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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1364030
異議申立番号 異議2020-700213  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-26 
確定日 2020-07-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6586250号発明「硬質塩化ビニル系樹脂管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6586250号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6586250号に係る発明は、平成31年1月17日に特許出願され(優先権主張 平成30年6月1日)、令和元年9月13日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月2日に特許公報への掲載がなされ、その後、令和2年3月26日に特許異議申立人 奥村一正(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件の請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明8」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂と、有色を呈する金属系無機顔料と、白色を呈する金属系無機顔料と、フタロシアニン系顔料である有機顔料とを含み、白色度が50以上であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記有色を呈する金属系無機顔料の含有量が、0.025?0.06重量部であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記有機顔料の含有量が、0.0001?0.004重量部である、硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項2】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記2種以上の金属系無機顔料の総含有量が、0.050重量部以上である、請求項1に記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記2種以上の金属系無機顔料の総含有量が、0.050?0.500重量部である、請求項1又は2に記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項4】
ステアリン酸塩を更に含み、前記有色を呈する金属系無機顔料1重量部当たり、前記ステアリン酸塩の含有量が10?54重量部である、請求項1?3のいずれかに記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項5】
炭酸カルシウムを更に含み、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記炭酸カルシウムの含有量が5重量部以上である、請求項1?4のいずれかに記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項6】
前記有色を呈する金属系無機顔料がクロム含有化合物を含む、請求項1?5のいずれかに記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項7】
前記有色を呈する金属系無機顔料が、酸化クロムと酸化鉄とを含む複合酸化物を含む、請求項1?6のいずれかに記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。
【請求項8】
前記白色を呈する金属系無機顔料が酸化チタンである、請求項1?7のいずれかに記載の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管。」

第3 異議申立ての理由の概要
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
・申立ての理由1
本件請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
・申立ての理由2
本件請求項1?8に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開昭58-167642号公報
甲第2号証:特表2009-518515号公報
甲第3号証:特許第6185817号公報
甲第4号証:特開2006-176566号公報
甲第5号証:特開2016-196605号公報
甲第6号証:特開2015-209475号公報
甲第7号証:特開2000-313748号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第7号証」を、それぞれ「甲1」?「甲7」という。)

第4 異議申立ての理由についての判断
1 申立ての理由1について
以下、申立ての理由1を検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲7につき記載された事項を確認した上で、甲1に記載された発明を認定し、対比・判断を行う。

(1) 甲1に記載された事項
ア「特許請求の範囲
1.ポリマー用の可塑剤と共に又はそれを用いずビニルモノマーのホモポリマー又はコポリマー、スズ安定剤、有色顔料、およびポリマー重量に対し、酸化第二クロムおよび酸化第二鉄の混合物からなる赤外線反射黒色顔料約0?約15重量部を含んでなる、日光のもとで使用に適合した組成物。
2.前記ホモポリマーがポリ塩化ビニルである、特許請求の範囲第1項記載の組成物。
3.前記可塑剤がジ-(2-エチルヘキシル)フタレートである、特許請求の範囲第1項記載の組成物。
4.前記可塑剤の量がポリマー重量に対し、約0?約30重量部である、特許請求の範囲第1項記載の組成物。
5.前記モノマーが塩化ビニル及びアクリル酸エチルである、特許請求の範囲第1項記載の組成物。
6.前記ホモポリマーがポリ塩化ビニルである、特許請求の範囲第3項記載の組成物。
7.前記有色顔料がクロマタールブラウン5R及びフタロシアニングリーンである、特許請求の範囲第6項記載の組成物。
8.前記可塑剤がジ-(2-エチルヘキシル)フタレートである、特許請求の範囲第5項記載の組成物。」

イ「本発明の組成物において最も重要な成分は赤外反射顔料であり、特に黒色赤外反射顔料である。最も重要な赤外反射黒色顔料にはフェロコーポレーションオブクリーバランド(Ferro Corporatlon of Cleveland)(オハイオ州)によって製造されるO-1316ブラックであり、これはCr_(2)O_(3)及びFe_(2)O_(3)の混合物である。この様な顔料を用いることにより、ビニルポリマー製品、例えばビニルハウス羽目板の加熱はそれ等の紫外線の保護又は色の変化を伴うことなく低下される。
ビニルポリマー製品の色変化を得る為に、他の赤外反射顔料を黒色顔料と共に組み合わせて用いられる。他の赤外反射顔料の例として、フタロシアニンブルー、ミーターライトブラウン(meteor light brown)♯7739(Mn-Zn-Al-Cr酸化物)、クロミウムオキサイドグリーン、ブライトゴールデンイエロー(Ti-Sb-Cr酸化物)、クロマタールブラウン(chromathal brown)5R、フタロシアニングリーン、コバルトブルー♯1、酸化チタン等が挙げられる。黒色顔料は、組成物中一種のビニルポリマー若しくは複数のポリマーの重量に対し約0重量部?約15重量部の範囲内でビニルポリマー組成物中で使用すべきである。他の赤外反射顔料の量は、完成品において希望する所期の色に応じて変化し得る。しかし、以下の内容は再び指摘されるべきである。即ちカーボンブラック顔料の使用は避けねばならない。何故ならば該顔料は紫外、可視及び赤外における光を吸収するからであり更にビニルポリマー製品中に熱の蓄積をもたらす為特に不都合であるからである。このことは以下の実施例において明瞭に示されている。」(第4頁左下欄第11行?第5頁左上欄第2行)

ウ「実施例1
この例において、一連の12個の被覆素材試験品及び2個の剛直な、未可塑化PVC試験品が作られた。被覆素材は伸長ビニルハウス羽目板及びビニル窓等において外部耐候性の層である。試験品において、カーボンブラックは対照として用いられ更にフェロコーポレーションオブクリーバランド(オハイオ州)から入手される赤外反射黒色顔料(「O-1316ブラック」として言及される)と比較した。各試験品の成分は2本ロールミルを用いて3分間340°Fで混合した。各々の組成物を5分間340°?350°Fの温度で予備加熱し、次いで加圧し、6インチ×6インチ×0.45インチのパネルに成形した。それ等を5分間プレスした。各々の場合における熱の蓄積を、以下の文献中で記載される手順によって測定した:表題「アンダースタンディングザクーリングアンドサイジィングリクワイアメントオブビニルハウムサイディング(Understanding The Cooling and Sizing Requirements of Vinyl Nouse Siding)」、J.W.サマーズ及びR.J.ブラウン著、Soc.オブPlastic Engrs中 1979年5月発行、テクニカルペーパー、25巻、403頁。各々の試験品における配合及び熱蓄積の結果を次の表に示す。該表中、奇数番号の試験品即ち1,3,5,7,9,11及び13はカーボンブラックを含有し、偶数番号の試験品2,4,6,8,10,12及び14はカーボンブラックと同じ色調を与える量で赤外反射黒色顔料を有する。該表中、全ての数字はPVC100重量部に対する重量部である。






」(第5頁左上欄第7行?第6頁左上欄)

エ「本発明のビニルポリマー組成物は、家の羽目板および他の建築物の羽目板、シャター、屋根穴、キャンパー用テントおよび日光に長時間暴露するような他の同様の材料の製造に対し最も有用である。更に本発明の組成物はビニルハウス羽目板の「オイルキャンニング」を実質上減少する。」(第6頁右上欄第5行?第10行)

(2) 甲2に記載された事項
ア「【請求項1】
下記を含む組成物:
(i)下記の樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂;
(i-a)硬質熱可塑性相に分散した不連続エラストマー相を含むゴム変性熱可塑性樹脂であって、硬質熱可塑性相の少なくとも一部がエラストマー相にグラフトされており、エラストマー相が少なくとも1種のC_(1)?C_(12)アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位を有するポリマーを含み、かつ、硬質熱可塑性相が少なくとも1種のビニル芳香族モノマー及び少なくとも1種のモノエチレン性不飽和ニトリルモノマーから誘導される構造単位を含むゴム変性熱可塑性樹脂、
(i-b)カーボネート構造単位を含むコポリマー、及び
(i-c)ポリカーボネートと、ポリカーボネートとは異なる少なくとも1種の他の樹脂を含むブレンド;及び
(ii)(ii-a)少なくとも1種の無機系赤外線反射顔料及び(ii-b)少なくとも1種の有機系着色剤を含む着色剤の組合せであって、該無機顔料と有機系着色剤との組合せが、成形部品中で、ASTM D4803-89による測定で、約34℃以下の温度上昇(HBU)及び、反射光成分を含むときは約30未満の、反射光成分を含まないときは約20未満のL^(*)値をもたらす組合せ。」

イ「【0032】
本発明の組成物は、少なくとも1種の無機系赤外線反射顔料を含む。顔料がほとんど赤外線放射を吸収しないものであれば、特に限定はされない。説明のための無機系赤外線反射顔料には、金属酸化物、混合金属酸化物、チタン酸塩、アルミン酸塩、金属炭酸塩、酸化鉄、酸化クロム、群青、ステンレス鋼粉末、酸化チタンで被覆された雲母粉末又は金属硫化物(希土類硫化物を含む)が含まれる。特定の実施態様では、無機系赤外線反射顔料には、クロム鉄酸化物、又は限定されないが、クロム鉄ニッケルブラックスピネルなどのブラックスピネルが含まれる。これらの物質の例示としては、オハイオ州シンシナティのThe Shepherd Color Companyから商品名「Black 1」、「Black 462」、「Black 376」、及び「Black 411」で購入可能である。
【0033】
本発明の組成物は、少なくとも1種の有機系着色剤を含む。いくつかの実施態様では、有機系着色剤は赤外線を吸収しない。説明のための有機系着色剤には、組成物の成形品中で暗色又は黒色の製品に寄与するものが含まれる。適当な有機系着色剤は、本発明の組成物の実施態様において単独以上の有機系着色剤を含む混合物としてのどちらでも用いることができる。いくつかの特定の実施態様では、少なくとも2種の有機系着色剤を用いて、暗色又は黒色のどちらでも生成することができる。説明のための有機系着色剤は、アントラキノン、アゾ、無水フタル酸、フタロシアニン、インジゴ/チオインジゴ、アゾメチン、アゾメチン-アゾ、ジオキサジン、キナクリドン、イソインドリノン、イソインドリン、ジケトピロロピロール、ペリレン、もしくはペリノン類有機系着色剤又はこれらの混合物から誘導される。暗色又は黒色を生成する有機系着色剤の具体的な例を説明するための他の例としては、限定されないが、カラーインデックスを参照としてSolvent Green 3とSolvent Red 135の混合物又はSolvent Green 3、Solvent Violet 13、及びPigment Blue 15:4が挙げられる。加えて、暗色を生成する場合、大日精化工業株式会社により生成された商標品、CHROMOFINE(登録商標)Black A-1103などのアゾメチン系有機顔料、及びBASF Corporationにより生成された商標品、PALIOGEN(登録商標)Black S 0084(C.I.Pigment Black 31)などのペリレン系顔料を用いることができ、これらを単独又は他の顔料との組合せのどちらでも樹脂成分中に分散させることができる。他の実施態様では、有機系着色剤の具体的な例には、アントラキノン染料であるMACROLEX(登録商標)Green 5B Gran、ペリノン染料であるMACROLEX(登録商標)Red EG Gran、及びLanxess Corporationから入手できる1,4-ジアミノ-2,3-ジフェノキシアントラキノン、Disperse Violet 31/26、C.A.S.#6408-72-6としても既知のMACROLEX(登録商標)Red Violet R Granが含まれる。適当な有機系着色剤を説明するための他の例は、米国特許第6521038号で見ることができる。
【0034】
本発明の組成物の実施態様における無機系赤外線反射(IRR)顔料及び有機系着色剤の量は、成形部品中で約34℃以下の温度上昇(HBU)及び反射光成分を含むときは約30未満の、反射光成分を含まないときは約20未満のL^(*)値をもたらす、少なくとも1種の無機系赤外線反射顔料及び少なくとも1種の有機系着色剤を含む着色剤の組合せを提供するのに効果的な量である。特定の一実施態様では、L^(*)値は、反射光成分を含まないときは約10未満である。種々の実施態様では、組成物中にあるIRR顔料の総量は、樹脂成分100部当たり約0.02部(phr)以上である。他の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、約5phr以下、特に約4phr以下である。さらに別の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、0.04?4.0phrの範囲である。組成物の実施態様において複数の有機系着色剤があるとき、有機系着色剤の総量は、約0.002phr以上である。他の実施態様では、含有有機系着色剤の総量は、約4phr以下、特に約3phr以下である。さらに別の実施態様では、含有有機系着色剤の総量は、0.002?2.5phr、特に0.05?2.0phr、より特には0.1?2.0phrの範囲である。特定の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、約0.4phr以上で得あり、含有有機系着色剤の総量は、約0.2phr以上である。別の特定の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、約0.02phr以上であり、有機系着色剤の総量は、約0.002phr以上である。別の特定の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、約0.75phr以上であり、有機系着色剤の総量は、約0.5phr以上である。別の特定の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、約1phr以上であり、有機系着色剤の総量は、約0.8phr以上である。さらに他の特定の実施態様では、含有IRR顔料の総量は、約2phr以上であり、有機系着色剤の総量は、約1phr以上である。
【0035】
本発明の実施態様における熱可塑性樹脂組成物は、場合により、限定されないが、(1)例えば有機ホスファイト(例えばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)(2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト又はジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト)、並びにアルキル化モノフェノール、ポリフェノール、例えばp-クレゾール及びジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物などのポリフェノールとジエンとのアルキル化反応生成物、アルキル化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデン-ビスフェノール、ベンジル化合物、アシルアミノフェノール、β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオン酸と一価又は多価アルコールとのエステル、β-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオン酸と一価又は多価アルコールとのエステル、β-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオン酸と一価又は多価アルコールとのエステル、例えばジステアリルチオプロピオネート、ジラウリルチオプロピオネート、ジトリデシルチオヂジプロピオネート、又はβ-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオン酸のアミドなどのチオアルキル又はチオアリール化合物のエステルなどの酸化防止剤;(2)例えばHALS、2-(2’-ヒドロキシフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-ベンゾフェノン、置換もしくは非置換安息香酸のエステル、アクリレート、又はニッケル化合物などのUV吸収剤及び光安定剤;(3)例えばN,N’-ジフェニルシュウ酸ジアミド、又は3-サリチロイルアミノ-1,2,4-トリアゾールなどの金属不活性化剤;(4)例えばβ-チオジプロピオン酸の(C_(10)?C_(20))アルキルエステル、又はメルカプトベンゾイミダゾールなどの過酸化物捕捉剤;(5)例えばメラミン、ポリビニルピロリドン、トリアリルシアヌレート、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、アミン、ポリアミド、又はポリウレタンなどの塩基性共安定剤;(6)例えばトリイソプロパノールアミン又は2,4-ジクロロ-6-(4-モルホリニル)-1,3,5-トリアジンと1,6-ジアミンのポリマー又はN,N’-ビス(2,2,4,6-テトラメチル-4-ピペリデニル)ヘキサンとの反応生成物などの立体障害アミン;(7)ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、又はヒドロタルサイトなどの中和剤;(8)例えば潤滑剤(例えばペンタエリスリトールテトラステアレート、EBSワックス又はシリコーン溶液など)、可塑剤、蛍光増白剤、顔料、染料、着色剤、防炎剤、静電気防止剤、又は発泡剤などの他の添加剤;(9)例えばハロゲン含有有機難燃性化合物、有機リン酸塩難燃性化合物、又はホウ酸塩難燃性化合物などの難燃添加剤;あるいは(10)説明するための例として、補強材、増量材、ガラス繊維、ガラス球、炭素繊維、金属繊維、金属フレーク、アルミニウムフレーク、シリカ、ケイ酸塩、ゼオライト、二酸化チタン、石粉、タルク、リトポン、炭酸カルシウム、珪藻土、粉砕石英、粘土、焼成粘土、カオリン、アスベスト、セルロース、木粉、コルク、綿及び合成織物繊維、又はこれらの混合物が含まれる充てん剤など、種々の従来の添加剤を含んでもよい。特定の実施態様では、本発明の組成物はさらに、潤滑剤、中和剤、安定剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、UV遮蔽剤、UV吸収剤、及びこれらの混合物からなる群から選択される添加剤を含む。」

(3) 甲3に記載された事項
ア「【請求項1】
密度が0.946?0.969g/cm^(3)であり、温度190℃、荷重2.16kgで測定したMFR(メルトフローレート)が0.01?5g/10分であるポリエチレン樹脂と、
前記ポリエチレン樹脂100質量部当たり、フタロシアニンブルー顔料0.0005?0.07質量部、ベンズイミダゾロン顔料0.0001?0.03質量部、および二酸化チタン顔料0.001?0.2質量部とを含む配水管用青色着色樹脂組成物。」

(4) 甲4に記載された事項
ア「【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、酸化チタン(B)3?30重量部、染顔料(但し成分(B)を除く)(C)0.0001?0.1重量部を含む樹脂組成物からなる成形体であって、該成形体を構成する樹脂組成物がJIS-K-7105に準じて測定される全光線反射率(R)[単位:%]が50%以上であり、かつ、厚さ2mmでの全光線透過率(T)[単位:%]が、0.1%以下であることを特徴とする成形体。」

イ「【0009】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明において成分(A)は熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、スチレン・メタクリレート共重合体、ABS系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、等の単独もしくは二種以上を混合したものを使用することができる。
本発明では、成分(A)として、反射性、耐熱性、耐光性、耐熱変色性、寸法安定性、剛性、耐衝撃性の観点から芳香族ポリカーボネート樹脂または芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂を最も好ましく使用することができる。
ここで、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂とは、成分(A)の総量を100重量部とした場合に、成分(A)の50重量部を超える成分が芳香族ポリカーボネートであり、残りの樹脂成分が芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂であるものを示す。」

ウ「【0014】
本発明に用いることができる酸化チタン(B)の使用量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して3?30重量部、好ましくは4?20重量部、より好ましくは5?15重量部、特に好ましくは6?12重量部である。酸化チタンの配合割合が3重量部より少ないと、遮光性ならびに反射性が不十分となり、一方、30重量部を越えると樹脂組成物の衝撃強度の低下が大きくなり、好ましくない。
本発明で用いることができる成分(C)は染顔料であり、本発明において染顔料とは、熱可塑性樹脂の着色に使用することができる顔料や染料を表す。
本発明の成形体は、光線反射性を維持した成形体であるので、成分(C)の使用量は極めて少量である。しかしながら、本発明では、成分(B)に加えて極少量の成分(C)を組み合わせて使用することにより、遮光性が格段に向上した成形体となる。
かかる成分(C)の具体例としては、チタンイエロー、弁柄、群青、コバルトブルー、スピネルグリーン等の無機顔料、縮合アゾ系有機顔料、キナクドリン系有機顔料、イソインドリノン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、アンスラキノン系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料などの有機顔料、カーボンブラック、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料およびフタロシアニン系染料等の有機染料を挙げることができる。本発明では、成分(C)は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0015】
本発明における成分(C)の配合量は、成分(A)100重量部に対して0.0001?0.1重量部であり、0.0002?0.1重量部が好ましく、0.0005?0.01重量部がより好ましく、0.001?0.005重量部がさらに好ましく、0.002?0.001重量部が特に好ましい。
成分(C)の使用量が0.0001重量部未満の場合は遮光性が不十分であり、一方、0.1重量部を越える場合は、成形体の光線反射性が低下する傾向にある。
本発明で用いられる成分(D)は難燃剤であり、熱可塑性樹脂の難燃化に使用することができる難燃剤を表す。
本発明で使用される成分(D)として、例えば、有機リン化合物(主としてホスフェートやホスファゼン)、オルガノポリシロキサン、ハロゲン含有化合物、金属酸化物、金属水酸化物、トリアジン化合物、赤燐、ジルコニウム化合物、ポリリン酸塩化合物、スルファミン酸化合物、有機スルホン酸アルカリ金属塩、等を挙げることができる。
本発明における成分(D)の配合量は、使用する難燃剤の種類や必要とされる難燃性のレベルに応じて異なるが、通常、成分(A)100重量部に対して0.001?30重量部、好ましくは0.01?20重量部、よりが好ましくは0.05?15重量部、更に好ましくは、0.08?10重量部である。」

(5) 甲5に記載された事項
ア「【請求項1】
塩化ビニル樹脂を含むベースポリマーに(A)脂肪酸金属塩、(B)シアヌル酸誘導体又はイソシアヌル酸誘導体、(C)ステアロイルベンゾイルメタン、(D)高密度酸化ポリエチレンワックス、(E)酸化チタン、及び(F)フタロシアニンブルーが含有されており、
前記塩化ビニル樹脂100質量部に対する前記(A)?(F)の合計含量が1?6質量部である塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(F)フタロシアニンブルーの含量が前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以下であり、前記(F)フタロシアニンブルーに対する前記(E)酸化チタンの含有質量比(E/F)が50以上である請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。」

イ「【0013】
<解決手段の検討>
鉛を含有しない塩化ビニル樹脂組成物の熱劣化や光劣化に対する安定剤としては、カルシウム/亜鉛系安定剤が用いられる。カルシウム/亜鉛系安定剤は、下表1の通り、各種の役割からなる材料の混合物である。
【0014】
【表1】



ウ「【0041】
(A)脂肪酸金属塩の含有割合は、(A)?(F)の合計含量に対して20?60質量%であることが好ましく、30?55質量%であることがより好ましい。(A)脂肪酸金属塩の含量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して1?2質量部であることが好ましく、1.2?1.8質量部であることがより好ましい。
・・・
【0045】
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、例えば、C8?C22の飽和脂肪酸やC8?C22の不飽和脂肪酸を用いることができる。特にステアリン酸金属塩であることが好ましいが、金属当量を合わせた添加量とすればどの脂肪酸種を用いても良い。脂肪酸種は、単独で用いる場合のみならず、2種以上を併用してもよい。」

エ「【0062】
(安定剤)
本発明の実施の形態に係る塩化ビニル樹脂組成物には、安定剤として、従来公知の安定剤を添加することができる。特に限定はされないが、安定剤は、鉛を含有しない非鉛系安定剤を用いることが、法規制上好ましい。非鉛系安定剤としては、ハイドロタルサイト系安定剤や、カルシウム-亜鉛系の複合安定剤を挙げることができる。前述の脂肪酸金属塩としてステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等を添加した場合、これらを安定剤として機能させることもできる。」

オ「【0065】
充填剤として、焼成クレー、水和クレー、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、フェライト系磁性粉、タルク等が挙げられる。」

カ「【0083】
【表3】



(6) 甲6に記載された事項
ア「【0026】
一般的なイエロー顔料はフタロシアニングリーンやフタロシアニンブルーに比べて耐候性に劣るため、顔料組成物として暴露試験を行った際、イエロー顔料のみが退色し、耐候性試験後に黒色もしくは灰色を維持せず、青味あるいは緑味に変色する傾向にある。本発明の耐候性の高いフタロシアニン顔料を使用することにより、耐候性に劣るイエロー顔料の割合を小さくすることが可能となり、顔料組成物の耐候性を改良することが可能になるが、黒色とするために更に第三、もしくは第四またはそれ以上の有彩色顔料の混合が必要である。」

イ「【0044】
本発明の遮熱塗料にはフタロシアニンブルー顔料、フタロシアニングリーン顔料などの有彩色顔料に加え、白色顔料を加えることが出来る。濃色黒色顔料組成物を含む塗料に白色顔料を加えることにより塗装色の明度を予め調整した塗料を準備することができるため、他の有彩色塗料の調色の作業を簡略化することができる。そのような白色顔料としてはルチル型二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛などの金属酸化物が使用され、特に二酸化チタンが高屈折率で白色度が高く好ましい。」

(7) 甲7に記載された事項
ア「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、酸化チタンを5?50重量部含有させると共に、鉛系安定剤を金属鉛の量に換算して2?15重量部となるように添加した塩化ビニル系樹脂成形体であって、その白色度が60?95であり、光沢度(JIS K-7105)が60?99であり、比熱が0.90?1.15J/g・Kであることを特徴とする難燃性塩化ビニル系樹脂成形体。」

イ「【0028】
この成形体Aの白色度は、CIE(国際照明委員会)によって制定されたCIE1931標準表色素の白色度を表わし、具体的には日本電色工業(株)製の色差計Z-Σ90によって求めた値である。この白色度は、既述したように60?95の範囲にあることが必要である。白色度が60未満では、火災時の熱反射が少ないため、燃焼指数FPIが上昇して6を越えることとなる。逆に、白色度を95より高くしようとすると、白色顔料(酸化チタン)を極端に多くする必要があり、成形体Aの機械的強度や成形性が悪くなる。より好ましい白色度は、75?90である。
【0029】
また、この成形体AのJIS K-7105による光沢度(測定角度20°)は、既述したように60?99の範囲にあることが必要である。光沢度が60未満では、火災時の熱反射が少ないため、燃焼指数FPIが上昇して6を越える場合が多くなる。より好ましい光沢度は70?99である。」

(8) 甲1に記載された発明
上記(1)アから、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6を引用する請求項7には、以下の発明が記載されている。
「ポリマー用の可塑剤であるジ-(2-エチルヘキシル)フタレートと共に又はそれを用いないポリ塩化ビニル、スズ安定剤、有色顔料であるクロマタールブラウン5R及びフタロシアニングリーン、およびポリマー重量に対し、酸化第二クロムおよび酸化第二鉄の混合物からなる赤外線反射黒色顔料約0?約15重量部を含んでなる、日光のもとで使用に適合した組成物」(以下、「甲1発明」という。)

(9) 本件発明1と甲1発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリ塩化ビニル」は本件発明1の「ポリ塩化ビニル系樹脂」であり、甲1発明の「フタロシアニングリーン」は本件発明1の「フタロシアニン系含量である有機顔料」であり、甲1発明の「酸化第二クロムおよび酸化第二鉄の混合物からなる赤外線反射黒色顔料」は本件発明1の「有色を呈する金属系無機顔料」であるといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明は以下の点で一致する。
「ポリ塩化ビニル系樹脂と、有色を呈する金属系無機顔料と、フタロシアニン系含量である有機顔料とを含む、ポリ塩化ビニル組成物。」

そして、両者は下記の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「白色を呈する金属系無機顔料」を含有するのに対し、甲1発明は白色を呈する金属系無機顔料を含有していない点。
・相違点2:本件発明1は、「白色度が50以上」であるのに対し、甲1発明はこの点が明らかでない。
・相違点3:本件発明1は、「ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、有色を呈する金属系無機顔料の含有量が、0.025?0.06重量部」であるのに対し、甲1発明は、「ポリマー重量に対し、酸化第二クロムおよび酸化第二鉄の混合物からなる赤外線反射黒色顔料約0?約15重量部」を含んでなる点。
・相違点4:本件発明1は、「ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、有機顔料の含有量が、0.0001?0.004重量部」であるのに対し、甲1発明はこの点が明らかでない。
・相違点5:本件発明1は、「硬質ポリ塩化ビニル樹脂管」であるのに対し、甲1発明は、「日光のもとで使用に適合した組成物」である点。

イ 上記相違点について検討する。
相違点1及び2に関し、甲1には「他の赤外反射顔料の例として、・・・酸化チタン等が挙げられる。」(上記(1)イ)と記載されているものの、酸化チタンは赤外反射顔料の一例として挙げられているだけであるし、また、実施例1には、二酸化チタンを含んでなる組成物が記載され、灰色を含む様々な色の試験品も作られているが(上記(1)ウ)、それらの白色度は不明であるから、甲1の記載からは甲1発明において、白色を呈する金属系無機顔料といえる酸化チタンを含有させ、白色度が50以上とすることに動機付けはない。
さらに、甲7には、上記(7)アから「塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、酸化チタンを5?50重量部含有させると共に、鉛系安定剤を金属鉛の量に換算して2?15重量部となるように添加した塩化ビニル系樹脂成形体であって、その白色度が60?95であり、光沢度(JIS K-7105)が60?99であり、比熱が0.90?1.15J/g・Kであることを特徴とする難燃性塩化ビニル系樹脂成形体」という発明が記載され、上記(7)イをみると、火災時の熱反射を少なくし、燃焼指数を下げるために白色度を60?95に特定されたと理解されるものであり、火災時の燃焼指数の検討がない甲1発明においては、いくら甲7に白色度60?95と記載されていたとしても白色を呈する金属系無機顔料といえる酸化チタンを含有させ、白色度が50以上とすることの動機付けにはならない。

また、相違点3に関し、甲1には、赤外線反射黒色顔料の含有量について、その具体例の最小値でもポリマー重量に対して0.64重量部(試験番号2,4)の記載があるだけであり、それ以下の特定範囲である0.025?0.06重量部とする動機付けも見いだすことができない。
さらに、甲2には、(i-a)?(i-c)の樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂100部当たり無機系赤外線反射顔料を0.02部以上含ませることが記載されているものの(上記(2)ア及びイ)、上記特定の樹脂に対する無機系赤外線反射顔料の含有量が0.02部以上であることが理解されるにとどまり、樹脂の異なる甲1発明においては、いくら甲2に無機系赤外線反射顔料を0.02部以上含ませることが記載されていたとしても、赤外線反射黒色顔料の含有量を0.025?0.06重量部とする動機付けにはならない。
相違点4に関しても、甲1には、フタロシアニングリーンについてはその含有量の記載すらないし、甲2?甲5にも、フタロシアニングリーンの記載はなく、樹脂一般に対してフタロシアニン系顔料を所定量含ませることが記載されるにとどまり(上記(2)ア?上記(5)カ)、甲6に記載されているように、フタロシアニングリーンがイエロー顔料よりも耐候性に優れることが当業者に知られていたとしても(上記(6)ア及びイ)、甲6には、フタロシアニングリーンの配合割合が明示されていないから、甲1発明において、フタロシアニングリーンを特定範囲とする動機付けにはならない。

最後に、相違点5に関し、甲1には「本発明のビニルポリマー組成物は、家の羽目板および他の建築物の羽目板、シャター、屋根穴、キャンパー用テントおよび日光に長時間暴露するような他の同様の材料の製造に対し最も有用である。」(上記(1)エ)と記載されているものの、「硬質」の「樹脂管」とすることは何ら記載がない。また、上記材料の例から、甲1発明の日光のもとで使用に適合した組成物において、日光に長時間暴露するような用途として、硬質の樹脂管とすることは当業者が容易に想到し得るものでもない。

よって、本件発明1は、甲1に記載された発明と、甲2?甲7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。

ウ 本件発明2?8について
本件発明2?8は、いずれも本件発明1を引用し、更に限定を加えたものであるから、本件発明2?8も、本件発明1と同様、甲1に記載された発明及び甲2?甲7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。

(10)まとめ
したがって、本件発明1?8は、甲1に記載された発明及び甲2?甲7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえないから、申立て理由1により、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立ての理由2について
(1)発明の詳細な説明に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

ア「【0006】
硬質塩化ビニル系樹脂管の成形加工は、材料を押出機中で加熱溶融して流動状態にして混錬し、ダイから連続的に押し出すことによって行う。混錬材料は粘度が高く、且つ、混錬原料が通過する装置の温度設定、形状の違い等によって発生する温度差を受けるため、不可避的に熱履歴が不均一となる課題を有する。本発明者は、着色顔料を用いた硬質塩化ビニル樹脂管を種々検討したところ、特許文献1のように着色顔料として有機系顔料を使用した場合において、有機系顔料が熱の影響を受けて変質しやすい特性と、上述のような熱履歴の不均一性とが相まって、成形物である硬質塩化ビニル系樹脂管の色調のばらつきを招来すること、及び、その色調のばらつきが、硬質塩化ビニル系樹脂管の遮熱性を向上させようとして白色度が50以上となる明るい色調に着色した場合において特に顕著となる課題に直面した。
【0007】
そこで本発明の目的は、優れた遮熱性(高い日射反射率)と色調安定性とを有する硬質塩化ビニル系樹脂管を提供することにある。」

イ「【0019】
[顔料]
本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管は、顔料として2種以上の金属系無機顔料を含む。2種以上の金属系無機顔料を含むことにより、優れた遮熱性(高い日射反射率)と、色調安定性とを両立することができる。
【0020】
2種以上の金属系無機顔料としては、白色度50以上の色調に調色可能な限度において、任意の金属系無機顔料を用いることができる。好ましくは、有色(非白色)を呈する金属系無機顔料と白色を呈する金属系無機顔料との混合顔料が挙げられる。より好ましくは、JISK6741に規定される「硬質ポリ塩化ビニル管」に規定する灰色の色調に調色されるように混合された混合顔料が挙げられる。
【0021】
有色(非白色)を呈する金属系無機顔料としては、クロム、鉄、コバルト、銅、マンガン、マグネシウム、ビスマス、イットリウム、アルミニウム、バナジウムからなる群より選択される金属を1種(単塩)又は複数種(複塩)含有する化合物が挙げられる。これらの金属を含有する化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。複塩の具体例としては、Fe-Co-Cr系、Cu-Cr系、Fe-Cr系、Fe-Mn系、Cu-Mn系、Cu-Mg系、Cu-Bi系、Mn-Bi系、Y-Mn系、Co-Al系、Fe-Co-Al-Mg系等の塩が挙げられる。これらの中でも、赤外線の吸収抑制性が高く遮熱性に優れる点で、好ましくはクロム含有化合物、好ましくはFe-Cr系が挙げられる。
【0022】
また、上述の金属系無機顔料としては、上述の金属の、酸化物、水酸化物、硫化物、ケイ酸塩、フェロシアン化塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。これらの中でも、色調安定性に優れる点で、好ましくは酸化物が挙げられる。
【0023】
より具体的には、有色を呈する金属系無機顔料としては、上述の有色を呈する金属系無機顔料から1種又は複数種の顔料の組み合わせによって、黒色を呈する顔料であることが好ましい。黒色を呈する顔料としては、互いに補色の関係又は補色の関係に近い色を呈する2種以上の顔料の混合顔料;互いに補色又は補色の関係に近い色を呈する2種以上の顔料それぞれを構成する金属イオンを複数含む複塩顔料;及びそれらの混合物が挙げられる。高い日射反射率と色調安定性とをより良好に得る観点から、有色を呈する金属系無機顔料として、好ましくは、緑色の酸化クロム(Cr_(2)O_(3))と、その補色となる赤色の顔料(例えば酸化鉄)とを、混合顔料として組み合わせて黒色に調色された顔料;酸化クロムと酸化鉄とを含む複合酸化物;及びそれらの混合物が挙げられ、より好ましくは、酸化クロムと酸化鉄とを含む複合酸化物が挙げられる。
【0024】
本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管における有色を呈する金属系無機顔料の含有量としては、顔料の分散不均一性による色調の不均一性を好ましく抑制する観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、例えば0.013重量部以上が挙げられる。また、有色を呈する金属系無機顔料の含有量としては、さらに押出成形における機器への汚染抑制を考慮すると、0.013?0.09重量部が挙げられる。これらの効果をより良好に得る観点から、有色を呈する金属系無機顔料の含有量としては、好ましくは0.015?0.08重量部、より好ましくは0.025?0.08重量部、さらに好ましくは0.025?0.07重量部、一層好ましくは0.025?0.06重量部が挙げられる。
【0025】
白色を呈する金属系無機顔料としては、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛などの金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、高屈折率且つ高白色度である点で、好ましくは二酸化チタンが挙げられる。
【0026】
有色を呈する金属系無機顔料と、白色を呈する金属系無機顔料との比率としては、白色度50以上となることを限度として特に限定されないが、例えば、2種以上の金属系無機顔料全体を100重量%とした場合、有色を呈する金属系無機顔料の含有比率として、18?58重量%が挙げられる。
【0027】
本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管における2種以上の金属系無機顔料の総含有量としては、顔料の分散不均一性による色調の不均一性を好ましく抑制する観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、例えば0.050重量部以上が挙げられる。また、2種以上の金属系無機顔料の総含有量としては、さらに押出成形における機器への汚染抑制を考慮すると、0.050?0.500重量部が挙げられる。これらの効果をより良好に得る観点から、2種以上の金属系無機顔料の総含有量としては、好ましくは0.085?0.280重量部、より好ましくは0.085?0.230重量部、さらに好ましくは0.087?0.0210重量部が挙げられる。」

ウ「【0028】
[有機顔料]
本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管は、有機顔料を含むことができる。有機顔料は分散特性が優れているため、無機顔料と組み合わせることで、より均一に硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管を着色することができる。有機顔料としては特に限定されず、例えば、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料(フタロシアニン銅等)、スレン系顔料、染料レーキ系顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機顔料の中でも、硬質塩化ビニル系樹脂管の優れた色調安定性を得る観点から、好ましくは、フタロシアニン系顔料が挙げられ、より好ましくはフタロシアニン銅が挙げられる。
【0029】
本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管に有機顔料を含ませる場合、有機顔料の含有量としては、色調安定性を損なわない観点から、前記2種以上の金属系無機顔料の総含有量100重量部当たり15重量部以下、好ましくは10重量部以下、より好ましくは6重量部以下、より好ましくは3重量部以下が挙げられる。また、有機顔料の含有量としては、色調安定性を損なわない観点からポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり0.004重量部以下が挙げられる。より具体的には、有機顔料の好ましい含有量として、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり0.0001?0.004重量部が挙げられる。」

エ「【0038】
[白色度]
本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管は、白色度50以上の色調を有する。これによって、硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管の優れた遮熱性を得ることができる。また、白色度が50以上となる比較的明るい色調に着色した場合、本来的に色調のばらつき(色調不安定性)が生じやすいが、本発明の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管では、上述の2種以上の金属系無機顔料を着色顔料として用いることにより、優れた色調安定性も兼備することができる。白色度の範囲の上限値は特に限定されるものではないが、JIS K6741に規定される「硬質ポリ塩化ビニル管」に規定する灰色の色調に適合させる等の観点で、70以下、好ましくは60以下が挙げられる。白色度の調整は、上述の2種以上の金属系無機顔料において、有色を呈する金属系無機顔料の含有量及び/又は白色を呈する金属系無機顔料の含有量を調整することで行うことができる。なお、白色度は、CIE1976L^(*)a^(*)b^(*)比色系に基づきD65光源下で測定されるL^(*)値を指す。」

オ「【0043】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
[ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドの作製]
表1に示す樹脂、顔料、及び添加剤をスーパーミキサー(100L、カワタ社製)にてコールドブレンド法で攪拌混合し、ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンド(ポリ塩化ビニル系樹脂のコールドブレンドコンパウンド)を得た。表1に示される数値において、例えば酸化チタンについて「0.038-0.053」との記載は、酸化チタンが0.038重量部から0.053重量部の間の量で配合されたことを意味する。それぞれの成分の詳細は以下の通りである。
【0045】
・ポリ塩化ビニル系樹脂:ポリ塩化ビニル単独重合体(商品名「TS-1000R」、徳山積水工業社製)
・ステアリン酸鉛:商品名「SAK-NSBN」、サンエース社製、
・炭酸カルシウム:商品名「ホワイトン305S」、白石カルシウム社製
・顔料組成物A:無機顔料組成物(酸化チタン、クロム化合物、銅フタロシアニン、分散剤を含む。なお、クロム化合物は、酸化クロムと酸化鉄との複合酸化物である。)
・顔料組成物B:カーボン顔料組成物(酸化チタン、カーボンブラック、銅フタロシアニン、分散剤を含む。)
・顔料組成物C:有機顔料3色組成物(酸化チタン、ジケトピロロピロール、モノアゾイエロー、銅フタロシアニン、分散剤を含む。)
・顔料組成物D:有機顔料2色組成物(酸化チタン、銅フタロシアニン、ベンズイミダゾリン、分散剤を含む。)
【0046】
[硬質ポリ塩化ビニル系樹脂成形体の作製]
上記で得られたポリ塩化ビニル系樹脂組成物を、直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、外径60mm、肉厚4.5mm、長さ1mの塩化ビニル系樹脂管を得た。或いは、得られた硬質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を加熱2本ロールにより加熱プレスで成形し、肉厚1.5mmの板状成形体を得た。得られた管又は板状成形体について、以下の測定及び評価を行った。
【0047】
[白色度の測定]
SPECTRO PHTO METERCM3600d装置(コニカミノルタ社製)を用い、管の白色度を、CIE1976L^(*)a^(*)b^(*)比色系に基づくL^(*)値として測定した。
【0048】
[遮熱性の評価(日射反射率の測定)]
JIS R3106-1998に準拠して、日射反射率を測定した。具体的には、板状成形体について、近赤外の波長域(300?2100nm)の反射率を測定し、JIS R3106-1998に定められる式に基づき日射反射率(%)を得た。得られた日射反射率を、以下の基準に基づいて分類した。
-:28.5%以下
+:28.5%超29.5%以下
++:29.5%超30.5%以下
+++:30.5%超31.5%以下
++++:31.5%超32.5%以下
+++++:32.5%超
【0049】
[色調安定性の評価]
同一の組成を有するポリ塩化ビニル系樹脂組成物(106.37g)それぞれから、混合条件が異なる2種の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂の板状成形体を得た。2種の混合条件は、以下の通りである。これら2種の混合条件の違いにより、混合条件(2)で得られる樹脂組成物が、混合条件(1)で得られる樹脂組成物よりも熱履歴の蓄積の度合いが大きくなるように調製した。
【0050】
混合条件(1):200mL容量のカップに入れ、スパチュラを用い、手動で1分間に約20回転の速さで混合した。
混合条件(2):200mL容量のカップに入れ、家庭用クッキングミル(10,000rpm)で40秒撹拌した。
【0051】
混合条件(1)及び(2)それぞれによる板状成形体について、SPECTRO PHTO METER CM3600d(コニカミノルタ社製)を用い、CIE1976L^(*)a^(*)b^(*)比色系に基づくL^(*)値、a^(*)値、及びb^(*)値を測定した。L^(*)値、a^(*)値、及びb^(*)値は、いずれも、n=1当たり5箇所測定した場合の平均値とした。混合条件(1)による板状成形体のLab値を基準として、混合条件(2)による板状成形体のLab値の変化量から、色差ΔEを導出した。ΔEから、以下の基準に基づいて、色調安定性の程度を評価した。
◎: ΔE<0.65
○:0.65≦ΔE<1.60
△:1.60≦ΔE<2.55
×:2.55≦ΔE
【0052】
結果を表1に示す。着色顔料として2種以上の金属系無機顔料を含まない場合(比較例1)は、白色度を50以上に調色したとしても日射反射率はわずか1.5%であり、遮熱性が極めて悪かった。一方、着色顔料として有機顔料を用いた場合(比較例2?4)は、白色度を50以上に調色すると日射反射率が良好で、遮熱性には問題なかったが、色調安定性が極めて悪かった。着色顔料として有機顔料を用いた場合に色調安定性を向上させようとすると、白色度が50を大きく下回る色調まで調色しなければならず、今度は日射反射率は16.4%に下がり、遮熱性が損なわれた(比較例5)。これに対し、着色顔料として2種以上の金属系無機顔料を含む場合(実施例1?5)は、白色度が50以上となるように調色した場合に、高い日射反射率が達成されるとともに、且つ色調安定性にも優れていた。例えば、実施例1の塩化ビニル系樹脂管を、23℃環境において、得られた管に対し、赤外ランプ(岩崎電機社製IR100/110V/250WRH)で赤外線(780?3000nm)を30分間照射し(積算光量2700000mJ/cm^(2))、30分間照射完了時の管の表面(照射面)温度を測定する遮熱性試験を行うと、58.2℃であった。この遮熱性試験は、60℃未満であれば遮熱性が良好であると評価することができるため、実際に、実施例1?5の塩化ビニル系樹脂成形体の遮熱性が良好であることが認められた。
【0053】
実施例1?5の中でも、有色を呈する金属系無機顔料(つまりクロム化合物)1重量部当たりのステアリン酸塩の含有量が10?54重量部である場合(実施例2?5)は、色調安定性が更に顕著に向上したことが認められた。また、実施例2?5の中でも、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たりの炭酸カルシウムの含有量が5重量部以上である場合(実施例3?5)は、日射反射率が更に顕著に向上したことが認められた。
【0054】
実施例2?5は、表1に示されているとおりいずれも優れた色調安定性を有する。ここで、実施例2、3、4及び5の具体的なΔE(色調安定性の評価基準となる量)の値は、それぞれ、0.43、0.35、0.54、0.64であった。つまり、実施例2?5の中で比較すると、色調安定性は、実施例3をピークとして、顔料組成物Aの添加量が多くなるほど低下する傾向が確認された。そして、色調安定性を最も好ましいレベル(つまり「◎」評価)で得るためには、顔料組成物Aの添加量として実施例5で用いられた量を上限とすべきであることが確認された。
【0055】
【表1】



(2)当審の判断
ア 特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。
そこで、この点について、以下に検討する。

イ 本件発明1の課題について
本件発明1が解決しようとする課題は、上記(1)アによると、「本発明の目的は、優れた遮熱性(高い日射反射率)と色調安定性とを有する硬質塩化ビニル系樹脂管を提供すること」であると解される。

ウ 本件発明1について
上記第2で述べたように、本件発明1は、ポリ塩化ビニル系樹脂と、有色を呈する金属系無機顔料と、白色を呈する金属系無機顔料と、フタロシアニン系顔料である有機顔料とを含み、白色度が50以上であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記有色を呈する金属系無機顔料の含有量が、0.025?0.06重量部であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記有機顔料の含有量が、0.0001?0.004重量部である、硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管である。
そして、本件明細書には、実施例1?5及び比較例1?5が記載されているところ、実施例2?5は、「ポリ塩化ビニル系樹脂と、クロム化合物と、酸化チタンと、銅フタロシアニンと」を含み、「白色度が50以上であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記クロム化合物の含有量が、0.025?0.06重量部であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記銅フタロシアニンの含有量が、0.0003?0.004重量部である」硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管に関するものである(上記(1)オ)。
なお、実施例1は、クロム化合物の含有量が「0.015-0.0225」重量部であり、有色を呈する金属系無機顔料の含有量の範囲とされる「0.025?0.06重量部」から外れるものである。
これらの実施例においては、白色度、遮熱性、色調安定性が測定され、【表1】には、その結果が示されているが、その結果によれば、実施例2?5において、白色度が50以上であり、遮熱性、色調安定性にも優れることが示されているといえる。
また、本件明細書には、有色を呈する金属系無機顔料としては、クロム含有化合物が好ましいが、その他にも鉄、コバルト、銅、マンガン、マグネシウム、ビスマス、イットリウム、アルミニウム、バナジウムからなる群より選択される金属を1種(単塩)又は複数種(複塩)含有する化合物が挙げられること、有色を呈する金属系無機顔料と、白色を呈する金属系無機顔料との比率としては、例えば、2種以上の金属系無機顔料全体を100重量%とした場合、有色を呈する金属系無機顔料の含有比率として、18?58重量%が挙げられるが、白色度50以上となることを限度として特に限定されないことが記載されている(上記(1)イ及びウ)。
さらに、【0019】や【0038】には、顔料として2種以上の金属系無機顔料を含むことにより、優れた遮熱性(高い日射反射率)と、色調安定性とを両立することができること、白色度の調整は、2種以上の金属系無機顔料において、有色を呈する金属系無機顔料の含有量及び/又は白色を呈する金属系無機顔料の含有量を調整することで行うことができることも記載されている(上記(1)イ及びエ)。
そうすると、当業者であれば、実施例以外の場合であっても、白色度50以上となることを限度として、所定量の有色を呈する金属系無機顔料と、白色を呈する金属系無機顔料とを含むものであれば、上記実施例と同様に、遮熱性、色調安定性に優れるものとなりうることが認識できるといえる。そして、本件発明1に含まれる硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管が、上記課題を解決できない場合があることを示す本件出願時の技術常識も見当たらない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明により、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。

エ 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ウで本件発明1について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明に記載したものである。

オ 特許法第36条第4項第1号について
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。
上記(2)ウのとおり、本件明細書には、有色を呈する金属系無機顔料等の具体的な説明がなされ、実施例2?5として、「ポリ塩化ビニル系樹脂と、クロム化合物と、酸化チタンと、銅フタロシアニンと」を含み、「白色度が50以上であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記クロム化合物の含有量が、0.025?0.06重量部であり、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部当たり、前記銅フタロシアニンの含有量が、0.0003?0.004重量部である」硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管を製造したことが記載されている。また、実施例以外の硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管についても、当業者であれば、各種の原料を入手し、上記の製造方法により製造することができる。
以上によれば、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1?8に係る硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管を製造し、使用することができるといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

カ まとめ
したがって、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1?8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているから、申立て理由2により、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-06-29 
出願番号 特願2019-5726(P2019-5726)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 佐藤 健史
安田 周史
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6586250号(P6586250)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 硬質塩化ビニル系樹脂管  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  

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