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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1364666
審判番号 不服2019-12405  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-18 
確定日 2020-07-27 
事件の表示 特願2015-554652「撮影装置、撮影方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日国際公開、WO2015/098305〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯
本件出願は、2014年(平成26年)11月6日(優先権主張2013年12月27日 日本国、2014年1月28日 日本国)を国際出願日とする出願(特願2015-554652号)であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年12月28日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月 8日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 元年 6月11日付け:拒絶査定
令和 元年 9月18日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 令和元年9月18日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和元年9月18日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の補正前の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
撮影光学系の光軸に沿って進む被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するイメージセンサ;
前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構;及び
前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動させて光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオン撮影と、前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動することなく光学的なローパスフィルタ効果を得ない状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオフ撮影と、を含む複数回の撮影を実行するブラケット撮影手段;
を有することを特徴とする撮影装置。」


(補正後の請求項1)
「【請求項1】
撮影光学系の光軸に沿って進む被写体光が光学ローパスフィルタを介さずに入射するとともに、当該被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するイメージセンサ;
前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構;及び
前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動させて光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオン撮影と、前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動することなく光学的なローパスフィルタ効果を得ない状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオフ撮影と、を含む複数回の撮影を実行するブラケット撮影手段;
を有することを特徴とする撮影装置。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明「撮影装置」の「イメージセンサ」が変換する被写体像について、「光学ローパスフィルタを介さずに入射する」被写体光によって形成されるとの限定を付加するものであって、補正前後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、次のとおりのものである。
なお、各構成の符号は説明のために当審において付与したものであり、以下、構成AないしDと称する。

(本件補正発明)
「【請求項1】
(A)撮影光学系の光軸に沿って進む被写体光が光学ローパスフィルタを介さずに入射するとともに、当該被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するイメージセンサ;
(B)前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構;及び
(C)前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動させて光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオン撮影と、前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動することなく光学的なローパスフィルタ効果を得ない状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオフ撮影と、を含む複数回の撮影を実行するブラケット撮影手段;
(D)を有することを特徴とする撮影装置。」

(2)引用文献に記載される発明及び技術
(2-1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2007-258909号公報には、「カメラ」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、可変型の光学ローパスフィルタを備えるカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラやデジタルカメラなど固体撮像素子を使用するカメラでは、レンズによって結像された像に撮像素子のサンプリング周波数と同程度以上の高周波数成分が含まれていると、モアレにより撮像画像が劣化するという現象が起こる。従来は、このようなモアレの発生を防止するために、結像された被写体像の高周波成分を減衰させる目的で光学ローパスフィルタが使用されている。また、光学材料に加える応力を可変とすることで、空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003-167123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、空間周波数特性が可変な光学ローパスフィルタを用いた場合、光学ローパスフィルタの空間周波数特性をマニュアルで適切に調整するのが難しく、撮影者の意図する画像を得るのに手間がかかるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタを備えたカメラに適用され、光学ローパスフィルタの空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影手段を備えたことを特徴とする。
…(中略)…
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光学ローパスフィルタの空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影が可能なので、撮影者の意図に沿う画像を容易に得ることができる。」
(イ)「【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明によるカメラの一実施の形態を示すブロック図であり、一眼レフ式のデジタルスチルカメラの概略構成を示したものである。図1において、1は撮影レンズ、3はクイックリターンミラー、4は光学ローパスフィルタ、5はフォーカルプレーンシャッタ、6は撮像素子、7はファインダー光学系、8は光学ローパスフィルタ4の駆動回路である。
【0008】
10は表示モニタであり、カメラ背面側から表示面を観察することができる。表示モニタ10には撮影画像や再生画像を表示したり、各種設定画面を表示したりすることができる。11はカメラ姿勢を検知する姿勢センサであり、12は各種データを記憶するための記憶部である。13は制御演算部であり、後述するブラケティング撮影制御やブラケティング撮影時の特性設定など、カメラ全体の制御や各種演算を行う。制御演算部13には、入力操作部14が接続されている。
【0009】
光学ローパスフィルタ4,フォーカルプレーンシャッタ5および撮像素子6は、それぞれ撮影レンズ1の光軸2上に配設されている。クイックリターンミラー3は、図1に示す光軸位置と不図示の光軸外位置との間を移動できるように設けられている。クイックリターンミラー3が図1のように光軸位置に配設されると、撮影レンズ1からの被写体光はクイックリターンミラー3によりファインダー光学系7へと反射される。ファインダー光学系7にはペンタプリズム71や接眼レンズ72が設けられており、接眼レンズ72を介して被写体像を観察することができる。
【0010】
一方、被写体を撮影する場合には、クイックリターンミラー3は不図示の光軸外位置に移動されるとともにフォーカルプレーンシャッタ5の開閉動作が行われ、被写体光に対して撮像素子6が所定時間露光される。この露光の際には、駆動回路8により光学ローパスフィルタ4が駆動される。すなわち、撮像素子6に入射する被写体光は、光学ローパスフィルタ4の空間周波数特性に応じて高周波成分が除去される。撮像素子6はCCDやCMOS等の固体撮像素子で構成され、複数の受光画素が2次元的に配列されている。」
(ウ)「【図1】


(エ)「【0024】
また、印加する高周波電圧の電圧値を大きくして音波の強度を大きくすると、周期的屈折率分布の振幅を大きくすることができ、逆に、電圧値を小さくすると周期的屈折率分布の振幅を小さくすることができる。その結果、図5に示すように、電圧値の大きさを変えて音波パワーを調整することにより、0次光に対するm次光の光量比、すなわち光学ローパスフィルタ4のフィルタ効果の程度を調整することができる。」
(オ)「【0029】
《ブラケティング撮影の説明》
次に、ブラケティング撮影動作について説明する。ブラケティング撮影を行う場合には、図2に示した撮影モード切替スイッチ23を操作してブラケティングモードに入る。ブラケティングモードになると、図12(a)に示すようにブラケティング撮影における撮影枚数を設定する画面が表示される。ユーザは十字型選択ボタン22の矢印キー22a,22cを操作して所望の数字を表示させ、さらに中央キー22eを押すことにより表示させた数字を撮影枚数として設定する。
【0030】
撮影枚数が設定されると、図12(b)に示すようにカメラにプリセットされている撮影パターンが表示モニタ10に表示される。なお、図12(b)では、パターン1、パターン2、パターン3のように表示されているが、例えば、「モアレ除去優先」のような各パターンの特徴が分かりやすいような名称を表示するようにしても良い。
【0031】
プリセットされている撮影パターンの例を説明する。パターン1には、なるべく高解像度であってモアレがある程度低減された画像を得たい場合に適した撮影パターンが設定されている。すなわち、印加電圧=0のローパス効果無しの状態から、図7に示すようにモアレをほぼ除去できる状態までの間で、音波パワーだけを変化させて特性を変化させたものである。
【0032】
例えば、1枚目はローパス効果無しで撮影し、2枚目は分離幅=5μm、音波パワー=0.54で撮影し、3枚目は分離幅=5μm、音波パワー=0.77で撮影し、4枚目は分離幅=5μm、音波パワー=0.91で撮影し、5枚目は分離幅=5μm、音波パワー=1.2で撮影する。この場合、分離幅を一定に保って、音波パワーを撮影毎に大きくなるように変化させる。3枚目のMTF特性は1枚目と5枚目の中間状態となるような特性に設定され、2枚目のMTF特性は1枚目と3枚目の中間状態となるような特性に設定され、4枚目のMTF特性は3枚目と5枚目の中間状態となるような特性に設定される。
…(中略)…
【0034】
図1に示した記憶部12には、このような撮影パターンが複数種類プリセットされており、ユーザは十字型選択ボタン22を操作してその中の一つを選択する。なお、撮影パターン選択後に、ブラケティング撮影に用いられる5種類のMTF特性パターンを表示モニタ10に表示するようにしても良い。ユーザは、表示されたMTF特性パターンから、どのような撮影画像が得られるかを予め予測することができる。撮影後、ユーザはブラケティング撮影された5枚の画像を大型の表示装置に表示するなどして、最適な状態で撮影された画像を選択すれば良い。」

イ 引用文献1に記載された発明
上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
なお、各構成の符号は説明のために当審において付与したものであり、以下、構成aないしhという。

(引用発明)
(a)空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタを備え、光学ローパスフィルタの空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影手段を備えたデジタルスチルカメラであって、
(b)撮影レンズ1、光学ローパスフィルタ4、撮像素子6及び光学ローパスフィルタ4の駆動回路8を備え、
(c)光学ローパスフィルタ4及び撮像素子6は、それぞれ撮影レンズ1の光軸2上に配設されており、
(d)露光の際には、駆動回路8により光学ローパスフィルタ4が駆動され、撮像素子6に入射する被写体光は、光学ローパスフィルタ4の空間周波数特性に応じて高周波成分が除去され、
(e)撮像素子6は固体撮像素子で構成され、複数の受光素子が2次元的に配列されており、
(f)印可する高周波電圧の電圧値を大きくして音波の強度を大きくすると、周期的屈折率分布の振幅を大きくすることができ、逆に、電圧値を小さくすると周期的屈折率分布の振幅を小さくすることができ、その結果、電圧値の大きさを変えて音波パワーを調整することにより、光学ローパスフィルタ4のフィルタ効果の程度を調整することができ、
(g)ブラケティングモードになると、ユーザは、所望の数字を撮影枚数として設定し、撮影枚数が設定されると、カメラにプリセットされている撮影パターンが表示され、プリセットされている撮影パターンのパターン1には、なるべく高解像度であってモアレがある程度低減された画像を得たい場合に適した撮影パターンが設定されており、すなわち、印可電圧=0のローパス効果無しの状態から、モアレをほぼ除去できる状態までの間で、音波パワーだけを変化させて特性を変化させたものであり、
(h)例えば、1枚目はローパス効果無しで撮影し、2枚目は音波パワー=0.54で撮影し、3枚目は音波パワー=0.77で撮影し、4枚目は音波パワー=0.91で撮影し、5枚目は音波パワー=1.2で撮影する、
(a)デジタルスチルカメラ。

(2-2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である特開2008-35241号公報には、「デジタルカメラ」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的ローパスフィルタを用いずにモアレを除去するデジタルカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラでは、モアレを除去するために撮像素子の前面に光学的ローパスフィルタを設けていた。しかし、光学的ローパスフィルタは高価であった。また、光学的ローパスフィルタを用いることにより解像力およびコントラストの低下した画像となることがあり、光学的ローパスフィルタは着脱自在であることが望まれていたが、機構が複雑化することが問題であった。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明では、光学的ローパスフィルタを用いずにモアレを十分に除去し、かつ簡潔な機構で動く被写体を鮮明に撮影可能なデジタルカメラの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1のデジタルカメラは、受光面に2次元状に複数の画素が配列され、受光する被写体像に応じた画像信号を生成する撮像素子と、撮像素子が1フレームの画像信号を生成するための受光期間に受光面に平行な平面に沿って撮像素子を所定の第1の経路で移動させる撮像素子移動ユニットとを備えることを特徴としている。」
(ウ)「【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光学的ローパスフィルタを用いずに画素に入射する光線を相対的に分散させることが可能となる。したがって、モアレの除去が可能になる。」
(エ)「【0039】
前述のように、モアレ除去機能をONにしているとき、撮像素子移動ユニット20は、撮像素子12を第1の経路に沿って移動させる。第1の経路は、第1、第2の方向に平行な平面上の経路であり、図3に示すように、撮像素子12の隣合う4つの画素12pの中心を同じ光線が通過するように、隣合う画素間の距離の√2/2を半径とする円状の経路であって、始点と終点が一致する。
…(中略)…
【0042】
なお、第1の経路を、第2、第3の経路に変更させることも可能である。第2の経路は、図4に示すように、隣合う画素12p間の距離の1/2を半径とする円状の経路であり、始点と終点が一致する。すなわち、第1、第2の方向に沿った移動量が隣合う画素12p間の距離に一致する。第2の経路に沿って移動させる場合は、第1の経路に比べて、モアレや偽色信号の抑制効果が劣るが、解像度の低下が少なく、周回距離が短く、より安価なアクチュエータの利用が可能であり、また周回周波数を高速化可能となる。」
(オ)「【0068】
また、解像度の低下を防止するためにモアレ除去機能をOFFにすることを、簡易な機構で実現することが可能である。したがって、光学的ローパスフィルタを用いる場合に生じる着脱時のゴミの混入の問題や故障の発生を生じることが無い。」

イ 引用文献2に記載された周知課題
上記ア(ア)から、引用文献2には、以下の記載事項(以下、「文献2周知課題」という。)が記載されている。

(文献2周知課題)
「従来、デジタルカメラでは、モアレを除去するために撮像素子の前面に光学的ローパスフィルタを設けていた。しかし、光学的ローパスフィルタは高価であった。また、光学的ローパスフィルタを用いることにより解像力およびコントラストの低下した画像となることがあり、光学的ローパスフィルタは着脱自在であることが望まれていたが、機構が複雑化することが問題であった。」

ウ 引用文献2に記載された技術
上記ア(イ)?(オ)から、引用文献2は、以下の技術(以下、「文献2技術」という。)が記載されている。

(文献2技術)
「第1のデジタルカメラは、受光面に2次元状に複数の画素が配列され、受光する被写体像に応じた画像信号を生成する撮像素子と、撮像素子が1フレームの画像信号を生成するための受光期間に受光面に平行な平面に沿って撮像素子を所定の第1の経路で移動させる撮像素子移動ユニットとを備え、
光学的ローパスフィルタを用いずに画素に入射する光線を相対的に分散させることが可能となる。したがって、モアレの除去が可能になり、
モアレ除去機能をONにしているとき、撮像素子移動ユニット20は、撮像素子12を第1の経路に沿って移動させ、
第1の経路を、第2、第3の経路に変更させることも可能であり、
第2の経路に沿って移動させる場合は、第1の経路に比べて、モアレや偽色信号の抑制効果が劣るが、解像度の低下が少なく、周回距離が短く、より安価なアクチュエータの利用が可能であり、また周回周波数を高速化可能となり、
また、解像度の低下を防止するためにモアレ除去機能をOFFにすることを、簡易な機構で実現することが可能である、
技術。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 本件補正発明の構成Aについて
構成a及びbによれば、引用発明は、撮像素子6を備えたデジタルスチルカメラであって、構成c及びdによれば、該撮像素子6には、撮影レンズ1の光軸2上に沿って進む被写体光が入射する。また、該撮像素子6が、被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するものであるのは明らかである。
したがって、引用発明は、撮像レンズ1(本件補正発明の「撮像光学系」に相当。)の光軸に沿って進む被写体光が入射するとともに、当該被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換する撮像素子6(本件補正発明の「イメージセンサ」に相当。)を備えるといえる。
よって、本件補正発明と引用発明とは、「(A’)撮影光学系の光軸に沿って進む被写体光が入射するとともに、当該被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するイメージセンサ」を有する点で共通する。
しかしながら、イメージセンサに入射する被写体光が、本件補正発明は、「光学ローパスフィルタを介さずに入射する」のに対し、引用発明は、光学ローパスフィルタ4を介して入射する点で、両者は相違する。

イ 本件補正発明の構成Bについて
本件補正発明と引用発明とは、本件補正発明は「前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構」(構成B)を有するのに対して、引用発明はそのような構成を有しない点で相違する。

ウ 本件補正発明の構成Cについて
構成g及びhによれば、引用発明は、ブラケティングモードにおいて、例えば5枚の撮影を行うものであって、1枚目はローパス効果無しで撮影し、2枚目は音波パワー=0.54で撮影し、3枚目は音波パワー=0.77で撮影し、4枚目は音波パワー=0.91で撮影し、5枚目は音波パワー=1.2で撮影するのであるから、少なくとも2ないし5枚目の撮影においては、光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で撮影を行うものである。
したがって、引用発明は、光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で撮像素子6による画像信号を得る撮影(本件補正発明の「LPFオン撮影」に一部相当。)を含む複数回の撮影を実行するブラケティング撮影手段(本件補正発明の「ブラケット撮影手段」に一部相当。)を有するといえる。
よって、本件補正発明と引用発明とは、「(C’)光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオン撮影を含む複数回の撮影を実行するブラケット撮影手段」を有する点で共通する。
しかしながら、LPFオン撮影における光学的なローパスフィルタ効果について、本件補正発明のブラケット撮影手段による複数回の撮影に含まれるLPFオン撮影は、「前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動させて光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得る」のに対して、引用発明は、複数回の撮影のいずれにおいても、そのような構成によって光学的なローパスフィルタ効果を得ていない点で相違する。
また、本件補正発明と引用発明とは、本件補正発明のブラケット撮影手段による複数回の撮影には、「前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動することなく光学的なローパスフィルタ効果を得ない状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオフ撮影」が含まれるのに対して、引用発明の複数回の撮影には、そのような撮影が含まれない点で相違する。

エ 本件補正発明の構成Dについて
構成aによれば、引用発明はデジタルスチルカメラであり、撮影装置の下位概念に当たることから、本件補正発明の「撮影装置」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明とは、「撮影装置」である点で共通する。

オ まとめ
以上をまとめると、本件補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は、以下のとおりである。

[一致点]
(A’)撮影光学系の光軸に沿って進む被写体光が入射するとともに、当該被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するイメージセンサ;及び
(C’)光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得る撮影を含む複数回の撮影を実行するブラケット撮影手段と;
(D)を有することを特徴とする撮影装置。

[相違点1]
イメージセンサに入射する被写体光が、本件補正発明は、「光学ローパスフィルタを介さずに入射する」のに対し、引用発明は、光学ローパスフィルタ4を介して入射する点。

[相違点2]
本件補正発明は、「前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構」(構成B)を有するのに対して、引用発明はそのような構成を有しない点。

[相違点3-1]
LPFオン撮影における光学的なローパスフィルタ効果について、本件補正発明のブラケット撮影手段による複数回の撮影に含まれるLPFオン撮影は、「前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動させて光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得る」のに対して、引用発明は、複数回の撮影のいずれにおいても、そのような構成によって光学的なローパスフィルタ効果を得ていない点。

[相違点3-2]
本件補正発明のブラケット撮影手段による複数回の撮影には、「前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動することなく光学的なローパスフィルタ効果を得ない状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオフ撮影」が含まれるのに対して、引用発明の複数回の撮影には、そのような撮影が含まれない点。

(4)判断
ア 相違点1及び2について
引用発明は、光学ローパスフィルタを備えたデジタルスチルカメラ(構成a)である。
ここで、当業者であれば、光学ローパスフィルタ(光学的ローパスフィルタと同義)を備えた引用発明が文献2周知課題を有していることは、当然に理解し得ることである。
文献2技術の撮像素子移動ユニットについて検討すると、文献2技術の「撮像素子が1フレームの画像信号を生成するための受光期間に受光面に平行な平面に沿って撮像素子を所定の第1の経路で移動させる撮像素子移動ユニット」は、本件補正発明の構成Bに相当する。
そして、引用発明において、文献2周知課題を解決すべく、光学ローパスフィルタの代わりに、文献2技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると、引用発明に文献2技術を適用して、「前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構」を備え、光学ローパスフィルタを用いずに画素に入射する光線を相対的に分散させ、モアレの除去を可能とすること、すなわち、上記相違点1及び2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点3-1及び3-2について
引用発明は、複数回撮影を行うブラケティング撮影手段(構成a)を備え、光学ローパスフィルタ4のフィルタ効果の程度を調整することができ(構成f)、なるべく高解像度であってモアレがある程度低減された画像を得たい場合、印可電圧=0のローパス効果無しの状態から、モアレをほぼ除去できる状態までの間で、音波パワーだけを変化させて特性を変化させて(構成g)撮影を行うものであるから、トレードオフとなる解像度とモアレ低減とを所望の程度にした画像を得るために、光学ローパスフィルタ4のフィルタ効果の程度を調整可能な最大範囲で異ならせて複数回撮影を行うものと理解できる。
文献2技術のモアレ除去機能について検討すると、文献2技術は、モアレ除去機能をONにしているとき、撮像素子12を第1の経路に沿って移動させ、第1の経路を第2の経路に変更させることも可能であり、第2の経路に沿って移動させる場合は、第1の経路に比べて、モアレや偽色信号の抑制効果が劣るが、解像度の低下が少なく、かつ、解像度の低下を防止するためにモアレ除去機能をOFFにすることを簡易な機構で実現することが可能な技術である。
そうすると、引用発明に、上記アのとおり引用文献2に記載の上記技術を採用する際に、複数回撮影を行うブラケティング撮影における、所望の画像を得るためのフィルタ効果の程度の調整範囲を、調整可能な最小(文献2技術におけるモアレ除去機能OFFとした設定)から最大の範囲(文献2技術における撮像素子12を第1の経路に沿って移動させる設定)、すなわち、光学的なローパスフィルタ効果がない状態から効果が最大の状態までの範囲とすること(上記相違点3-1及び3-2に係る本件補正発明の発明特定事項とすること)は、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の構成は、上記ア及びイにおいて検討したとおり、当業者が容易に想到できたものであるところ、本件補正発明が奏する効果は、その容易想到し得た構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された周知課題及び技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6) 補正の適否のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年9月18日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年3月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

(本願発明)
「【請求項1】
撮影光学系の光軸に沿って進む被写体光により形成された被写体像を電気的な画像信号に変換するイメージセンサ;
前記撮影光学系の少なくとも一部をなすレンズと前記イメージセンサの少なくとも一方を移動部材とし、この移動部材を前記撮影光学系の光軸と異なる方向にLPF駆動することにより、被写体光束を前記イメージセンサの複数の画素に入射させて、光学的なローパスフィルタ効果を得る駆動機構;及び
前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動させて光学的なローパスフィルタ効果を得た状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオン撮影と、前記駆動機構により前記移動部材をLPF駆動することなく光学的なローパスフィルタ効果を得ない状態で前記イメージセンサによる画像信号を得るLPFオフ撮影と、を含む複数回の撮影を実行するブラケット撮影手段;
を有することを特徴とする撮影装置。」

2 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2、2(2-1)イ「引用文献1に記載された発明」にて認定したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の補正事項(上記第2、1の(補正後の請求項1)の下線部)の限定を省いたものである。そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が上記第2、2(4)「判断」における相違点2ないし3-2についての検討のとおり、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された周知課題及び技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された周知課題及び技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された周知課題及び技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-05-14 
結審通知日 2020-05-19 
審決日 2020-06-02 
出願番号 特願2015-554652(P2015-554652)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03B)
P 1 8・ 121- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大西 宏  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 樫本 剛
間宮 嘉誉
発明の名称 撮影装置、撮影方法及びプログラム  
代理人 青木 宏義  
代理人 三浦 邦夫  
代理人 三浦 邦陽  

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