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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16H
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16H
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16H
管理番号 1364873
異議申立番号 異議2018-700950  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-27 
確定日 2020-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6335006号発明「歯車伝動装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6335006号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6335006号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6335006号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年4月17日に出願され、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年11月27日 :特許異議申立人金澤毅(以下、「特許異議申
立人」という。)による請求項1?3に係る
特許に対する特許異議の申立て
平成31年2月26日付け:取消理由通知書
平成31年4月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年6月18日付け :訂正請求があった旨の通知書
令和1年7月22日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和1年9月27日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和1年12月2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年12月26日付け:訂正拒絶理由通知書
令和2年2月6日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出
令和2年3月3日付け :訂正請求があった旨の通知書
なお、令和2年3月3日付け訂正請求があった旨の通知書に対して、異議申立人による意見書の提出はなかった。

第2 訂正請求について
1 令和2年2月6日の手続補正について
令和1年12月2日に提出された訂正請求書及びこれに添付した訂正特許請求の範囲は、令和2年2月6日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正されたので、まず本件補正の適否について検討する。

(1)本件補正の内容
本件補正の内容は、令和1年12月2日提出の訂正請求書及び訂正特許請求の範囲を補正するものであり、実質的には、令和1年12月2日提出の訂正請求書における訂正事項1?7のうち、訂正事項1?3を削除するものであるといえる。

(2)本件補正の適否
上記のとおり、本件補正は訂正事項の削除であるから、訂正請求書の要旨を変更しないものと認められる。
したがって、本件補正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に適合する。
よって、本件補正を認める。
これにより、令和1年12月26日付け訂正拒絶理由通知書での拒絶理由は解消した。

2 令和1年12月2日に提出された訂正請求書について
(1)訂正の内容
本件補正により補正された本件訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第6335006号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「円柱状部材の軸方向の端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く、」と記載されているのを、「円柱状部材の軸方向の両端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「円柱状部材の軸方向の端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」と記載されているのを、「円柱状部材の軸方向の両端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられ、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、訂正事項2による記載の訂正である「・・・一巡する傾斜部が設けられ、」の後に、「内歯部材の軸方向の中間に設けられているとともに前記溝が形成されている中間部の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられており、軸方向両端の傾斜部はそれぞれ平坦部に連続している」という記載を追加する訂正を行う(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「歯車伝動装置の軸方向から観察したときに、傾斜部の大径側の端部が、前記溝よりも外側に位置する請求項1に記載の歯車伝動装置。」と記載されているのを、「歯車伝動装置の軸方向から観察したときに、傾斜部の大径側の端部が、前記溝よりも外側に位置し、円柱状部材は前記傾斜部と連続する前記平坦部と同じ位置まで延びており、外歯歯車の端部が、前記傾斜部と同じ位置まで延びている円柱状部材の軸方向全体に接触する請求項1に記載の歯車伝動装置。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。

訂正前の請求項1?3は、請求項2及び3が、訂正の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1?3〕について請求されている。

(2)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項の有無
ア 訂正事項1
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1における「円柱状部材の軸方向中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短」い部分について、訂正前の請求項1では「円柱状部材の軸方向の端部」であったものを、訂正後において「円柱状部材の軸方向の両端部」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、円柱状部材の軸方向中間部と比較して、溝と接触する周方向の長さが短い部分が、「円柱状部材の軸方向の両端部」であることは、願書に添付した明細書の段落【0007】、【0024】及び【0025】に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
そして、訂正事項1によって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1における「内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」位置について、訂正前の請求項1では、「円柱状部材の端部」とされていたものを、訂正後において「円柱状部材の両端部」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている位置が「円柱状部材の両端部」であることは、願書に添付した明細書の段落【0023】及び【0024】並びに図面の【図1】及び【図3】に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
そして、訂正事項2によって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1における「内歯部材」について、「内歯部材の軸方向の中間に設けられているとともに前記溝が形成されている中間部の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられており」との限定を付加するとともに、「傾斜部」について、「軸方向両端の傾斜部はそれぞれ平坦部に連続している」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、内歯部材の中間部(内歯部材の軸方向の中間であって溝が形成されている部分)の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられているともに、内歯部材に設けられている傾斜部が、当該平坦部に連続していることは、願書に添付した明細書の段落【0022】及び【0026】並びに図面の【図1】及び【図3】に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
そして、訂正事項3によって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

エ 訂正事項4
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項1における「円柱状部材」について、請求項2において、「円柱状部材は前記傾斜部と連続する前記平坦部と同じ位置まで延びており」との限定を付加するとともに、請求項1における「外歯歯車」について、請求項2において、「外歯歯車の端部が、前記傾斜部と同じ位置まで延びている円柱状部材の軸方向全体に接触する」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、円柱状部材が、傾斜部と連続する平坦部と同じ位置まで延びている点、及び、外歯歯車の端部が、傾斜部と同じ位置まで延びている円柱状部材の軸方向全体に接触している点は、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
そして、訂正事項4によって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)小括
上記のとおり訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求(本件補正により補正されている)により訂正された請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、平成31年4月26日に提出された訂正請求書による訂正請求は、本件訂正請求により取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。

[本件発明1]
「内周に内歯歯車が形成されている内歯部材と、内歯歯車と噛み合いながら内歯歯車に対して相対的に偏心回転する外歯歯車と、を備えている歯車伝動装置であり、
複数の溝が、内歯部材の内周面において、歯車伝動装置の軸線に沿って延びているとともに周方向に等間隔に設けられており、
内歯歯車は、円柱状部材を前記溝に挿入することにより形成されており、
円柱状部材の軸方向の両端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く、
円柱状部材の軸方向の両端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられ、
内歯部材の軸方向の中間に設けられているとともに前記溝が形成されている中間部の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられており、軸方向両端の傾斜部はそれぞれ平坦部に連続している歯車伝動装置。」
[本件発明2]
「歯車伝動装置の軸線方向から観察したときに、傾斜部の大径側の端部が、前記溝よりも外側に位置し、
円柱状部材は前記傾斜部と連続する前記平坦部と同じ位置まで延びており、
外歯歯車の端部が、前記傾斜部と同じ位置まで延びている円柱状部材の軸方向全体に接触する請求項1に記載の歯車伝動装置。」
[本件発明3]
「円柱状部材の事項方向端部と対向する位置において、前記溝の深さが、円柱状部材の軸方向中間部と対向する位置より深い請求項1または2に記載の歯車伝動装置。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正請求(本件補正により補正されている)による訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和1年9月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

[取消理由1]本件の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、請求項1及び2に係る特許は取り消されるべきものである。
[取消理由2]本件の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本件の請求項3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?3に係る特許は取り消されるべきものである。

刊行物
甲1号証:特開2009-287692号公報
甲2号証:特開2010-144883号公報
上記甲1号証及び甲2号証はそれぞれ特許異議申立人による甲1号証及び甲2号証である。

2 当審の判断
(1)甲1号証に記載の事項及び発明
ア 甲1号証に記載の事項
取消理由通知(決定の予告)において引用した甲1号証には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【請求項1】
内周にピン溝が形成されたケースと、
前記ピン溝に配置され、ピン状の部材として形成された複数のピン内歯と、
前記ケースに収納されるとともに、前記ピン内歯に噛み合う外歯が外周に設けられた第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車に形成されたクランク用孔を貫通し、
回転することで前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車を偏心させて回転させるクランク軸と、
前記クランク軸の一端側を回転自在に保持する基部キャリアと、
前記クランク軸の他端側を回転自在に保持する端部キャリアと、
前記基部キャリアと前記端部キャリアとを連結する支柱と、
前記基部キャリアに固定され、ピニオンが取り付けられる出力軸と、
前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車との間に配置され、前記クランク軸の中間部を回転自在に保持する中間軸受と、
前記中間軸受を保持するとともに、前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車との間に配置されたプレートと、
を備えた偏心型減速機であって、
前記ケースの内周には、前記プレートの外周に対向する位置において、全周に亘って前記ピン溝の深さと同等もしくは前記ピン溝の深さよりも深く凹むように形成された凹部が設けられていることを特徴とする、偏心型減速機。」
「【0001】
本発明は、ピン内歯が配置されるピン溝がケースに形成され、中間部がプレートに回転自在に保持されたクランク軸の回転に伴い外歯歯車がピン内歯に噛み合いながら偏心して回転する偏心型減速機、及びその偏心型減速機のピン溝加工方法に関する。」
「【0017】
(偏心型減速機の全体構成)
図1は、本発明の一実施の形態に係る偏心型減速機1を示す断面図である。偏心型減速機1は、例えば、風車のナセルを旋回させる風車用ヨー駆動装置として用いられ、上側に配置されるモータ100(図1にて一部を破線で図示)から入力された回転を減速して伝達して出力する。そして、偏心型減速機1は、ケース11、ピン内歯22、前段減速部12、後段減速部13、出力軸14等をそなえて構成されている。
【0018】
図1に示すように、偏心型減速機1は、下側に配置された一端側においてケース11から突出するように位置する出力軸14に対してピニオン101が取り付けられ、上側に配置された他端側においてケース11に対してモータ100が取り付けられる。そして、偏心型減速機1においては、上側に配置されたモータ100から入力された回転力をケース11内に配置された前段減速部12及び後段減速部13を介して減速して伝達して出力軸14に取り付けられたピニオン101に出力する。偏心型減速機1が風車用ヨー駆動装置として用いられる場合であれば、偏心型減速機1は、ピニオン101が風車のタワーの上部に固定された歯車と噛み合うように配置される。そして、モータ100からの回転駆動力に伴って偏心型減速機1が作動してピニオン101が回転することで、風車のナセルが旋回することになる。尚、以下の説明においては、偏心型減速機1にて、出力軸14が配置される下側である出力側を一端側として、モータ100が配置される上側である入力側を他端側として説明する。
【0019】
(ケース及びピン内歯の構成)
図1に示すように、偏心型減速機1のケース11は、筒状の第1ケース部11aと第1ケース部11aの他端側に配置される第2ケース部11bとで構成され、これらの縁部同士がボルトで連結されている。そして、ケース11の内部には、前段減速部12、後段減速部13などが収納されている。尚、第2ケース部11bの内側に前段減速部12が配置され、第1ケース部11aの内側に後段減速部13が配置されており、前段減速部12、後段減速部13、及び出力軸14は、偏心型減速機1の回転中心線P(図1において一点鎖線で図示)の方向である軸方向に沿って直列に配置されている。また、ケース11は、一端側(第1ケース部11aの端部側)が開口形成され、他端側(第2ケース部11bの端部側)には前述のようにモータ100が固定されている。
【0020】
図2は図1のA-A線矢視断面図であり、図3はケース11の他端側における軸方向の一部断面を拡大して示したものである。尚、図3は、第1ケース部11aのみの断面図(図3(a))と、図3(a)と同じ断面においてピン溝52にピン内歯22が取り付けられた状態の断面図(図3(b))とを示している。図1乃至図3に示すように、ケース11の第1ケース部11aの内周には、ピン溝52と凹部53とが設けられている。
【0021】
ピン溝52は、図1乃至図3に示すように、ケース11の内周に形成されており、ケース11の内周に沿って複数設けられている。そして、各ピン溝52は、半円弧状の断面でその長手方向が回転中心線Pと平行に延びる溝として形成されている。また、ピン溝52としては、ケース11の内周において、一端側に形成された第1ピン溝52aと、他端側に形成された第2ピン溝52bとが設けられている。第1ピン溝52aは、ケース11の内周において周方向に沿って等間隔で配置され、第2ピン溝52bも、ケース11の内周において周方向に沿って等間隔で配置されている。そして、各第1ピン溝52aと各第2ピン溝52bとは、回転中心線Pと平行な同一直線上に配置されている。
【0022】
凹部53は、図1乃至図3に示すように、ケース11の内周においてその内周の全周に亘って形成されており、第1ピン溝52aと第2ピン溝52bとの間であって、後述するプレート39の外周に対向する位置において設けられている。
そして、凹部53は、ピン溝52の深さと同等もしくはピン溝52の深さよりも深く凹むように形成されている。尚、ピン溝52の深さとは、ケース11の内周についての径方向における深さであり、ピン溝52を形成しているケース11の内周部分における最も径方向内側に位置している部分から最も径方向外側に位置している部分までの深さをいう。また、ピン溝52を形成しているケース11の内周部分における最も径方向内側に位置している部分から凹部53を形成しているケース11の内周部分における最も径方向外側に位置している部分までの径方向における深さがピン溝52の深さよりも深く形成されることで、凹部53は、ピン溝52の深さよりも深く凹むように形成されている。尚、図3では、ピン溝52の深さよりも少し深さが深い凹部53を例示しているが、さらに深さの深い凹部53を形成してもよい。
【0023】
ピン内歯22は、複数設けられており、図1乃至図3に示すように、ピン状の部材(丸棒状の部材)として形成され、ケース11の内周に設けられたピン溝52に配置されている。尚、図1乃至図3においては、ピン内歯22については、断面でなく外形を図示している。ピン内歯22は、その長手方向が回転中心線Pと平行に位置するように配置されるとともに、ケース11の内周において等間隔でピン溝52に嵌め込まれた状態で配列され、後述する外歯歯車28の外歯31と噛み合うように構成されている。また、ピン内歯22としては、第1ピン溝52aに対して嵌め込まれて取り付けられる第1ピン内歯22aと、第2ピン溝52bに対して嵌め込まれて取り付けられる第2ピン内歯22bとが設けられている。第1ピン内歯22aと第2ピン内歯22bとは、ピン溝52に嵌め込まれることで回転中心線Pと平行な同一直前上に配置されている。また、第1ピン内歯22aの他端側と第2ピン内歯22bの一端側とは当接し、第1ピン内歯22aの一端側はスペーサ54を介して第1ケース部11aの内周に形成された段部に対して位置決めされている。」
「【0031】
外歯歯車28は、図1、図2、及び図4に示すように、平行に配置された状態でケース11内に収納される第1外歯歯車28aと第2外歯歯車28bとで構成されている。第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bにはそれぞれ、クランク軸23が貫通するクランク用孔30、及び、後述する支柱27が貫通する支柱貫通孔48が形成されている。第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bは、回転中心線Pと平行な方向において、クランク用孔30及び支柱貫通孔48の位置がそれぞれ対応するように配置されている。
【0032】
第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bのクランク用孔30は、円形孔として形成され、クランク軸23に対応して第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bの周方向に沿って均等角度の位置に複数(本実施形態では3つ)配置されている。このクランク用孔30は、第1外歯歯車28aにおいては第1偏心部23aを、第2外歯歯車28bにおいては第2偏心部23bを、ニードルころ又は円柱ころを有するころ軸受38を介してそれぞれ保持している。支柱貫通孔48は、後述する支柱27の断面形状に対応し、角部が円弧状に形成されるとともに径方向外側に向かって広がった三角形状断面を有するような断面形状の穴として形成されている。そして、支柱貫通孔48は、支柱27に対応して外歯歯車28の周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施形態では3つ)配置されている。また、支柱貫通孔48は、第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bの周方向において、クランク用孔30と交互に形成されている。尚、支柱貫通孔48には、支柱27が遊嵌状態で貫通している。
【0033】
また、第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bのそれぞれの外周には、ピン内歯22に噛み合う外歯31が設けられている。本実施形態では、第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bの外歯31の歯数は、ピン内歯22の歯数よりも1個少なくなるように設けられている。このため、クランク軸23が回転するごとに、噛み合う外歯31とピン内歯22との噛み合いがずれ、第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bが偏心して揺動回転するように構成されている。尚、外歯31とピン内歯22との歯数差は、1個に限らず、複数個であってもよい。」
「【0054】
ケース鋳造工程S101においては、複数の型が組み合わされて構成される鋳型(図示せず)に溶融金属が注入され、凝固した後に複数の型が離型されることにより、ケース素材55が製作されることになる。尚、ケース素材55として、第1ケース部11aの素材と第2ケース部11bの素材とが、別々の鋳型により形成される。そして、ケース素材55における第1ケース部11aの素材については、図6(a)の一部断面図に示すように、その内周に対して全周に亘って形成される凹部53と凸部56とが設けられるように、鋳造により形成されている。凸部56は、後述するピン溝形成工程S102においてピン溝52の加工が行われる部分として形成され、凹部53に対して一端側及び他端側のそれぞれにて隣接する箇所に設けられている。一方、鋳造によりケース素材55の内周に設けられる凹部53は、ケース素材55の内周におけるプレート39の外周が対向する位置に設けられ、ピン溝52の深さと同等もしくはピン溝52の深さよりも深く凹むように形成されている。
【0055】
ケース鋳造工程S101が終了すると、図5に示すように、ピン溝形成工程S102が行われる。ピン溝形成工程S102においては、ケース鋳造工程S101で形成されたケース素材55の凸部56に対して、歯車の歯面を形成するピニオンカッタを有するギアシェーパで加工が行われることにより、図6(b)に示すように、ピン溝52(52a、52b)が加工される。ピン溝形成工程S102にて加工されるピン溝52の深さは、前述のように、凹部53の深さよりも浅いため、ピン溝形成工程S102においては、工具の刃(ピニオンカッタ)がケース素材55の内周に対して凸部56以外とは干渉しないことになる。尚、ピン溝形成工程S102が終了した後に組立工程S103が行われるが、ケース鋳造工程S101が終了してから組立工程S103が開始されるまでの間に、ケース素材55の内周及び外周の表面に対する表面加工処理(図5では、図示を省略)が行われる。この表面加工処理においては、ピン溝52及び凹部53以外の表面に関して、所定の形状を付与するための切削加工の処理や、所定の表面仕上げの処理が施される。この表面加工処理とピン溝形成工程S102での処理とがケース素材55に施されることにより、ケース11が形成されることになる。」
【図1】


【図2】

【図3】

【図4】

【図6】


イ 上記記載並びに【図1】?【図4】及び【図6】の記載から、甲1号証には、次の技術的事項が記載されているといえる。
a1)内周にピン内歯22が形成されているケース11と、ピン内歯と噛み合いながらピン内歯22に対して相対的に偏心回転する第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bとを備える偏心型減速機1(【請求項1】、段落【0023】、【0027】)。
a2)第1ピン溝52a及び第2ピン溝52bとからなるピン溝52が複数、ケース11の内周面において、偏心型減速機1の回転中心Pに沿って延びているとともに周方向に等間隔に設けられている(段落【0019】、【0021】、【図2】)。
a3)第1ピン内歯22a及び第2ピン内歯22bとからなるピン内歯22がピン溝52に配置されている(段落【0023】)。
a4)ピン内歯22を構成する第1ピン内歯22aの軸方向の両端部は、ピン溝52を構成する第1ピン溝52aの端部から露出している(【図3】)。
a5)ピン内歯22を構成する第2ピン内歯22bの軸方向の下端部は、ピン溝52を構成する第2ピン溝52bの端部から露出している(【図3】。
a6)ケース11内周面の全周に亘って凹部53と当該凹部52の軸方向両側に2カ所の凸部56が設けられており、凹部53と下側の凸部56の両端部は傾斜面となっているとともに、凸部56にピン溝52が形成されている(段落【0022】、【0054】及び【0055】並びに【図6】及び【図8】)。

ウ 甲1号証に記載の発明
上記a1)?a6)から、甲1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
「内周に第1ピン内歯22aと第2ピン内歯22bとからなるピン内歯22が形成されているケース11と、ピン内歯と噛み合いながらピン内歯22に対して相対的に偏心回転する第1外歯歯車28a及び第2外歯歯車28bとを備える偏心型減速機1であり、
第1ピン溝52a及び第2ピン溝52bとからなるピン溝52が複数、ケース11の内周面において、偏心型減速機1の回転中心Pに沿って延びているとともに周方向に等間隔に設けられており、
ピン内歯22がピン溝52に配置されており、
第1ピン内歯22aの軸方向の両端部は、第1ピン溝52aの端部から露出しており、
第2ピン内歯22bの軸方向の下端部は、第2ピン溝52bの端部から露出しており、
ケース11内周面の全周に亘って凹部53と当該凹部52の軸方向両側に2カ所の凸部56が設けられており、凹部53と下側の凸部56の両端部は傾斜面となっているとともに、ピン溝52は凸部56に形成されているものである、
偏心型減速機1。」

エ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲1発明の「第1ピン内歯22aと第2ピン内歯22bとからなるピン内歯22」及び「ケース11」は、本件発明1の「内歯歯車」及び「内歯部材」に相当する。
甲1発明の「第1の外歯歯車28a及び第2の外歯歯車28b」は、本件発明1の「外歯歯車」に相当する。
甲1発明の「偏心型減速機1」及び「偏心型減速機1の回転中心P」は、本件発明1の「歯車伝導装置」及び「歯車伝導装置の軸線」に相当する。
甲1発明の「第1ピン溝52a及び第2ピン溝52bとからなるピン溝52」は、ケース11内周面の全周に亘って」「設けられた」「凸部56」「に形成されている」ものであるから、本件発明1の「溝」に相当する。
甲1発明の「第1ピン内歯22a」ないし「第2ピン内歯22b」は、本件発明1の「円柱状部材」に相当する。これと上記を踏まえると、甲1発明の「ピン内歯22がピン溝52に配置されて」いることは、本件発明1の「内歯歯車は、円柱状部材を前記溝に挿入することにより形成されて」いることに相当する。
甲1発明の「第1ピン内歯22aの軸方向の両端部は、第1ピン溝52aの端部から露出しており、第2ピン内歯22bの軸方向の下端部は、第2ピン溝52bの端部から露出して」いることは、この構成によって、当該ピン内歯22の軸方向下端部は、軸方向の中間部と比較して、ピン溝52と接触する周方向の長さが短くなっている(ゼロである)といえるから、本件発明1の「円柱状部材の軸方向の両端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く」との対比において、「円柱状部材の軸方向の下端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く」との限度で共通する。
甲1発明は、「ケース11内周面の全周に亘って凹部53と当該凹部52の軸方向両側に2カ所の凸部56が設けられており、凹部53と下側の凸部56の両端部は傾斜面となっている」ものであるから、ケース11の内周面であって、下側の凸部56の下部には、ケース11の周方向に一巡する傾斜部が設けられているといえ、当該下側の凸部56の下部に設けられた傾斜部は、第1ピン内歯22aの下端部と対向している位置にあるといえる(甲1号証の【図3】)。
したがって、甲1発明の、「ケース11内周面の全周に亘って凹部53と当該凹部52の軸方向両側に2カ所の凸部56が設けられており、凹部53と下側の凸部56の両端部は傾斜面となっている」ことは、本件発明1の「円柱状部材の軸方向の両端と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられ」ていることとの対比において、「円柱状部材の軸方向の下端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられ」ているとの限度で共通する。
以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明とは、
「内周に内歯歯車が形成されている内歯部材と、内歯歯車と噛み合いながら内歯歯車に対して相対的に偏心回転する外歯歯車と、を備えている歯車伝動装置であり、
複数の溝が、内歯部材の内周面において、歯車伝動装置の軸線に沿って延びているとともに周方向に等間隔に設けられており、
内歯歯車は、円柱状部材を前記溝に挿入することにより形成されており、
円柱状部材の軸方向の下端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く、
円柱状部材の軸方向の下端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている歯車伝動装置。」
である点で一致し、両者は次の点で相違している。
[相違点1]
本件発明1は、「円柱状部材の軸方向」の「両端部」が「円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短いものであるのに対し、甲1発明は、「第1ピン内歯22aの軸方向の両端部は、第1ピン溝52aの端部から露出しており、第2ピン内歯22bの軸方向の下端部は、第2ピン溝52bの端部から露出して」いるものである点。
[相違点2]
本件発明1は、「円柱状部材の軸方向の両端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」ものであるのに対し、甲1発明は、「ケース11内周面の全周に亘って凹部53と当該凹部52の軸方向両側に2カ所の凸部56が設けられており」、「ピン溝52は凸部56に形成されている」とともに、「凹部53と下側の凸部56の両端部は傾斜面となっている」ものである点。
[相違点3]
本件発明1は、「内歯部材の軸方向の中間に設けられているとともに前記溝が形成されている中間部の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられており、軸方向両端の傾斜部はそれぞれ平坦部に連続している」ものであるのに対し、甲1発明は、かかる構成を備えていない点。

b 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1号証の【図3】、【図6】及び【図8】を参照すると、甲1号証に記載のものにおいては、軸方向上側の凸部56の上端には平坦部が設けられているといえるものの、傾斜部は設けられておらず、その一方で、軸方向下側の凸部56の下端には傾斜部が設けられているものの、平坦部が設けられていない。
また、歯車伝動装置の軸線に沿って延びている周方向に等間隔に設けた複数の溝に、円柱状部材を挿入することにより形成した内歯歯車と、当該内歯歯車と噛み合いながら内歯歯車に対して相対的に偏心回転する外歯歯車とを備えている歯車伝動装置において、円柱状部材が挿入される溝が形成されている部分の両端に軸方向と交差する平坦部と、当該平坦部に連続する傾斜部を設けるという技術的事項は、甲2号証には記載されていないし、かかる技術的事項が当業者にとって周知な構成であるとする証拠もない。
してみると、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成となすことは、当業者であっても容易にはなし得ない。
そして、本件発明1は、相違点3の構成を有することにより、平坦部によってレースを支持するとともに、当該平坦部に連続している傾斜部によって、溝と円柱状部材との隙間に潤滑油を保持することができるという格別な作用効果を奏するものと認められる(本件特許に係る特許出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0022】?【0025】)。
したがって、相違点1及び2についてさらに検討するまでもなく、本件発明1は、甲1号証に記載された発明とはいえないし、甲1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものである。
そして、本件発明1が、上記(ア)で説示のように、甲1号証に記載された発明とはいえないし、甲1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないのであるから、本件発明2についても、同様の理由により、甲1号証に記載された発明とはいえないし、甲1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。また、本件発明3についても、同様の理由により、甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、甲3号証(特開2010-101454号公報)に記載された発明であるか、甲3号証に記載された発明及び甲4号証(特開2001-232516号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、訂正前の請求項3に係る発明は、甲3号証に記載された発明、甲4号証に記載された発明及び甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。
そこで、この点について以下検討する。
甲3号証には、その明細書の段落【0001】、【0018】、【0019】及び【0024】並びに【図2】及び【図3】の記載内容からすると、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
[甲3発明]
「内周に内歯が形成されている内歯歯車46と、内歯歯車46と噛み合いながら内歯歯車46に対して相対的に揺動回転する外歯歯車44と、を備えている減速装置2であり、
複数の円弧状の溝46Aが、内歯歯車46の内周面において、減速装置の軸線O1に沿って延びているとともに周方向に等間隔に設けられており、
円柱状の外ピン46Bが円弧状の溝46Aに嵌入されている減速装置2。」
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「内歯」、「内歯歯車46」、「外歯歯車44」、「減速装置2」、「円弧状の溝46A」、「軸線O1」及び「円柱状の外ピン46B」は、配置及び機能からみて、それぞれ本件発明1の「内歯歯車」、「内歯部材」、「外歯歯車」、「歯車伝動装置」、「溝」、「軸線」及び「円柱状部材」に相当する。また、甲3発明の「揺動回転」及び「嵌入」は、その機能からみて、本件発明1の「偏心回転」及び「挿入」に相当する。さらに、甲3発明は、「円柱状の外ピン46Bが円弧状の溝46Aに嵌入され」ることにより、内歯歯車46を形成しているものであるといえるから、かかる甲3発明の構成は、本件発明1の「内歯歯車は、円柱状部材を前記溝に挿入することにより形成され」ることに相当する。
しかしながら、仮に、特許異議申立人が特許異議申立書において主張するように、甲3号証に、上記甲3発明の構成に加えて、「円柱状部材の軸方向の端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く、」との構成、及び、「円柱状部材の軸方向の端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」との構成も記載されているとしたとしても、本件発明1と甲3発明との間には、少なくとも、本件発明1が、「内歯部材の軸方向の中間に設けられているとともに前記溝が形成されている中間部の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられており、軸方向両端部の傾斜部はそれぞれ平坦部に連続している」という構成を有しているのに対し、かかる構成を甲3発明は有していないという相違点が存在するといえる。
そして、上記相違点の構成は、甲2号証及び甲4号証のいずれにも記載も示唆もされていないし、当業者にとって周知な構成であるとする証拠もない。
よって、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定した発明である本件発明2は、甲3号証に記載された発明であるということはできないし、甲3号証に記載された発明及び甲4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、請求項3に係る発明も本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲3号証に記載された発明、甲4号証に記載された発明及び甲2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
以上のとおりであるから、訂正前の請求項1?3について、特許異議申立人が特許異議申立書に記載した特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に係る上記主張は、採用することができない。

2 特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1を引用する請求項3に係る発明は、「円柱状部材の軸方向端部と対向する位置において、前記溝の深さが、円柱状部材の軸方向中間部と対向する位置より深い」構成と、「円柱状部材の軸方向の端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」構成の双方を有するものであるところ、本件明細書及び図面には、かかる双方の構成を有する構成は記載されていないから、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない旨を主張する。
しかしながら、「円柱状部材の軸方向端部と対向する位置において、前記溝の深さが、円柱状部材の軸方向中間部と対向する位置より深い」構成も、「円柱状部材の軸方向の端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」構成も、どちらも、円柱状部材の軸方向端部において、潤滑材を保持する構成を得るという同じ目的を達成するための構成であって、一方の構成を備えることによって他方の構成が備えられないということはないし、双方が排斥しあう構成、すなわち、双方の組合せによって、円柱状部材の軸方向端部における潤滑油保持という作用が減殺されるということもない。
してみると、本件明細書の段落【0037】の記載をも参酌すれば、「円柱状部材の軸方向端部と対向する位置において、前記溝の深さが、円柱状部材の軸方向中間部と対向する位置より深い」構成と、「円柱状部材の軸方向の端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられている」構成の双方を有する構成が、本件明細書及び図面には少なくとも示唆されているといえる。
したがって、特許異議申立人の特許法第36条第6項第1号についての上記主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に内歯歯車が形成されている内歯部材と、内歯歯車と噛み合いながら内歯歯車に対して相対的に偏心回転する外歯歯車と、を備えている歯車伝動装置であり、
複数の溝が、内歯部材の内周面において、歯車伝動装置の軸線に沿って延びているとともに周方向に等間隔に設けられており、
内歯歯車は、円柱状部材を前記溝に挿入することにより形成されており、
円柱状部材の軸方向の両端部は、円柱状部材の軸方向の中間部と比較して、前記溝と接触する周方向の長さが短く、
円柱状部材の軸方向の両端部と対向する位置において、内歯部材の内周面に、内歯部材の周方向に一巡する傾斜部が設けられ、
内歯部材の軸方向の中間に設けられているとともに前記溝が形成されている中間部の両端に軸方向と交差する平坦部が設けられており、軸方向両端の傾斜部はそれぞれ平坦部に連続している歯車伝動装置。
【請求項2】
歯車伝動装置の軸線方向から観察したときに、傾斜部の大径側の端部が、前記溝よりも外側に位置し、
円柱状部材は前記傾斜部と連続する前記平坦部と同じ位置まで延びており、
外歯歯車の端部が、前記傾斜部と同じ位置まで延びている円柱状部材の軸方向全体に接触する請求項1に記載の歯車伝動装置。
【請求項3】
円柱状部材の軸方向端部と対向する位置において、前記溝の深さが、円柱状部材の軸方向中間部と対向する位置より深い請求項1または2に記載の歯車伝動装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-01 
出願番号 特願2014-85530(P2014-85530)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F16H)
P 1 651・ 851- YAA (F16H)
P 1 651・ 113- YAA (F16H)
P 1 651・ 121- YAA (F16H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 祐介  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6335006号(P6335006)
権利者 ナブテスコ株式会社
発明の名称 歯車伝動装置  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  

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