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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
管理番号 1364933
異議申立番号 異議2019-700668  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-26 
確定日 2020-07-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6530571号発明「係合式のインクカートリッジ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6530571号の請求項1、7ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6530571号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年12月6日(パリ条約による優先権主張外国受理 同年6月13日、中国)を国際出願日としたものであって、令和1年5月24日にその特許権の設定登録がされ、同年6月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1、7及び8に係る特許について、令和1年8月26日に特許異議申立人により特許異議の申立てがされ、当審において、令和2年2月28日付けで取消理由が通知され、それに対し、特許権者から同年4月21日に意見書が提出され、同年5月28日付けで特許異議申立人に対し、特許権者の提出した意見書に対しての意見を求める審尋をし、それに対して、特許異議申立人から、同年6月16日に回答書が提出されたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1、7及び8に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、7及び8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって、
前記装着部には、水平面に対して傾斜する取付面が設けられ、前記取付面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし、前記取付面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に、前記取付面が前記近端から前記遠端に延在し、鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く、前記取付面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ、前記インクカートリッジには、前記取付空間に対向する接合部が設けられ、
水平方向において前記インクカートリッジが前記取付面を指向する方向を+X軸方向とし、鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし、+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交する方向をY軸方向とする場合、前記接合部が+X軸方向に延在し、
前記装着部には、取付ホルダーが内蔵され、前記取付面が前記取付ホルダーに設けられ、
前記取付ホルダーは、-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とを含み、前記第1斜面が前記取付面とされ、前記取付空間が前記第1斜面と前記第2斜面との間に位置し、
前記インクカートリッジは、ケースを含み、前記ケースの前記取付面に対向する側には可動部材が設けられ、前記可動部材には、Y軸方向に2つの前記接合部が設けられ、
前記インクカートリッジが取り付けられるとき、前記可動部材によって2つの前記接合部を前記第1斜面に接合することにより、2つの前記接合部が前記取付空間に係合し、
前記インクカートリッジが取り出されるとき、前記可動部材が-X軸方向に回転することにより、2つの前記接合部を前記第1斜面から離させることを特徴とする係合式のインクカートリッジ。」

「【請求項7】
前記可動部材は、操作部と回転部とをさらに含み、前記可動部材は、前記回転部を介して前記ケースに接続され、前記操作部は、外力を受けることにより、前記可動部材が前記回転部回りに回転するように駆動することを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。

【請求項8】
前記取付面は、前記近端から+X軸及び+Z軸方向に沿って前記遠端まで延在することを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。」

3 取消理由の概要
当審において、請求項1、7及び8に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項1、7及び8に係る発明は、甲第1号証(中国実用新案第205044311号明細書)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、7及び8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)請求項1、7及び8に係る発明は、甲第1号証(中国実用新案第205044311号明細書)に記載された発明に基いて、本件特許出願の優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、7及び8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 甲第1号証の記載
甲第1号証には、次の事項が記載されている。(中国語原文の後段の括弧書きに当審訳を記す。以下、同様。)




(【0005】第二面では、CN201280003040.0という特許の図30に示すように、インクカートリッジ20を取り出す過程中に、反時計回りにレバー800を回転させる必要があって、第一装置側の接合部810は反時計回りに回転すると同時に、-Z軸方向に動くこともでき、この時に第一装置側の接合部810と第一インクカートリッジ側の位置決め部210とは結び合うものなので、インクカートリッジ20はまず下に移動しなければ第一インクカートリッジ側の位置決め210と第一装置側の接合部810とを分離させることができないことになる。このような方式では問題が三つある。(1)スタイラス731-739又はチップ700を傷つけることになる、・・・)




(【0048】 図1は、本実用新案の第一実施形態の係止式インクカートリッジを示しており、当業者が理解できるように、図は、単に前記インクカートリッジの全体としての効果の模式図として、本実用新案の実施形態を一層よく説明するためのものであり、そのうちで図に示さなかった他の部材もあって、示さなかった部材はすべてインクカートリッジによく配置する一般的な部材であって・・・具体的に、図1の示すように、図1に示したのは、前記インクカートリッジの立体的構造の斜視図であり、前記インクカートリッジは少なくともケース1及び移動阻止部2(当審注:「移動阻止部2」と「係止部2」とは、同じ部位を意味するものと認められる。)及びインク排出口11を含み、当業者の理解できるように、前記インクカートリッジはインクを保管して、プリンター設備と合わせてプリントを行う装置であり、前記ケース1は直方体状を呈するけど、他のバリエーションには、プリンター設備と接合するか合わせるために、多角形状、楕円形状等にすることもでき、これは本実用新案の技術方案に影響がないので、更に説明することはない。
【0049】 更に、本実用新案は、前記インクカートリッジの各部材を一層明瞭にするために、X、Y、Z軸との概念を導入して、互いに直行する三つのスペース軸をX軸、Y軸、Z軸として、前記インク排出口11の位置する平面を第一面1aとして、前記第一面1aに相対するもう一つの面を第二面1bとして、前記第一面1aにおける長辺の方向をX軸として、前記第一面1aにおける短辺の方向をY軸として、X軸、Y軸に互いに垂直する軸をZ軸として、図1と組み合わせて見ると、前記第一面1aは前記インクカートリッジの底面である。
【0050】 更に、前記インクカートリッジは係止部2を更に含み、図1の示すように、係止部2の接続端21はケース1に設けられており、同時に係止部2は第二面1b方向に向いて自然に伸びて係止端22を少なくとも一つ出して、即ち係止端22はケース1に対して傾斜となって、同時に図1に示した係止部2は「山」のような字形を呈して、実際の適用の過程において、「山」字形のような係止部2の三つの頂点は全部係止端として利用できる。・・・より具体的に、X軸方向に、係止端22からインク排出口11までの距離は、接続端21からインク排出口11までの距離よりも遠く、図1と組み合わせて見てみると、こうすると係止端22は右上方に傾斜となり、故に係止端22とZ軸方向の平面に接触する時に、Z軸方向に第一面1a方向向きの反力を受けて、そしてインクカートリッジ全体としてXZ平面に反時計回りに移動するのを阻止する。
【0051】 本実用新案の第一実施例として、図2に示すように、インクカートリッジは更にチップ13を含み、チップ13は、前記インクカートリッジのインクの量を記録し、インクカートリッジの使用回数をモニタリングしてもよく、当業者の理解できるように、インクカートリッジにはチップ13が設けられてもよいが、チップ13が設けられなくてもよく、これらは本実用新案の技術方案に影響がないので、ここで更に説明することはない。具体的に、本実施例に、具体的に+X、-X、+Z、-Zを定義することにより前記インクカートリッジ各部材の位置の関係を更に説明して、インク排出口11の、チップ13向けの方向を+X軸方向として、ケース1の+X軸側の表面を第三面1cとして、ケース1の-X軸側の表面を第四面1dとして、第一面1aの、第二面1bに向いた方向を+Z軸方向として、XY平面を-Z軸方向に沿って観察する場合、+X軸方向を反時計回りに90°回転すると+Y軸方向となる。)




(【0055】 本実用新案の第三実施形態として、キャリッジ4と接続する係止式のインクカートリッジを提供しており、図9に示したキャリッジ4はインクカートリッジに面する係止面41を少なくとも一つ含み、係止面41は、インクカートリッジの係止部2と合わせてインクカートリッジとキャリッジとの接続を達成するものである。具体的に、図1と図9とを組み合わせて見ると、インクカートリッジがキャリッジ4に設けられる時に、キャリッジのX、Y、Z軸方向とインクカートリッジのX、Y、Z軸とは一致的である。具体的な取り付け過程中において、インクカートリッジの第二面1bを押すことでインクカートリッジを-Z軸方向に移動させ、係止部2は-X軸方向に変形し始めて、次に係止部2の係止端22と係止面41とが接触し始めて、インクカートリッジが-X軸(当審注:「-X軸」は「-Z軸」の誤記と認められる。)に向かって引き続き動くと、スタイラス45がインクカートリッジに対して+Z軸方向におけるリバウンド力を生じて、同時に係止端22が、係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止して、そうするとインクカートリッジは、スタイラス45のリバウンド力によりキャリッジから外れて+Z軸方向に動くことを妨げて、このようにインクカートリッジとキャリッジとの固定を達成し、その長所として、インクカートリッジとキャリッジとの間にレバーを設置することはなく、スペースを無駄にすることを減らして、より効率的にスペースを利用でき、インクカートリッジ及びプリンターの小型化に有利であって、同時に係止部2は、係止面41による-X、-Z軸方向に且つ係止端22に沿った反力を受けて、このためたわみ力及びたわみトルクを形成することを避け、同時に本実施形態において、ハンドルでインクカートリッジを固定する必要がないので、ハンドルが大きすぎる距離を動くことによるハンドルの損害を避ける。より具体的に、図10に示した係止面41は二つあり、実際の取り付け中に、二つの係止端22はケースの+Y軸と-Y軸側にそれぞれ設置でき、二つの係止端22は二つの係止面41と接合して、先行技術における、単に一つの位置決め部で一つの取り付け部と接合する接続方式に比べて、一層安定にインクカートリッジを固定することができるし、インクカートリッジが中間位置決め部に沿って揺れることを生じることを避ける。)




(【0057】 更に、もしインクカートリッジにはハンドルが設けられておらず、又はハンドルが設けられていたがハンドルと係止部2とが接続しない場合、インクカートリッジを取り出す必要がある時に、インクカートリッジの第四面1dをプッシュすることで、インクカートリッジ全体として+X軸方向に動いて、ひいては第四面がキャリッジと離れて、次に第四面上の推力を撤去し、インクカートリッジはスタイラス45の+Z軸方向におけるリバウンド力及び係止面41の-X軸方向におけるリバウンド力を受けることで、インクカートリッジ全体としてキャリッジと分離することになり、ひいてはインクカートリッジを取り出す。・・・)




(【0060】・・・本実用新案に係わるインクカートリッジは取り出すときに、インクカートリッジをまず-Z軸方向に動かす必要がないので、スタイラス45やチップへの損害を避けることもできるし、インクカートリッジの-Z軸スペース余裕による問題に由来のインク漏れを避けることもできる。)


「【図1】



「【図10】



(認定事項1)
段落【0055】の記載から、図1のインクカートリッジと図10のキャリッジとが組み合わされるものであると解される。

(認定事項2)
図1、図10及び段落【0049】、【0051】及び【0055】の記載から、図1のX、Y、Zで示された方向を、+X軸方向、+Y軸方向、+Z軸方向とし、それらの反対方向をそれぞれ-X軸方向、-Y軸方向、-Z軸方向とすると、+X軸方向は水平方向においてインクカートリッジが係止面41を指向する方向であり、+Z軸方向は鉛直方向において上向きの方向であり、+Y軸方向は+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交し、XY平面に-Z軸方向に沿って観察する場合、+X軸方向を反時計回りに90°回転する方向であると解される。
そして、図1から、係止部2は、接続端21の-Z軸方向端部で折り返されて、+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて係止端22が出ていることが看取できる。
また、図10から、キャリッジ4に、鉛直方向(Z軸方向)に延在する係止面41を有する部材が設けられていることが看取できる。

(認定事項3)
図9のキャリッジ4と図10のキャリッジ4とは係止面41がY軸方向に連続しているか、分割しているかの相違を除いて同様のものであることから、段落【0055】の「図1と図9とを組み合わせ」るときの「取り付け過程中において、インクカートリッジの第二面1bを押すことでインクカートリッジを-Z軸方向に移動させ、係止部2は-X軸方向に変形し始めて、次に係止部2の係止端22と係止面41とが接触し始めて、インクカートリッジが-Z軸に向かって引き続き動くと、スタイラス45がインクカートリッジに対して+Z軸方向におけるリバウンド力を生じて、同時に係止端22が、係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止して」「インクカートリッジとキャリッジとの固定を達成」するとの説示は、図1と図10とを組み合わせるとき、すなわち「図10に示した係止面41は二つあり、実際の取り付け中に、二つの係止端22はケースの+Y軸と-Y軸側にそれぞれ設置でき、二つの係止端22は二つの係止面41と接合して」「インクカートリッジを固定する」ときにも同様であると解される。

(認定事項4)
上記(認定事項3)を踏まえれば、取り付け過程中において、インクカートリッジとともに-Z軸方向に移動する係止部2が-X軸方向に変形し始めて、二つの係止端22と二つの係止面41とが接触し始めて、二つの係止端22が二つの係止面41と接合するのであるから、係止面41の-X軸方向には係止端22が入り込む取付空間が設けられ、二つの係止端22は取付空間に対向するとともに、二つの係止端22は取付空間に係合するものと解される。

(認定事項5)
図10から、係止面41の側面に形成された凹部の上面及び下面は、-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられるとともに、水平面(XY平面)に対して傾斜して設けられていることが看取できる。

(認定事項6)
図10から、係止面41の側面に形成された凹部の上面は、インクカートリッジ側からその反対側に延在し、鉛直方向(Z軸方向)において、インクカートリッジ側よりもその反対側が高いことが看取できる。

以上の記載事項及び認定事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「キャリッジ4に取り付け及び取り出し可能に接合する係止式のインクカートリッジであって、
前記キャリッジ4には、鉛直方向に延在する係止面41を有する部材が設けられ、前記係止面41の-X軸方向に取付空間が設けられ、
前記係止面41を有する部材には、前記係止面41の側面に形成された凹部の上面及び下面が水平面に対して傾斜して設けられ、前記上面は前記インクカートリッジ側からその反対側に延在し、鉛直方向において前記インクカートリッジ側よりもその反対側が高く、前記上面の鉛直方向に沿う下方であって、-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる前記上面と前記下面との間に空間が設けられ、
前記インクカートリッジは、ケース1、係止部2を含み、前記係止部2の接続端21が前記ケース1に設けられており、係止部2はケース1の+Z軸側の第二面1b方向に向いて自然に伸びて係止端22を出し、
水平方向において前記インクカートリッジが前記係止面41を指向する方向を+X軸方向とし、鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし、+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交し、XY平面に-Z軸方向に沿って観察する場合、+X軸方向を反時計回りに90°回転する方向を+Y軸方向とし、
前記係止部2は前記接続端21の-Z軸方向端部で折り返されて、+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出ており、前記係止端22は前記取付空間に対向し、
取り付け過程中において、前記インクカートリッジのケース1の+Z軸方向側の第二面1bを押すことで前記インクカートリッジを-Z軸方向に移動させ、前記係止部2は-X軸方向に変形し始めて、次に前記ケース1の+Y軸側と-Y軸側にそれぞれ設置された二つの前記係止端22と前記係止面41とが接触し始めて、前記インクカートリッジが-Z軸に向かって引き続き動くと、スタイラス45が前記インクカートリッジに対して+Z軸方向におけるリバウンド力を生じて、同時に二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて二つの前記係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止して、二つの前記係止端22が前記係止面41の-X軸方向の前記取付空間に係合し、前記インクカートリッジと前記キャリッジ4との固定を達成し、
前記インクカートリッジを取り出す必要がある時に、前記インクカートリッジの前記ケース1の-X軸側の第四面1dをプッシュすることで、前記インクカートリッジ全体として+X軸方向に動いて、ひいては前記第四面1dが前記キャリッジ4と離れて、次に前記第四面1d上の推力を撤去し、前記インクカートリッジは前記スタイラス45の+Z軸方向におけるリバウンド力及び前記係止面41の-X軸方向におけるリバウンド力を受けることで、前記インクカートリッジ全体として前記キャリッジ4と分離する
係止式のインクカートリッジ。」

5 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲1発明とを対比する。

(a)甲1発明の「キャリッジ4」及び「係止式のインクカートリッジ」は、それぞれ、本件発明の「装着部」及び「係合式のインクカートリッジ」に相当する。
したがって、甲1発明の「キャリッジ4に取り付け及び取り出し可能に接合する係止式のインクカートリッジ」は、本件発明の「装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジ」に相当する。

(b)甲1発明の「係止面41」、「取付空間」及び「係止端22」は、それぞれ、本件発明の「取付面」、「取付空間」及び「接合部」に相当する。
したがって、甲1発明の「前記キャリッジ4には、鉛直方向に延在する係止面41」「が設けられ、前記係止面41の-X軸方向に取付空間が設けられ」、「前記インクカートリッジは」、「係止部2を含み」、「前記係止部2は」「+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出ており、前記係止端22は前記取付空間に対向」することと、本件発明の「前記装着部には、水平面に対して傾斜する取付面が設けられ、前記取付面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし、前記取付面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に、前記取付面が前記近端から前記遠端に延在し、鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く、前記取付面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ、前記インクカートリッジには、前記取付空間に対向する接合部が設けられ」ることとは、「前記装着部には、取付面が設けられ、前記取付面の近傍に取付空間が設けられ、前記インクカートリッジには、前記取付空間に対向する接合部が設けられ」る点で共通する。

(c)甲1発明において、「+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出て」いることは、少なくとも「係止端22が」「+X軸方向」に延在するものといえる。
したがって、甲1発明の「水平方向において前記インクカートリッジが前記係止面41を指向する方向を+X軸方向とし、鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし、+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交し、XY平面に-Z軸方向に沿って観察する場合、+X軸方向を反時計回りに90°回転する方向を+Y軸方向とし」、「前記係止部2は」「+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出て」いることは、本件発明の「水平方向において前記インクカートリッジが前記取付面を指向する方向を+X軸方向とし、鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし、+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交する方向をY軸方向とする場合、前記接合部が+X軸方向に延在」することに相当する。

(d)本件発明において「取付ホルダー」とは、本件明細書の段落【0025】の「取付ホルダー32には、水平面に対して傾斜する取付面39が設けられている。」との記載を参酌すれば、取付面が設けられる部材をいうものと解されるので、甲1発明の「係止面41を有する部材」は、本件発明の「取付ホルダー」に相当する。
また、甲1発明の「前記キャリッジ4には」「係止面41を有する部材が設けられ」ることは、キャリッジ4には、係止面41を有する部材が内蔵されているといえる。
したがって、「前記キャリッジ4には」「係止面41を有する部材が設けられ」ることは、本件発明の「前記装着部には、取付ホルダーが内蔵され、前記取付面が前記取付ホルダーに設けられ」ることに相当する。

(e)甲1発明の「水平面に対して傾斜して設けられ」る「上面」及び「下面」は、それぞれ、本件発明の「第1斜面」及び「第2斜面」に相当する。
したがって、甲1発明の「前記係止面41を有する部材には、前記係止面41の側面に形成された凹部の上面及び下面が水平面に対して傾斜して設けられ」、「-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる前記上面と前記下面との間に空間が設けられ」ることと、本件発明の「前記取付ホルダーは、-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とを含み、前記第1斜面が前記取付面とされ、前記取付空間が前記第1斜面と前記第2斜面との間に位置」することとは、「前記取付ホルダーは、-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とを含み、空間が前記第1斜面と前記第2斜面との間に位置」する点で共通する。

(f)甲1発明の「上面」「が水平面に対して傾斜して設けられ、前記上面は前記インクカートリッジ側からその反対側に延在し、鉛直方向において前記インクカートリッジ側よりもその反対側が高く、前記上面の鉛直方向に沿う下方」「に空間が設けられ」ることと、本件発明の「取付面」は「水平面に対して傾斜」して「設けられ、前記取付面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし、前記取付面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に、前記取付面が前記近端から前記遠端に延在し、鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く、前記取付面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ」、「前記第1斜面が前記取付面とされ」ることとは、「第1斜面は水平面に対して傾斜して設けられ、前記第1斜面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし、前記第1斜面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に、前記第1斜面が前記近端から前記遠端に延在し、鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く、前記第1斜面の鉛直方向に沿う下方に空間が設けられ」る点で共通する。

(g)甲1発明において、「係止部2は-X軸方向に変形」するものであるから、可動部材といえる。
また、甲1発明は「前記係止部2の接続端21が前記ケース1に設けられており」「前記係止部2は前記接続端21の-Z軸方向端部で折り返されて、+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出ており」、「取り付け過程中において」「前記ケース1の+Y軸側と-Y軸側にそれぞれ設置された二つの前記係止端22と前記係止面41とが接触し始めて」「二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受け」るのであるから、ケース1の係止面41に対向する側に係止部2が設けられ、係止部2には、Y軸方向に2つの係止端22が設けられているものといえる。
したがって「前記インクカートリッジは、ケース1」「を含」み、「前記係止部2の接続端21が前記ケース1に設けられており」「前記係止部2は前記接続端21の-Z軸方向端部で折り返されて、+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出ており」、「取り付け過程中において」「前記係止部2は-X軸方向に変形し始めて、次に前記ケース1の+Y軸側と-Y軸側にそれぞれ設置された二つの前記係止端22と前記係止面41とが接触し始めて」「二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受け」る甲1発明は、本件発明の「前記インクカートリッジは、ケースを含み、前記ケースの前記取付面に対向する側には可動部材が設けられ、前記可動部材には、Y軸方向に2つの前記接合部が設けられ」る構成を有するものといえる。

(h)甲1発明の「取り付け過程中において」「前記インクカートリッジを-Z軸方向に移動させ、前記係止部2は-X軸方向に変形し始めて、次に前記ケース1の+Y軸側と-Y軸側にそれぞれ設置された二つの前記係止端22と前記係止面41とが接触し始めて」、「二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて二つの前記係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止して、二つの前記係止端22が前記係止面41の-X軸方向の前記取付空間に係合」することと、本件発明の「前記インクカートリッジが取り付けられるとき、前記可動部材によって2つの前記接合部を前記第1斜面に接合することにより、2つの前記接合部が前記取付空間に係合」することとは、「前記インクカートリッジが取り付けられるとき、前記可動部材によって2つの前記接合部を前記取付面に接合することにより、2つの前記接合部が前記取付空間に係合」する点で共通する。

(i)甲1発明において、「二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて二つの前記係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止して、二つの前記係止端22が前記係止面41の-X軸方向の前記取付空間に係合し」ている「前記インクカートリッジを取り出す必要がある時に、前記インクカートリッジの前記ケース1の-X軸側の第四面1dをプッシュすることで、前記インクカートリッジ全体として+X軸方向に動」かすことから、インクカートリッジを取り出す時、係止部2の係止端22が係止面41の反力を受けて係止部2が-X軸方向に変形することは明らかである。
また、甲1発明において「前記係止部2は前記接続端21の-Z軸方向端部で折り返されて、+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出て」いるであるから、係止部2が-X軸方向に変形する際、係止部2が接続端21の-Z軸方向端部を回転軸として-X軸方向に回転することとなることも明らかである。
したがって、甲1発明の「前記係止部2は前記接続端21の-Z軸方向端部で折り返されて、+X軸方向と+Z軸方向の間の方向に伸びて前記係止端22が出て」おり、「二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて二つの前記係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止して、二つの前記係止端22が前記係止面41の-X軸方向の前記取付空間に係合し」ている「インクカートリッジを取り出す必要がある時に、インクカートリッジのケース1の-X軸側の第四面1dをプッシュすることで、インクカートリッジ全体として+X軸方向に動」かすことと、本件発明の「前記インクカートリッジが取り出されるとき、前記可動部材が-X軸方向に回転することにより、2つの前記接合部を前記第1斜面から離させる」こととは、「前記インクカートリッジが取り出されるとき、前記可動部材が-X軸方向に回転する」点で共通する。

そうすると、本件発明と甲1発明は次の点で一致する。
「装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって、
前記装着部には、取付面が設けられ、前記取付面の近傍に取付空間が設けられ、前記インクカートリッジには、前記取付空間に対向する接合部が設けられ、
水平方向において前記インクカートリッジが前記取付面を指向する方向を+X軸方向とし、鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし、+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交する方向をY軸方向とする場合、前記接合部が+X軸方向に延在し、
前記装着部には、取付ホルダーが内蔵され、前記取付面が前記取付ホルダーに設けられ、
前記取付ホルダーは、-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とを含み、空間が前記第1斜面と前記第2斜面との間に位置し、
前記第1斜面は水平面に対して傾斜して設けられ、前記第1斜面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし、前記第1斜面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に、前記第1斜面が前記近端から前記遠端に延在し、鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く、前記第1斜面の鉛直方向に沿う下方に前記空間が設けられ、
前記インクカートリッジは、ケースを含み、前記ケースの前記取付面に対向する側には可動部材が設けられ、前記可動部材には、Y軸方向に2つの前記接合部が設けられ、
前記インクカートリッジが取り付けられるとき、前記可動部材によって2つの前記接合部を前記取付面に接合することにより、2つの前記接合部が前記取付空間に係合し、
前記インクカートリッジが取り出されるとき、前記可動部材が-X軸方向に回転する係合式のインクカートリッジ。」

そして、本件発明と甲1発明は以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明は、取付面が、水平面に対して傾斜する第1斜面であり、取付空間が、第1斜面の鉛直方向に沿う下方であって、第1斜面と第2斜面の間に位置するのに対し、甲1発明は、取付面が、鉛直方向に延在する係止面であり、取付空間が、係止面の-X軸方向に位置するものであって、係止面の側面に形成された凹部の水平面に対して傾斜して設けられる上面は取付面ではなく、当該上面の鉛直方向に沿う下方であって、係止面の側面に形成された凹部の上面と下面の間の空間は取付空間ではない点。

(相違点2)
本件発明は、インクカートリッジが取り出されるとき、前記可動部材が-X軸方向に回転することにより、2つの前記接合部を前記第1斜面から離させるものであるのに対し、甲1発明は、インクカートリッジを取り出す必要がある時に、インクカートリッジのケース1の-X軸側の第四面1dをプッシュすることで、インクカートリッジ全体として+X軸側に動かすものであることから、係止部2の係止端22が係止面41の反力を受けて係止部2が-X軸方向に回転することは明らかであり、そのとき、2つの係止端22と係止面41は接触を維持することも明らかであって、2つの係止端22を係止面41から離させるものではない点。

(特許異議申立人の主張について)
(ア)相違点1に関して、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証においては、係止面41の側面に形成された凹部の上側の斜面を取付面とし、上側の斜面の下方に取付空間が設けられる旨主張する。

しかしながら、甲第1号証の図1及び図10の記載に基づけば、下図に示すように、インクカートリッジが取り付けられるとき、キャリッジのガイドに従って挿入されると、Y軸方向において、2つの係止端22の全長Lがインクカートリッジのケース幅とほぼ等しいことから、2つの係止端22は、係止面41の側面に形成された凹部には入らないものと解されるから、特許異議申立人の主張は採用できない。


また、甲第1号証の段落【0005】及び【0060】によれば、甲1号証に記載された発明は、従来技術において、インクカートリッジを取り出す際に、インクカートリッジを-Z軸方向に動かさなければならないことに起因する問題を解決しようとする課題とし、当該課題を解決するために、インクカートリッジを-Z軸方向に動かす必要をなくし、その結果、スタイラス45やチップへの損害を避けることができ、インクカートリッジの-Z軸スペース余裕による問題に由来のインク漏れを避けることもできるという効果を奏するものであると認められる。
そうすると、甲第1号証において、図1に示すインクカートリッジを図10に示すキャリッジに取り付ける際に、係止端22が係止面41の側面に形成された凹部の上側の斜面に接合するものであれば、インクカートリッジをキャリッジから取り出す際に、その従来技術と同様に、インクカートリッジを-Z軸方向に動かさなければ、係止端22と係止面41の側面に形成された凹部の上側の斜面とが分離できず、上記課題が解決できなくなることは明らかであるから、このことからも、係止面41の側面に形成された凹部の上側の斜面を取付面とし、上側の斜面の下方に取付空間が設けられると解するのは相当ではなく、特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)相違点1に関して、特許異議申立人は、上記回答書において、係止部2の係止端22が、Z軸方向の平面の係止面41に接触して、係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力(F2、F1)を受けることで、係止端22が+Z軸方向に動くことが阻止されるとしても、インクカートリッジの第二面1bを押すことでインクカートリッジを-Z軸方向に移動させてキャリッジ4に装着する際に、係止端22が、Z軸方向に関して係止面41のどの位置に固定されるか定まらないうえに、インクカートリッジが装着されたキャリッジ4がプリンタの使用中に激しく移動することで、係止端22が係止面41上をZ軸方向に摺動することが懸念されるから、当業者であれば、係止端22は係止面41の凹部の上面に係止されることで+Z軸方向に動くことが阻止されると理解するのが自然であると主張する。

しかしながら、甲1発明は「取り付け過程中において、インクカートリッジの第二面1bを押すことでインクカートリッジを-Z軸方向に移動させ、前記係止部2は-X軸方向に変形し始めて、次に前記ケース1の+Y軸側と-Y軸側にそれぞれ設置された二つの前記係止端22と前記係止面41とが接触し始めて、前記インクカートリッジが-Z軸に向かって引き続き動くと、スタイラス45がインクカートリッジに対して+Z軸方向におけるリバウンド力を生じて、同時に二つの前記係止端22が、前記係止面41による-X軸、-Z軸方向の反力を受けて二つの前記係止端22が+Z軸方向に動くことを阻止」することから、インクカートリッジとともに-Z軸方向に移動する係止端22は、スタイラス45によるインクカートリッジに対する+Z軸方向におけるリバウンド力が十分生じる位置で係止面41に固定され、係止面41による-Z軸方向の反力によりZ軸方向の摺動は阻止されるものと解される。
そうすると、インクカートリッジをキャリッジ4に装着する際に、係止端22が、Z軸方向に関して係止面41のどの位置に固定されるか定まらないうえに、インクカートリッジが装着されたキャリッジ4がプリンタの使用中に激しく移動することで、係止端22が係止面41上をZ軸方向に摺動することが懸念されると解することは相当ではなく、これを根拠に、当業者であれば、係止端22は係止面41の凹部の上面に係止されることで+Z軸方向に動くことが阻止されると理解するのが自然であるとする特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)相違点1に関して、特許異議申立人は、上記回答書において、甲第1号証において、凹部の上面にはその-X端が含まれ、凹部の上面の-X端は係止面41の一部でもあり、図1に示すインクカートリッジを図10に示すキャリッジに取り付ける際に、下図に示されるように、係止端22が凹部の上面の-X端に接触して変形し、変形回復力によって凹部の上面の-X端に力を作用するため、凹部の上面の-X端による-X軸、-Z軸方向の反力(F2、F1)により、係止端22が+Z方向に動くことが阻止され、これによれば、甲第1号証には、「前記インクカートリッジが取り付けられるとき、前記可動部材によって2つの前記接合部(係止端22)を前記第1斜面(凹部の上面の-X端)に接合することにより、2つの前記接合部(係止端22)が前記取付空間(-X端の鉛直方向に沿う下方の空間)に係合」することが記載されており、そうでなくても十分に示唆されている旨主張する。


しかしながら、係止端22が凹部の上面の-X端に接触して変形し、変形回復力によって凹部の上面の-X端に力を作用するため、凹部の上面の-X端による-X軸、-Z軸方向の反力(F2、F1)により、係止端22が+Z方向に動くことが阻止されるものであれば、凹部の上面の-X端と係止面41の-Z端を含むY方向に延在する一辺上に係止端22を位置させる必要があり、インクカートリッジを取り付けるときに、常にそのような不安定な位置に係止端22を維持することが技術的に困難であることは明らかであり、甲第1号証に記載された発明をこのような技術的困難性を伴う発明として解することは不合理である。
そうすると、甲第1号証に記載された発明として、凹部の上面にはその-X端が含まれ、凹部の上面の-X端は係止面41の一部でもあり、インクカートリッジをキャリッジに取り付ける際に、凹部の上面の-X端による-X軸、-Z軸方向の反力(F2、F1)により、係止端22が+Z方向に動くことが阻止されるものと解することは相当ではなく、これを根拠に、甲第1号証には、「前記インクカートリッジが取り付けられるとき、前記可動部材によって2つの前記接合部(係止端22)を前記第1斜面(凹部の上面の-X端)に接合することにより、2つの前記接合部(係止端22)が前記取付空間(-X端の鉛直方向に沿う下方の空間)に係合」することが記載されているとする特許異議申立人の主張は採用できない。

したがって、特許異議申立人の上記(ア)ないし(ウ)の主張を検討しても、上記相違点1に係る本件発明の構成が甲第1号証に記載されているということはできない。

よって、本件発明と甲1発明とは、上記相違点1及び2で相違するものであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に該当しない。

イ 請求項7及び8に係る発明について
本件特許の請求項7及び8に係る発明は、請求項1を引用して記載された発明であり、請求項1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものである。
そうすると、本件特許の請求項7及び8に係る発明と、甲1発明とは、少なくとも上記相違点1及び2において相違する。
したがって、本件特許の請求項7及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に該当しない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 請求項1に係る発明について
上記(1)アで検討したように、本件発明と甲1発明は上記相違点1及び2において相違する。

上記相違点1が容易に想到し得るものといえるか否かについて検討する。
上記(1)ア(特許異議申立人の主張について)(ア)で検討したように、甲第1号証に記載された発明は、従来技術において、インクカートリッジを取り出す際に、インクカートリッジを-Z軸方向に動かさなければならないことに起因する問題を解決しようとする課題とし、当該課題を解決するために、インクカートリッジを-Z軸方向に動かす必要をなくしたものであるところ、図1に示すインクカートリッジを図10に示すキャリッジに取り付ける際に、係止端22が係止面41の側面に形成された凹部の上面に接合すれば、インクカートリッジをキャリッジから取り出す際に、その従来技術と同様に、インクカートリッジを-Z軸方向に動かさなければ係止端22と係止面41の側面に形成された凹部の上面とが分離できず、上記課題が解決できなくなることは明らかであるから、係止面41に代えて、係止面41の側面に形成された凹部の上面を係止端22との接合部とすることには阻害要因がある。

これに対し、特許異議申立人は、上記回答書において、甲第1号証における凹部の上面には、その上面の-X端が含まれ、図1に示すインクカートリッジを図10に示すキャリッジに取り付ける際に、上記(1)ア(異議申立人の主張について)(ウ)の図に示されるように、係止端22が係止面41の凹部の上面の-X端に接合すれば、インクカートリッジをキャリッジから取り外す際に、インクカートリッジを-Z軸方向に動かすことなく、係止端22を係止面41から分離させることができ、したがって、甲第1号証には、係止端22と係止面41の凹部の上面との接合によりインクカートリッジとキャリッジとの固定を達成することが可能であって阻害要因はなく、当業者にとって上記相違点1に係る本件発明の構成に想到し得る動機付けがある旨主張する。
しかしながら、上記(1)ア(特許異議申立人の主張について)(ウ)で検討したように、係止端22が係止面41の凹部の上面の-X端に接合するものであれば、凹部の上面の-X端と係止面41の-Z端を含むY方向に延在する一辺上に係止端22を位置させる必要があり、インクカートリッジを取り付けるときに、常にそのような不安定な位置に係止端22を維持することが技術的に困難であることは明らかであり、甲第1号証に記載された発明をこのような技術的困難性を伴う構成に変更することは不合理であるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

したがって、甲1発明を、本件発明の上記相違点1に係る構成の如く構成することは、当業者が容易になし得るものとはいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 請求項7及び8に係る発明について
本件特許の請求項7及び8に係る発明は、請求項1を引用して記載された発明であり、請求項1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものである。
そうすると、上記アで検討したとおり、本件特許の請求項1に係る発明が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許の請求項7及び8に係る発明も、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記相違点1に関して、特許異議申立人は、特許異議申立書において、
ア 甲第2号証(特開2007-230248号公報)の図12より、第2係合部6が係合するタンクホルダ側の係止部は近端から、近端より鉛直方向に高い位置にある遠端に傾斜して延在する斜面であると認められ、甲第1号証の係止端22を、甲第2号証に基づいて近端より鉛直方向に高い位置にある遠端に傾斜して延在する取付面の斜面に接合することは当業者にとって想到容易であること、
イ 甲第3号証(特開2007-230249号公報)では、図1及び図6に支持部材3に2又は3つの第2係合部がX軸方向(甲第1号証におけるY軸方向に相当)に並設されている実施例が記載されており、甲第2号証に基づいて、甲第1号証の係止端22をインクカートリッジのハンドル12にY軸方向に2つ並設し、これを係止面(斜面)に係止することは、当業者にとって想到容易であること
を根拠として、請求項1、7及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証の記載事項及び甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、7及び8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。

しかしながら、甲1号証に記載された発明、甲第2号証の記載事項及び甲第3号証の記載事項に基づいて、取付面を斜面とすることは、上記5(2)で検討したのと同様に、上記課題を解決できなくなることが明らかであるから、阻害要因がある。

したがって、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証の記載事項及び甲第3号証の記載事項に基づいて、本件発明の上記相違点1に係る構成には到達し得ないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証の記載事項及び甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、7及び8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、7及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-07-13 
出願番号 特願2018-554613(P2018-554613)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (B41J)
P 1 652・ 121- Y (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長田 守夫村田 顕一郎小宮山 文男  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
藤田 年彦
登録日 2019-05-24 
登録番号 特許第6530571号(P6530571)
権利者 珠海納思達企業管理有限公司
発明の名称 係合式のインクカートリッジ  
代理人 難波 裕  
代理人 河野 英仁  
代理人 田中 伸次  
代理人 河野 登夫  

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