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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M |
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管理番号 | 1365494 |
審判番号 | 不服2019-11235 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-08-27 |
確定日 | 2020-09-08 |
事件の表示 | 特願2018-502494「車載用の電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 8日国際公開、WO2017/149776、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2016年3月4を国際出願日とする出願であって,平成30年9月11日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年11月14日に手続補正書と意見書が提出され,平成31年2月14日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年4月1日に手続補正書と意見書が提出されたが,令和1年6月6日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和1年8月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和1年6月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1,5-6に係る発明は,以下の引用文献1,4及び5に基づいて,或いは,本願の請求項1,5に係る発明は,以下の引用文献2ないし5に基づいて,また,本願の請求項2ないし4に係る発明は,以下の引用文献1ないし5に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 引用文献1:特開2014-127637号公報 引用文献2:特開2010-104074号公報 引用文献3:特開2009-273280号公報 引用文献4:.特開昭61-142961号公報 引用文献5:川島崇宏,外3名,インターリーブ方式昇圧チョッパ回路の電流平衡制御,平成18年度電気・情報関連学会中国支部連合大会講演論文集,日本,2006年10月,484頁 第3 本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし 「本願発明4」という。)は,令和1年8月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 100V以上の高電圧バッテリからなる電源から入力される電圧を所望の直流電圧に変換する車載用の電力変換装置であって、 正極と負極の出力端子間で直列接続される正極側の第1の半導体スイッチング素子と負側の第2の半導体スイッチング素子と、 前記第1および第2の半導体スイッチング素子より前記出力端子側で、前記正極と負極の出力端子間で直列接続される正極側の第3の半導体スイッチング素子と負極側の第4の半導体スイッチング素子と、 前記各半導体スイッチング素子のオンオフ制御を行う制御部と、 前記第1の半導体スイッチング素子と前記第2の半導体スイッチング素子との接続点と正極側の入力端子の間に接続された第1の巻線と、前記第3の半導体スイッチング素子と前記第4の半導体スイッチング素子との接続点と前記正極側の入力端子の間に接続された第2の巻線が、共通の鉄心に巻数比が1:1で互いに逆方向に磁気結合するように巻かれた磁気結合リアクトルと、 正極側が前記正極側の入力端子と前記磁気結合リアクトルの入力側に接続され、負極側が負極側の入力端子と前記負極の出力端子に接続されたリプル電流抑制のための入力用コンデンサと、 前記磁気結合リアクトルの前記各巻線の電流値を検出する電流検出部と、 を備え、 前記磁気結合リアクトルの結合率が、結合率の増加に伴う前記入力用コンデンサのリプル電流の急増領域を避けるために0.8以下であり、 前記制御部は、前記電流検出部で検出された電流値が等しくなるように制御を行ない、 前記各半導体スイッチング素子は、ワイドバンドギャップ半導体素子である、 車載用の電力変換装置。 【請求項2】 前記第1の半導体スイッチング素子および前記第3の半導体スイッチング素子のかわりに整流素子をそれぞれ設けた、請求項1に記載の車載用の電力変換装置。 【請求項3】 前記ワイドバンドギャップ半導体素子は、炭化ケイ素、窒化ガリウム系材料、ダイヤモンドのうちのいずれか1つを材料とした半導体素子である、請求項1または2に記載の車載用の電力変換装置。 【請求項4】 前記磁気結合リアクトルは、前記鉄心が全体としてO型の鉄心からなり、前記第1の巻線および第2の巻線が、O型の前記鉄心の対向する位置に、それぞれの磁束が互いに打ち消し合う方向に発生する方向に巻かれている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の車載用の電力変換装置。」 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について ア 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。) a 「【0021】 (リアクトルの基本構成) 図1は、本発明のリアクトルの基本構成の一例を示す。リアクトル10は、第1コイル21及び第2コイル22と、これら第1コイル21及び第2コイル22を互いに磁気的に結合する環状のコア30とを備える。なお、図1(A)では、説明の便宜上、コイル21,22及びコア30を高さ方向に略半分に切断した斜視断面図である。 【0022】 第1コイル21及び第2コイル22はそれぞれ、巻線2wを螺旋状に巻回してなり、軸方向が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように並列に配置されている。両コイル21,22は、同一形状のコイルであり、また、両コイル21,22は、軸方向の一端側から他端側に亘って巻ピッチ及び巻径が一様である。巻線2wは、銅又は銅合金やアルミニウム又はアルミニウム合金からなる平角線の表面に、エナメルやポリアミドイミド樹脂などの絶縁被覆を有する被覆平角線である。そして、両コイル21,22は、被覆平角線の巻線2wをエッジワイズ巻きして角筒状に形成されたエッジワイズコイルである。両コイル21,22は、一端同士が電気的に接続される。 【0023】 コア30は、第1コイル21及び第2コイル22を互いに磁気的に結合する。コア30は、各コイル21,22の内側に位置し、各コイル21,22が配置される一対の磁脚部311,312と、これら磁脚部311,312の両端部に配置されると共に、各磁脚部311,312の互いの端部同士を連結する一対の連結部321,322とからなる。コア30は、並列に配置された両磁脚部311,312の各端面にそれぞれ各連結部321,322の内端面が連結されることによって環状に構成されており、これら磁脚部311,312及び連結部321,322により、コイル21,22同士を磁気的に結合する結合磁路が形成される。 ・・・中略・・・ 【0027】 次に、隣り合うコイル間の結合係数を調整する結合係数調整手段の具体的な形態について説明する。なお、以下の実施形態1?4では、リアクトルの基本構成は上記した図1に示すリアクトル10と同じであり、相違点を中心に説明する。 ・・・中略・・・ 【0037】 上記した実施形態1?4で説明した図2?5に示す各結合係数調整手段の形態は、単独で実施する他、組み合わせて実施することも可能である。また、上記した実施形態1?4のリアクトル11?14において、互いに磁気結合されるコイル21,22間の結合係数は、各結合係数調整手段により、例えば0.4?0.9に調整することが挙げられる。」 b 「【0038】 (コンバータ(電力変換装置)の構成) 実施形態1?4のリアクトル11?14は、例えば、車両などに搭載されるコンバータの構成部品や、このコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用することができる。 【0039】 例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図6に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを具える。なお、図6では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることもできる。 【0040】 電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例では、コンバータ1110は、車両1200の走行時、200V?300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V?700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。 【0041】 コンバータ1110は、図7に示すように、複数のスイッチング素子Q1?Q4と、スイッチング素子Q1?Q4の動作を制御する駆動回路(図示せず)と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子Q1?Q4には、FET、IGBTなどのパワーデバイスを利用することができる。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上述した実施形態1?4のリアクトル11?14を利用しており、実施形態1?4で説明した結合係数調整手段により、互いに磁気結合されるコイル21,22間の結合係数が調整されている。リアクトル11?14は、小型であるので、このリアクトル11?14を備えるコンバータ1110や電力変換装置1100を小型化できる。 【0042】 この例では、リアクトルLを構成するコイル21,22の一端側がメインバッテリ1210の正極側に接続されている。また、一方のコイル21の他端側がスイッチング素子Q1,Q2を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され、他方のコイル22の他端側がスイッチング素子Q3,Q4を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続されている。そして、駆動回路によりスイッチング素子Q1?Q4をスイッチングすることによって、コイル21,22に流れる電流を互いに180度位相をずらした状態とし、両コイル21,22が互いに磁気的に逆結合されている。 」 c 「図1 」 d 「図7 」 イ 上記bの段落【0040】には,「電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。」こと,また,「コンバータ1110は、車両1200の走行時、200V?300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V?700V程度にまで昇圧」することが記載されている。 また,上記dの図7から“電力変換装置1100が,メインバッテリ1210とコンバータ1110との間でメインバッテリ1210に並列接続されるコンデンサを有している”ことが看取できる。 さらに,上記bの段落【0039】には,「車両1200は、」「メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、」「を備える。」ことが記載されている。 してみると,引用文献1には,“200V?300V程度のメインバッテリに接続され,車両の走行時,メインバッテリの直流電圧(入力電圧)を400V?700V程度にまで昇圧するコンバータと,コンバータに接続されて,直流と交流との相互変換を行うインバータと,メインバッテリとコンバータとの間でメインバッテリに並列接続されるコンデンサとを有する車両に備えられる電力変換装置”が記載されているといえる。 ウ 上記bの段落【0041】には,「コンバータ1110は、図7に示すように、複数のスイッチング素子Q1?Q4と、スイッチング素子Q1?Q4の動作を制御する駆動回路(図示せず)と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う」ことが記載されている エ 上記bの段落【0041】には,「スイッチング素子Q1?Q4には、FET、IGBTなどのパワーデバイスを利用することができる」ことが記載されている。 また,上記dの図7から,“スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2は,コンバータ1110の正極と負極の出力端子間で直列接続され,また,スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4は,スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2より前記出力端子側で正極と負極の出力端子間で直列接続されている”ことが看取できる。 してみると,引用文献1には,“スイッチング素子Q1?Q4は,FET,IGBTなどのパワーデバイスであって,また,スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2は,コンバータの正極と負極の出力端子間で直列接続され,また,スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4は,スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2より前記出力端子側で正極と負極の出力端子間で直列接続されている”ことが記載されているといえる。 オ 上記bの段落【0041】によれば,「リアクトルLとして」は「実施形態1?4のリアクトル11?14」が「利用」できるものであって,さらに,上記aの段落【0027】によれば,「実施形態1?4では」「リアクトルの基本構成は」「図1に示すリアクトル10と同じ」であり,そして,リアクトルの基本構成として上記aの段落【0021】には,「リアクトル10は、第1コイル21及び第2コイル22と、これら第1コイル21及び第2コイル22を互いに磁気的に結合する環状のコア30とを備える」ことが,また,段落【0022】には「第1コイル21及び第2コイル22はそれぞれ、巻線2wを螺旋状に巻回してなり、軸方向が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように並列に配置されている。両コイル21,22は、同一形状のコイルであり、また、両コイル21,22は、軸方向の一端側から他端側に亘って巻ピッチ及び巻径が一様である」ことが記載されている。 また,上記dの図7から,“第1コイル21及び第2コイル22ではドットの位置が逆方向にある”ことが看取でき,第1コイル21及び第2コイル22の巻き方向は,互いに逆方向に磁気結合するように巻かれているものといえる。 してみると,引用文献1には,“リアクトルは,第1コイル及び第2コイルと,これら第1コイル及び第2コイルを互いに磁気的に結合する環状のコアとを備え,また,第1コイル及び第2コイルはそれぞれ巻線を螺旋状に巻回してなり,軸方向が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように並列に配置され,両コイルは,同一形状のコイルであり,さらに,両コイルは,軸方向の一端側から他端側に亘って巻ピッチ及び巻径が一様であって,互いに逆方向に磁気結合するように巻かれているものである”ことが記載されているといえる。 カ 上記bの段落【0042】には,「リアクトルLを構成するコイル21,22の一端側がメインバッテリ1210の正極側に接続されている。また、一方のコイル21の他端側がスイッチング素子Q1,Q2を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され、他方のコイル22の他端側がスイッチング素子Q3,Q4を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続されている。そして、駆動回路によりスイッチング素子Q1?Q4をスイッチングすることによって、コイル21,22に流れる電流を互いに180度位相をずらした状態とし、両コイル21,22が互いに磁気的に逆結合されている」ことが,さらに,上記aの段落【0037】には,「実施形態1?4のリアクトル11?14において、互いに磁気結合されるコイル21,22間の結合係数は、各結合係数調整手段により、例えば0.4?0.9に調整する」ことが記載されている。 してみると,引用文献1には,“リアクトルを構成する両コイルの一端側がメインバッテリの正極側に接続され,また,第1のコイルの他端側がスイッチング素子Q1,Q2を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され,第2のコイルの他端側がスイッチング素子Q3,Q4を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され,そして,駆動回路によりスイッチング素子Q1?Q4をスイッチングすることによって,両コイルに流れる電流を互いに180度位相をずらした状態とし,両コイルが互いに磁気的に逆結合され,さらに,リアクトルにおいては磁気結合調整手段によって,互いに磁気結合される両コイル間の結合係数が,0.4?0.9に調整されている”ことが記載されているといえる。 キ したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 「200V?300V程度のメインバッテリに接続され,車両の走行時,メインバッテリの直流電圧(入力電圧)を400V?700V程度にまで昇圧するコンバータと,コンバータに接続されて,直流と交流との相互変換を行うインバータと,メインバッテリとコンバータとの間でメインバッテリに並列接続されるコンデンサとを有する車両に備えられる電力変換装置において, コンバータは,複数のスイッチング素子Q1?Q4と,スイッチング素子Q1?Q4の動作を制御する駆動回路と,リアクトルとを備え,ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換を行うものであり, スイッチング素子Q1?Q4は,FET,IGBTなどのパワーデバイスであって,また,スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2は,コンバータの正極と負極の出力端子間で直列接続され,また,スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4は,スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2より前記出力端子側で正極と負極の出力端子間で直列接続されており, リアクトルは,第1コイル及び第2コイルと,これら第1コイル及び第2コイルを互いに磁気的に結合する環状のコアとを備え,また,第1コイル及び第2コイルはそれぞれ巻線を螺旋状に巻回してなり,軸方向が互いに平行で且つ互いの外周面が対向するように並列に配置され,両コイルは,同一形状のコイルであり,さらに,両コイルは,軸方向の一端側から他端側に亘って巻ピッチ及び巻径が一様であって,互いに逆方向に磁気結合するように巻かれているものであり, リアクトルを構成する両コイルの一端側がメインバッテリの正極側に接続され,また,第1のコイルの他端側がスイッチング素子Q1,Q2を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され,第2のコイルの他端側がスイッチング素子Q3,Q4を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され,そして,駆動回路によりスイッチング素子Q1?Q4をスイッチングすることによって,両コイルに流れる電流を互いに180度位相をずらした状態とし,両コイルが互いに磁気的に逆結合され,さらに,リアクトルにおいては磁気結合調整手段によって,互いに磁気結合される両コイル間の結合係数が,0.4?0.9に調整されている, 電力変換装置。」 2 引用文献2について ア 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「【0013】 図1に本発明の第1の実施形態に係る2相マルチフェーズコンバータの構成を示す。2相マルチフェーズコンバータは、互いに磁気結合する2つの昇圧コイルを備え、各昇圧コイルに流れる電流を異なるタイミングでスイッチング制御するものである。出力端子からは各昇圧コイルの誘導起電力に応じた電圧が出力される。 【0014】 2相マルチフェーズコンバータの構成について説明する。上スイッチ16-1の一端は下スイッチ18-1の一端に接続される。下スイッチ18-1の他端は電池10の負極端子に接続され、上スイッチ16-1の他端と下スイッチ18-1の他端との間には、コンデンサ20が接続される。第1昇圧コイル12の一端は電池10の正極端子に接続され、他端は上スイッチ16-1および下スイッチ18-1の接続点に接続される。 【0015】 同様に、上スイッチ16-2の一端は下スイッチ18-2の一端に接続される。下スイッチ18-2の他端は電池10の負極端子に接続され、上スイッチ16-2の他端と下スイッチ18-2の他端との間には、コンデンサ20が接続される。第2昇圧コイル14の一端は電池10の正極端子に接続され、他端は上スイッチ16-2および下スイッチ18-2の接続点に接続される。 【0016】 コンデンサ20の一端は出力端子22に接続され、他端は出力端子24に接続される。出力端子22および24には、車両駆動用モータジェネレータを駆動する車両駆動回路26が接続される。」 b 「【0051】 図2に示されるように、結合率a=0.25の場合には結合率a=0.0の場合よりもリップル成分は小さい。そして、結合率aが増加するに従いリップル成分の出力電圧Vhに対する傾きが大きくなり、結合率a=0.5の特性は、出力電圧Vh=600V付近で結合率a=0.0の特性(基準特性)と交わる。すなわち、特性が交わる点より低電圧側では、結合率a=0.5の場合のリップル成分の方が基準特性のリップル成分よりも小さくなり、特性が交わる点より高電圧側では、結合率a=0.5の場合のリップル成分の方が基準特性のリップル成分よりも大きくなる。また、結合率aが大きくなる程、基準特性との交点は低電圧側に移動する。結合率a=0.75の場合にあっては、出力電圧Vh=460Vを超える範囲で、結合率a=0.75の場合のリップル成分の方が基準特性のリップル成分よりも大きくなる。ハイブリッド自動車等のモータ駆動車両では、出力電圧Vhが450V?750Vとなる頻度が高い。したがって、各昇圧コイルに流れる電流のリップル成分を低減し、各昇圧コイルの体積を低減するという観点から、結合率は0.4以下とすることが好ましい。」 c 「図1 」 d 「図2 」 イ したがって,上記引用文献2には以下の技術事項(以下,「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されている。 「互いに磁気結合する2つの昇圧コイルを備え,各昇圧コイルに流れる電流を異なるタイミングでスイッチング制御するものである2相マルチフェーズコンバータにおいて, 該2相マルチフェーズコンバータは,上スイッチ16-1の一端は下スイッチ18-1の一端に接続され,下スイッチ18-1の他端は電池10の負極端子に接続され,上スイッチ16-1の他端と下スイッチ18-1の他端との間には,コンデンサ20が接続され,さらに,第1昇圧コイル12の一端は電池10の正極端子に接続され,他端は上スイッチ16-1および下スイッチ18-1の接続点に接続されるものであって, また,上スイッチ16-2の一端は下スイッチ18-2の一端に接続され,下スイッチ18-2の他端は電池10の負極端子に接続され,上スイッチ16-2の他端と下スイッチ18-2の他端との間には,コンデンサ20が接続され,第2昇圧コイル14の一端は電池10の正極端子に接続され,他端は上スイッチ16-2および下スイッチ18-2の接続点に接続されるものであって, 各昇圧コイルに流れる電流のリップル成分を低減し,各昇圧コイルの体積を低減するという観点から,結合率は0.4以下とすること。」 3 引用文献3について 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「【0020】 主回路部300は直流電源80を切り離すための遮断器4,入力平滑コンデンサ5,電流変化率抑制用リアクトル3,共通の鉄心に巻かれて巻数比が1:1であり、なおかつ逆方向に磁気結合するリアクトル2a,2b,IGBT素子1a,1b,ダイオード1p,1q,出力平滑コンデンサ6、およびリアクトル2a,2bを流れる電流を検出する電流センサ10,11により構成される。 【0021】 遮断器4は入力端子50と電流変化率抑制用リアクトル3の間に接続する。 【0022】 入力平滑コンデンサ5はIGBT素子1a,1bのスイッチングに起因するリプル電流が直流電源80に流れ込む量を低減するために備える。DC-DCコンバータ1の接続する直流電源80が、上記リプル電流が流入しても過熱せず、直流電源の出力電圧を保つことができる場合は平滑コンデンサ5を省略しても良い。」 b 「図1 」 4 引用文献4について 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「〔発明の概要〕 本発明では、上記目的を達成するために、前記チョッパの所定の位置からそれぞれの電流をチョッパ電流として取り出して、それぞれのチョッパ電流の平均値と前記チョッパ電流との電流偏差を検出した後、これらの偏差量をチョッパ出力電圧制御系に割り込ませて前記チョッパ電流がバランスするようチョッパの出力電圧を制御するようにしている。 〔発明の実施例〕 本発明の一実施例を第1図を参照して説明する。第1図において、第4図と同一の符号を付した部分の名称とその動作機能は同一であり説明を省略する。 第1図において、8a,8bはチョッパ電流を検出する直流電流検出器、23a,23bはそれぞれ直流検出器8a,8bの電流出力を電圧に変換する直流電圧検出回路、30は各チョッパ電流の和をとりチョッパ装置の入力電流を得るための加算器、31は加算器30の出力の極性を反転させるための極性反転回路、32は極性反転回路31の出力を1/2に分圧し、チョッパ装置の入力電流I_(dI)の平均値を得るための分圧器、24a,24bはそれぞれチョッパ入力電流L_(dI1),I_(dI2)とチョッパ装置の入力電流I_(dI)の平均値との電流偏差を得るための加算器、25a,25bはそれぞれ加算器26a,26bに加わる信号レベルすなわち前記電流偏差の信号が所定のレベル以上にならないように制限するリミッタ、26a,26bは誤差増幅器13の出力に各チョッパの電流偏差を割込ませるための加算器である。」(3頁右上欄11行-同頁左下欄20行) 5 引用文献5について 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「1. はじめに インターリーブ方式昇圧チョッパ回路においては,各相の実装上の抵抗成分の非対称性により各相の電流が不平衡となり,損失の偏りや増大を招く危険性がある. 本論文では,インターリーブ方式において各相の電流値を平衡させるための制御法を提案し,それらについて計算機シミュレータを利用して動作確認を行ったので報告する. 2.電流平衡制御回路 図1に各相インダクタ電流を平衡させるための制御回路図を示す.この回路では,各相のインダクタ電流を電流センサで検出し,それらの差を積分したものを出力電圧制御指令値に加算,減算させることにより平衡制御を行っている.表1に回路仕様を示す. ・・・中略・・・ 3.むすび 本論文では,インターリーブ方式昇圧チョッパ回路における実装上の抵抗成分の非対称性による損失の偏りや増大といった問題点を,インダクタ電流を検出し,平衡させることにより解決可能な電流平衡制御方式を提案した.さらに計算機シミュレータにより電流平衡動作の確認を行い,提案制御方式の有効性を示唆した.」(484頁) 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 ア 本願発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「メインバッテリ」は,200V?300V程度であるから,本願発明1の「100V以上の高電圧バッテリ」に相当する。 そして,引用発明の「コンデンサ」と「コンバータ」は,車両に備えられるものであって,また,メインバッテリに接続され,メインバッテリの直流電圧(入力電圧)を400V?700V程度にまで昇圧(電力変換)して出力するものであるから,本願発明1の「100V以上の高電圧バッテリからなる電源から入力される電圧を所望の直流電圧に変換する車載用の電力変換装置」に相当する。 (イ)引用発明の「スイッチング素子Q1」と「スイッチング素子Q2」は,コンバータ1110の正極と負極の出力端子間で直列接続されるものであるから, 本願発明1の「正極と負極の出力端子間で直列接続される正極側の第1の半導体スイッチング素子と負側の第2の半導体スイッチング素子」に相当する。 (ウ)また, 引用発明の「スイッチング素子Q3」と「スイッチング素子Q4」は,スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2より前記出力端子側で,正極と負極の出力端子間で直列接続されるものであるから,本願発明1の「前記第1および第2の半導体スイッチング素子より前記出力端子側で、前記正極と負極の出力端子間で直列接続される正極側の第3の半導体スイッチング素子と負極側の第4の半導体スイッチング素子」に相当する。 (エ)引用発明の「駆動回路」は,スイッチング素子Q1?Q4の動作を制御するものであるから,本願発明1の「前記各半導体スイッチング素子のオンオフ制御を行う制御部」に相当する。 (オ)引用発明の「第1のコイル」は,他端側がスイッチング素子Q1,Q2を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され,また,一端側がメインバッテリの正極側に接続されるものであるから,本願発明1の「前記第1の半導体スイッチング素子と前記第2の半導体スイッチング素子との接続点と正極側の入力端子の間に接続された第1の巻線」に相当する。 また,引用発明の「第2のコイル」は,他端側がスイッチング素子Q3,Q4を直列に接続してなる直列スイッチング回路の中点に接続され,また,一端側がメインバッテリの正極側に接続されるものであるから,本願発明1の「前記第3の半導体スイッチング素子と前記第4の半導体スイッチング素子との接続点と前記正極側の入力端子の間に接続された第2の巻線」に相当する。 さらに,引用発明の「第1のコイル」及び「第2のコイル」は,同一形状のコイルであり,また,軸方向の一端側から他端側に亘って巻ピッチ及び巻径が一様であって環状のコアに巻かれるものであり,巻き数比は1:1と認められ,さらに,互いに逆方向に磁気結合するように巻かれているものである。 そして,引用発明の「リアクトル」は,第1コイル及び第2コイルからなるものであるから,本願発明1の「前記第1の半導体スイッチング素子と前記第2の半導体スイッチング素子との接続点と正極側の入力端子の間に接続された第1の巻線と、前記第3の半導体スイッチング素子と前記第4の半導体スイッチング素子との接続点と前記正極側の入力端子の間に接続された第2の巻線が、共通の鉄心に巻数比が1:1で互いに逆方向に磁気結合するように巻かれた磁気結合リアクトル」に相当する。 (カ)引用発明の「コンデンサ」は,メインバッテリとコンバータとの間でメインバッテリに並列接続されるものであって,また,コンバータの入力側に設けられるコンデンサは通常リプル電流の制御のために設けられものと認められることから,本願発明1の「正極側が前記正極側の入力端子と前記磁気結合リアクトルの入力側に接続され、負極側が負極側の入力端子と前記負極の出力端子に接続されたリプル電流抑制のための入力用コンデンサ」に相当する。 イ したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。 〈一致点〉 「100V以上の高電圧バッテリからなる電源から入力される電圧を所望の直流電圧に変換する車載用の電力変換装置であって, 正極と負極の出力端子間で直列接続される正極側の第1の半導体スイッチング素子と負側の第2の半導体スイッチング素子と, 前記第1および第2の半導体スイッチング素子より前記出力端子側で,前記正極と負極の出力端子間で直列接続される正極側の第3の半導体スイッチング素子と負極側の第4の半導体スイッチング素子と, 前記各半導体スイッチング素子のオンオフ制御を行う制御部と, 前記第1の半導体スイッチング素子と前記第2の半導体スイッチング素子との接続点と正極側の入力端子の間に接続された第1の巻線と,前記第3の半導体スイッチング素子と前記第4の半導体スイッチング素子との接続点と前記正極側の入力端子の間に接続された第2の巻線が,共通の鉄心に巻数比が1:1で互いに逆方向に磁気結合するように巻かれた磁気結合リアクトルと, 正極側が前記正極側の入力端子と前記磁気結合リアクトルの入力側に接続され,負極側が負極側の入力端子と前記負極の出力端子に接続されたリプル電流抑制のための入力用コンデンサと, を備える, 車載用の電力変換装置。」 〈相違点1〉 本願発明1では「前記磁気結合リアクトルの前記各巻線の電流値を検出する電流検出部」を備え,さらに,「前記制御部は、前記電流検出部で検出された電流値が等しくなるように制御を行な」っているのに対して、引用発明ではそのような電流検出部を備えておらず,駆動回路はそのような制御を行っていない点。 〈相違点2〉 本願発明1では「前記磁気結合リアクトルの結合率が、結合率の増加に伴う前記入力用コンデンサのリプル電流の急増領域を避けるために0.8以下であ」るのに対して,引用発明では互いに磁気結合される両コイル間の結合係数が,0.4?0.9である点。 〈相違点3〉 「前記各半導体スイッチング素子」が,本願発明1では「ワイドバンドギャップ半導体素子」であるのに対して,引用発明ではそのような特定がされていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み,上記相違点2について,先に検討する。 引用文献2には,互いに磁気結合する2つの昇圧コイルを備える2相マルチフェーズコンバータにおいて,各昇圧コイルに流れる電流のリップル成分を低減するために,結合率を0.4以下とする技術事項が記載されているが,入力用コンデンサは備えておらず,入力用コンデンサのリプル電流の急増領域を避けるためのものではなく,また,引用文献2の段落【0051】に記載されるように,結合率を0.4より大きくすると,各昇圧コイルに流れる電流のリップル成分が大きくなるものであって,結合率を0.8以下とする理由が存在しない。 さらに,引用文献3は,DC-DCコンバータのリアクトルの巻数比に関するものであって,また,引用文献4及び引用文献5は,2相のチョッパ回路のインダクタの電流を検出して,インダクタの電流がバランスするように制御を行うものであって,いずれの文献にも結合率を0.8以下とすることは記載されていない。 また,結合率を0.8以下とすることが周知の技術であるとも認められない。 そして,本願発明1は,本願の段落【0051】及び図11に記載されるように,結合率が0.8を超えたあたりでリプル電流幅が飛躍的に増大することを鑑みて,結合率を0.8以下とすることで,磁気結合リアクトル前段に備えたコンデンサに流れる電流リプルを抑制することができ,コンデンサのサイズを小型化することができるという効果を奏するものである。 したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1が引用発明及び引用文献2なしい引用文献5に記載の技術事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし4について 本願発明2ないし4は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明1なしい引用文献5に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 原査定について <特許法29条2項について> 審判請求時の補正により,本願発明1ないし4は上記第3に示したとおりのものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし5(上記第4の引用文献1ないし5)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-08-19 |
出願番号 | 特願2018-502494(P2018-502494) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02M)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 麻生 哲朗、松尾 俊介、山崎 雄司 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
小林 秀和 山澤 宏 |
発明の名称 | 車載用の電力変換装置 |
代理人 | 上田 俊一 |
代理人 | 吉田 潤一郎 |
代理人 | 大宅 一宏 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 梶並 順 |