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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1364689
審判番号 不服2019-14883  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-06 
確定日 2020-08-18 
事件の表示 特願2018- 39494「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月19日出願公開、特開2018-113459、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年3月31日に出願された特願2011-78585号(優先権主張 平成22年4月2日)の一部を平成27年4月6日に新たな特許出願とした特願2015-77463号の一部を平成29年1月9日に新たな特許出願とした特願2017-1515号の一部を平成30年3月6日に新たな特許出願としたものであって,その手続きの経緯は以下のとおりである。

平成30年12月21日付け:拒絶理由通知
平成31年3月1日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年4月26日付け :最後の拒絶理由通知
令和元年7月10日 :意見書及び手続補正書の提出
令和元年7月31日付け :補正却下(令和元年7月10日提出の手続補正書)及び拒絶査定
令和元年11月6日 :審判請求書及び手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和元年7月31日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?2に係る発明は,以下の引用例1?4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであり,本願の請求項3?4に係る発明は,以下の引用例1?5に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(理由1),というものであり,さらに,本願の請求項3?4の記載は明確でない(理由2),というものである。

引用例一覧
1.特開2010-016347号公報
2.特開2010-067954号公報
3.特開2009-212520号公報
4.特開2005-033172号公報
5.特開2009-231613号公報


第3 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は,令和元年11月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
インジウムとガリウムと亜鉛と酸素を有する酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜上のゲート電極と,
前記ゲート電極と前記酸化物半導体膜との間のゲート絶縁膜と,
前記酸化物半導体膜上のソース電極及びドレイン電極と,
前記酸化物半導体膜の下面と接する金属酸化物膜と,
前記金属酸化物膜の下面と接する絶縁膜と,を有し,
前記酸化物半導体膜は,前記ゲート絶縁膜と接する領域を有し,
前記酸化物半導体膜及び前記ゲート絶縁膜は,前記ゲート電極と前記金属酸化物膜とに挟まれ,
前記絶縁膜は,窒化シリコンを有し,
前記金属酸化物膜は,ガリウムと酸素を有し,
前記金属酸化物膜のエネルギーギャップは,前記酸化物半導体膜のエネルギーギャップよりも大きいことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
インジウムとガリウムと亜鉛と酸素を有する酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜上のゲート電極と,
前記ゲート電極と前記酸化物半導体膜との間のゲート絶縁膜と,
前記酸化物半導体膜上のソース電極及びドレイン電極と,
前記酸化物半導体膜の下面と接する金属酸化物膜と,
前記金属酸化物膜の下面と接する絶縁膜と,を有し,
前記酸化物半導体膜は,前記ゲート絶縁膜と接する領域を有し,
前記酸化物半導体膜及び前記ゲート絶縁膜は,前記ゲート電極と前記金属酸化物膜とに挟まれ,
前記絶縁膜は,窒化シリコンを有し,
前記金属酸化物膜は,GaOxを有し,
前記金属酸化物膜のエネルギーギャップは,前記酸化物半導体膜のエネルギーギャップよりも大きいことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において,
前記金属酸化物膜は,0原子%を超えて20原子%以下の濃度の不純物元素を含むことを特徴とする半導体装置。」


第4 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には,図2とともに次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同じ。)

「【0023】
図2は,本発明の第2実施形態に係る薄膜トランジスタを説明する断面図であって,上部ゲート構造の他の例を示す。
【0024】
基板20上にバッファ層21が形成され,バッファ層21上にソース電極22a及びドレイン電極22bが形成される。ソース電極22a及びドレイン電極22bを含む基板20上には界面安定化層23及び酸化物半導体からなる活性層24が順次形成される。活性層24を含む上部にはゲート絶縁層25が形成され,活性層24上部のゲート絶縁層25上にはゲート電極26が形成される。」

「【0027】
前記実施形態において,活性層13,24,34は両側部がソース電極12a,22a,32a及びドレイン電極12b,22b,32bと一部重なり,チャネル領域がゲート電極16,26,37と重なるように配置される。活性層13,24,34を構成する酸化物半導体は,酸化亜鉛(ZnO)を含み,ガリウム(Ga),インジウム(In),錫(Sn),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),カドミウム(Cd),銀(Ag),銅(Cu),ゲルマニウム(Ge),ガドリニウム(Gd)及びバナジウム(V)のうちの少なくとも1つのイオンがドーピングされ得る。活性層13,24,34は,例えば,ZnO,ZnGaO,ZnInO,ZnSnO,GaInZnO,CdO,InO,GaO,SnO,AgO,CuO,GeO,GdO,HfOなどで形成される。
【0028】
界面安定化層14,23,33,35は,活性層13,24,34と同等であるか,活性層13,24,34より大きいバンドギャップ,例えば,3.0?8.0eVのバンドギャップを有する酸化物であって,SiOx,SiN,SiOxNy,SiOxCy,SiOxCyHz,SiOxFy,GeOx,GdOx,AlOx,GaOx,SbO,ZrOx,HfOx,TaOx,YOx,VOx,MgOx,CaOx,BaOx,SrOx及びSOG(spin on glass)からなる群より選択されることができる。
【0029】
図1?図3に示すように,本発明の薄膜トランジスタは,活性層13,24,34の一面又は両面に界面安定化層14,23,33,35が備えられる。界面安定化層14,23,33,35は,3.0?8.0eVのバンドギャップを有する酸化物からなる。界面安定化層14,23,33,35のバンドギャップが活性層13,24,34のバンドギャップ,例えば,3.0eVより小さければ電荷が容易に抜け出すため,チャネルのキャリアを効果的に利用できなくなり,バンドギャップが8.0eVより大きくなれば,高い絶縁特性により電気的特性が低下する。酸化物を含む界面安定化層14,23,33,35は,ゲート絶縁層15,25,36及び保護層(図示せず)と同質性を有するため,化学的に高い界面安全性を維持し,活性層13,24,34と同等であるか,活性層13,24,34より大きいバンドギャップを有するため,物理的に電荷トラップを抑止する。
【0030】
電荷トラップの抑止効果を高めるためには,界面安定化層14,23,33,35の水素濃度を10^(+19)/cm^(3)以下に調節することが好ましい。界面安定化層14,23,33,35の水素濃度が10^(+19)/cm^(3)より高ければ,水素が活性層13,24,34の表面部に侵入(拡散)してトラップとして作用するため,活性層13,24,34の電気的特性が低下し得る。界面安定化層14,23,33,35の水素濃度を10^(+19)/cm^(3)以下に調節するためには,化学蒸着方法よりはスパッタリング蒸着方法のような物理蒸着方法を利用することが好ましい。
【0031】
また,本発明の界面安定化層14,23,33,35は,チャネル領域の活性層13,24,34を保護すると同時に後続する熱処理過程でキュアリング(curing)効果を高めるため,活性層13,24,34の被害を回復させる役割もする。
【0032】
活性層24,34と,ソース電極22a,32a及びドレイン電極22b,32bとの間に介在される界面安定化層23及び33は,ソース電極22a,32a及びドレイン電極22b,32bと活性層13,24,34の接触抵抗が低く維持されるように100Å以下の厚さ,好ましくは10?20Åの厚さで形成されることが好ましい。そして,活性層13,34上部面の界面安定化層14,35は,活性層13,34を十分に保護し,界面安全性を維持できるように50?5000Åの厚さで形成されることが好ましい。」

「【0034】
まず,図4aに示すように,基板30上にMo,MoW,Al,AlAd,AlLiLaなどで導電層を形成した後,パターニングしてソース電極32a及びドレイン電極32bを形成する。このとき,不純物の拡散などを防止するために,基板30上にバッファ層31を形成し,バッファ層31上にソース電極32a及びドレイン電極32bを形成できる。基板30としては,シリコン(Si)などの半導体基板,ガラスやプラスチックなどの絶縁基板又は金属基板を用いることができる。」

引用例1の図2として,次の図面が示されている。


(2)摘記の整理と引用発明
以上の摘記を整理すると,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。
・酸化物半導体からなる活性層24の上部にゲート絶縁層25が形成され,活性層24上部のゲート絶縁層25上にはゲート電極26が形成されること。(段落[0022]及び図2)
・酸化物半導体からなる活性層24の下面に接して界面安定化層23が形成され,界面安定化層23下にソース電極22a及びドレイン電極22bが形成され,界面安定化層23,ソース電極22a及びドレイン電極22bの下面に接して,バッファ層21が形成されること。(段落[0022]及び図2)
・酸化物半導体からなる活性層24が,GaInZnOから形成されること。(段落[0027])
・界面安定化層23がGaOxから形成されること。(段落[0028])
・界面安定化層23が,活性層24よりも大きいバンドギャップを有すること。(段落[0028],[0029])

上記によれば,上記引用例1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「GaInZnOから形成される活性層24と,
前記活性層24上部のゲート絶縁膜25と,
前記活性層24上部のゲート絶縁膜25上のゲート電極26と,
前記活性層24の下面と接する界面安定化層23と,
前記界面安定化層23下のソース電極22a及びドレイン電極22bと,
前記界面安定化層23,前記ソース電極22a及び前記ドレイン電極22bの下面に接するバッファ層21と,を有し,
前記界面安定化層23はGaOxから形成され,
前記界面安定化層23のバンドギャップは,前記活性層24のバンドギャップよりも大きい,
薄膜トランジスタ。」

2.引用例2?4について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例2には,図2とともに次の記載がある。
「【0063】
実施例1及び比較例1?4
1.TFT素子の作製
(実施例1)
本発明のTFT素子1の作製
下記により図2の構成のTFT素子1を作製した。
・基板21:厚さ125μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フイルムを用いた。
・絶縁層26:SiONを500nmの厚みにスパッタリング蒸着法により蒸着した。
・ゲート電極22:厚さ40nmのモリブデン層をスパッタリング蒸着法により成膜し,フォトリソグラフィー法およびエッチングによりストライプ状のゲート電極を形成した。
・ゲート絶縁膜23:アクリル樹脂をスピンコートした後,焼成して0.5μm厚のゲート絶縁膜23を形成した。
【0064】
・中間層7:ゲート絶縁膜23上に,SiO_(2)を,メタルマスクを介して室温でスパッタリング蒸着法により成膜し,厚さ20nmの中間層7を形成した。
【0065】
・ソース電極5-21,ドレイン電極5-22:中間層7の上に,酸化亜鉛インジウム(出光興産)をターゲットとして,室温でRFスパッタリング法によって,厚さ200nmでベタ状に成膜し,次にフォトリソグラフィー法およびエッチングにより,ゲート電極と直交するストライプ状酸化亜鉛インジウム電極に加工した(この段階ではソースドレイン電極は分離されていない)。次に,前記ストライプ状酸化亜鉛インジウム電極の上にネガレジストを塗布し,基板側から露光してレジストを固め,シュウ酸をエッチング液として,エッチングを行った。この結果,ソース電極5?21とドレイン電極5?22が,ゲート電極に対して自己整合的に形成された。
【0066】
・第1界面層261:中間層7上および,ソース電極5-21,ドレイン電極5-22の上に,InGaZnO_(4)(IGZOと略記する)の組成を有するターゲットを使い,酸素導入RFマグネトロンスパッタ法により,IGZOを,メタルマスクを介して室温成膜し,厚さ0.7nmの第1界面層261を形成した。
【0067】
・活性層24:第1界面層261の上に,10質量%ZnOを含有するIn_(3)O_(2)(IZOと略記する)の組成を有するターゲットを使い,酸素導入RFマグネトロンスパッタ法により,IZOを,メタルマスクを介して室温成膜し,厚さ10nmの活性層24を形成した。
【0068】
・第2界面層262:活性層24の上に,IGZOの組成を有するターゲットを使い,酸素導入RFマグネトロンスパッタ法により,IGZOを,メタルマスクを介して室温成膜し,厚さ40nmの第2界面層262を形成した。」

引用例2の図2として以下の図が示されている。

以上によれば,引用例2には次の事項が開示されているといえる。
・基板上に形成されたSiON絶縁膜と,その上に形成された活性層24を有するTFT。

(2)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例3には,図1とともに次の記載がある。
「【0019】
本発明による薄膜トランジスタは、12CaO・7Al_(2)O_(3)(C12A7)で形成された非晶質膜のチャンネル層を備える。前記チャンネル層を備えた本発明による薄膜トランジスタの一具現例は、図1に示されている。
【0020】
図1において,基板11には,BaTiO_(3),LaAlO_(3),MgOなどの金属酸化物,SUS基板,ガラス基板またはプラスチック基板が使われる。前記基板の上部には,SiOxなどで形成されたバッファ層11´が形成される。このバッファ層11’は省略されてもよい。前記バッファ層上に形成されたゲート電極12は,Au,Ag,Cu,Ni,Pt,Pd,Al,Mo,Nd,W,ITO及びIZOからなる群から選択された一つ以上の金属または合金で形成されるが,これらに限定されるものではない。前記金属のうち二つ以上の金属の合金で形成されることも可能である。絶縁層13は,前記ゲート電極を覆うように形成されている。前記絶縁層13の上部には,ソース及びドレイン電極14a及び14bがそれぞれ形成されている。このソース及びドレイン電極14a及び14bは,図1に示すように,一定部分のゲート電極12と重なるようにするが,必ずしもこれに限定されるものではない。前記ソース及びドレイン電極14a及び14bは,例えば,Au,Pd,Pt,Ni,Rh,Ru,Ir,Os,ITO,Mo,MoW,IZO,Al及びTiからなる群から選択された一つ以上の金属または合金で形成されるが,これらに限定されるものではない。前記金属のうち二つ以上の金属の合金も使用可能である。前記ソース及びドレイン電極14a及び14bの間には,ソース/ドレイン領域を電気的に連結するチャンネル層15が形成される。一方,図1には,チャンネル層15がソース及びドレイン電極14a及び14bの下部に形成されているが,チャンネル層15がソース及びドレイン電極14a及び14bの上部に形成されてもよい。」

引用例3の図1として,以下の図が示されている。

以上によれば,引用例3には次の事項が記載されているといえる。
・基板の上部にSiOxなどで形成されたバッファ層11‘と,その上に形成されたチャネル層15を有する薄膜トランジスタ。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例4には,図6とともに次の記載がある。
「【0060】
図6(a)ないし(c)に示すように,半導体装置としての薄膜トランジスタ11は,絶縁性基板12上に形成された下地絶縁層13上にソース電極14とドレイン電極15が間隔をおいて形成され,それらの上に半導体層16,ゲート絶縁層17,ゲート電極18が順次積層され,さらに半導体層16,ゲート絶縁層17およびゲート電極18を覆う保護層19が形成され,スタガ型の構造を成している。この薄膜トランジスタ11において,半導体層16,ゲート絶縁層17およびゲート電極18は,同じ形状(図6(a)に示す半導体層16の形状)にパターンニングされて積層されている。
【0061】
この薄膜トランジスタ11が表示装置(例えば,実施形態4のアクティブマトリクス型液晶表示装置)に用いられる場合は,ドレイン電極15が絵素電極に接続されるか,もしくはドレイン電極15と絵素電極とが透明導電膜で一体的に形成される。
【0062】
下地絶縁層13は,絶縁物としてのSiO_(2),Al_(2)O_(3),AlN,MgO,Ta_(2)O_(5),TiO_(2),ZrO_(2),stab?ZrO_(2),CeO_(2),K_(2)O,Li_(2)O,Na_(2)O,Rb_(2)O,In_(2)O_(3),La_(2)O_(3),Sc_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),KNbO_(3),KTaO_(3),BaTiO_(3),CaSnO_(3),CaZrO_(3),CdSnO_(3),SrHfO_(3),SrSnO_(3),SrTiO_(3),YScO_(3),CaHfO_(3),MgCeO_(3),SrCeO_(3),BaCeO_(3),SrZrO_(3),BaZrO_(3),LiGaO_(2),LiGaO_(2)の混晶系(Li_(1-(x+y))Na_(x)K_(y))(Ga_(1-z)Al_(z))O_(2)またはこれらのうち少なくとも2つを含む固溶体を用いて形成されている。この下地絶縁層13は,半導体層16の下端面におけるソース電極14およびドレイン電極15と界面を形成する領域以外の領域と界面を形成している。」

引用例4の図6(b)として以下の図が示されている。

以上によれば,引用例4には次の事項が記載されている。
・絶縁性基板12上に形成された下地絶縁層13上に半導体層16が形成された薄膜トランジスタ11。

3.引用例5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例5には,次の記載がある。
「【0036】
2)抵抗層
本発明に用いられる抵抗層のバンドギャップが4.0eV以上15.0eV未満である。好ましくは,抵抗層が,Ga,Mg,Al,Ca,及びSiより選ばれる少なくとも一つの元素を含む酸化物を含有する。より好ましくは,Ga,Mg,Al,又はCaを含む酸化物,さらに好ましくは,Ga,Mg,又はAlを含む酸化物である。
【0037】
具体的に本発明の抵抗層に係るアモルファス酸化物は,Ga_(2)O_(3),MgO,Al_(2)O_(3),または,以上の酸化物を2種以上を混合した酸化物である。
【0038】
<バンドギャップ>
本発明の抵抗層は,バンドギャップが4.0eV以上15.0eV未満であり,好ましくは4.2eV以上12.0eV以下,より好ましくは4.5eV以上10.0eV以下である。本発明の抵抗層のバンドギャップは,下記により調製(調整)される。 例えば,Ga_(2)O_(3)(4.6eV)とMgO(8.0eV)の二種の混合物であれば,Gaの比率が高い場合バンドギャップは小さくなり,Mgの比率が高い場合バンドギャップは大きくなる。」

以上によれば,引用例5には次の事項が記載されているといえる。
・抵抗層にGa,Mg,Alを含む酸化物を用いること。また,Ga_(2)O_(3)とMgOの二種の混合物であれば,Gaの比率が高い場合バンドギャップは小さくなり,Mgの比率が高い場合バンドギャップは大きくなること。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
1.1 対比
本願発明1と引用発明1とを比較する。
・引用発明1における「活性層24」が,本願発明1における「酸化物半導体膜」に相当し,以下同様に,「ゲート電極26」が「ゲート電極」に,「ゲート絶縁膜25」が「ゲート絶縁膜」に,「ソース電極22a」が「ソース電極」に,「ドレイン電極22b」が「ドレイン電極」に,「界面安定化層23」が「金属酸化物膜」に,「バッファ層21」が「絶縁膜」に,「薄膜トランジスタ」が「半導体装置」に,それぞれ相当する。
・引用発明1において,活性層24の上部にゲート絶縁膜25が形成され,前記活性層24上部のゲート絶縁膜25上にゲート電極26が形成されていることが特定されている。また,引用例1の図2から,活性層24とゲート絶縁膜25が接することは明らかである。そうすると,本願発明1と引用発明1は,ともに「前記酸化物半導体膜は,前記ゲート絶縁膜と接する領域を有し」,かつ,「前記酸化物半導体膜及び前記ゲート絶縁膜は,前記ゲート電極と前記金属酸化物膜とに挟まれ」る構成である点で一致する。
・引用発明1における「前記界面安定化層23のバンドギャップは,前記活性層24のバンドギャップよりも大きい」との事項は,本願発明1における「前記金属酸化物膜のエネルギーギャップは,前記酸化物半導体膜のエネルギーギャップよりも大きい」との事項に相当する。

以上によれば,本願発明1と引用発明1の一致点,相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「インジウムとガリウムと亜鉛と酸素を有する酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜上のゲート電極と,
前記ゲート電極と前記酸化物半導体膜との間のゲート絶縁膜と,
前記酸化物半導体膜上のソース電極及びドレイン電極と,
前記酸化物半導体膜の下面と接する金属酸化物膜と,
前記金属酸化物膜の下面と接する絶縁膜と,を有し,
前記酸化物半導体膜は,前記ゲート絶縁膜と接する領域を有し,
前記酸化物半導体膜及び前記ゲート絶縁膜は,前記ゲート電極と前記金属酸化物膜とに挟まれ,
前記絶縁膜は,窒化シリコンを有し,
前記金属酸化物膜は,ガリウムと酸素を有し,
前記金属酸化物膜のエネルギーギャップは,前記酸化物半導体膜のエネルギーギャップよりも大きいことを特徴とする半導体装置。」

<相違点1>
本願発明1では,「ソース電極及びドレイン電極」が「酸化物半導体膜上」にあるのに対し,引用発明1では,「活性層24」の下にある点。

<相違点2>
本願発明1では,「前記絶縁膜は,窒化シリコンを有し」ているのに対し,引用発明1では,「バッファ層21」の材料が特定されていない点。

1.2 相違点についての判断
事案に鑑み,相違点2について先に検討する。
上記第4の2.(1)?(3)に摘記した引用例2?4の記載によれば,薄膜トランジスタ技術において,基板と活性層との間に下地の絶縁膜を形成する技術は周知技術であり,さらに,当該絶縁膜の材料としてSiON(酸窒化シリコン)を用いることが知られていたものと認められる。
しかしながら,引用例2?4には,下地の絶縁膜として「窒化シリコン」を用いることは記載されていない。
また,本願明細書段落[0041]によれば,本願発明における「絶縁膜」は,金属酸化物膜と接触させることによってその界面に電荷の捕獲中心を形成し,電荷を絶縁膜と金属酸化物膜との界面に捕獲することで,金属酸化物膜と酸化物半導体膜の界面での電荷捕獲を十分に抑制するとの作用効果を有するものであり,本願明細書段落[0042]によれば,本願発明1における「窒化シリコン」は,当該作用効果を有する膜として選択されたものであると認められる。
一方,引用例1?4には「絶縁膜」として「窒化シリコン」を選択することによる上記の作用効果について記載されていない。
そうすると,たとえ下地の絶縁膜として「酸窒化シリコン」を用いることが知られていたとしても,当業者が「窒化シリコン」を選択することによる上記の作用効果について予見し得ない以上,引用発明1において「バッファ層」として特に「窒化シリコン」を選択する動機があると認めることはできない。
なお,引用例5には抵抗層の組成についての記載はあるものの,下地の絶縁層として窒化シリコンを採用することは記載されていない。

したがって,本願発明1は,相違点1について検討するまでもなく,引用例2?4に示される周知技術及び引用例5に記載された事項に照らし,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?3について
本願発明2?3も,上記相違点2に係る構成,すなわち,本願発明1の「前記絶縁膜は,窒化シリコンを有し」との構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,上記引用例2?5に示される周知技術に照らし引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
1.理由1について
審判請求時の補正により,本願発明1?3は,「前記絶縁膜は,窒化シリコンを有し」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用例1?5に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。
2.理由2について
審判請求時の補正により,本願の請求項3の「新規性」との語句は削除され,本願の請求項3?4の記載は不明確ではなくなった。したがって,原査定の理由2を維持することはできない。

第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-08-03 
出願番号 特願2018-39494(P2018-39494)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 脇水 佳弘  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 西出 隆二
小川 将之
発明の名称 半導体装置  

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