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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
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管理番号 | 1365803 |
審判番号 | 不服2019-15434 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-18 |
確定日 | 2020-09-29 |
事件の表示 | 特願2015-131722「RFIDラベルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月19日出願公開,特開2017- 16350,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年6月30日の出願であって,平成31年2月21日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年4月19日に意見書と補正書が提出され,令和1年8月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和1年11月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和1年12月24日に前置報告がされ,令和2年8月21日に審判請求人から前置報告に対する上申書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和1年8月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1-5,8-9に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,或いは,本願の請求項6,7に係る発明は,以下の引用文献1ないし3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2011-159049号公報 2.特開2007-193395号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2014-097888号公報(周知技術を示す文献) 第3 本願発明 本願請求項1乃至2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明2」という。)は,令和1年11月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 インレット基材、前記インレット基材の表面に設けられたアンテナ、及び前記アンテナ上面を覆うように接続されたICチップを前記インレット基材側からこの順で備えたRFIDインレットと、前記RFIDインレットに積層されるラベル基材と、を有するRFIDラベルの製造方法であって、 前記RFIDインレットの前記ICチップ側の面に、少なくとも前記ICチップを覆うようにシート状部材を積層するシート状部材積層工程と、 積層された前記シート状部材の前記ICチップを覆う部分であるICチップ被覆部の全領域に硬化材を含浸させる硬化材含浸工程と、 前記硬化材含浸工程で含浸された前記硬化材を硬化させる含浸硬化材硬化工程と、 を有し、 前記硬化材含浸工程の後であって、前記含浸硬化材硬化工程の前に、前記ラベル基材を前記シート状部材に積層して押圧することを特徴とするRFIDラベルの製造方法。 【請求項2】 請求項1に記載のRFIDラベルの製造方法であって、 前記硬化材含浸工程では、前記硬化材が前記ICチップ被覆部に定量滴下されるRFIDラベルの製造方法。」 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について ア 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2011-159049号公報(以下,これを「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。) a 「【発明を実施するための形態】 【0022】 (実施例) 図1ないし図5は本発明に係るICモジュールの実施例を示す。図1および図2においてICモジュールは、モジュール本体1と、モジュール本体1の上下面を覆う上下一対の不織布シート(基材シート)2・2とで構成する。モジュール本体1は、チップベース3と、チップベース3の上面に固定されるICチップ4と、ICチップ4の上面のバンプ5に接続されるアンテナ6とで構成してある。チップベース3はステンレス製の薄い板材からなり、その上面にICチップ4を接着固定する。アンテナ6は、極細の銅ワイヤーを素材にして渦巻状に形成されており、その両端の接続端子部7・7をバンプ5に溶接することにより、ICチップ4と一体化してある。 【0023】 不織布シート2は、ガラス繊維、カーボン繊維、ケブラー繊維、化学繊維、天然繊維の一種、あるいはこれらの繊維を組み合わせて得られる吸液性を備えた不織布からなり、必要に応じて低融点の合成樹脂が含浸ないし付着してある。図2に示すように、下側の不織布シート2を溶着下型上に載置したうえで、その上面にモジュール本体1を載置して位置決めし、さらにモジュール本体1の上面に上側の不織布シート2を被せ付ける。この状態で両不織布シート2・2を溶着上型と溶着下型とで加熱しながら圧縮して熱溶着する。 【0024】 得られたICモジュールは、チップベース3とICチップ4とアンテナ6などが上下の不織布シート2・2の接合面の間に挟持されて、モジュール本体1が溶着された不織布シート2・2で担持されている(図3参照)。この状態では、チップベース3がICチップ4の下面を覆って補強するので、例えばICチップ4に曲げ力や圧潰力、あるいは衝撃力などが作用するような場合に、外力をチップベース3で受け止めてICチップ4を保護することができる。 【0025】 モジュール本体1の脆弱な部分、つまりアンテナ6の接続端子部7・7とICチップ4との接続部分を保護するために、ICチップ4の外面に保護層10を形成してICモジュールの強度をさらに増強し耐久性を向上している。具体的には、アンテナ6とICチップ4の接続部分を覆う上側の不織布シート2のチップ被覆部2aに、液状のUV硬化樹脂を印刷して含浸させる。UV硬化樹脂としては、アクリル系あるいはエポキシ系のUV硬化樹脂を使用することができる。なお、必要があればフェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化樹脂や湿気硬化樹脂で保護層10を形成することができる。 【0026】 含浸されたUV硬化樹脂は、チップ被覆部2aを構成する繊維の隙間に入り込んだ状態でICチップ4の外面全体を覆っている。したがって、先の含浸部分に紫外線を照射してUV硬化樹脂を硬化させた状態では、繊維とUV硬化樹脂とが互いに絡まりあった状態の、繊維強化プラスチック構造の保護層10を形成することができる。保護層10はICチップ4の外面全体を覆う正方形状に形成した。このように、保護層10を繊維強化プラスチック状に形成すると、UV硬化樹脂のみで保護層を形成する場合に比べて保護層の強度を格段に向上でき、これに伴ないICモジュールの耐久性を向上できる。また、UV硬化樹脂をチップ被覆部2aに含浸させるので、固化した保護層10の上面がドーム状に膨らむのを防止して、ICモジュールの全厚寸法を小さくすることができる。UV硬化樹脂を有彩色に着色しておけば、硬化後の保護層10の覆域を目視により明確に確認できる。 【0027】 保護層10を形成する過程では、図1に示すように、チップベース3の面積を保護層10の覆域面積より大きく設定して、硬化した保護層10がチップベース3の外郭線内に収まるようにしている。このように、(チップベース3の面積>保護層10の覆域面積>ICチップ4の占有面積)とすることにより、チップ被覆部2aに含浸されたUV硬化樹脂の拡がりをチップベース3で遮断して、UV硬化樹脂が下側の不織布シート2に含浸されるのを防止しながら、脆弱部分を保護層10で確実に覆うことができる。 【0028】 固化した状態におけるUV硬化樹脂(保護層10)の硬度は、ショア硬度20以上であり、さらにショア硬度90以下であることが好ましい。ショア硬度が20未満であると保護層10が柔らかすぎて、脆弱部分を充分に固定できない。また、ショア硬度が90を越えると保護層10が硬すぎてもろくなり、外部衝撃を吸収できなくなる。さらに好ましくは、ショア硬度40以上、60以下とする。この実施例における保護層10のショア硬度は50とした。 【0029】 上記のように構成したICモジュールは、図4および図5に示すように、その上下面にカバーシート12をラミネートしたのち、カバーシート12の表面に印刷を施して非接触式のICカードを完成する。本発明者等は、得られたICカードの衝撃強度を確認するために、衝撃試験を行なった。まず、所定の位置に保護層10を備えた本発明に係るICカードと、保護層10を備えていないICカード(比較例)とを載置し、50gの重りを高さ100mmから600mmまで、高さを100mmずつ増やして落下させ、ICチップ4およびICチップ4とアンテナ6との接続部分の破壊状況等を確認した。」 b 「図1 」 c 「図2 」 d 「図3 」 e 「図4 」 f 「図5 」 イ 上記aの段落【0029】には「ICモジュールは、図4および図5に示すように、その上下面にカバーシート12をラミネートしたのち、カバーシート12の表面に印刷を施して非接触式のICカードを完成する」こと,また,段落【0022】には,「ICモジュールは、モジュール本体1と、モジュール本体1の上下面を覆う上下一対の不織布シート(基材シート)2・2とで構成する。モジュール本体1は、チップベース3と、チップベース3の上面に固定されるICチップ4と、ICチップ4の上面のバンプ5に接続されるアンテナ6とで構成してある」ことが記載されている。 してみると,引用文献1には,“ICモジュールの上下面にカバーシート12をラミネートした非接触式のICカードにおいて,ICモジュールは,モジュール本体1の上下面を覆う上下一対の不織布シート(基材シート)2・2とで構成され,モジュール本体1は,チップベース3と,チップベース3の上面に固定されるICチップ4と,ICチップ4の上面のバンプ5に接続されるアンテナ6とで構成される”ことが記載されているといえる。 ウ 上記aの段落【0023】には,「下側の不織布シート2を溶着下型上に載置したうえで、その上面にモジュール本体1を載置して位置決めし、さらにモジュール本体1の上面に上側の不織布シート2を被せ付ける。この状態で両不織布シート2・2を溶着上型と溶着下型とで加熱しながら圧縮して熱溶着する」こと,また,段落【0025】には,「アンテナ6とICチップ4の接続部分を覆う上側の不織布シート2のチップ被覆部2aに、液状のUV硬化樹脂を印刷して含浸させる」こと,そして,段落【0026】には,「先の含浸部分に紫外線を照射してUV硬化樹脂を硬化させた状態では、繊維とUV硬化樹脂とが互いに絡まりあった状態の、繊維強化プラスチック構造の保護層10を形成することができる」こと,さらに,【0029】には,「ICモジュールは、図4および図5に示すように、その上下面にカバーシート12をラミネートしたのち、カバーシート12の表面に印刷を施して非接触式のICカードを完成する」ことが記載されている。 してみると,引用文献1には“上記非接触式のICカードの製造方法”,および,“下側の不織布シート2を溶着下型上に載置したうえで,その上面にモジュール本体1を載置して位置決めし,さらにモジュール本体1の上面に上側の不織布シート2を被せ付け,この状態で両不織布シート2・2を溶着上型と溶着下型とで加熱しながら圧縮して熱溶着する工程と,アンテナ6とICチップ4の接続部分を覆う上側の不織布シート2のチップ被覆部2aに,液状のUV硬化樹脂を印刷して含浸させる工程と,含浸部分に紫外線を照射してUV硬化樹脂を硬化させ繊維とUV硬化樹脂とが互いに絡まりあった状態とし繊維強化プラスチック構造の保護層10を形成する工程と,ICモジュールの上下面にカバーシート12をラミネートしたのち,カバーシート12の表面に印刷する工程と,からなる非接触式のICカードの製造方法”が記載されているといえる。 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 「ICモジュールの上下面にカバーシート12をラミネートした非接触式のICカードにおいて,ICモジュールはモジュール本体1の上下面を覆う上下一対の不織布シート(基材シート)2・2とで構成され,モジュール本体1は,チップベース3と,チップベース3の上面に固定されるICチップ4と,ICチップ4の上面のバンプ5に接続されるアンテナ6とで構成されるものである,非接触式のICカードの製造方法であって, 下側の不織布シート2を溶着下型上に載置したうえで,その上面にモジュール本体1を載置して位置決めし,さらにモジュール本体1の上面に上側の不織布シート2を被せ付け,この状態で両不織布シート2・2を溶着上型と溶着下型とで加熱しながら圧縮して熱溶着する工程と, アンテナ6とICチップ4の接続部分を覆う上側の不織布シート2のチップ被覆部2aに,液状のUV硬化樹脂を印刷して含浸させる工程と, 含浸部分に紫外線を照射してUV硬化樹脂を硬化させ繊維とUV硬化樹脂とが互いに絡まりあった状態とし繊維強化プラスチック構造の保護層10を形成する工程と, ICモジュールの上下面にカバーシート12をラミネートしたのち,カバーシート12の表面に印刷する工程と, からなる非接触式のICカードの製造方法。」 2 引用文献2について 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-193395号公報(以下,これを「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「【0012】 本製造方法により製造されるIC破損防止構造を有する非接触ICタグ1は、図1の平面図のように、アンテナパターン2とその両端部2a,2bに装着されたICチップ3を有している。アンテナ回路の一部は短絡を防止するため、導通部材7によりベースフィルム11の裏面を通って、アンテナパターン2の端部2aに接続している。以上の構成は通常の非接触ICタグと同様のものである。なお、アンテナパターン2は、図のようにコイル状のものに限らず、ダイポール型アンテナであってもよいものである。 IC破損防止構造を有する非接触ICタグ1の特徴は、ICチップ3の周囲を包囲するようにICチップ嵌め込み用開口10aを形成した中間シート10がインレットベース11Aと表面保護シート4の間に挿入されていることにある。なお、インレットベースとは、ベースフィルム11にアンテナパターン2を形成し、ICチップ3を装着したまでの状態のベースフィルムを意味するものとする。」 b 「図1 」 c 「図2 」 3 その他の文献について また,前置報告書において周知技術を示す文献として引用された特開2001-126044号公報(以下,これを「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「【0140】〈情報担体製造方法の第2例〉図25の製造方法は、熱圧着性合成樹脂シートと単体で自己圧着性を有する不織布又は適量の合成樹脂を含浸させることによって自己圧着性が付与された不織布との接合を利用したホットプレス法を適用したものであって、非接触ICカードの製造に先立ち、所定形状及び所定寸法に成形された第1のカバーシート41と、前記のようにして製造されたフレキシブルICモジュール10と、所定形状及び所定寸法に成形された前記の不織布12と、第2のカバーシート43とを用意する。 【0141】しかる後に、図25に示すように、上面が平滑な平面状に形成された下型11の上に第1のカバーシート41を置き、当該第1のカバーシート41上にICチップ1及び非接触伝送用コイル2の熱圧着面を上向きにしてフレキシブルICモジュール10を重ね、さらに、当該フレキシブルICモジュール10上に不織布12と第2のカバーシート43とをこの順に重ねる。次いで、前記第2のカバーシート43の上方から下面が平滑な平面状に形成された上型14を押し付け、加熱下で前記積層体を厚さ方向に圧縮する。これによって、フレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3が軟化すると共に、不織布12の自己圧着性が発揮され、第1のカバーシート41とフレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3、当該フレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3と不織布12、当該不織布12と第2のカバーシート43とが互いに密着すると共に、フレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3及び不織布12が加圧力に応じた量だけ変形してICチップ1及び非接触伝送用コイル2がこれら熱圧着性合成樹脂シート3及び不織布12内に埋設され、さらには第1及び第2のカバーシート41,43の表面が平坦化される。」 b 「【0146】〈情報担体製造方法の第3例〉図26の製造方法は、熱圧着性合成樹脂シートどうしの接合を利用したローラプレス法を適用したものであって、非接触ICカードの製造に先立ち、所定形状及び所定寸法のテープ状に成形され、かつロール状に巻回された第1のカバーシート41と、所定形状及び所定寸法のテープ状に成形され、かつロール状に巻回されたフレキシブルICモジュール10と、所定形状及び所定寸法のテープ状に成形され、かつロール状に巻回された第2の熱圧着性合成樹脂シート5と、所定形状及び所定寸法のテープ状に成形され、かつロール状に巻回された第2のカバーシート43とを用意する。 【0147】図26に示すように、各ローラから引き出しローラ75によって第1のカバーシート41とフレキシブルICモジュール10と第2の熱圧着性合成樹脂シート5と第2のカバーシート43とを引き出し、案内ローラ76によって、引き出された各テープ状部材を所定の配列で貼り合わせローラ77に案内する。貼り合わせローラ77では、第1のカバーシート41上にICチップ1及び非接触伝送用コイル2の熱圧着面を下向きにしてフレキシブルICモジュール10を重ねあわせると共に、当該フレキシブルICモジュール10上に第2の熱圧着性合成樹脂シート5と第2のカバーシート43とをこの順に重ねあわせ、4層構造の積層体を作製する。次に、当該積層体を加熱・加圧ローラ74の間に導入して加熱下で厚さ方向に圧縮する。これによって、フレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3及び第2の熱圧着性合成樹脂シート5が軟化して、第1のカバーシート41とフレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3、当該フレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3と第2の熱圧着性合成樹脂シート5、当該第2の熱圧着性合成樹脂シート5と第2のカバーシート43とが互いに密着すると共に、フレキシブルICモジュール10を構成する熱圧着性合成樹脂シート3及び第2の熱圧着性合成樹脂シート5が加圧力に応じた量だけ変形してICチップ1及び非接触伝送用コイル2がこれら熱圧着性合成樹脂シート3,5内に埋設され、さらには第1及び第2のカバーシート41,43の表面が平坦化される。」 c 「図26 」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「チップベース3」,「アンテナ6」,「ICチップ4」は,各々,本願発明1の「インレット基材」,「アンテナ」,「ICチップ」に相当する。 そして,引用発明の「モジュール本体1」は,「チップベース3と、チップベース3の上面に固定されるICチップ4と,ICチップ4の上面のバンプ5に接続されるアンテナ6とで構成される」ものであるから,引用発明の「モジュール本体1」と,本願発明1の「インレット基材、前記インレット基材の表面に設けられたアンテナ、及び前記アンテナ上面を覆うように接続されたICチップを前記インレット基材側からこの順で備えたRFIDインレット」とは,後述する点で相違するものの“インレット基材,前記インレット基材の表面に設けられたアンテナ,及び前記アンテナに接続されたICチップを前記インレット基材に備えたRFIDインレット”である点で共通する。 (イ)また,引用発明の「カバーシート12」は,モジュール本体1の上下面を不織布シート(基材シート)2・2で覆ったICモジュールの上下面にカバーシート12をラミネートされるものであるから,引用発明の「カバーシート12」と,本願発明1の「前記RFIDインレットに積層されるラベル基材」とは,後述する点で相違するものの“前記RFIDインレットに積層される基材”である点では共通する。 さらに,引用発明の「非接触式のICカード」は,「モジュール本体1」と「カバーシート12」を有するものであるから,引用発明の「非接触式のICカード」と,本願発明1の「RFIDラベル」とは,後述する点で相違するものの“RFIDを使用したシート部材”である点では共通する。 そして,引用発明の「RFIDラベルの製造方法」と,本願発明1の「インレット基材、前記インレット基材の表面に設けられたアンテナ、及び前記アンテナ上面を覆うように接続されたICチップを前記インレット基材側からこの順で備えたRFIDインレットと、前記RFIDインレットに積層されるラベル基材と、を有するRFIDラベルの製造方法」とは,後述する点で相違するものの“インレット基材,前記インレット基材の表面に設けられたアンテナ,及び前記アンテナに接続されたICチップを前記インレット基材に備えたRFIDインレットと,前記RFIDインレットに積層される基材と,を有するRFIDを使用したシート部材の製造方法”である点では共通する。 (ウ)引用発明の「不織布シート(基材シート)2・2」は,本願発明の「シート状部材」に相当する。 そして,引用発明の「熱溶着する工程」は,「下側の不織布シート2を溶着下型上に載置したうえで,その上面にモジュール本体1を載置して位置決めし,さらにモジュール本体1の上面に上側の不織布シート2を被せ付け,この状態で両不織布シート2・2を溶着上型と溶着下型とで加熱しながら圧縮」する工程であるから,本願発明1の「前記RFIDインレットの前記ICチップ側の面に、少なくとも前記ICチップを覆うようにシート状部材を積層するシート状部材積層工程」に相当する。 (エ)引用発明の「含浸させる工程」は,「アンテナ6とICチップ4の接続部分を覆う上側の不織布シート2のチップ被覆部2aに,液状のUV硬化樹脂を印刷して含浸させる」工程であるから,本願発明1の「積層された前記シート状部材の前記ICチップを覆う部分であるICチップ被覆部の全領域に硬化材を含浸させる硬化材含浸工程」に相当する。 (オ)引用発明の「保護層10を形成する工程」は,「含浸部分に紫外線を照射してUV硬化樹脂を硬化させ」る工程であるから,本願発明1の「前記硬化材含浸工程で含浸された前記硬化材を硬化させる含浸硬化材硬化工程」に相当する。 (カ)引用発明の「印刷する工程」は,「含浸させる工程」の後であるが「ICモジュールの上下面にカバーシート12をラミネート」することであって,ラミネートする際には押圧していることは明らかであるから,引用発明の「印刷する工程」と,本願発明1の「前記硬化材含浸工程の後であって、前記含浸硬化材硬化工程の前に、前記ラベル基材を前記シート状部材に積層して押圧する」こととは,後述する点で相違するものの“前記硬化材含浸工程の後であって,前記基材を前記シート状部材に積層して押圧する”ことの点で共通する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。 〈一致点〉 「インレット基材,前記インレット基材の表面に設けられたアンテナ,及び前記アンテナに接続されたICチップを前記インレット基材に備えたRFIDインレットと,前記RFIDインレットに積層される基材と,を有するRFIDを使用したシート部材の製造方法であって, 前記RFIDインレットの前記ICチップ側の面に,少なくとも前記ICチップを覆うようにシート状部材を積層するシート状部材積層工程と, 積層された前記シート状部材の前記ICチップを覆う部分であるICチップ被覆部の全領域に硬化材を含浸させる硬化材含浸工程と, 前記硬化材含浸工程で含浸された前記硬化材を硬化させる含浸硬化材硬化工程と, を有し, 前記硬化材含浸工程の後であって,前記基材を前記シート状部材に積層して押圧するRFIDを使用したシート部材の製造方法。」 〈相違点1〉 本願発明1では「ICチップ」が「前記アンテナ上面を覆うように」接続され,「RFIDインレット」は「インレット基材側からアンテナ,ICチップの順」となっているのに対して,引用発明では「アンテナ6」が「ICチップ4」の上面のバンプ5に接続され,「モジュール本体1」は「チップベース3」基材側から「ICチップ4」,「アンテナ6」の順となっている点。 〈相違点2〉 「前記RFIDインレットに積層される基材」が,本願発明1では「前記RFIDインレットに積層されるラベル基材」であって,「RFIDを使用したシート部材」が「RFIDラベル」であるのに対して,引用発明では「カバーシート12」であって,「RFIDを使用したシート部材」が「非接触式のICカード」である点。 〈相違点3〉 前記「積層して押圧する」のが,本願発明では「前記硬化材含浸工程の後であって、前記含浸硬化材硬化工程の前」であるのに対して,引用発明では「含浸させる工程」の後である点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討する。 引用文献2には,アンテナパターン2とICチップ3が設けられるベースフィルム11上に,中間シート10と表面保護シート14が積層される非接触ICタグ1(本願の「RFIDラベル」)は記載されているが,硬化材を含浸させるものではないので硬化材含浸工程や含浸硬化材硬化工程は存在しない。 また,前置報告で引用した引用文献3には,不織布12に自己圧着性を付与するために合成樹脂を含浸させた後,フレキシブルICモジュール10(本願の「RFIDインレット」に相当),不織布12(本願の「シート状部材」に相当),第1・第2のカバーシート41・43(本願の「ラベル基材」に相当)を積層しホットプレスすることが記載されている。しかしながら,引用文献3における合成樹脂の含浸工程は,フレキシブルICモジュール10と不織布12を積層する前であって,「積層された前記シート状部材・・・に硬化材を含浸させる硬化材含浸工程」ではない。さらに,引用文献3の図26の製造方法においても,フレキシブルICモジュール10,不織布12,第1・第2のカバーシート41・43の積層は,案内ローラ27により一度で行われており,フレキシブルICモジュール10と不織布12のみ積層した状態で合成樹脂を含浸させることは引用文献3においては不可能なことと認められる。してみると,含浸工程が異なっており,引用発明に引用文献3の技術事項を適用することはできない。 したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1が引用発明及び引用文献2,3に記載の技術事項に基づき当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。 以上のとおりであるから,本願発明1が引用発明及び引用文献2,3に記載の技術事項に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明及び引用文献2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 原査定について <特許法29条2項について> 審判請求時の補正により,本願発明1及び2は上記第3に示したとおりのものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1乃至2(上記第4の引用文献1乃至2)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-09-14 |
出願番号 | 特願2015-131722(P2015-131722) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06K)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 甲斐 哲雄 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
須田 勝巳 山澤 宏 |
発明の名称 | RFIDラベルの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人後藤特許事務所 |