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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10L
管理番号 1366077
異議申立番号 異議2019-700825  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-16 
確定日 2020-08-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6501037号発明「バイオマス固体燃料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6501037号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-14〕について訂正することを認める。 特許第6501037号の請求項1?3、5?14に係る特許を維持する。 特許第6501037号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6501037号の請求項1?14の特許についての出願は、平成29年(2017年)4月3日(優先権主張 平成28年4月6日)を国際出願日として出願され、平成31年3月29日にその特許権の設定登録がされ、同年4月17日に特許掲載公報が発行された。その後、令和元年10月16日に、その全請求項を対象として、特許異議申立人である渡辺郁子より特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件におけるその後の手続の経緯は、次のとおりである。
令和 2年 1月24日付け:取消理由通知
同年 3月27日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 5月 1日 :意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
令和2年3月27日にされた訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8、9?14について訂正することを求めるものであり、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する訂正前の請求項〔1-8〕及び〔9-14〕を訂正の単位として請求されたものである。
そして、当該訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「条件(a1):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上である;
条件(b1):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上である;
条件(c1):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上である;
条件(e1):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上である;
条件(f1):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上である。」
とあるのを、
「条件(a1):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が460ppm?2200ppm以下である;
条件(b1):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が200ppm?400ppm以下である;
条件(c1):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が120ppm?460ppm以下である;
条件(e1):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が260ppm?1300ppm以下である;
条件(f1):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が330ppm?950ppm以下である。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に、
「を特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
とあるのを、
「を特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
に訂正する。
請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6?8も同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「を特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
とあるのを、
「を特徴とする請求項1?3及び5のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
に訂正する。
請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7、8も同様に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、
「を特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
とあるのを、
「を特徴とする請求項1?3、5および6のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
に訂正する。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8も同様に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「を特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
とあるのを、
「を特徴とする請求項1?3および5?7のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。」
に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、
「条件(a4):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上である;
条件(b4):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上である;
条件(c4):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上である;
条件(e4):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上である;
条件(f4):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上である。」
とあるのを、
「条件(a4):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が460ppm?2200ppm以下である;
条件(b4):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が200ppm?400ppm以下である;
条件(c4):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が120ppm?460ppm以下である;
条件(e4):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が260ppm?1300ppm以下である;
条件(f4):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が330ppm?950ppm以下である。」
に訂正する。
請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10?14も同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1、7について
訂正事項1、7は、本件訂正前の請求項1、9に対して、原料ごとに、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)の数値を付加するものであり、その数値範囲は、本件特許明細書の【0148】【表2】及び【0156】【表4】の記載に基づくものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、特許異議申立人は、令和2年5月1日提出の意見書において、上記【表2】及び【表4】に記載された、加熱温度230℃におけるCODの数値は、本件特許明細書の【0114】に記載のとおり、加熱保持時間ゼロにて測定されたものであり、本件訂正前の請求項1、9に記載された加熱時間「0.2?3時間」と整合するものではないから、当該数値を請求項1に付加することは、新規事項の追加に該当する旨主張するが、この数値は、230℃という比較的低温にて加熱された場合の数値であるから、その場合、CODの数値は、加熱保持時間により多少変動するとしても、その変動は緩やかであると考えるのが妥当であるし(後記甲第4号証:国際公開第2014/087949号の[0034]、[図5]などを参酌した。)、加熱保持時間によりその数値が大きく変動することを示す証拠もないから、同表記載の数値を根拠としてされた上記数値の付加が、新規事項の追加に該当するとまではいえない。また、当該数値はそもそも、本件訂正前の請求項4や本件特許明細書の【0022】などに既に記載されていた範囲内の数値であるから、この点からみても新規事項の追加に該当するとは言い難い。
(2) 訂正事項2?6について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項4を削除するものであり、訂正事項3?5は、当該請求項4の削除に伴い引用請求項の一部を削除するものであるから、これらの訂正事項はいずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと解することができ、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 本件訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-14〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
100?3000μmの粒径を有するバイオマス粉(ただし、バイオマスを水蒸気爆砕することにより得られるバイオマス粉を含まない。)を成型して未加熱塊状物とし、この未加熱塊状物を0.2?3時間加熱して得られるバイオマス固体燃料であって、
水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続が維持され、かつ、
バインダーを含まず、かつ、
下記条件(a1)?(f1)のいずれかを満たす、バイオマス固体燃料;
条件(a1):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が460ppm?2200ppm以下である;
条件(b1):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が200ppm?400ppm以下である;
条件(c1):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が120ppm?460ppm以下である;
条件(e1):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が260ppm?1300ppm以下である;
条件(f1):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が330ppm?950ppm以下である。
【請求項2】
下記条件(a2)?(f2)のいずれかを満たす、請求項1に記載のバイオマス固体燃料;
条件(a2):前記条件(a1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.439?0.481m2/gである;
条件(b2):前記条件(b1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.378?0.464m2/gである;
条件(c2):前記条件(c1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.330?0.352m2/gである;
条件(e2):前記条件(e1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.424?0.494m2/gである;
条件(f2):前記条件(f1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.161?0.218m2/gである。
【請求項3】
下記条件(a3)?(f3)のいずれかを満たす、請求項1または2に記載のバイオマス固体燃料;
条件(a3):前記条件(a1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が30.6?40.4wt%である;
条件(b3):前記条件(b1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が21.1?24wt%である;
条件(c3):前記条件(c1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が17.9?25.3wt%である;
条件(e3):前記条件(e1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が20.5?29.9wt%である;
条件(f3):前記条件(f1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が21.4?28.6wt%である。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
燃料比(固定炭素/揮発分)が0.15?1.50、無水ベース高位発熱量が4500?7000(kcal/kg-dry)、酸素Oと炭素Cのモル比O/Cが0.1?0.7、水素Hと炭素Cのモル比H/Cが0.70?1.40であること
を特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項6】
水中浸漬後の径膨張率が20%以下であること
を特徴とする請求項1?3および5のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項7】
水中浸漬後の長さ膨張率が10%以下であること
を特徴とする請求項1?3、5および6のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項8】
水中浸漬後の体積膨張率が160%以下であること
を特徴とする請求項1?3および5?7のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項9】
100?3000μmの粒径を有するバイオマス粉を成型して未加熱塊状物を得る成型工程と、
前記未加熱塊状物を0.2?3時間加熱し、加熱済固体物を得る加熱工程と
を有し、
前記加熱済固体物をバイオマス固体燃料とするバイオマス固体燃料の製造方法(ただし、バイオマスを水蒸気爆砕する工程を含まない)であって、
製造されたバイオマス固体燃料は、水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続が維持され、かつ、下記条件(a4)?(f4)のいずれかを満たし、かつバインダーを含まない、バイオマス固体燃料の製造方法;
条件(a4):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が460ppm?2200ppm以下である;
条件(b4):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が200ppm?400ppm以下である;
条件(c4):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が120ppm?460ppm以下である;
条件(e4):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が260ppm?1300ppm以下である;
条件(f4):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が330ppm?950ppm以下である。
【請求項10】
下記の条件(a5)?(f5)のいずれかを満たす、請求項9に記載のバイオマス固体燃料の製造方法;
条件(a5):前記条件(a4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.439?0.481m2/gである;
条件(b5):前記条件(b4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.378?0.464m2/gである;
条件(c5):前記条件(c4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.330?0.352m2/gである;
条件(e5):前記条件(e4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.424?0.494m2/gである;
条件(f5):前記条件(f4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.161?0.218m2/gである。
【請求項11】
下記条件(a6)?(f6)のいずれかを満たす、請求項9または10に記載のバイオマス固体燃料の製造方法;
条件(a6):前記条件(a4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が30.6?40.4wt%である;
条件(b6):前記条件(b4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が21.1?24wt%である;
条件(c6):前記条件(c4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が17.9?25.3wt%である;
条件(e6):前記条件(e4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が20.5?29.9wt%である;
条件(f6):前記条件(f4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が21.4?28.6wt%である。
【請求項12】
製造されたバイオマス固体燃料の燃料比(固定炭素/揮発分)が0.15?1.50、無水ベース高位発熱量が4500?7000(kcal/kg-dry)、酸素Oと炭素Cのモル比O/Cが0.1?0.7、水素Hと炭素Cのモル比H/Cが0.70?1.40であること
を特徴とする請求項9?11のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料の製造方法。
【請求項13】
前記未加熱塊状物の嵩密度をA、前記加熱済固体物の嵩密度をBとすると、
B/A=0.6?1であること
を特徴とする請求項9?12のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料の製造方法。
【請求項14】
前記未加熱塊状物のHGI(ハードグローブ粉砕性指数)をH1、前記加熱済固体物のHGIをH2とすると、H2/H1=1.1?4.0であること
を特徴とする請求項9?13のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料の製造方法。」

第4 取消理由について

1 取消理由の概要
令和2年1月24日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(進歩性)本件訂正前の本件特許の請求項1?14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された後記甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。

2 甲第1号証とその記載事項
特許異議申立人が刊行物として提出した甲第1号証(以下、単に「甲1」という。)は、次のものである。
<甲1>
Bahman Ghiasiら著、「Feasibility of Pelletization and torrefaction of agricultural and woodybiomass」、CSBE/SCGAB、Paper No. CSBE15-076(Written for presentation at the CSBE/SCGAB2015 Annual Conference Delta Edmonton South Hotel, Edmonton, Alberta 5-8 July2015)、第1?8頁

そして、甲1には、「Feasibility of Pelletization and torrefaction of agricultural and woody biomass」(農業および木質バイオマスのペレット化および半炭化の実現可能性)と題し、和訳にして、以下の事項が記載されている。
(1) 第1頁の要約(ABSTRACT)の項目の最初の2行
半炭化(焙焼)されたバイオマスは、石炭のような化石燃料の代替として使用することができる高品質の再生可能なエネルギー商品の代表的なものである。
(2) 第3頁の原料(Raw material)の項目
ベイマツ(Douglas fir)およびモンタナマツ(Mountain Pine)の平均サイズ30-50mmの木片および平均長さ50-80mmの細断されたスイッチグラス、ワラ、およびトウモロコシ茎葉が原料として用いられた。木片の初期含水量は40%(湿重量ベース)であり、農業サンプルについては15-20%であった。木質サンプルは、ノースバンクーバー市のFibreco社の、屋外に保管された大きな山から集められた。収集直後に、サンプルはプラスチック袋中に密閉され、その後低温室(4℃)中で保管された。スイッチグラスは2012年4月にオンタリオ州クリントンで収穫された。このサンプルは空気で乾燥させられた。このサンプルは四角形のベールに圧縮され、オタワ州のConmetEnergyを経由して、バンクーバーに配送された。ワラおよびトウモロコシ茎葉は、2012年の夏にオンタリオ州で収穫したものをConmetEnergyを経由してベールにして、2012年10月にブリティッシュコロンビア大学に配送された。到着時、これらの材料は、まず熱風対流オーブン(Cascade TEK TFO-28)を用いて、15%の含水量になるまで乾燥させられた。木質および農業双方のバイオマスの原料は、ラボミル(10HMBL、Glen mills)を用いて粉砕された。材料の粉砕は、ペレット化工程で必要とされた。
(3) 第3頁のペレット化(Pelletization)の項目
実験室規模の(lab scale)California Pellet Mill(CPM)を用いて、水蒸気爆砕および未処理の材料の双方をペレット化した(CL-397179、230V、3相、60Hz)。このペレット化装置は、14Aで回転速度1750rpmの5馬力モータを備えていた。アンペアインジケータを用いて、装置の瞬間消費電力をモニターした。二つのダイ厚(薄いダイ(19mm厚)および厚いダイ(31.5mm))をテストした。
(4) 第3頁の半炭化(Torrefaction)の項目の最初の3行
半炭化は、UBC-BTGA(ブリティッシュコロンビア大学の巨大熱-重量測定分析装置)を用いて行われた。この装置は、室温以上600℃以下の温度で動作するCarboliteオーブン(650×480×410mm)からなる。
(5) 第4頁の分析(Analysis)の項目の2、3行
耐久性は、アメリカ農業工業者規格(ASAE)S269.4に準拠したタンブラーテストユニットを用いて測定された。
(6) 第4頁の未処理ペレット(Untreated Pellet)の項目の最初の2行
表1に、薄いダイ(19mm厚)と厚いダイ(31.5mm)を使用して作られた農業系ペレットについて測定された特性を示す。
(7) 第5頁の半炭化(Torrefaction)の項目
作製された未処理および水蒸気爆砕ペレットは250-320℃の温度で半炭化された。水蒸気爆砕は、製造されたペレットの密度および耐久性を向上させるのに役立つ。しかし、処理された材料の発熱量を増加させるのにはあまり有効ではない。テスト結果によれば、水蒸気爆砕工程により、8-15%の乾燥質量が失われる。この質量損失割合は、この処理の過酷さに関連する。トウモロコシ茎葉サンプルについての一連の実験について、5分間にわたって処理を行う。温度は、150、170、190、および210℃に設定した。表(3)は、製造されたペレットの品質および処理温度の材料の特性への影響を示す。温度を上げることにより、質量損失が増加する。150?210℃の範囲での処理温度変化による質量損失は、ほぼ同比率の炭素及び吸熱性反応物質を含む。結果として、水蒸気爆砕材料の発熱量は著しく変化することはない。水蒸気爆砕によるバイオマスの質量損失は、炭素の酸素に対する割合に大きく影響することはないように思われる。
表(2)は、水蒸気爆砕処理された材料を半炭化することは、未処理の材料と同様、低い熱量値の特性を克服するのに役立つことを示す。半炭化されたペレットは、完全に疎水性となる。半炭化されたペレットは、水に24時間浸漬した後でも安定し耐久性を有したままである。水の色すら変化しない(図8)。水蒸気爆砕ペレットと半炭化された材料からバインダの補助を受けて製造されたペレットとについての問題は、材料が、屋外に保管、または水中に沈められた場合、これらが水に溶解する何らかの化学物質を放出し、その色を変化させることである。未処理及び水蒸気爆砕ペレットを半炭化することで、水または雨に曝された場合でも化学物質および汚染物質を放出しない非常に安定したペレットが得られる。
(8) 第9頁の表1(未処理ペレットの品質テスト結果。農業系材料のペレットの耐久性に及ぼすダイの厚さの影響についてテストされた。)

(9) 第9頁の表2(木質系(ベイマツ)及び農業系(スイッチグラス)ペレットの特性(未処理、水蒸気爆砕、ペレット化及び半炭化))

(10) 第10頁の表3(異なる温度でトウモロコシ茎葉を水蒸気爆砕させて製造されたペレットの品質。処理所要時間5分)

(11) 第11頁の図8(半炭化ペレットが水に24時間浸漬された。水中で崩壊の兆候も化学物質の溶解の兆候もなかった。)


3 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の上記記載事項(9)の表2には、「半炭化ベイマツペレット」が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。

4 本件発明1について
(1) 甲1発明との対比
ア 甲1発明のペレットは、上記記載事項(1)のとおり、化石燃料の代替品として開発されたものであるから、本件発明1の「バイオマス固体燃料」に相当するものといえる。
イ また、甲1発明のペレットの製造工程についてみると、当該ペレットは、上記記載事項(2)のとおり、原料となるベイマツを粉砕し、記載事項(3)のとおり、ペレット化し、記載事項(7)のとおり、半炭化して得られたものであることが分かる。そして、当該半炭化の条件は、上記表2のとおり、280℃、15分であり、当該製造工程においては、バインダの添加や、水蒸気爆砕処理は施されていないから、甲1発明のペレットは、ベイマツを粉砕して得たベイマツ粉(本件発明1における「バイオマス粉」に相当するものであって、水蒸気爆砕することにより得られるバイオマス粉を含まないもの)を、バインダを添加せずにペレット化(本件発明1における「成型」に相当)して得たペレット(半炭化前のものであって、本件発明1における「未加熱塊状物」に相当)を、280℃、15分という条件で半炭化したものであることが理解できる。
ウ さらに、甲1発明のペレットの特性についてみると、上記記載事項(9)のとおり、耐久性は98.4%であり(なお、当該耐久性のテストは、記載事項(5)のとおり、ASAEのS269.4に準拠するものであり、本件発明1における「機械的耐久性DU」のテスト(本件特許明細書【0121】参照)と同じである。)、上記記載事項(11)のとおり、水中浸漬後も、ペレットの形状に変化は見られず、バイオマス粉同士の接続が維持されるものであることが分かる。
エ 上記ア?ウの点を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
バイオマス粉(ただし、バイオマスを水蒸気爆砕することにより得られるバイオマス粉を含まない。)を成型して未加熱塊状物とし、この未加熱塊状物を0.2?3時間加熱して得られるバイオマス固体燃料であって、
水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続が維持され、かつ、
バインダーを含まない、バイオマス固体燃料。
<相違点1>
バイオマス粉の粒径について、本件発明1は、「100?3000μmの粒径を有する」と特定しているのに対して、甲1発明では当該粒径が不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、条件(a1)?(f1)のいずれかを満たすものであるのに対して、甲1発明は、当該条件を満たすものではない点。
(2) 相違点についての検討
事案に鑑み、はじめに相違点2について検討する。
本件発明1の条件(a1)?(f1)は、バイオマス粉原料の種類を、ゴムの木などに限定するとともに、当該原料の樹種ごとに、未加熱塊状物の嵩密度、加熱時の温度、水中浸漬前の機械的耐久性DU及び水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)を規定するものである。
そこで、当該条件中の規定のうち、「水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)」に着目して、甲1における当該CODに関連する記載をみてみると、次の記載を認めることができる。
「未処理及び水蒸気爆砕ペレットを半炭化することで、水または雨に曝された場合でも化学物質および汚染物質を放出しない非常に安定したペレットが得られる。」(記載事項(7)参照)
当該記載は、上記CODについて示唆するものであり、未処理のペレット(水蒸気爆砕を施していないペレット)を半炭化することで、当該CODの数値が低いペレットを得ることができることを示すものと解されるが、その具体的な数値を示すものではない。また、当該記載は、あくまでは、ベイマツ(さらにはスイッチグラス)などにおける検証を踏まえた記載であって、本件発明1が特定しているゴムの木などの樹種についての記載ではない。その上、当該CODの数値変動の傾向(加熱による減少傾向)は、原料の樹種により異なるものであって、単に、加熱すれば一律に同数値が同様の減少傾向を示すというほど単純なものでもない(例えば、本件特許明細書の【表1】、【表2】をみると、ゴムの木の例aとアカシアの例bにおいては、230℃で加熱すると未加熱の場合に比べて一旦COD値は上昇し、250℃、270℃と加熱温度を上昇させるとCODは減少する傾向を示すのに対して、メランティの例cにおいては、未加熱からの加熱温度の上昇に際してCOD値は減少傾向にあることなどを参照した。)。
そうである以上、甲1には、上記CODを特定の数値範囲とすること、さらには、当該数値範囲を本件発明1のように特定の樹種ごとに定めることについての記載ないし示唆は存在しないというほかないから、甲1発明において、ベイマツを本件発明1の特定の樹種に変更し、さらに、当該特定の樹種に合わせて上記CODの数値を特定の数値範囲に収めることは、甲1の記載全体を参酌しても当業者にとって容易なこととは言い難い。また、そのように甲1発明を変更することが当業者にとって容易想到の事項であるというに足りる証拠も見当たらない。
そして、本件発明1は、固体燃料の最適な特性を総合的に考えて、特定の樹種に合わせた固有のCODの数値範囲を採用するなど、上記相違点2に係る条件を具備することにより、本件特許明細書記載の実施例の結果にみられるような優れた物性を得ることができたものである。
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
なお、特許異議申立人は、令和2年5月1日提出の意見書において、本件発明1が規定するCODの数値は、加熱温度を最適化することで必然的に得られるものであると主張するが、そもそも甲1には、加熱温度範囲については250-320℃との記載(上記記載事項(7))しかなく、いわんやCODなどの諸特性を考慮して加熱温度を最適化する旨の記載はない。その上、上記のとおり、CODの数値は、樹種ごとに、加熱温度との関係や最適範囲は異なり、なおかつ、このような樹種固有のCOD値などを把握するに足りる証拠(本件特許明細書以外のもの)も見当たらないから、甲1発明において、COD値を当該樹種固有の所定の数値範囲に収めることが、甲1の記載などからみて、単に加熱温度の最適化に付随する結果であると直ちに結論付けることはできない。

4 本件発明9について
本件発明9は、実質的に本件発明1に係るバイオマス固体燃料の製造方法の発明にあたるものであるが、その発明特定事項として、上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備するものである。
他方、甲1には、上記記載事項から明かなとおり、上記甲1発明(半炭化ベイマツペレットという物の発明)のみならず、その製造方法についての発明も記載されているといえるものの、本件発明9との間には、上記相違点2と同様の相違点が存することとなるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明9も進歩性を有するものということができる。

5 本件発明2、3、5?8、10?14について
本件発明2、3、5?8、10?14は、本件発明1ないし本件発明9の発明特定事項をすべて具備するものであるから、これらの発明についても同様に進歩性を有するものである。

6 小活
以上のとおり、本件発明1?3、5?14は、甲1発明に対して進歩性を有するものであるから、本件の請求項1?3、5?14に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではないため、上記取消理由により取り消すことはできない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について

特許異議申立人は、特許異議申立理由として、特許法第29条第2項所定の規定違反(同法第113条第2号に該当)、及び、同法第36条第6項第1号所定の規定違反(同法第113条第4号に該当)を主張しているので、これらのうち、上記取消理由にて採用しなかったものについて、ここで検討をする。

1 特許法第29条第2項所定の規定違反について
上記第4において検討した取消理由(進歩性)は、特許異議申立人が主張する特許法第29条第2項所定の規定違反とおおむね同じであるが、特許異議申立理由ではさらに、(i)甲1に記載された発明(主引用発明)を、甲1の上記記載事項(9)の表2に記載された「半炭化スイッチグラスペレット」(以下、「甲1’発明」という。)とする場合、及び、(ii)従たる証拠として、後記甲第4号証を用いる場合についても主張している(本件発明は、本件訂正前の請求項4に記載されていたCODに関する技術的事項をさらに限定するものであることから、特に、本件訂正前の請求項4に対する特許異議申立理由に着目して、特許異議申立書の19頁下から8行?20頁9行及び41頁下から7行?42頁17行の主張を斟酌した。)。
しかしながら、主引用発明を、上記「半炭化ベイマツペレット」(甲1発明)から、「半炭化スイッチグラスペレット」(甲1’発明)に代えても、上記第4における検討と事情は変わらない。
また、甲第4号証、すなわち、国際公開第2014/087949号には、CODに関して、「加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料は、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)とは、3000ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。」([0014])などの記載が認められるものの、COD値を、本件発明のように樹種固有の所定の数値範囲に収めることについては、何ら記載ないし示唆されていない。
したがって、上記(i)、(ii)の場合を考慮しても、本件発明について進歩性を認めることはできない。

2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反について
特許異議申立人は、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)として、次の点を主張する。
すなわち、本件特許明細書記載の実施例では、同【0114】に記載のとおり、目標温度(加熱温度)における保持は行われておらず、実際の加熱時間は僅か0分超え20分以下であることから、本件発明の「未加熱塊状物を0.2?3時間加熱して」の要件は、本件発明の課題(雨水による崩壊を抑制する等)を解決できる構成になっていないため、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件に適合しない。
そこで検討するに、確かに、当該実施例においては、加熱温度における保持は行われておらず、本件発明が規定する「未加熱塊状物を0.2?3時間加熱して」という技術的事項と一見整合していないが、本件特許明細書の【0016】に記載のとおり、当該加熱時間は、好ましい範囲として規定されたものであり、一定温度に保持することを必ずしも意味しないから、本件発明の課題を解決するために特に限定を要するものとは認められず、また、本件発明は、本件特許明細書の【0101】?【0110】などに記載された耐水性獲得に至るメカニズムについての知見に基づくものであり、本件発明の(a1)などにおいて特定される諸条件(特に加熱温度)を設定することによって、当該課題を解決するに至るものと解するのが合理的であるから、上記の点はサポート要件違反ということはできない。

第6 むすび

以上の検討のとおり、本件の請求項1?3、5?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも認められないから、上記取消理由又は特許異議申立理由により、これらの特許を取り消すことはできない。
また、ほかにこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件の請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、上記のとおり、本件訂正により当該請求項4が削除され、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100?3000μmの粒径を有するバイオマス粉(ただし、バイオマスを水蒸気爆砕することにより得られるバイオマス粉を含まない。)を成型して未加熱塊状物とし、この未加熱塊状物を0.2?3時間加熱して得られるバイオマス固体燃料であって、
水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続が維持され、かつ、
バインダーを含まず、かつ、
下記条件(a1)?(f1)のいずれかを満たす、バイオマス固体燃料;
条件(a1):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が460ppm?2200ppmである;
条件(b1):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が200ppm?400ppmである;
条件(c1):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が120ppm?460ppmである;
条件(e1):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が260ppm?1300ppmである;
条件(f1):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱時の温度は230℃?270℃であり、水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が330ppm?950ppmである。
【請求項2】
下記条件(a2)?(f2)のいずれかを満たす、請求項1に記載のバイオマス固体燃料;
条件(a2):前記条件(a1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.439?0.481m^(2)/gである;
条件(b2):前記条件(b1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.378?0.464m^(2)/gである;
条件(c2):前記条件(c1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.330?0.352m^(2)/gである;
条件(e2):前記条件(e1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.424?0.494m^(2)/gである;
条件(f2):前記条件(f1)を満たし、かつ、BET比表面積が0.161?0.218m^(2)/gである。
【請求項3】
下記条件(a3)?(f3)のいずれかを満たす、請求項1または2に記載のバイオマス固体燃料;
条件(a3):前記条件(a1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が30.6?40.4wt%である;
条件(b3):前記条件(b1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が21.1?24wt%である;
条件(c3):前記条件(c1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が17.9?25.3wt%である;
条件(e3):前記条件(e1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が20.5?29.9wt%である;
条件(f3):前記条件(f1)を満たし、かつ、水中浸漬後の平衡水分が21.4?28.6wt%である。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
燃料比(固定炭素/揮発分)が0.15?1.50、無水ベース高位発熱量が4500?7000(kcal/kg-dry)、酸素Oと炭素Cのモル比O/Cが0.1?0.7、水素Hと炭素Cのモル比H/Cが0.70?1.40であること
を特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項6】
水中浸漬後の径膨張率が20%以下であること
を特徴とする請求項1?3および5のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項7】
水中浸漬後の長さ膨張率が10%以下であること
を特徴とする請求項1?3、5および6のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項8】
水中浸漬後の体積膨張率が160%以下であること
を特徴とする請求項1?3および5?7のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項9】
100?3000μmの粒径を有するバイオマス粉を成型して未加熱塊状物を得る成型工程と、
前記未加熱塊状物を0.2?3時間加熱し、加熱済固体物を得る加熱工程と
を有し、
前記加熱済固体物をバイオマス固体燃料とするバイオマス固体燃料の製造方法(ただし、バイオマスを水蒸気爆砕する工程を含まない)であって、
製造されたバイオマス固体燃料は、水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続が維持され、かつ、下記条件(a4)?(f4)のいずれかを満たし、かつバインダーを含まない、バイオマス固体燃料の製造方法;
条件(a4):前記バイオマス粉はゴムの木を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.605kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが91.6%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が460ppm?2200ppmである;
条件(b4):前記バイオマス粉はアカシアを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.723kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが93.2%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が200ppm?400ppmである;
条件(c4):前記バイオマス粉はメランティを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.776kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.5%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が120ppm?460ppmである;
条件(e4):前記バイオマス粉は、チークを原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.678kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが94.7%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が260ppm?1300ppmである;
条件(f4):前記バイオマス粉は、カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物を原料とし、前記未加熱塊状物の嵩密度は0.713kg/L以上であり、前記加熱工程における加熱温度は230℃?270℃であり、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬前の機械的耐久性DUが97.0%以上であり、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が330ppm?950ppmである。
【請求項10】
下記の条件(a5)?(f5)のいずれかを満たす、請求項9に記載のバイオマス固体燃料の製造方法;
条件(a5):前記条件(a4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.439?0.481m^(2)/gである;
条件(b5):前記条件(b4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.378?0.464m^(2)/gである;
条件(c5):前記条件(c4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.330?0.352m^(2)/gである;
条件(e5):前記条件(e4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.424?0.494m^(2)/gである;
条件(f5):前記条件(f4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料のBET比表面積が0.161?0.218m^(2)/gである。
【請求項11】
下記条件(a6)?(f6)のいずれかを満たす、請求項9または10に記載のバイオマス固体燃料の製造方法;
条件(a6):前記条件(a4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が30.6?40.4wt%である;
条件(b6):前記条件(b4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が21.1?24wt%である;
条件(c6):前記条件(c4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が17.9?25.3wt%である;
条件(e6):前記条件(e4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が20.5?29.9wt%である;
条件(f6):前記条件(f4)を満たし、かつ、製造されたバイオマス固体燃料の水中浸漬後の平衡水分が21.4?28.6wt%である。
【請求項12】
製造されたバイオマス固体燃料の燃料比(固定炭素/揮発分)が0.15?1.50、無水ベース高位発熱量が4500?7000(kcal/kg-dry)、酸素Oと炭素Cのモル比O/Cが0.1?0.7、水素Hと炭素Cのモル比H/Cが0.70?1.40であること
を特徴とする請求項9?11のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料の製造方法。
【請求項13】
前記未加熱塊状物の嵩密度をA、前記加熱済固体物の嵩密度をBとすると、
B/A=0.6?1であること
を特徴とする請求項9?12のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料の製造方法。
【請求項14】
前記未加熱塊状物のHGI(ハードグローブ粉砕性指数)をH1、前記加熱済固体物のHGIをH2とすると、H2/H1=1.1?4.0であること
を特徴とする請求項9?13のいずれか一項に記載のバイオマス固体燃料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-28 
出願番号 特願2018-510598(P2018-510598)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C10L)
P 1 651・ 121- YAA (C10L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 瀬下 浩一
日比野 隆治
登録日 2019-03-29 
登録番号 特許第6501037号(P6501037)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 バイオマス固体燃料  
代理人 神谷 麻子  
代理人 伊藤 克博  
代理人 神谷 麻子  
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