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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1363995
異議申立番号 異議2019-700508  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-26 
確定日 2020-06-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6443048号発明「液晶表示装置、偏光板及び偏光子保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6443048号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第6443048号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6443048号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成25年7月29日に出願され、平成30年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同年12月26日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和元年 6月26日:特許異議申立人鈴木美香による請求項1及び2に 係る特許に対する特許異議の申立て(全請求項)
同年 8月26日:取消理由通知(同年8月30日発送)
同年10月29日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月 5日:通知書(同年11月8日発送)
同年12月 9日:特許異議申立人鈴木美香による意見書の提出
同年12月17日:取消理由通知(同年12月20日発送)
令和2年 2月14日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 2月28日:通知書(同年3月4日発送)
同年 4月 2日:特許異議申立人鈴木美香による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年2月14日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1を、次のとおり訂正しようとするものである(下線は、当審が付したものである。以下、同じ。)。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム及び出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムは、4000?30000nmの面内リタデーション、1.7以下のNz係数、及び0.117以上0.13以下の面配向度を有する配向ポリエステルフィルムである、」と記載されているのを、

「入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム及び出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムは、4000?30000nmの面内リタデーション、1.7以下のNz係数、及び0.117以上0.13以下の面配向度を有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記配向ポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムである、」に訂正する。

2 訂正事項1の訂正要件の判断
(1)訂正の目的
訂正事項1は、請求項1に係る発明における「配向ポリエステルフィルム」を一軸延伸フィルムに限定する訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。

(2)新規事項追加の有無
本件特許明細書の段落【0050】には「本発明の配向ポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムでも良いが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

(3)実質拡張変更の有無
上記(1)及び(2)に照らして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 訂正の適否についての小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という。)は、本件訂正後の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる。

[本件訂正発明1]
「バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続した発光スペクトルを有する白色光源であり、
入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム及び出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムは、4000?30000nmの面内リタデーション、1.7以下のNz係数、及び0.117以上0.13以下の面配向度を有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記配向ポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムである、
液晶表示装置。」

[本件訂正発明2]
「前記連続した発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1に記載の液晶表示装置。」

第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1に係る特許(以下「本件発明1」という。)に対して、当審が令和元年12月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

【理由】(進歩性欠如)
本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第4号証:国際公開第2011/162198号公報
甲第2号証:特開2009-6543号公報

第5 甲号証に記載された発明
1 甲第4号証の記載事項及び引用発明
(1)甲第4号証には、以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
[請求項1] バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は白色発光ダイオードであり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記偏光子保護フィルムの少なくとも1つは3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである、液晶表示装置。
[請求項2]
……
[請求項4] 前記白色発光ダイオードが、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される、請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。」

イ 「[0021] 上記効果を奏するために、偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、次に好ましい下限値は5000nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。」

ウ 「[0033] 本発明においては、偏光子との接着性を改良のために、本発明のフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリアクリル樹脂の少なくとも1種類を主成分とする易接着層を有することが好ましい。ここで、「主成分」とは易接着層を構成する固形成分のうち50質量%以上である成分をいう。本発明の易接着層の形成に用いる塗布液は、水溶性又は水分散性の共重合ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂の内、少なくとも1種を含む水性塗布液が好ましい。これらの塗布液としては、例えば、特許第3567927号公報、特許第3589232号公報、特許第3589233号公報、特許第3900191号公報、特許第4150982号公報等に開示された水溶性又は水分散性共重合ポリエステル樹脂溶液、アクリル樹脂溶液、ポリウレタン樹脂溶液等が挙げられる。」

エ 「[0039] 本発明のポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
[0040] この現象は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が度大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。
[0041] しかしながら、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対象性)を有していることが好ましい。
[0042] 本発明者等は、保護フィルムの機械的強度を保持しつつ、虹斑の発生を抑制する手段として、保護フィルムのリタデーション(面内リタデーション)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比が特定の範囲に収まるように制御することを見出した。厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの差が小さいほど、観察角度による複屈折の作用は等方性を増すため、観察角度によるリタデーションの変化が小さくなる。そのため、観察角度による虹状の色斑が発生し難くなると考えられる。
[0043] 本発明者等本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.500以上、さらに好ましくは0.600以上である。上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる。そして、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となる。しかし、前述のように完全な1軸性(1軸対称)フィルムに近づくにつれ配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下する。
[0044] 一方、本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下である。観察角度による虹状の色斑発生を完全に抑制するためには、上記リタデーションと厚さ方向位相差の比(Re/Rth)が2.0である必要は無く、1.2以下で十分である。また、上記比率が1.0以下であっても、液晶表示装置に求められる視野角特性(左右180度、上下120度程度)を満足することは十分可能である。
[0045]
……
[0049]
本発明のポリエステルフィルムの厚みは任意であるが、15?300μmの範囲が好ましく、より好ましくは15?200μmの範囲である。15μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は25μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚みの上限は、300μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は200μmが好ましい。特に好ましい厚みの上限は一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。上記厚み範囲においてもリタデーションを本発明の範囲に制御するために、フィルム基材として用いるポリエステルはポリエチレンタレフタレートが好適である。」

オ 「[0057](4)虹斑観察 PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエステルフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)とする液晶表示装置の出射光側にポリエステルフィルなるとうに設置した。この液晶表示装置は、液晶セルの入射光側に2枚のTACフィルムを偏光子保護フィルムとする偏光板を有する。液晶表示装置の偏光板の正面、及び斜め方向から目視観察し、虹斑の発生有無について、以下のように判定した。」

カ 「[0079] 実施例1?10及び比較例1?3のポリエステルフィルムについて虹斑観察及び引裂き強度を測定した結果を以下の表1に示す。
[表1]

表1に示されるように、実施例1?10のフィルムを用いて虹斑観察を行ったところ、正面方向から観察した場合は、いずれのフィルムでも虹斑は観察されなかった。実施例3?5及び8のフィルムについては、斜めから観察した場合に部分的に虹斑が観察される場合があったが、実施例1、2、6、7、9及び10のフィルムについては、斜めから観察した場合も虹斑は全く観られなかった。一方、比較例1?3のフィルムは、斜めから観察した際に明らかな虹斑が観られた。
[0080] また、実施例7及び比較例2のフィルムは引裂き強度が十分ではないことが判明した。実施例7のフィルムは、Re/Rthが大きすぎるためであり、比較例2のフィルムは膜圧が薄すぎるためと考えられる。」

(2)甲第4号証に記載された発明
ア 上記(1)アの記載からして、甲第4号証には、
「バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであり(請求項4)、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記偏光子保護フィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである、液晶表示装置(請求項1)。」(請求項1-4)が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)イの記載からして、
上記アの「3000?30000nmのリタデーション」は、4500?30000nmが好ましいものと認められる。

ウ 上記(1)ウの記載からして、
上記アの「偏光子保護フィルム」は、易接着層を介して偏光子に貼り付けてもよいものと認められる。

エ 上記(1)エの記載からして、以下のことが理解できる。
(ア)Re/Rthが大きいほど、複屈折の作用が等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなるものの、2.0に近づけると機械的強度が低下すること。
(イ)比(Re/Rth)が1.0?1.2程度であってもよいこと。
(ウ)ポリエステルフィルムは、厚みが25?200μmであること。
(エ)ポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、
二軸延伸フィルムの場合、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要であり、
一軸延伸フィルムの場合、虹状の色斑は見え難くなるものの、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下すること。

以下、簡略のため、
厚さ方向リタデーションを「Rth」と表記する。

オ 上記(1)オの記載からして、以下のことが理解できる。
(ア)上記アの「偏光子保護フィルム」は、その配向主軸が易接着層を介して偏光子の吸収軸に対して垂直になるように貼り付けてもよいこと。

(イ)上記アの「偏光子保護フィルム」は、上記エの検討からして、実施例1ないし10のいずれのフィルムであっても、正面方向から観察した際に、虹斑が観察されないこと。

カ 上記アないしオからして、甲第4号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであり、
前記偏光板は、偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記偏光子保護フィルムは、
4500?30000nmのリタデーションを有し、複屈折の作用が等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が難しくなるように比(Re/Rthを0.1?1.2程度に大きくした、厚みが25?200μmの一軸延伸ポリエステルフィルムであり、その配向主軸が易接着層を介して偏光子の吸収軸に対して垂直になるように貼り付けられている、液晶表示装置。」

2 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載の技術事項
(1)甲第2号証には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
少なくとも片面に密着性改質樹脂と粒子を含む組成物からなる密着性改質層を設けてなるポリエステルフィルムであって、面配向度(ΔP)が0.080?0.160であり、フィルムの厚み斑が8%未満であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。」

イ 「【背景技術】
【0002】
……
【0017】
ポリエステルフィルムは、物理特性、耐薬品性、耐熱性の点から長手方向、幅方向にそれぞれ3?5倍程度の延伸および180?240℃程度の熱処理がなされることが一般的である。物理的強度や耐薬品性の点からは一定以上の面配向度(ΔP)を有することが望ましい。しかし、この長手方向、幅方向の延伸倍率が大きくなるほど、面配向度(ΔP)が高くなり、それぞれの方向の屈折率は増大していく。また、延伸温度が低いほど延伸応力が高くなるので、面配向度(ΔP)が高くなり、屈折率は増大する。屈折率を下げるために未延伸フィルムを長手方向に延伸する際の延伸倍率を低下させていくと、特許文献6に記載されている通り、歪に対して応力が増大しない平坦区間での延伸となるため、応力に対し歪が一定に定まらず、延伸倍率が場所によりばらつき、厚み斑が悪化する。このような厚み斑の悪い一軸延伸フィルムを用いて横延伸を行うと、結果的に得られる二軸延伸フィルムの厚み斑も悪いものしか得られない。
【0018】
……
【0019】
また、特許文献7には延伸倍率の低いポリエステルフィルムが記載されているが、ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)は延伸温度、延伸速度、延伸倍率、更には熱固定温度の条件等により左右される為、単に延伸倍率を低く設定しただけでは、フィルムの屈折率は下がらない。
【0020】
【特許文献7】特開平2007-31496
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
……
【0022】
前記の課題を解決することができた光学用ポリエステルフィルムとは、以下の通りである。すなわち、本発明における第1の発明は、少なくとも片面に密着性改質樹脂と粒子を含む組成物からなる密着性改質層を設けてなるポリエステルフィルムであって、面配向度(ΔP)が0.080?0.160であり、フィルムの厚み斑が8%未満であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムである。
【0023】
……
【発明の効果】
【0024】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、少なくとも片面に密着性改質樹脂と粒子を含む組成物からなる密着性改質層を設けた構成であるため、基材フィルムに粒子を添加する必要がなく、透明性に優れ、かつ紫外線硬化型または電子線硬化型アクリル系樹脂からなるハードコート層を積層した際に、同時二軸延伸により面配向度(ΔP)を特定範囲内に制御することによって、干渉斑を目立ちにくくできるという利点がある。また、熱寸法安定性も高く、幅方向の物性の歪も少ないため、加工特性の良いポリエステルフィルムを提供することができる。」

ウ 「【0028】
(面配向度(ΔP))
本発明の二軸配向フィルムは、面配向度(ΔP)が0.080?0.160であることが重要である。面配向度(ΔP)は、0.100?0.150がより好ましく、0.110?0.140がさらに好ましい。面配向度(ΔP)が0.160を超えた場合は、密着性改質層の上にハードコート剤を塗設した場合、干渉縞が目立ちやすくなるので好ましくない。一方、面配向度(ΔP)が0.080未満では、二軸延伸フィルムとしての特徴がなくなり、機械的な強度が著しく低下するので好ましくない。また、フィルムの厚み均一性も悪化する
【0029】
(配向主軸の最大歪み)
延伸倍率を下げ、面配向度を低下させることによりフィルムの幅方向に対する配向主軸の歪みを小さくすることができる。すなわち、逐次延伸による通常の延伸倍率(3?5倍)では、フィルムの幅方向の端部では、いわゆるボーイング現象により配向主軸が幅方向に対して歪む為、軸方向でのフィルムの物性に差が生じる。しかし、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムでは、延伸倍率を下げ、面配向度を低下しているため、端部においても配向主軸の歪が小さく、これにより幅方向での物性差が小さくなる。本発明のフィルムの配向主軸の最大の歪みは、30°以下が好ましい。特に、二軸配向ポリエステルフィルムがポリエチレンテレフタレートから構成されている場合の配向主軸の最大の歪みは、25°以下が好ましく、更には20°以下が好ましい。配向主軸の歪みが30°を越える場合、熱加工時に生じるねじれやたわみ、平面性の歪みが大きくなる。」

エ 「【0076】
本発明者は、同時二軸延伸による二軸配向ポリエステルフィルムの製造において、面配向が小さく、且つ、厚み斑の小さいポリエステルフィルムを得るためには、延伸倍率と延伸速度と延伸温度の関係が重要である事を見出し、延伸倍率と延伸速度と延伸温度を高度に制御することで本発明に至った。すなわち、延伸速度は小さくする程、延伸温度は高くする程、長鎖高分子の配向性は低くなり、面配向度(ΔP)を小さくする傾向にある。そこで、面配向度(ΔP)を下げるために、単に延伸倍率を小さくするだけでなく、延伸速度と延伸温度を高度に制御することで、厚み斑の少ない二軸配向ポリエステルフィルムの製造が可能となった。以下、それぞれについて詳細に説明するが、本発明の特徴を有する二軸配向ポリエステルフィルムであれば、下記方法以外により得られたとしても本発明の
範囲に含まれる。」

オ 「【0089】
(2)フィルム屈折率
JISK7142「プラスチックの屈折率測定方法」に準拠して、アタゴ社製アッベ屈折計4Tを用いて、接眼レンズに偏光板を取り付け、偏光板の向きおよびフィルムの向きをそれぞれ調整し、フィルム厚み方向の屈折率(Nz)、幅方向の屈折率(Ny)、長手方向の屈折率(Nx)を測定した。中間液としてジョードメタンを用いた。各方向の屈折率の測定は、各サンプルに対しn=3でフィルム両面について行い、その平均値を各方向の屈折率とした。なお、ここでいう幅方向とは、ロール巻き出し方向に対し垂直な方向、長手方向とは、ロールの巻き出し方向に平行な方向をいう。面配向度(ΔP)は以下の式により求めた。
ΔP=(Nx+Ny)/2-Nz」

(2)甲第2号証に記載の技術事項
ア 上記(1)アの記載から、
甲第2号証には、「面配向度(ΔP)が0.080?0.160であり、フィルムの厚み斑が8%未満である二軸配向ポリエステルフィルム。」が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)イの記載から、
(ア)ポリエステルフィルムは、物理的強度や耐薬品性の点から一定以上の面配向度(ΔP)を有することが望ましいこと。
(イ)延伸倍率が大きくほど、面配向度(ΔP)及び屈折率が増大すること。
(ウ)延伸倍率が小さいほど、面配向度(ΔP)及び屈折率が低下するものの、厚み斑が悪化すること。
(エ)面配向度(ΔP)は、延伸温度、延伸速度、延伸倍率、熱固定温度の条件等により左右されるため、単に延伸倍率を低く設定しただけでは、フィルムの屈折率は下がらないこと。
(オ)一軸延伸フィルムを用いて横延伸を行うと、結果的に得られる二軸延伸フィルムの厚み斑も悪いものしか得られないこと。
(カ)同時二軸延伸により面配向度(ΔP)を特定範囲内に制御することによって、厚み斑及び幅方向の物性の歪を低減できること。

ウ 上記(1)ウの記載から、
(ア)二軸配向フィルムの面配向度(ΔP)を0.080?0.160とすることが重要であること。
(イ)面配向度(ΔP)は、「0.110?0.140」が好ましいこと。
(ウ)面配向度(ΔP)が0.080未満では、機械的な強度が低下するとともに、厚み均一性も悪化すること。
(エ)延伸倍率を下げて面配向度を低下させることで、配向主軸の歪が小さくなること。

エ 上記(1)エの記載から、
面配向度(ΔP)を下げるためには、
同時二軸延伸において、
延伸倍率を小さく、
延伸速度を小さく、
延伸温度を高くすること必要のあること。

(2)上記(1)アないしエからして、甲第2号証には、次の技術的事項(以下、「甲第2号証に記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

「同時二軸延伸において、延伸倍率、延伸速度及び延伸温度を制御して、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)を0.110?0.140とすることで、厚み斑が少なく、かつ、フィルムの幅方向に対する配向主軸の歪みの小さい、二軸配向ポリエステルフィルムを得られること。」

第6 当審の判断
1 本件訂正発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「バックライト光源」は、本件訂正発明1の「バックライト光源」に相当する。
以下、同様に、
「2つの偏光板」は、「2つの偏光板」に、
「液晶セル」は、「液晶セル」に、
「液晶表示装置」は、「液晶表示装置」に、
「青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオード」は、「連続した発光スペクトルを有する白色光源」に、それぞれ、相当する。

イ 引用発明の「偏光板」は、偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなるから、本件訂正発明1と引用発明とは、「入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム及び出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムを有する」点で一致する。

ウ 引用発明の「4500?30000nmのリタデーションを有し、複屈折の作用が等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなるように比(Re/Rth)を1.0?1.2程度に大きくした、厚みが25?200μmの一軸延伸ポリエステルフィルム」のNz係数及び面配向度について検討する。

a Nz係数
NZ係数は、RthとReを用いると、「Rth/Re+0.5」で表されるから、「比(Re/Rth)を1.0?1.2程度に大きく(する)」ことは、Nz係数を「1.33?1.5程度」にすることを意味する。

Nz係数について、必要ならば、下記の文献を参照。
特開2010-54750号公報(【0005】)
特開2006-308917号公報(【請求項1】)
特開2006-119623号公報(【0032】)
国際公開第2011/065584号([0020])
「広視野角位相差フィルム用高分子材料の開発」、東ソー研究・技術報告 第48巻(2004)、p23-29

b 面配向度
面配向度は、Rth/dで表されるから、引用発明の「4500?30000nmのリタデーションを有し、……一軸延伸ポリエステルフィルム」は、所定の面配向度を有することは、明らかである。

そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、「4000?30000nmの面内リタデーション、1.7以下のNz係数、及び所定の面配向度を有する一軸延伸配向ポリエステルフィルム」である点で一致する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)から、本件訂正発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続した発光スペクトルを有する白色光源であり、
入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム及び出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムは、4000?30000nmの面内リタデーション、1.7以下のNz係数、及び所定の面配向度を有する一軸延伸配向ポリエステルフィルムである、液晶表示装置。」

(カ)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
面配向度に関して、
本件訂正発明1は、「0.117以上0.13以下」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。

(2)判断
ア 上記<相違点1>について検討する。
(ア)甲第2号証には、上述のとおり「甲第2号証に記載の技術事項」が記載されている。

(イ)引用発明の「4500?30000nmのリタデーションを有し……一軸延伸ポリエステルフィルム」と上記「『同時二軸延伸により得られる』『二軸配向ポリエステルフィルム』」とは、延伸倍率等を制御することにより製造される「延伸ポリエステルフィルム」である点で共通する。

(ウ)しかしながら、「甲第2号証に記載の技術事項」は、「『同時二軸延伸により得られる』『二軸延伸ポリエステルフィルム』」に関するものであって、甲第2号証の他の記載を見ても、「一軸延伸ポリエステルフィルム」の面配向度を「0.110?0.140」にすることを示唆する記載はない。

(エ) また、特許異議申立人が提出した他の各甲号証の記載を見ても、面配向度に関する記載はなく、面配向度に着目することを示唆する記載もない。

(オ)さらに、面配向度については措き、引用発明において、一軸延伸ポリエステルフィルムの各複屈折率や厚さを調整することにより、相違点1に係る構成に至るかどうかを検討しても、以下のとおり、そのような調整を行う動機はない。
すなわち、当該調整は、面配向度のみならず、一致点として認定された面内リタデーションの値及びNz係数の値にも影響を及ぼすものであり、しかも、当該調整をすることで至ることができる本件訂正発明1は、上記面内リタデーションの値及びNz係数の値に加え、相違点1に係る構成をも備えることにより、「より確実に一対の偏光板の両方に偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合の虹斑を完全に解消することができる」という作用効果を奏するものである。そうすると、引用発明から出発した当業者が、一致点を維持しつつ、相違点1に係る構成に至るためには、甲第4号証や他の各甲号証に、そのような調整をするための積極的ないし具体的な動機が記載されていることを要するというべきところ、これらの証拠には、そのようなものが見いだせない。
したがって、引用発明において、一軸延伸ポリエステルフィルムの各複屈折率や厚さを調整することにより、相違点1に係る構成に至る動機はない。

(カ) そうすると、引用発明の「一軸延伸ポリエステルフィルム」において、一致点を維持しつつ、面配向度を「0.117以上0.13以下」に設定して、相違点1に係る構成に至る動機がない。

(キ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>に係る構成を備えることは、当業者が「甲第2号証に記載の技術事項」に基づいて容易になし得ることであるとはいえない。

2 まとめ
本件訂正発明1は、当業者が甲第4号証に記載された発明及び「甲第2号証に記載の技術的事項」に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは言えない。

3 令和2年4月2日提出の意見書(特許異議申立人)における主張について
(1)特許異議申立人は、偏光子保護フィルムとして、「機械的強度の弱いNz係数が1.0の完全な一軸性フィルム」を用いた場合に、偏光板を作製することができないから、本件特許明細書は、本件訂正発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない、また、「機械的強度の弱いNz係数が1.0の完全な一軸性フィルム」を用いた場合に、本件訂正発明1の課題が解決できることを把握できる記載はない旨主張する(第1頁後段ないし第4頁後段)。

本件特許明細書の記載からして、機械的強度の観点からは、二軸性フィルムが好ましいものの、Nz係数が1.0のフィルムでは、偏光板が作製できないというものではない(例えば、特許異議申立人が提出した甲第1号証の実施例1を参照。)。
そして、Nz係数が1.0のフィルムを用いて偏光板を作製すれば、本件訂正発明1の課題は解決できることは十分に認識できることである。

(2) 特許異議申立人は、引用発明の「一軸延伸ポリエステルフィルム」は、面配向度が0.117以上0.13以下のものを含む旨主張する(第7頁中段)。

しかしながら、引用発明の「一軸延伸ポリエステルフィルム」の面配向度を0.117以上0.13以下とするためには、
「リタデーション(4500?30000nm)」、「Re/Rth(0.1?1.2程度)」及び「厚み(25?200μm)」を特定の組み合わせにする必要があるが、上記1(2)ア(オ)と同様の理由で、そのようにする動機はない。
したがって、当業者が、引用発明及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて本件訂正発明1及び2に係る構成に至ることはない。

(3) 特許異議申立人は、本件訂正発明1は、引用発明及び甲第1号証(特開2011-59488号公報)の記載に基づいて、容易に発明をすることができたものである旨主張する(第8頁後段ないし第11頁後段)。

しかしながら、甲第1号証(特開2011-59488号公報)には、そもそも、面配向度に着目した記載はない。さらに、甲第1号証には、本件訂正発明1で特定された面内リタデーション、Nz係数及び面配向度の値を満たす偏光子保護フィルムが記載されているわけでもない。
そして、上記1(2)ア(オ)と同様の理由で、甲第1号証の記載を考慮しても、引用発明において、一軸延伸ポリエステルフィルムの各複屈折率や厚さを調整することにより、相違点1に係る構成に至る動機はない。
したがって、当業者が、引用発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基づいて本件訂正発明1及び2に係る構成に至ることはない。

5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、甲第1号証(特開2011-59488号公報)と甲第2号証とを組み合わせることにより、当業者であれば本件訂正発明1に想到し得る旨を主張している。

しかしながら、甲第1号証の「一軸延伸ポリエステルフィルム」に対して、「『同時二軸延伸により得られる』『二軸延伸ポリエステルフィルム』」に関する「甲第2号証に記載の技術事項」を適用する動機がない。
よって、甲第1号証と甲第2号証とを組合せても本件訂正発明1にはならない。

第6 むすび
以上のとおり、訂正後の請求項1及び請求項2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続した発光スペクトルを有する白色光源であり、
入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム及び出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムは、4000?30000nmの面内リタデーション、1.7以下のNz係数、及び0.117以上0.13以下の面配向度を有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記配向ポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムである、
液晶表示装置。
【請求項2】
前記連続した発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1に記載の液晶表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-05-27 
出願番号 特願2014-528131(P2014-528131)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣田 かおり橿本 英吾  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
山村 浩
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6443048号(P6443048)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 液晶表示装置、偏光板及び偏光子保護フィルム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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