• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A61H
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A61H
管理番号 1364324
審判番号 不服2019-9121  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-08 
確定日 2020-08-04 
事件の表示 特願2017-232778「マッサージ機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月29日出願公開、特開2018- 47313、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年6月29日に出願した特願2012-147871号の一部を、平成28年4月1日に新たな特許出願とした特願2016-073989号の一部を、平成29年12月4日に新たな特許出願としたものである。

本件出願の手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 8月 1日 刊行物等提出
平成30年10月 3日付け 拒絶理由通知
平成30年12月 7日 意見書及び手続補正書提出
平成31年 2月15日付け 拒絶理由通知(最後)
平成31年 4月18日 意見書及び手続補正書提出
令和 元年 6月 6日付け 補正の却下の決定
令和 元年 6月 6日付け 拒絶査定
令和 元年 7月 8日 本件審判請求
令和 元年10月16日 刊行物等提出

第2 令和元年6月6日付けの補正の却下の決定について
請求人は、審判請求書の「【請求の理由】 3.本願発明が特許されるべき理由 (1)補正却下について」において、「平成31年4月18日付け手続き補正書による補正は、補正により追加した事項が願書に最初に添付した明細書等に記載されておらず、自明な事項でもないという理由で却下されている。しかしながら、補正の却下の決定は失当であり、補正の却下の決定は取り消されるべきものである。」と主張している。そこで、令和元年6月6日付けの補正の却下の決定の当否について検討する。

[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月6日付け補正の却下の決定を取り消す。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
最後の拒絶理由通知の後の平成31年4月18日の手続補正により補正(以下「本件補正」という。)された特許請求の範囲は、次のとおりである(下線は当審において付与した)。

「【請求項1】
座部と背もたれ部とを備えて被施療者の身体を支持しつつ、昇降移動可能に内蔵された施療機構で施療を実行するマッサージ機において、
前記施療機構が、少なくとも被施療者の身体背面部に対する進退移動を伴う動作を実行可能な施療子と、当該施療子を上下二方向に突出状態で支持する支持アームと、当該支持アームを介して前記施療子を動かす駆動機構部とを有して、被施療者の身体縦方向に複数組配設され、
施療子による上又は下への移動を伴う施療を実行するにあたり、被施療者の身体背面部の身体縦方向における中間位置より上側については上側の施療機構の施療子を用い、前記中間位置より下側については下側の施療機構の施療子を用いて、一の施療機構の施療子が上又は下への移動を伴う押圧を実行し前記中間位置に到達後、他の施療機構の施療子が前記中間位置から上又は下への移動を伴う押圧を継続実行するように作動させ、
前記中間位置は、前記上側の施療機構の移動可能範囲の最下部よりも上に位置し、且つ、前記下側の施療機構の移動可能範囲の最上部よりも下に位置することを特徴とするマッサージ機。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
最初の拒絶理由通知の後の本件補正前の平成30年12月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲は、次のとおりである。

「【請求項1】
座部と背もたれ部とを備えて被施療者の身体を支持しつつ、昇降移動可能に内蔵された施療機構で施療を実行するマッサージ機において、
前記施療機構が、少なくとも被施療者の身体背面部に対する進退移動を伴う動作を実行可能な施療子と、当該施療子を上下二方向に突出状態で支持する支持アームと、当該支持アームを介して前記施療子を動かす駆動機構部とを有して、被施療者の身体縦方向に複数組配設され、
施療子による上又は下への移動を伴う施療を実行するにあたり、被施療者の身体背面部の身体縦方向中間位置より上側については上側の施療機構の施療子を用い、中間位置より下側については下側の施療機構の施療子を用いて、一の施療機構の施療子が上又は下への移動を伴う押圧を実行し中間位置に到達後、他の施療機構の施療子が中間位置から上又は下への移動を伴う押圧を継続実行するように作動させることを
特徴とするマッサージ機。」

(3)補正事項
上記(1)及び(2)から、本件補正は、以下の補正事項からなるものである。

ア 補正事項1
本件補正前の請求項1の「施療子による上又は下への移動を伴う施療を実行するにあたり、被施療者の身体背面部の身体縦方向中間位置より上側については上側の施療機構の施療子を用い、中間位置より下側については下側の施療機構の施療子を用いて、一の施療機構の施療子が上又は下への移動を伴う押圧を実行し中間位置に到達後、他の施療機構の施療子が中間位置から上又は下への移動を伴う押圧を継続実行するように作動させる」という記載を、「施療子による上又は下への移動を伴う施療を実行するにあたり、被施療者の身体背面部の身体縦方向における中間位置より上側については上側の施療機構の施療子を用い、前記中間位置より下側については下側の施療機構の施療子を用いて、一の施療機構の施療子が上又は下への移動を伴う押圧を実行し前記中間位置に到達後、他の施療機構の施療子が前記中間位置から上又は下への移動を伴う押圧を継続実行するように作動させ、」と変更する。

イ 補正事項2
本件補正前の請求項1に記載の「中間位置」について、「前記中間位置は、前記上側の施療機構の移動可能範囲の最下部よりも上に位置し、且つ、前記下側の施療機構の移動可能範囲の最上部よりも下に位置する」ことを限定する。

2 令和元年6月6日付け補正の却下の決定の概要
令和元年6月6日付け補正の却下の決定の概要は、次のとおりである。

平成31年4月18日付け手続補正書による補正により、「前記中間位置は、前記上側の施療機構の移動可能範囲の最下部よりも上に位置し、且つ、前記下側の施療機構の移動可能範囲の最上部よりも下に位置する」という事項が追加された。
しかし、当該事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されておらず、自明な事項でもない。

したがって、上記事項を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
よって、この補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。

3 本件補正の却下の決定の当否についての検討
(1)新規事項の追加であるか否かの判断について
本件出願の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、それぞれ「当初明細書」及び「当初図面」という。)には以下の事項が記載されている。

ア「【0046】
メカユニット50、60は、ベース部53、63の側端部を一対のガイドフレーム20にそれぞれ上下走行可能に支持されることで、ガイドフレーム20に挟まれる配置状態となり、メカユニット全体としてガイドフレーム20に沿って移動可能とされる構成である。そして、制御部40による制御に基づき、昇降モータ57、67が作動してベース部53、63がガイドフレーム20を走行する状態となることで、ベース部53、63を含むメカユニット50、60全体が、ガイドフレーム20に沿って背もたれ部13の上下に移動することとなり、背もたれ部13における揉み玉51の位置(揉み玉による施療対象部位)を上下に変えられる仕組みである。」

イ「【0086】
施療動作において、二つのメカユニット50、60を協働状態とするにあたっては、上記の各例のように二つのメカユニット50、60を同時に作動させるだけでなく、二つのメカユニット50、60を時間をおいて作動させることで、二つが協働して一つの施療を実行する状態を生じさせることもできる。」

ウ「【0087】
詳細には、上下に広い施療対象部位を、揉み玉が上又は下へ徐々に移動しながら連続的に押圧していくことで所定の施療効果を得るような、揉み上げ、揉み下げ、ローリング等のマッサージ動作の場合に、被施療者の身体縦方向中間位置より上側については上側のメカユニット50の揉み玉51を用い、中間位置より下側については下側のメカユニット60の揉み玉61を用いて、一組の揉み玉による上又は下への移動を伴う施療を、中間位置で上下の揉み玉を切替えて継続実行するように、各メカユニット50、60を時間をずらして作動させることもできる(図9参照)。」

エ「【0088】
例えば身体背部の上から下まで揉み玉による押圧を加える場合、まず上側のメカユニット50を下に移動させて、揉み玉51の身体背部に対する移動を伴う押圧を実行し(図9(A)参照)、揉み玉51が身体縦方向の中間位置に達したら、あらかじめこの中間位置に位置させた下側のメカユニット60の揉み玉61による押圧に切替え、身体背部の残りの下側部分については、下側のメカユニット60を下に移動させて、揉み玉61による移動を伴う押圧を実行することとなる(図9(B)参照)。」

オ「【0089】
この場合、各メカユニットが、一つのメカユニットのみを用いる従来構成のように、メカユニット移動可能範囲の最上部から最下部まで、又は逆の最下部から最上部まで、広範囲に移動せずに済むことから、次の新たなマッサージ動作に移行する際に、前のマッサージ動作の終了位置から新たな施療対象部位までの、メカユニットの移動距離を小さくすることができ、移行に係る時間を短く抑えられる。」

カ 判断
まず、上記補正事項1について検討する。「中間位置」が「被施療者の身体背面部の身体縦方向における中間位置」であることは、上記摘記事項イ?オ及び図9(A)(B)より自明である。また、「中間位置」は、全て同じ位置のことを示していることは明らかであることから、「中間位置」を「前記中間位置」に補正することも、当初明細書及び当初図面に記載されたものであるといえる。
次に、上記補正事項2について検討する。上記摘記事項アの「メカユニット50、60は、ベース部53、63の側端部を一対のガイドフレーム20にそれぞれ上下走行可能に支持されることで、ガイドフレーム20に挟まれる配置状態となり、メカユニット全体としてガイドフレーム20に沿って移動可能とされる構成である。」との記載より、メカユニット50、60は、ガイドフレーム20に沿って移動可能であることが把握される。してみると、メカユニット50、60の移動可能範囲は、両者の干渉する部分を除いた、ガイドフレーム20の略全体にわたるものと把握される。また、上記摘記事項イ?オの「例えば身体背部の上から下まで揉み玉による押圧を加える場合、まず上側のメカユニット50を下に移動させて、揉み玉51の身体背部に対する移動を伴う押圧を実行し(図9(A)参照)、揉み玉51が身体縦方向の中間位置に達したら、あらかじめこの中間位置に位置させた下側のメカユニット60の揉み玉61による押圧に切替え、身体背部の残りの下側部分については、下側のメカユニット60を下に移動させて、揉み玉61による移動を伴う押圧を実行することとなる(図9(B)参照)。」という記載、及び、図9(A)(B)より、上側のメカユニット50の移動可能範囲には中間位置が含まれており、下側のメカユニット60の移動可能範囲には中間位置が含まれていると認められる。したがって、「中間位置」は、上側のメカユニット50の移動可能範囲の最下部よりも上に位置し、且つ、下側のメカユニット60の移動可能範囲の最下部よりも下に位置しているものと認められる。
してみると、補正事項1及び補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるといえるから、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるとはいえない。

(2)補正の目的
補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載された「マッサージ機」について、「中間位置」が、「被施療者の身体背面部の身体縦方向における中間位置」であることを特定するものである。また、補正事項2は、本件補正前の請求項1に記載された「マッサージ機」について、「中間位置」が、「前記上側の施療機構の移動可能範囲の最下部よりも上に位置し、且つ、前記下側の施療機構の移動可能範囲の最上部よりも下に位置する」ことを特定するものである。
してみると、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を特定するものであるといえることから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

ア 本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項と引用発明
最後の拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-128292号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0016】
【発明の実施の形態】
実施例1
マッサージユニット(10)(12)を上下に2基搭載し、各マッサージユニットは、それぞれ独立した昇降用の駆動源に連繋されて上下移動可能となっており、上下のマッサージユニットには、それぞれ施療指駆動手段としてモータ(56)(33)(36)を具えたマッサージ機について説明する。」

(イ)「【0017】図1は、本発明の椅子式マッサージ機(13)に、被施療者(68)が腰掛けた状態を示す斜視図であり、図2は、その側面図である。マッサージユニット(10)(12)が配備される椅子(60)は、被施療者(68)の腰掛ける座部(62)、座部の後端から上方に向けて形成された背凭れ(64)、座部の両側に設けられた肘掛け(66)を具える。背凭れ(64)の中央は開口しており、該開口から後述するマッサージユニット(10)(12)の施療指が突出する。背凭れ(64)の後ろ側には、図2に示す如く、背凭れ(64)に沿ってガイドフレーム(14)が形成されている。」

(ウ)「【0018】図3及び図4は、マッサージを行なう機構を椅子から取り外した状態を示す斜視図であって、図5は、その分解図である。ガイドフレーム(14)(14)は、背凭れに沿って左右に1本ずつ設けられ、ガイドフレーム(14)(14)の上端及び下端は支持杆(16)(18)で連結されている。2本のガイドフレーム(14)(14)の間には、ガイドフレームと平行に2本の送りネジ(20)(22)が配備され、それぞれ支持杆(16)(18)に枢支されている。一方の送りネジ(22)の下端には、下側のマッサージユニット(12)を昇降するための駆動源となるモータ(以下「下モータ(25)」という)が連繋されており、他方の送りネジ(20)の上端には、上側のマッサージユニット(10)を昇降するための駆動源となるモータ(以下「上モータ(24)」という)が連繋されている。」

(エ)「【0019】ガイドフレーム(14)(14)には、2基のマッサージユニット(10)(12)が上下動可能に設けられている。下側のマッサージユニット(以下「下ユニット(12)」という)は、下プレート(27)が、その両端をガイドフレーム(14)(14)にスライド可能に嵌められた状態で支持されており、該下プレート(27)の中央は、下モータ(25)に連繋された送りネジ(22)と螺合している。下モータ(25)を回転させると、下ユニット(12)がガイドフレーム(14)に沿って上下方向に移動する。下プレート(27)の背凭れ側には、2本の軸(28)(30)が横方向に平行に枢支されている。一方の軸は、施療指(40)(40)を前後方向に動作させる前後用シャフト(28)であって、該前後用シャフト(28)は、軸方向に沿ってキー(29)が突設されている。他方の軸は、施療指(40)(40)を幅方向に接近離間させる幅用シャフト(30)であって、該幅用シャフト(30)の中央よりも右側には右巻きのネジが形成されており、中央よりも左側には左巻きのネジが形成されている。前後用シャフト(28)は、一端にウォームホイル(32)が取り付けられており、該ウォームホイル(32)は、下プレート(27)に固定された前後用モータ(33)の回転軸に設けられたウォーム(34)に噛合している。幅用シャフト(30)の一端には、ネジ歯車(35)が取り付けられており、該ネジ歯車(35)は、下プレート(27)に固定された幅用モータ(36)の回転軸に設けられたウォーム(37)に噛合している。」

(オ)「【0020】下ユニット(12)に配備される一対の施療指(40)(40)は、ロッド(42)(42)の先端に取り付けられており、ロッド(42)の基端は、内面にキー溝(44)を有する施療筒(46)に固定されている。該施療筒(46)は、キー溝(44)が前後用シャフト(28)に嵌められた状態でキー(29)と噛合するよう嵌められており、施療筒(46)は、前後用シャフト(28)と回転方向には一体に動くが、幅方向にはスライド自由となっている。施療筒(46)は、図5に示すように、幅用シャフト(30)と前後用シャフト(28)に跨がって設けたブロック(48)の切欠部(48a)に嵌まって、該ブロック(48)と一体に左右に移動可能である。ブロック(48)は、幅用シャフト(30)に切られたネジと噛合している。」

(カ)「【0021】上記構成の下ユニット(12)について、前後用モータ(33)を正逆切り換えつつ回転させると、前後用シャフト(28)が正逆回動し、施療指(40)(40)が前後方向に揺動する。また、幅用モータ(36)を回転させると、幅用シャフト(30)が回動して、施療指(40)(40)が幅方向に接近離間する。

(キ)「【0022】上側のマッサージユニット(以下「上ユニット(10)」という)は、上プレート(26)が、その両端をガイドフレーム(14)(14)に嵌められた状態で支持されている。上プレート(26)の中央は、上モータ(24)に連繋された送りネジ(20)に螺合しており、前記下モータ(25)に連繋された送りネジ(22)に対しては干渉することなく貫通している。上モータ(24)を回転させると、上ユニット(10)がガイドフレーム(14)(14)に沿って上下方向に移動する。上プレート(26)の背凭れ側には、対向する2枚のブラケット(52)(52)が突設されており、該ブラケット(52)には、一対の施療指(50)(50)から夫々内側に向けて突設された軸(54)(54)が枢支されている。軸(54)の端部は、ブラケット間にてセクター歯車(58)の回転中心に連結しており、該セクター歯車(58)は、上プレート(26)に配備された揺動モータ(56)のウォーム(59)と噛合している。揺動モータ(56)を正逆切り換えつつ回転させると、施療指(50)(50)が上下方向に揺動する。」

(ク)「【0025】<両ユニットによるマッサージ>図6(d)は、上ユニット(10)と下ユニット(12)の両方でマッサージを行なっている状態を示す図である。両ユニット(10)(12)を上下方向に移動させつつマッサージを施すことによって、さらに効果的なマッサージを行なうことができる。」

上記(ア)?(ク)の記載から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

(ケ)段落【0017】の記載、及び、【図1】より、マッサージ機(13)は、座部(62)と背凭れ部(64)を備えて被施療者(68)の身体を支持するものであるといえる。
(コ)段落【0016】の記載より、マッサージ機(13)は、上下移動可能なマッサージユニット(10)(12)を内蔵し、マッサージユニット(10)(12)によって被施療者(68)で施療を実行するものであるといえる。
(サ)段落【0020】、【0021】の記載、及び、【図3】より、下側のマッサージユニット(12)は、一対の施療指(40)(40)がロッド(42)(42)の先端に取り付けられており、前後用モータ(33)を回転させると施療指(40)(40)が前後方向に揺動するものであるといえる。
(シ)段落【0022】の記載、及び、【図3】より、上側のマッサージユニット(10)は、一対の施療指(50)(50)を有しており、揺動モータ(56)によって施療指(50)(50)が上下方向に揺動するものであるといえる。
(ス)段落【0025】の記載、及び【図6】(d)より、上側のマッサージユニット(10)と下側のマッサージユニット(12)の両方でマッサージを行っているといえる。

そうすると、上記(ア)?(ス)より、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「座部(62)と背凭れ部(64)とを備えて被施療者(68)の身体を支持しつつ、上下移動可能に内蔵されたマッサージユニット(10)(12)で施療を実行するマッサージ機(13)であって、下側のマッサージユニット(12)は、一対の施療指(40)(40)がロッド(42)(42)の先端に取り付けられており、前後用モータ(33)を回転させると施療指(40)(40)が前後方向に揺動するものであり、上側のマッサージユニット(10)は、一対の施療指(50)(50)を有しており、揺動モータ(56)によって施療指(50)(50)が上下方向に揺動するものであって、上側のマッサージユニット(10)と下側のマッサージユニット(12)の両方でマッサージを行うマッサージ機(13)。」(以下、「引用発明1)という。)

ウ 引用文献2に記載の技術的事項
最後の拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である中国特許出願公開第102499847号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある(日本語訳は、当審が付与したものである。)。

(ア)

([0042]本実施例1に係るムーブメント運行案内レール2は、背もたれ部21を採用すると、座部22と脛部23 3部分が一体的に成形された一体型ガイドレールであり、一体形レールに当該ムーブメント運転ガイドレール2に沿って走行する複数のマッサージムーブメントを設け、具体的には、背部マッサージムーブメント3と、座部マッサージムーブメント4及びふくらはぎマッサージムーブメント5、図1に示すように、は初期リセット状態となり、このとき、背部マッサージムーブメント3、座部マッサージムーブメント4及びふくらはぎマッサージムーブメント5は、それぞれ対応するマッサージ領域内に位置しており、すなわち背部マッサージムーブメント3は、背もたれ部21がマッサージ領域内に分布しており、座部マッサージムーブメント4は、座部22がマッサージ領域内に分布しており、脚マッサージムーブメント5は、脛部23がマッサージ領域内に分布しており、そして、背当て部21は、マッサージ領域および座部22がマッサージ領域と第1重畳マッサージ領域T1が形成されている(背もたれ部21と、座部22の遷移領域の曲線セグメント)、座部22は、マッサージ領域と脛部23がマッサージ領域と第2重畳マッサージ領域T2(座部22と脛部23の遷移領域の曲線セグメント)が形成されている;は、図2に示すように、座部マッサージムーブメント4は、第1重畳マッサージ領域T1を経て背凭れ部21のマッサージ領域内に移動し、ふくらはぎマッサージムーブメント5は、第2重畳マッサージ領域で座部22がマッサージ領域内の使用状態に移動する;図3に示すように、とは背中マッサージムーブメント3は、第1重畳マッサージ領域T1内の使用状態に移動する;マッサージ密度をさらに向上させるために、背凭れ部21は、マッサージ領域内には、2個またはそれ以上の背部マッサージムーブメント31を設けてもよいし、図4に示すように、複数の背マッサージムーブメント31は、それぞれ背もたれ部21マッサージ領域の異なる部位に配置され(例えば、首、肩、腰など)であってもよい;マッサージムーブメントの構成については、従来の各種マッサージムーブメントを用いることができ、2Dマッサージムーブメントや3Dマッサージムーブメントまたは単一モータマッサージムーブメント又は空圧式マッサージムーブメント、3Dマッサージを選択して、ムーブメントが好ましい;マッサージムーブメントの走行各マッサージムーブメントの走行モータ運転を制御する駆動回路によって実現され、ここで、マッサージムーブメントを実現するムーブメント運行レール2を移動させる走行モータの駆動回路は、従来技術であり、様々な回路構成やマイクロコントローラによって実現されてもよい、本実施例は詳述しない。)

(イ)

([0043]本実施例では一体型のガイドレールには、それぞれマッサージ領域との間に一定のオーバーラップマッサージ領域が存在しており、各マッサージムーブメント重畳マッサージ領域は、歩行時に発生する衝撃を避け、本実施例の各マッサージムーブメントには、このマッサージムーブメントの走行位置を検出可能なストロークカウントセンサ6が取り付けられており、ムーブメント運行レール2は、異なるマッサージ領域対応内には、このマッサージ領域内のマッサージムーブメント走行ストロークを規制するストロークリミットセンサ7が取り付けられており、図5に示すように、同図に示すマッサージ領域、背もたれ部21がマッサージ領域として設定し、2つの背部マッサージムーブメント31に背凭れ部(21モル領域内に配置され、を特徴とする、ストロークリミットセンサ7はマッサージムーブメントの最大走行範囲及び初期位置を決定し、ストロークカウントセンサ6はマッサージムーブメント相対ストロークカウントセンサ6のパルス数を検知することができ、さらに便利でマッサージムーブメントのリアルタイムの位置をモニタリングする;)

(ウ)

([0055](4)、マイクロコントローラ移動指令が指向する所定位置優先度の低いマッサージムーブメントを占有しているか否か判断を継続し、そうであれば、低優先度マッサージムーブメント高優先度マッサージムーブメントに進路を譲歩させて、次のステップを実行する;もしそうでなければ、次のステップを直接実行;)

(エ)

([0063]本実施例のマイクロコントローラは、各マッサージムーブメントにストロークカウントセンサ6に収集された走行パルス信号により各ムーブメント任意時刻の位置を知ることができ、2つのマッサージムーブメントのマッサージ領域が重なると優先度の低いマッサージムーブメントに優先度の高いマッサージムーブメントへの通路を与え、該領域のマッサージ動作を優先度の高いマッサージムーブメントに行い、異なるマッサージムーブメントを回避するマッサージ領域が重なる時マッサージムーブメント衝突し、異なるマッサージ領域に対して同時にマッサージを行う目的に達する。)

上記(ア)?(エ)の記載、及び、図面から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

(オ)図1より、背部マッサージムーブメント3、座部マッサージムーブメント4、ふくらはぎマッサージムーブメント5は、施療子を上下二方向に突出状態で支持する支持アームを有した構造であることが把握される。

(カ)段落 [0055]、[0063]の記載より、2つのマッサージムーブメントのマッサージ領域が重なると優先度の低いマッサージムーブメントが優先度の高いマッサージムーブメントへの通路を与えていることが把握される。

そうすると、上記(ア)?(カ)より、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているといえる。

「背部マッサージムーブメント3、座部マッサージムーブメント4、ふくらはぎマッサージムーブメント5の3つのマッサージムーブメントを備えるマッサージ椅子において、背部マッサージムーブメント3、座部マッサージムーブメント4、ふくらはぎマッサージムーブメント5は、施療子を上下二方向に突出状態で支持する支持アームを有した構造であって、2つのマッサージムーブメントのマッサージ領域が重なると優先度の低いマッサージムーブメントが優先度の高いマッサージムーブメントへの通路を与えるマッサージ椅子。」(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)

エ 対比・判断
(ア)本件補正発明1について
本件補正発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「座部(62)」は、本件補正発明1における「座部」に相当し、以下同様に、「背凭れ部(64)」は「背もたれ部」に、「上下移動可能」は「昇降移動可能」に、「マッサージユニット(10)(12)」は「施療機構」、「マッサージ機(13)」は「マッサージ機」に相当する。

してみると、本件補正発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「座部と背もたれ部とを備えて被施療者の身体を支持しつつ、昇降移動可能に内蔵された施療機構で施療を実行するマッサージ機。」

(相違点1)
施療機構について、本件補正発明1においては、少なくとも被施療者の身体背面部に対する身体移動を伴う動作を実行可能な施療子と、当該施療子を上下二方向に突出状態で支持する支持アームと、当該支持アームを介して前記施療子を動かす駆動機構部とを有して、被施療者の身体縦方向に複数組配置されているのに対し、引用発明1においては、下側のマッサージユニット(12)は、一対の施療指(40)(40)がロッド(42)(42)の先端に取り付けられており、前後用モータ(33)を回転させると施療指(40)(40)が前後方向に揺動するものであり、上側のマッサージユニット(10)は、一対の施療指(50)(50)を有しており、揺動モータ(56)によって施療指(50)(50)が上下方向に揺動するものである点。

(相違点2)
本件補正発明1においては、施療子による上又は下への移動を伴う施療を実行するにあたり、被施療者の身体背面部の身体縦方向における中間位置より上側については上側の施療機構の施療子を用い、前記中間位置より下側については下側の施療機構の施療子を用いて、一の施療機構の施療子が上又は下への移動を伴う押圧を実行し前記中間位置に到達後、他の施療機構の施療子が前記中間位置から上又は下への移動を伴う押圧を継続実行するように作動させ、前記中間位置は、前記上側の施療機構の移動可能範囲の最下部よりも上に位置し、且つ、前記下側の施療機構の移動可能範囲の最上部よりも下に位置するのに対し、引用発明1においては、施療子によるそのような上又は下への移動を伴う施療を実行しているとは言えない点。

まず、事案に鑑み、上記相違点2について検討するに、上記相違点2に係る本件補正発明1の構成は引用文献には記載されておらず、さらに、当該構成が自明であるということもできない。また、仮に、引用発明1に対して、引用文献2に記載の技術的事項を適用したとしても、上記相違点2に係る施療子による施療を実行するものとなる理由は見当たらない。

してみると、上記相違点1について検討するまでもなく、本件補正発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(イ)独立特許要件についての判断
したがって、本件補正発明1は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるということはできず、また、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も発見しない。

4 むすび
以上のとおりであるので、本件補正は特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定された要件を満たすものであることから、令和元年6月6日付け補正の却下の決定は取り消すべきものである。

第3 本願発明についての判断
以上のとおり、令和元年6月6日付け補正の却下の決定は取り消されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年4月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

そして、本願発明については、上記第2で説示したとおり、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-07-16 
出願番号 特願2017-232778(P2017-232778)
審決分類 P 1 8・ 561- WYA (A61H)
P 1 8・ 121- WYA (A61H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村上 勝見  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 宮崎 基樹
井上 哲男
発明の名称 マッサージ機  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ