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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1365340
審判番号 不服2019-2674  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-27 
確定日 2020-08-12 
事件の表示 特願2017- 22161「カセットシステム統合型装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日出願公開、特開2017-124186〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)2月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年(平成19年)2月27日 米国(US) 2007年(平成19年)4月2日 米国(US) 2007年(平成19年)10月12日 米国(US))を国際出願日とする特願2009-552957号の一部を平成25年5月17日に新たな特許出願とした特願2013-105453号の一部を平成26年9月24日に新たな特許出願とした特願2014-193586号の一部を平成28年9月1日に新たな特許出願とした特願2016-170962号の一部をさらに平成29年2月9日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月7日に手続補正がされたが、平成29年11月28日付けで拒絶理由が通知され、平成30年5月30日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成30年10月19日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月27日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 平成31年2月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、以下のとおりである(下線は、補正箇所であり、当審が付与したものである。)。

「【請求項1】
流体バランシングカセット(700,4800)であって、
各々が前記カセットへの個別の入口及び前記カセットからの個別の出口を有する、第1の流体流路(4810/4824)及び個別の第2の流体流路(4816/4826)と、
第2のチャンバから第1のチャンバを分離する可撓性を備える膜を含むとともに固定の第1の全流体容積を有する第1の流体バランシングポッド(4812,708)とを備え、第1のチャンバ容積と第2のチャンバの容積との合計は、前記固定の第1の全流体容積であり、
前記第1のチャンバは、第1の流体流路入口弁(4832)と第1の流体流路出口弁(4834)との間の前記第1の流体流路に接続され、前記第2のチャンバは、第2の流体流路入口弁(4836)と第2の流体流路出口弁(4832)との間の前記第2の流体流路に接続され、
前記弁は、空気式で作動する膜弁であり、前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁は、前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁が同時に開閉されるように、空気圧の同一の供給源またはラインに連動しているか、あるいは、空気圧の同一の供給源またはラインに相互接続された、空気式接続部を有することを特徴とする流体バランシングカセット(700,4800)。」

(2)本件補正前の、平成30年5月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「【請求項1】
流体バランシングカセット(700,4800)であって、
各々が前記カセットへの個別の入口及び前記カセットからの個別の出口を有する、第1の流体流路(4810/4824)及び個別の第2の流体流路(4816/4826)と、
第2のチャンバから第1のチャンバを分離する可撓性を備える膜を含むとともに固定の第1の全流体容積を有する第1の流体バランシングポッド(4812,708)とを備え、第1のチャンバ容積と第2のチャンバの容積との合計は、前記固定の第1の全流体容積であり、
前記第1のチャンバは、第1の流体流路入口弁(4832)と第1の流体流路出口弁(4834)との間の前記第1の流体流路に接続され、前記第2のチャンバは、第2の流体流路入口弁(4836)と第2の流体流路出口弁(4832)との間の前記第2の流体流路に接続され、
前記弁は、空気式で作動する膜弁であり、前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁は、空気圧の同一の供給源またはラインに連動しているか、あるいは、空気圧の同一の供給源またはラインに相互接続された、空気式接続部を有することを特徴とする流体バランシングカセット(700,4800)。」

2 補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「空気圧の同一の供給源またはラインに連動しているか、あるいは、空気圧の同一の供給源またはラインに相互接続された、空気式接続部」について、「前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁が同時に開閉されるように」と特定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と本件補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)のとおりである。

(2)引用文献、引用発明及び周知の技術
(2-1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平7-100199号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。

ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は腎不全患者の治療に用いられる血液透析装置に係わり、詳しくは透析液の流量を制御する弁に関するものである。」
イ.「【0007】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために、本発明は、浸透性膜を介して血液と透析液を接触させて血液から老廃物及び水分を除去するためのダイアライザと、前記ダイアライザに接続され、ダイアライザから透析処理された後の透析液と透析処理される前の透析液とを等容量流出入するための等容量計量器と、前記等容量計量器の流出口に接続された管路を開閉する第一の弁と、前記等容量計量器の流入口に接続された管路を開閉する第二の弁と、前記第一もしくは第二の弁のうちいづれかの一方の弁が閉塞した際に閉塞開始から閉塞完了する迄の閉塞動作応答時間の経過後に他方の弁を開放制御する制御手段とを備えたことを要旨とするものである。」
ウ.「【0009】
【実施例】以下、本発明を具体化した一実施例を図面に従って説明する。図1に示すように、血液を浄化処理するためのダイアライザ1には半透膜にて血液室2と透析液室3とに隔絶されている。血液室2と人体5との間には血液パイプ4が接続され、人体5からの血液が同血液室2を介して循環される。透析液室3には管路としての透析液供給パイプ6及び透析液排出パイプ7が接続され、使用前の透析液は透析液供給パイプ6から透析液室3を介して使用済の透析液となって透析液排出パイプ7へ排出される。
【0010】透析液供給パイプ6及び透析液排出パイプ7の経路上には等容量計量器としてのバッファ容器8及び等量容器9が設けられている。バッファ容器8内には弾性ゴム材料からなる略半球状の隔膜10が変位可能に設けられ、隔膜10にてバッファ容器8内は給液室11と、排液室12とに分離されている。そして、隔膜10の変位により変位体積分の透析液はダイアライザ1の透析液室3に送られ、同時に等量の排液はダイアライザ1から抜かれるようになっている。
【0011】なお、前記等量容器9は前記バッファ容器8と同一の構成であるので、その説明を省略する。但し、バッファ容器8と区別するための以下に示すように、別符号を付す。すなわち、等量容器9には前記隔膜10に対応する隔膜13が設けられ、同隔膜13にて給液室14と排液室15とに分離されている。」
エ.「【0014】前記電磁弁19?22はコントローラ23に接続され、コントローラ23に設けられた図示しないROMには、各電磁弁19?22が開放状態から閉塞完了する迄の閉塞応答時間が記憶されている。本実施例において、閉塞応答時間は50msecに設定されている。
【0015】そして、コントローラ23は電磁弁19,21の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁20,22を開放開始するように制御する。また、コントローラ23は電磁弁20,22の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁19,21を開放開始するように制御する。」
オ.「


カ.「【0027】(2)前記実施例では電磁弁19?22を使用したが、これ以外にも、電動式、電気油圧式、水圧、油圧もしくは真空式等の弁を使用してもよい。」

(2-2)上記(2-1)ア.?オ.の記載事項から、引用文献1には、血液透析装置に関し、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 血液透析装置に関するものである。(【0001】)

b ダイアライザ1は半透膜にて血液室2と透析液室3とに隔絶されており、透析液室3には管路としての透析液供給パイプ6及び透析液排出パイプ7が接続され、透析液供給パイプ6及び透析液排出パイプ7の経路上にはダイアライザ1から透析処理された後の透析液と透析処理される前の透析液とを等容量流出入するための等量容器を備えている。(【0007】、【0010】)

c バッファ容器8内には弾性ゴム材料からなる略半球状の隔膜10が変位可能に設けられ、等量容器9は前記バッファ容器8と同一の構成であることから、等量容器9には、バッファ容器8内の弾性ゴム材料からなる略半球状の隔膜10に対応する、同じく弾性ゴム材料からなる略半球状の隔膜13が設けられ、同隔膜13にて給液室14と排液室15とに分離されている(【0010】、【0011】)

d 電磁弁19、20、21、22はコントローラ23に接続され、コントローラ23は電磁弁19、21の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁20、22を開放開始するとともに、電磁弁20、22の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁19、21を開放開始するように制御する。(【0014】、【0015】)

e 図1より、血液透析装置は、ダイアライザ1を介して、血液パイプ4を備えた人体5側の血液の流路と協働する、透析液供給パイプ6と透析液排出パイプ7と等量容器9と電磁弁19、20、21、22とを備えた透析液の流路を有し、等量容器9の給液室14は、流入口側の電磁弁20と流出口側の電磁弁19との間の透析液給液パイプ6に接続され、排液室15は、流入口側の電磁弁21と流出口側の電磁弁22との間の透析液排出パイプ7に接続され、当該透析液給液パイプ6及び透析液排出パイプ7は透析液の流路への個別の入口及び該流路からの個別の出口を有している点が看取される。

(2-3)上記(2-2)を踏まえると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「血液透析装置において、ダイアライザ1を介して、血液パイプ4を備えた人体5側の血液の流路と協働する、透析液供給パイプ6と透析液排出パイプ7と等量容器9と電磁弁19、20、21、22とを備えた透析液の流路であって、
ダイアライザ1は半透膜にて血液室2と透析液室3とに隔絶されており、透析液室3には管路としての透析液供給パイプ6及び透析液排出パイプ7が接続され、
透析液供給パイプ6及び透析液排出パイプ7の経路上にはダイアライザ1から透析処理された後の透析液と透析処理される前の透析液とを等容量流出入する等量容器を備えており、
等量容器9には、弾性ゴム材料からなる略半球状の隔膜13が設けられ、同隔膜13にて給液室14と排液室15とに分離されており、
等量容器9の給液室14は、流入口側の電磁弁20と流出口側の電磁弁19との間の透析液給液パイプ6に接続され、排液室15は、流入口側の電磁弁21と流出口側の電磁弁22との間の透析液排出パイプ7に接続され、当該透析液給液パイプ6及び透析液排出パイプ7は透析液の流路への個別の入口及び該流路からの個別の出口を有しており、
電磁弁19、20、21、22はコントローラ23に接続され、コントローラ23は電磁弁19、21の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁20、22を開放開始するとともに、電磁弁20、22の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁19、21を開放開始するように制御する
透析液の流路。」

(2-4)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許出願公開第2005/0131332号明細書(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある(『』内は当審による和訳。)。

キ.「[0087]Referring additionally to FIGS.2 and 3, dialyzers 20 and 30 as well as many other flow components described herein are provided in one preferred embodiment attached to a disposable cassette. Disposable cassette 100a can otherwise be referred to as an organizer, disposable, disposable set, etc. Disposable cassette 100 a includes at least a portion of the extracorporeal circuit 50 and dialysate flow path 60 (see FIG.1) for the renal failure therapy treatment (e.g., all of extracorporeal circuit 50 is integrated into cassette 100a with the exception of the tubing going to and from the patient as illustrated in FIGS.2 and 3). Disposable cassette 100a provides a space efficient apparatus for handling the dialysate or therapy fluid flow portions of the many pumps and valves described herein, which are actuated pneumatically or mechanically as described below. Cassette 100a is therefore well suited for home use, where space, capability and resources are limited.」(『さらに図2および3を参照すると、透析装置20および30、並びに本明細書に記載するその他の多くの流動構成要素が、使い捨てカセットに取り付けられた1つの好ましい実施形態で提供される。使い捨てカセット100aは、さもなければオーガナイザ、ディスポーザブル、使い捨てセットなどと呼ばれる。使い捨てカセット100aは、腎不全の治療用の体外回路50および透析液流路60(図1参照)の少なくとも一部分を含む(たとえば、すべての体外回路50はカセット100a内に一体化されるが、管類は、図2および図3に示すように患者との間に配管される)。使い捨てカセット100aは、以下に説明するように空気圧または機械式で作動する本明細書に記載の多くのポンプおよびバルブの透析液または治療流体流部分を処理するための空間効率的な装置を提供する。したがって、カセット100aは、空間、能力および資源が限られている家庭用に良く適している。』)
ク.「[0201]Viewing any of the systems 300, effluent or spent dialysate flows from a dialyzer 20, 30 or hemofilter 312 through effluent line 328 and valve V5 to peristaltic dialysate pump 370. While pump 370 in one preferred embodiment is a peristaltic pump, pump 370 can alternatively be of any desired variety, such as a piston-driven diaphragm pump, a pneumatic pump or a gear pump. The output of fluid from pump 370 flows via valve V4 to a spent side 342 of the balance chamber 340. Similar to the flexible membrane in the membrane pump, balance chamber 340 is separated into a spent compartment 342 and a fresh compartment 344 via a flexible membrane 346. As discussed herein, valves 56, such as valve V4, may be any suitable type of valve, such as a standard solenoid valve or a volcano-type valve formed partially in the cassette, which is the same or similar to that used in a HomeChoice# system.」(『システム300の何れかを見ると、流出または使用済み透析液は、透析装置20、30または血液濾過器312から流出ライン328およびバルブV5を通って、蠕動透析液ポンプ370に流れる。好ましい一実施形態のポンプ370は蠕動ポンプであるが、ポンプ370は、別法によると、望ましい何らかの種類、たとえばピストン駆動ダイアフラムポンプ、空気圧ポンプまたはギヤポンプで良い。ポンプ370からの流体の排出量は、バルブV4を介して、平衡チャンバ340の使用済み側342に流れる。膜ポンプ内の可撓性膜と同様、平衡チャンバ340は、可撓性膜346を介して、使用済みコンパートメント342および新鮮コンパートメント344に分離している。本明細書に記載するとおり、バルブV4などのバルブ56は、任意の適切なタイプのバルブ、たとえば標準のソレノイドバルブ、またはHomeChoice(登録商標)システムに使用されるバルブと同じかまたは類似し、特にカセット内に形成されるボルケーノタイプのバルブで良い。』)
ケ.「[0311]Referring now to FIG.44, a portion of cassette 100 shown in cross-section illustrates one embodiment for providing a cassette-based balance chamber 340 of the present invention. Cassette 100 (including each of the cassettes 100a to 100c includes an upper portion 96, a lower portion 98 and a flexible sheeting 346. In an embodiment, portions 96 and 98 are made of a suitable rigid plastic. In an embodiment, flexible membrane or diaphragm 346 is made of a suitable plastic or rubber material, such as PVC, non DEHP PVC, Krayton polypropylene mixture or similar materials.」(『次に、図44を参照すると、断面で示されているカセット100の一部分は、本発明のカセットベースの平衡チャンバ340を提供するための一実施形態を示す。カセット100(カセット100a?100cの各々を含む)は、上部部分96、下部部分98、および可撓性シーティング346を含む。一実施形態では、部分96および98は、適切な剛性プラスチックから製造される。一実施形態では、可撓性膜またはダイアフラム346は、適切なプラスチックまたはゴム材料、たとえばPVC,非DEHP PVC、クレイトンポリプロピレン混合物、または類似材料から製造される。』)
コ.「[0313]Using the same nomenclature from FIGS.17 to 21 for the inlet and outlet flow paths to balance chamber 340, upper portion 96, which receives and dispenses fresh dialysate, defines an inlet flow path 334 and an outlet fresh fluid flow path 314. Likewise, lower portion 98, which receives and dispenses effluent dialysate defines and inlet effluent path 336 and an outlet effluent 338. Those fluid paths are in fluid communication with the like numbered fluid lines shown in FIGS.17 to 21.」(『入口および出口流路に関する図17?図21と同じ用語を平衡チャンバ340に使用すると、新鮮透析液を収容および分散させる上部部分96は、入口流路334および出口新鮮流体流路314を画定する。同様に、流出透析液を収容および分散させる下部部分98は、入口流出経路336および出口流出338を画定する。これらの流体経路は、図17?図21に示す類似の参照符号を有する流体ラインと連通する。』)
サ.「



(2-5)上記(2-4)を踏まえると、引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「透析液流路60に用いられ、上部部分96、下部部分98、および可撓性膜346を含み、新鮮透析液を収容および分散させる上部部分96は、入口流路334および出口新鮮流体流路314を画定し、同様に、流出透析液を収容および分散させる下部部分98は、入口流出経路336および出口流出338を画定する、カセットベースの平衡チャンバ340。」

(2-6)本願の優先権主張の日前における周知技術の例として示す特表2007-509712号公報には、図面とともに次の記載がある。

「【0038】図8は、図7の線VIII-VIIIを通って見た断面図を図示する。この断面図は、上記の膜106、仕切り110およびポート108を示す。さらに、外部弁チャンバ壁112および内部弁チャンバ壁114が図示されており、これらの壁は、協働して、カセット100の仕切り110の片側で、弁V1?V10のうちの1つを作製する。さらに、内部チャンバ壁114は、背面116(これもまた、可撓性の膜であり得る)と協働して、カセット100の仕切り110の他の側の流路F1?F11のうちの種々の流路を作製する。可撓性の膜106は、内部チャンバ壁114への力fの付与(流路F1?F11のうちの第一の流路と、これらの流路のうちの第二の流路との間の流体接続を閉じるため)の際に、外部チャンバ壁112に密着する。力fの解放、または膜106への弁圧もしくは負の力の付与の際に、膜106は、内部壁114から引き離され、これらの流路の間の連絡を再度確立する。
【0039】図9は、透析機械のための、空気力制御システム10の斜視図を図示する。例えば、自動化腹腔透析機械が図示されている。図9は、HomeChoice(登録商標)Automated Peritoneal Dialysisシステムにおいて使用される、空気力制御システムの概略図であり、そしてこれは、本発明の作動を記載するために有用である。しかし、本発明の教示は、HomeChoice(登録商標)機械にも、同じかまたは類似の構成要素を有する機械のみにも限定されないことが、理解されるべきである。実際に、本発明は、多くの異なる医療用流体システムに適用可能な、試験および方法論を記載する。
【0040】本発明の一体性試験のセットアップ部分において、使い捨てカセット100が、透析機械150に装填される。これを行うためには、空気ポンプ(図示せず)が、オンにされる。この空気ポンプは、図9に図示される種々の空気力構成要素(緊急排気弁A5、閉塞具弁C6、ならびに流体弁のためのアクチュエータC0、C1、C2、C3、C4、D1、D2、D3、D4およびD5が挙げられる)と連絡し、これによって、閉塞具158(図6もまた参照のこと)を引き込み、使い捨てセット50およびカセット100が、機械150に装填されることを可能にする。一旦、セット50が装填されると、緊急排気弁A5が閉じられ、その結果、高正圧ブラダー128が膨張し、これによって、カセット100が、ドア156とダイアフラム154との間でシールされ、同時に、閉塞具158を開位置に維持する(図6)。この試験の残りの部分は、図10?14によって図示される。」




(2-7)本願の優先権主張の日前における周知技術の例として示す特表2001-505455号公報には、図面とともに次の記載がある。

「図30は負圧弁502の断面図である。その構造はカセット500の他方の弁膜構造に類似していて、弁流入室510において終結する出口通路508を有しており、この弁流入チャンバー510は柔軟な膜512によって少なくとも部分的に形成されている。チャンバー510に至る通路508の終結部における開口部515の膜512とシール・リップ514との間の接触によって、弁502を介する流れを防止する。」(第16ページ第12-17行)
「図31は圧力逃がし弁504および圧力逃がし弁506の一方の断面図を示している図である。この正圧逃がし弁は同様に構成されていて、膜522により部分的に形成される弁チャンバー520において終結する流入通路518を備えている。この場合、流れは正常の(normal)方向であるが、膜522が流入通路518の終結部において通常はリップ524に接触して弁を通常において閉塞状態に保っている。この場合も、膜が引っ張りやその反対面526に一定の基準圧力を加えること等によって付勢されている。」(第16ページ第28行-第17ページ第6行)




(2-8)上記(2-6)、(2-7)の例示を踏まえると、医療用透析装置に用いられる弁として空気式で作動する膜弁が用いられることは、本願の優先権主張の日前に周知の技術といえる。

(3)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「透析液の流路」は、ダイアライザ1から透析処理された後の透析液と透析処理される前の透析液とを等容量流出入する等量容器9を備えるから、ダイアライザ1に対して流出入する透析液のバランスをとる機構であるといえる。したがって、引用発明の「透析液の流路」と本件補正発明の「流体バランシングカセット」とは、「流体バランシング機構」である点で共通する。
引用発明の「透析液供給パイプ6」、「透析液排出パイプ7」、「排液室15」、「給液室14」、「弾性ゴム材料からなる略半球状の隔膜13」及び「等量容器9」は、その構造または機能からみて、それぞれ、本件補正発明の「第1の流体流路(4810/4824)」、「第2の流体流路(4816/4826)」、「第2のチャンバ」、「第1のチャンバ」、「可撓性を備える膜」及び「第1の流体バランシングポッド(4812,708)」に相当する。
そして、引用発明の「透析液供給パイプ6」及び「透析液排出パイプ7」がともに「透析液の流路への個別の入口及び該流路からの個別の出口を有」している点と、本件補正発明の「第1の流体流路(4810/4824)」及び「第2の流体流路(4816/4826)」について「各々が前記カセットへの個別の入口及び前記カセットからの個別の出口を有」しており、かつ「第2の流体流路(4816/4826)」が「個別の」ものである点とは、「第1の流体流路及び第2の流体流路について、各々が前記機構への個別の入口及び前記機構からの個別の出口を有しており、かつ第2の流体流路が個別のものである」点で共通する。
また、引用発明の「等量容器9」が「隔膜13にて給液室14と排液室15とに分離されて」いることから、該「等量容器9」の容積は、実質的に「排液室15」の容積と「給液室14」の容積とを合わせたものであるといえ、このことは、本件補正発明において、「第1の流体バランシングポッド(4812,708)」が「固定の第1の全流体容積を有」し、「第1のチャンバ容積と第2のチャンバの容積との合計は、前記固定の第1の全流体容積であ」ることに相当する。
引用発明の「電磁弁20」、「電磁弁19」、「電磁弁21」及び「電磁弁22」は、その機能からみて、弁として、本件補正発明の「第1の流体流路入口弁(4832)」、「第1の流体流路出口弁(4834)」、「第2の流体流路入口弁(4836)」及び「第2の流体流路出口弁(4832)」に対応する構成であることから、引用発明の「等量容器9の給液室14は、流入口側の」「弁20と流出口側の」「弁19との間の透析液給液パイプ6に接続され、排液室15は、流入口側の」「弁21と流出口側の」「弁22との間の透析液排出パイプ7に接続される」点は、本件補正発明の「前記第1のチャンバは、第1の流体流路入口弁(4832)と第1の流体流路出口弁(4834)との間の前記第1の流体流路に接続され、前記第2のチャンバは、第2の流体流路入口弁(4836)と第2の流体流路出口弁(4832)との間の前記第2の流体流路に接続され」る点に相当する。

そうすると、両者は、
「流体バランシング機構であって、
各々が前記機構への個別の入口及び前記機構からの個別の出口を有する、第1の流体流路及び個別の第2の流体流路と、
第2のチャンバから第1のチャンバを分離する可撓性を備える膜を含むとともに固定の第1の全流体容積を有する第1の流体バランシングポッドとを備え、第1のチャンバ容積と第2のチャンバの容積との合計は、前記固定の第1の全流体容積であり、
前記第1のチャンバは、第1の流体流路入口弁と第1の流体流路出口弁との間の前記第1の流体流路に接続され、前記第2のチャンバは、第2の流体流路入口弁と第2の流体流路出口弁との間の前記第2の流体流路に接続される、
流体バランシング機構。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
流体バランシング機構について、本件補正発明では、「流体バランシングカセット」であるのに対し、引用発明では、「等量容器9」を備えた「透析液の流路」であるが、カセットタイプのものではない点。

相違点2:
弁について、本件補正発明では、「弁は、空気式で作動する膜弁であり」、「前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁は」、「空気圧の同一の供給源またはラインに連動しているか、あるいは、空気圧の同一の供給源またはラインに相互接続された、空気式接続部を有する」のに対し、引用発明では、弁19、20、21、22は電磁弁であり、また、上記のような空気式接続部の構造を有しない点。

相違点3:
本件補正発明では、「前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁が同時に開閉されるように」なっているのに対し、引用発明では、電磁弁20及び電磁弁22が同時に開閉されるか否か不明な点。

上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献2に記載された「平衡チャンバ340」は、「上部部分96、下部部分98、および可撓性膜346を含み、新鮮透析液を収容および分散させる上部部分96は、入口流路334および出口新鮮流体流路314を画定し、同様に、流出透析液を収容および分散させる下部部分98は、入口流出経路336および出口流出338を画定する」ものであるから、その構造または機能からみて、透析液流路における「等量容器」であるといえる。そして、当該「平衡チャンバ340」は、カセットベースのものとされている。
そこで、引用発明に引用文献2の記載事項を適用することについて検討する。
血液透析装置において、ダイアライザや血液の流路、透析液の流路は、1回使用された後に廃棄されるのが技術常識であり、引用発明の「透析液の流路」も、1回の使用後に廃棄される使い捨てのものといえる。そして、このような使い捨てを簡便に行うこと等を念頭に置き、透析液の流路等をコンパクトな構成としておくことは、引用発明においても内在する課題であり、引用発明に対して引用文献2の記載事項を適用し、引用発明の透析液の流路をコンパクトなカセットタイプとして構成することは、当業者において動機付けが存在するといえる。
してみると、引用発明について、上記相違点1における本件補正発明に係る構成を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。

(2)相違点2について
引用発明では、透析液の流路の弁として電磁弁が用いられているところ、引用文献1の段落【0027】には、電磁弁以外に、電動式、電気油圧式、水圧、油圧もしくは真空式等の弁を使用してもよいことが記載されており(上記摘記事項(2-1)カ.参照。)、電磁弁以外の多様な形式の弁を用い得ることが示唆されている。そして、引用文献2の段落[0087]には空気圧式作動の弁を用いることが、段落[0201]にはボルケーノタイプの弁を用いることが、それぞれ記載されている(上記摘記事項(2-4)キ.、ク.参照。)。ここで、ボルケーノタイプの弁は、本願明細書において空気式で作動する膜弁として例示されている火山形状弁(段落【0194】参照。)に相当するものと解されるところ、この種装置の弁として空気式で作動する膜弁が用いられることは、上記(2-6)?(2-8)に例示したように、周知の技術というべきものである。
そうすると、引用発明について、引用文献2の記載事項や上記周知の技術を踏まえれば、流体バランシング機構に用いる弁として、電磁弁に代えて上記周知の空気式で作動する膜弁を採用することは、当業者において動機付けが存在するといえる。そして、当該採用にあたり、空気式で作動する膜弁とする第1の流体流路入口弁及び第2の流体流路出口弁を、空気圧の同一の供給源またはラインに連動しているか、あるいは、空気圧の同一の供給源またはラインに相互接続された、空気式接続部を有する構造とすることを阻害する要因もなく、当業者であれば適宜なし得た設計的事項にすぎない。
してみると、引用発明について、上記相違点2における本件補正発明に係る構成の膜弁を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。

(3)相違点3について
引用発明は、「電磁弁19、20、21、22はコントローラ23に接続され、コントローラ23は電磁弁19、21の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁20、22を開放開始するとともに、電磁弁20、22の閉塞時においてその閉塞応答時間経過後、他の電磁弁19、21を開放開始するように制御する」ものであり、引用発明において、電磁弁20と電磁弁22の開放及び閉塞は、電磁弁19と電磁弁21が完全に閉塞している状態で生じる動作であるところ、電磁弁20と電磁弁22とを開閉すべきタイミングについて以下に検討する。
電磁弁20と電磁弁22とが同時には開閉せず、仮に、電磁弁20だけが閉じ、電磁弁22が開いている期間があるとすると、電磁弁20を介しての等量容器9の給液室14への透析液の流入は止まっているにもかかわらず、等量容器9の排液室15からの電磁弁22を介した透析液の流動が生じ得るため、排液室15に負圧が生じて隔膜13が不所望に排液室15側に引っ張られ、流路に不具合が生じるおそれがある。また、仮に、電磁弁22だけが閉じ、電磁弁20が開いている期間があるとすると、電磁弁22を介しての等量容器9の排液室15からの透析液の流動は止まっているにもかかわらず、等量容器9の給液室14への電磁弁20を介した透析液の流動が生じ得るため、給液室に正圧が生じて隔膜13が不所望に押され、流路に不具合が生じるおそれがある。したがって、流路の保護の観点から、電磁弁20と電磁弁22とは、タイミングを異ならせず、同時に開閉させるべきものであるといえ、また、等量容器としての機能を果たすためにも、これらの弁は、引用発明において、同時に動作するように設計されているものと解するのが相当である。
してみると、上記相違点3は、本件補正発明と引用発明との実質的な相違点とはいえない。

(4)効果の検討
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は、引用発明、引用文献2の記載事項及び上記周知の技術の奏する効果から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)小活
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2の記載事項及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。したがって、本件補正は、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、前記第2の[理由]1の(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献、引用発明及び周知の技術
前記第2の[理由]2の(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記第1の流体流路入口弁及び前記第2の流体流路出口弁が同時に開閉されるように」との特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2の(3)に記載したとおり、引用発明、引用文献2の記載事項及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2の記載事項及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲

 
審理終結日 2020-03-10 
結審通知日 2020-03-17 
審決日 2020-03-31 
出願番号 特願2017-22161(P2017-22161)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 55- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥石川 薫  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 栗山 卓也
井上 哲男
発明の名称 カセットシステム統合型装置  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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