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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1365716
審判番号 不服2020-487  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-14 
確定日 2020-09-03 
事件の表示 特願2018- 10093「眼科撮影装置および撮影制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月31日出願公開、特開2018- 83106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月23日に出願された特願2013-10442号の一部を、平成30年1月24日に新たに出願したものであって、平成30年10月16日付けで拒絶理由が通知され、同年12月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年5月9日付けで拒絶理由が通知され、同年7月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和2年1月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、令和元年7月16日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
被検眼眼底の断層画像を生成するための測定光を前記眼底上に走査させる走査手段と、
前記被検眼眼底の正面画像を生成するための観察光学系と、を備え、前記正面画像、および、前記走査手段によって前記測定光が走査される横断位置における前記断層画像を取得する眼科撮影装置であって、
被検眼眼底の黄斑上と乳頭上を通過する基準ラインを、前記正面画像上に設定する基準ライン設定手段と、
前記基準ライン設定手段によって設定された前記基準ラインに対する角度が所定角度である前記横断位置を設定する横断位置設定手段と、
前記走査手段の駆動を制御し、前記横断位置設定手段によって設定された前記横断位置に対応する前記眼底上に、前記測定光を走査させる走査制御手段と、を備え、
前記基準ライン設定手段は、前記観察光学系によって生成される前記正面画像上における被検眼眼底の黄斑と乳頭の位置を検出し、黄斑上と乳頭上を通過する前記基準ラインを前記正面画像上に設定することを特徴とする眼科撮影装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3?5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2011-224347号公報
引用文献2:省略
引用文献3:特開平9-327440号公報
引用文献4:特開2008-22929号公報
引用文献5:特開2011-110158号公報
引用文献6:省略

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1について

(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

(引1ア)
「【実施例1】
【0011】
本実施例における断層撮影システム100は、画像処理装置110にて断層撮影装置120により撮像された複数の断層画像をBスキャンの方向の相対関係を示すように表示形態を決定し、表示装置130に表示するというものである。
【0012】
図1は断層撮影システム100の構成を示す。同図に示す光干渉断層撮影システムは、画像処理装置110、断層撮影装置(OCT撮影装置)120と表示装置130を備える。画像処理装置110は、光干渉断層撮影装置120から断層画像や眼底画像を取得して、断層像の表示制御を行う。また画像処理装置110は断層撮影装置120に対して撮影条件の入力や撮影指示を行う撮影制御装置としても機能する。断層撮影装置120は、信号光で被検眼の網膜をスキャンすることで網膜の断層像と眼底画像を撮像する。これについては後述する。表示装置130は、例えば液晶ディスプレイ等からなり、撮影対象の断層画像や眼底画像、画像処理装置110により加工された断層画像や眼底画像、撮像制御パラメータなどを表示する。
【0013】
画像処理装置110は画像取得部101、指示取得部102、制御部103、画像生成部104、表示制御部105、記憶部106を有する。
【0014】
画像取得部101は外部装置とのデータのやり取りを行う入出力部であり、断層撮影装置120から撮影対象の断層画像を取得する。また、これと合わせて撮影対象の表面の画像も取得する。本実施例においては撮影対象を眼部の網膜とするので、表面の画像として眼底カメラにより撮影された眼底画像を取得する。本実施例においては、これら断層画像および眼底画像は二次元の画像とする。」

(引1イ)
「【0024】
次に図2に基づいて断層撮影装置120の構成を説明する。図2は断層撮影装置120の構成を図示したものであり、断層撮影装置120は、光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)の原理を利用した光干渉断層撮影装置であり、低コヒーレンス光により撮影対象を所定の主走査線に沿ってスキャンすることで断層画像を得る。
【0025】
断層撮影装置120は撮影対象の一例である眼球EBの網膜RTを信号光でスキャンして断層画像を取得する。本実施例において断層撮影装置120は干渉光を分光して検出した信号をフーリエ変換して断層像を生成するスペクトラルドメイン方式とする。なお以降の説明では撮影対象に入射する信号光の光軸方向をZ軸、Z軸と直交する平面内にX軸及びY軸を取る。
【0026】
図2において低コヒーレンス光源であるSLD201から発せられた光はファイバカプラ203に入射する。ファイバカプラ203は入射した光を信号光Bmと参照光Brに分離し、信号光Bmは光ファイバにより走査光学系304に、参照光Brは参照光コリメータ208に出力される。
【0027】
走査光学系204は入力した信号光Bmをガルバノミラー206に集光し、集光された信号光の網膜RTへの入射位置を順次変えることにより網膜RTの走査を行う。ここでガルバノミラー206は、水平スキャンをするスキャナと垂直スキャンをするスキャナから構成され、スキャナ制御部205はガルバノミラー206を駆動制御する。走査された信号光Bmは対物光学系207を介して被測定物である網膜RTに到達し、ここで反射して再び対物光学系207、走査光学系204を通ってファイバカプラ203に到達する。
・・・
【0031】
本実施例では、信号処理部211が、走査光学系204により網膜RTを複数の異なるBスキャン方向に走査することにより得られる前記信号光の戻り光に基づいてBスキャンの方向が異なる複数の断層画像を形成する。
【0032】
また、断層撮影装置120は眼底カメラ202のユニットを有しており、撮影対象である被検眼EBの網膜RTが存在する眼底を撮影することができる。眼底カメラ202は眼底に対して赤外光や可視光を撮影光として照射し、眼底からの反射光を受光して眼底画像を形成する。眼底カメラ202が発する撮影光と、SLD201からの信号光は、それぞれ対物光学系307に入射し対物光学系307を介して眼底または網膜RTに入射する。なお、光路を2つに分割せずとも、波長選択性を有するダイクロイックミラー等の光学部材を用いて光路を共通化しても、跳ね上げミラー等を用いてもよい。」

(引1ウ)
「【実施例2】
【0064】
本実施例では、実施例1の表示に加えて、眼底画像も画面上に表示させる。また、眼底画像上に複数の断層画像のBスキャン位置を重畳して表示し、断層画像と対応付けて表示させる。更に、本実施例では、さらに診断用断層像の撮影方向を考慮して、第1断層像と第2断層像の表示配置を決定する。
【0065】
本実施例における表示制御部105は、複数の断層画像と共に眼底画像を表示画面領域に表示させる。また、表示制御部105は制御部103から得たBスキャンの位置の情報に基づいて、眼底画像上にBスキャンの位置を重畳表示する。更に、眼底画像において示された各Bスキャンの位置と、各断層画像との対応関係を示す表示を行う。
【0066】
本実施例の表示制御部105により表示装置130に表示される画面の例を図6に基づいて説明する。図6(a)は、眼底画像604と第1断層像と第2断層像の撮像位置605を表示する例でもある。ここで、撮影位置605は、図に示す通りに十字型のマークであり、第1断層像撮影方向と第2断層像撮影方向をそれそれ示している。図6(a)の例では、眼底における網膜のY方向(垂直方向)の線分が第1の断層画像のBスキャン位置を示す。さらに、網膜のX方向(水平方向)の線分は、第1断層像のBスキャン位置を直交する第2の断層画像のBスキャン位置を示す。色の違いにより、両者を区別できるようにしている。図6(a)は、色の代わりに、点線と実線を用いて二つの断層画像を区別している。なお、これに限らず、対応する断層画像の枠の色と眼底画像上のBスキャン位置を示す線分の色を対応付けるようにしてもよい。
【0067】
また図6(a)は実施例1と異なり、第1の断層画像602は垂直方向のスキャンにより得られる断層画像であり、第2の断層画像603は水平方向のスキャンにより得られる断層画像である。つまり図6(a)の例では、本撮影の主走査方向が図面における縦方向であり、視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線と直交している。通常は基準線と平行に主走査を行うが、病変の状態によっては、本撮影の主走査方向を基準線と斜交する向きに取る場合があり、図6(a)はそのような本撮影を行う前に仮撮影された断層画像の表示の一例である。このように、あえて眼底画像上におけるBスキャンの方向と断層画像上におけるBスキャンの方向を変えているのは、第一の断層画像602のように傾けずに表示する方が業界における常識となっているからであり、また画像の確認がし易いということによる。病変を見やすくすることを目的に主走査方向を設定するので、主走査方向の画像を診断し易い形で提示するのが診断上必要だからである。なおここで仮撮影とは、最終的に撮影された断層画像を撮影するための位置決めその他の撮影条件を設定するための撮影を指す。本撮影は、かかる仮撮影の後に行われる撮影を指す。」

(2)引用発明
上記(1)の記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「画像処理装置110にて断層撮影装置120により撮像された複数の断層画像をBスキャンの方向の相対関係を示すように表示形態を決定し、表示装置130に表示する光干渉断層撮影システムであって、
画像処理装置110は、断層撮影装置120から眼部の網膜の断層画像を取得し、また、これと合わせて眼部の網膜の表面の画像(眼底画像)も取得し、
走査光学系204は、入力した信号光Bmをガルバノミラー206に集光し、集光された信号光の網膜RTへの入射位置を順次変えることにより網膜RTの走査を行い、信号処理部211が、走査光学系204により網膜RTを複数の異なるBスキャン方向に走査することにより得られる前記信号光の戻り光に基づいてBスキャンの方向が異なる複数の断層画像を形成し、
眼底カメラ202は、眼底に対して赤外光や可視光を撮影光として照射し、眼底からの反射光を受光して眼底画像を形成するものであり、
第1の断層画像602は、垂直方向のスキャンにより得られる断層画像であり、第2の断層画像603は、水平方向のスキャンにより得られる断層画像であり、本撮影の主走査方向が、視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線と直交しており、病変の状態によっては、本撮影の主走査方向を基準線と斜交する向きに取る場合がある、
光干渉断層撮影システム。」

2 引用文献3について
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(引3ア)
「【0014】第1の実施の形態では、眼底の黄斑部304の中心の中心窩小窩301を原点Pとし、中心窩小窩301と視神経乳頭部中心312とを結ぶ線を基準線としている。
【0015】まず、処理したい眼底画像101が入力部103を通じて入力されると、制御部104から特徴抽出部105ヘ、視神経乳頭部中心312を求める処理(S202)、黄斑部304の中心(中心窩小窩301)を求める処理(S203)、黄斑部304と視神経乳頭部313の中心312を結ぶ直線をx軸302とする処理(S204)、および黄斑部304の中心を原点として、x軸302と直交する直線をy軸303とする処理(S205)の一連の処理を実行するように命令される。
【0016】特徴抽出部105は、まず視神経乳頭部中心312を求める処理(S202)、黄斑部304の中心(中心窩小窩301)を求める処理(S203)を実行する。この処理ではまず、視神経乳頭部を含むような縦横Mc ×Nc の四角形を、領域選択された視神経乳頭を含む領域A403として、また黄斑部を含むような縦横M_(f )×N_(f )の四角形を、領域選択された黄斑部を含む領域B404として、入力部203からマウス等で指定される。特徴抽出部105は領域A403、領域B404に対してそれぞれ、縦(s軸)方向、横(t軸)方向の各画素の輝度を積算して横(t軸)方向、縦(s軸)方向に面積ヒストグラムA、B、C、Dを作製する。領域A403では、横方向の面積ヒストグラムA405の最大値t_(c )と、縦方向の面積ヒストグラムC407の最大値s_(c )とを視神経乳頭の中心312の位置座標(t_(c ),s_(c ))として表わす。同様に領域B404では、横方向の面積ヒストグラムB406の最小値t_(f )と、縦方向の面積ヒストグラムD407の最小値s_(f )とを黄斑部304の中心(中心窩小窩301)の位置座標(t_(f),s_(f ))として表わす。
【0017】本実施の形態では、領域の設定を外部からマウス等で指定することとしたが、画像全体の領域に対して上述の面積ヒストグラムをとり、画像の周辺部を除き、最大値をとる座標を視神経乳頭の候補とし、該座標を中心とした視神経乳頭を十分包む領域を設定し、その領域を上記説明のマウスで指定した領域と同等とみなし処理を同様に行なう。また、画像全体の領域に対して上述の面積ヒストグラムをとり、画像の周辺部を除き、最小値をとる座標を黄斑部の候補とし、該座標を中心とした黄斑部を十分包む領域を設定し、その領域を上記説明のマウスで指定した領域と同等とみなし処理を同様に行なう。以上のことにより、自動的に2つの位置座標を決定することも可能である。
【0018】特徴抽出部105は、次に黄斑部304と視神経乳頭部313の中心を結ぶ直線をx軸302とする処理(S204)、および黄斑部304の中心を原点として、x軸302と直交する直線をy軸303とする処理(S205)を実行し、黄斑部304の中心(中心窩小窩301)を原点とする直交座標系を作成する。その後、特徴抽出部105は上述の処理S202からS205までを実行した結果を制御部104を経由して表示部109に表示する。」

2 引用文献4について
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

(引4ア)
「【0033】
(実施例2) 本実施例の画像解析装置は、眼底画像の中の血管を抽出する血管抽出処理部と、血管抽出処理部が抽出した血管の中から解析に適した血管を選択する解析対象血管選択処理部と、解析対象血管選択処理部によって選択された血管の画像を用いて動静脈口径比の算出を行う動静脈口径比算出処理部を含んでいる。又、本実施例の画像解析装置は、眼底画像の中の視神経乳頭部に相当する位置を検出する視神経乳頭位置検出処理部と、眼底画像の中の黄斑部に相当する位置を検出する黄斑部位置検出処理部と、血管抽出処理部が抽出した血管の径を解析する血管径解析処理部とを含んでいる。本実施例におけるこれらの処理部は、実施例1と同様に、コンピュータの内部記憶手段に、CPU(中央演算装置)で実行可能な形式のプログラムとして記憶されており、順次実行されて画像解析が行われる。
【0034】
更に、本実施例の画像解析装置は、解析に適した血管として、上方耳側と下方耳側に延びる2対の主幹動静脈に関する種々のデータを記憶した解析対象血管位置データベースを備えている。これらのデータは、右眼に関するデータと左眼に関するデータに別々に分類されて記憶されている。これらのデータに加えて、本実施例の解析対象血管位置データベースは、それぞれの目の上方耳側と下方耳側に延びる2対の主幹動静脈の、血管径と、視神経乳頭部から延びる方向とを、解析に適した血管を選択する特性条件として、それぞれの眼について記憶している。解析対象血管位置データベースもまた、コンピュータの内部記憶手段に記憶されている。
【0035】
解析に適した血管を選択する特性条件として、血管径と、視神経乳頭部から延びる方向の特性条件を特定するために、多数の右眼の眼底画像を解析し特性を検討した結果を、図5に示す。この図は、多数の血管を解析して、その血管が視神経乳頭から延びる角度を横軸にとり、血管の平均径を縦軸にとってその関係を示したグラフである。図5において、○印で示された血管は、迅速に解析が可能で、且つ従来の手作業による解析と同等以上の精度の動静脈口径比を得られる主幹動静脈であり、×印で示された血管は、解析時に誤差が大きく、且つ結果を得る処理に時間のかかる他の血管である。尚、図5の横軸に示されている角度は、図6(a)に示すように、視神経乳頭部2の中心と黄斑部12の中心を通る基準線8と、血管4の接線10とのなす角度を画像の右側から計測した角度θであって、上方の角度を正の角度とし、下方向の角度を負の角度と定めている。
【0036】
図6(a)に示す計測方法によって、図5に示すように、多くの右眼の血管の解析と検討の結果、動静脈口径比の解析に適した主幹動静脈は、視神経乳頭部2を中心として、基準線8に対して上方55度?130度、又は下方55度?130度の方向に延びていることが特定された。又、解析に適した血管の平均径即ち太さの平均値は、15マイクロメートル以上であることが明らかとなった。
【0037】
左眼に関しても、図6(b)に示すように、同様に眼底画像1に基準線8を設定して、血管の延びる方向θと血管の径についての解析と検討を行った結果、動静脈口径比の解析に適した主幹動静脈は、視神経乳頭部2を中心として、基準線8に対して上方50度?125度、又は下方50度?125度に延びており、且つ解析に適した血管の平均径が15マイクロメートル以上であることが明らかとなった。
【0038】
これらの解析と検討の結果に基づき、本実施例の解析対象血管位置データベースは、右眼における眼底画像の解析に適した血管の条件を、視神経乳頭部から延びる方向が、基準線8に対する鼻側からの角度が上方55度?130度若しくは下方55度?130度であって、且つ血管の平均径は、15マイクロメートル以上であると規定し、解析に適した血管の特性条件として記憶している。又、左眼における眼底画像の解析に適した血管の条件については、視神経乳頭部から延びる方向が、基準線8に対して上方50度?125度若しくは下方50度?125度であって、且つ血管の平均径は、15マイクロメートル以上であると規定し、解析に適した血管の特性条件として記憶している。
【0039】
以下、本実施例の画像解析装置によって実行される、眼底画像に撮影された血管の動静脈口径比の解析の処理の内容を、図2のフロー図に従って説明する。これまで述べてきたように、本実施例の画像解析装置の解析対象血管位置データベースには、解析に適した血管の特性条件として、血管が視神経乳頭部から延びる方向の条件と、血管の径の条件が記憶されている(ステップS22)。
【0040】
次に、ステップS24で、眼底画像1が入力される。眼底画像1は、画像解析装置に備えられている撮影部による撮影で得られる他、任意の撮影装置で撮影された眼底画像1を外部から入力して利用することができる。画像には、撮影された眼が右眼か左眼かを識別する識別情報が記録されており、入力と同時に、この情報によって右眼か左眼かが識別される。
【0041】
ステップS26で、本実施例の画像解析装置の視神経乳頭位置検出処理部は、眼底画像1の画素値を解析して、画像に撮影されている視神経乳頭部2を検出する。視神経乳頭部2は、血管と同様に固有の画素値を有しており、またその形状はほぼ円形をしているので、眼底画像から容易に識別することができる。眼底の血管のほとんどは、視神経乳頭部2から延びて網膜を走行するため、視神経乳頭部の位置は、血管の位置を把握する上で重要な情報となる。
【0042】
ステップS28で、本実施例の画像解析装置の黄斑部位置検出処理部は、眼底画像1の画素値を解析して、画像に撮影されている黄斑部12の位置を検出する。黄斑部12は、画像内では周囲と比較して輝度が低く、色が濃くなるため、眼底画像の中で比較的容易に識別することができる。視神経乳頭部2と黄斑部12が検出されると、画像解析装置は、眼底画像1に、検出した視神経乳頭部2の中心と黄斑部12の中心を結ぶ基準線8を設定する。」

4 引用文献5について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献5には、以下の事項が記載されている。

(引5ア)
「【0069】
(第2実施形態)
第1の実施形態では、網膜の基準座標系を決定するために、広域網膜像として広域断層像を用いて行ったが、視神経乳頭部と黄斑部などの網膜の解剖学的特徴を含む被検眼の検査結果により取得される検査画像データであればよい。本実施形態に係る画像処理装置は、眼底の表面の2次元画像(眼底画像)から視神経乳頭部と黄斑部を抽出して、網膜基準座標系を決定する。
【0070】
本実施形態に係る画像処理装置10の構成は第1実施形態で説明した図1(a)の構成と同じなので、説明を省略する。但し、網膜像取得部110は不図示の眼底画像撮像装置から送信される網膜表面の広域2次元画像(網膜の黄斑と視神経乳頭部を写している画像)と、断層像撮像装置20から送信される解析対象の断層像と被検眼情報とを取得する。眼底画像と解析対象の断層像と被検眼情報は記憶部120に保存される。さらに、基準座標系決定部140の網膜像特徴点検出部141は、広域網膜像である眼底画像から視神経乳頭部と黄斑を検出して、基準座標系を決定する。網膜像位置合わせ部142は、眼底画像と解析対象の断層像の位置合わせを行い、解析対象の断層像上での基準座標系を決定する。
【0071】
図8(a)を参照して、本実施形態の画像処理装置10の処理手順を説明する。なお、ステップS810とステップS830以外は第1の実施形態の図2(a)と同様の処理となるので、説明を省略する。
【0072】
ステップS810において、網膜像取得部110は、不図示の眼底画像撮像装置から送信される被検眼の眼底画像と、断層像撮像装置20から送信される被検眼の解析対象の断層像と、左右の被検眼情報を取得する。そして、ステップS810で得られた眼底画像と解析対象の断層像と被検眼情報とを記憶部120に記憶する。ステップ810で得られる眼底画像には、網膜の黄斑部と視神経乳頭部とが含まれるものとする。
【0073】
ステップS830において、基準座標系決定部140は、ステップS810で得られた解析対象の断層像の基準座標系を決定する。そのために、まず、ステップS810で得られた眼底画像を用いて、解剖学的特徴に基づいて網膜の基準座標系を決定する。解剖学特徴として網膜の視神経乳頭部と黄斑を用いる。基準座標系は、視神経乳頭部と黄斑を結ぶ線を構成する座標系とする。次に、眼底画像と解析対象の断層像の投影像の対応点とを決定し、位置合わせを行い、眼底画像で決定された基準座標系を元に、解析対象の断層像の基準座標系を決定する。
【0074】
図8(b)の参照により、ステップS830における基準座標系の決定処理の詳細を説明する。
【0075】
ステップS831において、網膜像特徴点検出部141は、眼底画像から視神経乳頭部と黄斑部の中心を抽出する。図9(a)は、眼底画像Fの一例を示す。図9(a)には、視神経乳頭部D、黄斑部Mと血管Vが示されている。まず、視神経乳頭部Dの中心の抽出方法の一例を示す。視神経乳頭部Dの領域を検出するために、眼底画像の全体の色分布を調べる。眼底画像中では、視神経乳頭部Dの画素値は高い(明るい)ことは知られている。色分布を調べ、画像中の明るい領域(視神経乳頭部)の中心は視神経乳頭部の中心とする。
次に、黄斑部M中心の中心窩を抽出する方法の一例を示す。眼底画像中では、黄斑部Mの画素値は低い(暗い)ことは知られている。色分布を調べ、画像中の暗い領域(黄斑部)の中心は黄斑部M中心の中心窩とする。ただし、血管も黄斑部と同じ色分布になる場合があるが、眼底画像上では血管は細長く、黄斑が丸く写るので、形状の差で区別が出来る。さらに、ステップS810で得られた左右の被検眼情報によって、視神経乳頭部に対しての大体の相対位置は知られているので、眼底画像中に黄斑の検索範囲を絞ることが出来る。
【0076】
ステップS832において、基準座標系決定部140は、網膜像特徴点検出部141で抽出された視神経乳頭部Dの中心と黄斑部Mの中心とを結んだ直線に基づいて、眼底画図中の基準座標系を決定する。
【0077】
図9(b)の参照により、眼底画像Fの基準座標系の決定方法を説明する。基準座標系の原点Cは視神経乳頭部Dの中心にして、一つ目の軸は、視神経乳頭部Dの中心と黄斑部Mの中心とを結んだ直線(軸B1)として求められる。さらに、視神経乳頭部Dの中心から黄斑部Mの中心までの距離を正規化して、視神経乳頭部Dの中心が位置0とすると、黄斑部Mの中心は、位置1.0である。基準座標系の二つ目の軸は、原点Cで軸B1を直交する眼底画像F上の直線(軸B2)とする。三つ目の軸を原点Cで断層像Fを直交する直線(軸B1と軸B2とに直交する直線)とする。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「複数の断層画像を形成」するため、「集光された信号光の網膜RTへの入射位置を順次変えることにより網膜RTの走査を行」う「走査光学系204」は、本願発明の「被検眼眼底の断層画像を生成するための測定光を前記眼底上に走査させる走査手段」に相当する。

2 引用発明の「眼底画像を形成する」「眼底カメラ202」は、本願発明の「前記被検眼眼底の正面画像を生成するための観察光学系」に相当する。

3 引用発明の「視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線と直交」する「垂直方向のスキャンにより」「第1の断層画像602」「を取得し、また、これと合わせて眼部の網膜の表面の画像(眼底画像)も取得」することは、本願発明の「前記正面画像、および、前記走査手段によって前記測定光が走査される横断位置における前記断層画像を取得する」ことに相当する。

4 上記3を踏まえると、引用発明の「光干渉断層撮影システム」は、本願発明の「眼科撮影装置」に相当する。

5 引用発明の「本撮影の主走査方向が、視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線と直交して」いることは、「本撮影の主走査線」を設定する際、眼底画像上で「視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線」を設定しているといえることから、引用発明は、本願発明の「被検眼眼底の黄斑上と乳頭上を通過する基準ラインを、前記正面画像上に設定する基準ライン設定手段」に相当する構成を備えているといえる。

6 引用発明の「本撮影の主走査方向が、視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線と直交して」いることは、「視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線と直交」する「本撮影の主走査線」を設定しているといえることから、引用発明は、本願発明の「前記基準ライン設定手段によって設定された前記基準ラインに対する角度が所定角度である前記横断位置を設定する横断位置設定手段」に相当する構成を備えているといえる。

7 上記5から、引用発明は、本願発明の「前記基準ライン設定手段は、前記観察光学系によって生成される前記正面画像上における被検眼眼底の黄斑と乳頭の位置を検出し、黄斑上と乳頭上を通過する前記基準ラインを前記正面画像上に設定する」のうち、「前記基準ライン設定手段は、黄斑上と乳頭上を通過する前記基準ラインを前記正面画像上に設定する」に相当する構成を備えているといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

(一致点)
「被検眼眼底の断層画像を生成するための測定光を前記眼底上に走査させる走査手段と、
前記被検眼眼底の正面画像を生成するための観察光学系と、を備え、前記正面画像、および、前記走査手段によって前記測定光が走査される横断位置における前記断層画像を取得する眼科撮影装置であって、
被検眼眼底の黄斑上と乳頭上を通過する基準ラインを、前記正面画像上に設定する基準ライン設定手段と、
前記基準ライン設定手段によって設定された前記基準ラインに対する角度が所定角度である前記横断位置を設定する横断位置設定手段と、
前記走査手段の駆動を制御し、前記横断位置設定手段によって設定された前記横断位置に対応する前記眼底上に、前記測定光を走査させる走査制御手段と、を備え、
前記基準ライン設定手段は、黄斑上と乳頭上を通過する前記基準ラインを前記正面画像上に設定する、眼科撮影装置。」

(相違点)
黄斑上と乳頭上を通過する基準ラインを正面画像上に設定する際、本願発明では、「前記観察光学系によって生成される前記正面画像上における被検眼眼底の黄斑と乳頭の位置を検出し」ているのに対し、引用発明では、この特定がない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。

眼科撮影装置において、観察光学系によって生成される正面画像上における被検眼眼底の黄斑と乳頭の位置を検出することにより、黄斑上と乳頭上を通過する基準ラインを正面画像上に設定することは、例えば、引用文献3?5(上記第4の2?4参照。)に記載されているように周知技術であり、引用発明では、「視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線」をどのように設定するのか特定されてないところ、引用発明において、上記周知技術を適用し、観察光学系によって生成される眼底画像上における視神経乳頭部と黄斑の位置を検出することにより、「視神経乳頭部と黄斑を結ぶ基準線」を前記眼底画像上に設定することで、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-07-01 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-20 
出願番号 特願2018-10093(P2018-10093)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 裕之  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
伊藤 幸仙
発明の名称 眼科撮影装置および撮影制御プログラム  

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