• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02F
管理番号 1365751
審判番号 不服2019-6390  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-16 
確定日 2020-09-23 
事件の表示 特願2015-210487「ラマン増幅用光源システム、ラマン増幅器、ラマン増幅システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-212370、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月27日(パリ条約による優先権主張2015年5月13日、米国)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年10月18日付け:拒絶理由通知書(同月30日発送)
平成30年12月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月 5日付け:拒絶査定(同月19日送達)
令和 元年 5月16日 :審判請求書の提出
令和 2年 2月25日付け:拒絶理由通知書(同年3月3日発送)
令和 2年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成31年2月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1?23に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特許第3676167号公報
2.米国特許出願公開第2005/0201675号明細書(周知技術を示す文献)
3.米国特許第6556342号明細書(周知技術を示す文献)
4.特開2001-222036号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審が通知した拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要
令和2年2月25日付けで当審が通知した拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知書」という。)における拒絶の理由は、概要次のものを含む。

本件出願の請求項1?8に係る発明(以下、その順に「本願発明1」等という。)は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用する刊行物等
・特開2001-222036号公報(以下「引用例1」という。)
・米国特許出願公開第2005/0201675号明細書(以下「引用例2」という。)
・特許第3676167号公報(以下「引用例3」という。)
・並木周,”光ファイバーラマン増幅器の最新動向”,応用物理,応用物理学会,2001年11月10日,第70巻,第11号,p1299-1303(以下「引用例4」という。)
・特開2002-82366号公報(以下「引用例5」という。)
・米国特許第6556342号明細書(以下「引用例6」という。)

第4 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和2年5月7日に提出された手続補正書により補正された請求項1?4に記載されたとおりのものであるところ、本願発明1?4は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
光伝送ファイバを伝送する信号光を該光伝送ファイバでラマン増幅するためのラマン増幅用光源システムであって、
インコヒーレント光を出力する第1の複数のインコヒーレント光源と、前記第1の複数のインコヒーレント光源および前記光伝送ファイバに接続されており、前記インコヒーレント光を前記光伝送ファイバに出力する第1の出力部と、を備える第1の光源部と、
互いに波長が異なるファブリぺロー(FP)型、FP型と光ファイバブラッググレーティング(FBG)とを組み合わせたFP-FBG型、DFB型、およびDBR型の半導体レーザの少なくとも一つを含み、前記インコヒーレント光をラマン増幅する波長を有する2次励起光を出力する第1の複数の励起光源と、前記第1の複数の励起光源および前記光伝送ファイバに接続されており、前記2次励起光を前記光伝送ファイバに出力する第2の出力部と、を備える第2の光源部と、
を備え、前記第1の出力部と前記第2の出力部とは、前記インコヒーレント光と前記2次励起光とが、前記第1の出力部と前記第2の出力部との間で前記光伝送ファイバを反対方向に伝搬するように前記光伝送ファイバに接続されており、
前記複数のインコヒーレント光源は、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)が多段接続されて構成されたインコヒーレント光源を含み、
前記第1の出力部と前記第2の出力部との間の前記光伝送ファイバにおいて、入力された前記インコヒーレント光が入力された前記2次励起光によりラマン増幅され、前記信号光をラマン増幅する波長を有しかつ前記信号光を前方励起する方向に前記光伝送ファイバを伝搬する1次励起光が生成されることを特徴とするラマン増幅用光源システム。」
「【請求項2】
前記複数のインコヒーレント光源は、互いに異なる波長帯域のインコヒーレント光を出力するインコヒーレント光源を含むことを特徴とする請求項1に記載のラマン増幅用光源システム。」
「【請求項3】
請求項1または2に記載のラマン増幅用光源システムと、
前記光伝送ファイバと、
を備えることを特徴とするラマン増幅器。」
「【請求項4】
請求項1または2に記載のラマン増幅用光源システムと、
前記光伝送ファイバと、
を備えることを特徴とするラマン増幅システム。」

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由通知書における拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2001-222036号公報)には、図面と共に、次の記載がある(下線は、当審が付した。以下同じ。)。

「【0020】
本件出願の第1のラマン増幅方式は、光ファイバ中のラマン散乱を利用したラマン増幅方式であって、信号光をラマン増幅するための第一の励起光を増幅用光ファイバの信号光出力端から入射し、第一の励起光の波長よりも短い波長をもち第一の励起光をラマン増幅するための第二の励起光を光ファイバの信号光入力端から入射するものである。」
「【0031】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)本発明のラマン増幅方式の第1の実施形態を図1に基づいて詳細に説明する。図1の光ファイバ1は光伝送路もしくは集中型光増幅器を構成する任意のタイプの光ファイバであり、例えば光伝送路として用いられるSMF、DSF、NZ-DSF、LEAF、RDF、分散補償用ファイバ、非線形デバイス用ファイバ等である。前記光ファイバ1を用いた光通信システムにおいて、信号光(波長λS)が光ファイバ1を伝搬する際に、第一の励起光(波長λP1)を信号光の出力端2から入射し、第二の励起光(波長λP2)を信号光の入力端3から入射する。これにより、第一の励起光と第二の励起光が共に光ファイバ1中に存在し、第一の励起光は第二の励起光によるラマン増幅を受けて増幅され、信号入力端3付近での第一の励起光強度は第二の励起光が存在しない場合よりも大きくなる。従って、信号入射端3側での伝搬損失に起因するS/N比の劣化が軽減され、伝送系の雑音特性が改善される。また、第二の励起光が信号光の入力端3から入射することにより、信号光出力端2から入射する場合に比して、信号光入力端3付近における第二の励起光強度が大きくなり、信号光入力端3付近において第一の励起光が第二の励起光から受ける利得を効率的に大きくすることができ、ラマン増幅器の雑音特性の改善も効率的になされる。」
「【0042】
(実施形態2)本発明のラマン増幅方式の第2の実施形態を図7に基づいて詳細に説明する。本実施形態の基本的な構成は前記実施形態1と同様である。異なるのは図7に示す様に第二の励起光(波長λp2)を信号光の入力端3からだけでなく、出力端2からも入射していることである。この場合も実施形態1と同様に、第二の励起光の波長λP2を第一の励起光の波長λP1よりも短い波長としたり、第一の励起光の波長λP1よりも光ファイバ1(増幅用光ファイバ1)のラマンシフト分だけ短い波長としたり、第一の励起光の波長λP1よりも増幅用光ファイバ1のラマンシフト分だけ短い波長から若干ずれた波長とすることができる。」
「【0047】
(実施形態3)本発明のラマン増幅方式の第3の実施形態を図12に基づいて詳細に説明する。本実施形態の基本的な構成は前記実施形態2と同様である。異なるのは図12に示す様に第一の励起光(波長λp1)を信号光の出力端2からだけでなく、入力端3からも入射していることである。この場合も実施形態1、2と同様に、第二の励起光の波長λp2を第一の励起光の波長λp1よりも短い波長としたり、第一の励起光の波長λp1よりも光ファイバ1(増幅用光ファイバ1)のラマンシフト分だけ短い波長としたり、第一の励起光の波長λp1よりも増幅用光ファイバ1のラマンシフト分だけ短い波長から若干ずれた波長とすることができる。」
「【0048】
第一の励起光(波長λp1)を信号光の入力端3からも入射すると、光ファイバ1の長手方向における第一の励起光(波長λp1)及び第二の励起光(波長λp2)の強度分布をより一様にすることができるため、無損失伝送路に近い状態を実現しやすくなる。但し、第一の励起光が信号光と同じ方向に伝搬するため、入力端3から入射する第一の励起光の光源には強度雑音が十分小さい半導体レーザ等を使用する必要がある。」
「【0053】
(実施形態4)雑音特性の最適化のためにはラマン増幅器の励起光が高出力であることが望ましく、第一と第二の励起光のパワーレンジが大きい方が都合がよい。この場合、いずれか一方又は双方の励起光を複数の発振波長を有する励起用半導体レーザから構成される波長多重励起光源から得ることができる。(参考文献:Y.EmoriらのElectronics Letters,vol.34,pp.2145-2146,1998)。このような励起光源を用いる場合、利得のピーク波長と増幅される信号光の波長が一致するように励起光源の波長を選択する必要がある。例えば、1435nm、1450nm、1465nm、1480nmを多重化した励起光源を用いた場合、1570nm付近が利得ピーク波長となるので、この波長帯に信号光の波長が含まれるように設定することになる。」
「【0063】
本発明の第3のラマン増幅方式には、前記効果の他に次の効果もある。
(1)信号光をラマン増幅するための第一の励起光を増幅用光ファイバの信号光入力端からも入射するので、第1、第2のラマン増幅方式と比べて、信号光入力端付近の第一の励起光の強度を容易に大きくすることができるため、ラマン増幅器の雑音特性の改善がより効率的になされる。」
「【図1】


「【図7】


「【図12】



2 上記1の記載事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

(1) 図12から、光ファイバ1の出力端2及び入力端3には、光結合器(以下、「出力端側光結合器」及び「入力端側光結合器」という。)が接続されている構成が見てとれる。
(2) 図12から、「第一の励起光」及び「第二の励起光」が、「出力端側光結合器」を介して、光ファイバ1の出力端2から入射している構成が見てとれる。
(3) 図12から、「第一の励起光」及び「第二の励起光」が、「入力端側光結合器」を介して、光ファイバ1の入力端3から入射している構成が見てとれる。

3 上記1?2から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「光ファイバ中のラマン散乱を利用したラマン増幅方式であって、
信号光をラマン増幅するための第一の励起光を増幅用光ファイバの信号光出力端から入射し、第一の励起光の波長よりも短い波長をもち第一の励起光をラマン増幅するための第二の励起光を光ファイバの信号光入力端から入射するものであり、
第二の励起光を信号光の入力端からだけでなく、出力端からも入射し、
第一の励起光を信号光の出力端からだけでなく、入力端からも入射し、
双方の励起光を複数の発振波長を有する励起用半導体レーザから構成される波長多重励起光源から得て、
第一の励起光及び第二の励起光が、出力端側光結合器を介して、光ファイバの出力端から入射し、
第一の励起光及び第二の励起光が、入力端側光結合器を介して、光ファイバの入力端から入射している、ラマン増幅方式。」

2 引用文献2に記載された事項
当審拒絶理由通知書における拒絶の理由で引用された引用文献2(米国特許出願公開第2005/0201675号明細書)には、図面と共に、次の記載がある(なお、日本語訳は、当審が作成したものである。)。

「[0023] Another important issue fordistributed Raman amplification is the relative intensity noise (RIN) transferfrom the pump laser to the signal. Raman scattering, due to its fast responsetime, causes amplitude noise in the pump lasers to be proportionallytransferred to the gain fluctuations. As is schematically shown in FIG. 2, whena noise-free signal beam propagates along the Raman amplified transmissionfiber, the signal data set experiences a time-dependent amplification.」
(日本語訳:分散型ラマン増幅のもう一つの重要な問題は、ポンプレーザから信号への相対強度ノイズ(RIN)の伝達である。ラマン散乱は、その高速応答時間のために、ポンプレーザの振幅ノイズが利得変動に比例して伝達される原因となる。図2に模式的に示されているように、ノイズのない信号ビームがラマン増幅された伝送ファイバに沿って伝播すると、信号データセットは時間に依存した増幅を経験する。)

「[0026] ……<略>……. A disadvantage of using DFBlasers as a Raman pump, however, is that the narrow linewidth of a DFB laser causessignificant Brillouin back-scattering at a power level much lower than thatneeded for the Raman pump. As a result, linewidth broadening techniques need tobe applied to suppress the Brillouin scattering while keeping the RIN withinthe required range.」
(日本語訳:しかし、DFBレーザをラマンポンプとして使用する場合の欠点は、DFBレーザの線幅が狭いため、ラマンポンプに必要なパワーレベルよりもはるかに低いパワーレベルで大きなブリルアン散乱が発生することです。その結果、RINを必要な範囲内に保ちながらブリルアン散乱を抑制するために線幅を広げる技術が必要となります。)

「[0029] The present invention providessolutions to a number of the challenges described above.」
(日本語訳:本発明は、上述したいくつかの課題に対する解決策を提供する。)

「[0031] In another form of theinvention, there is provided a method for amplifying optical signalscomprising: introducing a high power broadband light source into an opticalfiber carrying the optical signals so that the high power broadband lightsource acts as a Raman pump so as to induce Raman amplification of the opticalsignals within the fiber.」
(日本語訳:本発明の別の態様において、光信号を増幅する方法が提供される:光信号を伝送する光ファイバ内に高出力広帯域光源を導入し、高出力広帯域光源がラマンポンプとして作用してファイバ内の光信号のラマン増幅を誘導するようにすることからなる光信号増幅方法が提供される。)

「[0058] 6.1 The Use of Amplified SpontaneousEmission (ASE) as a Raman Pump Source」
(日本語訳:6.1ラマンポンプ源としての増幅自発放出(ASE)の利用)

「[0059] In accordance with one aspect of thepresent invention, a high power broadband light source is used as a high powerRaman pump source to facilitate the amplification of optical signals.」
(日本語訳:本発明の一側面に従って、光信号の増幅を容易にするために、高出力広帯域光源を高出力ラマンポンプ光源として使用する。)

「[0060] In one preferred form of theinvention, the high power broadband light source is generated from spectrallyfiltered amplified spontaneous emission (ASE) from various semiconductor orfiber sources.」
(日本語訳:本発明の好ましい一実施形態では、高出力広帯域光源は、様々な半導体源またはファイバ源からのスペクトルフィルタリングされた増幅自発放出(ASE)から生成される。)

「[0061] The use of a high power broadbandlight source as a Raman pump source has inherent performance advantages in theareas of gain ripple and flatness, nonlinear pump-to-pump interactions,pump-to-signal interactions, and in the methods of depolarization.」
(日本語訳:ラマンポンプ光源としての高出力広帯域光源の使用は、利得リップルと平坦性、非線形ポンプ間相互作用、ポンプと信号間相互作用、および偏光解消の方法の分野で固有の性能上の利点を持っています。)

「[0074] The broadband light source used asthe Raman pump source can be generated from any light which has a sufficientlybroad and intense emission spectrum. Such light sources can be formed, forexample, from amplified spontaneous emission (ASE) of rare earth doped opticalfiber, planar waveguides, or semiconductor optical amplifiers.
(日本語訳:ラマンポンプ光源として用いられる広帯域光源は、十分に広帯域で強度の高い発光スペクトルを有する任意の光から発生させることができる。このような光源は、例えば、希土類ドープ光ファイバ、プレーナ導波路、または半導体光増幅器の増幅自然放出(ASE)から形成することができる。)

「[0082] FIG. 10 is a schematic diagram of asemiconductor die 100 used in a first preferred embodiment. The die 100 consistsof a serial connection of a wavelength seed section 103 and a power booster orpower amplification section 106 formed along a semiconductor waveguide 109.」
(日本語訳:図10は、第1の好ましい実施形態で使用される半導体ダイ100の概略図である。ダイ100は、波長シード部103と、半導体導波路109に沿って形成された昇圧部または電力増幅部106とが直列接続されて構成されている。)

「[0083] The wavelength seed section 103preferably comprises multiple subsections 103A, 103B, 103C, etc. formed alongthe semiconductor waveguide 109. Three subsections 103A, 103B, 103C are shownin FIG. 10; however, it should be appreciated that this number is merelyexemplary and more or less than this number of wavelength seed subsections maybe used. The gain profile within each subsection 103A, 103B, 103C, etc. ischosen so as to provide ASE in a particular wavelength range. The gain profilescan be defined in each subsection 103A, 103B, 103C, etc. by such techniques asepitaxial regrowth or quantum well intermixing. The quantum well blocks ofthese subsections are designed to provide a region of high gain with, forexample, 3-10 quantum wells.」
(日本語訳:図10に示すように、好ましくは、波長シード部103は、半導体導波路109に沿って形成された複数のサブセクション103a、103b、103c等から構成される。しかしながら、この数は単に例示的なものであり、波長シードサブセクションのこの数よりも多くまたはより少ない数が使用されてもよいことが理解されるべきである。各サブセクション103a、103b、103c内の利得プロファイルは、特定の波長範囲でASEを提供するように選択される。各サブセクション103a、103b、103c等内の利得プロファイルは、エピタキシャル再成長または量子井戸相互混合のような技術によって定義することができる。これらのサブセクションの量子井戸ブロックは、例えば3?10個の量子井戸で高利得の領域を提供するように設計されている。)

3 引用文献3に記載された事項
当審拒絶理由通知書における拒絶の理由で引用された引用文献3(特許第3676167号公報)の【0013】及び図1の記載からみて、当該引用文献3には、後方励起ラマン増幅器のポンプソースとして、自然放出のソースを用い得るとの知見が開示されている。

第5 対比・判断
1 本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1) 引用発明の「光ファイバ」及び「信号光」は、それぞれ本願発明1の「光伝送ファイバ」及び「信号光」に相当する。
(2) 引用発明の「ラマン増幅方式」は、「信号光をラマン増幅」する「増幅用光ファイバ」と、「第一の励起光」及び「第二の励起光」を当該「増幅用光ファイバ」へ入射する「入力端側光結合器」及び「出力端側光結合器」を備え、「第一の励起光」及び「第二の励起光」を「励起用半導体レーザから構成される波長多重励起光源」から得ているものであるから、当該構成は、本願発明1の「光伝送ファイバを伝送する信号光を該光伝送ファイバでラマン増幅するためのラマン増幅用光源システム」に相当するといえる。
(3) 引用発明の「第一の励起光」は、「信号光をラマン増幅するための」励起光であり、「第二の励起光」によりラマン増幅され、「励起用半導体レーザから構成される波長多重励起光源」より得られるものである。
一方、本願発明1の「インコヒーレント光」は、「2次励起光によりラマン増幅され」、「信号光をラマン増幅する波長を有」する「1次励起光が生成される」ものであって、「複数のインコヒーレント光源」より得られるものである。
ここで、両者を対比し、その機能作用に鑑みれば、引用発明の「第一の励起光」は、本願発明の「インコヒーレント光」と、「信号光をラマン増幅するための励起光」である点、および「複数の光源」より得られている点で、本願発明1と共通するものといえる。
(4) 引用発明では、「入力端側光結合器」を介して「第一の励起光及び第二の励起光が、光ファイバの入力端から入射し」ている。
一方、本願発明1において、「第1の出力部」は、「インコヒーレント光を前記光伝送ファイバに出力する」ものであり、当該「インコヒーレント光」は「信号光を前方励起する方向に前記光伝送ファイバを伝搬する」構成である。
そして、引用発明における第一の励起光の入射方向からみて、引用発明の「入力端側光結合器」は、本願発明1の「第1の出力部」に相当するものといえる。
(5) 上記(3)?(4)のとおり、引用発明は、「第1の励起光」で発光する「波長多重励起光源」と、「第1の励起光」を光ファイバの入力端から入射する「入力端側光結合器」とを備えているところ、本願発明1の「第1の光源部」は、「第1の複数のインコヒーレント光源」と「第1の出力部」とを備えるものである。
ここで、上記構成を対比してみれば、引用発明と本願発明1とが同様の構成を備えていることは明らかであるから、引用発明は、本願発明1の「第1の光源部」を備えているものといえる。
(6) 引用発明の「第二の励起光」は、「第一の励起光をラマン増幅するための」励起光であり、「励起用半導体レーザから構成される波長多重励起光源」より得られるものである。
一方、本願発明1の「2次励起光」は、「インコヒーレント光をラマン増幅する波長を有する」励起光であり、「互いに波長が異なるファブリぺロー(FP)型、FP型と光ファイバブラッググレーティング(FBG)とを組み合わせたFP-FBG型、DFB型、およびDBR型の半導体レーザの少なくとも一つを含み、前記インコヒーレント光をラマン増幅する波長を有する2次励起光を出力する第1の複数の励起光源」より得られているものである。
ここで、その機能作用に鑑みれば、引用発明の「第二の励起光」は、本願発明1の「2次励起光」に相当するものであり、「複数の励起光源」より得られる点で、本願発明1と共通するものといえる。
(7) 引用発明では、「出力端側光結合器」を介して「第一の励起光及び第二の励起光が、光ファイバの出力端から入射し」ている。
一方、本願発明1において、「第2の出力部」は、「2次励起光を前記光伝送ファイバに出力する」ものであって、「前記第1の出力部と前記第2の出力部とは、前記インコヒーレント光と前記2次励起光とが、前記第1の出力部と前記第2の出力部との間で前記光伝送ファイバを反対方向に伝搬するように前記光伝送ファイバに接続されて」いる。
ここで、上記(4)に示した事項に鑑みれば、引用発明の「出力端側光結合器」は、本願発明1の「第2の出力部」に相当するものといえる。
(8) 上記(6)?(7)のとおり、引用発明は、「第2の励起光」で発光する「波長多重励起光源」と、「第2の励起光」を光ファイバの出力端から入射する「出力端側光結合器」を備えているところ、本願発明1の「第2の光源部」は、「第2の複数のインコヒーレント光源」と「第2の出力部」とを備えるものである。
ここで、上記構成を対比してみれば、引用発明と本願発明1とが同様の構成を備えていることは明らかであるから、引用発明は、本願発明1の「第2の光源部」を備えているものといえる。

したがって、上記(1)?(8)から、本願発明1と引用発明は、
「光伝送ファイバを伝送する信号光を該光伝送ファイバでラマン増幅するためのラマン増幅用光源システムであって、
励起光を出力する前記第1の複数の光源と、前記第1の複数の光源および前記光伝送ファイバに接続されており、前記励起光を前記光伝送ファイバに出力する第1の出力部と、を備える第1の光源部と、
前記励起光をラマン増幅する波長を有する2次励起光を出力する第1の複数の励起光源と、前記第1の複数の励起光源および前記光伝送ファイバに接続されており、前記2次励起光を前記光伝送ファイバに出力する第2の出力部と、を備える第2の光源部と、
を備え、前記第1の出力部と前記第2の出力部とは、前記励起光と前記2次励起光とが、前記第1の出力部と前記第2の出力部との間で前記光伝送ファイバを反対方向に伝搬するように前記光伝送ファイバに接続されており、
前記第1の出力部と前記第2の出力部との間の前記光伝送ファイバにおいて、入力された前記励起光が入力された前記2次励起光によりラマン増幅され、前記信号光をラマン増幅する波長を有しかつ前記信号光を前方励起する方向に前記光伝送ファイバを伝搬する1次励起光が生成されることを特徴とするラマン増幅用光源システム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1は、信号光を励起するための励起光が、「インコヒーレント光」であり、当該「インコヒーレント光」は、「SOA(Semiconductor Optical Amplifier)が多段接続されて構成されたインコヒーレント光源」より得られているのに対して、引用発明の「第一の励起光」は「励起用半導体レーザから構成される波長多重励起光源」から得られており、「インコヒーレント光」ではない点。

<相違点2>
本願発明1は、第2の光源部が備える「2次励起光を出力する第1の複数の励起光源」が、「互いに波長が異なるファブリぺロー(FP)型、FP型と光ファイバブラッググレーティング(FBG)とを組み合わせたFP-FBG型、DFB型、およびDBR型の半導体レーザの少なくとも一つを含んでいるのに対して、引用発明の「波長多重励起光源」は、励起用半導体レーザから構成されるものであるが、その具体的な構成は不明である点。

2 相違点の判断
(1) 相違点1について、引用文献2の[0059]?[0061]及び[0074]には、ラマンポンプ光源として「高出力広帯域光源」の使用が開示されており、具体的な光源として、半導体光増幅器(SOA)の増幅自然放出(ASE)が例示されている。
また、引用文献3には、後方励起ラマン増幅器のポンプソースとして自然放出のソースが例示されている。
(2) しかしながら、引用文献1の、「但し、第一の励起光が信号光と同じ方向に伝搬するため、入力端3から入射する第一の励起光の光源には強度雑音が十分小さい半導体レーザ等を使用する必要がある」(【0048】)との記載からみても、引用発明において第1の励起光として想定されている光源はあくまでもレーザであるといえる。
(3) そして、信号光をラマン増幅する光源として「自然放出光(インコヒーレント光)」を用いることは、引用文献2?3に記載されているものの、引用文献2は、半導体光増幅器(SOA)の増幅自然放出(ASE)を用いることで利得リップルの大幅な低減が図られることが開示されているにすぎず、引用文献2の開示に基づき、引用発明において、(コヒーレントな2次励起光により励起される)前方励起の励起光のみをインコヒーレント光とする動機はない。また、引用文献3に記載された装置は「後方励起」の構成であるから、「第一の励起光が信号光と同じ方向に伝搬する」ことによる不具合について示唆する引用発明に適用する動機はない。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は引用発明及び引用文献2?3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないものである。

3 本願発明2?本願発明4について
本願発明2?本願発明4は、本願発明1を引用するものであって、上記相違点1に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2?3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

第6 原査定について
令和2年5月7日に提出された手続補正書による補正により、本願発明1は「信号光をラマン増幅する波長を有しかつ前記信号光を前方励起する方向に前記光伝送ファイバを伝搬する1次励起光が生成される」と限定されるものであるから、上記と同じ理由により、当業者が容易に発明できたものとはいえないものである。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-02 
出願番号 特願2015-210487(P2015-210487)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
星野 浩一
発明の名称 ラマン増幅用光源システム、ラマン増幅器、ラマン増幅システム  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ