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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F25D
管理番号 1365568
審判番号 不服2019-5163  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-18 
確定日 2020-09-08 
事件の表示 特願2016-544946「相変化冷却装置および相変化冷却方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日国際公開、WO2016/031195、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)8月20日(優先権主張 平成26年8月27日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 8月17日付け: 拒絶理由通知書
同 年10月19日 : 意見書、手続補正書の提出
同 年10月26日付け: 拒絶理由通知書
同 年12月18日 : 意見書の提出
平成31年 1月 9日付け: 拒絶査定
同 年 4月18日 : 審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 5月15日付け: 拒絶理由(当審拒絶理由)通知書
同 年 7月16日 : 意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成31年1月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]
本願請求項1ないし8に係る発明は、以下の引用文献AないしDに記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
A 特開2009-200472号公報
B 実願昭60-52567号(実開昭61-169374号)のマイクロフィルム
C 特開2000-121137号公報
D 特開2001-208272号公報

なお、本願請求項9に係る発明は、拒絶の対象とはされていない。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]
本願請求項1ないし8に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1 実願昭60-52567号(実開昭61-169374号)のマイクロフィルム (原査定における引用文献B)
2 特開2000-121137号公報 (原査定における引用文献C)
3 特開2001-208272号公報(周知技術を示す文献;原査定における引用文献D)

なお、本願請求項9に係る発明は、拒絶の対象とはされていない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和2年7月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし7は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
複数の発熱源から受熱する冷媒をそれぞれ収容する複数の受熱部と、
前記受熱部で気化した前記冷媒の冷媒蒸気を凝縮液化して冷媒液を生成する凝縮部と、
前記受熱部と前記凝縮部を接続し、前記冷媒蒸気を輸送する冷媒蒸気輸送構造と、
前記受熱部と前記凝縮部を接続し、前記冷媒液を輸送する冷媒液輸送構造、とを有し、
前記冷媒液輸送構造は、
前記凝縮部と接続する主液管と、
前記主液管と接続し、前記冷媒液をためる冷媒液貯留部と、
前記冷媒液貯留部と前記複数の受熱部とをそれぞれ接続する複数の副液管、とを備え、
前記冷媒液貯留部と前記冷媒蒸気輸送構造を接続する分岐配管を有し、
前記冷媒液貯留部は、前記凝縮部よりも下方に位置し、前記複数の受熱部よりも上方に位置している
相変化冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載した相変化冷却装置において、
前記冷媒液貯留部は、容器部を有し、
前記容器部は、上面および側面のいずれか一方に前記主液管と接続する主液管接続部を備え、下方の底面に前記副液管と接続する複数の副液管接続部を備える
相変化冷却装置。
【請求項3】
請求項2に記載した相変化冷却装置において、
前記複数の副液管接続部は、前記底面の高さが最小である位置近傍に配置している
相変化冷却装置。
【請求項4】
請求項2に記載した相変化冷却装置において、
前記複数の副液管接続部は、前記底面の中心近傍に配置している
相変化冷却装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載した相変化冷却装置において、
前記副液管接続部は継手を備え、
前記容器部は、前記継手の内径が互いに異なる二個の前記副液管接続部を少なくとも含む
相変化冷却装置。
【請求項6】
請求項2から4のいずれか一項に記載した相変化冷却装置において、
前記副液管接続部は、継手と、前記継手の内部に装着される筒状の装着部を備え、
前記容器部は、前記継手の内径は等しく、前記装着部の内径は互いに異なる二個の前記副液管接続部を少なくとも含む
相変化冷却装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一項に記載した相変化冷却装置において、
前記複数の副液管接続部の前記冷媒液が流動する断面積の和が、前記主液管接続部の前記冷媒液が流動する断面積に等しい
相変化冷却装置。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のために当審が付与した。

ア 第2ページ第4?7行
「 本考案は電気品箱内に設けた電気抵抗器等電気品,サイリスタ,トランジスタ等電子品の発熱部を有効に冷却するための冷却装置に関する。」

イ 第5ページ第13行?第7ページ第5行
「 第1図において(1)は各種ロボット,自動工作機械,溶接機などの自動制御盤として使用される電気品箱であって、サイリスタ,パワートランジスタなど発熱する半導体,抵抗器,トランス,リレーなど発熱する電気機器が、鋼板からなる外板(2)で形成した箱体内に収納されており、それ等電気品,電子品は作動中を通じて発熱部の冷却が必要であることは言うまでもない。
(3),(4),(5)は自然循環系の冷却装置を構成する要素部材としての冷却用熱交換器、液溜め容器、放熱用熱交換器であり、冷却用熱交換器(3)はクロスフィンコイル(16)とファン(17)との組合わせになり流動空気を介して電気品の冷却を行わせるもの、アルミニウム板のロールボンド加工により蛇行冷媒流路を有する平板状熱交換器(18)に形成してトランジスタ用基盤等に添設せしめ、直接熱伝導により冷却を行わせるものが1基又は2基以上用いられる。
液溜め容器(4)は後記する連絡配管(A)の一部を構成するものであって横長,縦長の立方体をなす密閉容器からなり、前記外板(2)の前記冷却用熱交換器(3)よりも高位置となる個所、例えば天板に取着せしめている。
放熱用熱交換器(5)は、例えばクロスフィンコイル(16)とファン(17)との組合わせになるものが使用され、電気品箱(1)よりも高位置において適宜固定させる。
それ等各器(3),(4),(5)は、連絡配管(A)、すなわち冷却用熱交換器(3)を液管(6),ガス管(7)により、液溜め容器(4)に自然循環的、かつ並列的に夫々接続せしめる一方、放熱用熱交換器(5)を液管(8)、ガス管(9)により、液溜め容器(4)に自然循環的に接続せしめることにより密閉循環経路を形成している。」

ウ 第7ページ第12行?末行
「 しかして前記液溜め容器(4)は、第2図,第4図に例示してなる如く、外板(2)中の天板に対して水平方向取付勝手に設置するもの(第2図参照)、側板あるいは背面板に対して垂直方向取付勝手に設置するもの(第4図参照)の2形態が可能であって、外板(2)に穿った内外連絡部(X)となる取付穴(15)に介挿して、容器の一部例えば過半部が電気品箱(1)内に没入し、残部が外側に露呈する如く定置せしめている。」

エ 第8ページ第13行?第9ページ第5行
「また、液溜め容器(4)は電気品箱(1)内で、例えば外板(2)に平行に展延する器壁を気密に貫通して、該容器内の液相に通じる液管接続口(11)及びガス相に通じるガス管接続口(12)を必要個数だけ設けており、各接続口(11),(12)に対して例えばセルフシールカップリングの一方の接続具を一体に固着している。
さらに液溜め容器(4)は電気品箱(1)外で、例えば外板(2)と平行をなし展延する器壁を気密に貫通して、該容器(4)内の液相あるいはガス相に通じる液管接続口(13)及びガス相に通じるガス管接続口(14)を必要個数だけ設けており、各接続口(13),(14)に対して同様にセルフシールカップリングの一方の接続具を一体に固着している。」

オ 第9ページ第16?19行
「 両例ともに冷却用熱交換器(3)を2基有していて個別に各発熱部に対し熱交換可能に電気品箱(1)内に設けて液管(6),ガス管(7)を夫々液管接続口(11),ガス管接続口(12)に接続せしめている。」

カ 第10ページ第12行?第11ページ第5行
「 このように配管接続してなる冷却装置は冷却用熱交換器(3)内の液冷媒は電気品・電子品の発熱部の熱により蒸発気化して、その際に前記発熱部を冷却する。
この蒸発冷媒はガス管(7),液溜め容器(4)内気相部及びガス管(9)を経て放熱用熱交換器(5)に上昇し、ここで大気に凝縮潜熱を放出して凝縮液化する。
そして液冷媒は液管(8)を経て液溜め容器(4)に至り、いったん貯溜した後に、液管(6)を経、冷却用熱交換器(3)に流入する。
このようにして自然循環を成す凝縮性ガス冷媒の蒸発潜熱により、電気品,電子品の冷却が連続して行われる。」

キ 第1図




ク 第2図




ケ 第4図




コ 第5図、第6図




サ 第7図




(2)引用発明
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 自然循環系の冷却装置であって、
電気品箱(1)に収納される複数の発熱する電気品(半導体、抵抗器、基板等)の冷却をそれぞれ行う、電気品に添設される複数の冷却用熱交換器(3)と、
電気品箱(1)よりも高位置に固定される放熱用熱交換器(5)と、
電気品箱(1)の外板(2)の天板の取付け穴に介挿して天板に水平方向に、もしくは、電気品箱(1)の背面板の上部の取付け穴に介挿して背面板に対して垂直方向に、冷却用熱交換器(3)よりも高位置となる箇所に設置される液溜め容器(4)と、
冷却用熱交換器(3)を液管(6)、ガス管(7)により液溜め容器(4)に自然循環的かつ並列的にそれぞれ接続せしめる一方、放熱用熱交換器(5)を液管(8)、ガス管(9)により、液溜め容器(4)に自然循環的に接続せしめることによる、密閉循環経路を備え、
前記液溜め容器(4)は、液管(6)と接続し、液溜め容器内の液相に通じる液管接続口(11)、及び、ガス管(7)と接続し、液溜め容器内のガス相に通じるガス管接続口(12)を底面に、並びに、液管(8)と接続する液管接続口(13)、及び、ガス管(9)と接続するガス管接続口(14)を上面又は側面に、それぞれ必要個数備え、
さらに、各接続口は、セルフシールカップリングの一方の接続具を一体に固着したものであり、
以上の構成により、冷却用熱交換器(3)内の液冷媒は、電気品の発熱部の熱により蒸発気化し、この蒸発冷媒は、ガス管(7)、液溜め容器(4)内のガス相及びガス管(9)を経て放熱用熱交換器(5)に上昇し、ここで大気に凝縮潜熱を放出して凝縮液化し、そして液冷媒は、液管(8)を経て液溜め容器(4)の液相に至り、液管(6)を経て冷却用熱交換器(3)に流入する、
冷却装置。」

2 引用文献2及び3について
当審拒絶理由に引用された引用文献2の段落【0017】及び【図2】の記載からみて、当該引用文献2には、「ダクト8の接続部は継手25を備え、ケーシング24は、継手25の内径が互いに異なる二個のダクト8の接続部を含むこと。」という技術事項が記載されていると認められる。

当審拒絶理由に引用された引用文献3の段落【0014】及び【図9】の記載からみて、当該引用文献3には、「容器に流入する流体が流れ込む配管の断面積と、容器から流出する流体が流れる複数の配管の断面積の合計とを等しくすること。」という技術事項が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明の「複数の発熱する電気品」は、本願発明1の「複数の発熱源」に相当する。
引用発明の「冷却用熱交換器(3)」は、発熱する電気品に添設され、内部の液冷媒(冷媒液)により電気品の熱を受熱し液冷媒が蒸発気化することにより電気品を冷却するものであるから、本願発明1の「受熱部」に相当する。また、引用発明の「複数の冷却用熱交換器(3)」は、本願発明1の「複数の受熱部」に相当する。
引用発明の「放熱用熱交換器(5)」は、液冷媒(冷媒液)が蒸発気化した蒸発冷媒から凝縮潜熱を放出することにより凝縮液化して液冷媒を生成するものであるから、本願発明1の「凝縮部」に相当する。
また、引用発明の「液管(8)」、「液管(6)」及び「液溜め容器(4)」はそれぞれ本願発明1の「主液管」、「副液管」及び「冷媒液貯留部」に相当する。
また、引用発明において、「液管(6)」は、「冷却用熱交換器(3)」に液冷媒を輸送するものであり、「冷却用熱交換器(3)」は複数あるため、本願発明1の「複数の副液管」に相当する構成を備えている。また、引用発明において、これら、液冷媒(冷媒液)を輸送するための構造を総称して「冷媒液輸送構造」と称することは任意である。
また、引用発明において、蒸発冷媒を輸送するための構造である、「ガス管(7)」、「ガス管(9)」及び「液溜め容器(4)内のガス相」を総称して「冷媒蒸気輸送構造」と称することは任意である。
また、引用発明は、「電気品箱(1)よりも高位置に固定される放熱用熱交換器(5)」、「電気品箱(1)の外板(2)の天板の取付け穴に介挿して天板に水平方向に、もしくは、電気品箱(1)の背面板の上部の取付け穴に介挿して背面板に対して垂直方向に、冷却用熱交換器(3)よりも高位置となる箇所に設置される液溜め容器(4)」との構成を備えていることから、上方より、「放熱用熱交換器(5)」、「液溜め容器(4)」、「冷却用熱交換器(3)」の順に配置されているから、本願発明1の「前記冷媒液貯留部は、前記凝縮部よりも下方に位置し、前記複数の受熱部よりも上方に位置している」との構成を備えている。
また、引用発明に係る「自然循環系の冷却装置」は、冷媒の液相からガス相への変化、及び、ガス相から液相への変化、すなわち、冷媒の相変化を利用した冷却装置に係るものであるから、本願発明1の「相変化冷却装置」に相当する。

(2)一致点・相違点
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「 複数の発熱源から受熱する冷媒をそれぞれ収容する複数の受熱部と、
前記受熱部で気化した前記冷媒の冷媒蒸気を凝縮液化して冷媒液を生成する凝縮部と、
前記受熱部と前記凝縮部を接続し、前記冷媒蒸気を輸送する冷媒蒸気輸送構造と、
前記受熱部と前記凝縮部を接続し、前記冷媒液を輸送する冷媒液輸送構造、とを有し、
前記冷媒液輸送構造は、
前記凝縮部と接続する主液管と、
前記主液管と接続し、前記冷媒液をためる冷媒液貯留部と、
前記冷媒液貯留部と前記複数の受熱部とをそれぞれ接続する複数の副液管、とを備え、
前記冷媒液貯留部は、前記凝縮部よりも下方に位置し、前記複数の受熱部よりも上方に位置している
相変化冷却装置。」

[相違点]
本願発明1は、「前記冷媒液貯留部と前記冷媒蒸気輸送構造を接続する分岐配管を有し、」との構成を備えているのに対し、引用発明は、当該構成を備えない点。

(3)相違点についての判断
上記相違点に係る本願発明1の「前記冷媒液貯留部と前記冷媒蒸気輸送構造を接続する分岐配管を有し、」という構成(以下、「相違点構成」という。)を引用発明に付加することが当業者にとって容易であるか否かについて、検討する。

ア 相違点構成の技術的意義
相違点構成に含まれる「分岐配管」に関し、本願明細書には、次のように記載されている。
「【0065】
自然循環型の相変化冷却方式による相変化冷却装置においては、受熱部1010で受熱することにより発生する冷媒の気泡が周囲の液相の冷媒を巻き込んで上昇するので、冷媒蒸気輸送構造1200にも液相状態の冷媒液が存在し得る。このような冷媒蒸気輸送構造1200内の冷媒液は、冷媒蒸気に対する流体抵抗を増大させる要因となる。
【0066】
しかし、本実施形態の相変化冷却装置3000においては、分岐配管3100により、冷媒蒸気輸送構造1200内の冷媒液を液相側である冷媒液輸送構造1100に戻すことができる。そのため、冷媒蒸気輸送構造1200内に冷媒液が存在することによる冷媒蒸気に対する流体抵抗を減少させ、これにより熱輸送効率を向上させることが可能となる。
【0067】
このように、本実施形態の相変化冷却装置3000によれば、装置コストおよび維持管理コストの増大を招くことなく、自然循環型の相変化冷却方式により複数の発熱源をさらに効率よく冷却することができる。」

以上の記載からすれば、相違点構成の技術的意義は、受熱部において発生する冷媒の気泡が周囲の液相の冷媒を巻き込んで上昇し、冷媒水蒸気構造内に液相の冷媒液が存在し得るとの前提の下に、冷媒蒸気輸送構造内の冷媒液を液相側である冷媒液輸送構造に戻して、冷媒蒸気に対する流体抵抗を減少させて、熱輸送効率を向上させ、自然循環型の相変化冷却方式により複数の発熱源をさらに効率よく冷却すること、と把握することができる。

イ 周知技術
本願の優先日前に出願公開された特開2003-287328号公報(以下、「周知技術文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のために当審が付与した。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、蓄電池の電解液や変圧器の絶縁油など、電気設備に付帯する被冷却液を冷却する電気設備用冷却システムに関する。」

「【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明の電気設備用冷却システムは、上述のような目的を達成するために、電気設備に付帯する被冷却液を冷却する電気設備冷却部と、前記電気設備冷却部に循環配管を介して接続されて、外気との熱交換によって冷媒を凝縮液化する熱源側熱交換器とを備え、前記循環配管内に気体と液体とに相変化する冷媒を封入するとともに、前記熱源側熱交換器を前記電気設備冷却部よりも上方に配置し、前記熱源側熱交換器と前記電気設備冷却部との間に、前記熱源側熱交換器で凝縮液化した冷媒液を前記電気設備冷却部に移送するに足るヘッド差を備えて構成する。
【0008】(作用・効果)請求項1に係る発明の電気設備用冷却システムの構成によれば、本発明者らは、蓄電池の電解液や変圧器の潤滑油などの電気設備の被冷却液の温度としては45℃程度が好適であり、夏期の外気温度が高いときでも被冷却液で要求される温度よりも高く、夏期の外気温度によっても冷却可能であることを知見するに至り、この知見に基づいて、電気設備冷却部と、外気との熱交換によって冷媒を凝縮液化する熱源側熱交換器との間で、ヘッド差により冷媒を自然循環して被冷却液を冷却することができる。…(後略)」

「【0017】冷媒蒸発用熱交換器3よりも上方に、外気との熱交換によって冷媒を凝縮液化する熱源側熱交換器6が設けられている。冷媒蒸発用熱交換器3と熱源側熱交換器6とが、液管部分に受液器7と流量調整弁8とを介装した第2の循環配管9を介して接続されている。」

「【0019】熱源側熱交換器6は、上端側に第2の循環配管9のガス管部分9aを接続するとともに下端側に第2の循環配管9の液管部分9bを接続した冷媒凝縮用熱交換コイル10を本体ケース11内に設けて構成されている。」

「【0021】また、本体ケース11の下部に水溜部13が設けられ、一方、本体ケース11の上部のファン12の下方箇所に散水ノズル14が設けられ、水溜部13と散水ノズル14とが、送水ポンプ15を介装した給水管16を介して接続され、冷媒凝縮用熱交換コイル10の上方から散水することにより、冷媒の凝縮液化を促進できるように構成されている。受液器7の上部空間と冷媒配管9のガス管部分9aの熱源側熱交換器6への入り口直近箇所とが均圧管17を介して接続され、熱源側熱交換器6の冷媒ガスの入口側と冷媒液の出口側とでの圧力を均一化するように構成されている。
【0022】上記構成により、熱源側熱交換器6で凝縮液化した冷媒液を、内部での圧力バランスに冷媒液の重力が打ち勝つ状態で冷媒蒸発用熱交換器3に流下させ、一方、冷媒蒸発用熱交換器3での熱交換により気体に変化した冷媒ガスを熱源側熱交換器6に上昇させ、熱源側熱交換器6と冷媒蒸発用熱交換器3とにわたって冷媒を自然循環できるようになっている。」

「【図1】



周知技術文献の上記記載によれば、本願の優先日前に、以下の事項が周知技術であったと認められる。(以下、これを「周知技術」という。)

「 相変化する冷媒を自然循環させて電気設備に付帯する被冷却液を冷却する冷却システムにおいて、
電気設備に付帯する被冷却液を冷却する電気設備冷却部と、前記電気設備冷却部に循環配管を介して接続されて、外気との熱交換によって冷媒を凝縮液化する熱源側熱交換器とを備え、前記循環配管内に気体と液体とに相変化する冷媒を封入するとともに、前記熱源側熱交換器を前記電気設備冷却部よりも上方に配置し、
前記熱源側熱交換器は、上端側に前記循環配管のガス管部分を接続するとともに下端側に前記循環配管の液管部分を接続し、
前記液管部分に受液器が介装され、
前記受液器の上部空間と前記ガス管部分の前記熱源側熱交換器への入り口直近箇所とを均圧管を介して接続し、前記熱源側熱交換器の冷媒ガスの入口側と冷媒液の出口側とでの圧力を均一化するように構成することにより、前記熱源側熱交換器で凝縮液化した冷媒液を、内部での圧力バランスに冷媒液の重力が打ち勝つ状態で冷媒蒸発用熱交換器に流下させ、冷媒を自然循環できるようにすること。」

ウ 周知技術は相違点構成を備えるか否かについて
周知技術における「受液部」、「ガス管部分」はそれぞれ本願発明1の「冷媒液貯留部」、「冷媒蒸気輸送構造」に相当する。
よって、構造からすれば、「受液部」の上部空間と「ガス管部分」の熱源側熱交換器への入り口直近箇所とを接続する「均圧管」は、本願発明1の「分岐配管」に相当する。
しかしながら、周知技術における「均圧管」は、熱源側熱交換器の冷媒ガスの入口側と冷媒液の出口側とでの圧力を均一化して、前記熱源側熱交換器で凝縮液化した冷媒液を、内部での圧力バランスに冷媒液の重力が打ち勝つ状態で冷媒蒸発用熱交換器に流下させ、冷媒を自然循環できるようにすること、を目的とするものであるのに対し、相違点構成の技術的意義は、前記アで述べたように、受熱部において発生する冷媒の気泡が周囲の液相の冷媒を巻き込んで上昇し、冷媒水蒸気構造内に液相の冷媒液が存在し得るとの前提の下に、冷媒蒸気輸送構造内の冷媒液を液相側である冷媒液輸送構造に戻して、冷媒蒸気に対する流体抵抗を減少させて、熱輸送効率を向上させ、自然循環型の相変化冷却方式により複数の発熱源をさらに効率よく冷却すること、である。
そうすると、周知技術における「均圧管」は、相違点構成とは技術的意義を異にするから、周知技術は、相違点構成を備えているとはいえない。

エ 引用発明への周知技術の適用可能性について
周知技術の「均圧管」は、「受液部」の上部空間と「ガス管部分」の熱源側熱交換器への入り口直近箇所とを接続するものである。
一方、引用発明は、「液溜め容器4」の上部と、「放熱用熱交換器5」の上部とは、そもそも「ガス管9」により接続されている。
さらに、引用発明における「液溜め容器4」には、「放熱用熱交換器5」の入口側と「ガス管9」により、また、「放熱用熱交換器5」の出口側と「液管8」により接続されているから、周知技術が前提とする、「熱源側熱交換器の冷媒ガスの入口側と冷媒液の出口側とでの圧力」が「均一化」されていない状態を想定することができない。
よって、引用発明に周知技術を適用する動機付けが存在しない。

(4)本願発明1についての小括
よって、周知技術は相違点構成を備えないから、引用発明に周知技術を適用しても本願発明1には至らず、仮に、周知技術が相違点構成を備えるものであるとしても、引用発明に周知技術を適用する動機付けが存在しない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7も、本願発明1に係る相違点構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
令和2年7月16日提出の手続補正書による補正により、補正後の請求項1ないし7に係る発明は、相違点構成を有するものとなった。当該相違点構成は、原査定における引用文献A-D(引用文献BないしDはそれぞれ当審拒絶理由における引用文献1ないし3に相当する。)には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないから、本願発明1ないし7は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Dに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
なお、本願発明1に相当する、平成30年10月19日提出の手続補正書による補正後の請求項9に係る発明は、平成30年10月26日付けの拒絶理由通知書及び原査定における拒絶の対象とされていない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-08-24 
出願番号 特願2016-544946(P2016-544946)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F25D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 篠塚 隆  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 林 毅
太田 龍一
発明の名称 相変化冷却装置および相変化冷却方法  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  
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