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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
管理番号 1363987
異議申立番号 異議2019-700177  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-05 
確定日 2020-06-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6384764号発明「離散個体押出粒子を製造する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6384764号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕、〔20?28〕について」)訂正することを認める。 特許第6384764号の請求項1?4、9?14、16、17及び19?28に係る特許を維持する。 特許第6384764号の請求項5?8、15及び18に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6384764号の請求項1?28に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)11月27日(優先権主張 2012年(平成24年)11月27日、欧州特許庁)を国際出願日とするものであって、平成30年8月17日にその特許権の設定登録がされ、同年9月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年3月5日に特許異議申立人山田友則(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行い、当審は、令和元年5月21日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年8月14日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、申立人は、同年9月26日に意見書を提出した。そして、当審は、同年10月23日付けで取消理由(決定の予告)を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、令和2年1月24日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、応答はなかった。なお、令和元年8月14日に提出した訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなされる。

第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1?12のとおりである。なお、訂正前の請求項1?19は、請求項2?19が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、同様に、訂正前の請求項20?28は、請求項21?28が、訂正の請求の対象である請求項20の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?19及び請求項20?28について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「乳化工程が押出機内で実施される、方法」とあるのを、「乳化工程が押出機内で実施され、前記押出機内部の温度が、20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)である、方法」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記水中油型エマルション小滴が、少なくとも1種の脂溶性化合物、少なくとも1種の乳化剤および水を含んでなり」とあるのを、「前記水中油型エマルション小滴が、ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物、化工食用デンプンである乳化剤および水を含んでなり(ただし、ラクトフェリンを含む場合を除く)」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5?8、15および18を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に「少なくとも1種の脂溶性化合物が使用される、請求項1?8のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「前記脂溶性化合物が使用される、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも1種の乳化剤が使用される、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「前記乳化剤が使用される、請求項1?4および9のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「請求項1?4、9および10のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
また、特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?10のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「請求項1?4、9および10のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
また、特許請求の範囲の請求項13に「請求項1?12のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「請求項1?4および9?12のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
また、特許請求の範囲の請求項14に「請求項1?13のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項16に「前記脂溶性化合物が、ビタミンAまたはその誘導体であり、開始時に液体形態で添加される、請求項1?13のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「前記脂溶性化合物が、開始時に液体形態で添加される、請求項1?4、9および13のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項17に「前記脂溶性化合物が、ビタミンAまたはその誘導体であり、開始時または任意の後期の段階のどちらかで、純粋な粉末として、または少なくとも1種の化工食用デンプンとの混合物として、添加される、請求項1?13のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「前記脂溶性化合物が、開始時または任意の後期の段階のどちらかで、純粋な粉末として、または少なくとも1種の化工食用デンプンとの混合物として、添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項19に「請求項1?18のいずれか一項に記載の方法」とあるのを、「請求項1?4、9?14、16および17のいずれか一項に記載の方法」と訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項20に「前記水中油型エマルション小滴が、少なくとも1種の脂溶性化合物、化工食用デンプンである乳化剤、および水を含んでなり(ただし、加水分解レシチン生成物を含む場合を除く)」とあるのを、「前記水中油型エマルション小滴が、ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物、化工食用デンプンである乳化剤、および水を含んでなり(ただし、加水分解レシチン生成物および/またはラクトフェリンを含む場合を除く)」と訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項22に「少なくとも1種の脂溶性化合物」とあるのを、「前記脂溶性化合物」と訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項23に「ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、落花生油、ナタネ油、キャノーラ油、紅花油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、カシュー油、マカダミア油、モンゴンゴナッツ油、プラカシ油、ペカン油、松果油、ピスタチオ油、サチャインチ(プルケネティア・ボルビリス(Plukenetia volubilis))油、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、栄養補給食品、ビタミンAまたはそのエステル、ビタミンEまたはそのエステル、ビタミンK(フィトメナジオン)、およびビタミンD3(コレカルシフェロール)からなる群から選択される少なくとも1種の脂溶性化合物」とあるのを、「前記脂溶性化合物」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件明細書の【0055】の「押出機内部の温度は、通常は20?220℃である。好ましくは押出機を出る押出物の温度は、<100℃であり、より好ましくは押出機内部の温度は、20?100℃である。」という記載等に基づき、訂正前の「乳化工程が押出機内で実施される」際の温度条件を20?100℃に限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
また、該温度条件について、「(但し、90℃?160℃を除く)」との事項は、特許法第29条第1項第3号に係る引用例である甲2に記載された事項のみを除外することを明示したものである。
すなわち、甲2には「マトリックスの乾燥成分と水性可塑剤とを、抽出機の加熱部において混合する。加熱部の加熱温度は、マトリックス物質の素性、及び可塑剤の添加量に依り異なる。通常、加熱部は、194から320°F、好ましくは230から284°Fの温度に加熱する。」と記載されており(33頁13?16行)、該「抽出機」は本件の請求項1に記載された「押出機」に相当するものであり、華氏(°F)で表された該「194から320°F」は、摂氏(℃)に変更すれば「90℃?160℃」と表されるから、上記温度条件について、「90℃?160℃を除く」ことによって、甲2に記載された事項を除外するものといえる。
そして、このような、いわゆる「除くクレーム」とする訂正は、本件明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえず、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項6の「前記脂溶性化合物が、・・・ビタミンAまたはそのエステル・・・からなる群から選択される」という記載等に基づき、脂溶性化合物について「ビタミンAまたはそのエステル」であることを特定し、訂正前の請求項8の「前記乳化剤が、化工食用デンプン・・・からなる群から選択される乳化剤」という記載等に基づき、乳化剤について「化工食用デンプン」であることを特定するものである。
そして、水中油型エマルション小滴について、「ラクトフェリンを含む場合を除く」との事項は、特許法第29条第1項第3号に係る引用例である引用文献6(特表2006-523445号公報)に記載された事項のみを除外することを明示したものである。
すなわち、引用文献6には「より厳密には、本発明は、ラクトフェリンを含む食品サプリメントまたは飼料サプリメントとして有用な組成物の調製方法、ならびにそうして得られる組成物に関する。本発明はまた、特に動物の健康状態を改善するためのラクトフェリンを含む組成物の食品飼料サプリメントの使用、ならびにラクトフェリンを主体としたサプリメントを含む飼料組成物に関する。」(【0002】?【0003】)と記載され、ラクトフェリンを含む組成物について記載されていると認められるところ、「ラクトフェリンを含む場合を除く」ことによって、引用文献6に記載された事項を除外するものといえる。
そして、このような、いわゆる「除くクレーム」とする訂正は、本件明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえず、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項5?8、15および18を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項5は、訂正事項1に伴い、訂正前の請求項9の「少なくとも1種の脂溶性化合物」を「前記脂溶性化合物」と訂正し、訂正事項3に伴い、引用先を「請求項1?4」とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1に伴い、訂正前の請求項10の「少なくとも1種の乳化剤」を「前記乳化剤」と訂正し、訂正事項3に伴い、訂正前の請求項10の引用先を「請求項1?4および9」とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項3に伴い、訂正前の請求項11の引用先を「請求項1?4、9および10」とし、訂正前の請求項12の引用先を「請求項1?4、9および10」とし、訂正前の請求項13の引用先を「請求項1?4および9?12」とし、訂正前の請求項13の引用先を「請求項1?4および9?12」とし、訂正前の請求項14の引用先を「請求項1?4および9?13」とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項7について
訂正請求7は、訂正事項1に伴い、訂正前の請求項16の「ビタミンAまたはその誘導体であり」との記載を削除する訂正、及び、訂正事項3に伴い、訂正前の請求項16の引用先を「請求項1?4および9?13」とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)訂正事項8について
訂正請求8は、訂正事項1に伴い、訂正前の請求項17の「ビタミンAまたはその誘導体であり」との記載を削除する訂正、及び、訂正事項3に伴い、訂正前の請求項17の引用先を「請求項1?4および9?13」とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(9)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項3に伴い、訂正前の請求項17の引用先を「請求項1?4および9?13」とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(10)訂正事項10について
訂正事項10は、水中油型エマルション小滴に含まれる成分を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、「脂溶性化合物」について「ビタミンAまたはそのエステルである」点を特定する点、及び、「ラクトフェリンを含む場合を除く」点を特定する場合は、上記(2)で述べたように、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(11)訂正事項11について
訂正事項11は、訂正事項10に伴い、訂正前の請求項22の「少なくとも1種の脂溶性化合物」を「前記脂溶性化合物」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(12)訂正事項12について
訂正事項12は、訂正事項10に伴い、訂正前の請求項23の「ココナッツ油、・・・からなる群から選択される少なくとも1種の脂溶性化合物」を「前記脂溶性化合物」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(13)小括
上記のとおり、訂正事項1?12に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕及び〔20?28〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4、9?14、16、17及び19?28に係る発明(以下「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4、9?14、16、17及び19?28に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
水中油型エマルション小滴を含んでなる押出物が、第1のステップで製造され、前記押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される、離散固体押出粒子を製造する方法であって、
前記水中油型エマルション小滴が、
ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物、
化工食用デンプンである乳化剤および

を含んでなり(ただし、ラクトフェリンを含む場合を除く)、
乳化工程が押出機内で実施され、
前記押出機内部の温度が、20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)である、方法。
【請求項2】
前記押出物が、切断および乾燥によって離散固体押出粒子にさらに成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥を前記切断前、前記切断中または前記切断後に、ならびにそれらの任意の組み合わせで実施し得る、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記押出物が、球形化工程によって離散固体押出粒子にさらに成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記エマルションの総重量を基準にして、5wt.%?75wt.%の前記脂溶性化合物が使用される、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エマルションの総重量を基準にして、5wt.%?80wt.%の前記乳化剤が使用される、請求項1?4および9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記エマルションの総重量を基準にして、1wt.%?90wt.%の水が使用される、請求項1?4、9および10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記エマルションの総重量を基準にして、1wt.%?80wt.%の水が使用される、請求項1?4、9および10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エマルションの総重量を基準にして、1wt.%?85wt.%の少なくとも1種の助剤が使用され、
前記助剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、第三級ブチルヒドロキシキノリン、エトキシキン、脂肪酸のアスコルビン酸エステル、可塑剤、安定剤、湿潤剤、保護コロイド、染料、香料、増量剤、および緩衝液からなる群から選択される、請求項1?4および9?12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
最初に前記乳化剤、次に前記水、その後に前記脂溶性化合物が添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
前記脂溶性化合物が、開始時に液体形態で添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記脂溶性化合物が、開始時または任意の後期の段階のどちらかで、純粋な粉末として、または少なくとも1種の化工食用デンプンとの混合物として、添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】(削除)
【請求項19】
成分の前記押出機内部の総滞留時間が、1?400sである、請求項1?4、9?14、16および17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
水中油型エマルション小滴を含んでなる球状の離散固体押出粒子であって、
前記水中油型エマルション小滴が、
ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物、
化工食用デンプンである乳化剤、および

を含んでなり(ただし、加水分解レシチン生成物および/またはラクトフェリンを含む場合を除く)、
前記水中油型エマルション小滴の平均粒度が、300nm未満であり、
前記離散固体押出粒子の含水量が、総重量を基準にして10wt.%未満であり、
前記離散固体押出粒子の円形度(HS Circularity)が0.91以上である、前記離散固体押出粒子。
【請求項21】
1000μm未満の粒度を有する、請求項20に記載の粒子。
【請求項22】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、5wt.%?75wt.%の前記脂溶性化合物、
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして5wt.%?80wt.%の前記乳化剤、および
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、10wt.%未満の水を含んでなる、請求項20または21に記載の粒子。
【請求項23】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、8wt.%?70wt.%の前記脂溶性化合物を含んでなる、請求項20?22のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項24】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、8wt.%?80wt.%の前記乳化剤を含んでなる、請求項20?23のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項25】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、6wt.%未満の水を含んでなる、請求項20?24のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項26】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、1wt.%?80wt.%のアスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、第三級ブチルヒドロキシキノリン、エトキシキン、脂肪酸のアスコルビン酸エステル、可塑剤、安定剤、湿潤剤、保護コロイド、染料、香料、増量剤、および緩衝液からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を含んでなる、請求項20?25のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項27】
食品、飼料、医薬品またはパーソナルケア製品中における、請求項20?26のいずれか一項に記載の粒子の使用。
【請求項28】
請求項20?26のいずれか一項に記載の粒子を含んでなる、食品、飼料、医薬品またはパーソナルケア製品。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?17、19?28に係る特許に対して、当審が令和元年10月23日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
「理由1(進歩性)本件の請求項1?17、19?28に係る発明は、下記の甲1?甲5(以下、申立人の提出した甲第1号証を、単に甲1などという。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?17、19?28に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を受けることができない。
理由2(サポート要件)本件は、特許請求の範囲の請求項1?17、19?28の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?17、19?28に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3(実施可能要件)本件は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?17、19?28に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由4(新規性)本件発明1、2、3、5、8は、下記の引用文献6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許を受けることができない。
理由5(進歩性)本件発明1?17、19?28は、下記の引用文献6に記載された発明及び下記の甲1?甲5の記載に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?17、19?28に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を受けることができない。

(甲1?甲5、引用文献6)
甲1:Mike Porzio, "Flavorencapsulation: Melt Extrusion and Melt Injection",[online] PERFUMER &FLAVORIST, Vol.33 November 4, 2008, P.48, 50-53[平成31年3月4日検索]インターネット

甲2:特表平8-509018号公報
甲3:特表2010-530240号公報
甲4:土井 悦四郎,"二軸型エクストルーダーによる食品製造研究の現状",[online]日本農芸化学会誌,59巻 9号,2008年11月21日,p.1007-1008[平成31年3月4日検索]インターネット

甲5:特表2011-505158号公報」
引用文献6:特表2006-523445号公報

第5 取消理由通知に記載した取消理由の理由1についての当審の判断
1 甲1、2の記載
(1)甲1
甲1には、「Melt Extrusion and Melt Injection(溶融押出及び溶融射出。当審仮訳(以下同じ。))」(タイトル)について、次の記載がある。
ア 「Melt Extrusion (Extrusion Encapsulation)
The melt extrusion or melt encapsulation process utilizes a twin screw co-rotating extruder to melt a carbohydrate polymer carrier under pressure into a viscoelastic fluid state. A liquid flavor (compounded, extract, reaction, oleoresin, etc.) can be added to the feed stream at the inlet port of the extruder. Alternatively, the same liquid flavor can be injected under pressure into the molten mass within the extruder where it is mixed before exiting the die head. Carbohydrate polymers are usually employed with sugars. Low levels of water are employed as a plasticizer to obtain an efficient “melting” of the matrix utilizing the mechanical and thermal energies of the extruder. The use of co-rotating screws allows forpositive conveyance and pressure control of the plastic rubbery mass as it mixes and passes forward through the die.
(溶融押出[押出カプセル化]
溶融押出又は溶融カプセル化プロセスは、圧力下で炭水化物ポリマ担体を溶融して粘弾性流体状態にするために同方向回転二軸押出機を利用する。液体フレーバー(化合物、抽出物、反応物、含油樹脂等)は押出機の注入口において供給流に付加されてもよい。あるいは、この液体フレーバーは圧力下で押出機内の溶融塊中に射出されてもよく、そこでそれはダイヘッドを出る前に混合される。炭水化物ポリマは通常は糖類と併用される。押出機の機械および熱エネルギーを利用して母材の効率的「溶融」を得るために可塑剤として少量の水が用いられる。同方向回転スクリューの使用により、可塑性ゴム状塊が混合してダイを通って進みながらその確実な搬送と圧力制御が可能となる。)」(49頁右欄下から10行?50頁左欄6行)
イ 「US Patent 5,807,461 uses a twin-screwextruder to melt a modified starch/maltodextrin/corn syrup solids/mono- ordisaccharide mixture containing a spray-dried flavor^(5).
(米国特許第5807461号は噴霧乾燥されたフレーバーを含む化工デンプン/マルトデキストリン/固形コーンシロップ/単又は二糖混合物を溶融するために二軸押出機を使用する^(5)。)」(50頁左欄6?9行)
ウ 「A more practical enhancement of melt extrusion technology was disclosed in the patents assigned to McCormick and Co.,Inc.^(6) In this system the matrix composition was selected to generate a plastic flavor-matrix exudate that upon cooling rapidly transformed into the glassy state. With simple process adjustments the encapsulated flavor-matrix can be continuously generated, cooled to the glassy state, milled, sieved and packaged in acontinuous process to generate FlavorCell products (See F-1). Extruders, being robust mechanical systems, can be run continuously 24/7 while encapsulating flavors. This leads to the obvious advantage of low cost production for large volumes of encapsulated flavor products.
(溶融押出技術のより実用的な向上はMcCormick and Co.,Inc.に譲渡された諸特許に開示される^(6)。このシステムにおいて、母材組成物は、冷却時に急激にガラス状態に変化する可塑性フレーバー母材惨出液を生成するように選択された。単純なプロセス調整により、カプセル化されたフレーバー母材は連続的に生成し、ガラス状態に冷却し、連続行程で粉砕、篩過および包装してFlavorCell製品を生み出すことができる(図1参照)。押出機は、頑丈な機械的システムであるので、フレーバーをカプセル化しながら年中無休で連続運転できる。これは大量のカプセル化されたフレーバー製品に対して低コスト生産という明らかな利点をもたらす。)」(50頁左欄9?22行)
エ 「While the Flavor Cell extrusion system operating parameters remain proprietary, this system depends upon a careful balancing of those operating parameters including matrix formula, flavor(levels, co-solvents, emulsifiers),melt temperatures, screw and die design, operating pressures and exit temperatures. By selecting die geometries, extrudates can be produced as fine threads, rods, ropes or sheets. Examples of some of these materials have been previously described.^(7)
(FlavorCell押出システムの動作パラメータは依然として専有技術であるが、このシステムは母材処方、フレーバー(量、助溶剤、乳化剤)、溶融温度、スクリューとダイの設計、動作圧力および出口温度を含むそれらの動作パラメータの入念な釣合わせに依存する。ダイ形状を選択することにより、押出物は細糸としても、ロットとしても、ロープとしても、シートとしても生産できる。これらの材料の内のいくつかの例は前に述べられた^(7)。)」(50頁左欄23?31行)
オ 「Melt Extrusion and Pressure Cooling
A modification of the melt-extrusion system specifically addressed the issue of volatile flavor loss and flavor top note retention. Ordinarily extruder melt temperatures operate at 105-125°C, which can leadto “flashing” or vaporization of moisture, low boiling flavors and solvents as the melt exits the die into ambient pressure.
(溶融押出及び加圧冷却
溶融押出システムを変形することにより揮発性フレーバー損失とフレーバーのトップノート保持の問題が具体的に対処された。通常は、押出機溶融温度は100?125℃で作用し、これは、溶融物がダイから周囲圧力中に出る際に水分、低沸点フレーバー及び溶剤の「フラッシング」又は蒸発をもたらし得る。)」(50頁右欄下から3行?51頁左欄4行)
カ 「F-1

(図1
溶融抽出プロセス
1.モーター駆動装置 2.固体供給装置 3.水 4.水ポンプ輸送装置
5.フレーバー 6.フレーバーポンプ 7.同方向回転スクリュー
8.加熱ジャケット 9.移行帯 10.ダイ 11.移送装置 12.空冷装置
13.粉砕機 14.篩過機)」(51頁下)

(2)甲2
甲2には、「カプセル化組成物」(発明の名称)について、次の記載がある(原文にある改行、スペースは適宜削除した。下線は当審が付与した。)。
ア 「【特許請求の範囲】
1.(B)(a)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン95から100重量%、又は
(b)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン45から65重量%、及び24から42のD.E.を有する固形コーンシロップ35から55重量%、又は
(c)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン80から95重量%、有機酸の塩1から15重量%、及び有機酸0から15重量%、又は
(d)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン25から80重量%、食品ポリマー2から45重量%、及びモノーもしくはジサッカライド、又は24から42のD.E.を有する固形コーンシロップ10から30重量%、又は
(e)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン45から80重量%、カルボキシレート基もしくはサルフェート基を有する炭水化物ポリマー2から22重量%、24から42のD.E.を有する固形コーンシロップ5から30重量%、及び溶解性のあるカルシウム塩0.2から2.0重量%、又は
(f)変性スターチ30から100重量%、及びモノーもしくはジサッカライド0から70重量%、又は
(g)変性スターチ85から100重量%、及び多価アルコール0から15重量%
からなるガラス質マトリックスに
(A)封入された被カプセル化物質を含むカプセル化組成物。」(公報2頁1?23行)
イ 「11.該被カプセル化物質が、薬剤、殺虫剤、ビタミン類、防腐剤、及び香味剤からなる群から選ばれるものである請求項1記載の組成物。
12.該被カプセル化物質が香味剤である請求項11記載の組成物。
13.該香味剤が、天然抽出物、オレオレジン、精油、タンパク質加水分解物、水性反応フレーバー、及び配合フレーバーからなる群から選ばれるものである請求項12記載の組成物。
14.(B)(a)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン95から100重量%、又は
(b)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン45から65重量%、及び24から42のD.E.を有する固形コーンシロップ35から55重量%、又は
(c)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン80から95重量%、有機酸の塩1から15重量%、及び有機酸0から15重量%、又は
(d)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン25から80重量%、食品ポリマー2から45重量%、及びモノ-もしくはジサッカライド、又は24から42のD.E.を有する固形コーンシロップ10から30重量%、又は
(e)5から15のD.E.を有するマルトデキストリン45から80重量%、カルボキシレート基もしくはサルフェート基を有する炭水化物ポリマー2から22重量%、24から42のD.E.を有する固形コーンシロップ5から30重量%、及び溶解性のあるカルシウム塩0.2から2.0重量%、又は
(f)変性スターチ30から100重量%、及びモノーもしくはジサッカライド0から70重量%、又は
(g)変性スターチ85から100重量%、及び多価アルコール0から15重量%
からなるガラス質マトリックスに
(A)封入された被カプセル化物質
を含み、
(i)(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)もしくは(g)と、
液状可塑剤、及び被カプセル化物質とを抽出機中で混合して溶融マトリックスを得る工程、及び
(ii)該溶融マトリックスを押出す工程
からなる方法により得られる、カプセル化組成物。」(同3頁20行?4頁26行)
ウ 「27.該液状可塑剤が、水、マルトデキストリンの水溶液、モノ-もしくはジサッカライドの水溶液、固形コーンシロップの水溶液、酸及び酸の塩の水溶液、カルシウム塩の水溶液、並びに多価アルコールの水溶液からなる群から選ばれるものである請求項14記載の組成物。」(同6頁7?10行)
エ 「背景技術
被カプセル化物のカプセル化は研究が盛んな分野である。特に、医薬、農薬(殺虫剤、線虫駆除薬、除草剤、防カビ剤、殺菌剤などを含む)、防腐剤、ビタミンおよび香味剤などの被カプセル化物のカプセル化が種々の理由から必要とされている。」(同7頁10行?4頁26行)
オ 「本発明において使用する被カプセル化物という語は、医薬、農薬、防腐剤、ビタミンおよび香味剤、香料化学薬品および芳香剤、ならびに合成および天然の食品用着色剤などの薬剤を包含する。好ましい医薬としては、制酸薬、抗炎症物質、冠動脈拡張薬、脳血管拡張薬、末梢血管拡張薬、抗感染薬、向精神薬、抗躁病薬、興奮薬、抗ヒスタミン薬、緩下薬、うっ血除去薬、ビタミン、消化器鎮静薬、下痢止め製剤、抗狭心症薬、抗不整脈薬、抗高血圧薬、血管収縮薬、片頭痛治療薬、抗凝血薬、抗血栓薬、鎮痛薬、解熱薬、催眠薬、鎮静薬、鎮吐薬、制吐薬、抗痙攣薬、神経筋細胞薬、高血糖薬、低血糖薬、甲状腺製剤、抗甲状腺製剤、利尿薬、鎮痙薬、子宮弛緩薬、ミネラルおよび栄養性添加物、抗肥満薬、同化薬、造血薬、抗喘息薬、去痰薬、制咳薬、粘液溶解薬、抗尿酸血症薬、ならびに局所鎮痛薬、局所麻酔薬などのその他の薬物が挙げられる。
好適な農薬としては、殺虫剤、線虫駆除薬、防カビ剤、除草剤、および殺菌剤が挙げられる。本発明組成物においてカプセル化できる殺虫剤としては、カーク-オスマー(Kirk-Othmer)、Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第13巻、ニューヨーク州ウイリー、413?485頁(1981年)に開示されたものが挙げられ、これを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。好適な線虫駆除薬としては、例えば、メチルN’,N’-ジメチル-N-〔(メチルカルバモイル)オキシ〕-1-チオオキサミミデイト(オキサミル)、およびカーク-オスマー(Kirk-Othmer)、Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第18巻、ニューヨーク州ウイリー、305?308頁(1982年)に開示されたものが挙げられ、これを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。」(同15頁10行?16頁4行)
カ 「マトリックス中にカプセル化される被カプセル化物の正確な量は、マトリックスの正確な性質、被カプセル化物の種類、および最終製品の予期される最終使用目的に部分的に依存するが、本発明のカプセル化組成物は、典型的には、カプセル化組成物の全重量に対して2.5?15重量%の被カプセル化物を含む。好ましくは、本発明のカプセル化組成物は、カプセル化組成物の全重量に対して7?12重量%の被カプセル化物を含む。被カプセル化物が香味剤であることが好ましい。」(同17頁28行?18頁5行)
キ 「上記の被カプセル化物に加え、当技術分野で一般的に使用されているような種々の任意成分を本発明のマトリックスにおいて採用してもよい。例えば、必要であれば、着色剤、甘味料、芳香剤、希釈剤、賦形剤、防腐剤、酸化防止剤、安定化剤、潤滑剤などをマトリックスに採用してもよい。」(同18頁6?9行)
ク 「好適な食品ポリマーの例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、高メトキシペクチン、アラビア(アカシア)ゴム、ニセアカシア豆ゴム、グアーガム;ガッチガム、トラガカントガム、カラヤガムなどのあまり利用されていない天然ゴム;ゼラチンやα-カゼインなどのタンパク、キサンタンやゲランなどの微生物ゴム;イヌリン、β-グルカンおよびコンニャク粉などの炭水化物ポリマーに加えて予備ゼラチン化されたデンプンが挙げられる。メチルセルロースとヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。」(同23頁23行?24頁1行)
ケ 「従って、本発明の組成物であるガラス質のマトリックスは、通常、水を3から10重量%、好ましくは5から9重量%含有する。」(同33頁11?12行)
コ 「上記のように、マトリックスの乾燥成分と水性可塑剤とを、抽出機の加熱部において混合する。加熱部の加熱温度は、マトリックス物質の素性、及び可塑剤の添加量に依り異なる。通常、加熱部は、194から320°F、好ましくは230から284°Fの温度に加熱する。」(同33頁13?16行)
サ 「可塑剤とマトリックスの乾燥成分とを混合し、溶融した後、得られた溶融マトリックスを有効成分と混合する。この混合は、加熱部の下流にある独立した抽出機部において好適になされる。或いは、熱的に安定な有効成分である場合には、有効成分が水性可塑剤のうちの一つを含有していてもよいし、さもなければ、抽出機の加熱部において、有効成分と水性可塑剤、及びマトリックスの乾燥成分とを混合してもよい。」(同33頁17?22行)
シ 「最終的に抽出された組成物は、抽出されたまま、すなわち抽出された棒、もしくはフィラメントの状態で使用することができる。或いは、抽出された物質を、好ましくは冷却した後、例えば、磨砕、粉砕等により更に加工してもよい。」(同34頁15?17行)
ス 「本発明のカプセル化組成物は、香味剤の封入、及び長期保存に特に有効である。
本発明の組成物により、不安定な、及び/又は揮発性のフレーバーの長期保存が可能となる。この組成物は、食品配合物に直接添加することができ、その上容易に計量できるという利点をもたらす。更に、マトリックス成分は、本発明の組成物から得られる食品の香味及び/又は芳香に、殆ど影響を与えない。」(同34頁22?27行)
セ 「実施例1
10D.E.マルトデキストリン[Lodex-10,American Maize Company]からなる炭水化物ベースを、15ポンド/時間の速度で、二軸スクリュー抽出機に供給した。循環ホットオイルヒーターにより、ジャケットの温度を250°Fに設定した。可塑剤である水を、7mls/分の速度で供給口に添加した。被カプセル化物質であるジアセチル[Aldrich Chemical Co.]を、ピストン計量型ポンプを用いて、ジャケット口から12mls/分の速度で溶融混合物に注入した。その後、ジアセチル-マルトデキストリン溶融物からなる排出物を、200°Fで排出ノズルから導出し、周囲圧下で集めた。そのまま冷却した後、黄色の固体マトリックスの特性を示差走査熱量計(DSC)により決定したところ、Tgが50℃のガラスであることが分かった。この生成物は、ジアセチルを4.9重量%、水分を8.3重量%(カールフィッシャー分析による)有していた。塊状サンプルを周囲条件下で4ヵ月間貯蔵した後、ジアセチルの含有量を分析したところ、4.0重量%であった(残留率82%)。」(同35頁3?17行)
ソ 「実施例10
変性スターチであるCAPSUL(登録商標)(National Starch,Bridgewater,NJ)90重量%、及びAmerfondフォンダン糖(Amstar,NY,NY)10重量%からなる混合物を、実施例1に記載のように、15ポンド/時間の速度で抽出機に供給した。水を可塑剤として、10ml/分の速度で添加した。被カプセル化物質であるオレンジオイルと乳化剤(9:1)を、ジャケット口から15グラム/分の速度で溶融混合物中に注入した。冷却すると、排出物は硬い、稠密な固体となった。この生成物を分析したところ、揮発性オイルの含有量は8.3重量%であり、また水分の含有量は5.2%であった。生成物のDSC分析によれば、ガラス転移温度(Tg)は44℃であった。」(同40頁26行?41頁6行)

2 甲1、2に記載された発明
(1)甲1に記載された発明(甲1発明1、2)
上記1(1)アには、甲1には、溶融押出又は溶融カプセル化プロセスについて記載され、同方向回転二軸押出機を利用して、水を用いて、圧力下で炭水化物ポリマ担体を溶融して粘弾性流体状態にして、液体フレーバーが、圧力下で押出機内の溶融塊中に射出することが記載されている。
また、同イには、上記炭水化物ポリマ担体として、化工デンプン/マルトデキストリン/固形コーンシロップ/単又は二糖混合物が用いられた例が記載されていることから、上記「炭水化物ポリマ」が「化工デンプン」等であることは明らかである。
そして、同ウには、カプセル化されたフレーバー母材は連続的に生成し、ガラス状態に冷却され、連続行程で粉砕、篩過されて生成されることが記載されている。ここで、ガラス状態とは、溶融した炭水化物ポリマ担体が冷却されたものであるから、固体であることは明らかである。
したがって、甲1には、「化工デンプン等の固体炭水化物ポリマ、水、フレーバーを押出機内で混合溶融して得られる押出物を、粒子に粉砕して、炭水化物ポリマ担体にフレーバーがカプセル化された固体粒子を製造する方法」(以下、「甲1発明1」という。)、及び、「化工デンプン等の固体炭水化物ポリマ、水、フレーバーを含み、炭水化物ポリマ担体にフレーバーがカプセル化された固体粒子」(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲2に記載された発明(甲2発明1、2)
甲2の上記1(2)アで摘記した請求項1において、ガラス質マトリックスである、マルトデキストリン、固形コーンシロップ、有機酸の塩、有機酸、食品ポリマー、モノーもしくはジサッカライド、カルボキシレート基もしくはサルフェート基を有する炭水化物ポリマー、溶解性のあるカルシウム塩、変性スターチ、多価アルコールを「マルトデキストリン等」と呼べば、甲2には、マルトデキストリン等のガラス質マトリックスに、封入された被カプセル化物質を含むカプセル化組成物が記載されているといえる。
また、同イで摘記した請求項11?13において、被カプセル化物質である、薬剤、殺虫剤、ビタミン類、防腐剤、及び天然抽出物、オレオレジン、精油、タンパク質加水分解物、水性反応フレーバー、及び配合フレーバーの香味剤を「ビタミン類等」と呼べば、甲2には、被カプセル化物質はビタミン類等であることが記載されているといえる。
そして、同イで摘記した請求項14の下線部には、「(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)もしくは(g)と、液状可塑剤、及び被カプセル化物質とを抽出機中で混合して溶融マトリックスを得る工程、及び(ii)該溶融マトリックスを押出す工程からなる方法により得られる、カプセル化組成物」と記載され、「(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)もしくは(g)」は、同アで摘記した請求項1の「マルトデキストリン等」と同じものであって、「マルトデキストリン等」と呼ぶことができる。
また、同シには、「(ii)該溶融マトリックスを押出す工程」によって得られたものは、棒、もしくはフィラメントの状態であり、さらに、冷却した後、例えば、磨砕、粉砕等により更に加工して、固体カプセル化組成物の磨砕・粉砕物を得ることが記載されているといえる。
そうすると、甲2には、「ビタミン類等の被カプセル化物質、マルトデキストリン等のガラス質マトリックス、及び水を押出機中で混合溶融及び押出すことで固体カプセル化組成物を製造し、押出された組成物をさらに磨砕、粉砕等により加工することで、固体カプセル化組成物の磨砕・粉砕物を製造する方法」(以下、「甲2発明1」という。)、及び、
「ビタミン類等の被カプセル化物質、マルトデキストリン等のガラス質マトリックス、及び水を含み、ガラス質マトリックスに被カプセル化物質が封入された固体カプセル化組成物の、磨砕・粉砕物」(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)甲1発明1又は甲1発明2を主引用発明とした場合
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
本件発明1の「ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物」と、甲1発明1の「フレーバー」とは、「フレーバー」は、一般に精油等を示すから、「脂溶性化合物」である点で共通する。また、甲1発明1の「押出物」、「化工デンプン等の固体炭水化物ポリマ」、「水」及び「固体粒子」は、本件発明1の「押出物」、「化工食用デンプンである乳化剤」、「水」及び「離散固体押出粒子」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明1の「押出物を、粒子に粉砕」する構成は、本件発明1の「押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される」構成に相当する。
そして、本件明細書に記載された実施例1では、「70℃の融解ビタミンA酢酸エステル(任意選択的にd,l-アルファトコフェロールまたはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などの抗酸化剤が添加された)をバレル5内に注入し、下流バレル内で化工食用デンプン/微結晶性セルロースと混合した」(【0089】)ことが記載され、同実施例2では、「70℃の融解ビタミンA酢酸エステル(任意選択的にd,l-アルファトコフェロールまたはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などの抗酸化剤が添加された)をバレル5内に注入し、下流バレル内で化工食用デンプン/デキストリンと混合した」(【0092】)ことが記載され、同実施例3では、「70℃の融解ビタミンA酢酸エステル(任意選択的にd,l-アルファトコフェロールまたはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などの抗酸化剤が添加された)をバレル5内に注入し、下流バレル内で化工食用デンプン/ソルビトールと混合した」(【0095】)ことが記載されており、本件発明1における上記「乳化工程」は、融解ビタミンA酢酸エステルと化工食用デンプン/微結晶性セルロース、化工食用デンプン/デキストリン、化工食用デンプン/ソルビトールとを、バレル内(押出機内)で単に混合するような、混合工程ともいえることから、本件発明1の「乳化工程が押出機内で実施され」る構成と、甲1発明1の「押出機内で混合溶融」する構成とは、混合工程が押出機内で実施される点で共通する。
また、甲1発明1の「押出機内で混合溶融して」「押出物を」得る構成は、本件発明1の「押出物が、第1のステップで製造され」る構成に相当する。
甲1においては、ラクトフェリンについて記載も示唆もなく、甲1発明1は、ラクトフェリンは含まないものといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「押出物が、第1のステップで製造され、前記押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される、離散固体押出粒子を製造する方法であって、
前記押出物が、脂溶性化合物、化工食用デンプンである乳化剤および水を含んでなり(ただし、ラクトフェリンを含む場合を除く)、
混合工程が押出機内で実施される、方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1-1)
「脂溶性化合物」について、本件発明1は、「ビタミンAまたはそのエステル」であるのに対し、甲1発明1は、「フレーバー」である点。
(相違点1-2)
押出物について、本件発明1は、水中油型エマルション小滴を含んでいるのに対し、甲1発明1は、水中油型エマルション小滴を含んでいるかどうかは不明な点。
(相違点1-3)
押出機内で実施される混合工程について、本件発明1では、乳化工程であるのに対し、甲1発明1は、乳化工程とは規定されていない点。
(相違点1-4)
押出機内部の温度が、本件発明1は、「20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)」であるのに対し、甲1発明1の押出機の内部の温度は規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1-1について検討する。
フレーバーとして、「ビタミンAまたはそのエステル」は、甲2?甲5には示されておらず、技術常識に照らしても、「ビタミンAまたはそのエステル」はフレーバーとはいえないことから、甲1発明1の「フレーバー」に替えて「ビタミンAまたはそのエステル」を用いる動機付けはない。
したがって、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4、9?14、16、17及び19について
本件発明2?4、9?14、16、17及び19は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

ウ 本件発明20について
本件発明20と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「化工デンプン等の固体炭水化物ポリマ」及び「水」は、本件発明20の、「化工食用デンプンである乳化剤」及び「水」に、それぞれ相当する。
また、本件発明20の「ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物」と、甲1発明2の「フレーバー」とは、一般にフレーバーは精油等を示すから、「脂溶性化合物」である点で共通する。
そして、甲1においては、ラクトフェリンについて記載も示唆もなく、甲1発明2は、ラクトフェリンは含まないものといえる。また、甲1発明2の「化工デンプン等の固体炭水化物ポリマ」に、加水分解レシチン生成物を含むことは、甲1には示されていないことから、加水分解レシチン生成物は含まないといえる。
また、甲1発明2の「炭水化物ポリマ担体にフレーバーがカプセル化された固体粒子」は、本件発明20の「離散固体押出粒子」に相当する。

そうすると、本件発明20と甲1発明2とは、
「離散固体押出粒子であって、
前記離散固体押出粒子が、
脂溶性化合物、
化工食用デンプンである乳化剤、および
水を含んでなる前記離散固体押出粒子。」の点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点2-1)
「脂溶性化合物」について、本件発明20は、「ビタミンAまたはそのエステル」であるのに対し、甲1発明2は、「フレーバー」である点。
(相違点2-2)
離散固体押出粒子について、本件発明20は、水中油型エマルション小滴を含んでいて、「加水分解レシチン生成物を含む場合を除く」ことが規定されているのに対し、甲1発明2の「固体粒子」は、水中油型エマルション小滴を含んでいるかどうか不明であり、「加水分解レシチン生成物を含む場合を除く」ことは規定されていない点。
(相違点2-3)
本件発明20では、「水中油型エマルション小滴の平均粒度が、300nm未満」であることが規定されているのに対し、甲1発明2では、そのような規定はされていない点。
(相違点2-4)
本件発明20では、「離散固体押出粒子の含水量が、総重量を基準にして10wt.%未満」であることが規定されているのに対し、甲1発明2の「固体粒子」の含水量は不明な点。
(相違点2-5)
「離散固体押出粒子」について、本件発明20は、「球形」であり、「円形度(HS Circularity)が0.91以上」であることが規定されているのに対し、甲1発明2の「固体粒子」は、そのような形状であるかどうかは不明な点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点2-1について検討する。
フレーバーとして「ビタミンAまたはそのエステル」は、甲2?甲5には示されておらず、技術常識に照らしても、「ビタミンAまたはそのエステル」はフレーバーとはいえないことから、甲1発明2の「フレーバー」に替えて「ビタミンAまたはそのエステル」を用いる動機付けはない。
したがって、上記相違点2-1に係る本件発明20の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明20は、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

エ 本件発明21?28について
本件発明21?28は、本件発明20を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明20と同様に、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

オ まとめ
以上より、本件発明1?4、9?14、16、17及び19?28は、甲1に記載された発明から当業者が容易に想到し得るものではなく、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

(2)甲2発明1又は甲2発明2を主引用発明とした場合
ア 本件発明1について
本件発明1の「ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物」と、甲2発明1の「ビタミン類等の被カプセル化物質」とは、一般に、ビタミン類は脂溶性を示すから、「ビタミンである脂溶性化合物」である点で共通する。
そして、甲2発明1の「マルトデキストリン等」には、2(2)で述べたように、「変性スターチ」が含まれるから、本件発明1の「化工食用デンプンである乳化剤」に相当する。
また、甲2発明1の「押出された組成物」、「マルトデキストリン等のガラス質マトリックス」、「水」及び「固体カプセル化組成物」は、本件発明1の「押出物」、「乳化剤」、「水」及び「離散固体押出粒子」にそれぞれ相当する。
上記(1)アで述べたように、本件発明1の「乳化工程」は、バレル内(押出機内)で単に混合するような、混合工程ともいえることから、本件発明1の「乳化工程が押出機内で実施され」る構成と、甲2発明1の「押出機中で混合溶融」する構成とは、混合工程が押出機内で実施される点で共通する。
また、甲2発明1の「押出機中で混合溶融して」「押出された組成物」を製造する構成は、本件発明1の「押出物が、第1のステップで製造され」る構成に相当する。
さらに、甲2発明1の「磨砕、粉砕等により加工」する構成は、本件発明1の「押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される」構成に相当する。
また、甲2には、ラクトフェリンについての記載はなく、甲2発明1において、ラクトフェリンが含まれるとはいえない。

そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「押出物が、第1のステップで製造され、前記押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される、離散固体押出粒子を製造する方法であって、
前記押出物が、ビタミンである脂溶性化合物、化工食用デンプンである乳化剤乳化剤および水を含んでなり(ただし、ラクトフェリンを含む場合を除く)、
混合工程が押出機内で実施される、方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1-1’)
「ビタミンである脂溶性化合物」について、本件発明1は、「ビタミンAまたはそのエステル」であるのに対し、甲2発明1は、「ビタミンAまたはそのエステル」とは特定されていない点。
(相違点1-2’)
押出物について、本件発明1は、水中油型エマルション小滴を含んでいるのに対し、甲2発明1の押出された組成物は、水中油型エマルション小滴を含んでいるかどうかは不明な点。
(相違点1-3’)
押出機内で実施される混合工程について、本件発明1では、乳化工程であるのに対し、甲2発明1は、乳化工程とは規定されていない点。
(相違点1-4’)
押出機内部の温度が、本件発明1は、「20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)」であるのに対し、甲2発明1の押出機の内部の温度は規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1-1’及び相違点1-4’について検討する。
(相違点1-1’について)
「ビタミン」について、甲2の請求項11(上記1(2)イ)に、「該被カプセル化物質が、薬剤、殺虫剤、ビタミン類、防腐剤、及び香味剤からなる群から選ばれるものである請求項1記載の組成物」と記載されるように、ビタミンは、被カプセル化物質の一例として例示されているものの、ビタミンの種類は特定されておらず、「ビタミンAまたはそのエステル」を被カプセル化物質に用いることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明1の「ビタミン類等の被カプセル化物質」として、数多くのビタミンの中から「ビタミンAまたはそのエステル」を選択して用いることについて、動機付けがあるとはいえない。
(相違点1-4’について)
また、甲2には、「加熱部の加熱温度は、マトリックス物質の素性、及び可塑剤の添加量に依り異なる。通常、加熱部は、194から320°F、好ましくは230から284°Fの温度に加熱する。」(上記1(2)コ)という記載があり、甲2発明1は、被カプセル化物質、クトリックス物質が、194から320°F(90℃?160℃)に加熱されるものであることが記載されている。
そうすると、甲2発明1の押出機の内部の温度を、あえて、甲2には記載されていない「20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)」とすることについて、動機付けがあるとはいえない。
(まとめ)
したがって、上記相違点1-1’及び相違点1-4’に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4、9?14、16、17及び19について
本件発明2?4、9?14、16、17及び19は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

ウ 本件発明20について
本件発明20と甲2発明2とを対比する。
本件発明1の「ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物」と、甲2発明2の「ビタミン類等の被カプセル化物質」とは、一般に、ビタミン類は脂溶性を示すから、「ビタミンである脂溶性化合物」である点で共通する。
甲2発明2の「マルトデキストリン等」には、2(2)で述べたように、「変性スターチ」が含まれるから、本件発明20の「化工食用デンプンである乳化剤」に相当する。
また、甲2発明2の「水」は、本件発明20の「水」に相当する。
そして、甲2発明2の「マルトデキストリン等のガラス質マトリックス」に、加水分解レシチン生成物を含むことは、甲2には示されておらず、加水分解レシチン生成物が含まれるとはいえない。
また、甲2には、ラクトフェリンについての記載はなく、甲2発明2において、ラクトフェリンが含まれるとはいえない。

そうすると、本件発明20と甲2発明2とは、
「離散固体押出粒子であって、
前記離散固体押出粒子が、
脂溶性化合物、化工食用デンプンである乳化剤、および水を含んでなる(加水分解レシチン生成物および/またはラクトフェリンを含む場合を除く)前記離散固体押出粒子。」の点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点2-1’)
「ビタミンである脂溶性化合物」について、本件発明1は、「ビタミンAまたはそのエステル」であるのに対し、甲2発明2は、「ビタミンAまたはそのエステル」とは特定されていない点。
(相違点2-2’)
離散固体押出粒子について、本件発明20は、水中油型エマルション小滴を含んでいることが規定されているのに対し、甲2発明2の「磨砕・粉砕物」は、水中油型エマルション小滴を含んでいるかどうか不明である点。
(相違点2-3’)
本件発明20では、「水中油型エマルション小滴の平均粒度が、300nm未満」であることが規定されているのに対し、甲2発明2の「磨砕・粉砕物」は、そのような規定はされていない点。
(相違点2-4’)
本件発明20では、「離散固体押出粒子の含水量が、総重量を基準にして10wt.%未満」であることが規定されているのに対し、甲2発明2の「磨砕・粉砕物」の含水量は不明な点。
(相違点2-5’)
本件発明20の「離散固体押出粒子」は、「球形」であり、「離散固体押出粒子の円形度(HS Circularity)が0.91以上」であることが規定されているのに対し、甲2発明2の「磨砕・粉砕物」は、そのような形状であるかどうかは不明な点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点2-1’、相違点2-3’、相違点2-4’及び相違点2-5’について検討する。
(相違点2-1’について)
「ビタミン」について、甲2の請求項11(上記1(2)イ)に、「該被カプセル化物質が、薬剤、殺虫剤、ビタミン類、防腐剤、及び香味剤からなる群から選ばれるものである請求項1記載の組成物」と記載されるように、ビタミンは、被カプセル化物質の一例として例示されているものの、ビタミンの種類は特定されておらず、「ビタミンAまたはそのエステル」を被カプセル化物質に用いることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明2の「ビタミン類等の被カプセル化物質」として、数多くのビタミンの中から「ビタミンAまたはそのエステル」を選択して用いることについて、動機付けがあるとはいえない。
(相違点2-3’について)
甲2発明2の「磨砕・粉砕物」について、その平均粒度が、300nm未満とすることについて、動機付けがあるとはいえない。
(相違点2-4’について)
甲2発明2の「磨砕・粉砕物」について、その含水量が、総重量を基準にして10wt.%未満とすることについて、動機付けがあるとはいえない。
(相違点2-5’について)
甲2発明2の「磨砕・粉砕物」について、「球形」であり、「離散固体押出粒子の円形度(HS Circularity)が0.91以上」とすることについて、動機付けがあるとはいえない。

(まとめ)
したがって、上記相違点2-1’、相違点2-3’、相違点2-4’及び相違点2-5’に係る本件発明20の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明20は、甲2発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

エ 本件発明21?28について
本件発明21?28は、本件発明20を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明20と同様に、甲2発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上より、本件発明1?4、9?14、16、17及び19?28は、甲2に記載された発明から当業者が容易に想到し得るものではなく、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

第6 取消理由通知に記載した取消理由の理由2(サポート要件)、理由3(実施可能要件)についての当審の判断
本件訂正により、乳化剤及び脂溶性化合物の種類が実施例1?3のものに特定されたことから、理由2及び理由3は解消した。

第7 取消理由通知に記載した取消理由の理由4(新規性)、理由5(進歩性)についての当審の判断
1 引用文献6の記載
引用文献6には、「飼料サプリメント組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
タンパク質および/またはデンプンを主体とした担体マトリックス中に埋め込まれたラクトフェリンを含有する、耐熱性のある分離した固体粒子の調製方法であって、
(a)水平スクリュー押出機に担体マトリックス、ラクトフェリン、および任意選択で内部滑沢剤を加えるステップと、
(b)これらの成分を前記押出機内で、低せん断かつ低温条件下で混合して、成形性のある均質な混合物を得るステップと、
(c)前記成形性のある混合物を押し出し、断片に切断するステップと、
任意選択であるが、(d)前記断片を乾燥させるステップと
を含むことを特徴とする方法。」
イ 「【0001】
本発明は、栄養、特に動物の栄養に使用するための、性質の改良された組成物の調製方法、ならびにそうして得られる組成物に関する。
【0002】
より厳密には、本発明は、ラクトフェリンを含む食品サプリメントまたは飼料サプリメントとして有用な組成物の調製方法、ならびにそうして得られる組成物に関する。
【0003】
本発明はまた、特に動物の健康状態を改善するためのラクトフェリンを含む組成物の食品飼料サプリメントの使用、ならびにラクトフェリンを主体としたサプリメントを含む飼料組成物に関する。」
ウ 「【0020】
本発明は、タンパク質および/またはデンプンを主体とした担体マトリックス中に埋め込まれたラクトフェリンを含有する、耐熱性のある分離した固体粒子を調製するために、国際公開第98/18610号明細書に記載されているのと同様の技術を使用する。本発明の方法は、
(a)水平スクリュー押出機に担体マトリックス、ラクトフェリン、および任意選択で内部滑沢剤を加えるステップと、
(b)これらの成分を押出機内で、低せん断かつ低温条件下で混合して、成形性のある均質な混合物を得るステップと、
(c)前記成形性のある混合物を押し出し、断片に切断するステップと、
任意選択であるが、(d)前記断片を乾燥させるステップと
を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明はまた、特に上で規定した方法に従って調製する際の、上で規定した粒子の食品サプリメントまたは動物用飼料サプリメントとしての使用、そのようなサプリメント組成物それ自体、最後にそのようなサプリメント組成物を補った食品または動物用飼料に関する。
【0022】
本発明の方法によれば、分離した固体粒子または顆粒は、低せん断かつ低温混合を実現するのに適する押出スクリュー配置を使用して、パスタ押出しによってどのような水平スクリュー押出機でも調製することができる。たとえば、押出機加熱シリンダの内側に軸方向に配向した漏洩流を提供するために互いに角度を少しずつずらして配置された、互い違いの小ピッチコンベヤー要素と分配混合要素の組合せを使用することができる。互い違いのコンベヤー要素と分配混合混練要素の組合せによって、塊がせん断されることなく、材料の流れが絶えず中断されるようになり、したがって、低い機械エネルギーの投入で材料が混合される。スイスのBuhler、フランスのClextral、ドイツのWerner and Pfleiderer、イギリスのAPV、または米国のWengerから入手できるものなどの、共回転かみ合い型二軸押出機、またはスイスのBussから入手できる同時混練機が、他の一軸押出機と比べて優れた混合作用を提供するので好ましい。
【0023】
担体マトリックスは、動物に十分に許容される食用成分からなる。主成分は、タンパク質を含有する成分と、自然に存在し、精製および/もしくは化学修飾された形であり、または穀粉や粗挽き穀物などの挽いた穀物、好ましくはシリアルもしくはシリアル副産物の構成成分としての、全種類のデンプンである。好ましい実施形態では、単なるデンプンを主体とした混合物、特に小麦デンプンとデュラム小麦粉(セモリナ)の混合物を使用する。
【0024】
ラクトフェリンは、(希釈または濃縮)溶液の形で、または(ほぼ乾燥した)粉末として所望であればプレミックスの形で担体マトリックスに加える。
【0025】
担体マトリックスには、所望であれば、マトリックスの疎水性または水結合能に影響を及ぼす作用物質を加えてもよい。疎水性化合物を加えると、マトリックスへの水または胃液の浸透を妨げまたは遅らせ、それによって、埋め込まれたラクトフェリンの放出を遅らせる助けとなる。水結合能の高い化合物は、粒子に浸透する水を結合し、または水にマトリックスが溶解するのを妨げることができ、それによって担体マトリックスからのラクトフェリンの放出を妨げ、または遅らせることもできる。ラクトフェリンの放出速度を制御するのに使用する追加の化合物は、最高で30%(w/w)まで、好ましくは約5?15%(w/w)の量で使用してよい。
【0026】
担体マトリックスには、混合および押出しの各工程に向けて、かつ塵の生成を避けるために、植物油または植物脂を内部滑沢剤として加えてもよい。このことは、乾燥粉末の形のマトリックスにラクトフェリンを加えるときに特に望ましい。市販のどんな植物油を加えてもよく、固体粒子の最終重量の約10%(w/w)まで、好ましくは5%(w/w)まで加えてよい。特に好ましい油は、精製ダイズ油である。
【0027】
最後に、マグネシウム、亜鉛、またはナトリウムの塩、たとえば硫酸塩や、pH値に影響を及ぼす塩、たとえば、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などの、生理的に活性があり、適合性のあるミネラルを、実際の必要に適合させられる量で担体マトリックスに加えてもよい。
【0028】
飼料サプリメント組成物中の担体マトリックスの割合(w/w)は、少なくとも50%、たとえば約60?95%、好ましくは約75%である。
【0029】
担体マトリックスの成分は、ブレンドし、プレミックスとしてスクリュー押出機に導入してもよいし、または個々に加えてもよい。ラクトフェリンは、乾燥粉末としてプレミックスに予め加え、担体マトリックスと共に押出機に導入することができる。しかし、溶液としてのラクトフェリンを別に加えて、混合物を湿らせることが好ましい。あるいは、油成分を内部滑沢剤として別に加える。ホモジナイズおよび押出しの間、押出機を冷却して、押出機および混合物の温度、すなわち、60℃未満、通常は20?50℃、好ましくは35?40℃の使用条件を確保する。
【0030】
本発明の方法で使用するラクトフェリンは、市販のラクトフェリンであり、あるいは従来技術に記載の方法に従って調製することができる。好ましい供給源は、牛の乳またはホエーである。ラクトフェリンの純度は、必須要素ではないが、少なくとも80%、好ましくは90%より高くすべきであり、凍結乾燥材料の場合では、通常は90?95%である。
【0031】
本発明の方法では、ラクトフェリンは、乳またはホエーからの大多数の生産方法、すなわち吸着カラムからの溶離によって得られる形態であるので、好ましくは溶液の形で押出機に加える。乳またはホエーから精製ラクトフェリンを得る好ましい技術は、たとえば、国際公開第02/096215号パンフレット、国際公開第01/85329号パンフレット、または国際公開第99/65586号パンフレットに記載されているようなEBA技術であり、これら文献の内容を本明細書に明確に援用する。
【0032】
ラクトフェリンが埋め込まれた顆粒のラクトフェリン含有量は、約6%?約50%(w/w)であり、特定の実施形態では、8?12%(w/w)または約20?30%(w/w)であることが好ましい。
【0033】
ホモジナイズされた混合物を、押出型プレートを通して押し出し、押し出されたパスタのストランドを切断して分離した球状粒子にする。
【0034】
本発明のこれら顆粒の形状および寸法は、主に、押出型の形および直径、混合物が押し出される速度、およびカッター速度に応じて、またより少ない程度に後続の乾燥工程条件に応じて決まる。好都合な押出型は、開口部直径が0.1?5mm、好ましくは0.5?1mmであろう。得られる粒子の約85%は、0.2?0.8mm、好ましくは0.3?0.6mmの大きさを有する。
【0035】
押出物ロープは、回転式カッター、ペレタイザー、または回転式ナイフを使用して、型当たり面で切断することができる。他の実施形態では、ペレットまたはタブレットを生成する従来の切断もしくは成形手段を使用して、押出物ロープを押出型から切り払うことができる。切断片は、長さ:直径比(l/d比)が約0.5?10、好ましくは約1となろう。その湿りに応じて、顆粒は、多かれ少なかれ無塵であり、鋭利である。」
エ 「【0039】
本発明に従ってラクトフェリンが埋め込まれた顆粒は、食品添加物または飼料添加物として有用であり、ヒトを含む前種類の動物、たとえば、ブタ、反芻動物、家禽、魚類、ペット、または動物園で見られる動物のための特別な従来型飼料と、その種類、年齢、および/または健康状態に応じて通常は約0.5?約200mgのラクトフェリン/動物体重kgである所望の1日摂取量を提供する量で混合し、またはそれと共に加工することができる。所望であれば、ラクトフェリン顆粒を補った飼料サプリメントは、従来型のペレット成形機を使用してペレット化する。当業者には、本発明の粒子が主として動物飼料用の飼料サプリメントとして有用であるが、他の配合物、たとえば化粧調製物または医薬製剤の製造にも使用できることは言うまでもない。」
オ 「【0043】
以下の実施例によって本発明をさらに例示する。
実施例I
【0044】
WP58Continua型の二軸押出機に、22.5kgのコムギデンプン、12.5kgのデュラム小麦粉、および12.5kgのラクトフェリンをプレミックスとして加えた。混合物を湿らせるための水および2.5kgのダイズ油(精製)を別々に加えた。ホモジナイズおよび押出しの際、飽和ブラインを使用して押出機を冷却し、35℃を超えない温度に保った。
【0045】
ホモジナイズした混合物をペレット化押出型プレート(押出型直径:0.5mm)を通して押し出し、押し出されたパスタのストランドを、回転式カッターを使用して押出型プレートの所で切断して約0.5mmの長さの断片にした。押出しの後、流動床乾燥装置を使用して、50℃の最高取入れ空気温度でラクトフェリン含有顆粒を乾燥させた。
【0046】
次の組成を使用して、動物飼料添加物として有用な顆粒を調製した。
【表1】

【0047】
別の実施形態では、上記成分を異なる重量比で含む組成物を同じ加工条件下で使用した。
【表2】

実施例II
【0048】
WP58Continua型二軸押出機に、20.0kgのコムギデンプン、24.5kgのデュラム小麦粉をプレミックスとして加える。約25%のタンパク質濃度(うち約90%がLF)に濃縮したホエーをクロマトグラフィーにかけて得たラクトフェリン強化溶液を加えた。2.5kgのダイズ油(精製)を単独で加えた。ホモジナイズおよび押出しの際、飽和ブラインを使用して押出機を冷却し、35℃を超えない温度に保った。
【0049】
次の組成物を使用して、動物飼料添加物として有用な顆粒を調製した。
【表3】

【0050】
別の実施形態では、タンパク質含有量が約30%(うち約90%がLF)のラクトフェリン強化溶液を加えた、重量比の異なる組成物を、同じ工程条件化で使用した。
【表4】



2 引用文献6に記載された発明(引6発明1、2)
引用文献6の【0043】?【0047】に記載された実施例Iとして、引用文献6には、次の発明が記載されていると認められる。
「WP58Continua型の二軸押出機に、22.5kgのコムギデンプン、12.5kgのデュラム小麦粉、および12.5kgのラクトフェリンをプレミックスとして加える工程、
混合物を湿らせるための水および2.5kgのダイズ油(精製)を別々に加える工程、
ホモジナイズおよび押出しの際、飽和ブラインを使用して押出機を冷却し、35℃を超えない温度に保つ工程、
ホモジナイズした混合物をペレット化押出型プレート(押出型直径:0.5mm)を通して押し出す工程、及び、
押し出されたパスタのストランドを、回転式カッターを使用して押出型プレートの所で切断して約0.5mmの長さの断片にする工程、
流動床乾燥装置を使用して、50℃の最高取入れ空気温度で乾燥させる工程を備えた、
固体ラクトフェリン含有粒子の製造方法」(以下、「引6発明1」という。)

また、上記「ホモジナイズした混合物」には、「コムギデンプン」、「デュラム小麦粉」、「ラクトフェリン」、「水」及び「ダイズ油(精製)」が含まれるから、引用文献6には、
「コムギデンプン、デュラム小麦粉、ラクトフェリン、水及びダイズ油(精製)を含むホモジナイズした混合物を、切断して約0.5mmの長さの断片にし、流動床乾燥装置を使用して、50℃の最高取入れ空気温度で乾燥させて得られた固体ラクトフェリン含有粒子」(以下、「引6発明2」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引6発明1とを対比する。
引6発明1の「押し出されたパスタのストランド」、「水」及び「固体粒子」は、本件発明1の「押出物」、「水」及び「離散固体押出粒子」にそれぞれ相当する。
本件発明1の「ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物」と引6発明1の「ダイズ油(精製)」とは、「脂溶性化合物」である点で共通する。
引6発明1の「コムギデンプン」、「デュラム小麦粉」、「ラクトフェリン」(動物タンパク質)とは、いずれも、本件明細書の【0031】に乳化剤として例示されたものであり、しかも、食用であるから、本件発明1の「化工食用デンプンである乳化剤」とは、「食用デンプンである乳化剤」である点で共通する。
また、引6発明1の「押し出されたパスタのストランドを、回転式カッターを使用して押出型プレートの所で切断して約0.5mmの長さの断片にする工程」は、本件発明1の「押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される」構成に相当する。
そして、引6発明では、「22.5kgのコムギデンプン、12.5kgのデュラム小麦粉、および12.5kgのラクトフェリン」の「プレミックス」と、「混合物を湿らせるための水および2.5kgのダイズ油(精製)」とが「別々に」「WP58Continua型の二軸押出機」に加えられていることから、引6発明の「ホモジナイズおよび押出し」は、「WP58Continua型の二軸押出機」によって行われていることは明らかであって、引6発明の「ホモジナイズおよび押出し」は、本件発明1の「乳化工程が押出機内で実施され」る構成に相当する。
また、引6発明1の「WP58Continua型の二軸押出機に、22.5kgのコムギデンプン、12.5kgのデュラム小麦粉、および12.5kgのラクトフェリンをプレミックスとして加える工程、混合物を湿らせるための水および2.5kgのダイズ油(精製)を別々に加える工程、ホモジナイズおよび押出しの際、飽和ブラインを使用して押出機を冷却し、35℃を超えない温度に保つ工程、ホモジナイズした混合物をペレット化押出型プレート(押出型直径:0.5mm)を通して押し出す工程」は、本件発明1の「押出物が、第1のステップで製造され」る構成に相当する。
そして、引6発明の「飽和ブラインを使用して押出機を冷却し、35℃を超えない温度に保つ工程」における「35℃を超えない温度」について、引用文献6には、「20?50℃・・・を確保する。」(2(2)ウ【0029】)と記載されていることから、20℃未満となることはなく、上記工程は、本件発明1の「押出機内部の温度が、20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)である」構成に相当する。

そうすると、本件発明1と引6発明1とは、
「押出物が、第1のステップで製造され、前記押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される、離散固体押出粒子を製造する方法であって、
前記押出物が、脂溶性化合物、食用デンプンの乳化剤および水を含んでなり、
乳化工程が押出機内で実施され、
前記押出機内部の温度が、20℃?100℃(但し、90℃?160℃を除く)である、方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1-1’’)
本件発明1は、ラクトフェリンを含む場合が除かれているのに対し、引6発明1は、ラクトフェリンが含まれている点。
(相違点1-2’’)
押出物について、本件発明1は、水中油型エマルション小滴を含んでいるのに対し、引6発明1の「押し出されたパスタのストランド」は、水中油型エマルション小滴を含んでいるかどうかは不明な点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1-1’’について検討する。
引6発明1は、「固体ラクトフェリン含有粒子の製造方法」に係るものであって、引用文献6には、「より厳密には、本発明は、ラクトフェリンを含む食品サプリメントまたは飼料サプリメントとして有用な組成物の調製方法、ならびにそうして得られる組成物に関する。」(【0002】)と記載されていることから、引6発明1において、ラクトフェリンを含有することは、必須の構成であるといえる。
そうすると、甲6発明1において、ラクトフェリンを含まないようにすることには、阻害要因があるといえ、上記相違点1-1’’は実質的な相違点であって、上記相違点1-1’’に係る本件発明1の発明特定事項は、甲6発明1に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

(まとめ)
したがって、相違点1-2’’について検討するまでもなく、本件発明1は、引6発明1であるとすることはできないし、引6発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとすることもできない。

(2)本件発明2?4、9?14、16、17及び19について
本件発明2?4、9?14、16、17及び19は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、引6発明1とはいえないし、引6発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3)本件発明20について
本件発明20と引6発明2とを対比する。
引6発明2の「水」は、本件発明20の「水」に相当する。
また、本件発明20の「ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物」と引6発明2の「ダイズ油(精製)」とは、「脂溶性化合物」である点で共通する。
本件発明20の「化工食用デンプンである乳化剤」と、引6発明2の「コムギデンプン」及び「デュラム小麦粉」とは、引6発明2においては、「コムギデンプン、デュラム小麦粉、ラクトフェリン、水及びダイズ油(精製)を含むホモジナイズした混合物」が用いられていることから、乳化剤といえるものであって、しかも、食用であるから「食用デンプンである乳化剤」である点で共通する。
そして、引6発明2の「固体ラクトフェリン含有粒子」は、本件発明20の「離散固体押出粒子」に相当する。
また、引6発明2の「化工デンプン等の固体炭水化物ポリマ」に、加水分解レシチン生成物を含むことは、引用文献6には示されていないことから、引6発明2には、加水分解レシチン生成物は含まないといえる。

そうすると、本件発明20と引6発明2とは、
「離散固体押出粒子であって、
前記離散固体押出粒子が、
脂溶性化合物、
食用デンプンである乳化剤、および
水を含んでなり(ただし、加水分解レシチンを含む場合を除く)前記離散固体押出粒子。」の点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点2-1’’)
本件発明1は、ラクトフェリンを含む場合が除かれているのに対し、引6発明2は、ラクトフェリンが含まれている点。
(相違点2-2’’)
離散固体押出粒子について、本件発明20は、水中油型エマルション小滴を含んでいるのに対し、引6発明2の「固体粒子」は、水中油型エマルション小滴を含んでいるかどうか不明である点。
(相違点2-3’’)
食用デンプンである乳化剤について、本件発明20は、「化工食用」であるのに対し、引6発明2の「コムギデンプン」又は「デュラム小麦粉」は、「化工デンプン」ではない点。
(相違点2-4’’)
本件発明20では、「水中油型エマルション小滴の平均粒度が、300nm未満」であることが規定されているのに対し、引6発明2では、そのような規定はされていない点。
(相違点2-4’’)
本件発明20では、「離散固体押出粒子の含水量が、総重量を基準にして10wt.%未満」であることが規定されているのに対し、引6発明2の「固体ラクトフェリン含有粒子」の含水量は不明な点。
(相違点2-5’’)
「離散固体押出粒子」について、本件発明20は、「球形」であり、「円形度(HS Circularity)が0.91以上」であることが規定されているのに対し、引6発明2の「固体ラクトフェリン含有粒子」は、そのような形状であるかどうかは規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点2-1’’について検討する。
相違点2-1’’は、上記相違点1-1’’と同様であり、上記相違点2-1’’に係る本件発明20の発明特定事項は、実質的な相違点であって、本件発明1と同様な理由から、甲6発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(まとめ)
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明20は、引6発明2であるとすることはできないし、引6発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとすることもできない。

(4)本件発明21?28について
本件発明21?28は、本件発明20を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明20と同様に、引6発明2とはいえないし、引6発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(5)まとめ
以上より、本件発明1?4、9?14、16、17及び19?28は、引用文献6に記載された発明ではなく、しかも、引用文献6に記載された発明及び甲1?5の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものではなく、特許法第29条1項第3号に該当することはできないし、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないとすることもできない。

第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、9?14、16、17及び19?28に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4、9?14、16、17及び19?28に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5?8、15及び18に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項5?8、15及び18に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型エマルション小滴を含んでなる押出物が、第1のステップで製造され、前記押出物が、押出後に離散固体押出粒子にさらに成形される、離散固体押出粒子を製造する方法であって、
前記水中油型エマルション小滴が、
ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物、
化工食用デンプンである乳化剤および

を含んでなり(ただし、ラクトフェリンを含む場合を除く)、
乳化工程が押出機内で実施され、
前記押出機内部の温度が、20℃?100℃(ただし、90℃?160℃を除く)である、方法。
【請求項2】
前記押出物が、切断および乾燥によって離散固体押出粒子にさらに成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥を前記切断前、前記切断中または前記切断後に、ならびにそれらの任意の組み合わせで実施し得る、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記押出物が、球形化工程によって離散固体押出粒子にさらに成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記エマルションの総重量を基準にして、5wt.%?75wt.%の前記脂溶性化合物が使用される、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エマルションの総重量を基準にして、5wt.%?80wt.%の前記乳化剤が使用される、請求項1?4および9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記エマルションの総重量を基準にして、1wt.%?90wt.%の水が使用される、請求項1?4、9および10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記エマルションの総重量を基準にして、1wt.%?80wt.%の水が使用される、請求項1?4、9および10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エマルションの総重量を基準にして、1wt.%?85wt.%の少なくとも1種の助剤が使用され、
前記助剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、第三級ブチルヒドロキシキノリン、エトキシキン、脂肪酸のアスコルビン酸エステル、可塑剤、安定剤、湿潤剤、保護コロイド、染料、香料、増量剤、および緩衝液からなる群から選択される、請求項1?4および9?12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
最初に前記乳化剤、次に前記水、その後に前記脂溶性化合物が添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
前記脂溶性化合物が、開始時に液体形態で添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記脂溶性化合物が、開始時または任意の後期の段階のどちらかで、純粋な粉末として、または少なくとも1種の化工食用デンプンとの混合物として、添加される、請求項1?4および9?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】(削除)
【請求項19】
成分の前記押出機内部の総滞留時間が、1?400sである、請求項1?4、9?14、16および17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
水中油型エマルション小滴を含んでなる球状の離散固体押出粒子であって、
前記水中油型エマルション小滴が、
ビタミンAまたはそのエステルである脂溶性化合物、
化工食用デンプンである乳化剤、および

を含んでなり(ただし、加水分解レシチン生成物および/またはラクトフェリンを含む場合を除く)、
前記水中油型エマルション小滴の平均粒度が、300nm未満であり、
前記離散固体押出粒子の含水量が、総重量を基準にして10wt.%未満であり、
前記離散固体押出粒子の円形度(HS Circularity)が0.91以上である、前記離散固体押出粒子。
【請求項21】
1000μm未満の粒度を有する、請求項20に記載の粒子。
【請求項22】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、5wt.%?75wt.%の前記脂溶性化合物、
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして5wt.%?80wt.%の前記乳化剤、および
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、10wt.%未満の水を含んでなる、請求項20または21に記載の粒子。
【請求項23】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、8wt.%?70wt.%の前記脂溶性化合物を含んでなる、請求項20?22のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項24】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、8wt.%?80wt.%の前記乳化剤を含んでなる、請求項20?23のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項25】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、6wt.%未満の水を含んでなる、請求項20?24のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項26】
前記離散固体押出粒子の総重量を基準にして、1wt.%?80wt.%のアスコルビン酸、アスコルビン酸塩、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、第三級ブチルヒドロキシキノリン、エトキシキン、脂肪酸のアスコルビン酸エステル、可塑剤、安定剤、湿潤剤、保護コロイド、染料、香料、増量剤、および緩衝液からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を含んでなる、請求項20?25のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項27】
食品、飼料、医薬品またはパーソナルケア製品中における、請求項20?26のいずれか一項に記載の粒子の使用。
【請求項28】
請求項20?26のいずれか一項に記載の粒子を含んでなる、食品、飼料、医薬品またはパーソナルケア製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-05-20 
出願番号 特願2015-543476(P2015-543476)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B01J)
P 1 651・ 113- YAA (B01J)
P 1 651・ 536- YAA (B01J)
P 1 651・ 121- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松井 一泰  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 日比野 隆治
川端 修
登録日 2018-08-17 
登録番号 特許第6384764号(P6384764)
権利者 ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
発明の名称 離散個体押出粒子を製造する方法  
代理人 酒巻 順一郎  
復代理人 野村 梨沙  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 成人  
代理人 池田 成人  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 吉住 和之  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
復代理人 野村 梨沙  

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