• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1364645
審判番号 不服2019-1275  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-30 
確定日 2020-07-27 
事件の表示 特願2014- 57183「電気刺激装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 8日出願公開、特開2015-177927〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月19日の出願であって、平成30年1月30日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年10月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成31年1月30日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成31年1月30日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年1月30日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、補正前の請求項1の
「仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極を有すると共に、所望の電気刺激波を電極に出力する歩行促進装置本体を有し、電気刺激波としてパルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力して、歩行を促進することを特徴とする歩行促進装置。」
という記載を、
「仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極を有すると共に、所望の電気刺激波を電極に出力する装置本体を有し、電気刺激波としてパルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、脳出血、脳梗塞または急性散在性脳脊髄炎の患者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力することを特徴とする電気刺激装置。」という記載へと変更するものである(下線部は、本件補正により変更された箇所を示す。)。

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「歩行促進装置」に代えて「電気刺激装置」とする事項を含むものであるところ、一般に、腰部周辺への電気刺激は、電気の刺激により筋肉をほぐして痛みやこりを緩和させる電気治療などとして行われており、また、本願明細書の【0002】の記載を参酌しても、歩行促進以外の目的で電気刺激を与えていることが示されていることを踏まえれば、「電気刺激」は、「歩行促進」にのみ機能するものとは認めることができないから、当該「電気刺激装置」は、「歩行促進」以外を目的とする装置を含み得るものとなる。
そうすると、本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を拡張又は変更する補正事項を含むといえる。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正には、該当しない。
そして、本件補正が、特許法第17条の2第5項に規定する、請求項の削除(第1号)、誤記の訂正(第3号)、明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)(第4号)のいずれにも該当しないことは明らかである。
請求人は、審判請求書において、「歩行促進装置」を「電気刺激装置」に変更する補正は、明りょうでない記載の釈明に該当すると主張するが、「歩行促進」の意味内容は、「電気刺激」という語に置き換えることによっても、いかなる「歩行」の何を「促進」するものかは依然として明らかになっていないものであるから、請求人の上記主張は当を得たものとはいえず、採用することができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げられたいずれの事項も目的としない補正事項を含むものである。

3 補正却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年6月4日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極を有すると共に、所望の電気刺激波を電極に出力する歩行促進装置本体を有し、電気刺激波としてパルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力して、歩行を促進することを特徴とする歩行促進装置。」

第4 原査定の拒絶の理由
平成30年10月23日付け拒絶査定には「この出願については、平成30年1月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、3によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、平成30年1月30日付けで通知した拒絶理由には理由1として、本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという拒絶理由が記載されている。

第5 当審の判断
当審は、原査定の上記の理由1のとおり、本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
(1) 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載と本願明細書の記載について
ア 本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載について
本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第3のとおりのものである。

イ 本願明細書の記載について
本願明細書には、下記の記載がある(下線は当審で付与した。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、脳卒中、脊髄損傷不全麻痺、脳性麻痺、脳脊髄炎、その他の疾患で歩行が困難な患者の方々や、健常者や健常者であっても歩行機能が低下してきた方々の歩行機能の増進や改善に寄与する電気刺激を利用した歩行促進装置の分野に属する。」
「【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載される発明は、「下腹前部皮膚上に貼付する不関電極と、仙骨部正中両側の第2?第4後仙骨孔直上皮膚に貼付する2枚の関電極(刺激電極)を対向させ、所望の電気刺激波を関電極に出力することにより、骨盤内臓の機能不全及び疼痛性疾患を治療する装置」である。このものは、所望の電気刺激波を用いていることで本願発明と類似するものではあるが、あくまで「骨盤内臓機能不全・疼痛治療装置」、即ち、人体の骨盤内に納まっている器官の機能不全の治療や疼痛の緩和のために発明された装置であって、関電極と不関電極との双方を備えるものである上に、電気刺激を歩行の促進に利用する装置を教える所が全くない。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行例を見てみても、本発明と同一の発明を見いだすことはできない。また、部分手段において類似するものはあっても、歩行促進装置に着目した視点から類似するものを見いだすことができない。本発明が解決しようとする課題は、「歩行促進装置」を提供するに当たり、「電気刺激を有効に利用して、歩行が困難な患者の方々や、健常者や健常者であっても歩行機能が低下してきた方々の歩行機能の改善に寄与する」ことを第1の課題とする。そして、「かかる装置が歩行中に用いられることから、軽量小型のコンパクトなポータブル装置とすること」を第2の課題とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の歩行促進装置は、仙骨直上皮膚を連続通電で刺激して、歩行速度、歩容(歩行の仕方)、歩幅、下肢関節角度および歩行周期(一定時間での歩数)を適切に調節して歩行を効率よく促進させることにより、歩行障害者などの歩行機能を改善する歩行機能促進及び改善装置を提供するものである。電気刺激波としては、パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、歩行中連続刺激あるいは連続性間歇刺激を与えることにより、健常者に対しては歩行推進、歩行障害を有する者には歩行機能改善をもたらす刺激出力を仙骨直上皮膚に与える。なお、刺激周波数としては、パーキンソン病や多系統萎縮症でパーキンソニズムを有する者には0.5?3Hzの範囲内の刺激周波数を用い、健常者や他の疾患による歩行障害者あるいは歩行困難者には20Hzから5kHzの刺激周波数を用いて、通常は20?80ボルトで最大100ボルトの刺激出力を与える。電気刺激装置としては、充電可能なバッテリー式の低周波刺激装置を用いるが、各種電池様の電池やバッテリーの使用を排除するものでは決してない。そして、本発明に係る歩行促進装置は、電気刺激波として単極性負性矩形波又は双極性矩形波のようなデジタル波のみならず、正弦波や余弦波のようなアナログ波の使用を排除するものでは決してない。
【0006】
また、本発明に係る歩行促進装置は、仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極を有すると共に、所望の電気刺激波を電極に出力する歩行促進装置本体を有し、電気刺激波としてパルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力して、歩行を促進するように構成されてなることを特徴とする。」
「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態としては、仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極を有すると共に、所望の電気刺激波を電極に出力する歩行促進装置本体を有し、電気刺激波としてパルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズムを有する患者には0.5?3Hzの範囲内の刺激周波数を用い、健常者や他の疾患による歩行障害者又は歩行困難者には20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて電気刺激波を出力して、歩行を促進することを特徴とする歩行促進装置、とすることが出来る。
【0014】
本発明を実施するための形態としては、上記電極面には、導電性の粘着部材が施されていることを特徴とする、請求項1に記載される歩行促進装置、とすることが出来る。」
「【実施例】
【0016】
図1は、本願発明の歩行促進装置1の一例を示す図である。電源スイッチ3を接にすることにより外部電力又は内部電力が歩行促進装置本体9に供給されるようになっている。手動式刺激値設定スイッチ4により電気刺激の強弱の調整を行い、刺激周波数切替スイッチ5により0.5?3Hzあるいは20Hz?5kHzの周波数切換を中央制御装置2に指令することにより、D/A変換器を有する出力部6から電極8に電気刺激信号が配線7を介して送られるよう構成されている。電極8は、図示のように歩行促進装置本体9と配線7により接続されていてもいいし、雌雄の導電性接続具により嵌め合わされて実質的に密着状態で一体化されていても良い。
【0017】
図2は、歩行促進装置1の電極8を仙骨の中心線を挟む両側の皮膚に貼り付けた状態を示している。人間の骨盤は男女を問わず左右一対の腸骨(腸骨と恥骨と座骨を含めて寛骨と称する。)に挟まれた略逆三角形状の仙骨10とからなるのが通例である。
電極8に与える電気刺激波としては、パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、歩行中連続刺激あるいは連続性間歇刺激を与えることにより、健常者に対しては歩行増進を、歩行障害を有する者には歩行機能改善をもたらす刺激出力を仙骨直上皮膚に与えるように構成されている。また、刺激周波数は、パーキンソン病や多系統萎縮症でパーキンソニズムを有する者には0.5?3Hzの範囲内の刺激周波数を用い、健常者や他の疾患による歩行障害者あるいは歩行困難者には20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて、通常は20?80ボルトで最大100ボルトの刺激出力を与える。電気刺激装置としては、充電可能なバッテリー式の低周波刺激装置を用いるが、各種電池形状の電池あるいはバッテリーの使用を排除するものでは全くない。
仙骨10の中央線を隔てて対称に配置される一対の電極81、82は別体でも良いが1つの電極パッドに組み込まれた形式でも良い。電極8の表面には導電性の粘着部材を貼り付けるよう構成されており、粘着部材の他方の面は皮膚に貼り付く構成となっている。導電性の粘着部材は皮膚の分泌物等の付着により性能が低下するので、適宜新品と交換できるようになっている。
【0018】
このような歩行促進装置を用いた18人の被験者の電気刺激なしと電気刺激中での10m最大歩行速度の比較データを以下表1に示す。
【表1】

この表からも明らかなように、10mの走行に50.2秒を要していたナンバー16の脳出血を患った被験者の場合、本願の歩行促進装置を用いた結果、10mの走行が46.8秒で達成され、3.4秒、即ち6%の時間短縮が達成された。ナンバー18の被験者の場合は、脳梗塞を患い、10mの走行に55.6秒を要していたが、本願の歩行促進装置を用いた結果、10mの走行が45.5秒で達成され、10.1秒、即ち18%の時間短縮が達成された。ナンバー15の被験者の場合は、急性散在性脳脊髄膜炎を患い、10mの走行に47.8秒を要していたが、本願の歩行促進装置を用いた結果、10mの走行が40.8秒で達成され、7.0秒、即ち14%の時間短縮が達成された。
一方、10mの走行時間が比較的短いナンバー2の被験者においても、10mの走行に6.3秒を要していたが、本願の歩行促進装置を用いた結果、10mの走行が4.9秒で達成され、1.4秒、即ち22%の時間短縮が達成された。
これらの結果から、比較的歩行困難の度合いが大きい被験者の方が歩行促進装置を用いた場合の短縮時間の値は大きいことが伺える一方で、短縮時間を歩行促進装置を装着しない時の所要時間で除した短縮割合を見ると、10m歩行時間が比較的健常者に近いような被験者で大きな短縮割合を示す例が多く見られる傾向にあることが分かる。
【0019】 各被験者における電気刺激なしと電気刺激中での歩行時間の比較表を表2に示す。
【表2】

これらの表から、10m歩行にかかる時間の長い被験者が本願の歩行促進装置を用いた場合の歩行短縮時間が大きい傾向にあることを見て取ることができる。いずれにしても、歩行障害者あるいは歩行困難者の例で見ると、本願発明の歩行促進装置を装着することにより歩行速度の改善傾向を見て取ることができると共に、これらの平均値をグラフ化することにより改善効果が定量的に視認できることが分かる。
【0020】
次に、健常者における電気刺激なしと電気刺激中での平均歩行時間の比較表を以下、表3に示す。
【表3】

この表から、本発明の歩行促進装置を用いることにより、歩行障害を有する患者のみならず、健常者においても平均して歩行時間の短縮が図られる効果を見て取ることができる。確かに、16人の被験者の中で、ナンバー1から4の被験者では、歩行促進装置を用いることにより、むしろ歩行速度が低下していることが認められる。しかし、他の12名の被験者では改善効果が認められており、統計学的に処理すると1%の危険率で歩行時間の短縮が認められることが判明している。
【0021】健常者の各被験者における電気刺激なしと電気刺激中での歩行時間の比較表を以下、表4に示す。
【表4】

この比較表を見ると、確かに歩行速度がむしろ低下している被験者の存在が明らかである。しかし、16人の被験者の平均値を見ると歩行速度が1%の危険率で有意に増加しているので一定の増加効果が期待できることが明らかであるものと認識している。健常者には各人の永年に亘る歩行リズムが備わっているので、電気刺激の周波数と歩行リズムの整合を図ることも今後の研究課題であると考えている。」

(3) 検討
ア 本願発明が解決しようとする課題
本願発明が解決しようとする課題は、歩行促進装置を提供するに当たり、電気刺激を有効に利用して、歩行が困難な患者の方々や、健常者や健常者であっても歩行機能が低下してきた方々の歩行機能の改善に寄与することを第1の課題とし、また、かかる装置が歩行中に用いられることから、軽量小型のコンパクトなポータブル装置とすることを第2の課題としている。(【0004】)

イ 上記課題を解決するための手段として本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1において特定されている事項
本願発明は、「仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極」と「所望の電気刺激波を電極に出力する歩行促進装置本体」という装置全体の構成のほか、電気刺激波について、「パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力」することが特定されている。

ウ 本願明細書における本願発明に関する実施例等の記載
上記(2)イの【表1】には、番号、名、疾病、年齢、性別、電気刺激なしの10m最速歩行での所要時間、電気刺激ありの10m最速歩行での所要時間、所要時間差、増減率等の実験結果及びこれらを速度に変換した実験結果が示されるのみであり、また、【表3】には、番号、被験者名、性別、年齢、電気刺激前の10m最速歩行の所要時間、電気刺激中の10mの最速歩行の所要時間、所要時間差、増減率等の実験結果及びこれらを速度に変換した実験結果が示されるのみであり、それぞれの被験者にどのようなパルス幅、周波数、及び電圧の電気刺激波を与えることにより実験を行ったか等の具体的な実験条件及び方法の記載は本願明細書中には見当たらないため、【表1】及び【表3】からは、どのような電気刺激波をどのように被験者に与えたのかが一切分からず、したがって、【表1】及び【表3】で示される実験結果が何を意味するのか、十分に把握することができない。
また、「歩行機能の改善」とは、実験結果がどのようなものであれば歩行機能が改善されたといえるのかその基準が記載がされていないため、【表1】及び【表3】の実験結果からは、どの被験者の実験結果が「歩行機能の改善」がされているのか把握することはできない。
しかも、本願明細書の発明の詳細な説明の記載には、本願発明の歩行促進装置を用いて、むしろ歩行速度が低下する例が示されており(【0020】)、本願発明が課題を解決し得るものであるのかの理解を困難としている。
また、【表1】及び【表3】以外の発明の詳細な説明の記載についてみても、電気刺激波について「電気刺激波としては、パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、歩行中連続刺激あるいは連続性間歇刺激を与えることにより、健常者に対しては歩行推進、歩行障害を有する者には歩行機能改善をもたらす刺激出力を仙骨直上皮膚に与える。なお、刺激周波数としては、パーキンソン病や多系統萎縮症でパーキンソニズムを有する者には0.5?3Hzの範囲内の刺激周波数を用い、健常者や他の疾患による歩行障害者あるいは歩行困難者には20Hzから5kHzの刺激周波数を用いて、通常は20?80ボルトで最大100ボルトの刺激出力を与える。」(【0005】)、「健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力して、歩行を促進する」(【0006】)、「本発明を実施するための形態としては、仙骨中央両側の直上皮膚部に貼着する一対の電極を有すると共に、所望の電気刺激波を電極に出力する歩行促進装置本体を有し、電気刺激波としてパルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズムを有する患者には0.5?3Hzの範囲内の刺激周波数を用い、健常者や他の疾患による歩行障害者又は歩行困難者には20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて電気刺激波を出力して、歩行を促進することを特徴とする歩行促進装置、とすることが出来る。」(【0013】)、「電極8に与える電気刺激波としては、パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、歩行中連続刺激あるいは連続性間歇刺激を与えることにより、健常者に対しては歩行増進を、歩行障害を有する者には歩行機能改善をもたらす刺激出力を仙骨直上皮膚に与えるように構成されている。また、刺激周波数は、パーキンソン病や多系統萎縮症でパーキンソニズムを有する者には0.5?3Hzの範囲内の刺激周波数を用い、健常者や他の疾患による歩行障害者あるいは歩行困難者には20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて、通常は20?80ボルトで最大100ボルトの刺激出力を与える。」(【0017】)との記載はあるが、そのような特定の電気刺激波がいかなる作用機序により、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者の歩行機能の増進や改善に寄与するのかの説明はなく、また、そのようなことが本願出願時に技術常識であったとはいえない。
そうすると、請求項1において特定される電気刺激波について、「パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力」することで、本願発明が解決しようとする第1の課題が解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとはいえない。
また、電気刺激波の出力を上記のとおり特定することが本願発明の第2の課題である、「かかる装置が歩行中に用いられることから、軽量小型のコンパクトなポータブル装置とすること」の解決に寄与しないことは明らかである。

エ 請求人は、審判請求書において、【表1】、【表3】の実験について、「「電気刺激なし」の条件のときは、本願の図1に示す歩行促進装置を取り付けることなく、各被験者に歩いてもらっている。「電気刺激あり」のときは、本願の図1に示す歩行促進装置を取り付けて、電気刺激波としてパルス幅200μ秒の双極性矩形波を用い、30Hzの刺激周波数で電気刺激を行いながら、各被験者に歩いてもらっている。なお、この電気刺激波は、請求項1に記載されたパルス幅、波形の形状、刺激周波数、V数の範囲に含まれている」と主張する。
しかしながら、本願明細書には、請求人が主張するような条件で実験が行われたことは何ら記載されておらず、また、そのような条件で実験が行われるべき蓋然性も認められない。仮に、請求人が主張する条件で行われたものだとしても、実験結果がどのようなものであれば歩行機能が改善されたといえるのかの基準が示されていないため、いずれの実験結果も「歩行機能の改善」がされているのか把握することはできない。さらにいえば、たとえ請求人の主張のとおりの条件で行われた実験結果が歩行機能を改善するといえるものであったとしても、請求項1で特定される電気刺激波の範囲のすべてにおいて、本願発明が解決しようとする課題が解決できると当業者が認識できるものになるとはいえない。
したがって、本願発明に係る、「パルス幅1?500μ秒の単極性負性矩形波又は双極性矩形波を用い、健常者や、パーキンソン病や多系統萎縮症によりパーキンソニズム以外の疾患による歩行障害者又は歩行困難者に、歩行中に20Hz?5kHzの刺激周波数を用いて20?100Vの電気刺激波を出力」するとの記載は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できるものと当業者が認識できる範囲のものとはいえない。

2 小括
したがって、本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-17 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-06-08 
出願番号 特願2014-57183(P2014-57183)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 家辺 信太郎石川 薫  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 莊司 英史
和田 将彦
発明の名称 電気刺激装置  
代理人 楠 修二  
代理人 須田 篤  
代理人 楠 修二  
代理人 須田 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ