• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01D
管理番号 1363582
審判番号 不服2019-13875  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-17 
確定日 2020-07-17 
事件の表示 特願2015-60730「共振チャンバを備える蒸気タービン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日出願公開、特開2015-183693、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月24日(パリ条約による優先権主張2014年(平成26年)3月24日)の出願であって、平成31年1月17日付け(発送日:平成31年1月22日)で拒絶理由が通知され、平成31年4月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年7月22日付けで(発送日:令和元年7月26日発送)拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和元年10月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともにその審判の請求と同時に手続補正書が提出され、令和元年11月6日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、本願請求項5及び6に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平5-215100号公報
2.米国特許出願公開第2010/0189546号明細書(周知技術を示す文献)
3.特開平4-308301号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

審判請求時の補正によって、請求項1-6に「ヘルムホルツ共振器(26)は、多孔内壁を備えるチャンバとを有している」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、「ヘルムホルツ共振器(26)は、多孔内壁を備えるチャンバとを有している」という事項は、当初明細書の段落【0023】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし6に係る発明は、独立特許要件を満たしているものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和元年10月17日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
蒸気タービンであって、
ロータ(8)と、
該ロータ(8)に取り付けられた翼根部(13)から先端部(22)まで半径方向に延在する、周方向に配分されて配置された、回転する動翼(12)の列と、
前記動翼(12)の列を周方向に取り囲む外環(14)と、
共振チャンバ(26)と、
を備え、
前記共振チャンバ(26)は、前記外環(14)に面した前記動翼(12)の翼根部(13)の半径方向突出部により画成された前記外環(14)の領域に、開口(24)を有し、
前記共振チャンバ(26)は、2.5?6エンジンオーダの周波数用に構成され、
前記共振チャンバ(26)は、ヘルムホルツ共振器(26)として構成され、
前記ヘルムホルツ共振器(26)は、多孔内壁を備えるチャンバとを有している、蒸気タービン。
【請求項2】
前記開口(24)は、前記動翼(12)の前記先端部(22)とは反対側に位置している、請求項1記載の蒸気タービン。
【請求項3】
周方向に配分されて配置された複数の前記共振チャンバ(26)を有する、請求項1又は2記載の蒸気タービン。
【請求項4】
前記共振チャンバ(26)は、3?5エンジンオーダの周波数用に構成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の蒸気タービン。
【請求項5】
前記蒸気タービンは、下流の最終段(18)を有する多段式の蒸気タービンであり、前記動翼(12)の列は、前記最終段(18)の動翼(12)である、請求項1から4までのいずれか1項記載の蒸気タービン。
【請求項6】
前記蒸気タービンは、大気圧以下の排気圧で運転するように構成された低圧蒸気タービンである、請求項1から5までのいずれか1項記載の蒸気タービン。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1(特開平5-215100号公報)について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同様。)

(1)「【0002】
【従来の技術】軸流形並びに半径流形タービン、圧縮機、ターボポンプ及び送風機のようなターボ機械においては、回転羽根は流れの不規則性によって励振させられる。ロータの回転数又は回転数の整数倍が回転羽根の固有振動数に合致する場合には、共鳴振動、ひいては高い機械的応力が発生し、この機械的応力によって羽根の耐用寿命が許容不能に短縮されることがある。回転数可変の機械の場合には、共振の発生を常に予期する必要がある。しかし又、定常回転数の機械の場合には、共振回転数は概して、始動時及び停止時に若干の共振域を通過せねばならないほど低い。
【0003】振動を減少させるための公知の装置では、羽根を結合することによって振動振幅を制限するレーシング(乱調)ワイヤが慣用されている。また囲い板(シュラウドバンド)も使用されている。このような公知の手段は概して効率損失を伴いかつ/又はコスト高でもある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、前記公知技術の欠点を避けると共に、検出確認された共振に意図的に影響を及ぼすために援用できるような流動妨害手段を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決する本発明の構成手段は、流動を意図的に妨害する手段を、回転する羽根先端部と、流路を制限するケーシング壁との間に配置した形式の、ターボ機械の回転羽根の1つ以上の共鳴振動を減少する装置において、前記流動妨害手段が羽根先端部区域でケーシング壁内に配置されておりかつ1個のキャビティ又は、全周にわたって分配された複数個のキャビティから成り、該キャビティの、前記流路へ向かって開放した横断面が少なくとも部分的に、回転羽根の入口縁と出口縁とによって制限された軸方向平面間に配置されている点にある。
【0006】因みに本発明の出発点を成す根本思想は、ケーシング壁に物理的な変形を施すことによって羽根が付加励振を受け、該付加励振が、そのベクトル量と位相とを正しく選ぶ限り、単数又は複数の共振における振動の振幅を著しく減少させることができるということである。」

(2)「【0010】
【実施例】次に図面に基づいて本発明の実施例を詳説する。
【0011】但し、図面には本発明を理解する上で重要な構成エレメントのみを図示し、すべての図面において同一の構成部分には同一の符号を付した。例えば図1乃至図4の場合においては、符号21は回転羽根、符号22は作動媒体の通流する流路を制限するケーシング壁である。図1乃至図3の図示例の回転羽根は、円錐形の流路輪郭に対して羽根先端部でもってシールするタービン回転羽根である。符号23は羽根の相応の入口縁、符号24は羽根の出口縁である。これらの入口縁並びに出口縁は図4に示した半径流形ターボ機械の場合には、回転羽根21を部分的にしか示していないので図面からは認知することができない。
【0012】図1の(A)?(D)ではキャビティは円筒孔の形で構成されており、該円筒孔は円錐形流路輪郭に対して垂直に延びている。この円筒形孔の垂直方向延在が強制的なものではないのは勿論である。流路の方に向かって開いたキャビティの横断面は入口縁23と出口縁24とにより制限された軸方向平面によって形成される筒面の内部にそれぞれ位置している。回転羽根が先細翼型断面である限り、前記軸方向平面は羽根先端部における各縁によって決定されている。
【0013】図1の(A)に示したキャビティとしての孔は単純な盲孔13である。原則的には該盲孔は雌ねじ山(図示せず)を有し、該雌ねじ山には、盲孔を閉鎖するためのボルトをねじ込むことが可能である。
【0014】図1の(B)に示したキャビティとしての孔は貫通孔14である。この変化実施態様は、例えば送風機の場合のように流路とケーシング壁との間にごく僅かな圧力差が生じるような機械において有利に適用することができる。
【0015】図1の(C)に示したキャビティとしての孔は、外側の閉じた管15を嵌合した貫通孔から成っている。この変化実施態様は、薄肉のケーシング壁を有する機械の場合、或いは、所定の閉じられたキャビティ容積が必要であると見做されるような場合に、適用される。
【0016】図1の(C)に示した前記実施態様とは異なって図1の(D)では、外側の開いた管16を嵌合した貫通孔が示されている。この変化実施態様では、ガス接続部(図示せず)を設け、全周にわたって分配されたキャビティの1つ又は若干或いはすべてのキャビティにガス状媒体を吹き付けることが可能である。軸流形タービンにおける相応の実験の結果、この手段の優れた機能が実証された。実験に供せられた被験機械では特定のロータ回転数において共振が確認され、該共振はロータ回転数の5倍の振動数で励振された。その結果、3つの孔を通して圧縮空気が吹き込まれた。吹き込まれる空気流は、回転羽根が回転数の5倍の振動数で励振された場合、該回転羽根の第1固有振動数の振幅が当初の値の30%に、つまり許容可能な値に、減じるまで高められた。」

(3)上記(2)、図1及び2の図示内容並びに技術常識から、貫通孔内に嵌合された外側の閉じた管(15)は、ケーシング壁(22)に面した回転羽根(21)のロータに取り付けられる部分の半径方向突出部により画成された前記ケーシング壁(22)の領域に、開口を有しているといえる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明1]
「ロータと、
該ロータに取り付けられる部分から羽根先端部まで半径方向に延在する、周方向に配分されて配置された、回転する回転羽根(21)の列と、
前記回転羽根(21)の列を周方向に取り囲むケーシング壁(22)と、
貫通孔内に嵌合された外側の閉じた管(15)と、
を備え、
前記貫通孔内に嵌合された外側の閉じた管(15)は、前記ケーシング壁(22)に面した前記回転羽根(21)のロータに取り付けられる部分の半径方向突出部により画成された前記ケーシング壁(22)の領域に、開口を有した、軸流形タービン。」

2.引用文献2(米国特許出願公開第2010/0189546号明細書)について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)段落【0037】
「In an exemplary embodiment, during its operation, the fluid expansion device 12 is a noisesource, generating acoustic energy, or noise, and producing a noise level.The acoustic resonators 18 attenuate the acoustic energy generated by theoperation of the fluid expansion device 12, thereby reducing the noise level produced by the device 12. In several exemplary embodiments, the attenuation of the acoustic energy by the resonators 18 reduces the risk of any structural failure due to vibrations and/or other types of dynamic and/orvibratory loading, within and/or relatively proximate the fluid expansion device 12 and/or the conduit sections 14 and 16. Moreover, the attenuation of acoustic energy by the resonators 18 reduces the risk that one or more of the fluid expansion device 12, the conduit section 14, and the conduit section 16 will become a noise nuisance during the operation of the fluid expansion device12.」

当審訳
段落【0037】
「具体的な実施例として、その作動中、流体膨張装置12は、騒音源であり、音響エネルギーまたは騒音を生成し、騒音レベルを作り出す。音響共振器18は、流体膨張デバイス12の動作によって生成される音響エネルギーを減衰させ、それによってデバイス12によって生成されるノイズレベルを低減する。いくつかの具体的実施例では、共振器18による音響エネルギーの減衰は、いくつかのリスクを低減する、それらは振動および/または他のタイプの動的負荷および/または振動負荷による、流体膨張装置12および/または導管セクション14および16内および/または比較的近接した構造的故障である。さらに、共振器18による音響エネルギーの減衰は、リスクを低減する、そのリスクとは、流体膨張装置12、導管セクション14、および導管セクション16のうちの1つまたは複数が、流体膨張装置12の作動中に発生するノイズである。」

(2)段落【0046】
「In an exemplary embodiment, during its operation, the steam turbine 24 is a noise source,generating acoustic energy, or noise, and producing a noise level. In several exemplary embodiments, acoustic energy is generated in response to one or moreof the following: the entrance of the steam into the steam turbine 24 from the conduit section 14; the flow of the steam over the respective leading edges 38c of the blades 38; the flow of the steam through the respective flow regions 50 defined between adjacent pairs of the stationary blades 38 of the stationary diaphragm 26; the flow of the steam over the respective trailing edges 38d of the blades 38; the impartation of angular momentum of the flowing steam tothe blades 30; the exit of the steam from the steam turbine 24 and its entrance into the conduit section 16; and/or any combination thereof. The groups of acoustic resonators 42a, 42b, 42c, 42d and 42e, and the groups of acoustic resonators 44a, 44b, 44c, 44d and 44e, attenuate the acoustic energy generated by the above-described operation of the steam turbine 24, thereby reducing the noise level produced by the turbine 24.」

当審訳
【0046】
「具体的な実施例として、その作動中、蒸気タービン24は、騒音源であり、音響エネルギーまたは騒音を生成し、騒音レベルを作り出す。いくつかの具体的な実施例では、音響エネルギーは、以下のうちの1つまたは複数に応答して生成される、導管セクション14から蒸気タービン24への蒸気の入口、静翼ブレード38のそれぞれの前縁38cにわたる蒸気の流れ、固定ダイアフラム26の静翼ブレード38の隣接する対の間に定められたそれぞれの流れ領域50を通る蒸気の流れ、静翼ブレード38のそれぞれの後縁38dにわたる蒸気の流れ、ブレード30への流れる蒸気の角運動量の付与、蒸気タービン24からの蒸気の出口および導管セクション16へのその入口、および/またはそれらの任意の組み合わせ。音響共振器のグループ42a、42b、42c、42dおよび42e、ならびに音響共振器のグループ44a、44b、44c、44dおよび44eは、蒸気タービン24の上述の動作によって生成される音響エネルギーを減衰させ、それにより、タービン24によって生成される騒音レベル低減させる。」


(3)段落【0047】
「In several exemplary embodiments, during the operation of the steam turbine 24, due at least in part to the above-described abutment between the inner ring 34 and the inner annular section 32 and thus the capping of the open ends of the respective cells 52 opposing the respective cells 54 by the inner annular section 32, and further due at least in part to the arrangement of the cells 52 and 54, the groups of acoustic resonators 44a, 44b, 44c, 44d and 44e operate as arrays of acoustic resonators working collectively on the respective principles of quarter-wave resonators, Helmholtz resonators, one or more other types of resonators, and/orany combination thereof. In an exemplary embodiment, each of the cells 52 behaves like a dead or nearly-dead volume to the flow through the steam turbine 24, but is at least partially transparent to acoustic energy or noise; as soundwaves oscillate through the corresponding cells 54, acoustic energy is transformed into vorticity and is dissipated. Similarly, due at least in part to the above-described abutment between the outer ring 36 and the outer annular section 40 and thus the capping of the open ends of the respective cells 46 opposing the respective cells 48 by the outer annular section 40, and further due at least in part to the arrangement of the cells 46 and 48, the groups of acoustic resonators 42a, 42b, 42c, 42d and 42e operate as arrays of acoustic resonators working collectively on the respective principles of quarter-wave resonators, Helmholtz resonators, one or more other types of resonators, and/orany combination thereof. In an exemplary embodiment, each of the cells 46 behaves like a dead or nearly-dead volume to the flow through the steam turbine 24, but is at least partially transparent to acoustic energy or noise; as soundwaves oscillate through the corresponding cells 48, acoustic energy is transformed into vorticity and is dissipated.」

当審訳
【0047】
「いくつかの具体的な実施例では、蒸気タービン24の動作中、少なくとも部分的には、内側リング34と内側環状セクション32との間の上述の境界部分、そして対向するそれぞれのセル52の開放端のキャッピングによる内側環状セクション32によるそれぞれのセル54、さらにセル52および54の配置に少なくとも部分的に起因して、音響共振器のグループ44a、44b、44c、44dおよび44eは、集合的に動作する音響共振器のアレイとして動作し、それらは1/4波長共振器、ヘルムホルツ共振器、1つ以上の他のタイプの共振器、および/またはそれらの任意の組み合わせの原理に基づいて動作する。具体的な実施例としては、セル52のそれぞれは、蒸気タービン24を通る流れのボリュームを、無くすか又はほぼ無くすようにし、音響エネルギーまたはノイズに対して少なくとも部分的に透過的である。音波が対応するセル54を介して振動すると、音響エネルギーは渦のようになされ、消散される。同様に、少なくとも部分的には、外側リング36と外側環状セクション40との間の上記の境界部、つまり、外側環状セクション40によるそれぞれのセル48に対向するそれぞれのセル46の開放端のキャッピングにより、さらに、少なくとも部分的にはセル46および48の配置に起因して、音響共振器のグループ42a、42b、42c、42dおよび42eは、1/4波長共振器、ヘルムホルツ共振器のそれぞれの集合として音響共振器のアレイとして動作する。具体的な実施例としては、セル46のそれぞれは、蒸気タービン24を通る流れのボリュームを、無くすか又はほぼ無くすようにし、音響エネルギーまたはノイズに対して少なくとも部分的に透過的である。音波がセル48を介して振動するとき、音響エネルギーは渦に変換され、消散される。」

上記記載事項から引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明2]
「蒸気タービン(24)の音響エネルギーを、ヘルムホルツ共振器として構成された音響共振器(44a,b,c,d)により低減させること。」

3.引用文献3(特開平4-308301号公報)について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)【0002】
「【従来の技術】蒸気タービンを低流量、低真空で運転すると、主として最終段動翼が振動のために切損することがある。この原因は未だ明確には解明されていない。
【0003】
「従来の翼振動対策としては、翼の固有振動数を回転振動数の2次、3次、4次の高次振動数からはなすことによって共振をさける方法が採られていた。すなわち、シュラウドやレーシングワイヤによって各翼を連結して剛性を高め、数枚の翼を翼群として一つの振動系を形成させたり、シュラウドやレーシングワイヤは取付けず1枚1枚の翼を独立させて、それぞれ共振しないように調律したりしていた。また、フラッタに代表される自励振動に対しては、翼の剛性を高めたり、蒸気入口角度と翼入口角度とのマッチングを良くすることによって対処していた。」

上記記載事項及び図2Bの図示内容からみて、引用文献3には次の技術事項(以下、「引用文献3技術事項1」及び「引用文献3技術事項2」という。)が記載されていると認められる。


[引用文献3技術事項1]
「蒸気タービンを多段式の蒸気タービンとすること。」

[引用文献3技術事項2]
「蒸気タービンにおいて、大気圧以下の排気圧で運転すること。」


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1における「ロータ」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明1の「ロータ(8)」に相当し、以下同様に、「ロータに取り付けられる部分」は「翼根部(13)」に、「羽根先端部」は「先端部(22)」に、「回転羽根(21)」は「動翼(12)」に、「ケーシング壁」は「外環(14)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「貫通孔内に嵌合された外側の閉じた管(15)」は、その内部に空間があることから、本願発明1における「共振チャンバ(26)」とは、「チャンバ」という限りにおいて一致しており、同様に、「軸流形タービン」と「蒸気タービン」とは、「タービン」という限りにおいて一致している。
したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「タービンであって、
ロータと、
該ロータに取り付けられた翼根部から先端まで半径方向に延在する、周方向に配分された回転する動翼の列と
前記動翼の列を周方向に取り囲む外環と、
チャンバと、を備え、
前記チャンバは、外環に面した動翼の翼根部の半径方向突出部により画成された前記外環の領域に開口を有しているタービン。」

[相違点1]
「タービン」に関して、本願発明1においては「蒸気タービン」であるのに対して、引用発明1では軸流形タービンであるが、蒸気タービンか否かが不明である点。

[相違点2]
本願発明1の共振チャンバが、2.5?6エンジンオーダの周波数用に構成されているのに対して、引用発明1は不明である点

[相違点3]
チャンバの構成について、本願発明1は「多孔内壁を備える共振チャンバを有するヘルムホルツ共振器」として構成されているのに対して、引用発明1は不明である点

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点1についての判断の前に相違点2,相違点3の判断を行う。

[相違点2について]
引用文献1の【0016】には「全周にわたって分配されたキャビティの1つ又は若干或いはすべてのキャビティにガス状媒体を吹き付けることが可能である。軸流形タービンにおける相応の実験の結果、この手段の優れた機能が実証された。実験に供せられた被験機械では特定のロータ回転数において共振が確認され、該共振はロータ回転数の5倍の振動数で励振された。その結果、3つの孔を通して圧縮空気が吹き込まれた。吹き込まれる空気流は、回転羽根が回転数の5倍の振動数で励振された場合、該回転羽根の第1固有振動数の振幅が当初の値の30%に、つまり許容可能な値に、減じるまで高められた。」と記載されており、共振がロータの回転数の5倍の振動数で励振された場合において、キャビティの効果により第1固有振動数の振幅が減じられる、つまり振動が減じられることが示されている。しかしながら、この記載は、共振がロータ回転数の5倍の振動数で励起された場合において、キャビティにガス状媒体を吹き付けることにより、ロータの振動を減じている効果を示しているものであって、キャビティを2.5?6エンジンオーダの周波数の共振チャンバとして構成するものとはいえず、また、そのようにする動機付けがあるともいえない。

したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に成し得たものではない。

[相違点3について]
引用発明1と引用発明2は、タービンという技術分野は一致しているがそれぞれの作用・機能については以下に示すように異なるものである。
引用文献2の記載事項(上記第5 2.(2)を参照。)から、引用発明2おいては、静翼ブレード38上及び静翼ブレード間に流れる蒸気の流れによって生じた音響エネルギーを減衰させて、タービンによって発生する騒音レベルを低減させることが音響共振器の作用・機能であるのに対して、引用発明1においては、回転羽根の先端部に付加励振を与えることで、その回転によって生じる振動を減少させることが「貫通孔内に嵌合された外側の閉じた管(15)」の作用・機能であり(引用文献1の段落【0006】及び【0020】を参照。)、両者は異なっていることがわかる。
よって、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはなく、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到できたものではない。

引用文献3技術事項1及び2は、上記第5 3.で述べたとおりであり、上記相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。

前置報告書において引用された引用文献4(特開2003-43861号公報)及び引用文献5(特開平5-232967号公報)は、ヘルムホルツ共振器において、多孔内壁を備えるように構成することの周知例として示されたものであって、上記相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。

以上のように、上記相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項については引用発明1、引用発明2、引用文献3技術事項1及び2並びに引用文献4及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に成し得たものではないので、上記相違点1については検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

2.本願発明2ないし6について
本願請求項2ないし6の記載は、本願請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく、直接又は間接的に引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし6は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本願発明2ないし6は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用文献1ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-07-01 
出願番号 特願2015-60730(P2015-60730)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 金田 直之  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
谷治 和文
発明の名称 共振チャンバを備える蒸気タービン  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ