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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1363974
異議申立番号 異議2017-700817  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-31 
確定日 2020-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6086465号発明「高温環境用セメント組成物、および高温環境用コンクリート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6086465号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6086465号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 特許第6086465号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6086465号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)9月6日を国際出願日とする出願であって、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年3月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について3件の特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。

平成29年 8月31日付け 特許異議申立人廣瀬敏一(以下、「申立人1 」という。)による特許異議の申立て
平成29年 9月 1日付け 特許異議申立人一條淳(以下、「申立人2」
という。)による特許異議の申立て
平成29年 9月 1日付け 特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人3」
という。)による特許異議の申立て
平成29年12月27日付け 取消理由通知
平成30年 3月 8日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年 4月27日付け 申立人1?3による意見書の提出
平成30年 9月20日付け 取消理由通知
平成30年11月22日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 2月 6日付け 申立人1による意見書の提出
平成31年 3月28日付け 特許権者に対する審尋
平成31年 4月25日付け 特許権者による回答書の提出
令和 1年 7月18日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 1年 9月20日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年11月13日付け 申立人1による意見書の提出
令和 1年12月20日付け 特許権者に対する審尋

なお、令和 1年12月20日付けの特許権者に対する審尋に対して、指定した期間内に特許権者からの応答はなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和1年9月20日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)?(28)のとおりである(下線部は、訂正箇所を示す)。
なお、平成30年11月22日付け及び平成30年 3月 8日付けの訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「高温環境用セメント組成物」とあるのを、「セメント組成物」に訂正する(二箇所)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2?5に「高温環境用セメント組成物」とあるのを、それぞれ「セメント組成物」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記フライアッシュの含有率が15?55質量%である、」とあるのを、「前記フライアッシュの含有率が15?55質量%であり、かつ、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート用の」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「フライアッシュのブレーン比表面積が2500?6000cm^(2)/g」とあるのを、「フライアッシュのブレーン比表面積が2900?4000cm^(2)/g」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が5質量%以下」とあるのを、「フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が2.2?4.0質量%」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に「フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が50質量%以上」とあるのを、「フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が
51.3?63.1質量%」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1に「フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.2?1.0」とあるのを、「フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.34?0.7」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「下記の減水剤(R1)、該減水剤(R1)を除く減水剤(R2)、細骨材、粗骨材、および水を含む、高温環境用コンクリート。減水剤(R1):超遅延性減水剤、遅延形減水剤、遅延形AE減水剤、および遅延形高性能AE減水剤から選ばれる1種以上の減水剤。」とあるのを、「マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(10)訂正事項10
本件明細書の段落【0008】の[1]に「高温環境用セメント組成物」とあるのを、「セメント組成物」に訂正する(二箇所)。

(11)訂正事項11
本件明細書の段落【0008】の[2]?[5]に「高温環境用セメント組成物」とあるのを、それぞれ「セメント組成物」に訂正する。

(12)訂正事項12
本件明細書の段落【0008】の[1]に「前記フライアッシュの含有率が15?55質量%である、」とあるのを、「前記フライアッシュの含有率が15?55質量%であり、かつ、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート用の」に訂正する。

(13)訂正事項13
本件明細書の段落【0008】の[1]に「フライアッシュのブレーン比表面積が2500?6000cm^(2)/g」とあるのを、「フライアッシュのブレーン比表面積が2900?4000cm^(2)/g」に訂正する。

(14)訂正事項14
本件明細書の段落【0008】の[1]に「フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が5質量%以下」とあるのを、「フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が2.2?4.0質量%」に訂正する。

(15)訂正事項15
本件明細書の段落【0008】の[1]に「フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が50質量%以上」とあるのを、「フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が51.3?63.1質量%」に訂正する。

(16)訂正事項16
本件明細書の段落【0008】の[1]に「フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.2?1.0」とあるのを、「フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.34?0.7」に訂正する。

(17)訂正事項17
本件明細書の段落【0008】の[5]に「下記の減水剤(R1)、該減水剤(R1)を除く減水剤(R2)、細骨材、粗骨材、および水を含む、高温環境用コンクリート。 減水剤(R1):超遅延性減水剤、遅延形減水剤、遅延形AE減水剤、および遅延形高性能AE減水剤から選ばれる1種以上の減水剤。」とあるのを、「マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート。」

(18)訂正事項18
本件明細書の段落【0008】に「[6]環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用される、前記[5]に記載の高温環境用コンクリート。」とあるのを、「[6](削除)」に訂正する。

(19)訂正事項19
本件明細書の段落【0018】に「本発明の高温環境用コンクリートは、前記高温環境用セメント組成物、減水剤(R1)、該減水剤(R1)を除く減水剤(R2)、細骨材、粗骨材、および水を含むコンクリートである。」とあるのを、「本発明の高温環境用コンクリートは、前記高温環境用セメント組成物、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含むコンクリートである。」に訂正する。

(20)訂正事項20
本件明細書の段落【0019】に「本発明で用いる減水剤(R1)は、超遅延性減水剤、遅延形減水剤、遅延形AE減水剤、および遅延形高性能AE減水剤から選ばれる1種以上の減水剤である。」とあるのを、「本発明で用いる減水剤(R1)は、マスターポゾリス(登録商標)138Rである。」
に訂正する。

(21)訂正事項21
本件明細書の段落【0019】の「ここで、遅延形減水剤、遅延形AE減水剤、および遅延形高性能AE減水剤は、JISのA 6204(コンクリート用化学混和剤)に規定する減水剤である。」を削除する。

(22)訂正事項22
本件明細書の段落【0019】の「そして、本発明において、超遅延性減水剤は、前記JISのA 6204(コンクリート用化学混和剤)の遅延形減水剤よりも、高温環境用コンクリートの始発時間および/または終結時間の差分(遅延時間の間隔)が大きい減水剤をいう。」を削除する。

(23)訂正事項23
本件明細書の段落【0019】の「前記減水剤(R1)の減水成分は特に制限されず、例えば、リグニンスルホン酸、ナフタレンスンホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、およびこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。」を削除する。

(24)訂正事項24
本件明細書の段落【0019】に「また、減水剤(R1)は、前記減水成分に加えて、さらにクエン酸、酒石酸、およびショ糖等から選ばれる1種以上の凝結遅延剤を含んでもよい。」とあるのを、「また、減水剤(R1)は、さらにクエン酸、酒石酸、およびショ糖等から選ばれる1種以上の凝結遅延剤を含んでもよい。」に訂正する。

(25)訂正事項25
本件明細書の段落【0019】の「本発明で用いる減水剤(R1)は、好ましくは超遅延性減水剤または遅延形減水剤、より好ましくは超遅延性減水剤である。該超遅延性減水剤は、具体的には、BASF社製のマスターポゾリス(登録商標)No.89やBASF社製のマスターポゾリス(登録商標)138R等が挙げられる。」を削除する。

(26)訂正事項26
本件明細書の段落【0020】に「本発明で用いる減水剤(R2)は、前記減水剤(R1)を除く減水剤であり、具体的には、JISのA 6204(コンクリート用化学混和剤)に規定される標準形減水剤、標準形AE減水剤、高性能減水剤、および標準形高性能AE減水剤から選ばれる1種以上が挙げられる。」とあるのを、「本発明で用いる減水剤(R2)は、マスターレオビルド(登録商標)1000である。」に訂正する。

(27)訂正事項27
本件明細書の段落【0020】の「これらの中でも、減水剤(R2)は、好ましくは高性能減水剤である。」を削除する。

(28)訂正事項28
本件明細書の段落【0020】の「 また、前記減水剤(R2)は、減水成分で表わせば、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。」を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「高温環境用セメント組成物」を、「セメント組成物」と訂正するものであって、「高温環境用」の意味を下記訂正事項3により明確にすることに伴って、「高温環境用」という明確でない記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2?5の「高温環境用セメント組成物」を、「セメント組成物」と訂正するものであって、「高温環境用」の意味を下記訂正事項3により明確にすることに伴って、それぞれ「高温環境用」という明確でない記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の「前記フライアッシュの含有率が15?55質量%である、」を、「前記フライアッシュの含有率が15?55質量%であり、かつ、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート用の」と訂正するものであって、訂正前の請求項1の「セメント組成物」を限定したものであり、また、同「高温環境用」の意味を明確にするために、環境温度を具体的(25℃以上)に特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項5の「下記の減水剤(R1)、該減水剤(R1)を除く減水剤(R2)、細骨材、粗骨材、および水を含む・・・コンクリート。」との記載、段落【0026】の表1中の「R1 マスターポゾリス138R 登録商標」及び「R2 マスターレオビルド1000 登録商標」の記載、並びに訂正前の請求項6の「環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用される・・・高温環境用コンクリート。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項1の「フライアッシュのブレーン比表面積が2500?6000cm^(2)/g」を、「フライアッシュのブレーン比表面積が2900?4000cm^(2)/g」と訂正するものであって、数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、本件明細書の段落【0012】の「さらに、前記フライアッシュは、(1)ブレーン比表面積が2500?6000cm^(2)/g・・・を全て満たすものである。 ・・・ なお、該ブレーン比表面積は、・・・より好ましくは2900?4000cm^(2)/gである。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1の「フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が5質量%以下」を、「フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が2.2?4.0質量%」と訂正するものであって、数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、本件明細書の段落【0027】の【表2】におけるフライアッシュFA3の質量減少率が2.2質量%であるとの記載、及び同【0012】の「・・・質量減少率は、入手の容易性や強度発現性から ・・・ より好ましくは1.5?4.0質量%である。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項1の「フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が50質量%以上」を、「フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が51.3?63.1質量%」と訂正するものであって、数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、本件明細書の段落【0027】の【表2】におけるフライアッシュFA5のSiO_(2)含有率が51.3質量%であるとの記載、及び同フライアッシュFA3のSiO_(2)含有率が63.1質量%であるとの記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項1の「フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.2?1.0 」を、「フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.34?0.7」と訂正するものであって、数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、本件明細書の段落【0027】の【表2】におけるフライアッシュFA2の質量比「(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)」の値が0.34である点、及び同じく段落【0012】の「さらに、フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が・・・。なお、該比は、・・・より好ましくは0.28?0.7・・・である。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項5の「下記の減水剤(R1)、該減水剤(R1)を除く減水剤(R2)、細骨材、粗骨材、および水を含む、高温環境用コンクリート。減水剤(R1):超遅延性減水剤、遅延形減水剤、遅延形AE減水剤、および遅延形高性能AE減水剤から選ばれる1種以上の減水剤。」を、「マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート。」に訂正するものであって、減水剤(R1)及び減水剤(R2)を具体的に限定し、また、「高温環境用」の意味を明確にするために、環境温度を具体的(25℃以上)に特定したものであるから、訂正事項8は、明瞭でない記載の釈明、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、訂正前の請求項5の「下記の減水剤(R1)、該減水剤(R1)を除く減水剤(R2)、細骨材、粗骨材、および水を含む・・・コンクリート。」との記載、段落【0026】の表1中の「R1 マスターポゾリス138R 登録商標」及び「R2 マスターレオビルド1000 登録商標」の記載、並びに訂正前の請求項6の「環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用される・・・高温環境用コンクリート。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9は、特許請求の範囲の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない

(10)訂正事項10?18について
訂正事項10?18は、訂正事項1?9により特許請求の範囲を訂正したことに伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、本件明細書の段落【0008】の記載を特許請求の範囲の訂正と同様に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項10?18は、訂正事項1?9と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(11)訂正事項19について
訂正事項19は、訂正事項8により、特許請求の範囲の請求項5を訂正したことに伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、本件明細書の段落【0018】の記載を特許請求の範囲の訂正と同様に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項19は、訂正事項8と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(12)訂正事項20?28について
訂正事項20?28は、訂正事項3、8により、特許請求の範囲1、5に記載の減水剤(R1)及び減水剤(R2)を、それぞれ「マスターポゾリス(登録商標)138R」及び「マスターレオビルド(登録商標)1000」に限定したことに伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、本件明細書の段落【0019】及び【0020】の減水剤(R1)及び減水剤(R2)の記載を、それぞれ「マスターポゾリス(登録商標)138R」及び「マスターレオビルド(登録商標)1000」に訂正するものであり、また、それにより不要となった記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項20?28は、訂正事項3、8と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 一群の請求項について
訂正事項1?9に係る訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が直接的又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?9は、一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項10?28は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であり、一群の請求項の全ての請求項に関係する訂正である。
したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

5 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、訂正前の請求項1?6に係る訂正事項1?9については、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用はされない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明
本件訂正により訂正された請求項1?5に係る発明(これらをまとめて「本件訂正発明」という。)は,次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す)。

「【請求項1】
下記(1)?(4)の条件を全て満たすフライアッシュと、ポルトランドセメントとを少なくとも含むセメント組成物であって、
前記フライアッシュとポルトランドセメントの合計を100質量%として、前記フライアッシュの含有率が15?55質量%であり、かつ、
マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート用のセメント組成物。
(1)フライアッシュのブレーン比表面積が2900?4000cm^(2)/g
(2)フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が2.2?4.0質量%
(3)フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が51.3?63.1質量%
(4)フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.34?0.7(ただし、前記式中の化学式の単位は質量%である。)
【請求項2】
前記フライアッシュが、さらに下記(5)の条件を満たす、請求項1に記載のセメント組成物。
(5)フライアッシュ中の石英の格子体積が113.5?114.5Å
^(3)(ただし、前記格子体積はリートベルト解析法を用いて求めた値である。)
【請求項3】
さらに高炉スラグ粉末を含むセメント組成物であって、
ポルトランドセメント、フライアッシュ、および高炉スラグ粉末の合計を100質量%として、高炉スラグ粉末の含有率が50質量%以下である、請求項1または2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
さらに無水石膏、半水石膏、2水石膏から選ばれる1種以上の石膏を含む
セメント組成物であって、
ポルトランドセメント、フライアッシュ、高炉スラグ粉末、および前記石膏の合計を100質量%として、前記石膏の含有率がSO_(3)換算で2.5質量%以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のセメント組成物、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート。
【請求項6】
(削除) 」

第4 取消理由の概要
当審が通知した令和 1年 7月18日付けの取消理由(決定の予告)は、以下に示すとおり、特許法第36条第6項第2号に違反するとの取消理由を含むものである。

請求項1?5(平成30年11月22日付けの訂正請求書により訂正された請求項1?5)について

請求項1?5に係る発明において、超遅延性減水剤(R1)は「減水剤(R1):JISのA 6204(コンクリート用化学混和剤)の遅延形減水剤よりも、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリートの始発時間および/または終結時間の差分(遅延時間の間隔)が大きい超遅延性減水剤であって、減水成分が、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、およびこれらの塩から選ばれる1種以上である超遅延性減水剤」と特定され、本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0019】に「本発明において、超遅延性減水剤は、前記JISのA 6204(コンクリート用化学混和剤)の遅延形減水剤よりも、高温環境用コンクリートの始発時間および/または終結時間の差分(遅延時間の間隔)が大きい減水剤をいう。」との記載がある。
そこで、当審は、特許権者に対して平成31年3月28日付けで審尋を行って、1.本件明細書における「凝結時間の差分」に関する試験の条件が、「JIS A 6204」の試験条件と異なるものであるのかどうか、及び、2.本件発明の超遅延性減水剤とされている「BASF社製のマスターポゾリス(登録商標)138R」が、上記特定事項を充足すること、について具体的に説明することを求めた。
これに対して、特許権者は、平成31年 4月25日付けの回答書において、JIS A 6204「コンクリート化学混和剤」に準拠し環境温度20℃で、さらに同様にして環境温度27℃で「マスターポゾリス138R」及び「マスターポゾリスNo.89」それぞれの凝結時間の差分を求め、この結果を基に、「マスターポゾリスNo.89」は、前記JISに規定する遅延型減水剤に属し、また、「マスターポゾリス138R」は、環境温度20℃及び27℃において「マスターポゾリスNo.89」よりも始発及び凝結時間の差分が大きいことから、本件発明の「超遅延性減水剤」である旨を回答した。
しかし、JIS A 6204の遅延型減水剤は、減水剤として様々な成分のものがあるところ、リグニンスルホン酸系以外の「JIS A 6204の遅延型減水剤」に対して、上記「マスターポゾリス138R」が「マスターポゾリスNo.89」に対してと同様に25℃以上の高温環境下で「始発時間及び終結時間の差分(遅延時間の間隔)」が大きくなることは、本件明細書の記載から当業者に自明なことではない。
そうすると、上記回答では「マスターポゾリス138R」が上記特定事項を充足する(本件発明の「超遅延性減水剤」に属する)ものであるとはいい難い。
以上のことから、請求項1?5に係る発明の「減水剤(R1):JISのA 6204(コンクリート用化学混和剤)の遅延形減水剤よりも、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリートの始発時間および/または終結時間の差分(遅延時間の間隔)が大きい超遅延性減水剤」の特定事項によっては、本件明細書に超遅延性減水剤として例示されていた「BASF社製のマスターポゾリス(登録商標)138R」を含め、どのような超遅延性減水剤が当該特定事項で特定された「超遅延性減水剤」に該当するのか明らかではないから、請求項1?5に係る発明は明確であるとはいえない。


第5 当審の判断
本件訂正により、本件訂正発明において、コンクリートに含まれる「超遅延性減水剤」は、「マスターポゾリス(登録商標)138R」に特定された。
そこで、上記「マスターポゾリス(登録商標)138R」を発明特定事項とする本件訂正発明が明確であるといえるかどうかについて検討する。

(1)「マスターポゾリス(登録商標)138R」について
本件訂正発明で特定される「マスターポゾリス(登録商標)138R」は、本件明細書の表1及び段落【0036】の記載によると、BASF社製のリグニンスルホン酸系の「超遅延性減水剤」に係る製品であることは理解できる。
しかし、リグニンスルホン酸系であるということ以外は、「マスターポゾリス(登録商標)138R」は、発明の詳細な説明を参照しても、その組成は何ら明らかでない。
そして、一般的に、登録商標(商品名)により特定される製品は、品質などが継続的に一定化されているといえるものの、取得が困難である等により、当業者における認知度が極めて低い場合、当業者であっても発明を理解し得ないことになる。具体的には、「マスターポゾリス138R」が、当業者において十分に認知された、若しくは、認知され得るレベルのものであるか不明である。

そこで、合議体は、令和1年12月20日付けの審尋により、
本件訂正発明で特定された「マスターポゾリス(登録商標)138R」について、
(ア)一般的に流通し、取得が容易なものであるか否か、
(イ)当業者であれば、一定の品質であることを容易に認識(把握)することができるものであるか否か、
(ウ)品質、組成などを示すデータを過大な労力を要することなく取得できるものであるか否か、
(エ)品質、組成などを示すデータの取得に過大な労力を要するのであればその事情(理由)について、
それぞれ回答するように求めた。
(なお、BASF社が公開している「MasterPozzolish R138」(マスターポゾリス138Rの後継品)のデータシートを参照しても、その組成は不明であり、また、このデータシートをもって、これが、本件特許明細書に記載された「超遅延性減水剤」に属するものとして広く(一般に)知られているとの立証になるとまでは言い難い。
「MasterPozzolith R138」データシート、[online]、[令和2年3月16日検索]、インターネット、<URL:https://assets.master-builders-solutions.basf/en-sg/basf-masterpozzolith-r138-tds.pdf]>)

しかし、上記「第1 手続の経緯」に記載したとおり、当該審尋に対して、特許権者からは何ら回答はないから、依然として、本件訂正発明の上記「マスターポゾリス(登録商標)138R」が、当業者一般において、本件特許明細書に記載された「超遅延性減水剤」として、どのような特性を有するものであるのか認識(断定)することができない。

(2)まとめ
上記(1)に記載のとおり、上記「マスターポゾリス(登録商標)138R」を発明特定事項とする本件訂正発明は明確であるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項6に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項6に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高温環境用セメント組成物、および高温環境用コンクリート
【技術分野】
【0001】
本発明は、気温が高い地域で使用できる高温環境用セメント組成物と高温環境用コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱帯および亜熱帯等の気温が高い地域では、下記(i)および(ii)に記載の特性がコンクリートに求められる場合が多い。
(i)コンクリート内部の温度上昇は70℃以下であること。
(ii)高温下でもコンクリートの作業性が、一定時間確保できること。
そして、これらの要求特性を満たす高温環境用コンクリートとして、従来、高炉スラグ粉末を65?75質量%含むセメント、超遅延性減水剤、および高性能減水剤を含むコンクリート(以下「従来コンクリート」という。)が用いられている。
しかし、従来コンクリートは、強度発現性が良好で、水和熱も低いという利点があるものの、自己収縮ひずみが大きいという欠点がある。そして、自己収縮ひずみが大きいと、コンクリートにひび割れが発生し易く、コンクリートの耐久性が低下するおそれがある。そこで、従来コンクリーに比べ、自己収縮ひずみが小さく、強度発現性および温度上昇は同程度であるコンクリートが求められている。
【0003】
今まで、コンクリートの自己収縮ひずみを低減する手段は、いくつか提案されている。例えば、
特許文献1に記載のモルタル・コンクリートの製造方法は、二酸化ケイ素を主成分とし酸化ジルコニウムを一成分として含む微粒子からなる粉体を、モルタル・コンクリートに調合する製造方法である。また、
特許文献2に記載の水硬性組成物は、カルシウムサルホアルミネート(3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4))を3?60重量%、無水石膏を1?40重量%含むカルシウムサルホアルミネート組成物100質量部に対して、比表面積が1000?4000cm^(2)/gの炭酸リチウムを0.1?3.0質量部含んでなるコンクリート用組成物である。
【0004】
しかし、前記いずれの手段も、酸化ジルコニウムやカルシウムサルホアルミネートのような高価な材料を用いるため実用性に欠ける。そこで、高価な材料を用いることなく、前記の従来コンクリートに比べ、自己収縮ひずみが小さく、温度上昇および強度発現性が同程度であるコンクリートが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-203733号公報
【特許文献2】特開2002-097051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、高価な材料を用いることなく、コンクリート分野で広く用いられている材料を使用したコンクリートであって、従来コンクリートと比べ、自己収縮ひずみが小さく、温度上昇および強度発現性が同程度である高温環境用コンクリートと、該高温環境用コンクリートの製造に用いる高温環境用セメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、前記目的を達成できるセメント組成物とコンクリートを鋭意検討したところ、特定の条件を満たすフライアッシュを含むセメント組成物と、該セメント組成物を用いて製造したコンクリートは前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の構成を有する高温環境用セメント組成物と高温環境用コンクリートである。
【0008】
[1]下記(1)?(4)の条件を全て満たすフライアッシュと、ポルトランドセメントとを少なくとも含むセメント組成物であって、
前記フライアッシュとポルトランドセメントの合計を100質量%として、前記フライアッシュの含有率が15?55質量%であり、かつ、
マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート用のセメント組成物。
(1)フライアッシュのブレーン比表面積が2900?4000cm^(2)/g
(2)フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が2.2?4.0質量%
(3)フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が51.3?63.1質量%
(4)フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.34?0.7(ただし、前記式中の化学式の単位は質量%である。)
[2]前記フライアッシュが、さらに下記(5)の条件を満たす、前記[1]に記載のセメント組成物。
(5)フライアッシュ中の石英の格子体積が113.5?114.5Å^(3)(ただし、前記格子体積はリートベルト解析法を用いて求めた値である。)
[3]さらに高炉スラグ粉末を含むセメント組成物であって、
ポルトランドセメント、フライアッシュ、および高炉スラグ粉末の合計を100質量%として、高炉スラグ粉末の含有率が50質量%以下である、前記[1]または[2]に記載のセメント組成物。
[4]さらに無水石膏、半水石膏、2水石膏から選ばれる1種以上の石膏を含むセメント組成物であって、
ポルトランドセメント、フライアッシュ、高炉スラグ粉末、および前記石膏の合計を100質量%として、前記石膏の含有率がSO_(3)換算で2.5質量%以下である、前記[1]?[3]のいずれかに記載のセメント組成物。
[5]前記[1]?[4]のいずれかに記載のセメント組成物、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート。
[6](削除)
【発明の効果】
【0009】
本発明の高温環境用セメント組成物を用いて製造した高温環境用コンクリートは、従来コンクリートに比べ、自己収縮ひずみが小さく、温度上昇および強度発現性は同程度である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】コンクリートを打設した状態の簡易断熱試験用容器を示す図である。ただし、数値の単位はmmである。
【図2】(a)は埋込型ひずみ計を支持した支持鋼材を示し、(b)は該支持鋼材を簡易断熱試験用容器に設置する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本発明の高温環境用セメント組成物について説明する。
1.高温環境用セメント組成物
本発明の高温環境用セメント組成物は、フライアッシュとポルトランドセメントを少なくとも含み、該フライアッシュの含有率は、該フライアッシュとポルトランドセメントの合計を100質量%として15?55質量%である。フライアッシュの含有率が15質量%未満では、高温環境用コンクリートの自己収縮ひずみと温度上昇が大きくなり、55質量%を越えると、高温環境用コンクリートの強度発現性が低下する。なお、該フライアッシュの含有率は、好ましくは30質量%を超え53質量%以下、より好ましくは30.5?50質量%である。
また、前記ポルトランドセメントは、日本工業規格(以下「JIS」という。)のR 5210(ポルトランドセメント)に規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、および低熱ポルトランドセメントから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、前記ポルトランドセメントは、高温環境用コンクリートの強度発現性の向上等から、好ましくは普通ポルトランドセメントおよび/または早強ポルトランドセメントである。
【0012】
さらに、前記フライアッシュは、(1)ブレーン比表面積が2500?6000cm^(2)/g、(2)975±25℃で15分間加熱した後の質量減少率が5質量%以下、(3)SiO_(2)の含有率が50質量%以上、および、(4)(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.2?1.0(ただし、前記式中の化学式の単位は質量%である。)の条件を全て満たすものである。
フライアッシュのブレーン比表面積が2500cm^(2)/g未満では、高温環境用コンクリートの強度発現性が低下し、6000cm^(2)/gを越えると、高温環境用コンクリートの自己収縮ひずみと温度上昇が大きくなるほか、ブレーン比表面積が6000cm^(2)/gを越えるフライアッシュを入手することは困難である。なお、該ブレーン比表面積は、好ましくは2700?5000cm^(2)/g、より好ましくは2900?4000cm^(2)/gである。
また、フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が5質量%を越えると、高温環境用コンクリートの強度発現性が低下する。なお、該質量減少率は、入手の容易性や強度発現性から、好ましくは1.0?4.5質量%、より好ましくは1.5?4.0質量%である。
また、フライアッシュのSiO_(2)の含有率が50質量%未満では、高温環境用コンクリートの強度発現性が低下する。なお、該SiO_(2)の含有率は、入手の容易性や強度発現性から、好ましくは51?70質量%、より好ましくは52?65質量%である。
さらに、フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.2未満では、高温環境用コンクリートの環境温度(コンクリートの周辺の温度)が高くなった場合(例えば27℃以上の場合)に強度発現性が低下し、1.0を越えると高温環境用コンクリートの環境温度が高くなった場合(例えば27℃以上の場合)に自己収縮ひずみと温度上昇が大きくなる。なお、該比は、好ましくは0.25?0.8、より好ましくは0.28?0.7、さらに好ましくは0.3?0.6である。
【0013】
また、フライアッシュは、通常、石英を5?25質量%含むものであり、本発明で用いるフライアッシュ中の石英の格子体積は、リートベルト解析法を用いて求めた値で、好ましくは113.5?114.5Å^(3)である。石英の格子体積が前記範囲にあれば、高温環境用コンクリートの環境温度が高くなった場合(例えば27℃以上の場合)に、自己収縮ひずみと温度上昇をさらに抑制できる。なお、石英の格子体積は、より好ましくは113.6?114.4Å^(3)、さらに好ましくは113.7?114.3Å^(3)である。
フライアッシュ中の石英のリートベルト解析は、フライアッシュのX線回折図に基づき、例えば、Bruker社製の解析ソフト(Topas ver.2.1)、および結晶構造データ(ICDD number)として331161(Quartz)を用いて行うことができる。
【0014】
なお、高温環境用コンクリートの流動性の向上や自己収縮ひずみの抑制のために、前記フライアッシュは、さらに下記の測定方法で測定して算出した締め固め密度が、好ましくは1.0?1.5cm^(3)/g、より好ましくは1.05?1.45cm^(3)/g、さらに好ましくは1.1?1.4cm^(3)/gである。
[締め固め密度の測定方法]
ホソカワミクロン社製のパウダーテスターPT-Dを用いて、フライアッシュを100cm^(3)のカップ内に充填しながら、当該カップを180秒間で180回タッピングした後、当該カップ内で締め固まったフライアッシュの質量を測定し、締め固め密度を算出する。
【0015】
本発明の高温環境用セメント組成物は、さらに高炉スラグ粉末を含んでもよい。高炉スラグ粉末は、高温環境用コンクリートの長期の強度発現性を向上させる効果がある。
本発明の高温環境用セメント組成物が高炉スラグ粉末を含む場合、フライアッシュ、ポルトランドセメント、および高炉スラグ粉末の合計を100質量%として、高炉スラグ粉末の含有率は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。高炉スラグ粉末が50質量%を越えると、高温環境用コンクリートの長期の強度発現性の向上効果が低下するほか、自己収縮ひずみが大きくなる。
なお、前記高炉スラグ粉末のブレーン比表面積は、高温環境用コンクリートの強度発現性の向上や温度上昇の抑制のため、好ましくは3000?6000cm^(2)/g、より好ましくは3300?5000cm^(2)/gである。
【0016】
本発明の高温環境用セメント組成物は、さらに無水石膏、半水石膏、および2水石膏から選ばれる1種以上の石膏を含んでもよい。石膏は高温環境用コンクリートの強度発現性を向上させる効果がある。
本発明の高温環境用セメント組成物が石膏を含む場合、フライアッシュ、ポルトランドセメント、高炉スラグ粉末、および石膏の合計を100質量%として、石膏の含有率はSO_(3)換算で2.5質量%以下である。石膏の含有率がSO_(3)換算で2.5質量%を越えると、高温環境用コンクリートの自己収縮ひずみと温度上昇が大きくなる。なお、前記石膏の含有率はSO_(3)換算で、より好ましくは2.2質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下、特に好ましくは1.6質量%以下である。
前記石膏は、高温環境用コンクリートの強度発現性の向上のため、好ましくは無水石膏または2水石膏である。また、石膏のブレーン比表面積は、強度発現性の向上や温度上昇の抑制のため、好ましくは3000?15000cm^(2)/g、より好ましくは3500?13000cm^(2)/gである。
【0017】
なお、本発明の高温環境用セメント組成物は、任意の構成成分として、石灰石粉末、石英粉末、およびシリカフューム等を含むことができる。
【0018】
次に、本発明の高温環境用コンクリートについて説明する。
本発明の高温環境用コンクリートは、前記高温環境用セメント組成物、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含むコンクリートである。
前記高温環境用セメント組成物の単位量は、好ましくはコンクリート1m^(3)あたり200?550kgである。該単位量がこの範囲にあれば、強度発現性、流動性、およびワーカビリティー等が良好である。なお、該単位量は、より好ましくはコンクリート1m^(3)あたり220?520kg、特に好ましくはコンクリート1m^(3)あたり250?480kgである。
【0019】
さらに、高温環境用セメント組成物以外の、高温環境用コンクリートの構成成分について説明する。
2.減水剤(R1)
本発明で用いる減水剤(R1)は、マスターポゾリス(登録商標)138Rである。また、減水剤(R1)は、さらにクエン酸、酒石酸、およびショ糖等から選ばれる1種以上の凝結遅延剤を含んでもよい。
前記減水剤(R1)の添加量は、前記高温環境用セメント組成物100質量部に対し、好ましくは0.1?1質量部(B×0.1?1%)である。該添加量が前記範囲内にあれば、コンクリートの作業性や中長期の強度発現性が良好である。なお、該添加量は、前記高温環境用セメント組成物100質量部に対し、より好ましくは0.3?0.8質量部(B×0.3?0.8%)である。
【0020】
3.減水剤(R2)
本発明で用いる減水剤(R2)は、マスターレオビルド(登録商標)1000である。
前記減水剤(R2)の添加量は、前記高温環境用セメント組成物100質量部に対し、好ましくは0.1?4質量部(B×0.1?4%)である。該添加量が前記範囲内であれば、コンクリートの作業性や中長期の強度発現性が良好である。なお、該添加量は、前記高温環境用セメント組成物100質量部に対し、より好ましくは0.3?3質量部(B×0.3?3%)、さらに好ましくは0.5?2質量部(B×0.5?2%)である。
【0021】
4.細骨材
本発明で用いる細骨材は、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、および軽量細骨材から選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材は天然骨材のほか、再生骨材を用いることができる。
細骨材の単位量は、好ましくはコンクリート1m^(3)あたり600?900kgである。該単位量がこの範囲にあれば、高温環境用コンクリートの流動性およびワーカビリティー等が良好である。なお、該単位量は、より好ましくはコンクリート1m^(3)あたり650?850kgである。
【0022】
5.粗骨材
本発明で用いる粗骨材は、砂利、砕石、スラグ粗骨材、および軽量粗骨材から選ばれる1種以上が挙げられる。また、粗骨材は、前記細骨材と同様に、天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
粗骨材の単位量は、好ましくはコンクリート1m^(3)あたり900?1130kgである。該単位量がこの範囲にあれば、高温環境用コンクリートの流動性およびワーカビリティー等が良好である。なお、該単位量は、より好ましくはコンクリート1m^(3)あたり950?1080kgである。
【0023】
6.水
本発明で用いる水は、高温環境用コンクリートの強度や流動性等の物性に悪影響を与えないものであれば用いることができ、例えば、水道水、下水処理水、生コンクリートの上澄水等が挙げられる。
水の単位量は、好ましくはコンクリート1m^(3)あたり100?200kgである。該単位量がこの範囲にあれば、高温環境用コンクリートの流動性およびワーカビリティー等が良好である。なお、該単位量は、より好ましくは該コンクリート1m^(3)あたり130?180kgである。
【0024】
7.任意の構成成分
本発明の高温環境用コンクリートは、前記必須の構成成分の他に、収縮ひび割れを抑制するため、膨張材および/または収縮低減剤を含むことができる。また、高温環境用コンクリートの作業性の向上や流動時間を確保するために、前記減水剤(R1)および減水剤(R2)に加えて、さらに凝結遅延剤を含むことができる。また、高温環境用コンクリート中の過度の空気連行を抑制するため、空気量調整剤を含むことができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
試験に用いた各種材料を表1に示す。また、試験に用いたフライアッシュ(FA)の特性を表2に示す。なお、表2中のFA1?5は、前記(1)?(4)の条件を全て満たすが、FA6?10は前記(1)?(4)の条件のいずれかを満たさない。
また、フライアッシュ中の石英の格子体積を求める際に用いたX線回折分析(XRD)の測定条件とリートベルト解析の条件は、以下のとおりである。
(a)X線回折分析の測定条件
X線回折分析は、Bruker社製のX線回折装置(D8 Advance)を用いて、ターゲットCuKα、管電圧35kV、管電流350mA、走査範囲10?60°(2θ)、ステップ幅0.0234°、およびスキャンスピード0.13°/sの条件で測定した。
(b)リートベルト解析条件
リートベルト解析は、Bruker社製の解析ソフト(Topas ver.2.1)を用いた。また、結晶構造データ(ICDD number)は331161(Quartz)を用いた。
また、表2中のFA2?4の締め固め密度は、前記の締め固め密度の測定方法を用いて測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
2.高温環境用セメント組成物の製造
フライアッシュ(FA)、セメント(C)、任意成分である高炉スラグ粉末(BS)および石膏粉末(GG)を、表3に示すセメント組成物の配合に従い混合して、セメント組成物を製造した。
なお、表3において、
(i)実施例1?16は、前記(1)?(4)の条件を全て満たすフライアッシュ(FA1?5)とポルトランドセメントの合計を100質量%として、前記フライアッシュの含有率が15?55質量%の範囲にある、本発明の高温環境用セメント組成物である。
(ii)比較例1、2、および10は、フライアッシュを含まないセメント組成物である。
(iii)比較例3?9は、前記(1)?(4)の条件のいずれかを満たさないFA6?10を含むセメント組成物である。
(iV)比較例11、12は、フライアッシュの含有率が前記15?55質量%の範囲を外れたセメント組成物である。
【0029】
【表3】

【0030】
2.コンクリートの配合
試験に用いたコンクリートの配合を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
3.試験方法
表5に示す各種の試験を、表5に示すJIS等の試験方法に準拠して行った。
【0033】
【表5】

【0034】
4.コンクリートのフレッシュ性状の試験
(1)試験方法
コンクリートの混練は、環境温度をシンガポールの試験基準である27℃に調整した試験室内で、公称容積55Lの強制パン型ミキサに、粗骨材、細骨材、および表3に記載のセメント組成物を投入した。次に、20秒間空練りをした後、水、減水剤、および空気量調整剤を投入し、60秒間練り混ぜた。そして、ミキサ内のコンクリートを掻き落とした後、再度60秒間練り混ぜて、コンクリートを排出した後、直ちにコンクリートのスランプ、空気量、および(フレッシュ)コンクリートの温度を測定した。代表例として、実施例1?4、実施例6?9、および比較例1、2のセメント組成物を用いたコンクリートNo.1?5の試験結果を、表6に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
(2)試験結果の評価
表6に示すように、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1?4、および実施例6?9)を用いた本発明の高温環境用コンクリートの各種のフレッシュ性状は、フライアッシュを含まない従来コンクリート(比較例1、2)のフレッシュ性状とほとんど差がなく、コンクリートの施工性が同等であった。
一方、超遅延性減水剤(R1)を含まないコンクリート(No.3)は、スランプが3.0cmと小さく、施工性が劣っていた。
【0037】
5.自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇量、および圧縮強度の試験
(1)試験方法
簡易断熱温度上昇量の試験に用いた簡易断熱試験用容器は、図1に示すように、厚さが200mmの発泡スチロール製断熱材と、試験後に脱型が容易なように厚さ12mmのコンクリートパネルを用いて、縦400mm、横400mm、および高さ400mmの大きさの内部空間を形成してなる容器である。
そして、図2(a)に示す測温機能付き埋込型ひずみ計を取り付けた支持鋼材を、図2(b)に示すように、該内部空間の中心に立てて設置した。次に、前記混練した実施例および比較例のコンクリートを3層に分け、1層毎にバイブレータをかけて打設した後、コンクリートパネルおよび発泡スチロール製断熱材を用いて容器に蓋をした後、環境温度が27℃で、材齢28日のコンクリートの自己収縮ひずみと簡易断熱温度上昇量を測定した。
また、コンクリートの圧縮強度は、表5に記載のとおり、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定した。
これらの試験結果を表7に示す。
【0038】
【表7】

【0039】
(2)試験結果の評価
(i)自己収縮ひずみについて
コンクリートの自己収縮ひずみについて、表7から、以下のことが云える。すなわち、
(a)(Na_(2)O+0.658K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が1.78と大きなFA10を含む比較例7を用いたコンクリート(試験例10)では-208×10^(-6)と大きいのに対し、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1?5)を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例1?5)では-105?-155×10^(-6)と小さい。また、同様に、
(b)コンクリート(試験例17)では-292×10^(-6)と大きいのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例11?15)では-230?-268×10^(-6)と小さい。
(c)コンクリート(試験例26)では-250×10^(-6)と大きいのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例20?24)では-135?-180×10^(-6)と小さい。
(d)コンクリート(試験例33)では-392×10^(-6)と大きいのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例27?31)では-330?-366×10^(-6)と小さい。
また、これらの結果は、水/セメント組成物(W/B)比に影響されない。
これらに対し、高炉スラグを含むがフライアッシュを含まないセメント組成物(比較例1および2)を用いた従来コンクリート(試験例18および19)の自己収縮ひずみは、それぞれ-300×10^(-6)および-350×10^(-6)と、前記試験例1?5および11?15の自己収縮ひずみと比べ大きい。
【0040】
(ii)簡易断熱温度上昇量について
コンクリートの簡易断熱温度上昇量について、表7から、以下のことが云える。すなわち、
(a)(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が1.78と大きなFA10を含む比較例7を用いたコンクリート(試験例10)では43℃と高いのに対し、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1?5)を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例1?5)では31?35℃と低い。また、同様に、
(b)コンクリート(試験例17)では40℃と高いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例11?15)では28?33℃と低い。
(c)コンクリート(試験例26)では38℃と高いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例20?24)では28?32℃と低い。
(d)コンクリート(試験例33)では36℃と高いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例27?31)では24?29℃と低い。
また、これらの結果は、水/セメント組成物比に影響されない。
【0041】
(ii)圧縮強度について
コンクリートの圧縮強度について、表7から、以下のことが云える。すなわち、
(a)ブレーン比表面積が2500cm^(2)/gより小さいFA6を含む比較例3を用いたコンクリート(試験例6)、質量減少率が5質量%より大きいFA7を含む比較例4を用いたコンクリート(試験例7)、SiO_(2)の含有率が50質量%より小さいFA8を含む比較例5を用いたコンクリート(試験例8)、および(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.2より小さなFA9を含む比較例6を用いたコンクリート(試験例9)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ48?50MPa、54?56MPa、および65?67MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用セメント組成物(実施例1?5)を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例1?5)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ56?58MPa、62?63MPa、および70?72MPaと高い。また、同様に、
(b)コンクリート(試験例16)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ52MPa、58MPa、および68MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例11?15)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ63?66MPa、67?71MPa、および73?78MPaと高い。
(c)コンクリート(試験例25)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ33MPa、41MPa、および46MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例20?24)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ39?42MPa、45?48MPa、および50?54MPaと高い。
(d)コンクリート(試験例32)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ36MPa、44MPa、および49MPaと低いのに対し、本発明の高温環境用コンクリート(試験例27?31)では、材齢28日、56日、および91日の圧縮強度は、それぞれ47?50MPa、53?57MPa、および57?61MPaと高い。
また、これらの結果は、水/セメント組成物比に影響されない。
【0042】
6.フライアッシュの含有率とコンクリート特性の関係
フライアッシュ(FA2)とポルトランドセメントの合計を100質量%として、フライアッシュ(FA2)の含有率が0質量%(比較例10)、10質量%(比較例11)、25質量%(実施例11)、45質量%(実施例12)、および60質量%(比較例12)のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例41?45)を、前記コンクリートのフレッシュ性状の試験方法と同様に混練して、前記と同様にコンクリートの自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇量、および圧縮強度を測定した。その結果を、前記試験例2(セメント組成物中のフライアッシュ(FA2)の含有率は30.5質量%)、18および19の結果とともに表8に示す。
【0043】
【表8】

【0044】
自己収縮ひずみは、フライアッシュの含有率が0質量%、および10質量%と少ない試験例43および44では、それぞれ-210×10^(-6)および-185×10^(-6)と大きいのに対し、該含有率が25?45質量%の本発明の高温環境用セメント組成物(実施例11、2および12)を用いたコンクリート(試験例41、2および42)では、-100?-120×10^(-6)と小さい。
また、従来コンクリート(試験例18および19)と比べても、コンクリート(試験例41、2および42)の自己収縮ひずみは小さく、圧縮強度は同程度である。
【0045】
7.高炉スラグ粉末の含有率とコンクリートの圧縮強度の関係
フライアッシュ(FA2)、ポルトランドセメント、および高炉スラグ粉末の合計を100質量%として、高炉スラグ粉末の含有率が38.3質量%(実施例13)、43.1質量%(実施例14)、47.8質量%(実施例15)、および57.4質量%(実施例16)の本発明の高温環境用セメント組成物を用いたコンクリート(試験例46?49)を、前記コンクリートのフレッシュ性状の試験方法と同様に混練して、前記と同様にコンクリートの圧縮強度を測定した。その結果を、前記試験例2(セメント組成物中の高炉スラグ粉末の含有率は0質量%)、12(セメント組成物中の高炉スラグ粉末の含有率は28.7質量%)、18および19の結果とともに表9に示す。
【0046】
【表9】

【0047】
表9に示すように、適量の高炉スラグ粉末と石膏を含む本発明の高温環境用セメント組成物を用いたコンクリート(試験例12、46?49)は、強度発現性、特に材齢28日の強度発現性が向上することが分かる。
【0048】
(参考例)
前記FA2を含むセメント組成物(実施例2)を用いたNo.6のコンクリート(試験例50)と、前記FA10を含むセメント組成物(比較例7)を用いたNo.6のコンクリート(試験例51)の、環境温度が20℃における自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇、および圧縮強度を、20℃に調整した試験室内でコンクリートの混練等を行った以外は、前記と同様にして測定した。その結果を表10に示す。
なお、前記コンクリートのスランプおよび空気量は、それぞれ、試験例50で10.6cmおよび1.4%、試験例51で10.3cmおよび空気量1.4%であった。
【0049】
【表10】

【0050】
環境温度が20℃では、表10に示すように、実施例2のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例50)と、比較例7のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例51)では、自己収縮ひずみ、簡易断熱温度上昇、および圧縮強度に差はない。
しかし、環境温度が27℃と高温になると、表7に示すように、試験例50および試験例51にそれぞれ対応する、実施例2のセメント組成物を用いた本発明の高温環境用コンクリート(試験例21)と、比較例7のセメント組成物を用いたコンクリート(試験例26)では、自己収縮ひずみ、および簡易断熱温度上昇に大きな差が生じ、試験例21は試験例26と比べ、自己収縮ひずみと簡易断熱温度上昇がいずれも低い。
したがって、本発明によれば、コンクリート分野で広く用いられている材料を使用して、自己収縮ひずみ、および温度上昇が低い高温環境用コンクリートを提供できる。
【符号の説明】
【0051】
1 埋込型ひずみ計
2 蓋
3 コンクリートパネル
4 支持鋼材
5 コンクリート
6 発泡スチロール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)?(4)の条件を全て満たすフライアッシュと、ポルトランドセメントとを少なくとも含むセメント組成物であって、
前記フライアッシュとポルトランドセメントの合計を100質量%として、前記フライアッシュの含有率が15?55質量%であり、かつ、
マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート用のセメント組成物。
(1)フライアッシュのブレーン比表面積が2900?4000cm^(2)/g
(2)フライアッシュを975±25℃で15分間加熱した後の、フライアッシュの質量減少率が2.2?4.0質量%
(3)フライアッシュ中のSiO_(2)の含有率が51.3?63.1質量%
(4)フライアッシュ中の(Na_(2)O+0.658×K_(2)O)/(MgO+SO_(3)+TiO_(2)+P_(2)O_(5)+MnO)の質量比が0.34?0.7(ただし、前記式中の化学式の単位は質量%である。)
【請求項2】
前記フライアッシュが、さらに下記(5)の条件を満たす、請求項1に記載のセメント組成物。
(5)フライアッシュ中の石英の格子体積が113.5?114.5Å^(3)(ただし、前記格子体積はリートベルト解析法を用いて求めた値である。)
【請求項3】
さらに高炉スラグ粉末を含むセメント組成物であって、
ポルトランドセメント、フライアッシュ、および高炉スラグ粉末の合計を100質量%として、高炉スラグ粉末の含有率が50質量%以下である、請求項1または2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
さらに無水石膏、半水石膏、2水石膏から選ばれる1種以上の石膏を含むセメント組成物であって、
ポルトランドセメント、フライアッシュ、高炉スラグ粉末、および前記石膏の合計を100質量%として、前記石膏の含有率がSO_(3)換算で2.5質量%以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のセメント組成物、マスターポゾリス(登録商標)138R、マスターレオビルド(登録商標)1000、細骨材、粗骨材、および水を含み、環境温度(コンクリートの周囲の温度)が25℃以上の環境下で使用されるコンクリート。
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-27 
出願番号 特願2016-565710(P2016-565710)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 金 公彦
後藤 政博
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6086465号(P6086465)
権利者 太平洋セメント株式会社
発明の名称 高温環境用セメント組成物、および高温環境用コンクリート  
代理人 新井 範彦  
代理人 新井 範彦  

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