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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1363343
審判番号 無効2016-800116  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-09-30 
確定日 2020-04-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5690461号発明「化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5690461号の明細書、特許請求の範囲を、平成30年 2月 1日付け訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、4、5、8]、[2、9、10、11]、[3、12、13、14]、6、7について訂正することを認める。 特許第5690461号の請求項6、7に係る発明の特許についての特許無効審判請求は、却下する。 特許第5690461号の請求項1?5、8?14に係る発明の特許についての特許無効審判請求は、成り立たない。 審判の費用は、参加によって生じた費用を含めて、請求人及びその参加人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5690461号は、平成15年11月 6日(パリ条約による優先権主張 平成14年11月15日 米国(US))を国際出願日として出願され、平成27年 2月 6日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から、平成28年 9月30日付け審判請求書によって、本件特許の全ての請求項1?8に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。そして、被請求人は、平成29年 3月 6日付けで答弁書及び訂正請求書を提出して訂正を求めた。また、請求人から、平成29年 5月11日付けで弁駁書が提出された。
そして、請求人、被請求人は、各々、平成29年 8月22日付け口頭審理陳述要領書を提出し、平成29年 9月 5日に行われた第1回口頭審理において、請求人、被請求人各々により、第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされた。
当合議体は、平成29年11月17日付けで審決の予告により、平成29年 3月 6日付け訂正請求を認める、本件特許の請求項1?6、8?16に係る発明についての特許を無効とする、請求項7に係る発明についての審判請求は成り立たない旨を通知した。
これに対し、被請求人は、平成30年 2月 1日に、上申書、及び訂正請求書(第2回)を提出して訂正を求めた(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」、この訂正請求書を「本件訂正請求書」という。)。
そして、当合議体より、平成30年 3月 6日付けで、被請求人の提出した、上記書面の副本を送付したところ、請求人より、平成30年 4月11日付けで弁駁書(第2回)(以下、この弁駁書を「本件弁駁書」ともいう。)が提出された。
その後、平成30年10月22日に参加申請書(共和クリティケア株式会社)が提出され、平成30年12月12日付けで、参加許否の決定がなされた。

2.訂正請求
前記1に記載のとおり、本件訂正請求がなされたので、平成29年 3月 6日付けの訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。
そして、本件訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものである。

2-1.訂正請求の趣旨
特許第5690461号の設定登録時の明細書、特許請求の範囲(以下、各々、「本件特許明細書」、「本件特許請求の範囲」という。)を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲(以下、各々、「本件訂正明細書」、「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求める。

2-2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(14)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の最初のパラグラフに「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」とあるのを「パロノセトロン塩酸塩」に訂正し;
請求項1のパラグラフ(b)に「規定量のパロノセトロン」とあるのを「規定量のパロノセトロン塩酸塩」に訂正し;そして
請求項1のパラグラフ(c)に「パロノセトロン」とある(2箇所)のを「パロノセトロン塩酸塩」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の最初のパラグラフに「注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物」とあるのを「注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2の最初のパラグラフに「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」とあるのを「パロノセトロン塩酸塩」に訂正し;
請求項2のパラグラフ(b)に「規定量のパロノセトロン」とあるのを「規定量のパロノセトロン塩酸塩」に訂正し;そして
請求項2のパラグラフ(c)に「パロノセトロン」とある(2箇所)のを「パロノセトロン塩酸塩」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2の最初のパラグラフに「注射用液体賦形剤を含んでなり、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物」とあるのを「注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであり、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3の最初のパラグラフに「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」とあるのを「パロノセトロン塩酸塩」に訂正し;そして
請求項3のパラグラフ(b)に「規定量のパロノセトロン」とあるのを「規定量のパロノセトロン塩酸塩」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3の最初のパラグラフに「注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物」とあるのを「注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1に記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1又は4に記載の」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1、4又は5に記載の」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲に、請求項4、5及び8に対応する請求項9?11を新たに加える。当該新たに加える請求項9?11は、それらが従属する請求項の番号以外は、それぞれ、請求項4、5及び8と同一である。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲に、請求項4、5及び8に対応する請求項12?14を新たに加える。当該新たに加える請求項12?14は、それらが従属する請求項の番号以外は、それぞれ、請求項4、5及び8と同一である。
(14)訂正事項14
明細書の段落【0052】に「一つの態様において、注射用液体医薬組成物は5.0のpHを有する。」なる記載を加入する。

2-3.訂正の適否の判断
2-3-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1における「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」を「パロノセトロン塩酸塩」に限定することを求めるものである。
ア 本件特許明細書及び本件特許請求の範囲には、注射用液体医薬組成物におけるパロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及びその濃度について以下の記載がある。

(ア)「【0016】
・・・
・ また、パロノセトロンの効力は、減少した濃度における薬剤の処方を可能とする。パロノセトロンはより低い濃度において最も安定であることが見出されたので、この利点はパロノセトロンの処方において特に有意である。・・・」

(イ)「【0030】
「薬学上許容される塩」は、上に定義したように、薬学上許容され、そして必要な薬理学的活性を有する塩を意味する。このような塩は、無機酸、例えば、塩酸・・・または下記の有機酸と形成した酸付加塩を包含する・・・」

(ウ)「【0036】
パロノセトロンの必要なより低い投与量の特に驚くべき利点は、パロノセトロンの濃度が減少するにつれて、溶液中のパロノセトロンの安定性が増加するという事実に由来する。こうして、このパロノセトロンの効力のために、広い範囲のパロノセトロン濃度、好ましくは約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロン、最も好ましくは約0.05 mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる安定な組成物に処方することができる。こうして、1つの特定の態様において、パロノセトロンは5 mlの溶液を含んでなるアンプルで供給され、ここでこの量は約0.05 mg/mlの濃度における約0.25 mgのパロノセトロンに等しい。」

イ 当審の判断
訂正前の本件特許の請求項7には、前記パロノセトロンがパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項1?6のいずれか1項に記載の医薬組成物、との記載があり、また、本件特許明細書には、上記(イ)に摘示したとおり、「薬学上許容される塩」として、たとえば、塩酸と形成した酸付加塩が記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書及び本件特許請求の範囲の記載の範囲内においてするものである。
また、「パロノセトロン塩酸塩」は、訂正前の、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」との記載のうち、「その医薬として許容される塩」の下位概念に相当することは明らかであるから、訂正事項1に係る訂正は、請求項1における「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」を「パロノセトロン塩酸塩」に限定したものであるといえる。
よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項1の注射用液体医薬組成物におけるパロノセトロンの濃度を「0.01?0.2mg/ml」とすることを求めるものである。
本件特許明細書及び本件特許請求の範囲には、前記(1)アで摘示した事項が記載されている。
そして、前記(1)ア(ア)、(ウ)に摘示した本件特許明細書の記載によれば、本件特許明細書には、溶液中のパロノセトロンの濃度として、約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロンが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書の記載の範囲内においてするものであるといえる。
また、訂正前の請求項1には、パロノセトロンの濃度についての規定はないが、注射用液体医薬組成物において、その成分であるパロノセトロンがなんらかの濃度で存在していることは当然であるといえるから、特定されていない組成物の濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲内のものに限定したものであるといえる。
請求人は、本件訂正請求は、訂正前の「嘔吐を抑制或いは軽減する注射用液体医薬組成物」の提供を目的とした発明から、「パロノセトロンの貯蔵安定性を改善した注射用液体医薬組成物」の提供を目的とした発明へと、発明の目的を変更するものであるから、発明を実質上変更するものに当たる、と主張する。
しかしながら、請求人の主張する、パロノセトロンの貯蔵安定性の改善は、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲に限定したことによるものであるものの、当該限定を付しても、「嘔吐を抑制或いは軽減する注射用液体組成物」の提供という発明の目的は、何ら変更されていないから、上記請求人の主張は採用できない。
なお、平成 7年 7月 1日以降の出願に係る特許については、発明の詳細な説明に発明の目的が必要的記載事項でなくなったことに鑑み、従来の「具体的目的内の減縮」でなくてはならないという考え方は採られなくなっている。
以上のとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3、5について
訂正事項3、5に係る訂正も、上記訂正事項1に係る訂正と同様に判断される。
よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4、6について
訂正事項4、6に係る訂正も、上記訂正事項2に係る訂正と同様に判断される。
よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項7、8、11について
訂正事項7、8、11に係る訂正は、訂正前の請求項4、5、8と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項9、10について
訂正事項9、10に係る訂正は、請求項の削除を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項12について
訂正事項12に係る訂正は、請求項2を引用する訂正前の請求項4を新たに、請求項2を引用する請求項9とし、請求項2又は4を引用する訂正前の請求項5を新たに、請求項2又は9を引用する請求項10とし、また、請求項2、4又は5を引用する訂正前の請求項8を新たに、請求項2、9又は10を引用する請求項11とするものである。よって、この訂正は、引用関係を一部解消し、一つの請求項の記載を、引用請求項の数を減少した二つの請求項に変更することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項13について
訂正事項13に係る訂正は、請求項3を引用する訂正前の請求項4を新たに、請求項3を引用する請求項12とし、請求項3又は4を引用する訂正前の請求項5を新たに、請求項3又は12を引用する請求項13とし、また、請求項3、4又は5を引用する訂正前の請求項8を新たに、請求項3、12又は13を引用する請求項14とするものである。よって、この訂正は、引用関係を一部解消し、一つの請求項の記載を、引用請求項の数を減少した二つの請求項に変更することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)訂正事項14について
訂正事項14は、本件特許明細書の段落0052に、本件特許請求の範囲に記載されている注射用液体医薬組成物に、一つの態様として、5.0のpHを有する組成物が包含されることを記載する訂正を求めるものである。
本件特許請求の範囲に係る発明は、注射用液体医薬組成物の発明であるから、いずれかのpH値を有する組成物であることは当業者に自明の事実であるところ、本件特許明細書には、該医薬組成物のpHについて明示の記載はなく、そのpHが具体的にいかなる値をとりうるかについて明瞭でない記載があったといえる。
そして、5.0のpHを有する医薬組成物が記載されている本件訂正特許請求の範囲の請求項2に照らせば、pH5.0を有する注射用液体医薬組成物が本件訂正特許請求の範囲に記載されている注射用液体医薬組成物の一実施態様であることは明らかであるといえるから、本件訂正事項14は、上記明瞭でない記載の釈明を目的として、とりうるpHを明示的に記載したものと認められる。
また、pH5.0を有する注射用液体医薬組成物は本件特許請求の範囲の請求項2にも記載されている。
よって、この訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(10)別の訂正単位とする求め
請求人は、引用関係の一部解消を目的とする訂正事項7、8、11が認められる場合は、[1、4、5、8]、[2、9、10、11]、[3、12、13、14]を別の訂正単位とすることを求めている。

(11)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?8は、請求項4?8が先行するすべての請求項を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

2-3-2.むすび
したがって、上記訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第3項、及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するので、訂正後の請求項1?14について訂正することを認める。
訂正事項7、8、11に係る訂正は、引用関係の一部解消を目的とする訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、引用関係の一部解消を目的とする訂正事項7、8、11が認められる場合は、[1、4、5、8]、[2、9、10、11]、[3、12、13、14]を別の訂正単位として取り扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項[1、4、5、8]、[2、9、10、11]、[3、12、13、14]、6、7について訂正することを認める。

3.本件訂正発明
上記訂正の結果、本件特許第5690461号の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、順に、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明14」という。)。

「【請求項1】
パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり;そして
(c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内に、パロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであり、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり;そして
(c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内にパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;そして
(b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる、請求項1又4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
単位投与型である、請求項1、4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる、請求項2又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
単位投与型である、請求項2、9又は10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる、請求項3又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
単位投与型である、請求項3、12又は13に記載の医薬組成物。」

4.当事者の主張、及び、提出した証拠方法
4-1.請求人側の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法
請求人は、平成30年 4月11日付け弁駁書(第2回)において、平成30年 2月 1日付け訂正請求書による訂正は適法でないと主張し、たとえば、本件訂正発明1?5、8?14と甲号証記載の発明との対比、検討に基づくいわゆる新規性進歩性についての主張を行っていないなど、本件訂正発明1?5、8?14について、各無効理由と対応させた上での主張を行っていない。
しかし、上記訂正請求が適法なものとして認められたことは上記説示のとおりである。そこで、以下においては、訂正前後の請求項の対応関係等も踏まえ、本件訂正発明1?3に対して本件特許発明1?3及び7についてした主張を、本件訂正発明4、9及び12に対して本件特許発明4及び7についてした主張を、本件訂正発明5、10及び13に対して本件特許発明5及び7についてした主張を、また、本件訂正発明8、11及び14に対して本件特許発明7及び8についてした主張を行っているものとして検討する。

請求人が提出した審判請求書、平成29年 5月11日付け弁駁書、平成29年 8月22日付け口頭審理陳述要領書、及び平成30年 4月11日付け弁駁書(第2回)によれば、請求人は、本件訂正発明1?14についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1?5を主張し、証拠方法として、甲第1号証?甲第21号証(以下、各々、「甲1」、「甲2」・・・「甲21」と表記する場合がある。)を提出している。

(無効理由1)
本件訂正発明1?14は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1?14に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由2)
本件訂正発明1?14は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1?14に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由3)
発明の詳細な説明には、本件訂正発明1?14を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないことから、本件訂正発明1?14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?14に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由4)
本件訂正発明1?14は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件訂正発明1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?14に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由5)
本件訂正発明1?14は、明確でないから、本件訂正発明1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?14に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:Program/Proceedings of American Society of Clinical Oncology, Vol.21, p.371a, 左上欄, Abs.1480, May 18-21,(2002)
甲第2号証:Evaluate(TM),MGI PHARMA Reports 2002 Second Quarter Results,インターネット記事,2002年 7月17日,[2016.9.23検索](http://www.evaluategroup.com/Universal/View.aspx?type=Story&id=28687)
甲第3号証:国際公開第2004/045615号
甲第4号証:甲第1号証と甲第3号証の各記載の対比表
甲第5号証:平成26年11月13日付け意見書
甲第6号証:平成23年8月12日付け上申書
甲第7号証:平成24年4月26日付け手続補正書(請求の理由)
甲第8号証:平成26年2月13日付け回答書
甲第9号証:平成26年5月1日付け拒絶理由通知書
甲第10号証:分割出願(特願2012-034259号)に係る平成27年4月21日付け手続補正書
甲第11号証:分割出願(特願2012-034259号)に係る平成27年6月18日付け拒絶査定
甲第12号証:分割出願(特願2012-034259号)に係る平成27年11月6日付け拒絶査定不服審判請求書
甲第13号証:分割出願(特願2012-034259号)に係る平成26年2月28日付け誤訳訂正書
甲第14号証:特開平3-176486号公報
甲第15号証:「慶應義塾大学信濃町メディアセンター/図書館について/建物・沿革」のHP、http://www.med.lib.keio.ac.jp/about/history.html)
(以上、審判請求書に添付。)
甲第16号証:Current Opinion in Investigation Drugs, 2002, 3(10): 1502-1507
甲第17号証:Proceedings of American Society of Clinical Oncology, Vol.21 no.449, 2002
甲第18号証:International Journal of Pharmaceutics 121, p.95-105, 1995
(以上、弁駁書に添付。)
甲第19号証: 平成3年2月15日薬審第43号「医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき安定性試験成績の取り扱いについて(通知)」
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)
甲第20号証:特許第5551658号に係る平成25年11月14日付け意見書に添付された参考資料3の訳文(抜粋)
甲第21号証:特許・実用新案審査基準第II部第2章第2節サポート要件
(以上、弁駁書(第2回)に添付。)
なお、参加人 共和クリティケア株式会社は、無効理由について特段の主張はしていない。

4-2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、訂正の請求を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求人の本件特許が無効であるとの主張には理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1号証の1?乙第5号証(以下、各々、「乙1の1」、「乙1の2」・・・「乙5」と表記する場合がある。)を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証の1:Preformulation Book(1993年2月)及びその訳文
乙第1号証の2:FDAに提出されたパロノセトロン塩酸塩に関するDMF及びその抄訳(提出日2013年7月19日)
乙第2号証の1:Daniele Bonadeoのデクラデーション及びその訳文
乙第2号証の2:実験成績証明書(報告日平成29年2月28日)
乙第3号証の1:M. Saito, et al. Oncology, Vol.10, February 2009, p.114-124及びその抄訳
乙第3号証の2:ルーベン ギオルギノ博士のデクラデーション及び訳文
乙第3号証の3:P. Eizenberg et al., CANCER, December 1, 2003, Vol.98, No.11, p.2473-2482及びその抄訳」
(以上、答弁書に添付。)
乙第2号証の3:乙第2号証の2の修正版
乙第4号証:平成21年(行ケ)第10238号(平成22年7月15日判決)
乙第5号証:知財高裁の平成21年(行ケ)第10033号判決
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)

5.証拠の記載事項
5-1.甲号証の記載事項
甲第1号証、甲第14号証、甲第16号証、甲第17号証、及び甲第18号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

甲第1号証
(摘示事項1A)
表紙
慶応義塾大学医学メディアセンター受け入れ印(2002年7月8日付け)の記載がみられる。

(摘示事項1B)
1?12行
「1480 一般ポスター 月曜日、午前8時-午後12時
高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心および嘔吐を防止する単一静脈内用量のパロノセトロンを評価するためのフェーズ第2相用量範囲の研究
A.マッチオッチ,(中略),ヘルシン ヘスルケア SA,ルガーン スイス国,(以下略))

パロノセトロンは、強い結合親和性を有する、強力で高度に選択的な5-HT3レセプターアンタゴニストである。先の第1相試験において、パロノセトロンは、約40時間の半減期を示した。
ランダム化二重盲検マルチセンター用量範囲第2相臨床試験を実施して、0.3?90mcg/kgの範囲にわたるパロノセトロンの単一静脈内用量の間における用量反応関係を確認した。」

(摘示事項1C)
12?32行
「方法:一般に遅延嘔吐に関係付けられる、シクロホスファミド(>1100mg/m2)およびシスプラチン(>70mg/m2)を含む高度に嘔吐発生性の化学療法を受けた患者を、パロノセトロンの単一静脈内投与の5投与量群の1つに割り当てた。化学療法投与の30分前に、パロノセトロンを単独で(デキサメタゾンを使用しないで)30秒の静脈内注射として投与した。主要評価項目は24時間の完全な応答(嘔吐なし、レスキューなし)(CR)であった。副次的評価項目は完全な抑制(嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心)(CC)および5日のCRを含んだ。
安全性及び効能評価は、パロノセトロン投与後の最初の24時間とその後の6日間の患者日記において記録された。
結果:161人の患者(32人の女性、129人の男性)が参加した。主要な効能パラメーターおよび結果を下記表に要約する。悪い事象の大部分(83.9%)は軽度または中程度であり、そして投薬の研究に起因しなかった(86.0%)。
投薬の研究に関係づけられる通常報告される悪い事象は下記のものを含む:頭痛(19.3%)、便秘(8.7%)、眩暈感(2.5%)および異常な疼痛(2.5%)。薬剤に関係する重大な事象は報告されなかった。
結論:これらの患者において、パロノセトロンは、急性嘔吐の治療において安全かつ有効であったこと、活性を5日目に至るまで維持したこと、そして、第3相 試験におけるさらなる検証を正当化することを、結果は示している。

(摘示事項1D)
33行?最終行
投与量による応答者%



甲第14号証
(摘示事項14A)
特許請求の範囲
「(1)式(I)




・・・
(24)R^(3)が、
1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル、
1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-4-イル、
エンド-9-メチル-9-アザビシクロ[3.3.1]ノナ-3-イル、
エンド-8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル、
エキソ-8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル、または
エンド-1-アザビシクロ[3.3.1]ノナ-4-イル
である、請求項23記載の化合物。
(25)nが1である、請求項24記載の化合物。
(26)nが2である、請求項24記載の化合物。
(27)R^(3)が1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル、すなわち2-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1-オン特にその(3aS,3’S)異性体およびその塩酸塩である、請求項26記載の化合物。
(28)nが3であり、pが0、1または2であり、qが0であり、R^(1)がハロゲン、低級アルコキシまたはアミノであり、R^(3)がR^(4)およびR^(5)を含む場合それらは各々低級アルキルである、請求項1記載の化合物。
・・・
(32)好ましくは医薬的に許容し得る賦形剤と組み合わせた形で請求項1?31または40?43記載の化合物の治療有効量を含む医薬組成物。
(33)処置を必要とする動物における、おう吐、胃腸疾患、CNS疾患、心臓血管疾患およびとう痛から選ばれた状態の処置方法であって、前記動物に請求項1?31または40?43記載の化合物または請求項32記載の組成物の治療有効量を投与することを含む方法。
・・・
(38)おう吐誘発に充分なレベルでの細胞毒性薬剤または放射線を用いた癌の処置を受けているひとにおけるおう吐の処置方法であって、前記ひとに請求項1?31または40?43記載の化合物または請求項32記載の組成物の抗おう吐量を投与することを含む方法。
・・・」

(摘示事項14B)
8頁左下欄1行?右下欄5行
「「医薬的に許容し得る塩類」は、所望の薬理活性を有し、生物学的またはその他の点で許容される塩類を包含する。それらの塩類には、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、燐酸など、または有機酸・・・などにより形成された酸付加塩類がある。好ましい医薬的に許容し得る塩類は、塩酸により形成された塩類である。」

(摘示事項14C)
14頁左下欄6行?右下欄末行
「(投与および医薬組成物)
この発明の化合物は、単独またはこの発明の別の化合物もしくは別の治療剤と組み合わせた形で、当業界で周知の許容され得る常用方法のいずれかにより投与され得る。一般に、この発明の化合物は、医薬的に許容し得る賦形剤と組み合わせた医薬組成物として投与され、経口的、全身的(例、経皮的、経鼻的または架剤による)または非経口的(例、筋肉内[im]、静脈内[iv]または皮下的[sc]に投与される。すなわち、この発明の化合物は、後述されている通り、半固体、粉末、エアロゾル、溶層、懸濁夜である組成物または他の適当な組成物で投与され得る。
医薬組成物は、式(I)(ただし、各置換基は前記の意味を有する)で示される化合物を、好ましくは医薬的に許容し得る賦形剤と組み合わせた形で含む。前記賦形剤は、非毒性であり、この発明の化合物の投与において補助的に作用するものである。前記賦形剤は、一般に当業界の熟練者に利用可能であり、有効成分の活性に悪影響を与えない固体、液体、半固体、気体(エアロゾルの場合)賦形剤であればよい。
一般に、この発明の医薬組成物は、治療有効量の化合物を少なくとも1種の賦形剤と組み合わせて含有する。製剤のタイプ、単位用量のサイズ、賦形剤の種類および製薬科学分野の熟練者に知られた他の因子により、この発明の化合物の量は、組成物中で広い範囲にわたって変化し得る。一般に、最終組成物に含まれるこの発明の化合物の割合は約0.001重量%?約99.5重量%であり、残りは賦形剤(複数も可)である。好ましくは、活性化合物のレベルは、約0・01重量%?約10.0重量%および最も好ましくは約0.1重量%?約1.0重量%であり、残りは適当な賦形剤(複数も可)である。」

(摘示事項14D)
31頁左上欄16行?右上欄6行
「(3aS、3’S)-2-(1-アザビシク[2.2.2]-オクタ-3-イル)-2,3,3a、4,5,6-ヘキサヒドロ-IH-ベンゾ[de]イソキノリン-1-オンおよび(3aR,3’S)-ジアステレオマーのHCI塩が沈澱した。エタノールから2回再結晶化すると、(3aS 、 3°S)-ジアステレオマーの純粋なHCI塩[化合物M(HCl)]が得られた、mp296-297℃、[α]_(D) -98(c0.5、H_(2)O収量6グラム)。遊離塩基(化合物M)は、87-88℃の融点、[α]_(D) -136°(c0.25、クロロホルム)を有する。」

(摘示事項14E)
34頁左上欄下から3行?左下欄末行
「実施例13
ケナガイタチにおけるシスプラチン誘発性おう吐。
この試験は、ケナガイタチにおけるシスプラチン誘発性おう吐に対する、静脈内投与された場合の式(1)で示される化合物の効果を示す。
試験期間の前および期間中共に雄の成熟去勢ケナガイタチに対し無制限に食物および水を与える。各動物を無作為に選択し、メトファン/酸素混合物により麻酔し、秤量し、3つの試験群の一つに割り当てる。麻酔中、腹部頚部領域に沿って長さ約2?4cmの切開を行う。次いで、頚静脈を摘出し、続いて蓋を取り付け、食塩水を満たしたPE-50ポリエチレン管によりカニューレを挿入する。カニューレを頭蓋骨の基部から体外に出し、創傷クリップで切り口を閉じる。次いで、動物をケージに戻し、賦形剤(1.0ml/kg)または試験化合物(1.00mg/kg)の静脈内(iv)投与の前に麻酔から回復させる。試験化合物投与(静脈内)の2.0分以内に、静脈内用量のシスプラチン(10mg/kg)を与える。次いで、動物を5時間(服用後)観察し、おう吐反応(すなわち、おう吐および/または吐き気)を記録する。この実施例および実施例16の意図としては、おう吐(vomiting)は、胃内容物の連続的排出として定義されるが、1回の吐き気症状の発現は、急速で連続的なおう吐努力(1分間以内)として定義される。この観察期間の最後に、各動物を致死的バルビツール剤注射により安楽死させる。
おう吐反応は、(1)おう吐開始までの時間、(2)全部のおう吐症状の発現および(3)全部の吐き気症状の発現として表される。試験群の平均および標準偏差を、レファレンス群の場合と比較する。
単一処置群を賦形剤対照と比較するときはスチューデントのt-試験により、または複数の処置群を単一賦形剤の場合と比較するときはデュネットの比較分析により有意性を測定する。
下記結果が示す通り、静脈内投与された式(1)の化合物は、この検定において抗おう吐性を示す。




甲第16号証
(摘示事項16A)
1502頁左欄タイトル?右欄12行
「パロノセトロン ヘルシン
・・・
合成及び構造活性相関
・・・パロノセトロンは他の5-HT_(3)アンタゴニストのようにラセミ体として存在するのでなく、むしろ単一の光学異性体として存在する。・・・

薬効薬理
パロノセトロンは、一連のin vitro試験において有望な、選択的5-HT_(3)受容体アンタゴニストであることが示された[173464]。取り出されたモルモット回腸の5-HTへの収縮反応を仲介する5-HT_(3)受容体において、4つのエナンチオマー、パロノセトロン(S,S)、RS-25259-198(R,R)、RS-25233-197(S,R)、及びRS-25244-198(R,S)の5-HT_(3)受容体に対する親和性が試験された。

主催者 ロシュ バイオサイエンス
実施権者 ヘルシン ヘルスケア SA, MGIファーマ・インク
ステータス 第3相臨床
症状 嘔吐
作用 5-HT_(3)拮抗薬、抗嘔吐
同義、類似物質 RS-25233-197,RS-25233-198,RS-25259-007,RS-25259-197,RS-25259-198,RS-42358,RS-42358-197,RS-42358-198
CAS 1H-ベンズ[de]イソキノリン-1-オン,2-(3S)-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクト-3-イル-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-モノヒドロクロリド
登録番号:135729-61-2,135729-62-3





(摘示事項16B)
第2相臨床試験、1503頁右欄下から8行?2行
「化学療法を受ける予定であり、それまで化学療法を受けたことがない、組織学的に証明された癌の患者37人において、パロノセトロンの単回投与(0.3、3、10、30及び90μg/kg)の薬物動態プロフィールを、無作為二重盲検研究で評価した[452078]。シスプラチン(>70mg/m2)またはシクロホスファミド(>1l00mg/m2)の初回投与の30分前に、パロノセトロンが静脈内投与された。」

(摘示事項16C)
第2相臨床試験、1503頁右欄下から2行?1504頁左欄8行
「注射後、最初の24時間、及び48、72、120及び168時間後、11の血液サンプルが採決され、そして、0.020ng/ml精度のバリデーションされたプラズマアッセイを使用して分析された。血漿濃度の曲線下面積は、投与量に比例して増加した。最大の血漿濃度に達した時間は、投与後8.6分から49.6分にわたり;最大の血紫濃度は0.880から336ng/mlであり;排出半減期は、43.7時間から128時間であり(すなわち、他の5-HT_(3)受容体拮抗薬の排出半減期よりも有意に長い)、・・・」

(摘示事項16D)
第3相臨床試験、1504頁左欄16行?20行
「この試験において、569人の患者は、中程度に嘔吐発生性の化学療法レジメンの投与の30分前に、パロノセトロン(0.25または0.75mgの静脈内投与)またはドラセトロン(100mg)の投与を受けた。」

(摘示事項16E)
第3相臨床試験、1504頁左欄25行?31行
「パロノセトロンの両用量についての遅延期間の完全応答率(24時間から120時間の期間内に、嘔吐を経験することなく、いかなるレスキュー薬も必要としなかった患者の割合)(低用量の場合の54%、高用量の場合の56.6%)は、ドラセトロンの遅延期間の完全応答率(38.7%)よりも有意に優れていた。」

(摘示事項16F)
1504頁右欄16行?31行
「現在の見解
・・・パロノセトロン[410609][452078][454635]の延長された消失半減期は現在使用することができる5-HT_(3)アンタゴニストによる処置後に観察される有効期間に比べてより長い期間をもたらすかもしれない。

(摘示事項16G)
1506頁左欄、参照番号「410609」
「410609 新規5HT_(3)-レセプター-アンタゴニスト:パロノセトロン(RS-25259-197)の薬物動態学的特徴 ピラシーニ G、ストルツ R、テイ M、マッチオッチ A PROC AM SOC CLIN ONCOL 2001 20 Abs 1595
・パロノセトロンの代謝的及び薬物動態学的性質及びパロノセトロン(0.1?90μg/kg)の安全プロフィールに関する調査結果報告書」

(提示事項16H)
1506頁右欄、参照番号「452078」
「452078 パロノセトロン. 高度に嘔吐発生性の化学療法を受けている患者において、パロノセトロンの単一用量薬物動態プロフィールを7日間の期間にわたって評価する第2相用量範囲研究。 ピラシーニ G、ギャラガー SC、マチオチ A PROC AM SOC CLIN ONCOL 2002 21 Abs 449
・化学療法を受ける予定である37人の癌患者における無作為二重盲検の平行グループ研究」

甲第17号証
(摘示事項17A)
タイトル、著者
「パロノセトロン:高度に嘔吐発生性の化学療法を受けている患者において、パロノセトロンの単一用量薬物動態学的性質を7日間の期間にわたって評価する第2相用量範囲研究。G.ピラシーニ、S.C.ギャラガー、A.マチオチ;ヘルシンヘルスケア SA、ルガーノ、スイス;MGIファーマ社、ブル-ミントン、ミネソタ州」

(提示事項17B)
5行?9行
「組織学的に癌であるとわかる、化学療法を受けたことのない、そしてシスプラチン(>70 mg/m2)あるいはシクロホスファミド(> 1100 mg/m2)の初期量を受けることが予定されている患者が試験に登録された。パロノセトロンは、化学療法の30分前に、30秒の静脈内投与で単回投与された。」

(摘示事項17C)
9行?12行
「薬物動態学的パラメータが、0.020 ng/mLの感度が確認された血漿の分析を使用して、7日間の期間にわたって0.3-1, 3,10, 30 あるいは90μg/kgの用量レベルで評価された。」

(摘示事項17D)
12行?13行
「11の血液サンプルが、投薬後最初の24時間と、48時間後、72時間後、120時間後、及び168時間後に、pk分析のために作成された。」

(摘示事項17E)
下から2行?末行
「血漿半減期(43.7?128時間)はこのクラスの他の化合物に比べて有意に長い。」

甲第18号証
(摘示事項18A)
95頁イントロダクション1行?10行
「RG12915(I)、即ち、N-[アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3(S)-イル]-2-クロロ-シス-5a(S)-9a(S)-5a,6,7,8,9,9a-ヘキサヒドロジベンゾフラン-4-カルボキサミドは、5-ヒドロキシトリプタミン_(3)は(5-HT_(3))受容体の非常に強力な拮抗薬である(Fitzpatrick et a1., 1990; Youssefyeh et a1., 1992a, b; Martin et al., 1993)。本薬は、化学療法薬によって誘発される嘔吐又はむかつきを軽減するので、化学療法を受ける患者のための制吐薬として開発されている。」

(提示事項18B)
95頁イントロダクション11行?18行
「水溶液中のRG12915は、多数の分解生成物を生じる光分解プロセス及び酸化分解プロセスを受けやすい。本研究は、本薬の分解生成物の単離及び同定について報告し、水溶液における光分解経路及び酸化分解経路を検討する。」

(摘示事項18C)
96頁スキーム1



(摘示事項18D)
102頁左欄17行?23行
「自己酸化の速度は基質濃度に比例することが述べられている(Bateman, 1954; Betts, 1971; Connors et al., 1986)。図4において定性的に示されるように、濃度が高いほど、速く酸化され、より低い百分率で横ばい状態になり、一方、濃度が低いほど、ゆっくり酸化され、より高い百分率で横ばい状態になる。」

(摘示事項18E)
102頁、図4



(摘示事項18F)
102頁左欄下から5行?3行
「分解に対するpHの影響を図5に示す。分解速度は、酸性度の増加と共に増加する。」

(摘示事項18G)
103頁、図5



5-2.乙号証の記載事項
乙第1号証の1、乙第1号証の2、乙第2号証の1、乙第2号証の3、乙第3号証の1、乙第3号証の2、及び乙第3号証の3には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

乙第1号証の1
(摘示事項乙1の1A)
表紙、吸湿性の項のB2-2
「RS-25259-197
RS-25259-007

予備処方に関して
・・・
吸湿性
実験
30?40mgのRS-25259-007(I相、ロット番号15303-28)及び12?18mgのRS-25259-007の一水和物の試料を正確に秤量し、軽量ボトルに入れ、すりガラスのふたをした。それらのボトルを、飽和塩溶液で一定相対湿度に保たれたチャンバー内に設置した。平衡に達するまで、試料を様々な時間間隔で秤量した。ある時間の、吸着・吸収された水分の百分率は次のように計算される。

%重量変化=〔(Wt-Wo)/Wo〕×100
(Wtは指示相対湿度に暴露後のある時間における試料の重量を示し、Woは試料の初期重量を示す)。

結果と考察
吸湿性の研究は遊離塩基のみについて行った。・・・

RS-25259-007の相Iにおける、水の吸脱着の結果を表B2-1に示す。・・・相対湿度93%では、試料の総水分量は1.7モル(9.4%)に達した。」

(摘示事項乙1の1B)
B2-3
表B2-1に、RS-25259-007の相Iの吸湿性
とのタイトルの下、相対湿度93% 時間1d 重量変化10.22% 総水分9.37% 総水分1.70モルであることが記載されている。

乙第1号証の2
(摘示事項乙1の2A)
1頁
「3.2.S.3.1 構造及びその他の特性の評価[パロノセトロン塩酸塩、ヘルシン・アドバンスト・シンセシス社]

目次
・・・
3.2.S.3.1.9.2 吸湿性 41頁」

(摘示事項乙1の2B)
41頁
「3.2.S.3.1.9.2 吸湿性
・・・パロノセトロンは82%RH以下では本質的に非吸湿性であることが分かった。75%RHで8日後、試料は0.2%の水を含んでいた。82%RHで8日後では、試料は0.5%の水を含んでいた。93%RHで4日後、前記化合物は0.6%の水を含んでいたが、8日後に潮解した。・・・」

乙第2号証の1
(摘示事項乙2の1A)
「・・・
7)・・・すべての我々の研究は、パロノセトロンの安定性が一般的に、パロノセトロンの濃度が低められるにつれて、改良し、そして、濃度が製品安定性の最も重要な決定因子であることを示す。
8)表1はリン酸緩衝された生理食塩水中、pH7.4で行われた我々の安定性試験結果を含んでいる。

表1.パロノセトロンHCl濃度-安定性研究(pH7.4、40℃)


9)見られるように、分子の安定性は、その濃度が下降するにつれて、この製剤においては改良し、そして最高の安定性が0.1mg/ml以下で見られた。我々は、下記により詳細に論じられるように。この同じ観察を他の研究において行った。
10)我々はまた、分子を配合する最良のpHを決定するためにpH-安定性研究を行った。この研究は、pH2.0,5.0,7.4及び10.0で緩衝された、60mg/mlのパロノセトロン水溶液により行われた。pH調節剤、pH緩衝液及びパロノセトロン以外、成分は存在しなかった。結果は表2に報告される。

表2.パロノセトロンHClの80℃でのpH-安定性研究


11)結果は、分子が60mg/mlのような低いパロノセトロン濃度で維持される場合、5.0のpHで非常に安定し、そして安定剤及び同様のものは、その安定性を維持するために不必要であることを示す。
・・・

12)我々はまた、安定性に対する種々の賦形剤の項かを評価し、そして安定性をさらに改良するために、追加の研究を実施した。

13)実際の理由のために配合についてのマンニトール及びクエン酸緩衝液を設定した後、我々は、訳5.0でpHを一定に維持し、そして同じ等張液(マンニトール)及び緩衝液(クエン酸三ナトリウム)を保持しながら、安定性に対するパロノセトロン及びEDTAの効果を研究した。安定性は、促進された安定性試験の標準条件(すなわち、40℃)下で、1,2,3及び6ヶ月で分解されないまま存続するパロノセトロンの百分率に基づいて測定された。

14)結果は、下記表3に報告される。



・・・
15)それらの結果からの1つの顕著な観察は、EDTAの存在が低パロノセトロン濃度で安定性を改良するが、しかし、実際、高パロノセトロンHCl濃度で安定性を低めることである。
・・・」

乙第2号証の3
(摘示事項乙2の3A)
p1 下から4行?p2 4行
「3.実験方法
0.015mg(パロノセトロンとして)/ml濃度のパロノセトロン塩酸塩の注射用溶液3ロット(ロット番号A、B及びC)、並びに0.15mg(パロノセトロンとして)/ml濃度のパロノセトロン塩酸塩の注射用溶液3ロット(ロット番号D、E及びF)を25℃±2℃で相対湿度60%±5%の条件下で、36箇月間貯蔵し、貯蔵開始時、3箇月後、6箇月後、9箇月後、12箇月後、18箇月後、24箇月後、及び36箇月後に、性状観察、pH測定、及びパロノセトロンの含量測定を行った。」

(摘示事項乙2の3B)
p2 6行?24行
「4.実験条件等
(1)ロット番号A、B及びC、並びにロット番号D、E及びFに関し、パロノセトロン以外の添加物の種類、及び100ml当りのそれら量は下記のとおりである。



(摘示事項乙2の3C)
p3 6行?p4 末行
「5.結果を下記の表に示す、pH測定は3回行い、その結果を平均値で示す。パロノセトロンの含量は3回測定し、名目濃度0.015mg/ml(100%とする)及び名目濃度0.15mg/ml(100%とする)に対する比率(%)として表示し、平均値で示す。下記の表中、性状を示す「a」は無色透明を示し、「Palo」はパロノセトロンの測定結果を示す。



(摘示事項乙2の3D)
p5 1行?4行
「6.結果
以上のとおり、注射用溶液中のパロノセトロンは、0.015mg/ml及び0.15mg/mlの濃度において、少なくとも36箇月にわたり、含量低下は認められず非常に安定であった。」

乙第3号証の1
(摘示事項乙3の1A)
サマリー 方法の項
「方法
高度に嘔吐発生性の化学療法(すなわち、シスプラチンまたはアントラサイクリンとシクロホスファミドの併用[AC/EC])を受けた1143名のがん患者を75箇所の日本の機関で2006年7月5日から2007年5月31日の間試験を行った。患者を無作為に分類し、第1日目の化学療法30分前に単一用量のパロノセトロン(0.75mg)またはグラニセトロン(40μg/kg)のどちらかを投与した。それぞれデキサメタゾン(16mg静脈内)も第1日目に投与し、さらに追加で第2または3日目も(8mg:シスプラチンを投与された患者に対し静脈注射で、又は4mg:AC/ECを投与された患者に対して経口で)投与した。・・・主な評価項目は、急性期間中の完全治癒患者(定義は、嘔吐症状がなく、レスキュー薬の使用もない患者)の比率(化学療法後0?24時間;グラニセトロンに対しての非劣性比較)、および遅延期間中の完全治癒患者の比率(化学療法後24?120時間;グラニセトロンに対しての優性比較)である。・・・」

(摘示事項乙3の1B)
図2に、完全治癒の時間経過(24時間毎)について、0-24、24-48、48-72、72-96、96-120時間(h)の、完全治癒(%)が、パロノセトロンについては、75.3、71.7、73.3、71.9、79.3%であり、グラニセトロンについては、73.3、66.9、65.1、61.9、71.2%であることが記載されている。パロノセトロンとグラニセトロンとの差の95%信頼区間は0より大きく、48-72、72-96、及び96-120時間におけるパロノセトロンの優位性が示されているとの記載がある。

乙第3号証の2
(摘示事項3の2A)
「ルーベン ギオルギノ博士の宣誓書

・・・
3.私は、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心および嘔吐を防止する単一静脈内用量のパロノセトロンを評価するための第2相用量範囲の研究」と題するProceedings of American Society of Clinical Oncology, Vol.21(2002)の要約番号1480を吟味した。
・・・
7.該要約は、遅延期(2日から5日)の24時間毎の効能の結果を報告していない。」

乙第3号証の3
(摘示事項乙3の3A)
タイトル
「薬理学的に新規な5-HT_(3)受容体アンタゴニストであるパロノセトロンを用いた中程度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心及び嘔吐の改善された防止 ドラセトロンとの対比、単回用量第3相試験結果」

(摘示事項乙3の3B)
要約
「・・・
方法:現在の研究では、中程度に嘔吐発生性の化学療法を受ける30分前にパロノセトロン0.25mg、パロノセトロン0.75mg、またはドラセトロン100mgの単回、静脈内投与を受ける592人の患者が無作為化された。主要評価項目は、化学療法後最初の24時間に完全応答(CR;嘔吐症状なし、及びレスキュー薬なしと定義される)の患者の割合であった。副次的評価項目には、遅延性嘔吐の防止評価(化学療法後2?5日)が含まれた。
・・・
結論:パロノセトロンの単回投与は、中程度に応答発生性の化学療法後の急性CINVを防止することにおいてドラセトロンの単回投与と同程度に有効であり、遅延CINVにおいてドラセトロンより優れており、全ての治療群に匹敵する安全性プロフィールを有した。」

(摘示事項乙3の3C)
2478頁 副次的評価項目
「遅延した期間(24?120時間)及び全体の期間(0?120時間;表4図1)の間に、パロノセトロンの両用量について、ドラセトロンと比較して有意に高いCR率が観察された。各日の遅延CINVのCR率の比較は、パロノセトロンの両用量については2日目及び3日目において、また、パロノセトロン0.75mg用量については4日目において、ドラセトロンと比べて高い率を示した。
・・・
パロノセトロン0.25mgについては1、2、及び5日目にドラセトロンと比較して嘔吐症状のない患者の割合が高く、2、3日目に高かった(図2)。悪心のない患者の割合も、パロノセトロン両用量群については2、3日目において(P<0.05)、パロノセトロン0.75mgについては4日目も有意に高かった(図3)。
・・・」

6.当合議体の判断
当合議体は、以下のとおり判断する。
本件特許発明6、7は、訂正により削除されたので、本件特許発明6、7に係る特許についての特許無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すベきものである。
本件訂正発明1?5、8?14の特許は、無効理由1?5によって無効にすべきものであるとはいえない。
その理由は、以下のとおりである。

6-1.無効理由1、2について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人の主張する、本件特許発明1に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)?(エ)のとおりのものである。
(ア)甲第1号証の摘示事項1C、1Dの記載からみて、甲第1号証には、
「(1a) パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1b) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り10μg/kgであり;
(1d) (c)化学療法投与の30分前に、パロノセトロンを投与するためのものであり、そして化学療法投与に続く5日間にパロノセトロンの更なる投与を行わない;
(1e) 医薬組成物。」の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されている。

(イ)本件特許発明1は、以下のとおり、分説することができる。
(1A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(1B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(1C) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D) (c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内に、パロノセトロンを投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロンの更なる投与を行わない;
(1E) ことを特徴とする医薬組成物。」

本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の構成1dにおける「化学療法投与」は、本件特許発明1の構成要件1Dの「嘔吐誘導事象」に相当し、また、甲1発明の「30分前」は、本件特許発明1の構成要件1Dの「前1時間」の範囲に含まれる。
よって、両者の発明の一致点・相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(1A’) パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当たり約10μg/kgであり;
(1C’) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、パロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D) (c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内に、パロノセトロンを投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロンの更なる投与を行わない;
(1E) 医薬組成物。」
<相違点>
(相違点1)
構成要件1Aについて、本件特許発明1は、「医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる」ものであるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点
(相違点2)
構成要件1Cについて、本件特許発明1は、「患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロンを投与するためのものであり」とするものであるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点

(ウ)甲1発明の構成1aにおける「パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物」は、注射によって投与される製剤であるから、当該医薬組成物に「医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤」を含んでなることは、当該技術分野における自明の事項または周知事項である。
よって、相違点1は、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

(エ)甲1発明は、構成1bのように「パロノセトロンの量が患者の体重kg当り10μg」により、複数の患者に対して投与されている。複数の患者の体重が互いに異なるのが通常であるから、甲1発明の薬剤による投与形態には、「患者の体重の範囲にわたって10μg/kgのパロノセトロンを投与する」との実施形態が包含されていることは明らかである。
よって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

請求人は、さらに、医薬組成物のパロノセトロンの濃度を特定する点、及び有効成分をパロノセトロン塩酸塩とする点に関連して、弁駁書、口頭審理陳述要領書、及び弁駁書(第2回)において以下のとおり主張している。

(オ)医薬品の貯蔵安定性を高めることは、当該分野における周知の課題である。たとえば、甲18には、パロノセトロンと同じ薬理作用を有し、化学構造が比較的近い化合物であるRG12915含有製剤が、その製剤濃度を下げるほど酸化分解しにくくなることが記載されており、パロノセトロンも、RG12915と同様酸化分解を受けやすいサイトである「アザビシクロ環の窒素原子」と「ベンゼン環に結合している3級炭素原子」とを有しているから、RG12915と同様の酸化分解を受けることが予想されるし、製剤濃度を下げて、その分解を抑制しようとすることは当業者が容易に想到しうる事項である。

(カ)(a)甲第1号証に記載された試験は、甲1記載の研究者により、遅延嘔吐性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)に対するパロノセトロンの治療効果に関して行われてきたものであり、被験者に対してパロノセトロン塩酸塩が投与されてきた。この点は、以下の甲16及び甲17からも明らかである。
すなわち、甲16には、パロノセトロン塩酸塩が記載されており(摘記事項16A)、同物質が第1相臨床試験のほか、第2相、及び第3相臨床試験に付されていることが記載されている(摘記事項16B?E)。他方、甲17は、甲1と同じ学会「アメリカン ソサイアティ オブ クリニカル オンコロジー 第34年会 2002年5月18?21日開催」におけるポスター発表であり、その発表者には、甲1と共通するA.マチオチ、ヘルシンヘルスケア社等が表示されている(摘示事項17A)。甲1及び甲17(摘示事項17A?F)の記載内容によれば、両者の第2相試験はパロノセトロンによる治療効果を確認する一連の試験であると理解できる。また、甲16には、パロノセトロン塩酸塩が使用された文献として甲17が例示されている(摘示事項16B、F)。そうすると、甲1に記載された試験においても、甲16のパロノセトロン塩酸塩に関する参照として例示されている(摘示事項16B、F)甲17におけると同様に、パロノセトロン塩酸塩が投与されたと理解できる。
以上のことから、甲1には、パロノセトロン塩酸塩による試験が記載されているに等しいことは明らかである。
(b)また、医薬組成物の有効成分を「塩」の形態とすることは、当該分野において一般的になされていることであり、「塩酸塩」により使用されることも周知である。例えば、パロノセトロンを塩酸塩とした医薬組成物は、甲第14号証に記載されており、パロノセトロンに相当する化合物(摘示事項14A)、「医薬的に許容し得る塩類」として「塩酸」が好適であること(摘示事項14B)、パロノセトロン塩酸塩の具体例(提示事項14D)が記載されている。
よって、パロノセトロンを塩酸塩とすることは、実質的な相違点ではないか、当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。そして、パロノセトロン塩酸塩は、治療効果や注射用液体医薬組成物の安定性といった実用的な効果の点で、パロノセトロン遊離体と実質的な相違があるとはいえない。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(イ)について
甲1発明の認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明1は、前記3の【請求項1】に記載のとおりと認め、以下のとおり分説することができる。
「(1A)パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(1B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(1C) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり;そして
(1D) (c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内に、パロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない;
(1E) ことを特徴とする医薬組成物。」

甲1発明の構成1dにおける化学療法投与の「30分前に」は、構成要件1Dの化学療法の「前1時間より短い時間内に」の範囲に含まれるから、甲1発明の構成1dは、構成要件1Dに相当する。
甲1発明の構成1bにおける「患者の体重kg当り10μg」は、構成要件1Bの「患者の体重kg当り約10μg」と重複しているから、甲1発明の構成1bは、構成要件1Bに相当する。
よって、両者の発明の一致点・相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「(1A’) パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当たり約10μg/kgであり;
(1C’) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、パロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D) (c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内に、パロノセトロンを投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロンの更なる投与を行わない;
(1E) 医薬組成物。」
<相違点>
(相違点A)
構成要件1Aについて、本件訂正発明1は、医薬組成物が「パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」ものであるのに対し、甲1発明は、パロノセトロンを含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、構成要件1C’、1Dについて、本件訂正発明1は、「パロノセトロン塩酸塩」を投与するものであるのに対し、甲1発明は、パロノセトロンを投与するものである点
(相違点2)
構成要件1Cについて、本件訂正発明1は、「患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり」とするものであるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点

(ウ)(相違点1)、(相違点A)について
本件訂正発明1と甲1発明との相違点は、上記(ア)、(イ)について、において説示のとおり、請求人が主張する相違点1ではなく、相違点Aである。
そこで、まず、相違点Aのうち、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlと特定する点について検討する。
甲1には、パロノセトロンの投与量は記載されているが、静脈内注射する際に用いた溶媒の量が記載されておらず、注射用液体中のパロノセトロンの濃度を計算することができないから、いかなる濃度のパロノセトロンが投与されたかは不明である。
そして、各甲号証の記載を検討しても、甲1発明のパロノセトロンの濃度が実質的に本件訂正発明1のパロノセトロンの濃度と同一であるといえる証拠は見いだせないし、また、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物の濃度を本件訂正発明1で規定される濃度範囲にすることが技術常識であったとは認められない。
よって、相違点Aのうち、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlと特定する点は実質的な相違点である。

一般に、医薬品製剤を患者に投与する当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定することは当業者が通常検討する技術的事項であるから、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物にあっては、パロノセトロンの注射用液体中の濃度が検討されるといえる。
そして、たとえば、甲14には、「好ましくは、活性化合物のレベルは、約0.01重量%?約10.0重量」(摘示事項14C)であるとの一般的記載がある。しかし、甲14には、パロノセトロン以外の種々の化合物も活性化合物(式(I))として記載されており、また、それら活性化合物の医薬用途についても、おう吐のほか、胃腸疾患、CNS疾患、心臓血管疾患およびとう痛から選ばれた状態の処置とされているから(摘示事項14A)、上記記載範囲は、それら種々の活性化合物すべてについての、種々の医薬用途に対する含有量の記載にすぎないものといえる。また、その投与方法も、注射以外に、経口的、全身的などが記載され、組成物も、溶液のほか、半固体、粉末など種々の形態のものが記載されているから(摘示事項14C)、注射用液体医薬組成物に限られたものではない。甲14には、さらに、ケナガイタチにおけるシスプラチンにより誘導された(1)おう吐開始までの時間、(2)全部のおう吐症状の発現および(3)全部の吐き気症状の発現として表されるおう吐反応(すなわち、おう吐/または吐き気)について、パロノセトロン塩酸塩投与群(摘示事項14D、14Eの表中M(HCl)の項)をレファレンス群と比較した場合に、静脈投与された式(I)の化合物が、抗おう吐性を示すことが記載されているが(摘示事項14E)、投与されたパロノセトロンの濃度について具体的な記載はないし、甲14に記載された嘔吐防止効果は、パロノセトロン塩酸塩投与後5時間までのおう吐反応観察から導き出されたものであるから、急性嘔吐に対する効果が記載されているにとどまる(摘示事項14C)。本件訂正発明1は、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって」、「(c)嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない」というものであり、遅延嘔吐をも治療できるものである。
そうであってみれば、一般に、医薬品製剤を患者に投与するに当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定すること自体は、当業者が通常検討する技術的事項であるといえるものの、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物において、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲にすることは、種々の活性化合物の種々の投与形態の発明が記載されている甲14から把握される周知技術に基いて、当業者といえども格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできない。
仮に、甲1発明に甲14に記載された有効成分の含有量に関する記載を適用することができたとしても、本件訂正発明1は、パロノセトロノンの濃度を0.01?0.2mg/mlとすることにより、下記の本件訂正発明1の効果について、の項に記載するとおり、甲1発明及び各甲号証のいずれからも当業者が予想し得ない顕著な効果を奏し得たものであるから、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

また、甲1には、パロノセトロンの貯蔵安定性についての記載がなく、各甲号証のいずれの記載を参照しても、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物が不安定であるとか、その貯蔵中に安定性を失うまたは減弱することから、その貯蔵安定性についての改善が必要であるとの認識が存在していたと認めることができない。そうすると、たとえ、医薬組成物は一般に貯蔵安定性を有するべきものであるとの技術常識があったとしても、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物に関し、貯蔵安定性を有するものとすることが、当然の課題であったといえるものではない。
仮に、貯蔵安定性を有するパロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物を提供するとの課題が存在したとしても、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物の安定性がいかなる因子の影響を受けるかは、各甲号証のいずれをみても不明である。そうすると、その貯蔵安定性を保持もしくは改善する手段を当業者が格別の創意を要することなく想到し得たとはいえない。
また、甲18には、RG12915含有製剤が、その製剤濃度を下げるほど分解しにくくなることが記載されている。RG12915とパロノセトロンとはその基本骨格に共通する部分が存在するものの、異なる化学構造を有する化合物であり、RG12915について濃度と安定化についての関係が存在しているからといって、パロノセトロンについても、直ちに同様の関係が成立するといえるものでもない。
そして、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの安定性を左右する因子が不明であることは上記のとおりであり、いかなる因子がパロノセトロンの貯蔵安定性に影響を及ぼすかについてはさらなる検討を要するといえるから、たとえ、医薬品の有効成分の濃度範囲を設定することにより安定性の改善を図れる場合のあることが知られていたとしても、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの貯蔵安定性を改善するために、列挙されている種々の因子の中から「濃度」を選択して、さらにその濃度をいかなる数値範囲に設定するべきかを、当業者が格別の創意を要することなく想到し得たとはいえない。

したがって、相違点Aのその他の相違点、すなわちパロノセトロン塩酸塩、医薬組成物に含まれる他の成分や、前記ア(エ)について検討するまでもなく、当業者が本件訂正発明1を格別の創意を要さず想到し得たと認めることはできない。

請求人の上記主張(オ)についての当審の見解は以下のとおりである。
(オ)について
わずかに一の特定の化合物であるRG12915について濃度と安定化についての関係が存在しているからといって、それと異なる他の化合物であるパロノセトロンについても、直ちに同様の関係が成立するといえるものでもないことは、前記(ウ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示のとおりである。
しかも、同項で説示のとおり、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの安定性を左右する因子が不明である以上、化学構造が類似することを理由とする上記請求人の主張は、何ら根拠のあるものではない。

なお、事案に鑑み、パロノセトロン塩酸塩とする点に関連する請求人の主張(カ)についての当審の見解を以下に示すこととする。
(カ)について
(a)請求人は、甲1及び甲17の試験は、同一学会における発表であることや発表者が一部共通していることから、パロノセトロンによる治療の効果を確認する一連の試験であると理解でき、また、甲16のパロノセトロン塩酸塩に関する参照として甲17が例示されている(摘示事項16H)ことから、甲1においても甲17と同じ化合物、すなわちパロノセトロン塩酸塩が患者に投与されたと主張する(前記ア(カ)参照)。
甲1及び甲17の試験はともに第2相試験ではあるが、前者は用量範囲を評価するためのものであり、後者は薬物動態を評価するためのものであって、両者の試験の実施目的は異なる。また、患者数、試験日数の点をみても、前者、後者は順に、161人、5日、37人、7日であり、異なる。
よって、両試験は、少なくとも、試験方法、対象患者を異にする別種の試験であると認められるものであり、請求人が主張するような同じ化合物が患者に投与された一連の試験であるとはいえない。
また、甲16の記載をみると、パロノセトロン ヘルシンとの標題の下(摘示事項16A)、パロノセトロンが、RS-25259-198(R,R)、RS-25233-197(S,R)、及びRS-25233-198(R,S)とともに4つのエナンチオマーを構成する(S,S)体化合物であることが記載されている(摘示事項16A 薬効薬理)。甲16には、CAS 1H-ベンズ[de]イソキノリン-1-オン,2-(3S)-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクト-3-イル-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-モノヒドロクロリド、との名称、および構造式が記載されているが、該構造式で表される化合物は、(S,S)体に限定されるものではないし、また、種々の同義、類似物質が記載されているから(摘示事項16A 同義、類似物質)、上記記載からは、同刊行物記載のパロノセトロンがいかなる化合物であるかを特定することはできない。しかし、本件優先日前に頒布されたBritish Journal of Pharmacology, 1995, 114, p.851-859に記載されているように、RS-25259-197が、上記甲16記載のRS-25259-198(R,R)、RS-25233-197(S,R)、RS-25233-198(R,S)化合物のエナンチオマーであることは、本件優先日当時すでに知られていたといえる。したがって、RS-25259-197と表記される化合物は甲16記載のパロノセトロン、すなわち、1H-ベンズ[de]イソキノリン-1-オン,2-(3S)-((S)-1-アザビシクロ[2.2.2]オクト-3-イル-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-モノヒドロクロリドであるといえる。そこで、再び、甲17の記載をみるに、同刊行物には、パロノセトロンとの記載はあるが、パロノセトロン塩酸塩、RS-25259-197との記載はない。そして、パロノセトロンとの用語が塩酸塩を意味するとの技術常識が本件優先日当時に存在していたことを裏付けるに足る証拠は見当たらないし、むしろ、パロノセトロンとの用語が、現在においても、遊離の塩基を表す英語化学名としても広く使われていることに照らせば(必要なら、FDA Substance Registration System - Unique Ingredient Identifier(UNII) PALONOSETRON Synonyms and Mappings の項参照(https://fdasis.nlm.nih.gov/srs/unii/5d06587d6r),アロキシ静注0.75mg、アロキシ点滴静注0.75mg添付文書 有効成分に関する理化学的知見の一般名の項参照(http:www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400107 2391404A1020 1 05)、Chemical Book Palonosetronの項参照(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty JP CB7257940))、上記技術常識が本件優先日当時に存在していたと認めることはできず、甲17のパロノセトロンが、甲16記載のパロノセトロンと同じ化合物を表す用語であると直ちにいえるものではない。そうすると、甲16中、薬物動態プロフィールを評価した試験として甲17が引用されているとはいえ、甲17においても甲16と同じ化合物を用いて行われたものであると認めることはできない。
また、一の刊行物においては、同一用語が同一の意味を表すものとして使用されるのが通常であることを考慮の上、甲16の上記記載及び摘示事項16F?16Hの記載から、仮に、甲17記載の試験がパロノセトロン塩酸塩を用いたものであったといえるとしても、上記説示のとおり、甲1と甲17とが同じ化合物を用いて行われた試験であるといえない以上、甲1において使用したパロノセトロンが塩酸塩であると認めることはできない。

(b)パロノセトロン塩酸塩を含む医薬組成物が甲第14号証に記載されているとしても、そのことから直ちに注射用パロノセトロンがすべからくパロノセトロン塩酸塩であるとはいえないから、上記説示は変わらない。
よって、相違点Aのうち、パロノセトロン塩酸塩を投与する点も実質的な相違点である。

しかしながら、医薬品製剤の有効成分を好適な塩の形態として投与することは、当業者にとって本件特許出願の優先日当時周知の技術的事項である。
そして、パロノセトロンについても、化学療法剤誘発性の嘔吐に対する使用に際し、医薬的に許容し得る塩類、特に塩酸塩の形態で注射用製剤を調製することが、たとえば、甲14に記載されているとおり(摘示事項14A、B、D、E)、本件特許出願の優先日当時すでに行われていたところである。
よって、甲1発明において、パロノセトロンに換えてパロノセトロン塩酸塩を投与する点は、周知技術に基いて当業者が格別の創意を要することなくなし得たものである。

しかし、そもそも、相違点Aのうち、医薬組成物のパロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlと特定する点が当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認められない以上、パロノセトロンを塩酸塩とすることが、請求人が主張するとおり、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項であるとしても、当業者が本件訂正発明1を格別の創意を要さず想到し得たと認められないことはすでに説示したところである。

以上のとおり、請求人の主張について検討しても、上記判断は変わらない。

本件訂正発明1の効果について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、パロノセトロンの濃度と組成物としての利点について、以下の記載がある。
「【0036】
パロノセトロンの必要なより低い投与量の特に驚くべき利点は、パロノセトロンの濃度が減少するにつれて、溶液中のパロノセトロンの安定性が増加するという事実に由来する。こうして、このパロノセトロンの効力のために、広い範囲のパロノセトロン濃度、好ましくは約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロン、最も好ましくは約0.05 mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる安定な組成物に処方することができる。こうして、1つの特定の態様において、パロノセトロンは5 mlの溶液を含んでなるアンプルで供給され、ここでこの量は約0.05 mg/mlの濃度における約0.25 mgのパロノセトロンに等しい。
【0037】
増強された安定性により、パロノセトロンは延長した期間の間貯蔵することができ、ここで期間は約1月、3ヶ月、6ヶ月、1年、または18ヶ月を超えるが、好ましくは30ヶ月を越えない (我々は安定性を試験し、これはFDAファイルの中に含まれている) 。この増強された安定性は、室温を含む種々の貯蔵条件において見られる。
この方法は、経口的、全身的 (例えば、経皮的、鼻内または坐剤による) または非経口的 (例えば、筋肉内、静脈内または皮下) を包含する事実上任意の投与方法を使用して実施することができる。好ましい態様において、パロノセトロンは経口的液体としてまたは静脈内に投与され、最も好ましくはパロノセトロンは静脈内に投与される。」

上記本件訂正明細書の記載によれば、パロノセトロンの安定性とは、もっぱら貯蔵安定性を意味しており、注射用液状医薬組成物中のパロノセトロンが、たとえば、分解することなく、あるいは分解を抑えて、当初のまま、あるいは当初に近い状態で存在している場合を含むものと理解できる。
ところで、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、0.01?0.2mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる組成物について、溶液中のパロノセトロンの安定性について具体的に確認した試験結果は記載されていないものの、上記した段落0036、0037の記載に接した当業者は、パロノセトロンの濃度が0.01?0.20mg/mlの注射用液体医薬組成物中、パロノセトロンが、室温を含む種々の貯蔵条件において安定であることを理解するといえる。
そして、上記理解が正しいことは、被請求人が提出した乙2の1、乙2の2、乙2の3の記載によって確認することができる。
乙2の2、及び乙2の3には、注射用液体組成物中のパロノセトロンが0.015mg/ml、及び0.15mg/mの濃度において、25℃±2℃で相対湿度60%±5%の条件下で、少なくとも36箇月にわたり、含量低下が認められず非常に安定であったことが記載されている(乙2の3D)。また、乙2の1には、パロノセトロン塩酸塩の製剤中の、0.01、0.1、1.0、10、50mg/mlの濃度であるパロノセトロンの、pH7.4、40℃の条件下、8週後の残存率が、順に、100、101、99、23、49%であったことが記載されており、該試験結果から、パロノセトロンの安定性は、その濃度が下降するについて改良することが見られたことが記載されている(摘示事項乙2の1A 特に、表1)。
上記各乙号証には、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物中の安定性についての具体的な試験結果は記載されていないものの、乙2の1の上記記載によれば、パロノセトロンは、その濃度が上昇するにつれて、安定性が低下する傾向にあることを当業者は理解するものといえ、該理解を前提として、乙2の2、乙2の3の上記記載をみれば、パロノセトロンの濃度が0.15mg/mlと0.015mg/mlにおいてともにパロノセトロンが安定に存在しうることが確認されているのであるから、0.015mg/mlの近傍を下限値とし、0.15mg/mlの近傍をその下限値とする、0.01?0.2mg/mlの濃度においても、パロノセトロンは安定に存在しうるものと推認することができる。
そして、各甲号証のいずれをみても、パロノセトロンの安定な注射用液体医薬組成物を得るとの課題は見いだせない。また、たとえ、安定な注射用液体医薬組成物を提供することが医薬組成物の分野における当然の課題であるとしても、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物における該課題を実現する手段について記載もしくは示唆する記載はなく、パロノセトロンが上記濃度において、その含有量が低下することなく安定に存在しうることが当業者の技術常識であったと認めることもできない以上、本件訂正発明1は、当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

請求人は、医薬組成物の貯蔵安定性に関連して以下のとおり主張している。
(ア)本件特許明細書には具体的に貯蔵安定性を確認した試験結果が記載されていないこと、乙2の1?乙2の3の記載からは顕著な効果を確認できないこと、長期貯蔵安定性については本件特許の優先日当時、実際に確認されていたものではないこと、そして、パロノセトロンのような全身血中に移行して効果を発現する薬剤において重要な事項は濃度範囲というよりも投与量であることが当業者の技術常識であることから、パロノセトロンの濃度範囲0.01?0.2mg/mlの設定は、CINVからの遅延嘔吐の治療のための注射用医薬組成物における治療効果の観点からすれば、当業者にとって通常の創作能力の範囲内である。
(イ)乙2の1のうち、訂正発明の安定性改善効果について、パロノセトロン濃度に依存することを確認できるデータといえるのは、表2が1種の濃度について実施した試験であるから、表1のpH7.4という特定のpHでの加速試験結果(40℃)だけであるし、また、表3の試験結果は、パロノセトロン溶液の安定性が、緩衝剤およびEDTAの含有する条件下で得られることを示したにすぎないから、本件訂正発明1が、パロノセトロン濃度の全範囲にわたって貯蔵安定性に関して顕著な効果を示すことは立証されていない。

請求人の上記主張(ア)、(イ)についての当審の見解は以下のとおりである。
(ア)について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明に、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」とすることにより、貯蔵安定性が増強したパロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物が得られることが記載されていると認められること、そして、貯蔵安定性の増強は当業者が予想し得ない顕著な効果であることも上記説示のとおりであるから、請求人の主張は採用しえない。

(イ)について
注射剤において、安定剤として、キレート剤、緩衝剤などが一般に使用されることは周知であり、そのpHは中性よりあまり大きく離れないことが望ましいとされているところであるから(必要なら、第十三改正 日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 A-112?128(特に注9、10) 1996 廣川書店発行)、乙2の1のA 表1、表3の結果は、上記技術常識を参酌すれば、各々、特定のpH、添加剤を配合した条件下というよりむしろ典型的なpH、添加剤を配合した条件下でなされた研究結果であるといえるものであるし、本件明細書の段絡0051に、キレート剤として例えばエチレンジアミン四酢酸、緩衝剤として例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などが列挙されているように、キレート剤や緩衝剤を添加した組成物は本件明細書の一態様といえるから、表3の結果は、本件明細書の記載からみても、特定の条件下ではなく本件訂正発明1の具体的態様に当たる条件下でなされた試験結果であるといえる。そして、上記試験結果を参酌すれば、本件訂正発明1がその範囲全体にわたり貯蔵安定性の増強という効果を奏することはすでに検討のとおりであるから、パロノセトロン濃度の全範囲にわたって貯蔵安定性に関して顕著な効果を示すことは立証されていない旨の請求人の主張は採用し得ない。

以上のとおり、相違点Aは実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人の主張する、本件特許発明2に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)及び(キ)のとおりのものである。
(ア)甲第1号証には、前記(1)本件特許発明1についての項で述べたとおり甲1発明が記載されている。

(イ)本件特許発明2は、以下のとおり、分説することができる。
(2A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物であって;
(2B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(2C) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(2D) (c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内にパロノセトロンを投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロンの更なる投与を行わない;
(2E) ことを特徴とする医薬組成物。」

(ウ)本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2の構成要件2B?2Eは、本件特許発明1の構成要件1B?1Eと同じである。よって、両者の発明は、相違点1、相違点2に加えて、次の点で相違する。
<相違点>
(相違点3)
構成要件2Aについて、本件特許発明2は、「5.0のpHを有する」ものであるのに対し、甲1発明は、pHが特定されていない点。

(キ)注射剤におけるpHは、有効成分の特性によって最適な範囲が決められており、パロノセトロンと同じセロトニン5-HT_(3)受容体拮抗薬であるグラニセトロン、アザセトロン、ラモセトロンなどの酸性注射剤においては、pH5.0を含むpH範囲が一般に選択されている。
また、本件特許明細書には、注射用医薬組成物のpHを5.0に特定することによる技術的意義や作用効果について何ら記載されていない。
よって、相違点3は、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明2の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)?(ウ)について
甲1発明の認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明2は前記3の【請求項2】に記載のとおりと認め、以下のとおり分説することができる。
「(2A) パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであり、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物であって;
(2B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(2C) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり;そして
(2D) (c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内にパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない;
(2E) ことを特徴とする医薬組成物。」

本件訂正発明2の構成要件2B?2Eは、本件訂正発明1の構成要件1B?1Eと同じであり、また、構成要件2Aは、本件訂正発明1の構成要件1Aの注射用液体組成物について、5.0のpHを有するものに限定したものに相当する。
よって、本件訂正発明2と甲1発明とは、前記(1)イ(ア)、(イ)について、の項で説示したとおりの一致点、相違点A及び2に加えて、上記ア(ウ)記載の相違点3で相違すると認める。

相違点Aについては、前記(1)イ(ウ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示したとおり、本件訂正発明1におけると同様に判断される。
そして、相違点Aが実質的な相違点であり、本件訂正発明1が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(2)イにおいて説示したとおりである。

本件訂正発明1が、請求項1に規定されているパロノセトロンの全濃度範囲において、貯蔵安定を有すると認められることも前記(1)イにおいて説示のとおりであり、また、乙2の1の記載によれば、5.0のpHで非常に安定することが理解できるのであって(摘示事項乙2の1A)、5.0のpHを有する場合も、当業者が予想することができない貯蔵安定性を有するものといえる。

以上のとおりであるから、本件訂正発明1をさらに限定した本件訂正発明2は、相違点3について検討するまでもなく、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(3)本件訂正発明3について
ア 請求人の主張する、本件特許発明3に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)のとおりのものである。
(ア)甲第1号証には、前記(1)本件特許発明1についての項で述べたとおり甲1発明が記載されている。

(イ)本件特許発明3は、以下のとおり、分説することができる。
(3A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(3B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(3C) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロンを投与するためのものである;
(3D) ことを特徴とする医薬組成物。」

(ウ)本件特許発明3の構成要件3A?3Dは、本件特許発明1の構成要件1A?1C、1Eとそれぞれ同じである。本件特許発明3は、本件特許発明1の構成要件1Dに相当する構成を有していない。よって、本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、両者の発明は、相違点1で相違する。
そして、相違点1については、前記(1)ア(ウ)(エ)の項で本件訂正発明1について述べたとおり、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。
したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明3の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。

甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明3は、前記3の【請求項3】に記載のとおりと認め、以下のとおり分説することができる。
「(3A)パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(3B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;そして
(3C) (b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものである
(3D) ことを特徴とする医薬組成物。」

本件訂正発明3の構成要件3A?3Dは、本件訂正発明1の構成要件1A?1C、1Eとそれぞれ同じである。本件訂正発明3は、本件訂正発明1の構成要件1Dに相当する特定を有していないが、この点は甲1発明との相違点にはならない。
よって、本件訂正発明3と甲1発明とは、前記(1)イ(ア)、(イ)について、の項で説示したとおりの一致点、相違点A及び2において相違する。

相違点Aについては、前記(1)イ(ウ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示したとおり、本件訂正発明1におけると同様に判断される。
そして、相違点Aが実質的な相違点であり、本件訂正発明1が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(1)イ(ア)、(イ)について、(ウ)(相違点1)(相違点A)について、において説示したとおりである。
また、本件訂正発明3の効果も、本件訂正発明1の効果と同様のものと認められるから、前記(1)イ 本件訂正発明1の効果について、において説示したとおり、当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

以上のとおりであるから、本件訂正発明3は、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(4)本件訂正発明4、9及び12について
ア 請求人の主張する、本件特許発明4に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)、(ク)のとおりのものである。
(ア)本件特許発明4は、本件特許発明1?3のいずれかの発明特定事項をすべて備え、更に、「前記患者の体重の範囲が40?120kgである」こと(以下、「相違点4」という。)が特定された発明である。
(ク)甲第1号証において投与された患者の体重が明示されていない。しかし、当該患者には通常の成人が含まれると考えられるから、甲1発明における患者の体重が「40?120kg」の範囲に含まれることは自明の事項である。
なお、本件特許明細書には、患者の体重の範囲が40?120kgにおいて所定の効果が得られることを裏付ける記載が見当たらない。

よって、先に本件特許発明1?3について検討したことを併せて判断すれば、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明4、9及び12の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)について
甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明4、9及び12は、前記3の【請求項4】【請求項9】【請求項12】に記載のとおりと認める。そして、本件訂正発明4、9及び12と甲1発明とは、前記(1)?(3)の各イ、の項で説示した相違点に加えて、上記ア記載の相違点4で相違する。
すなわち、本件訂正発明4、9又は12と甲1発明とは、上記相違点4のほか、前記(1)イ(ア)、(イ)について、(2)イ(ア)?(ウ)について、(3)イ、の項で説示したとおり、相違点A及び2、相違点A、2及び3、又は相違点A及び2の点で相違する。

相違点Aについては、前記(1)イ(ウ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示したとおり、本件訂正発明1におけると同様に判断される。
そして、相違点Aが実質的な相違点であり、本件訂正発明1?3が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(1)?(3)の各イの項で説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1?3のいずれかを引用してさらに限定した発明である本件訂正発明4、9及び12は、相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1?3についての理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(5)本件訂正発明5、10及び13について
ア 請求人の主張する、本件特許発明5に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)、(ケ)のとおりのものである。
(ア)本件特許発明5は、本件特許発明1?4のいずれかの発明特定事項をすべて備え、更に、「前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる」こと(以下、「相違点5」という。)が特定された発明である。
(ケ)甲第1号証に記載された表には、嘔吐誘導事象に相当する化学療法を施してから、24時間後または5日後のCR比率を記載している。そのCR比率の数値によれば、遅延嘔吐が5日以内においても起きていることは自明の事項である。
そのため、本件特許発明5における「嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる」との特定事項は、実質的な相違点でなく、または、当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

よって、先に本件特許発明1?4について検討したことを併せて判断すれば、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明5、10及び13の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)について
甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明5、10及び13は、前記3の【請求項5】【請求項10】【請求項13】に記載のとおりと認める。そして、本件訂正発明5、10及び13と甲1発明とは、前記(1)?(4)の各イ、の項で説示した相違点に加えて、上記ア記載の相違点5で相違する。
すなわち、本件訂正発明5、10及び13と甲1発明とは、上記相違点5のほか、前記(1)イ(ア)、(イ)について、(2)イ(ア)?(ウ)について、(3)イ、(4)イ、の項で説示したとおり、相違点A及び2、相違点A、2及び3、相違点A及び2、又は相違点A及び4で相違する。

相違点Aについては、前記(1)イ(ウ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示したとおり、本件訂正発明1におけると同様に判断される。
そして、相違点Aが実質的な相違点であり、本件訂正発明1?4、9、12が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(1)?(4)の各イの項で説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1?4、9、12のいずれかを引用してさらに限定した発明である本件訂正発明5、10及び13は、相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明1?4、9、12についての理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(6)本件訂正発明8、11及び14について
ア 請求人の主張する、本件特許発明8に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)、(コ)のとおりのものである。
(ア)本件特許発明8は、本件特許発明1?7のいずれかの発明特定事項をすべて備え、更に、「単位投与型である」こと(以下、「相違点7」という。)が特定された発明である。
(コ)医薬組成物は、一定量の有効成分を含む単位投与型の製剤として製造されて使用されることは、周知事項である。甲第5号証に記載されるように、注射剤は、単位投与型のアンプル又はバイアル入り注射剤として定量生産されるのが通常である。
そのため、本件特許発明8における上記の特定事項は、実質的な相違点ではなく、または、当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

よって、先に本件特許発明1?5について検討したことを併せて判断すれば、本件特許発明8は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明8は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明8、11及び14の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)について
甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明8、11及び14は、前記3の【請求項8】【請求項11】【請求項14】に記載のとおりと認める。そして、本件訂正発明8、11及び14と甲1発明とは、前記(1)?(5)の各イ、の項で説示した相違点に加えて、実質的には、上記ア記載の相違点7で相違する。
すなわち、本件訂正発明8、11及び14と甲1発明とは、上記相違点7のほか、前記(1)イ(ア)、(イ)について、(2)イ(ア)?(ウ)について、(3)イ、(4)イ、(5)イ、の項で説示したとおり、相違点A及び2、相違点A、2及び3、相違点A及び2、相違点A及び4、又は相違点A及び5で相違する。

相違点Aについては、前記(1)イ(ウ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示したとおり、本件訂正発明1におけると同様に判断される。
そして、相違点Aが実質的な相違点であり、本件訂正発明1?5、9、10、12、13が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(1)?(5)の各イの項で説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1?5、9、10、12、13のいずれかを引用してさらに限定した発明である本件訂正発明8、11、及び14は、相違点7について検討するまでもなく、本件訂正発明1?5、9、10、12、13についての理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

なお、甲2は、ASCO年次総会で、MGI及びヘルシンが、パロノセトロンがCINVに抑制活性を有することを記載した記事の写しであり、甲1に記載された事項を超える記載はない。甲3は、本件出願に対応する国際公開公報であり、甲4は、甲1の記載と甲3の記載との対応表である。また、甲5?甲13は、本件出願、及び本件の分割出願の出願手続書類の写しである。甲15は甲1の頒布日証明に利用しうるにすぎず、また、甲18は、G12915の光分解、酸化分解に関する文献、甲19は、医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき安定性試験成績の取り扱いについての通知に関するものである。甲20は乙2の1と実質的に同じであり、乙2の1の内容については検討しすでに説示したところである。そうすると、それら各甲号証の記載は、以上の認定、判断を左右しない。

(7)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?5、8?14は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとすることもできないので、本件訂正発明1?5、8?14に係る特許は、無効理由1及び2によって無効にすべきものであるとはいえない。

6-2.無効理由3について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明1に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)、(イ)のとおりのものである。
上記(イ)は、本件弁駁書(第2回)の第19頁第4行?第21頁第5行において新たに主張された特許法第36条第4項第1号に関する無効理由であり、請求の理由の要旨を変更する補正事項を含むものである。
しかし、該補正事項は、本件訂正請求に起因して必要になった補正であり、また、審理を遅延させるおそれがなく、特許法第131条の2第2項に規定される洋件を満たしていると認められるから、該補正事項を追加することによる請求の理由の補正については、これを許可する。

(ア)本件訂正発明1は、パロノセトロンを含む注射用医薬組成物であって、その主な特徴は、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療するためのもの」である点、パロノセトロンの投与量を「パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μg」で特定した点にある。
本件訂正発明1の上記特徴点について、被請求人は、本件特許に係る審査および審判手続において、本件訂正発明1が特徴とする上記の「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐」を治療する効果について、本件訂正明細書に記載された実施例5および表6において確認されている旨を説明する(甲第6号証?甲第9号証)。
その一方で、被請求人は、本件特許に係る審査手続において提出された甲5において、甲1が発表された同じ会合において、図1(参考資料8)、図2(参考資料9)が含まれていたポスター発表がなされていたこと、図1、図2に記載のデータについて、該データには、プラシーボの結果が記載されていないので、図1に記載されている結果がパロノセトロンの薬理効果を示しているとはいえないこと、及び、統計的有意差が存在しないことから、図1は、10mcg/kgの投与量により、化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)に対して有意な抑制効果が得られたことを示すものではない、とか、図2は、5日間にわたる全遅延期間、及び投与量10mcg/kgを含めての試験した全ての投与量において、化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)に対して有意な抑制効果が得られたことを示すものではない、と記載しており、これら記載は上記説明と相反するものである。
しかし、上記図1、図2記載のデータと、本件訂正明細書に記載された実施例5及び表6のデータとがほぼ合致することが明らかであることに照らせば、上記実施例5および表6の記載によって、本件訂正発明1の「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐」を治療する効果が確認されている旨の被請求人の審査および審判手続における上記説明に反し、実施例5及び表6からは、パロノセトロンの有意な薬理効果が開示されているとはいえない。
そうすると、本件訂正発明1における「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり」とした発明特定事項については、この量のパロノセトロンによる薬理効果が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に示されていないことは明らかである。
加えて、本件訂正明細書には、パロノセトロン塩酸塩を用いた実施例が記載されておらず、パロノセトロン塩酸塩を含む本件訂正発明1を裏付ける具体例が何ら記載されていない。
そうすると、本件訂正発明1における「パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物」とした発明特定事項についてはパロノセトロン塩酸塩による薬理効果が発明の詳細な説明に示されていないことは明らかである。
以上のとおり、本件訂正発明1は、「患者の体重kg当り約10μgであり」、「パロノセトロン塩酸塩を含む」との点で、本件訂正発明1?16について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない。

(イ)被請求人の主張によれば、本件訂正発明1は、パロノセトロン濃度を特定したことにより、貯蔵安定性が改善されたものである。
しかし、貯蔵安定性に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明に裏付けとなる安定性試験結果の記載があるとも、また、裏付けとなるような技術常識が存在していたとも認められない。
そして、乙2の1?乙2の3によっては、訂正発明における「パロノセトロン濃度が0.01?0.2mg/ml」であるとの構成要件を備えることで貯蔵安定性の顕著な効果が得られることは立証されていない、また、乙2の表2によれば、パロノセトロン溶液のpHが、2.0,5.0,7.4,10.0の範囲で貯蔵安定性の効果が大きく変動した結果が得られていることからも、パロノセトロン溶液のpHによる影響は大きいことは明らかであるから、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、長期の貯蔵安定性を達成することは、本件出願時の技術常識に照らしても、訂正発明の反意まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明1の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。

(ア)について
本件訂正発明1に係る注射用液体医薬組成物は、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載、及び本件訂正明細書の発明の詳細な説明の段落0002、0005、0010、及び0012の記載からみて、パロノセトロン塩酸塩を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重当り約10μgであり」、「(c)嘔吐事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない」ものと認める。
そこで、本件訂正発明1に係るパロノセトロン塩酸塩を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、その発明特定事項である、「(a)パロノセトロンの量が患者の体重当り約10μgであり」、「(c)嘔吐事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない」で、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のため」に使用することができるものであることを当業者が理解できるように記載されているか否かについて検討する。

本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0012】
発明の要約
5-HT_(3)アンタゴニストが遅延嘔吐の治療または予防において最小の利益を有するという発表された報告と反対に、パロノセトロンは両方の中程度および高度に嘔吐発生性の化学療法的養生法において急性嘔吐および遅延嘔吐を軽減および防止すること、・・・を本発明者らは驚くべきことに発見した。したがって、1つの態様において、本発明は、治療的に有効量のパロノセトロンを投与することを含んでなる嘔吐発生性化学療法または放射線療法を受ける患者における急性嘔吐および遅延嘔吐を治療する方法を提供する。治療的に有効量は、この文書中のどこかでより詳細に開示する投与量の1つであることが好ましい。
【0026】
「遅延嘔吐」は、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以上において起こる嘔吐を意味する。こうして、嘔吐は、化学療法または放射線療法の事象後2、3、4、またはさらに5日までに起こる嘔吐を包含する。
「急性嘔吐」は、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以内に起こる嘔吐を包含する嘔吐を意味する。
「中程度に嘔吐発生性の化学療法」は、嘔吐発生潜在性がカルボプラチン、シスプラチン≦50 mg/m^(2)、シクロホスアミド<1500 mg/m^(2)、ドキソルビジン>25 mg/m^(2)、エピルビシン、イリノテカン、またはメトトレキセート>250 mg/m^(2)の嘔吐発生潜在性に匹敵するか、あるいは等しい化学療法を意味する。
【0027】
「高度に嘔吐発生性の化学療法」は、シスプラチン≧60 mg/m^(2)、シクロホスアミド>1500 mg/m^(2)、またはダカルバジンの嘔吐発生潜在性に匹敵するか、あるいは等しい化学療法を意味する。・・・
【0029】
「薬学上許容される」は、一般的に安全、無毒であり、生物学的にまたはその他の点で望ましい医薬組成物の製造において有用であり、そして獣医学的使用ならびにヒト薬学的使用に許容されるものを包含する。
【0030】
「薬学上許容される塩」は、上に定義したように、薬学上許容され、そして必要な薬理学的活性を有する塩を意味する。このような塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、・・・及びその他。
【0070】
実施例5.高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験
ランダム化二重盲式マルチセンター投与量範囲期II実験を実施して、パロノセトロンの単一静脈内投与量の間で投与量応答関係を同定した。普通に遅延嘔吐に関係付けられる、シクロホスファミド (>1100 mg/m^(2)) およびシスプラチン (>70 mg/m^(2)) を含む高度に嘔吐発生性の化学療法を受けた患者を、パロノセトロンの単一静脈内投与の5投与量群の1つに割り当てた。化学療法投与の30分前に、パロノセトロンを単独で (デキサメタゾンを使用しないで) 30秒の静脈内注射として投与した。一次終点は24時間の完全な応答 (嘔吐なし、レスキューなし) (CR) であった。二次終点は完全な抑制 (嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心) (CC) および5日のCRを含んだ。
【0071】
161人の患者 (32人の女性、129人の男性) が参加した。主要な効能パラメーターおよび結果を下記表6に要約する。悪い事象の大部分 (83.9%)は軽度または中程度であり、そして投薬の研究に起因しなかった (86.0%) 。投薬の研究に関係づけられる最も普通に報告される悪い事象は下記のものを含む: 頭痛 (19.3%) 、便秘 (8.7%) 、眩暈感 (2.5%) および異常な疼痛 (2.5%) 。薬剤に関係する重大な事象は報告されなかった。
これらの患者において、パロノセトロンは急性嘔吐の治療において安全かつ有効であり、そして活性を5日間維持することが、結果から証明される。
【0072】
【表6】



【0073】
実施例6.
静脈内投与のために処方したパロノセトロンの代表的処方物を下記表7に示す。
【0074】
【表7】




本件訂正発明1は、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのもの」である。そして、「遅延嘔吐」とは、段落0026に記載のあるように、嘔吐誘導化学療法の開始後約24時間以上において、さらに5日までに起こる嘔吐を意味する。そして、上記本件訂正明細書の記載のうち、高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐の防止に対する、パロノセトロンの単一静脈内投与による作用結果に関する試験結果を記載した表6の遅延嘔吐に対する結果に相当する%CR(5日)の項目をみると、パロノセトロンを10mcg/kg(μg/kgに同じ)投与したときの5日目に完全な応答(応答なし、レスキューなし)をした患者の比率が32%であり、より少ない0.3?1mcg/kgを投与した場合が17%であることが記載されている。同試験には、たしかにプラセボ群との比較が記載されておらず、パロノセトロン10μg/kg投与群が、プラセボ群、すなわちパロノセトロン非投与群に比べて統計学的に有意に優れた効果を有するか否かは不明であるものの、上記のとおり、より低用量投与した群に比べて優れた効果を奏することを確認することができるから、本件訂正発明1に係る医薬組成物を、「患者の体重kg当り約10μgのパロノセトロンを投与」した場合に、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることは、上記試験結果に関する本件訂正明細書の記載によって立証されていると認める。
ところで、上記段落0070?0072には、上記試験方法において、患者に投与されたパロノセトロンが塩酸塩の形態であることは記載されていない。
しかし、上記段落0012の「本発明は、治療的に有効量のパロノセトロンを投与することを含んでなる・・・遅延嘔吐を治療する方法を提供する。」との記載があること、また、本件訂正特許請求の範囲の請求項1の「(a)患者の体重当り10μgのパロノセトロンの量で・・・パロノセトロン塩酸塩を投与する」との記載、訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1の「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」との記載があり、さらに段落0074の静脈内投与のためのパロノセトロンの処方においてパロノセトロンHClが記載されていることからみて、有効成分はパロノセトロンであること、そして、パロノセトロン塩酸塩はパロノセトロンの医薬として許容される塩であり、パロノセトロン投与の一形態であることを当業者は理解するといえる。
以上によれば、本件訂正明細書の上記試験結果に接した当業者であれば、パロノセトロンについて認められた薬理効果は、その投与形態であるパロノセトロン塩酸塩についても同様に奏されると理解すると認められる。すなわち、本件訂正明細書に、パロノセトロンについて、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることが記載されているならば、パロノセトロン塩酸塩を投与した場合にも同様に所望の治療のために有効であることが記載されているといえる。
そして、本件訂正明細書に、「患者の体重kg当り約10μgのパロノセトロンを投与」した場合に、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることが記載されているといえることは上記説示のとおりである。
よって、本件訂正明細書には、「患者の体重kg当り約10μgのパロノセトロンの量」でのパロノセトロン塩酸塩の投与もまた、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
また、上記治療効果が、パロノセトロンの濃度を特定の範囲に限定したことにより失われるとは考えがたいから、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に特定したことによって上記判断は変わるものではない。
そうすると、本件訂正明細書には、「パロノセトロン塩酸塩を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であって、
「パロノセトロンの量が患者の体重当り約10μgであり」、「嘔吐事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない」で、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることが記載されているといえる。

(イ)について
請求人の主張はつまるところ、本件特許明細書には、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、貯蔵安定性改善という効果を達成することについて、具体的な記載はないし、技術常識を参酌しても開示されているとはいえない、というものである。
しかし、そもそも、本件訂正発明1は、貯蔵安定性改善を発明特定事項とするものではないから、上記請求人の主張は、本件訂正発明1の発明特定事項に基づくものではなく、貯蔵安定性改善の有無は、いわゆる実施可能要件を満足するか否かの判断を左右しない。

以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

請求人は、本件審査手続中における被請求人の主張(甲5)を引用し、上記ア(ア)記載のとおり、パロノセトロン塩酸塩の有意な薬理効果が開示されているとはいえないと主張する。
しかし、本件訂正明細書に、パロノセトロン塩酸塩が「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることを当業者が認識できるように記載されているといえることは上記説示のとおりであり、この判断は、被請求人の本件特許に係る審査手続における主張によって左右されない。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明2に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)のとおりのものである。
(ア)、(イ)前記(1)ア(ア)、(イ)で指摘したのと同じ理由がある。
(ウ)本件訂正発明2に記載された「5.0のpHを有する」との発明特定事項は、本件訂正明細書の実施例に記載されておらず、これらの特性や構造を有する注射用医薬組成物を裏付ける具体例が何ら記載されていない。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
この点につき、本件特許を原出願とする分割出願(特願2012-034259号)は、平成27年4月21日付け手続補正書(甲第10号証)の請求項3には、本件訂正発明2の上記の発明特定事項と同様の記載がなされていた。その後、特許庁審査官の平成27年6月18日付け拒絶査定(甲第11号証)により、「5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物に関する記載もない」との指摘がなされたことから、本件特許権者は、当該請求項3を削除する補正を行い、補正書とともに提出した平成27年11月6日付け意見書(甲第12号証)において、当該補正により拒絶理由が解消された旨を説明している。
この経緯に照らせば、上記の分割出願の発明特定事項を含む請求項に係る発明は、明細書に記載されていないため、削除したものと理解できる。そうすると、発明の詳細な説明が分割出願と実質的に同じである本件訂正明細書に、同様の発明特定事項を含む本件訂正発明2が記載されていないことは明らかである。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明2の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(イ)について
前記(1)イ(ア)、(イ)について、の項で説示したとおりである。
(ウ)について
平成30年 2月 1日付け訂正請求書による訂正は、前記2において説示のとおり認められた。
したがって、本件訂正明細書には、「一つの態様において、注射用液体医薬組成物は5.0のpHを有する。」ことが記載されている。
そして、注射剤のpHを、たとえば、無害の酸又はアルカリを加えて調節することは、周知慣用の手段であるから(必要なら、第十三改正日本薬局方解説書 1996 製剤総則 18、注射剤 A-112?113、特にA13(6) 廣川書店発行)、当業者が、パロノセトロン塩酸塩を含んでなる、「5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物」を製造できることは明らかである。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1の注射用液体医薬組成物について、「5.0のpHを有する」ものに限定したものであり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められることは前記(1)イについて、の項で説示したとおりである。加えて、本件訂正発明1の注射用液体医薬組成物を「5.0のpHを有する」ものに限定したことにより、所望の薬効が失われるとは考えがたい。
そうすると、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物が実施例として記載されているか否かにかかわらず、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(3)本件訂正発明3について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明3に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)、(イ)のとおりのものである。
(ア)、(イ)前記(1)ア(ア)、(イ)で指摘したのと同じ理由がある。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明3の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)について
前記(1)イ(ア)、(イ)についての項で説示したとおりである。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(4)本件訂正発明4、9及び12について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明4、9及び12に関する無効理由3の論旨は、概略、以下(ア)、(イ)及び(エ)のとおりのものである。
(ア)?(ウ)前記(1)ア(ア)、(イ)及び前記(2)ア(ウ)で指摘したのと同じ理由がある。
(エ)本件訂正発明4、9及び12に記載された「前記患者の体重の範囲が40?120kgである」との発明特定事項は、本件訂正明細書の実施例に記載されておらず、これらの特性や構造を有する注射用医薬組成物を裏付ける具体例が何ら記載されていない。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明4、9及び12について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明4、9及び12の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)?(ウ)について
前記(1)イ(ア)、(イ)について、及び前記(2)イ(ウ)についての項で説示したとおりである。
(エ)について
「40?120kg」は、成人の一般的な体重の範囲と重複することは周知の事実である。
そして、本件訂正発明4、9及び12は、いずれも患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量でパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、また、表6のパロノセトロン投与量(mcg/kg)の記載によれば、本件訂正明細書に記載された試験においても、そのような患者の体重kg当りのパロノセトロンの量として投与されたものである(摘示事項1D)。
そうすると、本件訂正明細書に記載された試験結果から、本件訂正発明4、9及び12に係る医薬組成物が、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることを当業者が認識できるように記載されていると認めることができる。
そして、上記認定は、患者の体重によって変わるものではないから、実施例にパロノセトロンが投与された患者の体重が記載されていないことは上記判断を左右しない。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明4、9及び12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(5)本件訂正発明5、10及び13について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明5、10及び13に関する無効理由3の論旨は、概略、以下(ア)?(エ)のとおりのものである。
(ア)?(エ)前記(1)ア(ア)、(イ)、前記(2)ア(ウ)及び前記(4)ア(エ)で指摘したのと同じ理由がある。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正特許発明5、10及び13について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明5、10及び13の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)?(エ)について
前記(1)イ(ア)、(イ)について、前記(2)イ(ウ)について、及び前記(4)イ(エ)についての項で説示したとおりである。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明5、10及び13を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(6)本件訂正発明8、11及び14について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明8、11及び14に関する無効理由3の論旨は、概略、以下(ア)?(エ)のとおりのものである。
(ア)?(エ)前記(1)ア(ア)、(イ)、前記(2)ア(ウ)及び前記(4)ア(エ)で指摘したのと同じ理由がある。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明8、11及び14について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明8、11及び14の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)?(エ)について
前記(1)イ(ア)、(イ)について、前記(2)イ(ウ)について、及び前記(4)イ(エ)についての項で説示したとおりである。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明8、11及び14に関する無効理由3の点では、本件訂正発明8、11及び14を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(7)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?5、8?14については、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当該発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められるから、本件訂正発明1?5、8?14に係る特許を無効理由3によって無効にすることはできない。

6-3.無効理由4について
(1)本件訂正発明1?5、8?14について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明1?5、8?14に係る無効理由4の論旨は、概略、(ア)無効理由3で請求人が主張した本件特許明細書の記載上の不備の存在を理由とするもの、及び以下の(イ)のとおりのものである。
上記(イ)は、本件弁駁書(第2回)の第19頁第4行?第21頁第5行において新たに主張された特許法第36条第6項第1号に関する無効理由であり、請求の理由の要旨を変更する補正事項を含むものである。
しかし、該補正事項は、本件訂正請求に起因して必要になった補正であり、また、審理を遅延させるおそれがなく、特許法第131条の2第2項に規定される洋件を満たしていると認められるから、該補正事項を追加することによる請求の理由の補正については、これを許可する。

(イ)被請求人の主張によれば、本件訂正発明1?5、8?14は、パロノセトロン濃度を特定したことにより、貯蔵安定性が改善されたものである。
しかし、貯蔵安定性に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明に裏付けとなる安定性試験結果の記載があるとも、また、裏付けとなるような技術常識が存在していたとも認められない。
そして、乙2の1?乙2の3によっては、訂正発明における「パロノセトロン濃度が0.01?0.2mg/ml」であるとの構成要件を備えることで貯蔵安定性の顕著な効果が得られることは立証されていない。また、乙2の表2によれば、パロノセトロン溶液のpHが、2.0,5.0,7.4,10.0の範囲で貯蔵安定性の効果が大きく変動した結果が得られていることからも、パロノセトロン溶液のpHによる影響は大きいことは明らかであるから、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、長期の貯蔵安定性を達成することは、本件出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明1?5、8?14の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1?5、8?14の特許を無効理由4によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)について
請求人が主張する無効理由4は、上記のとおり無効理由3についての請求人の主張と同じ本件特許明細書の記載上の不備の存在を理由とするものであるから、無効理由3について説示した理由と同様に判断される。
(イ)について
請求人の主張はつまるところ、本件特許明細書には、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、貯蔵安定性改善という効果を達成することについて、具体的な記載はないし、技術常識を参酌しても開示されているとはいえない、ことに基づくものである。

本件訂正明細書には、同明細書記載の発明の目的に関し、以下の記載がある。
「【0010】
発明の目的
本発明の目的は、強化された効力を有し、そして不適当な副作用の発生率をより低くするより少ない投与量で投与できる5-HT3レセプターアンタゴニストを使用して、嘔吐を抑制する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、化学療法剤または放射線療法により誘導される急性嘔吐および遅延嘔吐を抑制しかつ軽減する方法、およびこのような急性嘔吐および遅延嘔吐を抑制しかつ軽減する能力を有する薬剤を提供することである。
本発明の他の目的は、連続的24時間の期間においてほとんど任意の体重の患者に投与して即時型嘔吐および遅延型嘔吐を抑制できる、パロノセトロンの均一な規定された投与量を提供することである。
本発明のなお他の目的は、増加した血漿半減期および延長したin vivo 活性を有する5-HT3アンタゴニストを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、化学療法的養生法または放射線療法に先だって嘔吐抑制剤を投与するとき、前治療のためのウィンドウの大きさ増加することによって、より大きい柔軟性を提供することである。
本発明のなお他の目的は、嘔吐抑制剤を投与するとき、嘔吐抑制剤ボーラスの投与に必要な時間を短縮することによって、より大きい柔軟性を提供することである。
本発明のなお他の目的は、医師がパロノセトロンの不必要に増加した投与量を処方することを防止し、かつパロノセトロンが投与量の増加以外にパロノセトロンが有効であることが証明されないとき、医師が他の抗嘔吐剤に切り替えることを可能とすることによって、化学療法または放射線療法誘導嘔吐を治療する、いっそう明確に限定された養生法を提供することである。」

また、前記6-2(1)イ(ア)について、の項において指摘したとおり、段落0012には、発明の要約として、パロノセトロンが高度に嘔吐発生性の化学療法的養生法において急性嘔吐及び遅延嘔吐を軽減および防止することを発見した旨が記載されており、また、段落0070?0072には、高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験が行われ、その結果からパロノセトロンが急性嘔吐の治療において安全かつ有効であり、活性を5日間維持することが証明される旨が記載されている。

これら本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本件訂正明細書に記載された発明の課題は、高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能な医薬組成物を提供することであると認める。そして、該課題は、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に特定しても変わるものではないから、本件訂正発明1?4、6?10の課題もまた、高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能な医薬組成物を提供することであると認める。
そして、本件訂正発明1?5、8?14が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であること、並びに、本件訂正明細書に、「パロノセトロン塩酸塩を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であって、「パロノセトロンの量が患者の体重当り約10μgであり」、「嘔吐事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない」で、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のため」に有効であることが記載されているといえることは、前記6-2(1)?(6)の各イ、において説示したとおりである。
よって、本件訂正発明1?5、8?14は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認める。

(2)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?5、8?14は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件訂正発明1?5、8?14に係る特許を無効理由4によって無効にすることはできない。

6-4.無効理由5について
無効理由5も無効理由3で請求人が主張した本件訂正明細書の記載上の不備の存在を理由とするものである。
しかしながら、無効理由3は、いわゆる実施可能要件に関するものであるところ、実施可能要件を満足しないことは、特許を受けようとする発明が明確でない理由とはならない。しかも、本件訂正発明1?5、8?14に対する無効理由3が採用できないものであることは前記6-2において説示したとおりである。
そして、本件訂正発明1?5、8?14の発明特定事項の記載に不明確な点は見いだせない。
以上のとおり、本件訂正発明1?5、8?14に、請求人が主張する記載上の不備はないから、本件訂正発明1?5、8?14の特許を無効理由5によって無効にすることはできない。

7.むすび
本件訂正請求による訂正を認める。
本件訂正発明6、7の特許についての特許無効審判請求は、却下する。
本件訂正発明1?5、8?14の特許は、無効理由1?5によって無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人及びその参加人の負担とすべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、5-HT_(3)レセプターアンタゴニストを使用する化学療法および放射線療法誘導嘔吐を減少する方法に関する。特に、本発明は、パロノセトロンで化学療法および放射線療法誘導嘔吐を減少する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
嘔吐は、細胞障害性化学療法および放射線療法を受ける人々の生命・生活の質に著しく影響を与える、このような治療の破壊的な結果である。近年、5-HT_(3)(5-ヒドロキシトリプタミン)レセプターアンタゴニストと呼ぶ薬剤の1クラスが開発されてきており、これらは5-HT_(3)レセプターに関連する大脳機能を中和することによってこのような嘔吐を治療する。下記の文献を参照のこと:Drugs Acting on 5-Hydrxtryptamine Receptors:The Lancet Sep.23、1989およびその中に引用されている文献。
【0003】
このクラス内の薬剤は、下記の文献に記載されているように、オンダンセトロン、グラニセトロンおよびドラセトロンを包含する:米国特許第4,695,578号、米国特許第4,753,789号、米国特許第4,929,632号、米国特許第5,240,954号、米国特許第5,578,628号、米国特許第5,578,632号、米国特許第5,922,749号、米国特許第5,622,720号、米国特許第5,955,488号、および米国特許第6,063,802号(オンダンセトロン)、米国特許第4,906,755号、米国特許第5,011,846号、および米国特許第4,906,755号(ドラセトロン)、および米国特許第4,886,808号、米国特許第4,937,247号、米国特許第5,034,398号および米国特許第6,294,548号(グラニセトロン)。
【0004】
典型的には、これらの5-HT_(3)アンタゴニストは、化学療法または放射線療法の開始少し前に、静脈内投与され、そして1サイクルの化学療法または放射線療法間に2回以上投与することができる。例えば、化学療法剤を1サイクルにおいて2回以上投与するとき(例えば、28日の化学療法サイクルにおいて1?7日に)、5-HT_(3)アンタゴニストを1?7日の各々において投与して最適な抗嘔吐効果が得ることができる。いくつかの化学療法剤はただ1回投与するときでさえ、数日間の延長した期間にわたって嘔吐を誘導することがあるので、嘔吐の危険が実質的におさまるまで、嘔吐抑制薬剤、例えば、5-HT_(3)アンタゴニストを毎日投与することが望ましいであろう。
【0005】
しかしながら、現在市販されている5-HT_(3)レセプターアンタゴニストは、急性嘔吐の抑制におけるよりも、遅延悪心の抑制において効果が低いことが証明されているので、5-HT_(3)アンタゴニストの現在のクラスはこの要求を満足するために特別に助けとなることが証明されてきていない。Sabra K、Choice of 5-HT_(3) Receptor Antagonist for the Hospital Formulary、EHP、Oct.1996;2(suppl 1):S19-24。
【0006】
また、現在入手可能な5-HT_(3)アンタゴニストは、療法的実用性を制限する下記の欠陥の1または2以上に悩まされる:効力、作用期間、治療的効能のウィンドウ、投与の容易さ、副作用、および投与養生法の確実性。Sabra K(1996)(前掲)。副作用は典型的には軽度?中程度および一時的であるが、それらは頭痛、めまいまたは眩暈感、腹痛または痙攣、便秘、鎮静および疲労、肝臓トランスアミナーゼおよび/またはビリルビンの増加、および心電図の変化を包含する。Gregory REおよびEttinger DS、5HT_(3) receptor antagonists for the prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting.A comparison of their pharmacology and clinical efficacy.Drugs、Feb 1998;55(2):173-189。
【0007】
種々の特許および参考文献には、嘔吐抑制剤および5-HT_(3)アンタゴニストとして有効な化合物のクラスが開示されている。例えば、Ponchant他、”Synthesis of 5-^(125)I-Iodo=Zacopride,A New Probe for 5-HT_(3) Receptor Sites.”J.Lab.Cpds.and Radiopharm.Vol.XXIX、No.10、pp.1147-1155(1991)には、5-HT_(3)セロトニンレセプターの結合に有効な置換3-キヌクリジニルベンズアミドが開示されている。米国特許第4,717,563号(Alphin他)には、特定のN-3-キヌクリジニルベンズアミドおよびチオベンズアミドを利用する非白金抗癌剤により引き起こされる嘔吐を抑制する方法が開示されている。
【0008】
米国特許第4,820,715号(Monkovic他)には、嘔吐、例えば、化学療法誘導嘔吐の治療、および/または胃運動性の損傷に関係する障害の治療に有効であると主張されている、置換3-キヌクリジニルベンズアミド化合物が開示されている。米国特許第5,202,303号(Berger他)には、5-HT_(3)レセプターアンタゴニストとして作用するベンズ[de]イソキノリン-1-オンの1クラスが開示されている。この特許に開示されている種はパロノセトロンを含む。この特許によれば、このクラスの化合物は、嘔吐、胃腸障害、不安、抑鬱状態、および疼痛の治療に有効である。この特許には、適当な治療的養生法を決定するための特定のデータ、例えば、化合物の効力、化合物の血清半減期、投与量-応答データ、または作用期間は開示されていない。
【0009】
特に多投与量を数日の期間にわたって投与するとき、薬剤投与における最大の課題の1つは、十分に許容され、投与養生法を通じて終始一貫して有効なである投与量を見出すことである。最適量の発見は、血清半減期、投薬/効能の関係のような因子により複雑であり、そして、抗嘔吐剤の場合において、薬剤を投与する化学療法の養生法の変動性および誘導される嘔吐の種類(すなわち、遅延/急性嘔吐および中程度/高度に嘔吐発生性の化学療法)により複雑である。ある範囲の体重にわたって有効である抗嘔吐剤の単一単位投与量の処方物を分割するとき、この課題は重大である。なぜなら、単一単位投与量は典型的には看護婦および医師が診療室において投与量を滴定するのを防止するように設計されているからである。
【発明の概要】
【0010】
発明の目的
本発明の目的は、強化された効力を有し、そして不適当な副作用の発生率をより低くするより少ない投与量で投与できる5-HT_(3)レセプターアンタゴニストを使用して、嘔吐を抑制する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、化学療法剤または放射線療法により誘導される急性嘔吐および遅延嘔吐を抑制しかつ軽減する方法、およびこのような急性嘔吐および遅延嘔吐を抑制しかつ軽減する能力を有する薬剤を提供することである。
本発明の他の目的は、連続的24時間の期間においてほとんど任意の体重の患者に投与して即時型嘔吐および遅延型嘔吐を抑制できる、パロノセトロンの均一な規定された投与量を提供することである。
本発明のなお他の目的は、増加した血漿半減期および延長したin vivo活性を有する5-HT_(3)アンタゴニストを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、化学療法的養生法または放射線療法に先だって嘔吐抑制剤を投与するとき、前治療のためのウィンドウの大きさ増加することによって、より大きい柔軟性を提供することである。
本発明のなお他の目的は、嘔吐抑制剤を投与するとき、嘔吐抑制剤ボーラスの投与に必要な時間を短縮することによって、より大きい柔軟性を提供することである。
本発明のなお他の目的は、医師がパロノセトロンの不必要に増加した投与量を処方することを防止し、かつパロノセトロンが投与量の増加以外にパロノセトロンが有効であることが証明されないとき、医師が他の抗嘔吐剤に切り替えることを可能とすることによって、化学療法または放射線療法誘導嘔吐を治療する、いっそう明確に限定された養生法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の要約
5-HT_(3)アンタゴニストが遅延嘔吐の治療または予防において最小の利益を有するという発表された報告と反対に、パロノセトロンは両方の中程度および高度に嘔吐発生性の化学療法的養生法において急性嘔吐および遅延嘔吐を軽減および防止すること、およびパロノセトロンは中程度に嘔吐発生性の化学療法の開始後24時間以上において起こる悪心および嘔吐を防止および軽減する能力において、オンダンセトロンおよびドラセトロンの両方よりも実質的にすぐれることを本発明者らは驚くべきことには発見した。したがって、1つの態様において、本発明は、治療的に有効量のパロノセトロンを投与することを含んでなる嘔吐発生性化学療法または放射線療法を受ける患者における急性嘔吐および遅延嘔吐を治療する方法を提供する。治療的に有効量は、この文書中のどこかでより詳細に開示する投与量の1つであることが好ましい。
【0013】
本発明者らは、また、パロノセトロンを使用して嘔吐を治療および予防する、驚くべきほどに有効なかつ融通性の臨床的養生法を支持する、1連の発見を行った。特に、本発明者らは下記の事実を発見した:
・ パロノセトロンは他の5-HT_(3)アンタゴニストのレベルのわずかに約1/10のレベルにおいて化学療法および放射線療法により誘導される嘔吐を治療および予防ことができる;
・ パロノセトロンは約40時間の血漿半減期を有する;および
・ パロノセトロンの効能のプラトーは約30μg/kg?約90μg/kgの広い投与量範囲にわたる。
【0014】
前述の発見に基づいて、本発明者らは、0.25mg/日のパロノセトロンは診療室において使用するためにパロノセトロンの特に有効でありかつ融通性のある投与量であることを決定した。なぜなら、この投与量は化学療法または放射線療法の1サイクルにおいてわずかに1回使用するとき有効であるが、パロノセトロンの長い間半減期および多投与間のパロノセトロンの付随的蓄積にかかわらず、観測されるプラトーのために、パロノセトロンの各投与量から終始一貫した効能を期待することができるで、連続的日数で投与するとき前記投与量はまた有効であるからである。その上、このような効能は広い範囲の患者の体重にわたって期待することができる。
【0015】
したがって、他の態様において、本発明は、0.25mgのパロノセトロンを患者に投与することを含んでなる、患者における化学療法または放射線療法誘導嘔吐を治療する方法を提供する。他の態様において、本発明は、0.25mgのパロノセトロンを含んでなるパロノセトロンの単一単位投与量の形態を提供する。
また、パロノセトロンの驚くべき効力、パロノセトロンの延長した血漿半減期、およびパロノセトロンについて観測されたプラトー投与量は、下記を包含する多数の他の実際的利点を有する:
【0016】
・ パロノセトロンの効力は、パロノセトロンの必要量がより少ないので、より大きい原価効率を可能とする。
・ また、パロノセトロンの効力は、減少した濃度における薬剤の処方を可能とする。パロノセトロンはより低い濃度において最も安定であることが見出されたので、この利点はパロノセトロンの処方において特に有意である。パロノセトロンはわずかに約10?30秒におけるボーラスとして静脈内投与するように十分に濃縮できるので、この利点は便利さの観点からまた有意である。
【0017】
・ 延長した血漿半減期は、嘔吐を治療するために投与しなくてはならないパロノセトロンの量をさらにいっそう減少する。
・ 延長した血漿半減期は、約24時間の間隔、またはある種の治療的設定においてただ1回のパロノセトロンの投与を可能とする。
・ 延長した血漿半減期は、化学療法または放射線療法の投与に先行する時間のより大きいウィンドウにわたって、薬剤投与を可能とすることによって、臨床的設定においてより大きい柔軟性を可能とする。
【0018】
・ 延長した血漿半減期およびプラトーの投与現象は、組み合わさって、嘔吐を経験する場合でさえ、セッションにおけるパロノセトロンのそれ以上の投与量が特定の時間ウィンドウ内で正当化されないということを医師に保証することによって、養生法に対してより多い確実性を提供する。
・ 延長した血漿半減期およびプラトーの投与現象は、さらに組み合わさって、以前のセッションにおいて嘔吐を経験する場合、引き続くセッションにおいてパロノセトロンの投与量を増加させる医師の傾向を回避することによって、養生法に対してより多い確実性を提供する。
【0019】
定義
「アンプル」は、わずかに1回使用する投薬の小さい密封した容器を意味し、そして破壊可能なおよび破壊不可能なガラスアンプル、破壊可能なプラスチックアンプル、微小スクリュー-トップ型ジャー、わずかに1単位投与量のパロノセトロン(典型的には約5ml)を保持できる大きさの任意の他の型の容器を意味する。
【0020】
「動物」は、ヒト、非ヒト哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびシカ)を包含する。本明細書に開示する方法は一般に人々に適用可能であるが、その上動物に適用可能である。
「化学療法剤」は、増殖性障害を治療するための種々のクラスの化合物、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗物質、天然物、酵素、生物学的応答変更剤、その他の成分、放射性医薬(例えば、ホルモンまたは抗体を標識化するY-90)、ホルモンおよびアンタゴニスト、例えば、下に列挙するものを包含する。
【0021】
抗血管形成剤:アンギオスタチン、エンドスタチン。
アルキル化剤:窒素マスタード、例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、イフォスファミド、メルファラン(L-サルコリシン)、およびクロランブシル;エチレンイミンおよびメチルメラミン、例えば、ヘキサメチルメラミンおよびチオテパ;アルキルスルホネート、例えば、ブスルファン;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル-CCNU)、およびストレプトゾシン(STR);およびトリアゼン、例えば、ダカルバジン(DTIC;ジメチルトリアゼノイミダゾール-カルボキシアミド)。
【0022】
代謝拮抗物質:葉酸アナローグ、例えば、メトトレキセート(アメトプテリン);ピリミジンアナローグ、例えば、フルオロウラシル(5-フルオロウラシル;5-FU)、フルクスウリジン(フルオロデオキシウリジン;FUdR)、およびシタラビン(シトシンアラビノシド);プリンアナローグおよび関係するインヒビター、例えば、メルカプトプリン(6-メルカプトプリン;6-MP)、チオグアニン(6-チオグアニン;TG)、およびペントスタチン(2’-デオキシシオホルマイシン);ツルニリソウアルカロイド、例えば、ビンブラスチン(VLB)、およびビンクリスチン;およびエピポドフィロトキシン、例えば、エトポシドおよびテニポシド。
【0023】
天然物:抗体、例えば、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン(ダウノマイシン;ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、およびミトマイシン(ミトマイシンC);酵素、例えば、L-アスパラギナーゼ;および生物学的応答変更剤、例えば、インターフェロン-α。
その他の成分:白金配位錯体、例えば、シスプラチン(シス-DDP)およびカルボプラチン;ミクソトザントロン;ヒドロキシ尿素;プロカルバジン(N-メチルヒドラジン、MIH);ミトタン(o,p’-DDD);アミノグルテチミド;アドレノルチコステリオド、例えば、プレドニゾン;およびプロゲスチン、例えば、ヒドロキシプロゲステロンカプロエート、メドロキシプロゲステロンアセテート、およびメゲストロールアセテート。
【0024】
ホルモンおよびアンタゴニスト:エストロゲン、例えば、ジエチルスチベストロールおよびエチニルエストラジオール;抗エストロゲン、例えば、タモキシフェン;アンドロゲン、例えば、テストステロンプロピオネート;フルクソミエステロン;抗アンドロゲン、例えば、フルタミド(前立腺);およびゴナドトロピン放出ホルモンアナローグ、例えば、ロイプロリド。
この明細書を通じて、用語「を含んでなる」は、記載した要素、整数または工程、または要素、整数または工程のグループを含むと理解されるが、他の要素、整数または工程、または要素、整数または工程のグループを排除しない。
【0025】
「疾患」は、動物または動物の部分の健康でない状態を特別に包含し、そしてその動物に適用される医学的または獣医学的治療により引き起こされるか、あるいはそれらに付随する健康でない状態、すなわち、このような治療の副作用を包含する。こうして、ここにおいて疾患は嘔吐発生副作用を有する薬剤を使用する治療により、特に癌の治療、例えば、化学療法剤を使用する化学療法および放射線療法により引き起こされる嘔吐を包含する。
「嘔吐」は、この出願の目的に対して、通常の辞書の定義よりも広い意味を有し、そして嘔吐ばかりでなく、かつまた悪心およびむかつきを包含する。
【0026】
「遅延嘔吐」は、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以上において起こる嘔吐を意味する。こうして、嘔吐は、化学療法または放射線療法の事象後2、3、4、またはさらに5日までに起こる嘔吐を包含する。
「急性嘔吐」は、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以内に起こる嘔吐を包含する嘔吐を意味する。
「中程度に嘔吐発生性の化学療法」は、嘔吐発生潜在性がカルボプラチン、シスプラチン≦50mg/m^(2)、シクロホスアミド<1500mg/m^(2)、ドキソルビジン>25mg/ms、エピルビシン、イリノテカン、またはメトトレキセート>250mg/m^(2)の嘔吐発生潜在性に匹敵するか、あるいは等しい化学療法を意味する。
【0027】
「高度に嘔吐発生性の化学療法」は、シスプラチン≧60mg/m^(2)、シクロホスアミド>1500mg/m^(2)、またはダカルバジンの嘔吐発生潜在性に匹敵するか、あるいは等しい化学療法を意味する。
「パロノセトロン」は、(3aS)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-2-[(S)-1-アザビシクロ[2.2.2]オクト-3-イル]2,2,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1-オキソ-1Hベンズ[de]イソキノリン塩酸塩を意味し、そして好ましくは一塩酸塩として存在する。パロノセトロンは下記の化学構造により表すことができる:
【0028】
【化1】

【0029】
「薬学上許容される」は、一般的に安全、無毒であり、生物学的にまたはその他の点で望ましい医薬組成物の製造において有用であり、そして獣医学的使用ならびにヒト薬学的使用に許容されるものを包含する。
【0030】
「薬学上許容される塩」は、上に定義したように、薬学上許容され、そして必要な薬理学的活性を有する塩を意味する。このような塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、およびその他と形成した酸付加塩;または下記の有機酸と形成した酸付加塩を包含する:酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ショウノウスルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、t-ブチル酢酸、ラウリルスルホン酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸、およびその他。
【0031】
さらに、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応することができるとき、薬学上許容される塩を形成することができる。許容される塩基は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムおよび水酸化カルシウムを包含する。許容される有機塩基は、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンおよびその他。
【0032】
「治療的有効量」は、疾患を治療するために動物に投与するとき、このような疾患の治療を実施するために十分である量を意味する。
疾患の「治療」または「治療する」は下記を包含する:(1)疾患に対する素因を有することがあるが、疾患の症候を経験または表示していない動物において疾患が起こることを防止する、(2)疾患を治療する、すなわち、その進展を阻止する、または(3)疾患を軽減する、すなわち、疾患を退行させる。
【0033】
詳細な説明
本発明の1つの態様は、パロノセトロンが遅延嘔吐を治療する能力において他の5-HT_(3)アンタゴニストよりも驚くべきほどに優れると同時に、その上急性嘔吐の治療において顕著な効能を示すという発見を前提とする。こうして、1つの態様において、本発明は、治療的有効量のパロノセトロンを投与するとを含んでなる、化学療法または放射線療法誘導遅延嘔吐および急性嘔吐を治療する方法を提供する。この方法は、中程度に嘔吐発生性の化学療法および高度に嘔吐発生性の化学療法の両方により誘導される嘔吐の治療に有効である。
【0034】
他の態様において、本発明は、(a)ヒトまたは動物に約1?約10μg/kgのパロノセトロンを投与し、そして(b)動物または動物に嘔吐誘導量の化学療法剤または放射線療法を投与することを含んでなる、急性嘔吐および/または遅延嘔吐を治療する方法を提供する。約30、60、または90μg/kgまでのより多い投与量のパロノセトロンを効果的に投与して嘔吐を減少することができるが、パロノセトロンの有効性は試験する化学療法的養生法においてこれらのより低い濃度において典型的にはプラトーを有することが驚くべきことには発見された。したがって、好ましい態様において、約3?約10μg/kgのパロノセトロンを投与する。他の態様において、パロノセトロンはデキサメタゾンのようなステロイドの非存在において投与される。
【0035】
他の態様において、本発明は、0.25mgの投与量のパロノセトロンを患者に投与することを含んでなる、化学療法または放射線療法誘導嘔吐を治療する方法を提供する。この投与量は約40?約120kgの範囲の体重にわたって有効であることが発見され、そしてこの範囲内の患者の体重に基づいて滴定する必要がない単一単位投与量のアンプルで好都合に提供することができる。この投与量は、化学療法誘導遅延および急性嘔吐の治療に有効である。さらに、この投与量は中程度に嘔吐発生性の化学療法および高度に嘔吐発生性の化学療法の両方により誘導される嘔吐の治療に有効である。
【0036】
パロノセトロンの必要なより低い投与量の特に驚くべき利点は、パロノセトロンの濃度が減少するにつれて、溶液中のパロノセトロンの安定性が増加するという事実に由来する。こうして、このパロノセトロンの効力のために、広い範囲のパロノセトロン濃度、好ましくは約0.01mg/ml?約0.20mg/mlのパロノセトロン、最も好ましくは約0.05mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる安定な組成物に処方することができる。こうして、1つの特定の態様において、パロノセトロンは5mlの溶液を含んでなるアンプルで供給され、ここでこの量は約0.05mg/mlの濃度における約0.25mgのパロノセトロンに等しい。
【0037】
増強された安定性により、パロノセトロンは延長した期間の間貯蔵することができ、ここで期間は約1月、3ヶ月、6ヶ月、1年、または18ヶ月を超えるが、好ましくは30ヶ月を越えない(我々は安定性を試験し、これはFDAファイルの中に含まれている)。この増強された安定性は、室温を含む種々の貯蔵条件において見られる。
この方法は、経口的、全身的(例えば、経皮的、鼻内または坐剤による)または非経口的(例えば、筋肉内、静脈内または皮下)を包含する事実上任意の投与方法を使用して実施することができる。好ましい態様において、パロノセトロンは経口的液体としてまたは静脈内に投与され、最も好ましくはパロノセトロンは静脈内に投与される。
【0038】
パロノセトロンのより低い投与量に関連する他の特定の利点は、薬剤を単一静脈内ボーラスとして短い、不連続の期間にわたって投与できることである。この時間期間は、一般に、約10?60秒、または約10?約40秒、最も好ましくは約10?30秒である。
【0039】
なお他の態様は、この方法を実施する工程の順序およびタイミングである。この方法は任意の順序で実施できるが、好ましい態様において、工程(a)(パロノセトロンの投与)は工程(b)(化学療法または放射線療法の投与)に順序で先行する。その上、工程(a)は、工程(b)の直前から工程(b)の1、2、5、8、または10時間前までの、工程(b)に先行する大きい時間ウィンドウにわたって実施することができ、パロノセトロンは好ましくは化学療法剤または放射線療法前の約15分?約2時間に、より好ましくは化学療法剤または放射線療法前の約15分?約1時間に、最も好ましくは化学療法剤または放射線療法前の約30分に投与する。
【0040】
本発明の方法は、化学療法または放射線療法の集中的養生法を規定された期間にわたって実施し、次いで延長した回復期間を存在させる、化学療法または放射線療法のサイクル、および治療および回復の順序を反復する、引き続くサイクルの関係において実施することが好ましい。化学療法の集中的養生法は化学療法剤のわずかに1回の投与を含んでなることができるか、あるいはそれは同一化学療法剤を投与する数日間を含んでなることができる。同様に、養生法は2種以上の化学療法剤の投与を含むことができる。その上、1または2以上の化学療法剤は急性嘔吐および/または遅延嘔吐を誘導することがある。
【0041】
パロノセトロンは、嘔吐を最も経験することが期待されるときに基づいて化学療法または放射線療法と組み合わせて、約24時間の時間間隔で投与することが好ましい。例えば、急性嘔吐を誘導するが、遅延嘔吐を誘導しない嘔吐誘導化学療法剤を1サイクルの化学療法(すなわち、1つのセッション)間にただ1回投与する場合、パロノセトロンはその上ただ1回投与されるであろう。化学療法剤が急性嘔吐および遅延嘔吐を誘導する場合、化学療法の開始時にかつその後24時間毎に、嘔吐がおさまるまで、パロノセトロンを投与することが好ましい。同様に、嘔吐誘導剤を化学療法サイクル間に2回以上(すなわち、2回以上のセッションにおいて)投与する場合、パロノセトロンもまた24時間毎に2回以上投与することが好ましいであろう。
【0042】
本発明の方法は、広い範囲の前述の化学療法剤および放射線療法により誘導される嘔吐の治療に有効であるが、特にシスプラチン、シクロホスファミド、カルムスチン、ジカルバジン、アクチノマイシンD、メルクロレタミン、カルボプラチン、ドキソルビシン、エピルビシン、イリノテカン、メトトレキセート、およびデカルバジンと組み合わせてを使用するとき、特に有効である。また、この方法は、高度に嘔吐発生性の化学療法と組み合わせてを使用するとき、特に典型的には延長した嘔吐期間、または嘔吐の遅延した開始に関連する化学療法剤を使用するとき、特に有効であることが見出された。
【0043】
種々の態様において、化学療法剤は少なくとも約24時間、48時間、72時間、または5日間の期間の間嘔吐を誘導する。例えば、1つの態様において、化学療法剤はシプラチンまたはシクロホスファミドであり、またそれ以上の好ましい態様において、シプラチンは約30、40、50、60、または70mg/m^(2)を超える投与量で投与され、そしてシクロホスファミドは約500、600、700、800、900、1000、または1100mg/m^(2)を超える投与量で投与される。
【0044】
増加する投与量のパロノセトロンを使用して観測されるプラトー効果は、その延長した半減期と組み合わせて、患者がパロノセトロンに対して少なくとも部分的に非応答性であるとき、実施すべき適当な養生法を処方医師にさらに知らせる。例えば、ある環境下に、患者をより高い投与量のパロノセトロンを投与するよりむしろ引き続くセッションにおいてパロノセトロンから切り替えるべきであることを医師は確信するであろう。
【0045】
したがって、他の態様において、本発明は、(1)1つの化学療法のセッションにおいて:ヒトまたは他の動物に第1量のパロノセトロンを投与し、そして前記ヒトまたは他の動物に嘔吐誘導量の化学療法剤を投与し、(2)パロノセトロンの有効性を評価し、そして(3)前記ヒトまたは他の動物が前記第1化学療法のセッションにおける前記パロノセトロンに対して少なくとも部分的に非応答性である場合、前記ヒトまたは動物に治療的有効量の第2抗嘔吐化合物を投与し、第1量より高い第2量のパロノセトロンを投与する介在化学療法のセッションを使用しないで、引き続くパロノセトロンのセッションを実施する、ことを含んでなる化学療法誘導嘔吐を防止する方法を提供する。
【0046】
プラトー投与効果は、延長した血清半減期と組み合わせるとき、ある環境において、嘔吐を経験する場合、単一治療セッションにおいてパロノセトロンの追加の投与量を早期に投与する医師の傾向を回避することによって、投与養生法をいっそう確実にすることもできる。こうして、他の態様において、本発明は、(1)1つの化学療法のセッションにおいて:ヒトまたは他の動物に第1量のパロノセトロンを投与し、そして前記ヒトまたは他の動物に嘔吐誘導量の化学療法剤を投与し、(2)パロノセトロンの有効性を評価し、そして(3)前記ヒトまたは他の動物が前記第1化学療法のセッションにおける前記パロノセトロンに対して少なくとも部分的に非応答性である場合、工程(a)または(b)後少なくとも約20、24、28、または32時間の間、第2投与量のパロノセトロンを投与しないことを含んでなる化学療法誘導嘔吐を防止する方法を提供する。
【0047】
医薬組成物
前述の説明はパロノセトロンの静脈内投与が好ましい投与モードであるためにそれに集中したが、本発明の方法は下記のルートの任意の1つによりパロノセトロンを投与することによって実施することができる:経口的、全身的(例えば、経皮的、鼻内または坐剤による)または非経口的(例えば、筋肉内、静脈内または皮下)。
【0048】
一般に、経口組成物は不活性希釈剤または食用担体を含む。それらはゼラチンカプセルの中に包むか、あるいは錠剤に圧縮することができる。経口治療的投与の目的に対して、活性化合物を賦形剤とともに組込み、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形態で使用することができる。薬学的に適合性の結合剤、および/またはアジュバント物質を組成物の一部分として含めることができる。
【0049】
錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤およびその他は、下記の成分、または同様な特質の化合物を含有することができる:結合剤、例えば、微結晶質セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン;賦形剤、例えば、澱粉またはラクトース;崩壊剤、例えば、アルギン酸、プリモゲル、またはコーンスターチ;潤滑、例えば、ステアリン酸マグネシウム;グリダント、例えば、コロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリン;または香味剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香味剤。投与単位形態がカプセル剤であるとき、それは、前述の種類の物質に加えて、脂肪油のような液状担体を含有することができる。さらに、投与単位形態は、投与単位の物理的形態を変更する種々の他の物質、例えば、糖、シェラック、または腸溶剤のコーティングを含有することができる。
【0050】
化合物はエリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、ウェーハ、チューインガムまたはその他の1成分として投与することができる。シロップは、活性化合物に加えて、甘味剤としてスクロースおよびある種の保存剤、色素および着色剤および香味剤を含有することができる。
【0051】
また、化合物または薬学上許容されるプロドラッグまたはそれらの塩を、必要な作用を障害しない他の活性物質と、または必要な作用を補助する物質、例えば、抗生物質、抗真菌剤、抗炎症剤、他の抗ウイルス剤、例えば、他のヌクレオシド化合物と混合することができる。非経口的、皮内、皮下、または局所適用に使用される溶液または懸濁液は下記の成分を含むことができる:無菌の希釈剤、例えば、注射用水、生理的食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩および張度調節剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキシトロース。非経口的製剤は、ガラスまたはプラスチックから作られたアンプル、使い捨て注射器または多投与量バイアルの中に包むことができる。
【0052】
静脈内に投与する場合、好ましい担体は生理的食塩水またはリン酸塩緩衝液(PBS)である。
一つの態様において、注射用液体医薬組成物は5.0のpHを有する。
好ましくは、医薬組成物は連続的治療のために単一単位投与量形態で投与されるか、あるいは病徴の軽減が特別に要求されるとき任意に単一単位投与量形態で投与される。
【実施例】
【0053】
実施例1.動物モデルにおけるパロノセトロンの抗嘔吐作用
静脈内および経口的に投与されるパロノセトロンの抗嘔吐作用を、雄および雌のイヌ(組み合わせた性別)において評価した。これらの実験において使用した抗嘔吐剤は、シスプラチン(3mg/kg)、デカルバジン(30mg/kg)、メクロレタミン(0.4mg/kg)およびアクチノマイシンD(0.15mg/kg)を含んだ。
【0054】
パロノセトロンおよび比較薬剤を抗腫瘍剤の前後に投与し、そして動物を嘔吐エピソードの数について観察した。平均嘔吐数を計算し、そして治療群間の差の統計的有意性をデネット検定(Dunnett’s test)で決定した。パロノセトロンおよび比較薬剤(オンダンセトロンおよびグラニセトロン)を蒸留水中で調製した。賦形剤対照群に、蒸留水を与えた。
【0055】
静脈内および経口的に投与したパロノセトロンの治療効果を、シスプラチン治療イヌにおいてオンダンセトロンおよび賦形剤のそれらと比較した。静脈内経路で投与したとき、パロノセトロン(0.1mg/kg)およびオンダンセトロン(1.0mg/kg)の両方は、シスプラチン3.0mg/kgの投与後、5時間の期間に嘔吐エピソードの数を減少させた。パロノセトロンは、観測された嘔吐エピソードの平均数に基づいて、オンダンセトロンよりも統計的に有意にいっそう効力があった(賦形剤対照についての12.50に比較して、パロノセトロンおよびオンダンセトロンについてそれぞれ2.20および6.83であった)。
【0056】
異なる研究において、シスプラチン誘導嘔吐を逆転する比較的能力についてパロノセトロンおよびオンダンセトロンを評価した。これらの実験において、3.0mg/kgのシスプラチンを静脈内投与した後1時間に、パロノセトロン、オンダンセトロン、または賦形剤をイヌに静脈内投与した。シスプラチン投与後5時間の間嘔吐エピソードの数について、各動物を連続的に観察した。この実験の結果を表1に要約する。
【0057】
【表1】

【0058】
統計学的に最小の効果的な投与量はパロノセトロンについて1.0μg/kgであり、そしてオンダンセトロンについて100μg/kgであり、パロノセトロンがこの実験においてオンダンセトロンよりも実質的にいっそう効力があることを示唆する。
パロノセトロンおよびオンダンセトロンの経口的投与量-応答関係をシスプラチン治療イヌにおいて比較する実験間に、効力差の観測がさらに見られた。シスプラチン投与の1時間前に、パロノセトロン、オンダンセトロンまたは賦形剤対照を経口的経路により投与した。シスプラチン投与後5時間の間、嘔吐エピソードの数について、各動物を連続的に観察した。この実験の結果を表2に要約する。
【0059】
【表2】

【0060】
パロノセトロンおよびオンダンセトロンの両方を使用する前治療は、嘔吐エピソードの発生率を減少した。オンダンセトロンについて300μg/kgの最小に有効な投与量に比較して、パロノセトロンは、10μg/kg後におけるエピソードの有意な減少により証明されるように、より大きい効力を示した。
【0061】
実施例2.シスプラチン治療イヌにおける作用期間
イヌにおける静脈内投与したパロノセトロン、オンダンセトロンおよびグラニセトロンの作用期間を実験において比較し、その結果を表3に示す。この研究において、6匹のイヌの群に3.0 mg/kgのシスプラチンを静脈内注射する12、10、8、6、4、2、または1時間前に、パロノセトロン、オンダンセトロン、またはグラニセトロン(それぞれ、0.1、0.15、または0.04mg/kg)を静脈内投与した。
【0062】
【表3】

【0063】
パロノセトロンは、シスプラチン注射の少なくとも10時間程度に長い期間前に投与したとき、多少の抗嘔吐活性を示した。オンダンセトロンは、1時間の前治療期間後にのみ、嘔吐エピソードを減少した。グラニセトロンは、これらの実験において抗嘔吐作用をもたなかった。パロノセトロンは、シスプラチン12時間前に投与したとき、保護しなかった。以前の実験において、より高い投与量のオンダンセトロン(0.3mg/kg、静脈内)は、シスプラチン注射の数時間程度に長い期間前に投与したとき、保護効果を示した。その実験において、0.03mg/kgの投与量のパロノセトロンは同様に有効であった。これらの実験の結果は、パロノセトロンの抗嘔吐作用がオンダンセトロンのそれより長く、かつ同等の作用を達成するためにより高い投与量のオンダンセトロンが必要であるという結論を支持する。
【0064】
実施例3.全身的暴露と抗嘔吐作用との間の関係
パロノセトロンの血漿濃度とシスプラチン誘導嘔吐に対するイヌの保護との間の関係を研究するために、実験を実施した。シスプラチン注射30分前に、経口投与量のパロノセトロン(0、100、316、または1000μg/kg)または賦形剤対照を投与した。パロノセトロン投与後0、0.25、0.5、1、2、4、8、24、および48時間に、パロノセトロンの血漿濃度をHPLC-ラジオイムノアッセイ法により測定し、そして全身的暴露をAUC0-4時間として表した。結果を表4に要約する。
【0065】
【表4】

【0066】
パロノセトロンに対する全身的暴露は、計算したAUC_(0-4時間)値により推定して、研究した範囲にわたってほぼ投与量比例的であるが、全身的暴露と抗嘔吐作用の大きさとの間の関係は証明できなかった。パロノセトロンを投与したイヌは賦形剤対照動物よりも有意に少ない嘔吐エピソードを有したが、有意な投与量-応答関係の証拠は存在しなかった。試験した最低の投与量は、応答プラトーに存在するように見えた。
【0067】
実施例4.ダカルバジン、アクチノマイシンD、およびメクロレタミンの嘔吐作用の拮抗作用
ダカルバジン、アクチノマイシンD、またはメクロレタミンにより引き起こされる嘔吐に対するパロノセトロンおよびオンダンセトロンの保護的作用をイヌにおいて評価した。これらの実験において、パロノセトロン、オンダンセトロンまたは賦形剤を抗腫瘍剤注射2時間前に投与し、そして動物を5時間の間観察した。これらの実験の結果を表5に要約する。
【0068】
【表5】

【0069】
これらの実験の条件下に、パロノセトロンおよびオンダンセトロンの両方は、静脈内または経口的経路による投与であるかどうかにかかわらず、すべての3種類の抗腫瘍剤に対する嘔吐性応答を減少した。両方の薬剤の抗嘔吐作用は投与量に関係し、そしてパロノセトロンは終始一貫してオンダンセトロンよりも少なくとも10倍いっそう効力がある。
【0070】
実施例5.高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験
ランダム化二重盲式マルチセンター投与量範囲期II実験を実施して、パロノセトロンの単一静脈内投与量の間で投与量応答関係を同定した。普通に遅延嘔吐に関係付けられる、シクロホスファミド(>1100mg/m^(2))およびシスプラチン(>70mg/m^(2))を含む高度に嘔吐発生性の化学療法を受けた患者を、パロノセトロンの単一静脈内投与の5投与量群の1つに割り当てた。化学療法投与の30分前に、パロノセトロンを単独で(デキサメタゾンを使用しないで)30秒の静脈内注射として投与した。一次終点は24時間の完全な応答(嘔吐なし、レスキューなし)(CR)であった。二次終点は完全な抑制(嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心)(CC)および5日のCRを含んだ。
【0071】
161人の患者(32人の女性、129人の男性)が参加した。主要な効能パラメーターおよび結果を下記表6に要約する。悪い事象の大部分(83.9%)は軽度または中程度であり、そして投薬の研究に起因しなかった(86.0%)。投薬の研究に関係づけられる最も普通に報告される悪い事象は下記のものを含む:頭痛(19.3%)、便秘(8.7%)、眩暈感(2.5%)および異常な疼痛(2.5%)。薬剤に関係する重大な事象は報告されなかった。
これらの患者において、パロノセトロンは急性嘔吐の治療において安全かつ有効であり、そして活性を5日間維持することが、結果から証明される。
【0072】
【表6】

【0073】
実施例6.
静脈内投与のために処方したパロノセトロンの代表的処方物を下記表7に示す。
【0074】
【表7】

【0075】
この出願を通じて、種々の刊行物を参照した。これらの刊行物の開示をそれらの全体において引用することによって本明細書の一部として、本発明が関係する技術水準をいっそう完全に記載する。
当業者にとって明らかなように、本発明の精神および範囲から逸脱しないで、種々の変更および変化が可能である。本発明の他の態様は、本明細書に開示する本発明の明細書および実施を考慮すると、当業者にとって明らかであろう。明細書および実施例は例証としてのみ考慮されることを意図し、本発明の真の範囲および精神は添付された特許請求の範囲により示される。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり;そして
(c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内に、パロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであり、5.0のpHを有する注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;
(b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり;そして
(c)嘔吐誘導事象の前1時間より短い時間内にパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものであり、そして嘔吐誘導事象に続く5日間にパロノセトロン塩酸塩の更なる投与を行わない;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
パロノセトロン塩酸塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐の治療のためのものであって、パロノセトロンの量が患者の体重kg当り約10μgであり;そして
(b)患者の体重kg当り10μgのパロノセトロンの量で、患者の体重の範囲にわたって規定量のパロノセトロン塩酸塩を投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる、請求項1又4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
単位投与型である、請求項1、4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる、請求項2又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
単位投与型である、請求項2、9又は10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記遅延嘔吐が、嘔吐誘導事象の後5日以内に起こる、請求項3又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
単位投与型である、請求項3、12又は13に記載の医薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-10-30 
結審通知日 2018-11-01 
審決日 2018-12-14 
出願番号 特願2004-553037(P2004-553037)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61K)
P 1 113・ 113- YAA (A61K)
P 1 113・ 536- YAA (A61K)
P 1 113・ 537- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 安紀子安藤 公祐  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 穴吹 智子
前田 佳与子
登録日 2015-02-06 
登録番号 特許第5690461号(P5690461)
発明の名称 化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン  
代理人 新山 雄一  
代理人 今村 正純  
代理人 福本 積  
代理人 北村 明弘  
代理人 中村 和美  
代理人 青木 篤  
代理人 藍原 誠  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 室伏 良信  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和美  
代理人 福本 積  
代理人 渡辺 陽一  

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