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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05B |
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管理番号 | 1365243 |
審判番号 | 不服2020-1686 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-06 |
確定日 | 2020-09-01 |
事件の表示 | 特願2018-104007「異常検出装置、異常検出方法、異常検出プログラム及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月 5日出願公開、特開2019-207660、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年5月30日の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和 1年 5月27日付け:拒絶理由通知 令和 1年 7月26日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年 9月13日付け:最後の拒絶理由通知 令和 1年10月31日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年11月25日付け:令和1年10月31日付けの手続補正の却下決定と同日に拒絶査定(以下、「原査定」という。) 令和 2年 2月 6日 :審判請求と同時に手続補正書の提出 第2 令和1年11月25日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要 1.令和1年11月25日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。 令和1年10月31日付けの請求項1-9についての補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが、当該補正後の本願請求項1-9に係る発明は、引用文献1-5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、独立特許要件を満たさないから、本件補正は却下すべきものである。 引用文献等一覧 1.特開2011-70635号公報 2.特開2013-218725号公報 3.特開2015-185021号公報 4.国際公開第2017/090098号 5.櫻田麻由,矢入健久,オートエンコーダを用いた次元削減による宇宙機の異常検知,一般社団法人 人工知能学会 第28回全国大会論文集CD-ROM[CD-ROM] 2014年度 人工知能学会全国大会(第28回)論文集 The 28th Annual Conference of the Japan Society of ArtificialIntelligence,日本,2014年 5月15日,P1-3 2.原査定(令和1年11月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本件補正前の本願請求項1-9に係る発明は、上記引用文献1-5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第3 本願発明 本願請求項1-8に係る発明は、令和2年2月6日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)であり、そのうち本願発明1は以下のとおりの発明である。 「検出対象の装置に関するデータを取得する取得部と、 取得されたデータから、予め定められた条件に基づいてデータを切り出す切出部と、 切り出されたデータから特徴ベクトルを抽出する特徴抽出部と、 取得されたデータを蓄積することなく、抽出された前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて前記特徴ベクトルのモデルを生成する学習部と、 新たに取得されたデータの前記特徴ベクトルと前記モデルとの乖離度を算出する乖離度算出部と、 複数の選択部と、 合成部と を備え、 前記複数の選択部は、抽出された前記特徴ベクトルのうちから分析の対象とされる前記特徴ベクトルを制御信号に基づいて選択し、 前記学習部は、前記選択部による選択結果ごとに前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて複数の前記モデルを生成し、 前記乖離度算出部は、前記モデルごとに前記乖離度を算出し、 前記合成部は、前記モデルごとに算出された前記乖離度を合成する、 異常検出装置。」 また、本願発明2-5は、概略、本願発明1を減縮した発明である。 また、本願発明6-8は、本願発明1(異常検出装置に関する発明)に対応する異常検出方法、異常検出プログラム、及び、異常検出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同じ。)。 ア 「【0001】 本発明は、プラントや設備などの出力する多次元時系列データをもとに異常を早期に検知し、現象の診断を行う状態監視方法およびその装置に関する。」 イ 「【0028】 図1Aに、本発明の設備状態監視方法を実現するシステムの一構成例を示す。 【0029】 本システムは、大きくは、センサ信号解析部100と異常診断部110とを備えて構成される。 【0030】 センサ信号解析部は、設備101から出力されるセンサ信号102を受けて信号の特徴選択、特徴抽出、特徴変換を行い、特徴ベクトルを得る特徴抽出部105、設備101から出力されるイベント信号103を受けて設備101の稼動状態の変化に応じて時間を分割(以下の説明ではこの分割をモード分割と呼び、稼動状態の種類をモードと呼ぶ。)するモード分割部104、特徴抽出部105とモード分割部104との出力を受けて正常モデルを作成する正常モデル作成部106、正常モデル作成部106で作成した正常モデルを用いて特徴抽出部105で抽出されたセンサ信号から異常測度を算出する異常測度算出部107、正常モデル作成部106で作成した正常モデルについて異常測度算出部107で算出した異常測度に基づいて正常モデルをチェックする学習データチェック部108、学習データチェック部108でチェックした正常モデルのデータと異常測度算出部107でセンサ信号102から算出した異常測度に基づいて異常を識別する異常識別部109、及びセンサ信号102と異常識別部109の判定結果とから設備101の異常を診断する異常診断部110とを備えて構成される。 【0031】 本システムの動作には、異常予兆検知や診断に用いるモデルを予め作成しておく「学習」とモデルと入力信号に基づき実際に異常予兆検知や診断を行う「評価」の二つのフェーズがある。基本的に前者はオフラインの処理、後者はオンラインの処理である。以下の説明では、それらを学習時、評価時という言葉で区別する。 状態監視の対象とする設備101は、ガスタービンや蒸気タービンなどの設備やプラントである。設備101は、その状態を表すセンサ信号102とイベント信号103を出力する。 【0032】 学習時の処理の流れを図1Bを用いて説明する。モード分割部104は、設備101から出力されたイベント信号103を入力し(S101)、稼動状態の変化に応じて設備101の稼働時間をモード分割する(S102)。一方、特徴抽出部105は、設備101から出力されたセンサ信号102を入力し(S103)、特徴選択、特徴抽出、特徴変換を行い、特徴ベクトルを得る(S104)。 【0033】 モード分割部104からのモード分割情報と特徴抽出部105からの特徴ベクトル情報とは正常モデル作成部106に入力されて、特徴ベクトルから学習データを選択し(S105)、これを用いてモード毎に学習を行い、正常モデルを作成する(S106)。作成された正常モデルは特徴抽出部104からの特徴ベクトルの情報とともに異常測度算出部107に入力されて異常測度が算出される(S107)。」 ウ 「【0035】 次に、評価時の処理の流れを図1Cを用いて説明する。モード分割部104は、設備101から出力されたイベント信号103を入力し(S111)、稼動状態の変化に応じて設備101の稼働時間をモード分割する(S112)。一方、特徴抽出部105は、設備101から出力されたセンサ信号102を入力し(S113)、特徴選択、特徴抽出、特徴変換を行い、特徴ベクトルを得る(S114)。モード分割部104からのモード分割情報と特徴抽出部105からの特徴ベクトル情報とは異常測度算出部107に入力されて、特徴ベクトルがモード毎に分類され、学習時に正常モデル作成部106で作成されて記憶されていた正常モデルと比較されて異常測度が算出される(S115)。 【0036】 この算出された異常測度は異常識別部109に入力され、学習時に設定されたしきい値と比較することにより異常判定が行われる(S116)。この異常判定の結果は異常診断部110に送られて、学習時にイベント信号103と異常判定された時刻のセンサ信号102との関連を学習して記憶しておいた情報に基づいて、評価時に異常判定された時刻のセンサ信号102を入力として診断が行われる(S117)。」 エ 「【0046】 図5に、特徴量抽出部105及び正常モデル作成部106で処理する正常モデル作成処理フローを示す。この処理フローにおいては、先ず、特徴量抽出部105にセンサ信号102を入力し(S501)、特徴量抽出・変換・選択処理を行う(S502)。次にこの処理されたデータを正常モデル作成部106に入力して学習データを選別し(S503)、モード分割部104から出力されたモード分割情報を参照してモード別に学習データを分類し(S504)、各モード毎に正常モデルを作成する(S505)。 【0047】 次に、各ステップについて詳細に説明する。 先ず、ステップS501において、特徴抽出部105は、センサ信号102を入力する。 次に、ステップS502において特徴量抽出部105で特徴選択、特徴抽出、特徴変換を行い、特徴ベクトルを得る。図示はしていないが、センサ信号102は予め蓄積されており、指定された期間の信号を入力とする。また、モード分割のため、イベント信号103も同期間蓄積されているものとする。」 (2)引用文献1に記載された技術的事項 ア 上記(1)エの段落【0047】の「図示はしていないが、センサ信号102は予め蓄積されており、指定された期間の信号を入力とする。」の記載事項から、センサ信号102を取得し蓄積する取得部と、予め蓄積されたセンサ信号102のうち、指定された期間の信号を切り出して入力する切出部という技術的事項が開示されていると認められる。 イ 上記(1)イの段落【0033】の「モード分割部104からのモード分割情報と特徴抽出部105からの特徴ベクトル情報とは正常モデル作成部106に入力されて、特徴ベクトルから学習データを選択し(S105)、これを用いてモード毎に学習を行い、正常モデルを作成する(S106)。」、及び、段落【0046】の「次にこの処理されたデータを正常モデル作成部106に入力して学習データを選別し(S503)、モード分割部104から出力されたモード分割情報を参照してモード別に学習データを分類し(S504)、各モード毎に正常モデルを作成する(S505)。」の記載事項から、特徴ベクトルから学習データを選択し、これを用いてモード毎に学習を行い、正常モデルを作成する学習部、モード分割部104から出力されたモード分割情報を参照してモード別に学習データを分類する選択部を備えること、及び、学習部は、各モード毎に正常モデルを作成するものであることという技術的事項が開示されていると認められる。 ウ 上記(1)ウの段落【0035】の「次に、評価時の処理の流れを図1Cを用いて説明する。・・・モード分割部104からのモード分割情報と特徴抽出部105からの特徴ベクトル情報とは異常測度算出部107に入力されて、特徴ベクトルがモード毎に分類され、学習時に正常モデル作成部106で作成されて記憶されていた正常モデルと比較されて異常測度が算出される(S115)。」の記載事項から、評価時の特徴ベクトルがモード毎に分類されること、及び、当該評価時の特徴ベクトルを正常モデルと比較し異常測度を算出する乖離度算出部という技術的事項が開示されていると認められる。また、正常モデルはモード毎に作成され、モード毎に分類された特徴ベクトルがモード毎に作成された正常モデルと比較されて異常測度が算出されることから、モード毎に異常測度が算出されると認められる。 (3)引用発明 上記(1)の記載事項及び上記(2)の技術的事項から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「状態監視の対象とする設備101の状態を表すセンサ信号102を取得し蓄積する取得部と、 予め蓄積されたセンサ信号102のうち、指定された期間の信号を切り出して入力する切出部と、 切り出されたセンサ信号102から特徴ベクトルを抽出する特徴抽出部105と、 抽出された前記特徴ベクトルから学習データを選択し、これを用いて稼動状態の種類であるモード毎に学習を行い、正常モデルを作成する学習部と、 評価時の特徴ベクトルを正常モデルと比較し異常測度を算出する乖離度算出部と、 選択部と、 を備え、 前記選択部は、モード分割部104から出力されたモード分割情報を参照してモード別に学習データを分類し、 前記学習部は、各モード毎に正常モデルを作成し、 前記乖離度算出部は、前記モード毎に前記異常測度を算出する、 設備状態監視装置。」 2.引用文献2について (1)引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 本発明は、プラントや設備などの異常を早期に検知する異常検知方法及び異常検知システムに関する。」 イ 「【0020】 図1の異常検知システム1において、11は多次元時系列信号取得部、12は特徴抽出/選択/変換部、13,13,・・・は識別器、14は統合(グローバル異常測度)、15は主に正常事例からなる学習データを示している。多次元時系列信号取得部11から入力され た多次元時系列信号は、特徴抽出/選択/変換部12で次元が削減され、複数の識別器13,13,・・・により識別され、統合(グローバル異常測度)14によりグローバル異常測度が判定される。主に正常事例からなる学習データ15も複数の識別器13,13,・・・により識別されて、グローバル異常測度の判定に用いられると共に、主に正常事例からなる学習データ15自体も取捨選択され、蓄積・更新が行われて精度の向上が図られる。」 ウ 「【0028】 図1に示される複数の識別器13はいくつかの識別器(h1、h2、・・・)を準備し、それらの多数決をとる(統合14)ことが可能である。即ち、異なる識別器群(h1、h2、・・・)を用いたアンサンブル(集団)学習が適用できる。図6にその構成例を示す。例えば、第一の識別器は投影距離法、第二の識別器は局所部分空間法、第三の識別器は線形回帰法と言ったものである。事例データに基づくものならば、任意の識別器が適用可能である。」 エ 図1「 」 オ 図6「 」 (2)引用文献2記載の技術的事項 上記(1)の記載事項から、上記引用文献2には、プラントや設備などの異常を早期に検知する異常検知システムにおいて、多次元時系列信号は、複数の識別器13,13,・・・により識別され、統合(グローバル異常測度)14によりグローバル異常測度が判定されること、つまり、識別器13,13,・・・ごとに算出された異常測度を統合してグローバル異常測度を判定する技術的事項が記載されていると認められる。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明における「状態監視の対象とする設備101」は、本願発明1における「検出対象の装置」に相当するから、「(状態監視の対象とする設備101の状態を表す)センサ信号102」は「(検出対象の装置に関する)データ」に、「センサ信号102を取得し蓄積する取得部」は、検出対象の装置のデータを取得するものである限りにおいて「データを取得する取得部」に、それぞれ相当する。 イ また、引用発明における「予め蓄積されたセンサ信号102のうち、指定された期間の信号を切り出して入力する切出部」について、期間を指定することは予め条件を定めることに相当するから、本願発明1における「取得されたデータから、予め定められた条件に基づいてデータを切り出す切出部」に相当する。以下同様に「切り出されたセンサ信号102から特徴ベクトルを抽出する特徴抽出部105」は「切り出されたデータから特徴ベクトルを抽出する特徴抽出部」に相当する。「抽出された前記特徴ベクトルから学習データを選択し、これを用いて稼動状態の種類であるモード毎に学習を行い、正常モデルを作成する学習部」について、「学習」することは「分析」することに相当し、「正常モデル」は「(特徴ベクトルの)モデル」に相当することから「抽出された前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて前記特徴ベクトルのモデルを生成する学習部」に相当する。「評価時の特徴ベクトルを正常モデルと比較し異常測度を算出する乖離度算出部」について、「評価時の特徴ベクトル」は「新たに取得されたデータの前記特徴ベクトル」に相当し、「異常測度」は「乖離度」に相当することから、「新たに取得されたデータの前記特徴ベクトルと前記モデルとの乖離度を算出する乖離度算出部」に相当する。 ウ さらに、引用発明における「前記学習部は、各モード毎に正常モデルを作成し」について、下記エで述べるとおり、引用発明の「モード分割情報を参照してモード別に学習データを分類」することは、本願発明1の「分析の対象とされる前記特徴ベクトルを制御信号に基づいて選択」することに相当することから、本願発明1における「前記学習部は、前記選択部による選択結果ごとに前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて複数の前記モデルを生成し」に相当する。以下同様に「前記乖離度算出部は、前記モード毎に前記異常測度を算出」について、引用発明においては、モード毎に正常モデルが作成されることから、「前記乖離度算出部は、前記モデルごとに前記乖離度を算出」することに相当する。また、「設備状態監視装置」は「異常検出装置」に相当する。 エ 引用発明の「前記選択部は、モード分割部104から出力されたモード分割情報を参照してモード別に学習データを分類し」と、本願発明1の「前記複数の選択部は、抽出された前記特徴ベクトルのうちから分析の対象とされる前記特徴ベクトルを制御信号に基づいて選択し」とを対比すると、引用発明の「学習データ」は「抽出された特徴ベクトル」から選択されたものであり、また、「モード分割情報」は「制御信号」に相当することから、「前記選択部は、抽出された前記特徴ベクトルのうちから分析の対象とされる前記特徴ベクトルを制御信号に基づいて選択し」という限りにおいて一致する。 オ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「検出対象の装置に関するデータを取得する取得部と、 取得されたデータから、予め定められた条件に基づいてデータを切り出す切出部と、 切り出されたデータから特徴ベクトルを抽出する特徴抽出部と、 抽出された前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて前記特徴ベクトルのモデルを生成する学習部と、 新たに取得されたデータの前記特徴ベクトルと前記モデルとの乖離度を算出する乖離度算出部と、 選択部と を備え、 前記選択部は、抽出された前記特徴ベクトルのうちから分析の対象とされる前記特徴ベクトルを制御信号に基づいて選択し、 前記学習部は、前記選択部による選択結果ごとに前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて複数の前記モデルを生成し、 前記乖離度算出部は、前記モデルごとに前記乖離度を算出する、 異常検出装置。」 (相違点1) 学習部が、本願発明1は、「取得されたデータを蓄積することなく、抽出された前記特徴ベクトルを分析し、分析結果に基づいて前記特徴ベクトルのモデルを生成する」のに対し、引用発明は、「正常モデルを作成」しているものの、そのためのセンサ信号102は、取得部において蓄積されている点。 (相違点2) 本願発明1は、異常検出装置が、「複数の選択部と、合成部とを備え、」「前記合成部は、前記モデルごとに算出された前記乖離度を合成する」のに対し、引用発明は、「選択部」が複数あるかは不明であり、算出された「異常測度」を合成することは記載されていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて、上記相違点2から検討する。 引用文献2記載の技術的事項(上記第4の2.(2))に示すとおり、識別器13,13,・・・ごとに算出された異常測度を統合すること自体は、本願出願前から公知であるといえる。 しかし、引用発明においては、評価時に特徴ベクトルが稼動状態の種類であるモード毎に分類され、モード毎の正常モデルと比較されてモード毎に異常測度が算出されるものである。そして、上記第4の1.(1)ウの段落【0036】に記載されるとおり、この算出された異常測度は異常識別部109に入力され、学習時に設定されたしきい値と比較することにより異常判定が行われ、この異常判定の結果は異常診断部110に送られて、評価時に異常判定された時刻のセンサ信号102を入力として診断が行われるものであるから、異常測度は、(ある特定のモード(稼動状態の種類)の)ある特定の時刻の異常判定に用いられるものである。 そうすると、引用発明において、仮に引用文献2の技術事項のように、複数の異常測度を合成するようにすると、(異なるモード(稼動状態の種類)の)異なる時刻の異常測度を合成することになってしまうから、正常な異常判定を行うことはできず、このような改変は意味をなさない。 したがって、引用発明に、引用文献2記載の技術的事項を適用する動機付けはないし、むしろ阻害要因を有するものといわざるを得ない。 したがって、上記相違点2に係る構成は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 また、上記相違点2に係る構成は、上記引用文献3-5にも記載されていない。仮にそのような引用文献が存在したとしても、引用発明を基に、相違点2に係る構成を採用する動機付けがないことは上記のとおりであるから、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。 (3)引用発明と比較した有利な効果 本願発明1は、異常検出装置が、データを蓄積する前にデータを分析して乖離度を算出するので、大きな記憶容量のデータベースがなくても検出対象の装置の異常を検出することができる、及び、異常検出装置が、複数の選択部と、複数の学習部と、複数の乖離度算出部と、合成部とを備え、複数の学習部が複数のモデルを生成し、モデルごとに乖離度を算出し、モデルごとに算出された乖離度を合成することにより、特徴ベクトルのモデルを安定的に推定することができ、特徴ベクトルのモデルに基づいて、乖離度を安定的に算出することができるという、引用発明と比較した有利な効果を有する。 (4)本願発明1のむすび したがって、本願発明1は、相違点1について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2-5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-5について 本願発明2-5は、本願発明1の構成全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-5に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3.本願発明6-8について 本願発明6-8は、本願発明1に対応する異常検出方法、異常検出プログラム、及び、記録媒体に関する発明であるが、本願発明1の相違点2に係る「合成部は・・・乖離度を合成する」という構成と同様の、「乖離度を合成するステップ」や,「乖離度を合成する手順」という構成を備えるものであり、上記相違点2と実質的に同じ相違点を有するといえるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-5に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 原査定について 1.理由(特許法第29条第2項)について 審判請求時の補正により、本願発明1-8は、上記相違点2に係る「合成部は・・・乖離度を合成する」という事項や、「乖離度を合成するステップ」、「乖離度を合成する手順」という事項を有するものとなっていることから、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-5に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1-8は、当業者が引用発明及び引用文献2-5記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-08-13 |
出願番号 | 特願2018-104007(P2018-104007) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G05B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大古 健一 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
青木 良憲 見目 省二 |
発明の名称 | 異常検出装置、異常検出方法、異常検出プログラム及び記録媒体 |
代理人 | 佐伯 義文 |
代理人 | 高橋 久典 |
代理人 | 高橋 久典 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 沖田 壮男 |
代理人 | 沖田 壮男 |
代理人 | 佐伯 義文 |