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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C21D
管理番号 1363986
異議申立番号 異議2019-700791  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-03 
確定日 2020-06-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6494865号発明「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6494865号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6494865号の請求項1に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 特許第6494865号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6494865号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2018-509020号)は、平成29年3月16日(優先権主張 平成28年3月30日)を国際出願日とするものであって、平成31年3月15日に特許権の設定登録がなされ、同年4月3日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

令和 1年10月 3日 特許異議申立書(請求項1?4に対して)の提出
特許異議申立人 アクシス国際特許業務法人
(以下、「申立人」という。)
(甲第1?8号証添付)
同年12月12日 取消理由通知の発送
(起案日 令和1年12月9日)
令和 2年 1月28日 意見書及び訂正請求書 提出
(以下、本訂正請求書による訂正請求を「本件訂正
請求」という。)
同年 2月 6日 通知書(申立人へ)の発送
(特許権者の意見書及び訂正請求書を添付)
なお、通知書に対して申立人から期間内に応答はなかった。

第2 訂正請求について
1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6494865号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める、というものである。

2.訂正事項
以下の記載で、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2に「ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である請求項1に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」とあるのを、
訂正後に「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)、及びCAAが50?170秒であり、ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」と訂正する。
請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3に「請求項1又は2」とあるのを、訂正後に「請求項2」に訂正する。
請求項3を引用する請求項4についても同様である。

3.訂正の可否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2について、訂正前の請求項1を引用する記載であったのを、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし、独立形式の記載へ改めるための訂正であり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3及び4も同様である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったものを、訂正前の請求項1の削除に伴い、これと整合させるために請求項2のみを引用するように訂正するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
請求項3を引用する請求項4についても同様である。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?4について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正(削除)される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(5)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、全ての請求項について特許異議申立の対象とされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4.訂正請求の結言
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び同第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び同条第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1-4]について訂正を認める。

第3 本件発明について
以上のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のものである。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)、及びCAAが50?170秒であり、ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項3】
請求項2に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。
【請求項4】
鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成する工程と、
請求項3に記載の焼鈍分離剤を二酸化ケイ素皮膜の表面に塗布し、焼鈍することにより、鋼板表面にフォルステライト皮膜を形成する工程とを含む、方向性電磁鋼板の製造方法。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1.申立人は、特許異議申立書において、概ね以下の申立理由を主張している。
<申立理由1:新規性要件違反>
請求項1、3、4に記載の発明(訂正前)は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
請求項2に記載の発明(訂正前)は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由2:進歩性要件違反>
請求項1?4に記載の発明(訂正前)は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術手段に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明と、周知技術(甲第1?4号証)及び技術常識(甲第5?7号証)に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由3:サポート要件違反>
請求項1?4に記載の発明(訂正前)は、以下の事由1、2により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合していないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(事由1)請求項1?4に記載の発明(訂正前)は「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」に関するものであり、「焼鈍分離剤用」という用途に適するものであるところ、当該「用途」に適することを裏付ける記載を本件特許明細書の発明の詳細な説明中に見いだせず、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」に関するものである同発明は、サポート要件を満たしていない。
(事由2)請求項1、3、4に記載の発明(訂正前)は、「CAA」と「ブレーン比表面積」の二つの指標により特定されるが、「ホウ素(B)」及び「塩素(Cl)」について特定されておらず、発明の詳細な説明に開示された内容から拡張ないし一般化できるものとはいえない。

<証拠方法>
○甲第1号証:特許第3536775号公報
○甲第2号証:特許第2650817号公報
○甲第3号証:特開2012-72004号公報
○甲第4号証:特許第3892300号公報
○甲第5号証:特開2017-179461号公報
○甲第6号証:ニューセラミック粉体ハンドブック、株式会社サイエンスフォーラム、昭和58年7月25日発行、表紙、5-16頁、374-377頁、奥付
○甲第7号証:「空気透過法による粉体の平均粒度自動測定装置」、荒川正文 外1名、日本材料学会、「材料試験」第7巻第56号、267-271頁、昭和33年5月15日
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1952/7/56/7_56_267/_article/-char/ja/
○甲第8号証:特開2017-179459号公報

2.当審は、上記申立理由3の一部(事由2)を取消理由として通知した。

第5 当審の判断
1.申立理由3について
(1)事由2(取消理由で通知)について
上記「第2」で認容した本件訂正請求がなされて、請求項1が削除され、訂正後の請求項2が「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)、及びCAAが50?170秒であり、ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である」と訂正されることで、微量元素の一部(ホウ素、塩素)の含有量が特定されたことから、(事由2)を内容とする申立理由は解消され、本件発明2?4はサポート要件を満たすものである。

(2)事由1について
申立人は、請求項1?4に記載の発明(訂正前)は「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」であるのに、同発明の「酸化マグネシウム」が「焼鈍分離剤用」という用途に用いられるものであることが本件特許明細書の記載から裏付けられていない旨主張しており、この主張は訂正後の本件発明2?4においても同様に主張されているといえる。
しかしながら、本件特許明細書【0009】の記載から、本件発明2?4の「酸化マグネシウム」は、鋼板に施されて「フォルステライト」を生成することで「焼鈍分離剤」として機能するものであるといえるところ、本件発明2?4の「酸化マグネシウム」は、【表2】(【0067】)、【表3】(【0079】)から理解されるように「フォルステライト」を「90%以上」(本件特許明細書【0053】)生成できるものであることから、「焼鈍分離剤用」という用途に用いられるものであることは、本件特許明細書に記載されているといえる。
したがって、上記申立人の主張は採用できず、本件発明2?4はサポート要件を満たすものである。

2.申立理由1、2について
上記「第2」で認められた本件訂正請求による訂正及び上記「1.」の検討により、取消理由として通知せず、なお検討すべき残余の申立理由は以下のとおりである。

<申立理由1:新規性要件違反>
本件発明3、4は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由2:進歩性要件違反>
本件発明2?4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術手段に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明と、周知技術(甲第1?4号証)及び技術常識(甲第5?7号証)に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

3.申立理由1及び2についての検討
上記「2.」の申立理由1及び2について、本件発明2?4に妥当するかを以下でまとめて検討する。
以下で、甲各号証について、「甲第1号証」を「甲1」のように記載することがある。

3-1.甲各号証の記載事項
以下の摘示において「・・・」は記載の省略を示し、下線は当審が強調のために付記したものである。
3-1-1.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の記載がある。
(1ア)「【請求項1】クエン酸活性度が40%CAA で30?120s、BET 法による比表面積が8?50m^(2)/gおよび強熱減量による水和量が0.5 ?5.2 mass%で、母塩の形骸が残存する粒子を含む粉体であって、該粉体は、粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%および粒度2.5 ?5μmの含有率が7?40mass%で、かつ粒度0.2 ?0.8 μmの含有率と粒度2.5?5μmの含有率との合計が50mass%以上であることを特徴とする方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア。」
(1イ)「【0006】・・・方向性電磁鋼板の皮膜特性をある程度改善することができるが、被膜の形成はコイルに巻いた状態で行うために、コイルの外巻部分と内巻部分とで昇温速度や雰囲気が異なることにより、コイル全長にわたって良好な被膜を得ることは難しかった。・・・」
(1ウ)「【0010】この発明は、上記の事情に鑑みてなされたのであり、焼鈍分離剤の主成分となるマグネシアを改良することによって、煩雑な方法を用いることなく、コイル全面にわたって均一な被膜を得る方法について提案することを目的とする。」
(1エ)「【0014】ここで、クエン酸活性度は、クエン酸とMgO との反応活性度を測定したものであり、具体的には、温度:30℃、0.4 Nのクエン酸水溶液中に40%の最終反応当量のMgO 、すなわち40%CAA (Citric Acid Activity)にて投与して攪拌しつつ、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を測定し、この時間にてMgO の活性度を評価した。」
(1オ)「焼鈍分離剤用マグネシア」の「マグネシア粉体」の粉体特性(【0018】)について次の【表1】(【0020】)に記す。

(1カ)「【0028】従って、従来知られている、化学的活性度の異なる粉体を混合する方法と、この発明の一次粒子径が適正となるように粒度分布の異なる粉体を混合する方法とは、全く異なるものであり、化学的活性度が一定で粒径の異なる複数の粉体を混合することにより被膜が改善されることについては、今まで明らかにされていなかった。この発明は、40%CAA で表される活性度を殊更に変更する必要はなく、粉体粒子間、そして粉体と鋼板との間の接触面積を制御するために、粒度分布を制御するという新しい発想に基づくものである。」
(1キ)「【0032】また、これらの条件の他に、マグネシアの不純物として、以下の成分を所定の範囲内で含有することが可能である。
・・・
【0033】SO_(3) 含有量:0.03?0.5 mass%
B含有量:0.02?0.2 mass%
Cl含有量:0.002 ?0.1 mass%
F含有量:0.002 ?0.1 mass%
いずれの成分も適度に存在することにより、マグネシアの反応性を調節する働きがあり、いずれも下限未満では反応性が低くなり、上限をこえると点状の欠陥が発生することがある。」
(1ク)「【0035】まず、マグネシアの粒度分布を規制するに当り、マグネシアの結晶形態は、その少なくとも20mass%以上が母塩の形骸を有する粉体とする。例えば、水酸化マグネシウムを母塩とする場合は、水酸化マグネシウムは六角盤状となっており、これを焼成すると、焼成温度により、穴が多数空いた状態から、焼き締まりにより端部が丸みを帯び、さらに焼結により多面体構造となっていくが、ここでいう母塩の形骸とは、このような多面体構造になる前の段階を指す。この母塩の形骸が20mass%未満では、反応性が低下するため、20mass%以上とする。」
(1ケ)「【0036】さて、粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20mass%未満であったり、2.5 ?5μmの含有率が40mass%をこえると、鋼板とマグネシアとの接触面積が少なくなりすぎ、一方0.2 ?0.8 μmの含有率が90mass%をこえたり、2.5 ?5μmの含有率が7mass%未満になると、二次凝集が起こり、やはり鋼板とマグネシアとの接触面積が低下して、被膜の密着不良となる。さらに、0.2 ?0.8 μmの含有率と2.5 ?5μmの合計の含有率とが50mass%未満であると、超粗大粒の過多による反応性の低下、超微細粒の過多による鋼板へのマグネシアの焼付きまたは、中間の粒径の粉体のみにより構成されることによる、鋼板とマグネシアとの接触面積の低下により不良となる。」

3-1-2.甲第2号証の記載
甲第2号証には以下の記載がある。
(2ア)「【請求項1】 Si:2.5 ?4.0 wt%、酸可溶性Al:0.01?0.05wt%及びSb:0.01?0.20wt%を含有するけい素鋼スラブを熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍及び1回又は中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚とした後、脱炭・1次再結晶焼鈍を施し、次いでMgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施す一連の製造工程からなる一方向性けい素鋼板の製造方法において、焼鈍分離剤成分のMgO は、くえん酸活性度が、最終反応率40%の条件で100 ?400 秒、最終反応率80%の条件で1000?4000秒であり、しかも水和水分量が、20℃,60分間の条件で2.5 %以下であり、さらに平均粒子径が2.5μm 以下でかつ325 メッシュの不通過分が5%以下であることを特徴とする被膜特性及び磁気特性に優れた一方向性けい素鋼板の製造方法。」
(2イ)「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし、AlN を主要インヒビターとし、さらにSbを含有する成分系においては、sol.AlとSbの両者が脱炭焼鈍において表面濃化し、表面の酸化を抑制することから、引き続いて行われる最終仕上焼鈍過程における表面のフォルステライト被膜形成が不均一になって、密着性の脆弱な被膜となりやすい傾向があった。
【0006】この発明は、特にAl-Sbを含有する成分系の一方向性けい素鋼板の製造において憂慮されていた上記の問題を有利に解決し、安定して被膜特性及び磁気特性に優れた製品を得ることのできる製造方法を提案することを目的とする。」
(2ウ)「【0016】以上の知見をもとに、種々の実験を行ったところ、MgO の好適な活性度は、くえん酸活性度及び水和水分量によって示し得ることが分かった。まずくえん酸活性度の評価法について述べる。
1) 0.4規定のくえん酸水溶液100cm^(3)をビーカーにとり、30℃に保つ。ビーカ内には磁気回転子を入れておく。
2) 秤量したMgO をビーカー内に投入する。MgO の投入量は、所望の最終反応率によって変え、最終反応率が40%の場合は、2.00 g、80%の場合は1.00 gとする。(0.4規定のくえん酸水溶液100cm^(3)は、0.8 g のMgO と反応する。)
3)MgO をビーカー内に投入した時から正確に10秒後にスターラーのスイッチを入れ、磁気回転子を回転させる。
この間、液温は30℃±1℃に保つ。
4)スラリーのpHが8.0 になった時点を反応終了とし、MgO を投入した時からの時間を計り、その秒数をくえん酸活性度とする。」
(2エ)「【0021】さらに均一な被膜を得るために、MgO粒は、平均粒子径が2.5 μm 以下であることを必要とする。フォルステライト被膜形成反応は、鋼板表面の酸化物(SiO_(2)、Fe_(2)SiO_(4))とMgO との固相反応であるため、MgO の粒子径の影響を強く受ける。平均粒子径が2.5 μm を超えると、この固相反応が不均一となって良好な被膜が得られない。また同様な理由から、MgO の粒度分布に関し、325 メッシュの不通過分が5%以下であることが、所期した製品品質を得るために必要であり、不通過分が5%を超えると、被膜が不均一となる。」
(2オ)「【0024】鋼成分としては、この他、Cを0.02?0.12wt%程度と、インヒビター構成成分としてNを通常の範囲(0.004 ?0.01wt%程度)で含有するものであり、さらに必要に応じて、Mn、S、Se等を含有してもよい。その含有量は、それぞれ、Mn:0.03?0.15wt%程度、Sおよび/又はSeを合計で0.01?0.05wt%程度ある。さらに、2次再結晶を、磁気特性上、より有利なものとするために、CuやSnなどを、それぞれ0.02?0.20 wt%程度、0.02?0.20wt%程度含有させることも可能である。」
(2カ)「【0026】【実施例】実施例1
C:0.060 wt%、Si:3.12wt%、Mn:0.075 wt%、Se:0.023wt%、酸可溶性Al:0.024 wt%、N:0.0084wt%、Sb:0.032wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成からなるけい素鋼スラブを1420℃で20分間加熱後、熱間圧延により2.3 mm厚の熱延板とした。この熱延板を、1050℃で2分間加熱したあと、ミスト噴射により急冷し、次いで冷間圧延を施して0.30mmに仕上げた。この冷間圧延後は、H_(2)45%-N_(2)55%,露点63℃の雰囲気中で840℃、4分間の脱炭・1次再結晶焼鈍を行った。この板から、多数のテストピースを切り出し、焼鈍分離剤をスラリー状態で塗布後乾燥させた。この時の焼鈍分離剤として、MgO は表1に示す種々の特性を有するものを用い、さらに添加物としてTiO_(2)2%をそれぞれに添加した。なお、MgO の物性は、MgO 製造時の焼成条件と粉砕条件とを変更して変化させた。焼鈍分離剤を塗布した鋼板は、H_(2)雰囲気で1200℃、20時間の仕上焼鈍に供した。」
(2キ)【表1】(【0027】)

(2ク)「【0028】かくして得られた製品の被膜外観、被膜密着性及び磁気特性を表1に併記する。ここに平均粒子径は、光透過法により測定したものであり、また被膜密着性は、被膜がはく離しない最小曲げ直径で示す。表1から明らかなように、適合例においては、外観、密着性とも良好で、磁気特性も優れた製品が得られている。」
(2ケ)「【0029】実施例2
C:0.062 wt%、Si:3.09wt%、Mn:0.076 wt%、Se:0.021wt%、S:0.004 wt%、酸可溶性Al:0.025 wt%、N:0.0080wt%、Sb:0.030 wt%、Mo:0.02wt%、Cu:0.01wt%、Sn:0.10wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成からなるけい素鋼スラブを1420℃で20分間加熱後、熱間圧延により2.0 mm厚の熱延板とした。この熱延板を、1050℃で2分間加熱したあと、ミスト噴射により急冷し、次いで冷間圧延を施して0.23mmに仕上げた。この冷間圧延後は、H_(2)55%-N_(2)45%,露点65℃の雰囲気中で830 ℃、3分間の脱炭・1次再結晶焼鈍を行った。この板から、多数のテストピースを切り出し、焼鈍分離剤をスラリー状態で塗布後乾燥させた。この時の焼鈍分離剤として、MgO は表2に示す種々の特性を有するものを用い、さらに添加物としてSrSO_(4):1%、MnO_(2):1.5 %を、それぞれに添加した。焼鈍分離剤を塗布した鋼板は、H_(2)雰囲気で1200℃、10時間の仕上焼鈍に供した。」
(2コ)【表2】(【0030】)


3-1-3.甲第3号証の記載
甲第3号証には以下の記載がある。
(3ア)「【請求項6】BET比表面積が5m^(2)/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D_(50))が0.1?0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D_(10))と体積基準の累積90%粒子径(D_(90))との比
D_(90)/D_(10)が10以下である、純度99.5質量%以上の酸化マグネシウム微粒子。
・・・
【請求項9】塩素含有量が、500質量ppm以下である、請求項6?8のいずれか1項記載の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項10】クエン酸活性度(40%)が、20?2000秒である、請求項6?9のいずれか1項記載の酸化マグネシウム微粒子。」
(3イ)「【0018】本発明の酸化マグネシウム微粒子は、BET比表面積が5m^(2)/g以上であり、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D_(50))が0.1?0.5μmであり、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D_(10))と体積基準の累積90%粒子径(D_(90))との比D_(90)/D_(10)が10以下である。このような酸化マグネシウム微粒子は、粒子形状が小さく、反応性に優れるため、耐火物、添加剤、樹脂フィラー、電磁鋼材料、及び触媒等に適し、また、粒子形状が小さく、粒度にバラツキが少なく、分散性に優れるため、高機能性材料等へも好適に使用できる。
本発明の酸化マグネシウム微粒子のBET比表面積は好ましくは20m^(2)/g以上、より好ましくは40m^(2)/g以上であり、D_(50)は好ましくは0.2?0.4μmであり、D_(90)/D_(10)は好ましくは5以下である。」

3-1-4.甲第4号証の記載
甲第4号証には以下の記載がある。
(4ア)「【請求項1】粒子の累積細孔容積曲線において、第一変曲点径が0.30×10^(-6)m以下、粒子間空隙量が1.40×10^(-3)?2.20×10^(-3)m^(3)/kg、粒子内空隙量が0.55×10^(-3)?0.80×10^(-3)m^(3)/kgにあることを特徴とする粒子凝集構造を制御した酸化マグネシウム粒子集合体。」
(4イ)「さらに、CAAは、酸化マグネシウムとクエン酸との固相-液相反応により、実際の電磁鋼板の表面で起こるSiO_(2)と酸化マグネシウムとの固相-固相反応の反応性を、経験的にシミュレートしているにすぎない。固相-固相反応であるフォルステライト生成反応では、固相-液相反応と異なり、たとえばSiO_(2)皮膜と酸化マグネシウム粒子との接点の数に代表されるような、酸化マグネシウム粒子の凝集構造が大きく影響することが考えられる。すなわち、酸化マグネシウム粒子が活性な表面を持っていても、粒子凝集構造に影響される接点の数が少なければ反応が不充分になる。一方、不活性な表面を持つ酸化マグネシウム粒子であっても、接点の数を多くすれば十分な反応を行う事が出来る。
以上述べたように、これまで電磁鋼板用焼鈍分離剤の特性を表わす指標として用いられてきたCAAは、ある一定の条件下でのみ酸化マグネシウムの反応性を評価することができる指標であり、実際に電磁鋼板の表面上で起こる固相-固相反応を必ずしも評価しているとはいえないと考えられる。したがって、粉体粒子の凝集構造を考慮した固相-固相反応の制御方法を用いれば、これまでCAAを用いた指標では活性度が好ましくないとされてきた酸化マグネシウムにおいても、焼鈍分離剤に好適な粒子凝集構造を有する酸化マグネシウムが見出される可能性がある。
そこで本発明は、粒子凝集構造を制御することにより、酸化マグネシウムと表面のSiO_(2)皮膜との固相-固相反応を適切に制御し得る、酸化マグネシウム粒子集合体を提供することを目的とする。また本発明は、本発明の酸化マグネシウム粒子集合体を用いる方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤を提供すること、さらに本発明の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤を用いて処理して得ることができる方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。」(2頁45行?3頁14行)

3-1-5.甲第5号証の記載
甲第5号証には以下の記載がある。
(5ア)「【請求項1】硫黄含有量が0.1?0.5質量%、及びブレーン比表面積から算出される粒子径R_(Blaine)のBET比表面積から算出される粒子径R_(BET)に対する比である凝集度R_(Blaine)/R_(BET)が3.0?5.5である焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項2】ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である請求項1に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」
(5イ)「【0026】本発明において、凝集度とは、凝集粒子を構成する一次粒子の数がどの程度なのかを表す指標である。凝集度と、以下の式によって算出することができる。
凝集度=(ブレーン比表面積から算出される粒子径R_(Blaine))/(BET比表面積から算出される粒子径R_(BET))・・・(1)
【0027】ブレーン比表面積から算出される粒子径R_(Blaine)及びBET比表面積から算出される粒子径R_(BET)は、下記のように算出することができる。
粒子径R=(6/ρ)/A・・・(2)
【0028】(2)式において、Rは粒子径R_(Blaine)又はR_(BET)(10^(-6)m)、ρは密度(10^(3)Kg・m^(-3))、Aはブレーン比表面積又はBET比表面積(10^(3)m^(2)・kg^(-1))である。例えば、酸化マグネシウムの場合はρ=3.58×10^(3)Kg・m^(-3)なので、R=1.68/Aである。」

3-1-6.甲第6号証の記載
甲第6号証には以下の記載がある。
(6ア)376頁左欄?右欄に次の記載がある。
「2.2 比表面積
粒子の表面の性質が関係する粉体現象では、単位量の粉体中に含まれる粒子の表面積の総和、すなわち比表面積を用いねばならない。比表面積は一般に単位重量当たりで示すが、固体分の単位体積当たりで示すこともある。それぞれをS_(W)(cm^(2)/g)、S_(V)(cm^(2)/cm^(3))とするとS_(V)=ρ_(P)S_(W)である。ただし、ρ_(P)は粒子の密度を示す。比表面積の定義からもわかるように、S_(W)と個数基準分布の平均粒子径の関係は、粒子が球形とすると、
S_(W)=・・・=6/ρ_(P)D_(3)???[9]
すなわち、個数基準分布の体面積平均径D_(3)は比表面積の次元である。・・・なお、ここで定数6は球形粒子を仮定したときの形状係数であり、形状が変わると当然異なってくる。形状係数をk_(S)として比表面積と平均粒子径の関係を示すと、
S_(W)=k_(S)/ρ_(P)D_(m)???[10]
ここで、D_(m)を比表面積径といい、S_(W)の測定値から得られる平均粒子径である。・・・」

3-1-7.甲第7号証の記載
甲第7号証には以下の記載がある。
(7ア)267頁左欄?右欄に次の記載がある。
「・・・空気透過法は試料粉体の充てん層に空気を通過させて、その透過性から粉体の比表面積(単位重量の粉体の表面積)、したがって、平均粒子径を測定する方法である。・・・現在広く用いられているのはBlaine・・・の方法であり・・・透過法の基礎となるのはKozeny-Carman式である。・・・S_(W)は粉体の比表面積(cm^(2)/g)、ρは粉体の密度(g/cm^(3))・・・球体が均一な球形粒子からなるとすれば平均粒子径d_(m)は(2)式から求められる。
d_(m)=6/ρS_(W)????(2)・・・」

3-1-8.甲第8号証の記載
甲第8号証には以下の記載がある。
(8ア)「【0067】表1に、試薬を原料に製造した酸化マグネシウムの合成例1?4の成分を示す。」
(8イ)「【0068】【表1】


(8ウ)「【0069】
<試薬での実施例及び比較例>
<実施例1?3、比較例1?5>
合成例1?4を、表2に示す配合で混合し、実施例1?3及び比較例1?5の酸化マグネシウムを得た。なお、実施例1?3及び比較例1?5の酸化マグネシウムのCAAを測定したところ、すべて60?90秒の範囲だった。」
(8エ)「【0070】
得られた酸化マグネシウムを、脱炭焼鈍を終えた鋼板に塗布し、焼鈍し、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成した。このようにして得られた鋼板の、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性について、評価した。表2に、それらの結果を示す。
【0071】【表2】


3-2.甲第1号証に記載された発明の認定
(1)請求項の記載からの認定
ア 甲1の記載事項(1ア)から、甲1には、
「クエン酸活性度が40%CAA で30?120s、BET 法による比表面積が8?50m^(2)/gおよび強熱減量による水和量が0.5 ?5.2 mass%で、母塩の形骸が残存する粒子を含む粉体であって、該粉体は、粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%および粒度2.5 ?5μmの含有率が7?40mass%で、かつ粒度0.2 ?0.8 μmの含有率と粒度2.5 ?5μmの含有率との合計が50mass%以上である、方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア。」の発明について記載されている。

イ ここで、同(1キ)から、上記「マグネシア」は、「SO_(3)含有量:0.03?0.5 mass%、B含有量:0.02?0.2 mass%、Cl含有量:0.002 ?0.1 mass%、F含有量:0.002 ?0.1 mass%」の各成分を含むものである。

ウ すると、甲1には、
「クエン酸活性度が40%CAA で30?120s、BET 法による比表面積が8?50m^(2)/gおよび強熱減量による水和量が0.5 ?5.2 mass%で、母塩の形骸が残存する粒子を含む粉体であって、該粉体は、粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%および粒度2.5 ?5μmの含有率が7?40mass%で、かつ粒度0.2 ?0.8 μmの含有率と粒度2.5 ?5μmの含有率との合計が50mass%以上であり、SO_(3) 含有量:0.03?0.5 mass%、B含有量:0.02?0.2mass%、Cl含有量:0.002 ?0.1 mass%、F含有量:0.002 ?0.1 mass%を含む、方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア。」(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

(2)「粉体No2」(表1)からの認定
甲1の記載事項(1オ)の「No2」から、甲1には、「40%CAA」が「65s」、粒径が「0.2?0.8×10^(-6)m」の粒子の「含有率」が「77%」、粒径が「2.5?5×10^(-6)m」の粒子の「含有率」が「0%」、「平均粒径」が「0.7×10^(-6)m」で、B(ホウ素)を0.07mass%、Cl(塩素)を0.02mass%含む、方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア」について記載されている。
すると、甲1には、
「40%CAAが65s、粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が77%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.7μmで、B(ホウ素)を0.07mass%、Cl(塩素)を0.02mass%含む、方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア。」の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

(3)「粉体No1」(表1)からの認定
甲1の記載事項(1オ)の「No1」から、甲1には、「40%CAA」が「63s」、粒径が「0.2?0.8×10^(-6)m」の粒子の「含有率」が「98%」、粒径が「2.5?5×10^(-6)m」の粒子の「含有率」が「0%」、「平均粒径」が「0.4×10^(-6)m」で、B(ホウ素)を0.08mass%、Cl(塩素)を0.02mass%含む、方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア」について記載されている。
すると、甲1には、
「40%CAAが63s、粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が98%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.4μmで、B(ホウ素)を0.08mass%、Cl(塩素)を0.02mass%含む、方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア。」の発明(以下、「引用発明C」という。)が記載されていると認められる。

3-3.甲第2号証に記載された発明の認定
(1)請求項の記載について
甲2の記載事項(2ア)には、「被膜特性及び磁気特性に優れた一方向性けい素鋼板の製造方法」について記載されているところ、同(2エ)を参酌して、同方法に用いられる「焼鈍分離剤成分のMgO」に着目すれば、甲2には、
「くえん酸活性度が、最終反応率40%の条件で100 ?400 秒、最終反応率80%の条件で1000?4000秒であり、しかも水和水分量が、20℃、60分間の条件で2.5 %以下であり、さらに平均粒子径が2.5μm 以下でかつ325 メッシュの不通過分が5%以下である、焼鈍分離剤成分のMgO。」についての発明が記載されているといえる。

(2)表1の「3」からの認定
ここで、「添加物」として「MgO」に含まれる物質が、甲2の記載事項(2オ)(2カ)(2キ)に記載の「実施例1」では「TiO_(2)」のみなのに対して、同(2オ)(2ケ)(2コ)に記載の「実施例2」では「SrSO_(4)」「MnO_(2)」が含まれており、より添加物の少ない実施例1を選択し、その中で、「反応率40%」の「クエン酸活性度(秒)」が「50?170秒」の範囲にあって、より鉄損(磁気特性)である「W_(17/50)(W/Kg)」の少ない「3」に着目し、上記(1)でみた同(2ア)の【請求項1】の記載に則して整理すると、甲2には、
「くえん酸活性度が、最終反応率40%の条件で148秒、最終反応率80%の条件で1720秒であり、しかも水和水分量が、20℃、60分間の条件で2.1%であり、さらに平均粒子径が0.7μmでかつ325メッシュの不通過分が0.5%である、焼鈍分離剤成分のMgO。」の発明(以下、「引用発明D」という。)が記載されていると認められる。

3-4.引用発明Aを主引用例とする場合
(1)本件発明2と引用発明Aとの対比
ア 甲1の記載事項(1エ)の「クエン酸活性度」は、本件特許明細書【0025】に記載の「CAA」に相当するので、引用発明Aの「クエン酸活性度が40%CAA で30?120s」は、本件発明2の「CAAが50?170秒」と、「CAAが50?120秒」の点で一致する。

イ 本件特許明細書【0009】【0017】には、本件発明1の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」が「方向性電磁鋼板」を得るためのものであることが記載されているから、引用発明Aの「方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア」は、本件発明1の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」に相当する。

ウ 引用発明Aの「B含有量:0.02?0.2 mass%、Cl含有量:0.002?0.1 mass%」は、本件発明2の「ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である」と、「ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.002?0.05質量%以下である」点で一致する。

エ すると、本件発明2と引用発明Aとは、
「CAAが50?120秒で、ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.002?0.05質量%以下である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点A1)BET法による比表面積、強熱減量による水和量、及び、酸化マグネシウムの粉体の形状について、本件発明2では特定されないのに対して、引用発明Aでは「BET 法による比表面積が8?50m^(2)/gおよび強熱減量による水和量が0.5 ?5.2 mass%で、母塩の形骸が残存する粒子を含む粉体」である点。

(相違点A2)酸化マグネシウムの粉体の粒度に関して、本件発明2では「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」であるのに対して、引用発明Aでは「ブレーン比表面積」が不明であり、「粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%および粒度2.5 ?5μmの含有率が7?40mass%で、かつ粒度0.2 ?0.8 μmの含有率と粒度2.5?5μmの含有率との合計が50mass%以上である」点。

(2)相違点の検討
ア 事案に鑑み相違点A2について検討する。

イ 甲1には、引用発明Aにおける「方向性電磁鋼の焼鈍分離剤用マグネシア」の粒子の「BET比表面積」については記載されているが、「ブレーン比表面積」について記載も示唆も見いだせない。
また、甲3の記載事項(3ア)(3イ)には「酸化マグネシウム微粒子」の「BET比表面積」について記載されてはいるが、「BET比表面積」は、粒子表面の表面積と、粒子内部の孔部分の表面積との合計の表面積を意味するのに対して、「ブレーン比表面積」は粒子表面の表面積のみを意味するから、「BET比表面積」の計測値から「ブレーン比表面積」が導き出されるものではないので、引用発明Aの「粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%」に代えて、「ブレーン比表面積 2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」とすることは容易になし得ることとはいえない。
その他、上記「3.3-1-1.?3-1-7.」の甲各号証に摘示のとおり、甲1?甲7のいずれをみても、「ブレーン比表面積」については記載も示唆もされていない。

ウ 申立人は、相違点A2について、第一に、次のように主張する。

ウ(ア)甲5?7を技術常識として引用する。すなわち、上記記載事項(5イ)(6ア)(7ア)から、粒子のブレーン比表面積A[m^(2)/g]、粒子径R[μm]、粒子の密度ρ[g/cm^(3)]とすると、R=(6/ρ)/A (式)が成立する。

ウ(イ)すると、酸化マグネシウムの密度ρ=3.58×10^(3)[kg/m^(3)]=3.58[g/cm^(3)]であり、本件発明のブレーン比表面積がA=2.5×10^(3)?7.0×10^(3)[m^(2)・kg^(-1)]=2.5?7.0[m^(2)/g]だから、粒子径R=0.239?0.670[μm]となる。

ウ(ウ)したがって、引用発明Aの「粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%」は本件発明のブレーン比表面積に対応する粒子径0.239?0.670[μm]と重複するので、引用発明Aのブレーン比表面積は本件発明1のブレーン比表面積に相当する。

エ しかしながら、上記申立人の第一の主張は以下の点で妥当でない。

エ(ア)上記記載事項(6ア)には、上記式の成立する条件として、「粒子が球形とすると」とされ、また、「定数6は球形粒子を仮定したときの形状係数であり、形状が変わると当然異なってくる」と記載されており、同(7ア)には、「球体が均一な球形粒子からなるとすれば」と記載されるように、上記式が成立するのは、粒子が「均一な球形粒子」であることが必要条件といえる。

エ(イ)しかしながら、本件特許明細書【0016】【0028】【0029】等の記載から、本件発明2における「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」は、「凝集粒子」であるといえるものであり、「凝集粒子」は通常は一定の形状を有さないので、「均一な球形粒子」であるとはいえない。
なお、引用発明Aの「マグネシア」は「母塩の形骸が残存する粒子を含む粉体」であり、これは同(1ク)から、焼成により「穴が多数空いた状態」で「焼き締まりにより端部が丸みを帯び」た状態のものを含むものといえるが、そのような粉体も「均一な球形粒子」であるとはいえない。
また、「凝集粒子」であれば、穴状の部分を多数有するであろうから、その場合に、同粒子の密度ρとして、酸化マグネシウムの真密度といえる3.58[g/cm^(3)]を用いることは妥当ではない。

エ(ウ)つまり、本件発明2における「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」の粒子の「ブレーン比表面積」から同粒子の粒径を上記式を適用することにより求めることは妥当とはいえない。

エ(エ)したがって、引用発明Aの「粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%」が、本件発明2における「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」の粒子の「ブレーン比表面積」に対応するものとはいえないから、相違点A2は、なお、実質的な相違点といえる。

エ(オ)さらに、仮に、上記ウ(ア)の式が妥当に成立するとして本件発明2に適用すると、本件発明2の「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」から計算される本件発明2の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」の粒径は、上記ウ(イ)から、0.239?0.670[μm]であり、「粒度2.5 ?5μm」のものを本件発明2は含まない。
しかし、引用発明Aの「マグネシア」の「粉体」は、「粒度0.2 ?0.8 μmの含有率が20?90mass%および粒度2.5 ?5μmの含有率が7?40mass%で、かつ粒度0.2 ?0.8 μmの含有率と粒度2.5 ?5μmの含有率との合計が50mass%以上であ」るものであり、同(1ケ)から、「二次凝集」による「被膜の密着不良」等の種々の不良を防ぐために、「粒度0.2 ?0.8 μm」のものと「粒度2.5?5μm」のものとが特定量で共存することを必須とする。
したがって、引用発明Aにおいて、「粒度2.5 ?5μm」の「マグネシア」の「粉体」を含まないようにして本件発明Aをなすことには、阻害理由が存在するといえる。

オ 相違点A2について、申立人は、第二に、次のように主張する。

オ(ア)甲4の記載事項(4イ)には、本件特許明細書【0014】?【0016】の記載と同様の技術事項が記載され、特に「粉体粒子の凝集構造を考慮した固相-固相反応の制御方法を用いれば、これまでCAAを用いた指標では活性度が好ましくないとされてきた酸化マグネシウムにおいても、焼鈍分離剤に好適な粒子凝集構造を有する酸化マグネシウムが見出される可能性がある。そこで本発明は、粒子凝集構造を制御することにより、酸化マグネシウムと表面のSiO_(2)皮膜との固相-固相反応を適切に制御し得る、酸化マグネシウム粒子集合体を提供することを目的とする。」との技術事項が記載されている。

オ(イ)また、甲1の記載事項(1カ)に、引用発明Aは「・・・粉体粒子間、そして粉体と鋼板との間の接触面積を制御するために、粒度分布を制御するという新しい発想に基づくものである。」と記載されている。

オ(ウ)すると、引用発明Aの「粉体粒子間、そして粉体と鋼板との間」の固相-固相反応を制御するのに「粒度分布を制御する」ことに代えて、甲4の「粒子凝集構造を制御する」ことを採用し、「ブレーン比表面積」という「粒子凝集構造」を表すパラメータを「2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」に好適化するように「制御」して本件発明2を成すことは、当業者が容易になし得ることである。

カ しかしながら、上記申立人の第二の主張は以下の点で妥当でない。

カ(ア)そもそも「ブレーン比表面積」は、粒子が有する孔の部分の表面積を除いた粒子の表面積を示すもので、単一粒子であれ、凝集粒子であれ、粒子の表面積を示すものに過ぎず、その値のみをもって「粒子凝集構造」を示すものではない。

カ(イ)したがって、引用発明Aに甲4の技術手段が適用されて「粒子凝集構造を制御する」ことがなされたとしても、ただちに「ブレーン比表面積」が好適化されるものとはいえない。

(3)引用発明Aを主引用例とする場合の結言
以上から、本件発明2は、引用発明Aにあたるものではなく、また、引用発明A及び甲第4号証に記載された技術手段に基づいて、又は、引用発明Aと、周知技術(甲第1?4号証)及び技術常識(甲第5?7号証)に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明2を引用する本件発明3、4についても同様である。

3-5.引用発明Bを主引用例とする場合
(1)本件発明2と引用発明Bとの対比
ア 引用発明Bの「40%CAAが65s」は、甲1の記載事項(1エ)の「クエン酸活性度(CAA)」が、本件特許明細書【0025】の「CAA」と同義であることから、本件発明2の「CAAが50?170秒」と「CAAが65秒」の点で一致する。

イ 引用発明Bの「B(ホウ素)を0.07mass%、Cl(塩素)を0.02mass%含む」は、本件発明2の「ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である」と、「ホウ素を0.07質量%含有し、塩素含有量が0.02質量%である」点で一致する。

ウ 以上から、本件発明2と引用発明Bとは、
「CAAが65秒であり、ホウ素を0.07質量%含有し、塩素含有量が0.02質量%である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点B1)酸化マグネシウムの粉体の粒度に関して、本件発明2では「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」であるのに対して、引用発明Bでは「ブレーン比表面積」が不明であり、「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が77%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.7μm」である点。

(2)相違点の検討
ア 相違点B1は、上記相違点A2と実質的に同じ内容である。
したがって、上記「3-4.(2)イ、エ」と同様の理由により、相違点B1は、実質的な相違点であり、引用発明Bの「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が77%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.7μm」に代えて、「ブレーン比表面積 2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」とすることは容易になし得ることとはいえない。

イ また、仮に、上記「3-4.(2)ウ(ア)」の式が妥当に成立するとして本件発明2に適用すると、本件発明2の「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」から計算される本件発明2の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」の粒径は、上記「3-4.(2)ウ(イ)」から、0.239?0.670[μm]であり、これは引用発明Bの「粒径が0.2?0.8μmの粒子」と粒径が重複するといえる。
しかしながら、引用発明Bの「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が77%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.7μm」は、「粒径が0.2?0.8μmの粒子」及び「粒径が2.5?5μmの粒子」以外の粒径の粒子(本件発明2の「0.239?0.670[μm]」の範囲外の粒径の粒子)を23%(=100-77)含むものであり、引用発明Bにおいて、それらの粒子を排除できる合理的な理由は見いだせない。
また、引用発明Bは、上記「3-4.(2)エ(カ)」から、「0.2 ?0.8 μmの含有率が90mass%をこえたり、2.5 ?5μmの含有率が7mass%未満になると、二次凝集が起こり、やはり鋼板とマグネシアとの接触面積が低下して、被膜の密着不良となる」ので、「二次凝集」による「被膜の密着不良」等の種々の不良を防ぐために、「粒度0.2 ?0.8 μm」のものと「粒度2.5?5μm」のものとが特定量で共存することを必須とするが、引用発明Bの「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が77%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.7μm」は、「粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%」であるから、「二次凝集」による「被膜の密着不良」等の種々の不良を防ぐことができない。
すると、仮に、引用発明Bに基づき相違点B1に係る本件発明2の発明特定事項が導かれるとしても、「皮膜の密着性」が良好であるという本件発明2の効果(本件特許明細書【0017】等)を予測することはできない。
したがって、引用発明Bにおいて、「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が77%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.7μm」に代えて、「ブレーン比表面積 2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」とすることは容易になし得ることとはいえない。

ウ さらに、引用発明Bへの甲4に記載の技術手段の適用については、上記「3-4.(2)カ カ(ア)?カ(イ)」を援用する。
すなわち、引用発明Aに甲4の技術手段が適用されて「粒子凝集構造を制御する」ことがなされたとしても、ただちに「ブレーン比表面積」が好適化されるものとはいえない。

(3)引用発明Bを主引用例とする場合の結言
以上から、本件発明2は、引用発明Bにあたるものではなく、また、引用発明B及び甲第4号証に記載された技術手段に基づいて、又は、引用発明Bと、周知技術(甲第1?4号証)及び技術常識(甲第5?7号証)に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明2を引用する本件発明3、4についても同様である。

3-6.引用発明Cを主引用例とする場合
(1)本件発明2と引用発明Cとの対比
ア 引用発明Cの「40%CAAが63s」は、甲1の記載事項(1エ)の「クエン酸活性度(CAA)」が、本件特許明細書【0025】の「CAA」と同義であることから、本件発明2の「CAAが50?170秒」と「CAAが63秒」の点で一致する。

イ 引用発明Cの「B(ホウ素)を0.08mass%、Cl(塩素)を0.02mass%含む」は、本件発明2の「ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である」と、「ホウ素を0.08質量%含有し、塩素含有量が0.02質量%である」点で一致する。

ウ 以上から、本件発明2と引用発明Cとは、
「CAAが63秒であり、ホウ素を0.08質量%含有し、塩素含有量が0.02質量%である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点C1)酸化マグネシウムの粉体の粒度に関して、本件発明2では「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」であるのに対して、引用発明Cでは「ブレーン比表面積」が不明であり、「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が98%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.4μm」である点。

(2)相違点の検討
ア 相違点C1は、上記相違点A2と実質的に同じ内容である。
したがって、上記「3-4.(2)イ、エ」と同様の理由により、相違点C1は、実質的な相違点であり、引用発明Cの「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が98%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.4μm」に代えて、「ブレーン比表面積 2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」とすることは容易になし得ることとはいえない。

イ また、仮に、上記「3-4.(2)ウ(ア)」の式が妥当に成立するとして本件発明2に適用すると、本件発明2の「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」から計算される本件発明2の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」の粒径は、上記「3-4.(2)ウ(イ)」から、0.239?0.670[μm]であり、これは引用発明Cの「粒径が0.2?0.8μmの粒子」と粒径が重複するといえる。
しかしながら、引用発明Cの「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が98%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.4μm」は、「粒径が0.2?0.8μmの粒子」及び「粒径が2.5?5μmの粒子」以外の粒径の粒子(本件発明2の「0.239?0.670[μm]」の範囲外の粒径の粒子)を2%(=100-98)含むものであり、引用発明Cにおいて、それらの粒子を排除できる合理的な理由は見いだせない。
また、引用発明Cは、上記「3-4.(2)エ(カ)」から、「0.2 ?0.8 μmの含有率が90mass%をこえたり、2.5 ?5μmの含有率が7mass%未満になると、二次凝集が起こり、やはり鋼板とマグネシアとの接触面積が低下して、被膜の密着不良となる」ので「二次凝集」による「被膜の密着不良」等の種々の不良を防ぐために、「粒度0.2 ?0.8 μm」のものと「粒度2.5?5μm」のものとが特定量で共存することを必須とするが、引用発明Cの「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が98%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.4μm」は、「0.2 ?0.8 μmの含有率が90mass%をこえ」ており、さらに、「粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%」であるから、「二次凝集」による「被膜の密着不良」等の種々の不良を防ぐことができない。
すると、仮に、引用発明Cに基づき相違点C1に係る本件発明2の発明特定事項が導かれるとしても、「皮膜の密着性」が良好であるという本件発明2の効果(本件特許明細書【0017】等)を予測することはできない。
したがって、引用発明Cにおいて、「粒径が0.2?0.8μmの粒子の含有率が98%、粒径が2.5?5μmの粒子の含有率が0%、平均粒径が0.4μm」に代えて、「ブレーン比表面積 2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」とすることは容易になし得ることとはいえない。

ウ さらに、引用発明Cへの甲4に記載の技術手段の適用については、上記「3-4.(2)カ カ(ア)?カ(イ)」を援用する。
すなわち、引用発明Cに甲4の技術手段が適用されて「粒子凝集構造を制御する」ことがなされたとしても、ただちに「ブレーン比表面積」が好適化されるものとはいえない。

(3)引用発明Cを主引用例とする場合の結言
以上から、本件発明2は、引用発明Cにあたるものではなく、また、引用発明C及び甲第4号証に記載された技術手段に基づいて、又は、引用発明Cと、周知技術(甲第1?4号証)及び技術常識(甲第5?7号証)に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明2を引用する本件発明3、4についても同様である。

3-7.甲第1号証に記載された発明(引用発明A、B、C)を主引用例とする場合の結言
以上から、本件発明2は、引用発明A、B、Cのいずれにもあたるものではなく、また、甲第1号証に記載された発明(引用発明A,B,C)及び甲第4号証に記載された技術手段に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明(引用発明A、B、C)と、周知技術(甲第1?4号証)及び技術常識(甲第5?7号証)に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明2を引用する本件発明3、4についても同様である。

3-8.甲第2号証に記載された発明(引用発明D)を主引用例とする場合
(1)独立形式で記載した本件発明3
本件発明3は独立形式で記載すれば、次のように表される。
「【請求項3】
ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)、及びCAAが50?170秒であり、ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。」

(2)本件発明3と引用発明Dとの対比
ア 引用発明Dの「くえん酸活性度が、最終反応率40%の条件で148秒、最終反応率80%の条件で1720秒であり」は、甲2の記載事項(2ウ)の「くえん酸活性度」が、本件特許明細書【0025】の「CAA」と同義であることから、「最終反応率40%の条件」で、本件発明3の「CAAが50?170秒」と「CAAが148秒」の点で一致する。

イ 引用発明Dの「焼鈍分離剤成分のMgO」は、実質的に本件発明3の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤」に相当する。

ウ すると、本件発明3と引用発明Dとは、
「CAA(最終反応率40%)が148秒である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点D1)酸化マグネシウムの粉体の粒度に関して、本件発明3では「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」であるのに対して、引用発明Dでは「ブレーン比表面積」が不明であり、「平均粒子径が0.7μmでかつ325メッシュの不通過分が0.5%である」点。

(相違点D2)「水和水分量」について、本件発明3では特定がないのに対して、引用発明Dでは、「20℃、60分間の条件で2.1%」である点。

(相違点D3)ホウ素と塩素の含有量について、本件発明3では「ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である」のに対して、引用発明Dではホウ素と塩素の含有量について不明である点。

(3)相違点の検討
ア 事案に鑑み相違点D1について検討する。
甲2には、引用発明Dにおける「焼鈍分離剤成分のMgO」の粒子の「ブレーン比表面積」について記載も示唆も見いだせない点で、相違点D1については、上記相違点A1と実質的に同じ内容である。
したがって、上記「3-4.(2)イ、エ」と同様の理由により、相違点D1は、実質的な相違点であり、相違点D2、D3について検討するまでもなく、本件発明2は引用発明Dにあたらない。
さらにいえば、上記援用に基づき、引用発明Dの「平均粒子径が0.7μmでかつ325メッシュの不通過分が0.5%である」ことに代えて、「ブレーン比表面積 2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」とすることは容易になし得ることとはいえない。

イ また、仮に、上記「3-4.(2)ウ(ア)」の式が妥当に成立するとして本件発明3に適用すると、本件発明3の「ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)」から計算される本件発明3の「焼鈍分離剤」中の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」の粒径は、上記「3-4.(2)ウ(イ)」から、0.239?0.670[μm]である。
一方、引用発明Dの「325メッシュ」は、目開き43μmを意味するから、引用発明Dの「平均粒子径が0.7μmでかつ325メッシュの不通過分が0.5%である」ことは、粒子の粒径について「平均粒子径が0.7μmでかつ43μm超の粒子が0.5%である」ことといえる。
すると、引用発明Dは、「平均粒子径が0.7μm」だから、その粒径範囲が「0.239?0.670[μm]」にはなり得ないし、本件発明Dは粒径が「43μm超の粒子」を全く含まないので、本件発明3の「ブレーン比表面積」から粒径が計算できたとしても、相違点D1は、実質的な相違点であり、本件発明3は引用発明Dにあたらない。

(4)甲第2号証に記載された発明(引用発明D)を主引用例とする場合の結言
以上から、本件発明3は、引用発明Dに相当せず、甲第2号証に記載された発明とはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
本件発明3を引用する本件発明4についても同様である。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によって、請求項2?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項1が削除されたため、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
ブレーン比表面積が2.5×10^(3)?7.0×10^(3)m^(2)・kg^(-1)、及びCAAが50?170秒であり、ホウ素を0.04?0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項3】
請求項2に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。
【請求項4】
鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成する工程と、
請求項3に記載の焼鈍分離剤を二酸化ケイ素被膜の表面に塗布し、焼鈍することにより、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成する工程と
を含む、方向性電磁鋼板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-05-25 
出願番号 特願2018-509020(P2018-509020)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C21D)
P 1 651・ 537- YAA (C21D)
P 1 651・ 113- YAA (C21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 中澤 登
北村 龍平
登録日 2019-03-15 
登録番号 特許第6494865号(P6494865)
権利者 タテホ化学工業株式会社
発明の名称 焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人津国  

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