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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
管理番号 1366051
異議申立番号 異議2019-701010  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-11 
確定日 2020-07-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6528103号発明「光硬化型接着組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6528103号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕及び〔5?7〕について訂正することを認める。 特許第6528103号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6528103号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年4月6日に出願され、令和元年5月24日にその特許権の設定登録がされ、同年6月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年12月11日に特許異議申立人永田裕之(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行い、当審は、令和2年3月3日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、令和2年4月27日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、申立人は同年6月17日に意見書を提出した。

第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1及び2のとおりである。なお、訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用し、訂正前の請求項6及び7は、訂正の請求の対象である請求項5の記載を引用する関係にあり、訂正前の請求項1?4及び請求項5?7は、それぞれ一群の請求項を構成し、本件訂正は、一群の請求項ごと(請求項1?4及び請求項5?7)について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「・・・光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含む、積層体の製造方法。」とあるのを、
「・・・光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含み、(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、積層体の製造方法。」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5において、「・・・光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含む、積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物。」とあるのを、
「・・・光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含み、(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物。」と訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6及び7も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、明細書の【0029】の「(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上であってもよく」という記載に基いて、訂正前の請求項1の「(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」を、「脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上」と特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1と同様に、訂正前の請求項5の「(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」を特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)まとめ
上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕及び〔5?7〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
積層体の製造方法であって、以下の工程(I)?(III):
(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、
(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程
を含み、
工程(II)で形成される硬化物における、光硬化型接着組成物の反応率が90%以上であり、
光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含み、
(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、
積層体の製造方法。
【請求項2】
(A)成分が、(水素添加)ポリイソプレン、(水素添加)ポリブタジエン及びポリウレタン構造を骨格に有する(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上である、請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
(C)成分が、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、及びノナンジオールジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
積層体が光学表示体である、請求項1?3のいずれか1項記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
以下の工程(I)?(III):
(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、
(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程
を含み、
工程(II)で形成される硬化物における、光硬化型接着組成物の反応率が90%以上である、積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物であって、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含み、
み、
(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、
積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物。
【請求項6】
(A)成分が、(水素添加)ポリイソプレン、(水素添加)ポリブタジエン及びポリウレタン構造を骨格に有する(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上である、請求項5記載の光硬化型接着組成物。
【請求項7】
(C)成分が、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、及びノナンジオールジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項5又は6記載の光硬化型接着組成物。」

第4 取消理由の概要
1 訂正前の請求項1?7に係る特許に対して、当審が令和2年3月3日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由1(サポート要件)
本件発明1及び5において、「(D)光反応開始剤」については具体的な組成が特定されておらず、本件発明1?7に含まれる全ての組成のうち実施例の組成以外について、本件発明の課題を解決できるのか当業者が認識することができない。
よって、本件出願時の技術常識に照らしても、本件発明1?7に係る発明の範囲まで、本件発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件は、特許請求の範囲の請求項1?7の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、請求項1?7に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)理由2(進歩性)
本件発明1?7は、下記の甲3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。
甲3:国際出願公開2014/192502号(特許異議申立人の提出した甲第3号証)

第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1 理由1について
(1)本件発明は、上記第3に記載された請求項1?7に記載されたとおりのものであるところ、本件明細書には、次の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型接着組成物、これを用いた積層体、これを用いた光学表示体、及び積層体の製造方法に関する。
(・・・略・・・)
【0003】
しかし、光硬化性樹脂組成物で汎用に使われるアクリル樹脂系のラジカル重合タイプは、空気中の酸素による硬化阻害により表面硬化性が悪いため、表面に十分に硬化していない成分が表面に残留したり、それに伴い接着強度が低下するという問題があった。これに対して、特許文献2には、減圧下又は窒素等の不活性ガス雰囲気下で、ポリイソプレンメタクリレートオリゴマー、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート及びラウリルメタクリレートを含む光硬化性樹脂組成物に紫外線を照射する方法が開示されている。
(・・・略・・・)
【0006】
よって、本発明は、上記の問題を解決し、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有する積層体を与える、光硬化型接着組成物を提供することを目的とする。」
イ 「【発明を実施するための形態】
【0009】
(光硬化型接着組成物)
光硬化型接着組成物は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含む。本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を含む。また、「(メタ)アクリロイル基」は、「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の両方を含む。」
ウ 「【0010】
<(A)(メタ)アクリレートオリゴマー>
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、分子中に1以上の(メタ)アクリロイル基を有する。(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、光硬化型接着組成物におけるベースポリマーである。(・・・略・・・)」
エ 「【0017】
<(B)単官能(メタ)アクリレートモノマー>
(B)単官能(メタ)アクリレートモノマーは、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー及び(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーの反応性を損なわずに、光硬化性接着組成物を低粘度化できる成分である。」
オ 「【0023】
<(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマー>
(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、分子中に2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、官能基密度を上げることにより(メタ)アクリレートの反応性を上げる効果があり、酸素による阻害がある状態でも、十分な架橋状態を形成することを可能にする成分である。(C)成分の官能数は、目的に応じて、適宜選択できる。」
カ 「【0031】
<(D)光反応開始剤>
(D)光反応開始剤は、特に限定されず、(・・・略・・・)などを例示できる。」
キ 「【0034】
<(E)軟化点が70?150℃である粘着付与剤>
光硬化型接着組成物は、(E)軟化点が70?150℃である粘着付与剤(以下、「(E)粘着付与剤」ともいう。)を含む。光硬化型接着組成物が(E)粘着付与剤を含むことにより、接着強度の向上とともに、硬化物の柔軟化を図ることができ、被着体への追従性を向上させることができる。」
ク 「【0039】
<(F)液状可塑剤> 光硬化型接着組成物は、(F)液状可塑剤を含む。液状とは、大気圧下、25℃で流動性を示すことをいい、例えばコーンプレート型粘度計で1,000Pa・s以下の粘度(例えば、0.01?1,000Pa・sの粘度)を示すことが挙げられる。光硬化型接着組成物が(F)液状可塑剤を含むことにより、弾性率が小さく、柔軟な硬化物を得ることができる。」
ケ 「【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例により限定されるものではない。表示は、特に断りがない限り、質量部、質量%である。
【0061】
表1に示す配合の各成分を均一に混合し、実施例・比較例の光硬化型接着組成物を調製した。
(・・・略・・・)
【0072】
結果を表1にまとめる。
【0073】
【表1】

【0074】
UV3630ID80:ポリウレタンアクリレート(2官能)(日本合成化学工業社製、分子量35,000)
LA:ラウリルアクリレート
4-HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
A-TMMT:ペンタエリスリトールテトラアクリレート(4官能)(新中村化学工業株式会社製NKエステル)
A-TMPT-3EO:トリメチロールプロパントリアクリレート(エチレンオキシド(EO)付加)(3官能)(新中村化学工業株式会社製NKエステル、分子量:428、1分子当たりのエチレンオキシド単位3モル)
1,9ND-A:1,9-ノナンジオールジアクリレート
I-184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
I-TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキシド
KE311:水添ロジンエステル(軟化点95℃)(荒川化学社製)
ME-D:水添ロジンエステル(液状)(荒川化学社製)
【0075】
実施例1?3は、強度変化率が0(即ち、OPEN硬化とCLOSE硬化の強度差がない)であった。すなわち、2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含むことで、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有していた。一方、比較例1は、2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含まないため、酸素が存在しない場合で光照射した場合の接着強度に対して、酸素存在下で光照射した場合の接着強度は低下した。」

(2)上記(1)アの記載から、「光硬化型接着組成物、これを用いた積層体、これを用いた光学表示体、及び積層体の製造方法」(【0001】)において、従来、「光硬化性樹脂組成物で汎用に使われるアクリル樹脂系のラジカル重合タイプは、空気中の酸素による硬化阻害により表面硬化性が悪いため、表面に十分に硬化していない成分が表面に残留したり、それに伴い接着強度が低下するという問題があった」(【0003】)ことが理解できるところ、本件発明は、そのような、アクリル樹脂系のラジカル重合タイプの空気中の酸素による硬化阻害の問題を解決するものであって、本件発明の課題は、「酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有する積層体を与える、光硬化型接着組成物を提供すること」(【0006】)であると認められる。

(3)そして、本件明細書の記載から、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含む光硬化型接着組成物(上記(1)イ(【0009】))」について、各成分(A)?(E)に関して、次のア?カの事項が理解できる。
ア (A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、光硬化型接着組成物におけるベースポリマーである(同ウ【0010】)。
イ (B)単官能(メタ)アクリレートモノマーは、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー及び(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーの反応性を損なわずに、光硬化性接着組成物を低粘度化できる成分である(同エ【0017】)。
ウ (C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、官能基密度を上げることにより(メタ)アクリレートの反応性を上げる効果があり、酸素による阻害がある状態でも、十分な架橋状態を形成することを可能にする成分である(同オ【0023】)。
エ (D)光反応開始剤は、特に限定されない(同カ「【0031】)。
オ (E)軟化点が70?150℃である粘着付与剤は、光硬化型接着組成物が粘着付与剤を含むことにより、接着強度の向上とともに、硬化物の柔軟化を図ることができ、被着体への追従性を向上させることができる(同キ【0034】)。
カ (F)液状可塑剤を含むことにより、弾性率が小さく、柔軟な硬化物を得ることができる(同ク【0039】)。

(4)また、同ケ【0060】?【0074】には、光硬化型接着剤組成物に、4官能、3官能又は2官能の(メタ)アクリレートモノマーのいずれかが含まれる実施例1、実施例2、実施例3では、酸素が存在する雰囲気で硬化させた場合の強度(OPEN強度)と、酸素が存在しない雰囲気で硬化させた場合の強度(CLOSE強度)とは変化しないことが示され、2?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含まない比較例1ではOPEN強度がCLOSE強度よりも小さい値となっていることが示されている。

(5)そうすると、上記(3)から、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含む光硬化型接着組成物の硬化物は、「(D)光反応開始剤」の種類にかかわらず、上記(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含むことによって、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有するものを与えるものとなることが理解できる。
そして、上記(4)から、上記光硬化型接着剤組成物の硬化物は、2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含むことで、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有するものとなることが、実施例において確認されているといえる。

(6)また、「(D)光反応開始剤」の種類によって、酸素存在下で光照射した場合と、酸素が存在しない場合とで、接着強度が異なるものとなる、と解すべき根拠は見いだすことはできない。

(7)以上のことから、上記(A)?(F)の成分を含む光硬化型接着組成物を用いたものであることが規定された本件発明1及び5、並びに、本件発明1又は5を直接的又は間接的に引用する本件発明2?4、6及び7は、本件発明の課題を解決するものであることを当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件の請求項1、5の記載、及び、請求項1又は5を直接的又は間接的に引用する請求項2?4、6及び7の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしているというべきである。

(8)申立人の主張について
申立人は、各成分の含有量が任意とされた、本件請求項1?7の広範な範囲の全てで、「酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有する」との効果が達成されるとは理解できない旨主張している(意見書4頁9?12行)。
しかしながら、本件発明においては、上記効果は、上述したように、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含むことによって奏されるものであるというべきであって、各成分の含有量は、粘着力の大きさや弾性率に影響を与えるとしても、各成分の含有量は、酸素が存在する場合と酸素が存在しない場合において、接着強度が変わる要因になるとはいえない。なお、申立人は、各成分の含有量によって、酸素が存在する場合と酸素が存在しない場合において、接着強度が変わることを示す具体的な根拠は何ら示していない。

2 理由2について
(1)甲3の記載
甲3には、「重合性組成物、重合物、光学用粘着シート、画像表示装置およびその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、例えばスマートフォンやタブレットPC等に用いられる液晶表示装置等の画像表示装置に使用される重合性組成物、該組成物を重合して得られる重合物、該重合物の層を有する光学用粘着シート、該組成物を用いた画像表示装置の製造方法およびその製造方法により製造された画像表示装置に関する。」
「[0050] 次に、本発明(II)の重合性組成物の必須成分である成分3 について説明する。
本発明(II)の重合性組成物の必須成分である成分3は、アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有するラジカル重合性不飽和基含有化合物である。
ただし、本明細書において、アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有する、数平均分子量が1000?15000の範囲である(メタ)アクリロイル基含有高分子化合物は、成分3には含まれないものと定義する。つまり、本明細書において、アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有する、数平均分子量が1000?15000の範囲である(メタ)アクリロイル基含有高分子化合物は、成分3には含まれず、本発明の重合性組成物の必須成分である成分1に含まれることを意味する。
なお、本明細書における「ラジカル重合性不飽和基」とは、ラジカル重合開始剤等により発生するラジカルにより付加重合することが可能な炭素一炭素二重結合を意味する。」
「[0083] また、本発明(IV)の重合性組成物では、成分6として、25℃で固体状である化合物を使用することもできる。
成分6として用いられる、25℃で固体状である化合物としては、分子内に炭素-炭素不飽和結合を有さない化合物であることが好ましい。
このような化合物としては、25℃で固体状のエポキシ樹脂、25℃で固体状のポリエステル樹脂、25℃で固体状のポリオール樹脂や、25℃で固体状の水添石油樹脂、テルペン系水添樹脂、水添ロジンエステル等の粘着付与剤を挙げることができる。
これらの中で、好ましいものとしては、水添石油樹脂、テルペン系水添樹脂、水添ロジンエステル等の粘着付与剤を挙げることができる。」
「[0120] 光学用粘着シートの重合物層の形成方法は、公知あるいは慣用の重合物層の形成方法を用いることが可能であり、特に限定されないが、本発明の重合性組成物のようなアクリロイル基を有する重合性組成物を重合させて、光学用粘着シートの重合物層を形成させる場合には、例えば、以下の(1)?(3)などの方法が挙げることができる。
(1)光重合開始剤を含むアクリロイル基を有する重合性組成物に、必要に応じて添加剤を含む組成物を、基材またはセパレータ(剥離ライナー)上に塗布(塗工)し、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、無電極ランプ、LED等の光源を用いて、光重合開始剤が感光可能な光を照射して、該組成物を重合することにより重合物層を形成する。
(2)光重合開始剤を含むアクリロイル基を有する重合性組成物に、さらに溶剤、必要に応じて添加剤を含む組成物(溶液)を、基材またはセパレータ(剥離ライナー)上に塗布(塗工)し、乾燥および低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、無電極ランプ、LED等の光源を用いて、光重合開始剤が感光可能な光を照射して、該組成物を重合することにより重合物層を形成する。
(3)上記(1)で形成した重合物層をさらに乾燥させる。」
「[0172] (実施合成例2-4)
攪拌装置、温度計およびコンデンサーを備えた300mLの反応容器に、前述のポリエステルポリオールA(数平均分子量2030)150g、4-ヒドロキシブチルアクリレート19.08g、ジオクチル錫ジラウレート30mgおよびp-メトキシフェノール24mgを反応容器を投入し、撹拌を開始した。その後、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの混合物(商品名:VESTANAT(登録商標)TMDI、エボニックデグサ製)27.83gを、滴下ロートを用いて滴下投入した。滴下中、反応容器内の温度は70℃以下になるようにした。その後、反応器内の温度を70?75℃に維持して撹拌を継続した。IRでイソシアナト基のC=O伸縮振動の吸収がなくなったことを確認し、数平均分子量2670のウレタンアクリレート(以下、「ウレタンアクリレート4」と記す。)を得た。
尚、ポリエステルポリオールAに対して1.8倍モル量の4-ヒドロキシブチルアクリレート由来のアクリロイル基が導入されたとみなされるので、このウレタンアクリレート4に含まれるアクリロイル基の数は1分子当たり平均で1.8個であると想定できる。」
「[0175] (実施配合例1)
ウレタンアクリレート5 99.0質量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:IRGACURE(登録商標)184、BASF製)0.8質量部、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(商品名:SpeedCure TPO、Lambson製)0.2質量部およびペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX(登録商標)1010、BASF製)1.0質量部を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、商品名:あわとり錬太郎 ARE-310)を用いて混合した。この配合物を重合性組成物A1とした。重合性組成物A1の25℃での粘度は33,690mPa・sであった。
[0176] (実施配合例2?6および比較配合例1、2)
実施配合例1と同様の方法によって、表1に示す配合組成に従って配合した。実施配合例2?6で調製した配合物を、それぞれ重合性組成物A2?A6とし、比較配合例1および2で調製した配合物を重合性組成物B1、B2とした。
なお、表1中に記載の実施配合例および比較配合例の各成分の数字の単位は「質量部」である。
[0177]

[0178] ※1 N,N-ジエチルアクリルアミド(商品名:DEAA、興人フィルム&ケミカルズ株式会社製)
※2 トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(商品名;ADCP、共栄社化学株式会社製)
※3 2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(商品名:HPMA、株式会社日本触媒製)
※4 4-ヒドロキシブチルアクリレート(商品名:4HBA、大阪有機化学工業株式会社製)
※5 2-ヒドロキシブチルメタクリレート(商品名:ライトエステルHOB(N)、共栄社化学株式会社製)
※6 ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート(商品名:ビスコート#190、大阪有機化学工業株式会社製、粘度(25℃):3mPa・s)
※7 ラウリルアクリレート(商品名:ブレンマーLA、日油株式会社製、粘度(25℃):4mPa・s)
※8 グリセリンモノラウレート(商品名:ポエム M-300、理研ビタミン株式会社製)
※9 水添ロジンエステル樹脂(商品名:パインクリスタル KE-100、ヤスハラケミカル株式会社製)
※10 水添ロジンエステル樹脂(商品名:パインクリスタル KE-311、ヤスハラケミカル株式会社製)
※11 テルペン-フェノール樹脂(商品名:YSポリスター TH130、ヤスハラケミカル株式会社製)
※12 ポリエステルポリオール(商品名:クラレポリオール P-2011、株式会社クラレ製)
※13 脂肪族ポリエステルジオール(商品名:プラクセルL220AL 株式会社ダイセル製)
※14 IRGANOX(登録商標)1010(化合物名:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF製)
※15 光重合開始剤 SpeedCure TPO(化合物名:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、Lambson製)
※16 光重合開始剤 IRGACURE(登録商標)184(化合物名:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF製)
[0179]<光学用粘着シートの製造>
表1に示す重合性組成物A1?重合性組成物A6および重合性組成物B1、B2を、それぞれ、アプリケーターを用い、膜厚が200μmとなるようにシリコーンでコートされたポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)フィルム(100mm×100mm×50μm)に塗布し、上面を25μm厚のシリコーンでコートされたPETフィルムで覆った後、メタルハライドランプを用いたコンベア式紫外線照射装置(株式会社ジーエス・ユアサライティング製、商品名:GSN2-40)を用い、シリコーンでコートされたPETフィルム越しに、照射強度190mW/cm^(2)(365nmの値)、照射量6000mJ/cm^(2)(365nmの値)の条件で紫外線を照射して重合させ、離型PETフィルムに挟まれた膜厚が約200μmの光学用粘着シートを得た。重合性組成物A1?重合性組成物A6および重合性組成物B1、B2を用いて製造された前記光学用粘着シートを、それぞれ、粘着シートA1?粘着シートA6および粘着シートB1、B2とした。」

(2)甲3に記載された発明(甲3発明)
甲3の表1に記載された「実施配合例3」に係る「重合性組成物A3」の組成は、表1から次のとおりのものであるといえる。なお、「ウレタンアクリート4」は、[0172]の「実施合成例2-4」において合成された数平均分子量2670のウレタンアクリレートであり、以下、上記「ウレタンアクリート4」を、単に、「数平均分子量2670のウレタンアクリレート」と記載する。
「数平均分子量2670のウレタンアクリート4 52.0重量部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート 14.0重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート 8.0重量部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート 5.0重量部、グリセリンモノラウレート 20.0重量部、IRGANOX(登録商標)1010 1.0重量部、光重合開始剤(SpeedCure TPO) 0.2重量部、光重合開始剤(IRGACURE 184) 0.8重量部、重合性組成物の粘度(25℃) 3200mPa・s」

そして、[0179]の、重合性組成物A1?重合性組成物A6及び重合性組成物B1、B2を用いて、それぞれ、粘着シートA1?粘着シートA6及び粘着シートB1、B2を製造する光学用粘着シートの製造方法から、「重合性組成物A3」を用いて製造された「光学用粘着シートA3」に関して、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「数平均分子量2670のウレタンアクリート 52.0重量部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート 14.0重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート 8.0重量部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート 5.0重量部、グリセリンモノラウレート 20.0重量部、IRGANOX(登録商標)1010 1.0重量部、光重合開始剤(SpeedCure TPO) 0.2重量部、光重合開始剤(IRGACURE 184) 0.8重量部、重合性組成物の粘度(25℃) 3200mPa・sである重合性組成物A3を、
アプリケーターを用い、膜厚が200μmとなるようにシリコーンでコートされたポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)フィルム(100mm×100mm×50μm)に塗布し、上面を25μm厚のシリコーンでコートされたPETフィルムで覆った後、メタルハライドランプを用いたコンベア式紫外線照射装置(株式会社ジーエス・ユアサライティング製、商品名:GSN2-40)を用い、シリコーンでコートされたPETフィルム越しに、照射強度190mW/cm^(2)(365nmの値)、照射量6000mJ/cm^(2)(365nmの値)の条件で紫外線を照射して重合させ、離型PETフィルムに挟まれた膜厚が約200μmの光学用粘着シートA3を製造する光学用粘着シートの製造方法。」

(3) 対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「重合性組成物A3」は、光重合開始剤を用いて硬化するものであるから、光硬化型であることは明らかである。また、「光学用粘着シート」は重合物であるといえる。
そして、甲3発明の「重合性組成物A3」、「離型PETフィルム」、「膜厚が約200μmの光学用粘着シート」、「離型PETフィルムに挟まれた膜厚が約200μmの光学用粘着シートA3」、「紫外線」及び「光学用粘着シートの製造方法」は、本件発明1の「光硬化型接着組成物」、「基材(1、2)」、「光硬化型接着組成物層」、「積層体」、「エネルギー線」及び「積層体の製造方法」にそれぞれ相当する。
また、甲3発明の「膜厚が約200μmの光学用粘着シート」は、硬化物であることは明らかであるから、本件発明1と甲3発明とは、基材と光硬化型接着組成物の硬化物を含む積層体の製造方法である点で共通する。
そして、甲3発明の「重合性組成物A3」において、「数平均分子量2670のウレタンアクリート」及び「光重合開始剤(SpeedCure TPO、IRGACURE 184)」は、本件発明1の「光硬化型接着組成物」における、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」及び「(D)光反応開始剤」にそれぞれ相当する。
また、甲3発明の「4-ヒドロキシブチルアクリレート」及び「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート」は、いずれも、本件発明1の「(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー」に相当する。
そして、本件発明1の「脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である」「(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」と、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」とは、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」が2官能の(メタ)アクリレートモノマーといえることから、「(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」である点で共通する。
さらに、甲3発明の「アプリケーターを用い、膜厚が200μmとなるようにシリコーンでコートされたポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)フィルム(100mm×100mm×50μm)に塗布」することは、本件発明1の「基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「積層体の製造方法であって、
基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程を含み、
光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤を含む、積層体の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1)
製造方法の工程について、本件発明1は「(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程」の後に、
「(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程を含」むのに対し、甲3発明は、重合性組成物A3を、PETフィルムに塗布した後に、上面をPETフィルムで覆った後、紫外線を照射して重合させて光学用粘着シートを形成している点
(相違点2)
光硬化型接着組成物の成分について、本件発明1の光硬化型接着組成物には、「(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤」を含むのに対し、甲3発明の「重合性組成物A3」は、そのような成分は含まない点。
(相違点3)
硬化物について、本件発明1の「硬化物」は、「光硬化型接着組成物の反応率が90%以上」であるのに対し、甲3発明の「光学用粘着シート」について、「重合性組成物A3」の反応率は不明な点。
(相違点4)
「(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」について、本件発明1では、「脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上」であるのに対し、甲3発明では、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」である点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」は、甲3の[0177]の[表1]に「成分3」の欄に記載されている。そして、「成分3」は、甲3の[0050]等には、「アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有するラジカル重合性不飽和基含有化合物である」ことが記載されている。
しかしながら、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」は、「アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有するラジカル重合性不飽和基含有化合物」ではなく、上記[0050]等に規定された「成分3」には含まれない。そして、甲3の[0050]等の記載に接した当業者は、「成分3」には、「アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有するラジカル重合性不飽和基含有化合物」を用いるものと理解するのが自然というべきである。
一方、本件発明1の「(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマー」である「脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレート」は、いずれも、甲3の「成分3」である「アルコール性水酸基とアミド基の少なくとも一方を有するラジカル重合性不飽和基含有化合物」には含まれない。
そうすると、甲3発明の上記「成分3」として示された「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」に替えて、上記「成分3」には含まれない「脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上」(以下、単に「特定の1種以上のアクリレート」ともいう。)を用いる動機付けはない、というべきである。
また、仮に、甲3の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」は「成分3」に属さないものだとしても、甲3には、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」に替えて、どのようなアクリレートを用いることができるのかについては記載も示唆もなく、甲3発明において、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」以外のアクリレートを用いた場合に、どのような光硬化型接着組成物層が得られるかどうかは明らかではない。
そうすると、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」に替えて、上記「特定の1種以上のアクリレート」を用いる動機付けはない、というべきである。

これに対し、申立人は、甲第4号証(特表2014-523472号公報、以下、「甲4」という。)を引用し、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」に替えて、甲4において用いられている「ペンタエリトリトールテトラアクリレート」を用いる動機付けがある旨主張しているので(意見書7頁4行から8頁24行)、以下、念のため、甲4の記載について検討する。
甲4には、「接着剤組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
接着剤組成物の全重量に基づき
(1)(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタンオリゴマー38.0?75.0重量%;
(2)多官能(メタ)アクリレートモノマー0.1?10.0重量%;
(3)単官能(メタ)アクリレートモノマー15.0?60.0重量%;
(4)光開始剤0.5?5.0の重量%;
(5)シランカップリング剤0.1?5.0重量%;および
(6)粘着付与剤、増粘剤、難燃剤、レベリング剤および熱開始剤からなる群の一以上から選択される添加剤0?5.0重量%、
を含む接着剤組成物。」
「【請求項8】
多官能(メタ)アクリレートモノマーは、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレートおよびそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の接着剤組成物。」

上記記載から、甲4の請求項8には、請求項1に係る接着剤組成物において、「多官能(メタ)アクリレートモノマー」として、「ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレートおよびそれらの組み合わせから選択される」ことが記載されているといえる。
しかしながら、甲4の請求項1には、「(2)多官能(メタ)アクリレートモノマー」の含有量について「0.1?10.0重量%」と記載されているところ、甲3発明において、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」の「重合性組成物A3」における含有量は、約13.9重量%(=14.0/(52.0+14.0+8.0+5.0+20.0+1.0+0.2+0.8)×100)と求められる。
そうすると、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」の含有量は、甲4の「接着剤組成物」の「(2)多官能(メタ)アクリレートモノマー」の含有量の規定である「0.1?10.0重量%」の範囲のものではない。
そうすると、甲4に接した当業者は、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」に替えて、甲4において用いられている「ペンタエリトリトールテトラアクリレート」を用いることができるとは理解することができないことから、甲3発明の「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」に替えて、甲4において用いられている「ペンタエリトリトールテトラアクリレート」を用いる動機付けはない、というべきである。

そして、上記1で述べたように、本件発明1は、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有するものが得られるという、甲3発明からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を引用し、さらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

ウ 本件発明5?7について
本件発明5は、本件発明1の積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物に関する発明と、甲3発明の「光学用粘着シートの製造方法」に使用するための「重合性組成物A3」とは、上記アで述べたものと同様な一致点及び相違点があるといえるところ、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできないのであるから、同様な理由から、本件発明5は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、本件発明6、7は、本件発明5を引用し、さらに限定したものであるから、本件発明5と同様に、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった、特許異議申立理由は次のとおりである。
理由1 訂正前の本件発明5及び6は、甲3に記載された発明であるから、本件発明5及び6は、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明5及び6に係る特許は取り消されるべきである。
理由2 訂正前の本件発明1?4は、下記の甲第1、2号証記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、本件発明1?4に係る特許は取り消されるべきである。
甲第1号証:国際公開2013/057958号(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2014-118450号公報(以下、「甲2」という。)

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
1 理由1について
本件発明5及び6と甲3発明とは、光硬化型接着物組成物について、少なくとも、上記第5 2(3)アで検討した「相違点4」について相違が認められ、本件発明5及び6は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、申立人の上記理由1は採用することができない。

2 理由2について
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
ア 「[請求項1] 貼り合わされる少なくとも一つの光学基材が遮光部を有し、かつ、下記工程1?工程3を有する少なくとも2つの光学基材が貼り合わされた光学部材の製造方法、
工程1:少なくとも一つの光学基材に対して、(メタ)アクリレート(A)及び光重合開始剤(B)を含有する紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、塗布層を形成し、該塗布層に、紫外線を照射することにより、該塗布層における光学基材側に存在する硬化部分と、光学基材側と反対側に存在する未硬化部分とを有する硬化物層を有する光学基材を得る工程、
工程2:工程1で得られた光学基材の硬化物層の未硬化部分に対して、他の光学基材を貼り合わせるか、又は、工程1により得られた他の光学基材の硬化物層の未硬化部分を貼り合わせる工程、
工程3:貼り合わされた光学基材における未硬化部分を有する硬化物層に、遮光部を有する光学基材を通して、紫外線を照射して、該硬化物層を硬化させる工程。
(・・・略・・・)
[請求項3] 工程1において、紫外線を照射する際に、前記塗布層の光学基材側と反対側の表面に酸素又はオゾンを吹きかける請求項1に記載の光学部材の製造方法。
(・・・略・・・)
[請求項6] 一方の光学基材が遮光部を有する光学基材であり、それと貼り合わされる他の光学基材が表示体ユニットであり、少なくとも2つの光学基材が貼り合わされた光学部材が遮光部を有する光学基材を有する表示体ユニットであり、工程1において、遮光部を有する光学基材の遮光部が設けられた面、又は、表示体ユニットの表示面の何れか一方、又は、その両者に、前記の紫外線硬化型樹脂組成物を塗布する請求項1に記載の光学部材の製造方法。
(・・・略・・・)
[請求項8] 前記(メタ)アクリレート(A)がウレタン(メタ)アクリレート、ポリイソプレン骨格を有する(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの(メ夕)アクリレートである請求項1に記載の光学部材の製造方法。
[請求項9] 前記(メタ)アクリレート(A)として、(I)ウレタン(メタ)アクリレート又はポリイソプレン骨格を有する(メタ)アクリレートの少なくとも何れか一方、及び、
(ii)(メタ)アクリレートモノマー、
の両者を含む紫外線硬化型樹脂組成物である請求項1に記載の光学部材の製造方法。
(・・・略・・・)
[請求項11] ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が7000?25000である請求項9又は10に記載の光学部材の製造方法。
(・・・略・・・)
[請求項17] 請求項1に記載の光学部材の製造方法により光学部材を製造するための(メタ)アクリレート(A)及び光重合開始剤(B)を含有する紫外線硬化型樹脂組成物の使用。」
イ 「[0020] 塗布後の紫外線硬化型樹脂組成物層5に紫外線8を照射して、塗布層の下部側(紫外線硬化型樹脂組成物からみて液晶表示ユニット側または透明基板側)に存在する硬化部分(図では未表示)と塗布層の上部側(液晶表示ユニット側と反対側または透明基板側と反対側)(大気中で行うときは大気側)に存在する未硬化部分(図では未表示)とを有する硬化物層6を得る。このときの紫外線の照射量は5?200mJ/cm^(2)が好ましく、特に好ましくは、10?100mJ/cm^(2)である。照射量が少な過ぎると、最終的に貼り合わせた光学部材の遮光領域にある樹脂の硬化度が不十分となるおそれがあり、照射量が多過ぎると未硬化部分が少なくなり、液晶表示ユニット1と遮光部を有する透明基板2の貼り合わせが不良となるおそれがある。紫外.近紫外の紫外線照射に使用する光源については、紫外.近紫外の光線を照射するランプであれば光源の種類は問わない。例えば、低圧、高圧若しくは超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、(パルス)キセノンランプ、または無電極ランプ等が挙げられる。本明細書において「未硬化」とは、硬化が全く進行していないか、硬化の進行が少なく、塗布当初と同程度の流動性を有し、溶剤によって洗い流すことができる状態を示すものとする。工程1において、紫外線の照射は、通常大気中で、塗布層の上部側表面(紫外線硬化型樹脂組成物から見て、液晶表示ユニット側と反対側または透明基板側と反対側)(通常大気側面)から照射するのが好ましい。また、真空にした後に硬化阻害性の気体を塗布層の上部表面に噴霧しながら紫外線の照射を行っても構わない。大気中で樹脂組成物を硬化した場合には、液晶表示ユニット側と反対側または透明基板側と反対側は大気側となる。
[0021] 紫外線照射時に、紫外線硬化型樹脂層(塗布層)表面に酸素又はオゾンを吹きかけることにより、未硬化部分の状態や未硬化部分の膜厚を調整することができる。即ち、塗布層の表面に酸素又はオゾンを吹きかけることにより、その表面において、紫外線硬化型樹脂組成物の硬化の酸素阻害が生じるため、その表面の未硬化を確実にしたり、また、未硬化部分の膜厚を厚くすることができる。」
ウ 「[0039] 上記(メタ)アクリレートモノマーとしては、好適には分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートを使用することができる。ここで、(メタ)アクリレートモノマーとは、上記ウレタン(メタ)アクリレート、下記エポキシ(メタ)アクリレート及び上記ポリイソプレン骨格を有する(メタ)アクリレートを除いた(メタ)アクリレートを示す。
[0040] 分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、具体的にはイソオクチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ステァリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート及びトリデシル(メタ)アクリレー卜等の炭素数5?20のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、フェニルグリシジル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタ二ル(メタ)アクリレート、1ーアダマンチルアクリレート、2ーメチルー2ーアダマンチルアクリレート、2エチルー2アダマンチルアクリレート、1ーアダマンチルメタクリレート、ポリプロピレンオキサイド変性ノニルフェニル(メタ)アクリレート及びジシクロペンタジェンオキシエチル(メタ)アクリレート等の環状骨格を有する(メタ)アクリレート;2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び4ーヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する炭素数1.5のアルキル(メタ)アクリレート;エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート及びポリプロピレンオキサイド変性ノニルフェニル(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;及び、エチレンオキシド変性フェノキシ化リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ブトキシ化リン酸(メ夕)アクリレート及びエチレンオキシド変性オクチルオキシ化リン酸(メタ)アクリレート等のリン酸(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
[0042] 本発明の組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、(メタ)アクリロイル基を1個有する(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含有することができる。例えば、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メ夕)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート及びエチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート等のトリメチロールC2?C10アルカントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート等のトリメチロールC2?C10アルカンポリアルコキシトリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクロイルオキシエチル]イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及び、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びプロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート;及び、ペンタエリスリトールポリエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリプロポキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレートを挙げることができる。本発明においては、上記多官能(メタ)アクリレートを併用する場合は、硬化収縮を抑えるために、2官能の(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。」
エ 「[0055] 本発明の紫外線硬化型樹脂組成物には、必要に応じて上記以外の柔軟化成分を使用することができる。本発明における上記以外の柔軟化成分としては、紫外線硬化型樹脂において通常使用されている公知の柔軟化成分及び可塑剤が使用できる。使用できる柔軟化成分の具体例としては、前記(メタ)アクリレート又は後記一般式(1)で示される構造を有する化合物を除くポリマー又はオリゴマー、フタル酸エステル類、リン酸エステル類、グリコールエステル類、クエン酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、脂肪酸エステル類、エポキシ系可塑剤、ヒマシ油類、テルペン系水素添加樹脂等が挙げられる。上記ポリマー又はオリゴマーの例としては、ポリイソプレン骨格、ポリブタジエン骨格又はキシレン骨格を有するポリマー又はオリゴマー及びそのエステル化物を例示することができ、場合により、ポリブタジエン骨格を有するポリマー又はオリゴマー及びそのエステル化物を使用することが好ましい。ポリブタジエン骨格を有するポリマー又はオリゴマー及びそのエステル化物の具体例としては、ブタジエンホモポリマー、エポキシ変性ポリブタジェン、ブタジエンースチレンランダムコポリマー、マレイン酸変性ポリブタジエンおよび末端水酸基変性液状ポリブタジエンが挙げられる。かかる柔軟化成分を使用する場合の紫外線硬化型樹脂組成物中における重量割合は、通常10?80重量%、好ましくは10?70重量%である。」
オ 「[0081] 紫外線硬化型樹脂組成物の調製
ウレタンアクリレート(ポリプロピレングリコール(分子量3000)、イソホロンジイソシアネート及び2.ヒドロキシエチルアクリレートの3成分をモル比1:1.3:2で反応させて得られた反応物)45重量部、ユニセーフΡKA-5017(ポリエチレングリコールーポリプロピレングリコールアリルブチルエーテル、日油株式会社製)25重量部、ACMO(アクリロイルモルホリン、株式会社興人製)10重量部、LA(ラウリルアクリレート、大阪有機化学工業株式会社製)20重量部、スピードキュアΤPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、LAMBSON社製)0.5重量部を加熱混合して調製した(紫外線硬化型樹脂組成物A)。」

(2)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
画像表示部材と、光透過性カバー部材とが、液状の光硬化性樹脂組成物から形成された光透過性の硬化樹脂層を介して積層された画像表示装置に適用され得る当該光硬化性樹脂組成物であって、以下の成分(イ)?(ニ):
<成分(イ)>ポリイソプレン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリブタジエン系(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択されるアクリレート系オリゴマー成分;
<成分(ロ)>アクリル系モノマー成分;
<成分(ハ)>可塑剤成分; 及び
<成分(二)>光重合開始剤成分
を含有し、
成分(イ)と成分(ロ)との光硬化性樹脂組成物中における合計含有量が25?80質量%であり、成分(ハ)の光硬化性樹脂組成物中における含有量が65?10質量%であり、
成分(ハ)が、60?150℃の軟化点を有する固形の粘着付与剤(1)と、液状可塑成分(2)とを含有しており、且つ粘着付与剤(1)と液状可塑成分(2)との質量比が60?30:30?10の範囲である
ことを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
液状可塑成分(2)が、ポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤及びアジピン酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
該画像表示装置が、周縁部に遮光層が形成された光透過性カバー部材とが、液状の光硬化性樹脂組成物から形成された光透過性の硬化樹脂層を介し、光透過性カバー部材の遮光層形成面が画像表示部材側に配置されるように積層されたものである請求項1又は2記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
画像表示部材と、光透過性カバー部材とが、液状の光硬化性樹脂組成物から形成された光透過性の硬化樹脂層を介して積層された画像表示装置の製造方法であって、以下の工程(A)?(C):
<工程(A)>
液状の光硬化性樹脂組成物を、光透過性カバー部材の表面又は画像表示部材の表面に塗布する工程;
<工程(B)>
塗布された光硬化性樹脂組成物に対し紫外線を照射して硬化樹脂層を形成する工程; 及び
<工程(C)>
画像表示部材に、硬化樹脂層が内側となるように光透過性カバー部材を貼り合わせて画像表示装置を得る工程
を有し、
該光硬化性樹脂組成物として、以下の成分(イ)?(ニ):
<成分(イ)>ポリイソプレン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリブタジエン系(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択されるアクリレート系オリゴマー成分;
<成分(ロ)>アクリル系モノマー成分;
<成分(ハ)>可塑剤成分; 及び
<成分(二)>光重合開始剤成分
を含有し、成分(イ)と成分(ロ)との光硬化性樹脂組成物中における合計含有量が25?80質量%であり、成分(ハ)の光硬化性樹脂組成物中における含有量が65?10質量%であり、成分(ハ)が、60?150℃の軟化点を有する固形の粘着付与剤(1)と、液状可塑成分(2)とを含有しており、且つ粘着付与剤(1)と液状可塑成分(2)とを含有しており、且つ粘着付与剤(1)と液状可塑成分(2)との質量比が60?30:30?10の範囲である光硬化性樹脂組成物を使用する製造方法。
【請求項5】
液状可塑成分(2)が、ポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤及びアジピン酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくも一種である請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
該画像表示装置が、周縁部に遮光層が形成された光透過性カバー部材とが、液状の光硬化性樹脂組成物から形成された光透過性の硬化樹脂層を介し、光透過性カバー部材の遮光層形成面が画像表示部材側に配置されるように積層されたものである請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
画像表示部材と、光透過性カバー部材とが、液状の光硬化性樹脂組成物から形成された光透過性の硬化樹脂層を介して積層された画像表示装置の製造方法であって、以下の工程(A)?(C):
<工程(A)>
液状の光硬化性樹脂組成物を、光透過性カバー部材の表面又は画像表示部材の表面に塗布する工程;
<工程(B)>
塗布された光硬化性樹脂組成物に対し紫外線を照射して仮硬化させることにより仮硬化樹脂層を形成する工程;
<工程(C)>
画像表示部材に、仮硬化樹脂層が内側となるように光透過性カバー部材を貼り合わせる工程; 及び
<工程(D)>
画像表示部材と光透過性カバー部材との間に挟持されている仮硬化樹脂層に対し紫外線を照射して本硬化させることにより、画像表示部材と光透過性カバー部材とを光透過性の硬化樹脂層を介して積層して画像表示装置を得る工程
を有し、
該光硬化性樹脂組成物として、以下の成分(イ)?(ニ):
<成分(イ)>ポリイソプレン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリブタジエン系(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択されるアクリレート系オリゴマー成分;
<成分(ロ)>アクリル系モノマー成分;
<成分(ハ)>可塑剤成分; 及び
<成分(二)>光重合開始剤成分
を含有し、成分(イ)と成分(ロ)との光硬化性樹脂組成物中における合計含有量が25?80質量%であり、成分(ハ)の光硬化性樹脂組成物中における含有量が65?10質量%であり、成分(ハ)が、60?150℃の軟化点を有する固形の粘着付与剤(1)と、液状可塑成分(2)とを含有しており、且つ粘着付与剤(1)と液状可塑成分(2)との質量比が60?30:30?10の範囲である光硬化性樹脂組成物を使用する製造方法。
【請求項8】
液状可塑成分(2)が、ポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤及びアジピン酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくも一種である請求項7記載の製造方法。」
イ 「【0028】
<成分(ロ)> 本発明の光硬化性樹脂組成物は、反応希釈剤として機能する光ラジカル重合性のアクリル系モノマー成分(成分(ロ))を含有する。アクリル系モノマー成分の好ましい具体例としては、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。」
ウ 「【0032】
液状可塑成分(2)は、紫外線照射によりそれ自身は光硬化をせず、光硬化後の硬化樹脂層あるいは仮硬化樹脂層に柔軟性を与え、また硬化樹脂層間あるいは仮硬化樹脂層の硬化収縮率を低減させるものである。このような液状可塑成分(2)としては、液状のポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤及びアジピン酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくも一種を挙げることができる。」
エ 「【0049】
<工程(b)(硬化工程)> 次に、図1cに示すように、工程(a)で塗布された光硬化性樹脂組成物3に対し紫外線を照射し硬化して光透過性の硬化樹脂層7を形成する。ここで、硬化させるのは、光硬化性樹脂組成物3を液状から流動しない状態にし、図1dに示すように、天地逆転させても流れ落ちないようにして取り扱い性を向上させるためである。また、このように硬化させることにより、光透過性カバー部材2と画像表示部材との間の光透過性硬化樹脂層を、その間から排除することなく十分に光硬化させることでき、硬化収縮も低減させることができる。このような硬化のレベルは、光透過性の硬化樹脂層7の硬化率(ゲル分率)が好ましくは90%、より好ましくは95%以上となるようなレベルである。ここで、硬化率(ゲル分率)とは、紫外線照射前の光硬化性樹脂組成物3中の(メタ)アクリロイル基の存在量に対する紫外線照射後の(メタ)アクリロイル基の存在量の割合(消費量割合)と定義される数値であり、この数値が大きい程、硬化が進行していることを示す。」

2 甲1、2に記載された発明(甲1発明、甲2発明)
(1)甲1発明
甲1の請求項1を引用する請求項8((1)ア)には、
「貼り合わされる少なくとも一つの光学基材が遮光部を有し、かつ、下記工程1?工程3を有する少なくとも2つの光学基材が貼り合わされた光学部材の製造方法であって、
工程1:少なくとも一つの光学基材に対して、(メタ)アクリレート(A)及び光重合開始剤(B)を含有する紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、塗布層を形成し、該塗布層に、紫外線を照射することにより、該塗布層における光学基材側に存在する硬化部分と、光学基材側と反対側に存在する未硬化部分とを有する硬化物層を有する光学基材を得る工程、
工程2:工程1で得られた光学基材の硬化物層の未硬化部分に対して、他の光学基材を貼り合わせるか、又は、工程1により得られた他の光学基材の硬化物層の未硬化部分を貼り合わせる工程、
工程3:貼り合わされた光学基材における未硬化部分を有する硬化物層に、遮光部を有する光学基材を通して、紫外線を照射して、該硬化物層を硬化させる工程、
前記(メタ)アクリレート(A)がウレタン(メタ)アクリレート、ポリイソプレン骨格を有する(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの(メ夕)アクリレートである光学部材の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲2発明
甲2の請求項7((2)ア)には、
「画像表示部材と、光透過性カバー部材とが、液状の光硬化性樹脂組成物から形成された光透過性の硬化樹脂層を介して積層された画像表示装置の製造方法であって、以下の工程(A)?(C):
<工程(A)>
液状の光硬化性樹脂組成物を、光透過性カバー部材の表面又は画像表示部材の表面に塗布する工程;
<工程(B)>
塗布された光硬化性樹脂組成物に対し紫外線を照射して仮硬化させることにより仮硬化樹脂層を形成する工程;
<工程(C)>
画像表示部材に、仮硬化樹脂層が内側となるように光透過性カバー部材を貼り合わせる工程; 及び
<工程(D)>
画像表示部材と光透過性カバー部材との間に挟持されている仮硬化樹脂層に対し紫外線を照射して本硬化させることにより、画像表示部材と光透過性カバー部材とを光透過性の硬化樹脂層を介して積層して画像表示装置を得る工程
を有し、
該光硬化性樹脂組成物として、以下の成分(イ)?(ニ):
<成分(イ)>ポリイソプレン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリブタジエン系(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択されるアクリレート系オリゴマー成分;
<成分(ロ)>アクリル系モノマー成分;
<成分(ハ)>可塑剤成分; 及び
<成分(二)>光重合開始剤成分
を含有し、成分(イ)と成分(ロ)との光硬化性樹脂組成物中における合計含有量が25?80質量%であり、成分(ハ)の光硬化性樹脂組成物中における含有量が65?10質量%であり、成分(ハ)が、60?150℃の軟化点を有する固形の粘着付与剤(1)と、液状可塑成分(2)とを含有しており、且つ粘着付与剤(1)と液状可塑成分(2)との質量比が60?30:30?10の範囲である光硬化性樹脂組成物を使用する製造方法。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)甲1発明を主たる引用発明とした場合
まず、本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「光学基材」、「少なくとも2つの光学基材が貼り合わされた光学部材」、「紫外線硬化型樹脂組成物」、「少なくとも一つの光学基材に対して」「紫外線硬化型樹脂組成物を塗布」する構成、「紫外線」、「硬化物層」、「光重合開始剤(B)」及び「光学部材の製造方法」は、本件発明1の「基材1」、「積層体」、「光硬化型接着組成物」、「基材1に、光硬化型接着組成物を適用」する構成、「エネルギー線」、「硬化物」、「(D)光反応開始剤」及び「積層体の製造方法」にそれぞれ相当する。
そして、甲1発明の「工程1:少なくとも一つの光学基材に対して、(メタ)アクリレート(A)及び光重合開始剤(B)を含有する紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、塗布層を形成し、該塗布層に、紫外線を照射することにより、該塗布層における光学基材側に存在する硬化部分と、光学基材側と反対側に存在する未硬化部分とを有する硬化物層を有する光学基材を得る工程」及び「工程2:工程1で得られた光学基材の硬化物層の未硬化部分に対して、他の光学基材を貼り合わせるか、又は、工程1により得られた他の光学基材の硬化物層の未硬化部分を貼り合わせる工程」は、本件発明1の「(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程」及び「(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程」にそれぞれ相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「積層体の製造方法であって、以下の工程(I)?(III):
(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、
(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層にエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程を含み、
光硬化型接着組成物が、光重合開始剤(B)を含む積層体の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点A1)
光硬化型接着組成物層に対するエネルギー線の照射について、本件発明1では、酸素存在下で行われているのに対し、甲1発明の紫外線の照射が酸素存在下で行われているかどうかは不明な点。
(相違点A2)
硬化物における、光硬化型接着組成物の反応率について、本件発明1では、90%以上であるのに対し、甲1発明の硬化物層の反応率は不明な点。
(相違点A3)
光硬化型接着組成物の成分について、本件発明1は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含むのに対し、甲1発明の紫外線硬化型樹脂組成物は、(メタ)アクリレート(A)を含むものの、これらの成分のものを含むかどうか不明な点。
(相違点A4)
本件発明1では、さらに、(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上(以下、「特定の一種以上」という。)であることが特定されているのに対し、甲1発明の紫外線硬化型樹脂組成物は、甲1発明は、上記「特定の一種以上」を含むかどうか不明な点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点A4について検討する。
甲1には、2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーに関連して、「本発明の組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、(メタ)アクリロイル基を1個有する(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含有することができる。」([0042](1(1)ウ))という記載はあるものの、同[0042]に具体的に示された多官能(メタ)アクリレートモノマーの中には、上記「特定の一種以上」は記載されておらず、しかも、甲1発明の紫外線硬化型樹脂組成物において、上記「特定の一種以上」を含むようにした場合に、どのような硬化物層が得られるかは明らかではないことから、甲1発明の紫外線硬化型樹脂組成物に上記「特定の一種以上」を含むようにする、動機付けはないというべきである。
そして、上記第5 1で検討したように、本件発明1は、上記相違点A4に係る発明特定事項を備えることで、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有するものとなるという、甲1発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、相違点A1?A3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。

本件発明2?4についても、同様である。

(2)甲2発明を主たる引用発明とした場合
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「光透過性カバー部材」又は「画像表示部材」、「画像表示部材と光透過性カバー部材とを光透過性の硬化樹脂層を介して積層し」た「画像表示装置」、「光硬化性樹脂組成物」、「液状の光硬化性樹脂組成物を、光透過性カバー部材の表面又は画像表示部材の表面に塗布する工程」、「紫外線」、「仮硬化樹脂層」、「ポリイソプレン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリブタジエン系(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択されるアクリレート系オリゴマー成分」、「光重合開始剤成分」、「可塑剤成分」及び「光硬化性樹脂組成物を使用する製造方法」は、本件発明1の「基材1」、「積層体」、「光硬化型接着組成物」、「基材1に、光硬化型接着組成物を適用」する構成、「エネルギー線」、「硬化物」、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(D)光反応開始剤」、「(F)液状可塑剤」及び「積層体の製造方法」にそれぞれ相当する。
そして、甲2発明の「<工程(A)>液状の光硬化性樹脂組成物を、光透過性カバー部材の表面又は画像表示部材の表面に塗布する工程」、「<工程(B)>塗布された光硬化性樹脂組成物に対し紫外線を照射して仮硬化させることにより仮硬化樹脂層を形成する工程」、及び、「<工程(C)>画像表示部材に、仮硬化樹脂層が内側となるように光透過性カバー部材を貼り合わせる工程」は、本件発明1の「(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程」、「(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程」及び「(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程」にそれぞれ相当する。
また、本件発明1の「(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー」と、甲2発明の「アクリル系モノマー成分」とは、「(メタ)アクリレートモノマー」である点で共通し、本件発明1の「軟化点が70?150℃の粘着付与剤」と甲2発明の「60?150℃の軟化点を有する固形の粘着付与剤」とは、「軟化点が70?150℃の粘着付与剤」である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「積層体の製造方法であって、以下の工程(I)?(III):
(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、
(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層にエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程を含み、
光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含む積層体の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点B1)
光硬化型接着組成物層に対するエネルギー線の照射について、本件発明1では、酸素存在下で行われているのに対し、甲2発明の紫外線の照射が酸素存在下で行われているかどうかは不明な点。
(相違点B2)
硬化物における、光硬化型接着組成物の反応率について、本件発明1では、90%以上であるのに対し、甲2発明の仮硬化樹脂層の反応率は不明な点。
(相違点B3)
光硬化型接着組成物の成分について、本件発明1は、(B)(メタ)アクリレートモノマーが単官能であって、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含み、(E)粘着付与剤の軟化点が70?150℃であることが特定されているのに対し、甲2発明の光硬化性樹脂組成物において、アクリル系モノマー成分が単官能であるかどうか不明であり、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマーを含むかどうか不明であり、粘着付与剤の軟化点は60?150℃である点。
(相違点B4)
本件発明1では、さらに、(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上(同様に、「特定の一種以上」という。)であることが特定されているのに対し、甲2発明の光硬化性樹脂組成物は、上記「特定の一種以上」を含むかどうか不明な点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点B4について検討する。
甲2には、2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーに関連した記載を見いだすことはできず、しかも、甲2発明の光硬化性樹脂組成物において、上記「特定の一種以上」を含むようにした場合に、どのような仮硬化樹脂層が得られるかは明らかではないことから、甲2発明の光硬化性樹脂組成物に上記「特定の一種以上」を含むようにする、動機付けはないというべきである。
そして、上記第5 1で検討したように、本件発明1は、上記相違点B4に係る発明特定事項を備えることで、酸素存在下で光照射した場合でも、酸素が存在しない場合と同等な接着強度を有するものとなるという、甲2発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、相違点B1?B3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。

本件発明2?4についても、同様である。

4 以上のとおり、本件発明1?4は、甲1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとすることはできず、申立人の上記理由2は採用することができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体の製造方法であって、以下の工程(I)?(III):
(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、
(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程
を含み、
工程(II)で形成される硬化物における、光硬化型接着組成物の反応率が90%以上であり、
光硬化型接着組成物が、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含み、
(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、
積層体の製造方法。
【請求項2】
(A)成分が、(水素添加)ポリイソプレン、(水素添加)ポリブタジエン及びポリウレタン構造を骨格に有する(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上である、請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
(C)成分が、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、及びノナンジオールジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
積層体が光学表示体である、請求項1?3のいずれか1項記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
以下の工程(I)?(III):
(I)基材1に、光硬化型接着組成物を適用して、光硬化型接着組成物層を形成する工程、
(II)工程(I)で得られた光硬化型接着組成物層に酸素存在下でエネルギー線を照射して、光硬化型接着組成物の硬化物を形成する工程、及び
(III)工程(II)で得られた硬化物の上に、基材2を貼り合わせる工程
を含み、
工程(II)で形成される硬化物における、光硬化型接着組成物の反応率が90%以上である、積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物であって、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)単官能の(メタ)アクリレートモノマー、(C)2?4官能の(メタ)アクリレートモノマー、(D)光反応開始剤、(E)軟化点が70?150℃の粘着付与剤、及び(F)液状可塑剤を含み、
(C)2官能?4官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート及びポリオールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、
積層体の製造方法に使用するための光硬化型接着組成物。
【請求項6】
(A)成分が、(水素添加)ポリイソプレン、(水素添加)ポリブタジエン及びポリウレタン構造を骨格に有する(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上である、請求項5記載の光硬化型接着組成物。
【請求項7】
(C)成分が、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキシド付加体のテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、及びノナンジオールジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項5又は6記載の光硬化型接着組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-07 
出願番号 特願2015-77838(P2015-77838)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 川端 修
天野 斉
登録日 2019-05-24 
登録番号 特許第6528103号(P6528103)
権利者 協立化学産業株式会社
発明の名称 光硬化型接着組成物  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人津国  

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