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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P |
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管理番号 | 1363639 |
審判番号 | 不服2018-108 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-05 |
確定日 | 2020-06-24 |
事件の表示 | 特願2015-207367「エイコサペンタエン酸生成微生物、脂肪酸組成物、ならびにそれらを作る方法およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日出願公開、特開2016- 52311〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成22年3月22日(優先権主張 平成22年1月19日 米国)を国際出願日とする特願2012-549979号の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて平成27年10月21日に分割出願したものであり、平成29年8月29日付けで拒絶査定がなされ、平成30年1月5日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに手続補正書が提出され、同年11月6日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成31年4月11日に意見書及び手続補正書が提出され、令和1年5月16日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年11月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1?10に係る発明は、令和1年11月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 35?98重量%のトリアシルグリセロール画分を含む微生物油であって、 トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸の12?55重量%がエイコサペンタエン酸であり、 トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸の20?60重量%がドコサヘキサエン酸であり、かつ トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸の0重量%超5重量%未満がアラキドン酸であり、 単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株または単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株から直接得られる微生物油。」 第2 当審拒絶理由 令和1年5月16日付けの当審が通知した拒絶理由は、この出願は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、及び、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。 第3 当審の判断 1.請求項1に係る発明の解決しようとする課題 請求項1に係る発明の解決しようとする課題は、「単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株または単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株」なる微生物から直接得られる、脂肪酸について下記の特定(脂肪酸プロファイル)を有する微生物油の提供であると認められる。 ここで、「単一の特定の」との記載は、具体的な特定とはいえないから、請求項1に記載される「単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株」の用語はヤブレツボカビ属に分類される何らかの単一微生物株を意味し、また、「単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株」の用語はシゾキトリウム属に分類される何らかの単一微生物株を意味すると解される。 (脂肪酸プロファイル) 35?98重量%のトリアシルグリセロール画分を含み、 トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸の12?55重量%がエイコサペンタエン酸であり、 トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸の20?60重量%がドコサヘキサエン酸であり、かつ トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸の0重量%超5重量%未満がアラキドン酸である 2.判断 上記1.のとおり、請求項1に記載される「単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株」の用語はヤブレツボカビ属に分類される何らかの単一微生物株を意味し、また、「単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株」の用語はシゾキトリウム属に分類される何らかの単一微生物株を意味すると解するのが相当であり、「単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株または単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株」と記載しても、具体的な微生物株を特定したことにはならない。 ここで、本願明細書の背景技術および発明の概要の記載(段落【0002?【0036】)から、魚油等が含むEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)のようなω-3脂肪酸は生体に有用な脂肪酸であるところ、ヤブレツボカビ属およびシゾキトリウム属の微生物から生成された微生物油はω-3脂肪酸を含むことが知られているが、これらの微生物油には望ましくないレベルのω-6脂肪酸を含むものがあること、これらの微生物油の脂肪酸プロファイルにはばらつきがあることなどが理解される。そして、本願では、ATCC PTA-10212株及びATCC PTA-10208株といった特定の微生物株がEPA及びDHAを豊富に含み、ω-6脂肪酸であるアラキドン酸含有量が低レベルに抑えられた所望の脂肪酸プロファイルの微生物油を産生することを見出したことが認められる。 そこで、本願明細書における、所望の脂肪酸プロファイルを有する微生物油に関する記載について検討する。 本願明細書の実施例に「抽出粗脂質」、「粗脂質」、「粗油」などとして示されているものが本願発明にいう「微生物株から直接得られる微生物油」に該当すると認められる。そして、実施例の記載からみて、実施例に示された微生物株はいずれも「35?98重量%のトリアシルグリセロール画分を含む」の要件を満足していると認められること、また、表5(粗脂質)と表6(単離TAG)のデータの比較、及び表8?13の[粗油]と[TAG]のデータの比較から、トリアシルグリセロール画分中の脂肪酸プロファイルと微生物油全体の脂肪酸プロファイルが大きく異なるとはいえないことを考慮すると、実施例に示された表6、9、11、13、31、32の記載からみて、本願明細書には、シゾキトリウム属ATCC PTA-10208株、ヤブレツカビ属ATCCPTA-10212株、およびヤブレツカビ属ATCC PTA-10212株の変異体株(PTA-10213株、PTA-10214株)という特定の微生物株から直接得られた微生物油は、請求項1に特定される脂肪酸プロファイルを有することが記載されていると認められる。 しかし、本願明細書には、該脂肪酸プロファイルを満足する微生物油を産生する微生物株として、上記特定の微生物株以外のものが記載されているとは認められない。そして、本願明細書の段落【0006】の記載からみて、上記特定の微生物株は、ヤブレツカビ属およびシゾキトリウム属に分類される広範な微生物のごく一部でしかない認められる。 ここで、同じ属どころか同じ種の微生物であっても、それぞれの微生物が産生する物質は必ずしも同じにはならないことが技術常識であるから、本願明細書の記載から、シゾキトリウム属ATCC PTA-10208株、ヤブレツカビ属ATCC PTA-10212株、およびヤブレツカビ属ATCC PTA-10212株の変異体株(PTA-10213株、PTA-10214株)という特定の微生物株以外の任意のヤブレツボカビ属の微生物株やシゾキトリウム属の微生物株が、上記特定の微生物株と同様の脂肪酸プロファイルを有する微生物油を産生することを本願明細書の記載から合理的に理解できるとはいえない。 このことは、本願明細書の表31、表32に、変異前の株と変異後の変異株とで脂肪酸プロファイルが変化していること、および、審判請求人の平成30年3月28日付け上申書における「・・・ヤブレツボカビ属又はシゾキトリウム属の微生物が、いかなる多価不飽和脂肪酸(PUFA)組成の油も製造でき、請求項1に記載された組成の油(以下、「本願微生物油」ともいう)をもたらすと仮定するのは誤りである。微生物株はデリケートなシステムであり、微生物株自身の生理的な状態により限定されるものであることは、生物学における技術常識である。したがって、ヤブレツボカビ属又はシゾキトリウム属の微生物株が、高いEPA及びDHA含有率(%)のPUFA組成の油を製造できるかは、そのような株が発見されるまでは完全に不明である。実際に、本技術分野における研究者は、過去20年間、高いEPA及びDHA含有率の油を製造可能なヤブレツボカビ属又はシゾキトリウム属の微生物株を得るために懸命に努力してきたが、本願の発明者らが、特許請求の範囲に記載された、高いEPA及びDHA含有率の微生物油、特にトリアシルグリセロール形態のEPA及びDHAを高い含有率で含む微生物油を近年得るまでは、あまり成功はしていなかった。」との主張とも整合する。 したがって、請求項1に特定される脂肪酸プロファイルを満足する微生物油を産生できるものとして、本願明細書に具体的に記載された上記特定の株以外の、ヤブレツボカビ属またはシゾキトリウム属に分類される何らかの微生物株まで広く包含する請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているといえる。 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 また、上記のような本願明細書の記載から、請求項1に特定される脂肪酸プロファイルを満足する微生物油を産生する微生物株として、上記特定の株以外のヤブレツボカビ属またはシゾキトリウム属に分類される何らかの微生物株を当業者が容易に取得できるとはいえないから、この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 3.審判請求人の主張について 審判請求人は、令和1年11月19日の意見書において、概ね次の点を主張している。 請求項1における「単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株または単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株から直接得られる」との限定は、請求項1に記載された組成の微生物油をさらに特定の由来に限定するものである。本願発明1は、請求項1の脂肪酸プロファイルを有する「特定」のヤブレツボカビ属の微生物株及びシゾキトリウム属の微生物株の小さい集合からの油を意味する。 本願明細書には請求項1の脂肪酸プロファイルが開示され、実施例において本願発明1の微生物油を得られる具体的な株が開示されているから、請求項1の脂肪酸プロファイルを有する株を見つける手がかりとすることができる。 当業者は本願明細書0146段落に記載されているような、ルーチンである簡単なFAME試験により、ヤブレツボカビ属の微生物株又はシゾキトリウム属の微生物株が請求項1の脂肪酸プロファイルを有するか否か判断することができ、当業者が本願発明1の微生物油を得られるヤブレツボカビ属の微生物株又はシゾキトリウム属の微生物株を見つけることは、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要求するものではない。 そこで、以下検討する。 上記1.で述べたとおり、請求項1に記載される「単一の特定のヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の微生物株」の用語はヤブレツボカビ属に分類される何らかの単一微生物株を意味し、また、「単一の特定のシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物株」の用語はシゾキトリウム属に分類される何らかの単一微生物株を意味すると解するのが相当であり、請求項1の「単一の特定」の記載は具体的な微生物株を特定するものではない。 そして、本願明細書には、シゾキトリウム属ATCC PTA-10208株、ヤブレツカビ属ATCC PTA-10212株、およびヤブレツカビ属ATCCPTA-10212株の変異体株(PTA-10213株、PTA-10214株)という特定の株が請求項1に記載の脂肪酸プロファイルを満足する微生物油を産生したことは記載されているが、これら特定の株以外の何らかの具体的な微生物株が該脂肪酸プロファイルを満足する微生物油を産生したことは記載されていない。 本願明細書に記載された試験方法などを用いることで、ヤブレツボカビ属やシゾキトリウム属の微生物株が産生する微生物油の脂肪酸プロファイルについて分析すること自体は当業者が行えるとしても、請求項1に特定される脂肪酸プロファイルを有する微生物油を産生できる微生物株はヤブレツカビ属およびシゾキトリウム属に分類される微生物のごく一部であると認められることに照らせば、ヤブレツボカビ属やシゾキトリウム属の微生物株を培養して微生物油を産生させ、産生されたそれぞれの微生物油の分析を行い、実際に該脂肪酸プロファイルを満足する微生物油を産生できる微生物株、本願発明にいう「単一の特定」の微生物株を捜し出すためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要するものといえる。 第4 むすび 以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、この出願の請求項1に係る発明は同法同条第6項第1号の規定する要件を満たしていないから、この出願の請求項1に係る発明は特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-01-24 |
結審通知日 | 2020-01-28 |
審決日 | 2020-02-10 |
出願番号 | 特願2015-207367(P2015-207367) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C12P)
P 1 8・ 537- WZ (C12P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 敬司 |
特許庁審判長 |
長井 啓子 |
特許庁審判官 |
松岡 徹 中島 庸子 |
発明の名称 | エイコサペンタエン酸生成微生物、脂肪酸組成物、ならびにそれらを作る方法およびそれらの使用 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 野田 雅一 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 酒巻 順一郎 |
代理人 | 清水 義憲 |