭61-146591号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「(A) 産業上の利用分野
本発明はインクを用いて記録する記録媒体に関するものであり、特に媒体上に記録された画像や文字の濃度が高く、吸収性及び記録画像の保存性に優れたインクジェット用記録媒体に関するものである。」(第1頁左下欄第10?15行)

イ 「(C) 発明の目的
本発明は、前述したようなインクジェット適性を改善し、水性インク画像の耐水性及び耐光性にも優れた、特に水溶性黒色染料及び/又は水溶性マゼンタ染料の耐光性、耐変色性を改善した記録媒体を提供することを目的とする。
(D) 発明の構成及び作用
即ち、本発明は水溶性染料を含有する水性インクを用いて記録画像を形成するインクジェット記録媒体に於いて、該記録媒体がヒンダードアミン系化合物を含有するインクジェット記録媒体である。」(第2頁右下欄第7?18行)

ウ 「 本発明では前記ヒンダードアミン系化合物を含有する記録媒体の作成方法としては、パルプ繊維を離解してスラリーとし抄紙機で抄造せしめる際、途中に設けたサイズプレス装置等の適当な塗工機でヒンダードアミン系化合物を溶解又は分散した塗工液を浸漬または塗布して、含有させる方法、更に適当な支持体にヒンダードアミン系化合物を含有する塗工液を通常の塗工装置を用いて塗布してヒンダードアミン系化合物を含有するインク受理層を設ける方法や、インク吸収性顔料及び接着剤等からなるインク受理層の上に溶解又は分散したヒンダードアミン系化合物を塗布する方法等がある。この場合一般に使われる填料や顔料、接着剤及びその他の添加剤を併用することも可能である。また、画像の耐水性を付与する必要があれば、カチオン性樹脂を併用することも可能であり、本発明に於いては、耐水性、耐光性を同時に向上させるためには、むしろ、積極的に使用するのが望ましい。」(第3頁右下欄第8行?第4頁左上欄第6行)

エ 「 本発明で使用出来る接着剤としては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆タン白、ポリビニルアルコール及びその誘導体、無水マレイン酸樹脂、通常のスチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、或はこれらの各種重合体のカルボキシル基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス、メラミン樹脂、尿素樹脂、等の熱硬化合成樹脂系等の水性接着剤、及びポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤が、単独あるいは複合して用いられる。これらの接着剤は顔料100部に対して2部?120部、好ましくは5部?50部が用いられるが顔料の結着に充分な量であればその比率は特に限定されるものではない。しかし、120部以上の接着剤を用いると接着剤の造膜により、空隙構造を減らし、あるいは空隙を極端に小さくしてしまうため、好ましくない。」(第4頁右下欄第7行?第5頁左上欄第12行)

オ 「(E) 実施例
以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、これらの例に限定されるものではない。尚実施例に於いて示す部及び%は重量部及び重量%を意味する。
実施例1
濾(合議体注:公報では、簡易慣用字体である、さんずいに「戸」からなる漢字が用いられているが、入力不可能であるため、置き換えた。以下、同様である。)水度350ml csfのLBKP70部及び濾水度400ml csfのNBKP30部からなるパルプスラリーに重質炭酸カルシウム18部、カチオン澱粉1部及びアニオン性高分子量歩留り向上剤0.01部を添加して長網抄紙機で坪量68g/m^(2)の紙を抄造した。抄紙機の途中に設けたサイズプレス装置で、ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA117)3部、カチオン性樹脂(日華化学社製ネオフィックスRP-70)2部及び下記構造式を持つヒンダードアミン化合物0.2部を酢酸を含む水94.8部


(中略)

に溶解したサイズプレス液を水込みで60g/m^(2)付着、乾燥して常法通り仕上げ、実施例1の記録用紙とした。この記録用紙についてインクジェット適性を測定した結果を表1に示す。」(第7頁左下欄第7行?同頁右下欄第8行)

(5)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成2年2月2日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開平2-32891号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明は被記録材および記録方法に関し、更に詳しくは水性インクによって記録するための被記録材およびそれを用いるインクジェット記録方法に関する。」(第1頁右下欄第15?19行)

イ 「 もちろん、本発明に於いては、紙の表面強度等を改善する目的でポリビニルアルコールやでんぷん等を表面サイジングしても良く。この結果、最終的に得られる被記録材のステキヒト・サイズ度が10?60秒の範囲内、より好ましくは15?40秒の範囲内とすることが好適である。」(第4頁右上欄第10?15行)

ウ 「実施例1
広葉樹さらしクラフトパルプ(LBKP、ショッパー濾水度46°SR)95部と針葉樹さらしクラフトパルプ(NBKPショッパー濾水度55°SR)5部とを混合して原料パルプとした。
この原料パルプ100部に対してタルク20部とロジンサイズ剤、硫酸アルミニウムを配合し、1度水抜きを行ってから、更にタルク15部を配合して、坪量81.4g/m^(2)の被記録材を得た。
この被記録材の灰分量は8.27%、記録面表層の填料含有量は12.9%であり、ロジンサイズ剤の含有量は0.81%であった。
更に、上記の被記録材上に下記の塗工液を乾燥塗工量で3g/m^(2)となるように、バーコーター法で塗工し、本発明の被記録材Aを得た。このステキヒトサイズ度は29秒であった。
(塗工液組成)
ポリビニルアルコール(PVA-105クラレ製) 2部
カチオン性樹脂(PAA-105日東紡製) 4部
水 94部」
(第7頁右下欄第1?20行)

(6)引用文献5の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成14年6月18日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2002-172851号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクジェット方式のプリンタを用いた印字システムに供されるOCR用紙において、紙基材の両面に、多価金属塩類とカチオン性樹脂と水溶性バインダとを含む混合物を付着させたことを特徴とするOCR用紙。

(中略)

【請求項8】 水溶性バインダが鹸化度98%以上のポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のOCR用紙。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば高速インクジェット方式のプリンタなどに好適なOCR用紙に係り、特に、耐水性が良好で、且つ、印字濃度が高いOCR用紙に関する。
【0002】
【従来の技術】OCR(Optical Character Reader)システムは、帳票(OCR用紙)に印刷、手書き等で記された情報を、光を当てたときの反射光の差異によって読み取るというシステムである。帳票(OCR用紙)に書き込まれた情報を人の手を介さずに直接入力できるOCRシステムは、入力精度、速度、コスト等の面から、非常に優れた入力システムである。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような高速インクジェット方式のプリンタに使用されるインクは非常に水分が多いため、従来のOCR用紙を用いると画像・印字が滲んでしまう上、インク(黒)の印字(発色)濃度が低く、OCR読み取り機で文字を読み取るときに誤認識をする可能性があった。
【0007】また、これらの問題点を考慮してインクジェット専用紙のように塗工層を設けたOCR用紙を使用した場合、画像・印字の滲みは防ぐことができるが、印字濃度の問題は依然として解決されない。仮に、これらを改良した塗工層を有するOCR用紙を用いようとすると、コスト高となり、高速インクジェット記録方式のプリンタを導入する長所に欠ける。
【0008】この発明は、上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、インクジェット方式のプリンタで印字を行った場合にも、充分な印字濃度が得られ、且つ、印字後に印字部が濡れてもインクが滲んだり溶出したりせず、印字内容が損なわれないOCR用紙を提供するものである。

(中略)

【0012】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明のOCR用紙は、インクジェット方式のプリンタを用いた印字システムに供されるOCR用紙において、紙基材の両面に、多価金属塩類とカチオン性樹脂と水溶性バインダとを含む混合物を付着させたものである。
【0013】このような構成によれば、多価金属塩類によりインク染料が用紙表層部に定着され、且つ、カチオン性樹脂によりインク染料が耐水化されることにより、良好な印字濃度と耐水性を持った普通紙タイプのOCR用紙が得られる。また、水溶性バインダを使用することにより、より強い耐水性が得られ、更に、用紙の表面強度も向上する。本発明のOCR用紙は耐水性が非常に良好であり、印字後に多湿な環境下に置かれたり水に濡れるなどのトラブルが生じても、インクが滲んだり溶出したりせず、印字内容が損なわれない。」

ウ 「【0066】本発明では、OCR用紙の表面強度や耐水性の向上のため、水溶性バインダを紙表面に塗工する。本発明において水溶性バインダは、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、澱粉、酸化澱粉、カルボキシメチルセルロースなど、公知のものを一種または二種以上使用することができるが、耐水性や表面強度への寄与の点からポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールが好ましく、その中でも特に鹸化度が98%以上の耐水性の高いものが最も好ましい。」

エ 「【0077】〈実施例1〉パルプ原料として、L-BKP(フリーネス470ml)70重量%、N-BKP(フリーネス450ml)15重量%、古紙パルプ15重量%をゴミなどの夾雑物を充分に除去して使用する。このパルプ原料に、内添サイズ剤としてロジンエマルジョン(商品名:サイズパインN-771、荒川化学工業社製)0.1重量%、填料として焼成カオリン(商品名:アルファテックス、ECCインターナショナル社製)2.5重量%及びタルク(商品名:EZタルク、勝光山工業社製)4.5重量%、黄色系染料、硫酸バンド、アルミン酸ソーダ、紙力増強剤としてカチオン化澱粉(商品名:アミロファックス00、AVEBE社製)を混合して紙匹を形成する。尚、上記使用量は全て対パルプ重量%である。得られた紙基材のステキヒトサイズ度は21秒であった。この紙基材に、サイズプレス工程で、カチオン性樹脂(商品名:WSC-173、明成化学工業社製)、ポリビニルアルコール(商品名:ゴーセノールN-300、日本合成化学社製)、塩化マグネシウムを所定の割合で混合した溶液を、各々固形分換算で両面当たり、3.0g/m^(2)、1.5g/m^(2)、1.0g/m^(2)となるように塗工する。こうして得られたOCR用紙は、ステキヒトサイズ度18秒、坪量88g/m^(2)であった。
【0078】〈実施例2〉坪量を108g/m^(2)とする以外は、実施例1と同様に実施した。得られたOCR用紙のステキヒトサイズ度は54秒であった。

(中略)

【0089】(1)高速インクジェット記録方式プリンタにおける適性評価
高速インクジェット記録方式における各種適性については、上記各実施例及び比較例で得られたOCR用紙に、高速インクジェット方式のプリンタで黒インクを使用して、150m/minの処理速度で印字を行った場合の、[1]印字濃度(PCS値)、[2]インク乾燥性、[3]インク耐水性、[4]インクの滲み、[5]インクの裏抜け、について以下の方法で試験・評価した。尚、プリンタはScitex6240プリンタ(サイテックス社製)、インクはサイテックス1007黒インク、サイテックス1040黒インク、サイテックス1036黒インク(全てサイテックス社製)の3種のインクを使用した。」

(7)刊行物2
本願出願前の昭和56年4月1日に、日本国内において頒布された刊行物である、長野浩一ら著、「ポバール」、改訂新版、株式会社高分子刊行会、(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載事項がある。





(8)参考特許文献1
審判請求人が審判請求書において引用し、本願出願前の平成17年6月30日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2005-171471号公報(以下、「参考特許文献1」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、記録用紙、及び該記録用紙を用いるインクジェット記録方式または電子写真記録方式の画像記録方法に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、インクジェット記録方式により印字した場合に、印字直後に発生するカール及び波打ちを抑制することにより両面印字が可能であり、放置乾燥後に発生するカール及び波打ちを抑制することができ、更に画像のむらを改善し、また、電子写真方式により印字した場合にも、転写不良などが発生せず、印字直後に発生するカール及び波打ちを抑制することにより両面印字が可能であり、放置乾燥後に発生するカール及び波打ちを抑制することができるという、インクジェット記録方式にも、電子写真記録方式にも利用可能な記録用紙、及びこれを用いた画像記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、普通紙における印字直後に発生するカールを抑制し、波打ち改善による両面印字適性を持たせ、さらに放置乾燥後に発生するカールを抑制し、波打ちを抑制する方法について鋭意検討した。
その結果、本発明者等は、印字直後に発生するカール、波打ちは、水性インク中の水を吸収した繊維層の急激な伸びにより発生していることを確認した。また放置乾燥後に発生するカール、波打ちについては、インクを吸収した繊維層の脱湿による縮みにより発生し、さらに用紙の厚さ方向への微小時間でのインク浸透が早く、インクの浸透が深くなる程、放置乾燥後のカール、波打ちが大きくなることを確認した。
【0014】
これらの結果から、本発明者等は、インクを吸収した繊維層の水の吸脱湿による伸縮伝達性について鋭意検討を試みた。その結果、水の吸脱湿による伸縮伝達性は用紙の伸縮率と深い関係があることがわかり、伸縮率を小さくすることで伸縮伝達性を弱め、印字直後に発生するカール、波打ちと放置乾燥後に発生するカール、波打ちを小さくすることが可能であることを見出した。そして、伸縮率低減のため、ある一定範囲のHLBをもつ界面活性剤が用紙に存在することにより、水素結合の形成が阻害され、伸縮率が低減され、それによってカール・波うちが小さくなることを見出した。
【0015】
更に、用紙の必須成分である表面サイズ剤を処理した際には、特に水との接触角が一定以上の疎水性の表面サイズ剤を5質量%以上含有することで、界面活性剤の寸法変化低減効果を表面サイズ剤が阻害しにくくなり、結果として印字直後に発生するカール、波打ちと放置乾燥後に発生するカール、波打ちをより小さくすることが可能であることを見出した。

(中略)

【0022】
すなわち本発明は、
<1> 少なくともセルロースパルプを原料とする基材の表面が、表面サイズ剤とHLBが6?13の範囲のノニオン界面活性剤とを含み、該ノニオン界面活性剤の含有量が前記表面サイズ剤100質量部に対して1?100質量部の範囲であり、前記表面サイズ剤と水との接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤を全表面サイズ剤の5質量%以上含む表面サイズ液により、表面処理されてなることを特徴とする記録用紙である。
【0023】
<2> 前記表面サイズ液が、前記水との接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤を5質量%以上含む表面サイズ剤と、HLBが6以上11未満のエステル系ノニオン界面活性剤とを含み、表面処理後の該エステル系ノニオン界面活性剤の付与量が0.02?1.0g/m^(2)の範囲であり、ステキヒトサイズ度が坪量70g/m^(2)換算で1?30秒の範囲であることを特徴とする<1>に記載の記録用紙である。
【0024】
<3> 前記水との接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤がポリビニルアルコールであり、該ポリビニルアルコールの重合度が100?1500の範囲であることを特徴とする<2>に記載の記録用紙である。
【0025】
<4> 前記ポリビニルアルコールのけん化度が98以上であるか、または35以上80未満であることを特徴とする<3>に記載の記録用紙である。

(中略)

【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、インクジェット記録方式により印字した場合に、ドキュメントの画質を向上させ、印字直後に発生するカール及び波打ちを抑制することにより両面印字が可能であり、放置乾燥後に発生するカール及び波打ちを抑制することができ、また、電子写真方式による画像形成時でも画像転写不良が発生せず、インクジェット記録方式、電子写真方式ともに利用可能な記録用紙及びこれを用いた画像記録方法を提供することができる。」

イ 「【0029】
以下、本発明を記録用紙と画像記録方法とに大きく分けて詳細に説明する。
<記録用紙>
本発明の記録用紙は、少なくともセルロースパルプを原料とする基材の表面が、表面サイズ剤とHLBが6?13の範囲のノニオン界面活性剤とを含み、該ノニオン界面活性剤の含有量が前記表面サイズ剤100質量部に対して1?100質量部の範囲であり、前記表面サイズ剤と水との接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤を全表面サイズ剤の5質量%以上含む表面サイズ液により、表面処理されてなることを特徴とする。
【0030】
上記本発明の記録用紙は、これを用いてインクジェット記録方式により印字した場合に、(1)印字直後に発生するカール及び波打ちを抑制することにより両面印字が可能であり、(2)放置乾燥後に発生するカール及び波打ちを抑制することができる。また、(3)画像部のむらを抑制し、濃度を向上させることができる。

(中略)

【0034】
本発明者等が鋭意検討した結果、一定の疎水性を有するHLBが6?13の範囲のノニオン界面活性剤を、単独ではなく表面サイズ剤と共に表面サイズ液として用紙表面に処理することにより、前記ノニオン界面活性剤を均一かつ安定に用紙に表面処理することができることが判明した。
【0035】
そして特に、前記表面サイズ剤として通常の表面サイズ剤より疎水性が高い、水との接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤と、前記HLBが6?13の範囲のノニオン界面活性剤とを組合わせることにより、界面活性剤の基材中への浸透が表面サイズ剤により阻害されることなく行われ、印字後のカール発生や、放置乾燥後のカール発生に対して、より優れた抑制効果が発揮されることを見出した。

(中略)

【0041】
本発明における水との接触角が一定以上の表面サイズ剤を得るためには、表面サイズ剤の疎水性を高めることが必要であり、そのためには、表面サイズ剤の親水基である水酸基をアセチル化、燐酸エステル化等で化学修飾し、疎水基に置換する方法がある。また、表面サイズ剤の結晶化度を向上させ、水が浸入しにくい構造を形成し、疎水性を向上させる方法もある。
【0042】
本発明における表面サイズ剤として具体的には、表面サイズ剤の中でも、表面サイズ剤として通常使用される酸化澱粉ではなく、疎水性を向上させたアセチル化澱粉、燐酸エステル化澱などを用いることが好ましい。また、ポリビニルアルコールのけん化度を極めて低くし疎水基を残すか、けん化度を極めて高くし結晶化度を向上させ、疎水性を向上させたものも好ましく用いられる。さらに、疎水性を向上させたシラノール変性した表面サイズ剤等を用いても良い。
これらは混合して、または単独で使用しても良く、「水との接触角」が前記好ましい範囲であれば、これらに限定されるものではない。

(中略)

【0057】
なお、前記エステル系ノニオン界面活性剤を使用する場合に用いる、水に対する接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤としては、ポリビニルアルコールが好ましい。
この場合、用いるポリビニルアルコールの重合度を低くすることにより、均一に界面活性剤が用紙に作用することができ、カールが低減し、また電子写真における画像転写性を向上させることができる。更に用紙表面を均一化することから、インクジェットにおける画像のむらも改善し、ひいては濃度も向上させることができる。

(中略)

【0059】
また、上記ポリビニルアルコールとしては、けん化度を極めて低くし疎水基を残すか、けん化度を極めて高くし結晶化度を向上させ、疎水性を向上させたものが好ましい。具体的には、けん化度を98以上にするか、35以上80未満にすることにより疎水性が向上し、インクジェット記録方式におけるカールが低減し、更に電子写真方式における画像転写性を確保することができる。けん化度を80以上98未満にすると、ポリビニルアルコールの親水性が高くなり、カールが低減効果が低いばかりか電子写真方式における画像転写性を確保することができない場合がある。けん化度が35未満であると、疎水性が高すぎて水に分散または溶解しないため、表面サイズ液を調整できない場合がある。
【0060】
本発明の記録用紙は、少なくともセルロースパルプを原料とするものであり、前記表面サイズ剤と前記ノニオン界面活性剤とを含む表面サイズ液により、下記基材が表面処理されてなる。
【0061】
前記基材は、少なくともセルロースパルプを原料とするものであり、下記原紙であってもよく、該原紙表面に顔料やバインダーなどを処理した普通紙であってもよい。」

ウ 「【実施例】
【0147】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、もちろん本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、実施例及び比較例において使用するインク、及び、記録用紙について説明した後、これらを組み合わせて印字した際の各種評価結果について説明する。

(中略)

【0156】
(2)記録用紙の作製
記録用紙は、以下の記録用紙(1)?(28)を作製した。

(中略)

【0160】
<記録用紙(5)>
富士ゼロックスオフィスサプライ製Green100用紙(中質再生紙)に、水との接触角が47度である表面サイズ剤(高けん化度ポリビニルアルコール、クラレ製PVA124)100質量部と、16.6質量部のエーテル系ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製、サーフィノール440、HLB:8)とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、用紙への処理量が乾燥質量で0.5g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.11g/m^(2))熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が69g/m^(2)の記録用紙(5)を得た。

(中略)

【0166】
<記録用紙(11)>
濾水度420mlになるよう叩解調整した広葉樹クラフトパルプからなるドライパルプを離解し、パルプ固形分が0.3質量%になるようパルプ分散液を調製した。
このパルプ分散液に、パルプ分散液中に含まれるパルプ固形分100質量部に対して無水コハク酸(ASA)内添サイズ剤(日本エヌエスシー(株)製Fibran-81)を0.3質量部と、カチオン化澱粉(日本エヌエスシー(株)Cato-304)0.5質量部とを配合し、熊谷理機製実験用配向性抄紙機により、80メッシュワイヤーを用い、抄速1000m/min、紙料吐出圧力1.5kg/cm^(2)の条件で抄紙した。その後、そのセットを熊谷理機製角型シートマシン用プレスにより、10kg/cm^(2)で3分間圧搾した後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量69g/m^(2)の原紙を得た。
【0167】
この原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(11)を得た。
【0168】
<記録用紙(12)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX SPIS-100、HLB:10)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(12)を得た。
【0169】
<記録用紙(13)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX GMS-B、HLB:6)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(13)を得た。
【0170】
<記録用紙(14)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)11質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.1g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(14)を得た。
【0171】
<記録用紙(15)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)100質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が2g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は1.0g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が71g/m^(2)の記録用紙(15)を得た。
【0172】
<記録用紙(16)>
記録用紙(11)における抄紙において、内添サイズ剤量を0.4質量部とした以外は同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)11質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.1g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(16)を得た。
【0173】
<記録用紙(17)>
記録用紙(11)における抄紙において、内添サイズ剤量を0.1質量部とした以外は同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(17)を得た。
【0174】
<記録用紙(18)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)10質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)90質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(18)を得た。
【0175】
<記録用紙(19)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(日本食品化工株式会社製、燐酸エステル化澱粉#4600、水との接触角:56度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(19)を得た。
【0176】
<記録用紙(20)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA110、けん化度:99、重合度:1000、水との接触角:68度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(20)を得た。
【0177】
<記録用紙(21)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA505、けん化度:73、重合度:500、水との接触角:55度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(21)を得た。
【0178】
<記録用紙(22)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部と、ぼう硝10質量部、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)50質量部と、多価金属塩として塩化カルシウム75質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1.5g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.4g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が71g/m^(2)の記録用紙(22)を得た。

(中略)

【0180】
<記録用紙(24)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)25質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角64度)25質量部と、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TSG-10、HLB:8)100質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が3g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は2.0g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が72g/m^(2)の記録用紙(24)を得た。
【0181】
<記録用紙(25)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角64度)50質量部と、エーテル・エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX TPM-320、HLB:9)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(25)を得た。

(中略)

【0183】
<記録用紙(27)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角64度)50質量部と、エステル系ノニオン界面活性剤(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX INTD-139、HLB:2)50質量部とを含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように(界面活性剤付与量は0.3g/m^(2))、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(27)を得た。
【0184】
<記録用紙(28)>
記録用紙(11)と同様にして得られた坪量69g/m^(2)の原紙に、表面サイズ剤としての酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、エースA、水との接触角:39度)50質量部及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA102、けん化度:99、重合度:200、水との接触角:64度)50質量部を含む5質量%濃度の水溶液(表面サイズ液)を、原紙への処理量が1g/m^(2)になるように、熊谷理機製試験用サイズプレスでサイズプレスした後、熊谷理機製KRK回転型乾燥機で110℃、0.5m/min条件で乾燥し、坪量が70g/m^(2)の記録用紙(28)を得た。」

(9)参考特許文献2
審判請求人が審判請求書において引用し、本願出願前の平成9年3月25日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開平9-76627号公報(以下、「参考特許文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも無水グルコース単位1個あたりの硝酸エステル基置換度が0.2?2.95、カルボキシアルキルエーテル基置換度が0.05?2.8であるカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類を含有することを特徴とするインクジェット用記録シートのバインダー。
【請求項2】 請求項1記載のカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類3?70重量部、及び及び水性高分子97?30重量部を含有することを特徴とするインクジェット用記録シートのバインダー。
【請求項3】 請求項2記載の水性高分子がカチオン変性ポリビニルアルコールであることを特徴とするインクジェット用記録シートのバインダー。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット用記録シートのバインダー及び記録シートに関するものであり、さらに詳しくは、インクの吸収性及び定着性、乾燥性が良好で、耐水性、耐熱ブロッキング性の良好なインク受容層を形成しうるインクジェット用記録シートのバインダー及び該バインダーを含有する記録シートに関する。
【0002】
【従来の技術】従来使用されている記録方式としては、ワイヤードット記録方式、感熱発色記録方式、感熱溶融熱転写記録方式、感熱昇華転写記録方式、電子写真記録方式、インクジェット記録方式等の種々の記録方式が知られている。この中でも、インクジェット方式は記録用シートとして普通紙を使用できること、プリントコストが安いこと、装置がコンパクトで騒音がなく、高速記録が可能、カラー化が可能であることなどの特徴がある。このため、コンピューターなどによって作成した文字、図形などの画像情報を高速かつ正確にアウトプットするプリンターとしての利用が注目されている。また、カラー化が容易で、絵柄が鮮明であることから、コンピューターで作成した画像情報をインクジェットプリンターにより透明な記録シートに記録し、これをオーバーヘッドプロジェクター(OHP)などの原稿として、会議、各種学会発表などにおいて利用する要求も高まっている。

(中略)

【0004】また、インクジェットプリンターで記録を行う被記録材に対しては、付着したインクの水分を吸収し、インクを乾燥固化させることが要求されている。このため、樹脂フィルム上にインク受容層を形成してインク吸収性を高めた記録シートが使用されている。このような記録用シートのインク受容層には次のような特性が要求されている。
【0005】1.インク受容性、吸収乾燥性、定着性がよいこと。
2.インクドットの過剰の広がり及びにじみが少ないこと。
3.積層状態で保存しても、ブロッキングを生じないこと。
4.粘着性であったり、指紋などの付着がないこと。
5.記録シートそのものの黄変が起こりにくいこと。

(中略)

【0007】この種の記録シートは、水性インクの吸収性及び定着性は良好であるが、インク受容層の耐水性が悪く、水がかかったりするとインク受容層がはがれやすいという欠点がある。さらに、シリカなどの充填剤を含有している場合には、その充填剤の含有率が高いとインク吸着力が強すぎるために、ドットの適度な広がりが得られず、得られた画像は線の細い画線となってしまい要求される画像が得られない。逆に充填剤の含有率が低いとインクの十分な乾燥が得られずブロッキングや画像の乱れが生じるという恐れがあった。また、充填剤の添加により、記録シートの表面に微細な亀裂が生じ、画像の鮮明さに欠けたり、インク受容層の柔軟性が損なわれるという恐れがあった。
【0008】水性インク吸収性及び定着性が良好で、かつインク受容層が透明で耐水性がよいものとして、アセタール化度が好ましくは5-20モル%程度のポリビニルフェニルアセトアセタールなどのポリビニルアセタール樹脂を用いることが提案され、例えば特開平3-221077号公報に開示されている。このようなポリビニルアセタール樹脂からなるインク受容層を、ポリエステルフィルムのような透明な支持体上に設けた記録材は、透明性がよくオーバーヘッドプロジェクター用などの記録材にも使用することができる。
【0009】ところが、ポリエステルフィルムや金属のような水溶性インクを吸着しにくい支持体はいうまでもなく、紙のような支持体上に、上記のポリビニルアセタール樹脂からなるインク受容層を設けたインクジェット記録材は、単位面積当たりのインクの付着量が少ないときには良好な性能を発揮するが、多数のインクドットが重なり合う場合、つまり単位面積当たりのインク吸着量が多いときには、インク受容層がインクを十分に吸収しきれない。そのため、インク受容層と支持体上との間にインクがたまり、インクのにじみが発生したり、インク受容層が支持体からはがれるという問題がある。このような問題は、単色のインクジェット記録の場合にも発生しやすい。また、インクジェット方式で記録する場合に限らず、ペン方式などで記録する場合にも発生する問題である。

(中略)

【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、インクの吸収性及び定着性、乾燥性が良好で、耐水性、耐熱ブロッキング性の良好なインク受容層を形成しうるインクジェット用記録シートのバインダー、を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題の解決のためには、カルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類が、バインダーとして有用であることを見い出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明は無水グルコース単位1個あたりの硝酸エステル基置換度が0.2?2.95、カルボキシアルキルエーテル基置換度が0.05?2.8であるカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類を含有する事を特徴とするインクジェット用記録シートのバインダーに関するものである。

(中略)

【0015】本発明で使用するカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類に、インクの乾燥性、インク受容層の皮膜物性、光沢、画像の鮮明性などを向上させる目的で水性高分子を混合してもよく、好ましくいことである。その場合の混合比は、固形分重量でカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類3?70重量部に対して水性高分子97?30重量部であることが好ましい。本発明で使用する水性高分子とは、水、極性有機溶剤あるいはこれらの混合溶剤に溶解あるいは分散が可能であり、本発明におけるカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類と混合して皮膜形成性を有する樹脂である。
【0016】本発明で使用する水性高分子としては、例えば、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチンなどのゼラチン誘導体、即ちフタール酸、マレイン酸、フマール酸などの二塩基酸の無水物と反応したゼラチン等の各種ゼラチン類、酸化でんぷん、カチオン化でんぷん、エーテル化でんぷんなどのでんぷん類、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体類、ポリアルキレンオキサイドおよびそれらの誘導体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそのエステル、塩類及びそれらの共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート及びその共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジウムハライド、各種鹸化度のポリビニルアルコール、
【0017】カルボキシ変性、カチオン変性及び両性のポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルエーテル、アルキルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体、スチレン・無水マレイ酸共重合体、及びそれらの塩、ポリエチレンイミンなどの合成ポリマー、スチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル・マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル共重合体ラテックス、アクリル酸エステル重合体、メタクリル酸エステル重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系重合体または共重合体のラテックス、塩化ビニリデン系共重合体ラテックスあるいはこれらの各種重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス、メラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化性合成樹脂などの水性接着剤および、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニルコーポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂などの合成樹脂を挙げることができる。また、これらを単独あるいは併用して含有せしめることもできる。これらの内、特にカチオン変性のポリビニルアルコールが好ましい。
【0018】本発明で使用できるカチオン変性ポリビニルアルコールとしては、カチオン変性量が0.01モル%以上のポリビニルアルコールが挙げられる。例えば、カチオン変性基としては、アミド基、イミド基、1級アミノ基、、2級アミノ基、3級アミノ基、1級アンモニウム塩基、2級アンモニウム塩基、3級アンモニウム塩基、4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン基が挙げられ、該基の含有物が好ましい。さらには、1級アミノ基、、2級アミノ基、1級アンモニウム塩基、2級アンモニウム塩基が好ましいが、特に1級アミノ基または、1級アンモニウム塩基がより好ましい。
【0019】また、カチオン変性量は0.1-30モル%が好ましく、0.1-15モル%がさらに好ましい。カチオン基の変性量が0.01モル%未満ではインク吸収層の耐水性が不十分となり好ましくない。平均鹸化度としては、40-100モル%が好ましい。鹸化度が40モル%未満ではインク吸収性が低下して好ましくない。平均重合度としては、100-5000が好ましく、さらには200-3000が好ましい。平均重合度が100未満では、インク吸収層の耐水性が低下し、5000を越えると溶液粘度が高すぎて作業性の点で好ましくない。

(中略)

【0025】これら塗工層の形成は、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、ロールコーター、アプリケーターなどの公知の手段を適用することができる。その際、支持体上には塗布する前に必要に応じて空気中あるいはその他の雰囲気中でのコロナ放電処理やプライマー処理などの公知の表面処理を施すことが好ましく、それによって、塗布性が良化するのみならず、強固な塗工層を支持体表面上に形成できる。
【0026】本発明で使用する支持体としては、上質紙、中質紙、アート紙、ボンド紙、コピー用紙、バライタ紙、キャストコート紙、段ボール紙、塗工紙、合成紙、樹脂被覆紙などの紙、顔料入り不透明フィルム、発砲フィルム、ガラス板、木綿、レーヨン、アクリル、ポリエステルなどの布、金属などの従来公知のものがいずれも使用できる。支持体は、記録媒体の記録目的、記録画像の用途、あるいはその上部に被覆される組成物との密着性などの諸条件に応じて上記基材の中から適宜選択される。
【0027】本発明で使用するインクジェット用記録シートのバインダーには、本発明の特性を損なわない範囲で公知の添加剤、例えば、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、結晶セルロース等のマット剤、コロイダルシリカ、アルミナゾルなどの印字性向上剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、耐水化剤、耐光性向上剤、保存性向上剤等を適宜添加することができる。本発明のカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類を含むインクジェット用記録シートのバインダーを用いることによって、インクの吸収性及び定着性、乾燥性が良好で、耐水性、耐熱ブロッキング性の良好なインク受容層を形成しうるインクジェット用記録シートが得られる。」

ウ 「【0034】(実施例1)鹸化度40%のポリビニルアルコール(ゴーセファイマーLL-02:日本合成化学(株)製)200g、メタノール700g、イオン交換水100gを混合機に入れ、完全に溶解するまで撹拌を行い、固形分20%の溶液を得た(これをバインダー液Cとする)。バインダー液Aとバインダー液Cを重量比換算で表1に示す割合で混合して塗工液を調整した。上記塗工液を、コピー用紙上に乾燥後の塗布量が10?15g/m^(3)になるようにアプリケーターで塗工、乾燥してインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
【0035】(実施例2)鹸化度71?75%のポリビニルアルコール(ゴーセノールKP-06:日本合成化学(株)製)60g、98?99%のポリビニルアルコール(ゴーセノールNH-18:日本合成化学製)40g、イオン交換水900gを混合機にいれ、完全に溶解するまで撹拌を行い、固形分10%の溶液を得た(これをバインダー液Dとする)。バインダー液Cをバインダー液Dに変更した以外は、実施例1と同様のインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
【0036】(実施例3)鹸化度71?75%のポリビニルアルコール(ゴーセノールKP-06:日本合成化学(株)製)100g、イオン交換水900gを混合機にいれ、完全に溶解するまで撹拌を行い、固形分10%の溶液を得た(これをバインダー液Eとする)。バインダー液Cをバインダー液Eに変更した以外は、実施例1と同様のインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
【0037】(実施例4)バインダー液Aをバインダー液Bに変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
(実施例5)バインダー液Aをバインダー液Bに変更した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
【0038】(実施例6)バインダー液Aをバインダー液Bに変更した以外は、実施例3と同様にしてインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
(実施例7)カチオン変性ポリビニルアルコール(CM318:クラレ社製)100g、イソプロピルアルコール100g、イオン交換水800gを混合機にいれ、完全に溶解するまで撹拌を行い、固形分10%の溶液を得た(これをバインダー液Fとする)。バインダー液Aとバインダー液Fを重量比換算で表1に示す割合で混合して塗工液を調整した。上記塗工液を、コピー用紙上に乾燥後の塗布量が10?15g/m^(3)になるようにアプリケーターで塗工、乾燥してインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。
【0039】(実施例8)バインダー液Aをバインダー液Bに変更した以外は、実施例7と同様にしてインクジェット用記録シートのバインダー及びシートを得た。

(中略)

【0041】以上の実施例1?8、比較例1?5の評価結果を表-1に示す。なお、表中左から順にインク乾燥性、耐熱ブロッキング性、耐水性、印字品位の評価結果である。この結果から、本発明のバインダーは、インクの吸収性、定着性、乾燥性、耐熱ブロッキング性、耐水性に優れていることが分かる。」

(10)参考特許文献3
審判請求人が審判請求書において引用し、本願出願前の昭和63年12月26日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開昭63-317380号公報(以下、「参考特許文献3」という。)には、以下の記載事項がある。なお、公報に付されていた下線を省き、合議体が発明の認定等に用いた箇所に、新たに下線を付した。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)繊維状物質及び填料からなる被記録材において、その少なくとも一方の表面にケン化度が90%以下の部分ケン化ポリビニルアルコール溶液を塗工したことを特徴とする被記録材。

(中略)

(5)インクジェット記録用被記録材である特許請求の範囲第(1)項に記載の被記録材。」(第1頁左下欄第4?最終行)

イ 「3.発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明は被記録材に関し、更に詳しくは水性インクによって記録するためのインクジェット記録用被記録材に関する。

(中略)

(発明が解決しようとしている問題点)
上記市販の上乃至中質紙は、優れた筆記性及び印刷適性を有しているが、インクジェット記録を行うと以下に述べる欠点を有している。

(中略)

これらの完全ケン化PVAを塗工したインクジェット記録用紙にインクジェット記録を行うと次の欠点がある。
(5)ドット濃度が低い。
(6)ドット周辺かぼけやすく、鮮明な画像を得ることができない。
(7)ドット形状が悪くフェザーリングがある。
(8)インク吸収性か低下する。
従来の被記録材は、以上述べた欠点等があり、これらの欠点を全て解決した被記録材は得られていないのが現状である。
従って、本発明の目的は、上述の如き欠点を解決し、速やかなインク吸収性を有し、とりわけ色彩性、ドット形状に優れ、鮮明な画像を形成する高性能の一般用及びインクジェット記録用の被記録材を容易に提供することにある。
(問題点を解決するための手段)
上記目的は以下の本発明によって達成される。
すなわち、本発明は、繊維状物質及び填料からなる被記録材において、その少なくとも一方の表面にケン化度が90%以下のPVA溶液を塗工したことを特徴とする被記録材である。
(作 用)
従来一般に使用されている紙、例えば、上乃至中質紙等に特定の塗工液を塗工せしめるときは、インクの吸収が優れ且つインクの滲みやフェザーリングが発生せず、優れた色彩性及びドット形状を与え、精細かつ高解像度の記録画像が提供される。」(第1頁右下欄第1?5行、同頁同欄最終行?第2頁左上欄第3行、同頁左下欄第17行?第3頁左上欄第5行)

ウ 「(好ましい実施態様)
次に本発明を本発明の好ましい実施態様を挙げて更に詳しく説明する。
本発明で基材として使用する紙は、パルプ等の繊維性物質と無機顔料等の填料を主体に形成されるものであり、特に填料の含有量(灰分)は5乃至15重量%の範囲であることが好ましく、この範囲よりも少ないとインクのドツト形状が低下し、一方、多すぎるとインクの色彩性及び紙の機械物性が低下するので好ましくない。ここで、灰分とはJIS-P8128の測定法に従う値である。

(中略)

本発明で使用するPVAは部分ケン化物であり、そのケン化度は90%以下であり、実際には70乃至90%の範囲、好ましくは80乃至90%の範囲のケン化度の部分ケン化PVAである。

(中略)

上記の部分ケン化PVAは、本発明の目的達成を妨げない範囲において他の一般の完全ケン化PVAやでん粉等の表面サイズ剤と併用してもよい。」(第3頁左上欄第6?16行、同頁右上欄第3?6行、同頁同欄第10?13行)

エ 「(効 果)
以上の如き本発明の被記録材は、万年筆、サインペン、ボールペン等の水性インクを使用する一般の筆記用具は勿論のこと、特に水性インクを使用するインクジェット記録用被記録材として適しており、次の如き効果を奏する。
(1)水性インクの吸収性が高いため、インクの付与後、直ちに乾燥したと同じ状態になり、記録装置の一部や手指等が接触してもそれらを汚染したり、記録画像が汚れることがない。
(2)インクジェット記録用として使用すると、上記(1)の効果に加えて、インクドットが真円に近く、高濃度であり、ドットが過大に滲んだり、ドットからフェザーリングが生じたりしないので鮮明且つ解像度の高い画像が形成できる。
(3)被記録材に付与されたインク中の染料の発色が良好で、高い色彩性を示し、従って鮮明で高解像度の画像を与える。
(4)インク吸収性に優れている。
従って本発明の被記録材は一般的な記録用紙としては勿論、特にインクジェット記録用被記録材として優れたものである。」(第3頁左下欄第10行?同頁右下欄第11行)

オ 「 次に実施例、比較例及び使用例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、文中、部又は%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
実施例1乃至3及び比較例1乃至3
広葉樹さらしクラフトパルプ(LBKP)と針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を4:1の重量比で混合し、フリーネス(C.S.F.)350mlに叩解し、原料パルプとした。一方、タルク(試薬)20部を水80部に分散させた後、ボールミルで10時間粉砕混合した。原料パルプに対し、粉砕したタルク20部、ロジンサイズ剤0.01部、硫酸アルミニウム0.01部及びカチオン性耐水化剤を配合して抄紙し、後記第1表の塗工液及び食塩(0.03g/m^(2))をサイズプレスし、本発明の被記録材を得た。この被記録材の灰分は13%であった。
実施例4乃至6及び比較例4乃至6
炭酸カルシウム(商品名:エスカロン#200、三共製粉製)20部を水80部に分散させた後、ボールミルで10時間粉砕混合した。実施例1で使用した原料パルプに対し、炭酸カルシウム15部、アルキルケテンダイマー0.01部、カチオン化デンプン0.02部を配合して抄紙し、後記第1表の塗工液及び耐水化剤ポリフィックス203(0.1g/m^(2))をサイズプレス塗工し、本発明の被記録材を得た。この被記録材の灰分は8%であった。

(中略)

第 1 表

実施例 組 成 I
1 クラレPVA217(ケン化度88%) 1
2 クラレPVA217:酸価でん粉(王子エース
B)=3:1 3
3 クラレPVA210(ケン化度88%):クラレPV
A117(ケン化度98.5%)=2:1 4
4 日本合成化学ゴーセノールGH-17(ケン化
度88%) 3
5 ゴーセノールGH17:酸価でん粉(王子エ
ースB)=1:1 5
6 ゴーセノールGH17:ゴーセノールN300
(ケン化度98.5%)=1:1 3

比較例 組 成 I
1 クラレPVA117(ケン化度98.5%) 1
2 酸価でん粉(王子エースB) 3
3 クラレPVA117H(ケン化度99.6%) 4
4 日本合成化学ゴーセノールNH-18(ケン化
度98.5%) 3
5 酸価でん粉(王子エースB) 5
6 日本合成化学ゴーセノールC-500
(ケン化度96%) 3
7 日本合成化学ゴーセノールGH-17(ケン化
度88%) 3
8 日本合成化学ゴーセノールGH-17(ケン化
度88%) 3
9 日本合成化学ゴーセノールGH-17(ケン化
度88%) 3
注 I・・・塗工量(固形分)(gr/m^(2)) 」
(第3頁右下欄第12行?第4頁左上欄第18行、同頁右下欄第16行?第5頁右上欄第7行)

(11)引用文献A
本願出願前の平成17年1月13日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2005-9044号公報(以下、「引用文献A」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はインクジェット印刷用紙用表面サイズ剤及びインクジェット印刷用紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は低騒音、低ランニングコスト、高速記録、多色化対応等の諸特性に優れるものであり、しかもシリカなどのコート層を設けた専用紙のみならず普通紙(PPC用紙等)へも印刷ができるため、近年急速に普及が進んでいる。かかる状況下、表面サイズ剤は、従来の要求性能に加えてインクジェット印刷適性が不可欠となっており、特に一般のPPC用紙に印刷した場合でも高画質(インクの沈込による裏抜け、印字濃度の低下がない)で、フェザリングやにじみを生じ難いなどの、高度のインクジェット印刷適性が求められている。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
本発明は、普通紙へのインクジェット印刷時におけるインクジェット適性、特に高い印字濃度と耐フェザリング性を同時に達成し得るインクジェット印刷用紙用表面サイズ剤及び当該サイズ剤を表面に塗工してなるインクジェット印刷用紙を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決するべく、インクジェット印刷用紙(PPC用紙や専用紙など)に用いられる表面サイズ剤について鋭意検討を重ねた結果、スチレン-アニオン性モノマー系共重合体とオレフィン-マレイン酸系共重合体をブレンドしたものを主成分とする製紙用表面サイズ剤を用いることで、前記インクジェット適性が良好に発現することを見出した。本発明はかかる知見に基づき完成されたものである。
【0010】
即ち本発明は、スチレン-アニオン性モノマー系共重合体(A)とオレフィン-マレイン酸系共重合体(B)とを含有することを特徴とするインクジェット印刷用紙用表面サイズ剤に関する。また、当該インクジェット印刷用紙用表面サイズ剤を表面に塗工してなるインクジェット印刷用紙に関する。」

イ 「【0028】
また本発明に係る塗工紙は、前記製紙用表面サイズ剤をPPC用紙、インクジェット又はトナープリンター用紙、感熱紙等の情報用紙だけでなく、感圧紙、筆記用紙、コート原紙、書籍用紙等の上質紙、中質紙、中質コート原紙、包装用紙、クラフト紙、ライナー、板紙、石膏ボード原紙等に前記塗工方法で塗工したものであり、インクジェット印刷方式に適した印刷用紙である。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、インクジェット印刷時におけるインクジェット適性、特に高い印字濃度と良好な耐フェザリング性を同時に達成し得るインクジェット印刷用紙用表面サイズ剤、およびかかるインクジェット適性を備えたインクジェット印刷用紙を得ることができる。」

(12)引用文献B
本願出願前の平成27年11月2日に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献である特開2015-190087号公報(以下、「引用文献B」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、前記クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、前記クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01?3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴とする書籍用紙。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、書籍用紙に関するものであり、さらに詳しくは、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
書籍用紙は、主に書籍の本文用紙として用いられる紙であり、現在はオフセット印刷方式で大量印刷される用紙として、出版社や印刷会社などで使用されているが、近年、従来オフセット印刷方式が主流であった分野にも、インクジェット印刷方式が進出してきている。書籍用紙の分野においても、少量の印刷需要に応える形でインクジェット印刷方式が採用されつつある。
オフセット印刷方式では印刷版を製版する必要があるが、インクジェット印刷方式では製版の必要がない。そのため、大量印刷の場合は、製版分を加味してもオフセット印刷方式の方が安価であるが、少量印刷の場合は、製版分の比重が大きいため、インクジェット印刷方式の方が安価となることが多い。また、インクジェット印刷方式は、可変情報の連続印刷が可能である、色調整が容易で印刷機の操作等に熟練する必要がない、使用後の版を廃棄する必要がなく環境に優しい、などのメリットがある。
特に書籍用紙の分野においては、必要な時に必要な分だけ印刷し、滞留在庫と返品処理を削減してコストダウンにつなげる、あるいは、オフセット印刷方式ではコストが合わないような絶版書籍を、要望に応じて少量再版するなど、少ロット対応が容易であるというインクジェット印刷方式の特徴を活かした、各種の試みが行われている。
【0003】
ここで、書籍用紙の分野において、インクジェット印刷方式によりオフセット印刷方式を代替することを考慮すると、従来のオフセット印刷方式の書籍と同等の品質、具体的には文字品位と風合いが、インクジェット印刷方式の書籍にも求められることになる。
一般に、インクジェット印刷方式はオフセット印刷方式と比較して、印刷画像、特に文字の線が太くなるという、いわゆる「線太り」や「文字太り」と呼ばれる現象が発生しやすい。書籍では画数の多い漢字や細かい振り仮名(ルビ)などが多用されることから、特に線太りの抑制が重要となる。
また、長時間文字を読んでも視認性が高く目が疲れにくいように、書籍用紙の面感は光沢がない素の紙に近いものが、色調は白色よりもやや黄が掛かった、クリーム色であることが好まれる。
さらに、インクジェット印刷方式はオフセット印刷方式と比較して、インクが基紙の中まで浸透しやすいため、印刷画像や文字が基紙の反対面に透けて見える、いわゆる「裏抜け」の問題が発生しやすい。書籍では一般に基紙の両面に印刷することから、裏抜けの抑制が重要となる。
しかし、インクの浸透を抑制しすぎると、今度はインクが基紙の表面に長く留まるようになるため、印刷後に重ねると、未乾燥のインクが他の印刷物や基紙に転移して汚してしまう、いわゆる「セットオフ」の問題が発生しやすくなる。インクジェット印刷方式で使用するインク(インクジェットインク)は、通常オフセット印刷方式で使用するインク(インキ)よりも水などの溶媒成分が多いため、インクジェット印刷方式の書籍に使用する書籍用紙では、特にインクの乾燥性を良好として、セットオフを抑制することが重視される。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、オフセット印刷方式の書籍と同等の文字品位と風合いが得られると共に、裏抜けとセットオフが抑制された、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、クリア塗工層にバインダーと特定量のサイズ剤を含有させると共に、ステキヒトサイズ度を小さくしてインクの吸収性を高めることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、前記クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、前記クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01?3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴とする書籍用紙である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オフセット印刷方式の書籍と同等の文字品位と風合いが得られると共に、裏抜けとセットオフが抑制された、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙が得られる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明の書籍用紙は、パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙であって、該クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、該クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01?3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴としている。
本発明の書籍用紙は、単行本(ハードカバー)、新書、文庫(ソフトカバー)、漫画(コミック)、参考書等の学術書などの各種書籍に用いることができる。
【0011】
本発明の書籍用紙は顔料を含有しないクリア塗工層を有するため、従来のオフセット印刷方式の書籍と同等の風合い(光沢がない素の紙に近いもの)が得られる。また、クリア塗工層に水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種のバインダーとサイズ剤とを含有させ、クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤を固形分で0.01?3.0重量%として、インクジェットインクの基材表面での拡散と基材の中への浸透を適度に抑制することにより、文字太りが発生せず良好な文字品位が得られると共に、裏抜けが抑制される。クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01重量%未満であると、インクの基材表面での拡散と基材の中への浸透を抑制することができないため、文字品位と裏抜けが劣る。一方、3.0重量%を超えると、インクの基材表面での拡散と基材の中への浸透が過度に抑制されるため、特に画数の多い漢字や細かい振り仮名(ルビ)では文字の縁における毛羽立ち(フェザリング)が目立ち、文字品位が低下する。
さらに、本発明の書籍用紙はJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度を5秒以下に調整して、インクジェットインクが基紙の表面に長く留まりすぎないようにすることで、インクの乾燥性が良好となり、セットオフが抑制される。ステキヒトサイズ度が5秒より高いと、インクの基材の中への浸透が抑制されるため、裏抜けは良好であるが、インクの乾燥性が不十分となりセットオフが劣る。ステキヒトサイズ度は3秒以下が好ましく、1秒以下がより好ましい。

(中略)

【0015】
[助剤]
本発明において、上記原料には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常抄紙工程で使用される公知の助剤、例えば、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂等の乾燥紙力剤、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂等の湿潤紙力剤、ロジン系サイズ剤、アクリルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、石油系サイズ剤等のサイズ剤、硫酸バンド、色味染料、色味顔料、蛍光増白剤、嵩高剤、歩留向上剤、濾水性向上剤、凝結剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤などを添加することが可能である。これらの助剤は、要求される品質に応じて、単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の書籍用紙は、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度を5秒以下に調整するため、上記原料に添加するサイズ剤は、パルプの固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.2重量%以下となるように添加することが好ましく、0.05重量%以下となるように添加することがより好ましく、サイズ剤を添加しないことが特に好ましい。

(中略)

【0017】
[クリア塗工層]
本発明の書籍用紙は、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有するクリア塗工層を有する。本発明のクリア塗工層は、顔料を含有しない、即ち、シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)等の無機顔料、あるいはポリスチレン樹脂、微小中空粒子等の有機顔料を含有しない塗工層である。
【0018】
[水溶性高分子物質]
水溶性高分子物質としては、例えば、澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉類、ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、末端アルキル変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド等のポリアクリルアミド類等、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体などを例示することが可能である。これらの水溶性高分子物質は、要求される品質に応じて、単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。

(中略)

【0024】
本発明の書籍用紙は、坪量が40?130g/m^(2)であることが好ましい。坪量が130g/m^(2)より高いと、得られた書籍の重量が重くなりすぎることがある。」

(13)刊行物5
本願出願前の平成10年2月17日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開平10-46498号公報(以下、「刊行物5」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真方式の複写機やプリンターなどとインクジェット方式プリンターなどの双方に共用できる電子写真・インクジェット共用紙に関するものである。

(中略)

【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明の課題はこのような問題点を解決し、カール(紙が丸まる)やコックリング(紙が波打つ)などの発生が防止され、紙力が低下することなく、また製法上の難点もない電子写真・インクジェット共用紙を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の上記課題は、セルロース繊維を主成分とした電子写真・インクジェット共用紙において、20℃の水に1分間浸漬したときの横目方向における伸び(浸水伸び)が1.8%以下であることを特徴とする電子写真・インクジェット共用紙によって達成される。本発明によれば、電子写真・インクジェット共用紙にインクジェットプリンタによってインクの小滴を付着させて画像の形成を行う際に、インクの付着量が多い場合でも用紙の伸びがほとんど起きず、カールやコックリングの発生を十分に防止することができる。」

イ 「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。ここで浸水伸びとは、A4サイズの用紙を20℃の水に1分間浸漬した後、余剰液を濾紙で除去し、横目(クロスデイレクション)方向における寸法の伸びを測定し、伸び率を百分率で表したものである。
【0007】セルロース繊維を主成分とした電子写真・インクジェット共用紙の浸水伸びを1.8%以下とするには、耐水化剤、水溶性高分子およびサイズ剤の少なくとも1種を用いて、パルプに内部添加し及び/または表面サイジングを施して抄造することによってセルロース繊維間結合部保護構造を形成することが好ましい。内部添加のみでは浸水伸びを抑える効果が弱いので、耐水化剤、水溶性高分子またはサイズ剤の一部あるいは全部を表面サイジングにより使用することが特に好ましく、内部添加に対する表面サイジングの比率は1以上が望ましい。
【0008】耐水化剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、グリオキザール、メラミンホルマリン樹脂などが最適であるが、これらのほか尿素ホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂などの紙用耐水化剤も添加量を適宜調整して使用することができる。また、水溶性高分子としては、PVA、デンプン、ポリアクリルアミド樹脂が最適であるが、これ以外にも各種の植物ガム、カルボキシメチルセルロース、酸化デンプン、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、キトサン、グルー、カゼイン、ポリ酢酸ビニル、ラテックスなども添加量を適宜調整して使用することができる。

(中略)

【0031】
【発明の効果】本発明によれば、カール(紙が丸まる)やコックリング(紙が波打つ)などの発生が防止され、紙力が低下することなく、また製法上の難点もない電子写真・インクジェット共用紙を得ることができる。」

(14)引用文献C
本願出願前の平成21年6月25日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2009-137193号公報(以下、「引用文献C」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用支持体およびインクジェット記録用紙に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0023】
以上のような状況に鑑み、本発明は、紙基材を原紙とし、インクジェット記録方式で画像記録後の波打ちやコックリングの少ないインクジェット記録用紙および、その記録用支持体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らはインクジェット記録用紙のコックリングを解析し、コックリング現象がインク吸収に伴うパルプ繊維の結合力の低下と変形、およびインク乾燥による収縮挙動で発生することを確認し、特にインク吸収に伴うパルプ繊維の結合力を低下させないことがコックリング改善に有効との知見を得て、本発明を完成させたものである。
【0025】
本発明は以下の発明を包含する。
【0026】
(1) 主成分としてセルロースパルプからなる原紙の表面に、少なくとも活性珪酸を含む塗液で表面処理したことを特徴とするインクジェット記録用支持体。
(2) 活性珪酸を含む塗液に、少なくとも1種の水溶性バインダーを含むことを特徴とする、(1)記載のインクジェット記録用支持体。
(3) 水溶性バインダーが、澱粉および/またはポリビニルアルコールであることを特徴とする、(2)記載のインクジェット記録用支持体。
(4) 水溶性バインダーが、少なくとも1種類の澱粉と少なくとも1種類のポリビニルアルコールであることを特徴とする、(2)記載のインクジェット記録用支持体。
【0027】
(5) (1)?(4)記載のインクジェット記録用支持体上に、少なくともインク定着剤を塗工したことを特徴とするインクジェット記録用紙。
(6) (1)?(4)記載のインクジェット記録用支持体上に、少なくとも1層の顔料とバインダーを含むインク吸収層を設けたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
(7) (1)?(4)記載のインクジェット記録用支持体上に、少なくとも1層の微細顔料とバインダーを含むインク定着層を設けたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
(8) (1)?(4)記載のインクジェット記録用支持体上に、少なくとも1層のインク定着層を設け、さらに前記インク定着層上に光沢発現層を有することを特徴とするインクジェット用紙。
【発明の効果】
【0028】
本発明によるインクジェット記録用支持体を用いることにより、インクジェット記録後の波打ちやコックリングが改善されたインクジェット記録用紙が得られる。」

イ 「【0054】
本発明で、活性珪酸含有水溶液に水溶性バインダーを併用すると、活性珪酸がパルプ繊維間に安定して保持されてパルプ繊維の結合が効果的になり、より効果的である。併用される水溶性バインダーとしては、澱粉類やポリビニルアルコール類などを挙げることができる。澱粉類としては、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、アセチル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、カルバミン酸澱粉、ヒドロキシメチル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等があげられる。またポリビニルアルコール類としては、完全ケン化型、部分ケン化型、官能基変性型(官能基としては、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、アミノ基、アミン基、チオール基、スルホン酸基、燐酸基、シラノール基等を挙げることができる。)等を挙げることができる。その他は、メトキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、及びエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、アクリル酸アミド/アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド/アクリル酸エステル/メタクリル酸3元共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリアクリルアミド、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、及びカゼイン等の水溶性高分子類、ならびに、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、スチレン/ブタジエン共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリブチルメタクリレート、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びスチレン/ブタジエン/アクリル系共重合体等の疎水性重合体のラテックス等が挙げられる。
【0055】
なかでも澱粉および/またはポリビニルアルコールは、波打ちとコックリング抑制効果の点で好ましい。さらにこれらの澱粉およびポリビニルアルコールを併用することが更に好ましく、混合比率は、澱粉:ポリビニルアルコール=9:1?1:9である。
【0056】
水溶性バインダーの含有量は、特に限定するものではないが、全乾燥固形分で、活性珪酸:水溶性バインダー=1:99?99:1の範囲である。水溶性バインダーの割合が少ないと、波打ちやコックリングの抑制に水溶性バインダー配合の寄与が低下し、一方、水溶性バインダーの割合が多いと、インク吸収性の低下や透気性の低下などの不都合が生じる。したがって30:70?95:5であることが好ましく、より好ましくは75:25?90:10である。

(中略)

【0060】
本発明のインクジェット記録用支持体の坪量は40?215g/m^(2)の範囲が好ましい。
緊度は0.55?1.00g/cm^(3)の範囲が好ましい。またインクジェット記録用支持体のサイズ性は、ステキヒトサイズ度で5?500秒、コブサイズ度は20?200ml/m^(2)であることが好ましい。サイズ性が高いと出来上がったインクジェット記録用紙のインク吸収性が低下して印字品質が低下することがある。
なおインクジェット記録用支持体のサイズ性は、原紙、サイズプレス、活性珪酸を含む水溶液のそれぞれの効果により発揮されるため、具体的にサイズ性の調整は、原紙の内添サイズ剤処方と工程、サイズプレス処方と工程、活性珪酸を含む水溶液の処方と工程を調整することにより達成される。
【0061】
(インクジェット記録用紙)
本発明のインクジェット記録用紙は、上述のインクジェット記録用支持体を使用して製造されるものである。インクジェット記録用紙として種々の形態が例示される。第1の形態として、上述のインクジェット記録用支持体に少なくともインク定着剤を塗工したインクジェット記録用紙。第2の形態として、インクジェット記録用支持体に少なくとも1層の顔料とバインダーを含むインク吸収層を設けたインクジェット記録用紙。第3の形態として、インクジェット記録用支持体に少なくとも1層の微細顔料とバインダーを含むインク定着層を設けたインクジェット記録用紙。第4の形態として、インクジェット記録用支持体に少なくとも1層のインク定着層と、その上に光沢発現層を有するインクジェット記録用紙である。」

4 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)インクジェット記録用紙
引用発明の「インクジェット記録シート」は、本件補正発明の「インクジェット記録用紙」に相当する。
そして、引用発明の「インクジェット記録シート」を構成する「インクジェット記録シート用原紙」は、「パルプ」を使用して製造され、「インクジェット記録シート用原紙そのものがインク吸収層の役目を果たす」ものである。そうすると、引用発明の「インクジェット記録シート」は、技術的にみて、本件補正発明の「主成分としてパルプを含有」するという要件、及び、「無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙」を満たしている。

(2)インク定着剤
引用発明の「カチオン性樹脂」は、技術的にみて、本件補正発明の「インク定着剤」に相当する。そうすると、引用発明は、本件補正発明の「当該インクジェット記録用紙がインク定着剤」を「含有」するという要件をみたしている。
また、引用発明の「カチオン性樹脂」は、本件補正発明の「インク定着剤がカチオン性高分子であり」とする要件を満たしている。


(3)嵩高剤
引用発明の「嵩高剤」は、本件補正発明の「嵩高剤」に相当する。そして、引用発明の「嵩高剤」は、技術的にみて、本件補正発明の「パルプの繊維間結合の阻害作用を有する」とする要件を満たしている。
そうすると、引用発明は、本件補正発明の「当該インクジェット記録用紙」が「前記パルプの繊維間結合の阻害作用を有する嵩高剤」を「含有」するという要件を満たしている。

(4)ポリビニルアルコール
引用発明の「ポリビニルアルコール」は、本件補正発明の「ポリビニルアルコール」に相当する。そうすると、引用発明は、本件補正発明の「当該インクジェット記録用紙」が「ポリビニルアルコールを含有」するという要件を満たしている。

(5)一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「主成分としてパルプを含有し、さらに、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙であって、当該インクジェット記録用紙がインク定着剤、前記パルプの繊維間結合の阻害作用を有する嵩高剤およびポリビニルアルコールを含有し、インク定着剤がカチオン性高分子であるインクジェット記録用紙。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]ポリビニルアルコールが、本件補正発明は「ケン化度が85?100mol%」であるのに対し、引用発明は、ポリビニルアルコールのケン化度を特定していない点。
[相違点2]インクジェット記録用紙が、本件補正発明は「書籍用紙」であるのに対し、引用発明は書籍用紙であるとしていない点。

5 判断
(1)[相違点1]について
引用文献1には、インクジェット記録シート用原紙にバインダーとして付着されるポリビニルアルコールのケン化度について記載がない。しかしながら、インクジェット記録シート用原紙にバインダーとして付着されるポリビニルアルコールとして、ケン化度が98mol%以上の、いわゆる完全鹸化ポリビニールアルコールを用いることは、以下に示すとおり周知慣用技術であるといえる。
例えば、引用文献2には、記載事項イに「そのバインダーの透明性から発色が良好なポリビニルアルコールを使用することが好ましい。」と記載されており、実施例で用いられたポリビニルアルコールは、全て「ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)」である。また、引用文献3にも、記載事項エに「本発明で使用出来る接着剤としては、・・・ポリビニルアルコール及びその誘導体、・・・等の合成樹脂系接着剤が、単独あるいは複合して用いられる。」と記載されており、実施例で用いられたポリビニルアルコールは、全て「ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA117)」である。さらに、引用文献4には、記載事項イに「紙の表面強度等を改善する目的でポリビニルアルコールやでんぷん等を表面サイジングしても良く。」と記載されており、紙の表面強度等を改善する目的で実施例において用いられたポリビニルアルコールは、「ポリビニルアルコール(PVA-105クラレ製)」である。また、引用文献5には、記載事項ウに「OCR用紙の表面強度や耐水性の向上のため、水溶性バインダを紙表面に塗工する。・・・耐水性や表面強度への寄与の点からポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールが好ましく、その中でも特に鹸化度が98%以上の耐水性の高いものが最も好ましい。」と記載されている。ここで、刊行物2の表1を参酌すると、「ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)」及び「ポリビニルアルコール(PVA-105クラレ製)」のケン化度は98?99mol%であって、いわゆる完全鹸化ポリビニルアルコールに該当するものと理解できる。
加えて、刊行物2には、「市場に出廻っているポバールの種類は非常に多いが,図1のように鹸化度,重合度別に分類してみると,十数種類にグループ分けされる。先ず鹸化度についてみると,鹸化度98%以上の完全鹸化ポバールと称せられるグループと,鹸化度87?89%の一般に部分鹸化ポバールと呼ばれるグループに大別され,部分鹸化ポバールには鹸化度80%のサブグループがある。」(第137頁第14?18行)、「4) 製紙用には一般に完全鹸化物が多く使用される。」(第141頁第3行)と記載されている。
以上の記載に基づけば、インクジェット記録シート用原紙に「バインダー」として「ポリビニルアルコール」を用いるとされた場合に、当業者であれば、ケン化度が高い、いわゆる完全鹸化ポリビニールアルコールを採用することは、周知慣用技術であり、そのようなポリビニルアルコールを採用することにより、紙の耐水性や表面強度が向上することは技術常識であったといえる。
したがって、引用発明におけるポリビニルアルコールとして、ケン化度が高い、いわゆる完全鹸化ポリビニールアルコールを採用し、本件補正発明の上記[相違点1]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は、審判請求書の請求の理由[3-2-3](1)において、参考特許文献1?3の記載を引用し、「このように、ケン化度85mol%未満のポリビニルアルコールが一般に使用され、また、ケン化度が高いポリビニルアルコールを含むインクジェット記録用紙に多くの欠点が見られているところ、「ケン化度85mol%未満のポリビニルアルコールを採用することは、周知慣用事項及び技術常識の点から著しく不自然」というご示唆は、何ら根拠がなく、いわゆる後付けによる理論と言わざるを得ません。」と主張している。
しかしながら、参考特許文献1において用いられる「ポリビニルアルコール」は、「前記水との接触角が40?75度の範囲の表面サイズ剤がポリビニルアルコールであり」(記載事項ア段落【0024】)、「本発明における表面サイズ剤として具体的には、表面サイズ剤の中でも、表面サイズ剤として通常使用される酸化澱粉ではなく、疎水性を向上させたアセチル化澱粉、燐酸エステル化澱などを用いることが好ましい。また、ポリビニルアルコールのけん化度を極めて低くし疎水基を残すか、けん化度を極めて高くし結晶化度を向上させ、疎水性を向上させたものも好ましく用いられる。」(記載事項イ段落【0042】)との記載から明らかなとおり、サイズ値を調整するための、単なる「表面サイズ剤」であって、「前記基材は、少なくともセルロースパルプを原料とするものであり、下記原紙であってもよく、該原紙表面に顔料やバインダーなどを処理した普通紙であってもよい。」(記載事項イ段落【0061】)との記載からも理解できるとおり、バインダーとは別途添加されるものである。また、参考特許文献2において用いられる「ポリビニルアルコール」は、「インクジェット用記録シートのバインダー」に含まれるものであるものの、当該バインダーは、「インクの吸収性及び定着性、乾燥性が良好で、耐水性、耐熱ブロッキング性の良好なインク受容層を形成しうるインクジェット用記録シートのバインダー」(記載事項イ段落【0001】)に含まれるものであって、「ポリエステルフィルムや金属のような水溶性インクを吸着しにくい支持体はいうまでもなく、紙のような支持体上に、上記のポリビニルアセタール樹脂からなるインク受容層を設けたインクジェット記録材は、単位面積当たりのインクの付着量が少ないときには良好な性能を発揮するが、多数のインクドットが重なり合う場合、つまり単位面積当たりのインク吸着量が多いときには、インク受容層がインクを十分に吸収しきれない。そのため、インク受容層と支持体上との間にインクがたまり、インクのにじみが発生したり、インク受容層が支持体からはがれるという問題」(記載事項イ段落【0009】)を解決しようとするためのものである。そうすると、参考特許文献2において用いられる「ポリビニルアルコール」は、インク受容層に適用されるものであるから、本件補正発明や、引用発明のように、「無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙」に適用されるバインダーではないことは明らかである。さらに、「本発明で使用するカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル類に、インクの乾燥性、インク受容層の皮膜物性、光沢、画像の鮮明性などを向上させる目的で水性高分子を混合してもよく、好ましくいことである。」(記載事項イ段落【0015】)との記載からも、参考特許文献2において用いられる「ポリビニルアルコール」が引用発明のポリビニルアルコールと異なる用途に用いられたものであることは明らかである。また、参考特許文献3には、「繊維状物質及び填料からなる被記録材において、その少なくとも一方の表面にケン化度が90%以下の部分ケン化ポリビニルアルコール溶液を塗工したことを特徴とする被記録材。」(記載事項ア)、「本発明で使用するPVAは部分ケン化物であり、そのケン化度は90%以下であり、実際には70乃至90%の範囲、好ましくは80乃至90%の範囲のケン化度の部分ケン化PVAである。」(記載事項ウ)と記載されているが、記載事項オに示されるとおり、実施例及び比較例において用いられた「ポリビニルアルコール」は、全て、ケン化度が88%以上のものであり、いずれも、本件補正発明におけるポリビニルアルコールのケン化度の要件を満たすものである。
そうすると、インクジェット記録シート用原紙にバインダーとして付着されるポリビニルアルコールとして、ケン化度が85mol%未満のポリビニルアルコールが使用されていたということはできないから、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)[相違点2]について
引用文献1には、インクジェット記録シートについて、「特に嵩があり、不透明度に優れ、記録密度の高い高精細なバーコードなどを印字したときでも、画像品位、読み取り品質、インク吸収性、画像耐水性が良好であり、製造時において操業性に優れるインクジェット記録シート」(記載事項イ)と記載するものの、その用途について明らかにしていない。
しかしながら、インクジェット記録シートを「書籍用紙」とすることは、周知慣用技術であるといえる。例えば、引用文献Aには、インクジェット印刷用紙用表面サイズ剤を表面に塗工してなるインクジェット印刷用紙について、「また本発明に係る塗工紙は、前記製紙用表面サイズ剤を・・・等の情報用紙だけでなく、・・・・、書籍用紙等の上質紙、・・・等に前記塗工方法で塗工したものであり、インクジェット印刷方式に適した印刷用紙である。」(記載事項イ)と記載されており、インクジェット印刷用紙が書籍用紙等に用いられるものであることが示唆されている。また、引用文献Bにも、「インクジェット印刷方式に適する書籍用紙」(記載事項イ)が記載されている。以上の記載に基づけば、インクジェット記録シートを「書籍用紙」とすることは、周知慣用技術であるといえる。
したがって、引用発明におけるインクジェット記録シートを、「書籍用紙」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)効果について
本願の段落【0010】の記載に基づけば、本件補正発明が奏する効果は、「こしが柔らかく、軽量感があり、インクが滲んだり、印刷ムラが発生しにくいインクジェット記録用紙を提供することができる。特に、インクジェット印刷時にシワの発生が少ないインクジェット記録用紙を提供することができる。更に、本発明によるインクジェット用紙は、非塗工紙タイプの用紙でありながら商業用の高速インクジェット印刷機(例えば、印刷速度が50m/分を越えるような印刷機)に対応可能なインクジェット記録適正を有し、書籍用紙として使用されることに適している。」というものである。
一方、引用発明が奏する効果は、引用文献1の記載事項イ段落【0009】の記載に基づけば、「特に嵩があり、不透明度に優れ、記録密度の高い高精細なバーコードなどを印字したときでも、画像品位、読み取り品質、インク吸収性、画像耐水性が良好であるインクジェット記録シートを操業性よく提供すること」であるから、引用発明のインクジェット記録シートは、インクが滲んだり、印刷ムラが発生しにくいインクジェット記録シートであるといえる。また、引用発明は、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録シートであるから、こしが柔らかく、軽量感があるインクジェット記録シートであるといえる。
引用文献1は、引用発明のインクジェット記録シートが、インクジェット印刷時にシワの発生が少なく、印刷速度が50m/分を超える高速インクジェット印刷機に対応可能であり、書籍用紙として使用されることに適したものであるかについては、明らかにしていない。
しかし、引用発明のインクジェット記録シートは、バインダーとしてポリビニルアルコールを付着させて得たものである。そして、バインダーは、「紙の表面強度等を改善する目的で」(引用文献4の記載事項イ)、あるいは、「表面強度や耐水性の向上のため」(引用文献5の記載事項ウ)塗工されるものである。さらに、刊行物5には、インクジェット用紙の浸水伸びが小さいと、「インクジェットプリンタによってインクの小滴を付着させて画像の形成を行う際に、インクの付着量が多い場合でも用紙の伸びがほとんど起きず、カールやコックリングの発生を十分に防止することができる」(記載事項ア)こと、「耐水化剤、水溶性高分子およびサイズ剤の少なくとも1種を用いて、パルプに内部添加し及び/または表面サイジングを施して抄造することによってセルロース繊維間結合部保護構造を形成することが好ましい」(記載事項イ)ことが記載されている。また、引用文献Cには、インクジェット記録用紙のコックリングについて、「コックリング現象がインク吸収に伴うパルプ繊維の結合力の低下と変形、およびインク乾燥による収縮挙動で発生することを確認し、特にインク吸収に伴うパルプ繊維の結合力を低下させないことがコックリング改善に有効」(記載事項ア)であること、「澱粉および/またはポリビニルアルコールは、波打ちとコックリング抑制効果の点で好ましい」(記載事項イ)ことが記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明のインクジェット記録シートは、バインダーとしてポリビニルアルコールを付着させて得たものであるから、パルプ繊維の結合力が維持されており、インクジェット印刷時にシワの発生が少ないものであって、印刷速度が50m/分を超える高速インクジェット印刷機に対応可能なものといえる。
さらに、引用発明のインクジェット記録シートは、JIS Z8807に示される見かけ比重0.4以下の低密度填料を紙質量当たり5質量%以上含有させて抄造することで、紙全体の嵩を出しやすくしたものである。そのようなインクジェット記録シートを、「書籍用紙」として使用することは、前記(2)に記載したとおり、周知慣用技術である。そうすると、引用発明のインクジェット記録シートも、書籍用紙として使用されることに適したものであるといえる。
以上より、本件補正発明の効果は、引用発明及び引用文献1の記載事項並びに上記周知慣用技術に基づいて、当業者が予測し得たものである。

6 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成30年10月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、前記第2の1に記載したとおりのものである。

2 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明、周知技術を示す文献として引用された引用文献2?5の記載事項は、前記第2の3(1)?(6)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、本件補正発明における「インクジェット記録用紙」について、「書籍用紙」であるとする限定を省いたものである。そうすると、本件発明の構成要件をすべて含み、さらに構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の5に記載したとおり、引用発明及び上記周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 補正案について
審判請求人は、令和元年8月6日に提出した上申書において、請求項1に係る発明を次のとおり補正する補正案を提示しているので、当該補正案に係る発明(以下、「補正案発明」という。)について検討する。
「 主成分としてパルプを含有し、さらに、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙であって、当該インクジェット記録用紙がインク定着剤、前記パルプの繊維間結合の阻害作用を有する嵩高剤およびポリビニルアルコールを含有し、インク定着剤がカチオン性高分子であり、ポリビニルアルコールのケン化度が85?100mol%であり、当該インクジェット記録用紙が印刷速度が50m/分を超える印刷機用の書籍用紙であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」(下線は補正箇所を示す。)

しかしながら、前記第2の5(3)に記載したとおり、引用発明のインクジェット記録シートは、バインダーとしてポリビニルアルコールを付着させて得たものであるから、パルプ繊維の結合力が維持されており、インクジェット印刷時にシワの発生が少ないものであって、印刷速度が50m/分を超える高速インクジェット印刷機に対応可能なものといえる。さらに、引用文献5の「高速インクジェット方式のプリンタで黒インクを使用して、150m/minの処理速度で印字を行った場合の、[1]印字濃度(PCS値)、[2]インク乾燥性、[3]インク耐水性、[4]インクの滲み、[5]インクの裏抜け、について以下の方法で試験・評価した。」(記載事項エ段落【0089】)との記載からも、ポリビニルアルコールなどのバインダーを塗工したインクジェット記録シートが、印刷速度が50m/分を超える高速インクジェット印刷に対応可能なものであることは明らかである。
したがって、補正案発明も、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-27 
結審通知日 2020-04-01 
審決日 2020-04-24 
出願番号 特願2015-245386(P2015-245386)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
早川 貴之
発明の名称 インクジェット記録用紙  
代理人 虎山 一郎  
代理人 江崎 光史  
代理人 上西 克礼  
代理人 鍛冶澤 實  

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