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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E03F
管理番号 1363389
審判番号 不服2019-4590  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-19 
確定日 2020-06-15 
事件の表示 特願2017-152773「共同溝の蓋」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日出願公開、特開2019- 19655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月20日の出願であって、平成30年7月31日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年8月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月19日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、令和1年11月28日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年12月31日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和1年12月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ライフラインを収容する共同溝の蓋であり、「上方が開放されたU字状の溝に蓋を掛ける構造」の共同溝(以下、前記共同溝という。)の蓋に用いられ、前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅は「ライフラインの収納幅」と「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」とから構成されており、前記共同溝の蓋内部に雨水排水路としての中空を設けて側溝の機能を持たせ、その中空に雨水排水路として必要とされる断面積を確保するが、その中空の断面積の幅は、前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅を構成する「ライフラインの収納幅」の一部の長さと「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」の長さとから構成されていることに特徴がある共同溝の蓋。」


第3 拒絶の理由
令和1年11月28日付けで当審から通知した拒絶理由は、次のとおりである。

1.請求項1の記載は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.請求項1に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-084994号公報
2.特開2017-112692号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
令和1年11月28日付けで当審から通知した拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2011-084994号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。他の引用文献も同様。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル類を纏めて収納可能な電線共同溝としての機能と、排水用の側溝としての機能を併有する側溝ブロックと、これに用いる集水桝及びその側溝ブロックの施工方法に関する。」

(2)「【0009】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑み、ケーブル類の追加又は交換に容易に対応できるとともに、メンテナンス作業が容易な側溝ブロックを提供することを目的とする。」

(3)「【0029】
〔第1実施形態〕
〔側溝ブロックの設置状態〕
図1は、第1実施形態に係る側溝ブロック1の設置状態の斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の側溝ブロック1は、ケーブル類4を纏めて収納可能な電線共同溝としての機能と、排水用の側溝としての機能を併有しており、歩道2の縦断方向Aに沿って当該歩道2の道路脇に複数連続して埋設されている。
【0030】
歩道2の道路脇に埋設される複数の側溝ブロック1は、家屋3へのケーブル類4の引き込み距離をなるべく短くするため、側溝ブロック1の幅方向外側縁を官民境界線Bと一致させた状態で歩道2側に配置されている。
また、各側溝ブロック1は、開削した路盤に敷設された砕石基礎5の上に、敷きモルタル6を介して設置されており、このさい、各側溝ブロック1の上端(ブロック本体11の上端)が歩道2の道路面と一致するようになっている。
【0031】
上記歩道2は舗装道路であり、路盤上に敷設された下地層7と、この下地層7の上に敷設された舗装ブロック等よりなる表層8とから構成されている。
なお、上記ケーブル類4には、家屋3の住民のライフラインとなる各種のケーブル含まれ(当審注:「各種のケーブルが含まれ」の誤記と認める。)、例えば、配電線4A、電話線4B及び光ファイバー4C等よりなる(図2(a)参照)。もっとも、後述の収納空間18のサイズに余裕がある場合には、このケーブル類4として、上水道配管やガス配管を含めることもできる。
【0032】
〔側溝ブロックの構成〕
本実施形態の側溝ブロック1は、内外二重の管路構造になっており、外側管路を構成するブロック本体11と、内側管路を構成する排水ブロック12と、これらの上方開放部を共に閉塞する蓋部材13とを備えている。
このうち、ブロック本体11は、プレキャストコンクリート製であり、左右の側壁部14と、その下端部同士を繋ぐ底壁部15とを一体に有する、上方が開放された断面ほぼU字状のコンクリートブロック体よりなる。
【0033】
本実施形態のブロック本体11は、断面幅よりも断面高さの方が大きい長方形断面になっており、その断面幅Bは300?500mmの範囲に設定され、その断面高さHは450?700mmの範囲に設定されている。
ブロック本体11の長さLは1000?2000mmの範囲に設定され、蓋部材13の長さはブロック本体11の長さLのほぼ半分に設定されている。また、排水ブロック12の長さはブロック本体11の長さのほぼ半分に設定されている。
【0034】
ブロック本体11の各側壁部14は、その外面が平らになっているが、その内面の上下方向ほぼ中央部に段差部16が形成されている(図2(a)参照)。この段差部16は、ブロック本体11の長手方向に沿って延設されており、これにより、側壁部14の上半部分の断面厚さがその下半部分の断面厚さがよりも小さくなっている。
そして、両側壁部14と底壁部15とで囲まれるブロック本体11の内空断面のうち、段差部16より上方の上側部分が排水ブロック12の嵌合空間17になっており、段差部16より下方の下側部分がケーブル類4の収納空間18となっている。
【0035】
一方、前記排水ブロック12も、プレキャストコンクリート製であり、左右の側壁20とその下端部同士を繋ぐ底壁21とを一体に有する、上方が開放された断面ほぼU字状のコンクリートブロック体よりなり、その各側壁12(当審注:「各側壁20」の誤記と認める。)と底壁21とで囲まれた溝空間が排水路22となっている。
本実施形態の排水ブロック12は、断面幅と断面高さが概ね同等のほぼ正方形断面に形成され、その断面の幅寸法は、ブロック本体11の嵌合空間17の内空幅にちょうど嵌り込む程度の寸法に設定されている。
【0036】
このため、排水ブロック12は、ブロック本体11の上方開放部から、その内空断面の上部側である嵌合空間17に対して着脱自在に嵌め込み可能である。
そして、図1に示すように、排水ブロック12を嵌合空間17に収納すると、排水ブロック12の底壁21の左右両縁部がブロック本体11の段差部16に当接し、排水ブロック12がブロック本体11の内空断面の上部側に支持される。従って、その内空断面における排水ブロック12より下方の部分に、ケーブル類4の収納空間18が確保されることになる。」

(4)「【0060】
〔側溝ブロックの変形例〕
図5は、第1実施形態に係る側溝ブロック1の変形例の斜視図である。
この変形例では、上下方向にやや長いほぼ楕円形状の断面の排水路22を有する排水ブロック12を採用しており、この点で第1実施形態の場合と異なる。この楕円形状の排水路22は排水ブロック12を長手方向に貫通している。
また、排水ブロック12の上壁部分には、表面水を排水路22に導くための導水スリット42が形成され、この導水スリット42は排水路22よりも細幅である。
【0061】
この場合、導水スリット42の幅方向両側が、バール等の吊り下げ部材のフック部を引っ掛け可能な引っ掛け部43を構成することになる。
このため、吊り上げ器具のフック部を導水スリット42から排水路22に挿通し、そのフック部を引っ掛け部43に掛止させることにより、当該吊り上げ器具によって排水ブロック12を吊り上げることができる。
【0062】
また、この変形例に係る排水ブロック12は、上壁部分に細幅の導水スリット42が形成されており、蓋が不要なタイプになっているので、ブロック本体11の嵌合空間17とほぼ同じ断面高さを有している。
このため、排水ブロック12をブロック本体11の嵌合空間17に嵌め込むと、排水ブロック12の上面がブロック本体11の側壁部14の上端面と面一になる。」

(5) 上記(1)?(4)からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「ケーブル類4を纏めて収納可能な電線共同溝としての機能と、排水用の側溝としての機能を併有している側溝ブロック1に用いられる排水ブロック12であって、
前記側溝ブロック1は、内外二重の管路構造になっており、外側管路を構成するブロック本体11と、内側管路を構成する排水ブロック12とを備えており、
前記ブロック本体11は、プレキャストコンクリート製であり、左右の側壁部14と、その下端部同士を繋ぐ底壁部15とを一体に有する、上方が開放された断面ほぼU字状のコンクリートブロック体よりなり、その断面幅Bは300?500mmの範囲に設定され、当該ブロック本体11の各側壁部14は、その内面の上下方向ほぼ中央部に段差部16が形成されており、前記両側壁部14と底壁部15とで囲まれるブロック本体11の内空断面のうち、段差部16より上方の上側部分が排水ブロック12の嵌合空間17になっており、段差部16より下方の下側部分がケーブル類4の収納空間18となっており、
前記排水ブロック12は、プレキャストコンクリート製であり、左右の側壁20とその下端部同士を繋ぐ底壁21とを一体に有する、上方が開放された断面ほぼU字状のコンクリートブロック体よりなり、その各側壁20と底壁21とで囲まれた溝空間が排水路22となっており、ブロック本体11の上方開放部から、その内空断面の上部側である嵌合空間17に対して着脱自在に嵌め込み可能であり、当該排水ブロック12を嵌合空間17に収納すると、排水ブロック12の底壁21の左右両縁部がブロック本体11の段差部16に当接し、排水ブロック12がブロック本体11の内空断面の上部側に支持され、その内空断面における排水ブロック12より下方の部分に、ケーブル類4の収納空間18が確保されることになり、上壁部分に細幅の導水スリット42が形成されており、蓋が不要なタイプになっており、楕円形状の排水路22は排水ブロック12を長手方向に貫通しており、
上記ケーブル類4には、家屋3の住民のライフラインとなる各種のケーブル含まれ、例えば、配電線4A、電話線4B及び光ファイバー4C等よりなり、前記収納空間18のサイズに余裕がある場合には、前記ケーブル類4として、上水道配管やガス配管を含めることもできるものである、
前記側溝ブロック1に用いられる排水ブロック12。」

2.引用文献2の記載
令和1年11月28日付けで当審から通知した拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2017-112692号公報)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【0066】
[第3の実施形態]
図20は、第3の実施形態に係る管路構成物の断面図である。
この管路構成物10は、電線共同溝としての機能に加え、排水用の側溝としての機能を備えたものである。
具体的には、トラフ部材21の側壁21b1,21b2の上部に、上方へさらに延びる延長側壁21e1,21e2が設けられ、この延長側壁21e1,21e2の上部に蓋部材22が着脱自在に装着される。側壁21b1,21b2と延長側壁21e1,21e2とは幅方向外側において面一とされ、幅方向内側において段部21fを介して接続されている。トラフ部材21の内部には、実質的な排水溝となる排水部材24が着脱自在に装着され、排水部材24の底面の幅方向両側が段部21f上に載置されている。」

(2)図20からは、電線共同溝の機能を有するトラフ部材21に対して実質的な排水溝となる排水部材24が着脱自在に装着されており、当該排水部材24と蓋部材22とにより形成される中空空間の幅が当該中空空間の深さより長く、横長に形成されることが看て取れる。


(3)上記(1)及び(2)からみて、引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用2技術事項」という。)が記載されている。
「電線共同溝としての機能に加え、排水用の側溝としての機能を備えた管路構成物において、排水用の側溝としての中空空間を横長に形成する点。」

3.周知例1の記載
本願出願前に頒布された刊行物であり、周知技術を示すために新たに引用する特開平7-133631号公報(以下「周知例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、道路端に連結して埋設され雨水や生活雑排水その他の上水排水路を形成する側溝用ブロックの改良に係り、詳しくはこの上水排水路と共に、電気、電話、ガス、水道、その他の配線および配管を挿通するための配線配管挿通路、更には下水排水路をも同時に形成する、共同溝用としての機能を兼備した側溝用ブロックに関するものである。」

(2)「【0031】この実施例では、図1に示されるように、本発明に係る共同溝兼側溝用ブロック1は、断面U字状の側溝用ブロック本体2と蓋体3aとから構成され、それぞれコンクリートにより一体成形されている。側溝用ブロック本体2の横幅内径Xは、この内面に各種の配管等4、5、6、7、8、を収納し且つ配管作業が行えるよう約110cmとされ、図10に示される通常の側溝用ブロック100の内径Yが約30cmであるのと比べて幅広に形成されている。この側溝用ブロック本体2の上面に蓋体3が嵌着され、側溝用ブロック本体2の上面はその横幅外径が約150cmの広幅平面となる。従ってこれを歩道として利用すれば平坦な幅広の歩道面が形成されることとなり、身障者や老人の車椅子、乳母車等の通行が安全且つ容易となる。」

(3)「【0041】図8は第4の実施例を示すものであり、その特徴は共同溝兼側溝用ブロック1の本体2の側壁15に挿通孔18が形成されていることにある。この実施例では挿通孔18は側壁15の上部位置に水平方向の長円形状のものとして形成され、各配線配管はこの挿通孔18を並行状態で通過し、共同溝兼側溝用ブロック1内へ引き込まれている。なお、各配線配管を共同溝兼側溝用ブロック1内へ引き込んだ後は、このこの挿通孔18の隙間はコンクリート等によって埋められ、水や土等の共同溝兼側溝用ブロック1内への流入は防止される。」

(4)上記(2)に摘記した記載を踏まえると、図1からは、共同溝兼側溝用ブロック1内に収納された配管の収納箇所の間には空間が存在することが看て取れる。


4.周知例2の記載
本願出願前に頒布された刊行物であり、周知技術を示すために新たに引用する、東京都「東京都無電柱化推進計画」(平成26年12月)(以下「周知例2」という。)には、下記の事項が記載されている。

・周知例2について
東京都、「東京都無電柱化推進計画」(平成26年12月)は、下記のURLから入手が可能である。
< URL:https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/content/000043891.pdf>(令和2年3月23日検索)
上記URLのPDF資料には、東京都建設局の「東京の無電柱化」のサイト(下記URL参照)の「東京都無電柱化推進計画」の改定の項目に存在する「東京都無電柱化推進計画(第7期)(平成26年12月)」のリンクから到達することができる。
< URL:https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/road/kanri/gaiyo/chichuka/mudentyuuka-top.html>(令和2年3月23日検索)
東京都、「東京都無電柱化推進計画」(平成26年12月)は、東京都建設局の報道発表資料を掲載する下記URLによれば、平成26年12月25日に「「東京都無電柱化推進計画」を策定」として報道発表されていることが理解できる。報道発表においては、複数の報道機関に対して資料を配布することが一般的であるから、「東京都無電柱化推進計画」は本願出願前に頒布された刊行物である。
< URL:https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/notification/pressrelease/houdou1412.html>(令和2年3月23日検索)

(1)<参考資料4> 無電柱化の方式(第46頁)

ア.「CAB方式(キャブ)
道路管理者が道路本体として蓋掛け式U字構造物を設け地中化する方式で、広幅員の歩道が必要であるとともに、コストが高いため、現在は採用していない。(施行期間:S61?H11)」(第46頁中段第1覧及び第2欄左側)

イ.CAB(キャブ方式)の図(第46頁中段第2欄右側の図)


(2)上記(1)アに摘記した記載を踏まえると、上記(1)イに示したCAB(キャブ方式)の図における右下の「1.2m」は、「蓋掛け式U字構造物」の外径を示したものであって、同図からは、「蓋掛け式U字構造物」の外径は、1.2mであることが看て取れる。
また、同図における右下の図からは、電力用管路(左側部分)と通信用管路(右側部分)の収納箇所の間に空間が存在することが看て取れる。
また、同図からは、「蓋掛け式U字構造物」から、通信引込管、電力引込管(高圧)、電力引込管(低圧)等が分岐している様子が看て取れる。


5.周知例3の記載
本願出願前に頒布された刊行物であり、周知技術を示すために新たに引用する、光家朋昭「都市における電線の地中化について」電気設備学会誌、Vol.28、No.12、2008年12月、第37?40頁(以下「周知例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)周知例3の第38頁左欄の記載
ア.「3.2 国による地中化計画
第1期電線類地中化計画(1986?1990年度)では,「架空設備輻輳化の解消及び社会公衆安全の確保」を整備目的に,高需要密度地域(都市部の主要な幹線道路等)を整備対象とした。整備方式としては,地中化計画以前に事業者単独で実施していた「単独地中化」に加え,道路管理者が電力・通信などのケーブル類を集約収容する蓋がけ式のU字構造物(=キャブ)を整備し,電線管理者がケーブル・機器類を整備する「キャブ方式」を導入した(図-3)。」(第38頁左欄第13?21行)

イ.図-3 キャブ方式(第38頁左欄末尾の図)


(2)上記(1)アに摘記した記載を踏まえると、上記(1)イに示した「図-3 キャブ方式」の右下の「1.5m」は、「蓋がけ式のU字構造物」の外径を示したものであって、同図からは、道路管理者が電力・通信などのケーブル類を集約収容する蓋がけ式のU字構造物(=キャブ)の外径が、1.5mであることが看て取れる。
また、同図における右下の図からは、電力線と通信線の収納箇所の間に空間が存在することが看て取れる。
また、同図からは、「蓋がけ式のU字構造物」から、通信引込管、電力引込管(高圧)、電力引込管(低圧)等が分岐している様子が看て取れる。


第5 対比
本願発明と引用発明1を対比する。

1.本願発明における「ライフライン」について、明細書の【0001】には「本発明は、ライフラインである水道管、下水道管、ガス管、電力線、通信線を収容する共同溝に関する。」と記載されている。そして、上記水道管、下水道管、ガス管、電力線、通信線が、それぞれライフラインであることは技術常識である。
そうすると、引用発明1における「家屋3の住民のライフラインとなる各種のケーブルが含まれ、例えば、配電線4A、電話線4B及び光ファイバー4C等よりなり、前記収納空間18のサイズに余裕がある場合には、前記ケーブル類4として、上水道配管やガス配管を含めることもできる」「ケーブル類4」は、本願発明における「ライフライン」に相当する。

2.引用発明1における「ケーブル類4を纏めて収納可能な電線共同溝としての機能と、排水用の側溝としての機能を併有している側溝ブロック1」は、本願発明における「ライフラインを収容する共同溝」に相当する。

3.引用発明1における「前記ブロック本体11」が「プレキャストコンクリート製であり、左右の側壁部14と、その下端部同士を繋ぐ底壁部15とを一体に有する、上方が開放された断面ほぼU字状のコンクリートブロック体より」なり、「排水ブロック12」が「ブロック本体11の上方開放部から、その内空断面の上部側である嵌合空間17に対して着脱自在に嵌め込み可能であ」ることは、本願発明における「共同溝」が、「上方が開放されたU字状の溝に蓋を掛ける構造」であることに相当する。

4.引用発明1における「前記ブロック本体11」が、「ブロック本体11の内空断面のうち、段差部16より上方の上側部分が排水ブロック12の嵌合空間17になっており、段差部16より下方の下側部分がケーブル類4の収納空間18」となっており、「その断面幅Bは300?500mmの範囲に設定」されることと、本願発明における「前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅は「ライフラインの収納幅」と「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」とから構成され」ていることとは、「前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅は、少なくとも「ライフラインの収納幅」から構成され」ている点で共通する。

5.引用発明1における「排水ブロック12」は、「蓋が不要なタイプ」であるから、「排水ブロック12」以外に蓋を必要としないものと解され、かつ、ブロック本体11の上方開放部に着脱自在に嵌め込み可能であり、前記排水ブロック12が前記ブロック本体11の内空断面の上部側に支持され、前記内空断面における排水ブロック12より下方の部分に、前記ケーブル類4の収納空間18が確保されるものであり、ブロック本体11に対する蓋としての機能を有することは明らかであるから、本願発明における「共同溝の蓋」に相当する。

6.引用発明1における「排水ブロック12」において「その各側壁20と底壁21とで囲まれた溝空間」であり「排水用の側溝としての機能を奏する」「排水路22」は、「排水用の側溝」が雨水排水路であることは技術常識であるから、本願発明における「雨水排水路としての中空を設けて側溝の機能を持たせ」た「共同溝の蓋内部」に相当する。

7.以上1?6からみて、本願発明と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。

・一致点
「ライフラインを収容する共同溝の蓋であり、「上方が開放されたU字状の溝に蓋を掛ける構造」の共同溝(以下、前記共同溝という。)の蓋に用いられ、前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅は、少なくとも「ライフラインの収納幅」から構成されており、前記共同溝の蓋内部に雨水排水路としての中空を設けて側溝の機能を持たせている、共同溝の蓋」

・相違点1
共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅について、本願発明においては、「共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅」が、「ライフラインの収納幅」と「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」とから構成されているのに対して、引用発明1においては、ブロック本体11の幅として、「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」については特定していない点。

・相違点2
雨水排水路としての中空を設けて側溝の機能を持たせた「共同溝の蓋内部」の幅について、本願発明においては「その中空に雨水排水路として必要とされる断面積を確保するが、その中空の断面積の幅は、前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅を構成する「ライフラインの収納幅」の一部の長さと「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」の長さとから構成されている」のに対して、引用発明1においては、「排水路22」の幅について特定していない点。


第6 判断
1.上記相違点1について検討する。
周知例1ないし3にみられるように、複数のライフラインを収容するとともにライフラインが分岐される溝構造において、横幅の外径を約120?150cm有するとともに、複数のライフラインを収納する箇所と当該複数のライフラインを収納する箇所の間に空間を備えるようにする技術は周知である。
一般に、溝構造における配管作業等の作業性を確保する上で、作業空間が大きいほど作業がしやすいことは技術常識といえる。このことは、周知例1に「側溝用ブロック本体2の横幅内径Xは、この内面に各種の配管等4、5、6、7、8、を収納し且つ配管作業が行えるよう約110cmとされる」と記載されていることとも整合し、周知例1ないし3の周知の溝構造においてもいえることである。
そして、引用発明1は、複数のライフラインを収納するとともに、引用文献1の【0030】に記載されように、家屋3へのケーブル類4の引き込みを行うことを想定しているものであり、引用発明1において、配管作業をしやすくするという課題が内在することは明らかである。
そうすると、引用発明1において、配管作業をしやすくするために、上記周知技術のように、横幅の外径を約120?150cm有するとともに、複数のライフラインを収納する箇所と当該複数のライフラインを収納する箇所の間に空間を備えるようにすることは当業者が適宜なし得ることである。そしてその際に、共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅を「ライフラインの収納幅」と「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」とから構成することは設計事項である。

2.上記相違点2について検討する。
上記1.で検討したように、共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅を「ライフラインの収納幅」と「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」とから構成するようにする際には、当該空間を覆う部材である蓋も当該空間の幅に対応した幅とすることは、当業者であれば当然に行うことであるといえる。
そして、引用発明1と引用2技術事項とは、いずれも側溝構造という技術分野が共通し、ケーブル類を纏めて収納可能な電線共同溝としての機能と、排水用の側溝としての機能を併有するという作用・機能が共通するから、引用発明1における排水路22の形状を、引用2技術事項のように横長に形成することは当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると、引用発明1における「排水ブロック12」の幅を、上記周知技術のように「ライフラインの収納幅」と「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」とから構成する「共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅」に対応する幅とする際に、横長に形成する「排水路22」の幅が、共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅程度の幅となるように、「その中空に雨水排水路として必要とされる断面積を確保」するが、「前記共同溝のライフラインを収容する空間の断面の幅を構成する「ライフラインの収納幅」の一部の長さと「ライフラインの維持管理・分岐・補修の作業性を確保するための作業幅」の長さとから構成されている幅」とすることは当業者が適宜なし得ることである。

3. そして、本願発明の作用効果も、引用発明1、引用2技術事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

4.よって、本願発明は、引用発明1、引用2技術事項及び周知技術に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものである。


第7 補正について
なお、令和1年12月31日付け手続補正書により補正された明細書には多くの事項が追加されており、これらの事項は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項ではなく、また、当業者にとって、当初明細書等に記載された事項から自明なものでもない。
そして、上記補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、新規事項を追加するものである。


第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用2技術事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-24 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-17 
出願番号 特願2017-152773(P2017-152773)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 創太郎  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 住田 秀弘
秋田 将行
発明の名称 共同溝の蓋  

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