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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B41J
管理番号 1363813
審判番号 不服2019-6407  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-16 
確定日 2020-07-21 
事件の表示 特願2014-173836「ラベル発行装置及びラベル発行方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日出願公開、特開2016- 47638、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月28日にされた出願であって、平成30年5月31日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年2月5日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和1年5月16日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において令和2年2月3日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和2年3月26日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
発行予定のラベルの識別情報に関連する印字データを複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体の先頭に位置するラベルに印字するラベル発行装置であって、
各識別情報に関連づけられた前記印字データとは別に用意される前記発行予定のラベルの識別情報が列挙されたリストから前記発行予定のラベルの識別情報を取得し、
前記先頭に位置するラベルを印字部の下流に配置されるスキャナの読み取り位置まで移送し、
前記先頭に位置するラベルの識別部に格納されている識別情報を前記スキャナによって読み取り、
読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合に、前記先頭に位置するラベルを前記印字部まで逆移送して前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報に関連づけられた前記印字データを前記先頭に位置するラベルに前記印字部によって印字し、
読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致していない場合に、前記先頭に位置するラベルに前記印字部によって印字しない、
ラベル発行装置。
【請求項2】
請求項1に記載のラベル発行装置であって、
前記ラベル連続体は複数あり、
複数の前記ラベル連続体の各々に対応して設けられる前記印字部、前記スキャナ及び前記先頭に位置するラベルを移送する手段の複数の組の各々によって前記印字が行われ、
前記印字は、複数の前記ラベル連続体の各々の先頭に位置するラベルの識別部から読み取られた識別情報が互いに一致、かつ、前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合に行われる、
ラベル発行装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラベル発行装置であって、
前記印字が完了すると、前記先頭に位置するラベルと次に位置するラベルとの境界部をカッタの位置まで移動させ、前記カッタによって前記先頭に位置するラベルを切断、分離する、
ラベル発行装置。
【請求項4】
発行予定のラベルの識別情報に関連する印字データを複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体の先頭に位置するラベルに印字するラベル発行方法であって、
各識別情報に関連づけられた前記印字データとは別に用意される前記発行予定のラベルの識別情報が列挙されたリストから前記発行予定のラベルの識別情報を取得し、
前記先頭に位置するラベルを印字部の下流に配置されるスキャナの読み取り位置まで移送し、
前記先頭に位置するラベルの識別部に格納されている識別情報を前記スキャナによって読み取り、
読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合に、前記先頭に位置するラベルを前記印字部まで逆移送して前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報に関連づけられた前記印字データを前記先頭に位置するラベルに前記印字部によって印字し、
読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致していない場合に、前記先頭に位置するラベルに前記印字部によって印字しない、
ラベル発行方法。
【請求項5】
請求項4に記載のラベル発行方法であって、
前記ラベル連続体は複数あり、
複数の前記ラベル連続体の各々に対応して設けられる前記印字部、前記スキャナ及び前記先頭に位置するラベルを移送する手段の複数の組の各々によって前記印字が行われ、
前記印字は、複数の前記ラベル連続体の各々の先頭に位置するラベルの識別部から読み取られた識別情報が互いに一致、かつ、前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合に行われる、
ラベル発行方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のラベル発行方法であって、
前記印字が完了すると、前記先頭に位置するラベルと次に位置するラベルとの境界部をカッタの位置まで移動させ、前記カッタによって前記先頭に位置するラベルを切断、分離する、
ラベル発行方法。」

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平5-42753号公報)には、次の事項が記載されている。
ア.「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,印刷ヘッドと印刷されるべきラベルを該印刷ヘッドを通過して移動させるための搬送手段とを含むラベルプリンタであって,ここで商品番号および付属の価格データがその中に記憶されている記憶装置が該プリンタに付属しているところのラベルプリンタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】たとえばエセルテ・メト・インターナショナル(Esselte Meto International)社によってMETO8100という名前で製造および販売されているようなこの種類のプリンタを用いて,百貨店の商品に付属しているラベルに印刷ができる。このプリンタはラベル上に価格を印刷するだけでなくその商品に付属する商品番号もまたその上にプリントされる。商品番号は記号またはバーコードの形のいずれで印刷されていてもよいが,唯一の重要な点は印刷が読取装置で読み取り可能であるということである。商品番号はレジにおいて読取装置で読み取り可能でありまた金銭登録機上には前記商品番号に付属の価格が表示されそれにもとづいて支払いも可能である。
【0003】百貨店では特定の商品に割り付けられた価格が変更されることが定期的に起こる。この場合は特に特売セールのときに起こる。このような価格変更をするためには,商品についているラベルに対して個々に新しい価格の数値を記入することが必要である。原則としてこの変更は手で行われ,古い価格が消されて新しい価格がラベルに書き込まれる。基本的には新しいラベルに新しい価格を印刷することが可能であるが,お客にとっては商品の価格が割り引きされていることが確認できるほうが好ましい場合がある。数字を手で書きかえることはかなりの時間を要する;さらに手で変更する場合新しい価格が対応ラベル上に常に正しく書き込まれるとは保証できないので間違いの可能性もある。しかしながら,実は他の商品に取り付けるべきラベルに価格が書き込まれしたがってその商品に対しあまりにも安すぎる価格が場合によりつけられるようになるということは絶対に避けるべきである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の基礎となる課題は,それを用いてラベルに記載の価格データが間違いなく極めて確実にかつオプションとして利用可能な種々の方法で修正可能であるところのプリンタを提供することである。」

イ.「【0010】
【実施例】図に示されているプリンタ10はハウジング12を含み,該ハウジング12は単に輪郭だけが示されかつその中にプリンタ電子部品およびプリンタ機構16が設けられている。新しいラベルを印刷するのにプリンタ10が使用されるとき,該プリンタ10は通常連続的に配置されたラベルからなるテープを含み,該テープは搬送手段18により印刷ヘッド20を通過して移動されこれにより製品データおよび価格データが印刷される。ラベルに印刷されるデータはプリンタ電子部品14内に含まれている記憶装置22からくる。前記記憶装置への入力はプリンタ10上の図示されていないキーボードを介してまたは接続ソケット24を介して行うことができ,プリンタ10は該接続ソケットを介して必要な印刷情報を供給する中央コンピュータに接続することができる。
【0011】図に示すプリンタ10は,それによって該プリンタが既に印刷されたラベル上に新しい価格データを印刷することができるところの特殊な装置を含む。この目的のためにプリンタ10は2枚の案内メタル板26,28の形を有するラベル受入手段を含む。ハウジング12の側壁内にスロットが形成され,該スロットは2枚の案内板26,28の間の隙間に対応しているので既に印刷されたラベルを2枚の案内板26,28の間に横から挿入することができる。隙間の中へラベルは図の左方向へ押されると,ラベルはついに搬送手段18と接触するに至る。前記搬送手段は加圧ローラ30からなり,該加圧ローラ30はモータによって該加圧ローラが最初は図の反時計方向に回転するように駆動される。
【0012】加圧ローラ30がそこに供給されるラベルと係合したとき,該加圧ローラはラベルを印刷ヘッド20に圧着し,これによりラベルを図の左の方向へ搬送する。ラベルは,該ラベルがプリンタ10の上側に装着されている読取装置32の領域に到達するまで搬送される。図ではこの位置に搬送されたラベル33が示されている。読取装置はたとえば,ラベル上に印刷されている商品番号を読むためにますます使用されるようになってきたいわゆるスキャナ式金銭登録機において使用されるような読取ペンであってもよい。スキャナ式金銭登録機におけるこの読取操作においては,商品番号に付属の価格が読み取られた商品番号にもとづいて中央記憶装置から呼び出されかつ金銭登録機に表示される。このようにして,従来よく行われているように販売価格を手で打ち込むことは必要なくなる。
【0013】この読取装置32は,前記ラベル33が搬送手段18から読取領域に移動すると直ちに既に印刷されているラベル33上にある製品番号を読み取ることができる。読取装置32は図示されていないコネクションを介してプリンタ電子部品14に接続されるかおよび/または接続ソケット24を介して中央コンピュータに接続される。
【0014】商品番号がうまく読み取られると直ちにプリンタ電子部品14によって制御信号が発生され,該制御信号によって搬送手段18は印刷ヘッド20がラベル33上に新しい価格データを印刷可能な位置までラベルを再び図の右へ移動する。新しい価格データは記憶装置22から取ることができ,このときこの価格データをアドレスするために読み取られた製品番号が使用される。しかしながら,プリンタ電子部品14の構造によっては価格データは接続ソケット24を介して中央コンピュータから直接取ることもできる。プリンタ操作ののち,次にラベル33は再びラベル引き渡し位置まで左に搬送され,この引き渡し位置においてオペレータはラベルをプリンタから取り出すことができる。
【0015】上記の説明は,前述のプリンタを用いて極めて簡単に,製品および価格データが印刷されてあるラベルに対して新しい価格データをプリントさせることが可能であることを示す。すべてのラベルには新しい価格データが割り当てられているところの製品番号が記入されているので,修正されるべきラベルはいかなる順序でラベル受入手段に挿入してもよく,したがって操作が極めて簡単になる。前述のように読取装置32を設けかつ製品番号を読み取ることにより正しい新価格データがラベル上に常に確実に印刷されるので,同じ新価格データが記入されるべきラベルをまず最初すべて挿入しその後は他の新しい価格データを有するラベルだけが挿入されるというように注意を払う必要はない。
【0016】図において読取装置は印刷ヘッド20の左側に配置されているが,これは搬送手段18がまずラベルを読取装置32の領域に搬送しその後にラベル33が印刷位置に戻されかつ最後にラベル取り出し位置に前進されなければならないことを意味する。したがってこの読取装置32の配置は,加圧ローラを駆動する図示されてないモータの逆転を必要とする。読取装置を印刷ヘッド20の手前の領域に装着し,これにより製品番号の読み取りが,ラベルが加圧ローラと係合して図の左のほうへ搬送された直後に行われるようにすることもまた容易に可能である。この場合加圧ローラ30は常に同じ方向に回転可能であり,印刷操作を読取操作のすぐあとで行わせることができる。
【0017】製品番号は異なるラベル上で異なる点に印刷されてあってもよいので,読取装置がプリンタ10の上側でその読取チップ32aのラベルに対する位置が変更可能なように配置されていることが有利である。たとえば図の実施態様においては,読取装置が略図で示されたホルダ34内で前後に移動可能なようにすることによってこのことが可能である。
【0018】したがって上記のプリンタは極めて簡単な方法で既に印刷されているラベル上に価格データの確実でかつエラーのない自動変更を可能にする。」

ウ.【0011】及び【0012】の記載を踏まえて図1を参照すると、図1からは、プリンタ機構16が、印刷ヘッド20と、加圧ローラ30を含む搬送手段18とを含むことが看て取れる。また、図1は以下のとおりのものである。


エ.【0011】ないし【0018】の記載を踏まえて図1を参照すると、図1からは、2枚の案内メタル板26、28、加圧ローラ30を含む搬送手段18及び印刷ヘッド20、読取装置32の読取チップ32aが、順に、プリンタ10のハウジング12の内側から外側に向かって、図の上では右から左に向かって、並んで配置されていることが看て取れる。このことと、2枚の案内メタル板がラベル受け入れ手段であること(【0011】)を踏まえれば、図1において、図の右から左に向かう向きが、既に印刷されたラベルの搬送路において、ハウジング12の内側から外側に向かう向きであり、【0011】、【0012】及び【0014】における、「図の左方向」、「図の左の方向」及び「『左に搬送され』との記載における「左」」が、いずれも、既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の外側に向かう向きに該当し、【0014】における、「図の右」が、既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の内側に向かう向きに該当するといえる。

オ.【0014】の「商品番号が上手く読み取られると・・・」との記載における「商品番号」との用語は、その記載より前の「この読取装置32は,・・・製品番号を読み取ることができる」(【0013】)及びその記載より後の「・・・読み取られた製品番号が使用される。・・・」(【0014】)において、読み取られる対象が「製品番号」とされていることを踏まえれば、「製品番号」との意味で用いられていることが明らかである。

(2)上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ハウジング12を含み、
印刷ヘッド20と、搬送手段18とを含むプリンタ機構16と、
記憶装置22を含むプリンタ電子部品14が設けられ、
2枚の案内メタル板26、28の形を有するラベル受入手段を含み、
読取装置32が読取装置32の読取チップ32aのラベルに対する位置が変更可能なように配置され、
2枚の案内メタル板26、28、加圧ローラ30を含む搬送手段18及び印刷ヘッド20、読取装置32の読取チップ32aが、順に、ハウジング12の内側から外側に向かって並んで配置された、
既に印刷されたラベル上に新しい価格データを印刷する、
プリンタ10であって、
前記既に印刷されたラベルを2枚の案内板26、28の間に横から挿入することができ、前記既に印刷されたラベルは、前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の外側に向かう向きに押されると、搬送手段18と接触するに至り、
搬送手段18は、そこに供給される前記既に印刷されたラベルと係合したとき、前記既に印刷されたラベルを印刷ヘッド20に圧着し、これにより前記既に印刷されたラベルを、前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の外側に向かう向きへ、読取装置32の領域に到達するまで搬送し、
読取装置32は、前記既に印刷されたラベルが搬送手段18から読取領域に移動すると直ちに前記既に印刷されたラベル上にある製品番号を読み取ることができ、
製品番号がうまく読み取られると直ちにプリンタ電子部品14によって制御信号が発生され,該制御信号によって搬送手段18は印刷ヘッド20が前記既に印刷されたラベル上に前記新しい価格データを印刷可能な位置まで、前記既に印刷されたラベルを、前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の内側に向かう向きへ移動させ、
前記製品番号に割り当てられているところの前記新しい価格データは記憶装置22から取ることができ,このときこの価格データをアドレスするために読み取られた製品番号が使用され、
プリンタ操作ののち、次に前記既に印刷されたラベルは再びラベル引き渡し位置まで、既に印刷されたラベルの搬送路において、ハウジング12の内側から外側に向かう向きに搬送され,この引き渡し位置においてオペレータはラベルをプリンタから取り出すことができる、
プリンタ10。」

2.引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特開2009-96111号公報)には、次の事項が記載されている(改行を省略した箇所がある。)。
ア.「【0023】・・・図1は、表示用ラベル印字システム10の概略側面図であって、表示用ラベル印字システム10は、プリンター11と、制御部13と、表示部14と、入力部15と、を有する。プリンター11は、表示用ラベル12の供給部16と、コード読取り部17と、位置検出部18と、印字部19と、切断部20と、を有する。
【0024】表示用ラベル12は、その基本的な構造は、前記表示用ラベル1(図6)と同じであって、台紙2の表面に複数枚のラベル片3を仮着したものであるが、その裏面にラベル種管理コード21をあらかじめ印刷してある。・・・」

イ.「【0027】供給部16は、帯状の表示用ラベル12をロール状に、ただし、台紙2の裏面側のバーコードによるラベル種管理コード21がコード読取り部17に対向可能に保持して、位置検出部18、印字部19方向に帯状に繰り出し可能とする。」

ウ.「【0029】印字部19は、サーマルヘッド25およびプラテンローラー26を有し、サーマルヘッド25に特定情報7および文字ないし図形8(図7)の印字データを供給して、プラテンローラー26の回転駆動による表示用ラベル12の移送とともに、表示用ラベル12のラベル片3上に印字を行う。
【0030】切断部20は、表示用ラベル12を所定ピッチで切断して、単葉の表示用ラベル12(ラベル片3)とする。なお、必要ならば、印字部19の下流側にラベル剥離部(図示せず)を設けて、台紙2からラベル片3を剥離可能とすることもできる。」

エ.【0024】の記載を踏まえて図6を参照すると、図6からは、表示用ラベル12が、複数枚のラベル片3を連ねて構成されたものである点が看て取れる。また、図6は以下のとおりのものである。



オ.引用文献2には、供給部16が表示用ラベル12を印字部19に向けて繰り出すことが記載され(【0027】)、表示用ラベル12を逆向き(印字部19から供給部16に向かう向き)に搬送することは記載されていないことを踏まえると、印字部19が、印字データを、表示用ラベル12の先頭に位置するラベル片3に印字することは、引用文献2に記載されているに等しい。

(2)上記(1)より、引用文献2には、「印字データを、複数枚のラベル片3を連ねて構成されたものである表示用ラベル12の先頭に位置するラベル片3に印字するプリンター11」との技術的事項が記載されているものと認められる。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明の対比
ア.引用発明の、「製品番号」、「新しい価格データ」、「プリンタ10」、「印刷ヘッド20」、「読取装置32」及び「読取領域」は、それぞれ、本願発明1の「識別情報」、「印字データ」、「ラベル発行装置」、「印字部」、「スキャナ」及び「読み取り位置」に相当する。

イ.引用発明の「新しい価格データ」は、「製品番号」に「割り当てられているところ」のものであるから、「製品番号」に関連するものといえるため、本願発明1の「識別情報に関連する印字データ」に相当する。また、引用発明の「既に印刷されたラベル」は、本願発明1の「複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体の先頭に位置するラベル」と「ラベル」である点において一致する。そして、引用発明は、「既に印刷されたラベル上に新しい価格データを印刷する」ものであるから、「識別情報に関連する印字データをラベルに印字する」ものである点で、本願発明1と一致する。

ウ.引用発明では、「2枚の案内メタル板26、28、加圧ローラ30を含む搬送手段18及び印刷ヘッド20、読取装置32の読取チップ32a」のうち、ハウジング12の最も内側にある「2枚の案内板26、28」が、「前記既に印刷されたラベルを2枚の案内板26、28の間に横から挿入することができ」るもの、すなわち、2枚の案内板26、28がラベルの供給元であり、「2枚の案内板26、28」からみて「前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の外側に向かう向き」が、ラベルが供給元から排出先に向かって搬送される向きにあたるため、引用発明の「読取装置32」は、「印刷ヘッド20」の下流側に配置されており、本願発明1の「印字部の下流に配置されるスキャナ」に相当する。
そして、引用発明は、「既に印刷されたラベル」を「読取装置32の領域に到達するまで搬送」するものであるため、「ラベルを印字部の下流に配置されるスキャナの読み取り位置まで移送」するものである点で、本願発明1と一致する。

エ.引用発明の「新しい価格データ」は、「製品番号」に「割り当てられているところ」のものであるから、「製品番号」に関連づけられたものといえるため、本願発明1の「識別情報に関連づけられた前記印字データ」に相当する。

オ.引用発明の「読取装置32」が読み取る「製品番号」は、「既に印刷されたラベル上」にあるところ、その「『製品番号』がある『既に印刷されたラベル』上の領域」は、「製品番号」を格納しているといえるから、本願発明1の「ラベルの識別部」に相当する。よって、引用発明は、本願発明1と、「ラベルの識別部に格納されている識別情報を前記スキャナによって読み取」るものである点で一致する。

カ.引用発明は、「前記既に印刷されたラベル」を、「印刷ヘッド20が前記既に印刷されたラベル上に前記新しい価格データを印刷可能な位置」まで「前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の内側に向かう向きへ移動させ」るものであるところ、上記ウ.において検討したとおり「前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の外側に向かう向き」が、ラベルが供給元から排出先に向かって搬送される向きにあたるため、「前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の内側に向かう向き」は、ラベルが排出先から供給元に向かって搬送される向きである。よって、引用発明は、本願発明1の「ラベルを前記印字部まで逆移送して」との動作をしている。

キ.引用発明において、「既に印刷されたラベル」に印刷される「新しい価格データ」は、読取装置32により「読み取られた製品番号を使用」して「記憶装置22から取ることができ」るものであるから、「新しい価格データ」の印刷は、読取装置32による製品番号を読み取ってから、行われることになる。
したがって、「読取装置32」によって「製品番号がうまく読み取られると直ちに」発生される「制御信号」によって、「前記既に印刷されたラベル」を、「前記既に印刷されたラベルの搬送路におけるハウジング12の内側に向かう向きへ」「印刷ヘッド20が前記既に印刷されたラベル上に前記新しい価格データを印刷可能な位置まで」移動させる引用発明における「印刷ヘッド20が前記既に印刷されたラベル上に前記新しい価格データを印刷可能な位置」において、「新しい価格データ」が「既に印刷されたラベル」に「印刷ヘッド20」によって印刷されることは、自明な事項である。したがって、引用発明は、「ラベルを前記印字部まで逆移送して」「識別情報に関連づけられた前記印字データを」「ラベルに前記印字部によって印字」するものである点で、本願発明1と一致する。

したがって、本願発明1と引用発明は、次の一致点で一致し、次の相違点1ないし4で相違する。

<一致点>
「識別情報に関連する印字データをラベルに印字するラベル発行装置であって、
ラベルを印字部の下流に配置されるスキャナの読み取り位置まで移送し、
ラベルの識別部に格納されている識別情報を前記スキャナによって読み取り、
ラベルを前記印字部まで逆移送して識別情報に関連づけられた前記印字データをラベルに前記印字部によって印字する、
ラベル発行装置。」

<相違点1>
本願発明1は、「発行予定のラベルの識別情報に関連する印字データを複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体の先頭に位置するラベルに印字する」ものであるのに対し、引用発明は、既に印刷されたラベル上にある製品番号に関連する新しい価格データを、当該ラベルに印刷するものである点。

<相違点2>
本願発明1が、「各識別情報に関連づけられた前記印字データとは別に用意される前記発行予定のラベルの識別情報が列挙されたリストから前記発行予定のラベルの識別情報を取得」するものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであることが特定されない点。

<相違点3>
本願発明1が、ラベルを印字部まで逆移送してラベルの識別情報に関連づけられた印字データをラベルに印字部によって印字する動作を、「読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合」に行うのに対し、引用発明は、当該動作をどのような場合に行うかという点について特定しない点。

<相違点4>
本願発明1が、「読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致していない場合に、前記先頭に位置するラベルに前記印字部によって印字しない」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであることが特定されない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点1について判断する。
ア.本願発明1の印字対象は、「複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体の先頭に位置するラベル」であるところ、一般にラベルは発行されると個々の商品等に対応して一つずつ付されて使用されるものであって「複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体」の状態で使用するものではないことと、それに印字される印字データが「発行予定のラベルの識別情報に関連するもの」であることからして、本願発明1の印字対象は、これから新たに発行しようとするラベルであり、既発行のラベルは含まないと解される。

イ.これに対して、引用発明は、【0003】の記載から把握されるように、商品の価格変更にあたって、客が商品の価格が割り引きされていることを確認できるよう、古い価格を消して新しい価格を商品についているラベルに書き込むが、ラベルに対して個々に新しい価格の数値を手で記入するのは、かなりの時間を要し、間違いの可能性もあることを解決しようとする課題としてなされたものであるから、引用発明の印字対象である「既に印刷されたラベル」は、価格変更の対象となった商品に付されていた「既発行のラベル」であると解されるため、新たに発行しようとするラベルを印字対象とする本願発明1とは異なる。

ウ.そして、引用発明の印字対象を、「既発行のラベル」にかえて「新たに発行しようとするラベル」とし、引用発明を、新たに発行しようとするラベル上にある製品番号を読み取って、読み取った製品番号に関連する新しい価格データを当該ラベルに印刷するものに構成を変更したとすると、価格変更の対象とする商品の製品番号を読み取ることができなくなり、発明が解決しようとする課題が前提とする商品の価格変更が実現できなくなるから、そのような構成の変更には、阻害要因があるというべきである。

エ.また、仮に本願発明1の印字対象に「既発行のラベル」が含まれると解したとしたとしても、上記ア.で指摘したとおり、一般にラベルは発行されると個々の商品等に対応して一つずつ付されて使用されるものであって「複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体」の状態で使用するものではないため、引用発明の印刷対象である「既発行のラベル」としての「既に印刷されたラベル」を「複数のラベルを連ねて構成されるラベル連続体の先頭に位置するラベル」にしようと、当業者が考えることもない。

オ.よって、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を導き出すことが、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(3)小括
以上検討したとおり、相違点2ないし4について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1を直接または間接的に引用し、本願発明1の発明特定事項をすべて含む発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明4について
本願発明4は、「ラベル発行装置」の発明である本願発明1とカテゴリを異とするのみの「ラベル発行方法」の発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.本願発明5及び6について
本願発明5及び6は、本願発明4を直接または間接的に引用し、本願発明4の発明特定事項をすべて含む発明であるから、本願発明4と同様に、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、3、4及び6に係る発明は、上記引用文献1及び2に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
しかしながら、本願発明1ないし6は、上記第4において検討したとおり、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 当審が通知した拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第1号について
当審では、請求項1、4に係る発明は、読み取られた識別情報が発行予定のラベルの前記識別情報と一致しない場合においても、当該発行予定のラベルの識別情報に関連づけられた印字データが印字部によって印字されるもの、すなわち、誤ったラベルに特定の情報が印字されるものも含むものであるから、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとなっているとして、請求項1、4と、これらの請求項を引用する請求項2、3、5及び6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとの拒絶の理由を通知した。
これに対し、令和2年3月26日に提出された手続補正書によりなされた補正により、請求項1、4が、「読み取られた識別情報が前記リストから取得された前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致していない場合に、前記先頭に位置するラベルに前記印字部によって印字しない」ものであることが特定され、読み取られた識別情報が発行予定のラベルの前記識別情報と一致しない場合においても、当該発行予定のラベルの識別情報に関連づけられた印字データが印字部によって印字されるものを含まないことが明らかとなったため、この拒絶の理由は解消した。

2.特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項2、5の「前記ラベル連続体は複数あり、前記印字は、各々のラベル連続体の先頭に位置するラベルの識別部から読み取られた識別情報が互いに一致、かつ、前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合に行われる」との記載は、ラベル連続体が複数あることが特定されているものの、当該複数のラベル連続体の各々に対応して、印字部、スキャナ、及び、ラベル移送手段がどのような構成となっているのかが不明であるとして、請求項2、5及びこれらの請求項を引用する請求項3、6に係る発明は明確でないとの拒絶の理由を通知した。
これに対し、令和2年3月26日に提出された手続補正書によりなされた補正により、請求項2、5が、「前記ラベル連続体は複数あり、複数の前記ラベル連続体の各々に対応して設けられる前記印字部、前記スキャナ及び前記先頭に位置するラベルを移送する手段の複数の組の各々によって前記印字が行われ、前記印字は、複数の前記ラベル連続体の各々の先頭に位置するラベルの識別部から読み取られた識別情報が互いに一致、かつ、前記発行予定のラベルの前記識別情報と一致している場合に行われる」と補正され、複数のラベル連続体に各々に対応して、印字部、スキャナ、ラベル移送手段の組を複数備えており、当該複数の組の各々によって印字が行われるものであることが明らかになったため、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上の通り、本願発明1ないし6は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-07-06 
出願番号 特願2014-173836(P2014-173836)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B41J)
P 1 8・ 121- WY (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藏田 敦之  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 清水 康司
河内 悠
発明の名称 ラベル発行装置及びラベル発行方法  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  

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