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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H02K
管理番号 1364885
異議申立番号 異議2019-700231  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-26 
確定日 2020-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6394972号発明「回転電機の固定子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6394972号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6394972号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6394972号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年2月19日に出願され、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月26日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年 3月26日提出: 特許異議申立人増淵貞夫による請求項1?4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 元年 6月27日付け: 取消理由通知
令和 元年 8月30日提出: 特許権者による意見書及び訂正請求書
令和 元年 9月10日付け: 通知(訂正請求があった旨の通知)
令和 元年10月16日提出: 特許異議申立人による意見書
令和 元年12月26日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 3月 9日提出: 特許権者による意見書及び訂正請求書
令和 2年 4月 6日付け: 取消理由通知
令和 2年 4月28日提出: 特許権者による意見書及び訂正請求書

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年4月28日提出の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものである。
この訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
周方向に配列された複数のスロット(31)を有する固定子コア(30)と、前記スロットに収容されて前記固定子コアに巻装されたそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線(41U,41V,41W)よりなる固定子巻線(40)と、を備えた回転電機の固定子(20)において、
前記固定子巻線を構成する前記相巻線は、導体(58)を覆う絶縁被膜(59)を有する断面形状が矩形の角線よりなるとともに、前記スロットに収容されるスロット収容部(51C)と、周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部(52A,52B)とを有し、
前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからなり、且つ前記固定子コアの軸方向端面(30a)から最も離間した部位に周方向に延びる頭頂部(53A,53B)を有し、
前記短ピッチターン部が前記短ピッチターン部と周方向に隣り合う同相の前記長ピッチターン部の軸方向内側に収まり、前記短ピッチターン部と前記長ピッチターン部の前記頭頂部同士が軸方向に重なり合うとともに、前記短ピッチターン部の前記頭頂部の軸方向外側面が前記長ピッチターン部の軸方向内側面と軸方向に対向するように配置され、
周方向に隣接する前記頭頂部同士が、前記スロットの周方向ピッチよりも大きく周方向にずらされていることを特徴とする回転電機の固定子。」
とあるのを、
「【請求項1】
周方向に配列された複数のスロット(31)を有する固定子コア(30)と、前記スロットに収容されて前記固定子コアに巻装されたそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線(41U,41V,41W)よりなる固定子巻線(40)と、を備えた回転電機の固定子(20)において、
前記固定子巻線を構成する前記相巻線は、導体(58)を覆う絶縁被膜(59)を有する断面形状が矩形の角線よりなるとともに、前記スロットに収容されるスロット収容部(51C)と、周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部(52A,52B)とを有し、前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され、
前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからなり、且つ前記固定子コアの軸方向端面(30a)から最も離間した部位に周方向に延びる頭頂部(53A,53B)を有し、
前記短ピッチターン部が前記短ピッチターン部と周方向に隣り合う同相の前記長ピッチターン部の軸方向内側に収まり、前記短ピッチターン部と前記長ピッチターン部の前記頭頂部同士が軸方向に重なり合うとともに、前記短ピッチターン部の前記頭頂部の軸方向外側面が前記長ピッチターン部の軸方向内側面と軸方向に対向するように配置され、
周方向に隣接する前記頭頂部同士が、前記スロットの周方向ピッチよりも大きく周方向にずらされていることを特徴とする回転電機の固定子。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の、
「前記相巻線は、前記スロットの内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部同士を電気的に接続する波巻きにて巻装され、」
との記載を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の、
「延伸方向長さの異なる2種類以上の前記ターン部の前記頭頂部は、それぞれ異なる成形型で押圧成形することにより形成された径方向に折れ曲がるクランク部(54A,54B)を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電機の固定子。」
との記載を、
「延伸方向長さの異なる2種類の前記ターン部の前記頭頂部は、それぞれ異なる成形型で押圧成形することにより形成された径方向に折れ曲がるクランク部(54A,54B)を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電機の固定子。」
に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に記載された「相巻線」について、「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無
訂正事項1に係る請求項1についての訂正に関し、本件特許の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「特許明細書等」という。)には、「前記相巻線は、前記スロットの内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部同士を電気的に接続する波巻きにて巻装され、」(特許請求の範囲の【請求項2】、下線は当審で付与した。以下、同様。)と記載されており、相巻線を、スロットの内周側からN層目に収容されたスロット収容部と、他のスロットの内周側からN+1層目に収容されたスロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装することが把握でき、また、特許明細書等の「【0029】大セグメント50Aは、一方の直線部51AがU相スロットU1の内周側から1層目に挿入され、他方の直線部51AがU相スロットU1から時計回り方向(矢印X方向)に7スロットピッチ離れたU相スロットU2の内周側から2層目に挿入される。また、小セグメント50Bは、一方の直線部51BがU相スロットU2の内周側から1層目に挿入され、他方の直線部51BがU相スロットU2から時計回り方向(矢印X方向)に5スロットピッチ離れたU相スロットU1の内周側から2層目に挿入される。【0030】その後、上記と同様にして、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、周方向に隣接して2個ずつ繰り返し配置されたV相スロットV1,V2及びW相スロットW1,W2の1層目と2層目に順番に挿入される。このようにして、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、各相スロットU,V,Wの1層目と2層目に周方向に1周するように挿入配置される。【0031】続いて、大セグメント50Aの一方の直線部51Aが、U相スロットU1の内周側から3層目に挿入され、他方の直線部51AがU相スロットU1から時計回り方向(矢印X方向)に7スロットピッチ離れたU相スロットU2の内周側から4層目に挿入される。また、小セグメント50Bの一方の直線部51Bが、U相スロットU2の内周側から3層目に挿入され、他方の直線部51BがU相スロットU2から時計回り方向(矢印X方向)に5スロットピッチ離れたU相スロットU1の内周側から4層目に挿入される。【0032】その後、上記と同様にして、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、周方向に隣接して2個ずつ繰り返し配置されたV相スロットV1,V2及びW相スロットW1,W2の3層目と4層目に順番に挿入される。このようにして、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、各相スロットU,V,Wの3層目と4層目に周方向に1周するように挿入配置される。【0033】続いて、大セグメント50Aの一方の直線部51Aが、U相スロットU1の内周側から5層目に挿入され、他方の直線部51AがU相スロットU1から時計回り方向(矢印X方向)に7スロットピッチ離れたU相スロットU2の内周側から6層目に挿入される。また、小セグメント50Bの一方の直線部51Bが、U相スロットU2の内周側から5層目に挿入され、他方の直線部51BがU相スロットU2から時計回り方向(矢印X方向)に5スロットピッチ離れたU相スロットU1の内周側から6層目に挿入される。【0034】その後、上記と同様にして、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、周方向に隣接して2個ずつ繰り返し配置されたV相スロットV1,V2及びW相スロットW1,W2の5層目と6層目に順番に挿入される。このようにして、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、各相スロットU,V,Wの5層目と6層目に周方向に1周するように挿入配置される。【0035】これにより、全相スロットU,V,W内には、合計6本の直線部51A,51Bが径方向1列に整列した状態で収容される。本実施形態の場合には、各相スロットU,V,W内において、3本の直線部51Aと3本の直線部51Bが交互に収容されている。【0036】その後、各スロット31から軸方向他端側(図2の下側)へ延出した一対の直線部51A,51Bの開放端部は、固定子コア30の軸方向端面30aに対して所定の角度をもって斜めに斜行するように互いに周方向反対側へ捻られて、概ね半磁極ピッチ分の長さの捻り部(図示せず)が形成される。そして、固定子コア30の軸方向他端側において、導体セグメント50の所定の捻り部の先端部同士が例えば溶接により接合されて所定のパターンで電気的に接続される。【0037】即ち、所定の導体セグメント50が直列に接続されて、スロット31の内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容されたスロット収容部51Cと、他のスロット31の内周側からN+1層目に収容されたスロット収容部51C同士が電気的に接続される。これにより、固定子コア30のスロット31に沿って周方向に波巻きにて巻装された3本の相巻線41U,41V,41W(図8参照)よりなる固定子巻線40が形成される。【0038】なお、固定子巻線40の各相について、基本となるU字形状の導体セグメント50(大小セグメント50A,50B)により、固定子コア30の周方向に6周する相巻線が形成される。しかし、固定子巻線40の各相について、出力用引き出し線及び中性点用引き出し線と接続されたセグメント、並びに1周目と2周目、・・・、5周目と6周目をそれぞれ接続する接続部を有するセグメントは、基本となる導体セグメント50とは異なる異形セグメント(図示せず)で構成される。これら異形セグメントを用いて、図8に示すように、それぞれ4本の並列巻線U1?U4,V1?V4,W1?W4が並列接続された相巻線41U,41V,41Wの巻線端が星型結線で結線されてなる固定子巻線40が形成される。」との記載を考慮すると、大セグメント50A及び小セグメント50Bが、各相スロットU,V,Wの1層目と2層目に周方向に1周するように挿入配置され、3層目と4層目、及び5層目と6層目についても、それぞれ周方向に1周するように挿入配置されており、相巻線41U,41V,41Wが、周方向に波巻きとなるように、大セグメント50A及び小セグメント50Bの直線部51A,51Bの開放端部が、電気的に接続されることが把握できるから、スロットの内周側から1,3又は5層目に収容されたスロット収容部が、それぞれ他のスロットの内周側から2,4又は6層目に収容されたスロット収容部と電気的に接続されて、つまり、奇数(N)層のスロット収容部と、偶数(N+1)層のスロット収容部が電気的に接続されて、波巻きにて巻装されているといえるから、Nが奇数であることも把握できる。
そうすると、訂正事項1に係る請求項1に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。

ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

エ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1?4に係る特許について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1に係る請求項1についての訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、訂正事項1に係る請求項1についての訂正により、訂正後の請求項2が引用する訂正後の請求項1に、「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという記載が追加されたことに伴い、訂正前の請求項2に記載された「前記相巻線は、前記スロットの内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部同士を電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという事項を、訂正後の請求項1の前記記載と重複しないように、請求項2から削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、前記したように、訂正事項1に係る請求項1についての訂正に伴い、請求項1の記載と重複しないように、請求項2に記載された事項を削除するものであるから、訂正事項2に係る請求項2についての訂正が、新規事項の追加に該当しないことは明らかである。

ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、前記したように、訂正事項1に係る請求項1についての訂正に伴い、請求項1の記載と重複しないように、請求項2に記載された事項を削除するものであり、訂正後の請求項2が引用する訂正後の請求項1に記載された「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという事項は、訂正前の請求項2に記載された「前記相巻線は、前記スロットの内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部同士を電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという事項に対し、Nを、「1以上の自然数」から「奇数」に限定するものである。そして、訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

エ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1?4に係る特許について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項2に係る請求項2についての訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項3に係る請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2に記載された「前記ターン部」が「延伸方向長さの異なる2種類以上」であるという事項が、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載された「前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからな」るという事項と整合しておらず、明瞭でなかったところ、請求項2に記載された「前記ターン部」について、「延伸方向長さの異なる2種類」であると訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無
訂正事項3に係る請求項2についての訂正に関し、特許明細書等には、特許請求の範囲の請求項1に「前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからな」ると記載されており、ターン部が2種類であることが把握できる。
そうすると、訂正事項3に係る請求項2に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。

ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3に係る請求項2についての訂正は、訂正前の「2種類以上」を、「2種類」に限定するものである。そして、訂正事項3に係る請求項2についての訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

エ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1?4に係る特許について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項3に係る請求項2についての訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正前の請求項2?請求項4は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1?請求項4は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項を構成する。そして、本件訂正請求は、訂正事項1?訂正事項3により、訂正前の請求項1及び請求項2の記載を訂正しようとするものであり、一群の請求項1?請求項4に対して請求されている。
したがって、本件訂正請求は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4.小括
前記のとおり、訂正事項1?訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、さらに、同法第120条の5第4項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和2年4月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
周方向に配列された複数のスロット(31)を有する固定子コア(30)と、前記スロットに収容されて前記固定子コアに巻装されたそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線(41U,41V,41W)よりなる固定子巻線(40)と、を備えた回転電機の固定子(20)において、
前記固定子巻線を構成する前記相巻線は、導体(58)を覆う絶縁被膜(59)を有する断面形状が矩形の角線よりなるとともに、前記スロットに収容されるスロット収容部(51C)と、周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部(52A,52B)とを有し、前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され、
前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからなり、且つ前記固定子コアの軸方向端面(30a)から最も離間した部位に周方向に延びる頭頂部(53A,53B)を有し、
前記短ピッチターン部が前記短ピッチターン部と周方向に隣り合う同相の前記長ピッチターン部の軸方向内側に収まり、前記短ピッチターン部と前記長ピッチターン部の前記頭頂部同士が軸方向に重なり合うとともに、前記短ピッチターン部の前記頭頂部の軸方向外側面が前記長ピッチターン部の軸方向内側面と軸方向に対向するように配置され、
周方向に隣接する前記頭頂部同士が、前記スロットの周方向ピッチよりも大きく周方向にずらされていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
延伸方向長さの異なる2種類の前記ターン部の前記頭頂部は、それぞれ異なる成形型で押圧成形することにより形成された径方向に折れ曲がるクランク部(54A,54B)を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
前記ターン部は、前記頭頂部の両側に形成されて前記固定子コアの軸方向端面に対して所定の角度で傾斜した斜行部(55A,55B)と、前記斜行部と前記スロット収容部との間に形成された立ち上がり部(56A,56B)とを有し、前記立ち上がり部は成形型で押圧成形することによってくの字形状に曲げ加工されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
前記固定子コアの前記スロットは、前記固定子巻線の一極一相当たり2個の割合で形成され、前記ターン部の基準となる延伸方向長さをM(Mは2以上の自然数)スロットピッチとしたときに、M-1スロットピッチの前記ターン部(52B)とM+1スロットピッチの前記ターン部(52A)が軸方向に重なり合っていることを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載の回転電機の固定子。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.令和2年4月6日付け取消理由通知について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項2,3及び4に係る特許に対して、当審が令和2年4月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(明確性)請求項2,3及び4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
本件訂正前の請求項2には、「延伸方向長さの異なる2種類以上の前記ターン部」と記載されていたが、訂正前の請求項2が引用する請求項1には、「前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからな」ると記載されていたため、請求項2に係る特許において、ターン部が2種類以上あるのか、2種類であるのかが明確でなかったが、本件訂正請求における訂正事項3に係る請求項2についての訂正により、請求項2の記載が「延伸方向長さの異なる2種類の前記ターン部」と訂正された。これにより本件特許発明2、及び請求項2を直接的に又は間接的に引用する請求項3,4に係る本件特許発明3、本件特許発明4は明確なものとなったため、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。

2.令和元年12月26日付け取消理由通知(決定の予告)について
(1)取消理由の概要
当審が令和元年12月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア.(進歩性)請求項1,3,4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(国際公開第2013/145976号(甲第1号証))に記載された発明、並びに頒布された引用文献2(特開2011-109894号公報(甲第2号証))、引用文献3(特開2012-222874号公報(甲第3号証))、引用文献4(特開2010-115031号公報(甲第4号証))及び引用文献5(特開2003-264964号公報(甲第5号証))に記載されたような本件特許の出願前から周知の事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,3,4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ.(実施可能要件)請求項2?4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載に不備があるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
ア.進歩性について
(ア)引用文献の記載及び引用発明
取消理由通知(決定の予告)において引用した前記引用文献1には以下の事項が記載されている。下線は当審で付与した。

a.「[0012]この回転電機10は、例えば、3相交流ブラシレス式モータであり、図1に示されるように円環状のステータ12を有する。このステータ12の内部には、図示しないロータが回転自在に挿通され、回転電機10は、図示しないU相端子、V相端子及びW相端子それぞれを介して図示しない電力源から供給される電力に基づき前記ロータが回転駆動する。
[0013]このステータ12は、円環状のステータコア14と、前記ステータコア14から内径側に突出して形成されたティース16と、前記ティース16に対して外周側に設けられたスロット34に装着される複数の導電体(コイル)18とから構成される。」

b.「[0015]導電体18は、図1?図5に示されるように、例えば、断面長方形状の平角導板が折曲された略U字状に形成され、一対の直線部22a、22b、24a、24bと、該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28をそれぞれ有した第1及び第2分割導体30、32から構成される。第1及び第2分割導体30、32は、同一の相(例えば、U相同士、V相同士、W相同士)となるように、U相端子、V相端子及びW相端子のいずれかにそれぞれ接続される。
[0016]この第1及び第2分割導体30、32では、一方の直線部22a、24aと他方の直線部22b、24bとが、互いに所定間隔離間して略平行に形成され、ステータコア14のスロット34に対してそれぞれ挿入される。なお、スロット34は、ステータコア14の周方向に沿って等間隔毎に複数設けられると共に、該ステータコア14の軸方向(矢印A1、A2方向)に沿って貫通して形成される。」

c.「[0017]この直線部22a、22b、24a、24bは、その軸方向(矢印A1、A2方向)に沿った長さが、ステータコア14の軸方向(矢印A1、A2方向)に沿った厚さ寸法より長く設定されている。そのため、直線部22a、22b、24a、24bがステータコア14の一端面14a側から2つのスロット34へとそれぞれ挿入された際、その他端部が前記ステータコア14の他端面14bに対して所定長さだけ突出する。」

d.「[0018]また、第1分割導体30における一対の直線部22a、22bの間の離間距離L1は、図2に示されるように、第2分割導体32における一対の直線部24a、24bの間の離間距離L2に対して大きく設定される。すなわち、第1分割導体30は、直線部22a、22bの間の離間距離L1が大きく、第2分割導体32は、直線部24a、24bの間の離間距離L2が前記第1分割導体30に対して小さく形成される(L1>L2)。」

e.「[0019]頂部26、28は、例えば、直線部22a、22b、24a、24bの一端部に対して所定角度だけ傾斜し、該直線部22a、22b、24a、24bから離間する方向に向かって延在している。そして、頂部26、28は、一方の直線部22a、24aに接続される部位と、他方の直線部22b、24bに接続される部位とが互いに所定角度傾斜し、且つ、互いに接近する方向に延在し、前記頂部26、28の中央部が最も高くなるように山状に形成される。なお、頂部26、28は、上述した山状に限定されるものではなく、例えば、円弧状の湾曲形状としてもよい。」

f.「[0020]そして、第1及び第2分割導体30、32は、図3及び図4に示されるように、互いの頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、前記第2分割導体32が前記第1分割導体30に対して内側、すなわち、ステータコア14側(矢印A1方向)となるように前記ステータコア14に装着される。また、第1分割導体30は、一対の直線部22a、22bのピッチ(離間距離L1)が大きいため、第2分割導体32の直線部24a、24bが挿入されるスロット34に隣接した周方向外側となる別のスロット34aにそれぞれ挿入される。
[0021]換言すれば、第2分割導体32は、第1分割導体30が配置されるスロット34aのピッチ内に配置される。
[0022]すなわち、図4に示されるように、第1分割導体30の直線部22a、22bと、第2分割導体32の直線部24a、24bとが、ステータコア14において周方向で異なるスロット34a、34に挿入される。」

g.「[0023]また、第1及び第2分割導体30、32は、図4及び図5に示されるように、それぞれ直線部22a、22b、24a、24bがステータコア14のスロット34a、34に挿入された状態で、前記スロット34a、34から突出した他端部を、前記ステータコア14の周方向に沿って捩じって折曲させることで第1及び第2接続部36、38がそれぞれ形成される。
[0024]この第1接続部36は、一対の直線部22a、22bに対して前記周方向外側にそれぞれ折曲した一組の端子部36aと、前記直線部22a、22bに対して周方向内側にそれぞれ折曲した一組の端子部36bとから構成される。
[0025]一方、第2接続部38は、一対の直線部24a、24bに対して周方向外側にそれぞれ折曲した一組の端子部38aと、前記直線部24a、24bに対して周方向内側にそれぞれ折曲した一組の端子部38bとから構成される。」

h.「[0028]そして、第1接続部36を構成する端子部36a、36bには、図6に示されるように、例えば、溶接等によって導線40aがそれぞれ接続され、隣接するスロット34aに装着された別の第1分割導体30の第1接続部36に対して電気的に接続される。第2接続部38を構成する端子部38a、38bにも同様に導線40bが接続され、隣接するスロット34に装着された別の第2分割導体32の第2接続部38に対して電気的に接続される。
[0029]これにより、ステータコア14に装着された複数の第1及び第2分割導体30、32が互いに導線40a、40bを介して電気的に接続され回路を構成することとなる。」

i.「[0032]また、図6に示されるように、第1分割導体30の直線部22a、22bは、同一の相で隣接する別の第1分割導体30の直線部22a、22bと同一のスロット34aにそれぞれ挿入される。一方、第2分割導体32の直線部24a、24bは、該第2分割導体32とは異なる相の別の第2分割導体32と同一のスロット34に挿入される。」

j.「[0037]さらにまた、導電体18を構成する第1及び第2分割導体30、32を同一の相としているため、前記第2分割導体32を、前記第1分割導体30の内側に配置し、且つ、互いの頂部26、28同士を近接させて配置することが可能となる。その結果、第1及び第2分割導体30、32のステータコア14の一端面14aに対する高さH(渡り高さ)を抑制することができ、ステータコア14を含む回転電機10の軸方向(矢印A1、A2方向)に沿った厚さを小型化することができる。また、同時に、ロータから滑らかにトルクを出力することができる。
[0038]またさらに、第1及び第2分割導体30、32は、ステータコア14の周方向に複数設けられ、前記周方向に隣接した前記第1分割導体30同士が互いの第1接続部36を介して接続され、一方、前記第2分割導体32同士が互いの第2接続部38を介してそれぞれ接続される。そのため、図6に示されるように、第1及び第2分割導体30、32から構成される導電体18を、ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置し、且つ、スロットに異なる相の第1及び第2分割導体30、32の配置された2層巻きとすることが可能となる。その結果、第1及び第2分割導体30、32のピッチを短縮することができ、ステータコア14の軸方向に沿った高さH(渡り高さ)を抑制することができる。」

k.記載事項a.によると、回転電機10はステータ12を有し、ステータ12はステータコア14と、スロット34に装着される複数の導電体18とを備えているといえる。
また、記載事項b.によると、ステータコア14は、スロット34を周方向に沿って等間隔毎に複数設けているといえ、導電体18は、U相端子、V相端子、及びW相端子のいずれかにそれぞれ接続される第1分割導体30及び第2分割導体32から構成されているといえる。
すると、回転電機10のステータ12は、スロット34を周方向に沿って等間隔毎に複数設けたステータコア14と、スロット34に装着され、U相端子、V相端子、及びW相端子のいずれかにそれぞれ接続される第1分割導体30及び第2分割導体32から構成される複数の導電体18とを備えているといえる。

l.記載事項b.によると、導電体18を構成する第1分割導体30及び第2分割導体32は、断面長方形状の平角導板が折曲された略U字状に形成され、一対の直線部22a、22b、24a、24bと、該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28を有しているといえる。
また、記載事項c.によると、一対の直線部22a、24a、22b、24bは、2つのスロット34へとそれぞれ挿入されるといえる。
さらに、記載事項j.によると、導電体18は、ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置されているといえる。
すると、導電体18は、断面長方形状の平角導板が折曲されて形成され、2つのスロット34へとそれぞれ挿入される一対の直線部22a、22b、24a、24bと、該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28と、を有する第1分割導体30及び第2分割導体32から構成され、ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置されているといえる。

m.記載事項e.によると、頂部26、28は、一方の直線部22a、24aに接続される部位と、他方の直線部22b、24bに接続される部位とが互いに所定角度傾斜し、且つ、互いに接近する方向に延在し、最も高くなる中央部を有しているといえる。

n.記載事項d.によると、第1分割導体30は、直線部22a、22bの間の離間距離L1が大きく、第2分割導体32は、直線部24a、24bの間の離間距離L2が第1分割導体30の離間距離L1に対して小さく形成されているといえる。

o.記載事項b.及びj.によると、第1分割導体30及び第2分割導体32は、U相端子、V相端子、及びW相端子のいずれかにそれぞれ接続され、同一の相とされているから、相ごとに設けられているといえる。
また、記載事項f.によると、第1分割導体30及び第2分割導体32は、互いの頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、第2分割導体32が第1分割導体30に対して内側となるように、ステータコア14に装着されているといえる。
同じく、記載事項f.によると、第1分割導体30は、一対の直線部22a、22bのピッチ(離間距離L1)が大きいため、第2分割導体32の直線部24a、24bが挿入されるスロット34に隣接した周方向外側となる別のスロット34aにそれぞれ挿入されるから、周方向に隣接した別のスロット34に第1分割導体30の直線部22a、22bと、第2分割導体32の直線部24a、24bとが挿入されるといえる。
すると、第1分割導体30及び第2分割導体32は、相ごとに、互いの頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、第2分割導体32が第1分割導体30に対して内側となるように、周方向に隣接した別のスロット34にそれぞれの直線部22a、22b、24a、24bが挿入されて、ステータコア14に装着されているといえる。

p.記載事項j.及び図6の図示内容によると、周方向に隣接した第1分割導体30の頂部26同士、及び周方向に隣接した第2分割導体32の頂部28同士は、それぞれ周方向にずらされているといえる。

以上の記載事項a.?p.によれば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

スロット34を周方向に沿って等間隔毎に複数設けたステータコア14と、前記スロット34に装着され、U相端子、V相端子、及びW相端子のいずれかにそれぞれ接続される第1分割導体30及び第2分割導体32から構成される複数の導電体18とを備えた回転電機10のステータ12において、
前記導電体18は、断面長方形状の平角導板が折曲されて形成され、2つのスロット34へとそれぞれ挿入される一対の直線部22a、22b、24a、24bと、該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28と、を有する第1分割導体30及び第2分割導体32から構成され、ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置され、
前記頂部26、28は、一方の直線部22a、24aに接続される部位と、他方の直線部22b、24bに接続される部位とが互いに所定角度傾斜し、且つ、互いに接近する方向に延在し、最も高くなる中央部を有し、
前記第1分割導体30は、前記直線部22a、22bの間の離間距離L1が大きく、前記第2分割導体32は、前記直線部24a、24bの間の離間距離L2が前記第1分割導体30の離間距離L1に対して小さく形成され、
前記第1分割導体30及び前記第2分割導体32は、相ごとに、互いの前記頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、前記第2分割導体32が前記第1分割導体30に対して内側となるように、周方向に隣接した別のスロット34にそれぞれの前記直線部22a、22b、24a、24bが挿入されて、前記ステータコア14に装着され、
周方向に隣接した第1分割導体30の頂部26同士、及び周方向に隣接した第2分割導体32の頂部28同士は、それぞれ周方向にずらされている回転電機10のステータ12。

(イ)本件特許発明1について
a.本件特許発明1と引用発明の対比
引用発明の「スロット34」及び「ステータコア14」は、それぞれ本件特許発明1の「スロット(31)」及び「固定子コア(30)」に相当するから、引用発明の「スロット34を周方向に沿って等間隔毎に複数設けたステータコア14」は、本件特許発明1の「周方向に配列された複数のスロット(31)を有する固定子コア(30)」に相当する。
引用発明の「導電体18」は、本件特許発明1の「相巻線(41U,41V,41W)」に相当するとともに、引用発明の「導電体18」を三相合わせたものが、本件特許発明1の「固定子巻線(40)」に相当する。すると、引用発明の「前記スロット34に装着され、U相端子、V相端子、及びW相端子のいずれかにそれぞれ接続される第1分割導体30及び第2分割導体32から構成される複数の導電体18」は、本件特許発明1の「前記スロットに収容されて前記固定子コアに巻装されたそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線(41U,41V,41W)よりなる固定子巻線(40)」に相当する。
引用発明の「回転電機10」及び「ステータ12」は、それぞれ本件特許発明1の「回転電機」及び「固定子(20)」に相当する
引用発明の「導電体18」は、本件特許発明1の「固定子巻線を構成する前記相巻線」にも相当する。
引用発明の「断面長方形状の平角導板」と、本件特許発明1の「導体(58)を覆う絶縁被膜(59)を有する断面形状が矩形の角線」とは、「導体を有する断面形状が矩形の角線」である点で共通する。
引用発明の「直線部22a、22b、24a、24b」及び「頂部26、28」は、それぞれ本件特許発明1の「スロット収容部(51C)」及び「ターン部(52A,52B)」に相当する。そして、引用発明の「該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28」は、「2つのスロット34へとそれぞれ挿入される一対の直線部22a、22b、24a、24b」の一端部同士を、スロット34の外部で接続するものであり、また、この「2つのスロット34」は、周方向に異なるスロットであることは明らかであるから、本件特許発明1の「周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部(52A,52B)」に相当する。すると、引用発明の「2つのスロット34へとそれぞれ挿入される一対の直線部22a、22b、24a、24bと、該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28と、を有する第1分割導体30及び第2分割導体32から構成され」るという事項は、本件特許発明1の「前記スロットに収容されるスロット収容部(51C)と、周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部(52A,52B)とを有」するという事項に相当する。
引用発明の「ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置され」るという事項において、波巻きと重ね巻きとで交互に配置するためには、第1分割導体30及び第2分割導体32の直線部22a、22b、24a、24bと、周方向に隣接した他の第1分割導体30及び第2分割導体32の直線部22a、22b、24a、24bのうち、他のスロット34へ挿入された直線部22a、22b、24a、24bとを電気的に接続する必要があることは明らかであるから、引用発明の「ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置され」るという事項と、本件特許発明1の「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという事項とは、「前記スロットに収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットに収容された前記スロット収容部とを電気的に接続して巻装され」る点で共通する。
引用発明において、「前記第1分割導体30は、前記直線部22a、22bの間の離間距離L1が大きく、前記第2分割導体32は、前記直線部24a、24bの間の離間距離L2が前記第1分割導体30の離間距離L1に対して小さく形成され」ていることを考慮すると、引用発明の「該直線部22a、22b、24a、24bの一端部同士を接続する頂部26、28」について、第1分割導体30の頂部26の長さは、第2分割導体32の頂部28の長さよりも長くなっていることは明らかであるから、「頂部26、28」は、2種類のものからなるといえる。すると、引用発明の「第1分割導体30」の「頂部26」、及び「第2分割導体32」の「頂部28」は、それぞれ本件特許発明1の「長ピッチターン部(52A)」及び「短ピッチターン部(52B)」に相当する。そして、引用発明の頂部26、28の「最も高くなる中央部」は、引用文献1の図4の図示内容を考慮すると、ステータコア14の軸方向の一端面14aから最も離間した部位であり、また、頂部26、28が周方向に延びていることを考慮すると、「最も高くなる中央部」も周方向に延びているといえるから、引用発明の「最も高くなる中央部」は、本件特許発明1の「頭頂部(53A,53B)」に相当する。すると、引用発明の「前記頂部26、28は、一方の直線部22a、24aに接続される部位と、他方の直線部22b、24bに接続される部位とが互いに所定角度傾斜し、且つ、互いに接近する方向に延在し、最も高くなる中央部を有し、前記第1分割導体30は、前記直線部22a、22bの間の離間距離L1が大きく、前記第2分割導体32は、前記直線部24a、24bの間の離間距離L2が前記第1分割導体30の離間距離L1に対して小さく形成され」るという事項は、本件特許発明1の「前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからなり、且つ前記固定子コアの軸方向端面(30a)から最も離間した部位に周方向に延びる頭頂部(53A,53B)を有」するという事項に相当する。
引用発明の「前記第1分割導体30及び前記第2分割導体32は、相ごとに、互いの前記頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、前記第2分割導体32が前記第1分割導体30に対して内側となるように、周方向に隣接した別のスロット34にそれぞれの前記直線部22a、22b、24a、24bが挿入されて、前記ステータコア14に装着され」るという事項において、第1分割導体30と第2分割導体32は、互いの頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、第2分割導体32が第1分割導体30に対して内側となるようにステータコア14に装着されており、また、第1分割導体30と第2分割導体32は、相ごとに、周方向に隣接した別のスロット34にそれぞれの前記直線部22a、22b、24a、24bが挿入されているから、引用文献1の図1?図5の図示内容も考慮すると、第2分割導体32の頂部28は、周方向に隣接する同相の第1分割導体30の頂部26の軸方向内側に収まっており、第2分割導体32の頂部28と第1分割導体30の頂部26とが軸方向に重なり合っているといえる。そうすると、第2分割導体32の頂部28と第1分割導体30の頂部26の「最も高くなる中央部」同士も軸方向に重なり合っており、第2分割導体32の頂部28における「最も高くなる中央部」の軸方向外側の面と、第1分割導体30の頂部26における「最も高くなる中央部」の軸方向内側の面とは、軸方向に対向しているといえる。すると、引用発明の「前記第1分割導体30及び前記第2分割導体32は、相ごとに、互いの前記頂部26、28同士を一直線上に一致させ、且つ、前記第2分割導体32が前記第1分割導体30に対して内側となるように、周方向に隣接した別のスロット34にそれぞれの前記直線部22a、22b、24a、24bが挿入されて、前記ステータコア14に装着され」るという事項は、本件特許発明1の「前記短ピッチターン部が前記短ピッチターン部と周方向に隣り合う同相の前記長ピッチターン部の軸方向内側に収まり、前記短ピッチターン部と前記長ピッチターン部の前記頭頂部同士が軸方向に重なり合うとともに、前記短ピッチターン部の前記頭頂部の軸方向外側面が前記長ピッチターン部の軸方向内側面と軸方向に対向するように配置され」るという事項に相当する。
引用発明の「周方向に隣接した第1分割導体30の頂部26同士、及び周方向に隣接した第2分割導体32の頂部28同士は、それぞれ周方向にずらされている」という事項は、周方向に隣接した第1分割導体30の頂部26の「最も高くなる中央部」同士、及び周方向に隣接した第2分割導体32の頂部28の「最も高くなる中央部」同士も、それぞれ周方向にずらされているといえるから、本件特許発明1の「周方向に隣接する前記頭頂部同士が、前記スロットの周方向ピッチよりも大きく周方向にずらされている」という事項と、「周方向に隣接する前記頭頂部同士が、周方向にずらされている」点で共通する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、
[一致点]
周方向に配列された複数のスロットを有する固定子コアと、前記スロットに収容されて前記固定子コアに巻装されたそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線よりなる固定子巻線と、を備えた回転電機の固定子において、
前記固定子巻線を構成する前記相巻線は、導体を有する断面形状が矩形の角線よりなるとともに、前記スロットに収容されるスロット収容部と、周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部とを有し、前記スロットに収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットに収容された前記スロット収容部とを電気的に接続して巻装され、
前記ターン部は、長ピッチターン部と短ピッチターン部の2種類のものからなり、且つ前記固定子コアの軸方向端面から最も離間した部位に周方向に延びる頭頂部を有し、
前記短ピッチターン部が前記短ピッチターン部と周方向に隣り合う同相の前記長ピッチターン部の軸方向内側に収まり、前記短ピッチターン部と前記長ピッチターン部の前記頭頂部同士が軸方向に重なり合うとともに、前記短ピッチターン部の前記頭頂部の軸方向外側面が前記長ピッチターン部の軸方向内側面と軸方向に対向するように配置され、
周方向に隣接する前記頭頂部同士が、周方向にずらされている回転電機の固定子。

以下の点で相違する。
[相違点1]
断面形状が矩形の角線について、本件特許発明1は、導体を「覆う絶縁被膜」を有するのに対し、引用発明は、そのような被膜を有するか明確でない点。

[相違点2]
相巻線について、本件特許発明1は、スロットの「内周側からN(Nは奇数)層目」に収容されたスロット収容部と、他のスロットの「内周側からN+1層目」に収容されたスロット収容部とを接続する「波巻きにて」巻装されているのに対し、引用発明は、一対の直線部22a、22b、24a、24bがスロット34のどの層に配置されるのか不明であり、また、波巻きと重ね巻きとで交互に配置されている点。

[相違点3]
周方向に隣接する頭頂部同士の周方向のずれについて、本件特許発明1は、「スロットの周方向ピッチよりも大き」いのに対し、引用発明は、どの程度ずれているか明確でない点。

b.判断
事案に鑑みて、[相違点2]から検討する。
回転電機の固定子の巻線において、コイルエンド部における巻線の干渉防止や、コンパクト化のために、コイルエンド部の頭頂部に径方向に折り曲がるクランク部が設けられ、このクランク部の両側から延びスロットに収容される部分が、スロットにおける内周側からの層番が異なる層にそれぞれ収容されるとともに、これらが接続される波巻きにて巻装されるものは、本件特許の出願前から周知の事項である(例えば、引用文献2の段落【0064】、【0065】、【0094】、図15,16、引用文献4の段落【0046】、【0048】、【0053】、図2,15参照)。
しかしながら、回転電機の固定子の巻線を、スロットの内周側から奇数(N)層目に収容されたスロット収容部と、他のスロットの内周側から偶数(N+1)層目に収容されたスロット収容部とが接続された波巻きとすること、つまり、スロットの内周側から1層目(3層目又は5層目等)に収容されたスロット収容部と、2層目(4層目又は6層目等)に収容されたスロット収容部とが接続され、2層目(4層目等)に収容されたスロット収容部と、3層目(5層目等)に収容されたスロット収容部とは接続されない波巻きとすることについては、本件特許の出願前から周知の事項であるとはいえず、引用文献2?引用文献5のいずれにも、何ら記載も示唆もされていない。
そして、前記(ア)の記載事項j.によると、引用発明は、第1分割導体30及び第2分割導体32のピッチを短縮するために、導体体18を「ステータコア14に対して波巻きと重ね巻きとで交互に配置」しているものであるが、仮に、スロット34の内周側からN(Nは奇数)層目に直線部22a、22b、24a、24bを収容し、他のスロット34の内周側からN+1層目に直線部22a、22b、24a、24bを収容し、これらを接続する波巻きを採用しようとした場合、引用文献1の図6に図示される第1分割導体30及び第2分割導体32の配置では、各直線部22a、22b、24a、24bを波巻きで接続することはできないと解されるから、各直線部22a、22b、24a、24bが挿入されるスロット34の位置や、各相の第1分割導体30及び第2分割導体32の配置等を変更する必要が生じる。また、引用文献1の図6によると、引用発明の第1分割導体30の直線部22a、22b間のピッチは6スロットピッチであり、第2分割導体32の直線部24a、24b間のピッチは4スロットピッチであるところ、本件特許明細書の段落【0044】の記載によると、スロット収容部を波巻きで接続した本件特許発明1の実施形態では、長ピッチターン部52Aが7スロットピッチ、短ピッチターン部52Bが5スロットピッチであることを考慮すると、引用発明において、スロット34の内周側からN(Nは奇数)層目に直線部22a、22b、24a、24bを収容し、他のスロット34の内周側からN+1層目に直線部22a、22b、24a、24bを収容し、これらを接続する波巻きを採用したとしても、第1分割導体30及び第2分割導体32のピッチを短縮できるとはいえず、かえって、第1分割導体30及び第2分割導体32のピッチが大きくなる可能性がある。そうすると、引用発明において、スロット34の内周側からN(Nは奇数)層目に直線部22a、22b、24a、24bを収容し、他のスロット34の内周側からN+1層目に直線部22a、22b、24a、24bを収容し、これらを接続する波巻きを採用する動機付けは存在せず、むしろ、第1分割導体30及び第2分割導体32のピッチを短縮するという課題に反し、当該ピッチを増加させる可能性すらあるといえるから、当該採用を阻害する理由が存在するといえる。
さらに、本件特許発明1は、「回転電機の固定子」において、「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという発明特定事項を備えることも相まって、固定子巻線のコイルエンド部を形成するターン部において、絶縁皮膜の損傷が発生した際に沿面放電の発生を防止し得るという作用効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0011】参照。)。このような作用効果については、引用文献1?引用文献5のいずれにも、何ら示唆されていないから、引用発明、引用文献2?引用文献5に記載されたような周知の事項から当業者が予測できるものではない。
すると、本件特許発明1の前記相違点2に係る発明特定事項は、当業者といえども、引用発明、引用文献2?引用文献5に記載されたような周知の事項に基づき、容易に想到できるものではない。

c.まとめ
前記「b.」に示したように、本件特許発明1の前記相違点2に係る発明特定事項は、当業者といえども、引用発明、引用文献2?引用文献5に記載されたような周知の事項に基づき、容易に想到できるものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者といえども、引用発明、引用文献2?引用文献5に記載されたような周知の事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件特許発明3,4について
請求項3,4は、直接的に又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件特許発明3及び本件特許発明4も「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという発明特定事項を備えるものであるから、前記(イ)で検討した本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明3及び本件特許発明4は、当業者といえども、引用発明、引用文献2?引用文献5に記載されたような周知の事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

イ.実施可能要件について
本件訂正前の請求項2には、「前記相巻線は、前記スロットの内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部同士を電気的に接続する波巻きにて巻装され」ると記載され、Nが偶数のものを含むものであったが、発明の詳細な説明の記載には、スロットの内周側から1、3又は5層目に収容されたスロット収容部と、他のスロットの内周側から2、4又は6層目に収容されたスロット収容部とを、それぞれ電気的に接続すること、つまり、奇数(N)層のスロット収容部と、偶数(N+1)層のスロット収容部を接続することは示唆されているが、2層目と3層目、4層目と5層目のスロット収容部をそれぞれどのように接続するか、つまり、偶数(N)層のスロット収容部と、奇数(N+1)層のスロット収容部をどのように接続するかについては、何ら記載も示唆もされていない。また、スロット収容部を6層収容可能なスロットにおいて、Nが6をとり得るとすれば、6層目のスロット収容部とN+1層目のスロット収容部とを接続するとは、どのような接続を意図しているのかが発明の詳細な説明を参酌しても不明である。
しかしながら、本件訂正請求における訂正事項1及び訂正事項2についての訂正により、訂正前の請求項2の記載から「前記相巻線は、前記スロットの内周側からN(Nは1以上の自然数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部同士を電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという記載が削除され、訂正後の請求項2が引用する訂正後の請求項1の記載において、「前記相巻線は」、「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るとの記載が追加された。これにより、Nは奇数に限定され、2層目と3層目、4層目と5層目のスロット収容部が接続されること、つまり、偶数(N)層のスロット収容部と、奇数(N+1)層のスロット収容部とが接続されることはなくなり、また、スロット収容部を6層収容可能なスロットにおいて、6層目のスロット収容部は5層目のスロット収容部と接続されるものとなった。そして、発明の詳細な説明には、前記したように、奇数(N)層のスロット収容部と、偶数(N+1)層のスロット収容部を接続することは示唆されているのだから、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、同様に、請求項2を直接的に又は間接的に引用する請求項3,4に係る本件特許発明3,本件特許発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.本件特許発明2の進歩性について
請求項2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明2も「前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され」るという発明特定事項を備えるものであるから、前記「第4 2.(2)ア.(イ)」で検討した本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2は、当業者といえども、引用発明、引用文献2?引用文献5に記載されたような周知の事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1?4に係る特許を取り消す理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配列された複数のスロット(31)を有する固定子コア(30)と、前記スロットに収容されて前記固定子コアに巻装されたそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線(41U,41V,41W)よりなる固定子巻線(40)と、を備えた回転電機の固定子(20)において、
前記固定子巻線を構成する前記相巻線は、導体(58)を覆う絶縁被膜(59)を有する断面形状が矩形の角線よりなるとともに、前記スロットに収容されるスロット収容部(51C)と、周方向に異なる前記スロットに収容された前記スロット収容部同士を前記スロットの外部で接続しているターン部(52A,52B)とを有し、前記スロットの内周側からN(Nは奇数)層目に収容された前記スロット収容部と、他の前記スロットの内周側からN+1層目に収容された前記スロット収容部とを電気的に接続する波巻きにて巻装され、
前記ターン部は、長ピッチターン部(52A)と短ピッチターン部(52B)の2種類のものからなり、且つ前記固定子コアの軸方向端面(30a)から最も離間した部位に周方向に延びる頭頂部(53A,53B)を有し、
前記短ピッチターン部が前記短ピッチターン部と周方向に隣り合う同相の前記長ピッチターン部の軸方向内側に収まり、前記短ピッチターン部と前記長ピッチターン部の前記頭頂部同士が軸方向に重なり合うとともに、前記短ピッチターン部の前記頭頂部の軸方向外側面が前記長ピッチターン部の軸方向内側面と軸方向に対向するように配置され、
周方向に隣接する前記頭頂部同士が、前記スロットの周方向ピッチよりも大きく周方向にずらされていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
延伸方向長さの異なる2種類の前記ターン部の前記頭頂部は、それぞれ異なる成形型で押圧成形することにより形成された径方向に折れ曲がるクランク部(54A,54B)を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
前記ターン部は、前記頭頂部の両側に形成されて前記固定子コアの軸方向端面に対して所定の角度で傾斜した斜行部(55A,55B)と、前記斜行部と前記スロット収容部との間に形成された立ち上がり部(56A,56B)とを有し、前記立ち上がり部は成形型で押圧成形することによってくの字形状に曲げ加工されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
前記固定子コアの前記スロットは、前記固定子巻線の一極一相当たり2個の割合で形成され、前記ターン部の基準となる延伸方向長さをM(Mは2以上の自然数)スロットピッチとしたときに、M-1スロットピッチの前記ターン部(52B)とM+1スロットピッチの前記ターン部(52A)が軸方向に重なり合っていることを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載の回転電機の固定子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-03 
出願番号 特願2015-30647(P2015-30647)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H02K)
P 1 651・ 536- YAA (H02K)
P 1 651・ 121- YAA (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三島木 英宏  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 柿崎 拓
久保 竜一
登録日 2018-09-07 
登録番号 特許第6394972号(P6394972)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 回転電機の固定子  
代理人 特許業務法人共立  
代理人 特許業務法人 共立  
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