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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1363901
審判番号 不服2019-1120  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-29 
確定日 2020-07-07 
事件の表示 特願2016-519552号「ウェーハベースの光源パラメータ制御」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日国際公開、WO2014/200821号、平成28年 9月 5日国内公表、特表2016-526697号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)6月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年6月11日 米国、2014年6月4日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月4日に国際出願翻訳文(特許請求の範囲、明細書及び図面)が提出され、平成30年3月9日(発送 同年同月13日)で拒絶理由が通知され、平成30年6月12日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたが、同年10月3日付けで拒絶査定(謄本送達日 同年同月5日、以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年1月29日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がされ、令和元年8月28日付け(発送 同年同月29日)で当審より拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月28日に手続補正(以下「本件補正」という。)がされるとともに意見書(以下「本件意見書」という。)が提出され、その後、令和2年1月17日付け、及び、令和2年1月31日付けで請求人からファクシミリによる説明が送付されたものである。

第2 本願請求項1ないし22
本願請求項1ないし22に係る発明は、令和2年11月28日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された、次のとおりのものである(下線は、請求人が付与したとおりであって、補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
光学源に命令してパルス光ビームを発生させることと、
リソグラフィ露光装置のウェーハを横断して前記パルス光ビームをスキャンし、前記パルス光ビームで前記ウェーハを露光することと、
前記パルス光ビームで前記ウェーハを横断してスキャンした際に、前記ウェーハにおける前記パルス光ビームの特性を監視モジュールで検出することと、
前記ウェーハを横断する前記パルス光ビームのスキャンの際に前記ウェーハにおける前記パルス光ビームの前記特性を前記監視モジュールから制御系が受信することと、
受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を検出系が決定することと、
スキャンの際に前記監視モジュールから受信した前記パルス光ビーム特性と、前記検出系で決定された前記ウェーハ物性の値と、に基づいて、前記制御系が前記パルス光ビームの性能パラメータの変更を決定することと、
前記決定された変更に基づいて、前記ウェーハを横断するスキャンの際の前記パルス光ビームの前記性能パラメータを前記制御系が変更することと、を含み、
前記パルス光ビームの前記性能パラメータは、前記光学源に接続される光源作動系に信号を送ることにより変更される、
フォトリソグラフィ方法。
【請求項2】
前記ウェーハ物性の値は、前記ウェーハの前記物性の誤差を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウェーハ物性は、前記ウェーハ上に形成されたフィーチャのコントラスト、前記パルス光ビームで露光されるウェーハ領域に既に形成されている臨界寸法、前記パルス光ビームで露光されるウェーハ領域に既に形成されているフォトレジストプロファイル、及び前記パルス光ビームで露光されるウェーハ領域に既に形成されている側壁角度のうち1つ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を決定することに先立ち、
前記光学源の前記パルス光ビームによって予め露光されたウェーハにおける一組のパルス光ビーム特性に対する前記予め露光されたウェーハ物性の一組の決定値を受信することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ウェーハを横断する前記パルス光ビームのスキャンの際に前記ウェーハにおける前記パルス光ビームの前記特性を受信することは、前記パルス光ビームが前記ウェーハを露光する位置を受信することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ウェーハを横断する前記パルス光ビームのスキャンの際に前記ウェーハにおける前記パルス光ビームの前記特性を受信することは、前記パルス光ビームが前記ウェーハを露光するときに前記パルス光ビームのエネルギを受信することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記パルス光ビームの目標性能パラメータを変更することをさらに含み、
前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することは、
前記パルス光ビームの前記性能パラメータの測定を受信することと、
前記測定された性能パラメータが前記変更された目標性能パラメータと一致するかどうかを判定することと、
前記測定された性能パラメータが前記変更された目標性能パラメータと一致しないと判定された場合、前記光学源に信号を送信して前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ウェーハにおける前記パルス光ビーム特性を受信することは、
前記リソグラフィ露光装置から前記光学源への制御信号を受信することと、
前記受信した制御信号に基づいて前記ウェーハにおける前記パルス光ビーム特性を決定することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記パルス光ビームの前記性能パラメータへの前記変更を決定することは、
前記ウェーハにおける光ビーム特性の関数として記憶された性能パラメータの組にアクセスすることと、
前記アクセスされた組内で現在のウェーハにおける前記パルス光ビームの前記受信した特性に対応する前記性能パラメータの値を選択することと、
前記性能パラメータの前記選択された値を前記パルス光ビームの前記性能パラメータの現在の値と比較することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記性能パラメータの前記選択された値が前記現在の値と一致しない場合、前記現在の性能パラメータが前記選択された値と一致するように調整される必要があると表示することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ウェーハ物性の値を決定することに先立ち、前記ウェーハにおける一組のパルス光ビーム特性での前記ウェーハの一組の測定された物性を受信することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組の前記ウェーハにおける各パルス光ビーム特性について、前記測定された物性に基づいて前記パルス光ビームの性能パラメータを決定することと、
前記決定された性能パラメータを前記組内の各パルス光ビーム特性に対応させて記憶することと、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ウェーハを横断して前記パルス光ビームをスキャンすることは、前記ウェーハのフィールドを横断して前記パルス光ビームをスキャンすることを含み、前記フィールドは、露光される前記ウェーハの全領域の一部であり、
前記パルス光ビームの前記特性を受信することは、前記フィールドを横断する前記スキャンの際に前記特性を受信することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することは、スペクトル特徴、スペクトル特徴の誤差、前記パルス光ビームのエネルギ、前記パルス光ビームの量、前記パルス光ビームの波長の誤差、前記パルス光ビームの帯域幅、及び前記パルス光ビームのスペクトル形状のうち1つ以上を変更することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することに基づいて前記ウェーハにおけるパターニングの誤差を補正することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ウェーハのパターニングの前記誤差は、前記リソグラフィ露光装置内の光学的フィーチャ又は構成要素を変更することなく補正される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することは、前記パルス光ビームのスペクトル特徴を変更することを含み、
前記パルス光ビーム特性が受信される度にスペクトル特徴を調整することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記パルス光ビーム特性は前記ウェーハの各フィールドにおいて受信され、
前記フィールドは、露光される前記ウェーハの全領域の一部及び露光窓の1回のスキャンにおいて露光される前記ウェーハの領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することは、前記パルス光ビームのスペクトル形状の位相を変更することを含み、
前記位相は、スペクトル合成により発生される波長のピーク間の距離である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記ウェーハをスキャンする前に、
1つ以上の予め露光されたウェーハの各露光フィールドにおけるスキャン内の前記ウェーハ物性を測定することと、
前記パルス光ビームで露光されたウェーハ全体を横断して各露光フィールドについて測定された各ウェーハ物性を相関させるテーブルを作成することと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ウェーハ物性の値を決定することは、前記作成されたテーブルから現在の露光フィールドについての前記測定されたウェーハ物性を受信することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記パルス光ビーム特性を受信することは、
前記ウェーハの露光の開始の検出を受信することと、
前記ウェーハの前記露光の終了の検出を受信することと、
を含む、請求項20に記載の方法。」

第3 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「理由1(明確性要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願出願の請求項1に係る発明は、平成31年1月29日になされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである(記号A?Hは、分説するため当審にて付した。)。
『A 光学源に命令してパルス光ビームを発生させることと、
B リソグラフィ露光装置のウェーハを横断して前記パルス光ビームをスキャンし、前記パルス光ビームで前記ウェーハを露光することと、
C 前記パルス光ビームで前記ウェーハを横断してスキャンした際に、前記ウェーハにおける前記パルス光ビームの特性を検出することと、
D 前記ウェーハを横断する前記パルス光ビームのスキャンの際に前記ウェーハにおける前記パルス光ビームの前記特性を受信することと、
E 受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を決定することと、
F スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性と、決定された前記ウェーハ物性の値と、に基づいて、前記パルス光ビームの性能パラメータの変更を決定することと、前記決定された変更に基づいて、前記ウェーハを横断するスキャンの際の前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することと、を含み、
G 前記パルス光ビームの前記性能パラメータは、前記光学源に接続される光源作動系に信号を送ることにより変更される、
H フォトリソグラフィ方法。』

●理由1(明確性)
(1)請求項1について
ア 上記構成AないしC、ならびに、構成F及びGについて
方法発明である本願出願の請求項1に係る発明は、構成Bで、『(パルス光ビームをスキャンし、)パルス光ビームで前記ウェーハを露光する』と特定するから、構成Cの『(パルス光ビームで前記ウェーハを横断してスキャンした際に、)パルス光ビームの特性を検出する』時点は、『ウェーハ』が『パルス光ビームで』『露光』されていると解される。
そうすると、既に露光された『ウェーハ』に対して、構成F、Gのように『光学源に接続される光源作動系に信号を送ることにより』『前記ウェーハを横断するスキャンの際の前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更』しても『前記ウェーハ』(既に露光済みのウェーハ)に対して何も新たに露光することはできないと解される。
したがって、本願出願の請求項1に係る発明で、なぜ、『露光』(構成A、B)した後に『前記ウェーハを横断するスキャンの際の前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更』することを特定するのか理解できない不明確な記載である。

イ 上記構成C及びDについて
本願出願の請求項1に係る発明は、構成Dで特定する『受信』が、構成Cで検出した『特性』を『前記特性』として、何らかの手段が、何らかの手段から『受信』していること特定すると理解される。
しかしながら、構成Dは、何が、何から『受信』しているのか特定しないため(後記理由2『(2)』参照)、単に制御手段が検出手段から受信している程度の構成を含み、発明の特定する事項が不明確である。

ウ 上記構成Eについて
本願出願の請求項1に係る発明は、構成Eにおいて、『受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を決定すること』を特定するが、本願出願の請求項1は、『受信した前記パルス光ビーム特性』がどのような『特性』かを特定しない。
また、『相関する』では、『ウェーハ物性の値』と『受信した前記パルス光ビーム特性』とがどのような関係にあるのか漠然としていて不明確である。
したがって、なぜ、当該『特性』から、『ウェーハ物性の値』が選択できるのか、さらには、いかなる構成で、何の中から『選択』する構成であるのか理解できない不明確な記載である。

エ 上記構成Fについて
本願出願の請求項1に係る発明は、構成Fにおいて、『スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性と、決定された前記ウェーハ物性の値と、に基づいて、前記パルス光ビームの性能パラメータの変更を決定する』と特定するが、構成Eにおいて、『決定された前記ウェーハ物性の値』も『スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性』に基づくと特定する。
そうすると、構成Fは、実体的には、『スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性』と『スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性』由来の値とで『パルス光ビームの性能パラメータの変更を決定する』ことを特定すると解される。
しかしながら、なぜ、当該、『スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性』と『スキャンの際に受信した前記パルス光ビーム特性』由来の値とで『パルス光ビームの性能パラメータの変更を決定する』のか理解できない不明確な記載である(後記理由2『(2)』参照)。

オ したがって、請求項1は特許を受けようとする発明が明確ではない。
また、請求項1を引用する各項も同様に明確ではない。

(2)請求項2、3について
請求項2は、請求項1の構成において『前記ウェーハ物性の値は、前記ウェーハの前記物性の誤差を含む』ことを特定する。
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、請求項1では検出する『パルス光ビームの特性』等が特定されないため、なぜ、『受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値(誤差)を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値(誤差)を決定すること』(請求項1を引用する請求項2における構成E)ことができるのか理解できない不明確な記載である。
請求項3も同様である。

(3)請求項4について
請求項4における、『受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を決定すること』(前者)が、なぜ『前記光学源の前記パルス光ビームによって予め露光されたウェーハにおける一組のパルス光ビーム特性に対する前記予め露光されたウェーハ物性の一組の決定値を受信すること』(後者)を含むのか理解できない不明確な記載である。
(『・・・決定すること』(前者)と『・・・受信すること』(後者)は別異の事項であると理解される。)

(4)請求項7について
請求項1を引用する請求項7は、『前記パルス光ビームの前記性能パラメータ』とは別に『前記パルス光ビームの目標性能パラメータ』との構成を付加するものであるところ、当該『パルス光ビームの目標性能パラメータ』が如何なるものであるのか特定されず不明確である。
また、なぜ、『目標性能パラメータ』まで変更するのか理解できない不明確な記載である。

(4)請求項9について
請求項1を引用する請求項9は、『前記ウェーハにおける光ビーム特性の関数として記憶された性能パラメータの組にアクセスすることと、前記アクセスされた組内で現在のウェーハにおける前記パルス光ビームの前記受信した特性に対応する前記性能パラメータの値を選択すること』との構成を付加するものであるところ、上記(1)で述べたとおり、『特性』が明らかではないため、当該『光ビーム特性の関数として記憶された性能パラメータの組』が如何なるものであるのか理解できない不明確な記載である。

(5)請求項10について
請求項10における、『前記現在の性能パラメータが前記選択された値と一致するように調整される必要があると決定する』の『必要があると決定する』とはどのようなことを意味するのか抽象的で不明確である。

(6)請求項11について
請求項11における、『ウェーハ物性の値を決定すること』が、なぜ、『・・・ウェーハの一組の測定された物性を受信すること』を含むのか、『決定する』ことと『受信する』ことは、別の処理であって理解できない不明確な記載である。

(7)請求項12について
請求項12における、『前記決定された性能パラメータを前記組内の各パルス光ビーム特性で記憶すること』の『組内の各パルス光ビーム特性で記憶すること』とはどのようなことを意味するのか抽象的で不明確である。

(8)請求項14について
請求項1を引用する請求項14は、『前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更することは、スペクトル特徴、スペクトル特徴の誤差、前記パルス光ビームのエネルギ、前記パルス光ビームの量、前記パルス光ビームの波長の誤差、前記パルス光ビームの帯域幅、及び前記パルス光ビームのスペクトル形状のうち1つ以上を変更することを含む』ことを特定するが、上記(1)で述べたとおり、『特性』が明らかではないため、当該『スペクトル特徴、スペクトル特徴の誤差、前記パルス光ビームのエネルギ、前記パルス光ビームの量、前記パルス光ビームの波長の誤差、前記パルス光ビームの帯域幅、及び前記パルス光ビームのスペクトル形状のうち1つ以上』の『パラメータ』と如何なる関係であるのか理解できない不明確な記載である。

(9)請求項16について
請求項16における、『前記ウェーハのパターニングの前記誤差は、前記リソグラフィ露光装置を変更することなく補正される』は、『リソグラフィ露光装置』に関する何を『変更することなく』誤差を補正することを特定するのか理解できない不明確な記載である。
『リソグラフィ露光装置』に関する制御パラメータ一切を変更することなく誤差を補正することを実現する構成は特定されているとは認められない。
請求項17も同様である。

(10)請求項18について
請求項18における、『前記パルス光ビーム特性が受信される度にスペクトル特徴の推定を生成することをさらに含む』の『スペクトル特徴の推定』とはどのようなことを意味するのか抽象的で不明確である。

(11)請求項20について
請求項18における、『パルス光ビームのスペクトル形状をパルス間ベースで摂動させること』とはどのようなことを意味するのか抽象的で不明確である。

(12)請求項22について
請求項1を引用する請求項22は、『前記ウェーハをスキャンする前に、1つ以上の予め露光されたウェーハの各露光フィールドにおけるスキャン内の前記ウェーハ物性を測定することと、前記パルス光ビームで露光されたウェーハ全体を横断して各露光フィールドについて測定された各ウェーハ物性を相関させるテーブルを作成することと、をさらに含む』ことを特定するものであるところ、上記(1)で検討したとおり、『ウェーハ物性を測定すること』は、『リソグラフィ露光装置のウェーハを横断して前記パルス光ビームをスキャンし、前記パルス光ビームで前記ウェーハを露光すること』(構成B)を前提とする構成であるから、『ウェーハをスキャンする前に』、すでに『ウェーハを露光』することとなるため、上記記載は技術的に意味するところが不明である。

●理由2(サポート要件)
(1)請求項1及び同項を引用する各項について
上記理由1で検討したとおり、本願請求項1ないし24は不明確であるから、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。

(2)本願請求人は、平成31年1月29日に提出された審判請求書の『3.本願発明が特許されるべき理由』『(3)拒絶理由に対する意見』『(3-2)進歩性について』の7?13行において
『本願発明1は、監視モジュールからの(ウェーハにおけるパルス光ビームの特性に関する)情報と、(ウェーハにおけるパルス光ビーム特性に対応するウェーハ物性を決定する)検出系からの情報と、の両方を用いることにより、パルス光ビームの光学性能パラメータをどのように変更するかを決定するものであり、このようにパルス光ビームの光学性能パラメータを変更することにより、ウェーハスキャンの際にしつこく発生するウェーハの物性や誤差を変更することができるものであります(本願明細書(0029)段落)。』
と主張する。
しかしながら、上記理由1で検討したとおり、本願請求項1(ないし請求項24)には、『監視モジュールからの(ウェーハにおけるパルス光ビームの特性に関する)情報と、(ウェーハにおけるパルス光ビーム特性に対応するウェーハ物性を決定する)検出系からの情報と、の両方を用いること』に係る構成はない。
そして、本願の発明の詳細な説明を見ても、『監視モジュールからの(ウェーハにおけるパルス光ビームの特性に関する)情報と、(ウェーハにおけるパルス光ビーム特性に対応するウェーハ物性を決定する)検出系からの情報と、の両方を用いること』ではない構成は記載されていない。
したがって、上記構成を備えない請求項1及び同項を引用する各項は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。」

2 当審拒絶理由についての判断
(1)当審拒絶理由の「理由1」「(1)」「ウ」について(下線は当審が付した。以下同じ。)
ア 当審の判断
(ア)「本願出願の請求項1に係る発明で、なぜ、『露光』(構成A、B)した後に『前記ウェーハを横断するスキャンの際の前記パルス光ビームの前記性能パラメータを変更』することを特定するのか理解できない不明確な記載である」との当審拒絶理由(「理由1」「(1)」「ア」)に対して、請求人の本件意見書で、「本願請求項1に係る発明は、『……制御系185は、パルス光ビーム110の性能パラメータを、現在の時間ステップの後、次の時間ステップの前に変更してもよい。……時間ステップがフィールド全体である場合には、性能パラメータの変更は、現在の露光フィールドが完了した後、しかし次の露光フィールドが開始する前に行われてもよい。』(本願明細書(0080)段落)という状況をも含むものであります。」と釈明した。

(イ)そうすると、本件補正の「受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を検出系が決定すること」(構成E´)も、「現在の露光フィールドが完了した後、しかし次の露光フィールドが開始する前に行われ」ると解される。
しかしながら、本願明細書及び図面を見ても、「検出系」が「受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を」「決定すること」を、「現在の露光フィールドが完了した後、しかし次の露光フィールドが開始する前に行」うことは記載も示唆もない。

(ウ)上記(イ)の点に係る請求人の本件意見書での釈明は、後記「イ」のとおりである。図10(後記「ウ」「(イ)」)は、「光ビーム/ウェーハ特性 1004」と「ウェーハ物性 1002」が対応して並べた「リスト」が記載されるにとどまる。
したがって、段落【0079】(後記「ウ」「(ア)」)の記載及び図10を踏まえても、依然として、「検出系」が「なぜ、当該『特性』から、『ウェーハ物性の値』が選択できるのか、さらには、いかなる構成で、何の中から『選択』する構成であるのか」明らかではないため、請求人に説明を求めたところ、令和2年1月17日に概略後記「エ」「(ア)」の説明を含むファクシミリによる回答があった。
しかしながら、依然として「検出系」に係る点が明らかではないため、再度説明を求めたところ、令和2年1月31日に概略後記「エ」「(イ)」の説明を含むファクシミリによる回答があった。

(エ)後記「イ」の本件意見書及び後記「エ」「(ア)」及び「エ」「(イ)」の請求人の説明を踏まえても、本件補正の「受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を検出系が決定すること」(構成E´)において、なぜ、「検出系」が、当該「(前記パルス光ビーム)特性」から、「ウェーハ物性の値」が選択できるのか、さらには、いかなる構成で、何の中から「選択」する構成であるのかについての明確な説明はなく、当該点が明確になったとはいえない。

イ 請求人の本件意見書での釈明
「次いで、『なぜ特性からウェーハ物性の値が選択できるのか?いかなる構成で何の中から選択するのか?』という問いに対してですが、『制御系185……は、検出系155からの出力160、すなわち特定の光ビーム特性1004についてのウェーハ120の物性の決定値1002を受信する(1220)。一般に、各光ビーム特性1004についてのウェーハ120の物性の決定値1002はリスト1000として受信され、これは計測装置145からの出力160の中にあって、先に露光されたウェーハの分析及び測定に基づいている。』(本願明細書(0079)段落)という記載からも把握できるように、光ビーム特性に対応するウェーハ物性をリストし(図10:符号1000)、このリスト1000からウェーハ物性の値を選択することができます。」(「3.拒絶理由に対する意見」「(1)明確性要件違反の拒絶理由に対して」「(1-1)請求項1」の第3段落)

ウ 当該本願明細書の段落【0079】の記載及び図10は次の通りである。
(ア)「【0079】
制御系185(及び具体的には相関モジュール925)は、検出系155からの出力160、すなわち特定の光ビーム特性1004についてのウェーハ120の物性の決定値1002を受信する(1220)。一般に、各光ビーム特性1004についてのウェーハ120の物性の決定値1002はリスト1000として受信され、これは計測装置145からの出力160の中にあって、先に露光されたウェーハの分析及び測定に基づいている。計測装置145は、ウェーハ120の物性を実時間で、ステージ220に載置された現在のウェーハ120の露光の際に測定するように、リソグラフィ露光装置115内に統合されることが可能である。」
(イ)図10


エ 請求人のファクシミリによる釈明
(ア)請求人による令和2年1月17日ファクシミリによる回答の概略
「【0079】の記載を参酌すると、検出系からの出力には、『特定の光ビーム特性』についての『ウェーハ』の『物性の決定値』が含まれており、そうすると、検出系で既に、『特定の光ビーム特性』と相関する『ウェーハ物性の値』が決定されている、と解釈することができます。一方、制御系(の相関モジュール)が、『各光ビーム特性』についての『「ウェーハ』の『物性の決定値』を『リスト』として受信した上で『特定の光ビーム特性』と相関する『ウェーハ物性の値』を決定している、と解釈する余地もあります。」

(イ)請求人による令和2年1月31日ファクシミリによる回答の概略
「計測装置1456の一部を構成する検出系155によって検出が実行される」、「ウェーハの『物性』が何であるか、また、どのようにしてそれを決定するのか(例えば物理的フィーチャのコントラストを用いて等)」、「計測装置がどのようにしてウェーハの物性を測定するか」

オ 小括
したがって、本件補正及び本件意見書によっては、当審拒絶理由で指摘した「理由1」「(1)」「ウ」の明確性要件違反は解消されたとは認められず、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審拒絶理由の「理由2」「(1)」(特に「理由1」「(1)」「ウ」を理由とする点)について
ア 当審の判断
本願明細書及び図面を見ても、「検出系155」に関しては、
・「ウェーハにおける特定の光ビーム特性に対応するウェーハ120の物性を測定する。」(【0025】)
・「ウェーハにおける各光ビーム特性について1つ以上の測定された物性を含む一組のデータ160を出力する。」(【0025】)
・「計測装置145内のウェーハ1120上の各フィールドにおいて物性1002を測定する。」(【0074】)
・「制御系185(及び具体的には相関モジュール925)は、検出系155からの出力160、すなわち特定の光ビーム特性1004についてのウェーハ120の物性の決定値1002を受信する(1220)。」(【0079】)
等と記載されるにとどまり、「ウェーハ物性の値」を「選択することにより」「決定する」ことに係る記載は見当たらない。
したがって、上記アの本件意見書及び上記イの請求人の説明を踏まえても、「受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択することにより、受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を検出系が決定することと」(構成E´)において、「検出系」が、「受信した前記パルス光ビーム特性に基づいてウェーハ物性の値を選択すること」、及び、「受信した前記パルス光ビーム特性と相関する前記ウェーハ物性の値を」「決定すること」が記載されているとは認められない。

イ 請求人の本件意見書での釈明
上記「(1)」「イ」の通りである。

ウ 請求人のファクシミリによる釈明
上記「(1)」「エ」の通りである。

エ 小括
よって、本件補正及び本件意見書によっては、当審拒絶理由で指摘した「理由2」「(1)」(特に「理由1」「(1)」「ウ」を理由とする点)のサポート要件違反は解消されたとは認められず、本願請求項1に係る発明1が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているものとは認められないから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから拒絶されるべきものであって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-02-10 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2016-519552(P2016-519552)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 彰  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
松川 直樹
発明の名称 ウェーハベースの光源パラメータ制御  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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