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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G04B
管理番号 1364454
審判番号 不服2018-14953  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-09 
確定日 2020-07-15 
事件の表示 特願2017-514949「溶接材で作られた計時器用の外側部分の部品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日国際公開、WO2015/185383、平成29年 7月 6日国内公表、特表2017-518515〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、2015年(平成27年)5月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)6月3日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年10月18日付け :拒絶理由通知書
平成30年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月21日付け :拒絶査定
(平成30年 7月10日 :査定の謄本送達日)
平成30年11月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 7月 3日付け :当審による拒絶理由通知書
令和 1年 9月20日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、令和1年9月20日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
計時器の部品(21)を製造する方法であって、
ケイ素ベースの第1の部分(3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、22、23、24、25、26、27)及び金属ベースの第2の部分(3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、22、23、24、25、26、27)を形成するステップと、
前記第1の部分の表面(28、29、30、31、32)を前記第2の部分の表面にマウントするステップと、
前記第2の部分の表面にマウントされた前記第1の部分の表面(28、29、30、31、32)を電磁放射を用いて溶接して、前記第1の部分と前記第2の部分どうしを材料を加えることなく固定するステップとを有し、
前記第1の部分及び/又は前記第2の部分は、前記計時器のホーン(3)、表盤(4、22)、フランジ、ベゼル(5)、押しボタン(6)、竜頭(7)、ケース裏側(8)、針(9)、腕輪ないしリストレット(10)、リンク(11)、留め部品、装飾(12)、アップリケ(13、23、24)、表盤の足(26、27)、巻きステム又は押しボタンステムを形成し、
前記第2の部分は、鉄合金、ニッケル又はその合金、金又はその合金、銀又はその合金、ルテニウム又はその合金、ロジウム又はその合金、又はパラジウム又はその合金を有する
ことを特徴とする方法。」


第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由のうち理由1は、概略以下のとおりである。

平成30年11月9日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開昭56-005363号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2004/0082145号明細書


第4 当審の判断
(1)引用文献、引用発明等
ア 引用文献
以下に掲げる引用文献1-4は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)より前の日を公開日とする文献である。また、該引用文献1、2は、上記「第3 当審が通知した拒絶の理由」で示した引用文献1、2であり、また、該引用文献3、4は、当審で新たに引用した文献である。

引用文献1:特開昭56-005363号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2004/0082145号明細書
引用文献3:実願昭48-024727号(実開昭49-126880
号)のマイクロフィルム(当審において新たに引用した
文献)
引用文献4:登録実用新案第3183864号公報(当審において新た
に引用した文献)

イ 引用文献1について
(ア)引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。)

a 「本発明は腕時計ケースの無機質カバーガラスと金属ケースとの接合法に関する。」(第1頁右下欄第2-3行)

b 「しかし乍ら接着剤を用いる方法では接着剤が透湿性を有し、経時に従い接着力が減少し、ついには防水性を失う欠点があった。又、接着剤を用いないパッキンをカバーガラスと金属ケースの間に嵌合させる方法に於ては、外観上パッキンが見えるためデザイン性を損うし、パッキン嵌合のためのスペースを金属ケース内に設ける必要があるから、このためデザインのスマートさを損う欠点を有する。本考案は上記欠点をなくし、デザインのスマートさと防塵、防湿機能はもとより、防水機能も合せ持つ構造を提供する事を目的とし、これを実現するため高密度パワー加工技術を応用したものである。」(第1頁右下欄第12行-第2頁左上欄第5行)

c 「以下本発明を詳述する。第1図は本発明の腕時計ケースの断面図であって、この図において1は胴で無機質カバーガラス2を装着する環状段部1aを備えている。3に環状発熱体フイルムで無機質カバーガラスの外周2aと、胴環状段部1aの間に挾着する。次にレーザービームを環状発熱体フイルム3に照射せしめ加熱昇温することにより、無機質カバーガラスの外周2aを溶融せしめる。同時に胴の環状段部1aをレーザービームの照射により溶融せしめ、前記カバーガラスの外周2aと胴の環状段部1aが隙間なく密着固定するものである。ここにおいて通常無機ガラス質は透明体のためレーザー光は透過してしまい、無機ガラス質を直接、レーザー光照射により加熱昇温せしめ溶融させることは難しいので、加熱昇温せしめて溶融させたい部分にレーザー光が透過する事なく、かつレーザー光を反射しにくい黒色の発熱体を設ける事により、レーザー光を透過する無機ガラス質を間接的に加熱昇温せしめ所望の接合部所を溶融する事が可能となった。同時に通常金属で構成される胴1の環状段部1aも環状発熱体フィルム3がレーザー光の照射により発熱するエネルギーにより、間接的に加熱昇温し溶融すると共に胴1は金属体であるから、レーザー光は透過する事なく吸収され、直接的にも発熱昇温し溶融する。」(第2頁左上欄第6行-同頁右上欄第10行)

d 「以上述べたように、本発明はレーザー光や電子ビームなど高密度パワー加工を適用させる事により所望の接合個所への発熱昇温操作により、前記接合部所を相互に溶融せしめて、隙間なく接合固定できるので、経時変化に強く、かつ防湿防塵はもとより防水性能を保持した腕時計ケースを構成する事ができる効果を有する。更には従来の無接着構造のようにパッキンを用いないから、デザインの自由度を向上せしめる効果を有する。」(第2頁左下欄第3-11行)

e 図面

(イ)上記「(ア)」から、引用文献1には、以下のことが記載されているものと認められる。

a 引用文献1に記載された発明は、腕時計ケースの無機質カバーガラスと金属ケースとの接合法に関する発明であること(上記「(ア)a」参照)。

b 腕時計ケースにおいて、金属で構成される胴1の環状段部1aに無機質カバーガラス2を装着し、無機質カバーガラス2の外周2aと、胴1の環状段部1aの間に環状発熱体フイルム3を挾着し、レーザービームを環状発熱体フイルム3に照射せしめ加熱昇温することにより、無機質カバーガラスの外周2aを溶融せしめ、胴1の環状段部1aをレーザービームの照射により溶融せしめ、無機質カバーガラス2の外周2aと胴の環状段部1aを隙間なく密着固定すること(上記「(ア)c」、「(ア)e」参照)。

c 引用文献1に記載された発明は、デザインのスマートさと防塵、防湿機能はもとより、防水機能も合せ持つ構造を提供する事を目的としており、接合部所を相互に溶融せしめて、隙間なく接合固定できるので、経時変化に強く、かつ防湿防塵はもとより防水性能を保持した腕時計ケースを構成する事ができる効果や、デザインの自由度を向上せしめる効果を有すること(上記「(ア)b」、「(ア)d」参照)。

(ウ)上記「(イ)」から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「腕時計ケースの無機質カバーガラス2と金属で構成される胴1との接合法において、金属で構成される胴1の環状段部1aに無機質カバーガラス2を装着し、無機質カバーガラス2の外周2aと、胴1の環状段部1aの間に挾着した環状発熱体フイルム3にレーザービームを照射せしめ加熱昇温することにより、無機質カバーガラス2の外周2aを溶融せしめ、胴1の環状段部1aをレーザービームの照射により溶融せしめ、無機質カバーガラス2の外周2aと胴1の環状段部1aを隙間なく密着固定する接合法。」

ウ 引用文献2について
(ア)引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。また、翻訳文は当審で作成した。)

a 「The present invention is directed to a method for joining a silicon plate to a second plate・・・」([0001])
(翻訳文:本発明は、・・・シリコンプレートを第2のプレートに接合する方法に関する。・・・)

b 「In contrast, the method ・・・ has the advantage that by using a laser beam and by hotmelting a strongly absorbent material, especially small join regions may be formed between a silicon plate and a second plate. In this way, the space required for a connection of this kind may be kept to a minimum. In addition, the method makes it possible to select from a multiplicity of materials for the second plate, i.e., the silicon plate may be joined to a second plate which is selected from a multiplicity of materials.」([0002])
(翻訳文:対照的に、・・・その方法は、レーザビームを用いて強力な吸収性を有する材料を熱溶融することによって、特に小さな結合領域がシリコンプレートと第2のプレートとの間に形成されるという利点がある。このようにして、このような結合に必要なスペースを最小限に抑えることができる。さらに、この方法は、第2のプレートのための多数の材料から選択することを可能にし、すなわち、シリコンプレートは、多数の材料から選択される第2のプレートに接合され得る。)

c 「As a further example, FIG. 3 shows the formation of the bonding region as welded region 12. Starting out from FIG. 1, the energy introduced by laser beam 3 hotmelts both second plate 2, as well as the material of silicon plate 1. The blending of the two materials in the molten state and the solidification following the cooling produce welded region 12. For second plate 2, it is intended, in particular, to use ceramic material, glass or semiconductor materials (in particular silicon) or metal. The material of second plate 2 is designed, in turn, to strongly absorb the energy from laser beam 3. In the case of silicon, this may be achieved by superficial layers (not shown here in greater detail) or by introducing suitable dopants. In this context, it is important that only a hotmelting of both the material of second plate 2, as well as of the material of silicon plate 1 occur, i.e., the two materials must be suitably adapted to one another in terms of their melting points. Moreover, the materials must be selected in a way that results in a thorough intermixing of the molten masses and a formation of a welded connection 12.」([0012])
(翻訳文:さらなる例として、図3は、溶接領域12としての接合領域の形成を示す。レーザビーム3によって導入されたエネルギーは、第2のプレート2とシリコンプレート1の材料との両方を溶融する。溶融状態の2つの材料の混合と冷却後の凝固により、溶接領域12が形成される。第2のプレート2の場合、特にセラミック材料、ガラス又は半導体材料(特にシリコン)又は金属を用いることが意図される。第2のプレート2の材料は、レーザビーム3からエネルギーを強く吸収するように設計される。シリコンの場合、これは、表面層(ここでは詳細に示されていない)によって、または、適切なドーパントを導入することによって、達成される。この場合、第2のプレート2の材料とシリコンプレート1の材料との両者の溶融が生じることが重要であり、すなわち、これら2つの材料は、それらの融点に関して相互に適切に適合されなければならなければならない。さらに、これらの材料は、溶融物の完全な混合と溶接された溶接結合部12の形成をもたらすように選択されなければならない。)

d Fig.3

(イ)上記「(ア)」から、引用文献2には、以下のことが記載されているものと認められる。

a 引用文献2に記載された発明は、シリコンプレートを第2のプレートに接合する方法に関する発明であること(上記「(ア)a」参照)。

b 引用文献2に記載された発明の方法を用いると、小さな結合領域でシリコンプレートと第2のプレートとの間を結合し、この結合に必要なスペースを最小限に抑えることができること(上記「(ア)b」参照)。

c レーザビーム3によって導入されたエネルギーによって、金属を用いた第2のプレート2とシリコンプレート1の材料との両方を溶融し、溶融状態の2つの材料の混合と冷却後の凝固により、溶接領域12を形成すること(上記「(ア)c」参照)。

d 第2のプレート2とシリコンプレート1の材料との両方を溶融し、溶融状態の2つの材料の混合と冷却後の凝固により、溶接領域12が形成されることから、第2プレート2の表面にシリコンプレート1の表面を直接接触させて、レーザービームを用いて溶接領域12を形成することが記載されているものと認められる(上記「(ア)c」、「(ア)d」参照)。

e 第2のプレート2の材料とシリコンプレート1の材料との両者の溶融が生じることが重要であり、これら2つの材料は、それらの融点に関して相互に適切に適合されなければならなければならず、溶融物の完全な混合と溶接された溶接結合部12(溶接領域12)の形成をもたらすように選択されなければならないこと(上記「(ア)c」参照)。

(ウ)上記「(イ)」から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「シリコンプレートを第2のプレートに接合する方法において、小さな結合領域でシリコンプレートと第2のプレートとの間を結合し、この結合に必要なスペースを最小限に抑えるために、金属を用いた第二プレート2の表面にシリコンプレート1の表面を直接接触させて、レーザービーム3を用いて金属を用いた第2のプレート2とシリコンプレート1の材料との両方を溶融して溶接領域12を形成する方法。」

エ 引用文献3、4について
引用文献3(特に、第3頁第8-12行、第3図参照)、及び、引用文献4(特に、【0001】、【0002】参照)に見られるように、計時器に関する技術分野において、フランジなどの各種部品をケイ素ベースの部品とする技術は、周知技術である。

(2)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「腕時計ケースの無機質カバーガラス2と金属で構成される胴1との接合法」は、「無機質カバーガラス2」と「金属で構成される胴1」とを接合して「腕時計ケース」を製造する方法を意味するから、本願発明1の「計時器の部品(21)を製造する方法」に相当する。

イ 引用発明1の「無機質カバーガラス2」、「金属で構成される胴1」は、それぞれ、本願発明1の「ケイ素ベースの第1の部分」、「金属ベースの第2の部分」に相当する。

ウ 引用発明1の接合法においては、金属で構成される胴1の環状段部1aに無機質カバーガラス2を装着する前に、無機質カバーガラス2と金属で構成される胴1を形成しておく必要があるから、引用発明1の接合法には、無機質カバーガラス2と金属で構成される胴1を形成するステップが含まれているものと認められる。それゆえ、引用発明1における該ステップは、本願発明1の「ケイ素ベースの第1の部分及び金属ベースの第2の部分を形成するステップ」に相当する。

エ 引用発明1の接合法において、「金属で構成される胴1の環状段部1aに無機質カバーガラス2を装着」するステップは、「胴1」の表面を(環状発熱体フイルム3を介して)「無機質カバーガラス2」の表面に載置するステップであるといえるから、本願発明1の「前記第1の部分の表面を前記第2の部分の表面にマウントするステップ」に相当する。

オ 引用発明1の接合法において、「無機質カバーガラス2の外周2aと、胴1の環状段部1aの間に挾着した環状発熱体フイルム3にレーザービームを照射せしめ加熱昇温することにより、無機質カバーガラス2の外周2aを溶融せしめ、胴1の環状段部1aをレーザービームの照射により溶融せしめ、無機質カバーガラス2の外周2aと胴1の環状段部1aを隙間なく密着固定する」ステップは、「金属で構成される胴1の環状段部1aに無機質カバーガラス2を装着」するステップで、「金属で構成される胴1の環状段部1aに」「装着」された「無機質カバーガラス2の外周2aを」、「レーザービームを」用いて「溶融せしめ、」「無機質カバーガラス2の外周2aと胴1の環状段部1aを隙間なく密着固定する」ステップである。
引用発明1における該ステップは、本願発明1の「前記第2の部分の表面にマウントされた前記第1の部分の表面(28、29、30、31、32)を電磁放射を用いて溶接して、前記第1の部分と前記第2の部分どうしを材料を加えることなく固定するステップ」に対して、「前記第2の部分の表面にマウントされた前記第1の部分の表面を電磁放射を用いて溶接して、前記第1の部分と前記第2の部分どうしを固定するステップ」で共通する。

してみると、本願発明1と引用発明1との間における一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「計時器の部品(21)を製造する方法であって、
ケイ素ベースの第1の部分及び金属ベースの第2の部分を形成するステップと、
前記第1の部分の表面を前記第2の部分の表面にマウントするステップと、
前記第2の部分の表面にマウントされた前記第1の部分の表面を電磁放射を用いて溶接して、前記第1の部分と前記第2の部分どうしを固定するステップとを有する
ことを特徴とする方法。」

[相違点]
[相違点1]
本願発明1は、「前記第2の部分の表面にマウントされた前記第1の部分の表面(28、29、30、31、32)をレーザータイプの電磁放射を用いて溶接して」「固定する」ことを、「前記第1の部分と前記第2の部分どうしを材料を加えることなく」行っているのに対して、引用発明1は、「金属で構成される胴1の環状段部1aに」「装着」された「無機質カバーガラス2の外周2aを」「レーザービームを」用いて「溶融せしめ、」「無機質カバーガラス2の外周2aと胴1の環状段部1aを隙間なく密着固定する」ことを、「無機質カバーガラス2の外周2aと、胴1の環状段部1aの間に」「環状発熱体フイルム3」を「挾着」して行っている点。

[相違点2]
本願発明1は、「前記第1の部分及び/又は前記第2の部分は、前記計時器のホーン(3)、表盤(4、22)、フランジ、ベゼル(5)、押しボタン(6)、竜頭(7)、ケース裏側(8)、針(9)、腕輪ないしリストレット(10)、リンク(11)、留め部品、装飾(12)、アップリケ(13、23、24)、表盤の足(26、27)、巻きステム又は押しボタンステムを形成」するのに対して、引用発明1は、本願発明1の「前記第1の部分」、「前記第2の部分」に相当する部分が、それぞれ、「無機質カバーガラス2」、「金属で構成される胴1」である点。

[相違点3]
本願発明1は、「前記第2の部分は、鉄合金、ニッケル又はその合金、金又はその合金、銀又はその合金、ルテニウム又はその合金、ロジウム又はその合金、又はパラジウム又はその合金を有する」のに対して、引用発明1は、「胴1」を「構成」する「金属」の材料が具体的に特定されていない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア)上記「(1)ウ」で述べた引用発明2は、「金属を用いた第二プレート2の表面にシリコンプレート1の表面を直接接触させて、レーザービーム3を用いて金属を用いた第2のプレート2とシリコンプレート1の材料との両方を溶融して溶接領域12を形成する」ことで、「レーザービーム3を用いて金属を用いた第2のプレート2とシリコンプレート1の材料との両方を溶融して溶接領域12を形成する」ことを、「金属を用いた第二プレート2」と「シリコンプレート1」との間に材料を加えることなく行うものである。

(イ)引用発明1、2は共に、レーザービームを用いて2つの部材を溶接により接合する方法に関する技術で共通の技術分野に属しており、引用発明2の「小さな結合領域でシリコンプレートと第2のプレートとの間を結合し、この結合に必要なスペースを最小限に抑える」という課題は、引用発明1においても内在するものである。

(ウ)以上より、引用発明1において、「金属で構成される胴1の環状段部1aに」「装着」された「無機質カバーガラス2の外周2aを溶融せしめ、」「無機質カバーガラス2の外周2aと胴1の環状段部1aを隙間なく密着固定する」構成に対して、小さな結合領域で無機質カバーガラス2と金属で構成される胴1との間を結合し、この結合に必要なスペースを最小限に抑えるために、引用発明2を採用して、上記相違点1に係る構成を設けることは、当業者にとって格別困難なことではない。

イ 相違点2について
(ア)上記「(1)エ」で述べたように、計時器に関する技術分野において、フランジなどの各種部品をケイ素ベースの部品とする技術は、周知技術である。

(イ)上記「(1)イ(イ)c」で述べたように、引用発明1は、デザインのスマートさと防塵、防湿機能はもとより、防水機能も合せ持つ構造を提供することを目的としており、経時変化に強く、かつ防湿防塵はもとより防水性能を保持した腕時計ケースを構成することができる効果や、デザインの自由度を向上せしめる効果を有するものである。

(ウ)引用発明1においては、溶接して固定する2つの部品を「胴1」と「カバーガラス2」の組み合わせとしているが、上記「(イ)」を踏まえると、デザインのスマートさ、防塵、防湿機能、防水機能などを必要とし、腕時計ケースを構成する2つの部品(すなわち、腕時計の内部を覆う外側の2つの部品(フランジ、押しボタン、竜頭などの部品))として、胴とカバーガラス以外の組み合わせとなる2つの部品を選択することは、当業者であれば容易に着想し得たことである。

(エ)上記「(ア)」、「(ウ)」より、引用発明1において、胴とケイ素ベースのフランジとの接合などについても、レーザービームの照射を利用する接合法を採用することは、当業者にとって格別困難なことではない。

ウ 相違点3について
(ア)上記「(1)ウ(イ)e」で述べたように、引用文献2には、第2のプレート2の材料とシリコンプレート1の材料との両者の溶融が生じることが重要であり、これら2つの材料は、それらの融点に関して相互に適切に適合されなければならず、溶融物の完全な混合と溶接された結合部12の形成をもたらすように選択されなければならないことが記載されている。

(イ)上記「(ア)」を踏まえると、引用発明2において、レーザービームを用いて2つの部材を溶接により接合する際の両者の材料は、当業者が、それらの融点を考慮して両者の溶融が生じる材料の中から適宜選択し得たことである。
それゆえ、引用発明1において、引用発明2を採用する際に、接合する金属材料を、「鉄合金、ニッケル又はその合金、金又はその合金、銀又はその合金、ルテニウム又はその合金、ロジウム又はその合金、又はパラジウム又はその合金」とすることは、当業者が適宜設計し得たことである。

よって、本願発明1は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、令和1年9月20日に提出された意見書において、以下のように主張している。(下線は、当審で付した。)

(ア)「本願発明は、電磁放射が、表面どうしを直接溶接することによって、接合部を実質的に目に見えなくし、これは電磁放射が、2つの部分の間の界面に直接作用するからで、本願発明によると、既に開発された時計部品を用いることができ、時計部品どうしの接合の接着が改善され、接着結合を用いる場合よりも長時間にわたって性能保証することができ、さらに、セラミックスベースの部分又はケイ素ベースの部分は、電磁放射の溶接によって、金属ベースの部分の表面にセラミックスベースの部分又はケイ素ベースの部分の表面が直接接合ないし固定され、組み立て時に壊れることを防ぐために弾性手段や塑性変形手段を有する必要はなくなる作用効果を奏し」、「また、本願発明は、腕時計製造の分野において、第1の部分及び/又は第2の部分は、計時器のホーン3、表盤4、22、フランジ、ベゼル5、押しボタン6、竜頭7、ケース裏側8、針9、腕輪ないしリストレット10、リンク11、留め部品、装飾12、アップリケ13、23、24、表盤の足26、27、巻きステム又は押しボタンステムを形成するものであり、部品同士の接合で間に材料が入らないので、小型化(弾性手段又は塑性変形手段のために付加的な体積を必要としない)できる作用効果を奏し、そして、第1の部品がケイ素ベース又はセラミックベースであり、第2の部分は、鉄合金、ニッケル又はその合金、金又はその合金、銀又はその合金、ルテニウム又はその合金、ロジウム又はその合金、又はパラジウム又はその合金を有しますので、第1と2の部分の材料間の溶接が堅牢となる作用効果を奏し、時計の小型化と時計に必要な堅牢性の両方の観点から、即効的な作用効果を奏」するものであり、「いずれの引用例にも、本願発明の第1の部分と第2の部分どうしを材料を加えることなく固定するステップであって、「前記第1の部分及び/又は前記第2の部分は、前記計時器のホーン(3)、表盤(4、22)、フランジ、ベゼル(5)、押しボタン(6)、竜頭(7)、ケース裏側(8)、針(9)、腕輪ないしリストレット(10)、リンク(11)、留め部品、装飾(12)、アップリケ(13、23、24)、表盤の足(26、27)、巻きステム又は押しボタンステムを形成し、前記第2の部分は、鉄合金、ニッケル又はその合金、金又はその合金、銀又はその合金、ルテニウム又はその合金、ロジウム又はその合金、又はパラジウム又はその合金を有すること」の点は記載されておらず、これらの相違点により、本願発明は、上記の引用例にない上述の格別な作用効果を奏するものであります。」という主張(以下、「主張A」という。)

(イ)「また、審判官殿は、引用例1に引用例2を組み合わせて本願発明を容易に発明したと認定されましたが、引用例1は、本願発明の従来例である風防に吸収層を用いて接続するものであり、引用例2のものは、主にシリコン?シリコン、シリコン?ガラスの接続であるマイクロメカニカル構造等に使用される固定方法でありますので、引用例1と2は当業者が容易に組み合わせることはできないと思われます。」という主張(以下、「主張B」という。)

イ 上記主張について検討する。
(ア)上記主張Aについて
請求人が主張するように、令和1年7月3日付けの当審による拒絶理由通知書において引用した引用文献1、2のいずれにも、「前記第2の部分の表面にマウントされた前記第1の部分の表面(28、29、30、31、32)を電磁放射を用いて溶接して、前記第1の部分と前記第2の部分どうしを材料を加えることなく固定するステップ」を有し、「前記第1の部分及び/又は前記第2の部分は、前記計時器のホーン(3)、表盤(4、22)、フランジ、ベゼル(5)、押しボタン(6)、竜頭(7)、ケース裏側(8)、針(9)、腕輪ないしリストレット(10)、リンク(11)、留め部品、装飾(12)、アップリケ(13、23、24)、表盤の足(26、27)、巻きステム又は押しボタンステムを形成し、前記第2の部分は、鉄合金、ニッケル又はその合金、金又はその合金、銀又はその合金、ルテニウム又はその合金、ロジウム又はその合金、又はパラジウム又はその合金を有すること」の点は記載されていない。
しかしながら、この点は上記「(2)」で述べた相違点1?3に対応するものであり、上記「(3)」において述べたように、引用発明1において、該相違点1?3に係る構成を設けることは、当業者にとって格別困難なことではない。
また、本願発明が奏する作用効果は、引用発明1、2が奏する作用効果の総和を超えるものではない。
よって、上記主張Aは採用できない。

(イ)上記主張Bについて
上記「(3)ア(イ)」で述べたように、引用発明1、2は共に、共通の技術分野に属しており、共通の課題を有するものであるから、引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けが存在するといえる。
よって、上記主張Bは採用できない。

したがって、請求人の主張は、採用することができない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-02-03 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2017-514949(P2017-514949)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G04B)
P 1 8・ 537- WZ (G04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 憲二  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 梶田 真也
濱野 隆
発明の名称 溶接材で作られた計時器用の外側部分の部品  
代理人 山川 茂樹  
代理人 山川 政樹  
代理人 小池 勇三  

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