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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F |
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管理番号 | 1364951 |
異議申立番号 | 異議2020-700236 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-04-03 |
確定日 | 2020-08-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6589151号発明「光硬化性樹脂組成物及び高屈折性樹脂硬化体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6589151号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6589151号に係る発明は、平成27年11月19日に特許出願され、令和元年9月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月16日に特許公報への掲載がなされ、その後、令和2年4月3日に特許異議申立人 筒井 雅人(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件の請求項1?2に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明2」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 なお、本件発明1における「二官能(メタ)アクリレー化合物」は、「二官能(メタ)アクリレート化合物」の誤記と認める。 「【請求項1】 (メタ)アクリレート化合物、金属含有ナノ粒子及び光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物であって、 前記(メタ)アクリレート化合物が、下記式(1): 【化1】 (式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、aは0である)で表される化合物を含み、 前記(メタ)アクリレート化合物中、前記式(1)で表される化合物の含有量が60?100質量%であり、 前記金属含有ナノ粒子が酸化ジルコニウム含有ナノ粒子であり、 前記光硬化性樹脂組成物の屈折率が1.666以上である光硬化性樹脂組成物(但し、前記光硬化性樹脂組成物は、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物のモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びマクロモノマーから選ばれる少なくとも1種の化合物、並びに、式(2)で表されるフルオレン骨格を有する二官能(メタ)アクリレート化合物: (式(2)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、水素原子又はメチル基、a及びbは、それぞれ1?4の整数を表す。)を含まない)。 【請求項2】 請求項1記載の光硬化性樹脂組成物を光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体。」 第3 異議申立ての理由の概要 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 ・申立ての理由1 本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 ・申立ての理由2 本件発明1?2の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2010-085937号公報 甲第2号証:「企画特集「10^(-9)INNOVATIONの最先端」<第35回>エネルギー・光・音の制御が出来る新規機能性材料の開発」株式会社日本触媒 研究本部 三輪 貴宏氏,小川 賢氏,高橋 邦夫氏,齋藤 允彦氏に聞く,真辺 俊勝 著,Nanotech Japan Bulletin Vol.8,No.4,2015(2015年8月発行) 甲第3号証:「KYOEI KYOEISHA CHEMICAL INFORMATION」共栄社化学株式会社社報 No.139 2015(2015年1月発行) 甲第4号証:特開平02-308202号公報 甲第5号証:特表2014-516094号公報 (以下、「甲第1号証」?「甲第5号証」を、それぞれ「甲1」?「甲5」という。) 第4 異議申立ての理由についての判断 1 申立ての理由1について 以下、申立て理由1を検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲5につき記載された事項を確認した上で、甲1に記載された発明を認定し、対比・判断を行う。 (1) 甲1に記載された事項 ア「【請求項1】 無機酸化物微粒子と重合性モノマーとを含有する無機酸化物微粒子含有組成物において、(α)少なくとも(メタ)アクリル基を含有する被覆材により被覆されている無機酸化物微粒子と、(β)環状構造を有し、かつ1個の重合性不飽和基を有する環状単官能化合物と、(γ)少なくとも2個以上の重合性不飽和基を有する多官能化合物とを、含有することを特徴とする無機酸化物微粒子含有組成物。 【請求項2】 前記(α)における無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の無機金属酸化物を含むナノ粒子であることを特徴とする、請求項1記載の無機酸化物微粒子含有組成物 【請求項3】 前記(β)における環状単官能化合物が、環状構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物であることを特徴とする、請求項1又は2記載の無機酸化物微粒子含有組成物。 ・・・ 【請求項7】 請求項1?5記載の無機酸化物微粒子含有組成物を硬化させて得られる無機微粒子含有硬化組成物。」 イ「【0001】 本発明は、無機酸化物微粒子含有組成物及び該組成物を硬化させて得られる無機酸化物微粒子含有硬化組成物に関するものであり、特にガラスとの密着性が良く、ガラスよりも高い屈折率を有する硬化膜が得られる無機酸化物微粒子含有組成物に関する。」 ウ「【0020】 前記(α)における無機酸化物微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の無機金属酸化物を含むナノ粒子であることが好ましく、より好ましくは酸化チタン及び/又は酸化ジルコニウムであり、最も好ましくは酸化ジルコニウムである。」 エ「【0034】 本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子における酸化ジルコニウムに対する被覆剤の割合としては、空気雰囲気中で加熱して有機成分を除去したときの減量率で40質量%以下が好適である。当該減量率が40質量%を超えると被覆剤の量が多過ぎ、酸化ジルコニウム本来の作用効果が十分に発揮されない場合があり得る。一方、当該減量率が5質量%未満では被覆剤の量が少な過ぎて粒子の分散性が十分に改善されない場合があり得るので、当該減量率は5質量%以上が好ましい。より好ましくは、10質量%以上、30質量%以下である。」 オ「【0041】 前記(β)における環状単官能化合物とは、環状構造と1個の重合性不飽和基とを有する化合物であり、例えば、スチレン、ビニルトルエン、4-t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、4-クロロスチレン、4-メチルスチレン、4-クロロメチルスチレンなどのスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸9-H-フルオレン-9-イル等の(メタ)アクリル酸系誘導体等が好ましい。より好ましくは環状構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である(メタ)アクリル酸系誘導体であり、更に好ましくは該環状構造が5又は6員環の脂肪族炭化水素環で、該環構造に水酸基が結合したアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチルなどが例示され、最も好ましくは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルである。 【0042】 また、無機酸化物微粒子含有組成物を空気中で紫外線硬化する場合には、前記(β)における環状単官能化合物は、アクリル基を有する化合物が好ましい。」 カ「【0057】 本発明の無機酸化物微粒子含有組成物を硬化させるためには、重合開始剤を添加するのが好ましく、例えば、加熱により重合開始ラジカルを発生する熱重合開始剤;紫外線の照射により重合開始ラジカルを発生する光重合開始剤;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、熱重合促進剤、光増感剤、光重合促進剤などをさらに添加することも好ましい。」 キ「【実施例】 【0103】 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。 【0104】 なお、各酸化ジルコニウムナノ粒子の物性の測定方法は、以下の通りである。 【0105】 <粉末X線回折> 酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造は、全自動多目的X線回折装置(スペクトリス社製、XPert Pro)を用いて測定した。測定条件は以下の通りである。 【0106】 X線源: CuKα(0.154nm) X線出力設定: 45kV、40mA ステップサイズ: 0.017° スキャンステップ時間: 5.08秒 測定範囲: 5?90° 測定温度: 25℃ また、得られたX線回折チャートを解析ソフト(XRayCrystal)で解析し、式(1)から結晶性を示すC値を算出した。 【0107】 <平均粒子径> 酸化ジルコニウムナノ粒子を超高分解能電解放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-4800)で観察した。拡大観察された粒子を任意に100個選択し、各粒子の長軸方向の長さを測定してその平均値を平均粒子径とした。 【0108】 <全光線透過率> 何も塗工されていないスライドグラス(松浪硝子工業社製、標準大型白緑磨No.2(S9112))を比較とし、以下の実施例7で述べる方法で硬化膜が形成されたスライドグラスに塗工された試験板の厚み方向の1800nm?340nm領域の透過率を吸光光度計(島津製作所社製分光光度計、UV-3100)を用いて測定することで、硬化塗膜単独の全光線透過率を測定した。 【0109】 <耐溶剤性> メチルエチルケトンをしみ込ませた脱脂綿で、塗膜を50回ラビングした後の表面状態を目視観察により以下の基準で評価した。 ○:変化無し、△:キズ、×:塗膜が溶解消失 <密着性> 塗膜にカッターナイフで1mm間隔に切り付け、100個のマス目を作り、塗膜上にセロハンテープを張り付け瞬間的に引き剥がし、マス目の残った数で評価した。 【0110】 <屈折率> 薄膜測定装置(FILMETRICS社製、品番:F20thinfilm analyzer)を用いて550nmにおける屈折率の測定を行った。 【0111】 (製造例1) 2-エチルヘキサン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子の製造 2-エチルヘキサン酸ジルコニウムミネラルスピリット溶液(第一稀元素化学工業社製)(782g)に純水(268g)を混合した。当該混合物を撹拌機付きオートクレーブ内に仕込み、反応容器中の雰囲気を窒素ガスにより置換した。その後、反応溶液を180℃まで加熱し、16時間反応させることにより酸化ジルコニウムを合成した。180℃で反応した際の容器中圧力は1.03MPaであった。反応後の溶液を取り出し、底部にたまった沈殿物を濾別してアセトンで洗浄した後に乾燥した。乾燥後の当該沈殿物(100g)をトルエン(800mL)に分散させたところ、白濁溶液となった。次に、精製工程として定量濾紙(アドバンテック東洋社製、No.5C)にて再度濾過し、沈殿物中の粗大粒子などを除去した。次に、濾液を減圧濃縮したトルエンを除去することで白色の酸化ジルコニウムナノ粒子を回収した。 【0112】 上記酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造解析をX線解析装置にて確認したところ、正方晶と単斜晶に帰属される回折線が検出された。回折線の強度から、結晶構造は主として正方晶からなり、わずかに単斜晶を含むものであることが確認された。得られたX線回折チャートから求めたC値は18であった。よって、上記酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶性が高いことが分かった。 【0113】 また、当該酸化ジルコニウムナノ粒子の粒子径をFE-SEMで測定したところ、平均粒子径は12nmであった。さらに、赤外吸収スペクトルにより分析したところ、C-H由来の吸収とCOOH由来の吸収が認められた。当該吸収は、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆している2-エチルヘキサン酸に由来するものと考えられる。 【0114】 さらに、TG-DTA(熱重量-示唆熱分析)により、空気雰囲気下10℃/分の速度で800℃まで昇温した時の酸化ジルコニウムナノ粒子の質量減少率を測定したところ、12質量%の減少率となった。よって、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆していた2-エチルヘキサン酸は、粒子全体の12質量%であることが確認された。 【0115】 また、粒度分布を測定し、式:σ/x×100[式中、σは粒子の粒度分布の標準偏差を示し、xは粒子の50%累積径(nm)を示す]から変換係数を求めたところ、20%であった。よって、上記ナノ粒子の粒子サイズのバラツキは少ないことがわかった。 【0116】 (製造例2) 2-エチルヘキサン酸と3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランで被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子の製造 上記製造例1で得られた酸化ジルコニウムナノ粒子(10g)をトルエン(90g)も分散させ、透明溶液を得た。当該溶液に表面処理剤として3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(1.5g、信越化学工業社製、KBM-5103)を添加し、90℃で1時間加熱還流した。次いで、還流処理後の溶液にn-ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させて溶液を白濁させた。白濁液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で加熱乾燥し、2-エチルヘキサン酸と3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理された酸化ジルコニウムナノ粒子を調製した。 【0117】 得られた被覆酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて確認したところ、正方晶と単斜晶の結晶構造に帰属される回折線が検出された。回折線の強度から、結晶構造は主として正方晶からなり、わずかに単斜晶を含むものであることが確認された。また、当該酸化ジルコニウムナノ粒子の粒子径をFE-SEMで測定したところ、平均粒子径は12nmであった。さらに赤外吸収スペクトルにより分析したところ、C-H由来の吸収とCOOH由来の吸収に加えてSi-O-C由来の吸収が認められた。これら吸収は、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆している2-エチルヘキサン酸と3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来するものと考えられる。また、TG-DTA(熱重量-示唆熱分析)により、空気雰囲気下10℃/分の速度で800℃まで昇温した時の酸化ジルコニウムナノ粒子の質量減少率を測定したところ、17質量%の減少率となった。よって、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆していた2-エチルヘキサン酸と3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランは、粒子全体の17質量%であることが確認された。 【0118】 また、当該ナノ粒子を蛍光X線分析装置により分析し、Si含有量を測定することで被覆層における3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランを定量した。さらに、CHNコーダ分析装置によりナノ粒子中の全C含量を測定し、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン由来のC量を差し引くことで2-エチルヘキサン酸由来のC量を算出し、被覆層における2-エチルヘキサン酸量を求めた。その結果、被覆層における2-エチルヘキサン酸に対する3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランの存在比率は、モル比で1.5であった。また、粒度分布から求めた変換係数は、上記製造例1の粒子と同様に20%であった。 【0119】 (製造例3)2-エチルヘキサン酸、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子の製造 上記製造例1で得られた酸化ジルコニウムナノ粒子(10g)をトルエン(90g)も分散させ、透明溶液を得た。当該溶液に表面処理剤として3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(0.75g、信越化学工業社製、KBM-5103)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(0.75g、信越化学工業社製、KBM-503)を添加し、90℃で1時間加熱還流した。次いで、還流処理後の溶液にn-ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させて溶液を白濁させた。白濁液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で加熱乾燥し、2-エチルヘキサン酸、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理された酸化ジルコニウムナノ粒子を調製した。 【0120】 得られた被覆酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて確認したところ、正方晶と単斜晶の結晶構造に帰属される回折線が検出された。回折線の強度から、結晶構造は主として正方晶からなり、わずかに単斜晶を含むものであることが確認された。また、当該酸化ジルコニウムナノ粒子の粒子径をFE-SEMで測定したところ、平均粒子径は12nmであった。さらに赤外吸収スペクトルにより分析したところ、C-H由来の吸収とCOOH由来の吸収に加えてSi-O-C由来の吸収が認められた。これら吸収は、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆している2-エチルヘキサン酸、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来するものと考えられる。また、TG-DTA(熱重量-示唆熱分析)により、空気雰囲気下10℃/分の速度で800℃まで昇温した時の酸化ジルコニウムナノ粒子の質量減少率を測定したところ、18質量%の減少率となった。よって、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆していた2-エチルヘキサン酸、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、粒子全体の18質量%であることが確認された。 【0121】 また、当該ナノ粒子の^(1)H-NMRを測定し、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランと3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの含有量がモル比で1:1であることが確認された。更に、当該ナノ粒子を蛍光X線分析装置により分析し、Si含有量を測定することで被覆層における3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランと3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの含有量を定量した。さらに、CHNコーダ分析装置によりナノ粒子中の全C含量を測定し、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランと3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン由来のC量を差し引くことで2-エチルヘキサン酸由来のC量を算出し、被覆層における2-エチルヘキサン酸量を求めた。その結果、被覆層における2-エチルヘキサン酸に対する3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランと3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの存在比率は、モル比でそれぞれ0.75であった。粒度分布から求めた変換係数は、上記製造例1の粒子と同様に20%であった。 【0122】 (製造例4)2-エチルヘキサン酸、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子の製造 上記製造例1で得られた酸化ジルコニウムナノ粒子(10g)をトルエン(90g)も分散させ、透明溶液を得た。当該溶液に表面処理剤として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(1.5g、信越化学工業社製、KBM-503)を添加し、90℃で1時間加熱還流した。次いで、還流処理後の溶液にn-ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させて溶液を白濁させた。白濁液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で加熱乾燥し、2-エチルヘキサン酸、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理された酸化ジルコニウムナノ粒子を調製した。 【0123】 得られた被覆酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて確認したところ、正方晶と単斜晶の結晶構造に帰属される回折線が検出された。回折線の強度から、結晶構造は主として正方晶からなり、わずかに単斜晶を含むものであることが確認された。また、当該酸化ジルコニウムナノ粒子の粒子径をFE-SEMで測定したところ、平均粒子径は12nmであった。さらに赤外吸収スペクトルにより分析したところ、C-H由来の吸収とCOOH由来の吸収に加えてSi-O-C由来の吸収が認められた。これら吸収は、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆している2-エチルヘキサン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来するものと考えられる。また、TG-DTA(熱重量-示唆熱分析)により、空気雰囲気下10℃/分の速度で800℃まで昇温した時の酸化ジルコニウムナノ粒子の質量減少率を測定したところ、18質量%の減少率となった。よって、酸化ジルコニウムナノ粒子を被覆していた2-エチルヘキサン酸、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、粒子全体の18質量%であることが確認された。 【0124】 また、当該ナノ粒子を蛍光X線分析装置により分析し、Si含有量を測定することで被覆層における3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを定量した。さらに、CHNコーダ分析装置によりナノ粒子中の全C含量を測定し、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン由来のC量を差し引くことで2-エチルヘキサン酸由来のC量を算出し、被覆層における2-エチルヘキサン酸量を求めた。その結果、被覆層における2-エチルヘキサン酸に対する3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの存在比率は、モル比で1.5であった。また、粒度分布から求めた変換係数は、上記製造例1の粒子と同様に20%であった。 【0125】 (実施例1) 茶色褐色ガラス瓶に製造例2で合成したアクリル基含有ジルコニアナノ粒子7.0g、ライトアクリレートIB-XA(イソボルニルアクリレート、共栄社化学社製)1.5g、ライトエステルTMP(トリメチロールプロパントリメタクリレート、共栄社化学社製)1.5g、KBM-503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)0.3g、Irgacure184(光ラジカル重合開始剤、チバジャパン製)0.4g、メチルエチルケトン10.0gを仕込み、均一になるまで撹拌を行い、無機酸化物微粒子含有組成物を得た。 【0126】 (実施例2?5) 表1に示した配合割合で行った以外は、実施例1と同様の手法で組成物を得た。 【0127】 (比較例1?4) 表1に示した配合割合で行った以外は、実施例1と同様の手法で組成物を得た。 【0128】 【表1】 【0129】 表1中の略号は以下の通りである。 IBX-A:ライトアクリレートIB-XA(イソボルニルアクリレート、共栄社化学社製) MEDOL10:(2-エチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(大阪有機化学工業社製) TMP:ライトエステルTMP(トリメチロールプロパントリメタクルレート、共栄社化学社製) TMP-A:ライトアクリレートTMP-A(トリメチロールプロパントリアクルレート、共栄社化学社製) CN991:ウレタンアクリレート(SARTOMER社製) KBM-503:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製) KBM-5103:3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製) Irgacure184:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバジャパン社製) (実施例7) スライドグラス(松浪硝子工業社製、標準大型白緑磨No.2(S9112)上に、実施例1で得られた無機酸化物微粒子含有組成物を、バーコーターで膜厚3μmになるよう、塗工を行い、80℃にて2分乾燥後、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプで2000mJ/cm2の紫外線を照射することにより硬化させ、硬化塗膜を得た。 【0130】 得られた硬化塗膜の全光線透過率、耐溶剤性、密着性、屈折率を測定した結果を表2に示した。 【0131】 (実施例8?12) 表2に示した無機酸化物微粒子含有組成物を用いた以外は、実施例7と同様の手法により硬化塗膜を得た。得られた硬化塗膜の全光線透過率、耐溶剤性、密着性、屈折率を測定した結果を表2に示した。 【0132】 (比較例5?8) 表2に示した無機酸化物微粒子含有組成物を用いた以外は、実施例7と同様の手法により硬化塗膜を得た。得られた硬化塗膜の全光線透過率、耐溶剤性、密着性を測定した結果を表2に示した。 【0133】 【表2】 【0134】 表2において、本発明である実施例7?12は、全光線透過率、耐溶剤性、密着性、屈折率の全ての物性において優れていることが確認できる。」 (2) 甲2に記載された事項 ア「ジルコスター^(R)(審決注:原文は○の中にRと記載)は、図10に見られるようにやや細長い形状のジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO_(2))ナノ粒子(粒子を球状とみなした場合の平均粒径10nm)の表面に、有機物による表面処理層が被覆されたものである(図11)。 表面処理層は、ジルコニアナノ粒子表面によく馴染み、かつジルコニアナノ粒子を分散させる溶媒や樹脂によく馴染む材料が選ばれる。」(第7頁右欄第23行?第29行) イ「4.2 製品 1)分散液ラインナップ 2つのタイプがあり、Type 1はメチルエチルケトン(MEK)を分散媒にし、Type 2はベンジルアクリレートを分散媒にしている(表3)。粒子含有率はそれぞれ、70%、80%と高いが、粒子の分散度が高く良好な透明性を示している(図12)。主な顧客はコーティング材のメーカーであり、樹脂に配合して使用する。 2)ジルコスター^(R)(審決注:原文は○の中にRと記載)の性能 ジルコニアナノ粒子表面にUV硬化後も透明性を保つ。粒子含有率を増加することにより、屈折率を高くすることができるが、透過率低下は発生しない(表4)。機械的強度を表わす一つの指標である鉛筆硬度は2Hであり、粒子含有率を高めても損なわれることはない。」(第8頁右欄第3行?第17行) ウ「 」 エ「 」 オ「4.3 想定用途 これまでに述べたジルコスターの特性、分散性から次のような用途が想定される。 ・高屈折率ナノフィラー ・屈折率&アッベ数調整用材料 具体的にはレンズ、ディスプレイやタッチパネル等の光学材料、電子材料に使用される透明性と高屈折率が要求されるコーティング材料/成形材料への使用が想定され、一部商業生産も始まっている。タッチパネルに使うITOは屈折率が高いため配線の筋が見えてしまい見難くなってしまう問題があるが、ITOと基材の中間の屈折率を持つジルコスター使用樹脂を用いるとこの問題は解消される。また、高屈折ナノ粒子であるジルコスターを使用することで、液晶バックライトの光を拡散させず一方向に集めることができるようになり、光量を少なくすることができるのでバッテリー等の消費電力を抑えることができる(省エネ)。」(第9頁左欄第1行?第17行) (3) 甲3に記載された事項 ア「ライトアクリレートPOB-Aの化学構造を図1に示します。ライトアクリレートPOB-Aは、重合性に寄与するアクリロイル基を分子内に一つだけ有する単官能モノマーです。また、分子内に芳香族環を2つ有しており、高い屈折率の発現に寄与します。さらに、2つの芳香族環の間を酸素原子が仲介し、比較的自由な結合角・回転角を取る事により、分子自体に柔軟性・弾力性が生み出されます。」(第9頁「特徴と性状」の左欄第8行?第10頁左欄第3行) イ「 」 ウ「ライトアクリレートPOB-Aの代表的な性状値を表1に示します。当社が長年培ったエステル合成技術により、低色数・低粘度・高屈折率を達成します。高屈折率のベース樹脂と各種単官能モノマーとの配合における、屈折率と粘度の関係を図3に示します。ライトアクリレートPOB-Aを配合した組成液は、従来のモノマーとの比較において、より高い水準で高屈折率と低粘度を両立しました。各種樹脂材料との組み合わせにより、光学系をはじめとする様々な産業分野の発展に貢献する事が期待されます。」(第10頁左欄第8行?右欄第2行) エ「 」 オ「 」 カ「本稿にてご紹介しましたライトアクリレートPOB-Aは、光学系の樹脂材料に求められる低色数・高屈折率を有し、かつ低粘度で希釈性が良好な単官能モノマーです。」(第10頁「最後に」の第1行?第4行) (4) 甲4に記載された事項 ア「2.特許請求の範囲 1.アクリル系及びメタクリル系樹脂組成物の少なくとも1種と、ビニル単量体化合物との共重合体から成るプラスチックス成形体から成り、前記ビニル単量体化合物として、下記の一般式(1)の化合物を重量比で5?50%含有して成る光学部品。 一般式 」 イ「1.ビニル化合物(1): 上記ビニル化合物(1)は低粘度の液状物質となり、しかも高屈折率、低吸水性である。そして化合物(1)は、分子中に芳香環あるいはハロゲン原子を有し、吸水性のエステル結合量を相対的に減らしているため、アクリル系及び/またはメタクリル系樹脂組成物と共重合したのちにおいても、この性質は維持され、結果としてプラスチックス成形体の高屈折率、低吸水性が確保される。」(第4頁右下欄第8行?第16行) ウ「〔実施例〕 次に、本発明の実施例を詳述する。 実施例1 (i)ビニル化合物(1)の準備; ベンジルアルコール誘導体とメタクリル酸とを反応せしめ、下記のメタクリル酸エステル(化合物1)を得た。なお、各化合物の一般式に並記した( )内のR_(1),R_(2)は、理解を容易にするため一般式(1)の内容を重複表示したものである。 (ii)一般式(2)で示したアクリル系化合物の準備; また、アクリル系化合物として、下記の化合物Fを別途用意した。 〔一般式(2)において、R_(1):-H, R_(3):-H,R_(4):-CH_(3),n=2〕 (iii)共重合体の合成; 化合物Fに上記化合物A?Eをそれぞれ配合し、さらに、光重合開始剤として1-4-(イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンを2wt%添加した後、各組成物の25℃における粘度を測定した。 この組成物を厚さ1mmのガラス板2枚の間に組成物の厚さが1mmになるようにはさみ、高圧水銀灯(波長365nmにおいて光強度150mW/cm^(2)、30秒)にて光硬化した後、120℃中に1h放置して、後硬化を行なった。 (iv)結果; 波長589.3nmで測定した各硬化物の屈折率及び上記粘度の測定結果を第1図に示す。 なお、同図において、○印Fは上記一般式(F)の化合物のみから成る場合の粘度とその硬化物の屈折率との関係を、また●印は化合物(1)のA?Eのみから成る場合の特性を同様に示したもの、そして、その間のΔ、◇印はそれぞれ化合物A?Eが、20wt%と50wt%混合された組成物の粘度と、それの硬化物の屈折率との関係を同様にして示したものである。 この図から明らかなようにアクリル系化合物(化合物F)に本発明に係る化合物(1)A?Eを添加すると、組成物の粘度が下がり、しかも屈折率が向上する。 一般に、樹脂注形やレプリカ作成工程において光学部品を製作する際には作業性が重視される。樹脂の流動性が良く、しかも型材からの液漏れを起こしたり、気泡を巻き込まない液の粘度は、50?500cpが適当である。また、光学部品の効率を向上するには、屈折率は大きいほど好ましいが、少なくとも1.55以上であるいことが必要とされることが多い。 この観点よりみると、第1図の樹脂組成物は、化合物Fに化合物(1)A?Eを添加することによって、光学部品用樹脂材料として好ましい特性を実現できることがわかる。 化合物(1)は単独で用いても光学部品として使用できないことはないが、粘度が低く、硬化性が劣るなどの理由により、化合物(1)の添加量を50%以下とすることが望ましい。 比較例1?5、実施例2?14 まず、いずれも化合物(1)を含まぬ比較例1?5について例示し、次いで化合物(1)を適量に含む実施例2?14について説明する。各比較例及び実施例ともに成分物質の組成及び結果としての粘度特性(硬化前の組成物)及び硬化後の硬化物の屈折率を第1表に示す。 比較例1: ジエチレングリコールビスアリルカーボネート98.3 gにジ-イソプロピルパーオキシカーボネート2.7gを添加して溶解し、25℃における粘度を測定した。さらに、この組成物を50℃1h+100℃1hで硬化せしめ、波長589.3nmにおける硬化物の屈折率を測定した。結果は第1表に示すとおりであり、粘度は17cpと低く、また、硬化物の屈折率も1.45と著しく低いものであった。 比較例2?5: 第1表に示すように化合物(1)を含まず、アクリル系またはメタクリル系化合物を単量体で98gに対して光重合開始剤1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン2gを添加して溶解し、25℃における粘度を測定した。この組成物を厚さ1mmのガラス板の間に組成物の厚さが1mmになるようにはさみ、高圧水銀灯(波長365nmにおいて光強度150mW/cm^(2)、30秒)にて光硬化した後、120℃1h放置して、後硬化を行ない、波長589.3nmで各硬化物の屈折率を測定した。結果は、第1表からわかるように硬化前の組成物の粘度が異常に大き過ぎたり(比較例2、3、5)、硬化後の硬化物の屈折率が小さ過ぎたり(比較例4)する問題を有している。 実施例2?14: 成分物質の組成を第1表のとおり配合し、上記比較例2?5と同様にして、硬化前の組成物の粘度及び硬化後の硬化物の屈折率を測定した。その結果、組成物の粘度は実用上好ましい30?300cp(25℃)が得られ、屈折率については1.56以上(実施例9においては1.62)で光学部品用プラスチックスの目標レベル(1,55)を十分に満足するものであった。 従来は、高屈折率のものを得ようとすると、硬化前の組成物の粘度が異常に高くなる傾向にあったが、本実施例においては適度の粘度で作業性が格段に向上した。 第1表 実施例15 実施例1のアクリル系化合物(F)に対して、化合物(1)のA?Eをそれぞれ30重量%配合し、これらにさらに、光重合開始剤1-(4-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンを2重量%添加した光硬化性樹脂組成物5種を用意した。 第4図に例示するように、970×730×10mmの石英ガラス板と同面積の真ちゅう製フレネルレンズパターン付金型を3mm間隔をあけて平行に配置した母型1a、lbの空間2内に、先に用意した光硬化性樹脂4を注入した。石英ガラス板の側よりメタルハライドランプ(波長365nm)にて光強度100mW/cm^(2)で1分間照射して、注入した樹脂を光硬化し、石英ガラス板と金型から成る母型1a、1bをはずし、光硬化性樹脂硬化物から成る光学部品5bとしてのフレネル板を得た。この板のフレネル面を上にして一般ガラス板上に置き、80℃で1h加熱処理を施した。 上記5種の光硬化性樹脂を用いて、それぞれフレネル板を製作したが、板幅100mm当りそりは0.1mm以内であった。また、フレネル板の面はフレネルピッチ0.11mmの鋸歯状断面を母型より正確に転写していた。 このフレネル板は、入力側焦点を859mmとしたときの出力側焦点が9800mmとなり、焦点バラツキを目標の10%以内に保つことができた。また、フレネル板の成形に当っては、前記実施例1と同様に適度な粘度を有する組成分であるため作業性が良好であった。 実施例16 この例は、画像表示装置の投射スクリーンに上記実施例15で得たフレネル板を用いるものである。 第2図(a)に示すように1発光チューブ(投射型ブラウン管)7、レンズ8、ミラー9、スクリーン10から成る投射型テレビジョン11を用意し、スクリーン10のうち、フロント板12をあらかじめ用意し、フレネル板13として先に本実施例で作成したものを用いた。 第2図(b)はスクリーン10の断面拡大図を示す。投射型テレビジョンの実働試験の結果、色ずれ、像ひずみが認められず、本発明に係るフレネル板は十分に実用できることを確認した。また、この投射型テレビジョンは、40℃95%RHで1000h放置後も像に異常は認められなかった。 実施例17 実施例1の化合物(F)に対して、化合物(1)として化合物Aと化合物(D)をそれぞれ段階的(0、5、10、20、30、40重量%)に配合し、これらに、光重合開始剤1-(4-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンを2重量%加え、光硬化性樹脂組成物11種を用意した。 厚さ5mmのメタクリル酸メチル-スチレン共重合体(スチレン60重量%)の透明板(20×60mm)を透明成形体基板として調整した。この透明板2枚を上記のように用意した光硬化性樹脂組成物を用いて貼り合わせた(接着面積:1cm^(2)、光硬化性樹脂組成物の厚さ:200μm)。これを40℃で10分間放置した後、高圧水銀灯(波長365nm)にて光強度50mW /cm^(2)で30秒照射し、この樹脂組成物を光硬化して、接着試験片を作成した。 透明板と光硬化性樹脂組成物との接着強さは、第3図に示すように、化合物(1)(ここでは化合物Aまたは化合物D)の量が多くなると向上する。樹脂組成物中の化合物(1)の量が10重量%を越えると、破壊時の状態が透明板と樹脂組成物間の界面破壊から透明板または樹脂組成物の凝集破壊に変り、両者の接着が十分なことが知れる。このように接着強さが向上するのは、透明板の表面に化合物(1)が浸み込み、透明板と光硬化性樹脂との界面での剥離が生じなくなるためと考えられる。 なお、真ちゅうなど金型材と光硬化性樹脂組成物との接着強さは約20kg/cm^(2)であるため、レプリカを正確にとり、金型への樹脂残りをなくすには、透明板と光硬化性樹脂組成物との接着強さは、60kg/cm^(2)以上であることが望ましい。 実施例18 実施例(1)の化合物(F)に対して、化合物(1)として化合物A?Eをそれぞれ30重量%配合し、これらにさらに、光重合開始剤1-(4-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンを2重量%添加した光硬化性樹脂組成物5種を用意した。 第5図に例示するように、970×740×3mmのメタクリル酸メチル-スチレン共重合体製透明成形体基板6とこれと同面積の真ちゅう製フレネルパターン付母型1cを用意し、母型1cを40℃に保温した。前記基板6と母型1cとの空間2に、先に用意した光硬化性樹脂組成物4を約200μmの厚さに注入した後、基板6の側より高圧水銀灯(波長365nm)により光強度50mW/cm^(2)で30秒照射し、この樹脂組成物4を光硬化した。基板6と母型1cとの間に力を加えたところ、母型1cと光硬化性樹脂硬化物4との間が剥がれ、透明成形体基板6の上に光硬化性樹脂組成物4が付着した光学部品5bとしてのフレネル板が得られた。 一方、比較のために化合物(F)と光重合開始剤のみから成る光硬化性組成物を用いて、フレネル板の製作を試みたところ、光硬化性樹脂が母型に付着して、正常なフレネル板が得られなかった。このように化合物(1)を導入すると金型との離形性も良くなる。 なお、アクリル系化合物(F)と化合物(1)のA?Eとを組み合わせた光硬化性樹脂組成物を用いた前記フレネル板は母型の凹凸を正確に転写したフレネル面を有し、板幅100mm当りのそりは0.1mm以内であった。また、フレネル板の面はフレネルピッチ0.11mmの鋸歯状断面を母型より正確に転写していた。 このフレネル板は、入力側焦点を859mmとしたときの出力側焦点が9800mmとなり、焦点バラツキは目標の10%を十分に満たす5%以内に保つことができた。 このフレネル板を第2図に示すように投射型テレビジョン用スクリーンのフレネル板として用いたところ、色ずれ、像ひずみが認められず、十分に実用できることを確認した。また、このテレビジョンは、40℃95%RHで1000h放置後も像に異常は認められなかった。このテレビジョンよりフレネルシートを取り出して透明成形体と光硬化性樹脂硬化物との間の接着強さを測定したところ、70kg/cm^(2)以上あり、吸湿処理前の接着強さと比較して変化が認められなかった。」 (5) 甲5に記載された事項 ア「【請求項1】 重合性樹脂組成物の反応生成物を含有する重合ミクロ構造化表面を含む光学フィルムであって、前記重合性樹脂組成物が ナノ粒子と、 少なくとも2個の(メタ)アクリレート基を含む、少なくとも1種の第1のモノマーと、 構造式 【化1】 (式中、少なくとも1つのR1が芳香族置換基を含み、 tが、1?4の整数であり、 R2は水素又はメチルである)を有する、少なくとも1種の第2の(メタ)アクリレートモノマーと、 を含有する、光学フィルム。 【請求項2】 式中tが1である、請求項1に記載の光学フィルム。 【請求項3】 式中R1が、 【化2】 を含む群から選択される、請求項1又は2に記載の光学フィルム。 ・・・ 【請求項18】 重合性樹脂組成物であって、 ナノ粒子と、 少なくとも2個の(メタ)アクリレート基を含む、少なくとも1種の第1のモノマーと、 構造式 【化4】 (式中、少なくとも1つのR1は芳香族置換基を含み、 tが、1?4の整数であり、 R2は水素又はメチルである)を有する、少なくとも1種の第2の(メタ)アクリレートモノマーと、 を含有する、重合性樹脂組成物。 【請求項19】 重合性樹脂組成物が、更に請求項2?13に記載のいずれか1項又は組み合わせにより記述される、請求項18に記載の重合性樹脂組成物。」 イ「【0025】 いくつかの好ましい実施形態においては、tは1である。代表的な構造式は、 【0026】 【化4】 を含む。」 ウ「【0073】 ジルコニア粒子は、米国特許第7,241,437号に記載されているような水熱技術を使用して調製することができる。ナノ粒子は、表面修飾されている。表面修飾は、無機酸化物(例えば、ジルコニア)粒子に表面修飾剤を付着させて、表面特性を修飾することを伴う。無機粒子の表面修飾の全体的な目標は、均質な構成成分を持つ、好ましくは高輝度のフィルムに調製可能な(例えばキャスト及び硬化プロセスを使用して)低粘度を持つ樹脂を提供することである。 【0074】 ナノ粒子は、しばしば、有機マトリックス材料との相溶性を改良するために表面修飾される。表面修飾されたナノ粒子は、しばしば、有機マトリックス材料中で非会合、非粒塊、又はこれらの組み合わせの状態である。得られるこれらの表面修飾されたナノ粒子を含有する光管理フィルム(light management films)は高い光学的透明性及び低いくもりを有する傾向がある。ジルコニアのような、高屈折率の表面修飾されたナノ粒子の添加は、輝度向上フィルムのゲインを、重合化された有機材料のみを含有するフィルムと比べて増大することができる。」 エ「【0109】 実施例で使用した材料 3-フェノキシベンジルアクリレートモノマー(PBA)の合成 オーバーヘッドスターラー、温度プローブ、加熱マントル及びディーンスタークトラップを備えた500mLの3首丸底フラスコに、100.0gの3-フェノキシベンジルアルコール、37.79gのアクリル酸、155.6gのシクロヘキサン、0.04050gの4-ヒドロキシTEMPO(Prostab重合禁止剤)、0.04050gの4-メトキシフェノール、及び1.296gのメタンスルホン酸、を加えた。透明な混合物は撹拌しながら84℃まで加熱し、縮合により水を経時的に収集した。10時間後に、出発物質の約1.9%が残留した。反応物は15%の炭酸ナトリウム溶液250mL、そして蒸留水250mLで3回洗浄し硫酸マグネシウム上で乾燥、ろ過、そして真空乾燥して淡黄色の粘調な液体を回収した。115gの3-フェノキシベンジルアクリレート(収率90.56%)屈折率は1.5648で粘度は25℃で16cpsであった。3-フェノキシベンジルアクリレートは次の構造式: 【0110】 【化11】 を有する。 【0111】 ZrO_(2)ゾルは国際特許出願第2010/074862号に従って作製され、表面改質を施された。この様な表面処理は以下の化合物の混合物を含む。 【0112】 【化12】 【0113】 【表1】 【0114】 組成物1 以下が反応容器に加えられる。 90.0重量部のZrO_(2)ゾル(40.8重量%のZrO2) 39.0重量部の1-メトキシ-2-プロパノール 17.1重量部のHEAS(50%の1-メトキシ-2-プロパノール溶液) 3.9重量部のDCLA-SA(50%の1-メトキシ-2-プロパノール溶液) 9.6重量部のPEA 6.4重量部のSR601 16.1重量部のoPPA(2-フェニルーフェニルアクリレート) 水及びアルコールを真空蒸留によって除去した後、蒸気を加えて更に真空蒸留を行い、得られた複合樹脂分散液が、およそ以下の重量になるようにした。 46.3重量部のZrO_(2) 10.8重量部のHEAS 2.5重量部のDCLA-SA 12.2重量部のPEA 8.1重量部のSR601、 20.3重量部のoPPA(2-フェニルーフェニルアクリレート) 【0115】 組成物2 以下が丸底フラスコに加えられた。 50.0重量部のZrO_(2)ゾル(41.5重量%のZrO2) 58重量部の1-メトキシ-2-プロパノール 9.75重量部のHEAS(50%の1-メトキシ-2-プロパノール) 2.37重量部のDCLA-SA(50%の1-メトキシ-2-プロパノール) 8.96重量部のPBA 2.26重量部のBPDA-1 ProStab 5198の、1つの小さな欠片 水及びアルコールを真空蒸留によって除去した後、蒸気を加えて更に真空蒸留を行い、得られた複合樹脂分散液が、およそ以下の重量になるようにした。 55.0重量部のZrO_(2) 12.8重量部のHEAS 3.0重量部のDCLA-SA 23.4重量部のPBA 5.8重量部のBPDA-1 0.005重量部のProstab5198 【0116】 組成物3 以下が丸底フラスコに加えられた。 50.0重量部のZrO_(2)ゾル(41.5重量%のZrO2) 67重量部の1-メトキシ-2-プロパノール 9.80重量部のHEAS(50%の1-メトキシ-2-プロパノール溶液) 2.25重量部のDCLA-SA(50%の1-メトキシ-2-プロパノール溶液) 9.32重量部のPBA 9.32重量部のEM2206(A-BPEFとoPPEA(台湾からEternal Chemical Co.,)の40:60のブレンド) ProStab 5198の、1つの小さな欠片 水及びアルコールを真空蒸留によって除去した後、蒸気を加えて更に真空蒸留を行い、得られた複合樹脂分散液が、およそ以下の重量になるようにした。 46.0重量部のZrO_(2) 10.8重量部のHEAS 2.5重量部のDCLA-SA 20.4重量部のPBA 20.4重量部のEM2206 0.005重量部のProstab5198 【0117】 各々の重合性樹脂に0.36重量%のDarocure 1173光開始剤と0.40重量%のLucirin TPO光開始剤を添加した。 【0118】 最終ブレンドの屈折率は、ボシュロム(Bauschand Lomb)屈折計(カタログ番号33.46.10)を使用して測定された。粘度はTAインスツルメント(New Castle、デラウェア州)製AR 2000レオメーターを用いて50℃にて測定報告された。結果を表1に要約する。 【0119】 【表2】 【0120】 光学フィルムサンプル調製: 輝度向上フィルムサンプルは、重合可能な樹脂組成物1?3を使用して調製した。約3gの温かい樹脂を、2ミル(51マイクロメートル)のプライミングされたPET(ポリエステル)フィルム(DuPontから「Melinex 623」の商標名で入手可能)に適用し、市販のVikuiti TBEF-90/24に類似した90/24パターンを備えたミクロ構造化装置に対して定置した。PET、樹脂及び装置を、約150°F(66℃)に設定した加熱した貼合せ機を通過させて、均一な厚みのサンプルを生成した。フィルム及びコーティングされた樹脂サンプルを収容する装置を、50fpm(15.2m/分)にて、2つの600W/10インチD-バルブを収容したフュージョンUV処理装置に通過させて、フィルムを硬化させた。PET及び硬化樹脂を装置から取り外し、サンプルへと切断した。フィルムを評価するために使用した試験方法は、次の通りである。 【0121】 ゲイン試験方法 フィルムの光学性能を、Photo Research,Inc.(Chatsworth,CA)から入手可能な、MS-75レンズを有するSpectraScan(商標)PR-650 SpectraColorimeterを使用して測定した。このフィルムを、拡散透過性の中空の光ボックスの頂部上に置いた。光ボックスの拡散透過及び反射は、ランベル(Lambertian)として説明することができる。ライトボックスは、約6mmの厚さの拡散PTFE板から作製された約12.5cm×12.5cm×11.5cm(L×W×H)の大きさの六面中空キューブであった。ボックスの1つの面は、サンプル表面として選択されている。中空ライトボックスの拡散反射率は、サンプル表面で測定した時、約0.83であった(例えば、以下に記載の測定法により400?700nmの波長範囲全体にわたり平均した場合、約83%)。ゲイン試験中、ボックスの底面内の約1cmの円孔を介して内部からボックスを照光した(底面はサンプル表面に対向し、光は内部からサンプル表面に向けた)。この照光は、光を方向付けるために用いられる光ファイバーバンドルに取り付けられている安定化広帯域白熱光源(マサチューセッツ州マールボロ及びニューヨーク州オーバーンのSchott-Fostec LLC製の直径約1cmのファイバーバンドル延長部付きFostec DCR-II)を用いて提供する。標準的な線吸収偏光子(例えばMelles Griot 03 FPG 007)を試料ボックスとカメラの間に配置する。約34cm離間したライトボックスのサンプル面にカメラの焦点を合わせ、カメラレンズから約2.5cmの位置に吸収偏光子を配置する。照射したライトボックスの輝度は、所定の位置に偏光子を配置するとともにサンプルフィルムのない状態で測定したところ、150cd/m^(2)を上回っていた。サンプルフィルムをボックスに概ね接触した状態にしてサンプルフィルムをボックスのサンプル表面に平行に配置した時に、ボックスのサンプル表面の平面に対して法線入射方向で、サンプル輝度をPR-650によって測定する。ライトボックス単独で同じように測定した輝度と、このサンプル輝度を比較することによって、相対ゲインを計算する。迷光源を排除するために、全測定を黒色包囲体中で行った。 【0122】 【数2】 【0123】 ライトボックスの拡散反射率は、直径15.25cm(6インチ)のSpectralon被覆積分球と、安定化広帯域ハロゲン光源と、光源用の電源を用いて測定した。これらは全て、Labsphere(Sutton,NH)から供給されている。積分球は、3つの開口ポートを有していた。1つのポート(直径2.5cm)は、入力光用であり、90度で第2の軸に沿った1つのポート(直径2.5cm)は、検出ポートとして用いられ、90度で第3の軸に沿った(すなわち最初の2つの軸に直交する)第3のポート(直径5cm)は、サンプルポートとして用いられた。約38cm離間した検出ポートにPR-650 Spectracolorimeter(上記のものと同一)の焦点を合わせた。拡散反射率が約99%であるLabsphere製の較正反射標準(SRT-99-050)を用いて、積分球の反射効率を計算した。標準は、Labsphereにより較正されたものであり、NIST標準(SRS-99-020-REFL-51)が基になっている。積分球の反射効率を以下のように計算した。 球輝度比=1/(1-R球×R標準) 【0124】 この場合の球輝度比は、参照サンプルでサンプルポートを覆って検出器ポートで測定した輝度を、サンプルでサンプルポートを覆わずに検出器ポートで測定した輝度で除すことによって得られる比である。この輝度比及び較正標準の反射率(R標準)がわかれば、積分球の反射効率(R球)を計算することができる。次に、この値を以下の類似の式中で再び用いてサンプルの反射率(この場合、PTFEライトボックスを使用)を求める。 球輝度比=1/(1-R球×Rサンプル) 【0125】 この場合には、球輝度比は、サンプルをサンプルポートに置いた時の検出器における輝度を、サンプルを用いずに測定した輝度で除すことによって得られる比として求める。R球は以上からわかるので、Rサンプルを計算することができる。これらの反射率を4nmの波長間隔で計算し、400?700nmの波長範囲にわたる平均として報告した。 【0126】 表2の単一シート相対ゲインは、吸光偏向器のパス軸に対して平行に揃えられた試料のプリズムにて測定した。表2の交差シート相対ゲインは、お互いに直交するように揃えられたプリズムで2つの積み重ねられたプリズムシートにて測定した。交差シート相対ゲインの結果は以下の2つの配置1)上部シートはパス軸に対して吸光偏向器のパス軸に対して直交するように揃えて配置される、及び、2)上部シートは吸光偏向器のパス軸に対して平行に揃えて配置される、の輝度の平均である。 【0127】 【表3】 」 (6) 甲1に記載された発明 上記(1)アから、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3には、以下の発明が記載されていると認める。 「無機酸化物微粒子と重合性モノマーとを含有する無機酸化物微粒子含有組成物において、(α)少なくとも(メタ)アクリル基を含有する被覆材により被覆されている無機酸化物微粒子であり、該無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の無機金属酸化物を含むナノ粒子である、無機酸化物微粒子と、(β)環状構造を有し、かつ1個の重合性不飽和基を有する環状単官能化合物であり、該環状単官能化合物が、環状構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である、環状単官能化合物と、(γ)少なくとも2個以上の重合性不飽和基を有する多官能化合物とを、含有する無機酸化物微粒子含有組成物」(以下、「甲1発明1」という。) 同様に、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項7には、以下の発明が記載されていると認める。 「無機酸化物微粒子と重合性モノマーとを含有する無機酸化物微粒子含有組成物において、(α)少なくとも(メタ)アクリル基を含有する被覆材により被覆されている無機酸化物微粒子であり、該無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の無機金属酸化物を含むナノ粒子である、無機酸化物微粒子と、(β)環状構造を有し、かつ1個の重合性不飽和基を有する環状単官能化合物であり、該環状単官能化合物が、環状構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である、環状単官能化合物と、(γ)少なくとも2個以上の重合性不飽和基を有する多官能化合物とを、含有する無機酸化物微粒子含有組成物を硬化させて得られる無機微粒子含有硬化組成物。」(以下、「甲1発明2」という。) (7) 本件発明1と甲1発明1との対比・判断 ア 本件発明1と甲1発明1とを対比する。 甲1発明1の「(α)少なくとも(メタ)アクリル基を含有する被覆材により被覆されている無機酸化物微粒子であり、該無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の無機金属酸化物を含むナノ粒子である、無機酸化物微粒子」は本件発明1の「金属含有ナノ粒子」に相当し、甲1発明1の「(β)環状構造を有し、かつ1個の重合性不飽和基を有する環状単官能化合物であり、該環状単官能化合物が、環状構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である、環状単官能化合物」は本件発明1の「(メタ)アクリレート化合物」に相当するといえる。 また、甲1発明1の「組成物」は、樹脂の原料である(β)で表される環状単官能化合物と(γ)で表される多官能化合物を含有するから、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。 さらに、甲1発明1は、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物のモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びマクロモノマーから選ばれる少なくとも1種の化合物、並びに、式(2)(式は省略する。)で表されるフルオレン骨格を有する二官能(メタ)アクリレート化合物を必須成分とするものではない。 そうすると、本件発明1と甲1発明1は以下の点で一致する。 「(メタ)アクリレート化合物、金属含有ナノ粒子を含む樹脂組成物(但し、前記樹脂組成物は、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物のモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びマクロモノマーから選ばれる少なくとも1種の化合物、並びに、式(2)で表されるフルオレン骨格を有する二官能(メタ)アクリレート化合物: (式(2)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、水素原子又はメチル基、a及びbは、それぞれ1?4の整数を表す。)を含まない)」 そして、両者は下記の点で相違する。 ・相違点1:本件発明1は、「(メタ)アクリレート化合物が、下記式(1): で表される化合物を含み、前記(メタ)アクリレート化合物中、前記式(1)で表される化合物の含有量が60?100質量%」であるのに対し、甲1発明1はそのような特定がない点。 ・相違点2:本件発明1は、「金属含有ナノ粒子が酸化ジルコニウム含有ナノ粒子」であるのに対し、甲1発明1は「無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の無機金属酸化物を含むナノ粒子」である点。 ・相違点3:本件発明1は、「光重合開始剤」を含むのに対し、甲1発明1はそのような特定がない点。 ・相違点4:樹脂組成物が、本件発明1は、「光硬化性」であるのに対し、甲1発明1はそのような特定がない点。 ・相違点5:本件発明1は、「樹脂組成物の屈折率が1.666以上」であるのに対し、甲1発明1はそのような特定がない点。 イ 上記相違点について検討する。 事案に鑑み、相違点1と相違点5を併せて検討する。 以下では、本件発明1の「式(1)(式(1)は省略する。)で表される化合物」をフェノキシベンジル(メタ)アクリレートという。 甲1には、甲1発明1の環状単官能化合物として、種々の具体的な(メタ)アクリレート化合物が例示されているが(上記(1)オ)、フェノキシベンジル(メタ)アクリレートについては記載されていない。 そして、フェノキシベンジル(メタ)アクリレートの記載がある甲3?甲5について検討すると、甲3には、高屈折率希釈用モノマーとして、ライトアクリレートPOB-A(化学構造式からみてフェノキシベンジル(メタ)アクリレートに相当する。)が示され、低粘度・高屈折率を達成しているとしてベース樹脂との配合における屈折率と粘度の関係が記載されているものの(上記(3)ア?カ)、高屈折率希釈用モノマーということから何らかの光学用樹脂に用いられるモノマーと解されるが、その希釈量は不明であり、この化合物自体の屈折率も1.566である。 また、甲4には、アクリル系及びメタクリル系樹脂組成物と、ビニル単量体化合物(重量比で5?50%)との共重合体について、該ビニル単量体化合物の一つとして、低粘度の液状物質であるフェノキシベンジル(メタ)アクリレートが示され、高屈折率、低吸水性に寄与することが記載されているものの(上記(4)ア?ウ)、アクリル系及びメタクリル系樹脂組成物に対する副成分であり、硬化物の屈折率も1.59(実施例8)、1.56(実施例10,12)である。 さらに、甲5には、ナノ粒子と、少なくとも2個の(メタ)アクリレート基を含む第1のモノマーと、構造式【化1】を有する第2の(メタ)アクリレートモノマーとを含有する重合性樹脂組成物について、第2の(メタ)アクリレートモノマーの一つとしてフェノキシベンジル(メタ)アクリレートが示され、具体例としてもZrO_(2)と3-フェノキシベンジルアクリレートとを含有する重合性樹脂組成物が記載され、3-フェノキシベンジルアクリレートを(メタ)アクリレート化合物中の主成分(60質量%以上)とした組成物の例(組成物2)も記載されているものの(上記(5)ア?エ)、その屈折率は1.653(組成物2)、1.637(組成物3)にとどまっている。 そうすると、相違点1に関し、甲3?甲5から、フェノキシベンジル(メタ)アクリレートが、一定程度の高屈折率に寄与することはうかがわれるから、ガラスよりも高い屈折率を有する硬化膜を得ることを目的の1つとする甲1発明において、環状単官能化合物としてフェノキシベンジル(メタ)アクリレートを用いることについては一応の動機付けがあるといえ、その含有量についても、甲5の記載からみて、60?100質量%とする動機付けがあるといえる。 しかしながら、相違点5に関し、甲3?甲5には、「高屈折率」の記載はあるものの、この程度は一番高い値であっても1.653(甲5の組成物2)にとどまり、相違点5である樹脂組成物の屈折率1.666以上には至らないから、甲1発明1において、樹脂組成物の屈折率を1.666以上とする動機付けにはならない。 この点、申立人は、相違点5について、甲1の実施例3,6において、硬化物の屈折率が1.74,1.73であるから、樹脂組成物の屈折率は1.666以上であると考えられ、本件発明1と甲1発明1との対比において一致点である旨を主張する。 しかしながら、硬化物の屈折率が1.74,1.73であるからといって、樹脂組成物の屈折率が1.666以上であるとは直ちにはいえないし、また、樹脂組成物の屈折率は樹脂組成物を構成する成分の種類やその配合割合により異なるから、本件発明1と異なる樹脂組成物において硬化物の屈折率の値が一致したとしても樹脂組成物の値まで一致点とすることはできない。 したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲1に記載された発明と、甲2?甲5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。 (8) 本件発明2と甲1発明2との対比・判断 本件発明2は、本件発明1の光硬化性樹脂組成物を光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体であり、甲1発明2は、甲1発明1の組成物を硬化させて得られる硬化組成物であるから、その一致点、相違点は、上記(7)に示した事項と同一である。 そうすると、本件発明2も、甲1に記載された発明と、甲2?甲5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。 (9) まとめ したがって、本件発明1?2は、甲1に記載された発明及び甲2?甲5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえないから、申立て理由1により、本件発明1?2に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立ての理由2について (1)発明の詳細な説明に記載された事項 本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ア「【0006】 本発明は、溶剤を配合しなくても低粘度で、かつ屈折率が向上した光硬化性樹脂組成物、及び、 当該光硬化性樹脂組成物を光硬化して得られる高屈折性樹脂硬化体を提供することを課題とする。 ・・・ 【0009】 本発明によれば、溶剤を配合しなくても低粘度で、かつ屈折率が向上した光硬化性樹脂組成物、及び、当該光硬化性樹脂組成物を成形し光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体を提供することができる。」 イ「【0032】 (化合物B) 化合物Bである金属含有ナノ粒子とは、平均粒径が1?100nmの金属含有粒子である。 【0033】 平均粒径は、化合物Bを分散できる溶媒で希釈して測定に適節な濃度にし、動的光散乱式粒径分布測定装置LB500(堀場製作所社製)で測定する。 みかけの算術平均粒子径の測定方法により測定して得られた算術平均粒子径を、化合物Bの平均粒径とした。 みかけの算術平均粒子径の算出において、原料であるナノ金属含有粒子の屈折率を入力し、溶媒の屈折率は、測定時の希釈溶媒のものを入力する。 表面修飾物等の影響は無視する。 サンプリング及び測定は、測定液調整後できるだけ速やかに行う。 【0034】 平均粒径は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置でも測定でき、具体的には株式会社堀場製作所製LA-920等を用いることができる。 【0035】 化合物Bの粒度分布は、上記測定方法で測定した場合に、単一のピークを示すものであることが好ましい。 【0036】 化合物Bの平均粒径は、本発明1の屈折率向上の観点から、 好ましくは3?50nm、より好ましくは5?30nm、更に好ましくは5?15nmである。 【0037】 化合物Bとしては、金属、半導体または酸化金属等の態様が挙げられる。 【0038】 化合物Bを構成する金属含有化合物としては、化合物A1及び/又は化合物A2と組み合わせたときの屈折率向上の観点から、好ましくは、 アルミニウム、カドミウム、セリウム、クロミウム、コバルト、銅、ガリウム、ゲルマニウム、金、インジウム、鉄、イリジウム、鉛、水銀、ニッケル、プラチナ、パラジウム、ケイ素、銀、錫、亜鉛、ジルコニウム、ヒ化アルミニウム、窒化アルミニウム、リン化アルミニウム、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、ヒ化ガリウム、窒化ガリウム、リン化ガリウム、セレン化ガリウム、硫化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム、窒化インジウム、セレン化インジウム、硫化インジウム、テルル化インジウム、セレン化鉛、硫化鉛、テルル化鉛、セレン化水銀、硫化水銀、テルル化水銀、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、テルル化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化カドミウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化鉄、酸化鉛、酸化ニッケル、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、より好ましくは、 酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、更に好ましくは、 酸化チタン及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、更に好ましくは、酸化ジルコニウムである。」 ウ「【実施例】 【0084】 〔化合物原料〕 (1)化合物A1:式(1)で表される化合物(R^(1)が水素で、a=0)(POB-A、共栄社化学社) (2)化合物A2:ベンジルアクリレート(FA-BZA、日立化成社) (3)化合物a1(化合物A1及びA2以外の化合物A又はA'):エトキシo-フェニルフェノールアクリレート(A-LEN-10、共栄社化学社) (4)化合物a2(化合物A1及びA2以外の化合物A又はA'):フルオレンアクリレート(EA-0200、大阪ガスケミカル社) (5)化合物a3(化合物A1及びA2以外の化合物A又はA'):フルオレンアクリレート配合品(EA-F5710、大阪ガスケミカル社) (6)化合物B又はB':酸化ジルコニウムナノ粒子(平均粒径11nm)70wt%MEK分散液(AX-ZP-153-A、日本触媒社) (7)化合物C又はC':1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(I-184、BASF社) 【0085】 〔光硬化性樹脂組成物〕 表1に記載の光硬化性樹脂組成物の組成になるように、化合物A、AX-ZP-153-A及び化合物Cを、合計質量が100?300gとなるように秤量して、容器(材質SUS316製、容量700ml)に充填し、80℃、大気圧下でスリーワンモーター(新東科学 【0086】 なお、AX-ZP-153-Aを配合する場合、光硬化性樹脂組成物をエバポレーター(N-N、HVC-2000 EYELA社製)を用い、20Torr、60℃の条件にて1hエバポレーションを行い、メチルエチルケトンを揮発させた。 【0087】 実施例1、2-1、2-2及び3が本発明1であり本発明2である。 【0088】 〔高屈折性樹脂硬化体〕 表1記載の実施例及び比較例の光硬化性樹脂組成物(0.3g)を、PETフィルム1(パナック社製、品名ルミラー100T60、厚さ100μm)に塗布し、塗付された光硬化性樹脂組成物の厚みが0.1mmになるように上からPETフィルム2(パナック社製、品名ルミラー100T60、厚さ100μm)で被覆し、メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製ECS-301)にて波長365nmの光を6000mJ/cm^(2)照射して光硬化体を得た。 【0089】 これらの光硬化体を、さらに、熱風乾燥器内で120℃、30分の加熱処理を行って光硬化してなる0.1mm厚の硬化体を得た。 【0090】 実施例1、2-1、2-2及び3の光硬化性樹脂組成物を光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体が本発明3である。 【0091】 〔粘度の測定条件〕 表1記載の実施例及び比較例の光硬化性樹脂組成物について、E型粘度計(東機産業社製RE-105U)を用いて25℃で測定した。 【0092】 〔屈折率の測定条件〕 実施例及び比較例の光硬化性樹脂組成物並びに実施例及び比較例の光硬化性樹脂組成物を光硬化してなる硬化体の、25℃における波長589nmの光に対する屈折率を、アッベ屈折率計(2T:アタゴ社製)で測定した。 【0093】 表1に結果を示す。 【0094】 【表1】 【0095】 化合物A1及びA2以外の(メタ)アクリレートでは、化合物Bを含まない場合でも、光硬化性樹脂組成物の粘度が大きい(比較例3及び4)。 【0096】 化合物Bを一定割合含む場合、 比較例1-1の光硬化性樹脂組成物は屈折率が1.60未満であり、 比較例1-2の光硬化性樹脂組成物は粘度が相対的に大きいのに対して、 実施例1の光硬化性樹脂組成物は屈折率が1.60以上あり、粘度も相対的に低いレベルに抑制されている。 【0097】 実施例1並びに比較例1-1及び1-2に対して、化合物Bを増量すると、 実施例2-1は、屈折率が大きく増加するが粘度の増加は抑制され、 実施例2-2も、屈折率が1.60以上となるが粘度の増加は抑制されるのに対して、 比較例2は、粘度の増加が抑制されない。」 (2)当審の判断 ア 特許法第36条第6項第1号について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。 そこで、この点について、以下に検討する。 イ 本件発明1?2の課題について 本件発明1?2が解決しようとする課題は、上記(1)アによると、「溶剤を配合しなくても低粘度で、かつ屈折率が向上した光硬化性樹脂組成物、及び、当該光硬化性樹脂組成物を成形し光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体を提供すること」であると解される。 ウ 本件発明1?2について 上記第2で述べたように、本件発明1?2は、(メタ)アクリレート化合物、金属含有ナノ粒子及び光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物であって、 前記(メタ)アクリレート化合物が、下記式(1): 【化1】 (式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、aは0である)で表される化合物を含み、 前記(メタ)アクリレート化合物中、前記式(1)で表される化合物の含有量が60?100質量%であり、 前記金属含有ナノ粒子が酸化ジルコニウム含有ナノ粒子であり、 前記光硬化性樹脂組成物の屈折率が1.666以上である光硬化性樹脂組成物(但し、前記光硬化性樹脂組成物は、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物のモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びマクロモノマーから選ばれる少なくとも1種の化合物、並びに、式(2)で表されるフルオレン骨格を有する二官能(メタ)アクリレート化合物: (式(2)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、水素原子又はメチル基、a及びbは、それぞれ1?4の整数を表す。)を含まない)、及び、それを光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体である。 そして、本件明細書には、本件発明1の光硬化性樹脂組成物を構成する成分である式(1)で表される(メタ)アクリレート化合物、酸化ジルコニウム含有ナノ粒子、及び光重合開始剤の具体的な記載がされ、樹脂組成物が高屈折であり低い粘度であることが記載された上で実施例1,2-1,2-2,3が記載されているところ、実施例2-1,3は、「(メタ)アクリレート化合物、金属含有ナノ粒子及び光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物」であって、「前記(メタ)アクリレート化合物が、前記式(1)で表される化合物を含み、前記(メタ)アクリレート化合物中、前記式(1)で表される化合物の含有量が60?100質量%であり、前記金属含有ナノ粒子が酸化ジルコニウム含有ナノ粒子であり、前記光硬化性樹脂組成物の屈折率が1.666以上である」光硬化性樹脂組成物、及びそれを光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体に関する具体例である(上記(1)ウ)。 これらの実施例においては、粘度、屈折率が測定され、【表1】には、その結果が示されているが、その結果によれば、実施例2-1,3において、粘度が低く、屈折率も1.666以上の高屈折率であることが両立していることが示されているといえる。 ここで、申立人は、甲2の記載からすると実施例で用いられている酸化ジルコニウムナノ粒子(AX-ZP-153-A、日本触媒社)は有機物による表面処理したものであると考えられる旨を主張しているが、甲2をみても実施例で用いられた酸化ジルコニウムナノ粒子が有機物による表面処理されたとは直接的にはいえない。仮に、実施例で用いられた酸化ジルコニウムナノ粒子が有機物による表面処理されたものであったとしても、甲2には、ジルコスター^(R)が、ジルコニアナノ粒子の表面に溶媒や樹脂によく馴染む有機物による表面処理層を有するものであること(上記(2)ア?オ)、甲5には、ジルコニアナノ粒子は、有機マトリックス材料との相溶性を改良するために表面修飾されること(上記(5)ウ)が記載されているだけであり、金属ナノ粒子を表面処理することで分散性が向上することが技術常識であることを示したにとどまり、分散性を向上させなければ屈折率が向上しないとまではいえない。そして、本件明細書には、上述したとおり金属含有ナノ粒子として、酸化ジルコニウムが好ましいことが記載されているだけであり(上記(1)イ)、該酸化ジルコニウムが表面処理されたものでなければならない記載はなく、表面処理について特に限定されるものではない。 そうすると、当業者であれば、実施例の酸化ジルコニウムナノ粒子(AX-ZP-153-A、日本触媒社)が表面処理されたものであるかどうかにかかわらず、屈折率が1.666以上となるように酸化ジルコニウムナノ粒子を含むものであれば、上記実施例と同様に本件発明の課題を解決することが認識できるといえる。そして、本件発明1?2に含まれる光硬化性樹脂組成物、及びそれを光硬化してなる高屈折性樹脂硬化体が、上記課題を解決できない場合があることを示す本件出願時の技術常識も見当たらない。 よって、本件発明1?2は、発明の詳細な説明により、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明1?2は、発明の詳細な説明に記載したものである。 エ まとめ したがって、本件発明1?2は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、申立て理由2により、本件発明1?2に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人が主張する異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-07-27 |
出願番号 | 特願2015-227074(P2015-227074) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 渡辺 陽子 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
安田 周史 橋本 栄和 |
登録日 | 2019-09-27 |
登録番号 | 特許第6589151号(P6589151) |
権利者 | 協立化学産業株式会社 |
発明の名称 | 光硬化性樹脂組成物及び高屈折性樹脂硬化体 |