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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23L
管理番号 1364341
審判番号 不服2019-4334  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-03 
確定日 2020-08-04 
事件の表示 特願2015-200306「陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法およびその製造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月13日出願公開、特開2017- 70255、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成27年10月8日を出願日とする出願であって、平成30年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年8月23日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年1月9日付けで拒絶査定がされ、同年4月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成30年6月18日付けの拒絶理由通知における理由1及び理由2であり、理由1の概要は、この出願の請求項1?4、6、10?12、15に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないというものであり、理由2の概要は、この出願の請求項1?4、6、10?12、15に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、この出願の請求項5、6、10に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、この出願の請求項1?4、7?9、11?14に係る発明は、引用文献3及び引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、この出願の請求項5?9に係る発明は、引用文献3及び引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2010/098231号
引用文献2:特開平4-320670号公報
引用文献3:特開2006-137463号公報

第3 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成30年8月23日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
加圧雰囲気において、水を主成分とする第1液と、封入ガスとを接触させることにより、常温常圧における飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した封入ガス溶解液を生成する工程と、
前記第1液に比較して香気成分を高い濃度で含有する第2液と前記封入ガス溶解液とを混合して封入ガス溶解飲料水を生成する工程と、
前記封入ガス溶解飲料水をプラスチックボトルに充填して密封することにより、前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする工程とを備え、
前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程において、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない、陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項2】
前記第2液は、前記第1液に比較して前記香気成分を10倍以上高い濃度で含有する、請求項1に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項3】
前記第1液においては、糖分の含有濃度が5wt%以下である、請求項1または2に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項4】
前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程において、加熱殺菌された前記第2液を用いる、請求項1から3のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項5】
前記封入ガス溶解液を生成する工程において、除菌フィルタを通されることにより非加熱殺菌された前記第1液を用いる、請求項1から4のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項6】
前記封入ガス溶解液を生成する工程において、脱気された前記第1液を用いる、請求項1から5のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項7】
前記プラスチックボトル内を陽圧にする工程において、常温にて前記封入ガス溶解飲料水を前記プラスチックボトルに充填して密封する、請求項1から6のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項8】
前記封入ガスが窒素ガスである、請求項1から7のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項9】
前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程と前記プラスチックボトル内を陽圧にする工程との間に、前記加圧雰囲気の圧力より低い一定範囲の内圧が維持されるヘッダタンクに、前記封入ガス溶解飲料水を一時的に貯水する工程をさらに備える、請求項8に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項10】
前記封入ガスが炭酸ガスである、請求項1から7のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項11】
加圧雰囲気において、水を主成分とする第1液と、封入ガスとを接触させることにより、常温常圧における飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した封入ガス溶解液を生成するガス溶解装置と、
前記第1液に比較して香気成分を高い濃度で含有する第2液と前記ガス溶解装置にて生成された前記封入ガス溶解液とを混合して封入ガス溶解飲料水を生成するブレンダーと、
前記ブレンダーにて生成された前記封入ガス溶解飲料水をプラスチックボトルに充填して密封することにより、前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする飲料水充填装置とを備え、
前記ブレンダーにおいて、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない、陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造システム。
【請求項12】
前記第2液は、前記第1液に比較して前記香気成分を10倍以上高い濃度で含有する、請求項11に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造システム。
【請求項13】
前記封入ガスが窒素ガスである、請求項11または12に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造システム。
【請求項14】
前記ブレンダーと前記飲料水充填装置との間に接続され、前記加圧雰囲気の圧力より低い一定範囲の内圧が維持されるヘッダタンクをさらに備え、
前記ヘッダタンクは、前記ブレンダーにて生成された前記封入ガス溶解飲料水を一時的に貯水する、請求項13に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造システム。
【請求項15】
前記封入ガスが炭酸ガスである、請求項11または12に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造システム。
【請求項16】
前記飲料水充填装置は、前記封入ガス溶解飲料水を常温にて前記プラスチックボトルに充填して密封する、請求項11から15のいずれか1項に記載の陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造システム。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(国際公開第2010/098231号)には、次の事項が記載されている(下線は当審により付与した。)。
(1-1)
「[0011]・・・
[図2]本発明の他の実施形態に係る炭酸飲料の無菌充填方法を実現するための炭酸飲料無菌充填システム構成図である。」

(1-2)
「符号の説明
[0012]
1 送液タンク 2 送液ポンプ
3 加熱殺菌機 4 冷却機
5 除菌フィルタ 6 気液混合器
7 ホールディングチューブ 8 冷却用二重管又は保温材
9 冷却用ジャケット 10 貯液タンク
11 冷却用ジャケット 12 充填タンク
13 冷却用二重管 14 充填バルブ
15 容器 16 デアレーター
17 送水ポンプ 18 加熱殺菌機
19 冷却機 20 液混合器
21 供給配管 22 脱気水送液管
23 調合シロップと水との混合液 25 果汁入り炭酸飲料
26 調合シロップ 27 脱気水
30 バルブ本体 31 充填ヘッド
33 内容液供給管」

(1-3)
「[0016]
以下、本発明の実施形態に係る炭酸ガス入り内容液を非接触バルブによって無菌充填する場合について、詳細に説明する。
本発明では、炭酸ガス入り内容液の無菌充填を達成するために、非接触での充填技術の外に所望のガスボリュームの無菌炭酸ガス入り内容液を得るための内容液と炭酸ガスの無菌混合(圧入)技術、容器の無菌化技術、装置の無菌化技術が求められる。
内容液と炭酸ガスの無菌混合技術として、調合シロップと水を混合して殺菌した混合液に、除菌炭酸ガスを攪拌混合して溶解させ、飲料の規格ガスボリュームよりも高めに設定し、且つ所定温度に冷却制御した炭酸ガス入り内容液を作り、充填タンクに供給する方法(混合方法1)と、除菌炭酸ガスと殺菌済みの水を混合した無菌炭酸水に、殺菌済み調合シロップを混合して飲料の規格ガスボリュームよりも高めに設定した所定温度に制御した炭酸ガス入り内容液を作り、充填タンクに供給する方法(混合方法2)との2方法を創出した。また、他の内容液と炭酸ガスの無菌混合技術として、殺菌済み調合シロップと殺菌済みの水と除菌炭酸ガスを直接容器に供給して混合する方法も考えられる。本実施形態では、混合方法1と混合方法2を採用した場合について説明する。」

(1-4)
「[0017]
図1は、前記混合方法1を採用した場合の本発明の果汁入り炭酸飲料の無菌充填方法の実施形態に係る無菌充填システム構成図である。
図中1は、内容液を貯留する送液タンクであり、2は送液ポンプ、3は加熱殺菌機、4は冷却機、5は炭酸ガスをろ過して除菌する除菌フィルタ、6は炭酸ガスと内容液を攪拌して内容液内に炭酸ガスを溶解させる気液混合器であり、本実施形態ではスタティックミキサーを採用している。気液混合器6で炭酸ガスが溶解された炭酸ガス入り内容液は、その後貯液タンク10、充填タンク12を経て充填バルブ14にて容器15に充填されるが、その間の経路は全て保温又は冷却構造となっており、炭酸ガス入り内容液の温度上昇を防止している。それは、前述したように炭酸ガス入り内容液を噴き零れなく容器に充填するためには、炭酸ガス入り内容液の温度管理が重要な要件となるからである。そのため、気液混合器6と貯液タンク10間は、冷却用二重管又は保温材で外周面を被覆されたホールディングチューブ7で連結され、該ホールディングチューブで一定時間保持して所定温度に冷却して安定させて貯液タンク10に供給するようにし、且つ貯液タンク10と充填タンク12間、及び充填タンク12と充填バルブ14間の配管は、冷却用二重管で連結され、貯液タンク10と充填タンク12は外周面がそれぞれ冷却用ジャケット9、11で被覆され、内容液を所定温度に維持するようにしている。
[0018]
充填バルブは、炭酸ガス入り内容液でありながら、通常の無菌充填用の非接触型充填バルブを採用できるのが本発明の特徴であり、実施形態に係る非接触型充填バルブの模式図が図3に示されている。この非接触型充填バルブ14は、通常の非接触型充填バルブが採用でき、充填ヘッド31が容器口と完全に離れた状態で炭酸ガス入り内容液を充填できるようになっており、充填タンク12から内容液供給管33を介して供給される炭酸ガス入り内容液をバルブ32が間欠駆動することによって、その下方に位置する容器15に向けて流下させて所定量を非接触で充填できるようになっている。
[0019]
以上のシステム構成において、本発明は炭酸ガス入り内容液を無菌充填可能とするために、少なくとも充填バルブ14及び図示していない密封装置までは無菌室に配置され、また図示してないが、通常の例えばPETボトルへの無菌充填ラインと同様に容器供給ラインとして容器を温水又は薬剤等で殺菌して充填密封装置に供給する容器供給ライン、及び蓋供給ラインとして蓋を温水、薬剤又はUV等で殺菌して充填密封装置に供給する蓋供給ラインを有し、殺菌済み容器及び殺菌済み蓋が無菌状態を維持した状態で、無菌雰囲気内で充填密封が行なわれる。
[0020]
本実施形態では、果汁調合シロップと水とを混合した内容液23を送液タンク1に貯留し、加熱殺菌装置3として、たとえば超高温瞬間殺菌装置(UHT)により瞬間的に殺菌して、冷却機4を通過させることにより1?6℃の所定温度に冷却し、一方、気液混合器6の直前に炭酸ガスを除菌フィルタ5を通して供給配管21内に供給する。前記炭酸ガスは除菌フィルタ5を通過することによって無菌化された除菌炭酸ガスとなり、内容液と共に気液混合器6に送られ、内容液と混合され、内容液に所定のガスボリュームとなるように所定圧力で圧入されて溶解する。尚、気液混合器6は、本実施形態では装置が簡単でより無菌性維持が容易なスタティックミキサーを採用しているが、それに限るものでない。気液混合器6から下流側は、炭酸ガスが圧入した炭酸飲料から炭酸ガスの分離を抑制するように、前記したように全て保冷又は冷却構造になっており、炭酸飲料は一定温度に保温されている状態を保って、充填バルブ14に供給される。
[0021]
貯液タンク10は、充填タンク12が常に一定の液レベルを保ち、充填バルブ14に常に一定圧で供給できるように、内容液を貯留しておくためのタンクである。前記工程において、炭酸飲料は、途中で僅かながらガスの分離が生じるので、充填タンク12での炭酸飲料が前記図5のグラフで求まるような充填密封後の目標ガスボリュームよりΔqだけ高くなるように、充填タンク12までの経路のガス分離量を考慮にいれ、気液混合器でのガス圧入量を決定する。なお、充填作業に先立って、予め図5に示すデータを確保するための実験を行い、製品規格のガスボリュームを得るための充填温度と充填タンク内における炭酸ガス入り内容液のガスボリュ-ムを決定し、該ガスボリュームから気液混合器での圧入炭酸ガス量を決定する。本発明者の実験によれば、前記実施形態のシステムにおいて、貯液タンク10から充填タンク12までの送液工程では、図4に示すように炭酸ガス入り内容液の温度によらず略0.2ガスボリュームの低減があった。
[0022]
図2は、前記混合方法2を採用した場合の本発明の実施形態に係る無菌充填システム構成図である。
前記実施形態と同様な部所については同一の符号を付し、相違点のみについて説明する。本実施形態では、調合済みシロップ26を送液タンク1から送って、加熱殺菌機3で殺菌し、冷却機4で冷却し、液混合器20に送る。一方調合済みシロップと混合するための無菌炭酸水供給工程として、デアレーター16で水を脱気して脱気水27を製造し、それを調合済みシロップと同様に加熱殺菌機18で加熱殺菌し、冷却機19で冷却した脱気水27に、除菌フィルタ5で除菌した除菌炭酸ガスを脱気水送液管22に気液混合器6の直前に導入して、気液混合器6で前記脱気水と炭酸ガスを混合して所定ガスボリュームの炭酸水を得る。得られた炭酸水をホールディングチューブ7で一定時間保持冷却して調合シロップの送液管21と合流し、液混合器20で混合して所定のガスボリュームの炭酸ガス入り内容液を製造し、貯液タンク10に送る。以下、図1に示す実施形態と同様にして、充填タンクから非接触の充填バルブ14により容器15に所定量の炭酸ガス入り内容液を無菌雰囲気下で充填し、密封する。」

(1-5)
「[図2]



(2)引用文献1に記載された発明
上記記載事項(1-3)によれば、引用文献1は、内容液と炭酸ガスの無菌混合技術として、調合シロップと水を混合して殺菌した混合液に、除菌炭酸ガスを攪拌混合して溶解させ、飲料の規格ガスボリュームよりも高めに設定し、且つ所定温度に冷却制御した炭酸ガス入り内容液を作り、充填タンクに供給する方法(混合方法1)と、除菌炭酸ガスと殺菌済みの水を混合した無菌炭酸水に、殺菌済み調合シロップを混合して飲料の規格ガスボリュームよりも高めに設定した所定温度に制御した炭酸ガス入り内容液を作り、充填タンクに供給する方法(混合方法2)との2方法を創出したものである。
そして、上記記載事項(1-4)の[0017]?[0021]は、上記「混合方法1」の実施形態が記載されており、[0022]には、上記「混合方法2」の実施形態が記載されており、[0022]は、「前記実施形態」すなわち、上記「混合方法1」との相違するところのみを説明するものであることが記載されている。
[0022]では、「気液混合器6で前記脱気水と炭酸ガスを混合して所定ガスボリュームの炭酸水を得る。」と記載されているところ、脱気水と炭酸ガスの混合時の圧力については明記されていないが、上記「混合方法1」の実施形態について記載した[0020]には、「前記炭酸ガスは除菌フィルタ5を通過することによって無菌化された除菌炭酸ガスとなり、内容液と共に気液混合器6に送られ、内容液と混合され、内容液に所定のガスボリュームとなるように所定圧力で圧入されて溶解する。」と記載されていることから、上記「混合方法2」においても、脱気水と炭酸ガスの気液混合器での混合は加圧雰囲気で行われていると認められる。
また、図2は、「混合方法2」の実施形態に係る無菌充填システム構造図であるところ(上記記載事項(1-4)の[0022])、上記記載事項(1-5)の図2によれば、ホールディングチューブ7により送液される炭酸水と、送液管21により送液される調合シロップは合流した後、液混合器20に送られることが認められる。
そうすると、[0020]及び図2の記載を踏まえた、[0022]の記載によれば、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。

「加圧雰囲気において、脱気水と炭酸ガスを気液混合器で混合することにより、所定ガスボリュームの炭酸水を生成する工程と、
前記炭酸水を調合シロップと合流させた後、前記調合シロップと前記炭酸水を液混合器で混合して炭酸ガス入り内容液を製造する工程と、
前記炭酸ガス入り内容液を貯液タンクに送り、充填タンクから非接触の充填バルブにより炭酸ガス入り内容液を容器に充填し、密封する工程を備える、
容器詰め飲料の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。)

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開平4-320670号公報)には、次の事項が記載されている。
(2-1)
「【請求項1】 糖類からシロップをつくる溶解工程、このシロップに酸味料、香料等の添加物を加えて調合する調合工程、調合済みシロップに炭酸ガスあるいは炭酸水を混入する混合工程を含む炭酸飲料の製造工程において、1以上の上記工程の前段に膜脱気工程を設け、その1以上の工程に供給する製造用水として脱気水を適用することを特徴とする炭酸飲料の製造方法」

(2-2)
「【0010】
【実施例】この発明にかかる炭酸飲料の製造方法を上述のポストミックス法に適用した一実施例を図1を参照しながら、以下に説明する。
【0011】先ず、飲用水(飲料に適した水)に濾過、脱イオン等の水処理を施した(水処理工程)後、膜脱気方式等の連続脱気処理を施し、溶存酸素濃度で0.5ppm以下程度まで溶存気体を除去する(脱気処理工程)。
【0012】次いで、処理後の飲用水を加熱した状態で糖類を溶かし込み、シロップを作成する(溶解工程)。
このときの上記飲用水は、予め溶存気体を除去してあるため、糖類の溶解速度が早く、従来のように、高温度に加熱する必要はない。
【0013】上述の工程で作成したシロップを濾過して未溶分を除去した(濾過工程)後、酸味料、香料等の材料を添加し、飲料原液を得る(シロップ調合工程)。この工程を経た、シロップの温度は、上述のように従来よりも低温であり、更に、シロップ中の溶存酸素を除去してあるため、上記酸味料、香料、着色剤等の材料の変質・劣化がない。
【0014】一方では、上述脱気後の飲用水に炭酸ガスを混合し、炭酸水を作成しておく(炭酸ガス混合工程)。そうすると、飲用水自体、既に溶存気体を除去してあるため、炭酸ガスの混合が早く、比較的低圧の炭酸ガスであっても容易に飲用水中に溶け込み炭酸水を得ることができる。
【0015】続いて、上記飲料原液を冷却した(冷却工程)後、所定の容器(瓶、PETボトル)に、規定量ずつ注入する(注糖工程)。そして、この容器に炭酸水を注入し、密封した後容器全体に振動を加え、飲料原液と炭酸水とを均一に混合する。」

3 引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開2006-137463号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審により付与した。)。
(3-1)
「【請求項1】
プラスチックボトルの少なくとも内面を殺菌するボトル殺菌工程と、飲料を殺菌する内溶液殺菌工程と、該殺菌された飲料を該殺菌されたプラスチックボトルに1?40℃の温度で充填する充填工程と、飲料が充填されたプラスチックボトルを殺菌されたキャップで密封する密封工程と、密封後のプラスチックボトルの内圧を陽圧に保持するために密封前に行われるボトル内圧陽圧保持工程とを備え、前記各工程はいずれも無菌空間内で行われることを特徴とするプラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
・・・
【請求項3】
該ボトル内圧陽圧保持工程は、無菌化された窒素ガスを殺菌された飲料に過溶解させた飲料をプラスチックボトルに充填後、密封前に無菌化された液体窒素をプラスチックボトルのヘッドスペース内に充填する工程であることを特徴とする請求項1記載のプラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
【請求項4】
該ボトル内圧陽圧保持工程は、無菌化された窒素ガスを殺菌された飲料に過溶解させる工程であることを特徴とする請求項1記載のプラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
・・・
【請求項6】
プラスチックボトルの少なくとも内面を殺菌するボトル殺菌装置と、内溶液を殺菌する内溶液殺菌装置と、該殺菌された内溶液を該殺菌されたプラスチックボトルに1?40℃の温度で充填する充填装置と、飲料が充填されたプラスチックボトルを殺菌されたキャップで密封するキャッパーと、密封後のプラスチックボトルの内圧を陽圧に保持するボトル内圧陽圧保持装置とを備え、前期各装置はいずれも無菌空間内に配置されていることを特徴とするプラスチックボトル詰め飲料の製造装置。
・・・
【請求項8】
該ボトル内圧陽圧保持工程は、無菌化された窒素ガスを殺菌された飲料に過溶解させた飲料をプラスチックボトルに充填後、密封前に無菌化された液体窒素をプラスチックボトルのヘッドスペース内に充填する装置であることを特徴とする請求項6記載のプラスチックボトル詰め飲料の製造方法。
・・・」

(3-2)
「【0023】
本発明が適用される容器はPETボトルその他のポリエステルボトル等のプラスチックボトルである。また本発明が適用される飲料は、プラスチックボトルに詰めて常温流通される非炭酸飲料、たとえば清涼飲料水、ミネラルウオーター、牛乳、乳飲料等である。」

(3-3)
「【0026】
この方法を実施するための装置の1実施形態を図1に示す。この装置1は、プラスチックボトルの搬送方向に順にボトル洗浄装置2、ボトル殺菌装置3、充填装置4、キャッパー5、ウオーマー6を備える。充填装置4はキャップ殺菌装置8および内溶液を貯蔵するヘッドタンクユニット9に接続されている。ボトル殺菌装置3、充填装置4およびキャッパー5は無菌空間10内に配置されており、ボトル洗浄装置2、キャップ整列装置7およびキャップ殺菌装置8は外環境制御空間11内に配置されている。ここで外環境制御空間とは、無菌状態を所定のクラス以下とするように制御された作業室または作業室の一部を区画した空間等の外部環境を意味する。外環境制御空間としてはクラス10万以下のものが好ましく、たとえばクリーンルームも好ましい外環境制御空間である。
【0027】
外部から搬送されたボトルはまずボトル洗浄装置2によりその内外面を洗浄された後ボトル殺菌装置3に移送され、ボトルの少なくとも内面、好ましくは内外面が殺菌される。ボトルの殺菌は、たとえばボトル表面に温水を散布しまたは蒸気に当てることによりボトルの殺菌対象表面が60℃以上、好ましくは65℃以上になるようにして行うことができる。
【0028】
ボトルの殺菌を終了後ボトルは充填装置に移送され、ここでヘッドタンクユニット9内に保持された飲料がボトル内に充填される。ヘッドタンクユニット9内には1?40℃の温度範囲内の所定の温度に加温された内溶液が貯蔵されている。
【0029】
ヘッドタンクユニット9はボトル内圧陽圧保持装置13を介して飲料殺菌装置12に接続されている。ボトル内圧陽圧保持装置13は、密封後のボトルの内圧を陽圧に保持するためのボトル内圧陽圧保持工程をボトルの密封前に行うための装置で、窒素ガスを無菌化する無菌化フィルター14と窒素ガス溶解装置15によって構成されている。飲料は飲料殺菌装置12において所定の殺菌温度に加熱されて殺菌された後冷却され、ボトル内圧陽圧維持装置13の窒素ガス溶解装置15に供給される。窒素ガス溶解装置15には無菌化フィルター14を介して無菌化された窒素ガスが送られ、殺菌済みの内溶液に過溶解される。すなわち、常温以下の温度でかつ加圧下で窒素ガスを飲料に接触させることにより窒素ガスは強制的に飲料に溶解させられる。この溶解方法は、たとえば上記特許文献2等により公知であり、窒素ガス溶解装置15としては公知のカーボネーターや、配管中で窒素ガスを微細気泡化して飲料中に注入するマイクロバブル、配管中にオリフィスやベンチュリーを設け注入した窒素ガスを飲料に攪拌混合するスタティックミキサ等を使用することができる。
【0030】
しかし、ガスの封入圧はプラスチックボトルが飲料に封入された窒素ガスの気化により膨張し、圧が落ちるのでその分加味しなければならない。
【0031】
こうして窒素ガス溶解装置15において窒素ガスが溶解された内溶液はヘッドタンクユニット9から充填装置4に供給され、ボトル殺菌装置3から移送されたボトルに充填される。この時の充填温度は1?40℃の範囲内の所定の温度である。一方図示しないキャップ供給源から供給されたキャップがキャップ整列装置7を介してキャップ殺菌装置8により公知の方法で殺菌され、充填装置4に供給されて内溶液の充填した直後のボトルの口部に被せられる。
【0032】
キャップを被せられたボトルは直ちにキャッパー5に移送されボトルはキャップで密封される。この間にボトルのヘッドスペースは常圧であるので飲料中に溶解していた窒素ガスが気化して密封後のヘッドスペース内圧を陽圧にする。必要なボトルの強度を得るために適当なヘッドスペース内圧は102?301KPaである。
【0033】
密封されたボトルはウオーマー6に移送され所定の温度に加温された後製品として出荷される。」

(3-4)
「【実施例1】
【0041】
加熱滅菌した水(UHT殺菌装置にて、予熱80℃、本殺菌135℃、30秒間保持、冷却25℃)は窒素ガスを吸収させる装置を用い、フィルター濾過滅菌(材質:PTFE 0.2ミクロンフィルター、スチーム滅菌処理済)した窒素ガスを満たしたタンクの中で薄膜流下方式で吸収処理させた。処理条件はタンク容量71Lで水温25℃、圧力0.5MPaおよび、0.3MPa、毎分2L/minで処理した。なお、吸収装置内および送液配管および送ガス配管は予め、加熱滅菌しておいた。加圧吸収処理させた水は予め滅菌しておいた図5に示す500ml炭酸ガス型ボトル(平均肉厚0.2mm、満注内容量520ml)に、510ml充填(ヘッドスペース量 10ml)し、充填30秒後にキャッピングし密封後、内圧を測定したところ、下記結果となった。」

(3-5)
「【図1】



(2)引用文献3に記載された発明
上記記載事項(3-3)の【0029】には、加圧下で窒素ガスを飲料の内容液に接触させることにより、窒素ガスが過溶解された内容液を生成することが記載されている。
そして、上記記載事項(3-3)の【0031】には、窒素ガスが溶解された内容液をボトルに充填されることが記載され、【0032】には、キャップで密封されることが記載されている。
さらに、飲料中に溶解していた窒素ガスは気化して、密閉後のヘッドスペース内圧を陽圧にすることが記載されている。
また、上記記載事項(3-2)の【0023】の記載からみて、上記記載事項(3-3)における「ボトル」は、「プラスチックボトル」を意味するものである。
そうすると、引用文献3には、次の発明が記載されていると認められる。

「加圧雰囲気において、内容液と窒素ガスとを接触させることにより、窒素ガスが過溶解された内容液を生成する工程と、
前記窒素ガスが過溶解された内容液をプラスチックボトルに充填して密封することにより、前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする工程とを備えた、
陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。」(以下、「引用発明3」という。)

第5 対比・判断
1 引用文献1を主引用例とする理由1(新規性)について
(1)本願発明1について
ア 引用発明1との対比・判断
(ア)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると次のことがいえる。
・引用発明1の「脱気水」、「炭酸ガス」、「炭酸水」はそれぞれ、本願発明1の「水を主成分とする第1液」、「封入ガス」、「封入ガス溶解液」に相当するから、引用発明1の「加圧雰囲気において、脱気水と炭酸ガスを気液混合器で混合することにより、」「炭酸水を生成する工程」は、本願発明1の「加圧雰囲気において、水を主成分とする第1液と、封入ガスとを接触させることにより、」「封入ガスが溶解した封入ガス溶解液を生成する工程」に相当する。
・引用発明1の「調合シロップ」は、第1液に相当する「脱気水」とは別に用意された液体であるから、「第2液」であるといえる。また、引用発明1の「炭酸ガス入り内容液」は、本願発明1の「封入ガス溶解飲料水」に相当する。そうすると、引用発明1の「前記調合シロップと前記炭酸水を液混合器で混合して炭酸ガス入り内容液を製造する工程」は、本願発明1の「第2液と前記封入ガス溶解液とを混合して封入ガス溶解飲料水を生成する工程」に相当する。
・引用発明1における「容器」は、本願発明1の「プラスチックボトル」を含むものであるから、引用発明1の「前記炭酸ガス入り内容液を貯液タンクに送り、充填タンクから非接触の充填バルブにより炭酸ガス入り内容液を容器に充填し、密封する工程」と、本願発明1の「前記封入ガス溶解飲料水をプラスチックボトルに充填して密封する」「工程」は、「前記封入ガス溶解飲料水を容器に充填して密封する工程」である限りにおいて一致する。
・引用発明1の「容器詰め飲料の製造方法」と、本願発明1の「プラスチックボトル詰め飲料の製造方法」は、「容器詰め飲料の製造方法」である限りにおいて一致する。

そうすると、両者の間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「加圧雰囲気において、水を主成分とする第1液と、封入ガスとを接触させることにより、封入ガスが溶解した封入ガス溶解液を生成する工程と、
第2液と前記封入ガス溶解液とを混合して封入ガス溶解飲料水を生成する工程と、
前記封入ガス溶解飲料水を容器に充填して密封する工程とを備える、
容器詰め飲料の製造方法。」

(相違点1-1)
封入ガス溶解液は、本願発明1では、「常温常圧における飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した」ものであることが特定されているのに対し、引用発明1では、「所定ガスボリューム」のものである点

(相違点1-2)
本願発明1では、第2液が、「前記第1液に比較して香気成分を高い濃度で含有する」ものであることが特定されているのに対し、引用発明1では、調合シロップが脱気水に比較して香気成分を高い濃度で含有するかは不明である点

(相違点1-3)
容器が、本願発明1では、「プラスチックボトル」であることが特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がない点

(相違点1-4)
本願発明1は、前記封入ガス溶解飲料水をプラスチックボトルに充填して密封することにより、「前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする」ことが特定された、「陽圧」プラスチックボトル詰め飲料の製造方法であるのに対し、引用発明1ではそのような特定がない点

(相違点1-5)
本願発明1では、「前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程において、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」ことが特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がない点

(イ)判断
上記(ア)のとおり、相違点1-1?相違点1-5が認められ、該相違点の構成が本願出願時の技術常識を参酌しても記載されているに等しい事項であるとはいえず、実質的相違点であるから、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではない。

(2)本願発明2?10について
本願発明2?10は、本願発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2?10も、引用文献1に記載された発明ではない。

(3)本願発明11について
本願発明11は、本願発明1の製造方法に対応する、製造システムに係る発明であり、カテゴリー表現のみ異なるものであって、本願発明1と同じ「第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」という発明特定事項を有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではない。

(4)本願発明12?16について
本願発明12?16は、本願発明11の全ての発明特定事項を含むものであるから、本願発明11と同様の理由により、本願発明12?16も、引用文献1に記載された発明ではない。

(5)小括
以上のとおり、本願発明1?16は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

2 引用文献1を主引用例とする理由2(進歩性)について
(1)本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、上記1(1)ア(ア)で検討したとおりである。

(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点1-5について検討する。
引用文献1の[0022]には、炭酸水を送液するホールディングチューブ7と調合シロップを送液する送液管21が、「合流」していることが記載され、図2にも、液混合器20の前でホールディングチューブ7と送液管21が合流している配管構成が示されている。
引用文献1には、調合シロップが炭酸水に混合されるまでの圧力の状態については明記されていないが、調合シロップの送液管21と合流する地点のホールディングチューブ7では、所定ガスボリュームの炭酸水が流れていることから、液混合器20の前でホールディングチューブ7と合流している調合シロップの送液管21中に調合シロップを流すために、調合シロップがホールディングチューブ7の中を流れている炭酸水と同程度の圧力を有する加圧雰囲気に置かれているものと認められる。
そして、引用文献1には、調合シロップを炭酸水と混合するまで、脱気水に炭酸を溶解させる際の加圧雰囲気に置かれないようにすることは記載も示唆もされておらず、また、調合シロップが炭酸水と混合されるまで、脱気水に炭酸を溶解させる際の加圧雰囲気に置かれないようにするための配管構成を変更することを動機付ける記載も見当たらない。
引用文献2は、脱気水を作製するにあたり、濾過を行うことが記載されているだけであって、相違点1-5の発明特定事項を示す記載や示唆はないし、該発明特定事項のとおり引用発明1の構成を変更する動機付けの記載もない。
したがって、当業者といえども相違点1-5の構成を容易に想到することはできない。
そして、本願発明1は、「前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程において、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」ようにすることにより、第2液中の香気成分などに悪影響を与えることを抑えることができ、ひいては、飲料の風味が損なわれること及び飲料の味に変化が生じることを抑制できるという効果を奏するものであり(本願明細書【0045】及び【0068】)、この効果は、引用文献1及び2に記載された事項から当業者が予測できるものではない。

したがって、相違点1-1?相違点1-4について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2?10について
本願発明2?10は、本願発明1の全ての発明特定事項を含み、技術的にさらに限定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2?10も、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(3)本願発明11について
本願発明11は、本願発明1の製造方法に対応する、製造システムに係る発明であり、カテゴリー表現のみ異なるものであって、本願発明1と同じ「第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」という発明特定事項を有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4)本願発明12?16について
本願発明12?16は、本願発明11の全ての発明特定事項を含むものであるから、本願発明11と同様の理由により、本願発明12?16も、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、本願発明1?16は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

3 引用文献3を主引用例とする理由2(進歩性)について
(1)本願発明1について
ア 引用発明3との対比・判断
(ア)対比
本願発明1と引用発明3とを対比すると、次のことがいえる。
・引用発明3の「内容液」、「窒素ガス」は、本願発明1の「水を主成分とする第1液」、「封入ガス」に相当し、引用発明3の「過溶解」とは、飽和溶解度以上に溶解することを意味するから、引用発明3の「加圧雰囲気において、内容液と窒素ガスとを接触させることにより、窒素ガスが過溶解された内容液を生成する工程」は、本願発明1の「加圧雰囲気において、水を主成分とする第1液と、封入ガスとを接触させることにより、」「飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した封入ガス溶解液を生成する工程」に相当する。
・引用発明3の「前記窒素ガスが過溶解された内容液をプラスチックボトルに充填して密封することにより、前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする工程」は、本願発明1の「前記封入ガス溶解飲料水をプラスチックボトルに充填して密封することにより、前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする工程」に相当する。

そうすると、両者の間には、次の一致点及び相違点がある。
(一致点)
「加圧雰囲気において、水を主成分とする第1液と、封入ガスとを接触させることにより、飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した封入ガス溶解液を生成する工程と、
前記封入ガス溶解飲料水をプラスチックボトルに充填して密封することにより、前記プラスチックボトルの内部を陽圧にする工程とを備えた、
陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法。」

(相違点3-1)
「飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した封入ガス溶解液」における「飽和溶解度」が、本願発明1では、「常温常圧における」飽和溶解度であるのに対し、引用発明3ではそのような特定はない点

(相違点3-2)
本願発明1は、「前記第1液に比較して香気成分を高い濃度で含有する第2液と前記封入ガス溶解液とを混合して封入ガス溶解飲料水を生成する工程」を備えるものであるのに対し、引用発明3は、そのような工程を備えるものではない点

(相違点3-3)
本願発明1は、「前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程において、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」ことが特定されているのに対し、引用発明3はそのような特定はない点

(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点3-2及び相違点3-3を検討する。
引用文献3には、引用発明3において製造する飲料は、香気成分を含むものであることは記載されていない。
引用文献3の【0023】には、「本発明が適用される飲料は、・・・たとえば、清涼飲料水・・・」と記載されているところ、清涼飲料水に、香気成分を含ませることは本願出願時の周知技術であるため、引用発明3の飲料に単に香気成分を含ませようとすること自体は、当業者が容易に想到し得ることであるとしても、香気成分を含む飲料を、水を主成分とする第1液と、第1液に比較して香気成分を高い濃度で含有する第2液を混合して製造し、さらに、第1液は、常温常圧における飽和溶解度以上に封入ガスが溶解した封入ガス溶解液とし、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれないようにすることは、引用文献3には記載も示唆もされておらず、また、このことを動機付ける記載も見当たらない。
そして、引用文献1には、「前記封入ガス溶解飲料水を生成する工程において、前記第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」との構成が記載されておらず、また、この構成が自明な事項でもないことは、上記1及び2で説示したとおりであるから、引用発明3に引用文献1に記載された事項を適用したとしても、本願発明1の構成を導き出すことはできない。
また、引用文献2は、脱気水を作製するにあたり、濾過を行うことが記載されているだけであって、相違点3-2及び相違点3-3の発明特定事項を示す記載や示唆はないし、該発明特定事項のとおり引用発明3の構成を変更することを動機付ける記載もない。
したがって、相違点3-1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明3及び引用文献1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2?10について
本願発明2?10は、本願発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに技術的限定を加えたものであるから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2?10も、引用発明3及び引用文献1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(3)本願発明11について
本願発明11は、本願発明1の製造方法に対応する、製造システムに係る発明であり、カテゴリー表現のみ異なるものであって、本願発明1と同じ「第2液は、前記封入ガス溶解液と混合されるまで、前記第1液に前記封入ガスを溶解させる際の加圧雰囲気に置かれない」という発明特定事項を有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明3及び引用文献1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4)本願発明12?16について
本願発明12?16は、本願発明11の全ての発明特定事項を含み、さらに技術的限定を加えたものであるから、本願発明11と同様の理由により、本願発明12?16も、引用発明3及び引用文献1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、本願発明1?16は、引用発明3及び引用文献1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由1及び2によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-07-17 
出願番号 特願2015-200306(P2015-200306)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A23L)
P 1 8・ 113- WY (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 美香保山本 匡子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 安孫子 由美
冨永 みどり
発明の名称 陽圧プラスチックボトル詰め飲料の製造方法およびその製造システム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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