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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03B
管理番号 1365667
審判番号 不服2019-14806  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-05 
確定日 2020-09-15 
事件の表示 特願2014-193979「発振器、電子機器および移動体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日出願公開、特開2016- 66877、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本件特許出願は、平成26年9月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 7月 9日付け :拒絶理由の通知
平成30年 9月 5日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 1月30日付け :拒絶理由の通知
平成31年 4月 5日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 元年 7月31日付け :拒絶査定
令和 元年11月 5日 :審判請求書及び手続補正書の提出


第2 原査定の概要

原査定(平成元年7月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-7に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2005-006130号公報
2.特開2011-091691号公報
3.特開平11-251836号公報


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-6に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明

本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、令和元年11月5日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
交流成分が加えられた制御電圧の印加により出力周波数を変更可能な第1電圧制御型発振器回路と、
前記制御電圧の印加により出力周波数を変更可能な第2電圧制御型発振器回路と、
前記制御電圧が印加される制御電圧端子と、
前記第1電圧制御型発振器回路および前記第2電圧制御型発振器回路を搭載するパッケージと、
を有し、
前記第1電圧制御型発振器回路は、前記制御電圧が印加される第1可変容量ダイオードと、前記制御電圧端子と前記第1可変容量ダイオードとの間に設けられた第1抵抗と、第1水晶発振部と、を備えており、
前記第2電圧制御型発振器回路は、前記制御電圧が印加される第2可変容量ダイオードと、前記制御電圧端子と前記第2可変容量ダイオードとの間に設けられた第2抵抗と、第2水晶発振部と、を備えており、
前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、
前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、
前記第1水晶発振部および前記第2水晶発振部は、前記パッケージの互いに同じ空間内に配置されていることを特徴とする発振器。

【請求項2】
さらに、前記第1電圧制御型発振器回路および前記第2電圧制御型発振器回路のうちのいずれか一方に電源電圧を供給するための電源用スイッチ回路を有している請求項1に記載の発振器。

【請求項3】
さらに、前記第1電圧制御型発振器回路および前記第2電圧制御型発振器回路の出力信号を出力する発振器出力端子と、出力用スイッチ回路と、を有し、
前記第1電圧制御型発振器回路は、さらに、第1出力端子を備えており、
前記第2電圧制御型発振器回路は、さらに、第2出力端子を備えており、
前記出力用スイッチ回路は、前記第1出力端子および前記第2出力端子のうちのいずれか一方と前記発振器出力端子との導通を切り換える請求項1または2に記載の発振器。

【請求項4】
前記第1電圧制御型発振器回路および前記第2電圧制御型発振器回路は、前記第1水晶発振部および前記第2水晶発振部から出力される高次波に同調する同調回路を備えている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の発振器。

【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の発振器を備えることを特徴とする電子機器。

【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の発振器を備えることを特徴とする移動体。」


第5 引用文献、引用発明等

1.引用文献1(特開2005-006130号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は2周波切替型高周波水晶発振器に関し、特に高周波水晶発振器としてVCXOを二つ搭載し、外部からの選択信号によりVCXOの何れかを選択して所望の周波数制御された周波数信号を得る2周波切替型高周波水晶発振器に関する。」

(1-2)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の2周波切替型高周波水晶発振器は、一つの基板に所望の周波数信号に対応する高周波水晶発振器を二つ搭載し、夫々の高周波水晶発振器が出力する周波数信号を増幅した後、外部からの選択信号により何れか一方の増幅器を選択して所望の周波数信号を得るようにしているため、2周波切替型高周波水晶発振器のコスト高を招いていると共に、2周波切替型高周波水晶発振器の小型化の障害となっていた。
本発明は、上述したような問題を解決するためになされたものであって、2周波切替型高周波水晶発振器のコストを低減すると共に、2周波切替型高周波水晶発振器の小型化を図ることを目的とする。」

(1-3)「【0012】
図1は、本発明に係る2周波切替型高周波水晶発振器の第一の実施例を示すブロック構成図である。図1は、一つの基板に二つの電圧制御型水晶発振器を搭載した例を示し、外部より印加する制御電圧に制御されて所望の第一の周波数信号を出力する第一のVCXO7と、外部より印加する制御電圧に制御されて所望の第二の周波数信号を出力する第二のVCXO8と、前記第一のVCXO7と第二のVCXO8の出力を選択する選択部9とにより構成し、選択部9には、外部からの選択信号により第一のVCXO7と第二のVCXO8の何れかに電源供給を行う第一の切替器10と、外部からの選択信号により第一のVCXO7と第二のVCXO8の何れかの出力を選択する第二の切替器11と、この選択された周波数信号を所定のレベルに増幅する増幅器12とを備えている。」

(1-4)「【0018】
次に、第一のVCXO7及び第二のVCXO8について説明する。VCXO7は、外部から制御電圧を入力する抵抗R11を可変容量ダイオードD11とコンデンサC11に接続し、コンデンサC11の他端を伸張コイルL11に接続して伸張コイルL11の他端を水晶振動子X11に接続する。発振用のトランジスタQ11のベースに抵抗R12、R13とからなるベースバイアス抵抗を接続すると共に、ベースと接地との間に負荷容量の一部を担うコンデンサC12、C13との直列回路を挿入接続し、この直列回路の接続中点とトランジスタQ11のエミッタとを接続すると共に、エミッタと接地との間にエミッタ抵抗R14を接続し、更に、トランジスタQ11のベースに水晶振動子X11の一端を接続する。又、トランジスタQ11のコレクタと電源との間にコイルL12とコンデンサC14とを接続して同調回路とCタップを構成すると共に結合用コンデンサC15を介して、抵抗R15、16、17からなるインピーダンス整合と出力レベルの調整を行うアッテネータに入力し所定のレベルの信号を出力する。
【0019】
そこで、VCXO7は、コルピッツ型発振回路を形成すると共に、外部より入力する制御電圧に応じて155MHzの基本周波数にて励振するよう発振回路は設定されており、基本周波数に同調した同調回路L12とC14とにより所望の155MHz成分を抽出して出力する。
【0020】
一方、VCXO8は、VCXO7と同一回路構成をとり、発振回路は161MHzの基本周波数にて励振するよう水晶振動子、他の回路が設定されている。従って、外部より入力する制御電圧に応じて161MHzの基本周波数を励振し、基本周波数に同調した同調回路L22とC24とにより所望の161MHz成分を抽出して出力する。」

(1-5)「【0031】
【発明の効果】
上述したように請求項1記載の発明は、外部からの選択信号により高周波水晶発振器を選択し、所望の周波数信号を出力させて共通化した増幅器により所定のレベルに増幅する共に、選択された高周波水晶発振器にのみ電源を供給するようにしたため、2周波切替型高周波水晶発振器の小型化を図ると共に、低消費電力化が実現出来、2周波切替型高周波水晶発振器を使用する上で著しい効果を発揮する。」

(1-6)「【図1】



上記(1-1)から(1-6)の記載事項より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「高周波水晶発振器としてVCXOを二つ搭載し、外部からの選択信号によりVCXOの何れかを選択して所望の周波数制御された周波数信号を得る2周波切替型高周波水晶発振器であって、
外部より印加する制御電圧に制御されて所望の第一の周波数信号を出力する第一のVCXO7と、
外部より印加する制御電圧に制御されて所望の第二の周波数信号を出力する第二のVCXO8と、
前記第一のVCXO7と第二のVCXO8の出力を選択する選択部9とにより構成し、
前記選択部9には、外部からの選択信号により第一のVCXO7と第二のVCXO8の何れかに電源供給を行う第一の切替器10と、外部からの選択信号により第一のVCXO7と第二のVCXO8の何れかの出力を選択する第二の切替器11と、この選択された周波数信号を所定のレベルに増幅する増幅器12とを備えており、
前記第一のVCXO7は、外部から制御電圧を入力する抵抗R11を可変容量ダイオードD11とコンデンサC11に接続し、コンデンサC11の他端を伸張コイルL11に接続して伸張コイルL11の他端を水晶振動子X11に接続し、発振用のトランジスタQ11のベースに抵抗R12、R13とからなるベースバイアス抵抗を接続すると共に、ベースと接地との間に負荷容量の一部を担うコンデンサC12、C13との直列回路を挿入接続し、この直列回路の接続中点とトランジスタQ11のエミッタとを接続すると共に、エミッタと接地との間にエミッタ抵抗R14を接続し、更に、トランジスタQ11のベースに水晶振動子X11の一端を接続し、又、トランジスタQ11のコレクタと電源との間にコイルL12とコンデンサC14とを接続して同調回路とCタップを構成すると共に結合用コンデンサC15を介して、抵抗R15、16、17からなるインピーダンス整合と出力レベルの調整を行うアッテネータに入力し所定のレベルの信号を出力するものであって、コルピッツ型発振回路を形成すると共に、外部より入力する制御電圧に応じて155MHzの基本周波数にて励振するよう発振回路は設定されており、基本周波数に同調した同調回路L12とC14とにより所望の155MHz成分を抽出して出力し、
前記第二のVCXO8は、前記第一のVCXO7と同一回路構成をとり、発振回路は161MHzの基本周波数にて励振するよう水晶振動子、他の回路が設定されており、外部より入力する制御電圧に応じて161MHzの基本周波数を励振し、基本周波数に同調した同調回路L22とC24とにより所望の161MHz成分を抽出して出力する、
2周波切替型高周波水晶発振器。」

2.引用文献2(特開2011-091691号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-1)「【0001】
本発明は水晶振動子の動作温度を一定として恒温型とした電圧制御水晶発振器(以下、電圧制御発振器とする)を技術分野とし、特に水晶振動子以外の回路素子の温度特性による発振周波数への影響を排除した電圧制御発振器に関する。」

(2-2)「【0031】
電圧制御発振器の発振回路は、基本的に前述した通りであり、発振閉ループ内の水晶振動子1に電圧可変容量素子2dを直列に接続し、入力端子からの制御電圧Vcによって発振周波数が制御される。電圧可変容量素子2dはカソードを水晶振動子1に、アノードをアースに接続する。そして、入力端とアースとの間に設けた分圧用の第1及び第2抵抗Ra、Rbさらには高周波阻止用の第3抵抗Rcを経て、制御電圧(分圧電圧)Vcを電圧可変容量素子2dのアノードに印加する。第1及び第2抵抗Ra、Rbの接続点とアース間にはコンデンサCfを接続し、第1抵抗Raとローパスフィルタを形成する。ローパスフィルタは制御電圧中の低周波成分をカットして、発振周波数の位相雑音を良好に維持する。」

(2-3)「【図1】



3.引用文献3(特開平11-251836号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3-1)「【0006】
[発明の目的]
本発明の目的は、上記の問題点を解決して、制御電圧発生回路から水晶発振回路へ伝達される雑音成分を除去して、位相雑音の少ない温度補償型発振器を提供することである。」

(3-2)「【0012】
[動作の説明:図1]
つぎに図1を用いて、本発明の第1の実施形態における温度補償型発振器の動作について説明する。図1において温度検出回路11は発振回路17の温度を検出して、温度に依存した電圧を制御電圧発生回路13へ出力する。制御電圧発生回路13は温度検出回路11からの電圧を入力して、その出力電圧をローパスフィルター19と、抵抗素子25、27とを介して、周波数調整回路15へ入力する。ローパスフィルター19は、その遮断周波数以上の周波数成分を制御電圧発生回路13の出力電圧から除去して、制御電圧発生回路13から、周波数調整回路15を介して発振回路17へ雑音成分が伝達するのを阻止して、発振回路17の発振出力の位相雑音の増加を防止する。位相雑音を効果的に低減するには、ローパスフィルター19の遮断周波数は1Hz以下に設定することが望ましい。」

(3-3)「【図1】




第6 対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

(1-1)
引用発明における、「外部より印加する制御電圧に制御されて所望の第一の周波数信号を出力する第一のVCXO7」と、「外部より印加する制御電圧に制御されて所望の第二の周波数信号を出力する第二のVCXO8」とが、それぞれ、本願発明1でいう『制御電圧の印加により出力周波数を変更可能な第1電圧制御型発振器回路』と、『前記制御電圧の印加により出力周波数を変更可能な第2電圧制御型発振器回路』に相当することは明らかである。

(1-2)
引用文献1の【図1】の記載を参酌するに、引用発明には、本願発明1でいう『制御電圧が印加される制御電圧端子』が備わっていることは明らかである。

(1-3)
引用発明における「第一のVCXO7」は、「外部から制御電圧を入力する抵抗R11を可変容量ダイオードD11とコンデンサC11に接続し、コンデンサC11の他端を伸張コイルL11に接続して伸張コイルL11の他端を水晶振動子X11に接続し、発振用のトランジスタQ11のベースに抵抗R12、R13とからなるベースバイアス抵抗を接続すると共に、ベースと接地との間に負荷容量の一部を担うコンデンサC12、C13との直列回路を挿入接続し、この直列回路の接続中点とトランジスタQ11のエミッタとを接続すると共に、エミッタと接地との間にエミッタ抵抗R14を接続し、更に、トランジスタQ11のベースに水晶振動子X11の一端を接続する。又、トランジスタQ11のコレクタと電源との間にコイルL12とコンデンサC14とを接続して同調回路とCタップを構成すると共に結合用コンデンサC15を介して、抵抗R15、16、17からなるインピーダンス整合と出力レベルの調整を行うアッテネータに入力し所定のレベルの信号を出力するもの」であり、さらに、上記「第5 引用文献、引用発明等」の「(1-6)」で摘記した【図1】で示される回路構成を参酌するに、上記「可変容量ダイオードD11」、「抵抗R11」、「水晶振動子X11」は、それぞれ、本願発明1でいう『制御電圧が印加される第1可変容量ダイオード』、『制御電圧端子と前記第1可変容量ダイオードとの間に設けられた第1抵抗』、『第1水晶発振部』に相当する。

(1-4)
引用発明における「第二のVCXO8」は、「前記第一のVCXO7と同一回路構成をとる」ものであり、さらに、上記「第5 引用文献、引用発明等」の「(1-6)」で摘記した【図1】で示される回路構成を参酌するに、上記「可変容量ダイオードD21」、「抵抗R21」、「水晶振動子X21」は、それぞれ、本願発明1でいう『制御電圧が印加される第2可変容量ダイオード』、『制御電圧端子と前記第2可変容量ダイオードとの間に設けられた第2抵抗』、『第2水晶発振部』に相当する。

上記(1-1)から(1-4)で対比した結果を踏まえると、本願発明1と引用発明とは、

「制御電圧の印加により出力周波数を変更可能な第1電圧制御型発振器回路と、
前記制御電圧の印加により出力周波数を変更可能な第2電圧制御型発振器回路と、
前記制御電圧が印加される制御電圧端子と、
を有し、
前記第1電圧制御型発振器回路は、前記制御電圧が印加される第1可変容量ダイオードと、前記制御電圧端子と前記第1可変容量ダイオードとの間に設けられた第1抵抗と、第1水晶発振部と、を備えており、
前記第2電圧制御型発振器回路は、前記制御電圧が印加される第2可変容量ダイオードと、前記制御電圧端子と前記第2可変容量ダイオードとの間に設けられた第2抵抗と、第2水晶発振部と、を備えている、
発振器。」

という点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1においては、『制御電圧』について、『交流成分が加えられた』との事項が特定されているのに対し、引用発明における「制御電圧」には、かかる事項が特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1に係る発信器においては、その構成要件として『前記第1電圧制御型発振器回路および前記第2電圧制御型発振器回路を搭載するパッケージ』を有するとの事項が特定されているのに対し、引用発明に係る2周波切替型高周波水晶発振器においては、かかる事項について特定されていない点。

[相違点3]
本願発明1においては、『前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、』との事項が特定されているのに対し、引用発明においては、「可変容量ダイオードD11と可変容量ダイオードD21が、互いに同じ種類の部品であり、抵抗R11と抵抗R21が互いに同じ種類の部品である」との事項が特定されていない点。

[相違点4]
本願発明1においては、『前記第1水晶発振部および前記第2水晶発振部は、前記パッケージの互いに同じ空間内に配置されている』との事項が特定されているのに対し、引用発明においては、かかる事項について特定されていない点。

(2)判断

事案に鑑み、上記[相違点3]について検討する。

本願発明1は、明細書の段落【0009】の「しかしながら、特許文献1に記載の2周波切替型高周波水晶発振器では、周波数制御電圧を印加するラインが常時、第1の水晶発振部と第2の水晶発振部の双方に接続されているため、周波数制御電圧に交流成分が重畳しているとき、この発振器のカットオフ周波数(変調帯域周波数)は、第1の水晶発振部が備える可変容量ダイオードおよび抵抗、ならびに、第2の水晶発振部が備える可変容量ダイオードおよび抵抗の各特性の影響を受けることとなる。このため、特許文献1に記載の2周波切替型高周波水晶発振器を回路に組み込んだとき、各水晶発振部が備える可変容量ダイオードや抵抗の特性によっては、従来に比べて、周波数制御電圧に重畳している交流成分のカットオフ周波数が大きく変化するおそれがある。換言すれば、周波数切替型ではない1周波型の水晶発振器に代えて、特許文献1に記載の2周波切替型高周波水晶発振器を使用した場合、置き換え前後で周波数制御電圧に重畳している交流成分のカットオフ周波数が大きく異なってしまうおそれがある。このようにカットオフ周波数が大きく異なってしまうと、水晶発振部の同期動作が不安定になるおそれがある。」との記載や段落【0058】の「周波数制御回路のカットオフ周波数fcが大きく変わってしまうと、第1のVCXO7や第2のVCXO8の内部における同期動作、すなわち、目的とする出力周波数になるように振動子X11、X21を発振させることができなくなり、発振器回路1を含む発振器の動作が不安定になるおそれがある。」との記載から明らかな様に、「カットオフ周波数が異なることによって水晶発振部の同期動作が不安定になる」との課題を見いだし、当該課題を解決するために、即ち、周波数制御回路のカットオフ周波数を等しくするために、『前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、』との構成を採用したことを特徴とするものである。

しかしながら、原査定において提示された引用文献1-3のいずれにも、上述した本願発明1における課題に関する記載や当該課題を示唆する記載はなく、また、当該課題が本願出願前において、当業者にとって自明なもの又は技術常識であるとする証拠や合理的な理由もない。
ましてや、引用文献1-3のいずれにも、上述した本願発明1における課題を解決するための手段として、『前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、』との構成を採用することに関する記載や示唆もない。

してみると、本願発明1の“『第1電圧制御型発振器回路』を構成する各種素子の接続態様”と引用発明の“「第一のVCXO7」を構成する各種素子の接続態様”とが同じであり、かつ、本願発明1の“『第2電圧制御型発振器回路』を構成する各種素子の接続態様”と引用発明の“「第二のVCXO8」を構成する各種素子の接続態様”とが同じであるとはいえ、それぞれ、155MHzと161MHzの異なる基本周波数にて励振するよう発振回路は設定されているから、各回路は各々の周波数に応じた抵抗値や容量であると解され、上述した課題を見いだし、それを解決するために『前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、』との構成を採用することは、当業者といえども、引用文献1-3の記載事項や当業者にとっての自明な事項又は技術常識を踏まえても容易に想到し得たものであるとはいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1-3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について

本願発明2-6は、本願発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、いずれの発明も本願発明1で特定されている『前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、』との事項を備えているから、上記「1.本願発明1について」で検討したのと同じ理由により、本願発明2-6は、当業者であっても引用文献1-3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定について

本願発明1-6は、『前記第1可変容量ダイオードおよび前記第2可変容量ダイオードは、互いに同じ種類の部品であり、前記第1抵抗および前記第2抵抗は、互いに同じ種類の部品であり、』との事項を備えるものであり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-08-25 
出願番号 特願2014-193979(P2014-193979)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橋本 和志  
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 谷岡 佳彦
佐藤 智康
発明の名称 発振器、電子機器および移動体  
代理人 増田 達哉  

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