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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J |
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管理番号 | 1365714 |
審判番号 | 不服2019-15750 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-22 |
確定日 | 2020-09-02 |
事件の表示 | 特願2015- 66127「密封装置およびこれを備えた車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月27日出願公開、特開2016-186319〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成27年3月27日の出願であって、平成31年1月25日付けの拒絶理由通知書に対し、同年3月14日に意見書が提出された後、令和1年8月13日付けで拒絶査定され、これに対し、同年11月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 2 令和1年11月22日の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1) 本件補正後の本願の発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、 「互いに対向配置された環状のシール板とスリンガで構成され、 前記シール板が、外方部材の端部に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなる芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材を備え、 前記スリンガが、内方部材に圧入される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えると共に、 前記シール部材が、径方向外方に傾斜して形成された一対のサイドリップを備え、 前記シール板の軸受外方側の端部と前記スリンガの立板部の外縁とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成された密封装置において、 前記一対のサイドリップのうち内径側のサイドリップが前記スリンガの立板部の側面にシメシロを介して摺接され、外径側のサイドリップが先端部に前記立板部の側面に沿って径方向外方に延びる屈曲部を備え、前記立板部の側面との間に直線状のラビリンスシールが形成され、前記スリンガが前記立板部の外縁から軸方向に延びる円筒状の延出部を備え、この延出部と前記シール板の軸受外方側の端部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されると共に、当該スリンガの延出部と前記外径側のサイドリップの屈曲部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されていることを特徴とする密封装置。」 と補正するものである。 (2) 請求項1に係る補正について 上記請求項1に係る補正は、審判請求書において請求人が主張するように、請求項1において、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スリンガ」について、「前記スリンガが前記立板部の外縁から軸方向に延びる円筒状の延出部を備え、この延出部と前記シール板の軸受外方側の端部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されると共に、当該スリンガの延出部と前記外径側のサイドリップの屈曲部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されて」との発明を特定するために必要な事項を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (3) 引用例 (a) 原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-202737号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア) 「【0001】 本発明は、密封技術に係る密封装置に関するものである。本発明の密封装置は例えば、ハブベアリングシールとして自動車関連分野に用いられ、または汎用機械等に用いられる。 【背景技術】 【0002】 従来から、図6に示す密封装置51が知られており、この密封装置51は、自動車用車輪懸架装置のベアリング部にハブベアリングシールとして用いられるものであって、ベアリング外輪81の内周側に装着されるシール部材61と、ベアリング内輪82の外周側に装着されるスリンガー71との組み合わせにより構成されている。 【0003】 スリンガー71は、金属材よりなり、筒状部72の軸方向一端にフランジ部73を一体成形して断面略L字形に形成され、筒状部72をもって内輪82の外周面に嵌合されている。 【0004】 シール部材61は、同じく断面略L字形を呈する金属環62にゴム状弾性体66を被着したものであって、金属環62の筒状部63をもって外輪81の内周面に嵌合されている。ゴム状弾性体66には、スリンガー71のフランジ部73の軸方向端面74に摺動自在に密接するサイドリップ67と、スリンガー71の筒状部72の外周面に摺動自在に密接するラジアルリップ(軸リップまたはダストリップとも称する)68と、その内側に配置されたグリースリップ69とよりなる三枚のリップが一体に成形されている。」 (イ)「【0023】 図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は自動車用車輪懸架装置のベアリング部にハブベアリングシールとして用いられるものであって、以下のように構成されている。 【0024】 すなわち先ず、当該密封装置1は、ベアリング外輪(図示せず、図6参照)の内周側に装着されるシール部材(オイルシールまたはリップシールとも称する)11と、ベアリング内輪(図示せず、図6参照)の外周部に装着されるスリンガー31との組み合わせにより構成されている。尚、図1は、各リップの自由状態を示すため、シール部材11およびスリンガー31を組み立てる以前の状態を示しており、このためスリンガー31を一点鎖線で示している。 【0025】 スリンガー31は、金属材よりなり、筒状部32の軸方向一端に径方向外方へ向けてフランジ部33を一体成形したものであって、筒状部32をもってベアリング内輪の外周面に嵌合される。 【0026】 シール部材11は、金属環12と、この金属環12に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体15とにより構成されている。金属環12は、筒状部13の軸方向一端に径方向内方へ向けてフランジ部14を一体成形したものであって、筒状部13をもってベアリング外輪の内周面に嵌合される。 【0027】 ゴム状弾性体15は、金属環12の筒状部13の端面部に被着された端面ゴム部16と、筒状部13の内周面に被着された内周ゴム部17と、フランジ部14の軸方向端面に被着されたフランジゴム部18と、スリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aに摺動自在に密接する第一サイドリップ19と、第一サイドリップ19の外径側に配置されるとともに第一サイドリップ19と同様にスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aに摺動自在に密接する第二サイドリップ20と、スリンガー31の筒状部32の外周面に摺動自在に密接するグリースリップ21とを一体に有している。 【0028】 上記リップのうち、第一および第二サイドリップ19,20はそれぞれ、外部の泥水やダスト等の異物がベアリング内部へ侵入しないようにこれをシールするものであって、その機能から外向き構造とされ、その基端から先端へかけて径寸法が徐々に拡大するように形成されている。 【0029】 また、第二サイドリップ20は、第一サイドリップ19の外側であって第一サイドリップ19よりもシール対象(泥水などの異物)の近くに配置されるものであって、その厚み寸法を第一サイドリップ19の厚み寸法と同じもしくは略同じに形成されているが、その自由状態における軸方向高さ寸法H_(2)を第一サイドリップ19の軸方向高さ寸法H_(1)よりも小さく形成され、これによりそのしめしろS_(2)を第一サイドリップ19のしめしろS_(1)よりも小さく設定されている。 【0030】 したがって上記構成によれば、第二サイドリップ20が第一サイドリップ19よりもしめしろの小さな形状とされているので、第二サイドリップ20が第一サイドリップ19と同じ形状とされる場合と比較して、摺動時に発生するトルク(サイドリップ二枚分のトルク)を小さく抑えることが可能とされている。 【0031】 尚、上記第一実施例に係る密封装置1は、その構成を以下のように付加または変更することが考えられる。 【0032】 (1)上記第一実施例では、第二サイドリップ20が第一サイドリップ19と同様にスリンガー31に摺動する構成とされているが、これに代えて、第二サイドリップ20をスリンガー31に対して非接触のラビリンス構造とし、しめしろを零設定とする。このようにすると、第二サイドリップ20の追加による摺動トルクの増大を完全に抑えることができ、しかもそのうえで、第二サイドリップ20の追加(ラビリンスシールの追加)によりシール性を高めることができ、第二サイドリップ20によって第一サイドリップ19を泥水などの異物から保護することができる。具体例は以下のとおりである。 【0033】 第二実施例・・・ 図2の例では、組立前の自由状態における第二サイドリップ20の軸方向高さ寸法H2が組立状態におけるシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aとの間隔Cよりも小さく設定されており、これにより第二サイドリップ20の先端部とスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aとの間に非接触のラビリンスシール41が設けられている。 【0034】 第三実施例・・・ 図3の例では、スリンガー31のフランジ部33の先端部(外周部)にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円錐面状のテーパー部34が一体成形されるとともに、組立前の自由状態における第二サイドリップ20の軸方向高さ寸法H2が組立状態におけるシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aとの間隔Cよりも小さく設定されており、これにより第二サイドリップ20の先端部とスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aおよびテーパー部34の軸方向端面34aとの間に非接触のラビリンスシール41が設けられている。またこの図3の例では併せて、スリンガー31のテーパー部34の先端部とシール部材11の内周ゴム部17の内周面との間およびスリンガー31のテーパー部34の先端部とシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとの間にもそれぞれ非接触のラビリンスシール42,43が設けられているので、都合三重のラビリンスシールが設けられていることになる。 【0035】 第四実施例・・・ 図4の例では、スリンガー31のフランジ部33の先端部(外周部)にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部35が一体成形されるとともに、組立前の自由状態における第二サイドリップ20の軸方向高さ寸法H2が組立状態におけるシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aとの間隔Cよりも小さく設定されており、これにより第二サイドリップ20の先端部とスリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aとの間に非接触のラビリンスシール41が設けられている。またこの図4の例では併せて、スリンガー31の円筒部35の外周面とシール部材11の内周ゴム部17の内周面との間およびスリンガー31の円筒部35の軸方向端面とシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとの間にもそれぞれ非接触のラビリンスシール42,43が設けられているので、都合三重のラビリンスシールが設けられていることになる。 【0036】 (2)上記第一実施例では、スリンガーのフランジ部が軸直角の平板状に形成されているが、このフランジ部33の先端部(外周部)にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部を一体成形し、この円筒部とシール部材11との間にラビリンスシールを設けると、このラビリンスシールによってシール性を向上させることができる。具体例は以下のとおりである。 【0037】 第五実施例・・・ 図5の例では、スリンガー31のフランジ部33の先端部(外周部)にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部35が一体成形され、この円筒部35の外周面とシール部材11の内周ゴム部17の内周面との間および円筒部35の軸方向端面とシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとの間にそれぞれ非接触のラビリンスシール42,43が設けられている。」 (ウ) 図4には、第四実施例に係る密封装置の要部断面図が記載され、図6には、従来例に係る密封装置の装着状態を示す要部断面図が記載されている。 (エ) 段落【0025】及び【0026】等の記載と図4の記載内容とから、「シール部材11」と「スリンガー31」とは、それぞれベアリング外内輪及び内輪に嵌合される「筒状部13」及び「筒状部32」を備えるので、互いに対向配置された環状であるといえる。また、段落【0002】ないし【0004】の記載と図6の記載内容とから、「金属環62」の「筒状部63」は「外輪81」の端部に嵌合されるといえるので、段落【0024】及び【0026】の記載と併せると、ベアリング外輪の内周面に嵌合される「筒状部13」もベアリング外輪の内周面の端部に嵌合されるといえる。 これらの事項を総合すると、引用例1には、特に「第四実施例に係る密封装置」に注目することで、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「互いに対向配置された環状のシール部材11とスリンガー31で構成され、 前記シール部材11が、ベアリング外輪の内周面の端部に嵌合される筒状部13と、この筒状部13の軸方向一端に径方向内方へ向けて一体成形したフランジ部14からなる金属環12、およびこの金属環12に加硫接着により被着されたゴム状弾性体15を備え、 前記スリンガー31が、ベアリング内輪の外周面に嵌合される筒状部32、およびこの筒状部32の軸方向一端に径方向外方へ向けて一体成形したフランジ部33を備えると共に、 前記ゴム状弾性体15が、その基端から先端へかけて径寸法が徐々に拡大するように形成されている第一および第二サイドリップ19,20を備えた密封装置1において、 前記第一および第二サイドリップ19,20のうち第一サイドリップ19が前記スリンガー31のフランジ部33の軸方向端面33aにしめしろS_(1)を設定して摺動自在に密接され、第二サイドリップ20の先端部と前記フランジ部33の軸方向端面33aとの間にラビリンスシール41が設けられ、前記スリンガー31が前記フランジ部33の先端部にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部35を形成され、この円筒部35の外周面と前記シール部材11の内周ゴム部17の内周面との間にラビリンスシール42が設けられている密封装置1。」 (b) 原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-80575号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア) 「【0009】 本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、シールの必要な密封性能を確保しつつ低トルク化を図った車輪用軸受装置を提供することを目的とする。」 (イ) 「【0013】 また、請求項3に記載の発明のように、前記サイドリップの先端部が径方向外方に屈曲して延び、その屈曲部が前記基部の形状に沿った円弧状に形成されていても良いし、また、請求項4に記載の発明のように、前記サイドリップが径方向外方に屈曲して延び、その屈曲部が前記車輪取付フランジのインナー側の側面に沿った直線状に形成されていても良い。これにより、ラビリンス幅が長くなり、シール性能を一層向上させることができる。」 (ウ) 「【0029】 シール8、9のうちインナー側のシール9は、互いに対向配置され、固定側部材となる外方部材5のインナー側の端部内周に所定のシメシロを介して圧入された環状のシール板10と、回転側部材となる内輪2の外径に所定のシメシロを介して圧入されたスリンガ11とからなる、所謂パックシールで構成されている。また、アウター側のシール8は、外方部材5のアウター側端部の内周に所定のシメシロを介して圧入された芯金12と、この芯金12に接合されたシール部材13とからなる一体型のシールで構成されている。」 (エ) 「【0040】 図4に示すシール16は、図2のシール8の変形例である。なお、このシール16は、基本的にはシール8とシール部材のサイドリップの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。」 (オ) 「【0043】 ここで、サイドリップ17aの先端部18が基部6bの形状に沿った円弧状に形成されている。そして、基部6bに対して僅かな対向すきまAを介して対峙し、ラビリンスシールを構成している。これにより、ラビリンス幅が長くなり、シール性能を一層向上させることができる。」 (カ) 「【0051】 図6に示すシール21は、図2のシール8の他の変形例である。なお、このシール21は、基本的にはシール8とシール部材のサイドリップの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。」 (キ) 「【0054】 ここで、サイドリップ22aの先端部23が車輪取付フランジ6のインナー側の側面6cに沿った直線状に形成され、僅かな対向すきまAを介して対峙してラビリンスシールを構成している。・・・(略)・・・」 (ク) 図2には、シール部を示す要部拡大図が、図4には、図2のシール部の変形例を示す要部拡大図が、図6には、図2のシール部の他の変形例を示す要部拡大図が、それぞれ記載されている。 これらの事項を総合すると、引用例2には次の事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 「僅かな対向すきまAを介して対峙して、ラビリンスシールを構成しているサイドリップ17a、22aの先端部18、23が径方向外方に屈曲して延び、これにより、ラビリンス幅が長くなり、シール性能を一層向上させることができること。」 (4) 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 その機能・構成からして、引用発明の「シール部材11」は本願補正発明の「シール板」に相当し、以下同様に、「スリンガー31」は「スリンガ」に、「ベアリング外輪の内周面の端部」は「外方部材の端部」に、「筒状部13」は「嵌合される」のであるから「円筒状の嵌合部」及び「嵌合部」に、「筒状部13の軸方向一端に径方向内方へ向けて一体成形した」は「嵌合部の端部から径方向内方に延びる」に、「フランジ部14」は「内径部」に、「金属環12」は「芯金」に、「加硫接着により被着された」は「加硫接着により一体に接合された」に、「ゴム状弾性体15」は「シール部材」に、「ベアリング内輪の外周面」は「内方部材」に、「筒状部32」は「円筒部」に、「筒状部32の軸方向一端に径方向外方へ向けて一体成形した」は「円筒部から径方向外方に延びる」に、「フランジ部33」は「立板部」に、「その基端から先端へかけて径寸法が徐々に拡大するように形成されている」は「径方向外方に傾斜して形成された」に、「第一および第二サイドリップ19,20」は「一対のサイドリップ」に、「密封装置1」は「密封装置」に、「第一サイドリップ19」は「内径側のサイドリップ」に、「フランジ部33の軸方向端面33a」は「立板部の側面」に、「しめしろS_(1)を設定して摺動自在に密接され」は「シメシロを介して摺接され」に、「第二サイドリップ20」は「外径側のサイドリップ」に、「フランジ部33の先端部にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部35を形成され」は「立板部の外縁から軸方向に延びる円筒状の延出部を備え」に、それぞれ相当している。 また、引用発明の「この円筒部35の外周面」は本願補正発明の「この延出部」に、同様に「前記シール部材11の内周ゴム部17の内周面」は「前記シール板の軸受外方側の端部」に、それぞれ相当しているから、結局、引用発明の「この円筒部35の外周面と前記シール部材11の内周ゴム部17の内周面との間にラビリンスシール42が設けられ」は本願補正発明の「この延出部と前記シール板の軸受外方側の端部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成され」に相当している。 そして、本願補正発明の「圧入される」と引用発明の「嵌合される」とは、ともに「係合される」限りにおいて一致している。 さらに、本願補正発明の「外径側のサイドリップが先端部に前記立板部の側面に沿って径方向外方に延びる屈曲部を備え、前記立板部の側面との間に直線状のラビリンスシールが形成され」と引用発明の「第二サイドリップ20の先端部と前記フランジ部33の軸方向端面33aとの間にラビリンスシール41が設けられ」とは、ともに「外径側のサイドリップの先端部と前記立板部の側面との間にラビリンスシールが形成され」の限りにおいて一致している。 したがって、両者は、 「互いに対向配置された環状のシール板とスリンガで構成され、 前記シール板が、外方部材の端部に係合される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなる芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材を備え、 前記スリンガが、内方部材に係合される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えると共に、 前記シール部材が、径方向外方に傾斜して形成された一対のサイドリップを備えた密封装置において、 前記一対のサイドリップのうち内径側のサイドリップが前記スリンガの立板部の側面にシメシロを介して摺接され、外径側のサイドリップの先端部と前記立板部の側面との間にラビリンスシールが形成され、前記スリンガが前記立板部の外縁から軸方向に延びる円筒状の延出部を備え、この延出部と前記シール板の軸受外方側の端部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されている密封装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 「円筒状の嵌合部」及び「円筒部」が「係合される」のに関し、本願補正発明ではどちらも「圧入される」のに対し、引用発明ではどちらも「嵌合される」ものの、それらが「圧入される」か否か不明である点。 [相違点2] 本願補正発明では「前記シール板の軸受外方側の端部と前記スリンガの立板部の外縁とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成され」るのに対し、引用発明ではそのような構成を備えるか否か不明である点。 [相違点3] 本願補正発明では「外径側のサイドリップが先端部に前記立板部の側面に沿って径方向外方に延びる屈曲部を備え、前記立板部の側面との間に直線状のラビリンスシールが形成され」「スリンガの延出部と前記外径側のサイドリップの屈曲部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されている」のに対し、引用発明では、「第二サイドリップ20の先端部と前記フランジ部33の軸方向端面33aとの間にラビリンスシール41が設けられ」るものの、そのような「屈曲部」に係る構成を備えていない点。 (5) 判断 上記相違点について以下検討する。 ・相違点1について 引用例1の図6に記載されているような「自動車用車輪懸架装置のベアリング部にハブベアリングシールとして用いられるものであって」(引用例1の段落【0002】)、「ベアリング外輪の内周面の端部に嵌合される筒状部13」と「ベアリング内輪の外周面に嵌合される筒状部32」を備える、引用発明の「密封装置」において、「嵌合される」「ベアリング外輪」と「筒状部13」及び「ベアリング内輪」と「筒状部32」のそれぞれの間も「密封される」ことは、「密封装置」であるが故に必須といえるところ、当該嵌合部を密封状態とするため「圧入」することは、例示するまでもなく(必要であれば引用例2の段落【0029】参照。)本願出願前周知の技術的事項といえるから、引用発明をして、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ・相違点2について 本願補正発明の「前記シール板の軸受外方側の端部と前記スリンガの立板部の外縁とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成され」る構成は、本願の明細書の段落【0036】の「さらに、シール板10のインナー側(軸受外方側)の端部とスリンガ11の立板部11bの外縁とが所定の径方向すきまを介して対峙され、ラビリンスシールS1が形成されている。」の記載、及び【0040】?【0042】の「ここで、ラビリンスシールS1の径方向すきまδは0.5?0.8mm(片側)に設定されると共に、屈曲部14と立板部11bとで形成されるラビリンスシールS2の軸方向すきまδaは0.1?0.4mmに設定されている。入口側のラビリンスシールS1のすきまδが0.8mmを超えると外部から泥水等の異物が内部に浸入し易くなると共に、0.5mm未満では、シール部材13やスリンガ11の製造寸法のバラツキや真円度等によって両者が干渉する恐れがあるから好ましくない。」「図3に、前述した密封装置7(図2)の変形例を示す。この密封装置16は、基本的には前述した密封装置7のスリンガ11の形状が一部異なるだけで、その他同一部品や同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。」「この密封装置16は、互いに対向配置され、断面が略L字状に形成された環状のシール板10とスリンガ17とからなるパックシールで構成されている。」「そして、シール板10のインナー側の端部とスリンガ17の延出部17aとが所定の径方向すきまを介して対峙され、ラビリンスシールS3が形成されている。」の記載、並びに図2及び3の記載内容、特に、「ラビリンスシールS1」、「径方向すきまδ」及び「ラビリンスシールS3」に係る記載内容を参照すると、引用発明の「ラビリンスシール42」に係る「前記スリンガー31が前記フランジ部33の先端部(外周部)にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部35を形成され、この円筒部35の外周面と前記シール部材11の内周ゴム部17の内周面との間にラビリンスシール42が設けられ」る構成の一部が、相当するといえる。そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。 ・相違点3について 引用発明と引用例2記載事項とは、ともに車輪のベアリング部に用いられる密封装置に関する技術である点で共通の技術分野に属し、前者の引用発明における第二サイドリップ20と後者の引用例2記載事項におけるサイドリップ17a、22aとは、いずれも先端部においてラビリンスシールを構成するという共通の機能を有する。そして、密封装置におけるラビリンスシールにあって、引用例2記載事項にある「シール性能を一層向上させること」は、当業者が当然に認識する課題である。 してみれば、当業者にとって、引用発明における第二サイドリップ20に、引用例2記載事項におけるサイドリップ17a、22aに係る構成を適用する動機付けは、十分にある。 そして、引用例2記載事項からして、引用例2には「シール性能を一層向上させる」ために、「ラビリンス幅を長く」するべく、「僅かな対向すきまAを介して対峙して、ラビリンスシールを構成しているサイドリップ17a、22aの先端部18、23を径方向外方に屈曲して延」ばすことが記載されているから、「シール性能を一層向上させる」ために、引用発明をして本願補正発明の「外径側のサイドリップが先端部に前記立板部の側面に沿って径方向外方に延びる屈曲部を備え、前記立板部の側面との間に直線状のラビリンスシールが形成され」る構成とすることが示唆されているといえる。その際、上記「延びる屈曲部」を、どの程度の長さまで延ばすかは、当業者が適宜設定し得る設計的事項といえるところ、「シール性能を一層向上させる」ために、「ラビリンス幅を長く」することからすると、その長さはできるだけ長くすることが好ましいことも示唆されているといえる。 また、引用例1には、「またこの図4の例では併せて、スリンガー31の円筒部35の外周面とシール部材11の内周ゴム部17の内周面との間およびスリンガー31の円筒部35の軸方向端面とシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとの間にもそれぞれ非接触のラビリンスシール42,43が設けられているので、都合三重のラビリンスシールが設けられていることになる。」(段落【0035】)、及び「図5の例では、スリンガー31のフランジ部33の先端部(外周部)にシール部材11のフランジゴム部18のほうへ向けて屈曲した円筒部35が一体成形され、この円筒部35の外周面とシール部材11の内周ゴム部17の内周面との間および円筒部35の軸方向端面とシール部材11のフランジゴム部18の軸方向端面18aとの間にそれぞれ非接触のラビリンスシール42,43が設けられている。」(段落【0037】)と記載されている。これらは、ともに、「フランジ部33の先端部(外周部)に屈曲して一体成形された円筒部35が、屈曲部と呼べる円筒部35の外周面と軸方向端面とで、それぞれ非接触のラビリンスシール42,43を形成する」こと、すなわち、「屈曲部を備えることで2箇所のラビリンスシールを形成すること」を示唆しているといえる。 そうすると、引用例1及び2の上記両示唆からすれば、引用発明は「第二サイドリップ20の先端部と前記フランジ部33の軸方向端面33aとの間にラビリンスシール41が設けられ」るのであって、その「第二サイドリップ20」は非接触のラビリンス構造とするのであるから、結局、その長さを、非接触のラビリンス構造であって、できるだけ「ラビリンス幅を長く」すること、具体的には、引用発明の「円筒部35」とこれに対向することになる第二サイドリップ20の端面とが非接触のラビリンス構造をなす長さとすることで、引用発明をして上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願補正発明の全体構成により奏される効果も、引用発明、引用例1及び2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。 よって、本願補正発明は、引用発明、引用例1及び2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (6) むすび 以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3 本願の発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成27年3月27日の出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「互いに対向配置された環状のシール板とスリンガで構成され、 前記シール板が、外方部材の端部に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなる芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材を備え、 前記スリンガが、内方部材に圧入される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えると共に、 前記シール部材が、径方向外方に傾斜して形成された一対のサイドリップを備え、 前記シール板の軸受外方側の端部と前記スリンガの立板部の外縁とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成された密封装置において、 前記一対のサイドリップのうち内径側のサイドリップが前記スリンガの立板部の側面にシメシロを介して摺接され、外径側のサイドリップが先端部に前記立板部の側面に沿って径方向外方に延びる屈曲部を備え、前記立板部の側面との間に直線状のラビリンスシールが形成されていることを特徴とする密封装置。」 (1) 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2 (3)」に記載したとおりである。 (2) 対比・判断 本願発明は、前記「2 (2)」で検討した本願補正発明における請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スリンガ」について、「前記スリンガが前記立板部の外縁から軸方向に延びる円筒状の延出部を備え、この延出部と前記シール板の軸受外方側の端部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されると共に、当該スリンガの延出部と前記外径側のサイドリップの屈曲部とが径方向すきまを介して対峙されてラビリンスシールが形成されて」との発明を特定するために必要な事項を削除したものに実質的に相当する。 そうすると、本願発明の発明を特定するために必要な事項を全て含み、さらに他の発明を特定するために必要な事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2 (4)及び(5)」に記載したとおり、引用発明、引用例1及び2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例1及び2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、仮に、本件補正が請求項1を削除する補正であるとすると、本願補正発明が本件補正前の本件の請求項2に係る発明であるところ、当該発明は、すでに検討したように、前記「2 (4)及び(5)」に記載したとおり、引用発明、引用例1及び2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3) むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例1及び2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願の特許請求の範囲の請求項1の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-06-15 |
結審通知日 | 2020-06-26 |
審決日 | 2020-07-10 |
出願番号 | 特願2015-66127(P2015-66127) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 谷口 耕之助 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
田村 嘉章 尾崎 和寛 |
発明の名称 | 密封装置およびこれを備えた車輪用軸受装置 |
代理人 | 越川 隆夫 |