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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1366045
異議申立番号 異議2019-700071  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-30 
確定日 2020-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6371787号発明「活性炭、およびその製造方法、並びに該活性炭を用いた電気二重層キャパシタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6371787号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5、7、8、10〕、〔6、11?15〕、〔9、16?19〕について訂正することを認める。 特許第6371787号の請求項6、9、11?19に係る特許を維持する。 特許第6371787号の請求項1?5、7、8、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6371787号は、平成28年3月24日に出願された特願2016-60129号の特許請求の範囲に記載された請求項1?10に係る発明について、平成30年7月20日に特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、平成31年1月30日付けで特許異議申立人松村朋子(以下、「申立人」という。)により、甲第1号証?甲第18号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、同年4月19日付けで取消理由が通知され、令和元年6月24日付けで特許権者より、意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年8月2日付けで申立人より、甲第19号証?甲第23号証を証拠方法とする意見書の提出がされ、同年11月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和2年1月14日付けで特許権者より、意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされ、同年3月19日付けで申立人より、甲第24号証及び甲第25号証を証拠方法とする意見書の提出がされ、同年4月6日に合議体より特許権者代理人に対する審尋が電話応対でなされ、同年4月21日にその回答が電話及びFAX応対でなされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:JIS Z8831-2:2010、「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性-第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法」、日本規格協会
甲第2号証:特開2013-173633号公報
甲第3号証:特表2016-507446号公報
甲第4号証:R.Leboda他,"Effect of Calcium Catalyst Loading Procedure on the Porous Structure of Active Carbon from Plum Stones Modified in the Steam Gasification Process",Carbon Vol.36,No.4(1998)417-425
甲第5号証:Akshay Jain他,"Tuning hydrochar properties for enhanced mesopore development in activated carbon by hydrothermal carbonization",Microporous and Mesoporous Materials 203(2015)178-185
甲第6号証:F.J.Martin-Jimeno他,"Activated carbon xerogels with a cellular morphology derived from hydrothermally carbonized glucose-graphene oxide hybrids and their performance towards CO_(2) and dye adsorption",CARBON 81(2015)137-147
甲第7号証:Su-Ling Liu他,"Preparation and pore characterization of activated carbon from Ma bamboo(Dendrocalamus latiflorus) by H_(3)PO_(4) chemical activation",J Porous Mater(2014)21:459-466
甲第8号証:Raphael Rodrigues他,"Solvent-free conversion of glycerol to solketal catalysed by activated carbons functionalised with acid groups",Catalysis Science and Technology(2014,4)2293-2301
甲第9号証:S.Tazibet他,"The influence of the cooling down step in the heat treatment on the stability of activated carbons hydrophobicity", Adsorption(2014)20:545-553
甲第10号証:Dilek Angin他,"Production and characterization of activated carbon from sour cherry stones by zinc chloride",Fuel 115(2014)804-811
甲第11号証:玉井久司、「金属化合物添加による多孔質炭素の細孔制御」、炭素、227(2007)122-128
甲第12号証:D.Cazorla-Amoros他,"SELECTIVE POROSITY DEVELOPMENT BY CALCIUM-CATALYZED CARBON GASIFICATION",Carbon Vol.34,No.7(1996)869-878
甲第13号証:柳井弘編著、「活性炭読本」、第2版、日刊工業新聞社、1998年3月10日、44-46頁
甲第14号証:神頭将之他、「高性能電気二重層キャパシタ電極用活性炭」、日立化成テクニカルレポート、No.51(2008-7)13-16
甲第15号証:特開2000-182904号公報
甲第16号証:特開2008- 28028号公報
甲第17号証:特開2001-143973号公報
甲第18号証:特開2007-221108号公報
甲第19号証:Jiao-Jiao Kong他,"Comparative study on microstructure and surface properties of keratin-and lignocellulosic-based activated carbons",Fuel Processing Technology 140(2015)67-75
甲第20号証:特開2011- 46584号公報
甲第21号証:特開2001-319837号公報
甲第22号証:Chien-To Hsieh他,"Influence of mesopore volume and adsorbate size on adsorption capacities of activated carbons in aqueous solutions",Carbon 38(2000)863-869
甲第23号証:Gabriel Sigmund他,"Biochar total surface area and total pore volume determined by N_(2) and CO_(2) physisorption are strongly influenced by degassing temperature",Science of the Total Environment 580(2017)770-775
甲第24号証:特開昭59-105312号公報
甲第25号証:特開昭59-173979号公報


第2 本件訂正請求について

1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?21のとおりである(下線部は訂正箇所に当審で付した。)。
なお、本件訂正請求により、令和元年6月24日付け訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6における
「請求項1?5のいずれか一項に記載」との記載を、
「BET比表面積が1550?1950m^(2)/g、細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、平均細孔径が2.05?2.32nm」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6における
「の活性炭を含有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。」との記載を、
「、且つ全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である活性炭を含有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11を以下のとおり追加する。
「前記活性炭は平均粒子径が10μm以下である請求項6に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。」

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12を以下のとおり追加する。
「前記活性炭は粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれるものである請求項6、11のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。」

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13を以下のとおり追加する。
「前記活性炭の全細孔容積は0.90?3.0cm^(3)/gである請求項6、11、12のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。」

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項14を以下のとおり追加する。
「請求項6、11?13のいずれかに記載の電極材料を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。」

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項15を以下のとおり追加する。
「請求項14に記載の電極を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。」

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9における
「請求項1?5のいずれかに記載」との記載を、
「BET比表面積が1550?1950m^(2)/g、細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、平均細孔径が2.05?2.32nm」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9における
「の活性炭の製造方法。」との記載を、
「、且つ全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項16を以下のとおり追加する。
「前記活性炭は平均粒子径が10μm以下である請求項9に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。」

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項17を以下のとおり追加する。
「前記活性炭は粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれるものである請求項9、16のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。」

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項18を以下のとおり追加する。
「前記活性炭の全細孔容積は0.90?3.0cm^(3)/gである請求項9、16、17のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。」

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項19を以下のとおり追加する。
「前記炭素原料に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで炭化した後、または
前記炭素原料を炭化し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、あるいは
前記炭素原料を炭化した後、水蒸気賦活し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、
前記最後の水蒸気賦活する請求項9、16?18のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。」

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(22)一群の請求項について
訂正前の請求項2?10が、直接又は間接的に訂正前の請求項1を引用するものであり、全ての請求項が一群の関係にあるから、訂正事項1?21の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?19について請求されたものである。
ここで、訂正後の請求項6については、訂正事項1により請求項1との引用関係の解消がなされており、訂正後の特許請求の範囲に追加され訂正後の請求項6と一群の関係となった訂正後の請求項11?15とともに、一群の請求項の他の請求項とは「別の訂正単位とする求め」がされている。
また、訂正後の請求項9については、訂正事項8により請求項1との引用関係の解消がなされており、訂正後の特許請求の範囲に追加され訂正後の請求項9と一群の関係となった訂正後の請求項16?19とともに、一群の請求項の他の請求項とは「別の訂正単位とする求め」がされている。

2.訂正要件の判断
(1)訂正の目的について
訂正事項1、2は、訂正前の請求項6が「請求項1?5のいずれか一項」を引用していたのを、「請求項2」を引用するものについて独立形式に改め、訂正前の請求項6を特定していた活性炭について、BET比表面積の数値範囲がより狭い範囲となるようにその下限を変更し、細孔径3nm以上の細孔容積の数値範囲がより狭い範囲となるようにその下限及び上限を変更し、平均細孔径の数値範囲がより狭い範囲となるようにその上限を変更し、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率の数値範囲がより狭い範囲となるようにその下限及び上限を変更するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項3は、訂正前の請求項6が「請求項1?5のいずれか一項」を引用していたのを、「請求項3」を引用するものについて新たな請求項11とし、訂正前の請求項3が「請求項1または2」を引用していたことに基づき上記訂正事項1及び2と整合して「請求項6」を引用するものとしたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項4は、訂正前の請求項6が「請求項1?5のいずれか一項」を引用していたのを、「請求項4」を引用するものについて新たな請求項12とし、訂正前の請求項4が「請求項1?3のいずれか」を引用していたことに基づき上記訂正事項1?3と整合して「請求項6、11のいずれか」を引用するものとしたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項5は、訂正前の請求項6が「請求項1?5のいずれか一項」を引用していたのを、「請求項5」を引用するものについて新たな請求項13とし、訂正前の請求項5が「請求項1?4のいずれか」を引用していたことに基づき上記訂正事項1?4と整合して「請求項6、11、12のいずれか」を引用するものとしたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項6は、訂正前の請求項7が「請求項6」を引用していたのを、訂正前の請求項6が「請求項1?5のいずれか」を引用していたことに基づき上記訂正事項1?5と整合して「請求項6、11?13のいずれか」を引用するものとして新たな請求項14としたものであるから、上記訂正事項1?5と同様、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項7は、訂正前の請求項8が「請求項7」を引用していたのを、上記訂正事項6と整合して「請求項14」を引用するものとして新たな請求項15としたものであるから、上記訂正事項6と同様、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項8、9は、訂正前の請求項9が「請求項1?5のいずれか」を引用していたのを、「請求項2」を引用するものについて独立形式に改め、訂正前の請求項9を特定していた活性炭について、BET比表面積の数値範囲がより狭い範囲となるようにその下限を変更し、細孔径3nm以上の細孔容積の数値範囲がより狭い範囲となるようにその下限及び上限を変更し、平均細孔径の数値範囲がより狭い範囲となるようにその上限を変更し、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率の数値範囲がより狭い範囲となるようにその下限及び上限を変更し、さらにその製造される活性炭の用途を限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項10は、訂正前の請求項9が「請求項1?5のいずれか」を引用していたのを、「請求項3」を引用するものについて新たな請求項16とし、訂正前の請求項3が「請求項1または2」を引用していたことに基づき上記訂正事項8及び9と整合して「請求項9」を引用するものとしたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項11は、訂正前の請求項9が「請求項1?5のいずれか」を引用していたのを、「請求項4」を引用するものについて新たな請求項17とし、訂正前の請求項4が「請求項1?3のいずれか」を引用していたことに基づき上記訂正事項8?10と整合して「請求項9、16のいずれか」を引用するものとしたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項12は、訂正前の請求項9が「請求項1?5のいずれか」を引用していたのを、「請求項5」を引用するものについて新たな請求項18とし、訂正前の請求項5が「請求項1?4のいずれか」を引用していたことに基づき上記訂正事項8?11と整合して「請求項9、16、17のいずれか」を引用するものとしたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項13は、訂正前の請求項10が「請求項9」を引用していたのを、訂正前の請求項9が「請求項1?5のいずれか」を引用していたことに基づき上記訂正事項8?12と整合して「請求項9、16?18のいずれか」を引用するものとして新たな請求項19としたものであるから、上記訂正事項8?12と同様、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項14?21は、何れも請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。

以上のことから、訂正事項1?21に係る訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項であり、適法である。

(2)新規事項追加の有無について
訂正事項1におけるBET比表面積の数値範囲の下限の点については、本件明細書【0022】の「比表面積は好ましくは1500m^(2)/g以上、より好ましくは1550m^(2)/g以上であり」との記載、同じく細孔径3nm以上の細孔容積の数値範囲の下限及び上限の点については、本件明細書【0023】の「細孔径3nm以上の細孔容積は好ましくは0.10cm^(3)/g以上、より好ましくは0.15cm^(3)/g以上であり、好ましくは0.30cm^(3)/g以上、より好ましくは0.25cm^(3)/g以下である」との記載及び【0077】【表1】の記載、同じく平均細孔径の数値範囲の上限の点については、本件明細書【0024】の「平均細孔径は、好ましくは2.10nm以上、好ましくは2.55nm以下、より好ましくは2.50nm以下である。」との記載及び【0077】【表1】の記載に基づくものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。 ^( )
訂正事項2における全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率の上限及び下限の点については、本件明細書【0025】の「本発明の活性炭は、全細孔容積に対して上記細孔径3nm以上の細孔容積(以下、「細孔径3nm以上の細孔容積」という)の比率が好ましくは12?39%である。細孔径3nm以上の細孔容積の比率が高くなると、移動速度が向上するため、より好ましくは15%以上である。一方、細孔径3nm以上の細孔容積の比率が高くなり過ぎると、活性炭のかさ密度が低下するため、より好ましくは30%以下である」との記載及び【0077】【表1】の記載に基づくものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項3?5は、訂正事項1及び2が合わせて訂正前の請求項6で請求項2(及び1)を引用していたものを独立形式に改めたものであることに伴い、訂正前の請求項6で他の先行する請求項3?5を引用していたものをそれぞれ独立形式に改め、それらの引用関係を整理したものであるから、何れも明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項6は、訂正事項1?5に伴い、訂正前の請求項6を引用していた請求項7を独立形式に改め、その引用関係を整理したものであるから、明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項7は、訂正事項6に伴い、訂正前の請求項7を引用していた請求項8を独立形式に改め、その引用関係を整理したものであるから、明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項8におけるBET比表面積の数値範囲の下限の点、細孔径3nm以上の細孔容積の数値範囲の下限及び上限の点並びに平均細孔径の数値範囲の上限の点については、何れも訂正事項1と同様であるから、何れも新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項9における全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率の上限及び下限の点については、訂正事項2と同様であり、製造される活性炭の用途の点については、本件明細書【0050】の「本発明によれば、本発明の上記活性炭を含有する電気二重層キャパシタ用電極材料・・・が提供できる。」との記載に基づくものであるから、何れも新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項10?12は、訂正事項8及び9が合わせて訂正前の請求項9で請求項2(及び1)を引用していたものを独立形式に改めたものであることに伴い、訂正前の請求項9で他の先行する請求項3?5を引用していたものをそれぞれ独立形式に改め、それらの引用関係を整理したものであるから、何れも明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項13は、訂正事項8?12に伴い、訂正前の請求項9を引用していた請求項10を独立形式に改め、その引用関係を整理したものであるから、明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項14?21は、何れも請求項を削除するものであるから、明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。

以上、訂正事項1?21は、何れも新規事項の追加に該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1?21は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件について
本件異議申立ては全ての請求項が対象となっており、異議申立てがされていない請求項についての訂正事項はないから、独立特許要件の検討は要しない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5、7、8、10〕、〔6、11?15〕、〔9、16?19〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件特許に係る発明

令和2年1月14日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載は次のとおりであり、本件訂正後の請求項6、9、11?19に係る発明(それぞれ「本件発明6」、「本件発明9」、「本件発明11」?「本件発明19」、まとめて「本件発明」という。)は、その請求項6、9、11?19に記載された事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
BET比表面積が1550?1950m^(2)/g、 ^( )
細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、
平均細孔径が2.05?2.32nm、且つ
全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である活性炭を含有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれる炭素原料を炭化し、次いで1回以上水蒸気賦活することで炭素原料由来物を順次処理することとし、
最後の水蒸気賦活を実施するまでに炭素原料由来物にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を添着させておき、添着状態を維持したまま前記最後の水蒸気賦活を実施すると共に、前記添着後の賦活処理は水蒸気賦活であることを特徴とするBET比表面積が1550?1950m
^(2)/g、細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、平均細孔径が2.05?2.32nm、且つ全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記活性炭は平均粒子径が10μm以下である請求項6に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項12】
前記活性炭は粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれるものである請求項6、11のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項13】
前記活性炭の全細孔容積は0.90?3.0cm^(3)/gである請求項6、11、12のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。 ^( )
【請求項14】
請求項6、11?13のいずれかに記載の電極材料を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電極を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項16】
前記活性炭は平均粒子径が10μm以下である請求項9に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項17】
前記活性炭は粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれるものである請求項9、16のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項18】
前記活性炭の全細孔容積は0.90?3.0cm^(3)/gである請求項9、16、17のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項19】
前記炭素原料に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで炭化した後、または
前記炭素原料を炭化し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、あるいは
前記炭素原料を炭化した後、水蒸気賦活し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、
前記最後の水蒸気賦活する請求項9、16?18のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。」


第4 取消理由について

1.令和元年11月12日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について

(1)取消理由の概要
(理由1)本件の令和元年6月24日付け訂正特許請求の範囲に記載された請求項6、11、13?16に係る発明は、甲第9号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項に違反して特許されたものである。

(理由2)本件の令和元年6月24日付け訂正特許請求の範囲に記載された請求項6、11?16に係る発明は、甲第9号証に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。

(理由3)本件の令和元年6月24日付け訂正特許請求の範囲に記載された請求項9、17?21に係る発明は、甲第11号証に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。

(2)取消理由についての判断
ア.理由1及び理由2について
(ア)甲第9号証の記載事項及び甲第9号証に記載された発明
甲第9号証には、活性炭(activated carbon : AC)の用途に関し以下の記載があり、その一つとしてキャパシタ(supercapacitors)が挙げられ、熱処理による電気二重層キャパシタの電気化学的特性改善が示唆されている。
「The use of heat treatment is extended to the electrochemistry field. Indeed, AC is one of the most attractive materials for supercapacitors, although the presence of oxygen functional groups on the carbon surface can reduce their performance.・・・The heat treatment is also proposed to improve the electrochemical properties of double layer capacitors(Sun et al. 2008)」(p545右欄21行-下から3行)
そして、具体的に熱処理に関わる実験がなされた各種活性炭の発明が記載されている(p546-547の「2 Experimental」の項、p547の下記「Fig.1」、「Table 2」等)。

上記のTable 2及びFig.1に示されている活性炭「ACT1」及び「ACT2」については、何れもBET比表面積S_(BET)は1592m^(2)/gであり、また、Fig.1は、-196℃での試験であることからして、V_(STP)(cm^(3)/g)は液体で表現されるものであるということができる。 ^( )
ここで、甲第1号証の附属書Aに記載された細孔径と分圧(P/P_(0))との対応表によれば、細孔径30nmに対応する分圧(P/P_(0))は約0.93であると共に、細孔径3nmに対応する分圧(P/P_(0))は約0.35であるから、上記Fig.1の窒素吸着等温線により、分圧(P/P_(0))が約0.93(細孔径30nm)であるときの窒素吸着容積V_(N)(液体で表現されたもの)は約590cm^(3)/g、分圧(P/P_(0))が約0.35(細孔径3nm)であるときの窒素吸着容積V_(N)(液体で表現されたもの)は約480cm^(3)/gであることが読み取れる。そして、甲第1号証の附属書Aの「注m)[及びl)]」によれば、 ^( )
ΔV_(l)(そのステップでの窒素の吸着量)=ΔV×1.5468×10^(-3)
(ΔVは、液体の体積として表現されるそのステップでの窒素の吸着量)
であるから、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)に対応するΔV_(l)(3nm?30nm)は、以下のように求まる。 _( )
ΔV_(l)(3nm?30nm)=(約590-約480)×約1.55×10^(-3)
=約0.17cm^(3)/g
また、同じく全細孔容積(細孔径30nm以下)は、分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)約590cm^(3)/gから、^( )
全細孔容積(細孔径30nm以下)=約590×約1.55×10^(-3)
=約0.91cm^(3)/g^( )
さらに、本件明細書【0069】の記載によれば、平均細孔径は、活性炭の細孔をシリンダー状と仮定して算出され、平均細孔径(nm)=(4×全細孔容積(cm^(3)/g))/比表面積(m^(2)/g)×1000であるから、^( )
平均細孔径(nm)=(4×約0.91/1592)×1000
=約2.30nm
そして、全細孔容積が約0.91cm^(3)/g、3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積約0.17cm^(3)/gであるから、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率は約19%である。^( )
そうすると、甲第9号証には、
「BET比表面積が1592m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm以上の細孔容積が約0.17cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.30nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約19%である電気二重層キャパシタに使用できる活性炭」
の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)甲各号証に記載された活性炭と周知慣用技術
(イ-1)甲第2号証に記載された活性炭
甲第2号証には、リンゴ剪定枝を原料とし、薬品添加することなくガス賦活することにより得られるメソ孔(2?50nmの孔)容積0.1cm^(3)/g以上の活性炭について記載されており(請求項1、【0016】等)、キャパシタ用とすることが示唆されており(【0044】)、具体的に開示されている比表面積は1500m^(2)/gである(【0010】、【0031】【0032】【表2】等)。
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、図3左の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.16cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約0.82cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.19nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約530cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約430cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約20%である。
そうすると、甲第2号証には、
「比表面積が1500m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.16cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.19nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約20%であり、リンゴ剪定枝を原料とし、薬品添加することなくガス賦活することにより得られる活性炭」が記載されていると認められる。

(イ-2)甲第3号証に記載された活性炭
甲第3号証には、窒素等温線、表面積、細孔容積、および電気化学的試験のデータが示された17シリーズの活性炭試料が記載されている(【0342】、【0344】表19、【図17】)。また、キャパシタへの適用が示唆されている(【0273】?【0278】)。表19に示されている「試料19-2」については、BET比表面積(【0070】)SSAは1699m^(2)/gである。^( )
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、図17の窒素等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.33cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約1.07cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.52nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約690cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約480cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約32%である。
そうすると、甲第3号証には、
「BET比表面積が1699m^(2)/gであり、窒素等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.33cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.52nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約32%である活性炭」が記載されていると認められる。

(イ-3)甲第4号証に記載された活性炭
甲第4号証には、プラムの種(Plum Stones)由来の活性炭が記載されている(p418の「2.EXPERIMENTAL」の項、p419の「Table 1.」、p420の「Fig.1.」等)。Table 1.及びFig.1.に示されている活性炭「PS-4」については、BET比表面積S_(BET)は1701m^(2)/gである。 ^( )
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、Fig.1.の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.19cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約0.93cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.19nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約600cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約480cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約20%である。
そうすると、甲第4号証には、
「BET比表面積が1701m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.19cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.19nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約20%である活性炭」が記載されていると認められる。

(イ-4)甲第5号証に記載された活性炭
甲第5号証には、ヤシ殻(coconut shells)を原料として3つのカテゴリーでサンプルが作製された各種の活性炭の特性が図3(77Kにおける窒素吸着等温線)及び表2(BET比表面積を含む諸データ)として記載されており (p179左欄下から23-11行) 、その用途の一つとしてキャパシタ(supercapacitors)が挙げられており(p178左欄8-13行)、塩化亜鉛の存在下200℃で薬品賦活された活性炭である「ZHTP-[2]-200」については、表2により、BET比表面積が1673m^(2)/gである。
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、図3の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.23cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約1.085cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.59nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約700cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約550cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約22%である。
そうすると、甲第5号証には、
「BET比表面積が1673m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.23cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.59nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約22%である活性炭」が記載されていると認められる。
同様に、活性炭「ZHTP-[2]-315」として、
「BET比表面積が1655m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.22cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.58nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約21%である活性炭」も記載されていると認められる。

(イ-5)甲第6号証に記載された活性炭
甲第6号証には、各種活性炭が記載されており(p138-139の「2. Experimental」の項、p143の「Fig.6」の上図、p144の「Table 1」等)、Table 1及びFig.6に示されている活性炭「HTC-K4-T7」については、BET比表面積S_(BET)は1844m^(2)/gである。^( )
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、Fig.6の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.20cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約1.13cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.45nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約730cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約600cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約19%である。
そうすると、甲第6号証には、
「BET比表面積が1844m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.20cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.45nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約19%である活性炭」が記載されていると認められる。

(イ-6)甲第7号証に記載された活性炭
甲第7号証には、H_(3)PO_(4)を用いて薬品賦活して得られた各種活性炭が記載されており(p460の「2 Materials and experimental methods」の項、p462の「Fig.2」、p463の「Fig.3」、「Table 2」、p464の「Table 4」等)、Table 2及びFig.2に示されている400℃で45wt%H_(3)PO_(4)を用いて薬品賦活して得られた活性炭(以下、「試料7-1」という。)については、BET比表面積S_(BET)は1692m^(2)/gである。
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、Fig.2の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.12cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約0.93cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.20nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約600cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約520cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約14%である。
そうすると、甲第7号証には、試料7-1として、
「BET比表面積が1692m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.12cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.20nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約14%である活性炭」が記載されていると認められる。
同様に、Table 4及びFig.3に示されている450℃で45wt%H_(3)PO_(4)を用いて薬品賦活して得られた活性炭(以下、「試料7-2」という。)として、_( )
「BET比表面積が1797m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.14cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.20nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約14%である活性炭」も記載されており、^( )
Table 4及びFig.3に示されている500℃で45wt%H_(3)PO_(4)を用いて薬品賦活して得られた活性炭(以下、「試料7-3」という。)として、
「BET比表面積が1637m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.19cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.42nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約19%である活性炭」も記載されていると認められる。

(イ-7)甲第8号証に記載された活性炭
甲第8号証には、各種活性炭が記載されており(p2294の「Experimental」の項、p2295の「Fig.1」の上図、p2296の「Table 1」等)、Table 1及びFig.1に示されている活性炭「AC-Untreated」については、BET比表面積S_(BET)は1550m^(2)/gである。 ^( )
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、Fig.1の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.11cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約0.93cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.40nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約600cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約530cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約12%である。
そうすると、甲第8号証には、
「BET比表面積が1550m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.11cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.40nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約12%である活性炭」が記載されていると認められる。
同様に、Table 1及びFig.1に示されている活性炭「AC-S-6M」として、
「BET比表面積が1550m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.13cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.40nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約14%である活性炭」も記載されていると認められる。

(イ-8)甲第10号証に記載された活性炭
甲第10号証には、サワーチェリー(Sour Cherry)由来で塩化亜鉛により化学賦活して得られた活性炭が記載されており(p805-806の「2. Materials and methods」の項、p807の「Table 3」、p808の「Fig.3(a)」「Fig.4(a)」等)、Table 3及びFig.3(a)に示されている塩化亜鉛含浸比3:1の600℃で作製された活性炭(以下、「試料10-1」という。)については、BET比表面積S_(BET)は1482m^(2)/gである。^( )
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、Fig.3(a)の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.16cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約0.88cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.38nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約570cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約470cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約18%である。
そうすると、甲第10号証には、試料10-1として、
「BET比表面積が1482m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.16cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.38nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約18%である活性炭」が記載されていると認められる。
同様に、Table 3及びFig.3(a)に示されている塩化亜鉛含浸比3:1の800℃で作製された活性炭「試料10-2」として、
「BET比表面積が1522m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.18cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.36nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約20%である活性炭」も記載されており、^( )
さらに、Table 3及びFig.4(a)に示されている塩化亜鉛含浸比2:1の700℃で作製された活性炭「試料10-3」として、
「BET比表面積が1652m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.34cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.55nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約32%である活性炭」も記載されていると認められる。

(イ-9)甲第19号証に記載された活性炭
甲第19号証には、活性炭の用途の一つとしてキャパシタ原料とすること(raw material of capacitor)が記載されており(p67左欄2-6行)、各種活性炭の特性が図2、3(窒素吸着等温線)及び表1、2(BET比表面積を含む諸データ)として記載されている (p68-69) 。活性化温度700℃及び含浸比1.5:1で賦活された活性炭(以下、「CWAC-700℃-1.5:1」という。)については、表1により、BET比表面積S_(BET)が1566m^(2)/gである。^( )
ここで、上記(ア)で示した手法を用いて、図2の窒素吸着等温線を基に、メソ細孔径分布(3nm?30nmの細孔容積)を求めると、約0.12cm^(3)/gであり、全細孔容積(細孔径30nm以下)は、約0.82cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)は、約2.09nmである。この際、細孔径30nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.93における窒素吸着容積V_(N)は約530cm^(3)/g、細孔径3nmに概ね対応する分圧(P/P_(0))0.35における窒素吸着容積V_(N)は約450cm^(3)/gであるとみた。
そして、全細孔容積と3nm以上(3nm?30nm)の細孔容積とから全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率を求めると、約15%である。
そうすると、甲第19号証には、「CWAC-700℃-1.5:1」の活性炭として、
「BET比表面積が1566m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.12cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.09nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約15%である活性炭」(以下、「甲19発明1」という。)が記載されていると認められる。
同様に、申立人による令和元年8月2日付け意見書で述べられているように、活性化温度700℃及び含浸比2:1で賦活された活性炭として、
「BET比表面積が1710m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.14cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.11nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約16%である活性炭」(以下、「甲19発明2」という。)も記載されており、
さらに、活性化温度700℃及び含浸比2.5:1で賦活された活性炭として、
「BET比表面積が1820m^(2)/gであり、窒素吸着等温線から求められる3nm?30nmの細孔容積が約0.23cm^(3)/gであり、平均細孔径(nm)が約2.47nmであり、全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が約21%である活性炭」も記載されていると認められる。

(ウ)本件発明6と甲第9号証に記載された発明との対比・判断
本件発明6と甲9発明とを対比すると、両者は、比表面積が1550?1950m^(2)/gであり、平均細孔径が2.05?2.32nmである電気二重層キャパシタ用活性炭の点で一致し、以下の点で相違する。 ^( )

相違点1:細孔径3nm以上の細孔容積が、本件発明6では0.21?0.30cm^(3)/gであるのに対し、甲9発明では、約0.17cm^(3)/gである点

相違点2:全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が、本件発明6では23?30%であるのに対し、甲9発明では約19%である点

そこで、相違点1、2についてまとめて検討するに、本件明細書の【0023】、【0025】等によれば、本件発明6の「細孔径3nm以上の細孔容積」及び「全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率」については、何れも低温における内部抵抗を低くして改善するための要件であって、これらの数値の相違はその技術的意義の観点で実質的なものである。
そして、甲第9号証並びに甲第2?8、10、19号証に記載された活性炭等に係る周知慣用技術を参酌しても、活性炭の細孔に係る各物性値は原料や賦活条件等により相互に連関して変化するものであるから、当業者といえども、甲9発明の上記一致点に係るその他の物性を維持しつつ、これら相違点の解消をすることが容易なことであるとはいえない。
よって、本件発明6は、甲第9号証に記載された発明ではないし、甲第9号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ここで、申立人の主張について触れておくと、申立人は、令和2年3月19日付け意見書において、本件発明6と甲19発明1または甲19発明2とを対比し、両者は、以下の相違点1’及び2’で相違しているものの、甲第24、25号証により、低温における内部抵抗の低減のために、細孔径3nm以上の細孔容積を大きくすることは従来から周知であったため、これら相違点の解消は当業者であれば容易なことである旨を主張している。

相違点1’:細孔径3nm以上の細孔容積が、本件発明6では0.21?0.30cm^(3)/gであるのに対し、甲19発明1では、約0.12cm^(3)/g、甲19発明2では、約0.14cm^(3)/g、である点

相違点2’:全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が、本件発明6では23?30%であるのに対し、甲19発明1では約15%、甲19発明2では約16%である点

しかし、相違点1’、2’は、それぞれ上記で検討した相違点1、2と同様のものであり、低温における内部抵抗の低減のために、細孔径3nm以上の細孔容積を大きくすることが従来から周知であったとしても、甲19発明1または甲19発明2において、その他の物性値を維持しつつ、細孔径3nm以上の細孔容積/全細孔容積を大きくするための具体的な手段について教示するものではないから、上記で検討したと同様に、相違点の解消が容易であるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(エ)本件発明11?15について
本件発明11?15については、何れも本件発明6の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付したものであるから、上記(ウ)で検討したと同様に、甲第9号証に記載された発明ではないし、甲第9号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、取消理由1及び2は、何れも理由がない。

イ.理由3について
(ア)甲第11号証に記載された発明及び周知慣用技術
甲第11号証には、「金属化合物添加による多孔質炭素の細孔制御」と題して、多孔質炭素の賦活などによる細孔生成に関し記載があり、炭素のガス化に対してCa化合物が大きい効果を示すことが知られていること(p123「2.3 Caによる炭素のガス化反応」の項)、活性炭などにCa化合物を添着後、賦活が行われており、活性炭への添着例として、すももの種(Plum stone)等から調製した活性炭に、含浸法およびイオン交換法によりCaイオンを添着後、さらに水蒸気賦活して活性炭を製造することについて記載されており、Caを添着した場合にミクロポアが減少しメソポアが増加すること等(p126「4.2 Ca化合物添加効果」の項、p127の図11等)が記載されている。
してみれば、甲第11号証には、
「炭素原料を炭化し、賦活して活性炭を得て、
該活性炭にカルシウム化合物を添着させておき、添着状態を維持したまま水蒸気賦活を実施する、活性炭の製造方法」 の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認められる。
加えて、甲第4号証、甲第12号証にもカルシウム化合物を触媒として賦活して活性炭を得ることが記載されており、また、甲第13号証(p46)に記載されている薬品賦活法において使用されるものとして、塩化カルシウムやアルカリ類などが挙げられており、さらに、甲第14号証(p13「2.1 活性炭の作製,評価」の項)に水酸化カリウム(KOH)と混合後加熱賦活して活性炭を得ることが記載されていることからすれば、薬品賦活法等としてカルシウム化合物もしくはカリウム化合物を添着して(水蒸気)賦活する活性炭の製造方法自体は、周知慣用されているものであると認められる。

(イ)本件発明9と甲第11号証に記載された発明との対比・判断
本件発明9と甲11発明とを対比すると、賦活において水蒸気賦活自体が周知慣用手段であることからすれば、甲11発明の「炭素原料を炭化し、賦活して活性炭を得」ることは、本件発明9の「粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれる炭素原料を炭化し、次いで1回以上水蒸気賦活することで炭素原料由来物を順次処理すること」に実質的に相当し、甲11発明の「該活性炭にカルシウム化合物を添着させておき、添着状態を維持したまま水蒸気賦活を実施する」ことは、本件発明9の「最後の水蒸気賦活を実施するまでに炭素原料由来物にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を添着させておき、添着状態を維持したまま前記最後の水蒸気賦活を実施すると共に、前記添着後の賦活処理は水蒸気賦活であること」に実質的に相当するから、両者は、
「粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれる炭素原料を炭化し、次いで1回以上水蒸気賦活することで炭素原料由来物を順次処理し、
最後の水蒸気賦活を実施するまでに炭素原料由来物にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を添着させておき、添着状態を維持したまま前記最後の水蒸気賦活を実施すると共に、前記添着後の賦活処理は水蒸気賦活である」「活性炭の製造方法」において一致し、以下の点で相違する。

相違点3:本件発明9は「BET比表面積が1550?1950m^(2)/g、細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、平均細孔径が2.05?2.32nm、且つ全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である」活性炭の製造方法であるのに対し、甲11発明で得られる活性炭の物性、性状等は明示されていない点

相違点4:本件発明9は「電気二重層キャパシタ用電極材料用」活性炭の製造方法であるのに対し、甲11発明で得られる活性炭の用途は明示されていない点

まず、相違点3について検討するに、「BET比表面積が1550?1950m^(2)/g、細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、平均細孔径が2.05?2.32nm、且つ全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である」活性炭については、本件発明6を構成する活性炭に相当するものであり、上記ア.で検討したとおり、甲第9号証に記載された活性炭ではないし、該活性炭に甲第2?10、19号証に記載された活性炭に係る周知慣用技術等を適用して当業者が容易に得られるものであるといえるものでもない。
よって、甲11発明において、相違点3を解消することは当業者であっても容易なことではないから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明9は、甲第11号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明16?19について
本件発明16?19は、何れも本件発明9の発明特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を付したものであるから、本件発明9と同様、甲第11号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)小活
以上のとおりであるから、取消理由3は理由がない。

2.平成31年4月19日付け取消理由通知書で通知した取消理由について

(1)取消理由の概要
(理由4)本件訂正前の下記の請求項に係る発明は、以下のア.?エ.のとおりであるから、特許法第29条第1項に違反して特許されたものである。ア.本件訂正前の請求項1、2、4?8に係る発明は、甲第5号証に記載された発明である。
イ.本件訂正前の請求項1、2、4に係る発明は、甲第2?4、6?10号証に記載された発明である。
ウ.本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲第3、4、6?10号証に記載された発明である。
エ.本件訂正前の請求項6?8に係る発明は、甲第2、3号証に記載された発明である。

(理由5)本件訂正前の下記の請求項に係る発明は、以下のア.及びイ.のとおりであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。
ア.本件訂正前の請求項3、4、6?8に係る発明は、甲第2?10号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ.本件訂正前の請求項9、10に係る発明は、甲第11号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)取消理由についての判断
ア.本件発明6、11?15について
(ア)甲第5号証に記載された発明との対比・判断
上記1.(2)ア.で検討したとおり、甲第5号証には、その(イー4)に示した発明が記載されており、本件発明6と対比すると、両者は活性炭において、比表面積が1550?1950m^(2)/gであり、細孔容積が0.21?0.30cm3/gである点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点5:平均細孔径が、本件発明6では2.06?2.32nmであるのに対し、甲第5号証に記載された発明では約2.58?2.59である点

相違点6:全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率が、本件発明6では23?30%であるのに対し、甲第5号証に記載された発明では約21?22%である点

そこで、相違点5、6についてまとめて検討するに、本件明細書の【0023】?【0025】等によれば、本件発明6の「平均細孔径」及び「全細孔容積に対する細孔径3nm以上の細孔容積の比率」については、何れも低温における内部抵抗を低くして改善するための要件であって、これらの数値の相違はその技術的意義の観点で実質的なものである。
そして、甲第5号証並びに甲第2号証等に記載された活性炭に係る周知慣用技術を参酌しても、活性炭の細孔に係る各物性値は原料や賦活条件等により相互に連関して変化するものであるから、当業者といえども、甲6発明との上記一致点に係るその他の物性を維持しつつ、これら相違点5、6の解消をすることが容易なことであるとはいえない。
よって、本件発明6は、甲第5号証に記載された発明ではなく、当該発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)甲第2、3号証に記載された発明との対比・判断
上記1.(2)ア.で検討したとおり、甲第2号証には、その(イー1)に示した活性炭に係る発明が記載されており、甲第3号証には、同じく(イー2)に示した活性炭に係る発明が記載されている。
これらを、本件発明6と対比すると、甲第2号証に記載された発明とは、比表面積及び細孔容積の点で少なくとも相違し、甲第3号証に記載された発明とは、細孔容積、平均細孔径及び細孔径3nm以上の細孔容積比率の点で少なくとも相違する。
そして、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明において、本件発明6と一致している物性を維持しつつ、これらの相違を解消することは、甲各号証等の記載及び周知慣用技術を考慮しても、当業者にとって容易なことであるといえないのは上記(ア)で検討したと同様である。
よって、本件発明6は、甲第2、3号証に記載された発明ではなく、当該発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)その他
上記(ア)、(イ)で検討したと同様に、本件発明6は、甲第2?10号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件発明11?15は、本件発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付したものであるから、甲第2、3、5号証に記載された発明ではなく、甲第2?10号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ.本件発明9、16?19について
甲第11号証に記載された発明との対比・判断については、上記1.(2)イ.で取消理由3について検討したと同様であり、本件発明9及び本件発明9の発明特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を付したものである本件発明16?19は、甲第11号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小活
以上のとおりであり、また、本件請求項1?5、7、8、10は何れも本件訂正により削除されたから、取消理由4、5は、何れも理由がない。


第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由及びその他の検討した理由について

申立人の主張する特許異議申立理由については、何れも取消理由で採用したが、上記第4で検討したとおり、何れの理由によっても、本件訂正後の請求項に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明6の特に「BET比表面積」の上限値及び「平均細孔径」の下限値の点が、本件明細書において実施例(本件訂正後の特許発明に対応したもの)として明示的に記載されていないことについて、さらに検討したが、それぞれの値は静電容量との関係(本件明細書【0022】)及び電解質イオンの移動度との関係(本件明細書【0024】)で、本件発明の課題が解決できるように特定されていることは理解できるから、本件の特許請求の範囲及び明細書の記載に不備はない。


第6 むすび

以上のとおり、請求項6、9、11?19に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項6、9、11?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1?5、7、8、10は、本件訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
BET比表面積が1550?1950m^(2)/g、
細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、
平均細孔径が2.05?2.32nm、且つ
全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である活性炭を含有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれる炭素原料を炭化し、次いで1回以上水蒸気賦活することで炭素原料由来物を順次処理することとし、
最後の水蒸気賦活を実施するまでに炭素原料由来物にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を添着させておき、添着状態を維持したまま前記最後の水蒸気賦活を実施すると共に、前記添着後の賦活処理は水蒸気賦活であることを特徴とするBET比表面積が1550?1950m^(2)/g、細孔径3nm以上の細孔容積が0.21?0.30cm^(3)/g、平均細孔径が2.05?2.32nm、且つ全細孔容積に対して前記細孔径3nm以上の細孔容積の比率が23?30%である電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記活性炭は平均粒子径が10μm以下である請求項6に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項12】
前記活性炭は粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれるものである請求項6、11のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項13】
前記活性炭の全細孔容積は0.90?3.0cm^(3)/gである請求項6、11、12のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項14】
請求項6、11?13のいずれかに記載の電極材料を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電極を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項16】
前記活性炭は平均粒子径が10μm以下である請求項9に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項17】
前記活性炭は粒状、粉状、顆粒状、球状、塊状、及び板状よりなる群から選ばれるものである請求項9、16のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項18】
前記活性炭の全細孔容積は0.90?3.0cm^(3)/gである請求項9、16、17のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
【請求項19】
前記炭素原料に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで炭化した後、または
前記炭素原料を炭化し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、あるいは
前記炭素原料を炭化した後、水蒸気賦活し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、
前記最後の水蒸気賦活する請求項9、16?18のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用電極材料用活性炭の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2016-60129(P2016-60129)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 若土 雅之磯部 香  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 菊地 則義
後藤 政博
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6371787号(P6371787)
権利者 株式会社MCエバテック 関西熱化学株式会社
発明の名称 活性炭、およびその製造方法、並びに該活性炭を用いた電気二重層キャパシタ  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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