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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
管理番号 1363549
審判番号 不服2018-16112  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-04 
確定日 2020-06-25 
事件の表示 特願2014-538595「内燃機関の運転方法および空気供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日国際公開、WO2014/050986〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)9月26日(優先権主張2012年9月28日及び2013年5月9日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月28日付け(発送日:平成29年8月8日)で拒絶理由が通知され、平成29年10月10日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年3月26日付け(発送日:平成30年4月3日)で再度の最初の拒絶理由が通知され、平成30年5月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年8月30日付け(発送日:平成30年9月4日)で拒絶査定がされ、これに対して平成30年12月4日に拒絶査定不服審判が請求され、令和元年11月29日(発送日:令和元年12月3日)に当審において拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和2年2月3日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、令和2年2月3日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、
前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、
前記燃焼室に導入する前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と、
前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程と、
を有し、
前記酸素濃度低減工程において、
気体透過膜の一方の面に空気を接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させる工程を含み、
前記気体透過膜による空気加湿は行わず、前記気体透過膜の酸素富化側の全圧が窒素富化側の全圧より低圧になるように減圧し、
前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程が、前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する工程である、
内燃機関の運転方法。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

理由1.(進歩性)本願の請求項1ないし18に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する記載事項の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2.(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について

請求項1ないし12、14、15、17及び18:引用文献等1ないし3
請求項13及び16:引用文献等1ないし4

●理由2(明確性)について

請求項14に係る発明は明確でない。

<引用文献等一覧>
1.特開平4-231670号公報
2.特開2011-58462号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平8-303305号公報(周知技術を示す文献)
4.国際公開第2010/137628号

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-231670号公報(以下「引用文献1」という。)には、「移動式機関用空気取入れシステム」に関して、図面と共に次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

(1)「【0001】本発明は移動式機関用の空気取入れシステム、特に自動車エンジン用空気取入れシステム、更に特に空気取入れ口内に入ってくる空気の酸素富化又は酸素減損を行う選択的透過可能な薄膜材を有する空気取入れシステムに関する。」

(2)「【0018】図1及び2において、薄膜材は中空繊維であるとして示される。これは薄膜材の好ましい形状であると考えられるがその他の形状を使用することもできる。例えば、薄膜材を螺旋状カートリッジの形式を含んだフィルム又は塗膜の形の薄膜材とすることができ、更に薄膜材をいわゆる一体式薄膜材、非対象薄膜材及び複合薄膜材を含んだ当業者に公知の構造のものとすることができる。薄膜材は、これを通る気体移動量を最大にするために、薄く、好ましくは厚さ0.01mm以下、特別には0.001mm以下にすべきである。複合薄膜材の場合は、かかる厚さは非晶質ポリマーの層又は塗膜の厚さと考えられる。
【0019】運転の際は、空気は空気入り口管7を通って供給され、入り口管7の連結方法に応じて中空繊維20を通過し又はその外側を通り、即ち薄膜材の供給側を通り、第1の出口10を通って出る。酸素は、透過側の空気が酸素に富むように、薄膜材、即ち中空繊維を通過することが好ましい。中空繊維薄膜材の透過側は、例えば移動式燃焼機関の燃焼区域に連結され、通常は部分的な負圧下で作動する。透過域は燃焼区域に対するただ一つの酸素源であるが、追加の酸素源、例えば燃焼区域と連通する空気を持つことが好ましい。特に、燃焼機関の瞬間的な酸素の要求に基づいて空気の追加量を調整するために、適切な弁手段を使用することができる。
【0020】図1は、入り口空気と酸素富化された出口空気とが同方向に流れる場合を示す。しかし、富化空気の出口、即ち第2の出口管12をシリンダー2の入り口管7と同じ端部に置くことにより、入り口空気と富化された出口空気とを反対方向に流すこともできる。また、第2の出口管12を端部キャップ3とキャップ4との間に置くこともできる。
【0021】本発明は、特に空気の酸素富化、及び移動式燃焼機関への酸素富化空気の供給を参照し説明されたが、本発明は空気中の酸素量の減損及び移動式燃焼機関への酸素減損空気の供給に使用しうることを理解すべきである。上述の本発明の作動においては、薄膜材の透過側からの酸素に富んだ空気が燃焼機関に供給される。酸素減損空気を使用すべきであるならば、薄膜材の透過側からの空気が燃焼機関に供給されるであろう。酸素富化空気と酸素減損空気の両者は、異なった機関及び機関の異なった作動の様相における燃焼機関の運転に使用できる。
【0022】酸素富化空気の使用は、炭化水素の排出レベルの低減は期待できるが、ガソリン機関及びディーゼル機関の両者におけるNOX排出レベルを上昇させる。反対に、酸素減損空気の使用は、炭化水素の排出レベルを増加させるが、ガソリン機関及びディーゼル機関の両者のNOX排出レベルを低下させる。更に、酸素富化空気により、比制動出力の増加、及びガソリン機関の触媒コンバーターの作動率の改善又は増加が期待されるであろう。しかし、酸素を富化又は減損させた空気の使用による排出の増加は、環境に対する不必要な損失であることを理解すべきである。何故ならば、例えば、これは考慮すべき総排出であってある特定の物質ではないこと、及び排出を減少させるために別の方法を取りうることのためである。
【0023】選択的透過可能な薄膜材は、ペルフルオロ-2、2-ジメチル-1、3-ジオクソールの非晶質ポリマーより形成される。実施例においては、ポリマーはペルフルオロ-2、2-ジメチル-1、3-ジオクソールのホモポリマーである。別の実施例においては、ポリマーは、ペルフルオロ-2、2-ジメチル-1、3-ジオクソールのコポリマーであり、更にテトラフルオロエチレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、弗化ビニリデン及びクロロトリフリオロエチレンよりなるグループから選定された少なくも1種のモノマーを捕足量だけ含んでいる。一つの好ましい実施例においては、ポリマーは、ペルフルオロ-2、2-ジメチル-1、3-ジオクソール、及び補足量のテトラフルオロエチレンを含んだジポリマーであり、特にペルフルオロ-2、2-ジメチル-1、3-ジオクソールの65-99モル%を含んだポリマーである。非晶質ポリマーは、好ましくは少なくも140℃、より好ましくは少なくも180℃のガラス転位温度を持つ。ガラス転位温度(Tg)は当業者により知られており、ポリマーが脆いガラス状態からゴム状又はプラスチック状に変化する温度である。ジポリマーの例は、イー・エヌ・スクヮイヤーの米国特許第4754009号に更に詳細に記述されている。」

(3)「【0025】空気取入れシステムに供給される気体混合物は、通常は空気、特に周囲空気である。本発明の空気取入れシステムに使用される薄膜材は、ある実施例では100℃以上の温度を含んだ高温で使用できる。空気取入れシステムは、90℃までの特別な高温、及び特に50℃までの温度で作動できる。かかる温度は、例えば吸入空気と燃焼機関からの排出ガスとの熱交換の際に到達することがある。しかし、薄膜材は、これを形成するために使用される非晶質ポリマーのガラス転位温度以下、特にガラス転位温度より少なくも30deg低温で使用すべきである。これらの性能は自動車の最終使用に対する通常の運転要求を越える。好ましい実施例においては、ガラス転位温度は少なくも140℃であり、特別には少なくも180℃である。本発明の方法は、比較的低い温度、例えば0℃以下で作動することができる。」

(4)「【0029】実施例においては、本発明の空気取入れシステムは、燃焼の強化のために、酸素23-35%、特別には酸素23-27%を含んだ酸素富化空気を提供するであろう。以下の例は、ここに説明の薄膜材が比較的低い選択率において極めて高い気体透過率を現したことを示す。かかる透過特性はここに説明された最終使用に対して適切である。別の実施例においては、空気取入れシステムは酸素21%以下、例えば酸素6-19%、特別には酸素15-19%を含んだ酸素減損空気を提供するであろう。」

(5)上記(2)(特に段落【0022】を参照。)及びガソリン機関やディーゼル機関は炭化水素系燃料を用いるという技術常識から、引用文献1に記載された発明は、炭化水素系燃料および空気を燃焼区域内で燃焼させる移動式機関の運転方法に係るものといえる。

(6)上記(3)(「空気取入れシステムに供給される気体混合物は、通常は空気、特に周囲空気である。」との記載を参照。)から、空気取入れシステムに供給される気体混合物は、移動式機関の排気を含まないといえる。

(7)引用文献1には、薄膜材によって空気加湿を行うことについて記載がないことから、薄膜材による空気加湿は行わず、加湿手段は存在しないといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「炭化水素系燃料および空気を燃焼区域内で燃焼させる移動式機関の運転方法であって、
前記空気は、前記移動式機関の排気を含まず、
前記燃焼区域に導入する前記空気中の酸素量を減損させる工程、
を有し、
前記空気中の酸素量を減損させる工程において、
薄膜材の一方の面に空気を接触させ、当該空気中の酸素量を減損させる工程を含み、
前記薄膜材による空気加湿は行わない、
移動式機関の運転方法。」

2 引用文献2
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-58462号公報(以下「引用文献2」という。)には、「燃料噴射装置」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「【0002】
ディーゼルエンジンの燃料中に水やアルコールを含有させたエマルション燃料を用いることが知られている。エマルション燃料を用いた場合、水分の気化潜熱により燃焼温度が低下し、NO_(X)の生成量が低下する。また、水分の爆発的な沸騰作用により燃料噴霧が微粒化され、スモークの発生が低減される。これにより、エミッションが低減し、さらに燃費が改善される。」

(2)「【0013】
本発明の実施例1について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施例の燃料噴射装置100を搭載したエンジン200の概略構成を示した説明図である。燃料噴射装置100は、主燃料である軽油を蓄える第1タンク1と、水を蓄える第2タンク2と、第1タンク1内の軽油と第2タンク2内の水とを混合し、エマルション燃料を生成するミキサ3と、燃料噴射弁4と、切替弁5とを備えている。なお、第2タンク2内に蓄える液体は、水に替えてアルコール、あるいは水とアルコールの混合液でも良い。
【0014】
燃料噴射弁4は、エンジン200のシリンダヘッド110、シリンダブロック120、ピストン130とに囲まれて形成される燃焼室140内へ先端部を向けて配置されている。燃料噴射弁4は燃焼室140内へ噴射する燃料が供給される噴射燃料用供給口41と、噴射動作に用いられる燃料が供給される作動流体用供給口42とを備えている。
【0015】
さらに燃料噴射装置100は、第1燃料ライン6と機能流体ライン7とエマルション燃料ライン8と噴射燃料ライン9とを備えている。第1燃料ライン6は第1タンク内1と作動流体用供給口42とを接続し、機能流体ライン7は第2タンク2内とミキサ3とを接続し、エマルション燃料ライン8はミキサ3と切替弁5とを接続している。そして、噴射燃料ライン9は切替弁5と噴射燃料用供給口41とを接続している。
【0016】
また、第1燃料ライン6には第1タンク1側から順に第2燃料ライン10、第3燃料ライン11が分岐している。第2燃料ライン10は、第1燃料ライン6とミキサ3とを接続している。第3燃料ライン11は第1燃料ライン6と切替弁5とを接続している。
【0017】
第1燃料ライン6、第2燃料ライン10、第3燃料ライン11内は第1タンク1内に蓄えられた軽油が流通する。機能流体ライン7内は、第2タンク2内に蓄えられた水が流通する。エマルション燃料ライン8はミキサ3により軽油と水とが混合されたエマルション燃料が流通する。噴射燃料ライン9はエマルション燃料ライン8を通過したエマルション燃料が流通する場合と、第3燃料ライン11を通過した軽油が流通する場合とがある。噴射燃料ライン9へ供給する燃料は、切替弁5によりエマルション燃料または軽油のいずれかに切り替えられる。
【0018】
さらに燃料噴射装置100は、第1ポンプ12、作動流体用コモンレール13、第2ポンプ14、噴射燃料用コモンレール15を備えている。第1ポンプ12、作動流体用コモンレール13は、第1燃料ライン6上に第3燃料ライン11の分岐点側から第1ポンプ12、作動流体用コモンレール13の順に設けられている。第2ポンプ14、噴射燃料用コモンレール15は、噴射燃料ライン9上に切替弁5側から第2ポンプ14、噴射燃料用コモンレール15の順に設けられている。
【0019】
第1ポンプ12は、軽油を作動流体用コモンレール13へ供給する。作動流体用コモンレール13は、作動流体を高圧状態で維持するとともに、燃料噴射弁4の作動流体用供給口42へ供給する。第2ポンプ14は、切替弁5を通過したエマルション燃料、もしくは軽油を噴射燃料用コモンレール15へ供給する。噴射燃料用コモンレール15は、噴射燃料、すなわち、エマルション燃料、もしくは軽油を高圧状態で維持するとともに、燃料噴射弁4の噴射燃料用供給口41へ供給する。」

上記記載事項及び図面(特に図1を参照。)の図示内容からみて、引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「エンジンにおいて、燃料に水を混合して、エマルションとして燃焼室に噴射することにより、NOxの生成量を低下させること。」

3 引用文献3
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平8-303305号公報(以下「引用文献3」という。)には、「内燃式ディーゼル・エンジン用エマルジョン混合・供給方法及び装置」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は内燃式ディーゼル・エンジンのための水及び燃料からなるエマルジョンを混合し、かつ供給する方法及び装置、並びにこれらを利用する内燃式ディーゼル・エンジン及びその運転方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】水を燃焼室内へ噴射してシリンダ内の燃焼温度を低下させることにより、内燃式ディーゼル・エンジンの運転時における窒素酸化物(NOx)の排出量を低減させることは周知である。この種の処理の問題点としては、燃料噴射装置の他に水を噴射する第2の装置を要する点が挙げられる。
【0003】更に、水及び燃料を混合してエマルジョンを形成し、次いで同エマルジョンを従来の燃料ポンプを用いてシリンダ内へ供給することにより、内燃式ディーゼル・エンジンの運転時における窒素酸化物の排出量を低減させることが知られている。この種の装置では、燃料ポンプからの供給量は混合された水の量に応じて増加する。同装置の問題点としては、噴射システム全体を最大供給量に対して整合させるか、または同噴射システムの供給能力を固定する必要が挙げられる。噴射システム全体を最大供給量に対して整合させる場合、装置のコストが高くなるとともに、同装置の設置に更に大きな空間が必要になる。また、噴射システムの供給能力を固定した場合、供給可能な燃料の最大量は混合された水の量によって削減された燃料の量に等しくなり、エンジンの運転は出力の低下をともなう。」

上記記載事項及び図面(特に図2を参照。)の図示内容からみて、引用文献3には次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「水及び燃料を混合してエマルジョンを形成し、シリンダ内へ供給することにより、内燃式ディーゼル・エンジンの運転時における窒素酸化物の排出量を低減させること。」

4 引用文献4
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2006-43599号公報(以下「引用文献4」という。)には、「酸素ガスおよび窒素ガスの併行分離方法および併行分離システム」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「【0026】
原料ガス供給装置3は、酸素・窒素含有原料ガスである空気をPSAガス分離装置1の吸着塔に供給するためのものであり、例えば空気ブロアである。ポンプ4は、PSAガス分離装置1の吸着塔内を吸引減圧するためのものであり、例えば真空ポンプである。また、ポンプ5は、膜式ガス分離器2におけるガス分離膜2Aの透過側(ガス分離膜2Aから導出口2cまでのガス流路)を吸引減圧するためのものであり、例えば真空ポンプである。」

(2)「【0037】
膜式ガス分離器2においては、酸素含有脱着ガスは膜式ガス分離工程に付される。具体的には、導入口2aから膜式ガス分離器2内に導入される酸素含有脱着ガスG1は、膜式ガス分離器2のガス流路内に配設されているガス分離膜2Aにより、ガス分離膜2Aを透過する透過ガスG2と、透過しない非透過ガスG3とに、分離される。透過ガスG2は、ガス分離膜2Aの透過特性に基づいて酸素濃度が高められた酸素富化ガスであり、非透過ガスG3は、ガス分離膜2Aの透過特性に基づいて窒素濃度が高められた高純度窒素ガス(窒素富化ガス)である。
【0038】
膜式ガス分離工程では、ポンプ5の作動により、ガス分離膜2Aの透過側は大気圧未満の圧力に減圧される。ポンプ5による減圧圧力は例えば0.02?0.05MPaである。透過ガスG2は、導出口2cから膜式ガス分離器2外に導出され、この後、ポンプ5を通ってシステム外に排出される。」

(3)「【0042】
酸素・窒素併行分離システムX1による酸素・窒素併行分離方法おいては、圧力変動吸着式ガス分離工程が行われるPSAガス分離装置1の吸着塔から排出されて膜式ガス分離器2での膜式ガス分離工程に付される酸素含有脱着ガスG1の酸素分圧(ないし、体積あたりの物質量で表される酸素濃度)と、当該酸素含有脱着ガスG1とはガス分離膜2Aにより隔てられている透過ガスG2の酸素分圧(ないし、体積あたりの物質量で表される酸素濃度)とについて、ガス分離膜2Aの透過側を大気圧未満の所望の圧力に減圧することにより、充分な差を設けることができる。また、圧縮機7での圧縮工程も、吸着塔からの酸素含有脱着ガスG1の酸素分圧と、ガス分離膜2Aにより隔てられている透過ガスG2の酸素分圧とについて、充分な差を設けるのに寄与している。酸素含有脱着ガスG1の酸素分圧(ないし酸素濃度)が変動する場合であっても、当該両酸素分圧について充分な差を設けることにより、ガス分離膜2Aにおける酸素透過のための充分なドライビングフォースを確保することができるとともに当該ドライビングフォースの変動比率を抑制することができ、従って、ガス分離膜2Aに対する酸素の充分な透過量を得ることができるとともに当該透過量の変動を抑制することができる。ガス分離膜2Aにおける酸素透過量が多いほど、ガス分離膜2Aにおける窒素透過量は少ない傾向にあり、従って、膜式ガス分離器2での膜式ガス分離工程における非透過ガス(高純度窒素ガス)G3の発生量は多い傾向にある。一方、ガス分離膜2Aにおける酸素透過量の変動比率が小さいほど、膜式ガス分離工程における非透過ガス(高純度窒素ガス)G3の発生量の変動比率は小さい傾向にある。」

上記記載事項及び図面(特に図1を参照。)の図示内容からみて、引用文献4には次の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献4記載事項〕
「膜式ガス分離工程において、ガス分離膜2Aの透過側を減圧することにより、充分な圧力差を設け、ガス分離膜2Aにおける酸素透過のための充分なドライビングフォースを確保すること。」

5 引用文献5
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-119005号公報(以下「引用文献5」という。)には、「酸素発生装置」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「【0016】本実施の形態における酸素分離装置20は、いわゆる膜式と称されるものであり、高分子の薄膜における、分子間の透過性の違いを利用する方式である。可動部分がなく、コンパクト性およびメインテナンス性に優れている。高分子の薄膜は、高分子の中空糸膜として形成され、その内外面の圧力差を利用して酸素を外部に透過させ、内部に窒素のみを選択分別する。本実施の形態においては、高分子の薄膜が複数本の高分子の中空糸膜の束からなる膜ユニット23として構成され、酸素はこの膜ユニット23の外部に透過され、本体筒部22aの周壁に開口する連通口に連結された連通筒22eおよび通路41を介して真空ポンプ装置40に連通されている。なお、42は通路41に設けられた流量計、43は真空ポンプ装置40の酸素出口通路である。また、膜ユニット23が膜ユニットケース22に収容された形態を膜モジュールと称す。
【0017】ここで、上記構成になる本実施の形態の作用を説明する。
【0018】エアコンプレッサ10の起動と共にヒータ50および真空ポンプ装置40も駆動され、所定圧(例えば、約686kPa)の圧縮空気が加熱されつつ酸素分離装置20に導入され、その膜ユニット23において窒素と酸素とが分離される。酸素分離装置20においては、膜ユニット23の外側において真空ポンプ装置40により負圧がかけられ、その分離が促進される。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献5には次の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献5記載事項〕
「膜式の酸素分離装置20において、膜ユニット23の外側において真空ポンプ装置40により負圧をかけることにより、窒素と酸素の分離を促進すること。」

6 引用文献6
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭63-123421号公報(以下「引用文献6」という。)には、「除湿空気供給装置」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「最近、従来技術の上記問題を解消した省エネルギープロセスとして膜分離による除湿装置が提案された(特開昭53-97246号、同53-129440号、同53-145343号、同54-6345号、同54-13653号、同54-15349号、同54-152679号など)。これらの除湿装置は透湿膜を収容したモジュールの、膜で分離された一方の室に加圧空気を供給するか、または他方の室を減圧にして、あるいはこの両者を組み合せて両室間での水蒸気分圧差を大きくするように操作される。」(1ページ右下欄18行ないし2ページ左上欄7行)

上記記載事項からみて、引用文献6には次の事項(以下「引用文献6記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献6記載事項〕
「膜分離による除湿装置において、一方の室に加圧空気を供給するか、または他方の室を減圧にして、あるいはこの両者を組み合せて両室間での水蒸気分圧差を大きくすること。」

7 引用文献7
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-290518号公報(以下「引用文献7」という。)には、「除湿空気供給装置」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「【0002】
【従来の技術】ガス分離膜の選択透過性を利用してガスを分離する場合、分離すべきガスの膜表面に対する溶解性と、溶解したガスの膜内での拡散性とによって透過速度が定まり、膜間の差圧を大きくするほど透過速度を大きくなし得る。
【0003】而して、従来、ガス分離膜モジュ-ルの操作には、ガス供給側を加圧し、透過側を常圧とする加圧-常圧系、ガス供給側を常圧とし、透過側を減圧する常圧-減圧系が使用されており、透過側を減圧する場合、ガス供給方法の如何によってはその供給手段に起因して供給側が僅かに加圧される場合もあるが、これも実質上、常圧-加圧系に属する。」

上記記載事項からみて、引用文献7には次の事項(以下「引用文献7記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献7記載事項〕
「ガス分離膜の選択透過性を利用してガスを分離する場合、膜間の差圧を大きくするほど透過速度を大きくでき、膜間の差圧を得るために、透過側を減圧すること。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「燃焼区域」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明における「燃焼室」に相当し、以下同様に、「移動式機関」は「内燃機関」に、「前記空気中の酸素量を減損させる工程」は「前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程」及び「酸素濃度低減工程」に、「薄膜材」は「気体透過膜」に、それぞれ相当する。
よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

〔一致点〕
「炭化水素系燃料および空気を燃焼室内で燃焼させる内燃機関の運転方法であって、
前記空気は、前記内燃機関の排気を含まず、
前記燃焼室に導入する前記空気の酸素濃度を低減させる酸素濃度低減工程と、
を有し、
前記酸素濃度低減工程において、
気体透過膜の一方の面に空気を接触させ、当該空気の酸素濃度を低下させる工程を含み、
前記気体透過膜による空気加湿は行わない、
内燃機関の運転方法。」

〔相違点1〕
本願発明においては「炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程」を有し、「前記炭化水素系燃料と水を前記燃焼室に噴射する工程が、前記炭化水素系燃料に水を混合してエマルションとして前記燃焼室に噴射する工程である」のに対して、引用発明においてはかかる事項を備えていない点。

〔相違点2〕
本願発明においては「気体透過膜の酸素富化側の全圧が窒素富化側の全圧より低圧になるように減圧」するのに対して、引用発明においてはかかる事項を備えていない点。

上記相違点1について検討する。
引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項からみて、内燃機関において、燃料に水を混合してエマルションとして燃焼室に噴射することにより、NOxの排出量を低下させることは、本願優先日前に周知の技術(以下「周知技術」という。)であったといえる。
引用発明もNOxの排出量を低下させる技術であるから(引用文献1の段落【0022】を参照。)、NOx排出量のさらなる低下を目的として、引用発明と周知技術の組合せを試みることは、当業者が容易に想到できたことである。
してみると、引用発明において周知技術を参酌し、炭化水素系燃料と水を燃焼室に噴射する工程を設け、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点2について検討する。
膜を用いた気体の分離技術においては、膜の供給側と透過側とで圧力差を大きくとればよいこと、そのために供給側を加圧するか若しくは透過側を減圧するかまたはその両方を行えばよいことは、当業者にとって自明の事項である。そして、透過側を減圧することは、当業者が状況に応じて適宜採用し得る事項であるところ、現に、引用文献4記載事項ないし引用文献7記載事項に見られるように、膜を用いた気体の分離技術において、透過側を減圧することは、本願優先日前に慣用的に行われていた技術(以下「慣用技術」という。)であったといえる。
引用発明において、慣用技術を参酌し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術及び慣用技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術及び慣用技術に基いて、当業者が容易になし得たものである。

第6 請求人の主張について
請求人は令和2年2月3日の意見書(以下「意見書」という。)の3.(1)イ.において次のように主張している。
「(ウ)より詳細に説明すると、本発明では『気体透過膜の酸素富化側の全圧が窒素富化側の全圧より低圧になるように減圧する』ので、気体透過膜の酸素富化側と窒素富化側とが同じ分圧差でも透過性能が向上する。その結果、上記の減圧を行わない態様に比べ、窒素富化側の酸素濃度を所望の濃度にし易く、従って、NOx濃度を、例えば、TierIIIレベルという極めて低いレベルまで低減できるという格別の効果を奏する。
(エ)また、本発明によれば、所望のNOx濃度にするために必要な膜面積も低減され、装置の軽量化、コンパクト化が可能となる。これは、特に船、自動車といった、移動体の内燃機関に使用する上で非常に有利になる。」
該主張について検討すると、膜による気体の分離技術において、透過側を減圧することにより圧力差を大きくでき、分離を促進できること、あるいは、透過速度を高めることができることは、引用文献4記載事項ないし引用文献7記載事項に見られるとおり、当業者にとってよく知られた効果であるから、請求人の主張する作用効果は、当業者の予測の範囲内のものである。

また、請求人は意見書の3.(1)ウ.において次のように主張している。
「例えば、『気体透過膜の酸素富化側の全圧が窒素富化側の全圧より低圧になるように減圧する』ために、付加的に減圧手段等を用いることは、一見すると、余分にエネルギーを使用することをつながるため、当業者が本構成をわざわざ採用するには明確な動機付けが必要となるところ、引用文献1には、そのような動機付けとなる記載や示唆があるとは言えない。」
該主張について検討すると、透過側を減圧することによる空気からの酸素分離促進によるNOx濃度低減の効果を優先するか、エネルギーを優先するかは、当業者が要求される条件等に応じて決定し得ることである。

よって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1ないし7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-04-21 
結審通知日 2020-04-22 
審決日 2020-05-08 
出願番号 特願2014-538595(P2014-538595)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F02M)
P 1 8・ 121- WZ (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 家喜 健太川口 真一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 西中村 健一
鈴木 充
発明の名称 内燃機関の運転方法および空気供給装置  
代理人 西本 博之  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  

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