• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する G01D
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G01D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01D
管理番号 1364246
審判番号 訂正2020-390020  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2020-03-03 
確定日 2020-06-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5082646号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5082646号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5082646号(以下、「本件特許」という。)は、平成19年7月24日にされた特許出願(特願2007-191614)に係る特許であり、平成24年9月14日にその特許権の設定の登録がされた。
請求人は、令和2年3月3日に、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の訂正をすることについて訂正審判(以下、「本件審判」という。)を請求した。

第2 訂正の内容
1 訂正事項
本件審判の請求書(本件審判請求書)に記載された訂正事項は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2には「円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂と磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とし、且つ、上記磁性部材を、内周部をゲートとしたディスクゲート方式又は外周部をゲートとしたリングゲート方式の、アキシアル方向の磁場射出成形により造る、請求項1に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法。」とあるところ、請求項1を引用する発明を独立項形式に書き下し、また、「磁性粉」を「フェライト系磁性粉」に特定し、下記のように訂正する(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3及び4においても同様に訂正する。)。

【請求項2】
静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えた転がり軸受のうち、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定しているエンコーダ付シールリングの製造方法であって、上記塞ぎ板と、上記エンコーダを造る為の中間素材である、上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なっていない、円輪状の磁性部材とを、それぞれ別体として造り、その後、上記塞ぎ板を、第一の治具に対して動かない様に固定し、且つ、上記磁性部材を、第二の治具に対して動かない様に固定すると共に、上記第一の治具の一部に形成した第一のガイド部と、上記第二の治具の一部に形成した第二のガイド部とを、互いに係合させる事により、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士を一致させた状態で、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを対向させると共に、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とのうちの何れか一方の側面に、室温での接着接合が可能な室温硬化型接着剤を塗布し、更に、この状態で、上記両ガイド部同士の係合部をスライドさせつつ、上記両治具同士を互いに近づけ合う事に基づいて、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士の一致状態を保持したまま、これら塞ぎ板と磁性部材とを互いに近づけ合う事により、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを接触させ、更に、この接触状態を圧接状態で放置する事により、上記両側面同士の間に存在する、上記室温硬化型接着剤を室温で硬化させる事で、これら両側面同士を、この室温硬化型接着剤により接合固定し、その後、この磁性部材に上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なう事により上記エンコーダを完成させ、上記円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂とフェライト系磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とし、且つ、上記磁性部材を、内周部をゲートとしたディスクゲート方式又は外周部をゲートとしたリングゲート方式の、アキシアル方向の磁場射出成形により造る、エンコーダ付シールリングの製造方法。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3には「請求項1?2のうち何れか1項に記載した」とあるところ、請求項2を引用し、請求項1を引用しない発明に特定し、「請求項2に記載した」と訂正する(請求項3を直接的に引用する請求項4においても同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4には、「請求項1?3のうち何れか1項に記載した」とあるところ、請求項1を引用せず、請求項2又は3を引用する発明に特定し、「諸求項2又は3に記載した」と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落0012の「請求項1?3に記載」との記載を「請求項2?3に記載」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落0015の「磁性粉」との記載を「フェライト系磁性粉」と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落0016の「請求項1?3」との記載を「請求項2?3」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落0055の「実施例2」との記載を「参考例2」に訂正し、段落0058の「実施例2」との記載を「参考例2」に訂正し、段落0056の表1の「実施例2」を下記のとおり「参考例2」に訂正する。



2 訂正前後の特許請求の範囲の記載
訂正前後の特許請求の範囲の記載は、具体的には以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示すために当合議体が付した。
なお、以下では、訂正前の請求項1ないし請求項4に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、訂正後の請求項1ないし請求項4に係る発明を「訂正発明1」ないし「訂正発明4」という。

(1)訂正前
「【請求項1】
静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えた転がり軸受のうち、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定しているエンコーダ付シールリングの製造方法であって、上記塞ぎ板と、上記エンコーダを造る為の中間素材である、上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なっていない、円輪状の磁性部材とを、それぞれ別体として造り、その後、上記塞ぎ板を、第一の治具に対して動かない様に固定し、且つ、上記磁性部材を、第二の治具に対して動かない様に固定すると共に、上記第一の治具の一部に形成した第一のガイド部と、上記第二の治具の一部に形成した第二のガイド部とを、互いに係合させる事により、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士を一致させた状態で、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを対向させると共に、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とのうちの何れか一方の側面に、室温での接着接合が可能な室温硬化型接着剤を塗布し、更に、この状態で、上記両ガイド部同士の係合部をスライドさせつつ、上記両治具同士を互いに近づけ合う事に基づいて、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士の一致状態を保持したまま、これら塞ぎ板と磁性部材とを互いに近づけ合う事により、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを接触させ、更に、この接触状態を圧接状態で放置する事により、上記両側面同士の間に存在する、上記室温硬化型接着剤を室温で硬化させる事で、これら両側面同士を、この室温硬化型接着剤により接合固定し、その後、この磁性部材に上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なう事により上記エンコーダを完成させる、エンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項2】
円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂と磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とし、且つ、上記磁性部材を、内周部をゲートとしたディスクゲート方式又は外周部をゲートとしたリングゲート方式の、アキシアル方向の磁場射出成形により造る、請求項1に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項3】
エンコーダを完成させるべく、円輪状の磁性部材を自身の中心軸を中心として回転させながら、着磁装置を構成する回転しない着磁ヨークにより、上記磁性部材の軸方向外側面にN極とS極との組を1組ずつ、円周方向に関して順次着磁形成する、請求項1?2のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項4】
転がり軸受と、エンコーダ付シールリングとを備え、
このうちの転がり軸受は、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、
上記エンコーダ付シールリングは、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定している、
エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法であって、
上記エンコーダ付シールリングを、請求項1?3のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法によって製造した後、このエンコーダ付シールリングを構成する上記塞ぎ板を、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法。」

(2)訂正後
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えた転がり軸受のうち、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定しているエンコーダ付シールリングの製造方法であって、上記塞ぎ板と、上記エンコーダを造る為の中間素材である、上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なっていない、円輪状の磁性部材とを、それぞれ別体として造り、その後、上記塞ぎ板を、第一の治具に対して動かない様に固定し、且つ、上記磁性部材を、第二の治具に対して動かない様に固定すると共に、上記第一の治具の一部に形成した第一のガイド部と、上記第二の治具の一部に形成した第二のガイド部とを、互いに係合させる事により、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士を一致させた状態で、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを対向させると共に、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とのうちの何れか一方の側面に、室温での接着接合が可能な室温硬化型接着剤を塗布し、更に、この状態で、上記両ガイド部同士の係合部をスライドさせつつ、上記両治具同士を互いに近づけ合う事に基づいて、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士の一致状態を保持したまま、これら塞ぎ板と磁性部材とを互いに近づけ合う事により、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを接触させ、更に、この接触状態を圧接状態で放置する事により、上記両側面同士の間に存在する、上記室温硬化型接着剤を室温で硬化させる事で、これら両側面同士を、この室温硬化型接着剤により接合固定し、その後、この磁性部材に上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なう事により上記エンコーダを完成させ、上記円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂とフェライト系磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とし、且つ、上記磁性部材を、内周部をゲートとしたディスクゲート方式又は外周部をゲートとしたリングゲート方式の、アキシアル方向の磁場射出成形により造る、エンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項3】
エンコーダを完成させるべく、円輪状の磁性部材を自身の中心軸を中心として回転させながら、着磁装置を構成する回転しない着磁ヨークにより、上記磁性部材の軸方向外側面にN極とS極との組を1組ずつ、円周方向に関して順次着磁形成する、請求項2に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項4】
転がり軸受と、エンコーダ付シールリングとを備え、
このうちの転がり軸受は、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、
上記エンコーダ付シールリングは、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定している、
エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法であって、
上記エンコーダ付シールリングを、請求項2又は3に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法によって製造した後、このエンコーダ付シールリングを構成する上記塞ぎ板を、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法。」

第3 当合議体の判断
1 訂正の目的について
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除する訂正であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載から「請求項1に記載した」という記載を削除し、訂正前の請求項2の記載に訂正前の請求項1の記載を実質的にそのまま追加して、訂正後の請求項2の記載とする訂正(以下、「訂正事項2A」という。)と、訂正前の請求項2の「磁性粉」という記載を、「フェライト系磁性粉」という記載に変更して、訂正後の請求項2の記載とする訂正(以下、「訂正事項2B」という。)との2つの訂正事項を含む。

イ 訂正事項2Aは、訂正前の請求項1の記載を引用することによって訂正前の請求項2に記載されていた事項を、そのまま具体的に書き表して訂正後の請求項2の記載とする訂正であるから、訂正前の請求項2の記載のうち、訂正前の請求項1の記載を引用する部分について、その記載の内容を変更することなく、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとする訂正である。
したがって、訂正事項2Aは、特許法第126条第1項ただし書第4号に掲げる事項(いわゆる引用関係の解消)を目的とする訂正である。

ウ 訂正事項2Bは、訂正前の請求項2の「磁性粉」という記載に、磁性粉の主成分を特定する「フェライト系」という記載を追加し、磁性粉の種類を限定して、訂正後の請求項2の「フェライト系磁性粉」という記載とする訂正である。
したがって、訂正事項2Bは、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3の「請求項1?2のうちの何れか1項に記載した」という記載を、「請求項2に記載した」という記載に変更して、訂正後の請求項3の記載とする訂正である。
これは、訂正前の請求項1又は請求項2の記載を引用する訂正前の請求項3の記載を、訂正後の請求項2の記載を引用するものに変更して、訂正後の請求項3の記載とする訂正であるから、記載を引用する請求項の数を減らす訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4の「請求項1?3のうちの何れか1項に記載した」という記載を、「請求項2又は3に記載した」という記載に変更して、訂正後の請求項4の記載とする訂正である。
これは、訂正前の請求項1ないし請求項3のいずれかの記載を引用する訂正前の請求項4の記載を、訂正後の請求項2又は請求項3の記載を引用するものに変更して、訂正後の請求項4の記載とする訂正であるから、記載を引用する請求項の数を減らす訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。

(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落0012の「請求項1?3に記載した製造方法」という記載は、訂正前の請求項1が削除される結果、訂正後の特許請求の範囲には存在しない請求項に言及することになり、その記載の意味が不明瞭となる。
訂正事項5は、その記載を「請求項2?3に記載した製造方法」という記載に変更し、訂正後の特許請求の範囲には存在しない請求項に言及しないものとすることにより、訂正後の段落0012の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させてその意味を明瞭にする訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。

(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落0015の「請求項2に記載した発明の様に、上記円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂と磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とする。」という記載は、訂正前の請求項2の「磁性粉」という記載が訂正後の請求項2の「フェライト系磁性粉」という記載になる結果、訂正後の請求項2の記載と整合しないことになり、その記載の意味が不明瞭となる。
訂正事項6は、その記載を「請求項2に記載した発明の様に、上記円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂とフェライト系磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とする。」という記載に変更し、訂正後の請求項2の記載に即したものとすることにより、訂正後の段落0015の記載を訂正後の請求項2の記載と整合させてその意味を明瞭にする訂正である。
したがって、訂正事項6は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落0016の「請求項1?3に記載した製造方法」という記載は、訂正前の請求項1が削除される結果、訂正後の特許請求の範囲には存在しない請求項に言及することになり、その記載の意味が不明瞭となる。
訂正事項7は、その記載を「請求項2?3に記載した製造方法」という記載に変更し、訂正後の特許請求の範囲には存在しない請求項に言及しないものとすることにより、訂正後の段落0016の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させてその意味を明瞭にする訂正である。
したがって、訂正事項7は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落0056ないし段落0058には、「「実施例2」に係る」「エンコーダ付シールリング11」は30.6wt%のSrフェライトと56.9wt%のSm_(2)Co_(17)とを含む磁性粉(すなわち、フェライト系磁性粉ではない磁性粉)を使用して製造したものである旨の記載がある。この記載は、訂正前の請求項2の「磁性粉」という記載が訂正後の請求項2の「フェライト系磁性粉」という記載になる結果、訂正後の請求項2ないし請求項4に係る発明に含まれない態様を「実施例2」と称することになり、その記載の意味が不明瞭となる。
訂正事項8は、訂正前の明細書の段落0055、段落0056の表1及び段落0058の「実施例2」という記載を、「参考例2」という記載に変更し、訂正後の請求項2ないし請求項4に係る発明に含まれない態様を実施例から除外することにより、訂正後の明細書の段落0056ないし段落0058の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させてその意味を明瞭にする訂正である。
したがって、訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。

(9)訂正の目的についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とする訂正である。

2 新規事項の追加について
訂正事項1ないし訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とする訂正であるから、同条第5項の規定により、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
なお、以下では、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」ということがある。

(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除する訂正であるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかである。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2A
訂正事項2Aは、前記1(2)イのとおり、訂正前の請求項1の記載を引用することによって訂正前の請求項2に記載されていた事項を、そのまま具体的に書き表して訂正後の請求項2の記載とする訂正であるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかである。

イ 訂正事項2B
本件特許明細書には、次の記載がある。

「磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄-窒素等の希土類磁性粉を用いる事ができ、」(【0037】)

「磁性粉として、コスト、耐酸化性を考慮すると、フェライト系が最も好適である」(【0046】)

「磁性粉は、目標とする磁気特性、使用環境、コストで使い分けを行なう。目標とする磁気特性が、BHmaxで1.4?2.2MGOe程度であれば、ストロンチウムフェライト等のフェライト系磁性粉による対応で十分である。」(【0047】)

このように、本件特許明細書には、磁性粉としてフェライト系磁性粉が使用可能であることが記載されており、コスト及び耐酸化性の観点からはフェライト系磁性粉の使用が最も好ましいことが記載されている。また、磁性粉は、目標とする磁気特性、使用環境、コストで使い分けられるものであり、目標とする磁気特性がBHmaxで1.4?2.2MGOe程度であれば、フェライト系磁性粉で十分であることも記載されている。
訂正事項2Bは、本件特許明細書に記載されたこれらの事項に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)訂正事項3及び訂正事項4
訂正事項3及び訂正事項4は、記載を引用する請求項の数を減らす訂正であるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかである。

(4)訂正事項5ないし訂正事項8
訂正事項5ないし訂正事項8は、訂正後の明細書の記載を、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させる訂正である。そして、特許請求の範囲についての訂正(訂正事項1ないし訂正事項4)は、前記(1)ないし(3)のとおり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、訂正事項5ないし訂正事項8も、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(5)新規事項の追加についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし訂正事項8は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

3 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更について
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかである。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2A
訂正事項2Aは、前記1(2)イのとおり、訂正前の請求項1の記載を引用することによって訂正前の請求項2に記載されていた事項を、そのまま具体的に書き表して訂正後の請求項2の記載とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかである。

イ 訂正事項2B
訂正事項2Bは、前記1(2)ウのとおり、訂正前の請求項2の「磁性粉」という記載に、磁性粉の主成分を特定する「フェライト系」という記載を追加し、磁性粉の種類を限定して、訂正後の請求項2の「フェライト系磁性粉」という記載とする訂正である。
このように、「磁性粉」をその一種である「フェライト系磁性粉」に限定したからといって、訂正前の請求項2の目的に含まれない新たな目的を達成したり、訂正前の請求項2に係る発明の課題に含まれない新たな課題を解決したりすることになるとは認められない。
したがって、訂正事項2Bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(3)訂正事項3及び訂正事項4
訂正事項3及び訂正事項4は、記載を引用する請求項の数を減らす訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかである。

(4)訂正事項5ないし訂正事項8
訂正事項5ないし訂正事項8は、訂正後の明細書の記載を、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させる訂正である。そして、特許請求の範囲についての訂正(訂正事項1ないし訂正事項4)は、前記(1)ないし(3)のとおり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、訂正事項5ないし訂正事項8も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(5)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

4 独立特許要件について
前記1(1)ないし(4)のとおり、訂正事項1、訂正事項2のうちの訂正事項2B、訂正事項3及び訂正事項4は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正であるから、同条第7項の規定により、訂正発明1ないし訂正発明4は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、検討すると、以下のとおりである。

(1)訂正発明1
訂正発明1は、削除された訂正前の請求項1に係る発明であるから、実際には存在しない。
したがって、訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるかを問うまでもない。

(2)訂正発明2ないし訂正発明4
訂正発明2は、特許を受けた発明である本件発明2の構成を全て含み、さらに「磁性粉」を「セラミック系磁性粉」に限定した発明であるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由を発見しない。
訂正発明3及び訂正発明4は、訂正発明2の構成を全て含むから、訂正発明2と同様に、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由を発見しない。

(3)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし訂正事項4は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

第4 むすび
本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エンコーダ付シールリングの製造方法及びエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばオートバイ、スクータ等の自動二輪車の車輪をフレームに対し回転自在に支持する為の転がり軸受に組み付けて、この転がり軸受の転動体設置空間の端部開口を塞ぐと共に、車輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダ付シールリングの製造方法、及び、このエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、自動二輪車の車輪支持部の構造の第1例として、スクータの如き、比較的小型の自動二輪車の前輪を回転自在に支持する部分の構造を示している。この構造では、懸架装置を構成する左右1対のホーク1、1の下端部に、支持軸2の両端部を支持固定している。又、この支持軸2の軸方向中間部の2個所位置に、それぞれが単列深溝型である、1対の玉軸受3、3を設置して、上記支持軸2の周囲に円筒状のハブ4を、この支持軸2と同心に、且つ、回転自在に支持している。そして、上記ハブ4の外周面に、車輪を構成するホイール5を支持固定している。
【0003】
又、図10は、自動二輪車の車輪支持部の構造の第2例として、比較的小型の自動二輪車の後輪を回転自在に支持する部分の構造を示している。この構造では、懸架装置を構成する左右1対のアーム6、6の端部に、支持軸2aの両端部を支持固定している。又、この支持軸2aの軸方向中間部の3個所位置に、それぞれが単列深溝型である、3個の玉軸受3a、3b、3cを設置して、上記支持軸2aの周囲に、車輪を構成するホイール5aと一体型のハブ4aを、この支持軸2aと同心に、且つ、回転自在に支持している。
【0004】
ところで、自動車用の走行状態を安定させる為の装置として、アンチロックブレーキシステム(ABS)が広く使用されている。この様なABSは、従来は四輪自動車を中心に普及していたが、近年、自動二輪車にも採用され始めている。周知の様に、ABSの制御を実行する際には、車輪の回転速度を求める必要がある。この為、この車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の転がり軸受ユニットに回転速度検出装置を組み込む事が、従来から広く実施されている(具体的な構造に関しては、例えば特許文献1参照)。但し、四輪自動車用の回転速度検出装置の構造を、そのまま自動二輪車用に適用する事はできない。この主な理由として、次の(1)(2)の2つの理由が挙げられる。
(1)四輪自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットに比べて、上述の図9?10に示した様な自動二輪車用の車輪支持用転がり軸受ユニットは、相当に小型である。
(2)四輪自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの多くは内輪回転型であるのに対して、自動二輪車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの多くは、上述の図9?10に示した様な外輪回転型である。
【0005】
この様な事情に鑑みて、図1に示す様な、自動二輪車の車輪の回転速度を検出可能とする、エンコーダ付玉軸受7が考えられている。このエンコーダ付玉軸受7は、回転輪である外輪8と、静止輪である内輪9と、複数個の玉10と、エンコーダ付シールリング11とを備える。このエンコーダ付玉軸受7の大きさは、例えば上記内輪9の内径が12?25mm程度であり、上記外輪8の外径が35?50mm程度である。そして、使用時には、例えば上記図9(図10)に示した様に、支持軸2(2a)の外周面とハブ4(4a)の内周面との間に組み付けて、この支持軸2(2a)の周囲にこのハブ4(4a)を回転自在に支持する。即ち、上記図9(図10)に示した1対の玉軸受3、3(3個の玉軸受3a、3b、3c)のうちの1個の玉軸受のみを、上記エンコーダ付玉軸受7とする。残りの玉軸受は、エンコーダを備えない、通常の玉軸受とする。
【0006】
上述の様なエンコーダ付玉軸受7を構成する外輪8は、回転側周面である内周面に、単列深溝型の外輪軌道12を有する。この外輪8は、使用時には上記ハブ4(4a)に内嵌固定された状態で、このハブ4(4a)と共に回転する。又、上記内輪9は、静止側周面である外周面に、単列深溝型の内輪軌道13を有する。この内輪9は、使用時には上記支持軸2(2a)に外嵌固定された状態のまま、回転しない。又、上記各玉10は、保持器14に保持された状態で、上記外輪軌道12と上記内輪軌道13との間に転動自在に設けられている。
【0007】
又、上記エンコーダ付シールリング11は、シールリング15とエンコーダ16とを、一体的に結合固定して成る。このうちのシールリング15は、塞ぎ板である芯金17と、弾性シール材18とを備える。このうちの芯金17は、鋼板等の磁性金属板により断面L字形で全体を円輪状に形成している。この様な芯金17は、円輪部19と、この円輪部19の外周縁部から軸方向外側(上記各玉10を設置した空間と反対側で、図1の右側)に向け直角に折れ曲がった円筒部20とを備える。又、上記弾性シール材18は、上記芯金17の内周縁よりも径方向内方に突出する状態で、その基端部(外周縁部)をこの芯金17の内周縁部に、全周に亙り添着固定している。この様な弾性シール材18は、ゴム等のエラストマーを射出成形する事により造られており、内周縁部に1対のシールリップ21a、21bを、軸方向に離隔した状態で、それぞれ全周に亙り設けている。又、上記エンコーダ16は、上記芯金17を構成する円輪部19の軸方向外側面に対し、この芯金17と同心に、接着剤を使用して接合固定している。この様なエンコーダ16は、永久磁石製で全体を円輪状に形成しており、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。
【0008】
又、上記外輪8の内周面の軸方向外端部には、軸方向内側に隣接する部分よりも内径が大きくなった、大径部22を形成している。上記エンコーダ付シールリング11は、上記芯金17を構成する円筒部20を上記大径部22に、締り嵌めで内嵌する事により、上記外輪8の端部内周面に固定している。又、この状態で、上記両シールリップ21a、21bのうち、軸方向内側のシールリップ21aの先端縁が、上記内輪9の端部外周面に全周に亙り形成した凹溝23の内側壁に、全周に亙り摺接して、接触式のシール部を構成する。これに対して、軸方向外側のシールリップ21bの先端縁が、上記凹溝23の外側を仕切る突条24の外周縁に、全周に亙り近接対向して、当該部分にラビリンスシールを構成する。更に、この状態で、上記エンコーダ付シールリング11は、上記外輪8及び内輪9の端面から軸方向外方に突出しない。
尚、上記各玉10を設置した空間の両端開口部のうち、上記エンコーダ付シールリング11を設置したのと反対側(図1の左側)の開口部は、エンコーダを備えない、通常のシールリング25により塞いでいる。
【0009】
上述の様に構成するエンコーダ付玉軸受7によれば、例えば自動二輪車の車輪の回転速度を高い信頼性で検出できる。即ち、上述したエンコーダ付玉軸受7の場合には、外輪8の内周面の軸方向外端部に形成した大径部22に、エンコーダ付シールリング11を内嵌固定している。この為、外輪の端部にカウンタボアの様な、内径が大きくなった部分が存在しない、深溝型の玉軸受に上記エンコーダ付シールリング11を装着する構造でも、このエンコーダ付シールリング11を構成するエンコーダ16の径方向に関する幅寸法を大きくできる。この為、被検出面である、このエンコーダ16の軸方向外側面にその検出部を対向させた、センサの出力信号の変化を大きくできる。即ち、上記エンコーダ16の軸方向外側面から出入りする磁束を多くして、上記センサの出力信号が変化する程度を大きくできる。この結果、上記外輪8を内嵌固定した、前記ハブ4(4a)、延てはこのハブ4(4a)に結合固定した車輪の回転速度検出の信頼性を確保し易くなる。更に、上記エンコーダ付シールリング11は、上記外輪8及び内輪9の端面から軸方向外側に突出しない状態で設置されている。この為、上記エンコーダ付玉軸受7が、一般的な玉軸受に比べて大型化し、自動二輪車の車輪の回転支持部への組み付けが困難になると言った不都合が生じる事を防止できる。
【0010】
【特許文献1】 特開2005-233923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した様なエンコーダ付シールリング、及び、このエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受を製造する際に、好ましく採用できる製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のエンコーダ付シールリングの製造方法及びエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法のうち、請求項2?3に記載した製造方法の対象となるエンコーダ付シールリングは、シールリングと、エンコーダとを備える。
このうちのシールリングは、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えた転がり軸受のうち、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用する。この様なシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有する。
又、上記エンコーダは、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用する。この様なエンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定している。
【0013】
この様なエンコーダ付シールリングを対象とする本発明の製造方法は、上記塞ぎ板と、上記エンコーダを造る為の中間素材である、上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なっていない、円輪状の磁性部材とを、それぞれ別体として造る。その後、比較的加工精度が高い、上記塞ぎ板を、第一の治具に対して動かない様に固定し、且つ、上記磁性部材を、第二の治具に対して動かない様に固定する。これと共に、上記第一の治具の一部に形成した第一のガイド部と、上記第二の治具の一部に形成した第二のガイド部とを、互いに係合させる事により、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士を一致させた状態で、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを対向させる。これと共に、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とのうちの何れか一方の側面に、室温での接着接合が可能な室温硬化型接着剤を塗布する。そして、この状態で、上記両ガイド部同士の係合部をスライドさせつつ、上記両治具同士を互いに近づけ合う事に基づいて、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士の一致状態を保持したまま、これら塞ぎ板と磁性部材とを互いに近づけ合う事により、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを接触させる。更に、この接触状態を圧接状態で放置する事により、上記両側面同士の間に存在する、上記室温硬化型接着剤を室温で硬化させる事で、これら両側面同士を、この室温硬化型接着剤により接合固定する。更にその後、上記磁性部材に上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なう事により、上記エンコーダを完成させる。
【0015】
上述の様な本発明のエンコーダ付シールリングの製造方法を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂とフェライト系磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とする。且つ、上記磁性部材を、内周部をゲートとしたディスクゲート方式又は外周部をゲートとしたリングゲート方式の、アキシアル方向の磁場射出成形(金型内にアキシアル方向の磁界を掛けながら行なう射出成形)により造る。
更に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、上記エンコーダを完成させるべく、上記円輪状の磁性部材を自身の中心軸を中心として回転させながら、着磁装置を構成する回転しない着磁ヨークにより、上記磁性部材の軸方向外側面にN極とS極との組を1組ずつ、円周方向に関して順次着磁形成する(所謂インデックス着磁法を実施する)。
【0016】
又、本発明のうち、請求項4に記載した製造方法の対象となる、エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受は、転がり軸受と、エンコーダ付シールリングとを備える。
このうちの転がり軸受は、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。
又、上記エンコーダ付シールリングは、上述した請求項2?3に記載した製造方法の対象となるエンコーダ付シールリングと同じ構成を有する。
この様なエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受を対象とする本発明の製造方法は、上記エンコーダ付シールリングを、上述した請求項2?3のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法によって製造した後、このエンコーダ付シールリングを構成する上記塞ぎ板を、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する。
【発明の効果】
【0017】
上述の様な本発明のエンコーダ付シールリングの製造方法及びエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法によれば、前述の図1に示した転がり軸受の様に、比較的小型の自動二輪車の車輪支持部に組み付けて使用する転がり軸受用のエンコーダ付シールリング、及び、この様なエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受を製造対象とする場合でも、このエンコーダ付シールリングを、シールリングとエンコーダとの中心軸同士を高精度に一致させた状態で造る事ができる。
特に、本発明の場合には、エンコーダを構成する塞ぎ板の軸方向外側面と、磁性部材の軸方向内側面とを、接着剤により接合固定する際に、この接着剤を硬化させる過程で、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士がずれ動いて不一致になると言った不具合が発生する事を回避できる。即ち、上記接着剤として、熱硬化型のものを使用する場合、この接着剤を硬化させる為の加熱を行なうと、金属製の上記塞ぎ板に比べて線膨張係数が大きい上記磁性部材が、この塞ぎ板に対してずれ動き、これら塞ぎ板と磁性部材との中心軸同士が不一致になる可能性がある。これに対し、本発明の場合には、上記接着剤として、室温硬化型のものを使用し、この接着剤を室温で硬化させる(この接着剤を硬化させる為に加熱を行なわない)。従って、この接着剤を硬化させる過程で、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士がずれ動いて不一致になると言った不具合が発生する事を回避できる。
【0018】
又、請求項2に記載した製造方法を採用すれば、エンコーダの機械的強度を十分に確保できる。これと共に、このエンコーダの中間素材である、円輪状の磁性部材のアキシアル方向に関する磁気特性を十分に高める事ができ、結果として、完成したエンコーダの被検出面の表面磁束密度を十分に高められる。
【0020】
又、請求項3に記載した製造方法を採用すれば、例えば、磁性部材の軸方向外側面の全周に着磁ヨークを接触させた状態で、この軸方向外側面に対し一発で多極着磁を行なう(所謂一発着磁法を実施する)方法を採用する場合に比べて、この軸方向外側面に対する着磁ピッチ精度を良好にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、前述の図1に加えて、図2?6を参照しつつ説明する。尚、本例の特徴は、図1に示したエンコーダ付シールリング11の製造方法にある。このエンコーダ付シールリング11の基本構造に就いては、前述した通りであるから、当該構造に関する重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0022】
本例の場合、上記エンコーダ付シールリング11を造る際には、先ず、シールリング15(図1、2、5)と、エンコーダ16(図1)の中間素材である、被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なっていない、円輪状の磁性部材26(図2、5)とを、それぞれ別々に造る。
本例の場合、上記シールリング15を造る際には、先ず、磁性金属板である電気亜鉛メッキ鋼板(最表層がリン酸塩処理されたもの)に所定の加工を施す事により、芯金17を造る。そして、この芯金17の全表面に、フェノール系樹脂から成る熱硬化性接着剤(溶剤希釈)を塗布する。その後、この熱硬化性接着剤を半硬化させた状態で、上記芯金17を、弾性シール材18を造る為の金型内の所定個所に保持する。そして、この状態で、この弾性シール材18を、上記金型内で射出成形(或いは圧縮成形)する。これに伴って、この弾性シール材18を、上記芯金17の内周縁部分に加硫接着で接合固定する事により、上記シールリング15を完成させる。
【0023】
一方、上記円輪状の磁性部材26は、プラスチック磁石材料を射出成形する事により造る。特に、本例の場合には、この射出成形の方式として、機械的強度が低下するウェルド部が発生しない、外周部をゲートとしたリングゲート方式を採用する。しかも、本例の場合には、この射出成形を、金型内にアキシアル方向の磁界をかけながら行なう、磁場射出成形とする。これにより、上記プラスチック磁石材料中の磁性体粒子を配向させる事で、上記磁性部材26に磁気的なアキシアル異方性を持たせる事により、この磁性部材26がアキシアル方向に関して高い磁気特性を発揮できる様にする。尚、上記磁場射出成形では、金型内での冷却時に反転脱磁を行ない、上記磁性部材26を減磁する。更にその後、脱磁機を用いて、この磁性部材26の脱磁を行ない、この磁性部材26の表面磁束密度を十分に小さく(例えば2mT以下に)する。これと共に、この磁性部材26からゲート部及びランナー部を切り離し、更にこのゲート部の残存部分を切削加工で除去する事により、上記磁性部材26を完成させる。
【0024】
上述の様にシールリング15と円輪状の磁性部材26とを、それぞれ別々に造ったならば、次いで、これらシールリング15と磁性部材26とを一体化する。具体的には、これらシールリング15と磁性部材26とを互いに同心に配置した状態で、このシールリング15を構成する芯金17の円輪部19の軸方向外側面(図2、5の上面:上述したフェノール系樹脂から成る熱硬化性接着剤の硬化層あり)に、上記磁性部材26の軸方向内側面(図2、5の下面)を、室温硬化型接着剤である、二液型エポキシ系接着剤により接合固定する。
【0025】
この為に、先ず、上記円輪部19の軸方向外側面に、上記二液型エポキシ系接着剤を塗布した状態で、図2に示す様に、上記シールリング15を、第一の治具27の上面に設けた円環状の保持凹部28内にがたつきなく内嵌保持する。これと共に、上記磁性部材26を、第二の治具29の下面に形成した円環状の保持凸部30にがたつきなく外嵌保持する。更に、この状態で、上記第一の治具27の上面中央部に設けた第一のガイド部である凹部31に、上記第二の治具29の下面中央部に設けた第二のガイド部である凸部32の先端部を、がたつきなく挿入する。これにより、上記シールリング15と上記磁性部材26とを互いに同心に配置すると共に、上記円輪部19の軸方向外側面と上記磁性部材26の軸方向内側面とを対向させる。そして、この状態で、上記凹部31に対する上記凸部32の進入量を増大させつつ、上記第一、第二の両治具27、29同士を互いに近づける。これにより、上記芯金17の円輪部19の軸方向外側面と、上記磁性部材26の軸方向内側面とを、互いに接触させる。更に、この接触状態を圧接状態で放置する事により、上記両側面同士の間に存在する、上記二液型エポキシ系接着剤を室温で硬化させる。これによって、上記両側面同士を、この二液型エポキシ系接着剤により接合固定する。
【0026】
上述の様にシールリング15と磁性部材26とを一体化したならば、次いで、前記エンコーダ16を完成させるべく、上記磁性部材26の着磁を行ない、この磁性部材26の軸方向外側面(図2、5の上面)に、N極とS極とを円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置する。この様な着磁を行なう為に、本例の場合には、図3?6に示す様な着磁装置を使用する。この着磁装置は、上記磁性部材26と一体化したシールリング15を支持する為の治具33と、この治具33を回転駆動する為の回転駆動装置34と、着磁ヨーク35と、着磁電源装置36とを備える。
【0027】
このうちの治具33は、図4?5に詳示する様に、その上面の円周方向等間隔の3個所位置に、それぞれが径方向に関する若干の変位を可能とした、3個の爪部材37、37を備える。又、これら各爪部材37、37にはそれぞれ、これら各爪部材37、37に径方向外側に向く弾力を付与する為のワーク開放用ばね38と、この弾力に抗して上記各爪部材37、37を径方向内側に向け変位させる為のクランプねじ39とを併設している。そして、図5に示す様に、上記磁性部材26と一体化したシールリング15を、上記治具33の上面に載置すると共に、このシールリング15を構成する芯金17の外周面を上記各爪部材37により掴む事で、このシールリング15を上記治具33の上面に保持固定できる様にしている。
【0028】
又、上記磁性部材26と一体化したシールリング15を保持固定した上記治具33は、上記回転駆動装置34を構成するスピンドル装置40の主軸の上端部に、固定用チャック41を使用して、この主軸と同心に固定している。上記回転駆動装置34は、上記スピンドル装置40と、このスピンドル装置の主軸を回転駆動する為のモータ42と、上記磁性部材26の軸方向外側面の回転時の面振れを補正する為の面振れ補正装置43と、上記主軸の回転角度を検出する為の回転角度検出装置44と、この回転角度検出装置44の検出信号に基づいて、上記主軸の回転状態を制御する回転制御手段45とを備える。又、上記着磁ヨーク35は、図6に詳示する様に、その両端部に1対の着磁ヘッド46、46を設けた欠環状の芯材47と、この芯材47の中間部に巻回したコイル48とを備える。この様な着磁ヨーク35は、この着磁ヨーク35の位置を、互いに直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)方向に関して微調節可能とする、位置決め装置49により支持している。
【0029】
又、上記着磁電源装置36は、上記コイル48にパルス波状の着磁電流を流す為のものである。この様な着磁電源装置36は、完成後のエンコーダ16(図1参照)の被検出面に設ける磁極(N極、S極)の総数と、上述したスピンドル装置40の主軸の回転速度とに基づいて、上記コイル48に流すパルス波状の着磁電流の周波数及び位相を制御する機能を有する。この様な着磁電源装置36による制御と、上記回転制御手段45による制御とは、集中制御装置50(パソコン)により、互いに関連付けて実行する。又、図示の例では、次述する着磁作業を行なう際に、上記磁性部材26の軸方向外側面のうちで、着磁が済んだ部分の着磁強度を測定する、品質検査用の磁気センサ51を設けている。そして、この磁気センサ51の検出信号を上記着磁電源装置36に入力する事により、この検出信号を、上記着磁電流の制御に利用できる様にしている。
【0030】
上述の様な着磁装置を使用して、上記磁性部材26の着磁作業を行なう際には、図6に詳示する様に、磁性部材26の軸方向外側面のうちで、円周方向に関して互いに隣り合う2個所位置に、着磁ヨーク35を構成する1対の着磁ヘッド46、46の先端面を近接対向させる。そして、この状態で、回転駆動装置34により、上記磁性部材26を一体化したシールリング15を一定速度で回転させる。これと共に、着磁電源装置36により、上記着磁ヨーク35を構成するコイル48にパルス波状の着磁電流を流す事に基づいて、上記両着磁ヘッド46、46の先端部同士の間を通る磁束αを、間欠的に発生させる。これにより、上記磁性部材26の軸方向外側面の全周に、N極とS極との組を1組ずつ、円周方向に順次着磁する。この様な着磁作業は、上記磁性部材26を一体化したシールリング15を複数回、回転させた後に終了する。
【0031】
尚、上記2個所位置に対する上記両着磁ヘッド46、46の先端面の近接対向距離は、着磁効率を十分に確保する観点より、極力小さくする事が好ましい。但し、実用的には、上記磁性部材26の軸方向外側面の面振れを考慮しつつ、当該間隔を(例えば30?100μm程度に)設定する必要がある。又、上記着磁電流に就いては、着磁による磁束密度及び着磁ピッチ精度を良好にできる波形を、矩形波、正弦波、三角波等の中から適宜選択するのが好ましい。又、上記着磁電流の大きさは、上記磁性部材26の磁束密度が飽和に近い状態になる条件で設定するが、実用的には1?10Aの範囲で、上記着磁ヨーク35の耐久性を考慮しつつ、極力低い値とする事が好ましい。又、本例の場合には、上記着磁電流の大きさを、(着磁開始→)上昇→保持→下降(→着磁終了)の順に変化させる、台形制御を実施する。更に、本例の場合には、以上の様な着磁作業と並行して、磁気センサ51により、上記磁性部材26の軸方向外側面のうちで着磁が済んだ部分の着磁強度を測定する、品質検査を行なう。これにより、上述した着磁作業を行なった後に、別途、着磁強度の品質検査を実施せずに済む様にしている。
【0032】
上述した様な本例のエンコーダ付シールリングの製造方法によれば、図1に示した玉軸受の様に、比較的小型の自動二輪車の車輪支持部に組み付けて使用する転がり軸受用のエンコーダ付シールリング11を製造対象とする場合でも、このエンコーダ付シールリング11を、シールリング15とエンコーダ16との中心軸同士を高精度に一致させた状態で造る事ができる。又、本例の場合には、上記エンコーダ16の中間素材である、円輪状の磁性部材26の成形方法として、外周部をゲートとするリングゲート方式の射出成形を採用している為、上記エンコーダ16の機械的強度を十分に確保できる。これと共に、上記射出成形を、アキシアル方向の磁場射出成形として実施する為、上記磁性部材26のアキシアル方向に関する磁気特性を十分に高める事ができ、結果として、完成したエンコーダ16の被検出面の表面磁束密度を十分に高められる。
【0033】
又、本例の場合には、上記シールリング15を構成する芯金17の軸方向外側面と、上記磁性部材26の軸方向内側面とを接合固定する為の接着剤として、室温硬化型接着剤である、二液型エポキシ系接着剤を使用している。この為、この接着剤を硬化させる為に加熱を行なう必要がない(この接着剤を室温で硬化させる事ができる)。従って、本例の場合には、上記両側面同士を接触させた後、この接触部に介在する上記接着剤を硬化させる過程で、この接着剤を硬化させる為の熱により、上記芯金17と上記磁性部材26との間の熱膨張量差が大きくなって、これら芯金17と磁性部材26との中心軸同士がずれ動いて不一致になると言った不具合が発生する事はない。
【0034】
又、本例の場合には、上記磁性部材26の軸方向外側面にN極とS極との組を1組ずつ、円周方向に関して順次着磁する(所謂インデックス着磁法を実施する)方法を採用している。この為、例えば、上記磁性部材26の軸方向外側面の全周に着磁ヨークを接触させた状態で、この軸方向外側面に対し一発で多極着磁を行なう(所謂一発着磁法を実施する)方法を採用する場合に比べて、この軸方向外側面に対する着磁ピッチ精度を良好にできる。
【0035】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、図7?8を参照しつつ説明する。本例の場合には、前述の図2に示す様にして磁性部材26をシールリング15と一体化した後の、この磁性部材26の着磁方法が、上述した第1例の場合と異なる。即ち、本例の場合、この磁性部材26の着磁作業を行なう際には、上述した第1例の場合と同様、図7に示す様に、この磁性部材26の軸方向外側面(図7?8の上面)のうちで、円周方向に関して互いに隣接する2個所位置に、1対の着磁ヘッド46、46の先端部を近接対向させる。これと共に、本例の場合には、上記シールリング15を構成する芯金17の円輪部19の軸方向内側面(図7?8の下面)のうちで、円周方向に関して上記2個所位置と同位相の2個所位置に、別の1対の着磁ヘッド46a、46aの先端部を近接対向させる。そして、この状態で、上記磁性部材26を一体化したシールリング15を一定速度で回転させる。これと共に、上記各着磁ヘッド46、46aに巻回したコイル48、48aにパルス波状の着磁電流を流す事に基づいて、上記各1対の着磁ヘッド46、46(46a、46a)の先端部同士の間を通る磁束α、β(但し、これらα、βの向きは互いに逆)を、それぞれ間欠的に発生させる。これにより、図8の(A)→(B)→(C)の順に示す様に、上下両側からの磁束α、βにより、上記磁性部材26の軸方向外側面に、N極とS極との組を1組ずつ、円周方向に順次着磁する。この様な着磁作業は、上記磁性部材26を一体化したシールリング15を複数回、回転させた後に終了する。この様にして磁性部材26の着磁を行なう本例の場合には、上述した第1例の場合と比べて、完成後のエンコーダ16(図1参照)の被検出面から出入りする磁束密度を、飽和に近いレベルまで大きくできる。
【0036】
尚、本発明の製造方法を実施する場合、製造対象となるエンコーダ付シールリングに関して、磁性部材(エンコーダ)を構成する磁石材料は、特に限定されない。但し、シールリングを構成する塞ぎ板(芯金)への接着性を考慮すると、上記磁石材料としては、磁性粉を70?92重量%程度含有し、熱可塑性樹脂をバインダーとした磁石コンパウンドを好適に用いる事ができる。
【0037】
この場合に、上記磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄-窒素等の希土類磁性粉を用いる事ができ、更に、フェライトの磁気特性を向上させる為に、ランタン等の希土類元素を混入させたものであっても良い。尚、上記磁性粉の含有量を70?92重量%にするのが好適である理由は、この磁性粉の含有量が70重量%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になる為であり、又、上記磁性粉の含有量が92重量%を越える場合は、バインダー量が少なくなり過ぎて、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下する為である。
【0038】
又、上記バインダーとして熱可塑性樹脂を用いる場合は、射出成形可能なものが好適であり、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリアミド6T、ポリアミド9T、分子構造中にソフトセグメントを有する変性ポリアミド12、分子構造中にソフトセグメントを有する変性ポリエステル樹脂、分子構造中にソフトセグメントを有する変性ポリスチレン等を用いるのが好適である。尚、上記磁性部材(エンコーダ)には、融雪剤として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるので、吸水性が少ないポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリアミド6T、ポリアミド9T、変性ポリアミド12、変性ポリエステル、変性ポリスチレンを、樹脂バインダーとする方が、より好ましい。
【0039】
更に、転がり軸受の使用環境で想定される急激な温度変化(熱衝撃)による亀裂発生を防止するバインダーとしては、添加する事で、曲げ撓み性、耐亀裂性が向上する変性ポリアミド12、変性ポリエステル、変性ポリスチレン、或いは変性ポリアミド12とポリアミド12との混合物、変性ポリエステル樹脂とポリエステル樹脂との混合物、変性ポリスチレンとポリスチレンとの混合物としたものが最も好適である。又、耐熱衝撃性バインダーとしては、上記説明したソフトセグメントを有しない樹脂と、変性ポリアミド12等の同様の役割をする、その他の耐衝撃性向上材との組み合わせであっても良い。
【0040】
この場合に、上記その他の耐衝撃性向上材としては、各種の加硫ゴム超微粒子を用いる事ができる。具体的には、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性スチレンブタジエンゴムの中から選ばれる少なくとも一種類で、平均粒子径で30?300nmの範囲に入る微細な微粒子を用いる事ができる。尚、平均粒子径で30nm未満の場合は、製造上コストが掛かると共に、微細過ぎて劣化し易くなる為、好ましくない。平均粒子径で300nmを越える場合は、分散性が低下する共に、耐衝撃性の改善を均一に行なう事が難しくなる為、好ましくない。
【0041】
尚、上述した各種の加硫ゴム超微粒子のうち、ペレット製造及び実際の磁性部材成形時の劣化を考慮すると、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムが好適である。更に、これらのうち、分子構造中に、カルボキシル基やエステル基等の有機官能基を有するものが、樹脂バインダーとの相互作用が比較的強く、より好適であり、具体的にはカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムが、より好適である。これらの加硫ゴム超微粒子は、熱や酸素での劣化を防止して、4,4’-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤、2-メルカプトベンズイミダゾール等の二次老化防止剤等を含有させたものとしても良い。
【0042】
更に、上記その他の耐衝撃性向上材としては、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)、無水マレイン酸変性エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)、エチレン/アクリレート共重合体、アイオノマー等も使用可能である。これらの化合物はペレット状であり、磁性体粉、熱可塑性樹脂等と混合して押出機でペレット化する際に、流動化し、バインダ中にミクロ分散される。
【0043】
又、上記変性樹脂或いは加硫ゴム超微粒子等から成る耐衝撃性向上材の添加量は、熱可塑性樹脂と併せたバインダ全量中で、5?60重量%、より好ましくは10?40重量%である。即ち、添加量が5重量%未満の場合は、この添加量が少な過ぎて、耐衝撃性の改善効果が少なくなる為、好ましくない。これに対し、添加量が60重量%を越える場合は、耐衝撃性は向上するものの、樹脂成分が少なくなる事で引張強度等が低下し、実用性が低くなる為、好ましくない。
【0044】
更に、上記バインダーである熱可塑性樹脂及び耐衝撃性向上材(変性樹脂或いは加硫ゴム超微粒子等)の熱による劣化を防止する為に、元々材料に添加されているものの他に、酸化防止効果の高いアミン系酸化防止剤を添加すると、熱による劣化を防止でき、より好適である。この場合に使用するアミン系酸化防止剤としては、4,4’-(α,α-ジメチルベジル)ジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系化合物、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1?メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’,-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系化合物が好適である。
【0045】
尚、上記アミン系酸化防止剤の添加量は、熱可塑性樹脂と耐衝撃性向上材から成るバインダー重量と酸化防止剤重量を加えた合算重量に対して、0.5?2.0重量%程度が好ましい。即ち、上記アミン系酸化防止剤の添加量が0.5重量%未満の場合は、酸化防止の改善効果が十分でない為、好ましくない。これに対し、上記アミン系酸化防止剤の添加量が2.0重量%を越える場合は、酸化防止の効果が余り変わらなくなると共に、その分、磁性体粉やバインダーの量が減る。この為、磁気特性や機械的強度の低下に結び付いて好ましくないと共に、場合によっては成形品の表面にブルーム等を引き起こし、これが前記シールリングを構成する塞ぎ板との接着に悪影響を及ぼす事が想定でき、好ましくない。バインダーとして通常のソフトセグメントを有しない熱可塑性樹脂のみでは、23℃での曲げ撓み量(t=3.0mm ASTM D790;スパン間距離50mm)が1?2mmの範囲であったのに対し、耐衝撃性向上材を含有させる事で、23℃での曲げ撓み量(t=3.0mm、ASTM D790;スパン間距離50mm)が2?15mmの範囲に入る様になる。それによって、撓み性に優れる事で、耐亀裂性が高いものとなっており、高温⇔低温が繰り返される等、厳しい環境で使用しても、上記磁性部材に亀裂等の破損が発生しにくいものとなる。
【0046】
又、前記磁性粉として、コスト、耐酸化性を考慮すると、フェライト系が最も好適であるが、磁気特性を優先して希土類系を使用した場合、フェライト系に比べて、耐酸化性が低いので、長期間に亙って安定した磁気特性を維持させる為に、露出した磁石表面に、更に表面処理層を設けても良い。表面処理層としては、電気或いは無電解ニッケルメッキ、エポキシ樹脂塗膜、シリコン樹脂塗膜、フッ素樹脂塗膜等を具体的に用いる事ができる。
【0047】
又、上記磁性粉は、目標とする磁気特性、使用環境、コストで使い分けを行なう。目標とする磁気特性が、BHmaxで1.4?2.2MGOe程度であれば、ストロンチウムフェライト等のフェライト系磁性粉による対応で十分である。但し、回転数の検出精度を十分に確保する為に、目標とする磁気特性を、BHmaxで1.6?2.2MGOeと高めに設定する場合には、磁場射出成形時の配向性が悪い、ゴム系バインダーでのフェライト配合では、達成が難しい。従って、この場合には、熱可塑性樹脂を中心としたバインダーでの配合を採用して、磁場射出成形を行なう必要がある。又、回転数の検出精度を更に上げる為に、目標とする磁気特性を、BHmaxで2.2?5MGOe程度に設定する場合には、ストロンチウムフェライト等のフェライト系磁性粉と希土類系磁性粉とのハイブリッド化、或いは希土類系磁性粉のみでの配合となる。
【0048】
又、前記シールリングを構成する塞ぎ板の材質としては、上記磁性部材(エンコーダ)の磁気特性を低下させず、一定以上の耐食性を有する電気亜鉛メッキ鋼板(最表層にリン酸塩処理を施したSECC-P等)等の磁性材料が好適である。この最表層にリン酸塩処理を施した電気亜鉛メッキ鋼板は、表面にリン酸塩による凹凸が存在し、接着剤等を用いた上記磁性部材との接合に好適である。又、耐食性が必要な場合は、フェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等磁性ステンレスを使用する事ができ、更に、より高い耐食性が必要な場合は、Mo等を添加して耐食性を向上させた、SUS434、SUS444等の高耐食性磁性フェライト系ステンレス等の磁性材料が好適である。
【0049】
又、上記塞ぎ板の材質が磁性ステンレスである場合であって、上記磁性部材との接着による接合を行なう場合は、少なくとも上記塞ぎ板側の接合面に、接着剤との接合力を向上させる為の微細な凹凸を設けた方が好適である。この凹凸を設ける方法としては、ショットブラスト処理による方法、プレス成形時の金型表面の凹凸の転写による方法等の、機械的な方法の他、一度表面処理した表面を酸等によって化学エッチングする方法であっても良い。上記塞ぎ板側の接合面に上記凹凸を設けると、そこに接着剤が入り込み、アンカー効果によって、上記塞ぎ板と上記磁性部材との接合力が強固になり、より好適である。尚、この塞ぎ板の表面には、内周部に設ける弾性シール材を加硫接着する為のフェノール樹脂等の接着剤硬化層が残存した状態であっても良い。
【0050】
又、上記弾性シール材は、上記塞ぎ板に加硫接着されており、材質としては、ニトリルゴムをベースとした配合が適当である。使用環境によって、更に耐熱性が必要な場合は、水素添加ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム等に材料を変更すると、より好適である。
【0051】
又、上記磁性部材の成形法としては、機械的強度が低下するウェルド部が発生しない、内周部をゲートとするディスクゲート方式、或いはこれと類似の、外周部をゲートとするリングゲート方式の磁場射出成形で成形するのが、磁気特性の面では最も好適である。これら各方式とも、上記磁性部材のみを別体で成形できる。この磁性部材は、成形後、ゲート、ランナー部を脱離してから、ゲート部の残存部分を切削加工で除去して完成する。
【0052】
又、上記塞ぎ板の軸方向外側面と、上記磁性部材の軸方向内側面とを接合固定する為に使用する、室温硬化型接着剤としては、湿気硬化型接着剤、二液混合型接着剤、光硬化型接着剤等がある。このうちの湿気硬化型接着剤としては、一液型ポリウレタン系接着剤、一液型変性シリコーン系接着剤、シアノアクリレート系瞬間接着剤等がある。又、主剤と硬化剤とから成る二液混合型接着剤としては、二液型エポキシ系接着剤、二液型変性シリコーン系接着剤、二液型ポリウレタン系接着剤、二液型アクリル系接着剤等がある。又、光硬化型接着剤としては、光硬化型アクリル樹脂系接着剤等がある。これらのうちで、本発明の用途での十分な信頼性を持つ為に、耐熱性、接着強さ、耐薬品性等が全て一定レベル以上であるものとしては、二液型エポキシ系接着剤があり、最も好適である。
【0053】
又、完成後のエンコーダの被検出面に配置する極数(N極及びS極の総数)は、好ましくは70?130極程度とし、より好ましくは、90?120極程度とする。この理由は、極数が70極未満の場合は、極数が少な過ぎて回転数を精度良く検出するのが難しくなる為であり、又、極数が130極を越える場合は、検出する磁束密度が低下すると同時に、各ピッチが小さくなり過ぎて、単一ピッチ誤差を小さく抑える事が難しくなり、実用性が低くなる為である。
【0054】
又、本発明の製造方法は、前述の図1に示したエンコーダ付シールリング11に限らず、特許請求の範囲に記載した条件を満たす、各種のエンコーダ付シールリングを造る場合に適用できる。例えば、このエンコーダ付シールリングは、前述の図1に示した玉軸受の如き外輪回転型の転がり軸受に装着するもの(塞ぎ板を外輪に内嵌するもの)に限らず、内輪回転型の転がり軸受に装着するもの(塞ぎ板を内輪に外嵌するもの)であっても良い。又、シールリングは、塞ぎ板さえ備えていれば、弾性シール材を備えていないものであっても良い。
【実施例】
【0055】
本発明の効果を確認する為に行った実験に就いて説明する。実験では、前述の図2?6に示した実施の形態の第1例、及び、前述の図7?8に示した実施の形態の第2例の製造方法により、前述の図1に示した構造を有するエンコーダ付シールリング11を、2種類(「実施例1」及び「参考例2」)造った。これら「実施例1」及び「参考例2」に係る各エンコーダ付シールリング11に就いては、以下の通りである。
【0056】
<エンコーダ16{磁性部材26(図2)}に就いて>
サイズ:内径34mm、外径41mm、厚さ0.8mm
被検出面の極数(N極及びS極の総数):100極
磁石材料の配合及び物性:
【表1】

但し、上記表1中の物質に就いては、以下の通りである。
Srフェライト:磁場配向用異方性SrフェライトFERO TOP FM-201 (戸田工業株式会社製)
Sm_(2)Co_(17) :Sm_(2)Co_(17) XG28/20 (CHENGDU MAGNETIC MATERIAL SCIENCE AND TECHNOLOGY CO.,LTD製)
PA12:PA12パウダーP3012U(ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有)(宇部興産株式会社製)
変性PA12:UBEPAE 1210U(ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有)(宇部興産株式会社製)
シランカップリング剤:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、A-1100(日本ユニカー株式会社製)
アミン系酸化防止剤:N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ノクラックDP(大内新興化学工業株式会社製)
【0057】
<シールリング15に就いて>
芯金17:最表層にリン酸塩処理を施した電気亜鉛メッキ鋼板製
<接着剤に就いて>
種類:室温硬化型接着剤である、二液型エポキシ系接着剤(日本ロックタイト株式会社製ロックタイトE-30CL)
<芯金17と磁性部材26との接合作業に就いて>
接着剤の硬化を促進する為に、50℃の恒温槽中に約1時間放置
<試作軸受型番>
6005(内径25mm、外径47mm、幅12mm)
【0058】
上述の様に、実施の形態の第1?2例の製造方法により製造した、「実施例1」及び「参考例2」に係る各エンコーダ付シールリング11に関し、上記磁性部材26の着磁後、この磁性部材26の軸方向外側面(上記エンコーダ16の被検出面)に対し、その検出部をエアギャップ1mmで対向させた磁気センサによる信号確認を行なった。この結果、回転速度検出を実施するのに問題ない程度の大きな着磁強度(発生する磁束密度)が得られ、しかも着磁ピッチ誤差(上記芯金17と上記エンコーダ16との芯ずれ)を十分に抑制できている事が確認できた。特に、実施の形態の第2例の製造方法により製造したものに関しては、同第1例の製造方法により製造したものよりも、上記発生する磁束密度をより大きくでき、回転速度検出の信頼性を高められる事が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の製造方法の実施対象となるエンコーダ付シールリングの1例を組み付けた転がり軸受の部分断面図。
【図2】本発明の実施の形態の第1例に関する、エンコーダの中間素材である磁性部材をシールリングを構成する芯金の側面に接合固定する工程を示す部分断面図。
【図3】着磁装置の概略構成図。
【図4】着磁装置を構成する、磁性部材と一体化したシールリングを保持する為の治具を示しており、(A)は平面図、(B)は(A)のX-X断面図。
【図5】磁性部材と一体化したシールリングを保持した状態で示す、図4のY部拡大図。
【図6】着磁装置を構成する着磁ヨークにより、磁性部材の着磁を行なう工程を示す図。
【図7】本発明の実施の形態の第2例に関する、着磁装置を構成する着磁ヨークと、磁性部材と一体化したシールリングとの位置関係を示す図。
【図8】着磁装置を構成する着磁ヨークにより、磁性部材の着磁を行なう工程を示す図。
【図9】自動二輪車の車輪の回転支持部の第1例を示す断面図。
【図10】同第2例を示す断面図。
【符号の説明】
【0060】
1 ホーク
2、2a 支持軸
3、3a?3c 玉軸受
4、4a ハブ
5、5a ホイール
6 アーム
7 エンコーダ付玉軸受
8 外輪
9 内輪
10 玉
11 エンコーダ付シールリング
12 外輪軌道
13 内輪軌道
14 保持器
15 シールリング
16 エンコーダ
17 芯金
18 弾性シール材
19 円輪部
20 円筒部
21a、21b シールリップ
22 大径部
23 凹溝
24 突条
25 シールリング
26 磁性部材
27 第一の治具
28 保持凹部
29 第二の治具
30 保持凸部
31 凹部
32 凸部
33 治具
34 回転駆動装置
35 着磁ヨーク
36 着磁電源装置
37 爪部材
38 ワーク開放用ばね
39 クランプねじ
40 スピンドル装置
41 固定用チャック
42 モータ
43 面振れ補正装置
44 回転角度検出装置
45 回転制御手段
46、46a 着磁ヘッド
47 芯材
48、48a コイル
49 位置決め装置
50 集中制御装置
51 磁気センサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えた転がり軸受のうち、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定しているエンコーダ付シールリングの製造方法であって、上記塞ぎ板と、上記エンコーダを造る為の中間素材である、上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なっていない、円輪状の磁性部材とを、それぞれ別体として造り、その後、上記塞ぎ板を、第一の治具に対して動かない様に固定し、且つ、上記磁性部材を、第二の治具に対して動かない様に固定すると共に、上記第一の治具の一部に形成した第一のガイド部と、上記第二の治具の一部に形成した第二のガイド部とを、互いに係合させる事により、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士を一致させた状態で、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを対向させると共に、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とのうちの何れか一方の側面に、室温での接着接合が可能な室温硬化型接着剤を塗布し、更に、この状態で、上記両ガイド部同士の係合部をスライドさせつつ、上記両治具同士を互いに近づけ合う事に基づいて、上記塞ぎ板と上記磁性部材との中心軸同士の一致状態を保持したまま、これら塞ぎ板と磁性部材とを互いに近づけ合う事により、これら塞ぎ板の軸方向内側面と磁性部材の軸方向外側面とを接触させ、更に、この接触状態を圧接状態で放置する事により、上記両側面同士の間に存在する、上記室温硬化型接着剤を室温で硬化させる事で、これら両側面同士を、この室温硬化型接着剤により接合固定し、その後、この磁性部材に上記被検出面に配置すべきN極及びS極の着磁を行なう事により上記エンコーダを完成させ、上記円輪状の磁性部材を構成する材料を、熱可塑性樹脂とフェライト系磁性粉とを含有するプラスチック磁石材料とし、且つ、上記磁性部材を、内周部をゲートとしたディスクゲート方式又は外周部をゲートとしたリングゲート方式の、アキシアル方向の磁場射出成形により造る、エンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項3】
エンコーダを完成させるべく、円輪状の磁性部材を自身の中心軸を中心として回転させながら、着磁装置を構成する回転しない着磁ヨークにより、上記磁性部材の軸方向外側面にN極とS極との組を1組ずつ、円周方向に関して順次着磁形成する、請求項2に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法。
【請求項4】
転がり軸受と、エンコーダ付シールリングとを備え、
このうちの転がり軸受は、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転輪と、この回転側軌道と上記静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、
上記エンコーダ付シールリングは、上記静止側周面と上記回転側周面との間に存在する、上記各転動体を設置した空間の端部開口を塞ぐ為に使用するシールリングと、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダとを備え、このうちのシールリングは、少なくとも、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、磁性金属製で円輪状の塞ぎ板を有するものであり、上記エンコーダは、永久磁石製で、全体を円輪状に形成すると共に、被検出面である軸方向外側面にN極とS極とを円周方向に関して交互に配置しており、且つ、上記塞ぎ板と同心に配置した状態で、軸方向内側面をこの塞ぎ板の軸方向外側面に接合固定している、
エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法であって、
上記エンコーダ付シールリングを、請求項2又は3に記載したエンコーダ付シールリングの製造方法によって製造した後、このエンコーダ付シールリングを構成する上記塞ぎ板を、上記回転側周面の軸方向端部に嵌合固定する、エンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-05-28 
結審通知日 2020-06-04 
審決日 2020-06-18 
出願番号 特願2007-191614(P2007-191614)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (G01D)
P 1 41・ 853- Y (G01D)
P 1 41・ 857- Y (G01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡田 卓弥  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 中澤 真吾
小林 紀史
登録日 2012-09-14 
登録番号 特許第5082646号(P5082646)
発明の名称 エンコーダ付シールリングの製造方法及びエンコーダ付シールリングを備えた転がり軸受の製造方法  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ