• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1365626
審判番号 不服2019-15535  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-20 
確定日 2020-09-15 
事件の表示 特願2018- 89389「導電パターンの製造方法及び導電パターン形成基板」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開、特開2018-156946、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2014年4月17日(優先権主張 2013年4月26日(以下,「優先日」という。))に国際出願した特願2015-513719号の一部を平成30年5月7日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月 7日付け :上申書の提出
平成31年 3月13日付け :拒絶理由の通知
令和 元年 7月16日 :意見書,補正書の提出
令和 元年 8月21日付け :拒絶査定(原査定)
令和 元年11月20日 :審判請求書,補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年8月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-4,6-12
・引用文献等 1-3
・請求項 5
・引用文献等 1-4

<引用文献等一覧>
1.特開2012-204022号公報
2.特表2008-522369号公報(周知技術を示す文献)
3.特表2012-506158号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2006-128273号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1の「前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤであることを特徴とする,」を,「前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤのみであり,前記金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤ含有率が5.9質量%?60質量%であることを特徴とする,」という事項に変更する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
加えて,当該補正によって補正前の請求項9の「前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤである」を,補正後の請求項8の「前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤのみであり,前記金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤ含有率が5.9質量%?60質量%である」という事項に変更する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-10に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は,令和元年11月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に,アスペクト比の平均が100以上2000以下である金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層を形成する工程と,
所定のパターンで前記金属ナノワイヤ層にフラッシュランプを備える光源から光を照射し,前記所定パターン形状の領域で金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤを焼結し,導電性を付与する工程と,
を備え,前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤのみであり,前記金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤ含有率が5.9質量%?60質量%であることを特徴とする,焼結された導電性領域と焼結されていない非導電性領域を有する導電パターンの製造方法。
【請求項2】
前記光が,前記パターン形状で透光部が形成されたマスクを介して照射されるパルス光である請求項1に記載の導電パターンの製造方法。
【請求項3】
前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである請求項1または2に記載の導電パターンの製造方法。
【請求項4】
前記基板にアンダーコートすることによりアンダーコート層を形成した後アンダーコート層上に前記金属ナノワイヤ層を形成する請求項1から3のいずれか一項に記載の導電パターンの製造方法。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤ層は,金属ナノワイヤ,バインダー樹脂および分散媒を含む金属ナノワイヤインクを基板の少なくとも一方の主面の全部または一部の面に塗布して形成する請求項1から4のいずれか一項に記載の導電パターンの製造方法。
【請求項6】
前記金属ナノワイヤインク中の金属ナノワイヤの含有率が0.01?3質量%である,
請求項5に記載の導電パターンの製造方法。
【請求項7】
前記金属ナノワイヤインク中の金属ナノワイヤの含有率が0.01?1質量%である,
請求項6に記載の導電パターンの製造方法。
【請求項8】
基板の少なくとも一方の主面の全部または一部にアスペクト比の平均が100以上2000以下である金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層を有し,
前記金属ナノワイヤ層が,前記金属ナノワイヤが所定のパターンで焼結された導電性領域と,
前記金属ナノワイヤ層の前記導電性領域以外の領域であって,前記金属ナノワイヤが焼結されていない非導電性領域と,
を備え,前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤのみであり,前記金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤ含有率が5.9質量%?60質量%である導電パターン形成基板。
【請求項9】
前記導電性領域の表面抵抗が200Ω/□以下であり,前記非導電性領域の表面抵抗が103Ω/□以上である,請求項8に記載の導電パターン形成基板。
【請求項10】
前記金属ナノワイヤが,径の平均が1nm以上500nm以下であり,長軸の長さの平均が1μm以上100μm以下であり,アスペクト比の平均が100以上である,請求項8または9に記載の導電パターン形成基板。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-204022号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下,同様。)
a 「【0009】
本発明の透明導電膜は,基材上に形成される透明導電膜であって,繊維径が100nm以下の導電性繊維と,屈折率が1.5以上であり,粒径が100nm以下の金属酸化物微粒子と,これらの接着層となる高分子性バインダと,を含むことを特徴とする。
【0010】
この透明導電膜において,前記導電性繊維は,金属ナノワイヤであることが好ましい。
【0011】
この透明導電膜において,前記金属酸化物微粒子は,酸化チタンであることが好ましい。
【0012】
この透明導電膜において,前記高分子性バインダは,シリコーン樹脂,セルロース樹脂,又はこれらの混合物により構成されることが好ましい。
【0013】
この透明導電膜が基材上に形成されて,透明導電膜付き基材として構成されることが好ましい。
【0014】
この透明導電膜付き基材は,有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る透明導電膜によれば,透明導電膜に含まれる屈折率が1.5以上の金属酸化物微粒子の量を調整して透明導電膜の屈折率を調整することができるので,光の全反射を抑制することができる。また,導電性繊維の繊維径と金属酸化物微粒子の粒径とを100nm以下とすることにより,透明導電膜の透光性を確保すると共に,金属酸化物微粒子が導電性繊維間を埋め,透明導電膜を平滑化することができる。」

b 「【0033】
導電性繊維8は,数nmから数十μmの線幅を有する繊維状金属,金属,又は金属微粒子から成る。複数の導電性繊維8の繊維径は,上述したように,100nm以下に設定されている。それにより,透明導電膜3が透光性を有し,透明導電膜3の透明性を保持することができる。導電性繊維8の長さは,導電性繊維8の繊維径よりも十分に長い。基材2上に接着される複数の導電性繊維8の量は,0.1mg/m^(2)以上1000mg/m^(2)であることが好ましく,1mg/m^(2)以上100mg/m^(2)であることがより好ましい。また,複数の導電性繊維8の平均アスペクト比は,10以上10000以下であることが好ましい。さらに,高分子性バインダ9の厚さは,透明導電膜3の導電性を考慮して,複数の導電性繊維8の繊維径(例えば上述の100nm)以上500nm以下であることが好ましい。なお,上記の導電性繊維8の量,平均アスペクト比,及び高分子性バインダ9の厚さは,導電性繊維8と金属酸化物微粒子10との比重,及び金属酸化物微粒子10の屈折率と設計すべき透明導電膜3の屈折率等を考慮して,適宜設定される。
【0034】
導電性繊維8の材料としては,例えば金属メッシュ,金属ナノワイヤ,又は金属微粒子の集合体等が用いられる。このような材料の中でも,金属ナノワイヤは材料固有の導電性が高く,透明導電膜3の抵抗値が低くなると共に透明導電膜3の透過率が高くなるので,金属ナノワイヤを用いることが好ましい。導電性繊維8に用いられる金属として,例えば金,銀,銅,アルミニウム,亜鉛,コバルト,ニッケル,又はタングステン等が挙げられる。このような金属の中でも,導電率が高い金,銀,又は銅を用いることが好ましく,導電率が最も高い銀を用いることがより好ましい。」

c 「【0039】
上記の高分子性バインダ9の材料の中でも,特に,シリコーン樹脂,セルロース樹脂,又はこれらの混合物を用いることが好ましい。それにより,透明導電膜3が導電性繊維8と金属酸化物微粒子10との複合膜でありながら,透明導電膜3の表面強度(例えば,耐擦傷性や表面硬度等)を保持することができる。その結果,透明導電膜3をデバイスへ応用するためのパターンニング工程や積層工程において,透明導電膜3が実用的な耐久性を有するようになる。また,これらの材料は,透明導電膜3を塗布プロセスで形成する際,透明導電性インク(透明導電膜3の材料)に含まれる導電性繊維8及び金属酸化物微粒子10に対する分散性が優れているので,より透明性に優れた透明導電膜3を形成することができる。」

d 「【0043】
金属酸化物微粒子10が光触媒活性を有する場合には,透明導電膜3上に有機発光層5を形成する際に,予め透明導電膜3上にエネルギー照射をしておくことが好ましい。これにより,有機発光層5のインクの濡れ性を向上させることができるので,均一な厚さの有機発光層5を透明導電膜3上に形成することができる。したがって,上記の金属酸化物微粒子10の材料として,光触媒活性に優れたものを用いることが好ましく,特に,酸化チタンを用いることが好ましい。また,酸化チタンを金属酸化物微粒子10の材料として用いることにより,透明導電膜3の導電性及び透過率が向上する。
【0044】
透明導電膜3上に照射されるエネルギーは,特に限定されないが,紫外線を含む光源を用いることが好ましい。このような光源としては,水銀ランプ,メタルハライドランプ,キセノンランプ,又はエキシマランプ等の種々の光源が挙げられる。なお,有機発光層4をパターンニングして塗布する場合,作製される有機EL素子の形状に応じてフォトマスクを介したパターン照射をする他,例えばエキシマレーザ,又はYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ等のレーザを用いてパターン状に描画照射することもできる。」

e 「【0055】
(導電性繊維)
導電性繊維として,公知論文「Materials Chemistry and Physics vol.114 p333-338 “Preparation of Ag nanorods with high yield by polyol process”」に準じて銀ナノワイヤ,及び銀ナノワイヤ分散液を作製した。この場合,銀ナノワイヤの平均繊維径を50nmとし,銀ナノワイヤの平均長さを5μmとした。また,銀ナノワイヤ3質量部とセルロース樹脂1質量部とを水を分散媒として混合し,固形分4.0質量%の銀ナノワイヤ材料を作製した。
【0056】
(実施例1)
上記の銀ナノワイヤ材料と平均粒径50nmの石原産業株式会社製酸化チタンゾルSTS-01とを重量比1:1で撹拌混合して,透明導電性インクを作製した。次に,コーニング社製無アルカリガラスNo.1737(波長が500nmの光に対する屈折率が1.50?1.53)を用意した。そして,この無アルカリガラス上に透明導電性インクを厚さが100nmとなるようにスピンコート法により塗布して,100℃で5分間加熱した。それにより,無アルカリガラス上に透明導電膜を形成した。こうして,実施例1のサンプルを作製した。
【0057】
(実施例2)
テトラエトキシシラン208質量部にメタノール356質量部を加えた。次に,このテトラエトキシシランとメタノールとの混合液に水18質量部と0.01mol/lの塩酸18質量部とを加えて,これらをディスパーを用いて充分に混合した後,60℃の恒温槽中で2時間加熱した。これにより,重量平均分子量が950のシリコーン樹脂を作製した。次に,このシリコーン樹脂に,固形分量が21%かつ平均粒径が60nmの酸化チタンゾルを,このシリコーン樹脂に対して酸化チタンが1:1となるように混合した。次に,このシリコーン樹脂と酸化チタンゾルとの混合液を全固形分が5%となるようにメタノールで希釈した。これにより,酸化チタンとシリコーン樹脂とが混合されたコーティング材を作製した。次に,上記の銀ナノワイヤ分散液を用意した無アルカリガラス上に塗布し乾燥させて,無アルカリガラス上に銀ナノワイヤを含む層を形成した。次に,この層上にコーティング材をスピンコータ法により塗布し,100℃で10分間加熱して,無アルカリガラス上に透明導電膜を形成した。こうして,実施例2のサンプルを作製した。
【0058】
(実施例3)
上記の銀ナノワイヤ材料を用意した無アルカリガラス上に塗布して乾燥させて,無アルカリガラス上に銀ナノワイヤを含む層を形成した。次に,この層上にコーティング材をスピンコータ法により塗布し,100℃で10分間加熱して,無アルカリガラス上に透明導電膜を形成した。こうして,実施例3のサンプルを作製した。」

上記 a ? c の記載及び図2によれば,引用文献1には,透明導電膜付き基材について以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「繊維径が100nm以下の導電性繊維と,屈折率が1.5以上であり,粒径が100nm以下の金属酸化物微粒子と,これらの接着層となる高分子性バインダとを含む透明導電膜が基材上に形成され,
前記導電性繊維は,金属ナノワイヤであって,複数の導電性繊維の平均アスペクト比は,10以上10000以下であり,
前記金属酸化物微粒子は,酸化チタンであり,
前記高分子性バインダは,シリコーン樹脂,セルロース樹脂,又はこれらの混合物により構成され,透明導電膜3を塗布プロセスで形成する際,透明導電性インク(透明導電膜3の材料)に含まれる導電性繊維8及び金属酸化物微粒子10に対する分散性が優れている,
透明導電膜付き基材。」

また,上記のeの(実施例1)の記載によれば,引用文献1には,透明導電膜の形成方法について以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「銀ナノワイヤの平均繊維径を50nmとし,銀ナノワイヤの平均長さを5μmとし,銀ナノワイヤ3質量部とセルロース樹脂1質量部とを水を分散媒として混合し,固形分4.0質量%の銀ナノワイヤ材料を作製し,
上記の銀ナノワイヤ材料と平均粒径50nmの酸化チタンゾルとを重量比1:1で撹拌混合して,透明導電性インクを作製し,無アルカリガラス上に透明導電性インクを厚さが100nmとなるようにスピンコート法により塗布して,100℃で5分間加熱した,
無アルカリガラス上に透明導電膜を形成する方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特表2008-522369号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0041】
(金属ナノ粒子の光活性化)
本発明の別の実施形態は,導電性パターンを作製するためにナノ材料を加工するための方法およびシステムを含む。ナノ材料を加工する方法およびシステムでは,ミクロ材料またはバルク材料と比較してナノ粒子独特の特性を活用する。たとえば,ナノ粒子は,バルク材料の特性と比較して反射率が低く,吸収率が高く,焼結温度が低く,反応性がより高く,熱伝導率が悪い傾向にある。本発明では,基板への影響を最小限に抑えながらナノ粒子を加工するためのブロードキャストな高出力パルス光子源を使用し,したがって従来技術の限界を克服する。
【0042】
本発明では,ナノ材料を含有する膜またはパターンを表面上に作製した。このような膜またはパターンは,インクジェット,スクリーン印刷,グラビア印刷,ゼログラフィー,スタンピング,フレキソ印刷,オフセット印刷,塗装,エアブラッシングなどの技法を用いて作製することができる。この膜またはパターンを基板上で乾燥させると,パターンを高出力パルス光子放出源に曝露した。ナノ材料の吸収率が高くかつ粒子の熱質量が小さいことにより粒子が急速に加熱される一方,熱伝導率が悪くかつパルス長が短いことによりナノ粒子が熱をその周囲に伝達する能力が妨害される。その結果,粒子の温度が,粒子の融合を可能にする温度まで素早く上昇した。基板の導電率が悪く,吸収率が低く,熱質量が大きいことにより,光子パルスからのエネルギーの多くは粒子を加熱するようになること,また最小限のエネルギーしか基板または周囲の成分には伝達されないことが確実となった。要約すると,粒子へのエネルギー供給が非常に速く起こったため,粒子はその熱を基板に移動させる時間もなく融合した。ナノ粒子のこの自然な識別能力により,ブロードキャストなパルス照射が,基板に損傷を与えることなく1回のフラッシュで大きくて複雑な印刷パターンを硬化させることが可能となる。通常,この技法は基板上に約1J/cm^2で析出させる。これは一般に,使用するパルス長での基板に対する損傷レベルを下回る。金属ナノ粒子膜を焼結させるために連続レーザーを使用するシステムでは,約100J/cm^2が必要となる。これにははるかに高いエネルギー面密度で析出させることが含まれるため,一般にパターンに隣接する基板の印刷パターンにだけレーザーを集中させる必要があり,あるいは基板が損傷を受けることになる。さらには,レーザー硬化はシリアルプロセスであり,高価な装置および厳密に位置合わせをした光学系を必要とする。所要のエネルギー面密度は低いはずであるため,上記を実現するためにパルスレーザーを使用することが可能であり,このような技法は反復的に小さな領域を硬化させる場合にさえ好ましいことがある。硬化する領域がより大きくなるときには,パルスレーザーシステムはあまり望ましくない。この場合には,キセノンフラッシュランプなどのガス放電からのパルス放出がより好ましくなる。この理由は,ガス放電ランプシステム用のハードウエアが安価で,電気から光への変換効率が高いため,大幅に経済的であることである。このことは,レーザーシステムを光学的に励起するためにフラッシュランプが頻繁に使用されるという事実によって実証される。さらには,ガス放電ランプシステムは,レーザーをベースとするシステムには必要とされる複雑な光学系および厳密な位置合わせを必要としない。今でもなお,固体パルスおよび他のパルス放出源は継続的にますます経済的になっている。ブロードキャスト効果を実現するために,複数の放出源を並行して使用することもできる。この硬化技術は,著しい熱負荷を基板または周囲の成分にかけることはないため,多層回路が,埋め込みデバイスを伴う場合でさえ,紙やプラスチックなど熱的に脆弱な基板上でより実用的となる。
【0043】
(光硬化プロセス)
本発明の一実施形態の方法は,ナノ粒子がその内部に含まれるまたはその上に存在する基板に実質的には影響を与えることなくナノ粒子の形態または相を変化させ,かつ/または材料を反応させるために,ナノ粒子をパルス放出源に曝露することである。導電性インク用ナノ粒子配合物を硬化させることの有効性を評価するために,いくつかの試験を行った。これらの試験では,異なるナノ材料を様々な溶媒,界面活性剤および分散剤と混合し,これらの配合物で膜またはパターンを生成することによって,配合物を調製した。これらの膜およびパターンを基板に塗布し,パルス放出源に曝露し,導電率,付着性,表面形態および硬化深さを測定した。導電率は,4点プローブおよび厚さ計を用いて決定した。一部の例では,膜またはパターンをパルス放出源に曝露する前に乾燥することが可能であった。
【0044】
膜またはパターンをパルス放出源に曝露すると,粒子が熱くなり,焼結した。こうなると,パターンのその部分の吸収率が減少し,その反射率および熱伝導率が増大することがわかった。したがって,このプロセスは,自己限定的であった。このことは,一部の例では,複数のより低い強度のパルスではなく単一の強力なパルスを適用した方が良かったことを暗示していることがある。本発明を改良するに当たり,パルス幅およびパルスエネルギーの作用を調査した。パターンに供給された全電力は,パルスエネルギー,パルス幅および光学的フットプリント面積の関数であった。キセノンフラッシュランプを用い,0.7マイクロ秒?100ミリ秒のパルス長で試験を行った。
【0045】
改良に当たっては,Nanotechnologies,Inc.の30nmの銀を約30質量%と,イソプロパノール60質量%と,塩酸10質量%との混合物を配合物として使用して,PET上に導電性膜を生成した。パターンが乾燥したとき,その導電率はバルク銀の約20分の1にまで増大する。膜は,「2.5」の巻線ドローダウン棒(wire wound draw down bar)で3.5mil(0.0889mm)のつやなしPET基板上に塗布され,乾燥させた。一部の例では,複数のパス(pass)が作製された。典型的には,3つのパスにより厚さ2?3ミクロンの乾燥膜が生成した。この膜をパルスに曝露した後は,すべての場合において導電率が増大した。銀の導電率の約1/10まで,一部の例では銀の導電率の1/3?1/2までの導電率の増大が観測された。試験では,所与の全電力について,より高い電力およびより短いパルス長を用いて加工したパターンがより優れた導電性を提供することが全般的にわかった。また試験により,エネルギー面密度にはしきい値があり,それを超えるとPET表面から膜が吹き飛ばされることも示された。このしきい値を上回る所与のエネルギーで行った試験により,長いパルス長で加工された試料は実質的な熱損傷を基板に与えたが,より短いパルス長に曝露された試料は最小限のまたは検知不能な熱損傷しか基板に与えないことが示された。この一連の試験では,より短いパルス長に曝露された試料は吹き飛ばされたパターンの縁部周辺に目に見えるほど硬化した銀を示したが,より長いパルス長による試料は示さなかった。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「銀ナノワイヤ」は,本願発明1の「金属ナノワイヤ」に相当し,引用発明の「セルロース樹脂」は,本願発明1の「バインダー樹脂」に相当するといえる。
イ 引用発明の「無アルカリガラス」は,本願発明1の「基板」に相当するといえる。
ウ 引用発明の「銀ナノワイヤの平均繊維径を50nmとし,銀ナノワイヤの平均長さを5μmとし,銀ナノワイヤ3質量部とセルロース樹脂1質量部とを水を分散媒として混合し,固形分4.0質量%の銀ナノワイヤ材料を作製し,上記の銀ナノワイヤ材料と平均粒径50nmの酸化チタンゾルとを重量比1:1で撹拌混合して,透明導電性インクを作製し,無アルカリガラス上に透明導電性インクを厚さが100nmとなるようにスピンコート法により塗布して,100℃で5分間加熱」する構成は,平均繊維径が50nmで,銀ナノワイヤの平均長さが5μmである銀ナノワイヤの平均アスペクト比は,100であるから,本願発明1の「基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に,アスペクト比の平均が100以上2000以下である金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層を形成する工程」に相当するといえる。
エ 引用発明の「透明導電膜を形成する方法」は,本願発明1の「導電パターンの製造方法」と「導電層の製造方法」である点では共通するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点)
「基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に,アスペクト比の平均が100以上2000以下である金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層を形成する工程を備える,
導電層の製造方法。」

(相違点1)
本願発明1では,「前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が金属ナノワイヤのみであり,前記金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤ含有率が5.9質量%?60質量%である」のに対し,引用発明では,透明導電層を構成する「透明導電性インク」は,「銀ナノワイヤ3質量部とセルロース樹脂1質量部とを水を分散媒として混合」した「銀ナノワイヤ材料」と「平均粒径50nmの酸化チタンゾルとを重量比1:1で撹拌混合」したものである点。

(相違点2)
本願発明1は,「所定のパターンで前記金属ナノワイヤ層にフラッシュランプを備える光源から光を照射し,前記所定パターン形状の領域で金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤを焼結し,導電性を付与する工程」を備え,「焼結された導電性領域と焼結されていない非導電性領域を有する導電パターン」を製造するのに対し,引用発明は,上記導電性を付与する工程を備えておらず,「焼結された導電性領域と焼結されていない非導電性領域を有する導電パターン」を製造するものではない点。

(2)判断
事案に鑑みて先ず相違点2について検討する。
引用文献1の【0044】には,「透明導電膜3上に照射されるエネルギーは,特に限定されないが,紫外線を含む光源を用いることが好ましい。このような光源としては,水銀ランプ,メタルハライドランプ,キセノンランプ,又はエキシマランプ等の種々の光源が挙げられる。なお,有機発光層4をパターンニングして塗布する場合,作製される有機EL素子の形状に応じてフォトマスクを介したパターン照射をする他,例えばエキシマレーザ,又はYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ等のレーザを用いてパターン状に描画照射することもできる。」ことが記載されているところ,この透明導電膜へのエネルギー照射は,金属酸化物微粒子10が光触媒活性を有する場合に,予め透明導電膜3上にエネルギー照射をして,有機発光層5のインクの濡れ性を向上させる(【0043】)ものであり,金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤを焼結し,導電性を付与するものではない。
また,引用文献2には,銀ナノ粒子を溶媒,界面活性剤および分散剤と混合し,これらの配合物で膜およびパターンを基板に塗布し,パルス放出源に曝露すると粒子が熱くなり,焼結し,導電率が増大する技術事項が記載されているものの,所定のパターンで前記金属ナノワイヤ層にフラッシュランプを備える光源から光を照射し,前記所定パターン形状の領域で金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤを焼結し,導電性を付与することで,焼結された導電性領域と焼結されていない非導電性領域を有する導電パターンを形成することは記載されておらず,示唆されてもいない。
加えて,引用文献3,4にも,上記相違点2に係る本願発明1の構成は記載されておらず,示唆されてもいない。
よって,上記相違点2に係る本願発明1の構成が,本願優先日前に周知技術であったとはいえない。

したがって,上記相違点1を検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2-7について
本願発明2-7は,上記相違点2に係る本願発明1と同じ構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明8について
(1)対比
本願発明8と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「導電性繊維」は,「金属ナノワイヤ」であるから,本願発明8の「金属ナノワイヤ」に相当し,引用発明1の「高分子性バインダ」は,本願発明8の「バインダー樹脂」に相当するといえる。
イ 引用発明1の「基材」は,本願発明8の「基板」に相当するといえる。
ウ 引用発明1の「基材上に形成」された「繊維径が100nm以下の導電性繊維と,屈折率が1.5以上であり,粒径が100nm以下の金属酸化物微粒子と,これらの接着層となる高分子性バインダとを含む透明導電膜」は,「複数の導電性繊維の平均アスペクト比は,10以上10000以下であり」,「前記高分子性バインダ」は,「透明導電性インク(透明導電膜3の材料)に含まれる導電性繊維8及び金属酸化物微粒子10に対する分散性が優れている」から,本願発明8の「基板の少なくとも一方の主面の全部または一部にアスペクト比の平均が100以上2000以下である金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層」と「基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層」である点では共通するといえる。
エ 引用発明1の「透明導電膜付き基材」は,本願発明8の「導電パターン形成基板」と「導電層形成基板」である点では共通するといえる。

したがって,本願発明8と引用発明1との間には,以下の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点)
「基板の少なくとも一方の主面の全部または一部に金属ナノワイヤとバインダー樹脂とを含む面内での金属ナノワイヤ濃度が略均一である金属ナノワイヤ層,
を備える導電パターン形成基板。」

(相違点3)
金属ナノワイヤのアスペクト比の平均が,本願発明8では,「100以上2000以下である」のに対し,引用発明1では,「10以上10000以下」である点。

(相違点4)
本願発明8は,金属ナノワイヤ層が,「前記金属ナノワイヤが所定のパターンで焼結された導電性領域と,前記金属ナノワイヤ層の前記導電性領域以外の領域であって,前記金属ナノワイヤが焼結されていない非導電性領域」とを備えるのに対し,引用発明1の透明導電膜は,そのような構成でない点。

(相違点5)
本願発明8は,前記金属ナノワイヤ層を構成する導電性材料が「金属ナノワイヤのみであり,前記金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤ含有率が5.9質量%?60質量%」であるのに対し,引用発明1の透明導電膜は,そのように特定されていない点。

(2)判断

事案に鑑みて先ず相違点4について検討する。
引用文献1の【0044】には,「透明導電膜3上に照射されるエネルギーは,特に限定されないが,紫外線を含む光源を用いることが好ましい。このような光源としては,水銀ランプ,メタルハライドランプ,キセノンランプ,又はエキシマランプ等の種々の光源が挙げられる。なお,有機発光層4をパターンニングして塗布する場合,作製される有機EL素子の形状に応じてフォトマスクを介したパターン照射をする他,例えばエキシマレーザ,又はYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ等のレーザを用いてパターン状に描画照射することもできる。」ことが記載されるところ,この透明導電膜へのエネルギー照射は,金属酸化物微粒子10が光触媒活性を有する場合に,予め透明導電膜3上にエネルギー照射をして,有機発光層5のインクの濡れ性を向上させる(【0043】)ものであり,金属ナノワイヤが所定のパターンで焼結された導電性領域と,前記金属ナノワイヤが焼結されていない非導電性領域とを備える導電パターンを形成するものではない。
また,引用文献2には,銀ナノ粒子を溶媒,界面活性剤および分散剤と混合し,これらの配合物で膜およびパターンを基板に塗布し,パルス放出源に曝露すると粒子が熱くなり,焼結し,導電率が増大する技術事項が記載されているものの,所定のパターンで前記金属ナノワイヤ層にフラッシュランプを備える光源から光を照射し,前記所定パターン形状の領域で金属ナノワイヤ層中の金属ナノワイヤを焼結し,導電性を付与することで,焼結された導電性領域と焼結されていない非導電性領域を有する導電パターンを形成することは記載されておらず,示唆されてもいない。
加えて,引用文献3,4にも,上記相違点4に係る本願発明8の構成は記載されておらず,示唆されてもいない。
よって,上記相違点4に係る本願発明8の構成が,本願優先日前に周知技術であったとはいえない。

したがって,上記相違点3,5を検討するまでもなく,本願発明8は,当業者であっても,引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明9,10について
本願発明9,10は,上記相違点4に係る本願発明8の構成と同様の構成を備えるものであるから,本願発明8と同様の理由により,当業者であっても,引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1 理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1-7は上記相違点2に係る本願発明1の構成を有するものとなっており,また,本願発明8-10は上記相違点4に係る本願発明8の構成を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-08-26 
出願番号 特願2018-89389(P2018-89389)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 西出 隆二
辻本 泰隆
発明の名称 導電パターンの製造方法及び導電パターン形成基板  
代理人 在原 元司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ