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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16K
管理番号 1364932
異議申立番号 異議2020-700264  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-15 
確定日 2020-07-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6601013号発明「弁装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6601013号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6601013号の請求項1?10に係る特許(以下,「本件特許」という。)についての出願は,平成27年6月29日に出願され,令和元年10月18日にその特許権の設定登録がされ,令和元年11月6日に特許掲載公報が発行された。その後,本件特許に対し,令和2年4月15日に特許異議申立人角田欣也は,特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って,「本件発明1」などという。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の流路側ポートを有する流体処理装置に装着される弁装置であって,
弁室を区画するとともに前記弁室と前記複数の流路側ポートとをそれぞれ個別に連通させるための複数の弁側ポートが形成された弁本体と,
前記複数の弁側ポートの少なくとも1つを開閉する弁体と,
前記弁本体と前記流体処理装置との間に装着されるガスケットとを含み,
前記弁本体は,前記流体処理装置への装着面を有し,前記装着面には,前記ガスケットを装着するための凹部が形成され,前記複数の弁側ポートはそれぞれ前記弁室から前記凹部を貫通して形成されており,
前記ガスケットは,弾性材料によって形成され,前記凹部の深さよりも大きな厚みを有しており,前記凹部への装着状態において,前記複数の流路側ポートと前記複数の弁側ポートとをそれぞれ個別に連通させるための空間を提供する複数の貫通孔を有し,
前記複数の貫通孔はそれぞれ,前記ガスケットの厚さ方向から視て,前記貫通孔に連通している前記弁側ポートの開口部を包摂するとともに,前記開口部の外側領域に拡張した孔輪郭を有することを特徴とする弁装置。
【請求項2】
各貫通孔の前記孔輪郭が,前記ガスケットの厚さ方向から視て,前記貫通孔に連通している前記弁側ポートの前記開口部の輪郭線から外方に離間している請求項1記載の弁装置。
【請求項3】
各貫通孔の前記孔輪郭は,楕円状又は長円状である請求項1又は2記載の弁装置。
【請求項4】
前記複数の弁側ポートの各ポート中心は,前記ガスケットの厚さ方向から視て,同一直線上に並んで配置され,各貫通孔の前記孔輪郭は,各ポート中心が並ぶ方向に沿って長い楕円状又は長円状である請求項3記載の弁装置。
【請求項5】
前記弁本体には3つの弁側ポートが形成され,前記弁体は,前記弁本体と共に前記弁室を区画するダイアフラムを含むとともに,支持軸を中心としてシーソー状に揺動して前記3つの弁側ポートのうちの2つの弁側ポートを開閉するように構成されている請求項1又は2記載の弁装置。
【請求項6】
前記2つの弁側ポートに連通する各貫通孔の前記孔輪郭は,前記支持軸に垂直な方向である前記弁本体の長手方向に沿って長い楕円状又は長円状である請求項5に記載の弁装置。
【請求項7】
前記3つの弁側ポートの各ポート中心は,前記ガスケットの厚さ方向から視て,同一直線上に並んで配置され,各貫通孔の前記孔輪郭は,前記支持軸に垂直な方向である前記弁本体の長手方向に沿って長い楕円状又は長円状である請求項6に記載の弁装置。
【請求項8】
前記3つの弁側ポートのうち,前記2つの弁側ポートとは異なる残余の弁側ポートに連通する前記貫通孔の前記孔輪郭は,前記支持軸に平行な方向である前記弁本体の短手方向に拡張されている請求項6に記載の弁装置。
【請求項9】
前記弁体を駆動する駆動手段をさらに具える請求項1乃至8のいずれかに記載の弁装置。
【請求項10】
前記駆動手段は,電磁力を発生するコイルを含む請求項9記載の弁装置。」

第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人角田欣也が主張する特許異議申立ての理由の概要は次のとおりである。
請求項1?10に係る特許は,甲第1号証(以下,証拠の番号に従って「甲1」などという。)に記載された発明,甲2に記載された事項,甲3に記載された事項,甲4?甲7に示される周知技術,及び,甲8に示される周知技術に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって,請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,取り消すべきものである。
(証拠方法)
甲1:特開2005-163924号公報
甲2:特開2015-64015号公報
甲3:実開平6-82522号のCD-ROM
甲4:特開2004-44634号公報
甲5:実開平6-30578号のCD-ROM
甲6:特表2008-510950号公報
甲7:特開平10-169859号公報
甲8:特開平3-189487号公報

第4 文献の記載
1 甲1について
(1)甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下,同様である。)
ア 「【0001】
本発明は,流体の流れ方向を制御することが可能な小型電磁弁とその弁部構造に関する。」
イ 「【0010】
しかしながら,従来の小型電磁弁100は,ストローク調整機能がなく,Cv値がばらついていた。小型電磁弁100は,ダイアフラム107が第1弁座106a及び第2弁座106bから離間する距離,すなわち,ストロークを制御することにより,流体流量を数μL?数十μL程度の極微小流量に制御する。小型電磁弁100は,流体を微流量調整するために構成部品の寸法が小さく,歩留まり等との関係上,寸法公差なく部品を製造することが難しかった。一方,小型電磁弁100は,ダイアフラム100を弁ブロック101と流路ブロック102で直接狭持し,ストローク調整を行っていなかった。そのため,部品の寸法公差が生じると,ダイアフラム107のストロークに直接影響し,Cv値のばらつきを生じさせていた。特に,小型電磁弁100は,上述したように数μL?数十μL程度の極微小な流量を制御するため,ダイアフラム107のストロークが0.2?0.3mm異なるだけでも問題になる。」
ウ 「【0011】
これに対し,Cv値のばらつきを解消するために,ソレノイド部111の駆動力を大きくして,ダイアフラム組立104の揺動量を大きくすることが考えられる。この場合,ダイアフラム107のストロークを大きく確保してコンダクタンスを小さくできるので,Cv値のばらつきを小さくすることが可能である。ところが,ソレノイド部111の駆動力を大きくするためには,ソレノイド部111が大型になり,装置サイズが大きくなる問題がある。」
エ 「【0012】
本発明は,上記問題点を解決するためになされたものであり,Cv値のばらつきを小さくできる安価でコンパクトな小型電磁弁を提供することを目的とする。」
オ 「【0022】
次に,本発明に係る小型電磁弁及びその弁部構造の一実施の形態について図面を参照して説明する。図1は,小型電磁弁1の断面図であって,非通電状態を示す。図2は,小型電磁弁1の断面図であって,通電状態を示す。図3は,図1のX部拡大図である。図4は,弁部の分解斜視図である。図5は,ダイアフラム組立9Aの斜視図である。
図1及び図2に示す小型電磁弁1は,従来技術と同様に,液体分析装置50(図15参照)に使用される。小型電磁弁1は,流路ブロック2,弁ブロック3,ケーシング4を連結して外観が形成されている。小型電磁弁1は,ダイアフラム組立9Aが駆動手段の駆動力で揺動し,ダイアフラム11Aを流路ブロック2の第1弁座6a又は第2弁座6bに当接又は離間させることにより,第1ポート5aと第2ポート5bと第3ポート5cとの連通状態を切り替えるようになっている。かかる小型電磁弁1は,図3に示すように,スペーサ(「ストローク調整部材」に相当するもの。)30によりダイアフラム11Aのストロークを調整するようになっている。」
カ 「【0023】
図1及び図2に示すように,流路ブロック2には,第1ポート5a,第2ポート5b,第3ポート5cとが等間隔に形成され,第1ポート5aと第3ポート5cの開口部に第1弁座6aと第2弁座6bが円筒状に突設されている。」
キ 「【0024】
流路ブロック2と弁ブロック3は,図3及び図4に示すようにネジ29で固定され,弁部を構成している。流路ブロック2と弁ブロック3との間には,スペーサ30が後述するように決定された枚数で介在している。」
ク 「【0025】
弁ブロック3は,図1及び図2に示すように,流路ブロック2が当接する側面(図中下端面)から,ダイアフラム組立9Aを収納するための凹部7が第2ポート5bと同軸上に形成されている。弁ブロック3は,平行ピン8が架設され,ダイアフラム組立9Aを凹部7内で揺動可能に軸支している。ダイアフラム組立9Aは,揺動部材10の端面にダイアフラム11Aをインサート成形などにより固着したものである。ダイアフラム11Aは,図5に示すように略楕円形状に成形され,外縁部に沿ってリブ12Aが揺動部材10側に立設されている。ダイアフラム組立9Aは,ダイアフラム11Aのリブ12Aが流路ブロック2と弁ブロック3との間で押し潰されて狭持され,凹部7を気密に区画して弁室13を形成している。従って,第2ポート5bは,弁室13と第1弁座6aを介して第1ポート5aと連通し,弁室13と第2弁座6bを介して第3ポート5cと連通する。そして,第1?第3ポート5a,5b,5cは,揺動部材10が揺動してダイアフラム11Aを第1弁座6a又は第2弁座6bに相対的に当接又は離間させることにより,連通状態が切り替えられる。」
ケ 「【0026】
かかる弁ブロック3には,流路ブロック2が当接する側面(図中下端面)と反対の側面(図中上端面)から,第1中空孔14と第2中空孔15が第1ポート5aと第3ポート5bと同軸上に形成され,駆動手段16が取り付けられている。」
コ 「【0027】
駆動手段16は,ダイアフラム組立9Aに作用する第1バネ23と第2バネ26の圧力バランスをソレノイドで変動させることにより,ダイアフラム組立9Aを揺動させるよう構成されている。
駆動手段16は,ソレノイドを駆動源とし,中空円筒形状のコイルボビン17に電磁コイル18が巻回されている。コイルボビン17は,一端開口部に固定鉄心19が固設され,他端開口部から可動鉄心20が摺動可能に装填されている。従って,電磁コイル18にリード線21を介して電流を供給すると,固定鉄心19が吸引力を発生し,可動鉄心20を図中A方向に移動させる。尚,リード線21と電磁コイル18との間に電圧を制御する回路基板を配設してもよい。」
サ 「【0028】
かかるソレノイドは,磁気回路を形成するための非磁性部材22を介して弁ブロック3に取り付けられている。可動鉄心20は,先端部が非磁性部材22を貫いて弁ブロック3の第1中空孔14に突き出し,弁ブロック3の中空孔14に摺動可能に装填された変位部材24に当接している。可動鉄心20の先端部と非磁性部材22との間には,第1バネ23が縮設され,可動鉄心20に図中B方向の力を常時作用させるため,変位部材24は第1バネ23の弾圧力によって図中B方向に押し下げられ,先端部がダイアフラム組立9Aの揺動部材10に突き当てられている。また,弁ブロック3の第2中空孔15には,押圧部材25が摺動可能に装填され,押圧部材25との間で第2バネ26を押し縮めるように保持板27が固定されている。そのため,押圧部材25は,第2バネ26の弾圧力で図中B方向に押し下げられ,先端部がダイアフラム組立9Aの揺動部材10に突き当てられている。従って,ダイアフラム組立9Aには,平行ピン8を挟んだ対称位置に第1バネ23と第2バネ26の弾圧力が常時作用している。」
シ 「【0029】
ここで,第2バネ26は,第1バネ23より弾圧力が小さく設定されている。そのため,小型電磁弁1は,非通電時には,第1バネ23の弾圧力が第2バネ26に打ち勝ち,可動鉄心20が変位部材24を図中B方向に押し下げて揺動部材10を傾かせる。これにより,ダイアフラム組立9Aは,ダイアフラム11Aが第1弁座6aに当接して第1ポート5aと第2ポート5bとを遮断する一方,第2弁座6bから離間して第2ポート5bと第3ポート5cとを連通させる。」
ス 「【0030】
こうした小型電磁弁1は,流体漏れを防止するためのゴムパッキン28が流路ブロック2に取り付けられ,第1ポート5aに図15の純水ポンプ51が接続され,第2ポート5bに図15のシリンジポンプ52が接続され,第3ポート5cに図15の反応セル53が接続される。これにより,小型電磁弁1が液体分析装置50に組み付けられる。」
セ 「【0031】
そして,小型電磁弁1の電磁コイル18に通電すると,可動鉄心20が第1バネ23に抗して図中A方向に上昇する。第1バネ23は,可動鉄心20に押し縮められて弾圧力が低下する。第1バネ23の弾圧力が第2バネ26より小さくなると,ダイアフラム組立9Aが押圧部材25により図中B方向に押し下げられて揺動する。これに伴って,ダイアフラム11Aは,第1弁座6aから離間して第1ポート5aと第2ポート5bとを連通させる一方,第2弁座6bに当接して第2ポート5bと第3ポート5cとを遮断し,第1?第3ポート5a,5b,5cの連通状態を切り替える。これにより,液体分析装置50では,純水ポンプ51からシリンジポンプ52に流体が数μL?数十μLずつ充填される(図15参照)。」
ソ 「【0032】
その後,電磁コイル18への通電を停止すると,可動鉄心20が第1バネ23に押し下げられて図中B方向に下降する。可動鉄心20が下降するに従って第1バネ23の弾圧力が増加し,第2バネ26の弾圧力より大きくなる。そのため,ダイアフラム組立9Aは変位部材24によって図中B方向に押し下げられ,第2バネ26に抗して押圧部材25を図中A方向に押し上げながら揺動する。これに伴って,ダイアフラム11Aは,第1弁座6aに当接して,第1ポート5aと第2ポート5bとを遮断する一方,第2弁座6bから離間して,第2ポート5bと第3ポート5cとを連通させ,第1?第3ポート5a,5b,5cの連通状態を切り替える。これにより,液体分析装置50では,シリンジポンプ52から反応セル53に流体が数μL?数十μLずつ注入される(図15参照)。」
タ 「【図1】


チ 「【図4】


ツ 「【図15】



テ 図1及び図4によると,ゴムパッキン28は,流路ブロック2の下端面に溝部を介して取り付けられ,溝部の深さよりも大きな厚みを有していることが看取できる。
ト 記載事項ス及び図1,15から,液体分析装置50は,小型電磁弁1と,前記小型電磁弁1と接続される純水ポンプ51,シリンジポンプ52,反応セル53を含む部分(以下,「液体分析装置50の小型電磁弁以外の部分」という。)とから構成されているといえる。
(2)以上の記載事項ア?トによれば,甲1には以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「液体分析装置50の小型電磁弁以外の部分と接続される小型電磁弁1であって,
弁室13を区画するとともに,流路ブロック2には,前記弁室13と前記純水ポンプ51,前記シリンジポンプ52,前記反応セル53を個別に連通させるための第1ポート5a,第2ポート5b,第3ポート5cが形成された,弁ブロック3及び流路ブロック2と,
前記第1ポート5a,前記第2ポート5b,前記第3ポート5cのうち,前記第1ポート5a及び前記第3ポート5cを開閉するダイアフラム組立9Aと,
前記流路ブロック2の下端面に装着されるゴムパッキン28とを含み,
前記流路ブロック2の下端面には,前記ゴムパッキン28を装着するための溝部が形成され,
前記ゴムパッキン28は,前記溝部の深さよりも大きな厚みを有している小型電磁弁1。」

2 甲2について
甲2には以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項5】
シールされる被シール部材間に配置される基板と,前記基板に形成された通路開口と,前記基板の外周縁部および前記通路開口の縁部にそれぞれ設けられた弾性シール材とを有していることを特徴とするガスケット」
イ 「【0001】
本発明は,注入された流体を複数の吐出口から分配する分配弁に関し,詳しくは注入される流体にて複数のピストンが順次駆動され,順に複数の吐出口から流体が送り出される分配弁およびガスケットに関する。」
ウ 「【0002】
大形トラックやバスや建設機械や産業用機械などでは,軸受部など多くの被潤滑部に供給するため,分配弁を用いて各部に潤滑剤(流体)を分配することが行われている。
こうした分配弁は,1個所から多くの被潤滑部へ分配する要望が多い。そのため,多口数の分配弁には,特許文献1の図1にも開示されているように柱形のアルミダイキャスト製の本体に,注入口や,2列で長手方向に並行に配置した複数本のピストンや,ピストン毎の吐出口や,供給ポンプから注入される潤滑剤で各ピストンを順次駆動させて潤滑剤を各吐出口から順に送り出す潤滑剤路を設けた一体成形品が用いられる。」
エ 「【0004】
このような1つのブロックで形成される分配弁は,潤滑剤を分配する吐出口の数量が,例えば8口などを基準として一義的に定められている。このため,例えば8個を越える被潤滑部へ,潤滑剤の供給が求められるときは,1つの分配弁では対処できないため,例えば8口の吐出口を有する分配弁に,補助金具や配管部材などを用いて,別途,複数個の分配弁を接続して,分配する口数を増やしている。
ところが,一体成形品の分配弁は,コスト的に高価な製品なので,このように口数を多くするために,一体成形品の分配弁を複数個用いると,求められる分配はできても,かなりコスト的な負担が強いられる。しかも,複数の分配弁を設置するための設置スペースが必要となるうえ,別途,補助金具や配管部材が必要となる問題もある。」
オ 「【0005】
そこで,本発明の目的は,1つの製品で多くの分配個所に適宜,対応可能とした分配弁およびガスケットを提供することにある。」
カ 「【0014】
縦形の分配弁は,図1?図4に示されるように最上部に配置されるトップブロック1(本願の第1ブロック部に相当)と,最下部に配置されるベースブロック30(本願の第2ブロック部に相当)と,これらトップブロック1とベースブロック30との間に介在される中間ブロック60(本願の第3ブロック部に相当)とに分かれていて,これらを重ね合わせることにより,全体が構成される。特に中間ブロック60は,例えば同じ構造(共通)で構成され,選択可能な個数が用意されている。中間ブロックは複数個,図4では例えば3つの中間ブロック60が用意されている。なお,トップブロック1,ベースブロック30,中間ブロック60は,いずれも本願の被シール部材に相当する(請求項5)。」
キ 「【0016】
図1?図3は,同構造を用いて分配口数を,例えば基準となる8口から,12口に増やしたときの分配弁が示されている。図5には,同分配弁の分解図,図6?図8には,同分配弁の各部たるトップブロック1,中間ブロック60,ベースブロック30の平断面図が示されている。図9および図10は,そのブロック間に配置されるガスケット2の平面図および断面図が示されている。図12は,同分配弁を,図2中のG?G線から展開した,各トップブロック1,中間ブロック60,ベースブロック30の連続した断面が示されている。また図11は,同分配弁内における潤滑剤の経路が概略的に示されている。」
ク 「【0033】
また各ブロック1,60,30間に配置されるシール部であるところのガスケット2は,図9および図10に示されるように例えば角形の平板部材100(本願の基板部,基板に相当)の各部に,弾性シール部を形成する,ゴム,プラスチック等の弾性部材101をコーティングして構成される。具体的には,ガスケット2は,平板部材100の中央部に注入口7方向(前後方向)に延びる細長の通路開口103やその通路開口103の周りに同方向と直交する方向(左右方向)に延びる複数の通路開口,ここでは例えば左右二組の細長の通路開口105を設けている。
弾性部材101は,平板部材100の外周縁部,通路開口103,105の開口縁部などに設けられ,重なるブロック間(トップブロック1,中間ブロック60,ベースブロック30の両者間)をシールする。ちなみに平板部材100の四隅側には,ボルト挿通孔28dが設けられている。」
ケ 「【0034】
そして,各ガスケット2の中央に配置された細長の通路開口103にて,図11中の各α1地点のように各ブロック1,60の中央に配置された通孔9,9aと中継孔21a,23a,51a,53a,81a,83a,91a,93aとの間をそれぞれ連通している。
また通路開口103周辺の4個の細長の通路開口105にて,図11中の各α2地点のようにガスケット2を挟んで両側に隣接するブロック間を連通する通路を形成している。この通路により,ガスケット2を挟んで厚み方向に隣接して配置される各ピストン間を,三次元でなく,二次元的に連通している(図12)。具体的には,通路開口105にて,ブロック1,60,30間に隙間通路106(本願の通路に相当)が形成され,同隙間通路106を介して,ブロックの厚み方向に延びる通孔で形成された中継孔21b,23bと中継孔83b,81b間を連通したり,中継孔91b,93bと中継孔51b,53b間を連通している。つまり,左右方向や縦方向に延びるといった二次元方向の通路(α2地点)にて,ガスケット2を挟んで隣接したピストン間を連通している。」
コ 「【0038】
図12の展開図を参照して,このようにして組み立てられた12口の分配弁の作用を参照して説明する。
今,注入口7に潤滑剤供給ポンプ(図示しない)をつなぎ,各吐出口を軸受など各種被潤滑部分(図示しない)につなぎ,潤滑剤供給ポンプの運転により潤滑剤(グリースなど)を吐出する。すると,同ポンプからの潤滑剤は,逆止弁5aを通じて,図12中の点群のように,まず通孔9,9aや各段のガスケット2の通路開口103を通り,各種中継孔や各種段部を経て,各ピストン15a,15b,45a,45b,75a,75bの各押圧室の片側へ導かれ,押圧室のうちの一方,例えば図12中の点群に示されるようにピストン15aの押圧室16b,ピストン75aの押圧室76a,ピストン45bの押圧室76b,ピストン15bの押圧室16aが順に潤滑剤で押圧される。」
サ 「【0039】
すると,圧入された潤滑剤は,当初の行き場を失うと,今度は図12中の点群のようにピストン75aの段差部77a,中継孔91b,隙間通路106,中継孔53bを通じて,ピストン45aの押圧室46bへ進入し,ピストン45aを図12中の矢印aのように変位させる。すると,押圧室46aの潤滑剤は,押し出される。このピストン45aの摺動変位に応じた量の潤滑剤は,中継孔53b,隙間通路106,中継孔91b,ピストン75aの環状溝77bを通じて,吐出孔79cから吐出される(定量)。続いてピストン45aの変位による流路の切換えにより,開放する中継孔57を通じて,ピストン45bの押圧室46bへ潤滑剤が進入し,図12中の矢印bのようにピストン45bが反対側に変位され,押圧室46aの潤滑剤が,中継孔57,小径部44aを通じて,吐出孔49cから吐出される(定量)。」
シ 「【0040】
続いてピストン45bの変位による流路の切換えにより,ピストン75bの押圧室76aへ向かう経路が形成され,ピストン75bの押圧室76aへ潤滑剤が進入する。すると,図12中の矢印cのようにピストン75bが反対側に変位され,押圧室76bの潤滑剤が中継孔93b,隙間通路106,中継孔51b,環状溝47bを通じて,吐出孔49bから吐出される(定量)。」
ス 「【0041】
同様に流路の切換えにより,図12中の矢印d?fのようにピストン15b,15a,75aの順で変位し,残る吐出孔79a,19d,19a,79dから,順に潤滑剤が吐出される(定量)。こうした各ピストン15a,15b,45a,45b,75a,75bの摺動変位(切換え)は,潤滑剤が吐出される毎,順次に繰り返し行われ,ピストンの変位に応じた定量の潤滑剤が,各吐出口から各種被潤滑部へ送り出される。つまり,潤滑剤は,各12個の吐出口から,定量ずつ分配されて,潤滑を必要とする12個所へ送り出される。」
セ 「【0049】
なお,各実施形態における各構成およびそれの組合わせ等は一例であり,本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で,構成の付加,省略,置換,およびその他の変更が可能であること。また本発明の実施形態によって限定されることはなく,「特許請求の範囲」によってのみ限定されることはいうまでもない。例えば一実施形態では,ブロック片毎,2つのピストンを並行に配置する構造を挙げたが,これに限らず,3つピストン,それ以上の数量のピストンを並行に配置する構造でも構わない。吐出口もピストン毎に2つでなく,それ以上の数量でも構わない。むろん,分配する流体も潤滑剤でなく,他の流体でもよい。また一実施形態では,シール部を,ガスケットといった別体な部品から形成した例を挙げたが,ブロック片に一体に形成されるシール部でも構わない。またガスケットの弾性部材(弾性シール材)は,平板部材の外周縁部,通路開口の開口縁部だけでなく,例えば平板部材の側面全体をコーティングさせてもよい。」
ソ 「【図9】


タ 「【図11】


チ 「【図12】


ツ 図9,11,12によれば,トップブロック1と中間ブロック60との間において,孔の位置が異なるトップブロック1の中継孔21bと中間ブロック60の中継孔83b,及び,トップブロック1の中継孔23bと中間ブロック60の中継孔81bが,ガスケット2に設けられた通路開口105によって形成される隙間通路106によってそれぞれ連通する点,同様に,中間ブロック60とベースブロック30との間において,孔の位置が異なる中間ブロックの中継孔91bとベースブロック30の中継孔53b,及び,中間ブロックの中継孔93bとベースブロック30の中継孔51bが,ガスケット2に設けられた通路開口105によって形成される隙間通路106によってそれぞれ連通する点が看取できる。

以上の記載事項ア?ツによれば,甲2には以下の事項が記載されていると認められる。
「トップブロック1,中間ブロック60,ベースブロック30が積層されてなる分配弁の隣接するブロック間に配置されるガスケット2において,前記隣接するブロックそれぞれに形成された孔の位置が異なる中継孔を連通する隙間通路106を形成する通路開口105を備えるガスケット2」

3 甲3について
甲3には以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案はフルイディク式ガスメータに関する。」
イ 「【0002】
【従来の技術】
フルイディク発振素子の流体振動による差圧を圧電膜センサで検出し,その周波数から流量を計測するフルイディク流量計が周知である(例えば特開昭62-30917号公報)。」
ウ 「【0003】
この流量計は,フルイディク発振素子の流路のうち,逆相で圧力が変動する2点の圧力を圧電膜センサに導き,2点の差圧に応じた電気信号から,流体振動を検出している。」
エ 「【0004】
この種の流量計をガスメータとして用いる場合の,フルイディク発振素子への圧電膜センサの取付構造を図8,図9に示す。
1は金属製の流路本体で,入口2,ノズル部3,第1のターゲット4,第2のターゲット5,リターン壁6,圧力を取出す通孔7a,7bが一体的に形成されている。ノズル部3?リターン壁6などでいわゆるフルイディク発振素子を構成する。」
オ 「【0005】
8は流路本体1の下方開口部を閉じる蓋でガスケット9を介して流路本体1にねじ10で固定されている。11は圧電膜センサで,ガスケット12を介して,2本の取付ねじ13により流路本体1の上面に固定されている。この圧電膜センサ11の圧力伝達穴11a,11bは,ガスケット12に設けた差圧伝達通路12a,12bを介して前記通孔7a,7bにそれぞれ連通している。」
カ 「【0007】
なお,上記両従来技術とも,圧電膜センサ11はそのケースが導電性の金属で形成され,ガスケット12は電気絶縁性のコルクラバーでつくられていてガスのシールと電気の絶縁の両作用を行なう。又,このガスケット12は,通孔7a,7bからの圧力を隔絶して圧電膜センサ11へ差圧伝達するための隔壁としても作用している。この隔壁部分を図9,図10に符号12cで示す。」
キ 「【図8】


ク 「【図9】


ケ 図8,9によると,孔の位置が異なる流路本体1に形成された通孔7aと圧電膜センサ11に形成された圧力伝達穴11aは,ガスケット12に形成された差圧伝達通路12aによって連通する点が看取できる。

以上の記載事項ア?ケによれば,甲3には以下の事項が記載されていると認められる。
「フルイディク式ガスメータにおける流路本体1の上面と圧電膜センサ11の間に配置されるガスケット12において,孔の位置が異なる流路本体に形成された通孔7a,7bと圧電膜センサに形成された圧力伝達穴11a,11bとを連通する差圧伝達通路12aを備えるガスケット12」

4 甲4について
甲4には以下の事項が記載されている。
ア 「【0010】
前記バルブ本体1の外面一側には,バルブ側接続面4がほぼ垂直に形成され,このバルブ側接続面4に前記流入路21への流入口23(バルブ側連通口)及び流出路22への流出口24(バルブ側連通口)が形成されている。
そして,前記流入口23及び流出口24の口縁部にガスケットパッキン5,5を適正位置に収容保持するための環状凹部25,25が形成されている。」
イ 「【0011】
このガスケットパッキン5は,インナメタルリングとアウタメタルリングの間にシールリングが装着されたもので,規格で定められた固定サイズでドーナツ状に形成され,耐熱性及び耐圧性に優れた高温高圧対応のパッキンである。」
ウ 「【0012】
前記環状凹部25は,前記ガスケットパッキン5がガタ付きなく嵌合できるような内径に形成されると共に,パッキンつぶし代を考慮してガスケットパッキン5の厚さよりも浅い深さで形成されている。」
エ 「【0013】
前記パネルバルブAは,パネルブロックBに対して取り付けられるものである。
このパネルブロックBは,ブロック本体6の内部に流入路71(ブロック内流路)と流出路72(ブロック内流路)が形成され,ブロック本体6の外側縦面にブロック側接続面8がほほ垂直に形成され,このブロック側接続面8に前記流入路71及び流出路72への流入口73(ブロック側連通口)及び流出口74(ブロック側連通口)が形成されている。」
オ 「【0014】
そして,前記流入口23,73同士及び流出口24,74同士を符合させる状態に,前記バルブ側接続面4とブロック側接続面8を,前記環状凹部25,25に収容保持したガスケットパッキン5,5を介して面合接続させるようになっている。
この場合,前記ブロック側接続面8にスタッドボルト60が取り付けられ,前記バルブ側接続面4からバルブ本体1を貫通させたボルト取付用貫通穴10に前記スタッドボルト60を挿通させて,その先端をナット61で締め付けた取り付け構造になっている。」

5 甲5について
甲5には以下の事項が記載されている。
ア 「【0013】
マニホールドブロック11の間には,樹脂製のスペーサ13が配置されている。
このスペーサ13の両面には,ガスケット溝13a(図ではスペーサ13の裏側に隠れている),13bが形成されており,ガスケット溝13a,13bには,ゴムあるいは樹脂からなるガスケット15a,15bが装着されている。」
イ 「【0019】
スペーサ13の両面には,ガスケット15a,15bに対応する形状のガスケット溝13a,13bが形成されており,溝の深さは,ガスケット15a,15bを装着した時に,ガスケット15a,15bがシールを行うに充分なだけ突出するような深さとされている。」
ウ 「【0020】
上述した電磁弁用マニホールドは,スペーサ13の両面に形成されるガスケット溝13a,13bに,ガスケット15a,15bを装着した後,これ等のスペーサ13を,各マニホールドブロック11の凹部11eに嵌合し,複数のマニホールドブロック11を,接合面11aと11bが対向するようにして隣接配置し,各マニホールドブロック11に形成される貫通孔11cに図示しない連結ボルトを挿通し,この後,連結ボルトにより複数のマニホールドブロック11を締め付けることにより組み立てられる。」

6 甲6について
甲6には以下の事項が記載されている。
ア 「【0040】
保持溝67bは,柱ガスケット受容表面61の上部から測定される深さ71を有する。好ましくは,柱ガスケット受容表面61に受容されるガスケット31aの厚さが,保持溝67bの深さ71と同じか,それ以上である。」
イ 「【0045】
次に,図1に目を向けると,装置21が,ポンプ83の第2のハウジング81に固定される。装置21は,取り付けガスケット85を有する。取り付けガスケット85は,ハウジング25の第1の取り付けガスケット表面87および第2のハウジング81の第2の取り付けガスケット表面89に,嵌り込んで受容される。当業者であれば,第2のハウジング81が,図示のようにポンプ83に組み合わせられてよく,あるいは他の管継手,ハードウェア,検出器などに組み合わせられてもよいことを,理解する。」

7 甲7について
甲7には以下の事項が記載されている。
ア 「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の集積化ガスパネルの制御機器取付用シールガスケットの実施形態を図によって説明する。前述の図9に示す集積化ガスパネル10のベースプレート1上に多数並設された各ガス供給制御ライン2において順次ターンバックル式ナット7により接続された流路ブロック6の円形の上向き筒部3における下部の長円形凹部3aの底面3bに開口したガス流入通路4及びガス流出通路5と,これらと同心に前記流路ブロック6の上向き筒部3に外ねじナット9により装着する自動ダイヤフラム弁,トグル型手動ダイヤフラム弁,フィルターユニット,チャッキ弁付自動ダイヤフラム弁,減圧弁,レギュレータ,マスフローコントローラー,マスフローメーター等の制御機器の円形のボディ8におけるフランジ下側の長円形凸部8aの下面8bに開口したガス流入通路11及びガス流出通路12とが長円形凹部3aと長円形凸部8aとの嵌合により連通され,この相互の連通面である長円形凹部3aの底面3bと長円形凸部8aの下面8bとの間に,本発明のシールガスケット20が介在される。」
イ 「【0011】本発明のシールガスケット20の基本的実施形態は,図1の(a),(b)に示すように外周に前記流路ブロック6の上向き筒部3の下部の長円形凹部3aの内周面に位置決めされるガイド部21を有すると共に,このガイド部21により芯出しされ,前記ガス流入通路4,11及びガス流出通路5,12と同心に連通する2つのガス通路穴22,23を有し,且つこのガス通路穴22,23の周囲両面にフラットな同高の環状シール面24,24′25,25′を同心に突設したものである。」

8 甲8について
甲8には以下の事項が記載されている。
ア 「電磁パイロット切換弁の主弁である切換弁の弁本体20は板状のガスケット21を介し全体矩形のブロックであるマニホールド本体22上に載置されている。」(第4ページ左上欄第12行?第15行)
イ 「ガスケット21には,マニホールド本体22の供給通路23の入口29と対応する1個の供給用孔36,2本の出力通路27の入口30にそれぞれ対応する2個の出力用孔37,2本の2本の排気通路24の入口31にそれぞれ対応する2個の排気用孔38,外部パイロット通路25の出口32に対応する1個の外部パイロット用孔39が設けられている。」(第4ページ左下欄第17行?同ページ右下欄第4行)
ウ 「第1図(a)において弁本体20の下面には,図示した1個のインポート45及び1個のパイロットポート46の他に,図示しない2個のアウトポート及び2個のエキゾーストポートが設けられている。インポート45及びパイロットポート46は,マニホールド本体22の供給通路23の出口29及び外部パイロット通路25の出口32にそれぞれ対応する位置に設けられている。」(第4ページ右下欄第15行?第5ページ左上欄第2行)
エ 「マニホールド本体22の供給通路23からの圧力媒体(この場合は圧縮空気)は,該供給通路23の出口29及びガスケット21の供給用孔36を通じて弁本体20のインポート45へ流入するとともに,供給通路23の出口29及びガスケット21の内部パイロット用孔40を通じて弁本体20のパイロットポート46にも流入する。従って,当該マニホールド本体22上の電磁パイロット切換弁は内部パイロット型となる。」(第5ページ右上欄第20行?同ページ左下欄第8行)
オ 「第1図(a)



第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「小型電磁弁1」,「弁室13」,「第1ポート5a,第2ポート5b,第3ポート5c」,「ダイアフラム組立9A」,は,それぞれ,本件発明1の「弁装置」,「弁室」,「複数の弁側ポート」,「弁体」,に相当し,甲1発明の「ゴムパッキン28」はゴム,すなわち,弾性材料で形成されていることが明らかであるので,甲1発明の「ゴムパッキン28」は,本件発明1の「ガスケット」に相当する。
ここで,甲1発明において,「液体分析装置50の小型電磁弁以外の部分」は,純水ポンプ51,シリンジポンプ52,反応セル53を含むので,前記純水ポンプ51,前記シリンジポンプ52,前記反応セル53が,それぞれ,小型電磁弁1の第1ポート5a,第2ポート5b,第3ポート5cと個別に連通する複数のポートを備えていることは明らかである。そうすると,甲1発明の「液体分析装置50の小型電磁弁以外の部分」は,本件発明1の「複数の流路側ポートを有する流体処理装置」に相当し,甲1発明の「前記弁室13と前記純水ポンプ51,前記シリンジポンプ52,前記反応セル53を個別に連通させるための第1ポート5a,第2ポート5b,第3ポート5c」は,本件発明1の「複数の流路側ポートとをそれぞれ個別に連通させるための複数の弁側ポート」に相当する。
そして,甲1発明において,弁室は,「弁ブロック3」及び「流路ブロック2」によって区画されており,複数の弁側ポートは,「流路ブロック2」に形成されていることから,甲1発明の「弁ブロック3及び流路ブロック2」は,本件発明1の「弁本体」に相当する。
さらに,甲1の記載事項ス,タ,テ,トから小型電磁弁1は流路ブロック2の下端面において,液体分析装置50の小型電磁弁以外の部分に装着されていることは明らかであるから,甲1発明の「前記流路ブロック2の下端面に装着されるゴムパッキン28とを含み,」は,本件発明1の「前記弁本体と前記流体処理装置との間に装着されるガスケットとを含み,」に相当する。
また,甲1発明の「下端面」は,本件発明1の「装着面」に相当し,甲1発明の「溝部」は,ガスケットが装着されるという点で,本件発明1の「凹部」に相当するから,甲1発明の「前記流路ブロック2の下端面には,前記ゴムパッキン28を装着するための溝部が形成され」は,本件発明1の「前記弁本体は,前記流体処理装置への装着面を有し,前記装着面には,前記ガスケットを装着するための凹部が形成され」相当する。

したがって,本件発明1と甲1発明とは,以下の点で一致し,
[一致点]
複数の流路側ポートを有する流体処理装置に装着される弁装置であって,
弁室を区画するとともに前記弁室と前記複数の流路側ポートとをそれぞれ個別に連通させるための複数の弁側ポートが形成された弁本体と,
前記複数の弁側ポートの少なくとも1つを開閉する弁体と,
前記弁本体と前記流体処理装置との間に装着されるガスケットとを含み,
前記弁本体は,前記流体処理装置への装着面を有し,前記装着面には,前記ガスケットを装着するための凹部が形成され,
前記ガスケットは,弾性材料によって形成され,前記凹部の深さよりも大きな厚みを有している弁装置。

以下の点で相違する。
[相違点]
本件発明1は,複数の弁側ポートはそれぞれ弁室から凹部を貫通して形成されており,ガスケットは,凹部への装着状態において,複数の流路側ポートと前記複数の弁側ポートとをそれぞれ個別に連通させるための空間を提供する複数の貫通孔を有し,前記複数の貫通孔はそれぞれ,前記ガスケットの厚さ方向から視て,前記貫通孔に連通している前記弁側ポートの開口部を包摂するとともに,前記開口部の外側領域に拡張した孔輪郭を有するのに対し,甲1発明はそのような構成を備えていない点。

(2)判断
以下,相違点について検討する。
ア 本件特許明細書の段落【0005】-【0006】によると,流体処理装置は,その構成等に応じて個別に流路側ポートが設計されており,通常,流路側ポートの開口部の位置は,流体処理装置ごとに相違しているため,本件発明1は,流路側ポートの開口部の位置が異なる各種の流体処理装置への弁本体の互換適合性が高められた弁装置を提供することを課題としている。

イ 一方,甲1の記載事項イ?エによると,甲1発明は,部品の寸法公差によって生じる,Cv値のバラツキを小さくすることを課題とするものである。
そして,甲1には,流路側ポートの開口部の位置が異なる各種の流体処理装置への弁本体の互換適合性を高めることを示唆する記載はない。
そうすると,甲1発明は,本件発明1が課題としている流路側ポートの開口部の位置が異なる各種の流体処理装置への弁本体の互換適合性が高められた弁装置を提供するという課題に着目していないことは明らかである。
加えて,甲1には,流体処理装置への弁本体の互換適合性に関する課題解決手段としてガスケットに着目した技術思想が記載されていない。

ウ 甲2の記載事項エ,オによると,甲2に記載された事項は,一体成形品の分配弁を複数用いるのではなく,1つの製品で多くの分配個所に対応可能とした分配弁及びガスケットを提供することを課題とするものである。
そして,甲2には,互いに中継孔を備えたブロックを組み付ける構成において,ブロック間の互換適合性を高めることを示唆する記載はない。
そうすると,甲2に記載された事項も,本件発明1が課題としている流路側ポートの開口部の位置が異なる各種の流体処理装置への弁本体の互換適合性が高められた弁装置を提供するという課題に着目していないことは明らかである。
また,甲1発明と甲2に記載された事項においても,両者の課題は異なるものである。
さらに,甲2の記載事項記ク,ケによると,甲2に記載された事項におけるガスケット2は,その通路開口105によって,隣接するブロックそれぞれに形成された孔の位置が異なる中継孔を連通する隙間通路106を形成するものである。
一方,甲1発明において,小型電磁弁1と液体分析装置50の小型電磁弁以外の部分の間に装着されたゴムパッキン28の装着状態は明らかでなく,甲1には,ゴムパッキン28の厚さによってポート間を連通させる流路を形成する点については特段記載,示唆はない。
そうすると,甲1発明におけるゴムパッキン28は,甲2に記載された事項におけるガスケット2と共通した作用,機能を有するものとは認められない。
また,甲1の記載事項イによると,甲1発明におけるゴムパッキン28は極微少流量の流量制御を行う装置に用いられるものであるのに対し,甲2の記載事項ウによると,甲2に記載された事項におけるガスケット2は,大型トラックやバスや建設機械や産業用機械などの軸受部などの被潤滑部に潤滑剤を供する分配弁に用いられるものであり,両者が用いられる技術分野は異なっている。
加えて,甲2には,ブロック間の互換適合性に関する課題解決手段としてガスケットに着目した技術思想は記載されていない。
以上のことから,甲1発明において,甲2に記載された事項を適用して相違点に係る構成を備えるようにすることはできない。

エ 甲3の記載事項カによると,甲3に記載された事項におけるガスケット12は,ガスのシールと電気の絶縁の両作用を行うこと,及び,通孔7a,7bからの圧力を隔絶して圧電膜センサ11へ差圧伝達するための隔壁として作用することを課題としているものである。
そして,甲3には,通孔7a,7bが形成された流路本体1と圧力伝達穴11a,11bが形成された圧電膜センサ11を組み付ける構成において,流路本体1と圧電膜センサ11の互換適合性を高めることを示唆する記載はない。
そうすると,甲3に記載された事項も,本件発明1が課題としている流路側ポートの開口部の位置が異なる各種の流体処理装置への弁本体の互換適合性が高められた弁装置を提供するという課題に着目していないことは明らかである。
また,甲1発明と甲3に記載された事項においても,両者の課題は異なるものである。
さらに,甲3の記載事項オによると,甲3に記載された事項におけるガスケット12は,差圧伝達通路12a,12bによって,流路本体1に形成された通孔7a,7bと圧電膜センサ11に形成された圧力伝達穴11a,11bを連通するものである。
一方,上記のとおり,甲1には,ゴムパッキン28の装着時において,ゴムパッキン28の厚さによってポート間を連通させる流路を形成する点については特段記載,示唆はない。
そうすると,甲1発明におけるゴムパッキン28は,甲3に記載された事項におけるガスケット12と共通した作用,機能を有するとは認められない。
また,甲1の記載事項イによると,甲1発明におけるゴムパッキン28は極微少流量の流量制御を行う装置に用いられるものであるのに対し,甲3の記載事項ア,オによると,甲3に記載された事項におけるガスケット12は,フルイディク式ガスメータにおいて,圧電膜センサ11を流路本体1へ固定するために用いられるものであり,両者が用いられる技術分野は異なっている。
加えて,甲3には,圧電膜センサ11と流路本体1との間の互換適合性に関する課題解決手段としてガスケットに着目した技術思想は記載されていない。
以上のことから,甲1発明において,甲3に記載された事項を適用して相違点に係る構成を備えるようにすることはできない。

オ 甲4?8にも相違点に係る構成が何ら記載されておらず,また,流路を有する2部材間の互換適合性に関する課題解決手段としてガスケットに着目した技術思想も記載されていない。

カ また,甲4?7に示されるように,流路を有する2つの部材間にガスケットを配置してシールする構造において,ガスケットを一方の部材に形成された凹部に装着することが周知であったとしても,ガスケットが,一方の部材に形成された凹部に装着された状態において,2つの部材に形成されたそれぞれの流路ポートを連通させるための空間を提供する貫通孔を有し,前記貫通孔は前記ガスケットの厚さ方向から視て,前記貫通孔に連通している前記流路ポートの開口部を包摂するとともに,前記開口部の外側領域に拡張した孔輪郭を有する構成まで周知であるとはいえない。

キ 加えて,本件発明1は,相違点に係る構成を備えることにより,流路側ポートの開口部の位置が異なる各種の流体処理装置への弁本体の互換適合性が高められるという顕著な効果を奏するものである。

ク したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲2?甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2 本件発明2?10について
本件発明2?10は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2?10は,本件発明1と同様の理由により,甲1発明及び甲2?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-07-13 
出願番号 特願2015-129630(P2015-129630)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松浦 久夫  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 山本 健晴
窪田 治彦
登録日 2019-10-18 
登録番号 特許第6601013号(P6601013)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 弁装置  
代理人 浦 重剛  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 苗村 潤  
代理人 石原 幸信  

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