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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1365949
審判番号 不服2019-16406  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-04 
確定日 2020-10-05 
事件の表示 特願2015-210581「ステアリングロック装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日出願公開、特開2017- 81347、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月27日の出願であって、令和1年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月11日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2003-276565号公報
引用文献2:特開2012-11788号公報
引用文献3:特開2011-230796号公報
引用文献4:特表2011-520683号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1?4」という。)は、令和1年12月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ケース部材に取り付けられたロックバーを具備し、当該ロックバーを前進させて突出状態とすることにより車両のステアリングに係止してステアリングロックを行わせるとともに、前記ロックバーを後退させて没入状態とすることにより前記ステアリングに対する係止を解除してステアリングロックを解除し得るステアリングロック装置において、
出力軸を任意に正回転及び逆回転可能とされたモータと、
該モータの出力軸に取り付けられ、当該出力軸と共に回転可能とされた駆動ギア部材と、
該駆動ギア部材と噛み合った状態で組み付けられ、当該駆動ギア部材の回転方向に応じた方向に回転し得るとともに、メネジが形成された従動ギア部材と、
前記ロックバーと同軸に連結され、前記従動ギア部材の前記メネジと螺合するオネジが形成されるとともに、当該従動ギア部材が回転することによって前記ロックバーを軸方向に前進又は後退させ得る送りねじ部材と、
を具備し、前記従動ギア部材は、駆動ギア部材と噛み合うギアが形成された第1従動ギア部材と、前記メネジが形成された第2従動ギア部材とを有するとともに、前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じた際、当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る過負荷保護手段を具備して構成され、前記過負荷保護手段は、前記従動ギア部材の内部で移動可能に取り付けられた前記従動ギア部材及び送りねじ部材とは別個のスライダを有するとともに、前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じたとき、当該スライダが前記従動ギア部材に対して移動することにより、前記第1従動ギア部材の回転が継続して行われつつ前記第2従動ギア部材及び送りねじ部材が停止した状態で前記ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得ることを特徴とするステアリングロック装置。
【請求項2】
前記過負荷保護手段は、前記第1従動ギア部材及び第2従動ギア部材の間に介在したトルクリミッタから成り、前記ロックバーに過負荷が生じた際、前記スライダが移動することにより当該第2従動ギア部材に対して第1従動ギア部材を空回りさせることを特徴とする請求項1記載のステアリングロック装置。
【請求項3】
前記ロックバーが没入状態であることを検知する没入状態検知手段と、当該ロックバーが突出状態であることを検知する突出状態検知手段とを具備するとともに、当該没入状態検知手段又は突出状態検知手段が前記ロックバーの没入状態又は突出状態を検知したことを条件として前記モータの駆動が停止されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のステアリングロック装置。
【請求項4】
前記送りねじ部材に磁石が取り付けられるとともに、前記没入状態検知手段及び突出状態検知手段は、当該磁石の磁気を検知して前記ロックバーの没入状態及び突出状態を検知可能な磁気センサから成ることを特徴とする請求項3記載のステアリングロック装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1の記載事項及び引用発明等
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車用の電動ステアリングロック装置に関するものである。」

(1b)「【0016】電動ステアリングロック装置10は、図示しない車両のステアリングポストに取り付けられている。電動ステアリングロック装置10では、車載バッテリーなどの電源により電動モータ11を駆動し、その駆動力によりロック手段としてのロックバー22を上下方向に往復運動させている。このようにして、ロックバー22をロック位置またはアンロック位置に移動させることにより、車両のステアリングをロックまたはアンロックしている。ステアリングのロックまたはアンロックの切替は、マイコン等の制御装置により電動モータ11を正転または逆転させることにより行われている。
【0017】図1、図2に示すように、電動モータ11は駆動軸12を備え、その駆動軸12にはウォーム13が取り付けられている。電動モータ11が駆動すると、ウォーム13は駆動軸12とともに回転する。そして、ウォーム13とウォームホイール30とが噛み合うことにより、ウォームホイール30を回転させるようになっている。ウォームホイール30は、電動ステアリングロック装置10を収容するケース46に固定された支持板14によって支持されている。
【0018】ウォームホイール30の下方には、リフト部材50がロックストッパ21に固定された状態で配置されている。略円筒状のリフト部材50は、中央の内壁面に第2のネジとしての雌ネジ52が貫設されている。ロックストッパ21は、コイルスプリング23を介してロックバー22に連結されている。本実施形態において、ロック手段は、リフト部材50、ロックストッパ21、ロックバー22、コイルスプリング23から構成されている。
【0019】図2に示すように、ウォームホイール30の中央には貫通孔31が形成されている。その貫通孔31内では、前記リフト部材50に固定された回転シャフト40が、係脱ピン44を介してウォームホイール30に連結されている。回転シャフト40の一端には、回転シャフト40の径方向に沿って延びる貫通孔43が形成されている。係脱ピン44は、貫通孔43に緩挿された状態で、回転シャフト40の一端に支持されている。係脱ピン44の長さは、貫通孔43の全長よりも幾分長く設定されている。このため、係脱ピン44は、その両端部のうち少なくとも一方の端部が、貫通孔43の開口部43a,43bから突出している。つまり、係脱ピン44は、回転シャフト40の外周面から出没可能に配置されている。
【0020】回転シャフト40の下方には、電動ステアリングロック装置10を収容するケース46に固定されたストッパ60が設けられ、このストッパ60は、回転シャフト40の先端部40aが突き当たることで、回転シャフト40がストッパ60よりも下方に移動することを規制している。回転シャフト40の中央部付近には、第1のネジとしての雄ネジ45が形成されている。回転シャフト40側の雄ネジ45は、リフト部材50側の雌ネジ52に対し、雄ネジ45の進退方向に螺合されている。このように、回転シャフト40とリフト部材50との境界部には、雄ネジ45と雌ネジ52との螺合によって、回転シャフト40の回転運動をリフト部材50の直線運動に変換する送りネジ機構が構成されている。」

(1c)「【0026】次に、ロックバー22がロック位置からアンロック位置に到達するまでの電動ステアリングロック装置10の動作説明を説明する。図2に示すように、回転シャフト40が一方向に回転(正転)すると、雄ネジ45が雌ネジ52に対して進行するため、リフト部材50は上方(図2に示すA方向)に移動する。ロックバー22が上方に移動すると、ロックバー22の先端部22aは、ステアリングシャフト25の係合凹部25aから徐々に外れる。よって、図5(c)に示すように、ロックバー22がアンロック位置に移動し、ロックバー22の先端部22aがステアリングシャフト25の係合凹部25aから完全に外れると、車両のステアリングがアンロックされる。
【0027】次に、ロックバー22がアンロック位置からロック位置に到達するまでの電動ステアリングロック装置10の動作説明を説明する。回転シャフト40がアンロック時とは反対方向に回転すると、雄ネジ45が雌ネジ52に対して後退するため、リフト部材50は下方(図2に示すB方向)に移動する。ロックバー22が下方に移動すると、ロックバー22の先端部22aは、ステアリングシャフト25の係合凹部25a内に係入される。よって、ロックバー22がロック位置に移動し、ロックバー22の先端部22aがステアリングシャフト25の係合凹部25a内に完全に係入されると、車両のステアリングがロックされる。
【0028】ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたときの電動ステアリングロック装置10の動作を説明する。図5(a)、図6に示すように、ロックバー22がロック位置にあるとき、電動モータ11が駆動し続けると、雄ネジ45がリフト部材50側の雌ネジ52から後退する。この場合、リフト部材50の位置は固定されているため、回転シャフト40は、上方(図6に示すC方向)に移動する。すると、係脱ピン44が係合凹部32,33から外れ、ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除される。尚、回転シャフト40側の雄ネジ45の一部は、リフト部材50側の雌ネジ52に螺合されている。
【0029】次に、ウォームホイール30と回転シャフト40とがクラッチ機構により連結解除された後の動作説明を図4(a)?(c)に従って説明する。回転シャフト40は、ウォームホイール30との連結が解除されている一方、リフト部材50に螺合されている。このため、電動モータ11が駆動し続けると、ウォームホイール30は、図4(a)に示す時計回りに空回りし続ける。」

(1d)「【0031】図4(c)は、図4(b)のウォームホイール30が時計回りに約60度回転したときの状態を示している。この場合、係脱ピン44の一端部は、貫通孔43の中に完全に没入されている。一方、係脱ピン44の他端部は、貫通孔43の開口部43bから突出している。さらに、ウォームホイール30が時計回りに回転すると、ガイド溝3の終端部35bが係脱ピン44に接近するに従い、係脱ピン44の端面がガイド溝35の外側の内周面35eに摺動する。すると、係脱ピン44の他端部は、開口部43bから貫通孔43内に没入される一方、係脱ピン44の一端部が開口部43aから突出し図4(a)の状態に戻る。このような一連の動作を繰り返すことにより、ウォームホイール30は空回りし続ける。このため、ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けても、電動モータ11に過負荷がかかることはない。」

(1e)「【0041】・・・
【符号の説明】
10・・・電動ステアリングロック装置、11・・・電動モータ、21・・・ロックストッパ(ロック手段)、22・・・ロックバー(ロック手段)、23・・・コイルスプリング(ロック手段)、25・・・ステアリングシャフト、30・・・ウォームホイール、32,33・・・係合凹部(クラッチ機構)、35・・・ガイド溝、40・・・回転シャフト、44・・・係脱ピン(クラッチ機構)、45・・・雄ネジ(第1のネジ)、50・・・リフト部材(ロック手段)、52・・・雌ネジ(第2のネジ)。」

(1f)引用文献1には、以下の図が示されている。
【図1】


【図2】


【図3】


【図8】


【図5】


【図6】


【図7】


(2)認定事項
ア 段落【0017】の「ウォームホイール30は、電動ステアリングロック装置10を収容するケース46に固定された支持板14によって支持されている。」なる記載から、電動ステアリングロック装置10は、ケース46に取り付けられたウォームホイール30を具備するといえる。さらに、段落【0018】の「ウォームホイール30の下方には、リフト部材50がロックストッパ21に固定された状態で配置されている。・・・ロックストッパ21は、コイルスプリング23を介してロックバー22に連結されている。」なる記載から、ウォームホイール30は、ロックバー22に連結されているといえる。よって、電動ステアリングロック装置10は、ケース46に取り付けられたロックバー22を具備するといえる。

イ 段落【0016】の「ステアリングのロックまたはアンロックの切替は、マイコン等の制御装置により電動モータ11を正転または逆転させることにより行われている。」なる記載及び段落【0017】の「電動モータ11は駆動軸12を備え」なる記載から、電動モータ11は、駆動軸12を任意に正転及び逆転可能とされているといえる。

ウ 段落【0018】の「リフト部材50がロックストッパ21に固定された状態で配置されている。」なる記載及び「ロックストッパ21は、コイルスプリング23を介してロックバー22に連結されている。」なる記載から、リフト部材50はロックバー22に連結されているといえる。

エ 段落【0020】の「このように、回転シャフト40とリフト部材50との境界部には、雄ネジ45と雌ネジ52との螺合によって、回転シャフト40の回転運動をリフト部材50の直線運動に変換する送りネジ機構が構成されている。」なる記載、上記ウ及び図6?7を併せ見ると、リフト部材50は、回転シャフト40の雄ネジ45と螺合する雌ネジ52が形成されるとともに、当該回転シャフト40が回転運動することによってリフト部材50に連結されたロックバー22を軸方向に前進又は後退させ得るものといえる。

オ 段落【0017】の「電動モータ11が駆動すると、ウォーム13は駆動軸12とともに回転する。そして、ウォーム13とウォームホイール30とが噛み合うことにより、ウォームホイール30を回転させるようになっている。」なる記載を踏まえつつ図1を見ると、ウォームホイール30は、ウォーム13と噛み合うギアが形成されていることが看取できる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ケース46に取り付けられたロックバー22を具備し、ロックバー22を下方に移動させることによりロックバー22の先端部22aをステアリングシャフト25の係合凹部25a内に完全に係入して車両のステアリングをロックさせるとともに、ロックバー22を上方に移動させることによりロックバー22の先端部22aをステアリングシャフト25の係合凹部25aから完全に外して車両のステアリングをアンロックする電動ステアリングロック装置10において、
駆動軸12を任意に正転及び逆転可能とされた電動モータ11と、
その駆動軸12に取り付けられており、駆動軸12とともに回転するウォーム13と、
ウォーム13とウォームホイール30とが噛み合うことにより、ウォームホイール30を回転させるようになっており、ウォームホイール30の中央には貫通孔31が形成され、その貫通孔31内では、リフト部材50に固定された回転シャフト40が、係脱ピン44を介してウォームホイール30に連結されるとともに、回転シャフト40の中央部付近には、雄ネジ45が形成されており、
ロックバー22に連結され、回転シャフト40の雄ネジ45と螺合する雌ネジ52が形成されるとともに、当該回転シャフト40が回転運動することによってリフト部材50に連結されたロックバー22を軸方向に前進又は後退させ得るリフト部材50と、
を具備し、ウォームホイール30及び回転シャフト40は、ウォーム13と噛み合うギアが形成されたウォームホイール30と、雄ネジ45が形成された回転シャフト40とを有するとともに、ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき、ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除されるものであって、ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除されるものであることは、ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき、回転シャフト40が上方に移動し、係脱ピン44が係合凹部32,33から外れることにより、ウォームホイール30が空回りし続ける状態でウォームホイール30と回転シャフト40との連結を解除し得る電動ステアリングロック装置10。」

2 引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の記載がある。
(2a)「【0001】
本発明は、車両の駐車時にステアリングホイールの回動を電動でロックするための電動ステアリングロック装置に関するものである。」

(2b)「【0025】
更に、図1及び図2に示すように、ハウジング2内に形成された前記ロック部材収納部2Aには円筒状のギヤ部材12が回転可能に収容されており、該ギヤ部材12の下部外周はリッド4の内面(上面)に立設された前記ギヤ保持筒部4Cによって回転可能に保持されている。そして、このギヤ部材12の下部外周にはウォームギヤ12aが形成され、内周には雌ネジ部12bが形成されている。
【0026】
上記ギヤ部材12の内部には前記ドライバ7の下部が挿入されており、このドライバ7の下部外周に形成された前記雄ネジ部7aは、ギヤ部材12の内周に形成された前記雌ネジ部12bが噛合している。そして、リッド4のギヤ保持筒部4Cの中心部に形成された円柱状のスプリング受け4bとドライバ7の隔壁7cの間にはスプリング13が縮装されており、ロック部材6(ドライバ7とロックボルト8)はスプリング13によって常時上方に付勢されている。
【0027】
又、図6に示すように、ハウジング2内には電動モータ14が横置き状態で収納されており、この電動モータ14の出力軸14aには小径のウォーム15が形成されている。このウォーム15は、ハウジング2に形成された前記ロック部材収納部2A内に収納され、ギヤ部材12の外周に形成された前記ウォームギヤ12aに噛合している。ここで、ウォーム15とウォームギヤ12aは、電動モータ14の出力軸14aの回転力をロック部材6の進退力に変換する駆動機構を構成している。尚、図6に示すように、電動モータ14の出力軸14aの自由端は、ケース3に形成された軸受凹部3fによって回転可能に支持されている。」

3 引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の記載がある。
(3a)「【請求項1】
外側部材と内側部材とを組み付けて成るとともに、燃料タンクの給油口を覆いつつ回転させて取り付け可能とされたキャップ本体と、
該キャップ本体に対して回転方向に所定荷重以上の負荷が付与された際、前記外側部材を前記内側部材に対して相対的に回転させて当該キャップ本体を空回りさせるトルクリミッタ機構と、
を具備し、前記燃料タンクの給油口に取り付け可能なタンクキャップにおいて、
前記トルクリミッタ機構は、
前記内側部材に配設され、コイルバネにて付勢された係止部材と、
前記外側部材に形成され、前記キャップ本体の回転方向に対して前記係止部材と係止可能とされた凸部と、
を有し、前記外側部材に所定荷重以上の負荷が付与されると前記係止部材が前記コイルバネの付勢力に抗して変位し、前記凸部との係止が解かれることにより前記キャップ本体が空回りし得ることを特徴とするタンクキャップ。」

(3b)「【0035】
より具体的には、ボディ1b(内側部材)における所定部位には、コイルバネS4及びロックピン8(係止部材)を収容した収容部C2が複数形成されており、それぞれのロックピン8がコイルバネS4によって上方に付勢されつつ配設されている。このロックピン8(コイルバネS4も同様)は、図11に示すように、ボディ1b(内側部材)に対して円環状に複数(本実施形態においては4つ)配設されており、コイルバネS4の付勢力より大きな荷重(所定荷重)が付与されると、当該コイルバネS4が圧縮されるのに伴って変位(下降)するよう設定されている。
【0036】
また、本実施形態に係るロックピン8(係止部材)は、図4、5に示すように、キャップ本体1の回転軸(図中上下方向に延びる軸)と略平行な方向に延びたピン状部材から成るものとされている。更に、本実施形態に係るロックピン8の先端は、図13に示すように、凸部1acとの係止面8aが所定角度傾斜して成るとともに、その係止面8aと反対面8b(ロックピン8の先端における係止面8aと反対側の面)が回転方向(図13の矢印方向)に対して略垂直とされている。一方、アウタ1a(外側部材)におけるロックピン8の先端(上端)に対応する位置には、図12に示すように、下方に突出した複数の凸部1acが平面視で環状に一体形成されており、当該ロックピン8の先端が係止し得るようになっている。
【0037】
そして、アウタ1a(外側部材)を手で掴みながら締め付け方向に回転させて本タンクキャップを燃料タンクTの給油口Taに取り付ける際、図13で示すように、ロックピン8の先端が係止面8aにて凸部1acと係止しているため、当該アウタ1aと共にボディ1b及びケース1c(即ち、タンクキャップ全体)が連れ回しされるよう設定されているとともに、連れ回しの過程で過大な荷重が加わる(設定荷重以上が付与される)と、図14で示すように、ロックピン8がコイルバネS4の付勢力に抗して変位(下降)し、凸部1acとの係止が解かれるようになっている。これにより、アウタ1a(外側部材)がボディ1b及びケース1c(内側部材)に対して空回りすることとなり、過大な荷重の付与による破損等が防止されることとなる。」

4 引用文献4の記載事項
引用文献4には、次の記載がある。
(4a)「【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置であって、
前記接続部(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c;71,43)は、過負荷クラッチとして構成されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のステアリング装置であって、
前記過負荷クラッチ(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c)は、規定値を上回るトルクが当該過負荷クラッチに作用したときに滑るように構成されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のステアリング装置であって、
前記過負荷クラッチは、圧入接続によって互いに連結された少なくとも2つのクラッチ要素(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c)を備えていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のステアリング装置であって、
前記接続部は、前記スーパーポジションギアの駆動出力側のギア要素(20)と前記ステアリングシャフト(40)又は当該ステアリングシャフトの連結部(50,50a,50b)との間に設けられていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のステアリング装置であって、
前記接続部は、一方が前記スーパーポジションギアのうち駆動出力側のギア要素(20)に接続され、他方が前記ステアリングシャフト(40)に接続されたクラッチスリーブ(50,50a,50b)からなり、前記クラッチスリーブ(50,50a,50b)は、圧入によって駆動出力側の前記ギア要素(20)に接続されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項7】
請求項6に記載のステアリング装置であって、
前記ステアリングシャフト(40)は、回転が固定された状態で前記クラッチスリーブ(50,50a,50b)に接続されていることを特徴とするステアリング装置。」

(4b)「【0029】
クラッチスリーブ50は、軸方向に開口する開口部51を備え、ステアリングシャフト40をスーパーポジションギアのウォームギア20に回転連結させるのに設けられている。このクラッチスリーブは、開口部22における圧入(加圧によるはめ込み)によって、ウォームギア20に接続される。ここで、ウォームギア20のスリーブ23は、圧入用の拡張面を備えている。更に、ステアリングシャフト40のうちステアリングホイール60に向かう端部は、その外歯によって開口部51内に回転が固定された状態で取り付けられ、クラッチスリーブ50のその開口部には内面に内歯が設けられている。
【0030】
過負荷クラッチによって圧入が実現される。規定条件下、特には規定の切り替えトルクが付与された条件では、切り替えトルクに到達して、ステアリングシャフト40及びステアリングホイール60が互いに相対回転する際に、クラッチスリーブ50とウォームギア20との間に作用する力(「荷重」ともいう)の伝達が無効とされるため、ステアリングシャフト40とスーパーポジションギア20,11との間の荷重伝達が制限される。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ケース46」は本願発明1の「ケース部材」に相当し、同様に、「ロックバー22」は「ロックバー」に相当する。よって、引用発明の「ケース46に取り付けられたロックバー22を具備」することは、本願発明1の「ケース部材に取り付けられたロックバーを具備」することに相当する。

イ 引用発明の「ロックバー22を下方に移動させること」は、引用文献1の段落【0027】に「ロックバー22がアンロック位置からロック位置に到達するまでの電動ステアリングロック装置10の動作説明」として記載される事項であって、図5(b)を併せ見ると、電動ステアリングロック装置10から見て、「ロックバー22を前進させた状態とすること」といえる。 同様に、引用発明の「ロックバー22を上方に移動させること」は、引用文献1の段落【0026】に「ロックバー22がロック位置からアンロック位置に到達するまでの電動ステアリングロック装置10の動作説明」として記載される事項であって、図5(c)を併せ見ると、電動ステアリングロック装置10から見て、「ロックバー22を後退させた状態とすること」といえる。

ウ 引用発明の「ロックバー22の先端部22aをステアリングシャフト25の係合凹部25a内に完全に係入して」は、本願発明1の「車両のステアリングに係止して」に相当し、以下同様に、「車両のステアリングをロックさせる」ことは、「ステアリングロックを行わせる」ことに、「ロックバー22の先端部22aをステアリングシャフト25の係合凹部25aから完全に外して」は、「ステアリングに対する係止を解除して」に、「ステアリングをアンロックする」は、「ステアリングロックを解除し得る」に、それぞれ相当する。

エ よって、上記イ、ウを踏まえると、引用発明の「ロックバー22を下方に移動させることによりロックバー22の先端部22aをステアリングシャフト25の係合凹部25a内に完全に係入して車両のステアリングをロックさせるとともに、ロックバー22を上方に移動させることによりロックバー22の先端部22aをステアリングシャフト25の係合凹部25aから完全に外してステアリングをアンロックする電動ステアリングロック装置10において」と、本願発明1の「当該ロックバーを前進させて突出状態とすることにより車両のステアリングに係止してステアリングロックを行わせるとともに、前記ロックバーを後退させて没入状態とすることにより前記ステアリングに対する係止を解除してステアリングロックを解除し得るステアリングロック装置において」とは、「当該ロックバーを前進させた状態とすることにより車両のステアリングに係止してステアリングロックを行わせるとともに、前記ロックバーを後退させた状態とすることにより前記ステアリングに対する係止を解除してステアリングロックを解除し得るステアリングロック装置において」という点で共通する。

オ 引用発明の「駆動軸12」は、本願発明1の「出力軸」に相当し、同様に「電動モータ11」は、「モータ」に相当する。よって、引用発明の「駆動軸12を任意に正転及び逆転可能とされた電動モータ11」は、本願発明1の「出力軸を任意に正回転及び逆回転可能とされたモータ」に相当する。

カ 引用発明の「ウォーム13」は、本願発明1の「駆動ギア部材」に相当する。よって、上記オも踏まえると、引用発明の「その駆動軸12に取り付けられており、駆動軸12とともに回転するウォーム13」は、本願発明1の「該モータの出力軸に取り付けられ、当該出力軸と共に回転可能とされた駆動ギア部材」に相当する。

キ 引用発明の「ウォームホイール30」は、「ウォーム13と」「噛み合うことにより、」「回転させるようになって」いるから、ウォーム13と噛み合った状態で組み付けられ、当該ウォーム13の回転方向に応じた方向に回転し得るといえる。また、当該引用発明の「ウォームホイール30」は、「回転シャフト40が、・・・連結されるとともに、回転シャフト40の中央部付近には、第1のネジとしての雄ネジ45が形成されて」いるから、「ウォームホイール30」及び「回転シャフト40」を合わせたものは、ウォーム13と噛み合った状態で組み付けられ、ウォーム13の回転方向に応じた方向に回転し得るとともに、雄ネジ45が形成されているといえる。
よって、引用発明の「ウォームホイール30」及び「回転シャフト40」を合わせたものと、本願発明1の「該駆動ギア部材と噛み合った状態で組み付けられ、当該駆動ギア部材の回転方向に応じた方向に回転し得るとともに、メネジが形成された従動ギア部材」とは、上記カも踏まえると、「該駆動ギア部材と噛み合った状態で組み付けられ、当該駆動ギア部材の回転方向に応じた方向に回転し得るとともに、ネジが形成された従動ギア部材」という点で共通する。

ク 上記キで述べたとおり、引用発明の「回転シャフト40」は、本願発明1の従動ギア部材を構成するものであるから、引用発明の「ロックバー22に連結され、回転シャフト40の雄ネジ45と螺合する雌ネジ52が形成されるとともに、当該回転シャフト40が回転運動することによってリフト部材50に連結されたロックバー22を軸方向に前進又は後退させ得るリフト部材50」と、本願発明1の「前記ロックバーと同軸に連結され、前記従動ギア部材の前記メネジと螺合するオネジが形成されるとともに、当該従動ギア部材が回転することによって前記ロックバーを軸方向に前進又は後退させ得る送りねじ部材」とは、上記アも踏まえると、「前記ロックバーに連結され、前記従動ギア部材の前記ネジと螺合するネジが形成されるとともに、当該従動ギア部材が回転することによって前記ロックバーを軸方向に前進又は後退させ得る送りねじ部材」という点で共通する。

ケ 上記キで述べたとおり、「ウォームホイール30」及び「回転シャフト40」を合わせたものは、従動ギア部材ということができる。そして、引用発明の「ウォーム13と噛み合うギアが形成されたウォームホイール30」は、上記カを踏まえると、本願発明1の「駆動ギア部材と噛み合うギアが形成された第1従動ギア部材」に相当し、また、引用発明の「雄ネジ45が形成された回転シャフト40」と、本願発明1の「前記メネジが形成された第2従動ギア部材」とは、「前記ネジが形成された第2従動ギア部材」という点で共通する。よって、引用発明の「ウォームホイール30及び回転シャフト40は、ウォーム13と噛み合うギアが形成されたウォームホイール30と、雄ネジ45が形成された回転シャフト40とを有する」ことと、本願発明1の「前記従動ギア部材は、駆動ギア部材と噛み合うギアが形成された第1従動ギア部材と、前記メネジが形成された第2従動ギア部材とを有する」こととは、「前記従動ギア部材は、駆動ギア部材と噛み合うギアが形成された第1従動ギア部材と、前記ネジが形成された第2従動ギア部材とを有する」点で共通する。

コ 引用発明において、「ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき」、ロックバー22がロック位置より下方に移動できず過負荷が生じることは技術的に明らかであるから、引用発明の「ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき」と、本願発明1の「前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じた際」とは、「過負荷が生じた際」という点で共通する。また、引用発明の「ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除されるものであ」ることは、「ウォームホイール30」は、電動モータ11の駆動軸に取り付けられたウォーム13と噛み合っており、「回転シャフト40」は、ロックバ-22に連結されたリフト部材50に螺合しているから、本願発明1の「当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る過負荷保護手段」に相当する。

サ 引用発明の「ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき」と、本願発明1の「前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じたとき」とは、上記コで述べたのと同様に、「過負荷が生じたとき」という点で共通する。

シ 引用発明の「ウォームホイール30が空回りし続け」ることは、ウォームホイール30の回転は継続して行われているといえる。また、「空回り」していることから、ウォームホイール30の駆動力は回転シャフト40及びリフト部材50に伝達されていないことは明らかであって、回転シャフト40及びリフト部材50は停止した状態であるといえる。さらに、引用発明の「ウォームホイール30と回転シャフト40との連結を解除し得る」ことは、上記コで述べたのと同様に、本願発明1の「当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る」ことに相当する。よって、上記コ、サも踏まえると、引用発明の「ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除されるものであることは、ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき、回転シャフト40が上方に移動し、係脱ピン44が係合凹部32,33から外れることにより、ウォームホイール30が空回りし続ける状態でウォームホイール30と回転シャフト40との連結を解除し得る」ことと、本願発明1の「前記過負荷保護手段は、前記従動ギア部材の内部で移動可能に取り付けられた前記従動ギア部材及び送りねじ部材とは別個のスライダを有するとともに、前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じたとき、当該スライダが前記従動ギア部材に対して移動することにより、前記第1従動ギア部材の回転が継続して行われつつ前記第2従動ギア部材及び送りねじ部材が停止した状態で前記ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る」こととは、「前記過負荷保護手段は、過負荷が生じたとき、前記第1従動ギア部材の回転が継続して行われつつ前記第2従動ギア部材及び送りねじ部材が停止した状態で前記ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る」点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、
「ケース部材に取り付けられたロックバーを具備し、当該ロックバーを前進させた状態とすることにより車両のステアリングに係止してステアリングロックを行わせるとともに、前記ロックバーを後退させた状態とすることにより前記ステアリングに対する係止を解除してステアリングロックを解除し得るステアリングロック装置において、
出力軸を任意に正回転及び逆回転可能とされたモータと、
該モータの出力軸に取り付けられ、当該出力軸と共に回転可能とされた駆動ギア部材と、
該駆動ギア部材と噛み合った状態で組み付けられ、当該駆動ギア部材の回転方向に応じた方向に回転し得るとともに、ネジが形成された従動ギア部材と、
前記ロックバーに連結され、前記従動ギア部材の前記ネジと螺合するネジが形成されるとともに、当該従動ギア部材が回転することによって前記ロックバーを軸方向に前進又は後退させ得る送りねじ部材と、
を具備し、前記従動ギア部材は、駆動ギア部材と噛み合うギアが形成された第1従動ギア部材と、前記ネジが形成された第2従動ギア部材とを有するとともに、過負荷が生じた際、当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る過負荷保護手段を具備して構成され、前記過負荷保護手段は、過負荷が生じたとき、前記第1従動ギア部材の回転が継続して行われつつ前記第2従動ギア部材及び送りねじ部材が停止した状態で前記ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得るステアリングロック装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点〕
〔相違点1〕
「ロックバー」の前進及び後退に関し、本願発明1は「前進させて突出状態とする」とともに「後退させて没入状態とする」のに対し、引用発明は「前進させた状態とする」とともに「後退させた状態とする」点。
〔相違点2〕
「従動ギア部材」及び「第2従動ギア部材」と「送りねじ部材」との螺合に関し、本願発明1は、「従動ギア部材」及び「第2従動ギア部材」に「メネジ」が形成され、「送りねじ部材」に「オネジ」が形成されているのに対し、引用発明は、「ウォームホイール30」及び「回転シャフト40」を合わせたもの(従動ギア部材)及び「回転シャフト40」(第2従動ギア部材)に「雄ネジ45」が形成され、「リフト部材50」(送りねじ部材)に「雌ネジ52」が形成されている点。
〔相違点3〕
「送りねじ部材」と「ロックバー」との連結に関し、本願発明1は、両者が「同軸」に連結されているのに対し、引用発明は、そのような事項を有しない点。
〔相違点4〕
「過負荷保護手段」に関し、本願発明1は、「前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じた際、当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る」ものであって、「前記従動ギア部材の内部で移動可能に取り付けられた前記従動ギア部材及び送りねじ部材とは別個のスライダを有するとともに、前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じたとき、当該スライダが前記従動ギア部材に対して移動することによ」るものであるのに対し、引用発明は、「ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき、ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除されるものであって」、「ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき、回転シャフト40が上方に移動し、係脱ピン44が係合凹部32,33から外れることによ」るものである点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点4について先に検討する。
ア 上記第4の3に示した引用文献3には、「トルクリミッタ機構」として、「前記内側部材に配設され、コイルバネにて付勢された係止部材と、前記外側部材に形成され、前記キャップ本体の回転方向に対して前記係止部材と係止可能とされた凸部と、を有し、前記外側部材に所定荷重以上の負荷が付与されると前記係止部材が前記コイルバネの付勢力に抗して変位し、前記凸部との係止が解かれることにより前記キャップ本体が空回りし得る」構成が記載されている(適示(3a))。ここで、引用文献3記載の「トルクリミッタ機構」は、「過負荷保護手段」ということができ、また、「係止部材」はコイルバネにて付勢され変位可能であるから、「スライダ」ということができる。

イ また、上記第4の4に示した引用文献4には、「過負荷クラッチ(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c)」として、「【請求項3】・・・前記過負荷クラッチ(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c)は、規定値を上回るトルクが当該過負荷クラッチに作用したときに滑るように構成されて」おり、「【請求項4】・・・前記過負荷クラッチは、圧入接続によって互いに連結された少なくとも2つのクラッチ要素(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c)を備え」、「【請求項5】・・・前記接続部は、前記スーパーポジションギアの駆動出力側のギア要素(20)と前記ステアリングシャフト(40)又は当該ステアリングシャフトの連結部(50,50a,50b)との間に設けられ」、「【請求項6】・・・前記接続部は、一方が前記スーパーポジションギアのうち駆動出力側のギア要素(20)に接続され、他方が前記ステアリングシャフト(40)に接続されたクラッチスリーブ(50,50a,50b)からなり、前記クラッチスリーブ(50,50a,50b)は、圧入によって駆動出力側の前記ギア要素(20)に接続され」る構成が記載されている(適示(4a))。ここで、引用文献4記載の「過負荷クラッチ(20,50;20,50a;20,50b;50b,50c)」は、「過負荷防止手段」ということができ、また、「クラッチスリーブ(50,50a,50b)」は、圧入によってギア要素(20)に接続され、規定値を上回るトルクが当該過負荷クラッチに作用したときに(ギア要素20に対して)滑るものであるから、「スライダ」ということができる。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、過負荷保護手段として、2つの部材間で移動可能に取り付けられたスライダを設け、過負荷が生じたとき、当該スライダが2つの部材間で移動することにより、一方の部材の回転が継続して行われつつ他方の部材が停止した状態で回転力の伝達を遮断するものは、本願出願前の周知技術であったといえる。

エ しかしながら、本願発明1の「過負荷保護手段」は、「前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じた際、当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断し得る」ものであり、その課題は、本願明細書の段落【0032】記載のとおり「過負荷が生じる原因としては、ロックバーRが被係止穴Fと合致しない位置にあるとき前進された場合やロックバーRの前進経路に異物がある場合等が想定される」ものであって、その効果は、本願明細書の段落【0046】記載のとおり「ロックバーRのステアリングに対する係止が良好に行われない場合が生じてもモータ3等に不具合が生じてしまうのを防止することができる」というものである。
これに対し、引用発明の「過負荷保護手段」は、「ロックバー22がロック位置に配置された状態で、電動モータ11が駆動し続けたとき、ウォームホイール30と回転シャフト40との連結が解除されるもの」、すなわち、ロックバー22の前進が終了した後の過負荷を防止するものであって、ロックバー22が前進する過程での過負荷を防止することを記載ないし示唆するものではない。
そうすると、上記ウで述べた過負荷保護手段が周知技術であったとしても、引用発明において、ロックバー22の前進が終了した後の過負荷を防止する手段といえる「回転シャフト40が上方に移動し、係脱ピン44が係合凹部32,33から外れる」構成に代えて、ロックバー22が前進する過程での過負荷を防止するために、上記周知技術である過負荷保護手段の構成を適用する動機付けがあったとはいえない。

オ そして、上記第4の2に示した引用文献2には、「電動ステアリングロック装置」において(適示(2a))、「上記ギヤ部材12の内部には前記ドライバ7の下部が挿入されており、このドライバ7の下部外周に形成された前記雄ネジ部7aは、ギヤ部材12の内周に形成された前記雌ネジ部12bが噛合している。」(適示(2b))ことが記載されているが、当該技術的事項も、引用発明において、ロックバー22が前進する過程での過負荷を防止することを記載ないし示唆するものではない。

カ したがって、上記相違点4に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得たものということはできないから、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定して発明を特定するものであるから、本件発明1と同様に、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
本願発明1?4は、「前記ロックバーが前進する過程で過負荷が生じた際、当該ロックバーに対する前記モータの駆動力の伝達を遮断」するという事項を有するものであるから、上記第5で述べたのと同様に、拒絶査定において引用された引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-15 
出願番号 特願2015-210581(P2015-210581)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野田 達志  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 藤井 昇
佐々木 一浩
発明の名称 ステアリングロック装置  
代理人 越川 隆夫  

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