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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1363939
審判番号 不服2019-2747  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-28 
確定日 2020-07-08 
事件の表示 特願2017-549368「自己集合核酸を用いてナノ構造を形成する方法、及び自己集合核酸のナノ構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日国際公開、WO2016/160311、平成30年 4月19日国内公表、特表2018-510635〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月11日(パリ条約による優先権主張 2015年4月2日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。

平成29年11月15日 :手続補正書の提出
平成30年 3月 2日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月 4日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月31日付け:拒絶査定
平成31年 2月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 元年 8月22日 :上申書の提出


第2 平成31年2月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項22の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項22】
ナノ構造を形成する方法であって、
領域を含むパターニングされた基板を形成することであって、前記領域は、核酸構造に対する位相特異性、または、核酸構造に対する化学的特異性および位相特異性を有する、ことと、
前記パターニングされた基板を形成することの後に、前記パターニングされた基板の対応する領域に、核酸構造を選択的に吸着させて、前記パターニングされた基板上に核酸構造の誘導自己集合を形成することと、を含む、
方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正がなされた特許請求の範囲の請求項22に対応する、本件補正前の、平成29年11月15日に手続補正された特許請求の範囲の請求項26の記載は次のとおりである。

「 【請求項26】
ナノ構造を形成する方法であって、
領域を含むパターニングされた基板を形成することであって、前記領域は、核酸構造に対する化学的特異性と位相特異性のうち少なくとも1つを有する、ことと、
前記パターニングされた基板を形成することの後に、前記パターニングされた基板の対応する領域に、核酸構造を選択的に吸着させて、前記パターニングされた基板上に核酸構造の誘導自己集合を形成することと、を含む、
方法。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項26に係る発明を特定するために必要な事項である「核酸構造に対する化学的特異性と位相特異性のうち少なくとも1つを有する」について、上記1(1)のとおり「核酸構造に対する位相特異性、または、核酸構造に対する化学的特異性および位相特異性を有する」と補正し、「核酸構造に対する位相特異性」を必須とする旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項26に記載された発明と補正後の請求項22に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項22に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
原査定で引用された、本願の優先日(2015年4月2日)より前に頒布された刊行物である、ACS Nano, 2014, vol.8, p.12030-12040(以下、「引用文献1」という。)は、「単分子DNA折り紙ナノアレイにおける最適化された集合と共有カップリング」と題する学術論文であって、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。また、下線は当審にて付した。

ア 「要約 DNA折り紙のような人工的DNAナノ構造は、従来型のトップダウン手法では達成することができなかった解像度を有する生物及び非生物ナノデバイスの、ボトムアップ製造のテンプレートとして大きな可能性を備えている。・・・Si/SiO_(2)基板上に描画的に定義された結合領域における折り紙の静電的な自己集合は達成されているが、最適な集合のための条件はまだ特定されておらず、その方法は大部分のデバイスを集合させるほどの高濃度のMg^(2+)を必要とするものである。私たちは、90%の折り紙が標的とする配向から±10°以内の配向を示す状態で、再現性良く94±4%の領域における1つの折り紙の結合を達成する、折り紙の配置に影響するパラメーターに関する定量的な研究を提示する。さらに私たちは、静電的なDNA-表面間の結合を共有結合に変換することで、Mg^(2+)を含まない多様な溶液条件で折り紙アレイを用いることにつながる2つの技術を紹介する。」(要約)

イ 「特に、二次元的あるいは三次元的なDNA折り紙は、?6nmの解像度で200の異なる構成要素が自己集合できる「分子の回路試作用基板」モジュールを提供する」(第12030頁左欄第6?10行)

ウ 「ここでは、私たちはKershnerら^(25)の方法を基礎とする。トリメチルシリル(TMS)不動態化層を通じたO_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板に、三角形の折り紙と同じ形、同じ大きさの複数の結合領域がパターンされた(図1a、工程1-5・・・)。これは、適切なpHでイオン化し、負に帯電する複数のシラノールを生成する。折り紙溶液は基板に乗せられ、そして、溶媒中のMg^(2+)により、イオン化した複数のシラノールと負に帯電した折り紙が静電的に架橋される(図1b、方法1)。私たちは、この配置技術が、多様な実験条件の下で、多種多様に応用できるようにすることを目的として、配置技術の最適化と拡張について研究する。基礎的な技術のため、私たちは、従来の研究に比べて、高い配向的正確さと低い有効Mg^(2+)濃度を達成する。私たちは、配置の量と質が、いくつかの包括的なパラメーター(折り紙濃度、pH、Mg^(2+)濃度、インキュベーション時間)と空間的なパラメーター(結合領域の大きさと間隔)において、非常に非線形的であることを発見する。・・・最後に、私たちは、正に荷電した基板への配置(図1b、方法2)、ミクロプリンティング(図2b、方法3)、配置後の共有カップリング(図1b、方法4)の手順を紹介する。これは、Mg^(2+)不存在の条件下という広範な範囲におけるDNA折り紙の生成と使用を可能とするものである。」(第12031頁左欄下から第7行?右欄下から第4行)

エ 「

図1.基板の製造と折り紙の配置と固定化。(a)複数の三角形の結合領域を有するアレイが、電子ビーム描画によりSiO_(2)基板にパターンされる(最上段、工程1-5)。O_(2)プラズマ(工程4)は、個々の領域に複数のシラノール基を生成するため、トリメチルシリル鋳型層を通じたエッチングに用いられる。・・・配置(方法1)後の原子間力顕微鏡は、大部分が良く配向された1つの折り紙であることを示す。スケールバーは400nMである。(b)配置の4つの態様。方法1:適切なpHにより、表面の複数のシラノールが負に帯電し、2価の複数のMg^(2+)イオンが、負に帯電したDNA折り紙(黒い丸)を固定化するための架橋に用いられ得る。方法2:領域を末端にアミノ基を有するシランで活性化することで、Mg^(2+)を用いない配置が可能だが(工程6)、結果は質の低いアレイとなった(図4d、e)。方法3:方法1を用いて得られた基板から、パターンされていないアミノ基を末端に有する表面へのプリンティングは、Mg^(2+)を含まず、高い質の折り紙アレイの構築を可能とした(図4g(当審注:「f」の誤記と認められる)、g)。方法4:共有結合はMg^(2+)不存在で折り紙を保持するもう一つの方法である:アミノ基が活性化された折り紙は、方法1を用いて配置され、その後、表面は、アミド結合(図示)かイソウレア結合(のいずれかを形成するためのクロスリンカーで処理される図4h-k参照)。」(第12031頁図1)

オ 「

図2.折り紙配置の最適化。(a)正しい配置、失敗した配置、空き、複数結合事象の図式的表示。(b)結合領域を基準とした折り紙配向(θ)の測定。(c)折り紙が溶液から到来し、溶液中に離れていくことを前提とした、(a)の状態間の遷移モデル。(d)原子間力顕微鏡データと(j)配置の質の折り紙濃度に対する非線形的依存を示すプロット。(f、k)Mg^(2+)、(h、l)pH、(i,m)インキュベーション時間に関する同様の図。未変動パラメーターとして、折り紙濃度110pM、Mg^(2+)濃度35mM、pH8.3、インキュベーション時間60分(5mMトリスバッファー)が適用できた。プロットに関して、オレンジの四角は望ましい状態、すなわち一つの結合領域に1つのDNA折り紙が結合した状態を示す。黒の三角は空の領域を示し、赤の三角は占有された全領域を示す。(e、g)ヒストグラムは(d、f)に基づくもので、折り紙濃度とMg^(2+)濃度に対する折り紙の配向の質を示す。エラーバーは、同じウエハーから得られた異なるチップを用いた、N=3の独立した(配置、洗浄などの)繰り返しSEMである。800-1000の結合領域が個々の繰り返しにおいて評価された。スケールバーは400nmである。」(第12032頁図2)

カ 「包括的パラメーターの効果。配置の後、個々の結合領域はいくつかの異なる状態の中の一つを示し得る(図2a)。いくつかの領域は、1つの折り紙が「正しい配向」で占有しており、折り紙の結合領域への重なりは最大である。-残りの領域は、1つの折り紙を正しくない配向(結合領域を基準として測定される、図2b)で含むかもしれないし、多数の折り紙を含むかもしれないし、空かもしれない。個々の状態における、いくつかの領域の定量的測定は、配向の分布と同様に、包括的パラメーターの最適化に用いられた。」(第12032頁左欄第1行?右欄第5行)

キ 「私たちは、私たちが変動させた最初のパラメーターである折り紙濃度(図2d・・・)が、領域における結合割合の観点から配置の質に影響すると予想した。折り紙濃度が増加するにつれて、折り紙結合領域との遭遇率が増加し、1つの折り紙が再調整し領域を完全に占有する機会を得る前に、2番目、3番目の折り紙が(本質的に不可逆的に)結合するかもしれない。これは、濃度が高くなるにつれて複数結合が増えることが予想され、それは、1分子折り紙結合の急激な減少による(図2jのオレンジの四角として示される)、折り紙濃度が100pMを超える場合における占有領域の数の割合(赤三角として示される)として、データに反映される。濃度が増加するにつれて(100pMを超えて、図2e)、1つの折り紙の配置の質の予想外な減少が観察された。」(第12033頁左欄下から第6行?右欄第11行)

ク 「2番目の変動されたパラメーターである[Mg^(2+)](図2f・・・)に関して、[Mg^(2+)]の増加は、折り紙とイオン化されたシラノールの負の電荷との間の架橋をより多く提供することで、結合強度を増加することが予想され、そのため、多数結合とより悪い配置が予想された。両方の効果が観察され、35mMを超えるMg^(2+)濃度において、多数結合が増え(図2k)、80mMのMg^(2+)濃度に至るまで、配置の質は低下した(図2g)」(第12033頁右欄第27行?第37行)

ケ 「同様に、3番目のパラメーターであるpHが研究され(図2h)、[OH^(-)]の増加が、Mg^(2+)に結合することができるイオン化されたシラノールの数の増加により、結合強度を増加することが予想された。実際に、pH7.0からpH8.4にかけて、折り紙の結合が劇的に増加し(図2l)、pH8.4を超えると多数結合が増加した。しかしながら、pH9.1においては、バックグラウンドへの折り紙の結合を防ぐために用いたTMS基が加水分解され、折り紙は表面のどこにでも結合した」(第12033頁右欄第38行?第47行)

コ 「最後に、インキュベーション時間を最適化するため、私たちは、ナノアレイ形成の動力学を研究した(図2i・・・)。最適化された他の全てのパラメーター(折り紙濃度110pM、Mg^(2+)濃度35mM、pH8.35)を用いて、私たちは、インキュベーション時間60分で、1つの折り紙の結合が継続的に90%以上まで増加し(図2m)、多数結合は、たった5-10%の領域とまれなままであったことを観察した。しかしながら、それ以上のインキュベーションは、多数結合事象の劇的な増加につながった。120分までには、?64%の領域に多数結合がみられ、480分までには、不動態化されたバックグラウンドは著しく加水分解され、折り紙は無差別的に結合し、結合領域はバックグラウンドと区別できなかった。そのため、私たちは、60分を最適なインキュベーション時間として選択した。」(第12034頁左欄第6?第20行)

サ 「私たちによる最適化は、4つすべてのパラメーターに対する配置の質の感受性を強調するものであるが、4つのすべてのパラメーターの注意深く正確な維持は高い再現性をもった結果を可能とするものである。一連の90の独立した配置の繰り返し(最適な条件下で4つの異なるウエハーから得られたチップを用いて、16ヶ月以上にわたり、個々に少なくとも100結合領域が測定された)により、私たちは、90%の折り紙が正しい配向から±10°以内の配向を示す状態で、94±4%の領域において1つの折り紙を結合することを達成した。」(第12034頁左欄下から第14行?下から第3行)

(3)引用発明
上記(2)ウのとおり、引用文献1には、「O_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板に、三角形の折り紙と同じ形、同じ大きさの複数の結合領域がパターンされた」と記載されており、続いて「これは、適切なpHでイオン化し、負に帯電する複数のシラノールを生成する」と記載されている。これらの記載と上記(2)エの図1a工程4から、引用文献1には、O_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで、SiO_(2)基板に三角形のDNA折り紙と同じ形、同じ大きさの複数の結合領域がパターンされることが記載されていると認められる。また、上記(2)エの図1aからみて、当該結合領域は、間隔をおいてパターンされていると認められる。
次いで、上記(2)ウとエの図1bのとおり、引用文献1には、基板上の結合領域において、適切なpHでイオン化し負に帯電した複数のシラノールと、負に帯電したDNA折り紙が、溶媒中のMg^(2+)により静電的に架橋されることが記載されている。
また、引用文献1の表題は上記(2)のとおり「単分子DNA折り紙ナノアレイにおける最適化された集合と共有カップリング」であり、上記(2)エのとおり、引用文献1の図1(a)には、「複数の三角形の結合領域を有するアレイ」と記載されているから、引用文献1に記載されたSiO_(2)基板にDNA折り紙を架橋する方法は、ナノアレイの形成方法であると認められる。
さらに、上記(2)ア、ウ、オ?サのとおり、引用文献1においては、当該ナノアレイにおいて、DNA折り紙濃度、Mg^(2+)濃度、pH、インキュベーション時間の4つのパラメーターを最適化することで、90%の折り紙が正しい配向から±10°以内の配向を示す状態で、94±4%の領域において1つの折り紙を結合することを達成したことが記載されている。
よって、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「O_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで、SiO_(2)基板に三角形のDNA折り紙と同じ形、同じ大きさの複数の結合領域が間隔をおいてパターンされ、次いで、基板上の結合領域において、適切なpHでイオン化し負に帯電した複数のシラノールと、負に帯電したDNA折り紙が、溶媒中のMg^(2+)により静電的に架橋される、ナノアレイの形成方法であって、
当該ナノアレイは、DNA折り紙濃度、Mg^(2+)濃度、pH、インキュベーション時間の4つのパラメーターを最適化することで、90%の折り紙が正しい配向から±10°以内の配向を示す状態で、94±4%の領域において1つの折り紙を結合することを達成する、ナノアレイの形成方法。」

(4)対比 ・判断
ア 「ナノ構造を形成する方法」について
本件補正発明の「ナノ構造」に関して、本願明細書【0004】には、「したがって、ナノ構造、特に、従来のフォトリソグラフィ技術の解像限界(現在のところ約40nm)未満のフィーチャ寸法(例えば、限界寸法)を有する構造を製造する際に、大きな問題に直面する」と記載されている。当該記載によれば、少なくとも40nm未満の限界寸法を有する構造は本件補正発明の「ナノ構造」に相当するといえる。
この点に関して、上記(2)イのとおり、引用文献1には「DNA折り紙は、?6nmの解像度」を有していることが記載されている。ここで、引用文献1に記載の「解像度」は、本願明細書でいうところの「限界寸法」に相当するものであるから、引用発明の「?6nmの解像度」は、「40nm未満の限界寸法」に相当するといえる。すなわち、引用発明の「DNA折り紙」は、「40nm未満の限界寸法」を有する構造であり、引用発明の「ナノアレイ」は、その「DNA折り紙」を基板上に配置するものであるから、同様に「40nm未満の限界寸法」を有する構造であるといえる。
よって、引用発明の「ナノアレイ」は、本件補正発明の「ナノ構造」に相当するから、引用発明の「ナノアレイの形成方法」は、本件補正発明の「ナノ構造を形成する方法」に相当する。

イ 「領域を含むパターニングされた基板を形成することであって、前記領域は、核酸構造に対する位相特異性、または、核酸構造に対する化学的特異性および位相特異性を有することと・・・を含む」について
(ア)まず、本件補正発明の「領域を含むパターニングされた基板を形成すること」に関して検討するに、引用発明は、「O_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで、・・・複数の結合領域が間隔をおいてパターンされ」るのであるから、引用発明においても、本件補正発明の「領域を含むパターニングされた基板」が形成されていると認められる。

(イ)次に、本件補正発明の「核酸構造」に関して、本願明細書【0018】には、「実施形態によっては、核酸構造はDNA構造であってもよい。そのようなDNA構造の非限定的な例には、上述のWeiらの文献に記載されたDNA構造、または米国特許第8,501,923号に開示されたDNA折り紙構造が含まれてもよい」と記載されている。
よって、引用発明の「DNA折り紙」は、本件補正発明の「核酸構造」に相当する。

(ウ)さらに、本件補正発明の「位相特異性」、「化学的特異性」に関して、本願明細書【0022】段落には、「実施形態によっては、そして、以下に詳細に説明するように、基板がパターニングされて、DNA構造に対して化学的特異性を示す領域が作成される。例えば、パターニングされた基板の領域は、例えば、ファンデルワールス相互作用、イオン相互作用、および/または、静電相互作用によってDNA構造を吸着するための化学的特異性を含む。実施形態によっては、基板がパターニングされて、DNA構造に対して位相特異性を有する領域が作成される。例えば、パターニングされた基板の領域は、DNA構造のサイズおよび/または形態に対応するサイズおよび/または形態を有する」(下線は当審にて付した。)と記載されている。
ここで、上記本願明細書【0022】段落の記載から、「化学的特異性」とは、例えば「静電相互作用によってDNA構造を吸着するための化学的特異性」である。そして、引用発明は、「シラノールが生成」された「基板上の結合領域において、適切なpHでイオン化し負に帯電した複数のシラノールと、負に帯電したDNA折り紙が、溶媒中のMg^(2+)により静電的に架橋され」るものであるから、引用発明の「シラノールが生成」された「基板上の結合領域」は、「静電相互作用によってDNA構造を吸着するための化学的特異性」を備えているものといえる。よって、引用発明の「シラノールが生成」された「基板上の結合領域」は、本件補正発明の「核酸構造に対する化学的特異性」を有するものと認められる。
また、上記本願明細書【0022】段落の記載から、「位相特異性」とは、例えば、パターニングされた基板の領域が、「DNA構造のサイズおよび/または形態に対応するサイズおよび/または形態を有する」ことであるといえるところ、引用発明における結合領域は、「三角形のDNA折り紙と同じ形、同じ大きさ」のものであるのであるから、当該結合領域は、「DNA構造のサイズおよび/または形態に対応するサイズおよび/または形態を有する」もの、すなわち本件補正発明の「核酸構造に対する位相特異性」を有するものと認められる。

(エ)よって、上記(ア)?(ウ)から、引用発明の「O_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで、SiO_(2)基板に三角形のDNA折り紙と同じ形、同じ大きさの複数の結合領域が間隔をおいてパターンされ」は、本件補正発明の「領域を含むパターニングされた基板を形成することであって、前記領域は、核酸構造に対する位相特異性、または、核酸構造に対する化学的特異性および位相特異性を有することと・・・を含む」に相当する。

ウ 「前記パターニングされた基板を形成することの後に、前記パターニングされた基板の対応する領域に、核酸構造を選択的に吸着させて」について
引用発明において、「結合領域」は「DNA折り紙と同じ形、同じ大きさ」で、「SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで」「パターンされ」たものであり、「DNA折り紙」は「基板上の結合領域において、・・・シラノールと、・・・DNA折り紙が、・・・架橋される」のであって、両者は、「・・・4つのパラメーターを最適化することで、90%の折り紙が正しい配向から±10°以内の配向を示す状態で、94±4%の領域において1つの折り紙を結合する」という高い選択性で結合するものである。したがって、引用発明は、本件補正発明の「前記パターニングされた基板の対応する領域に、核酸構造を選択的に吸着させて」を満たすものである。

エ 「前記パターニングされた基板上に核酸構造の誘導自己集合を形成すること、を含む」について
本件補正発明の「核酸構造の誘導自己集合」に関して、本願明細書【0020】段落には、「本明細書で用いる場合、用語「複数のDNA構造の誘導自己集合(directed self-assembly of multiple DNA structures)」または「複数のDNA構造のDSA(DSA of multiple DNA structures)」は、パターニングされた基板上の複数のDNA構造の自己集合を指し」と記載されている。また、本願明細書【0012】の記載を踏まえると、本願図1?4はDNA構造の誘導自己集合を示した図であるところ、本願図1は、複数のDNA構造が間隔を置いた態様でパターニングされた基板上に集合するものであり、本願図2?4は、複数のDNA構造が隣接する態様でパターニングされた基板上に集合するものである。
これらを踏まえると、本件補正発明の「核酸構造の誘導自己集合」は、本願図1のように、複数のDNA構造が間隔をおいた態様でパターニングされた基板上に集合するものや、本願図2?4のように、複数のDNA構造が隣接する態様でパターニングされた基板上に集合するものを含んでいると認められる。
ここで、引用発明において、「SiO_(2)基板に・・・結合領域が間隔をおいてパターンされ、次いで、基板上の結合領域において、適切なpHでイオン化し負に帯電した複数のシラノールと、負に帯電したDNA折り紙が、溶媒中のMg^(2+)により静電的に架橋される」際には、「結合領域が間隔をおいてパターンされ」ていることから、結果として、本願図1のように、複数のDNA折り紙が間隔をおいた態様でパターニングされた基板上に集合することになる。
よって、引用発明の「SiO_(2)基板に・・・結合領域が間隔をおいてパターンされ、次いで、基板上の結合領域において、適切なpHでイオン化し負に帯電した複数のシラノールと、負に帯電したDNA折り紙が、溶媒中のMg^(2+)により静電的に架橋される」は、本件補正発明の「前記パターニングされた基板上に核酸構造の誘導自己集合を形成すること、を含む」に相当する。

オ 上記ア?エのとおり、本件補正発明と引用発明に相違点はない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人が平成31年2月28日に提出した審判請求書と令和元年8月22日に提出した上申書においてする主張と、それに対する合議体の判断は次のとおりである。

ア 審判請求書における審判請求人の主張とそれに対する合議体の判断
(ア)審判請求書における主張
(ア-1)引用文献1には、核酸構造に対する位相特異性を有する領域は示唆も開示もされていない。むしろ、引用文献1の図2などでは、1つのサイトに複数のDNA折り紙が吸着していることから、引用文献1に記載されているサイトにはDNA折り紙に対する位相特異性がないと解釈することができる。

(ア-2)補正後の請求項1では、基板がパターニングされるので、基板自体がパターニング処理の対象である。一方、引用文献1においてDNA折り紙に結合するシラノール基を基板表面に形成する際には、図1a4などに示されているように、基板の上に形成されたレジストがパターニングされている。したがって、「基板」をパターニングすることは、引用文献1に示唆も開示もされていない。

(イ)合議体の判断
(イ-1)審判請求人の主張(ア-1)について
上記(4)イ(ウ)のとおり、本願明細書【0022】段落の記載から、位相特異性とは、例えば、パターニングされた基板の領域が、「DNA構造のサイズおよび/または形態に対応するサイズおよび/または形態を有する」ことであるといえるところ、引用発明における結合領域は、「三角形のDNA折り紙と同じ形、同じ大きさ」のものであるのであるから、当該結合領域は、「DNA構造のサイズおよび/または形態に対応するサイズおよび/または形態を有する」もの、すなわち本件補正発明の「核酸構造に対する位相特異性」を有するものと認められる。
また、審判請求人は、「引用文献1の図2などでは、1つのサイトに複数のDNA折り紙が吸着していること」を指摘しているが、上記(2)オの図2から、複数のDNA折り紙が吸着している結合領域が多数あることが確認できるのは、例えばpHを9.1にした場合やDNA折り紙の濃度を440pMとした場合など条件に限られ、むしろ、上記(3)のとおり、引用文献1においては、当該ナノアレイにおいて、DNA折り紙濃度、Mg^(2+)濃度、pH、インキュベーション時間の4つのパラメーターを最適化することで、90%の折り紙が正しい配向から±10°以内の配向を示す状態で、94±4%の領域において1つの折り紙を結合することを達成したことが記載されており、引用発明は、この記載に基づいて認定されたものであるから、審判請求人の当該指摘を踏まえても、引用発明の結合領域が「核酸構造に対する位相特異性」を有さないと解釈することはできない。

(イ-2)審判請求人の主張(ア-2)について
本願明細書【0016】には「本明細書で用いる場合、用語「基板(substrate)」は、ベース材料またはベース構造体を意味し、かつ、含み、その上には追加の材料が形成される」と記載されていることから、本件補正発明の「基板」には、ベース材料の上に形成された追加の材料、すわなち「レジスト」も含まれるものと理解できるため、「基板の上に形成されたレジストがパターニングされ」たものも、本件補正発明の「パターニングされた基板」に相当するものである。したがって、請求人の主張のうち、「引用文献1において・・・、基板の上に形成されたレジストがパターニングされている。したがって、「基板」をパターニングすることは、引用文献1に示唆も開示もされていない」との主張は、本願明細書【0016】の記載と整合しない。
また、仮に、本件補正発明における「基板」が「ベース材料またはベース構造体」のみを意味するものであったとしても、本件補正発明は、「領域を含むパターニングされた基板を形成すること」を含む方法であるところ、本願明細書からは、基板が結果としてパターニングされているものであることは理解できるものの、そのパターニング処理の方法について具体的な説明はないので、請求人の主張のうち、「基板自体がパターニング処理の対象である」ことの具体的な根拠は本願明細書には見当たらない。
さらに仮に、本件補正発明の「領域を含むパターニングされた基板」が、「基板自体がパターニング処理の対象である」旨を意味するものであったとしても、上記(3)のとおり、上記(2)ウとエの図1a工程4から、引用文献1には、O_(2)プラズマエッチングにより、SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで、SiO_(2)基板に三角形のDNA折り紙と同じ形、同じ大きさの複数の結合領域がパターンされることが記載されていると認められる。すなわち、引用発明においては、SiO_(2)基板にシラノールが生成されることで、結合領域がパターンされているのであるから、基板自体がパターニング処理の対象である。
加えて、本願明細書【0011】段落には、「Kershnerらによって、リソグラフィによりパターニングされた基板上の個別の自己集合DNA構造の配置および向きについての開示がなされている( Kershner et al.,“Placement and orientation of individual DNA shapes on lithographically patterned surfaces,”Nature Nanotechnology 4(2009),557-561)」と記載されており、当該記載によれば当該「Kershnerら」の文献には、「リソグラフィによりパターニングされた基板」が開示されているものと理解できる。そして、当該「Kershnerら」の文献は、引用文献1において、参考文献25として挙げられており、上記(2)ウのとおり、引用発明の「ナノアレイ」を形成する際の「基礎」とされたものである。してみれば、「「基板」をパターニングすることは、引用文献1に示唆も開示もされていない」との審判請求人の主張は、本願明細書の上記記載と整合しない。

(イ-3)上記(イ-1)、(イ-2)のとおりであるから、審判請求人の審判請求書における主張は採用することができない。

イ 上申書における審判請求人の主張(請求項5、20について)とそれに対する合議体の判断
(ア)上申書における主張
(ア-1)本件補正後の請求項5は「前記パターニングされた基板上に官能化スペーサを形成することを含み、前記官能化スペーサは、前記複数の核酸構造の官能基と化学的に相互作用するように構成された官能基を備える」という限定を含んでおり、本件補正後の請求項20は、「前記パターニングされた基板は複数のスペーサを含み、前記スペーサの各々は、前記核酸構造の誘導自己集合における前記核酸構造のうちの1つと化学的に相互作用するように構成された官能基を備える」という限定を有している。しかしながら、引用文献1においては、官能化されたスペーサを形成することや、スペーサの官能基と核酸構造の官能基を用いて核酸構造を吸着することは示唆も開示もされていない。

(ア-2)引用文献1を参照した当業者は、官能化スペーサを形成することに想到することを阻害されると思料する。例えば、引用文献1の12037頁には、DNA折り紙の配置の際にマグネシウムイオンを使用する代わりに、基板のアミノ化した表面にDNAを吸着させてミクロ接触プリンティングを行うことが記載されている。ここで、ミクロ接触プリンティングでは、自己組織化単分子膜を作る分子の溶液がパターニング後の基板に塗布され、基板上に自己組織化単分子膜が形成される。従って、ミクロ接触プリンティングを行う場合、基板の全体に単分子膜が形成されてしまうので、スペーサだけを官能化することはない。このため、引用文献1にミクロ接触プリンティングでDNA折り紙を配置することが書かれていることを読んだ当業者がスペーサのみを官能化することを想到することはない。

(ア-3)請求項1について以下の補正をする用意がある。
【請求項1】
ナノ構造を形成する方法であって、
複数の領域を含むパターニングされた基板を形成することであって、前記パターニングされた基板の前記領域の各々は、複数の核酸構造のうちの特定の核酸構造を吸着することに適しており、前記領域の各々は、前記複数の核酸構造のうちの前記特定の核酸構造に対する位相特異性および化学的特異性を示す、ことと、
前記パターニングされた基板に官能化スペーサを形成することであって、前記官能化スペーサは、前記複数の核酸構造の官能基と化学的に相互作用するように構成された官能基を備えることと、
前記パターニングされた基板を形成することの後に、前記特定の核酸構造を含む前記複数の核酸構造に前記パターニングされた基板を接触させることと、
前記複数の核酸構造に前記パターニングされた基板を接触させることの後に、前記複数の核酸構造のうちの前記特定の核酸構造を前記パターニングされた基板の各領域に吸着させて、前記パターニングされた基板上に核酸構造の誘導自己集合を形成することと、を含む、
方法。
請求項14、17、22についても、請求項1と同様に、官能化スペーサが形成され、スペーサの官能基が核酸構造と相互作用することを明確化する補正の用意がある。

(イ)合議体の判断
上申書における審判請求人の主張は、本件補正発明の発明特定事項ではない「官能化スペーサ」に関するものであるが、審判請求人が補正の意思がある旨述べていることから、念のため合議体の判断を示す。
(イ-1)審判請求人の主張(ア-1)について
「官能化スペーサ」に関して、本願明細書の【0036】段落には「図7に示すように、パターニングされた基板700は、基板360、及び基板360から突き出している官能化スペーサ670を含む。各官能化スペーサ670は、スペーサ620、及びスペーサ620における複数の官能基「B」を含む」と記載され、【0037】段落には「官能化DNA構造150をパターニングされた基板700に接触させると、官能化DNA構造150の官能基「A」と、パターニングされた基板700の官能化スペーサ670における官能基「B」との間の化学的特異性によって、パターニングされた基板700の特定の領域への、官能化DNA構造150の選択的な吸着が引き起こされ、図8に示すような半導体構造800を生じる」と記載されている(下線は当審にて付した)。
これらを踏まえると、本願明細書に記載された「官能化スペーサ」とは、「スペーサ」と「官能基「B」」から構成されるもので、官能基「B」が、官能化DNA構造の官能基「A」と化学的特異性により吸着するものと認められる。ただし、当該「スペーサ」は特定の化学構造に限定されておらず、「官能基「B」」も官能基「A」と化学的特異性によって吸着するものであれば、その化学構造が限定されるものでない。
他方、上記2(2)エのとおり、引用文献1の図1bの方法4には、炭素鎖を介してカルボキシル基が結合領域に結合していることが示されており、これに関して、引用文献1には、「通常のMg^(2+)介在性配置の後、0.01%(v/v)のCTES(カルボキシエチルシラントリオール)溶液の中で基板をインキュベートすることで、表面の複数のシラノールはカルボキシル基に変換された。二番目の工程において、カップリング溶媒(略)の中で基板をインキュベートすることで、カルボキシル基はアミノ基が活性化された折り紙とクロスリンクされた。結果として生じたアミド結合はPBSバッファーの中で(少なくとも24時間)安定であり、イソウレア結合とは異なり、トリス含有溶媒の中で安定である」(第12038頁左欄第33行?第42行)と記載されている(下線は当審にて付した)。
すなわち、引用文献1には、シラノールから変換されたカルボキシル基が、炭素鎖を介して結合領域に結合し、さらにDNA折り紙のアミノ基とアミド結合を形成したことが記載されている。
ここで、上述のとおり、本願明細書に記載された「官能化スペーサ」において、「スペーサ」は特定の化学構造に限定されておらず、「官能基「B」」も官能基「A」と化学的特異性により吸着するものであれば、その化学構造が限定されるものでない。そして、引用文献1に記載されたカルボキシル基は、DNA折り紙のアミノ基と化学的特異性によって吸着したといえること(アミド結合は化学吸着の一種である。)を踏まえると、引用文献1に記載された「炭素鎖」、「カルボキシル基」は、それぞれ本願明細書に記載された「スペーサ」、「官能基「B」」に相当する。
よって、引用文献1に記載された、シラノールから変換されたカルボキシル基が、炭素鎖を介して結合領域に結合する構造は、本願明細書に記載された「官能化スペーサ」に相当するから、引用文献1には、「官能化スペーサ」が記載され、さらに官能化スペーサの官能基がDNA折り紙の官能基と吸着することが記載されていると認められる。

(イ-2)審判請求人の主張(ア-2)について
審判請求人の主張は、引用文献1の12037頁の図4fや左欄下から第4行?右欄第5行の記載に基づくものと認められるが、これは、上記(2)エのとおり、引用文献1の図1bの方法3に対応するものである。仮に審判請求人の主張のとおり方法3から「官能化スペーサ」を当業者が容易に想到できなかったとしても、上記(イ-1)で示したとおり、引用文献1の図1bの方法4には、「官能化スペーサ」が記載されていると認められるところ、審判請求人の主張は何らこの認定を妨げるものではないから、引用文献1には、「官能化スペーサ」が記載され、さらに官能化スペーサの官能基がDNA折り紙の官能基と吸着することが記載されていると認められるとの上記(イ-1)の判断に変わるところはない。

(イ-3)審判請求人の主張(ア-3)について
上述のとおり、引用文献1には、「官能化スペーサ」が記載され、さらに官能化スペーサの官能基がDNA折り紙の官能基と吸着することが記載されていると認められるから、審判請求人の主張どおり、本件補正発明において、官能化スペーサが形成され、スペーサの官能基が核酸構造と相互作用することを特定する補正を行ったとしても、それは、依然として引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、審判請求人が示す補正案では、「基板の前記領域の各々は、複数の核酸構造のうちの特定の核酸構造を吸着することに適しており」とされているので、念のためこの点についてもさらに検討する。
本願の優先日(2015年4月2日)より前に頒布された刊行物である、Penzo E. et al., J. Vac. Sci. Technol. B, 2011, vol.29,06F205-1?5には、引用発明と同様にSiO_(2)基板上の結合領域にシラノールを介してDNA折り紙を結合する方法が開示され、さらに図1には、異なる形状の複数の結合領域が設けられたアレイが記載されている。ここで、当該刊行物に記載された「異なる形状の複数の結合領域が設けられたアレイ」は、複数の核酸構造のうち、結合領域の各々が、その形状に合致した特定の核酸構造を吸着することに適したものであると認められる。
してみれば、引用発明において、「異なる形状の複数の結合領域」を設けること、すなわち、結合領域の各々が、複数の核酸構造のうち、その形状に合致した特定の核酸構造を吸着することに適したものとすることは、当該刊行物の記載に基づいて当業者が容易になし得たことであるから、引用発明において、補正案における「基板の前記領域の各々は、複数の核酸構造のうちの特定の核酸構造を吸着することに適しており」との構成を採用することに格別の困難性は認められない。

(6)まとめ
以上のとおり、審判請求人の主張はいずれも採用できず、本件補正発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、また、本件補正発明は、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである

3 小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
平成31年2月28日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1-32に係る発明は、平成30年9月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-32に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項26に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項26に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。


第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由1、2は、この出願の請求項1-10、14-21、24-32に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であり、また引用文献1の記載にもとづいて当業者が容易になし得るものである、というものである。

1.ACS Nano, 2014, vol.8, p.12030-12040


第5 理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について
1 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

2 対比・判断
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、「核酸構造に対する位相特異性」を必須とする旨の限定を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明と同一であり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明と同一であり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-02-04 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-27 
出願番号 特願2017-549368(P2017-549368)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 山中 隆幸
小暮 道明
発明の名称 自己集合核酸を用いてナノ構造を形成する方法、及び自己集合核酸のナノ構造  
代理人 野村 泰久  
代理人 大菅 義之  

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